1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事]
9
10 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
11 以下の各設問に答えなさい。
12
13
14 〔設問1〕
15 弁護士Pは,
16 Xから次のような相談を受けた。
17
18
19 【Xの相談内容】
20 「Aは,
21 知人のBに対し,
22 平成29年9月1日,
23 弁済期を平成30年6月15日,
24 無利息で
25 損害金を年10%として,
26 200万円を貸し渡しました。
27
28 AとBは,
29 平成29年9月1日,
30
31 記の内容があらかじめ記載されている「金銭借用証書」との題の書面に,
32 それぞれ署名・押印
33 をしたとのことです(以下,
34 この書面を「本件借用証書」という。
35
36 )。
37
38 加えて,
39 本件借用証書に
40 は,
41 「Yが,
42 BのAからの上記の借入れにつき,
43 Aに対し,
44 Bと連帯して保証する。
45
46 」旨の文言
47 が記載されていました。
48
49 AがBから聞いたところによれば,
50 Yは,
51 あらかじめ,
52 本件借用証書
53 の「連帯保証人」欄に署名・押印をして,
54 Bに渡しており,
55 平成29年9月1日に上記の借入
56 れにつき,
57 Bと連帯して保証したとのことです。
58
59 なお,
60 YはBのいとこであると聞いています。
61
62
63 ところが,
64 弁済期である平成30年6月15日を過ぎても,
65 BもYも,
66 Aに何ら支払をしま
67 せんでした。
68
69
70 私(X)は,
71 Aから懇願されて,
72 平成31年1月9日,
73 この200万円の貸金債権とこれに
74 関する遅延損害金債権を,
75 代金200万円で,
76 Aから買い受けました。
77
78 Aは,
79 Bに対し,
80 私に
81 これらの債権を売ったことを記載した内容証明郵便(平成31年1月11日付け)を送り,
82
83 郵便は同月15日にBに届いたとのことです。
84
85
86 ところが,
87 その後も,
88 BもYも,
89 一向に支払をせず,
90 Yは行方不明になってしまいました。
91
92
93 私は,
94 まずは自分で,
95 Bに対する訴訟を提起し,
96 既に勝訴判決を得ましたが,
97 全く回収するこ
98 とができていません。
99
100 今般,
101 Yの住所が分かりましたので,
102 Yに対しても訴訟を提起して,
103
104 金の元金だけでなく,
105 その返済が遅れたことについての損害金全てにつき,
106 Yから回収したい
107 と考えています。
108
109
110 弁護士Pは,
111 【Xの相談内容】を前提に,
112 Xの訴訟代理人として,
113 Yに対し,
114 Xの希望する金員
115 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
116
117 )を提起することを検討することとした。
118
119
120 以上を前提に,
121 以下の各問いに答えなさい。
122
123
124 (1)
125
126 弁護士Pが,
127 本件訴訟において,
128 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
129 載しなさい。
130
131
132
133 (2)
134
135 弁護士Pが,
136 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
137
138 )において記載すべき請求の趣旨(民
139 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。
140
141 なお,
142 付随的申立てについては,
143 考慮す
144 る必要はない。
145
146
147
148 (3)
149
150 弁護士Pは,
151 本件訴状において,
152 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし
153 て,
154 以下の各事実を主張した。
155
156
157
158 (あ)
159
160 Aは,
161 Bに対し,
162 平成29年9月1日,
163 弁済期を平成30年6月15日,
164 損害金の割合を年
165 10%として,
166 200万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。
167
168 )。
169
170
171
172 (い)
173
174 Yは,
175 Aとの間で,
176 平成29年9月1日,
177 〔@〕。
178
179
180
181 (う)
182
183 (い)の〔A〕は,
184 〔B〕による。
185
186
187
188 (え)
189
190 平成30年6月15日は経過した。
191
192
193
194 - 2 -
195
196 (お)
197
198 平成31年1月〔C〕。
199
200
201 上記@からCまでに入る具体的事実を,
202 それぞれ記載しなさい。
203
204
205
206 (4)
207
208 仮に,
209 Xが,
210 本件訴訟において,
211 その請求を全部認容する判決を得て,
212 その判決は確定したが,
213
214 Yは任意に支払わず,
215 かつ,
216 Yは甲土地を所有しているが,
217 それ以外のめぼしい財産はないとす
218 る。
219
220 Xの代理人である弁護士Pは,
221 この確定判決を用いてYから回収するために,
222 どのような手
223 続を経て,
224 どのような申立てをすべきか,
225 それぞれ簡潔に記載しなさい。
226
227
228
229 〔設問2〕
230 弁護士Qは,
231 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
232
233
234 【Yの相談内容】
235 「(a)
236
237 私(Y)はBのいとこに当たります。
238
239
240 確かに,
241 Bからは,
242 Bが,
243 Xの主張する時期に,
244 Aから200万円を借りたことはあ
245 ると聞いています。
246
247 また,
248 Bは,
249 Xの主張するような内容証明郵便を受け取ったと言っ
250 ていました。
251
252 しかし,
253 私が,
254 Bの債務を保証したことは決してありません。
255
256 私は,
257 本件
258 借用証書の「連帯保証人」欄に氏名を書いていませんし,
259 誰かに指示して書かせたこと
260 もありません。
261
262 同欄に押されている印は,
263 私が持っている実印とよく似ていますが,
264
265 が押したり,
266 また,
267 誰かに指示して押させたりしたこともありません。
268
269
270
271 (b)
272
273 Bによれば,
274 この200万円の借入れの際,
275 AとBは,
276 AのBに対する債権をAは他
277
278 の者には譲渡しないと約束し,
279 Xも,
280 債権譲受時には,
281 そのような約束があったことを
282 知っていたとのことです。
283
284
285 (c)
286
287 また,
288 仮に,
289 (b)のような約束がなかったとしても,
290 Bは,
291 既に全ての責任を果たし
292
293 ているはずです。
294
295
296 Bは,
297 乙絵画を所有していたのですが,
298 平成31年3月1日,
299 乙絵画をXの自宅に持
300 っていって,
301 Xに譲り渡したとのことです。
302
303 Bは,
304 乙絵画をとても気に入っていたとこ
305 ろ,
306 何の理由もなくこれを手放すことはあり得ないので,
307 この200万円の借入れとそ
308 の損害金の支払に代えて,
309 乙絵画を譲り渡したに違いありません。
310
311
312 以上を前提に,
313 以下の各問いに答えなさい。
314
315
316 (1)
317
318 @弁護士Qは,
319 【Yの相談内容】(b)を踏まえて,
320 Yの訴訟代理人として,
321 答弁書(以下「本件
322 答弁書」という。
323
324 )において,
325 どのような抗弁を記載するか,
326 記載しなさい(当該抗弁を構成す
327 る具体的事実を記載する必要はない。
328
329 )。
330
331 Aそれが抗弁となる理由を説明しなさい。
332
333
334
335 (2)
336
337 弁護士Qは,
338
339 【Yの相談内容】(c)を踏まえて,
340 本件答弁書において,
341 以下のとおり,
342 記載した。
343
344
345
346 (ア)
347
348 Bは,
349 Xとの間で,
350 平成31年3月1日,
351 本件貸付の貸金元金及びこれに対する同日までの
352 遅延損害金の弁済に代えて,
353 乙絵画の所有権を移転するとの合意をした。
354
355
356
357 (イ)
358
359 (ア)の当時,
360
361 上記〔
362
363 (3)
364
365 〕。
366
367
368
369 〕に入る事実を記載しなさい。
370
371
372
373 @弁護士Qは,
374 本件答弁書において,
375
376 【Yの相談内容】(c)に関する抗弁を主張するために,
377 (2)
378 の(ア)及び(イ)に加えて,
379 Bが,
380 Xに対し,
381 本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張するこ
382 とが必要か不要か,
383 記載しなさい。
384
385 Aその理由を簡潔に説明しなさい。
386
387
388
389 〔設問3〕
390 Yが,
391 下記のように述べているとする。
392
393 @弁護士Qは,
394 本件答弁書において,
395 その言い分を抗弁
396 として主張すべきか否か,
397 その結論を記載しなさい。
398
399 Aその結論を導いた理由を,
400 その言い分が抗
401 弁を構成するかどうかに言及しながら,
402 説明しなさい。
403
404
405 - 3 -
406
407
408 Aが本件の貸金債権や損害金をXに譲渡したのだとしても,
409 私は,
410 譲渡を承諾していませんし,
411
412 Aからそのような通知を受けたことはありません。
413
414 確かに,
415 Bからは,
416 「Bは,
417 Aから,
418 AはXに
419 対して債権を売ったなどと記載された内容証明郵便を受け取った。
420
421 」旨を聞いていますが,
422 私に対
423 する通知がない以上,
424 Xが債権者であると認めることはできません。
425
426
427 〔設問4〕
428 第1回口頭弁論期日において,
429 本件訴状と本件答弁書が陳述された。
430
431 同期日において,
432 弁護士P
433 は,
434 本件借用証書を書証として提出し,
435 それが取り調べられ,
436 弁護士Qは,
437 本件借用証書のY作成
438 部分につき,
439 成立の真正を否認し,
440 「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,
441 Bが盗用し
442 た。
443
444 」と主張した。
445
446
447 その後,
448 2回の弁論準備手続期日を経た後,
449 第2回口頭弁論期日において,
450 本人尋問が実施され,
451
452 Y名義の保証につき,
453 Yは,
454 下記【Yの供述内容】のとおり,
455 Xは,
456 下記【Xの供述内容】のとお
457 り,
458 それぞれ供述した(なお,
459 それ以外の者の尋問は実施されていない。
460
461 )。
462
463
464 【Yの供述内容】
465 「私とBは,
466 1歳違いのいとこです。
467
468 私とBは,
469 幼少時から近所に住んでおり,
470 家族のように
471 仲良くしていました。
472
473 Bは,
474 よく私の自宅(今も私はその家に住んでいます。
475
476 )に遊びに来てい
477 ました。
478
479
480 Bは,
481 大学進学と同時に,
482 他の県に引っ越し,
483 大学卒業後も,
484 その県で就職したので,
485 行き
486 来は少なくなりましたが,
487 気が合うので,
488 近所に来た際には会うなどしていました。
489
490
491 平成29年8月中旬だったと思いますが,
492 Bが急に私の自宅に泊まりに来て,
493 2日間,
494 滞在
495 していきました。
496
497 今から思えば,
498 その際に,
499 本件借用証書をあらかじめ準備して,
500 連帯保証人
501 欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。
502
503 私が小さい頃から,
504 私の自宅では,
505 印鑑を含む
506 大事なものを寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていましたし,
507 私の印鑑はフルネ
508 ームのものなので,
509 Bは,
510 私の印鑑を容易に見つけられたと思います。
511
512 この印鑑は,
513 印鑑登録
514 をしている実印です。
515
516 Bが滞在した2日間,
517 私が買物などで出かけて,
518 B一人になったことが
519 あったので,
520 その際にBが私の印鑑を探し出したのだと思います。
521
522
523 私は,
524 出版関係の会社に正社員として勤務しています。
525
526 会社の業績は余り芳しくなく,
527 最近は
528 ボーナスの額も減ってしまいました。
529
530 私には,
531 さしたる貯蓄はなく,
532 保証をするはずもありませ
533 ん。
534
535
536 私は,
537 平成29年当時,
538 Bから,
539 保証の件につき相談を受けたことすらなく,
540 また,
541 Aから,
542
543 保証人となることでよいかなどの連絡を受けたこともありませんでした。
544
545
546 なお,
547 本件訴訟が提起されて少し経った頃から,
548 Bと連絡が取れなくなってしまい,
549 今に至
550 っています。
551
552
553 【Xの供述内容】
554 「YとBがいとこ同士であるとは聞いています。
555
556 YとBとの付き合いの程度などは,
557 詳しく
558 は知りません。
559
560
561 Bが,
562 平成29年8月中旬頃,
563 Yの自宅に泊まりに来て,
564 2日間滞在したかは分かりません
565 が,
566 仮に,
567 滞在したとしても,
568 そんなに簡単に印鑑を見つけ出せるとは思いません。
569
570
571 なお,
572 Aに確認しましたら,
573 Aは,
574 Yの保証意思を確認するため,
575 平成29年8月下旬,
576 Yの
577 自宅に確認のための電話をしたところ,
578 Y本人とは話をすることができませんでしたが,
579 電話に
580 出たYの母親に保証の件について説明したら,
581 『Yからそのような話を聞いている。
582
583 』と言われた
584 とのことです。
585
586
587 - 4 -
588
589 以上を前提に,
590 以下の問いに答えなさい。
591
592
593 弁護士Pは,
594 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
595 準備書面を提出することを予定している。
596
597
598 その準備書面において,
599 弁護士Pは,
600 前記の提出された書証並びに前記【Yの供述内容】及び【X
601 の供述内容】と同内容のY及びXの本人尋問における供述に基づいて,
602 Yが保証契約を締結した事
603 実が認められることにつき,
604 主張を展開したいと考えている。
605
606 弁護士Pにおいて,
607 上記準備書面に
608 記載すべき内容を,
609 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
610 答案
611 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。
612
613 なお,
614 記載に際しては,
615 本件借用証書のY作成部分の成立の
616 真正に関する争いについても言及すること。
617
618
619
620 - 5 -
621
622 [刑
623
624 事]
625
626 次の【事例】を読んで,
627 後記〔設問〕に答えなさい。
628
629
630 【事例】
631
632
633 A(25歳,
634 男性)及びB(22歳,
635 男性)は,
636 平成31年2月28日,
637 「被疑者両名は,
638
639 共謀の上,
640 平成31年2月1日午前1時頃,
641 H県I市J町1番地先路上において,
642 V(当時3
643 5歳,
644 男性)に対し,
645 傘の先端でその腹部を2回突いた上,
646 足でその腹部及び脇腹等の上半身
647 を多数回蹴る暴行を加え,
648 よって,
649 同人に,
650 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週
651 間を要する腹部打撲傷の傷害を負わせた。
652
653 」旨の傷害罪の被疑事実(以下「本件被疑事実」と
654 いう。
655
656 )で通常逮捕され,
657 同年3月1日,
658 検察官に送致された。
659
660
661 送致記録に編綴された主な証拠の概要は以下のとおりである(以下,
662 日付はいずれも平成3
663 1年である。
664
665 )。
666
667
668 @ Vの警察官面前の供述録取書
669 「2月1日午前1時頃,
670 H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,
671 前から2人の男
672 たちが歩いてきた。
673
674 その男たちのうち,
675 1人は黒色のキャップを被り,
676 両腕にアルファベッ
677 トが描かれた赤色のジャンパーを着ており,
678 もう1人は,
679 茶髪で黒色のダウンジャケットを
680 着ていた。
681
682 その男たちとすれ違う際,
683 黒色キャップの男の持っていた鞄が私の体に当たった。
684
685
686 しかし,
687 その男は謝ることなく通り過ぎたので,
688 私は,
689 『待てよ。
690
691 』と言いながら,
692 背後から
693 黒色キャップの男の肩に手を掛けた。
694
695 すると,
696 その男たちは振り向いて私と向かい合った。
697
698
699 茶髪の男が,
700 『喧嘩売ってんのか。
701
702 』などと怒鳴ってきたので,
703 私が,
704 『鞄が当たった。
705
706 謝れ
707 よ。
708
709 』と言うと,
710 黒色キャップの男が,
711 『うるせえ。
712
713 』などと怒鳴りながら,
714 持っていた傘の
715 先端で私の腹部を突いた。
716
717 私が後ずさりすると,
718 その男は,
719 再度,
720 傘の先端で私の腹部を強
721 く突いたため,
722 私は,
723 痛くて両手で腹部を押さえながら前屈みになった。
724
725 すると,
726 茶髪の男
727 と黒色キャップの男が,
728 私の腹部や脇腹等の上半身を足でそれぞれ多数回蹴った。
729
730 私が,
731
732 上にうずくまると,
733 男たちは去って行った。
734
735 通行人が通報してくれて救急車で病院に搬送さ
736 れた。
737
738 これらの暴行により,
739 私は,
740 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要
741 する腹部打撲傷を負った。
742
743
744 犯人の男たちについて,
745 黒色キャップの男は,
746 目深にキャップを被っていたのでその顔は
747 よく見えなかった。
748
749 また,
750 私は,
751 黒色キャップの男の方を主に見ていたので,
752 茶髪の男の顔
753 はよく覚えていない。
754
755
756 A 診断書
757 2月1日に,
758 Vについて,
759 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要する腹
760 部打撲傷と診断した旨が記載されている。
761
762
763 B Wの警察官面前の供述録取書
764 「2月1日午前1時頃,
765 H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ,
766 怒鳴り声が聞こ
767 えたので右後方を見ると,
768 道路の反対側で,
769 男が2人組の男たちと向かい合っていた。
770
771 2人
772 組の男たちのうち,
773 1人は,
774 黒色のキャップを被り,
775 両腕にアルファベットが描かれた赤色
776 のジャンパーを着ており,
777 もう1人は,
778 茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていた。
779
780 黒色キ
781 ャップの男は,
782 持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し,
783 相手の男の腹部を2回突
784 いた。
785
786 すると,
787 相手の男は両手で腹部を押さえながら前屈みになった。
788
789 さらに,
790 茶髪の男と
791 黒色キャップの男は,
792 それぞれ足で相手の男の腹部や脇腹等の上半身を多数回蹴った。
793
794 相手
795 の男がその場にうずくまると,
796 2人組の男たちは,
797 その場から立ち去って行った。
798
799 相手の男
800 がうずくまったまま動かなかったので心配になって駆け寄り,
801 救急車を呼んだ。
802
803
804 2人組の男たちについて,
805 黒色キャップの男の顔は,
806 キャップのつばで陰になってよく見
807 えなかった。
808
809 茶髪の男の顔は,
810 近くにあった街灯の明かりでよく見えた。
811
812 今,
813 警察官から,
814
815 この写真の中に犯人がいるかもしれないし,
816 いないかもしれないという説明を受けた上,
817
818 - 6 -
819
820 0枚の男の写真を見せてもらったが,
821 2番の写真の男が,
822 『茶髪の男』に間違いない。
823
824 警察
825 官から,
826 この男はBであると聞いたが,
827 知らない人である。
828
829
830 C W立会いの実況見分調書
831 犯行現場の写真及び図面が添付されており,
832 また,
833 Wが2人組の男たちの暴行を目撃した
834 位置から同人らがいた位置までの距離は約8メートルであり,
835 その間に視界を遮るようなも
836 のはなく,
837 付近に街灯が設置されていた旨が記載されている。
838
839
840 D A及びBが犯人として浮上した経緯に係る捜査報告書
841 犯行現場から約100メートル離れたコンビニエンスストアに設置された防犯カメラで撮
842 影された画像の写真が添付されており,
843 同写真には,
844 2月1日午前0時50分頃,
845 黒色のキ
846 ャップを被り,
847 両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーを着た男と,
848 茶髪で黒色
849 のダウンジャケットを着た男の2人組が訪れた状況が撮影されている。
850
851 また,
852 同画像につい
853 て,
854 警察官が同店の店員から聴取したところ,
855 同人は,
856 「以前,
857 ここに映っている黒色キャ
858 ップの男と茶髪の男が酔って来店し,
859 店内で騒いだので通報した。
860
861 その際,
862 臨場した警察官
863 が,
864 彼らの免許証などを確認していたので,
865 その警察官なら彼らの名前などを知っていると
866 思う。
867
868 」と供述したため,
869 その臨場した警察官に確認したところ,
870 黒色キャップの男がA,
871
872 茶髪の男がBであることが判明した旨が記載されている。
873
874
875 E A方及びB方の捜索差押調書
876 2月28日,
877 A方及びB方の捜索を実施し,
878 A方において,
879 傘,
880 黒色キャップ,
881 両腕にア
882 ルファベットが描かれた赤色のジャンパー及びA所有のスマートフォンを発見し,
883 B方にお
884 いて,
885 黒色のダウンジャケット及びB所有のスマートフォンを発見し,
886 これらを差し押さえ
887 た旨がそれぞれ記載されている。
888
889
890 F 押収したスマートフォンに保存されたデータに関する捜査報告書
891 A所有及びB所有のスマートフォンのデータを精査した結果,
892 2月2日にAがB宛てに
893 送信した「昨日はカラオケ店にいたことにしよう。
894
895 」と記載されたメールや,
896 同メールにB
897 が返信した「防犯カメラとかで嘘とばれるかも。
898
899 誰かに頼んで一緒にいたことにしてもら
900 うのは?」と記載されたメールが発見された旨が記載されている。
901
902
903 G Aの警察官面前の弁解録取書
904 「本件被疑事実について,
905 私はやっていない。
906
907 昨年,
908 傷害罪で懲役刑に処せられ,
909 現在そ
910 の刑の執行猶予中であるため,
911 二度と手は出さないと決めている。
912
913 Bは,
914 中学の後輩である。
915
916
917 2月1日午前1時頃は犯行場所とは別の場所にいたが,
918 詳しいことは言いたくない。
919
920 生活状
921 況について,
922 結婚はしておらず,
923 無職である。
924
925 約1年前に家を出てからは,
926 交際相手や友人
927 宅を転々としている。
928
929
930 H Aの前科調書
931 平成30年に傷害罪で懲役刑に処せられ,
932 3年間の執行猶予が付された旨が記載されて
933 いる。
934
935
936 I Bの警察官面前の弁解録取書
937 「本件被疑事実については間違いない。
938
939
940 2 検察官は,
941 A及びBの弁解録取手続を行い,
942 以下の弁解録取書を作成した。
943
944
945 J Aの検察官面前の弁解録取書
946 G記載の内容と同旨。
947
948
949 K Bの検察官面前の弁解録取書
950 「本件被疑事実については間違いない。
951
952 Vの態度に立腹し,
953 Aが傘の先端でVの腹部を突
954 いた後,
955 私とAがVの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。
956
957 犯行当時,
958 私は,
959 茶髪で黒色の
960 ダウンジャケットを着ており,
961 Aは,
962 黒色のキャップを被り,
963 両腕にアルファベットが描か
964 れた赤色のジャンパーを着ていた。
965
966 Aは,
967 中学の先輩で,
968 その頃からの付き合いである。
969
970
971 し自分がこのように話したことが知られると,
972 Aやその仲間の先輩たちなどから報復される
973 かもしれない。
974
975 生活状況について,
976 結婚はしておらず,
977 無職である。
978
979 自宅で両親と住んでい
980
981 - 7 -
982
983 る。
984
985 前科はない。
986
987
988 検察官は,
989 3月1日,
990 両名につき勾留請求と併せて接見等禁止の裁判を請求し,
991 同日,
992 裁判
993 官は,
994 A及びBにつき本件被疑事実で勾留するとともに,
995 Aにつき接見等を禁止する旨を決
996 定した。
997
998
999 なお,
1000 Aの勾留質問調書には,
1001 Aの供述として,
1002 「本件被疑事実については検察官に述べた
1003 とおり。
1004
1005 」と記載され,
1006 Bの勾留質問調書には,
1007 Bの供述として,
1008 「本件被疑事実については間
1009 違いない。
1010
1011 」と記載されている。
1012
1013
1014 3 3月2日,
1015 Aの弁護人は,
1016 勾留状の謄本に記載された本件被疑事実を確認した上,
1017 Aと接見
1018 したところ,
1019 Aは,
1020 「実は,
1021 Vに暴力を振るって怪我をさせた。
1022
1023 Bと歩いていると,
1024 いきな
1025 り後ろから肩を手でつかまれた。
1026
1027 驚いて勢いよく振り返ったところ,
1028 手に持っていた傘の先端
1029 が,
1030 偶然Vの腹部に1回当たり,
1031 私の肩をつかんでいたVの手が外れた。
1032
1033 傘が当たったことに
1034 腹を立てたVが,
1035 拳骨で殴り掛かってきたので,
1036 私は,
1037 自分がやられないように,
1038 足でVの腹
1039 部を蹴った。
1040
1041 それでもVは,
1042 『謝れよ。
1043
1044 』などと言いながら両手で私の両肩をつかんで離さなか
1045 ったため,
1046 私は,
1047 Vから逃げたい一心で更にVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴った。
1048
1049
1050 このとき,
1051 Bも,
1052 私を助けようとして,
1053 Vの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。
1054
1055 」旨話した。
1056
1057
1058 4 その後,
1059 検察官は,
1060 所要の捜査を行い,
1061 以下の供述録取書を作成した。
1062
1063
1064 L Aの検察官面前の供述録取書
1065 下線部記載の内容と同旨。
1066
1067
1068 M Bの検察官面前の供述録取書
1069 「自分が,
1070 Vの態度に立腹してVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴って怪我をさせ
1071 たことは間違いない。
1072
1073 このとき,
1074 Aも一緒にいたが,
1075 Aが何をしていたのかは見ていないの
1076 で分からない。
1077
1078
1079 N Wの検察官面前の供述録取書
1080 B記載の内容と同旨。
1081
1082
1083 5 検察官は,
1084 所要の捜査を遂げ,
1085 A及びBにつき,
1086 本件被疑事実と同一の内容の公訴事実で
1087 公訴を提起した(以下,
1088 同公訴提起に係る傷害被告事件につき,
1089 「本件被告事件」という。
1090
1091 )。
1092
1093
1094 Aの弁護人は,
1095 検察官から開示された関係証拠を閲覧した上,
1096 再度Aと接見したところ,
1097
1098 は,
1099 「本当は,
1100 Vの態度に腹が立って,
1101 VやWが言っているとおりの暴行を加えた。
1102
1103 しかし,
1104
1105 自分は同種前科による執行猶予中なので,
1106 もし認めたら実刑になるだろうし,
1107 少しでも暴行を
1108 加えたことを認めてしまうと,
1109 Vから損害賠償請求されるかもしれない。
1110
1111 検察官には供述録取
1112 書記載のとおり話してしまったが,
1113 裁判では,
1114 犯行現場にはいたものの,
1115 一切暴行を加えてい
1116 ないとして無罪を主張したい。
1117
1118 」旨話した。
1119
1120
1121 6 第1回公判期日における冒頭手続において,
1122
1123 【事例】の5記載の接見内容を踏まえ,
1124 Aは「犯
1125 行現場にはいたものの,
1126 一切暴行を加えていない。
1127
1128 」旨述べ,
1129 Aの弁護人も無罪を主張した。
1130
1131
1132 一方,
1133 B及びBの弁護人は,
1134 公訴事実は争わないとした。
1135
1136
1137 その後,
1138 検察官が,
1139 @,
1140 A,
1141 CからF,
1142 H,
1143 JからL及びN記載の各証拠の取調べを請求
1144 したところ,
1145 Aの弁護人は,
1146 @,
1147 C,
1148 JからL及びN記載の各証拠について「不同意」とし,
1149
1150 その他の証拠については「同意」との意見を述べた。
1151
1152 また,
1153 Bの弁護人は,
1154 検察官請求証拠
1155 についてすべて「同意」との意見を述べた。
1156
1157
1158 裁判所は,
1159 A及びBに対する本件被告事件を分離して審理する旨を決定し,
1160 分離後のBに
1161 対する本件被告事件の審理を先行して行った。
1162
1163
1164 7 Bは,
1165 自身の審理における被告人質問において,
1166
1167 「Aと歩いていたところ,
1168 いきなりVが『待
1169 てよ。
1170
1171 』などと言ってきたので,
1172 何か因縁を付けられたと思った私は,
1173 『喧嘩売ってんのか。
1174
1175
1176 などと言った。
1177
1178 すると,
1179 Vは,
1180 『鞄が当たった。
1181
1182 謝れよ。
1183
1184 』などと言ってきたので,
1185 私は,
1186
1187 の横柄な態度に腹が立った。
1188
1189 Aが,
1190 『うるせえ。
1191
1192 』などと怒鳴りながら,
1193 持っていた傘の先端
1194 でVの腹部を2回突き,
1195 私は,
1196 前屈みになったVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っ
1197 た。
1198
1199 Aも,
1200 Vの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っていた。
1201
1202 このことは,
1203 逮捕された当
1204
1205 - 8 -
1206
1207 初も話していたが,
1208 途中からAに報復されるのが怖くなり,
1209 検察官にきちんと話すことがで
1210 きなかった。
1211
1212 しかし,
1213 今は,
1214 きちんと反省していることを分かってもらおうと思い,
1215 本当の
1216 ことを話した。
1217
1218 」旨供述し,
1219 後日,
1220 結審した。
1221
1222
1223 8 その後,
1224 分離後のAに対する本件被告事件の審理において,
1225 V及びWの証人尋問など所要
1226 の証拠調べが行われ,
1227 さらに,
1228 Bの証人尋問が行われた。
1229
1230 その際,
1231 Bは,
1232 一貫して「本件
1233 犯行時にAが一緒にいたことは間違いないが,
1234 Aが何をしていたのかは見ていないので分か
1235 らない。
1236
1237 」旨証言した。
1238
1239
1240 後日,
1241 Aは,
1242 被告人質問で,
1243 自身が暴行を加えたことを否認した。
1244
1245
1246 〔設問1〕
1247 下線部に関し,
1248 裁判官が,
1249 Aにつき,
1250 刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第81
1251 条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を,
1252 その判断要
1253 素を踏まえ,
1254 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
1255
1256
1257 〔設問2〕
1258 検察官は,
1259 勾留請求時,
1260 B記載のWの警察官面前の供述録取書は,
1261 本件被疑事実記載の暴行
1262 に及んだのがA及びBであることを立証する証拠となると考えた。
1263
1264 A及びBそれぞれについて,
1265
1266 同供述録取書は直接証拠に当たるか,
1267 具体的理由を付して答えなさい。
1268
1269 また,
1270 直接証拠に当た
1271 らない場合は,
1272 同供述録取書から,
1273 前記暴行に及んだのがAであること又は前記暴行に及んだ
1274 のがBであることが,
1275 どのように推認されるか,
1276 検察官が考えた推認過程についても答えなさ
1277 い。
1278
1279 なお,
1280 同供述録取書に記載された供述の信用性は認められることを前提とする。
1281
1282
1283 〔設問3〕
1284 Aの弁護人は,
1285 3月2日の時点で,
1286 下線部のAの話を踏まえ,
1287 仮にAが公訴提起された場
1288 合に冒頭手続でどのような主張をするか検討した。
1289
1290 本件被疑事実中,
1291 「傘の先端でその腹部を
1292 2回突いた」こと及び「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加え」たことに
1293 ついて,
1294 それぞれ考えられる主張を,
1295 具体的理由を付して答えなさい。
1296
1297
1298 〔設問4〕
1299 下線部に関し,
1300 Aの弁護人が無罪を主張したことについて,
1301 弁護士倫理上の問題はあるか,
1302
1303 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。
1304
1305
1306 〔設問5〕
1307 下線部のBの証人尋問の結果を踏まえ,
1308 検察官は,
1309 新たな証拠の取調べを請求しようと考
1310 えた。
1311
1312 この場合において,
1313 検察官が取調べを請求しようと考えた証拠を答えなさい。
1314
1315 また,
1316
1317 の証拠について,
1318 弁護人が不同意とした場合に,
1319 検察官は,
1320 どのような対応をすべきか,
1321 根拠
1322 条文及びその要件該当性について言及しつつ答えなさい。
1323
1324
1325
1326 - 9 -
1327
1328