1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 本年の問題は,
4 虚偽の表現の規制の可否を問うものである。
5
6 問題文にもあるとおり,
7 また,
8
9 報道などでも知られるとおり,
10 フェイク・ニュースは,
11 各国で様々な課題を生じ,
12 対応が模
13 索されている現代的な問題であり,
14 新たな技術的な展開が事態を深刻化させている側面があ
15 る現象である。
16
17 しかし,
18 その規制は,
19 内容規制という古典的な表現の自由の問題であり,
20
21 た,
22 本問の規制は,
23 表現の削除という強力な制限の問題でもある。
24
25 表現の自由の保障の意義
26 という基本に立ち返った検討が求められる。
27
28
29 虚偽の表現,
30 とりわけ虚偽と知ってなされるものについては,
31 そもそも表現の自由の保障
32 範囲に入らない,
33 あるいは,
34 保障の範囲に入っても,
35 保障の程度が低いという議論もあり得
36 なくはない。
37
38 その点について論じる際には,
39 そのように考えることに問題はないか,
40 また,
41
42 そのような考え方は先例に基づいたものといえるかといった点も考察する必要があろう。
43
44
45 らに,
46 虚偽ではあっても種々の観点から有益な表現も様々に考えられることや,
47 真実は誤り
48 と衝突することによってより明確に認識されるのだから虚偽の言明ですら公共的な議論に価
49 値のある貢献をするものだ,
50 という考え方もあり得ることにも留意が必要である。
51
52
53 立法措置@については,
54 具体的状況によっては虚偽か真実かの判定が難しい場合が相当あ
55 るという意味において不明確ではないか,
56 処罰の範囲が広すぎ過度に広汎ではないか,
57 とい
58 った点について検討することが求められる。
59
60 目的が極めて重要な公共の利益といえるか,
61
62 題文に示されている混乱の事例をどのように評価するか,
63 対抗言論や報道による検証などが
64 優先されるべきではないか,
65 他の規制方法が考えられ必要最小限度のものに留まっていると
66 は言い難いのではないか,
67 訴追は公平になされるかといった点についても同様であろう。
68
69
70 その際には,
71 立法措置@が,
72 特定の人の社会的評価や業務とは無関係の規制であり,
73 あり
74 とあらゆる表現が,
75 虚偽であるというだけで,
76 規制の対象となるため,
77 政治的に激しい争い
78 のある事柄や,
79 歴史的・学問的な事柄まで対象となり,
80 真実性の判断が難しいものとなり得
81 ることに留意が必要である。
82
83 立法措置@が認められるとなると,
84 あらゆる領域について,
85
86 が真実かを,
87 刑事責任を問うことで問題にできるということになり,
88 恣意的な訴追を通じて,
89
90 全て真実は政府が決めるということになりかねないという懸念もある。
91
92 これらの点を踏まえ
93 た上で,
94 立法措置@について検討することが求められる。
95
96
97 次に立法措置Aについて,
98 ここでは,
99 削除義務を課されるという形で直接に制約の対象と
100 なっているのは,
101 SNS事業者の自由であるとともに,
102 削除されるという形で制約されてい
103 るのは個々の発信者の表現の自由であることを適切に分析することが必要である。
104
105 SNSの
106 特徴である拡散性が,
107 SNSのみを規制の対象として取り上げることを正当化するかどうか
108 が論じられる必要もある。
109
110 SNS事業者が私的な検閲の主体となるおそれについても論じる
111 ことは不可能ではなかろう。
112
113
114 立法措置Aについては,
115 選挙の公正ということの明確性が問題になるかもしれない。
116
117 その
118 場合,
119 合憲限定解釈の可能性も含めて検討することがあり得る。
120
121 立法措置Aを,
122 内容中立規
123 制とする見解があるかもしれない。
124
125 しかし,
126 内容規制と,
127 時・場所・方法の規制のような内
128 容中立規制が組み合わされたときに,
129 直ちに内容中立規制と評価することは問題がないか,
130
131 検討が必要であろう。
132
133 選挙に関する表現をどのように位置付けるべきかについては,
134 国際的
135 に比較しても非常に厳しい我が国の選挙運動規制を合憲とする先例は多数あるが,
136 その評価
137 を含めて論じることが可能であろうし,
138 それらの選挙運動規制と本問を区別することも可能
139 であろう。
140
141
142 立法措置Aは,
143 表現の削除を罰則をもって強制するという強力な規制であるので,
144 検閲や
145 事前抑制の原則的禁止の法理との関係を問題にすることも可能である。
146
147 ただ,
148 その際には,
149
150 立法措置Aによる規制によって,
151 発表が禁止されている訳ではなく,
152 一旦発表されたものの
153
154 - 1 -
155
156 削除が命じられていることに留意が必要である。
157
158 また,
159 選挙の公正は,
160 仮処分による差止め
161 で保護される名誉権のような人格的権利ではなく,
162 この点についての分析も必要であろう。
163
164
165 一旦表現されたものの削除が命じられるという点では,
166 検索結果の表示の削除が問題とな
167 った事案も参考になり得よう。
168
169 比較衡量的な枠組みを提示しつつ,
170 要件が満たされているこ
171 とが「明らか」なことを要求する判例の立場から見た場合,
172 立法措置Aの要件が十分に限定
173 されたものになっているか否かを検討することになろう。
174
175
176 ただ,
177 その場合であっても,
178 立法措置Aが,
179 司法手続ではなく行政手続によるものである
180 こと,
181 さらに,
182 行政手続法の事前手続や理由提示の制度が適用除外とされていることをどの
183 ように評価するかが問題となり得る。
184
185 人格権侵害を理由に仮処分で差止めを認める場合,
186
187 なくとも審尋が必要とされているが,
188 要件が充足されていることが明白である場合には例外
189 が認められている。
190
191 行政手続の適正性の要求を憲法上どのように位置付けるかを踏まえつつ,
192
193 これらのこととの関係をどう理解するかを論じることが必要となろう。
194
195
196 選挙は公共性が高く,
197 迅速な対応が必要だとはいい得るが,
198 誤って削除された場合には公
199 益が大きく害される。
200
201 より制限的でない手段の検討が必要である。
202
203 選挙に際してのSNSが
204 問題であるというのであれば,
205 SNS事業者に自主的な削除手続を定めることを義務付け,
206
207 これについての報告義務を課すという方法も考えられる。
208
209 ただ,
210 この場合には,
211 上に述べた
212 私的な検閲のおそれは増大するかもしれない。
213
214 また,
215 とりわけSNS上のフェイク・ニュー
216 ス記事の拡散が,
217 出所の不透明な資金に支えられていることが問題であるというのであれば,
218
219 政治資金規制を及ぼして,
220 資金の流れの透明化を義務付けることも考えられる。
221
222 このような,
223
224 諸外国・地域で実施・検討されている他の方法が有益ではないか,
225 といったことも論じるに
226 値する。
227
228
229 以上のような諸点についての検討を踏まえ,
230 自らの示した判断枠組みの中で適切に結論を
231 導くことが求められている。
232
233
234 〔第2問〕
235 本問は,
236 新たな市道(以下「本件道路」という。
237
238 )の整備のために,
239 C市が,
240 土地収用法(以
241 下「法」という。
242
243 )に基づいて,
244 Aの土地(以下「本件土地」という。
245
246 )を収用しようとした場
247 合に生じる法的な問題について,
248 検討を求めるものである。
249
250 土地収用の手続きは,
251 事業認定(法
252 第20条),
253 収用裁決(法第47条の2)といった段階を踏んで進められていくが,
254 本問にお
255 いては,
256 このような土地収用手続の過程を理解して検討することが求められている。
257
258
259 本問では,
260 C市を起業者として行われた事業認定(以下「本件事業認定」という。
261
262 )やAに
263 対する権利取得裁決(以下「本件権利取得裁決」という。
264
265 )はいずれも出訴期間を経過してお
266 り(行政事件訴訟法第14条),
267 Aはこれらの処分に対して適法に取消訴訟を提起して争うこ
268 とはできない。
269
270 もっとも,
271 本件権利取得裁決については,
272 例外的に「正当な理由」が認められ
273 るとして,
274 取消訴訟を提起することができる場合も考えられ,
275 論じられるべき第1の問題は,
276
277 仮に,
278 行政事件訴訟法第14条における「正当な理由」が認められ,
279 本件権利取得裁決に対す
280 る取消訴訟(以下「本件取消訴訟」という。
281
282 )を適法に提起することが可能であるとした場合,
283
284 Aは,
285 本件取消訴訟において,
286 本件事業認定の違法を主張することができるかである(設問1)。
287
288
289 論じられるべき第2の問題は,
290 本件権利取得裁決に対して無効確認訴訟を提起した場合(行政
291 事件訴訟法第3条第4項),
292 Aに,
293 無効確認訴訟の原告適格が認められるかどうかである(設
294 問2(1))。
295
296 最後に,
297 論じられるべき第3の問題は,
298 本件事業認定に裁量の範囲を逸脱又は濫
299 用した違法が認められるかどうかである(設問2(2))。
300
301 以上の点について,
302 資料を踏まえて
303 論じることが求められている。
304
305
306 〔設問1〕は,
307 いわゆる違法性の承継に関する問題であり,
308 本件事業認定の違法性を本件取
309 消訴訟において主張することが許されるのかが問われている。
310
311 法における事業認定の違法性が
312
313 - 2 -
314
315 収用裁決に承継されるかについては,
316 様々な裁判例や学説が見られるところであり,
317 必ずしも
318 見解の一致が見られるとは言い難いが,
319 本問においては,
320 単に違法性の承継に関する一般的な
321 考え方を示すのみではなく,
322 最判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁等を参
323 考に,
324 法に沿って,
325 具体的に検討することが求められている。
326
327 すなわち,
328 法においては,
329 事業
330 認定と権利取得裁決が段階的に行われること,
331 事業認定と権利取得裁決の目的に共通性が認め
332 られること,
333 土地所有者らに対して様々な手続きが法によって整備されていること等を踏まえ
334 て,
335 事業認定と権利取得裁決の違法性の承継の有無を検討することが求められている。
336
337
338 〔設問2(1)〕では,
339 本件権利取得裁決に対する無効確認訴訟の訴訟要件が問われている。
340
341
342 本件事業認定に無効の瑕疵が認められ,
343 本件権利取得裁決も無効であるとすると,
344 本件権利取
345 得裁決に対して,
346 無効確認訴訟(行政事件訴訟法第3条第4項)を提起することが考えられる
347 が,
348 無効確認訴訟の訴訟要件として,
349 行政事件訴訟法第36条の原告適格の有無を検討する必
350 要がある。
351
352 行政事件訴訟法第36条は,
353 無効等確認訴訟の原告適格につき,
354 「当該処分又は裁
355 決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求
356 めるにつき法律上の利益を有する者で,
357 当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前
358 提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り,
359 提起
360 することができる」としているが,
361 本問においては,
362 「当該処分若しくは裁決の存否又はその
363 効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないも
364 の」という要件に絞って,
365 Aに無効確認訴訟の原告適格が認められるのかを検討することが求
366 められている。
367
368
369 本件事業認定やそれに基づく本件権利取得裁決に無効の瑕疵があるとすると,
370 Aは,
371 自らの
372 所有権を保全するため,
373 C市に対して,
374 土地所有権確認請求や本件土地の移転登記の抹消登記
375 請求といった争点訴訟(本件権利取得裁決が無効であることを争点とする民事訴訟。
376
377 行政事件
378 訴訟法第45条)で争うことが可能と考えられる。
379
380 このとき,
381 Aが,
382 これらの争点訴訟を提起
383 することが可能であるとしても,
384 それだけで,
385 「目的を達することができない」として,
386 無効
387 確認訴訟を提起できるのかを論じる必要がある。
388
389 争点訴訟には,
390 無効確認訴訟の判決と異なり,
391
392 判決に拘束力が認められないこと,
393 他方で,
394 事業認定から1年を経過している場合には事業認
395 定の効力が失効する(法第39条第1項)ため,
396 拘束力が認められなくてもAの目的を達する
397 ことはできるのではないかといったことや無効確認訴訟の判決に第三者効が認められるのか等
398 を踏まえて,
399 検討することが求められる。
400
401
402 以上のような行政事件訴訟法第36条の原告適格に関し,
403 Aによってどのような主張がなさ
404 れるのか,
405 また,
406 原告適格は認められるのかを,
407 B県からの反論を踏まえて,
408 論理的に検討す
409 ることが求められている。
410
411
412 〔設問2(2)〕では,
413 上記の無効等確認訴訟が適法に提起できるとした場合,
414 本件事業認定
415 の違法性につき,
416 法第20条第3号の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するも
417 のであること」に関して,
418 Aが,
419 どのような主張が可能かを検討することが求められている。
420
421
422 法第20条第3号の要件は,
423 法第1条の目的規定を参照すると,
424 行われる事業によって増進さ
425 れる公共の利益と,
426 土地収用によって失われる利益の比較衡量によって判断されると考えられ
427 るが,
428 法第20条第3号がある程度概括的に定められていることや,
429 公共事業に土地収用が必
430 要とされるかどうかについては,
431 種々の事情を総合的に考慮した判断が伴うことから,
432 法第2
433 0条第3号の要件該当性の判断には,
434 行政庁に一定の裁量が認められると考えられる。
435
436 したが
437 って,
438 本問では,
439 本件事業認定が,
440 このような裁量の範囲を逸脱濫用したものであるとして違
441 法となるかどうかが検討されるべき点である。
442
443 また,
444 本件事業認定に無効の瑕疵があるかが問
445 題とされることから,
446 単なる違法ではなく重大かつ明白な瑕疵が必要とされることとなるが,
447
448 本問では,
449 重大性や明白性については検討する必要はない。
450
451
452 まず,
453 本件事業認定に関しては,
454 本件道路の設置によって得られる利益として考えられるの
455
456 - 3 -
457
458 は,
459 事業認定に付された理由によると,
460
461 「道路ネットワークの形成」,
462
463 「通行者の安全性の確保」,
464
465 「地域防災性の向上」の3点である。
466
467 これらのうち,
468 「道路ネットワークの形成」という利益
469 が生み出されることや本件道路の整備による騒音等の不利益が軽微かどうかについては,
470 本件
471 事業認定においては,
472 平成22年調査に基づいて判断がされている。
473
474 Aの立場からは,
475 平成元
476 年調査と比して,
477 通行量の予測が異なる平成22年調査に基づく判断の妥当性や信頼性が論じ
478 られるべきこととなる。
479
480 また,
481 利益衡量の対象とされているが,
482 土地収用によって喪失する利
483 益として,
484 Aの立場からは,
485 本件土地周辺の地下水や防災用の井戸への影響,
486 本件土地の自然
487 環境への影響が十分に考慮されていないのではないかという点が指摘されよう。
488
489 また,
490 小学校
491 への騒音を防止するために,
492 本件道路のルートが決定されているが,
493 その際,
494 本件土地の自然
495 環境については考慮されておらず,
496 考慮されるべき事情が考慮されていないのではないか,
497
498 いった点についても検討することが求められている。
499
500
501 【民事系科目】
502 〔第1問〕
503 本問は,
504 民法の幅広い分野から,
505 民法の基礎的な理解とともにその応用力を問うものであ
506 り,
507 当事者の主張を踏まえつつ法律問題の相互理解や事案の特殊性を論理的に分析して自説
508 を展開する能力が試されている。
509
510
511 設問1は,
512 建物新築請負契約に基づき請負人が工事を完了して,
513 注文者所有土地上に建物
514 を完成させたが,
515 引渡しは未了の段階における当該新築建物の所有権の帰属と,
516 所有権の帰
517 属先とされることに伴う責任を問うものである。
518
519 新築建物の所有権の帰属は,
520 多数の関連判
521 例(大判明治37年6月22日民録10輯861頁,
522 大判昭和18年7月20日民集22巻
523 660頁,
524 最判昭和44年9月12日判例時報572号25頁,
525 最判昭和46年3月5日判
526 例時報628号48頁等)がある典型的な論点であるが,
527 これを中心としつつ,
528 物権法,
529
530 約法,
531 不法行為法にまたがる複数の制度・規定についての検討を求めることを通じて,
532 民法
533 の基本的な理解と事案に即した論理展開能力が問われている。
534
535
536 設問1の前半では,
537 新築建物の引渡し前の所有権の帰属が問題となるが,
538 その前提として,
539
540 建物は,
541 その敷地とは別個独立に所有権の客体となることを確認する必要がある。
542
543
544 その上で,
545 建物新築請負契約の当事者間に所有権の帰属についての合意があれば,
546 契約自
547 由の原則により,
548 その合意に従って所有権の帰属が決定されることとなる。
549
550 これに対し,
551
552 の合意がない場合における新築建物の引渡し前の所有権の帰属については,
553 いわゆる請負人
554 帰属説と注文者帰属説とがあり,
555 これについて論ずる必要がある。
556
557 前記の判例は請負人帰属
558 説に立っていると理解されているが,
559 その規律内容を知識として有しているだけではなく,
560
561 根拠を正確に理解していることが求められる。
562
563 請負人帰属説と注文者帰属説のいずれの立場
564 によっても構わないが,
565 自己の採用した立場から一貫性のある法律構成をすることが必要で
566 ある。
567
568
569 請負人帰属説に立つ場合には,
570 新築建物の所有権の帰属について特段の合意がない場合に
571 は物権法の原則が妥当し,
572 材料の所有権が積み上げられて完成した建物となることなどの理
573 由から,
574 材料の全部又は主要部分の提供者が誰かによって所有権の帰属が決せられることを
575 原則としつつ,
576 例外則として,
577 注文者が代金の支払をしていたときは注文者が所有権を取得
578 することを論ずべきことになる。
579
580
581 本問では,
582 材料はその全部を請負人が調達して提供しており,
583 本件事故時において建物は
584 既に完成しているが,
585 代金は8割が支払済みであるという事情がある。
586
587 上記の代金支払によ
588 る例外則の内容については,
589 定式として,
590 全額の支払を必要とする考え方と,
591 大半が支払済
592 みであればよいとする考え方とがあるが,
593 いずれの定式によるのかを明確にしつつ,
594 それと
595 整合的な理由の提示が求められる。
596
597
598
599 - 4 -
600
601 例外則の根拠については,
602 大別して,
603 材料の提供の実質に求める考え方と,
604 当事者の
605 黙示の合意に求める考え方とがあり得る。
606
607
608 上記の考え方は,
609 材料の全部又は主要部分の提供者がいずれであるかによって決せられ
610 るという原則に照らして,
611 代金の全額又は大半が支払われているときは,
612 注文者が材料の原
613 資を出しているといえるから,
614 注文者が材料の提供者と考えることができるとする。
615
616 この考
617 え方によれば,
618 「大半」といえるかどうかは,
619 支払われた代金が材料の全部又は主要部分の費
620 用に相当するかどうかが判断基準となり,
621 この観点から,
622 本問の事実の評価がされることに
623 なる。
624
625
626 上記の考え方からは,
627 請負契約は,
628 注文者が仕事の結果に対して報酬を支払うものであ
629 るから,
630 代金の全額が支払われた以上,
631 仕事の結果である建物の所有権は注文者が取得する
632 というのが両当事者の合理的意思であると考えられ,
633 このような両当事者の意思(黙示の合
634 意)を基礎として,
635 全額支払済みの場合に例外則を発動させるとする見解が導かれ得る。
636
637
638 他方で,
639 大半の支払の段階でも,
640 注文者は,
641 建物を取得するために契約をしたのであるか
642 ら所有権を取得することができると考え,
643 請負人も,
644 報酬確保について懸念がなければ所有
645 権を保持する利益がなく,
646 所有権を注文者に取得させることに異存はないのが通常であると
647 も考えられる。
648
649 そこで,
650 このような両当事者の意思(黙示の合意)を基礎として例外則を発
651 動させるとする見解も導かれ得る。
652
653 この見解によれば,
654 報酬確保として懸念のない状態にあ
655 るかどうかが判断基準となり,
656 この観点から,
657 本問の事実の評価がされることになる。
658
659
660 以上に対し,
661 注文者帰属説に立つ場合には,
662 判例が採用していると考えられる請負人帰属
663 説の内容を示してこれを批判し,
664 注文者帰属説を採用すべき理由を論ずることが求められる。
665
666
667 注文者帰属説による場合には,
668 注文者への帰属を排除する特段の合意がない限り,
669 甲建物は
670 注文者Aに帰属すると結論付けることになる。
671
672
673 なお,
674 所有権の帰属の決定に当たっては,
675 前記のとおり,
676 契約当事者の合意がまず基準と
677 なるところ,
678 請負人帰属説か注文者帰属説かの対立に触れることなく,
679 本問における契約内
680 容,
681 特に代金分割支払の合意内容等を詳細に分析・評価し,
682 所有権の帰属についての(黙示
683 の)合意を認定するという構成も妨げられるものではない。
684
685
686 設問1の後半は,
687 注文者Aが甲建物の所有者であると仮定し,
688 請負人Bが甲建物を占有し
689 ている中でのAの土地工作物責任(民法第717条第1項ただし書)を論じさせることを通
690 じて,
691 土地工作物責任に関する基本的な理解と事例に即した法適用能力を問うものである。
692
693
694 建物が土地工作物に該当することには異論がないと考えられるが,
695 設置又は保存の瑕疵に
696 ついては,
697 土地工作物が通常備えるべき安全性を欠くことを意味することを指摘した上で,
698
699 本問の事実関係のもとでの評価を示すことが求められる。
700
701 甲建物は,
702 震度5弱の地震に対す
703 る強度を備えておらず一部の損傷を生じているが,
704 このような建物は,
705 通常備えるべき安全
706 性を備えていたとはいえず,
707 設置の瑕疵があったといえる。
708
709
710 また,
711 設置の瑕疵によってCを負傷させ,
712 治療費の支出を余儀なくさせているから,
713 損害
714 の発生,
715 因果関係が認められることを指摘する必要がある。
716
717
718 甲建物は,
719 引渡し前であり,
720 請負人Bの管理・支配下にある。
721
722 民法第717条第1項の「占
723 有者」の概念については争いがあるが,
724 本問の場合は,
725 いずれにしてもBが占有者に該当す
726 るため,
727 占有者概念を詳述する必要はない。
728
729
730 所有者Aが土地工作物責任を負うか否かについて最も問題となるのは,
731 占有者であるBが
732 損害発生の防止に必要な注意を尽くしたかである。
733
734 占有者の必要な注意とは,
735 その種の占有
736 者として通常尽くすべき注意を意味するが,
737 このことを明らかにした上で,
738 本問の事実を評
739 価することが求められる。
740
741
742 【事実】5のとおり,
743 甲建物の「瑕疵」は甲建物に用いられた建築資材の欠陥によるもの
744 であるが,
745 この資材は定評があり,
746 多くの新築建物に用いられていた。
747
748 欠陥品が甲建物に用
749
750 - 5 -
751
752 いられることになったのは,
753 製造業者において検査漏れがあり,
754 流通経路を経て,
755 たまたま
756 甲建物に用いられたという事情による。
757
758 しかも,
759 この事情は,
760 本件事故を契機とした調査が
761 行われて初めて明らかになっている。
762
763 これらの事情からすれば,
764 Bとして,
765 逐一建築資材の
766 強度を個別に検査することまでは要求されず,
767 損害の発生の防止に必要な注意をしたと評価
768 されよう。
769
770
771 これに対し,
772 占有者の注意義務を高度なものとしてとらえ,
773 実質的には無過失責任に近い
774 ものとして考える場合には,
775 異なる結論を導く余地があるが,
776 その場合には,
777 そのような捉
778 え方をすべきことを説得的に展開することが求められる。
779
780
781 また,
782 以上と異なり,
783 設置・保存の瑕疵について,
784 通常備えるべき安全性を確保すべき義
785 務に違反したことをいうとする立場を採用することも妨げられないが,
786 その場合には,
787 その
788 ような立場に立脚すべき根拠を丁寧に,
789 かつ,
790 説得的に展開する必要がある。
791
792
793 設問2は,
794 不動産の賃貸借から将来生ずべき賃料債権の譲渡がされた場合において,
795 譲渡
796 人がその不動産を売却し,
797 賃貸人の地位が新所有者に承継されたときに,
798 将来賃料債権譲渡
799 の効力はその承継後の賃貸借から生ずる賃料債権に及ぶかを問うものであり,
800 基本的事項に
801 関する知識とこれを踏まえた論理的思考力が試されている。
802
803
804 この問題に関連する判例として,
805 最判平成10年3月24日民集52巻2号399頁があ
806 るが,
807 将来賃料債権の差押えの効力が発生した後に,
808 賃貸借の目的不動産が譲渡され,
809 それ
810 により第三者が賃貸人の地位を承継したとしても,
811 その第三者は,
812 当該不動産に係る賃料債
813 権を取得したことを差押債権者に対抗することができないとするものであり,
814 本問のように,
815
816 私人間の契約によって将来賃料債権が譲渡された後に賃貸借の目的不動産が譲渡された事案
817 についての判例はない。
818
819
820 本問では,
821 第三者対抗力を備えた将来賃料債権譲渡がされた場合において,
822 賃料債権を生
823 ずべき賃貸借の目的不動産が譲渡されたときに,
824 将来賃料債権譲渡と目的不動産の譲渡のい
825 ずれの効力が優先すると考えるべきかを,
826 種々の事情を考慮しながら検討することが求めら
827 れる。
828
829
830 下線部は,
831 賃貸借の目的不動産の譲渡の効力が優先するとするものである。
832
833 Hとしては,
834
835 これを根拠付けるために,
836 Hが乙建物の所有者となったことによりEに対する賃貸人となっ
837 たことを主張すると考えられる。
838
839
840 これに関する確立した判例法理を前提とするならば,
841 本問では,
842 DH間の合意による賃貸
843 人の地位の承継(以下「合意承継」という。
844
845 ),
846 Hが乙建物を取得したことによる賃貸人の地
847 位の当然承継(以下「法定承継」という。
848
849 )のいずれも成り立つ(合意承継につき,
850 最判昭和
851 46年4月23日民集25巻3号388頁。
852
853 法定承継につき,
854 大判大正10年5月30日民
855 録27輯1013頁等)。
856
857 これらの判例法理と異なる考え方を採る場合には,
858 判例法理を示し,
859
860 その問題点を挙げ,
861 採用すべき他の考え方を理由とともに示す必要がある。
862
863 なお,
864 判例法理
865 に従う場合も,
866 合意承継と法定承継との要件の違いを意識した論述が求められるとともに,
867
868 合意承継については,
869 契約上の地位の移転の一種であるにもかかわらず賃借人の同意を要し
870 ない理由を,
871 法定承継については,
872 目的不動産の所有権の移転により賃貸人の地位が当然に
873 移転する理由を示すことが望ましい。
874
875
876 下線部は,
877 将来賃料債権譲渡の効力が優先するとするものである。
878
879 下線部が正当とさ
880 れるためには,
881 本件譲渡契約が有効であり,
882 かつ,
883 Fがその契約による将来賃料債権の取得
884 を第三者に対抗することができることが必要である。
885
886
887 将来債権を譲渡する契約は,
888 譲渡の目的とされる債権が特定されている場合には原則とし
889 て有効であるとしつつ,
890 例えば,
891 その将来債権譲渡が,
892 あまりに長期にわたる包括的なもの
893 であり,
894 譲渡人の営業活動等に対して過度の制限を加え又は他の債権者に不当な利益を加え
895 るものであると見られるなどの特段の事情があるときは,
896 公序良俗違反などのため全部又は
897
898 - 6 -
899
900 一部が無効になることがある,
901 とするのが判例である(最判平成11年1月29日民集53
902 巻1号151頁)。
903
904 また,
905 判例は,
906 将来債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,
907
908 指名債権譲渡の対抗要件(民法第467条第2項)の方法によることができるとする(最判
909 平成13年11月22日民集55巻6号1056頁)。
910
911
912 以上の判例に従う場合,
913 本件譲渡契約は,
914 「本件賃貸借契約による平成28年9月分から平
915 成40年8月分までの賃料債権」(【事実】8)と譲渡の対象が特定されており,
916 譲渡期間は
917 12年と比較的長期であるものの,
918 この一事をもって公序良俗に反するとまではいえないか
919 ら,
920 有効であると認められる。
921
922 また,
923 本件譲渡契約による将来賃料債権譲渡について,
924
925 【事実】
926 8のDからEに対する内容証明郵便による通知をもって,
927 第三者対抗要件が具備されている。
928
929
930 したがって,
931 Fは,
932 本件譲渡契約による将来賃料債権の取得を第三者に対抗することができ
933 る。
934
935
936 上記を前提として,
937 下線部と下線部のうちいずれが正当であるかを考えるべきことに
938 なるが,
939 その際には理論的な理由と結論の妥当性の観点からの理由を共に挙げることが必要
940 である。
941
942
943 下線部を正当とする理論的な理由としては,
944 本件譲渡契約における譲渡の対象は将来「債
945 権」であり,
946 譲渡人Dは,
947 自己が取得すべき債権を処分することはできるが,
948 他人が取得す
949 べき債権を処分することはできないから,
950 本件譲渡契約の効力は,
951 Hが取得する賃料債権に
952 及ばないとすることなどが考えられる。
953
954 また,
955 結論の妥当性の観点からの理由としては,
956
957 来債権譲渡は,
958 もともと将来の債権の発生という不確実な事実に効力をかからせるものであ
959 り,
960 賃貸借の目的不動産の譲渡により将来賃料債権の譲渡人(D)が取得すべき賃料債権が
961 発生しなくなることは,
962 当然想定される事態の一つであってやむを得ないことや,
963 将来賃料
964 債権の譲受人(F)が権利を失うことになる不利益は,
965 将来賃料債権譲渡の契約の当事者(D
966 及びF)の間で解決されるべき問題であることなどが考えられる。
967
968
969 これに対し,
970 下線部を正当とする理論的な理由としては,
971 本問における将来賃料債権の
972 譲渡は,
973 本件賃貸借契約から将来生ずる賃料債権を譲渡の目的とするところ,
974 Hは本件賃貸
975 借契約における賃貸人の地位を承継するのであり,
976 Hの下で生ずる賃料債権も本件賃貸借契
977 約から生ずるものであるため,
978 本件譲渡契約の効力がなお及ぶと考えられることなどが挙げ
979 られる。
980
981 また,
982 結論の妥当性の観点からの理由としては,
983 賃貸借の目的不動産を譲り受けよ
984 うとする者は,
985 賃借人への照会その他の調査により,
986 将来賃料債権譲渡がされた事実を知る
987 ことが通常可能であり,
988 実際,
989 本問においてHは本件譲渡契約がされたことを知りつつ本件
990 売買契約を締結しているから,
991 目的不動産(乙建物)の譲受人(H)が不測の不利益を受け
992 ることにはならないことや,
993 下線部を正当とすると将来賃料債権譲渡の効力が賃貸借の目
994 的不動産の譲渡により容易に失われるため,
995 将来賃料債権譲渡の有用性が著しく損なわれて
996 しまうことなどが考えられる。
997
998
999 下線部と下線部のいずれを正当としてもよいが,
1000 解答に当たっては,
1001 それぞれを支え
1002 る根幹的な論拠を前提としつつ,
1003 他に考慮されるべき事情とその評価について説得的に展開
1004 し,
1005 結論を導くことが求められる。
1006
1007
1008 設問3は,
1009 いわゆる動機の錯誤による意思表示の無効の要件に関する基本的な理解を問う
1010 ものである。
1011
1012
1013 本件債務引受契約の無効の原因となるのは,
1014 Hの錯誤による意思表示である。
1015
1016 本件債務引
1017 受契約に関するHの錯誤については2通りの捉え方が可能である。
1018
1019
1020 第1に,
1021 Hは,
1022 本件売買契約によって乙建物の所有権を取得することによりEから本件賃
1023 貸借契約に係る賃料を収受することができるという認識(以下「下線部の認識」という。
1024
1025
1026 の下で本件債務引受契約を締結している。
1027
1028 そのため,
1029 下線部の認識は,
1030 Hにとって,
1031 本件
1032 債務引受契約の動機であり,
1033 下線部の認識が誤りであるという本問の前提に立つと,
1034 Hに
1035
1036 - 7 -
1037
1038 動機の錯誤があるということができる。
1039
1040
1041 第2に,
1042 【事実】10のAによれば,
1043 Hは,
1044 Dとの間の本件売買契約によって負う代金債務の
1045 代物弁済として,
1046 DのGに対する本件債務を引き受けている。
1047
1048 したがって,
1049 Hは,
1050 Dに対し
1051 て代金債務を負うことを動機として,
1052 本件債務引受契約に係る意思表示をしたと見ることも
1053 できる。
1054
1055 この動機は,
1056 本件売買契約が有効であることを前提としているが,
1057 下線部の認識
1058 が誤りであることによって本件売買契約が無効となれば,
1059 HがDに対して代金債務を負って
1060 いないことになるから,
1061 Hに動機の錯誤があるということができる。
1062
1063
1064 Hの動機の錯誤を上記のいずれと解してもよいが,
1065 そのうちの一方が本件債務引受契約の
1066 無効を導くのであれば,
1067 その動機の錯誤について論ずる必要がある(他方について論ずる必
1068 要はない。
1069
1070 )。
1071
1072 いずれによっても無効にならない場合には,
1073 両方の動機の錯誤について論ずる
1074 必要がある。
1075
1076
1077 動機の錯誤による意思表示の無効が認められるか,
1078 どのような要件の下で認められるかに
1079 ついては,
1080 種々の考え方がある。
1081
1082
1083 判例は,
1084 動機の錯誤の場合,
1085 民法第95条は当然には適用されないことを前提として,
1086
1087 定の要件の下でのみ民法第95条による意思表示の無効を認める立場である。
1088
1089 ここにいう「一
1090 定の要件」について,
1091 「動機が表示されて法律行為(又は意思表示)の内容になった」ことが
1092 必要であるとする理解が一般的であるが,
1093 例えば,
1094 動機は表示されたならば意思表示の内容
1095 になったと認められるとする理解などもある。
1096
1097
1098 解答に当たっては,
1099 動機の錯誤による意思表示の効力や無効とする場合の要件をどのよう
1100 に判断すべきかについて,
1101 特定の立場を採ることが求められるものではないが,
1102 判例の理解
1103 を踏まえて採るべき立場を理由とともに明らかにし,
1104 本問の事実を自説の構成に従って適切
1105 にあてはめることが必要である。
1106
1107
1108 例えば,
1109 民法第95条による無効が認められるためには,
1110 動機が表示され,
1111 かつ,
1112 その表
1113 示された動機が当事者の間で法律行為の内容とされたことが必要であるとする立場からは,
1114
1115 次のことを論ずべきことになる。
1116
1117
1118 まず,
1119 動機の表示の存否を論ずる必要がある。
1120
1121 本件売買契約によって6000万円の代金
1122 債務を負うことが問題とすべき動機であるとする場合には,
1123 【事実】10のAから,
1124 動機がGに
1125 表示されていたと認められる。
1126
1127 これに対し,
1128 Hの下線部の認識が問題とすべき動機である
1129 とする場合には,
1130 そのことがGに明示されているとまではいえないものの,
1131 【事実】10におい
1132 て,
1133 Gは,
1134 DとHに対し,
1135 乙建物の買主は本件賃貸借契約に係る賃料を収受することができ
1136 るという,
1137 下線部に相当する認識を述べている。
1138
1139 そして,
1140 D,
1141 G及びHは,
1142 Gのこの発言
1143 を受けて本件売買契約の代金額を乙建物の収益性を勘案した額とすること(【事実】10の@),
1144
1145 Hが本件売買契約によって負う代金債務の代物弁済として本件債務の弁済を引き受けること
1146 (【事実】10のA)を合意していることから,
1147 Hが下線部の認識の下に本件債務を引き受け
1148 ることが,
1149 Gに対し表示されていたと認められる。
1150
1151
1152 次に,
1153 その動機が法律行為の内容になったと認められるか否かを論ずる必要がある。
1154
1155 その
1156 前提として,
1157 「法律行為の内容になる」ということの意味が問題となるが,
1158 相手方が意思表示
1159 はその動機を何らかの意味で前提とするものであることを了解していたと認められればよい
1160 とする考え方,
1161 相手方が意思表示はその動機の存在を前提として効力が認められるものであ
1162 ることを受け入れていたといえる必要があるとする考え方などがあり得る。
1163
1164 後者の考え方を
1165 採る場合には,
1166 その動機が誤っているときには意思表示の効力の前提が欠けることになるか
1167 ら,
1168 意思表示の無効が原則として認められる。
1169
1170 それに対し,
1171 前者の考え方を採る場合には,
1172
1173 意思表示が無効となるためには,
1174 動機の誤りに加えて,
1175 錯誤の重要性が認められなければな
1176 らない。
1177
1178 これについても,
1179 どの立場であってもよいが,
1180 採るべき立場の内容と理由を明確に
1181 示すことが求められる。
1182
1183
1184
1185 - 8 -
1186
1187 その上で,
1188 本問の事実を自説に適切に当てはめることが求められる。
1189
1190 Hの下線部の認識
1191 が問題とすべき動機であるとし,
1192 かつ,
1193 動機の法律行為の内容化につき上記のうち前者の立
1194 場を採った場合を例にとれば,
1195 Gは,
1196 何らの見返りもなく単なる友人の多額の債務を引き受
1197 けることは通常考えられないこと,
1198 下線部の認識に相当することを自らD及びHに述べた
1199 上で【事実】10の三者間合意に加わったことから,
1200 Hが下線部の認識を前提として本件債
1201 務引受契約を締結することを了解していたと認められる。
1202
1203 そして,
1204 下線部の認識が誤りで
1205 ある場合,
1206 Hは,
1207 Dの債務を引き受けることの「見返り」である利益を取得することができ
1208 ず,
1209 しかもその額は4500万円近くになることから,
1210 この錯誤の重要性は明らかであると
1211 いうことができる。
1212
1213
1214 これに対し,
1215 本件売買契約によって代金債務を負うことが問題とすべき動機であるとする
1216 場合には,
1217 G及びHは,
1218 【事実】10の@〜Cより,
1219 Hがその代金債務を負うことを前提として
1220 本件債務引受契約に応じることを合意したといえるから,
1221 Hがその代金債務を負うことが本
1222 件債務引受契約の前提であるとGは了解しており,
1223 Hの錯誤の重要性も当然に認められると
1224 説明することも,
1225 GはHがDに対する代金債務を負わないのであれば本件債務引受契約は無
1226 効になることを受け入れていたと説明することもできる。
1227
1228 なお,
1229 この場合には,
1230 Hは下線部
1231 の認識が誤りであることにより本件売買契約に係る意思表示の無効を主張することができ
1232 るかを,
1233 動機の錯誤による意思表示の無効が認められるための要件として自ら示したものに
1234 従って,
1235 論ずることが必要になる。
1236
1237
1238 表意者に重大な過失があったときは,
1239 表意者は,
1240 錯誤による意思表示の無効を主張するこ
1241 とができない。
1242
1243 本問においても,
1244 Hに重大な過失があると認められるか,
1245 具体的には,
1246 Hが
1247 下線部のように考えたことが重大な過失に当たるかを論ずる必要がある。
1248
1249 これについては,
1250
1251 事実を踏まえて結論を示すことが必要であり,
1252 その際,
1253 次に述べるような検討をすることが
1254 望ましい。
1255
1256
1257 下線部と下線部のいずれが正当であるかは,
1258 法の解釈の問題であり,
1259 法を正しく解釈
1260 しないことは「法の不知」の一種といえなくもない。
1261
1262 仮にそうであれば,
1263 「法の不知は保護し
1264 ない」という法諺が妥当するとして,
1265 Hの重大な過失が認められることにもなり得る。
1266
1267 しか
1268 しながら,
1269 下線部と下線部のいずれが正当であるかについて,
1270 判例も一般的といえる解
1271 釈も存在せず,
1272 取引社会の構成員として当然に知っているべきであるとはいえない。
1273
1274 したが
1275 って,
1276 下線部のように法の解釈を誤ったことをもってHは保護に値しないとすることは,
1277
1278 適当でないと考えられる。
1279
1280 仮にそのように考えない場合であっても,
1281 【事実】10からGも下線
1282 部の認識の下に本件債務引受契約を締結したといえることから,
1283 GはHと同一の錯誤に陥
1284 っていたと認められ,
1285 契約の有効に対するGの信頼は保護に値せず,
1286 Hによる意思表示の無
1287 効の主張は妨げられないと解される。
1288
1289
1290 〔第2問〕
1291 本問は,
1292 @少数株主による株主総会の招集及び株主提案権の行使(設問1),
1293 A買収防衛策
1294 としての差別的な内容の新株予約権無償割当て(設問2),
1295 B取締役会設置会社における株主
1296 総会の権限,
1297 取締役の株主総会の決議の遵守義務及び取締役の株式会社に対する損害賠償責
1298 任(設問3)についての理解等を問うものである。
1299
1300
1301 設問1においては,
1302 乙社が採ることができる会社法上の手段として,
1303 少数株主による株主
1304 総会の招集の手続(会社法第297条等)並びに議題提案権(同法第303条)及び議案要
1305 領通知請求権(同法第305条)の行使の手続について説明し,
1306 比較検討した上で,
1307 論ずる
1308 ことが求められる。
1309
1310
1311 少数株主による株主総会の招集の手続並びに議題提案権及び議案要領通知請求権の行使の手
1312 続について比較検討するに当たっては,
1313 例えば,
1314 下記@からBまでのことについて,
1315 言及する
1316
1317 - 9 -
1318
1319 ことが期待される。
1320
1321
1322 @
1323
1324 議事運営の主導権
1325
1326 少数株主が臨時株主総会を招集する場合には,
1327 少数株主は株主総会の招集等の手続を行うこ
1328 とにより株主総会の議事運営にその意向を反映し得ること,
1329 他方で,
1330 取締役が招集する定時株
1331 主総会の開催に当たり少数株主が議題提案権及び議案要領通知請求権を行使する場合には,
1332
1333 締役が株主総会の招集等の手続を行うため,
1334 少数株主が臨時株主総会を招集する場合と比べる
1335 と,
1336 株主総会の議事運営に少数株主の意向を反映することに支障があり得ること。
1337
1338
1339 A
1340
1341 費用等の手続面の負担
1342 少数株主が臨時株主総会を招集する場合には,
1343 少数株主が株主総会の招集及び開催の費用
1344
1345 及び労力を負担すること,
1346 他方で,
1347 議題提案権及び議案要領通知請求権を行使する場合には,
1348
1349 株式会社が株主総会の招集及び開催の費用及び労力を負担すること。
1350
1351
1352 B
1353
1354 時期の選択
1355 少数株主が臨時株主総会を招集する場合には,
1356 定時株主総会が開催されるのを待つことを
1357
1358 要せず,
1359 それよりも前に,
1360 株主総会を開催することができること,
1361 他方で,
1362 議題提案権及び
1363 議案要領通知請求権を行使する場合には,
1364 定時株主総会が開催されるのを待たなければなら
1365 ないこと。
1366
1367
1368 設問2においては,
1369 乙社による本件新株予約権無償割当ての差止めの請求(会社法第24
1370 7条類推)が認められるか否かについて,
1371 問題文中の事実関係を適切に評価した上で説得的
1372 に論ずることが求められる。
1373
1374
1375 乙社による本件新株予約権無償割当ての差止めの請求が認められるか否かについて論ずる
1376 に当たっては,
1377 まず,
1378 新株予約権無償割当てに関して,
1379 会社法第247条が類推適用される
1380 か否かについて,
1381 検討することが求められる。
1382
1383
1384 そして,
1385 新株予約権無償割当てについて,
1386 会社法第247条が類推適用される(東京地決
1387 平成19年6月28日金判1270号12頁)と解する場合には,
1388 乙社による差止事由に関
1389 する主張について,
1390 条文及びその文言を引用しつつ,
1391 具体的に検討することが求められる。
1392
1393
1394 乙社による差止事由に関する主張としては,
1395 例えば,
1396 下記@又はAの主張について,
1397 検討す
1398 ることが求められる。
1399
1400
1401 @
1402
1403 本件新株予約権無償割当ては,
1404 新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであり,
1405
1406 株主平等の原則(会社法第109条第1項)又はその趣旨に反し,
1407 法令に違反するもので
1408 あるとの主張(同法第247条第1号。
1409
1410 最決平成19年8月7日民集61巻5号2215
1411 頁参照)。
1412
1413
1414
1415 A
1416
1417 本件新株予約権無償割当ては,
1418 新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっ
1419 て,
1420 会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく,
1421 専ら経営を担当
1422 している取締役等の経営支配権を維持するためのものであり,
1423 著しく不公正な方法により
1424 行われるものであるとの主張(会社法第247条第2号。
1425
1426 東京高決平成17年3月23日
1427 判時1899号56頁,
1428 判タ1173号125頁参照)。
1429
1430
1431 その上で,
1432 その主張の当否に関して,
1433 例えば,
1434 上記@の主張については,
1435 前掲最決平成1
1436
1437 9年8月7日を参考にするなどしつつ,
1438 本件新株予約権無償割当ては,
1439 新株予約権者の差別
1440 的な取扱いを内容とするものであり,
1441 非適格者である乙社を差別的に取り扱うものであるが,
1442
1443 他方で,
1444 買収防衛策としての導入等の是非が株主総会の決議(ただし,
1445 いわゆる勧告的決議
1446 である。
1447
1448 )に委ねられていること,
1449 さらに,
1450 本件新株予約権無償割当ては,
1451 乙社に経済的損害
1452 を与える性質を有するものであるが,
1453 他方で,
1454 乙社がこれ以上の甲社の株式の買い増しを行
1455 わない旨を確約した場合には,
1456 甲社の取締役会が,
1457 その決議により,
1458 本件新株予約権無償割
1459 当てにより株主に割り当てた新株予約権の全部を無償で取得することができる仕組みとなっ
1460 ており,
1461 乙社に撤退可能性が保障されていることなどの問題文中の事実関係に即し,
1462 条文の
1463
1464 - 10 -
1465
1466 適用と当てはめを丁寧に行い,
1467 説得的に検討することが求められる。
1468
1469
1470 また,
1471 上記Aの主張については,
1472 前掲東京高決平成17年3月23日を参考にするなどし
1473 つつ,
1474 本件新株予約権無償割当ては,
1475 いわゆる主要目的ルールに照らすと経営支配権の維持
1476 を主要な目的とするものであるが,
1477 他方で,
1478 上記のとおり買収防衛策としての導入等の是非
1479 が株主総会の決議に委ねられていることなどの問題文中の事実関係を踏まえ,
1480 この株主総会
1481 の決議の意義がどのようなものであるかや,
1482 前掲東京高決平成17年3月23日が挙げる四
1483 つの具体例に照らし,
1484 株主全体の利益の保護という観点から本件新株予約権無償割当てを正
1485 当化する特段の事情があるかどうかなどについて検討した上で,
1486 同様に,
1487 説得的に論ずるこ
1488 とが求められる。
1489
1490
1491 設問3においては,
1492 @甲社の財産の処分を株主総会の決議によってもすることができるよ
1493 うにする定款の変更に関する議案を可決した本件決議1の効力を検討した上で,
1494 A本件決議
1495 1に基づく本件決議2の効力及び取締役の株主総会の決議の遵守義務(会社法第355条)
1496 を前提として,
1497 B下記の問題文中の事実関係を踏まえ,
1498 甲社の取締役会が遅くとも平成30
1499 年度中にP倉庫を適正な価格で売却することに関する議案を可決した本件決議2に関して,
1500
1501 甲社の代表取締役社長Aは,
1502 これを遵守してはならなかったにもかかわらず遵守したことに
1503 より,
1504 その任務を怠ったものと認められるのではないか,
1505 結果として,
1506 甲社に対し,
1507 会社法
1508 第423条第1項に基づき,
1509 損害賠償責任を負うか否かについて,
1510 論ずることが求められる。
1511
1512
1513 本件決議1の効力を検討するに当たっては,
1514 まず,
1515 @取締役の業務執行権限に属する事項
1516 を株主総会の決議事項とすることができるかどうかについて,
1517 論ずることが求められる。
1518
1519
1520 そして,
1521 A取締役の業務執行権限に属する事項であっても,
1522 定款で定めることにより株主
1523 総会の決議事項とすることができ(会社法第295条第2項),
1524 本件決議1及び本件決議2は
1525 いずれも有効であると解する場合には,
1526 取締役は株主総会の決議を遵守しなければならない
1527 こと(同法第355条)について,
1528 言及することが求められる。
1529
1530
1531 その上で,
1532 B株主総会の決議の遵守義務を前提として,
1533 例えば,
1534 Q県において発生した大
1535 地震により,
1536 Q倉庫が倒壊したため,
1537 海外から到着する貨物をP倉庫において保管しなけれ
1538 ばならず,
1539 P倉庫を売却すると,
1540 競合他社に多数の顧客を奪われるなど,
1541 50億円を下らな
1542 い損害が甲社に生ずることが見込まれ,
1543 他方で,
1544 P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候
1545 はうかがわれなかったことなどの問題文中の事実関係を踏まえ,
1546 (ア)代表取締役社長Aは,
1547
1548 甲社に損害を与えないように業務を執行するのであれば,
1549 本件決議2を遵守してはならなか
1550 ったにもかかわらず,
1551 本件決議2を遵守し,
1552 その任務を怠ったものと認められるから,
1553 甲社
1554 に対し,
1555 損害賠償責任を負うと解するか,
1556 (イ)本件決議2の後に重大な事情の変更が生じた
1557 ことに鑑み,
1558 改めて株主の意思を確認しなければならなかった(改めて株主総会の決議を得
1559 なければならなかった)にもかかわらず,
1560 事情の変更が生ずる前の本件決議2を遵守するこ
1561 とに固執し,
1562 その任務を怠ったものと認められるから,
1563 甲社に対し,
1564 損害賠償責任を負うと
1565 解するか,
1566 あるいは(ウ)上記の問題文中の事実関係を踏まえても,
1567 代表取締役社長Aは,
1568
1569 本件決議2を遵守しなければならず,
1570 その任務を怠ったとは認められないから,
1571 甲社に対し,
1572
1573 損害賠償責任を負うとは認められないと解するかなどについて,
1574 説得的に論ずることが求め
1575 られる。
1576
1577
1578 @の検討の結果,
1579 本件決議1が無効であると解する場合には,
1580 これを前提とする本件決議
1581 2も株主総会の決議としての効力はないこととなるが,
1582 (エ)なお株主の意向を示すものとし
1583 て尊重する必要がないかや,
1584 代表取締役社長Aが本件決議2を遵守する義務があると考えて
1585 P倉庫を売却するという決定をしたことに取締役としての任務懈怠や過失がなかったかどう
1586 かについて,
1587 説得的に論ずることが求められる。
1588
1589
1590 なお,
1591 設問3は,
1592 株主総会の決議の遵守義務が問題となっている場面であり,
1593 いわゆる経
1594 営判断原則の適用が問題となる典型的な場面ではないため,
1595 経営判断原則に言及する場合に
1596
1597 - 11 -
1598
1599 は,
1600 その趣旨や適用範囲について検討した上で言及することが望まれる。
1601
1602
1603 〔第3問〕
1604 本問は,
1605 会社員Xが,
1606 全国展開している業者Yから購入したキャンピングカーが契約どお
1607 りの仕様を有していなかったことを理由として,
1608 履行遅滞による売買契約の解除に基づく原
1609 状回復としての売買代金の返還と債務不履行に基づく損害賠償をYに求めるという事案を題
1610 材として,
1611 @管轄に関する合意が存在し,
1612 それを専属的管轄合意と解釈した場合には管轄を
1613 有しないことになる裁判所に訴えを提起したことを前提に,
1614 民事訴訟法(以下「法」という。
1615
1616
1617 第16条第1項による移送をすべきではないとの立論をすること(設問1),
1618 A原告が主張す
1619 る特定の事実を認める旨の被告の陳述が裁判上の自白に該当して自由に撤回することができ
1620 なくなるかを検討すること(設問2),
1621 B作成者が死亡しその相続人が所持するに至った日記
1622 を対象とする文書提出義務の成否を判断するためにどのような観点からどのような事項を考
1623 慮すべきかを検討すること(設問3),
1624 を求めるものである。
1625
1626
1627 まず,
1628 〔設問1〕の課題(1)は,
1629 管轄合意の解釈の在り方を問うものである。
1630
1631 本件定めのよ
1632 うな管轄合意には,
1633 特定の裁判所を管轄裁判所から排除する専属的管轄合意と特定の裁判所
1634 を管轄裁判所に付け加える付加的管轄合意があるが,
1635 Yは,
1636 本件定めを専属的管轄合意と解
1637 釈していると考えられることから,
1638 本件定めを付加的管轄合意として解釈すべきだという議
1639 論を適切な論拠を示しつつ展開することが求められる。
1640
1641
1642 このような論拠としては,
1643 Yが本件定めを作成するに当たり,
1644 本件定めが専属的管轄合意
1645 であることを明記し得たのにしていないのであるから,
1646 専属的管轄合意と理解するのが合理
1647 的であるとはいえないことや,
1648 本件定めは,
1649 Y側から提起する債務不存在確認の訴えなどB
1650 地方裁判所の法定管轄に属しない場合にもB地方裁判所が管轄裁判所となることを基礎付け
1651 るものであり,
1652 これを付加的管轄合意と解釈することに合理性がないとはいえないこと,
1653
1654 いったものが考えられる。
1655
1656
1657 この他本件定めを付加的管轄合意として理解すべきとする論拠は,
1658 複数考えられ得るが,
1659
1660 説得力をもって以上のような論拠を適切に展開し,
1661 本件定めを付加的管轄合意として理解す
1662 べきことを結論付けることが,
1663 課題(1)との関係では求められる。
1664
1665
1666 次に,
1667 〔設問1〕の課題(2)は,
1668 本件定めを専属的管轄合意と解釈することを前提としても,
1669
1670 管轄違いによる移送(法第16条第1項)をすべきではないとする立論を求めるものである。
1671
1672
1673 このような立論としては,
1674 仮にB地方裁判所に本件訴訟が係属したとしてもB地方裁判所
1675 がA地方裁判所に法第17条に基づく移送をするための要件を満たす場合には,
1676 A地方裁判
1677 所として移送をせずに自庁処理をすることが認められる,
1678 というものが考えられる。
1679
1680 また,
1681
1682 その根拠としては,
1683 法第17条の要件を満たす場合には,
1684 仮にA地方裁判所からB地方裁判
1685 所に対し管轄違いによる移送をしてもB地方裁判所からA地方裁判所に同条による移送がさ
1686 れることが考えられることから,
1687 そのようなう遠な処理をするまでもなく,
1688 法第17条の類
1689 推適用によりA地方裁判所で自庁処理をすることが適切と考えられること,
1690 場面は異なるが
1691 法第16条第2項が管轄違いの場合の自庁処理を認めていることなどが挙げられる。
1692
1693
1694 そこで,
1695 課題(2)との関係では,
1696 以上のような立論をした上で,
1697 本件がA地方裁判所の法定
1698 管轄に属することを指摘しつつ,
1699 法第17条の要件が満たされることを本件事案に即して示
1700 していくことが求められる。
1701
1702
1703 〔設問2〕は,
1704 問題文中のCの事実を認める旨のYの陳述が裁判上の自白に該当して撤回
1705 制限効が生じているかどうかを問うものである。
1706
1707 ここでは,
1708 裁判上の自白の成立要件に照ら
1709 した検討が求められる。
1710
1711
1712 一般に裁判上の自白の成立要件は,
1713 (1)口頭弁論又は弁論準備手続における弁論としての陳
1714 述であること,
1715 (2)相手方の主張と一致する陳述であること,
1716 (3)事実についての陳述である
1717
1718 - 12 -
1719
1720 こと,
1721 (4)自己に不利益な陳述であること,
1722 であるとされるが,
1723 本問では(1)と(2)の要件を満
1724 たすことは明らかであり,
1725 (3)と(4)の検討が中心となる。
1726
1727
1728 (3)の要件との関係では,
1729 この要件を満たす「事実」について,
1730 主要事実に限定されるとす
1731 る見解と間接事実も含まれるとする見解があり,
1732 このうち,
1733 後者に属する見解では,
1734 これを
1735 重要な間接事実に限るとする見解から広く間接事実一般を含むとするものまで様々なものが
1736 ある。
1737
1738 解答に際しては,
1739 まず以上のうちのいかなる立場に立つかを論拠を示して明らかにす
1740 る必要がある。
1741
1742
1743 さらに,
1744 とりわけ主要事実限定説や重要な間接事実限定説では,
1745 Cの事実が訴訟物との関
1746 係でいかなる位置付けを有する事実であるかにより(3)の要件の成否が異なってくることから,
1747
1748 元の請求と追加された請求における訴訟物との関係でのCの事実の位置付けを要件事実の考
1749 え方を踏まえて整理した上で,
1750 自説に当てはめることが求められる。
1751
1752
1753 また,
1754 Xが新請求を追加したのは,
1755 YがCの事実を認める旨の陳述をした後,
1756 それを撤回
1757 する前である。
1758
1759 このような事実経過からは,
1760 例えば元の請求との関係で自白は成立しないが
1761 追加された請求との関係では自白が成立すると考える立場では,
1762 Xが新請求を追加する前は
1763 自由にできた陳述の撤回が新請求の追加により制限されてよいか,
1764 また,
1765 元の請求との関係
1766 でも追加された請求との関係でも自白が成立すると考える立場では,
1767 これらが異なる請求で
1768 あることから,
1769 元の請求との関係で成立した自白の効力を追加された請求との関係でもその
1770 まま維持してよいか,
1771 といった疑問が喚起される。
1772
1773 設問で示されたJの問題意識に照らし,
1774
1775 こういった点についても検討することが求められる。
1776
1777
1778 (4)の要件については,
1779 相手方が証明責任を負う事実の存在を認める場合に限りこの要件を
1780 満たすとする見解,
1781 認める旨の陳述をした当事者の敗訴可能性を基礎付ける事実であればこ
1782 の要件を満たすとする見解,
1783 不利益要件は必要ないとする見解などが主張されており,
1784 (3)の
1785 要件に関する自説との整合性に留意しながら,
1786 いずれの立場に立つかを明らかにする必要が
1787 ある。
1788
1789
1790 〔設問3〕は,
1791 文書提出義務の有無を判断するに当たって考慮すべき観点や事項を問うも
1792 のである。
1793
1794 本件の文書は日記であるので,
1795 法第220条第4号ニの自己利用文書の該当性の
1796 判断に当たり考慮すべき観点等について検討する必要がある。
1797
1798
1799 判例(最高裁判所平成11年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁ほ
1800 か)によれば法第220条第4号ニの自己利用文書該当性の要件は,
1801 (@)内部文書性(「専ら
1802 内部の者の利用に供する目的で作成され,
1803 外部の者に開示することが予定されていない文書
1804 であること」),
1805 (A)不利益性(「開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人又は団
1806 体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,
1807 開示によって所持者の側に看過し難い不利益
1808 が生ずるおそれがあると認められること」),
1809 (B)特段の事情の不存在であるとされており,
1810
1811 独自に適切な要件を考案して設定するのでない限りは,
1812 これに即して考慮すべき観点と事項
1813 を抽出することが求められる。
1814
1815
1816 そして,
1817 本件日記は,
1818 日記である以上専らTが自らの利用に供する目的で作成し,
1819 Tも外
1820 部の者に開示することは予定していなかったと考えられる。
1821
1822 また,
1823 Zは死亡したTの妻であ
1824 り,
1825 Tの相続人として日記を所持するに至ったものであって,
1826 Zも外部の者に開示すること
1827 を予定していない。
1828
1829 そこで,
1830 (@)の内部文書性の要件が満たされると判断されることとなる
1831 と考えられる。
1832
1833
1834 もっとも,
1835 (A)(B)との関係では問題が生じ得る。
1836
1837 (A)の不利益として問題となるのは,
1838
1839 通常の場合には,
1840 作成者であるところの所持者のプライバシーの侵害であるが,
1841 本件では作
1842 成者は死亡し,
1843 作成者と異なる者が本件日記を所持するに至っている。
1844
1845 そのため,
1846 本件日記
1847 については,
1848 (a)保護されるべきプライバシーの主体が現在の文書の所持者と同一ではなく,
1849
1850 (b)その主体が死亡しており要保護性を欠くに至っていると評価をすることも可能であると
1851
1852 - 13 -
1853
1854 して,
1855 (A)の要件が満たされないとも考えられる。
1856
1857 もっとも,
1858 (a)(b)から本件では(A)に
1859 いう不利益は生じないと即断することも早計である。
1860
1861 なぜなら(A)で保護される利益には文
1862 書作成の自由に対する利益も含まれると考えられるところ,
1863 本件のような事案で安易に本件
1864 日記の開示を認めると,
1865 死亡後に開示対象になることを恐れ,
1866 日記作成に対する萎縮効果を
1867 生みかねないからである。
1868
1869 ここでは,
1870 破綻した信用組合の貸出稟議書の提出義務が問題とな
1871 った最高裁判所平成13年12月7日第二小法廷決定・民集55巻7号1411頁の考え方
1872 も参考となろう。
1873
1874 なお,
1875 上記の問題は(A)の不利益性に係る問題といえるが,
1876 この判例から
1877 も分かるとおり,
1878 (B)の特段の事情の問題として整理することも可能であり,
1879 いずれの要件
1880 の問題として扱っても,
1881 評価に差異はない。
1882
1883
1884 そこで,
1885 本設問に対する解答としては,
1886 法第220条第4号ニの自己利用文書の要件とし
1887 て不利益性が要求されること,
1888 その不利益性としては本件日記との関係ではまず所持者のプ
1889 ライバシーが問題となること,
1890 自己利用文書該当性で問題となる不利益性として文書作成に
1891 対する萎縮効果も考慮されるべきことなどといった観点から,
1892 本件日記にはTのプライバシ
1893 ーに属する事柄が書いてあること,
1894 当該プライバシーの帰属主体であるTと現在の所持者で
1895 あるZが異なっていること,
1896 プライバシーの帰属主体であるTが死亡していること,
1897 本件で
1898 Zに対し文書提出義務を認めると将来の日記作成に対する一般的な萎縮効果を生むおそれが
1899 あることなどを指摘して論ずることが期待される。
1900
1901 なお上記で「観点」に位置付けた内容を
1902 「考慮すべき事項」に位置付けたり,
1903 あるいはその逆であったりしていても,
1904 論理的に筋の
1905 通った答案になっている限りは,
1906 問題ない。
1907
1908
1909 【刑事系科目】
1910 〔第1問〕
1911 本問は,
1912 設問1で,
1913 甲が,
1914 Aから受け取ったA名義の普通預金口座のキャッシュカード及び
1915 同口座の暗証番号を記載したメモ紙(以下「本件キャッシュカード等」という。
1916
1917 )在中の封筒
1918 を,
1919 キャッシュカードと同じ形状のプラスチックカードを入れた封筒(以下「ダミー封筒」と
1920 いう。
1921
1922 )にすり替えて取得した行為について,
1923 窃盗罪若しくは詐欺罪の成否を検討させ,
1924 設問
1925 2で,
1926 乙が,
1927 甲が窃盗を行ったと認識しながら,
1928 店員Cに財物を取り戻されることを防ぐため,
1929
1930 甲との間でCの反抗を抑圧することを共謀した上,
1931 Cに対してナイフを示して脅した行為につ
1932 いて,
1933 事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場と脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの
1934 立場の各理論構成を検討させた上,
1935 自説の立場を示させ,
1936 さらに,
1937 設問3で,
1938 丙が,
1939 甲からナ
1940 イフの刃先を胸元に突き付けられていたDを助けるため,
1941 間近にあったボトルワインを甲に向
1942 かって投げ付けたが,
1943 その狙いが外れ,
1944 ボトルワインがDの頭部に直撃し,
1945 Dに傷害を負わせ
1946 た行為について,
1947 Dの傷害結果に関する刑事責任を負わないとする理論上の説明とその難点を
1948 検討させるものであり,
1949 それにより,
1950 刑事実体法及びその解釈論の知識と理解を問うとともに,
1951
1952 具体的な事実関係を分析し,
1953 その事実に法規範を適用する能力並びに論理的な思考力及び論述
1954 力を試すものである。
1955
1956
1957 設問1について
1958 本問では,
1959 甲が本件キャッシュカード等在中の封筒をダミー封筒にすり替えて取得した行為
1960 が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるかを巡り,
1961 両罪の区別基準とされる処分行為の有無が問題
1962 となる。
1963
1964 具体的には,
1965 甲がAに「この封筒に封印するために印鑑を持ってきてください。
1966
1967 」と
1968 申し向けて印鑑を取りに行かせた場面が問題となることを的確に指摘した上で,
1969 処分行為の意
1970 義を示し,
1971 本事案における当てはめを行う必要がある。
1972
1973
1974 本事案において,
1975 処分行為の客観面として,
1976 Aが印鑑を取りに行くに当たり甲に本件キャッ
1977 シュカード等の所持を許したA方玄関先は,
1978 Aの場所的支配領域内であると認められる上,
1979
1980 が印鑑を取りに行った居間は玄関の近くにあることなどの事情を踏まえ,
1981 甲に対する本件キャ
1982 - 14 -
1983
1984 ッシュカード等の占有の移転があると認められるか,
1985 それとも占有の弛緩にすぎないかを検討
1986 することになる。
1987
1988
1989 また,
1990 処分行為の主観面(処分意思)について見ると,
1991 Aとしては,
1992 飽くまで,
1993 玄関近くの
1994 居間に印鑑を取りに行き,
1995 すぐに玄関に戻ってくるつもりであった上,
1996 本件キャッシュカード
1997 等が入った封筒については,
1998 金融庁職員に後日預けるまでは自己が保管しておくつもりであっ
1999 たことなどの事情を踏まえ,
2000 処分意思(占有の終局的移転についての認識)の有無を検討する
2001 ことになる。
2002
2003
2004 その上で,
2005 Aの処分行為がない(そもそも処分行為に向けられた欺罔行為がないということ
2006 になる。
2007
2008 )と認めた場合には,
2009 窃盗罪の構成要件該当性を検討することになり,
2010 客観的構成要
2011 件要素として「他人の財物」,
2012 「窃取」を,
2013 主観的構成要件要素として故意及び不法領得の意思
2014 を,
2015 それぞれ検討する必要がある。
2016
2017 「他人の財物」については,
2018 特に,
2019 キャッシュカード及び
2020 暗証番号を記載したメモ紙の財物性について,
2021 客観的な経済的価値などを踏まえ検討する必要
2022 がある。
2023
2024 また,
2025 「窃取」については,
2026 意義を示した上で,
2027 実行行為や既遂時期について具体的
2028 に論じる必要がある。
2029
2030 そして,
2031 主観的構成要件要素として,
2032 窃盗罪の故意及び不法領得の意思
2033 について検討する必要があるところ,
2034 甲が,
2035 Aが不在の隙に自ら本件キャッシュカード等をダ
2036 ミー封筒とすり替えて自己のショルダーバッグ内に隠し入れていることや,
2037 元々の計画として,
2038
2039 他人名義の預金口座のキャッシュカードを入手し,
2040 その口座内の預金を無断で引き出して現金
2041 を得ようと考え本件行為に及んでいることなどから,
2042 故意及び不法領得の意思があったと認め
2043 られることを簡潔に指摘する必要がある。
2044
2045
2046 他方,
2047 本事案で,
2048 Aによる処分行為があると認めた場合には,
2049 詐欺罪の構成要件該当性を検
2050 討することになり,
2051 客観的構成要件要素として「財物」,
2052 「欺罔行為」,
2053 「処分行為」を,
2054 主観的
2055 構成要件要素として故意及び不法領得の意思を,
2056 それぞれ検討する必要がある。
2057
2058 「欺罔行為」
2059 については,
2060 処分行為との関係性を踏まえた正確な意義を示した上で,
2061 具体的事実を摘示して
2062 当てはめを行う必要があるところ,
2063 前記のとおり,
2064 本事案における処分行為に向けられた欺罔
2065 行為としては,
2066 甲が,
2067 本件キャッシュカード等を所持した状態で,
2068 Aに対し,
2069 「印鑑を持って
2070 きてください。
2071
2072 」と言ってAを玄関から離れさせた行為と捉えるべきであり,
2073 その点を踏まえ
2074 た当てはめをする必要がある。
2075
2076 そして,
2077 主観的構成要件要素のうち,
2078 故意については,
2079 甲が,
2080
2081 Aに対し,
2082 「印鑑を持ってきてください。
2083
2084 」と言ってAを玄関から離れさせ,
2085 それによりAをし
2086 て本件キャッシュカード等の占有を甲の支配下に移させていることについての認識,
2087 認容があ
2088 ったと認められることを簡潔に指摘する必要がある。
2089
2090
2091 なお,
2092 甲が本件キャッシュカードを使用してATMから現金を引き出そうとした行為は,
2093
2094 TMを管理する金融機関の占有を侵害するものであり,
2095 Aに対する罪責とはならないことから,
2096
2097 この点は論ずるべきではない。
2098
2099
2100 設問2について
2101 本問では,
2102 乙の罪責について,
2103 @乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場と,
2104 A乙
2105 に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場の双方からの説明に言及しつつ,
2106 根拠とともに
2107 自説を論じる必要があるが,
2108 この点,
2109 事後強盗罪の構造を身分犯と解するか,
2110 結合犯と解する
2111 かが関わることになる。
2112
2113
2114 まず,
2115 @乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場からの説明としては,
2116 a.事後強盗
2117 罪を窃盗犯人であることを身分とする真正身分犯と捉えた上,
2118 刑法第65条の解釈について,
2119
2120 第1項は真正身分犯について身分の連帯的作用を,
2121 第2項は不真正身分犯について身分の個別
2122 作用を規定したものと解し,
2123 第1項により事後強盗未遂罪の共同正犯が成立するとの説明や,
2124
2125 b.事後強盗罪を不真正身分犯と捉えた上,
2126 刑法第65条の解釈について,
2127 第1項は真正身分犯
2128 及び不真正身分犯を通じて共犯の成立を,
2129 第2項は不真正身分犯について科刑の個別的作用を
2130 規定したものと解し,
2131 第1項により事後強盗未遂罪の共同正犯が成立する(第2項により科刑
2132
2133 - 15 -
2134
2135 は脅迫罪)との説明,
2136 c.事後強盗罪を結合犯と捉えた上,
2137 承継的共犯を全面的に肯定すること
2138 により,
2139 事後強盗未遂罪の共同正犯が成立するとの説明等が考えられる。
2140
2141
2142 他方,
2143 A乙に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場からの説明としては,
2144 d.事後強盗
2145 罪を窃盗犯人であることを加重身分とする不真正身分犯と捉え,
2146 刑法第65条の解釈について,
2147
2148 前記aと同様に解し,
2149 第2項により脅迫罪の共同正犯が成立するとの説明,
2150 e.事後強盗罪につ
2151 いて,
2152 窃盗犯人が財物の取り戻しを防ぐ目的の場合には違法身分として刑法第65条第1項を
2153 適用し,
2154 それ以外の刑法第238条所定の目的の場合には,
2155 責任身分として同条第2項を適用
2156 するとの考えに立った上,
2157 本件では,
2158 乙の主観面は財物の取り戻し目的であるものの,
2159 客観的
2160 には甲による窃盗は未遂であり,
2161 違法身分の前提を欠いているため,
2162 刑法第65条第1項の適
2163 用がなく,
2164 同条第2項により脅迫罪の共同正犯が成立するとの説明,
2165 f.事後強盗罪を結合犯と
2166 捉えた上,
2167 承継的共犯を全面的に否定することにより,
2168 脅迫罪の共同正犯が成立するとの説明,
2169
2170 g.事後強盗罪を結合犯と捉えた上,
2171 承継的共犯について,
2172 後行者が先行者の行為を自己の犯罪
2173 遂行の手段として積極的に利用した場合において,
2174 その範囲で,
2175 後行者も先行者が行ったこと
2176 を承継するなどの考えに立って,
2177 本事案では,
2178 甲の窃盗は未遂にとどまっており,
2179 先行者(甲)
2180 の行為を自己(乙)の犯罪手段として積極的に利用したとはいえないなどと考え,
2181 乙は甲の行
2182 為等を承継せず,
2183 脅迫罪の共同正犯が成立するとの説明等が考えられる。
2184
2185
2186 そして,
2187 自説として事後強盗の罪の共同正犯が成立するとする場合,
2188 自説とする前記a〜c等
2189 の見解を採る根拠や他説への批判を論じた上で,
2190 客観的構成要件要素として「窃盗」,
2191 「窃盗の
2192 機会」,
2193 「脅迫」を,
2194 主観的構成要件要素として故意及び目的を,
2195 さらに,
2196 甲乙間の共謀を,
2197
2198 れぞれ検討する必要がある。
2199
2200 「窃盗」については,
2201 未遂犯も含むことを端的に指摘する必要が
2202 あり,
2203 また,
2204 「脅迫」については,
2205 判例において,
2206 社会通念上一般に相手方の反抗を抑圧する
2207 に足りる程度のものかという客観的基準によって判断されるところ,
2208 乙は,
2209 店員Cにナイフを
2210 示しながら,
2211 「ぶっ殺すぞ。
2212
2213 」と申し向けており,
2214 前記基準による脅迫に該当すると判断される
2215 ことを具体的に示す必要がある。
2216
2217 そして,
2218 故意や共謀については,
2219 甲による窃盗の内容や,
2220
2221 盗が既遂か未遂か,
2222 刑法第238条の目的の内容について甲乙間で認識の齟齬があることに触
2223 れながら,
2224 それらの事情が故意や共謀の成否に影響するかを検討する必要がある。
2225
2226
2227 他方,
2228 自説として脅迫罪の共同正犯にとどまるとする場合,
2229 自説とする前記d〜g等の見解を
2230 とる根拠や他説への批判を論じた上で,
2231 客観的構成要件要素として「脅迫」を,
2232 主観的構成要
2233 件要素として故意を,
2234 さらに,
2235 甲乙間の共謀について,
2236 それぞれ検討する必要がある。
2237
2238
2239 設問3について
2240 丙は,
2241 甲からナイフの刃先を胸元に突き付けられていたDを助けるため,
2242 間近にあったボト
2243 ルワインを甲に向かって投げ付けたが,
2244 その狙いが外れ,
2245 ボトルワインが店舗経営者Dの頭部
2246 に直撃し,
2247 Dに加療約3週間を要する頭部裂傷の傷害を負わせている。
2248
2249
2250 本問は,
2251 丙がDの傷害結果に関する刑事責任を負わない理論上の説明等を求めていることか
2252 ら,
2253 まず,
2254 丙がDの傷害結果に関してどのような罪を負い得るかを明らかにする必要があると
2255 ころ,
2256 前記丙の行為は,
2257 有形力の行使によりDの生理的機能に障害を与えていることから,
2258
2259 害罪の客観的構成要件に該当する。
2260
2261 その上で,
2262 傷害罪の刑事責任を負わないとする理論上の説
2263 明及びその難点を検討していく必要がある。
2264
2265
2266 理論上の説明として,
2267 まず,
2268 方法の錯誤における処理により丙における故意を否定した上で,
2269
2270 更に過失もなかったとする説明が考えられる。
2271
2272 具体的符合説(具体的法定符合説)は,
2273 行為者
2274 の認識した事実と現に発生した事実とが具体的に一致しない限り,
2275 故意を阻却するとする見解
2276 であり,
2277 この見解によれば,
2278 方法の錯誤の場合には,
2279 認識事実と発生事実とが具体的に一致し
2280 ていないことから,
2281 故意は阻却されることになる。
2282
2283 本事案において,
2284 丙は,
2285 甲を狙ってボトル
2286 ワインを投げ付けたところ,
2287 その狙いが外れてDに当たっているので,
2288 丙が認識した事実と現
2289 に発生した事実とが具体的に一致しておらず,
2290 同見解によれば故意が阻却されることになる。
2291
2292
2293
2294 - 16 -
2295
2296 そして,
2297 ボトルワインを投げ付ける行為が,
2298 丙の取り得る唯一の手段であり,
2299 行為時における
2300 丙の心理状態等を踏まえ,
2301 丙に結果回避可能性はなかったなどと考えれば,
2302 丙に過失犯(過失
2303 傷害罪)も成立しないことになる。
2304
2305 また,
2306 過失犯について,
2307 正当防衛や緊急避難が成立すると
2308 の説明も考えられる。
2309
2310 もっとも,
2311 丙は,
2312 甲の間近にDがいることを認識してボトルワインを投
2313 げ付け,
2314 その結果,
2315 ボトルワインがDに直撃しており,
2316 丙につき過失犯の成立も否定するのは
2317 困難と考えられることから,
2318 結局,
2319 過失犯の成立可能性を残す点が難点といえる。
2320
2321
2322 他方,
2323 法定的符合説(抽象的法定符合説)は,
2324 行為者が認識した事実と現に発生した事実に
2325 ついて,
2326 構成要件に該当する事実の具体性ないし個別性は考慮せずに,
2327 一定の構成要件の枠内
2328 において符合する限りにおいて故意を肯定する見解であり,
2329 この見解によれば,
2330 本事案におい
2331 て,
2332 丙は,
2333 「人」である甲を狙ってボトルワインを投げ付け,
2334 それが「人」であるDに直撃し
2335 ていることから,
2336 Dに対する故意が肯定されることになると考えられる。
2337
2338 もっとも,
2339 法定的符
2340 合説(抽象的法定符合説)を採りつつ,
2341 暴行の故意を向ける相手方と相手方から救助すべき者
2342 とでは,
2343 構成要件的評価の観点から見て法的に人として同価値であるとはいえず,
2344 故意の符合
2345 を認める根拠に欠けるという見解に立てば,
2346 本事案では,
2347 侵害者甲と被侵害者Dとの構成要件
2348 的同価値性が否定されるので,
2349 丙には,
2350 甲に対する暴行の故意が認められても,
2351 Dに対する暴
2352 行の故意は認められないと解することも可能と考えられる(大阪高判平成14年9月4日)。
2353
2354
2355 しかしそれでも,
2356 過失犯の成立可能性は残るため,
2357 その点では,
2358 丙が刑事責任を負わないとす
2359 る理論上の説明としては難ありといえる。
2360
2361 また,
2362 行為を向けた相手が行為者にとってどのよう
2363 な意味を持つ人であったかを重視するのは,
2364 「人」として構成要件的に同価値である限り行為
2365 者の主観的な錯誤には重要性を認めないという法定的符合説(抽象的法定符合説)の基本的な
2366 考えとも合致しないことになるとも考えられ,
2367 その点を難点として指摘することもできる。
2368
2369
2370 次に,
2371 正当防衛により丙の行為の違法性が阻却されるとの説明が考えられる。
2372
2373 本事案におい
2374 て,
2375 甲は,
2376 Dにナイフをちらつかせながら現金を出すよう要求したものの,
2377 Dがそれを拒んだ
2378 ため,
2379 レジカウンターに身を乗り出してナイフの刃先をDの胸元に突き出したが,
2380 それでもD
2381 は甲の要求に応じる素振りを見せていない。
2382
2383 そのため,
2384 甲が要求に応じないDをナイフで刺す
2385 という急迫不正の侵害が切迫している状況にあったといえ,
2386 ボトルワインを投げ付けた丙の行
2387 為は,
2388 Dのための防衛行為としてなされたものと考えられる。
2389
2390 その上で,
2391 丙による防衛行為は,
2392
2393 飽くまで甲の侵害に対する防衛行為としてなされており,
2394 それが甲との間で正当化される以上,
2395
2396 それによって生じた結果も全て正当防衛の範疇に包含され,
2397 違法性が阻却されるなどの説明が
2398 考えられる。
2399
2400 もっとも,
2401 刑法第36条には「不正の侵害に対して」とあり,
2402 文言解釈として,
2403
2404 侵害に対してのみ防衛行為としての反撃が許されると解すべきと考えれば,
2405 防衛行為によって
2406 守られるべき者に対する攻撃を正当防衛として正当化することは困難と考えられ,
2407 この点が難
2408 点といえる。
2409
2410
2411 次に,
2412 緊急避難により丙の行為の違法性が阻却されるとの説明が考えられる。
2413
2414 正当防衛の説
2415 明における急迫不正の侵害の存在と同様に,
2416 Dに対する現在の危難が差し迫っていると考えら
2417 れ,
2418 その上で,
2419 他人であるDの生命,
2420 身体を守るためにボトルワインを投げた行為によって,
2421
2422 Dの正当な利益(身体)を侵害した場合であり,
2423 また,
2424 防衛の意思は同時に避難の意思をも含
2425 むと解し,
2426 さらに,
2427 同行為は丙が採り得る唯一の手段であったことから,
2428 補充性及び相当性の
2429 要件も充たし,
2430 避難行為から生じた害(加療約3週間の傷害)が避けようとした害(生命の侵
2431 害,
2432 重度の傷害)の程度を超えていないため,
2433 法益権衡の要件も充たすことから,
2434 緊急避難が
2435 成立し,
2436 違法性が阻却されるなどの説明が考えられる。
2437
2438 もっとも,
2439 本事案では,
2440 丙は,
2441 Dの生
2442 命,
2443 重傷害という危難を避けようとして,
2444 Dに傷害を負わせているが,
2445 この結果は丙が実現し
2446 ようとしたものではなく,
2447 緊急避難と評価できるかという点が難点といえる。
2448
2449 また,
2450 危難から
2451 逃れさせるべきDに傷害を負わせていることから,
2452 避難行為がなされたとは言い難いともいえ,
2453
2454 この点も難点といえる。
2455
2456
2457
2458 - 17 -
2459
2460 次に,
2461 丙は,
2462 飽くまでも主観的には,
2463 甲による急迫不正の侵害からDを防衛するという正当
2464 防衛の認識で反撃行為を行っているのであるから,
2465 主観的認識(正当防衛)と客観的事実(正
2466 当防衛の要件が充足されていない)との間に齟齬があるといえ,
2467 かかる状況は誤想防衛と類似
2468 することから,
2469 誤想防衛の一種に当たり,
2470 故意等が阻却されるなどの説明が考えられる。
2471
2472 もっ
2473 とも,
2474 本事案で,
2475 Dに対する急迫不正の侵害は現に存在している上,
2476 誤想に基づいて防衛行為
2477 に出たわけではないため,
2478 丙の行為を誤想防衛とみるのは困難と考えられる上,
2479 具体的符合説
2480 (具体的法定符合説)による処理の場合と同様に,
2481 過失犯の成立を否定することは困難と考え
2482 られ,
2483 そうした点が難点といえる。
2484
2485
2486 さらに,
2487 緊急状況下で丙に期待可能性を認めることが困難であるから,
2488 責任が阻却されると
2489 の説明が考えられるが,
2490 期待可能性は根拠規定のない超法規的な責任阻却事由である上,
2491 その
2492 有無の判断基準が明確でないとの難点がある。
2493
2494
2495 〔第2問〕
2496 本問は,
2497 強盗致死,
2498 業務上横領事件を素材として,
2499 捜査公判に関連する具体的事例を示し,
2500
2501 各局面で生じる刑事手続上の問題点,
2502 その解決に必要な法解釈,
2503 法を適用するに当たって重要
2504 な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る思考過程を論述させることにより,
2505 刑事訴訟
2506 法に関する基本的学識,
2507 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
2508
2509
2510 〔設問1〕は,
2511 路上で発生した強盗致死事件(本件)について,
2512 警察官及び検察官は,
2513 甲が
2514 犯人ではないかとの嫌疑を抱き,
2515 同事件の捜査を視野に入れて,
2516 甲を業務上横領事件(別件)
2517 の被疑事実で逮捕・勾留し,
2518 同勾留期間中には,
2519 甲に対し,
2520 強盗致死事件の取調べを行ってい
2521 ることから,
2522 甲の逮捕・勾留が,
2523 いわゆる別件逮捕・勾留に当たり違法と評価されないかが問
2524 題となる。
2525
2526 〔設問1−1〕では,
2527 いわゆる別件逮捕・勾留に関する捜査手法の適法性の判断基
2528 準について,
2529 まず,
2530 自己の拠って立つ理論構成を示した上,
2531 【事例】の具体的事実に当てはめ
2532 て,
2533 甲の逮捕・勾留の適法性を論ずることが求められる。
2534
2535 次に,
2536 〔設問1−2〕では,
2537 自己の
2538 結論とは異なる結論を導く理論構成を示し,
2539 【事例】の具体的事実に当てはめて,
2540 甲の逮捕・
2541 勾留の適法性を論じた上,
2542 その理論構成を自己が採用しない理由についても言及することが求
2543 められる。
2544
2545
2546 いわゆる別件逮捕・勾留に関する捜査手法の適法性の判断基準については,
2547 大別すると,
2548
2549 捕・勾留の基礎となっている被疑事実(別件)を基準に判断する見解(別件基準説)と,
2550 実質
2551 的に当該被疑事実とは別の犯罪事実(本件)についての身体拘束と評価し得るかという観点か
2552 ら判断する見解(本件基準説)とに分かれており,
2553 さらに,
2554 どのような場合に逮捕・勾留が違
2555 法となるかという点をめぐり,
2556 別件についての逮捕・勾留の要件(犯罪の嫌疑,
2557 身体拘束の必
2558 要性)を充足しているかを重視する考え方,
2559 別件の起訴・不起訴の判断に必要な捜査がいつ完
2560 了したかを重視する考え方,
2561 逮捕・勾留に当たっての捜査官の意図・目的を重視する考え方,
2562
2563 逮捕・勾留の期間がいずれの事件の捜査のために利用されている(いた)かを重視する考え方
2564 などが主張されている。
2565
2566 〔設問1−1〕では,
2567 まず,
2568 いわゆる別件逮捕・勾留の適法性につい
2569 て,
2570 いかなる基準ないし観点から判断するのか,
2571 そして,
2572 どのような場合に逮捕・勾留が違法
2573 となるのかについて,
2574 その根拠も含め,
2575 自己の理論構成を明示し,
2576 【事例】の具体的事実の中
2577 から重要な事実に自己の理論構成を当てはめて,
2578 甲の逮捕・勾留の適法性について論じること
2579 が求められる。
2580
2581
2582 本問の検討に当たり,
2583 考慮されるべき要素として,
2584 以下のものを挙げることが可能であろう。
2585
2586
2587 @
2588
2589 逮捕・勾留の理由とされた被疑事実である業務上横領事件について,
2590 逮捕(刑事訴訟法第
2591 199条第1項,
2592 同条第2項但書,
2593 刑事訴訟規則第143条の3),
2594 勾留(刑事訴訟法第2
2595 07条第1項により準用される同法第60条第1項)及び勾留延長(刑事訴訟法第208条
2596
2597 - 18 -
2598
2599 第2項)の要件の充足
2600 A
2601
2602 (強盗致死事件を捨象した場合における)業務上横領事件それ自体の重要性(立件ないし
2603 起訴の見込み)
2604
2605 B
2606
2607 逮捕・勾留請求時の捜査状況
2608
2609
2610 強盗致死事件については,
2611 甲が犯人との嫌疑はあったが,
2612 逮捕できるだけの証拠はなか
2613 った
2614
2615
2616
2617 業務上横領事件は,
2618 強盗致死事件の捜査の過程で発覚したものであり,
2619 警察官は,
2620 被害
2621 届の提出を渋る被害者を繰り返し説得して,
2622 業務上横領事件の被害届を提出させた
2623
2624 C
2625
2626 業務上横領事件で逮捕・勾留した捜査官の意図
2627
2628
2629 警察官は,
2630 強盗致死事件で甲を逮捕するには証拠が不十分であったため,
2631 甲を逮捕でき
2632 る他の犯罪事実はないかと考えていた
2633
2634
2635
2636 検察官も,
2637 甲を強盗致死事件で逮捕することを視野に入れて,
2638 捜査することを考えてい
2639
2640
2641 D
2642
2643 別件と本件の重大性,
2644 別件と本件との関連性
2645
2646
2647 「本件」は人が死亡している強盗致死事件であり,
2648 「別件」は被害金額が3万円の集金
2649 横領事件である
2650
2651
2652
2653 強盗致死事件(路上のひったくり強盗)と業務上横領事件(集金横領)との間に関連性
2654 はない
2655
2656 E
2657
2658 逮捕・勾留後の取調べの状況
2659
2660
2661 勾留期間中の取調べ日数は,
2662 業務上横領事件の取調べが,
2663 3月19日まで断続的に行わ
2664 れ,
2665 合計7日である一方,
2666 強盗致死事件の取調べは,
2667 3月18日までほぼ連日,
2668 合計12
2669 日にわたっており,
2670 取調べ時間の合計も,
2671 業務上横領事件の取調べは合計20時間である
2672 一方,
2673 強盗致死事件の取調べは合計40時間にわたっている
2674
2675
2676
2677 甲は当初,
2678 強盗致死事件について否認しており,
2679 警察官による追及の結果,
2680 3月18日
2681 に自白した(自ら積極的に本件を自白したものではない)
2682
2683 F
2684
2685 逮捕・勾留後の業務上横領事件の捜査状況
2686
2687
2688 甲は,
2689 弁解録取時,
2690 犯行を否認し,
2691 3月7日には,
2692 パチンコ店にいた旨のアリバイ主張
2693 をし,
2694 同月15日には,
2695 Aからの集金事実は認めたが,
2696 具体的な金額については否認し,
2697
2698 同月19日に横領金額も含め自白した
2699
2700
2701
2702 勾留期間中,
2703 甲の弁解に対応した裏付け捜査(パチンコ店の防犯カメラの捜査,
2704 甲のパ
2705 ソコンの精査,
2706 Yの取調べなど)が継続的に行われており,
2707 捜査官の懈怠による捜査の遅
2708 延もない
2709
2710 以上の考慮要素の中から,
2711 自己の拠って立つ理論構成において着目・重視すべきものを取り
2712 出し,
2713 具体的事実を摘示しながら,
2714 甲の逮捕・勾留の適法性について論じることになろう。
2715
2716
2717 次に,
2718
2719 〔設問1−2〕では,
2720 自己の結論と異なる結論を導く理論構成を示した上(ここでは,
2721
2722 結論と理論構成の双方が異なるものを示さなければならないことに留意する必要がある),
2723
2724 の理論構成において着目・重視すべき考慮要素に関わる具体的事実を摘示しながら,
2725 甲の逮捕
2726 ・勾留の適法性について論じることになろう。
2727
2728 また,
2729 当該理論構成を採用しない理由について
2730 は,
2731 いわゆる別件逮捕・勾留の適法性の判断基準に関する各見解に対し,
2732 それぞれ指摘や批判
2733 もあるところであり,
2734 そのような指摘や批判を踏まえつつ,
2735 具体的に論述することが求められ
2736 る。
2737
2738
2739 〔設問2〕は,
2740 訴因変更の可否及び許否を問う問題である。
2741
2742 【事例】において,
2743 検察官は,
2744
2745 甲がAから集金し,
2746 X社のために保管していた3万円を横領したという業務上横領罪の訴因(公
2747
2748 - 19 -
2749
2750 訴事実1)で起訴したが,
2751 審理の途中で,
2752 甲がAから集金名下で3万円をだまし取ったという
2753 詐欺罪(公訴事実2)へ訴因変更を請求している。
2754
2755 訴因の変更は,
2756 「公訴事実の同一性を害し
2757 ない限度において」認められる(刑事訴訟法第312条第1項)ことから,
2758 本問の解答に当た
2759 っては,
2760 公訴事実の同一性の意義・判断基準についての理論構成を示した上,
2761 具体的事実に当
2762 てはめることが求められる。
2763
2764 加えて,
2765 本問の訴因変更請求は,
2766 公判前整理手続を経た裁判員裁
2767 判の審理の中で行われているため,
2768 公判前整理手続後の訴因変更が許されるかについて,
2769 公判
2770 前整理手続の制度趣旨に照らした論述が求められる。
2771
2772
2773 公訴事実の同一性の意義については,
2774 従来から,
2775 「単一性」と「狭義の同一性」に分けられ
2776 ているが,
2777 本件で問題になるのは「狭義の同一性」である。
2778
2779 「狭義の同一性」の判断基準につ
2780 いて,
2781 判例は,
2782 変更前後の両訴因の間の「基本的事実関係が同一か」という観点から判断して
2783 おり,
2784 その判断に当たっては,
2785 犯罪の日時,
2786 場所の同一性や近接性,
2787 行為,
2788 客体,
2789 被害者等の
2790 事実の共通性に着目している。
2791
2792 また,
2793 事実の共通性に加えて,
2794 両訴因が両立しない関係にある
2795 こと(非両立性)に言及するものもある。
2796
2797 そこで,
2798 関連する判例の立場や学説を踏まえつつ,
2799
2800 「公訴事実の同一性」の判断基準について,
2801 その根拠も含め,
2802 自己の理論構成を示した上で,
2803
2804 【事例】の両訴因(公訴事実1と公訴事実2)の間に,
2805 公訴事実の同一性が認められるか的確
2806 に論じることが求められる。
2807
2808
2809 次に,
2810 訴因変更の請求が許される手続段階について,
2811 刑事訴訟法は特に制限を付しておらず,
2812
2813 公判前整理手続が導入された平成16年の同法改正においても,
2814 公判前整理手続後の証拠調べ
2815 請求が制限された(刑事訴訟法第316条の32)のとは異なり,
2816 訴因変更の請求に関する制
2817 限は設けられていない。
2818
2819
2820 しかし,
2821 公判前整理手続は,
2822 充実した公判の審理を継続的,
2823 計画的かつ迅速に行うため,
2824
2825 件の争点及び証拠を整理する手続であり,
2826 公判前整理手続を経た事件については,
2827 同手続で策
2828 定された審理計画に従い,
2829 集中的かつ迅速な審理が進められることとなるが,
2830 公判前整理手続
2831 後に訴因変更がなされると,
2832 変更後の訴因について,
2833 当事者双方の追加立証が必要となる場合
2834 も考えられ,
2835 公判前整理手続で策定された計画どおりに審理ができなくなるおそれがある。
2836
2837
2838 もとより,
2839 公判前整理手続に付された事件においても,
2840 証拠調べの結果,
2841 公判前の当事者の
2842 主張と異なる事実が明らかとなることは,
2843 制度上織り込み済みであるとはいえ,
2844 公判前整理手
2845 続に付しながら,
2846 その意味を失わせるような訴因変更の請求を許すことは不合理であるから,
2847
2848 訴因変更の請求に対する制限を基礎付ける根拠として,
2849 公判前整理手続の制度趣旨を援用する
2850 ことが説得的だということができるであろう(「公判前整理手続を経た後の公判においては,
2851
2852 充実した公判審理のための争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような訴因変更
2853 は許されない」とした下級審裁判例として,
2854 東京高判平成20年11月18日・高刑集61巻
2855 4号6頁がある。
2856
2857 )。
2858
2859 本問においても,
2860 公判前整理手続の制度趣旨を論じた上で,
2861 これを踏まえ
2862 た訴因変更の許否について判断基準を示し,
2863 【事例】の具体的事実に当てはめて,
2864 検察官の訴
2865 因変更請求が許されるかを丁寧に論じることが求められる。
2866
2867 そして,
2868 検討に当たっては,
2869 公判
2870 前整理手続の中で訴因変更を請求することが可能であったか(検察官が訴因変更の必要性を意
2871 識する契機があったか),
2872 また仮に訴因変更を許した場合,
2873 公判前整理手続で策定された審理
2874 計画の大幅な変更が必要となるかといった点が重要な考慮要素となるであろう。
2875
2876
2877 【選択科目】
2878 [倒産法]
2879 〔第1問〕
2880 本問は,
2881 株式会社が破産手続開始決定を受けた場合の具体的事例を基に,
2882 債権者の権利行使の在
2883
2884 - 20 -
2885
2886 り方,
2887 当該権利の破産手続上の位置付け及び契約関係の処理の在り方を問うなどし,
2888 破産手続にお
2889 ける関係者の権利調整に係る規律の在り方についての基本的な理解を問うものである。
2890
2891
2892 設問1は,
2893 破産者に対する租税債権につき第三者納付(代位弁済)が行われた場合に,
2894 当該第三
2895 者は,
2896 破産手続上,
2897 どのように自らの権利を行使することができるのか,
2898 より具体的には,
2899 当該第
2900 三者は,
2901 弁済によって取得した求償権の行使が破産手続による制約を受けるとしても,
2902 財団債権で
2903 ある租税債権を弁済による代位の効果として取得することにより(民法第501条)
2904
2905 これを破産
2906 手続上,
2907 財団債権として行使することができるか否かについて検討を求めるものである。
2908
2909
2910 この点に関連して,
2911 判例は,
2912 労働債権(給料債権)について,
2913 代位弁済者は,
2914 破産手続上,
2915 弁済
2916 による代位(民法第501条)によって取得した原債権を財団債権として行使することができると
2917 しており(最三判平成23年11月22日民集65巻8号3165頁)
2918
2919 その理由としては,
2920 概要
2921 として,
2922 弁済による代位の制度は,
2923 原債権を求償権を確保するための一種の担保として機能させる
2924 ことを趣旨とするものであること,
2925 代位弁済者が取得した求償権の行使が倒産手続による制約を受
2926 けるとしても,
2927 当該手続における原債権の行使自体が制約されていない以上,
2928 原債権の行使が求償
2929 権と同様の制約を受けるものではないこと等が指摘されている。
2930
2931
2932 解答に当たっては,
2933 前提として,
2934 事例における租税債権が財団債権に当たることを条文に適切に
2935 当てはめて確認することになろう(破産法第148条第1項第3号)
2936
2937
2938 そして,
2939 当該租税債権につ
2940 き,
2941 弁済による代位によってB社の取得が可能であると考える場合には,
2942 租税債権につき第三者納
2943 付が行われた場合に関する当該第三者の破産手続上の権利行使の在り方について直接の判例が見当
2944 たらないことに照らし,
2945 上記判例において示された考え方などを参考にしつつ,
2946 B社による財団債
2947 権としての租税債権の権利行使の可否につき,
2948 自らの考え方とその理由を論ずる必要がある。
2949
2950 その
2951 過程では,
2952 租税債権の公共的性格に照らしてもなお,
2953 B社による財団債権としての権利行使を認め
2954 るべきか否かといった事例の特徴を踏まえた検討が求められる。
2955
2956 また,
2957 租税債権につき弁済による
2958 代位によってはこれを取得することができないと考える場合であっても,
2959 租税債権の特徴をどのよ
2960 うに考慮しているのかといった点について,
2961 その考え方を説明することが求められよう。
2962
2963
2964 設問2(1)は,
2965 請負契約の当事者である請負人が仕事の未完成の段階で破産手続開始決定を受け
2966 た場合に,
2967 破産法第53条が適用されるか否かについて検討を求めるものである。
2968
2969
2970 判例は,
2971 破産法第53条につき,
2972 請負人が破産手続開始決定を受けた場合であっても,
2973 請負契約
2974 の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため,
2975 破産
2976 管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り,
2977 同条は請負契約につい
2978 て適用されるとしている(最一判昭62年11月26日民集41巻8号1585頁)
2979
2980
2981
2982 解答に当たっては,
2983 請負契約における破産法第53条の適用について,
2984 上記判例の立場を踏まえ
2985 るなどしつつ,
2986 自らの考え方とその理由を論じ,
2987 設問の請負契約について破産管財人XがA社にお
2988 いて本件建築工事を完成させることが可能であり,
2989 それが破産財団の利益となるものと判断する場
2990 合の処理(本件建築工事を完成させ,
2991 残代金の支払を求めることができるか)について論じる必要
2992 がある。
2993
2994
2995 設問2(2)は,
2996 概要として,
2997 本件建築工事請負契約が破産管財人Xによって解除された場合にお
2998 いて,
2999 CがD社との間で,
3000 @D社が本件住宅を完成させるための残工事を請負い,
3001 その請負代金と
3002 して1000万円を支払うことを内容とする請負契約を締結し,
3003 AD社がA社による本件建築工事
3004 によって生じていた建築廃材の撤去を行い,
3005 その費用として100万円を支払うことを内容とする
3006 契約をして合計1100万円をD社に対し支払ったという事案につき,
3007 CがA社の破産手続におい
3008 て主張し得る権利としてはどのようなものが考えられるか,
3009 そして,
3010 そのような権利があるとして
3011 当該破産手続においては,
3012 それがどのように扱われると考えられるかを問うものである。
3013
3014
3015 まず,
3016 Cの上記@,
3017 Aの契約に基づく支出をどのようにしてA社の破産手続において主張し得る
3018
3019 - 21 -
3020
3021 権利として構成するかが問題となるところ,
3022 破産管財人Xが破産法第53条に基づき本件建築工事
3023 請負契約を解除したものとすれば,
3024 当該支出につき,
3025 Cが被った損害とみることができるのであれ
3026 ば,
3027 破産法第54条第1項に基づき,
3028 その賠償について破産債権者としてその権利を行使すること
3029 が考えられる。
3030
3031
3032 解答に当たっては,
3033 破産法第54条第1項を指摘しつつ,
3034 Cの上記@,
3035 Aの契約に基づく支出に
3036 つき,
3037 同項に規定する「損害」ということができるか,
3038 自らの考え方とその理由を論じ,
3039 設問に則
3040 して当てはめをする必要がある。
3041
3042 その過程では,
3043 本件建築工事請負契約は,
3044 CがA社に対し,
3045 80
3046 0万円を支払っていない段階で解除されているという事案の特徴を踏まえた検討が求められる。
3047
3048
3049 一方で,
3050 設問では,
3051 上記Aの契約に関しては,
3052 その内容がA社による本件建築工事によって生じ
3053 ていた建築廃材の撤去であることが示されている。
3054
3055 設問に則して検討する観点からは,
3056 上記Aの契
3057 約について支出された100万円につき,
3058 破産法第54条第1項に規定する損害として構成するほ
3059 か,
3060 破産法第148条第1項に掲げる財団債権として構成し,
3061 A社の破産手続との関係でその権利
3062 を行使することができないかという点について検討することが考えられる。
3063
3064 もっとも,
3065 この点につ
3066 いては,
3067 破産管財人がした行為によって生じた請求権であるとの考え方(同項第4号)や,
3068 不当利
3069 得等により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権であるとの考え方(同項第5号)など
3070 様々な考え方があり得るところであり,
3071 また,
3072 財団債権として構成することを否定する考え方もあ
3073 り得るところである。
3074
3075
3076 解答に当たっては,
3077 自らの結論に至るために必要となる範囲で破産法第148条第1項各号の解
3078 釈をした上で当てはめを行うなどして,
3079 財団債権として構成し得るか否かについて,
3080 自らの考え方
3081 を論ずる必要がある。
3082
3083
3084 設問3は,
3085 全部義務者の一人について破産手続開始決定があった場合において,
3086 他の全部義務者
3087 が債権者に対して弁済をしたときに,
3088 同人は当該破産手続においてどのような権利の行使ができる
3089 のかという点についての理解を問うものであり,
3090 その理解に基づく検討結果を破産債権査定申立て
3091 (破産法第125条第1項)に対する破産債権査定決定(同条第3項)の内容として明らかにする
3092 ことを求めるものである。
3093
3094
3095 破産法第104条第1項は,
3096 数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において,
3097 その全員又
3098 はそのうちの数人若しくは一人について破産手続開始の決定があったときは,
3099 債権者は,
3100 破産手続
3101 開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができるとし,
3102
3103 続開始時現存額主義を明らかにしている。
3104
3105 そして,
3106 同項の規定により債権者が破産手続に参加した
3107 場合には,
3108 破産者に対して将来の求償権を有する者が破産手続開始後に債権者に対して一部弁済を
3109 したときは,
3110 民法上,
3111 弁済による代位の効果が生じ得るが(民法第500条,
3112 第502条)
3113
3114 破産
3115 手続においては,
3116 債権者の債権の全額が消滅した場合を除き,
3117 債権者の権利を行使することはでき
3118 ないものとされている(破産法第104条第4項)
3119
3120
3121
3122 設問においては,
3123 FがA社の破産手続開始前にE銀行に対して300万円の弁済をしていること
3124 に照らせば(破産債権の届出をしているE銀行としては6450万円分についてしか権利行使が認
3125 められない一方)
3126
3127 Fの届け出た破産債権額のうち300万円については,
3128 その行使を認めること
3129 ができる。
3130
3131
3132 一方で,
3133 設問においては,
3134 Fは,
3135 E銀行に対してさらに200万円の弁済をしているが,
3136 これは,
3137
3138 破産手続開始後である。
3139
3140 そうすると,
3141 上記破産法第104条第4項の規律に従えば,
3142 Fは,
3143 当該2
3144 00万円の弁済に係るE銀行が有した債権を破産債権者として行使することができず,
3145 Fの届け出
3146 た破産債権額のうち200万円については,
3147 認められないこととなる。
3148
3149
3150 解答に当たっては,
3151 上記破産法第104条に係る理解を示しつつ,
3152 設問に則して論じることが必
3153 要であるほか,
3154 破産債権査定決定における判断内容を明らかにする必要がある。
3155
3156
3157
3158 - 22 -
3159
3160 〔第2問〕
3161 本問は,
3162 株式会社の民事再生に関する具体的事例を通じて,
3163 再生計画案の付議要件,
3164 その可
3165 決要件,
3166 それが否決された場合の効果といった再生手続の基本的な手続や清算価値保障原則等
3167 の民事再生法の関連規定に現れる諸原則について,
3168 基本的な理解を問うものである。
3169
3170
3171 設問1は,
3172 A社が提出した再生計画案に対するC社の意見書を題材として,
3173 再生計画案を付
3174 議するための要件,
3175 清算価値保障原則の意義及び趣旨,
3176 債権者平等原則の意義及び趣旨並びに
3177 その例外についての理解を問うものである。
3178
3179
3180 C社の意見書の(a)は,
3181 A社が提出した再生計画案が清算価値保障原則に反しているとし
3182 ている。
3183
3184 ここに民事再生法第174条第2項第4号は,
3185 清算価値保障原則を明らかにするもの
3186 と解するのが一般的であり,
3187 再生計画案が同原則を充たしていることは,
3188 再生計画案の付議要
3189 件である(民事再生法第169条第1項第3号)。
3190
3191 そして,
3192 設問においては,
3193 財産評定が完了
3194 し提出された財産目録及び貸借対照表に基づく予想清算配当率は10パーセントとされる一方
3195 で,
3196 想定される再生計画認可決定の日を基準とする予想清算配当率は5パーセントとされてい
3197 る。
3198
3199 そこで,
3200 C社の意見書の(a)の主張を評価するためには(設問における再生計画案を付
3201 議することができるかを論じるには),
3202 清算価値保障原則とは,
3203 いつの時点の清算価値を保障
3204 するものと考えるべきかについての検討が必要となる。
3205
3206
3207 考え方としては,
3208 再生手続開始の決定時であるとする考え方,
3209 再生計画認可の決定時である
3210 とする考え方,
3211 両時点であるとする考え方といったものがあり得る。
3212
3213 解答に当たっては,
3214 清算
3215 価値保障原則の意義や同原則が要請されている趣旨の理解を示しつつ,
3216 自説の考え方を論じ,
3217
3218 事案を踏まえた当てはめを行って結論を示すことが求められている。
3219
3220
3221 C社の意見書の(b)は,
3222 B社の再生債権はC社の再生債権よりも劣後して取り扱うべきで
3223 あるとしている。
3224
3225 この主張に関連して,
3226 事例においては,
3227 概要として,
3228 B社がA社の完全親会
3229 社であること,
3230 B社がA社の破綻に責任があること,
3231 C社はB社からの説得を受けて取引を再
3232 開した結果,
3233 売掛債権10億円を有するに至ったことが示されている。
3234
3235 ここに民事再生法第1
3236 55条第1項本文は,
3237 再生計画による権利変更の内容に関し平等原則を明らかにしているとこ
3238 ろ,
3239 同項ただし書は,
3240 同原則には一定の例外があることが定められている。
3241
3242 そして,
3243 再生計画
3244 案が同項の要請を充たしていることは,
3245 再生手続において再生計画案の付議要件である(民事
3246 再生法第169条第1項第3号,
3247 第174条第2項第1号)。
3248
3249 そこで,
3250 C社の意見書の(b)
3251 の主張を評価するためには(設問における再生計画案を付議することができるかを論じるに
3252 は),
3253 債権者平等原則とはどのような意義・内容なのかを説明した上で,
3254 民事再生法第155
3255 条第1項ただし書の同原則についての例外とはどのような場合に認められるのか,
3256 そして,
3257
3258 項ただし書の文理を踏まえても,
3259 一定の場合にはその例外に該当する取扱いが義務づけられる
3260 ものと解することができるかについての検討が必要となる。
3261
3262
3263 解答に当たっては,
3264 債権者平等原則の意義や趣旨についての理解を明らかにし,
3265 民事再生法
3266 第155条第1項の本文とただし書の関係に関する自説の考え方を論じた上で,
3267 事案を踏まえ
3268 て結論を示すことが求められている。
3269
3270
3271 設問2は,
3272 再生債務者の事業譲渡にまつわる再生手続における規律のほか,
3273 再生計画案が可
3274 決されるための要件及びそれが否決された場合の効果についての基本的な理解を問うものであ
3275 る。
3276
3277
3278 設問2は,
3279 再生計画によらずに再生債務者の全ての事業を譲渡しようとする場合の手順に
3280 ついての理解を問うものである。
3281
3282
3283 再生手続開始後において,
3284 再生債務者の事業の全部を譲渡するには,
3285 裁判所の許可を得なけ
3286
3287 - 23 -
3288
3289 ればならない(民事再生法第42条第1項第1号)ほか,
3290 所要の手続を経る必要があるものと
3291 されている(同条第2項及び第3項)。
3292
3293
3294 一方,
3295 設問においては,
3296 A社の完全親会社であるB社は,
3297 乙社への事業譲渡について強行に
3298 反対しているところ,
3299 これを踏まえると,
3300 当該事業譲渡については株主総会での特別決議(会
3301 社法第309条第2項第11号)によるその契約の承認を受けること(会社法第467条第1
3302 項第1号)が望めない状況にあると考えられる。
3303
3304 そうすると,
3305 設問において,
3306 A社が乙社から
3307 の申入れを受け,
3308 再生計画によらずに乙社へA社の全ての事業を譲渡する場合の手続について
3309 は,
3310 民事再生法第43条に基づく裁判所による株主総会の決議による承認に代わる許可を得る
3311 ことが考えられる。
3312
3313 そして,
3314 同許可を得るためには,
3315 再生債務者がその財産をもって債務を完
3316 済することができないことを要するものとされているほか(同条第1項本文),
3317 当該事業の譲
3318 渡が事業の継続のために必要である場合であることを要するものとされている(同項ただし
3319 書)。
3320
3321
3322 解答に当たっては,
3323 設問の事情を踏まえ,
3324 上記手続に関する民事再生法の関係規律の摘示と
3325 その趣旨についての理解を示すことが求められている。
3326
3327
3328 設問2は,
3329 C社が再生計画案について債権者集会において同意しなかった場面を念頭に,
3330
3331 再生計画案の可決要件及びそれが否決された場合の効果について問うものである。
3332
3333
3334 付議された再生計画案を可決するための要件としては,
3335 民事再生法第172条の3に定めが
3336 あるところ,
3337 そこでは,
3338 同条第1項に規定する同意,
3339 すなわち,
3340 議決権者(債権者集会に出席
3341 し又は書面等投票をしたもの)の過半数の同意(同項第1号)及び議決権者の議決権の総額の
3342 2分の1以上の議決権を有する者の同意(同項第2号)を要するものとされている。
3343
3344 そうする
3345 と,
3346 設問においては,
3347 C社が債権者集会において同意しなかった場合であるから,
3348 その要件(同
3349 項第1号)を充たすことができず,
3350 再生計画案は,
3351 否決されることとなる。
3352
3353
3354 再生計画案が否決された場合には,
3355 一定の要件の下,
3356 債権者集会の期日の続行は可能である
3357 ものの(民事再生法第172条の5),
3358 結局,
3359 否決されたということになれば,
3360 裁判所は,
3361
3362 権で,
3363 再生手続廃止の決定をしなければならない(民事再生法第191条第3号)。
3364
3365 そして,
3366
3367 当該再生手続廃止の決定が確定した場合において,
3368 その再生債務者が支払不能である(破産法
3369 第15条第1項)と認めるときは,
3370 職権で,
3371 破産法に従い,
3372 破産手続開始の決定をすることが
3373 できるものとされている(民事再生法第250条第1項)。
3374
3375
3376 解答に当たっては,
3377 上記付議された再生計画案を可決するための要件,
3378 その趣旨を指摘した
3379 上で,
3380 設問の事情をこれに適切に当てはめた上で,
3381 再生計画案が否決された場合の手続につき,
3382
3383 民事再生法上の関連規定を指摘しつつ論ずることが必要である。
3384
3385
3386 [租税法]
3387 〔第1問〕
3388 本問は,
3389 法人がその役員と特殊の関係のある使用人に対して退職給与として資産を低額譲渡
3390 した事案における法人の課税関係(設問1及び設問2),
3391 個人が賃貸している不動産に災害に
3392 よる損失が生じた事案におけるその個人の所得税の課税関係(設問3),
3393 損失についての法人
3394 税と所得税の規定の違いとその理由(設問4)について問うものである。
3395
3396
3397 設問1は,
3398 法人による資産の低額譲渡について,
3399 益金の側の法人税の取扱いにつき問うもの
3400 である。
3401
3402 解答に当たっては,
3403 まず,
3404 益金の額への算入の規定である法人税法第22条第2項を
3405 指摘し,
3406 同項が益金の額に算入すべき金額に「無償による資産の譲渡」が含まれる旨を規定し
3407 ていることとその趣旨ないしは理由について述べることが必要である。
3408
3409 その上で,
3410 低額による
3411 資産の譲渡が「無償による資産の譲渡」と「有償による資産の譲渡」のいずれに該当するかに
3412 つき述べ,
3413 低額による資産の譲渡の場合に資産の時価まで益金に算入される旨とその理由を述
3414
3415 - 24 -
3416
3417 べることが期待されている。
3418
3419 法解釈に当たっては,
3420 いわゆる南西通商事件(最判平成7年12
3421 月19日民集49巻10号3121頁)の最高裁の判示及びその下級審の判示が参考になろう。
3422
3423
3424 最後に,
3425 解答で示した法解釈を本問の事案に当てはめて,
3426 益金となる金額を解答することが必
3427 要である。
3428
3429
3430 設問2は,
3431 法人による資産の低額譲渡について,
3432 損金の側の法人税の取扱いにつき問うもの
3433 である。
3434
3435 解答に当たっては,
3436 まず,
3437 法人税法第22条第3項第1号及び第2号を指摘し,
3438 「別
3439 段の定め」があるものを除き,
3440 同項第1号が当該事業年度の収益に係る「原価」の額を,
3441 同項
3442 2号が当該事業年度の「販売費,
3443 一般管理費その他の費用」の額を,
3444 損金の額に算入されると
3445 規定していること,
3446 これら「原価」及び「販売費,
3447 一般管理費その他の費用」は当該事業年度
3448 の収益の獲得に貢献しているから,
3449 費用収益対応の原則により,
3450 当該事業年度の損金の額に算
3451 入することとされていることを述べることが必要である。
3452
3453 その上で,
3454 同項第1号及び第2号を
3455 本件の事案に具体的に当てはめることになる。
3456
3457
3458 まず,
3459 本件不動産の帳簿価格3000万円についてであるが,
3460 帳簿価格3000万円は本件
3461 不動産の譲渡による収益に直接的・個別的に対応する費用であるから,
3462 法人税法第22条第3
3463 項第1号の「原価」に該当すること,
3464 そして,
3465 本問の事案に関連する別段の定めはないことか
3466 ら,
3467 同号により,
3468 帳簿価格3000万円は損金の額に算入されることを述べることが必要であ
3469 る。
3470
3471
3472 次に,
3473 A社が本件不動産の低額譲渡により乙に取得させた経済的利益についてであるが,
3474
3475 社の従業員である乙の退職に際して交付された経済的利益は退職金であること,
3476 退職金は法人
3477 にとって収益を獲得するための費用であるから法人税法第22条第3項第2号の「販売費,
3478
3479 般管理費その他の費用」に該当すること,
3480 退職金を含む給与については「別段の定め」として
3481 法人税法第36条の規定があること,
3482 同条は,
3483 内国法人の役員と特殊な関係のある使用人に対
3484 して交付された給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されない旨を規定して
3485 いることを述べ,
3486 さらに,
3487 その規定の趣旨について説明することが必要である。
3488
3489 その上で,
3490
3491 国法人の役員と特殊な関係のある使用人,
3492 不相当に高額な部分の金額の判断基準について規定
3493 している法人税法施行令第72条第1号,
3494 第72条の2を示し,
3495 本問の事案への当てはめをし
3496 た上で,
3497 乙に取得させた経済的利益1000万円については,
3498 特殊関係使用人に対する不相当
3499 に高額な退職金であるから,
3500 損金の額に算入されない旨,
3501 述べることが必要である。
3502
3503
3504 設問3は,
3505 不動産所得を生じる業務用資産の災害損失についての所得税法上の取扱いについ
3506 ての理解を問うものである。
3507
3508 解答に当たっては,
3509 まず,
3510 所得税法第26条第1項を指摘し,
3511
3512 れを本問の事案に当てはめて,
3513 本件不動産の賃貸から生じる所得は不動産所得である旨を述べ
3514 ることが必要である。
3515
3516 次に,
3517 資産損失の必要経費算入に関して,
3518 所得税法第51条第1項及び
3519 第4項は,
3520 不動産所得を生じる経済活動を「不動産所得・・・を生ずべき事業」と「不動産所
3521 得・・・を生ずべき業務」とに区分して規定していることを指摘した上で,
3522 「事業」に当たる
3523 か「業務」に当たるかの判断基準を示し,
3524 その判断基準を本問の事案に当てはめて,
3525 本件不動
3526 産は「業務」用の資産に該当するという結論を述べることが必要である。
3527
3528 第3に,
3529 同条第4項
3530 括弧書きは,
3531 資産損失が必要経費に算入されるとの規定の適用につき「第72条第1項(雑損
3532 控除)に規定するものを除く」と規定していることから,
3533 本問の事案において損失の額が必要
3534 経費となるかどうかについては,
3535 雑損控除の適用があるかどうかについての検討が必要である
3536 旨,
3537 指摘することが必要である。
3538
3539 第4に,
3540 雑損控除の適用の有無の検討に際しては,
3541 雑損控除
3542 の適用要件とその関連法令の条文を示した上で,
3543 本問の事案への当てはめを行うことが求めら
3544 れている。
3545
3546 その上で,
3547 本問の事案においては,
3548 雑損控除の適用があり,
3549 資産損失の必要経費算
3550 入の規定の適用はないとの結論を示すことが必要である。
3551
3552 最後に,
3553 雑損控除金額の算定方法に
3554 ついて規定する法令の関連条文を示し,
3555 本問の事案に当てはめて雑損控除の具体的な金額を解
3556 答することが必要である。
3557
3558
3559
3560 - 25 -
3561
3562 設問4は,
3563 損失についての法人税法と所得税法の規定の違いと理由につき問うものである。
3564
3565
3566 法人税法第22条第3項第3号は,
3567 損失につき,
3568 別段の定めのない限り損金の額に算入する旨,
3569
3570 規定しているが,
3571 所得税法第37条第1項には損失が必要経費であるとの規定はなく,
3572 必要経
3573 費となるものについて同法第51条第1項及び第2項が限定して規定しているという差異を指
3574 摘した上で,
3575 その理由として,
3576 法人には消費活動はないが,
3577 所得税の納税義務者である自然人
3578 は所得稼得活動のほかに消費活動も行っていることを答えることが期待されている。
3579
3580
3581 〔第2問〕
3582 本問は,
3583 子供好きの二人の老人をめぐる心温まるエピソードに関連して,
3584 低額取引に関する
3585 課税関係と,
3586 他の法分野で用いられている概念の租税法における解釈手法に関する理解を問う
3587 ものである。
3588
3589
3590 設問1では,
3591 個人間の低額譲受と個人から法人への低額譲渡をめぐる課税関係が問われてい
3592 る。
3593
3594 まず,
3595 所得税法第33条第1項及び第2項に触れつつ,
3596 平成30年における個人Xから法
3597 人B社への甲土地の譲渡による所得がXの譲渡所得に該当することを指摘した上で,
3598 総収入金
3599 額に関して所得税法第59条第1項第2号と同法施行令第169条がどのように適用される
3600 か,
3601 また,
3602 取得費に関して同法第59条第2項や第60条第1項第2号がどのように適用され
3603 るか,
3604 などの諸点について,
3605 正確な知識と,
3606 それを事案に当てはめる能力を持っているかどう
3607 かが問題となる。
3608
3609 特に,
3610 同法第59条第2項の要件(個人間の譲渡,
3611 時価の2分の1未満の対
3612 価,
3613 対価が取得費等の合計額に満たないこと)の正確な指摘が望まれる。
3614
3615 さらに,
3616 平成10年
3617 にXが支払った甲土地の所有権移転登記の費用の扱いについて,
3618 判例への言及も忘れてはなら
3619 ない。
3620
3621
3622 もちろん,
3623 平成30年におけるXの譲渡所得が長期譲渡所得(所得税法第33条第3項第2
3624 号)に該当し,
3625 同法第22条第2項第2号により,
3626 算出された譲渡所得の金額の2分の1のみ
3627 が総収入金額に算入される点など,
3628 譲渡所得の基本的な論点に関する記述も必要である。
3629
3630
3631 設問2は,
3632 時価2500万円の甲土地を法人であるB社が対価1000万円で譲り受けた場
3633 合の,
3634 法人税の課税関係が問われている。
3635
3636 この譲受けは低額譲受であって時価と対価との差額
3637 1500万円が益金に算入されるべきであるとの結論を導く能力を持っていることを前提に,
3638
3639 それをいかなる条文操作によって導くかが問題となる。
3640
3641
3642 問題文にもあるとおり,
3643 法人税法第22条第2項は「有償による資産の譲受け」を益金の発
3644 生原因として規定していない。
3645
3646 他方,
3647 判例(南西通商事件,
3648 最判平成7年12月19日民集4
3649 9巻10号3121頁)は低額譲渡を同項の「有償による資産の譲渡」に当たるとしており,
3650
3651 これと整合的に理解しようとすれば,
3652 低額譲受は有償による資産の譲受けに含まれることにな
3653 る。
3654
3655 この問題状況を正確に把握し,
3656 同項の文言と,
3657 同項が無償による資産の譲受けから益金が
3658 発生するとしている趣旨などに照らして,
3659 説得的に論旨を展開することができるかが問われる。
3660
3661
3662 設問3は,
3663 租税法の解釈手法に関連してしばしば議論の対象となる,
3664 借用概念に関する問題
3665 である。
3666
3667 問題文にあるXの前提となる考えは,
3668 所得税法第73条と同法施行令第207条第2
3669 号にいう「医薬品」を,
3670 「医薬品,
3671 医療機器等の品質,
3672 有効性及び安全性の確保等に関する法
3673 律」からの借用概念だとする考え方である。
3674
3675
3676 判例上,
3677 「利益配当」(最判昭和35年10月7日民集14巻12号2420頁),
3678 「匿名組合
3679 契約」(最判昭和36年10月27日民集15巻9号2357頁),
3680 「不動産」(最判昭和37年
3681 3月29日民集16巻3号643頁),
3682 「親族」(最判平成3年10月17日訟月38巻5号9
3683 11頁),
3684 「配偶者」(最判平成9年9月9日訟月44巻6号1009頁),
3685 「住所」(最判平成2
3686 3年2月18日判時2111号3頁)などの概念は,
3687 租税法において,
3688 それぞれ商法や民法に
3689 おけるのと同義に解されていることから,
3690 借用概念を借用元の法律と同義に解する考え方は,
3691
3692
3693 - 26 -
3694
3695 判例上定着していると見る余地が大きく,
3696 そう考えれば,
3697 Xの前提となる考え方は正しいよう
3698 にも思われる。
3699
3700
3701 ただし,
3702 上記判例における借用元が全て商法又は民法という取引法の基本法であるのに対し
3703 て,
3704 本件で借用元となっている法律はいわゆる規制法規である。
3705
3706 このような場合に,
3707 商法や民
3708 法からの借用概念と同様に考えるべきかどうかも論点となる。
3709
3710 なお,
3711 この点に関連する下級審
3712 裁判例としては,
3713 東京高判平成14年2月28日訟月48巻12号3016頁,
3714 東京高判平成
3715 27年11月26日訟月62巻9号1616頁があり,
3716 参考になる。
3717
3718
3719 [経済法]
3720 〔第1問〕
3721 第1問は,
3722 「入札談合と不当な取引制限」に関する出題であり,
3723 不当な取引制限の定義規定
3724 である私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3725
3726 )第2
3727 条第6項の各要件を正確に理解していることを前提に,
3728 設例の事実関係を丁寧に分析しつつ,
3729
3730 特に基本合意に中途で関与した事業者の要件該当性や基本合意からの離脱の要件及び時期等を
3731 論じることができるかを問うものである。
3732
3733
3734 前者(中途関与者)については,
3735 後述する不当な取引制限の要件,
3736 特に「共同して」の要件
3737 該当性について分析検討ができているか,
3738 当初の基本合意に参加していない事業者について,
3739
3740 どのような状況があれば,
3741 参加したといえるかを丁寧に論じることができるかを受験生に問う
3742 こととした。
3743
3744 また,
3745 相互拘束の意味についても,
3746 昨今の判例動向を踏まえた検討ができるかを
3747 問うこととした。
3748
3749 後者(基本合意からの離脱)に関しては,
3750 一般的には,
3751 入札談合において競
3752 争事業者間の協調行為が期待できるのは,
3753 談合行為に関与していれば,
3754 一定の見返り(受注機
3755 会)が期待できるからであるが,
3756 その期待値を下回れば,
3757 基本合意者間での協調が崩れるのは
3758 むしろ当然である。
3759
3760 その場合,
3761 どの時点で,
3762 どのような行為が行われれば,
3763 基本合意からの離
3764 脱が認められるかを丁寧に論じることが期待されている。
3765
3766
3767 不当な取引制限の成立については,
3768 @事業者が他の事業者と,
3769 A共同して,
3770 B相互にその事
3771 業活動を拘束すること(相互拘束)により,
3772 C公共の利益に反して,
3773 D一定の取引分野におけ
3774 る,
3775 E競争を実質的に制限することを検討する必要がある。
3776
3777 共同遂行については論じなくとも
3778 よく,
3779 また,
3780 AとBの要件に関して,
3781 「共同して…相互に」と「その事業活動を拘束」するこ
3782 とという区分で論じてもよいこととした(多摩談合(新井組ほか)事件・最一判平成24年2
3783 月20日)。
3784
3785
3786 問題は,
3787 B及びJについて,
3788 特にA,
3789 B,
3790 D,
3791 Eの各要件を充足するか否か,
3792 B及びJがこ
3793 れらの要件を満たさなくなる時点はいつかである(以下,
3794 AないしGを「7社」という。
3795
3796 Bを
3797 除いて「6社」ともいう。
3798
3799 )。
3800
3801
3802 まず,
3803 Bは,
3804 6社とともに,
3805 平成27年12月から数次の会合に出席した上,
3806 平成28年1
3807 月30日の会合における「本件合意」(基本合意)の形成に参加しており,
3808 第1回から第4回
3809 の入札における受注予定者の決定においても本件合意に基づいて個別調整を行い,
3810 調整の結果
3811 どおりに受注予定者が受注できるようにしていることを考慮すると,
3812 これらの要件を満たすと
3813 考えられる。
3814
3815 すなわち,
3816 Aの要件は,
3817 意思の連絡を意味するところ,
3818 数次の会合や本件合意が
3819 形成された会合への参加をもって6社との間に意思の連絡が成立すること,
3820 Bの要件は,
3821 設例
3822 で示されている(1)ないし(4)を内容とする本件合意で充足すること,
3823 Dの要件は,
3824 入札談合の
3825 ようなハードコアカルテルにおいては,
3826 通常,
3827 参加者が合意の対象とした商品・サービスで,
3828
3829 これにより影響を受ける範囲が「一定の取引分野」を構成するところ,
3830 本問では,
3831 本件合意が
3832 対象とする「平成28年度から3年間にわたって発注される予定の『特定農業施設工事』の指
3833 名競争入札」が一定の取引分野として画定されることをそれぞれ簡潔に解答することが求めら
3834
3835 - 27 -
3836
3837 れる。
3838
3839 Eの要件については,
3840 市場が有する競争機能を損なうことをいい,
3841 入札談合の場合には,
3842
3843 参加者がその意思で落札者や落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらす
3844 ことを意味するところ,
3845 これは通常,
3846 談合参加事業者の割合,
3847 基本合意により落札した件数や
3848 金額の割合,
3849 落札率,
3850 談合に参加していないものの,
3851 これに協力的な事業者の協力の程度等を
3852 考慮して判断されることを踏まえつつ,
3853 該当する設例の事実関係を示して要件を充足すること
3854 を説明する必要があろう。
3855
3856
3857 Bの違反行為の終了時期に関しては,
3858 平成30年6月15日の会合で,
3859 B及びCの各担当者
3860 が受注を巡って激しい口論になり,
3861 同年7月30日に行われた第5回入札では,
3862 Bが6社やJ
3863 に協力を依頼せずに,
3864 同規模の工事である第4回入札とは異なる相当に低い価格で落札し,
3865
3866 らに,
3867 同年8月1日に至って,
3868 6社は,
3869 Bを本件合意のメンバーから除名することを決定して
3870 いることから,
3871 これらいずれかの時期にBが本件合意から離脱したのではないか(ということ)
3872 が問題となり,
3873 A,
3874 Bのいずれの要件の問題であれ,
3875 離脱の一般的基準を示して説明すること
3876 が求められている。
3877
3878 岡崎管工事件・東京高判平成15年3月7日等は,
3879 離脱する意思が他の参
3880 加者に明確に認識されるような意思の表明や行動等が必要であるとしているところ,
3881 Bは平成
3882 30年6月15日の会合で離脱したとも考えられるが,
3883 第5回入札は同年7月30日であり,
3884
3885 その会合から入札まで1か月半の期間があることを考慮すれば,
3886 Bが翻意して本件合意に復帰
3887 する可能性がないとはいえず(岡崎管工事件をはじめ,
3888 一時的に基本合意に反する行動を取っ
3889 た事業者がしばらくして基本合意に復帰することが見られるケースは少なくない。
3890
3891 ),
3892 Bの離脱
3893 の時期については,
3894 平成30年6月15日の会合時だけでなく,
3895 同年7月30日の第5回入札
3896 や同年8月1日の除名決定の時点とも考えられ,
3897 いずれにしても,
3898 設問の事実関係を正確に読
3899 み取り,
3900 これを離脱の一般的基準等に当てはめつつ適切に評価できるかが重要である。
3901
3902
3903 次に,
3904 Jは,
3905 本件合意を形成するに至るまでの会合には一切参加していない。
3906
3907 Jは,
3908 工事の
3909 規模や技術力から受注できると考えた特定農業施設工事の入札に指名された場合には積極的に
3910 落札を目指して低価格で入札する一方で,
3911 希望しない特定農業施設工事の入札に指名された場
3912 合には7社に協力するつもりであったものの,
3913 このような協力の意図はJの内心にとどまると
3914 いう設例の事実関係の下では,
3915 少なくとも本件合意が形成された平成28年1月30日の会合
3916 の時点でJが本件合意に参加したとみることは困難である。
3917
3918 しかし,
3919 Jは,
3920 第1回入札時から,
3921
3922 Aより指名の有無や受注の意思について問い合わせを受けた際,
3923 これに回答し,
3924 さらに,
3925 指名
3926 を受けた第3回入札と第5回入札においては,
3927 Aから連絡を受けて,
3928 受注予定者の入札価格よ
3929 り高い価格で入札することにより,
3930 受注予定者の受注に積極的に協力しており,
3931 Jは既に形成
3932 された本件合意の少なくとも一部に中途で参加した者と考えられる。
3933
3934 このような立場のJにつ
3935 いても,
3936 Aを介した意思の連絡があり(Aの要件),
3937 特定農業施設工事の指名競争入札の取引
3938 分野(Dの要件)において,
3939 市場支配力の維持,
3940 強化に寄与して競争を実質的に制限している
3941 (Eの要件)と考えることができるであろう(なお,
3942 違反行為の始期,
3943 つまり本件合意への参
3944 加時期については,
3945 第1回入札でAからの問い合わせに回答した時点や第3回入札において積
3946 極的に受注協力した時点などと考えることができよう。
3947
3948 )。
3949
3950 ただし,
3951 Bの要件を充足するかに関
3952 しては,
3953 積極・消極の両論があり得る。
3954
3955 すなわち,
3956 Jは入札制度の趣旨に反すると考えられる
3957 低価格で入札することを避けるという行動を取ったり,
3958 競争上機微な情報に属すると思われる
3959 指名や受注意欲の有無をAに回答したりすることにより,
3960 本来は自由な事業活動を制限し合っ
3961 ているから,
3962 (意思を連絡させた上で)「事業活動を拘束」することの要件を満たすとも考えら
3963 れるが,
3964 他方で,
3965 相互拘束の要件をその内容や目的が共通でなければならないと厳格に解釈し,
3966
3967 Jが受けている拘束の内容は7社のそれとは異なること(Jは特定農業施設工事の入札におい
3968 て,
3969 一方的に7社のいずれかの受注に協力するだけであること,
3970 または自らが低価格で落札す
3971 ることを完全には否定していなかったこと),
3972 あるいはJが事業活動を制限する目的は7社と
3973 異なること(Jは特定農業施設工事ではなく,
3974 別の異なる工事分野で7社から協力を受けたい
3975
3976 - 28 -
3977
3978 という目的を有すること)を理由にBの要件を否定する解答もあり得る。
3979
3980 いずれにせよ,
3981 各要
3982 件をどのように解釈することによってその結論を導いたのかを説明することが求められる。
3983
3984
3985 最後に,
3986 Jは本件合意から離脱する行動を別段取っているわけではないから,
3987 Jが本件合意
3988 に参加したと認定する場合には,
3989 Jの違反終了時は本件談合全体が終了した時点ということに
3990 なる。
3991
3992 不当な取引制限に該当する違反行為の終了時期については,
3993 各事業者が相互拘束から解
3994 放されて自由に事業活動を実施することとなった時点と考えられるから(モディファイヤー価
3995 格カルテル事件・東京高判平成22年12月10日),
3996 本問では公正取引委員会(以下「公取
3997 委」という。
3998
3999 )の立入検査が行われた平成30年9月20日(の前日)がJにとっての違反の終
4000 了時となるであろう。
4001
4002
4003 〔第2問〕
4004 第2問は,
4005 設問1において,
4006 X社及びY社によるY社を存続会社とする吸収合併計画(以下
4007 「本件計画」という。
4008
4009 )が独占禁止法第15条第1項第1号に違反するか否か,
4010 設問2において,
4011
4012 設問1で検討した本件計画の問題点を解消するための設計可能な修正(以下「問題解消措置」
4013 という。
4014
4015 )を検討することを問うものである。
4016
4017 具体的には,
4018 主として同号の「一定の取引分野」
4019 における「競争を実質的に制限することとなる」というそれぞれの要件の意義や判断基準を示
4020 しつつ,
4021 設問に示された事実関係を丁寧に当てはめて,
4022 本件計画の可否や独占禁止法に適合す
4023 る適切な問題解消措置を設計して解答することが求められる。
4024
4025
4026 設問1に関して,
4027 まず,
4028 「一定の取引分野」の認定,
4029 つまり市場画定は,
4030 一般に商品範囲と
4031 地理的範囲についてなされるところ,
4032 商品範囲については,
4033 針甲と針乙が同一の市場で競争し
4034 ていると見ることができるかどうか,
4035 地理的範囲については,
4036 針甲メーカーが世界中に存在し
4037 ている一方で,
4038 市場が日本に限定されるかを,
4039 それぞれ検討する必要がある。
4040
4041 それらの検討に
4042 当たり,
4043 商品範囲については,
4044 各針の用途や形状の相違,
4045 地理的範囲については,
4046 国内におけ
4047 る法律に基づく販売承認制度の存在,
4048 顧客の購入慣行等について言及する必要があろう。
4049
4050
4051 次に,
4052 「競争を実質的に制限することとなる」については,
4053 その意義についてあるべき解釈
4054 を示した上,
4055 本件計画が,
4056 いわゆる水平的企業結合であることを意識し,
4057 単独行動と協調的行
4058 動のそれぞれの観点から具体的事実に即して「競争を実質的に制限することとなる」か否かを
4059 論じることとなろう。
4060
4061 もっとも,
4062 本問では,
4063 ハーフィンダール指数(HHI)やいわゆるセー
4064 フハーバーについては必須のものとして問うていない。
4065
4066
4067 「競争を実質的に制限することとなる」か否かの判断に際しては,
4068 設問に示された,
4069 当事会
4070 社の地位,
4071 競争者の状況,
4072 新規参入,
4073 輸入,
4074 需要者とその行動に関する事実を読み解いて,
4075
4076 件計画の実施が市場における競争にどのような影響を及ぼすかを解答することが求められる。
4077
4078
4079 すなわち,
4080 単独行動については,
4081 当事会社のシェアが合計55%で市場1位となり価格引上げ
4082 のインセンティブが存在することを前提に,
4083 競争者においては国外からの生産振り分けや第三
4084 者委託による増産が困難であることから,
4085 その供給余力・能力が欠如していること,
4086 新規参入
4087 に当たって必要とされる製品への新規機能追加には一定の開発期間や投資を要すること,
4088 輸入
4089 に関しては,
4090 国内既存業者以外の海外生産者はそもそも少数であり,
4091 新規の国内販売には販売
4092 承認を要する上,
4093 需要者は国内販売実績のない海外製品の購入を敬遠すること,
4094 さらに,
4095 需要
4096 者は,
4097 競争的購入方法を採用して低価格を選好するものの,
4098 品質や使い慣れの重視から頻繁な
4099 変更を行わない傾向があることといった事実を示した上,
4100 それらの競争上の牽制力を適切に評
4101 価し(当事会社に対する牽制力は貧弱ないし欠如しているという評価となろう。
4102
4103 ),
4104 本件計画が
4105 競争を実質的に制限することとなるか否かを検討することが求められよう。
4106
4107 また,
4108 協調的行動
4109 を問題とする場合には,
4110 当事会社と競争者による協調的行動及びカルテル行動の容易化をもた
4111 らしうる競争者の対称性や市場透明性等を指摘し,
4112 上記の単独行動の場合で指摘した事実関係
4113 を踏まえつつ評価することが必要となろう。
4114
4115
4116
4117 - 29 -
4118
4119 設問2に関して,
4120 問題解消措置は,
4121 競争当局である公取委が審査過程で示す競争上の懸念を
4122 解消すべく提案されるものである。
4123
4124 公取委は,
4125 審査において,
4126 その実効性を確認し,
4127 特に問題
4128 解消措置が事業譲渡など新たな結合関係を形成する場合には,
4129 そうした新たな企業結合が別個
4130 の競争上の懸念を生じさせないかを検証している。
4131
4132 本設問では,
4133 このような流れ自体を提示す
4134 る解答を求めてはいないが,
4135 それを踏まえて,
4136 当事会社が提案すべき問題解消措置の在り方,
4137
4138 その実効性の評価,
4139 問題点の有無の評価等を検討する必要がある。
4140
4141
4142 まず,
4143 設問1で検討した単独行動や協調的行動に対する競争上の牽制力を踏まえて,
4144 本問で
4145 の競争上の懸念がいかなるものかを示す必要がある。
4146
4147 その上で,
4148 問題解消措置には,
4149 構造的措
4150 置と行動的措置といわれるものがあるところ,
4151 それらの意義,
4152 内容及び競争回復効果を踏まえ
4153 つつ,
4154 競争上の懸念を払拭するため,
4155 どのような措置がより適切かを導き出して説明する必要
4156 がある。
4157
4158 それに際しては,
4159 設問2で示されている流通業者の地位,
4160 流通市場の状況等を踏まえ
4161 つつ,
4162 計画修正が市場に与える影響などを考慮する必要がある。
4163
4164 いずれにしても,
4165 計画修正の
4166 内容は,
4167 設問1において,
4168 当事会社に対する牽制力は貧弱ないし欠如していると評価すること
4169 となると考えられるから,
4170 牽制力のある競争単位を創出するなどの競争回復に十分なものとな
4171 る必要がある。
4172
4173
4174 構造的措置としては,
4175 事業譲渡計画を採用することが考えられる。
4176
4177 その場合には,
4178 当事会社
4179 のうちいずれの会社の事業をどの範囲で分離して,
4180 いずれの被譲渡者に譲渡するのか,
4181 当該譲
4182 渡によって競争上の懸念が解消されるのかといった実効性の評価や実効性を確保するために必
4183 要な譲渡の具体的内容を解答することが求められる。
4184
4185 本設問で,
4186 被譲渡者を流通業者M社とす
4187 る場合には,
4188 実効性や譲渡の具体的内容について,
4189 M社の過去の経験やノウハウ,
4190 品揃え,
4191
4192 争インセンティブ等に照らし合わせながら整合的に説明することが望まれる。
4193
4194
4195 その上で,
4196 譲渡される事業と譲受先との関係から生じうる競争上の問題を摘出し,
4197 各当事者
4198 の事業内容・関連商品の状況,
4199 譲渡者・被譲渡者の属する市場の状況等を鑑みながら,
4200 問題の
4201 有無を説明し,
4202 必要に応じて追加的な措置をも考えることが望まれる。
4203
4204 M社が事業の譲受先と
4205 される場合には,
4206 当事会社とM社は,
4207 垂直的関係に立つこととなるので,
4208 流通業者への情報集
4209 中が生ずることより発生する競争への影響とそれに対する情報遮断措置を考えることなどもで
4210 きる。
4211
4212
4213 また,
4214 事業譲渡以外の措置を採用することが適切と考えた場合でも,
4215 当該措置がどのような
4216 反競争効果の抑止を狙いとしたもので,
4217 市場にどのような影響を与えるのかなどを具体的に説
4218 明することが求められる。
4219
4220
4221 [知的財産法]
4222 〔第1問〕
4223
4224
4225 設問1は,
4226 職務発明該当性及び方法の発明に関する特許権の効力の範囲等を問うものであ
4227 る。
4228
4229 設問2は,
4230 補償金請求権の行使の制限を問うものであり,
4231 設問2は,
4232 補正後におけ
4233 る補償金支払請求のための再警告の要否を問うものである。
4234
4235 設問3は,
4236 間接侵害の成否を問
4237 うものである。
4238
4239
4240
4241
4242
4243 設問1については,
4244 第1に,
4245 上司に反対されながら甲が完成させた本件発明は職務発明(特
4246 許法(以下「法」という。
4247
4248 )第35条第1項)に当たらず,
4249 特許を受ける権利を有しないX
4250 の本件出願に対してされた特許は無効にされるべきもの(法第123条第1項第6号)であ
4251 るとの権利行使制限の抗弁(法第104条の3第1項)が認められるかが問題となる。
4252
4253 法第
4254 35条第1項の「職務」該当性については,
4255 従業者が自発的に完成した発明でも,
4256 その従業
4257 者の本来の職務内容から客観的に見て発明の完成が使用者との関係で一般的に予定され期待
4258 されており,
4259 かつ,
4260 従業者に対する便宜供与や研究開発援助などにより使用者が発明完成に
4261 寄与していれば職務発明に該当するとの考え方(大阪地判平成6年4月28日判時1542
4262 - 30 -
4263
4264 号115頁【マホービン事件】)や,
4265 職務命令,
4266 従業者の地位,
4267 給与,
4268 職種,
4269 使用者の関与
4270 の程度等の諸般の事情を総合的に勘案して決定するとの考え方などがあるところ,
4271 これらを
4272 念頭に置きつつ,
4273 本件発明が職務発明に該当するのか否かについて,
4274 発明の完成が期待され
4275 ていない旨の甲の説明をはじめとする設例の事実関係を踏まえて,
4276 自説を説得的に論述する
4277 ことが求められる。
4278
4279 その結果,
4280 職務発明該当性が肯定される場合には,
4281 Xの職務発明規程に
4282 より特許を受ける権利はXに原始的に帰属するため(法第35条第3項),
4283 冒認を理由とす
4284 る権利行使制限の抗弁は認められないこととなろう。
4285
4286 なお,
4287 冒認の無効理由について,
4288 特許
4289 を受ける権利を有する者ではないYは無効審判を請求することはできないが(法第123条
4290 第2項),
4291 権利行使制限の抗弁を主張することは可能であること(法第104条の3第3項)
4292 に言及されていれば,
4293 積極的な評価が与えられよう。
4294
4295
4296 第2に,
4297 本件発明が単純な「方法の発明」であるか「物を生産する方法の発明」であるか
4298 により「実施」(法第2条第3項)の範囲が異なるところ,
4299 本件発明がいずれの発明であっ
4300 て,
4301 Y製品の製造販売が本件特許権の侵害に当たるか否かが,
4302 まず問題となる。
4303
4304 この点につ
4305 いては,
4306 「方法の発明」か「物を生産する方法の発明」かは,
4307 特許請求の範囲の記載に基づ
4308 いて判定すべきものであると判示した最判平成11年7月16日民集53巻6号957頁
4309 【生理活性物質測定法事件】を踏まえつつ,
4310 本件事案に当てはめることが求められる。
4311
4312 次に
4313 法第100条第2項に基づくY製品の廃棄請求の可否,
4314 すなわち,
4315 同項は同条第1項「によ
4316 る請求をするに際し」と定めており,
4317 差止請求に附帯して請求すべき同条第2項の請求とし
4318 てどのような請求が認められるか,
4319 Y製品の廃棄は同項の「侵害の予防に必要な行為」に当
4320 たるのか,
4321 といった点が問題となる。
4322
4323 この場合,
4324 同項の「侵害の予防に必要な行為」との関
4325 係では,
4326 特許発明の内容,
4327 侵害行為の態様及び差止請求権の具体的内容等に照らして,
4328 差止
4329 請求権の行使を実効あらしめるものであって,
4330 かつ,
4331 差止請求権の実現のために必要な範囲
4332 内のものであることを要すると判示した前掲【生理活性物質測定法事件】最判が存在するこ
4333 とも念頭において,
4334 自説を展開し本件事案に当てはめることが求められる。
4335
4336
4337
4338
4339 設問2については,
4340 法第65条第1項の補償金請求権の行使を制限する理由と適用条文
4341 が問題となる。
4342
4343 すなわち,
4344 本件出願前から広く使用されていた本件当初発明は,
4345 本件出願前
4346 に公然実施された発明(法第29条第1項第2号)に当たり,
4347 特許には無効理由(法第12
4348 3条第1項第2号)があるため,
4349 Yは,
4350 Xによる補償金支払請求に対して,
4351 法第65条第6
4352 項で準用される法第104条の3第1項に基づき,
4353 補償金請求権行使の制限の抗弁を主張す
4354 ることができることを述べる必要がある。
4355
4356
4357
4358
4359
4360 設問2については,
4361 補償金請求権の行使について法第65条第1項は警告又は悪意を要
4362 件としているところ,
4363 Yは補正後に再度の警告をしていないため,
4364 補償金請求権の行使が認
4365 められないかが問題となる。
4366
4367 この点については,
4368 法第65条第1項が警告又は悪意を要求す
4369 る趣旨を第三者に対する不意打ち防止と解した上で,
4370 警告後の補正により登録請求の範囲が
4371 減縮され,
4372 第三者が実施している物品が補正前後を通じて考案の技術的範囲に属する場合に
4373 は,
4374 再度の警告は不要であり,
4375 第三者に対する不意打ちにはならない旨判示した最判昭和6
4376 3年7月19日民集42巻6号489頁【アースベルト事件】を念頭において,
4377 本件事案に
4378 当てはめる必要がある。
4379
4380 その場合,
4381 Y方法は補正前後を通じて本件(当初)発明の技術的範
4382 囲に属すると考えられる一方,
4383 本件出願には拒絶理由があるため特許権は設定登録されない
4384 だろうとYが期待したと考えられることを踏まえて,
4385 そのような期待が保護されるべきか否
4386 かについて,
4387 自説を説得的に論述することが求められる。
4388
4389
4390
4391
4392
4393 設問3については,
4394 本件発明の実施にのみ用いられる測定機器MがZにより全て外国に輸
4395 出される場合における専用品(「にのみ」)型間接侵害の成否(法第101条第4号)が問題
4396 となる。
4397
4398 この点については,
4399 直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否をめぐり,
4400 独立説,
4401
4402 従属説,
4403 折衷説といった考え方があることを念頭におきつつ,
4404 外国で直接実施されるために
4405
4406 - 31 -
4407
4408 直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否について,
4409 Yが国内で製造販売したMをZが輸
4410 出している設例の事実関係を踏まえて自説を論述することが求められる。
4411
4412
4413 〔第2問〕
4414
4415
4416 設問1は,
4417 美的鑑賞に加えて宗教上の信仰目的も有する作品の著作物性(著作権法(以
4418 下「法」という。
4419
4420 )第2条第1項第1号)について,
4421 一品制作された物品と,
4422 商品として大
4423 量生産される物品のそれぞれに関する理解を問うものである。
4424
4425 設問2は,
4426 公開の美術の著
4427 作物等の利用に関する著作権の制限(法第45条第2項,
4428 第46条)の理解を前提に,
4429
4430 善意者に係る譲渡権(法第26条の2第1項)の特例(法第113条の2)と知情頒布に
4431 よるみなし侵害(法第113条第1項第2号)の理解,
4432 及び,
4433 譲渡権の消尽(法第26
4434 条の2第2項第1号)と債務不履行との関係の理解を,
4435 それぞれ問うものである。
4436
4437 設問3
4438 は,
4439 著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護(法第60条)をめぐり,
4440 同一
4441 性保持権(法第20条第1項)の侵害となるべき行為とその制限であるやむを得ないと認
4442 められる改変(同条第2項第4号),
4443 及び,
4444 その保護の効果としての名誉回復等の措置請求
4445 (法第116条第1項,
4446 第115条)に関する理解を問うものである。
4447
4448
4449
4450
4451
4452 設問1では,
4453 まず,
4454 一品制作された美術工芸品(法第2条第2項)であるαの著作物性
4455 については,
4456 αが表現に一定の制約がある仏像彫刻作品Aの外観の表現であることから,
4457
4458 特に創作性の有無が問題となる。
4459
4460 著作物として求められる創作性は,
4461 他の作品とは異なる
4462 著作者の個性が何らかの程度表れれば足りると解されるところ,
4463 一方では仏教美術の仕来
4464 りに従うなど選択の幅が限られることについて,
4465 他方では仏師X1の世界観・宗教観が反
4466 映されていることについて,
4467 それぞれどのように評価するかに言及しながらαの著作物性
4468 を検討することが求められる。
4469
4470
4471 次に,
4472 βの著作物性については,
4473 αと同じく仏像彫刻Bの外観の表現でありながら,
4474
4475 が商品として大量生産され家庭内の仏壇に設置されることから,
4476 その著作物性をどう考え
4477 るかが問題となる。
4478
4479 美的鑑賞性に加え実用性をも兼ね備え量産される作品の著作物性につ
4480 いては,
4481 いわゆる応用美術の問題として議論されているところ,
4482 裁判例・学説共に立場が
4483 いまだ分かれており決着を見ていない。
4484
4485 例えば,
4486 応用美術の著作物性を美的鑑賞のみを目
4487 的とした作品(いわゆる純粋美術)のそれと同様の基準で判断するとの立場(知財高判平
4488 成27年4月14日判時2267号91頁【TRIPP TRAPP事件】)や,
4489 実用目的
4490 に必要な構成(機能的制約を受ける要素)から分離できる美的特性を備えた要素に限って
4491 著作物として保護する立場(知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁【激安
4492 ファストファッション事件】)等がある。
4493
4494 そこで,
4495 純粋美術の著作物性判断基準との異同に
4496 留意しながら,
4497 また,
4498 著作権法とは異なる手法で工業デザインを保護する意匠法との相互
4499 関係にも言及しつつ,
4500 それぞれの立場で一貫した説明をすることが求められる。
4501
4502
4503
4504
4505
4506 設問2では,
4507 Y1の境内には誰でも立ち入れるが,
4508 時間的な制限があるので,
4509 美術の
4510 著作物αの原作品であるAは「一般公衆に開放されている屋外の場所」に恒常的に設置(法
4511 第45条第2項)されているかが問題となる。
4512
4513 これを肯定した場合には,
4514 設置についてY
4515 1はX1の許諾を得ていることから,
4516 その後は原則として,
4517 αについていかなる利用も可
4518 能となる(法第46条柱書)。
4519
4520
4521 しかし,
4522 Y1は,
4523 専ら美術の著作物の複製物(絵葉書P)の販売を目的として複製し,
4524
4525
4526 の複製物をY2に販売しているので,
4527 Y1の行為はX1の複製権(法第21条)と譲渡権(法
4528 第26条の2第1項)の侵害に当たる(法第46条第4号)。
4529
4530
4531 その結果,
4532 Y2は,
4533 著作権を侵害する物品Pを公衆に譲渡していることになり,
4534 さらに,
4535
4536 P譲受時にY1による侵害事実について善意有過失なので,
4537 善意者に係る譲渡権の特例(法
4538 第113条の2)の適用はないため,
4539 譲渡権(法第26条の2第1項)の侵害が成立する。
4540
4541
4542
4543 - 32 -
4544
4545 また,
4546 Y2はX1から警告を受けた後はY1による侵害事実について悪意に転じ,
4547 以後の
4548 頒布と頒布目的所持は,
4549 著作権侵害とみなされる(法第113条第1項第2号)。
4550
4551
4552
4553
4554 設問2では,
4555 Y1のライセンス契約違反が,
4556 著作権侵害を基礎付けるかどうかが問題
4557 となるところ,
4558 Y1が履行しなかったX1に対する債務(ライセンス料支払義務)の法的
4559 性質や発生根拠等に着目しながら,
4560 本問に当てはめて検討することが求められる。
4561
4562 本問の
4563 事実関係に照らせば,
4564 Y1の同義務違反は著作権侵害には当たらないため,
4565 Y1によるP
4566 のY2(公衆)への譲渡により譲渡権は消尽し,
4567 更なるY2による公衆への譲渡は適法と
4568 なるであろう(法第26条の2第2項第1号)。
4569
4570 ここで,
4571 Y1によるライセンス料の不払い
4572 につきY2が悪意であることは,
4573 この結論を左右しない。
4574
4575
4576
4577
4578
4579 設問3では,
4580 Y1の行為は著作者X1の死後になされているが,
4581 X1が存しているとし
4582 たならば著作者人格権の侵害となるべき行為(法第60条本文)に該当するかが問題とな
4583 る。
4584
4585
4586 この点について,
4587 まず,
4588 Y1によるA仏頭のCへのすげ替えは,
4589 著作物αの改変であり,
4590
4591 αの著作者X1が存しているとしたならばその同一性保持権(法第20条第1項)の侵害
4592 となるべき行為に当たる可能性があることを指摘する必要がある。
4593
4594
4595 次に,
4596 Y1による改変は,
4597 やむを得ないと認められる改変(法第20条第2項第4号)
4598 に当たるかが問題となり,
4599 この点について判断基準を示して,
4600 改変の理由が信者ではなく
4601 Y1内部で不評であったことや,
4602 仏像全体の新造が可能であったと考えられることなどの
4603 事情を考慮して検討することが求められる。
4604
4605
4606 さらに,
4607 X1の死亡直後であり,
4608 仏頭の首のすげ替えという態様の性質に鑑みれば,
4609
4610 とえ仏頭がY1内部に保管されていたとしても,
4611 なお当該改変行為はX1の意を害しない
4612 (法第60条ただし書)とはいえないだろう。
4613
4614
4615 したがって,
4616 X1の最優先遺族であるX2は,
4617 Y1に対して名誉回復等の措置請求(法
4618 第116条第1項,
4619 第115条)が可能である。
4620
4621 ここで,
4622 名誉回復等の措置請求の具体的
4623 内容,
4624 例えば事実経緯広告,
4625 謝罪広告,
4626 原状回復(仏頭の再すげ替え)等を請求すること
4627 の可否について,
4628 更に説得的に論じられていれば,
4629 積極的な評価が与えられる。
4630
4631
4632
4633 [労働法]
4634 〔第1問〕
4635 本問は,
4636 期間の定めのない労働契約により雇用されていた労働者に対する,
4637 成績不良と反抗
4638 的態度を理由とする解雇について,
4639 解雇の事由・手続の両面からその効力を検討し,
4640 さらに事
4641 後に発覚した事由(経歴詐称)の取扱いについても論じることを求めるものである。
4642
4643 解雇に関
4644 して関係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で,
4645 具体的事案に的確に適用する
4646 ことができるか否かが問われている。
4647
4648
4649 設問1では,
4650 まず本件解雇の性格(普通解雇)を確認した上で,
4651 就業規則所定の解雇事由の
4652 該当性と労働契約法第16条の権利濫用が成立するか否かを,
4653 事実関係に照らしながら議論す
4654 ることが求められる。
4655
4656 詳細な事情が分からないので明確な結論を出すことは困難であるが,
4657
4658 分なりの評価に基づいて一定の方向を示すことが望ましい。
4659
4660 また,
4661 解雇の手続として,
4662 本件で
4663 は労働基準法第20条第1項の予告又は予告手当の支払がなされていないが,
4664 同項但書の例外
4665 に該当するか否か,
4666 就業規則条項との関係,
4667 法違反の場合の効果などについて,
4668 判例(細谷服
4669 装事件・最判昭和35年3月11日民集14巻3号403頁)の立場にも留意しながら検討し
4670 た上で,
4671 結局,
4672 訴訟において具体的にどのような請求をなすことが可能あるいは適切かを論じ
4673 てほしい。
4674
4675
4676
4677 - 33 -
4678
4679 設問2では,
4680 新たに発見された採用時の経歴詐称の評価,
4681 特に懲戒解雇事由に該当するか否
4682 かを論じる必要があろう。
4683
4684 その上で,
4685 第1に,
4686 本件解雇の時点では使用者がそれを認識してい
4687 なかったにもかかわらず,
4688 同解雇の効力を争う訴訟において援用することができるか否かが,
4689
4690 重要な論点となる。
4691
4692 類似の判例(山口観光事件・最判平成8年9月26日労判708号31頁)
4693 はあるが,
4694 解雇が懲戒解雇であった点が異なっており,
4695 この点を意識した上で説得的に議論を
4696 組み立てる必要がある。
4697
4698 第2に,
4699 上記の事後的な援用が否定された場合に,
4700 改めて解雇をする
4701 ことが考えられるが,
4702 その場合の解雇の種類の選択,
4703 主張の仕方,
4704 賃金及び退職金の処理など
4705 について,
4706 きちんと整理をして論述することが望まれる。
4707
4708
4709 〔第2問〕
4710 本問は,
4711 労働協約に基づいて設置されている労働組合の掲示板から使用者が掲示物を撤去し
4712 たこと,
4713 及び労働協約に基づいてなされていたチェックオフについて労働協約の解約により廃
4714 止することが,
4715 それぞれ支配介入の不当労働行為に該当するか,
4716 並びにその場合の救済機関及
4717 び具体的な救済方法について検討することを求めるものである。
4718
4719 いずれも集団的労使関係に関
4720 する基本的な論点であり,
4721 労働組合法第7条の不当労働行為,
4722 同法第15条の労働協約の解約,
4723
4724 組合費のチェックオフなど,
4725 同法及びこれに関連する主要な規範について正確に理解した上で,
4726
4727 具体的事案に的確に適用することができるかが問われている。
4728
4729 なお,
4730 使用者による掲示物撤去,
4731
4732 チェックオフ廃止は,
4733 近年,
4734 注目される裁判例のあった事項であるが(東海旅客鉄道事件・東
4735 京高判平成29年3月9日労判1173号71頁,
4736 大阪市チェックオフ廃止事件・東京高判平
4737 成30年8月30日労判1187号5頁),
4738 これら裁判例の判断枠組みと同じ構成によるか否
4739 かにかかわらず,
4740 不当労働行為制度に対する基本的かつ正確な理解と,
4741 規範の明示,
4742 説得力あ
4743 る論述がなされているかどうかが重要である。
4744
4745
4746 設問1では,
4747 労働協約に基づく掲示板の利用と掲示物撤去の事案であるから,
4748 施設管理権(国
4749 鉄札幌運転区事件・最判昭和54年10月30日民集33巻6号647頁)の議論ではなく,
4750
4751 労働協約の解釈・適用について論じる必要がある。
4752
4753 労働協約に定める撤去要件への該当性をど
4754 のような枠組み・考慮要素で判断するかを論じた上,
4755 本件の事実関係への当てはめにおいては,
4756
4757 苦情処理制度や団交拒否をどう考えるかについても検討することが望ましい。
4758
4759
4760 設問2では,
4761 本件のチェックオフの労働協約は,
4762 期間の定めのないものであるから,
4763 労働組
4764 合法第15条第3項・第4項による解約が可能であることの正確な理解と明示が不可欠である。
4765
4766
4767 しかし,
4768 同条項による解約が有効でも,
4769 チェックオフの私法上の法律関係と支配介入の成否は
4770 別であり,
4771 解約が有効だからといって支配介入に該当しないわけではない。
4772
4773 この点を理解した
4774 上で,
4775 支配介入の該当性の判断における考慮要素や考え方などが問われており,
4776 不当労働行為
4777 制度の理解に根差した論述と,
4778 本件の事実関係の整理・当てはめが求められる。
4779
4780
4781 [環境法]
4782 〔第1問〕
4783 本問は,
4784 公害対策の政策目標である環境基準に関する基本的理解を前提として,
4785 水質の環境
4786 基準に焦点を当てて,
4787 水質汚濁防止法(以下「水濁法」という。
4788
4789 )に基づく環境基準の達成手
4790 法及び環境基準が設定されていない物質への対応を問うものである。
4791
4792 現在,
4793 水質の環境基準の
4794 うち健康項目に関しては,
4795 全国的に環境基準がほぼ100%達成されているものの,
4796 生活環境項
4797 目については,
4798 特に閉鎖性海域及び湖沼において環境基準が未達成のところも少なくない。
4799
4800
4801
4802 - 34 -
4803
4804 と地方公共団体の役割分担を踏まえつつ,
4805 汚染源の種類・性質に応じた対策について論じるこ
4806 とが期待される。
4807
4808
4809 設問1では,
4810 水質の環境基準は,
4811 環境基本法第16条に基づいて健康項目と生活環境項目に
4812 分けて設定されていること(同条第1項),
4813 健康項目は全公共水域一律の基準であるのに対し,
4814
4815 生活環境項目については二以上の類型を設け,
4816 それぞれの類型を当てはめる水域を指定するも
4817 のとして定められていること(同条第2項)を理解した上で,
4818 資料の環境省告示を参照しつつ,
4819
4820 @生活環境項目については,
4821 河川(湖沼以外と湖沼)と海域という水域ごとに利用目的に応じ
4822 た類型ごとの基準が設けられていること,
4823 A基準の達成期間については,
4824 健康項目に関しては
4825 直ちに達成とされているのに対し,
4826 生活環境項目に関しては段階的達成も認められていること
4827 を指摘する必要がある。
4828
4829
4830 また,
4831 このように設定方法が異なる理由について,
4832 人の健康は何ものにも優先して尊重され
4833 なければならないため,
4834 健康項目に関しては,
4835 数値に差を設けたり,
4836 一部の水域には適用しな
4837 いこととしたりするのが適当ではないのに対し,
4838 生活環境項目に関しては,
4839 @水産業の生産物
4840 等も保護対象に含まれ(環境基本法第2条第3項),
4841 A保護されるべき利水目的が公共水域ご
4842 とに多種多様であるから,
4843 基準を一律に設けることが適当ではない旨を述べることが期待され
4844 る。
4845
4846
4847 設問2では,
4848 A県においては,
4849 従来,
4850 水質汚濁防止法第3条第1項に基づく一律排水基準が
4851 適用されてきたが,
4852 生活環境項目であるCOD,
4853 全窒素,
4854 全燐及び亜鉛に関する環境基準が一
4855 部海域において未達成であるという状況が20年以上にわたって続いているという状況に対
4856 し,
4857 都道府県が水質汚濁防止法上採り得る措置について,
4858 工場・事業場及びそれ以外の汚染源
4859 に分けて論じる必要がある。
4860
4861 その際,
4862 水濁法は一律排水基準のみで環境基準を達成できない場
4863 合の工場・事業場対策として,
4864 排水基準の上乗せによる濃度規制と汚濁負荷量に関する総量規
4865 制を設けているから,
4866 工場・事業場対策については,
4867 両方の措置について言及する必要がある。
4868
4869
4870 第1に,
4871 排水基準の上乗せに関して,
4872 COD,
4873 窒素,
4874 りん及び亜鉛に関する一律排水基準は,
4875
4876 水濁法第3条第2項にいうその他の汚染状態に関する基準として排水基準を定める省令第1条
4877 の別表第2に掲げられているが,
4878 水濁法第3条第3項により,
4879 この一律排水基準に代えて,
4880
4881 り厳しい基準の設定が可能であり(上乗せ基準),
4882 A県においても,
4883 より厳しい許容限度を設
4884 定することが考えられることを指摘する必要がある。
4885
4886
4887 また,
4888 排水基準を定める省令によれば,
4889 生活環境項目の排水基準は,
4890 1日当たりの平均的な
4891 排出水量が50立方メートル未満の特定施設には適用されないこととされているが,
4892 水濁法第
4893 3条第3項に基づいて,
4894 これら生活環境項目に係る一律排水基準が適用されない小規模事業場
4895 に排水基準を適用することも可能であり(裾出し規制),
4896 A県には,
4897 小規模な旅館も多数ある
4898 ことから,
4899 裾出し基準の設定を検討すべき旨を指摘することが期待される。
4900
4901
4902 さらに,
4903 海域Fにおいて全亜鉛の環境基準が達成されていないことについては,
4904 A県には亜
4905 鉛について暫定基準が適用されているめっき工場が集積していることに着目することが望まれ
4906 る。
4907
4908 暫定基準は,
4909 排水基準違反には直罰規定が適用されること,
4910 業種により技術的に直ちに基
4911 準を遵守することが困難な場合があること等から経過的措置として認められているものである
4912 が,
4913 長年にわたり環境基準が達成されていない状況を踏まえ,
4914 亜鉛の暫定基準に関する上乗せ
4915 の可否について論じることが考えられる。
4916
4917 水濁法にはこれを禁じる明文規定はなく,
4918 実務上も,
4919
4920 環境基準が達成されていない場合に暫定基準について上乗せ規制を行うことは差支えないと解
4921 されているが,
4922 生活環境項目に関する環境基準の趣旨,
4923 暫定基準の趣旨,
4924 A県の現状,
4925 比例原
4926 則等を考慮して論じられていれば,
4927 可否いずれの結論であっても差し支えない。
4928
4929
4930 なお,
4931 特定事業場以外にも発生源施設がある場合には,
4932 当該施設に対し,
4933 条例により独自の
4934 排水基準を設けて規制を行うことも考えられるが(水濁法第29条第3号),
4935 本問では,
4936 この
4937 点に言及しなくとも差支えない。
4938
4939
4940
4941 - 35 -
4942
4943 第2に,
4944 総量規制に関しては,
4945 海域について総量削減計画を策定し(同法第4条の3),
4946
4947 量規制基準の設定が可能であることを指摘した上で(同法第4条の5),
4948 知事が総量削減計画
4949 の作成等をするためには環境大臣による基本方針の作成と政令による指定地域の設定が必要で
4950 あること(同法第4条の2)に触れる必要がある。
4951
4952 さらに,
4953 本件において政令指定がされない
4954 場合の措置として,
4955 都道府県独自に総量規制を設けることの可否について論じることも考えら
4956 れる。
4957
4958
4959 第3に,
4960 工場・事業場以外の汚染源のうち,
4961 生活排水対策については,
4962 非規制的手法が基本
4963 とされており(同法第14条の5以下),
4964 生活排水対策には,
4965 家庭における対策(努力義務)
4966 (同
4967 法第14条の7)と地域における対策(下水道整備等)があることを踏まえた上で,
4968 都道府県
4969 知事は生活排水対策重点地域の指定が可能であること(同法第14条の8),
4970 当該地域におい
4971 て生活排水対策推進計画を作成し,
4972 計画に基づく施策を実施するのは市町村であるが,
4973 知事は
4974 対策の推進に関する助言・勧告が可能であること(同法第14条の9)を指摘する必要がある。
4975
4976
4977 また,
4978 農地については,
4979 水濁法では具体的措置が定められていないことを指摘した上で,
4980 この
4981 ようなノンポイントソース対策の重要性について指摘することが期待される。
4982
4983
4984 設問3では,
4985 排水基準が設定されていない物質に関する条例による横出し規制の可能性が問
4986 われている。
4987
4988 @排水基準が設定されていない物質に関する排水基準の設定は,
4989 いわゆる横出し
4990 規制であり,
4991 上乗せ規制とは根拠条文が異なること(同法第29条),
4992 A上乗せ基準の設定主
4993 体は都道府県とされているが(同法第3条第3項),
4994 同法第29条は,
4995 地方公共団体一般を対
4996 象にしているため,
4997 G市も条例による規制が可能であると考えられることを踏まえた上で,
4998
4999 法第29条第1号は有害物質を横出し規制の対象から除外しているが,
5000 同条同号にいう有害物
5001 質は,
5002 政令が定める物質であるから,
5003 水濁法の規制対象外の物質Pの規制は可能であることを
5004 指摘する必要がある。
5005
5006 上乗せ条例と異なり,
5007 この場合の基準は一律排水基準に代えて適用され
5008 る基準ではないため,
5009 条例では,
5010 基準を遵守させるための仕組みについて,
5011 全て独自に定める
5012 必要があることについても触れていれば加点する。
5013
5014
5015 〔第2問〕
5016 第2問は,
5017 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。
5018
5019 )の規制構造の基
5020 本的な理解と,
5021 最新の改正についての理解を問うものである。
5022
5023 廃掃法では,
5024 事業者は廃棄物を
5025 自ら処理することが基本になっており(廃掃法第11条第1項),
5026 運搬や処理を他人に委託す
5027 る場合は原則として許可業者に委託しなければならない(廃掃法第12条第5項以下)。
5028
5029 設問
5030 1はこの基本的な廃掃法の構造の理解を問うている。
5031
5032 また,
5033 平成29年の改正では,
5034 廃棄物で
5035 はないが,
5036 廃棄物と同様の取扱いを要求する「有害使用済機器」に関する規制が新設されたが,
5037
5038 設問2はその理解を問うものである。
5039
5040
5041 〔設問1〕では,
5042 まず,
5043 使用済み家電機器の処理により生じる廃プラスチック片が廃掃法上
5044 の「廃棄物」であるか否かを検討する必要がある。
5045
5046 この点,
5047 廃掃法第2条第4項第1号では,
5048
5049 「廃プラスチック類」が産業廃棄物として挙げられているが,
5050 これは「事業活動によって生じ
5051 た廃棄物」であることが前提であり(同号),
5052 廃棄物性の検討はやはり必要になる。
5053
5054 そして,
5055
5056 廃棄物性の検討は判例の「不要物」の判断方法に従うべきであるが,
5057 問題文の事実関係からす
5058 ると,
5059 本問の廃プラスチック片に取引価値はなく,
5060 「不要物」であり,
5061 「廃棄物」と認定すべき
5062 である。
5063
5064 そして,
5065 廃棄物である廃プラスチック片は,
5066 Aの事業活動によって生じたものである
5067 から,
5068 「産業廃棄物」となる。
5069
5070
5071 次に,
5072 廃プラスチック片の加工を廃棄物の「処理」
5073 (廃掃法第1条が列挙する「分別,
5074 保管,
5075
5076 収集,
5077 運搬,
5078 再生,
5079 処分等」)と考える場合は,
5080 Aがそれを他人であるCに委託する場合は,
5081
5082 廃掃法第12条第5項のいわゆる委託基準が適用になり,
5083 Cは許可を得た産業廃棄物処分業者
5084 でなければならない(同法第14条第12項)。
5085
5086
5087
5088 - 36 -
5089
5090 他方で,
5091 Aが廃プラスチックを自ら処理する場合(なお,
5092 これが原則である。
5093
5094 廃掃法第11
5095 条第1項)は,
5096 産業廃棄物の処理基準(廃掃法第14条第1項から第4項まで)が適用になる
5097 が,
5098 A自体は廃プラスチック片の加工について産業廃棄物の処分業者の許可は不要である(同
5099 法第14条第6項ただし書)。
5100
5101 他方で,
5102 産業廃棄物処理施設の設置については許可が必要であ
5103 るが(同法第15条第1項),
5104 本問は産業廃棄物の自己処理と他人委託に関する基本構造を問
5105 うものであるため,
5106 これに触れることは必須ではない。
5107
5108
5109 以上が産業廃棄物の処理に関する基本的な構造であるが,
5110 本問の特殊性は,
5111 AはCに加工委
5112 託費用を払っており,
5113 CはAから受け取った廃プラスチック片を他者から入手したものと混同
5114 させることなく加工し,
5115 加工の結果生じた資源であるプラスチックのペレットとともに残滓も
5116 全てAに引き渡しているところにある。
5117
5118 これは,
5119 見方によっては,
5120 Cの廃プラスチック片の加
5121 工行為は,
5122 廃棄物の「処理」ではないか,
5123 又はAによる自己処理の一部に過ぎないと言えそう
5124 である。
5125
5126 そうすると,
5127 本問では,
5128 廃掃法上の委託基準は適用にならないという結論もあり得な
5129 くはない。
5130
5131 この点,
5132 実務では,
5133 本問と事実関係は同一ではないが,
5134 事業者で発生した廃液を他
5135 者に再生加工させ,
5136 自ら利用する場合について,
5137 「加工委託」であるとし,
5138 廃掃法上の委託基
5139 準は適用がないとする見解も存在する。
5140
5141
5142 〔設問2〕は,
5143 上記のとおり,
5144 平成29年の廃掃法改正で追加された廃掃法第17条の2(有
5145 害使用済機器の保管等)についての理解を問うものである。
5146
5147 まず,
5148 本問で問題になっているの
5149 は,
5150 使用済み家電機器であり,
5151 この廃棄物性を検討すべきである(設問1では廃プラスチック
5152 が問題となっていたが,
5153 本問で問題になっているのは家電機器であることに注意すべきであ
5154 る。
5155
5156 )。
5157
5158
5159 小問では,
5160 家電機器が使用済みであること,
5161 解体されないまま山積みになっていたこと以
5162 外の事実は不明であり,
5163 むしろAは使用済み家電機器を再資源化のために集めていたものであ
5164 るから,
5165 これを「不要物」と断定することはできない。
5166
5167 この点,
5168 廃棄物であれば,
5169 B県として
5170 は,
5171 Aに対してその保管に関して必要な報告を求めること(報告の徴収。
5172
5173 同法第18条第1項)
5174 や立入検査(同法第19条第1項)を実施すること,
5175 更には適正な処理の実施を確保するため
5176 に改善命令(同法第19条の3)を出し,
5177 生活環境上の保全上支障が生じ,
5178 又は生ずるおそれ
5179 があると認められるときは,
5180 その支障の除去等の措置を講ずるべきことを命ずることができる
5181 (措置命令。
5182
5183 産業廃棄物の場合は,
5184 同法第19条の5第1項)。
5185
5186 平成29年改正法で新設され
5187 た廃掃法第17条の2は,
5188 「有害使用済機器」について,
5189 これらの規定を準用するものである
5190 (同条第3項)。
5191
5192
5193 なお,
5194 廃掃法第17条の2では「有害使用済機器」について政令で定めることになっており,
5195
5196 政令(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第16条の2)はユニット型エアコンディシ
5197 ョナー,
5198 電気冷蔵庫・冷凍庫,
5199 電気洗濯機・衣類乾燥機,
5200 テレビ等の使用済み家電機器を「有
5201 害使用済機器」に指定しているが,
5202 本問はこの知識を問うものではない。
5203
5204 むしろ,
5205 問題文にお
5206 いて,
5207 「使用済み機器」「保管が適正ではないこと」「人の健康又は生活環境に係る被害が生じ
5208 得る状態」と廃掃法第17条の2の文言がほぼ引用されており,
5209 これをヒントにして同条にた
5210 どり着くことが期待されていた。
5211
5212 他方で,
5213 使用済み家電機器の廃棄物性についてそれなりの根
5214 拠を示した上で認定し,
5215 上記の各規定の適用があることを指摘することでも構わないが,
5216 そう
5217 するとB県の取り得る措置としては,
5218 小問との差異が無くなる解答になる。
5219
5220
5221 小問では,
5222 更に事態が進み,
5223 山積みの使用済み家電機器が放置された結果,
5224 劣化・変色し
5225 て,
5226 もはや原型を留めない状態になっている。
5227
5228 こうなると物の性状,
5229 排出の状況,
5230 通常の取扱
5231 い形態,
5232 取引価値,
5233 事業者の意思等を総合的に勘案すると,
5234 もはや「不要物」であり,
5235 廃棄物
5236 性を肯定することになろう。
5237
5238 そうすると,
5239 B県としては,
5240 Aに対して,
5241 報告の徴収(廃掃法第
5242 18条第1項),
5243 立入検査(同法第19条1項)の実施,
5244 さらには,
5245 改善命令(同法第19条
5246 の3)又は措置命令(同法第19条の4(一般廃棄物の場合),
5247 同法第19条の5(産業廃棄
5248
5249 - 37 -
5250
5251 物の場合))を発することができ,
5252 場合によっては代執行もできる(一般廃棄物の場合同法第
5253 19条の7,
5254 産業廃棄物の場合同法第19条の8)。
5255
5256 B県ができることは,
5257 結果として,
5258 小問
5259 とほぼ同様である。
5260
5261
5262 ところで,
5263 廃棄物については,
5264 その態様,
5265 期間等に照らして,
5266 管理を放棄したと認められれ
5267 ば,
5268 「みだりに廃棄物を捨て」た(廃掃法第16条),
5269 と言える可能性もある。
5270
5271 その場合,
5272 Aが
5273 廃棄物処理業者であれば,
5274 事業の停止(一般廃棄物処理業者につき同法第7条の3,
5275 産業廃棄
5276 物処理業者につき同法第14条の3第1号),
5277 更には許可の取消しの対象になり得る(一般廃
5278 棄物処理業者につき同法第7条の4,
5279 産業廃棄物処理業者につき同法第14条の3の2第5
5280 号)。
5281
5282 なお,
5283 廃棄物処理業者の許可の取消し後であっても,
5284 措置命令の対象になることは,
5285
5286 掃法平成29年の改正項目の一つである(同法第19条の10)が,
5287 問題文にAが廃棄物処理
5288 業者であることは記載されていないことから,
5289 ここまで回答することは期待されていない。
5290
5291
5292 最後に,
5293 Dらとしては,
5294 自分たちの財産である稲が汚染され,
5295 米が販売できなくなる恐れが
5296 あるから,
5297 財産権に基づく差止請求(訴訟物は所有権に基づく妨害予防請求権)を検討すべき
5298 である。
5299
5300 差止請求の内容は,
5301 Aに対して,
5302 廃棄物の除去により汚染源を絶つ方法を取るか,
5303
5304 染水が農業用の用水路に流れ込まないような措置を取ることを求めることになろう。
5305
5306 なお,
5307
5308 境訴訟では人格権が問題となることが多いが,
5309 本問で危険に晒されているのは「稲」に対する
5310 財産権であり,
5311 Dらの生命・身体とすることは難しく,
5312 人格権の問題とすることはやや無理が
5313 ある。
5314
5315 また,
5316 Dらは稲の汚染を「危惧」しているだけであり,
5317 被害はまだ発生していないこと
5318 から,
5319 損害賠償請求も難しいであろう。
5320
5321
5322 [国際関係法(公法系)
5323
5324 〔第1問〕
5325 本問は,
5326 公海の法的地位,
5327 海賊の定義,
5328 海賊に対する普遍的管轄権,
5329 国際司法裁判所の選択
5330 条項受諾制度及び先決的抗弁に関する基本的知識と理解を問うものである。
5331
5332 司法試験用法文に
5333 登載されている海洋法に関する国際連合条約(以下「海洋法条約」という。
5334
5335 )及び国際司法裁
5336 判所規程(以下「裁判所規程」という。
5337
5338 )の関係条文を設問に照らして抽出した後,
5339 それを適
5340 切に解釈し,
5341 並びに選択条項受諾宣言に対する留保に関する国際司法裁判所(以下「ICJ」
5342 という。
5343
5344 )の判例に沿って論述すれば,
5345 十分に解答が可能な設問となっている。
5346
5347
5348 設問1は,
5349 A国が自国のタラ資源保存実施法に基づき,
5350 公海上に一方的に禁漁区を設定した
5351 上で,
5352 B国漁船Yを拿捕し,
5353 船長と乗組員を逮捕したことが,
5354 AB両国がともに締約国である
5355 海洋法条約に照らして許容されるかどうかを問うものである。
5356
5357
5358 本問では,
5359 A国によるこうした措置が海洋法条約のどのような規定との関係で問題となり,
5360
5361 これに違反しないかが論点となる。
5362
5363 海洋法条約第87条は,
5364 公海の自由には,
5365 公海における生
5366 物資源の保存及び管理を定めた第2節の条件に従って,
5367 全ての国が漁獲を行う自由が含まれる
5368 とするとともに,
5369 こうした自由は,
5370 公海の自由を行使する他国の利益に妥当な考慮を払って行
5371 使すべきものと規定する。
5372
5373 さらに,
5374 第89条は,
5375 「いかなる国も,
5376 公海のいずれかの部分をそ
5377 の主権の下に置くことを有効に主張することができない」と規定している。
5378
5379
5380 こうした規定を踏まえ,
5381 A国が公海において一方的に禁漁区を設定した行為が,
5382 国際法上認
5383 められた沿岸国の立法管轄権の限度を超えていないかどうか,
5384 また,
5385 A国がB国漁船を自国の
5386 タラ資源保存実施法に違反するとして拿捕した行為は,
5387 自らの主権が及ばない公海に自国の国
5388 内法の適用を拡大しており,
5389 国際法上認められた沿岸国の執行管轄権の限度を超えているので
5390 はないか,
5391 といった論点を十分に抽出して論じる必要がある。
5392
5393
5394 設問2は,
5395 環境保護団体XがC国を旗国とする船舶を用い,
5396 公海上でタラ漁を行っているB
5397 国の漁船Yの航行を妨害し漁網を切断した行為を,
5398 海洋法条約にいう海賊行為としてA国が取
5399 り締まれるかどうかを問うものである。
5400
5401
5402 - 38 -
5403
5404 海洋法条約では,
5405 公海においては原則として船舶の旗国の排他的管轄権に服するという旗国
5406 主義が採用されている(海洋法条約第91条第1項・第92条第1項)。
5407
5408 しかし,
5409 この原則は
5410 絶対的なものではなく,
5411 公海の秩序を維持するために,
5412 例外的に当該船舶の旗国以外の国によ
5413 る海上警察権の行使を認めることがある。
5414
5415 その一つが海賊行為を行っていると疑いのある船舶
5416 に対する管轄権の行使である。
5417
5418 全ての国は,
5419 海賊船舶を拿捕して,
5420 自国の裁判所で処罰するこ
5421 とのできる普遍的管轄権を有する(海洋法条約第105条)。
5422
5423
5424 本問では,
5425 環境保護団体Xが行った行為が,
5426 海洋法条約第101条にいう海賊行為の定義の
5427 要件を満たしているかどうかが論点となる。
5428
5429 問題文に記載された事実によれば,
5430 海洋法条約の
5431 海賊の定義が要求するいくつかの要件,
5432 具体的には,
5433 発生場所が公海であること,
5434 C国の船舶
5435 は環境保護団体Xが保有する私有の船舶であること,
5436 C国船舶によるB国漁船に対する妨害行
5437 為という,
5438 いわゆるtwo boats situationを満たしていること,
5439 環境保護団体Xが行ったB国
5440 漁船の漁網を切断するという行為はB国漁船に対する不法な暴力行為であること,
5441 といった点
5442 は問題ないであろう。
5443
5444
5445 さらに,
5446 問題は,
5447 それだけで海洋法条約第101条の海賊行為の定義の要件を満たしている
5448 といえるどうかである。
5449
5450 環境保護団体Xが行った行為が,
5451 海賊行為の定義が要求する「私的目
5452 的」に当たるかどうかという点に留意する必要がある。
5453
5454 反論としては,
5455 この観点から,
5456 環境保
5457 護団体Xの行為は海賊行為に当たらないとの主張も可能であり,
5458 この要件に留意して論じるこ
5459 とが考えられる。
5460
5461
5462 設問3は,
5463 A国に選択条項受諾宣言に付した留保による先決的抗弁が認められるかどうかを
5464 問うものである。
5465
5466 裁判所規程第36条第2項に規定されている選択条項受諾制度に対する理解
5467 と,
5468 ICJの管轄権又は受理可能性に対する被告の抗弁である先決的抗弁の理解,
5469 更には選択
5470 条項受諾宣言に対する留保とそうした留保の有効性に関するICJの判例に対する理解を問う
5471 ものである。
5472
5473
5474 本問の場合,
5475 A国が選択条項受諾宣言に付した「タラに関するA国が制定した国内法及びこ
5476 うした国内法の執行から生じた,
5477 またはそれらに関する紛争」をICJの管轄権から除外した
5478 留保による先決的抗弁が認められるかどうかが問題になる。
5479
5480 ICJは,
5481 スペイン・カナダ漁業
5482 管轄権事件判決(1998年)において,
5483 カナダ法に基づく公海上でのスペイン漁船エスタイ
5484 号の拿捕という国際法に違反するカナダの執行行為に関する紛争に際して,
5485 ICJの管轄権を
5486 除外するカナダの選択条項受諾宣言における留保につき,
5487 当該留保が有効であるかどうかを検
5488 討する機会を持った。
5489
5490 同事件ではカナダの留保の有効性を前提としてカナダの先決的抗弁を認
5491 めたが,
5492 こうした判例が解答に当たって参考になるであろう。
5493
5494
5495 〔第2問〕
5496 本問は,
5497 外交的保護の権利の行使による国家責任の追及,
5498 非国家主体の軍事活動を支援する
5499 外国の国家責任及び自衛権の行使の要件に関する基本的知識と理解を問うものである。
5500
5501 いずれ
5502 も国際法上の重要な概念とそれらに関する国際裁判の判例を理解して論述すれば,
5503 十分に解答
5504 が可能な設問となっている。
5505
5506
5507 設問1は,
5508 在外自国民が損害を被った場合,
5509 国籍国が,
5510 当該自国民が居住等をしている領域
5511 国の国家責任を追及するためどのような国際法上の主張を行い得るかを問うものである。
5512
5513
5514 外国人が領域国の国際違法行為によって損害を被り,
5515 領域国の国内法制度でその損害の救済
5516 が得られない場合,
5517 その者の国籍国が外交的保護の権利を行使して,
5518 領域国の国家責任を追及
5519 することができるとされる。
5520
5521 本問では,
5522 甲がB国籍であることを理由に上訴を認められなかっ
5523 たことなどから,
5524 A国の国際違法行為があったことは認められるであろう。
5525
5526
5527 しかし,
5528 国家が外交的保護の権利を行使するためには,
5529 在外の自国民である私人が損害を被
5530 った時点から国籍国が請求を開始するまでの間,
5531 その国の国籍を継続的に有していること(国
5532
5533 - 39 -
5534
5535 籍継続の原則)とその者が領域国の国内法制度上利用可能な全ての救済手段を尽くしているこ
5536 と(国内救済完了の原則)という二つの要件が満たされていなければならないとされている。
5537
5538
5539 問題文の記述に即して,
5540 これらの要件が満たされているかを論じる必要がある。
5541
5542
5543 なお,
5544 A国の甲に対する措置とA国内での甲の事業活動の破綻に合理的な因果関係が認めら
5545 れるとすれば,
5546 甲が被った損害に対する金銭賠償の支払を請求し得ることになる。
5547
5548
5549 設問2は,
5550 非国家主体の反政府活動を外国国家が支援している場合,
5551 反政府活動の対象とな
5552 っている国家が, 支援を行っている国家の国際法上の責任を追及し得るかを問うものである。
5553
5554
5555 国家は,
5556 自国に帰属する行為が国際法上の義務に違反する場合,
5557 国際違法行為を行ったとさ
5558 れ, 国家責任を負うことになるが,
5559 国家機関の地位にない非国家主体の行為は,
5560 原則として国
5561 家に帰属しないとされる。
5562
5563 もっとも,
5564 非国家主体の行為であっても,
5565 一定の要件を満たせば,
5566
5567 国家に帰属する場合があるとされていることから,
5568 本問では,
5569 まず,
5570 これに該当するかを論じ
5571 る必要がある。
5572
5573 その際,
5574 国際司法裁判所(以下「ICJ」という。
5575
5576 )では,
5577 支援国による非国
5578 家主体に対する実効的支配の有無が帰属についての判断基準となるとの立場が示されてきてい
5579 ることが参考になるだろう。
5580
5581 また,
5582 仮に非国家主体の行為が国家に帰属しない場合であっても,
5583
5584 これに対する支援が国際法に違反するとき,
5585 その支援行為についての国家責任が生じることが
5586 あり得る。
5587
5588 そこで,
5589 本問においても支援行為について国家責任が生じる場合に該当するかが問
5590 題となるが,
5591 この点を論じるに当たっては,
5592 ICJのニカラグア事件判決(1986年)の立
5593 場が参照され得るだろう。
5594
5595
5596 設問3は,
5597 国連憲章の下での自衛権の行使の要件の理解を問うものである。
5598
5599
5600 国連憲章第2条第4項は武力による威嚇又は武力の行使を禁止しているが,
5601 この原則の例外
5602 の一つが,
5603 第51条に規定されている国家の固有の権利としての個別的又は集団的自衛の権利
5604 である。
5605
5606
5607 国際法上の自衛権の行使のためには, 第一に,
5608 武力攻撃の「発生」,
5609 第二に,
5610 採られる措置
5611 以外に他の合理的手段が存在しないこと(必要性の要件),
5612 第三に,
5613 「発生」している武力攻撃
5614 と採られる措置の間の均衡性(比例性)の三つの要件を満たすことが必要とされている。
5615
5616 さら
5617 に,
5618 本問では,
5619 A国,
5620 B国及びC国のいずれもが国連加盟国であるので, 国連憲章第51条が,
5621
5622 安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置を採るまでの間に限定して,
5623 国家が
5624 自衛権を行使することを認め,
5625 自衛権を行使した国家はその旨を直ちに安全保障理事会に報告
5626 しなければならないと規定していることにも留意する必要がある。
5627
5628 また,
5629 空爆を行ったC国は
5630 直接に武力攻撃を受けた国家ではないため, 集団的自衛権の行使の要件を論じることも必要で
5631 あろう。
5632
5633 集団的自衛権の行使の要件を論じた先例として,
5634 ICJのニカラグア事件判決(19
5635 86年)が参照され得る。
5636
5637
5638 C国によるA国領域内の軍事基地に対する空爆行為が正当化されるためには,
5639 C国による空
5640 爆行為がこれらの要件を満たすかを問題文の記述に即して論じる必要がある。
5641
5642
5643 [国際関係法(私法系)
5644
5645 〔第1問〕
5646 渉外的事案においては,
5647 準拠法が外国法となることは珍しくはない。
5648
5649 そうした場合,
5650 当該準
5651 拠外国法の求める要件を,
5652 原則として問題が提起されている日本国内において実現しなければ
5653 ならない。
5654
5655 しかし,
5656 その準拠法の定める要件が,
5657 日本法にはない制度を前提にしていることが
5658 ある。
5659
5660 本問は,
5661 そうした問題を中心に据えながら,
5662 養子縁組の準拠法の決定と適用を問うたも
5663 のである。
5664
5665
5666 〔設問1〕は,
5667 こうした問題意識の下,
5668 いわゆる決定型養子縁組制度を定める国の法律が準
5669 拠法となった場合に,
5670 その内容を我が国においていかに実現するかを問うている。
5671
5672 まずは,
5673
5674 の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5675
5676 )第31条第1項前段に基づく養親の本国法
5677 - 40 -
5678
5679 主義の趣旨とその当てはめ,
5680 そして同項後段に基づく「セーフガード条項」の趣旨とその当て
5681 はめを,
5682 それぞれ説明し,
5683 行うことが求められる。
5684
5685 その上で,
5686 準拠法たる甲国民法の定める養
5687 子縁組に関する「家事裁判所の決定」を,
5688 我が国でいかに実現するかを論じる必要がある。
5689
5690
5691 つては,
5692 日本においてこのような養子決定を行うことはできないとする見解もあったが,
5693 今日
5694 では,
5695 特別養子の審判手続によりその養子縁組を成立させることができるとするのが多数説で
5696 ある。
5697
5698 さらに近年では,
5699 養子決定のような公的機関の関与の問題は,
5700 公法的性格を有する手続
5701 上の問題として養親の本国法の適用範囲外とする見解もある。
5702
5703
5704 「セーフガード条項」に関しては,
5705 子の本国法が日本法なので,
5706 日本民法第797条及び第
5707 798条について言及することが期待されている。
5708
5709 なお,
5710 〔設問1〕は,
5711 反致が成立しないこ
5712 とを前提にしている。
5713
5714
5715 〔設問2〕は,
5716 養親になろうとする者が異国籍夫婦の場合の問題である。
5717
5718 通説的な理解では,
5719
5720 養親のそれぞれの本国法が適用されると考えられている。
5721
5722 本問は,
5723 養親の一方の本国法が実方
5724 血族との断絶を定める断絶型養子縁組しか認めていない中で,
5725 養親の二人が望む普通養子縁組
5726 を実現することができるか否かを問うている。
5727
5728 こうした問題点を指摘した上で,
5729 これに対応す
5730 るための見解の展開が期待される。
5731
5732 すなわち,
5733 かつて戸籍実務で採られていた「分解理論」,
5734
5735 判例において現在も採用されている「隠れた反致」,
5736 更には,
5737 近時,
5738 学説の一部で主張されて
5739 いる,
5740 従来とは全く異なるアプローチから「準拠法の一本化」を図り,
5741 これにより対処しよう
5742 とする見解等である。
5743
5744 いずれの見解によるにしても,
5745 各見解を正しく理解し,
5746 適切に説明して
5747 いることが必要である。
5748
5749 実方血族との関係を判断する準拠法を定める通則法第31条第2項に
5750 言及し,
5751 その解釈も展開されなければならない。
5752
5753
5754 〔設問3〕は,
5755 通則法第31条第1項後段に定める「セーフガード条項」に焦点を当てた問
5756 題である。
5757
5758 子の本国の国際私法が養子縁組の準拠法として養親の本国法を指定していることか
5759 ら,
5760 〔小問1〕では,
5761 まず「セーフガード条項」と反致の関係が問われる。
5762
5763 この点について,
5764
5765 見解は分かれている。
5766
5767 いずれの見解に立ってもよいが,
5768 ここでは自らの考え方とその根拠を適
5769 切に述べることが期待されている。
5770
5771 さらに,
5772 〔小問2〕では,
5773 セーフガード条項の求める「同
5774 意,
5775 承諾」の範囲が問われている。
5776
5777 具体的には,
5778 子の本国法の定める「養親の実子」の同意が
5779 それに含まれるか否かである。
5780
5781 これも,
5782 肯定説,
5783 否定説いずれの見解もあり得る。
5784
5785 自らの考え
5786 方と根拠を明らかにすることが求められている。
5787
5788
5789 〔第2問〕
5790 本問は,
5791 名誉,
5792 プライバシー,
5793 著作権の侵害が問題となる事案を素材として,
5794 国際私法と国
5795 際民事手続法に関する基本的理解とその応用力を問うものである。
5796
5797
5798 〔設問1〕は,
5799 名誉,
5800 プライバシー,
5801 著作権の侵害の準拠法の決定について問うものである。
5802
5803
5804 まず,
5805 請求@について,
5806 名誉毀損の準拠法の決定が問題となる。
5807
5808 これについては通則法第1
5809 9条があることを指摘し,
5810 同条の趣旨について説明した上,
5811 本件への当てはめを行うべきであ
5812 る。
5813
5814 同条によって外国法によるべき場合には,
5815 通則法第22条について指摘することを忘れて
5816 はならない。
5817
5818
5819 次に,
5820 請求Aについて,
5821 プライバシー侵害の準拠法の決定が問題となる。
5822
5823 これについては学
5824 説・判例ともに,
5825 通則法第19条によるとする立場と,
5826 通則法第17条によるとする立場とに
5827 分かれている。
5828
5829 いずれの立場による場合にも,
5830 その理由の説明が必要である。
5831
5832 第17条説によ
5833 る場合には,
5834 甲国と日本の侵害について一つの連結点によらしめるのか,
5835 それぞれ異なる連結
5836 でよい(モザイク連結)と考えるのかについても論じてほしい。
5837
5838 なお,
5839 一部又は全部外国法によ
5840 るべき場合には,
5841 通則法第22条について指摘すべきである。
5842
5843
5844 また,
5845 請求Bについては,
5846 @Aの場合とは異なり,
5847 被侵害権利である著作権自体がそれ自体
5848 一つの単位法律関係を構成すると考えられる。
5849
5850 これに関して,
5851 資料に掲げたベルヌ条約第5条
5852
5853 - 41 -
5854
5855 第2項第3文が国際私法の準則を含んでいるかどうかが問題となる。
5856
5857 いずれの立場をとるにし
5858 ても,
5859 その理由を示すことが求められる。
5860
5861
5862 次に著作権侵害による損害賠償の性質決定が問題となる。
5863
5864 通則法第17条によるべきか,
5865
5866 害賠償請求も前掲のベルヌ条約によるとすべきかが問題となる。
5867
5868 理由を付して論じることが求
5869 められる。
5870
5871 なお,
5872 いずれの立場をとる場合でも,
5873 被侵害権利たる著作権が日本と甲国とで別に
5874 存在していることを指摘すべきであろう。
5875
5876 なお,
5877 通則法第17条によるとの立場をとり,
5878 外国
5879 法によるべき場合は,
5880 通則法第22条の指摘が必要である。
5881
5882
5883 〔設問2〕は,
5884 甲国で判決が出た場合に,
5885 その外国判決が承認されるべきか否かについて,
5886
5887 小問1と小問2の二つのケースについて論じることを求め,
5888 もって,
5889 外国判決承認と送達につ
5890 いての基礎的理解について問うたものである。
5891
5892
5893 小問1では,
5894 執行判決訴訟が問題となっているので,
5895 懲罰的損害賠償判決も民事判決である
5896 ことを肯定する立場では,
5897 平成30年改正民事執行法第24条第5項(項番号繰下)について
5898 触れることが望ましい(それに対し,
5899 否定説では,
5900 項番号まで特定する必要はないが,
5901 同法第
5902 24条には触れたほうがよいであろう。
5903
5904 )。
5905
5906 いずれの説に立つ場合でも,
5907 懲罰賠償判決の意義に
5908 ついて述べた上,
5909 民事判決かどうかの問題があることを指摘すべきである。
5910
5911
5912 民事判決性肯定説によるにせよ,
5913 否定説によるにせよ,
5914 その理由を述べなければならないが,
5915
5916 最高裁判例(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)にも言及することが望まし
5917 い(なお,
5918 その射程の理解については,
5919 民事判決性を肯定することを前提としているとの多数
5920 説の理解でも,
5921 民事判決性の有無については判示していないとの少数説の理解でもよい。
5922
5923 )。
5924
5925
5926 定説をとる場合には,
5927 次に,
5928 民事訴訟法(以下「民訴法」という。
5929
5930 )第118条第3号違反の
5931 問題が生じること,
5932 その解釈の結論とその理由を述べることが必要である。
5933
5934
5935 いずれの立場をとる場合でも,
5936 本小問についての結論をまとめる際には,
5937 本件外国判決の慰
5938 謝料部分が承認されるかどうかについても触れるべきである。
5939
5940
5941 小問2では,
5942 いわゆる直接郵便送達の効力の問題を取り上げている。
5943
5944 この問題は,
5945 民事又は
5946 商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下「送達
5947 条約」という。
5948
5949
5950 )(昭和45年条約第7号)との関係で問題とされることが多い。
5951
5952 しかし,
5953 日本
5954 はこの問題に関して重要な送達条約第 10条(a)に定める「直接に裁判上の文書を郵送する権
5955 能」について長年拒否宣言をしていなかったところ,
5956 平成30年12月21日に拒否宣言をし,
5957
5958 同日その効力が生じた。
5959
5960 そこで,
5961 送達条約については従来の条約の状態を前提に問うことは試
5962 験時にすでに過去のものとなった状態について問うことになって適切ではなく,
5963 また,
5964 平成3
5965 0年の拒否宣言は受験生の間にはまだ知られていないと考えられたので,
5966 これについて問うこ
5967 とも適切ではないと考え,
5968 結局,
5969 送達条約には言及しない出題の仕方をした。
5970
5971
5972 答案では民訴法第118条第2号を指摘し,
5973 その趣旨について述べ,
5974 本件についての結論を
5975 理由とともに示すことが必要である。
5976
5977 いずれの結論とするにせよ,
5978 外国から直接郵便により裁
5979 判の呼出状等が送られてくることの意味や是非も踏まえて,
5980 論ずることが必要である。
5981
5982 甲国が
5983 送達条約の締約国である場合まで考えて場合分けして解答する答案には,
5984 それが過去の状態を
5985 前提とするものであっても,
5986 拒否宣言をしたことを前提とするものであっても,
5987 加点の対象と
5988 する。
5989
5990
5991
5992 - 42 -
5993
5994