1 論文式試験問題集[公法系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [公法系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 1.いわゆるバス事業は,
8 主に乗合バス事業と貸切バス事業とに分けられる。
9
10 ここでは,
11 乗合バス
12 事業とは,
13 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け,
14 有償で,
15 乗車定員11人以上
16 の自動車を使用して乗合旅客を運送する事業をいい,
17 貸切バス事業とは,
18 同許可を受け,
19 有償で,
20
21 一個の契約により乗車定員11人以上の自動車を貸し切って旅客を運送する事業をいうものとす
22 る。
23
24
25 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバス(以下「路線バス」という。
26
27 )のうち,
28
29 速道路を利用し,
30 長距離の路線を定めて定期に運行するバスを,
31 ここでは,
32 高速路線バスと呼ぶ
33 こととする。
34
35 また,
36 高速路線バス以外の路線バスについては,
37 地域住民の日常的な移動手段とし
38 て利用されることが多く,
39 ここでは,
40 生活路線バスと呼ぶこととする。
41
42 現在,
43 高速路線バスを運
44 行する乗合バス事業者には,
45 生活路線バスとともに高速路線バスを運行する事業者と,
46 高速路線
47 バスのみを運行する事業者とがある。
48
49
50 高速路線バスの事業主体は乗合バス事業者に限定されているが,
51 国土交通大臣の許可を受けれ
52 ば,
53 その運行を貸切バス事業者に委託することができる。
54
55
56 2.地方の深刻な人口減少が続く中,
57 生活路線バス事業の大半が赤字であり,
58 三大都市圏以外では,
59
60 その傾向はより顕著となっている。
61
62 その結果,
63 全国の生活路線バスでは,
64 近年,
65 路線の廃止や減
66 便が続いている。
67
68 このことは,
69 地域の生活路線バスに依存する高齢者や高校生等にとって,
70 不可
71 欠な移動手段を奪い,
72 日常生活に極めて大きな支障をもたらすものである。
73
74 さらに,
75 公共交通の
76 衰退の結果,
77 高齢者にとって自家用車が唯一の移動手段となっていることが,
78 高齢者の運転ミス
79 による人身事故の発生が続いている状況にもかかわらず,
80 免許返納が進まない一因であるとの指
81 摘もなされている。
82
83
84 3.そのような中,
85 202X年,
86 超党派の国会議員は,
87 地域における住民の移動手段の確保を目的
88 として,
89 「持続可能な地域交通システム法(仮称)」の制定を目指す議員連盟(以下「議連」と
90 いう。
91
92 )を発足させた。
93
94 議連では,
95 この観点から,
96 公共交通の維持・拡充の方策とともに,
97 交通
98 渋滞による通行障害の除去を目的とする規制についても検討している。
99
100 これは,
101 大都市の一部区
102 域や一部の観光地における交通渋滞が,
103 地域住民の自家用車やバスでの移動の妨げとなるほか,
104
105 道幅の狭いところでは住民の歩行や緊急車両の通行を困難にするなど,
106 住民生活に著しい支障を
107 来す程度に達しており,
108 住民の安全・安心な生活を脅かしていると考えられるためである。
109
110
111 4.議連で検討されているのは,
112 次のような規制である。
113
114
115 規制@
116
117 高速路線バスの運行は,
118 生活路線バスを運行する乗合バス事業者にのみ認めるものとす
119 る。
120
121 生活路線バスへの新規参入は,
122 既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業者の経営
123 の安定を害さない場合に限り,
124 認めるものとする。
125
126
127
128 規制A
129
130 都道府県知事が定める特定の渋滞区域について,
131 特定の時間帯における域外からの自家
132 用車の乗り入れを原則として禁止するものとする。
133
134
135
136 5.【別添資料】は,
137 規制@及びAの内容として議連で検討されている法律案の骨子である。
138
139 議連
140 の担当者Xは,
141 同法律案について,
142 法律家甲に相談した。
143
144 その際の甲とXとのやり取りは,
145 以下
146 のとおりであった。
147
148
149 甲:規制@が検討された背景には,
150 生活路線バスを運行する事業者の経営が悪化する中で,
151 地方の
152 高齢者や高校生等の移動手段をどう確保するかという問題があったということですね。
153
154
155 X:そうです。
156
157 地方のバス事業者は,
158 生活路線バスの慢性的赤字を,
159 高速路線バスの収益と自治体
160 からの補助金とで補填することにより,
161 経営を維持している場合が少なくありません。
162
163 過疎化が
164 進み,
165 地方のバス事業者の経営環境が著しく悪化している現在,
166 新たな規制によるてこ入れが必
167 - 2 -
168
169 要だと考えています。
170
171
172 そこで,
173 地域の移動手段である生活路線バスを運行する事業者の収益を改善して,
174 これ以上の
175 路線廃止や減便が起こらないようにし,
176 可能であれば,
177 増便を促すなどして利便性が向上すれば
178 と思っております。
179
180
181 甲:つまり,
182 生活路線バスを運行する乗合バス事業者の収益を改善するために,
183 高速専業の乗合バ
184 ス事業者を認めない,
185 ということですね。
186
187
188 X:はい。
189
190 また,
191 規制@では,
192 それまで高速専業だった乗合バス事業者も,
193 生活路線バスに参入す
194 れば,
195 高速路線バスを運行できるようになります。
196
197 これにより,
198 生活路線バスへの新規参入を促
199 す効果があると考えています。
200
201
202 甲:その点について確認ですが,
203 多くの利用者が見込まれる高収益の路線,
204 例えば県庁所在地の中
205 心駅と繁華街を結ぶ生活路線バスに参入すれば,
206 その事業者は,
207 高速路線バスを運行することが
208 できるようになるということですか。
209
210
211 X:いいえ。
212
213 法律案では,
214 既存の事業者の経営の安定を害さないことを参入要件として定め,
215 既存
216 の生活路線バスが運行していない路線に限り新規参入を認めることにより,
217 高収益の路線のみへ
218 の参入を排除したいと考えております。
219
220
221 甲:地域の移動手段に責任を持つ事業者に限る,
222 ということですね。
223
224 これも確認なのですが,
225 生活
226 路線バスに参入しなかった,
227 あるいは,
228 参入できなかった事業者は,
229 どうなるのでしょうか。
230
231
232 X:高速路線バスを自ら運行することはできなくなりますが,
233 貸切バス事業に転業すれば,
234 生活路
235 線バスを運行する乗合バス事業者から高速路線バスの運行を受託することはできます。
236
237
238 甲:ところで,
239 法律案では,
240 規制Aとして,
241 都市部や観光地の交通規制も考えていますね。
242
243
244 X:はい。
245
246 住民の日常生活に関わる地域交通の課題を洗い出してみたところ,
247 渋滞によって住民の
248 自家用車やバスによる移動が著しく困難になるという事例が各地から報告されました。
249
250 歴史的な
251 街並みが保存されている地区や住宅密集地では,
252 道路の拡幅もできず,
253 歩くのも危ないし緊急車
254 両の通行もままならないということで,
255 住民の不安も高まっています。
256
257 曜日と時間帯を限ってと
258 いうことになりますが,
259 規制Aは,
260 域外からの自家用車の乗り入れを禁止することによって,
261
262 刻な交通渋滞を解消するものです。
263
264
265 甲:どれくらいの広さ・時間の規制を考えているのですか。
266
267
268 X:広さは規制の対象となる区域によって様々でしょうが,
269 最大でも混雑がひどい数平方キロメー
270 トルでしょうか。
271
272 時間帯は,
273 例えば観光地では週末や休日の午前9時から午後5時くらいを,
274
275 宅密集地では通勤・通学の時間帯を想定しています。
276
277
278 甲:例えば,
279 規制の対象となる区域の住民が,
280 域外に居住する人の運転する自家用車に乗せてもら
281 って当該区域に入ろうとする場合にも,
282 規制の対象となるのですか。
283
284
285 X:いいえ。
286
287 当該区域の住民が乗車している場合には,
288 規制の対象とはなりません。
289
290
291 甲:法律案の概要は分かりました。
292
293 この法律案について,
294 関係者の間で反対する意見はありません
295 でしたか。
296
297
298 X:ありました。
299
300 まず,
301 規制@ですが,
302 これまで高速専業だった乗合バス事業者からは,
303 生活路線
304 バスに参入しないと高速路線バスの運行ができなくなることから,
305 死活問題だという意見も寄せ
306 られています。
307
308 また,
309 生活路線バス用の車両の購入や,
310 営業所の設置・維持,
311 運転手の再教育に
312 多くの費用が掛かることへの懸念に加え,
313 そもそも既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業
314 者の経営を脅かさずに参入できる地域があるのか,
315 という疑問も寄せられています。
316
317
318 規制Aについては,
319 候補地の住民からはおおむね好意的な意見が寄せられています。
320
321 他府県ナ
322 ンバーの自家用車の運転手にも意見を聞いたのですが,
323 やむを得ないという声がある一方,
324 自家
325 用車での移動が規制されることには批判の声もあります。
326
327 また,
328 ある観光地の住民からは,
329 渋滞
330 の原因は観光バス等にもあるから,
331 自家用車のみを規制してもあまり意味がないといった声も聞
332 かれます。
333
334
335 - 3 -
336
337 甲:そうですか。
338
339 憲法上の問題点については検討しましたか。
340
341
342 X:いくつか憲法上の問題点があるとは認識していますが,
343 具体的な検討はこれからです。
344
345 そこで
346 先生に,
347 主要な論点を整理して検討をお願いしたいと考えております。
348
349
350 〔設問〕
351 あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして,
352 規制@及びAの憲法適合性について論じな
353 さい。
354
355 なお,
356 その際には,
357 必要に応じて,
358 参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及す
359 ること。
360
361
362
363 - 4 -
364
365 【別添資料】
366 持続可能な地域交通システム法(仮称)の骨子
367 第1
368
369 目的
370 この法律は,
371 公共交通の維持・拡充や交通渋滞の緩和を図ることにより,
372 地域における住民の移
373
374 動手段を確保することを目的とするものとする。
375
376
377 第2
378
379 定義
380
381
382
383 「乗合バス事業」とは,
384 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け,
385 有償で,
386 乗車
387 定員11人以上の自動車を使用して乗合旅客を運送する事業をいい,
388 「乗合バス事業者」とは,
389
390 乗合バス事業を経営する者をいうものとする。
391
392
393
394
395
396 「貸切バス事業」とは,
397 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け,
398 有償で,
399 一個
400 の契約により乗車定員11人以上の自動車を貸し切って旅客を運送する事業をいい,
401 「貸切バス
402 事業者」とは,
403 貸切バス事業を経営する者をいうものとする。
404
405
406
407
408
409 「高速路線バス」とは,
410 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバスのうち,
411 高速道路
412 を利用し,
413 50キロメートル以上の路線を定めて定期に運行するバスをいうものとする。
414
415
416
417
418
419 「生活路線バス」とは,
420 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバスのうち,
421 高速路線
422 バス以外のものをいうものとする。
423
424
425
426
427
428 「特定区域」とは,
429 域外からの自動車の乗り入れによって,
430 地域住民の日常生活に著しい支障
431 を来す程度の交通渋滞が生じている区域をいうものとする。
432
433
434
435 第3
436
437
438 高速路線バス
439 高速路線バスは,
440 生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが,
441 国土交通大臣の許可を受け
442 た上で運行することができるものとする。
443
444
445
446
447
448 生活路線バスを運行する乗合バス事業者は,
449 国土交通大臣の許可を受けた上で,
450 高速路線バス
451 の運行を,
452 貸切バス事業者に委託することができるものとする。
453
454
455
456 第4
457
458 生活路線バス
459 国土交通大臣は,
460 既に当該地域で生活路線バスを運行している乗合バス事業者の経営の安定を害
461
462 することがないと認められる場合に限り,
463 既存の生活路線バスが運行していない路線において,
464
465 たに生活路線バスの運行を許可することができるものとする。
466
467
468 第5
469
470
471 特定区域
472 都道府県知事は,
473 特定区域について,
474 時間帯を定めて,
475 当該区域の住民以外の者が乗車する自
476 家用乗用自動車(当該区域の住民又は身体障害者が乗車する場合その他やむを得ない事由がある
477 と認められる場合を除く。
478
479 )の通行を禁止することができるものとする。
480
481
482
483
484
485 前項の禁止に違反した者は,
486 5000円以下の過料に処するものとする。
487
488
489
490 - 5 -
491
492 論文式試験問題集[公法系科目第2問]
493
494 - 1 -
495
496 [公法系科目]
497 〔第2問〕(配点:100〔
498 〔設問1〕,〔設問1〕,〔設問2〕の配点割合は45:30:25〕)
499 Xは,
500 A県B市内の自宅脇に所有する農地において農業を営んでいたが,
501 地域に医療施設が存在
502 せず,
503 その設置を望む声が近隣の農家に強いことから,
504 医師である長男に医院を開設させることと
505 し,
506 所有する農地の一部(以下「本件農地」という。
507
508 )を転用して,
509 そこに長男のための医院を建築
510 することを計画した。
511
512 このため,
513 農地法第4条第1項に基づく農地の転用許可の取得が必要となり,
514
515 XがB市の担当課に相談したところ,
516 農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。
517
518
519 第8条第1項に基づきB市が定めた農業振興地域整備計画の一環としての農用地利用計画(以下「本
520 件計画」という。
521
522 )により,
523 本件農地が同条第2項第1号所定の農用地区域内の農地に指定されてい
524 る旨を指摘された。
525
526 そして,
527 そのままでは同法第17条及び農地法第4条第6項第1号イにより転
528 用は認められず,
529 A県への転用許可申請の前提として,
530 B市に対して,
531 農振法第13条第1項に基
532 づく本件計画の変更により本件農地を農用地区域から除外することを申し出なければならない旨を
533 伝えられた。
534
535
536 Xの相談を受けて,
537 B市の担当課が精査したところ,
538 本件農地を含む区域においては,
539 平成13
540 年4月頃からA県により国の補助を受けて土地改良法に基づく土地改良事業として農業用の用排水
541 施設の改修事業(以下「本件事業」という。
542
543 )が実施されていたことが判明した。
544
545 すなわち,
546 本件事
547 業は,
548 従来の用排水施設の老朽化に伴い,
549 大雨時の周辺農地の冠水や施設の維持管理労力の増加等
550 の弊害が顕在化したために,
551 施設の補修・改修を行うもので,
552 本件農地を直接の受益地とする上流
553 部分については,
554 平成20年末頃には工事が終了していたものの,
555 その後の計画変更による工事の
556 中断もあって,
557 全体としては,
558 平成30年12月に完了している。
559
560 そのため,
561 同課においては,
562
563 件事業は,
564 農振法第10条第3項第2号及び農業振興地域の整備に関する法律施行規則第4条の3
565 第1号イの事業に該当し,
566 農業振興地域の整備に関する法律施行令(以下「農振法施行令」という。
567
568
569 第9条により,
570 当該工事の完了した平成30年度の翌年度の初日から起算して8年を経過するまで
571 は,
572 本件農地は農振法第13条第2項第5号の要件を満たさないとの判断がなされた。
573
574 そして,
575
576 課職員は,
577 Xに対し,
578 この期間が経過するまでは,
579 本件農地についての本件計画の変更の申出は受
580 け付けられない旨を回答した。
581
582
583 しかし,
584 Xは,
585 これに納得せず,
586 B市長が定めた「農業振興地域整備計画の管理に関する運用指
587 針」(以下「本件運用指針」という。
588
589 )第4条第1項により,
590 令和元年5月8日,
591 B市長に対する本
592 件計画の変更申出書(以下「本件申出書」という。
593
594 )を所定の窓口に提出しようとしたものの,
595 その
596 受け取りを拒否されたため,
597 即日,
598 本件申出書を担当課に郵送した。
599
600 本件申出書は,
601 同月10日,
602
603 同課に到達したが,
604 同課は,
605 これをXに返送した。
606
607 これについてXが同課に電話で問い合わせたと
608 ころ,
609 同課職員は,
610 所定の期間が経過するまでは,
611 本件農地についての申出を受け付けることはで
612 きない旨を答えた。
613
614 これに対して,
615 Xは,
616 申出をやめる意思がない旨を職員に伝えたものの,
617 その
618 後,
619 翌令和2年5月中旬になっても,
620 B市から本件計画の変更又はその拒絶についての本件運用指
621 針第4条第4項による通知は受けていない。
622
623
624 Xは,
625 本件計画の変更を実現するため,
626 訴訟を提起すべく,
627 同月13日,
628 弁護士Cに相談した。
629
630
631 以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,
632 弁護士Cの指示に沿って,
633 弁護士Dの立場
634 に立って,
635 B市の反論を想定しながら設問に答えなさい。
636
637
638 なお,
639 関係法令の抜粋を【資料1 関係法令】に,
640 本件運用指針の抜粋を【資料2 B市農業振
641 興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】に,
642 それぞれ掲げてあるので,
643 適宜参照しなさい。
644
645
646 〔設問1〕
647 Xは,
648 B市を被告として,
649 抗告訴訟を提起することを考えている。
650
651 本件計画の変更及びその申出の
652 拒絶は,
653 抗告訴訟の対象となる処分に該当するかを検討しなさい。
654
655
656 - 2 -
657
658 本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であることを前提として,
659 本件申出書を返送されたXが
660 提起すべき抗告訴訟について,
661 その訴訟要件の充足性と本案においてすべき主張をそれぞれ検討しな
662 さい。
663
664 ただし,
665 Xの申出に対する拒否処分はされていないものとし,
666 義務付けの訴えについては検討
667 を要しない。
668
669
670 〔設問2〕
671 仮に,
672 今後,
673 B市によって,
674 本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおりの理由
675 により,
676 同申出を拒絶する通知がなされ,
677 Xがそれに対する取消訴訟を提起する場合,
678 本案におい
679 て,
680 どのような違法事由を主張することが考えられるかを検討しなさい。
681
682 ただし,
683 当該訴訟が適法
684 であることを前提とする。
685
686
687
688 - 3 -
689
690 【法律事務所の会議録】
691 弁護士C:それでは,
692 Xさんの案件について,
693 検討しましょう。
694
695 本件農地について,
696 農用地区域から
697 除外するための本件計画の変更の申出をB市が認めないことに関する争いですから,
698 本件計
699 画の変更,
700 更にその申出の拒絶の処分性から検討しましょう。
701
702
703 弁護士D:農用地区域から除外するための計画変更については,
704 その処分性を否定するB市による主
705 張が予想されます。
706
707 しかし,
708 こうした計画変更やその申出の拒絶の処分性については,
709 下級
710 審の判断も分かれており,
711 まだ,
712 決着はついていないようですので,
713 なお,
714 検討の余地はあ
715 りそうです。
716
717
718 弁護士C:そうですね。
719
720 では,
721 まず,
722 農用地区域を定める計画自体の法的性格を検討してみてくださ
723 い。
724
725 本件計画の設定が区域内の農地所有者の権利義務に及ぼす影響を整理した上,
726 都市計画
727 法上の用途地域指定についての判例(最高裁判所昭和57年4月22日第一小法廷判決,
728
729 集36巻4号705頁)も参考にして,
730 計画としての性質や規制の程度などの違いも考えな
731 がら,
732 本件計画の法的性格を考えてみましょう。
733
734 さらに,
735 それを踏まえて,
736 本件農地のよう
737 な個別の農地を農用地区域から除外するための計画変更の処分性を検討してください。
738
739
740 弁護士D:承知しました。
741
742
743 弁護士C:もっとも,
744 本件計画の変更に処分性を認めることができたとしても,
745 当然に,
746 それについ
747 ての申出の拒絶に処分性が認められることにはなりません。
748
749 農振法上は,
750 本件計画の設定と
751 同様に市町村等の職権による計画変更が前提とされているように思えますが。
752
753
754 弁護士D:本件のような個別の農地についての計画変更を判断するためには,
755 実務上,
756 農地所有者等
757 からの申出が不可欠で,
758 こうした計画変更は,
759 多くの市町村で広く行われています。
760
761 特にB
762 市においては,
763 市長の策定した本件運用指針第4条によって計画変更の申出とそれに対する
764 可否の通知の手続が定められています。
765
766
767 弁護士C:それでは本件運用指針の存在なども考慮に入れながら,
768 その申出の性格と併せて,
769 本件計
770 画の変更及びその申出の拒絶の処分性を検討してください。
771
772 ただし,
773 Xさんは,
774 本件農地に
775 ついての別の処分を申請して,
776 その拒否処分に対して取消訴訟を提起することもできるわけ
777 ですので,
778 本件計画の変更の段階での抗告訴訟による救済の必要性も,
779 検討してください。
780
781
782 弁護士D:承知しました。
783
784
785 弁護士C:つぎに,
786 Xさんは,
787 本件計画の変更の申出をしたわけですが,
788 本件計画の変更及びその申
789 出の拒絶が処分であるとすれば,
790 その申出に対する可否の通知をしないB市の担当課による
791 処理については,
792 行政手続法上も問題がありそうですね。
793
794
795 弁護士D:B市は,
796 農用地区域からの除外に1年程度を要する旨を公表しており,
797 Xさんと同時期に
798 B市にその申出をした他の農地所有者らに対しては,
799 既に先月中に通知がなされています。
800
801
802 弁護士C:それでは,
803 本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であること,
804 Xさんの申出への拒否
805 処分がされていないことを前提として,
806 その置かれている状態やB市による対応の法的な意
807 味を検討した上で,
808 どのような抗告訴訟を提起すべきかを検討してください。
809
810 その訴訟要件
811 の充足性に加えて,
812 本案においてすべき主張についても検討をお願いします。
813
814 義務付けの訴
815 えの提起も考えられますが,
816 これについては,
817 今回の検討からは除外しておきます。
818
819
820 弁護士D:承知しました。
821
822
823 弁護士C:最後に,
824 今後,
825 B市により,
826 本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおり
827 の理由により,
828 本件計画の変更の申出を拒絶する通知がなされる可能性もありますので,
829
830 れに対してXさんが取消訴訟を提起する場合,
831 当該訴訟が適法であることを前提として,
832
833 案においてどのような違法事由の主張が考えられるかも,
834 検討しておいてください。
835
836 今回は,
837
838 手続上の違法は,
839 検討から除外しておきましょう。
840
841
842 弁護士D:B市は,
843 土地改良事業である本件事業との関係から,
844 農振法第13条第2項第5号を満た
845 さないとしていますが,
846 Xさんは,
847 本件農地については,
848 この要件を充足していると考えて
849 - 4 -
850
851 います。
852
853 Xさんによると,
854 本件事業は,
855 農地の冠水の防止を主たる目的とするもので,
856 これ
857 によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくいそうです。
858
859 とりわけ,
860 本件農地は,
861
862 高台にあるため,
863 ほとんど本件事業の恩恵は受けないと言っています。
864
865
866 弁護士C:それでは,
867 まず,
868 その点にどのような違法が考えられるかについて,
869 本件計画の目的も踏
870 まえて,
871 検討してください。
872
873
874 弁護士D:さらに,
875 本件事業全体の完了は平成30年でしたが,
876 本件農地と関連する部分の工事につ
877 いては,
878 その10年も前に完了していたそうで,
879 農振法施行令第9条の規定する8年という
880 期間制限を一律に適用されることにも,
881 Xさんは不満を感じています。
882
883
884 弁護士C:この政令自体が無効であるとまではいえず,
885 その定める8年という期間も不適切とまでは
886 いえないとしても,
887 例外を認めずに,
888 この政令の定める期間制限を機械的に適用しているこ
889 とに問題がありそうですね。
890
891 土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している
892 農振法の趣旨目的を踏まえて,
893 本件農地について,
894 これに基づく政令所定の期間制限に例外
895 を認める解釈を検討してください。
896
897
898 弁護士D:承知しました。
899
900
901
902 - 5 -
903
904 【資料1
905
906
907 関係法令】
908
909 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋)
910 (農地の転用の制限)
911
912 第4条
913
914 農地を農地以外のものにする者は,
915 都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
916
917
918 (以
919
920 下略)
921 一〜九
922 2〜5
923
924
925 (略)
926
927 (略)
928
929 第1項の許可は,
930 次の各号のいずれかに該当する場合には,
931 することができない。
932
933 (以下略)
934
935
936 次に掲げる農地を農地以外のものにしようとする場合
937
938
939 農用地区域(中略)内にある農地
940
941
942
943 (略)
944
945 二〜六
946
947 (略)
948
949 7〜11
950
951 (略)
952
953
954
955 農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)(抜粋)
956 (農業振興地域の整備の原則)
957
958 第2条
959
960 この法律に基づく農業振興地域の指定及び農業振興地域整備計画の策定は,
961 農業の健全な発
962
963 展を図るため,
964 土地の自然的条件,
965 土地利用の動向,
966 地域の人口及び産業の将来の見通し等を考慮
967 し,
968 かつ,
969 国土資源の合理的な利用の見地からする土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意
970 して,
971 農業の近代化のための必要な条件をそなえた農業地域を保全し及び形成すること並びに当該
972 農業地域について農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進することを旨
973 として行なうものとする。
974
975
976 (市町村の定める農業振興地域整備計画)
977 第8条
978
979 都道府県知事の指定した一の農業振興地域の区域の全部又は一部がその区域内にある市町村
980
981 は(中略)その区域内にある農業振興地域について農業振興地域整備計画を定めなければならない。
982
983
984
985
986 農業振興地域整備計画においては,
987 次に掲げる事項を定めるものとする。
988
989
990
991
992 農用地等として利用すべき土地の区域(以下「農用地区域」という。
993
994 )及びその区域内にある土
995 地の農業上の用途区分
996
997 二〜六
998
999 (略)
1000
1001
1002
1003 (略)
1004
1005
1006
1007 市町村は,
1008 第1項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは(中略)当該農業
1009 振興地域整備計画のうち第2項第1号に掲げる事項に係るもの(以下「農用地利用計画」という。
1010
1011
1012 について,
1013 都道府県知事に協議し,
1014 その同意を得なければならない。
1015
1016
1017 (農業振興地域整備計画の基準)
1018
1019 第10条
1020
1021 (略)
1022
1023
1024
1025 (略)
1026
1027
1028
1029 市町村の定める農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画は,
1030 当該農業振興地域内にある農用
1031 地等及び農用地等とすることが適当な土地であつて,
1032 次に掲げるものにつき,
1033 当該農業振興地域に
1034 おける農業生産の基盤の保全,
1035 整備及び開発の見地から必要な限度において農林水産省令で定める
1036 基準に従い区分する農業上の用途を指定して,
1037 定めるものでなければならない。
1038
1039
1040
1041
1042
1043 (略)
1044 土地改良法(中略)に規定する土地改良事業又はこれに準ずる事業で,
1045 農業用用排水施設の新
1046 設又は変更,
1047 区画整理,
1048 農用地の造成その他の農林水産省令で定めるものの施行に係る区域内に
1049 ある土地
1050 - 6 -
1051
1052 三〜五
1053 4,
1054
1055
1056 (略)
1057
1058 (略)
1059
1060 (農業振興地域整備計画の変更)
1061 第13条
1062
1063 都道府県又は市町村は,
1064 農業振興地域整備基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の
1065
1066 変更により(中略)又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは(中略)遅滞
1067 なく,
1068 農業振興地域整備計画を変更しなければならない。
1069
1070 (以下略)
1071
1072
1073 前項の規定による農業振興地域整備計画の変更のうち,
1074 農用地等以外の用途に供することを目的
1075 として農用地区域内の土地を農用地区域から除外するために行う農用地区域の変更は,
1076 次に掲げる
1077 要件のすべてを満たす場合に限り,
1078 することができる。
1079
1080
1081 一〜四
1082
1083
1084 (略)
1085
1086 当該変更に係る土地が第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合にあつては,
1087 当該土
1088 地が,
1089 農業に関する公共投資により得られる効用の確保を図る観点から政令で定める基準に適合
1090 していること。
1091
1092
1093
1094 3,
1095
1096
1097 (略)
1098
1099 (土地利用についての勧告)
1100 第14条
1101
1102 市町村長は,
1103 農用地区域内にある土地が農用地利用計画において指定した用途に供されて
1104
1105 いない場合において,
1106 農業振興地域整備計画の達成のため必要があるときは,
1107 その土地の所有者又
1108 はその土地について所有権以外の権原に基づき使用及び収益をする者に対し,
1109 その土地を当該農用
1110 地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができる。
1111
1112
1113
1114
1115 市町村長は,
1116 前項の規定による勧告をした場合において,
1117 その勧告を受けた者がこれに従わない
1118 とき,
1119 又は従う見込みがないと認めるときは,
1120 その者に対し,
1121 その土地を農用地利用計画において
1122 指定した用途に供するためその土地について所有権又は使用及び収益を目的とする権利を取得しよ
1123 うとする者で市町村長の指定を受けたものとその土地についての所有権の移転又は使用及び収益を
1124 目的とする権利の設定若しくは移転に関し協議すべき旨を勧告することができる。
1125
1126
1127 (都道府県知事の調停)
1128
1129 第15条
1130
1131 市町村長が前条第2項の規定による勧告をした場合において,
1132 その勧告に係る協議が調わ
1133
1134 ず,
1135 又は協議をすることができないときは,
1136 同項の指定を受けた者は,
1137 その勧告があつた日から起
1138 算して2箇月以内に(中略)都道府県知事に対し,
1139 その協議に係る所有権の移転又は使用及び収益
1140 を目的とする権利の設定若しくは移転につき必要な調停をなすべき旨を当該市町村長を経由して申
1141 請することができる。
1142
1143
1144
1145
1146 都道府県知事は,
1147 前項の規定による申請があつたときは,
1148 すみやかに調停を行なうものとする。
1149
1150
1151
1152 3,
1153
1154
1155 (略)
1156
1157 (農用地区域内における開発行為の制限)
1158 第15条の2
1159
1160 農用地区域内において開発行為(中略)をしようとする者は,
1161 あらかじめ(中略)都
1162
1163 道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
1164
1165 (以下略)
1166 一〜十二
1167
1168 (略)
1169
1170 2〜10 (略)
1171 (農地等の転用の制限)
1172 第17条
1173
1174 都道府県知事(中略)は,
1175 農用地区域内にある(中略)農地及び採草放牧地についての同
1176
1177 法〔(注)農地法〕第4条第1項(中略)の許可に関する処分を行うに当たつては,
1178 これらの土地が
1179 農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない。
1180
1181
1182
1183
1184 農業振興地域の整備に関する法律施行令(昭和44年政令第254号)(抜粋)
1185
1186
1187 (注)
1188
1189 本政令中,
1190 「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。
1191
1192
1193
1194 (農用地区域の変更に係る基準)
1195 - 7 -
1196
1197 第9条
1198
1199 法第13条第2項第5号の政令で定める基準は,
1200 当該変更に係る土地が法第10条第3項第
1201
1202 2号に規定する事業の工事が完了した年度の翌年度の初日から起算して8年を経過した土地である
1203 こととする。
1204
1205
1206
1207
1208 農業振興地域の整備に関する法律施行規則(昭和44年農林省令第45号)(抜粋)
1209
1210
1211 (注)
1212
1213 本規則中,
1214 「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。
1215
1216
1217
1218 (土地改良事業等)
1219 第4条の3
1220
1221 法第10条第3項第2号の農林水産省令で定める事業は,
1222 次に掲げる要件を満たしてい
1223
1224 るものとする。
1225
1226
1227
1228
1229 次のいずれかに該当する事業(主として農用地の災害を防止することを目的とするものその他
1230 の農業の生産性を向上することを直接の目的としないものを除く。
1231
1232 )であること。
1233
1234
1235
1236
1237 農業用用排水施設の新設又は変更(当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図
1238 られると見込まれない土地にあつては,
1239 当該事業を除く。
1240
1241
1242
1243 ロ〜ホ
1244
1245
1246 (略)
1247
1248 次のいずれかに該当する事業であること。
1249
1250
1251
1252
1253 国が行う事業
1254
1255
1256
1257 国が直接又は間接に経費の全部又は一部につき補助を行う事業
1258
1259 【資料2
1260
1261 B市農業振興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】
1262
1263 (目的)
1264 第1条
1265
1266 農用地区域は,
1267 今後おおむね10年以上にわたり農業上の利用を確保すべき土地について設
1268
1269 定するものであり,
1270 農用地利用計画の変更については,
1271 十分慎重を期す必要があるため,
1272 その場合
1273 における運用基準を定めるものである。
1274
1275
1276 (変更手続き)
1277 第4条
1278
1279 農用地利用計画の変更を必要とする者(以下「申出人」という。
1280
1281 )は,
1282 別に定める申出書と必
1283
1284 要な関係書類を添えて,
1285 正副2部作成し,
1286 農業振興課窓口に提出しなければならない。
1287
1288
1289
1290
1291 農用地利用計画の変更の申出が計画を変更すべき事由に該当する場合は,
1292 B市農業振興審議会に
1293 付議し,
1294 意見を求めるものとする。
1295
1296
1297
1298
1299
1300 農用地利用計画の変更をするときは,
1301 県(国)と事前に協議を行うこととする。
1302
1303
1304
1305
1306
1307 申出書による農用地利用計画の変更の可否については,
1308 申出人に通知するものとする。
1309
1310
1311
1312 - 8 -
1313
1314