1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事]
9
10 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
11 以下の各設問に答えなさい。
12
13 ただし,
14 登記上の利害関
15 係を有する第三者に対する承諾請求権(不動産登記法第68条参照)を検討する必要はない。
16
17
18 なお,
19 解答に当たっては,
20 文中において特定されている日時にかかわらず,
21 試験時に施行されて
22 いる法令に基づいて答えなさい。
23
24
25 〔設問1〕
26 弁護士Pは,
27 Xから次のような相談を受けた。
28
29
30 【Xの相談内容】
31 「私(X)はZ県の出身ですが,
32 大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。
33
34 近年,
35
36 定年退職の時期が迫り,
37 老後は故郷に戻りたいと考え,
38 自宅を建築するためにZ県内で手頃な
39 土地を探していたところ,
40 甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,
41
42 立地も良かったことから,
43 甲土地を買うことにしました。
44
45
46 私は,
47 令和2年5月1日,
48 Aから,
49 売買代金500万円,
50 売買代金の支払時期及び所有権移転
51 登記の時期をいずれも同月20日とし,
52 代金の完済時に所有権が移転するとの約定で甲土地を買
53 い受け,
54 同月20日に売買代金を支払いました。
55
56 なお,
57 所有権移転登記については,
58 甲土地の付
59 近に居住し,
60 料亭を営む私の兄のBを名義人とした方が都合がよいと考え,
61 AやBと相談の上,
62
63 B名義で所有権移転登記を経由することにしました。
64
65
66 ところが,
67 甲土地の購入後,
68 私は,
69 引き続き勤務先で再雇用されることになり,
70 甲土地上に自
71 宅を建築するのを見合わせることにしました。
72
73 すると,
74 令和7年7月上旬頃,
75 甲土地の隣地に住
76 むCから,
77 甲土地を使わないのであれば1000万円で買い受けたいとの申出があり,
78 諸経費の
79 負担を考慮しても相当のもうけがでることから,
80 甲土地をCに売ることにしました。
81
82
83 私は,
84 早速,
85 Cに甲土地を売却する準備にとりかかり,
86 甲土地の登記事項証明書を取り寄せま
87 した。
88
89 すると,
90 原因を令和2年8月1日金銭消費貸借同日設定,
91 債権額を600万円,
92 債務者を
93 B,
94 抵当権者をYとする別紙登記目録(略)記載の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」
95 という。
96
97 )がされていることが判明しました。
98
99
100 私は,
101 慌ててBに確認したところ,
102 Bは,
103 経営する料亭の資金繰りが悪化したことから,
104 令和
105 2年8月1日,
106 友人のYから,
107 返済期限を同年12月1日,
108 無利息で,
109 600万円の融資を受け
110 るとともに,
111 甲土地に抵当権を設定したが,
112 返済が滞っているとのことでした。
113
114
115 以上のとおり,
116 甲土地の所有者は私であり,
117 本件抵当権設定登記は所有者である私に無断でさ
118 れた無効なものですので,
119 Yに対し,
120 本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求めたいと考えてい
121 ます。
122
123 なお,
124 Bは,
125 甲土地の所有権名義を私に戻すことを確約していますし,
126 兄弟間で訴訟まで
127 はしたくありませんので,
128 今回は,
129 Yだけを被告としてください。
130
131 」
132 弁護士Pは,
133 令和8年1月15日,
134 【Xの相談内容】を前提に,
135 Xの訴訟代理人として,
136 Yに対
137 し,
138 本件抵当権設定登記の抹消登記を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
139
140 )を提起することに
141 した。
142
143
144 以上を前提に,
145 以下の各問いに答えなさい。
146
147
148 (1)
149
150 弁護士Pが,
151 本件訴訟において,
152 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
153 載しなさい。
154
155
156
157 (2)
158
159 弁護士Pが,
160 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
161
162 )において記載すべき請求の趣旨(民
163
164 - 2 -
165
166 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。
167
168 なお,
169 付随的申立てについては,
170 考慮す
171 る必要はない。
172
173
174 (3)
175
176 弁護士Pは,
177 本件訴状において,
178 仮執行宣言の申立て(民事訴訟法第259条第1項)をしな
179 かった。
180
181 その理由を,
182 民事執行法の関係する条文に言及しつつ,
183 簡潔に説明しなさい。
184
185
186
187 (4)
188
189 弁護士Pは,
190 本件訴状において,
191 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし
192 て,
193 以下の各事実を主張した。
194
195
196
197 (あ)
198
199 Aは,
200 令和2年5月1日当時,
201 甲土地を所有していた。
202
203
204
205 (い)
206
207 Aは,
208 〔@〕。
209
210
211
212 (う)
213
214 甲土地について,
215 〔A〕。
216
217
218 上記@及びAに入る具体的事実を,
219 それぞれ記載しなさい。
220
221
222
223 〔設問2〕
224 弁護士Qは,
225 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
226
227
228 【Yの相談内容】
229 「(a)
230
231 私(Y)は,
232 Bの友人です。
233
234 私は,
235 令和2年7月下旬頃,
236 Bから,
237 Bが経営する料亭
238
239 の資金繰りに困っているとして,
240 600万円を貸してほしいと頼まれました。
241
242 私は,
243 他
244 ならぬBの頼みではありましたが,
245 金額も金額なので,
246 誰かに保証人になってもらうか,
247
248 担保を入れてほしいと告げました。
249
250 すると,
251 Bは,
252 令和2年5月1日に所有者であるA
253 から売買代金500万円で甲土地を買っており,
254 甲土地を担保に入れても構わないと述
255 べたため,
256 私は,
257 貸付けに応じることにしました。
258
259 私は,
260 令和2年8月1日,
261 Bに対し,
262
263 返済期限を同年12月1日,
264 無利息で600万円を貸し付け,
265 同年8月1日,
266 Bとの間
267 で,
268 この貸金債権を被担保債権として,
269 甲土地に抵当権を設定するとの合意をしました。
270
271
272 ところが,
273 Bは,
274 令和4年12月1日に100万円を返済し,
275 令和7年12月25日に
276 200万円を返済したのみで,
277 それ以外の返済をしません。
278
279
280 Xは,
281 Xが令和2年5月1日にAから甲土地を買ったと主張していますが,
282 同日にA
283 から甲土地を買ったのはXではなくBであり,
284 私は,
285 所有者であるBとの間で甲土地に
286 抵当権を設定するとの合意をし,
287 その合意に基づき本件抵当権設定登記を経由したので
288 すから,
289 正当な抵当権者であり,
290 本件抵当権設定登記を抹消する必要はありません。
291
292
293 (b)
294
295 仮にXが主張するとおり,
296 BではなくXが甲土地の買主であったとしても,
297 Bは,
298 令
299
300 和2年8月1日の貸付けの際,
301 甲土地の登記事項証明書を持参しており,
302 私が確認する
303 と,
304 確かにBが甲土地の所有名義人となっていましたので,
305 私は,
306 Bが甲土地の所有者
307 であると信じ,
308 上記(a)で述べたとおり,
309 Bに対して600万円を貸し付け,
310 抵当権の
311 設定を受けたのです。
312
313 仮にXが甲土地の買主であったとしても,
314 Xの意思でB名義の所
315 有権移転登記がされたことは明らかですので,
316 今回の責任はXにあることになります。
317
318
319 私は,
320 本件抵当権設定登記の抹消に応じる必要はないと思います。
321
322 」
323 弁護士Qは,
324 【Yの相談内容】を前提に,
325 Yの訴訟代理人として,
326 本件訴訟の答弁書(以下「本
327 件答弁書」という。
328
329 )を作成した。
330
331
332 以上を前提に,
333 以下の各問いに答えなさい。
334
335
336 (1)
337
338 @弁護士Qは,
339
340 【Yの相談内容】(a)の言い分を本件訴訟における抗弁として主張すべきか否か,
341
342 その結論を記載しなさい。
343
344 A抗弁として主張する場合には,
345 どのような抗弁を主張するか,
346 そ
347 の結論を記載し(当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。
348
349 ),
350 抗弁として主張し
351 ない場合は,
352 その理由を説明しなさい。
353
354
355 - 3 -
356
357 (2)
358
359 弁護士Qは,
360 【Yの相談内容】(b)を踏まえて,
361 本件答弁書において,
362 抗弁として,
363 以下の各事
364 実を主張した。
365
366
367
368 (ア)
369
370 Yは,
371 Bに対し,
372 令和2年8月1日,
373 弁済期を同年12月1日として,
374 600万円を貸し付
375 けた。
376
377
378
379 (イ)
380
381 BとYは,
382 令和2年8月1日,
383 Bの(ア)の債務を担保するため,
384 甲土地に抵当権を設定す
385 るとの合意をした(以下「本件抵当権設定契約」という。
386
387 )。
388
389
390
391 (ウ)
392
393 本件抵当権設定契約当時,
394 〔@〕。
395
396
397
398 (エ)
399
400 (ウ)は,
401 Xの意思に基づくものであった。
402
403
404
405 (オ)
406
407 Yは,
408 本件抵当権設定契約当時,
409 〔A〕。
410
411
412
413 (カ)
414
415 本件抵当権設定登記は,
416 本件抵当権設定契約に基づく。
417
418
419
420 (@)
421
422 上記@及びAに入る具体的事実を,
423 それぞれ記載しなさい。
424
425
426
427 (A)
428
429 弁護士Qが,
430 本件答弁書において,
431 【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために,
432 上
433
434 記(ア)の事実を主張した理由を簡潔に説明しなさい。
435
436
437 〔設問3〕
438 弁護士Pは,
439 準備書面において,
440 本件答弁書で主張された【Yの相談内容】(b)に関する抗弁に
441 対し,
442 民法第166条第1項第1号による消滅時効の再抗弁を主張した。
443
444
445 弁護士Qは,
446 【Yの相談内容】を前提として,
447 二つの再々抗弁を検討したところ,
448 そのうちの一
449 方については主張自体失当であると考え,
450 もう一方のみを準備書面において主張することとした。
451
452
453 以上を前提に,
454 以下の各問いに答えなさい。
455
456
457 (1)
458
459 弁護士Qとして主張することとした再々抗弁の内容を簡潔に説明しなさい。
460
461
462
463 (2)
464
465 弁護士Qが再々抗弁として主張自体失当であると考えた主張について,
466 主張自体失当と考えた
467 理由を説明しなさい。
468
469
470
471 〔設問4〕
472 Yに対する訴訟は,
473 審理の結果,
474 Xが敗訴した。
475
476 すると,
477 Bは,
478 自分が甲土地の買主であると主
479 張して,
480 Xへの所有権移転登記手続を拒むようになった。
481
482 そこで,
483 弁護士Pは,
484 Xの訴訟代理人と
485 して,
486 Bに対して,
487 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権を訴訟物として,
488
489 真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求める訴訟(以下「本件第2訴訟」という。
490
491 )
492 を提起した。
493
494
495 第1回口頭弁論期日で,
496 Bは,
497 Aが令和2年5月1日当時甲土地を所有していたことは認めたが,
498
499 AがXに対して甲土地を売ったことは否認し,
500 自分がAから甲土地を買ったと主張した。
501
502
503 その後,
504 第1回弁論準備手続期日で,
505 弁護士Pは,
506 書証として令和2年5月20日にAの銀行預
507 金口座に宛てて500万円が送金された旨が記載されたX名義の銀行預金口座の通帳(本件預金通
508 帳)及び甲土地の令和3年分から令和7年分までのBを名宛人とする固定資産税の領収書(本件領
509 収書)を提出し,
510 いずれも取り調べられ,
511 Bはいずれも成立の真正を認めた。
512
513
514 その後,
515 2回の弁論準備手続期日を経た後,
516 第2回口頭弁論期日において,
517 本人尋問が実施され,
518
519 Xは次の【Xの供述内容】のとおり,
520 Bは次の【Bの供述内容】のとおり,
521 それぞれ供述した。
522
523
524 【Xの供述内容】
525 「私はZ県の出身ですが,
526 大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。
527
528 近年,
529 定年退職の時
530 期が迫り,
531 老後は故郷に戻りたいと考え,
532 自宅を建築するためにZ県内で手頃な土地を探していたと
533 ころ,
534 甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,
535 立地も良かったことから,
536
537 - 4 -
538
539 甲土地を買うことにし,
540 Aとの間で,
541 売買代金額の交渉を始めました。
542
543 最初は,
544 私が400万円を主
545 張し,
546 Aが600万円を主張していましたが,
547 お互い歩み寄り,
548 代金を500万円とすることで折り
549 合いがつきました。
550
551
552 私は,
553 令和2年5月1日,
554 兄のBと共にA宅を訪れ,
555 Aと私は,
556 口頭で,
557 私がAから売買代金50
558 0万円で甲土地を買い受けることに合意しました。
559
560 所有権移転登記については,
561 甲土地の付近に居住
562 し,
563 料亭を営み地元でも顔が広いBを所有名義人とした方が,
564 建物建築のための地元の金融機関から
565 の融資が円滑に進むだろうと考え,
566 AやBの了解を得て,
567 B名義で所有権移転登記を経由することに
568 しました。
569
570 私は,
571 同月20日,
572 私の銀行口座からAの銀行口座に500万円を送金して,
573 売買代金を
574 Aに支払いました。
575
576 ところが,
577 甲土地の購入後,
578 私は,
579 引き続き勤務先で再雇用されることになった
580 ため,
581 甲土地上に自宅を建築するのを見合わせることにし,
582 甲土地は更地のままになり,
583 金融機関か
584 ら融資を受けることもありませんでした。
585
586
587 甲土地は,
588 私の所有ですので,
589 令和3年分から令和7年分までその固定資産税は私が負担していま
590 す。
591
592 甲土地は,
593 登記上は,
594 Bが所有者であり,
595 Bに固定資産税の納付書が届くので,
596 私は,
597 Bから納
598 付書をもらって固定資産税を納付していました。
599
600
601 」
602 【Bの供述内容】
603 「私は,
604 Z県内の自己所有の建物で妻子と共に生活をしています。
605
606 甲土地は,
607 当初は,
608 定年退職の
609 時期が迫り,
610 老後は故郷に戻りたいと考えたXが,
611 自宅を建てるために購入しようと,
612 Aとの間で代
613 金額の交渉をしていました。
614
615 しかし,
616 Xは,
617 令和2年の正月,
618 やはり老後も都会で生活したいと考え
619 るようになったので,
620 甲土地の購入はやめようと思う,
621 ただ甲土地は良い物件であるし,
622 Aも甲土地
623 を売りたがっていると述べて,
624 私に甲土地を購入しないかと打診してきました。
625
626
627 私は,
628 早速甲土地を見に行ったところ,
629 立地もよく,
630 XとAとの間でまとまっていた500万円と
631 いう代金額も安く感じられたことから,
632 私がAから甲土地を買うことにしました。
633
634
635 もっとも,
636 令和元年末に私の料亭が食中毒を出してしまい,
637 客足が遠のいており,
638 私自身が甲土地
639 の売買代金をすぐに工面することはできなかったことから,
640 差し当たり,
641 Xに立て替えてもらうこと
642 になりました。
643
644 もちろん,
645 私は,
646 資金繰りがつき次第Xに同額を返還するつもりでしたが,
647 なかなか
648 料亭の売上げが回復せず,
649 Xに立替金を返還することができないまま,
650 今日に至ってしまいました。
651
652
653 このことは大変申し訳ないと思っています。
654
655
656 所有権移転登記の名義が私であることからも,
657 私が甲土地の所有者であることは明らかです。
658
659 なお,
660
661 甲土地の固定資産税は,
662 私が支払っていると思いますが,
663 税金関係は妻に任せており,
664 詳しくは分か
665 りません。
666
667
668 」
669 以上を前提に,
670 以下の問いに答えなさい。
671
672
673 弁護士Pは,
674 本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
675 準備書面を提出することを予定している。
676
677
678 その準備書面において,
679 弁護士Pは,
680 前記の提出された各書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Bの
681 供述内容】と同内容のX及びBの本人尋問における供述に基づいて,
682 XがAから甲土地を買った事実が
683 認められることにつき,
684 主張を展開したいと考えている。
685
686 弁護士Pにおいて,
687 上記準備書面に記載すべ
688 き内容を,
689 提出された各書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
690 答案用紙1頁程
691 度の分量で記載しなさい。
692
693
694
695 - 5 -
696
697 [刑
698
699 事]
700
701 次の【事例】を読んで,
702 後記〔設問〕に答えなさい。
703
704
705 【事例】
706 1
707
708 H地方検察庁検察官Pは,
709 I警察署司法警察員Kから,
710 令和2年2月1日にJ県L市内の
711 民家で住人のV(77歳,
712 男性)が殺害された殺人被疑事件について,
713 A(45歳,
714 男性)
715 を逮捕することの是非について相談を受けた。
716
717 その時点までに収集された主な証拠の概要は
718 以下のとおりである。
719
720
721
722
723 捜査の端緒に関する捜査報告書(証拠@)
724 「令和2年2月1日午後9時50分頃,
725 Vと同居していた息子Bから,
726 『Vが何者かに殺
727 されている。
728
729 』旨の110番通報があり,
730 同日午後9時58分頃,
731 警察官がV方に臨場した
732 ところ,
733 Vが1階居間の床上に大量に血を流して仰向けに倒れていた。
734
735 Vは,
736 臨場した救
737 急隊員により直ちに病院へ搬送されたものの,
738 医師によりVの死亡が確認された。
739
740 」
741
742
743
744 実況見分調書(証拠A)
745 「警察官が臨場した際にVが倒れていた位置は,
746 V方1階居間中央にある応接テーブル
747 の西側約1メートルの位置であり,
748 その周囲の床部分には,
749 多量の血痕が付着していた。
750
751
752 V方からは,
753 遺留指紋6点が採取されたが,
754 凶器の発見には至らなかった。
755
756 」
757
758
759
760 遺留指紋に関する捜査報告書(証拠B)
761 上記遺留指紋のうち5点は,
762 Vの指紋と一致し,
763 残りの1点は,
764 上記応接テーブル上面
765 から採取されたもので,
766 Aの指紋と一致した旨が記載されている。
767
768
769
770
771
772 司法解剖医の警察官面前の供述録取書(証拠C)
773 「Vの死因は,
774 胸部刺創による心臓刺創に起因する失血死である。
775
776 成傷器は,
777 先端は鋭
778 利,
779 かつ,
780 刃の長さが15センチメートル以上の片刃の刃物と推定される。
781
782 Vは,
783 これに
784 より1回刺突され,
785 ほぼ即死したものと考えられる。
786
787 」
788
789
790
791 Bの警察官面前の供述録取書(証拠D)
792 「令和2年2月1日午後2時頃,
793 Vに見送られて外出した。
794
795 同日午後9時45分頃,
796 帰
797 宅して自宅に入ると,
798 Vが大量に血を流して倒れており,
799 全く反応がなかったので,
800 何者
801 かに殺害されたのだと思い,
802 110番通報した。
803
804
805 Aのことは知っている。
806
807 Vは,
808 V方の東隣の店舗でクリーニング店を営んでおり,
809 Aは,
810
811 同店で15年間にわたり従業員として働いていた者である。
812
813 同店の経営状況が悪くなった
814 ことから,
815 Vが令和元年12月末にAを解雇した。
816
817 しかし,
818 Aは,
819 新しい就職先が見つか
820 らず,
821 令和2年1月20日頃から毎日のように同店を訪れては,
822 再び雇ってほしいとVに
823 懇願しており,
824 Vは,
825 これを断り続けていた。
826
827 同月27日夕方には,
828 同店事務室でVとA
829 が話をしていた際,
830 Aが大声を上げながら両手でVを突き飛ばしたということがあった。
831
832
833 その時は,
834 たまたま店番をしていた私がAを制止し,
835 Aをなだめて帰ってもらった。
836
837
838 Aは,
839 Vに用があるときはいつもクリーニング店を訪ねて来ており,
840 私が知る限り,
841 A
842 がV方に上がったことはなかった。
843
844 また,
845 V方1階居間にあった応接テーブル上面は,
846 事
847 件当日,
848 私が外出する直前の午後1時45分頃に,
849 私が全体にわたり拭き掃除をした。
850
851 応
852 接テーブル上面にAの指紋が残されていたのであれば,
853 その指紋が付いたのは,
854 私が同日
855 午後2時頃に外出してから午後9時45分頃に帰宅するまでの間としか考えられない。
856
857 」
858
859
860
861 V方西隣の住民W1の警察官面前の供述録取書(証拠E)
862 「令和2年2月1日午後6時頃,
863 私が自宅にいたところ,
864 V方から男性の大きな怒鳴り
865 声が聞こえたが,
866 何と言って怒鳴っていたかまでは分からなかった。
867
868 」
869
870 - 6 -
871
872 2
873
874 検察官Pは,
875 司法警察員Kからの上記相談に対し,
876 AがVを死亡させた犯人であること
877 (Aの犯人性)について,
878 証拠B等の有力な証拠があるものの,
879 これらの証拠に基づき認め
880 られる間接事実の推認力が十分でないと考えた。
881
882 そのため,
883 検察官Pは,
884 現時点でAを逮捕
885 することは妥当ではなく,
886 更なる捜査が必要であると判断し,
887 司法警察員Kにその旨を伝え
888 た。
889
890
891
892 3
893
894 その後,
895 主に以下の証拠が収集され,
896 再度司法警察員Kから相談を受けたことから,
897 検察
898 官Pは,
899 以前に収集された証拠に基づき認められる間接事実に,
900 証拠FからJに基づき認
901 められる間接事実が加わったことにより,
902 Aの犯人性を十分に推認できると考え,
903 Aを逮捕
904 することが妥当であると判断して,
905 司法警察員Kにその旨を伝えた。
906
907
908
909
910 Cの警察官面前の供述録取書(証拠F)
911 「Aは,
912 私の高校時代の同級生で,
913 今も友人である。
914
915 令和2年2月1日夜,
916 Aから私の
917 携帯電話に電話がかかってきた。
918
919 その通話で,
920 Aは,
921 『むかついたので人をナイフで刺して
922 やった。
923
924 刺したナイフは,
925 高校の近くのM県N市O町にある竹やぶに投げ捨てた。
926
927 さすが
928 に見付かることはないよな。
929
930 』と言ってきた。
931
932 その時は,
933 Aが酒に酔って冗談を言っている
934 ものと思って受け流したが,
935 その後,
936 Aが前に働いていたクリーニング店の経営者が自宅
937 で刺し殺されたことを報道で知って,
938 Aがやったのではないかと思い,
939 怖くなった。
940
941 友人
942 であるAのことを裏切りたくなくて悩んだが,
943 Aが罪を犯したのであればきちんと償って
944 ほしいと思い,
945 同月5日朝,
946 自分から警察に連絡して,
947 Aから聞いた話を伝えることにし
948 た。
949
950 」
951
952
953
954 Cの携帯電話の精査結果に関する捜査報告書(証拠G)
955 Cから任意提出を受けたC所有の携帯電話のデータを精査した結果,
956 Aが契約する携帯電話の
957 番号がAの姓名で登録されており,
958 令和2年2月1日午後9時頃に同番号から着信があり,
959 約5
960 分間にわたって通話した履歴があった旨が記載されている。
961
962
963
964
965
966 ナイフの領置経過に関する捜査報告書(証拠H)
967 Cの供述に基づき,
968 警察官がM県N市O町にある上記竹やぶ内を探索したところ,
969 令和
970 2年2月5日午前11時頃,
971 血痕様のものが付着した刃体の長さ約15.5センチメート
972 ルの片刃のナイフを発見し,
973 これを領置した旨が記載されている。
974
975
976
977
978
979 上記ナイフに付着した血痕様のものに関する鑑定書(証拠I)
980 上記ナイフに付着した血痕様のものは,
981 人血であり,
982 そのDNA型は,
983 Vのものと一致
984 した旨が記載されている。
985
986
987
988
989
990 司法解剖医の警察官面前の供述録取書(証拠J)
991 「上記ナイフは,
992 その形状から,
993 Vの死因となった胸部刺創を形成した凶器と考えて矛盾
994
995 はない。
996
997 上記胸部刺創が,
998 深さ約15センチメートルに達していた上,
999 肋骨が刺切されてい
1000 たことに照らすと,
1001 凶器をかなり強い力でVの身体に突き刺したものと認められる。
1002
1003 」
1004 4
1005
1006 Aは,
1007 Vを被害者とする殺人罪の被疑事実で通常逮捕され,
1008 引き続き,
1009 勾留された。
1010
1011 勾留
1012 期限までに収集された主な証拠の概要は以下のとおりである。
1013
1014
1015
1016
1017 Bの検察官面前の供述録取書(証拠K)
1018 証拠D記載の内容と同旨。
1019
1020
1021
1022
1023
1024 Cの検察官面前の供述録取書(証拠L)
1025 証拠F記載の内容と同旨。
1026
1027
1028
1029
1030
1031 通行人W2の警察官面前の供述録取書(証拠M)
1032 「令和2年2月1日午後6時頃,
1033 保育園に預けている娘を迎えに行くためV方の前を通っ
1034 たところ,
1035 V方から,
1036
1037 『お前は長年店に尽くしてきた俺のことを何も考えていない。
1038
1039 殺すぞ。
1040
1041 』
1042 と怒鳴り付ける男性の大声が聞こえた。
1043
1044 続いて,
1045 別の男性の声で,
1046 『ろくに働きもしていな
1047
1048 - 7 -
1049
1050 かったくせに。
1051
1052 また働かせろなんて無理に決まっているだろう。
1053
1054 』と怒鳴り返しているのが
1055 聞こえた。
1056
1057 気になったが,
1058 保育園のお迎えの時間が迫っていたので,
1059 それ以上は聞かずに
1060 その場を離れた。
1061
1062 」
1063
1064
1065 W2の検察官面前の供述録取書(証拠N)
1066 証拠M記載の内容と同旨。
1067
1068
1069
1070
1071
1072 Aの警察官面前の供述録取書(証拠O)
1073
1074 「Vを殺したのは私ではない。
1075
1076 V方に上がったこともない。
1077
1078 事件があった日は,
1079 ずっと
1080 自宅にいたと思う。
1081
1082
1083 」
1084 Aの検察官面前の供述録取書(証拠P)
1085 「警察の取調べではうそをついていた。
1086
1087 私が持っていたナイフがVの胸に刺さり,
1088 Vを死
1089 なせてしまったことは,
1090 事実である。
1091
1092 しかし,
1093 私は,
1094 刺そうと思って刺したのではないし,
1095
1096 Vを殺すつもりもなかった。
1097
1098 事件当日は,
1099 Vを脅して再雇用に応じさせようと思い,
1100 午後
1101 6時頃,
1102 ナイフを持ってV方に行った。
1103
1104 Vに居間に通された後,
1105 Vを脅すために,
1106 何も言
1107 わずにVの方に刃先を向けてナイフを構えたところ,
1108 突然Vが向かってきたので,
1109 とっさ
1110 に目を閉じて後ずさりした。
1111
1112 次の瞬間,
1113 強い衝撃を手に感じ,
1114 目を開けるとVの胸にナイ
1115 フが突き刺さっていたので怖くなり,
1116 そのナイフを抜き取って逃げた。
1117
1118 」
1119 5 検察官Pは,
1120 勾留期限までに,
1121 Aにつき,
1122 Vを被害者とする殺人罪の公訴事実(逮捕勾留
1123 に係る被疑事実と同一の内容)で公訴を提起し,
1124 同公訴提起に係る殺人被告事件は,
1125 公判前
1126 整理手続に付された。
1127
1128
1129 6 公判前整理手続において,
1130 検察官は,
1131 「Aは,
1132 令和2年2月1日午後6時頃,
1133 大声でVを怒
1134 鳴り付けて再雇用を迫ったものの,
1135 VがかつてのAの勤務態度を非難して再雇用を断ったた
1136 め,
1137 これに憤慨し,
1138 殺意をもって,
1139 Vの胸部をナイフで1回突き刺し,
1140 Vを死亡させた。
1141
1142 」な
1143 どと記載した証明予定事実記載書を裁判所に提出するとともに弁護人に送付し,
1144 併せて,
1145 証
1146 拠@からC,
1147 GからL,
1148 N及びPの各証拠の取調べを裁判所に請求した。
1149
1150
1151 これに対し,
1152 Aの弁護人は,
1153 証拠Pと同旨の予定主張を明らかにするとともに,
1154 証拠C,
1155
1156 J,
1157 L及びNについて「不同意」とし,
1158 その他の証拠については「同意」との意見を述べた
1159 ので,
1160 検察官は,
1161 司法解剖医,
1162 C及びW2の証人尋問を請求した。
1163
1164
1165 裁判所は,
1166 争点を刺突行為及び殺意の有無と整理した上で,
1167 司法解剖医,
1168 C及びW2につ
1169 き,
1170 いずれも証人として尋問する旨の決定をするなどし,
1171 公判前整理手続を終結した。
1172
1173
1174 7 その後,
1175 第1回公判期日までの間において,
1176 Aの弁護人は,
1177 Aについて保釈の請求をした
1178 が,
1179 H地方裁判所裁判官は,
1180 刑事訴訟法第89条第1号及び第4号に該当する事由があり,
1181
1182 また,
1183 同法第90条に基づく職権による保釈を許すべき事情も認められないとして,
1184 同保釈
1185 請求を却下した。
1186
1187
1188 8 公判期日に実施されたCの証人尋問において,
1189 検察官が,
1190 Cに対し,
1191 事件当日の夜にAか
1192 ら電話で聞かされた内容について質問し,
1193 Cが証拠Lと同旨の証言をしたところ,
1194 Aの弁
1195 護人は,
1196 「ただ今の証言は証拠能力のない伝聞供述であるから,
1197 証拠排除を求める。
1198
1199 」と述べ
1200 た。
1201
1202 裁判長が検察官に意見を求めたところ,
1203 検察官は,
1204 弁護人の申立てには理由がない旨を
1205 条文上の根拠とともに答えた。
1206
1207
1208 〔設問1〕
1209
1210
1211 下線部に関し,
1212 検察官Pは,
1213 V方1階居間中央の応接テーブル上面にAの指紋が付着
1214 していた事実は,
1215 Aの犯人性を推認させる間接事実であるが,
1216 その推認力は限定的である
1217 と考えた。
1218
1219 その思考過程を,
1220 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
1221
1222 なお,
1223 証拠Dに記載さ
1224 れたBの供述の信用性は認められることを前提とする。
1225
1226
1227
1228
1229
1230 下線部に関し,
1231 検察官PがAの犯人性を十分に推認できると考えた思考過程を,
1232 具体
1233
1234 - 8 -
1235
1236 的事実を指摘しつつ答えなさい。
1237
1238 なお,
1239 証拠Fに記載されたCの供述の信用性は認められ
1240 ることを前提とする。
1241
1242
1243 〔設問2〕
1244
1245
1246 公判前整理手続において,
1247 Aの弁護人は,
1248 検察官が取調べを請求した証拠の開示を受け,
1249
1250 これらの証拠に対してどのような意見を述べるかを検討するに当たり,
1251 犯行が行われた時
1252 刻頃にV方からの物音を聞いた者がW2のほかにいるならば,
1253 その者の供述録取書の開示
1254 を受けたいと考えた。
1255
1256 この場合,
1257 Aの弁護人は,
1258 どのような手段を採るべきか,
1259 また,
1260 そ
1261 の手段を採る際に具体的にどのようなことを明らかにすべきか,
1262 条文上の根拠を示しつつ
1263 答えなさい。
1264
1265
1266
1267
1268
1269 Aの弁護人が上記の手段を採ったのに対し,
1270 検察官は,
1271 証拠EをAの弁護人に開示し
1272 た。
1273
1274 その検察官の思考過程を,
1275 その判断要素を踏まえ,
1276 具体的事実を指摘しつつ答えなさ
1277 い。
1278
1279
1280
1281 〔設問3〕
1282 下線部に関し,
1283 裁判所は,
1284 Aの弁護人の申立てに基づき証拠排除決定をすべきか。
1285
1286 検察官
1287 がCの証言によりどのような事実を立証しようとしているかを踏まえた上で,
1288 具体的理由を付
1289 して答えなさい。
1290
1291
1292 〔設問4〕
1293 結審後,
1294 判決宣告期日までの間に,
1295 Aの父親が死亡した。
1296
1297 Aの弁護人が勾留中のAとの接
1298 見でその旨を伝えたところ,
1299 Aから「父の葬儀にだけは出席したい。
1300
1301 何とか出席できるよう
1302 にしてほしい。
1303
1304 」と依頼された。
1305
1306 Aの弁護人が採り得る複数の手段について,
1307 条文上の根拠を
1308 示しつつ,
1309 本事例における具体的な事実関係に即して答えなさい。
1310
1311
1312
1313 - 9 -
1314
1315