1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 -1-
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 報道機関による取材活動については,
11 一般にその公共性が認められているものの,
12 取材対象者
13 の私生活の平穏の確保の観点から問題があるとされ,
14 とりわけ,
15 特定の事件・事象に際し取材活動
16 が過熱・集中するいわゆるメディア・スクラムについて,
17 何らかの対策がとられる必要があると指
18 摘されてきた。
19
20 中でも,
21 取材活動の対象が,
22 犯罪被害者及びその家族等となる場合,
23 それらの者に
24 ついては,
25 何の落ち度もなく,
26 悲嘆の極みというべき状況にあることも多いことから,
27 報道機関に
28 対して批判が向けられてきた。
29
30
31 そのような状況の下で,
32 犯罪被害者及びその家族等の保護を目的として,
33 これらの者に対する取
34 材活動を制限する立法が行われることとなった。
35
36
37 具体的には,
38 まず,
39
40 「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」を「犯罪等」とし,
41
42 「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」を「犯罪被害者等」とした上で,
43 報道を業と
44 する者(個人を含む。
45
46 以下「報道関係者」という。
47
48 )の取材活動について,
49 犯罪被害者等に対して
50 取材及び取材目的での接触(自宅・勤務先等への訪問,
51 電話,
52 ファックス,
53 メール,
54 手紙,
55 外出時
56 の接近等)を行うこと(以下「取材等」という。
57
58 )を禁止する。
59
60 ただし,
61 当該犯罪被害者等の同意
62 がある場合はこの限りでない(この同意は,
63 報道関係者一般に対するものでも,
64 特定の報道関係者
65 に対するものでもあり得る。
66
67 )。
68
69 なお,
70 捜査機関は,
71 捜査に当たる場合には,
72 犯罪被害者等が取材等
73 に同意するか否かについて確認し,
74 報道関係者から問合せがあった場合には回答するものとするほ
75 か,
76 犯罪被害者等が希望する場合には,
77 その一部又は全員が取材等に同意しないことを記者会見等
78 で公表することもできる。
79
80
81 次に,
82 以上の取材等の禁止(犯罪被害者等の同意がある場合を除く。
83
84 )に違反する報道関係者が
85 あった場合,
86 捜査機関が所在する都道府県の公安委員会は,
87 当該報道関係者に対して,
88 行政手続法
89 等の定めるところに従い憲法上適正な手続を履践した上で,
90 取材等中止命令を発することができる。
91
92
93 この命令に違反した者は処罰される。
94
95 したがって,
96 犯罪被害者等へ取材等を行うことは,
97 犯罪被害
98 者等の同意がある場合を除き禁止されるが,
99 直ちに処罰されるわけではなく,
100 処罰されるのは取材
101 等中止命令が発出されているにもかかわらず,
102 取材等を行った場合であるということになる。
103
104
105 なお,
106 犯罪被害者等は,
107 取材等中止命令の解除を申し出ることができ,
108 その場合,
109 当該命令は
110 速やかに解除される。
111
112 また,
113 上述のとおり,
114 犯罪被害者等の同意がある場合は,
115 取材等の禁止は適
116 用されない。
117
118
119 以上のような立法による取材活動の制限について,
120 その憲法適合性を論じなさい。
121
122
123
124 -2-
125
126 [行政法]
127 A市では,
128 A市開発事業の手続及び基準に関する条例(以下「条例」という。
129
130 )が定められてい
131 る。
132
133 条例においては,
134 都市計画法(以下「法」という。
135
136 )第29条第1項に基づく開発許可が必要
137 な開発事業を行おうとする事業者は,
138 開発許可の申請に先立って市長と事前協議をしなければなら
139 ず,
140 また,
141 開発事業の内容等について,
142 周辺住民に対して説明会を開催するなどの措置を講じるこ
143 ととされている。
144
145 なお,
146 A市長は,
147 地方自治法上の中核市の長として,
148 法第29条の開発許可に関
149 し都道府県知事と同じ権限を有している。
150
151 また,
152 これらの条例の規定は,
153 法の委任に基づくもので
154 はないが,
155 その内容に違法なところはない。
156
157
158 Bは,
159 A市において,
160 平成15年から産業廃棄物処理施設(以下「第1処分場」という。
161
162 )を営
163 んでいる。
164
165 平成25年になって,
166 Bは,
167 第1処分場の隣接地に新たな産業廃棄物処理施設(以下「第
168 2処分場」という。
169
170 )を設置することを計画した。
171
172 第2処分場を設置するための土地の区画形質の
173 変更(土地の区画変更,
174 切土・盛土など)は,
175 条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため,
176
177 Bは,
178 A市長に対し,
179 条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。
180
181 この第2処分場の設置に対して
182 は,
183 生活環境の悪化を危惧する周辺住民が強い反対運動を行っていたことから,
184 A市長は,
185 Bに対
186 し,
187 条例に定められた説明会を開催した上で,
188 周辺住民の同意を得るように指導した。
189
190 Bはこれに
191 従って,
192 周辺住民に対し,
193 説明会の開催を提案したが,
194 周辺住民は説明会をボイコットし,
195 同意も
196 一切しなかった。
197
198
199 Bは,
200 第2処分場の設置に係る開発事業は,
201 法の規定に照らして適法であり,
202 たとえ周辺住民
203 の同意がなくても,
204 A市長が開発許可を拒否することはできないと考え,
205 A市長に対し,
206 事前協議
207 を開始するよう改めて申し入れた。
208
209 そこで,
210 A市長は,
211 条例による手続を進め,
212 Bに対して開発許
213 可を与えることにした。
214
215 その一方で,
216 A市は,
217 周辺住民の強力な反対を考慮し,
218 Bとの間で開発協
219 定を締結し,
220 その協定においては,
221 「Bが行う廃棄物処理事業に係る開発事業については,
222 今回の
223 開発区域内の土地及び規模に限るものとし,
224 今後一切の例外は認めない。
225
226 」という条項(以下「本
227 件条項」という。
228
229 )が定められた。
230
231 Bは,
232 本件条項を含む開発協定の締結には当初難色を示したが,
233
234 周辺住民との関係を改善することも必要であると考え,
235 協定の締結に同意した。
236
237 なお,
238 この開発協
239 定は,
240 法や条例に根拠を有するものではなく,
241 また,
242 法第33条第1項及び条例の定める基準には,
243
244 本件条項に関係するものは存在しない。
245
246
247 令和2年になり,
248 第2処分場がその容量の限界に達したため,
249 Bは更に新たな産業廃棄物処理
250 施設(以下「第3処分場」という。
251
252 )を設置することを計画した。
253
254 第3処分場を設置するための土
255 地の区画形質の変更も条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため,
256 Bは,
257 同年6月,
258 A市
259 長に対し,
260 条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。
261
262 A市長は,
263 同年7月,
264 Bに対し,
265 「本件条
266 項により,
267 第3処分場の設置に係る開発事業についての協議を受けることはできない。
268
269 」という内
270 容の通知(以下「本件通知」という。
271
272 )をした。
273
274
275 Bは,
276 本件条項の法的拘束力に疑問を抱いており,
277 また,
278 本件条項を前提としたA市長の対応
279 に不満であることから,
280 本件通知の取消訴訟を提起することを考えている。
281
282
283 以上を前提として,
284 以下の設問に答えなさい。
285
286
287 なお,
288 法及び条例の抜粋を【資料】として掲げるので,
289 適宜参照しなさい。
290
291
292 〔設問1〕
293 本件条項に法的拘束力は認められるか。
294
295 本件条項の性質を示した上で,
296 法の定める開発許可制度
297 との関係を踏まえて,
298 検討しなさい。
299
300 なお,
301 第2処分場の設置に当たってなされたA市長の指導は
302 適法であることを前提にすること。
303
304
305
306 -3-
307
308 〔設問2〕
309 本件通知は,
310 取消訴訟の対象となる処分に当たるか。
311
312 Bの立場に立って,
313 想定されるA市の反
314 論を踏まえて,
315 検討しなさい。
316
317
318
319 -4-
320
321 【資料】
322
323
324 都市計画法(昭和43年法律第100号)(抜粋)
325
326 (定義)
327 第4条
328 12
329
330 1〜11
331
332 (略)
333
334 この法律において「開発行為」とは,
335 主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供す
336 る目的で行なう土地の区画形質の変更をいう。
337
338
339
340 13〜16
341
342 (略)
343
344 (開発行為の許可)
345 第29条
346
347 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は,
348 あらかじめ,
349
350
351 国土交通省令で定めるところにより,
352 都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
353
354 (以
355 下略)
356 2・3
357
358 (略)
359
360 (開発許可の基準)
361 第33条
362
363 都道府県知事は,
364 開発許可の申請があつた場合において,
365 当該申請に係る開発行為が,
366
367
368 に掲げる基準(中略)に適合しており,
369 かつ,
370 その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命
371 令の規定に違反していないと認めるときは,
372 開発許可をしなければならない。
373
374 (以下略)
375 2〜8
376
377
378 (略)
379
380 A市開発事業の手続及び基準に関する条例(抜粋)
381
382 (目的)
383 第1条
384
385 この条例は,
386 開発事業の計画に係る事前協議等の手続及び都市計画法(昭和43年法律第1
387
388 00号。
389
390 以下「法」という。
391
392 )の規定に基づく開発許可の基準その他開発事業に関し必要な事項を
393 定めることにより,
394 良好な都市環境の保全及び形成を図り,
395 もって秩序ある調和のとれたまちづく
396 りに寄与することを目的とする。
397
398
399 (定義)
400 第2条
401
402 この条例において,
403 次の各号に掲げる用語の意義は,
404 それぞれ当該各号に定めるところによ
405
406 る。
407
408
409
410
411 開発事業
412
413 法第29条第1項(中略)の規定による開発行為の許可(中略)を要する開発行
414
415 為をいう。
416
417
418
419
420
421
422
423 開発事業区域
424
425
426
427 事業者
428
429 開発事業を行おうとする土地の区域をいう。
430
431
432
433 開発事業を行おうとする者をいう。
434
435
436
437 前項に規定するもののほか,
438 この条例において使用する用語は,
439 法(中略)において使用する用
440 語の例による。
441
442
443
444 (事前協議)
445 第4条
446
447 事業者は,
448 開発事業を行おうとするときは,
449 あらかじめ,
450 規則で定めるところにより,
451 開発
452
453 事業の計画について市長と協議しなければならない。
454
455
456 (事前周知)
457 第8条
458
459 事業者は,
460 規則で定めるところにより,
461 開発事業(中略)の計画の内容,
462 工事の概要,
463 環境
464
465 への配慮等について,
466 当該開発事業を行う地域の周辺住民等に対しあらかじめ説明会を開催するな
467 ど当該開発事業に関する周知について必要な措置を講じ,
468 その結果を市長に報告しなければならな
469 い。
470
471
472 (指導及び勧告)
473 -5-
474
475 第10条
476
477 市長は,
478 次の各号のいずれかに該当する者に対し,
479 必要な措置を講じるよう指導し,
480 又は
481
482 勧告することができる。
483
484
485
486
487 第4条(中略)の規定による協議をせず,
488 又は虚偽の内容で協議を行った者
489
490 二〜五
491
492 (略)
493
494 (命令)
495 第11条
496
497 市長は,
498 前条の勧告を受けた者が正当な理由なくこれに従わないときは,
499 開発事業に係る
500
501 工事の中止を命じ,
502 又は相当な期限を定めて違反を是正するために必要な措置を講じるよう命じる
503 ことができる。
504
505
506
507 -6-
508
509