1 論文式試験問題集
2 [民法・商法・民事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
12
13
14 【事実】
15 1.Aは,
16 早くに夫と死別し,
17 A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしていた(以下では,
18
19 この土地及び建物を「本件不動産」という。
20
21 )。
22
23 Aは,
24 身の回りのことは何でも一人で行っていた
25 が,
26 高齢であったことから,
27 近所に住むAの娘Bが,
28 時折,
29 Aの自宅を訪問してAの様子を見る
30 ようにしていた。
31
32
33 2.令和2年4月10日,
34 Aの友人であるCがAの自宅を訪れると,
35 Aは廊下で倒れており,
36 呼び
37 掛けても返事がなかった。
38
39 Aは,
40 Cが呼んだ救急車で病院に運ばれ,
41 一命を取り留めたものの,
42
43 意識不明の状態のまま入院することになった。
44
45
46 3.令和2年4月20日,
47 BはCの自宅を訪れ,
48 Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。
49
50 Cは,
51
52 Bから,
53 Aの意識がまだ戻らないこと,
54 Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが,
55
56 突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き,
57 無利息で100万円ほど融
58 通してもよいと申し出た。
59
60
61 そこで,
62 BとCは,
63 同日,
64 返還の時期を定めずに,
65 CがAに100万円を貸すことに合意し,
66
67 CはBに100万円を交付した(以下では,
68 この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。
69
70 )。
71
72
73 本件消費貸借契約締結の際,
74 BはAの代理人であることを示した。
75
76 Bは,
77 受領した100万円を
78 Aの入院費用の支払に充てた。
79
80
81 4.令和2年4月21日,
82 Bは,
83 家庭裁判所に対し,
84 Aについて後見開始の審判の申立てをした。
85
86
87 令和2年7月10日,
88 家庭裁判所は,
89 Aについて後見開始の審判をし,
90 Bが後見人に就任した。
91
92
93 そこで,
94 CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ,
95 BはAから本件消費貸
96 借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として,
97 これを拒絶した。
98
99
100 〔設問1〕
101 Cは,
102 本件消費貸借契約に基づき,
103 Aに対して,
104 貸金の返還を請求することができるか。
105
106
107 5.その後,
108 Aの事理弁識能力は著しい改善を見せ,
109 令和3年7月20日,
110 【事実】4の後見開始
111 の審判は取り消された。
112
113 しかし,
114 長期の入院生活によって運動能力が低下したAは,
115 介護付有
116 料老人ホーム甲に入居することにし,
117 甲を運営する事業者と入居に関する契約を締結し,
118 これ
119 に基づき,
120 入居一時金を支払った。
121
122 また,
123 甲の入居費用は月額25万円であり,
124 毎月末に翌月
125 分を支払うとの合意がされた。
126
127 同日,
128 Aは,
129 甲に入居した。
130
131
132 6.Aは,
133 本件不動産以外にめぼしい財産がなく,
134 甲の入居費用を支払えなくなったことから,
135 令
136 和4年5月1日,
137 知人のDから,
138 弁済期を令和5年4月末日とし,
139 無利息で500万円を借り
140 入れた。
141
142
143 7.令和5年6月10日,
144 Aは,
145 親族であるEから,
146 本件不動産の売却を持ち掛けられた。
147
148 Eは,
149
150 実際には本件不動産が3000万円相当の価値を有していることを知っていたが,
151 Aをだまし
152 て本件不動産を不当に安く買い受けようと考え,
153 様々な虚偽の事実を並べ立てて,
154 本件不動産
155 の価値は300万円を超えないと言葉巧みに申し向けた。
156
157 Aは,
158 既に生活の本拠を甲に移して
159 おり,
160 将来にわたって本件不動産を使用する見込みもなかったことから,
161 売買代金を債務の弁
162 済等に充てようと考え,
163 その価値は300万円を超えないものであると信じて,
164 代金300万
165 円で本件不動産を売却することにした。
166
167 そこで,
168 同月20日,
169 Aは,
170 Eとの間で,
171 本件不動産
172 を代金300万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。
173
174 )を締結し,
175 同日,
176 本件
177
178 - 2 -
179
180 自宅についてAからEへの売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。
181
182 )がさ
183 れた。
184
185
186 8.令和5年7月10日,
187 本件売買契約の事実を知ったDは,
188 Aに対して,
189 本件不動産の価値は
190 3000万円相当であり,
191 Eにだまされているとして,
192 本件売買契約を取り消すように申し向
193 けたが,
194 Aは,
195 「だまされているのだとしても,
196 親族間で紛争を起こしたくない」として取り合
197 おうとしない。
198
199 なお,
200 本件売買契約に基づく代金支払債務の履行期は未だ到来しておらず,
201 E
202 は,
203 本件売買契約の代金300万円を支払っていない。
204
205
206 〔設問2〕
207 Dは,
208 本件不動産について強制執行をするための前提として,
209 Eに対し,
210 本件登記の抹消登記
211 手続を請求することを考えている。
212
213 考えられる複数の法律構成を示した上で,
214 Dの請求が認められ
215 るかどうかを検討しなさい。
216
217
218
219 - 3 -
220
221 [商
222
223 法]
224
225 次の文章を読んで,
226 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
227
228
229 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
230
231 )は,
232 飲食店の経営,
233 飲食店の経営を行う会社の株式を保有
234 することにより当該会社の事業活動を支配・管理すること等を目的とする会社であり,
235 種類株式発
236 行会社ではない。
237
238 甲社の発行済株式の総数は1000株であり,
239 そのうち,
240 創業者であるAが40
241 0株を,
242 Aの息子であるBが300株を,
243 Aの娘であるCが300株を,
244 それぞれ保有していた。
245
246
247 甲社の取締役はAのみであり,
248 監査役は置いていない。
249
250
251 2.甲社は,
252 Aが店長兼料理長となっている日本料理店を営むとともに,
253 いずれも飲食店の経営等を
254 目的とする乙株式会社(以下「乙社」という。
255
256 )と丙株式会社(以下「丙社」という。
257
258 )の発行済株
259 式の全てを保有していた。
260
261 乙社の取締役はBのみであり,
262 乙社はBが店長兼料理長となっているフ
263 ランス料理レストラン(以下「レストラン乙」という。
264
265 )を営んでいる。
266
267 丙社の取締役はCのみで
268 あり,
269 丙社はCが店長兼料理長となっているイタリア料理レストラン(以下「レストラン丙」とい
270 う。
271
272 )を営んでいる。
273
274 甲社における乙社及び丙社の株式の帳簿価額は,
275 それぞれ3000万円であ
276 った。
277
278
279 ここ数年,
280 甲社の貸借対照表上の総資産額は1億円前後で推移しており,
281 令和2年6月10日
282 に確定した令和元年4月1日から令和2年3月31日までの事業年度に係る貸借対照表上の総資産
283 額も1億円であった。
284
285 甲社は,
286 令和2年4月1日以降,
287 下記6の合意までの間に,
288 資本金,
289 準備金
290 及び剰余金の額に影響を与える行為や自己株式の取得を行っておらず,
291 他社との間で吸収合併や吸
292 収分割,
293 事業の譲受けも行っていない。
294
295 また,
296 甲社は,
297 これまでに新株予約権を発行したこともな
298 い。
299
300
301 3.Bは,
302 個人として,
303 200本以上に及ぶワインのコレクションを有していたが,
304 収納スペースの
305 問題もあり,
306 コレクションの入替えを円滑に行うために,
307 その半数程度を処分することを検討して
308 いた。
309
310 ちょうどその頃,
311 レストラン乙の改装が行われており,
312 ワインセラーのスペースにも余裕が
313 できることとなるため,
314 Bは,
315 自己のワインコレクションから100本を選んで乙社に買い取らせ
316 ることとした。
317
318
319 そのためにBが選んだワイン100本(以下「本件ワイン」という。
320
321 )の市場価格は総額150
322 万円であり,
323 レストラン乙での提供価格は総額300万円程度となることが見込まれた。
324
325
326 4.Bは,
327 乙社による本件ワインの買取りにつき,
328 父であり,
329 甲社の代表者でもあるAには話をして
330 おいた方がいいだろうと考え,
331 令和2年6月23日,
332 Aの自宅を訪れた。
333
334 Bは,
335 Aに対し,
336 本件ワ
337 インのリストと市場価格を示しつつ,
338 本件ワインをレストラン乙で提供するならば総額で300万
339 円程度になる旨を述べた。
340
341 これに対して,
342 Aは,
343 「それならば300万円で,
344 乙社が買い取ること
345 にすればいいよ。
346
347 」と述べた。
348
349
350 令和2年6月25日,
351 乙社は,
352 Bから本件ワインを300万円で買い取った(以下「本件買取り」
353 という。
354
355 )。
356
357
358 5.令和2年7月1日,
359 Aと共に改装後のレストラン乙を訪れたCは,
360 そのワインセラーをのぞいた
361 ことをきっかけとして,
362 本件買取りが行われたことを初めて知った。
363
364 本件ワインの買取価格を聞い
365 たCは,
366
367 「さすがに高過ぎるんじゃないか。
368
369 」と不満を述べたが,
370 Aは,
371
372 「改装祝いを兼ねているし。
373
374 」
375 と述べ,
376 Bも,
377 「おやじが決めたんだから,
378 お前は黙っていろよ。
379
380 」と言って取り合わなかった。
381
382 そ
383 れまでもAがBばかりを支援することに不満を募らせていたCは,
384 大いに憤った。
385
386
387 〔設問1〕
388 Cは,
389 甲社の株主として,
390 本件買取りに関するBの乙社に対する損害賠償責任とAの甲社に対
391
392 - 4 -
393
394 する損害賠償責任を追及したいと考えている。
395
396 B及びAの会社法上の損害賠償責任の有無とそれぞ
397 れの責任をCが追及する方法について,
398 論じなさい。
399
400
401 6.本件買取りをきっかけとして,
402 A及びBとたもとを分かつ決心をしたCは,
403 甲社から独立してレ
404 ストラン丙を経営したいと考え,
405 Aと交渉を行った。
406
407 その結果,
408 令和2年8月12日,
409 Cが保有す
410 る甲社株式を甲社に譲渡するのと引換えに,
411 甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する旨の合意(以
412 下「本件合意」という。
413
414 )が成立した。
415
416
417 〔設問2〕
418 本件合意の内容を実現させるために甲社及び丙社において会社法上必要となる手続について,
419
420 説明しなさい。
421
422 なお,
423 令和2年8月12日現在の甲社の分配可能額は5000万円であり,
424 その後,
425
426 分配可能額に変動をもたらす事象は生じていない。
427
428
429
430 - 5 -
431
432 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
433 7:3)
434 次の文章を読んで,
435 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
436
437
438 【事例】
439 X運転の普通乗用自動車が,
440 Y運転の普通自動二輪車に追突する事故が発生した(以下「本件事
441 故」という。
442
443 )。
444
445
446 Xは,
447 Yに生じた損害として,
448 Y所有の自動二輪車の損傷について損害賠償債務が発生したこと
449 を認め,
450 このYの物損については,
451 XY間の合意に基づき,
452 Xの加入する保険会社から損害額の全
453 額が支払われた。
454
455 しかし,
456 本件事故によるYの人的損害の発生については,
457 XY間の主張が食い違
458 い,
459 交渉が平行線となった。
460
461
462 そこで,
463 Xは,
464 Yに対し,
465 本件事故に基づくYの人的損害については生じていないとして,
466 X
467 のYに対する本件事故による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴えを提起した(以
468 下「本訴」という。
469
470 )。
471
472
473 Yは,
474 この本訴請求に対し,
475 本件事故によりYに頭痛の症状が生じ,
476 現在も治療中であると主
477 張して争うとともに,
478 本件事故による治療費用としてYが多額の支出をしているので,
479 その支出
480 と通院に伴う慰謝料の一部のみをまずは請求すると主張し,
481 Xに対し,
482 本件事故による損害賠償
483 請求の一部請求として,
484 500万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求め
485 る反訴を提起した。
486
487
488 なお,
489 以下の各設問では,
490 遅延損害金については検討の対象外とし,
491 論じる必要はない。
492
493
494 〔設問1〕
495 受訴裁判所は,
496 審理の結果,
497 Yを治療した医師の証言等の結果から,
498 以下のような心証を形成
499 した。
500
501
502 Yには本件事故後に頭痛の症状が認められたが,
503 既に必要な治療は終了している。
504
505 そして,
506 そ
507 の頭痛の症状及び程度からすれば,
508 本件事故前からのYの持病である慢性頭痛と考えるのが相当で
509 あるから,
510 本件事故による損害とは認められない。
511
512 その他,
513 本件事故によるYの人的損害の発生を
514 認めるに足りる証拠はない。
515
516 そして,
517 Yは,
518 本件事故による物損について損害額の全額の支払を受
519 けているから,
520 Yの損害はすべて填補されたというべきである。
521
522
523 この場合に,
524 受訴裁判所は,
525 本訴についてどのような判決を下すべきか,
526 判例の立場に言及し
527 つつ,
528 答えなさい。
529
530 また,
531 本訴についての判決の既判力は,
532 当該判決のどのような判断について生
533 じるか,
534 答えなさい。
535
536
537 〔設問2〕
538 裁判所は,
539
540 〔設問1〕のとおり本訴について判決するとともに,
541 反訴(一部請求)について請求棄却
542 の判決をして,
543 同判決が確定した(以下「前訴判決」という。
544
545
546 )。
547
548
549 しかし,
550 前訴判決後,
551 Yは,
552 当初訴えていた頭痛だけでなく,
553 手足に強いしびれが生じるようにな
554 り,
555 介護が必要な状態となった。
556
557
558 そこで,
559 Yは,
560 前訴判決後に生じた各症状は本件事故に基づくものであり,
561 後遺症も発生したと主
562 張して,
563 前訴判決後に生じた治療費用,
564 後遺症による逸失利益等の財産的損害とともに本件事故の後
565 遺症による精神的損害を理由に,
566 Xに対し,
567 本件事故による損害賠償請求の残部請求として,
568 300
569 0万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求める新たな訴えを提起した(以下「後
570 訴」という。
571
572
573 )。
574
575
576
577 - 6 -
578
579 前訴判決を前提とした上で,
580 後訴においてYの残部請求が認められるためにどのような根拠付けが
581 可能かについて,
582 判例の立場に言及しつつ,
583 前訴におけるX及びYの各請求の内容に留意して,
584 Y側
585 の立場から論じなさい。
586
587
588
589 - 7 -
590
591