1 令和2年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 報道機関による取材活動については,
7 一般にその公共性が認められているものの,
8 取材対象者
9 の私生活の平穏の確保の観点から問題があるとされ,
10 とりわけ,
11 特定の事件・事象に際し取材活動
12 が過熱・集中するいわゆるメディア・スクラムについて,
13 何らかの対策がとられる必要があると指
14 摘されてきた。
15
16 中でも,
17 取材活動の対象が,
18 犯罪被害者及びその家族等となる場合,
19 それらの者に
20 ついては,
21 何の落ち度もなく,
22 悲嘆の極みというべき状況にあることも多いことから,
23 報道機関に
24 対して批判が向けられてきた。
25
26
27 そのような状況の下で,
28 犯罪被害者及びその家族等の保護を目的として,
29 これらの者に対する取
30 材活動を制限する立法が行われることとなった。
31
32
33 具体的には,
34 まず,
35
36 「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」を「犯罪等」とし,
37
38 「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」を「犯罪被害者等」とした上で,
39 報道を業と
40 する者(個人を含む。
41
42 以下「報道関係者」という。
43
44 )の取材活動について,
45 犯罪被害者等に対して
46 取材及び取材目的での接触(自宅・勤務先等への訪問,
47 電話,
48 ファックス,
49 メール,
50 手紙,
51 外出時
52 の接近等)を行うこと(以下「取材等」という。
53
54 )を禁止する。
55
56 ただし,
57 当該犯罪被害者等の同意
58 がある場合はこの限りでない(この同意は,
59 報道関係者一般に対するものでも,
60 特定の報道関係者
61 に対するものでもあり得る。
62
63 )。
64
65 なお,
66 捜査機関は,
67 捜査に当たる場合には,
68 犯罪被害者等が取材等
69 に同意するか否かについて確認し,
70 報道関係者から問合せがあった場合には回答するものとするほ
71 か,
72 犯罪被害者等が希望する場合には,
73 その一部又は全員が取材等に同意しないことを記者会見等
74 で公表することもできる。
75
76
77 次に,
78 以上の取材等の禁止(犯罪被害者等の同意がある場合を除く。
79
80 )に違反する報道関係者が
81 あった場合,
82 捜査機関が所在する都道府県の公安委員会は,
83 当該報道関係者に対して,
84 行政手続法
85 等の定めるところに従い憲法上適正な手続を履践した上で,
86 取材等中止命令を発することができる。
87
88
89 この命令に違反した者は処罰される。
90
91 したがって,
92 犯罪被害者等へ取材等を行うことは,
93 犯罪被害
94 者等の同意がある場合を除き禁止されるが,
95 直ちに処罰されるわけではなく,
96 処罰されるのは取材
97 等中止命令が発出されているにもかかわらず,
98 取材等を行った場合であるということになる。
99
100
101 なお,
102 犯罪被害者等は,
103 取材等中止命令の解除を申し出ることができ,
104 その場合,
105 当該命令は
106 速やかに解除される。
107
108 また,
109 上述のとおり,
110 犯罪被害者等の同意がある場合は,
111 取材等の禁止は適
112 用されない。
113
114
115 以上のような立法による取材活動の制限について,
116 その憲法適合性を論じなさい。
117
118
119
120 (出題の趣旨)
121 本問は,
122 犯罪被害者等の私生活の平穏の確保を目的とする取材の自由の制限につ
123 いて,
124 その憲法適合性を問うものである。
125
126 取材の自由を,
127 関連判例も参照しつつ,
128
129 表現の自由との関係で適切に位置付けた上で,
130 その制約の憲法適合性に関する判断
131 枠組みを的確に定立し,
132 本問の立法が憲法に適合するか否かについて,
133 その目的と
134 手段を評価して判断することが求められる。
135
136
137 一方で,
138 犯罪被害者等の私生活の平穏の確保は,
139 それをある程度限定的に捉える
140 ならば,
141 取材活動を制約する立法目的として十分に重要なものでありえよう。
142
143 また,
144
145 犯罪被害者等にはそもそも取材に応じる義務はない。
146
147 加えて,
148 本問の立法による処
149 罰は命令の発出を経た段階的なものとなっている。
150
151
152
153 他方で,
154 私生活の平穏ということを幅広く理解すれば,
155 取材活動を制約する根拠
156 としてこれを直ちに承認することは困難である。
157
158 また,
159 基本的には公共性を有する
160 はずの犯罪報道について,
161 本問の立法は,
162 当該報道の内容や性質,
163 犯罪の種類や犯
164 罪被害者等の立場などにかかわらずに,
165 取材活動を,
166 取材目的での接触を行うこと
167 についてまで,
168 同意のない限り一律に禁止し,
169 命令違反については刑罰をもって臨
170 んでいる。
171
172
173 解答に当たっては,
174 以上のような諸点について類型的・具体的に想定をして検討
175 することが求められよう。
176
177 捜査機関を同意確認のための主たるルートとすることの
178 問題性や,
179 犯罪被害者等の心情が時間とともに,
180 また,
181 取材者とのコミュニケーシ
182 ョンの中で変化する可能性についても,
183 考慮して論じることが期待される。
184
185
186
187 [行政法]
188 A市では,
189 A市開発事業の手続及び基準に関する条例(以下「条例」という。
190
191 )が定められてい
192 る。
193
194 条例においては,
195 都市計画法(以下「法」という。
196
197 )第29条第1項に基づく開発許可が必要
198 な開発事業を行おうとする事業者は,
199 開発許可の申請に先立って市長と事前協議をしなければなら
200 ず,
201 また,
202 開発事業の内容等について,
203 周辺住民に対して説明会を開催するなどの措置を講じるこ
204 ととされている。
205
206 なお,
207 A市長は,
208 地方自治法上の中核市の長として,
209 法第29条の開発許可に関
210 し都道府県知事と同じ権限を有している。
211
212 また,
213 これらの条例の規定は,
214 法の委任に基づくもので
215 はないが,
216 その内容に違法なところはない。
217
218
219 Bは,
220 A市において,
221 平成15年から産業廃棄物処理施設(以下「第1処分場」という。
222
223 )を営
224 んでいる。
225
226 平成25年になって,
227 Bは,
228 第1処分場の隣接地に新たな産業廃棄物処理施設(以下「第
229 2処分場」という。
230
231 )を設置することを計画した。
232
233 第2処分場を設置するための土地の区画形質の
234 変更(土地の区画変更,
235 切土・盛土など)は,
236 条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため,
237
238 Bは,
239 A市長に対し,
240 条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。
241
242 この第2処分場の設置に対して
243 は,
244 生活環境の悪化を危惧する周辺住民が強い反対運動を行っていたことから,
245 A市長は,
246 Bに対
247 し,
248 条例に定められた説明会を開催した上で,
249 周辺住民の同意を得るように指導した。
250
251 Bはこれに
252 従って,
253 周辺住民に対し,
254 説明会の開催を提案したが,
255 周辺住民は説明会をボイコットし,
256 同意も
257 一切しなかった。
258
259
260 Bは,
261 第2処分場の設置に係る開発事業は,
262 法の規定に照らして適法であり,
263 たとえ周辺住民
264 の同意がなくても,
265 A市長が開発許可を拒否することはできないと考え,
266 A市長に対し,
267 事前協議
268 を開始するよう改めて申し入れた。
269
270 そこで,
271 A市長は,
272 条例による手続を進め,
273 Bに対して開発許
274 可を与えることにした。
275
276 その一方で,
277 A市は,
278 周辺住民の強力な反対を考慮し,
279 Bとの間で開発協
280 定を締結し,
281 その協定においては,
282 「Bが行う廃棄物処理事業に係る開発事業については,
283 今回の
284 開発区域内の土地及び規模に限るものとし,
285 今後一切の例外は認めない。
286
287 」という条項(以下「本
288 件条項」という。
289
290 )が定められた。
291
292 Bは,
293 本件条項を含む開発協定の締結には当初難色を示したが,
294
295 周辺住民との関係を改善することも必要であると考え,
296 協定の締結に同意した。
297
298 なお,
299 この開発協
300 定は,
301 法や条例に根拠を有するものではなく,
302 また,
303 法第33条第1項及び条例の定める基準には,
304
305 本件条項に関係するものは存在しない。
306
307
308 令和2年になり,
309 第2処分場がその容量の限界に達したため,
310 Bは更に新たな産業廃棄物処理
311 施設(以下「第3処分場」という。
312
313 )を設置することを計画した。
314
315 第3処分場を設置するための土
316 地の区画形質の変更も条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため,
317 Bは,
318 同年6月,
319 A市
320 長に対し,
321 条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。
322
323 A市長は,
324 同年7月,
325 Bに対し,
326 「本件条
327 項により,
328 第3処分場の設置に係る開発事業についての協議を受けることはできない。
329
330 」という内
331 容の通知(以下「本件通知」という。
332
333 )をした。
334
335
336 Bは,
337 本件条項の法的拘束力に疑問を抱いており,
338 また,
339 本件条項を前提としたA市長の対応
340 に不満であることから,
341 本件通知の取消訴訟を提起することを考えている。
342
343
344 以上を前提として,
345 以下の設問に答えなさい。
346
347
348 なお,
349 法及び条例の抜粋を【資料】として掲げるので,
350 適宜参照しなさい。
351
352
353 〔設問1〕
354 本件条項に法的拘束力は認められるか。
355
356 本件条項の性質を示した上で,
357 法の定める開発許可制度
358 との関係を踏まえて,
359 検討しなさい。
360
361 なお,
362 第2処分場の設置に当たってなされたA市長の指導は
363 適法であることを前提にすること。
364
365
366
367 〔設問2〕
368 本件通知は,
369 取消訴訟の対象となる処分に当たるか。
370
371 Bの立場に立って,
372 想定されるA市の反
373 論を踏まえて,
374 検討しなさい。
375
376
377
378 【資料】
379 〇
380
381 都市計画法(昭和43年法律第100号)(抜粋)
382
383 (定義)
384 第4条
385 12
386
387 1〜11
388
389 (略)
390
391 この法律において「開発行為」とは,
392 主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供す
393 る目的で行なう土地の区画形質の変更をいう。
394
395
396
397 13〜16
398
399 (略)
400
401 (開発行為の許可)
402 第29条
403
404 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は,
405 あらかじめ,
406
407
408 国土交通省令で定めるところにより,
409 都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。
410
411 (以
412 下略)
413 2・3
414
415 (略)
416
417 (開発許可の基準)
418 第33条
419
420 都道府県知事は,
421 開発許可の申請があつた場合において,
422 当該申請に係る開発行為が,
423 次
424
425 に掲げる基準(中略)に適合しており,
426 かつ,
427 その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命
428 令の規定に違反していないと認めるときは,
429 開発許可をしなければならない。
430
431 (以下略)
432 2〜8
433 ○
434
435 (略)
436
437 A市開発事業の手続及び基準に関する条例(抜粋)
438
439 (目的)
440 第1条
441
442 この条例は,
443 開発事業の計画に係る事前協議等の手続及び都市計画法(昭和43年法律第1
444
445 00号。
446
447 以下「法」という。
448
449 )の規定に基づく開発許可の基準その他開発事業に関し必要な事項を
450 定めることにより,
451 良好な都市環境の保全及び形成を図り,
452 もって秩序ある調和のとれたまちづく
453 りに寄与することを目的とする。
454
455
456 (定義)
457 第2条
458
459 この条例において,
460 次の各号に掲げる用語の意義は,
461 それぞれ当該各号に定めるところによ
462
463 る。
464
465
466 一
467
468 開発事業
469
470 法第29条第1項(中略)の規定による開発行為の許可(中略)を要する開発行
471
472 為をいう。
473
474
475
476 2
477
478 二
479
480 開発事業区域
481
482 三
483
484 事業者
485
486 開発事業を行おうとする土地の区域をいう。
487
488
489
490 開発事業を行おうとする者をいう。
491
492
493
494 前項に規定するもののほか,
495 この条例において使用する用語は,
496 法(中略)において使用する用
497 語の例による。
498
499
500
501 (事前協議)
502 第4条
503
504 事業者は,
505 開発事業を行おうとするときは,
506 あらかじめ,
507 規則で定めるところにより,
508 開発
509
510 事業の計画について市長と協議しなければならない。
511
512
513 (事前周知)
514 第8条
515
516 事業者は,
517 規則で定めるところにより,
518 開発事業(中略)の計画の内容,
519 工事の概要,
520 環境
521
522 への配慮等について,
523 当該開発事業を行う地域の周辺住民等に対しあらかじめ説明会を開催するな
524 ど当該開発事業に関する周知について必要な措置を講じ,
525 その結果を市長に報告しなければならな
526 い。
527
528
529 (指導及び勧告)
530
531 第10条
532
533 市長は,
534 次の各号のいずれかに該当する者に対し,
535 必要な措置を講じるよう指導し,
536 又は
537
538 勧告することができる。
539
540
541 一
542
543 第4条(中略)の規定による協議をせず,
544 又は虚偽の内容で協議を行った者
545
546 二〜五
547
548 (略)
549
550 (命令)
551 第11条
552
553 市長は,
554 前条の勧告を受けた者が正当な理由なくこれに従わないときは,
555 開発事業に係る
556
557 工事の中止を命じ,
558 又は相当な期限を定めて違反を是正するために必要な措置を講じるよう命じる
559 ことができる。
560
561
562
563 (出題の趣旨)
564 本問は,
565 都市計画法上の開発許可の事前手続を定めた条例(以下「条例」という。
566
567 )
568 の運用に際して,
569 市と事業者の間で,
570 事業者の開発制限に関する条項(以下「本件
571 条項」という。
572
573 )を含む開発協定が締結され,
574 さらに,
575 本件条項を前提にして,
576 条
577 例に基づく事前協議を受けることができないという市長の通知(以下「本件通知」
578 という。
579
580 )が発せられたという事実を基にして,
581 行政契約の実体法的な制約,
582 及び
583 取消訴訟の訴訟要件に関する基本的な知識・理解を試す趣旨の問題である。
584
585
586 設問1は,
587 本件条項の法的拘束力を問うものである。
588
589 本件条項は,
590 公害防止協定
591 に類する規制的な契約であることから,
592 最高裁判所平成21年7月10日第二小法
593 廷判決(裁判集民事231号273頁)などを踏まえて,
594 その法的拘束力の有無に
595 ついて検討することが求められる。
596
597 その際,
598 本件の事例に即して,
599 とりわけ開発許
600 可制度の趣旨を踏まえて論ずる必要がある。
601
602
603 設問2は,
604 本件通知の処分性の有無を問うものであり,
605 処分性に関する最高裁判
606 例を基に検討することが求められる。
607
608 その際,
609 本件通知の法的根拠の有無,
610 本件通
611 知が条例上の措置や開発許可との関係でいかなる意義を有するか,
612 開発不許可処分
613 の取消訴訟において本件通知の違法性を争うことができるか,
614 などについて,
615 都市
616 計画法や条例の規定を基に論ずることが求められる。
617
618
619
620 [民
621
622 法]
623
624 次の文章を読んで,
625 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
626
627
628 【事実】
629 1.Aは,
630 早くに夫と死別し,
631 A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしていた(以下では,
632
633 この土地及び建物を「本件不動産」という。
634
635 )。
636
637 Aは,
638 身の回りのことは何でも一人で行っていた
639 が,
640 高齢であったことから,
641 近所に住むAの娘Bが,
642 時折,
643 Aの自宅を訪問してAの様子を見る
644 ようにしていた。
645
646
647 2.令和2年4月10日,
648 Aの友人であるCがAの自宅を訪れると,
649 Aは廊下で倒れており,
650 呼び
651 掛けても返事がなかった。
652
653 Aは,
654 Cが呼んだ救急車で病院に運ばれ,
655 一命を取り留めたものの,
656
657 意識不明の状態のまま入院することになった。
658
659
660 3.令和2年4月20日,
661 BはCの自宅を訪れ,
662 Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。
663
664 Cは,
665
666 Bから,
667 Aの意識がまだ戻らないこと,
668 Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが,
669
670 突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き,
671 無利息で100万円ほど融
672 通してもよいと申し出た。
673
674
675 そこで,
676 BとCは,
677 同日,
678 返還の時期を定めずに,
679 CがAに100万円を貸すことに合意し,
680
681 CはBに100万円を交付した(以下では,
682 この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。
683
684 )。
685
686
687 本件消費貸借契約締結の際,
688 BはAの代理人であることを示した。
689
690 Bは,
691 受領した100万円を
692 Aの入院費用の支払に充てた。
693
694
695 4.令和2年4月21日,
696 Bは,
697 家庭裁判所に対し,
698 Aについて後見開始の審判の申立てをした。
699
700
701 令和2年7月10日,
702 家庭裁判所は,
703 Aについて後見開始の審判をし,
704 Bが後見人に就任した。
705
706
707 そこで,
708 CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ,
709 BはAから本件消費貸
710 借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として,
711 これを拒絶した。
712
713
714 〔設問1〕
715 Cは,
716 本件消費貸借契約に基づき,
717 Aに対して,
718 貸金の返還を請求することができるか。
719
720
721 5.その後,
722 Aの事理弁識能力は著しい改善を見せ,
723 令和3年7月20日,
724 【事実】4の後見開始
725 の審判は取り消された。
726
727 しかし,
728 長期の入院生活によって運動能力が低下したAは,
729 介護付有
730 料老人ホーム甲に入居することにし,
731 甲を運営する事業者と入居に関する契約を締結し,
732 これ
733 に基づき,
734 入居一時金を支払った。
735
736 また,
737 甲の入居費用は月額25万円であり,
738 毎月末に翌月
739 分を支払うとの合意がされた。
740
741 同日,
742 Aは,
743 甲に入居した。
744
745
746 6.Aは,
747 本件不動産以外にめぼしい財産がなく,
748 甲の入居費用を支払えなくなったことから,
749 令
750 和4年5月1日,
751 知人のDから,
752 弁済期を令和5年4月末日とし,
753 無利息で500万円を借り
754 入れた。
755
756
757 7.令和5年6月10日,
758 Aは,
759 親族であるEから,
760 本件不動産の売却を持ち掛けられた。
761
762 Eは,
763
764 実際には本件不動産が3000万円相当の価値を有していることを知っていたが,
765 Aをだまし
766 て本件不動産を不当に安く買い受けようと考え,
767 様々な虚偽の事実を並べ立てて,
768 本件不動産
769 の価値は300万円を超えないと言葉巧みに申し向けた。
770
771 Aは,
772 既に生活の本拠を甲に移して
773 おり,
774 将来にわたって本件不動産を使用する見込みもなかったことから,
775 売買代金を債務の弁
776 済等に充てようと考え,
777 その価値は300万円を超えないものであると信じて,
778 代金300万
779 円で本件不動産を売却することにした。
780
781 そこで,
782 同月20日,
783 Aは,
784 Eとの間で,
785 本件不動産
786 を代金300万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。
787
788 )を締結し,
789 同日,
790 本件
791
792 自宅についてAからEへの売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。
793
794 )がさ
795 れた。
796
797
798 8.令和5年7月10日,
799 本件売買契約の事実を知ったDは,
800 Aに対して,
801 本件不動産の価値は
802 3000万円相当であり,
803 Eにだまされているとして,
804 本件売買契約を取り消すように申し向
805 けたが,
806 Aは,
807 「だまされているのだとしても,
808 親族間で紛争を起こしたくない」として取り合
809 おうとしない。
810
811 なお,
812 本件売買契約に基づく代金支払債務の履行期は未だ到来しておらず,
813 E
814 は,
815 本件売買契約の代金300万円を支払っていない。
816
817
818 〔設問2〕
819 Dは,
820 本件不動産について強制執行をするための前提として,
821 Eに対し,
822 本件登記の抹消登記
823 手続を請求することを考えている。
824
825 考えられる複数の法律構成を示した上で,
826 Dの請求が認められ
827 るかどうかを検討しなさい。
828
829
830
831 (出題の趣旨)
832 設問1は,
833 高齢者が事理弁識能力を失った後に,
834 その親族が本人の代理人として
835 契約を締結し,
836 その後に本人の後見人に就職したという事例を題材に,
837 無権代理人
838 の後見人就職という論点について問う問題である。
839
840 無権代理人が後見人に就任した
841 場合には,
842 無権代理人の本人の地位を相続した場合と同様に,
843 追認拒絶の可否が問
844 題となり得るが,
845 解答に当たっては,
846 問題の所在を的確に指摘した上で,
847 相続事例
848 との異同等を踏まえながら,
849 事案に即した論述をすることが求められる。
850
851
852 設問2は,
853 債務者の唯一のめぼしい責任財産である不動産について詐欺による売
854 買契約が行われた事例を題材として,
855 詐害行為取消権と債権者代位権に関する民法
856 の規律の基本的知識を問うとともに,
857 取消権の代位行使の可否について論理的な法
858 的思考ができるのかを問うものである。
859
860 解答に当たっては,
861 詐害行為取消権と債権
862 者代位権の要件該当性等について事案に即した検討をするとともに,
863 特に債権者代
864 位権の行使については,
865 表意者保護のために認められている詐欺取消権等が代位行
866 使の対象となるか否かについて論理的に分析をすることが求められる。
867
868
869
870 [商
871
872 法]
873
874 次の文章を読んで,
875 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
876
877
878 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
879
880 )は,
881 飲食店の経営,
882 飲食店の経営を行う会社の株式を保有
883 することにより当該会社の事業活動を支配・管理すること等を目的とする会社であり,
884 種類株式発
885 行会社ではない。
886
887 甲社の発行済株式の総数は1000株であり,
888 そのうち,
889 創業者であるAが40
890 0株を,
891 Aの息子であるBが300株を,
892 Aの娘であるCが300株を,
893 それぞれ保有していた。
894
895
896 甲社の取締役はAのみであり,
897 監査役は置いていない。
898
899
900 2.甲社は,
901 Aが店長兼料理長となっている日本料理店を営むとともに,
902 いずれも飲食店の経営等を
903 目的とする乙株式会社(以下「乙社」という。
904
905 )と丙株式会社(以下「丙社」という。
906
907 )の発行済株
908 式の全てを保有していた。
909
910 乙社の取締役はBのみであり,
911 乙社はBが店長兼料理長となっているフ
912 ランス料理レストラン(以下「レストラン乙」という。
913
914 )を営んでいる。
915
916 丙社の取締役はCのみで
917 あり,
918 丙社はCが店長兼料理長となっているイタリア料理レストラン(以下「レストラン丙」とい
919 う。
920
921 )を営んでいる。
922
923 甲社における乙社及び丙社の株式の帳簿価額は,
924 それぞれ3000万円であ
925 った。
926
927
928 ここ数年,
929 甲社の貸借対照表上の総資産額は1億円前後で推移しており,
930 令和2年6月10日
931 に確定した令和元年4月1日から令和2年3月31日までの事業年度に係る貸借対照表上の総資産
932 額も1億円であった。
933
934 甲社は,
935 令和2年4月1日以降,
936 下記6の合意までの間に,
937 資本金,
938 準備金
939 及び剰余金の額に影響を与える行為や自己株式の取得を行っておらず,
940 他社との間で吸収合併や吸
941 収分割,
942 事業の譲受けも行っていない。
943
944 また,
945 甲社は,
946 これまでに新株予約権を発行したこともな
947 い。
948
949
950 3.Bは,
951 個人として,
952 200本以上に及ぶワインのコレクションを有していたが,
953 収納スペースの
954 問題もあり,
955 コレクションの入替えを円滑に行うために,
956 その半数程度を処分することを検討して
957 いた。
958
959 ちょうどその頃,
960 レストラン乙の改装が行われており,
961 ワインセラーのスペースにも余裕が
962 できることとなるため,
963 Bは,
964 自己のワインコレクションから100本を選んで乙社に買い取らせ
965 ることとした。
966
967
968 そのためにBが選んだワイン100本(以下「本件ワイン」という。
969
970 )の市場価格は総額150
971 万円であり,
972 レストラン乙での提供価格は総額300万円程度となることが見込まれた。
973
974
975 4.Bは,
976 乙社による本件ワインの買取りにつき,
977 父であり,
978 甲社の代表者でもあるAには話をして
979 おいた方がいいだろうと考え,
980 令和2年6月23日,
981 Aの自宅を訪れた。
982
983 Bは,
984 Aに対し,
985 本件ワ
986 インのリストと市場価格を示しつつ,
987 本件ワインをレストラン乙で提供するならば総額で300万
988 円程度になる旨を述べた。
989
990 これに対して,
991 Aは,
992 「それならば300万円で,
993 乙社が買い取ること
994 にすればいいよ。
995
996 」と述べた。
997
998
999 令和2年6月25日,
1000 乙社は,
1001 Bから本件ワインを300万円で買い取った(以下「本件買取り」
1002 という。
1003
1004 )。
1005
1006
1007 5.令和2年7月1日,
1008 Aと共に改装後のレストラン乙を訪れたCは,
1009 そのワインセラーをのぞいた
1010 ことをきっかけとして,
1011 本件買取りが行われたことを初めて知った。
1012
1013 本件ワインの買取価格を聞い
1014 たCは,
1015
1016 「さすがに高過ぎるんじゃないか。
1017
1018 」と不満を述べたが,
1019 Aは,
1020
1021 「改装祝いを兼ねているし。
1022
1023 」
1024 と述べ,
1025 Bも,
1026 「おやじが決めたんだから,
1027 お前は黙っていろよ。
1028
1029 」と言って取り合わなかった。
1030
1031 そ
1032 れまでもAがBばかりを支援することに不満を募らせていたCは,
1033 大いに憤った。
1034
1035
1036 〔設問1〕
1037 Cは,
1038 甲社の株主として,
1039 本件買取りに関するBの乙社に対する損害賠償責任とAの甲社に対
1040
1041 する損害賠償責任を追及したいと考えている。
1042
1043 B及びAの会社法上の損害賠償責任の有無とそれぞ
1044 れの責任をCが追及する方法について,
1045 論じなさい。
1046
1047
1048 6.本件買取りをきっかけとして,
1049 A及びBとたもとを分かつ決心をしたCは,
1050 甲社から独立してレ
1051 ストラン丙を経営したいと考え,
1052 Aと交渉を行った。
1053
1054 その結果,
1055 令和2年8月12日,
1056 Cが保有す
1057 る甲社株式を甲社に譲渡するのと引換えに,
1058 甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する旨の合意(以
1059 下「本件合意」という。
1060
1061 )が成立した。
1062
1063
1064 〔設問2〕
1065 本件合意の内容を実現させるために甲社及び丙社において会社法上必要となる手続について,
1066
1067 説明しなさい。
1068
1069 なお,
1070 令和2年8月12日現在の甲社の分配可能額は5000万円であり,
1071 その後,
1072
1073 分配可能額に変動をもたらす事象は生じていない。
1074
1075
1076
1077 (出題の趣旨)
1078 設問1では,
1079 本件買取りに関するBの乙社に対する責任及びAの甲社に対する責
1080 任の有無と,
1081 それをCが甲社の株主として追及する方法を検討することが求められ
1082 ている。
1083
1084 Bの乙社に対する責任については,
1085 本件買取りは乙社における利益相反取
1086 引(自己のためにする直接取引。
1087
1088 会社法第356条第1項第2号)に当たるが,
1089 乙
1090 社の唯一の株主である甲社の代表取締役Aによる承認を得ていることを,
1091 Bの乙社
1092 に対する責任の有無との関係でどう評価するかがポイントとなる。
1093
1094 この場合,
1095 当該
1096 Aの同意のみではBの乙社に対する責任(特定責任)を免除することはできないこ
1097 とについても理解しておく必要がある(会社法第847条の3第10項)。
1098
1099 Aの甲
1100 社に対する責任については,
1101 不適切な子会社管理であるとして任務懈怠に当たるか
1102 否かや,
1103 甲社をして乙社における利益相反取引に当たる本件買取りについて同意・
1104 承認せしめたことが任務懈怠に当たるか否かなどを検討した上で,
1105 甲社に生じた損
1106 害をどのように考えるべきかが問題となる。
1107
1108 また,
1109 以上の責任をCが甲社の株主と
1110 して追及するには,
1111 乙社との関係ではいわゆる多重代表訴訟(会社法第847条の
1112 3)を,
1113 甲社との関係では株主代表訴訟(会社法第847条)を提起することにな
1114 るが,
1115 特に前者についてその可否を検討することが求められる。
1116
1117
1118 設問2では,
1119 本件合意の内容を実現させる手続として,
1120 甲社における自己株式の
1121 取得の手続(会社法第156条等)及び子会社株式の譲渡の手続(会社法第467
1122 条第1項第2号の2)並びに丙社における譲渡制限株式の譲渡承認手続(会社法第
1123 139条)について説明することが求められる。
1124
1125
1126
1127 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
1128 7:3)
1129 次の文章を読んで,
1130 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1131
1132
1133 【事例】
1134 X運転の普通乗用自動車が,
1135 Y運転の普通自動二輪車に追突する事故が発生した(以下「本件事
1136 故」という。
1137
1138 )。
1139
1140
1141 Xは,
1142 Yに生じた損害として,
1143 Y所有の自動二輪車の損傷について損害賠償債務が発生したこと
1144 を認め,
1145 このYの物損については,
1146 XY間の合意に基づき,
1147 Xの加入する保険会社から損害額の全
1148 額が支払われた。
1149
1150 しかし,
1151 本件事故によるYの人的損害の発生については,
1152 XY間の主張が食い違
1153 い,
1154 交渉が平行線となった。
1155
1156
1157 そこで,
1158 Xは,
1159 Yに対し,
1160 本件事故に基づくYの人的損害については生じていないとして,
1161 X
1162 のYに対する本件事故による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴えを提起した(以
1163 下「本訴」という。
1164
1165 )。
1166
1167
1168 Yは,
1169 この本訴請求に対し,
1170 本件事故によりYに頭痛の症状が生じ,
1171 現在も治療中であると主
1172 張して争うとともに,
1173 本件事故による治療費用としてYが多額の支出をしているので,
1174 その支出
1175 と通院に伴う慰謝料の一部のみをまずは請求すると主張し,
1176 Xに対し,
1177 本件事故による損害賠償
1178 請求の一部請求として,
1179 500万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求め
1180 る反訴を提起した。
1181
1182
1183 なお,
1184 以下の各設問では,
1185 遅延損害金については検討の対象外とし,
1186 論じる必要はない。
1187
1188
1189 〔設問1〕
1190 受訴裁判所は,
1191 審理の結果,
1192 Yを治療した医師の証言等の結果から,
1193 以下のような心証を形成
1194 した。
1195
1196
1197 Yには本件事故後に頭痛の症状が認められたが,
1198 既に必要な治療は終了している。
1199
1200 そして,
1201 そ
1202 の頭痛の症状及び程度からすれば,
1203 本件事故前からのYの持病である慢性頭痛と考えるのが相当で
1204 あるから,
1205 本件事故による損害とは認められない。
1206
1207 その他,
1208 本件事故によるYの人的損害の発生を
1209 認めるに足りる証拠はない。
1210
1211 そして,
1212 Yは,
1213 本件事故による物損について損害額の全額の支払を受
1214 けているから,
1215 Yの損害はすべて填補されたというべきである。
1216
1217
1218 この場合に,
1219 受訴裁判所は,
1220 本訴についてどのような判決を下すべきか,
1221 判例の立場に言及し
1222 つつ,
1223 答えなさい。
1224
1225 また,
1226 本訴についての判決の既判力は,
1227 当該判決のどのような判断について生
1228 じるか,
1229 答えなさい。
1230
1231
1232 〔設問2〕
1233 裁判所は,
1234
1235 〔設問1〕のとおり本訴について判決するとともに,
1236 反訴(一部請求)について請求棄却
1237 の判決をして,
1238 同判決が確定した(以下「前訴判決」という。
1239
1240
1241 )。
1242
1243
1244 しかし,
1245 前訴判決後,
1246 Yは,
1247 当初訴えていた頭痛だけでなく,
1248 手足に強いしびれが生じるようにな
1249 り,
1250 介護が必要な状態となった。
1251
1252
1253 そこで,
1254 Yは,
1255 前訴判決後に生じた各症状は本件事故に基づくものであり,
1256 後遺症も発生したと主
1257 張して,
1258 前訴判決後に生じた治療費用,
1259 後遺症による逸失利益等の財産的損害とともに本件事故の後
1260 遺症による精神的損害を理由に,
1261 Xに対し,
1262 本件事故による損害賠償請求の残部請求として,
1263 300
1264 0万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求める新たな訴えを提起した(以下「後
1265 訴」という。
1266
1267
1268 )。
1269
1270
1271
1272 前訴判決を前提とした上で,
1273 後訴においてYの残部請求が認められるためにどのような根拠付けが
1274 可能かについて,
1275 判例の立場に言及しつつ,
1276 前訴におけるX及びYの各請求の内容に留意して,
1277 Y側
1278 の立場から論じなさい。
1279
1280
1281
1282 (出題の趣旨)
1283 設問1は,
1284 金額を明示しない債務不存在確認の訴え(本訴)が提起されて係属中
1285 に,
1286 反訴として当該債務に係る給付の訴えが提起された場合における債務不存在確
1287 認の訴えの訴訟物及び既判力に関する理解を問う問題である。
1288
1289 具体的には,
1290 まず,
1291
1292 金額を明示しない債務不存在確認の訴えの適法性が問われ,
1293 さらに,
1294 債務不存在確
1295 認の訴えにおいて給付訴訟の反訴がなされた場合の確認の利益に関する判例の立場
1296 を念頭に置きつつ,
1297 反訴が明示的一部請求訴訟であることを踏まえた上で,
1298 本問の
1299 事案における本訴の帰すうについて,
1300 その判決に生ずる既判力の点も含め,
1301 検討さ
1302 れているかを問うものである。
1303
1304
1305 設問2は,
1306 設問1での既判力の生ずる範囲を前提として,
1307 被告の前訴の反訴請求
1308 が一部請求であったことから,
1309 残部を後訴で請求した場合に後訴請求を基礎付ける
1310 論拠が問題となる。
1311
1312 前訴における本訴・反訴それぞれの判決について生じる既判力
1313 を理解した上で,
1314 本問で問題となる交通事故事案の不法行為訴訟の特質を踏まえ,
1315
1316 残部請求や後遺症による損害の追加請求に関する判例の論理構成に言及しつつ,
1317 残
1318 部請求の可否について説得的に論述し,
1319 本問の具体的事案に当てはめた検討をする
1320 ことができるかが問われている。
1321
1322
1323
1324 [刑
1325
1326 法]
1327
1328 以下の事例に基づき,
1329 甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
1330
1331 )。
1332
1333
1334 1
1335
1336 甲(28歳,
1337 男性,
1338 身長165センチメートル,
1339 体重60キログラム)は,
1340 2年前に養子縁組
1341 によって氏を変更し,
1342 当該変更後の氏名(以下「変更後の氏名」という。
1343
1344 )を用いて暴力団X組
1345 組員として活動を始めた。
1346
1347 甲は,
1348 自営していた人材派遣業や日常生活においては,
1349 専ら当該変更
1350 前の氏名(以下「変更前の氏名」という。
1351
1352 )を用いていた。
1353
1354
1355
1356 2
1357
1358 甲は,
1359 X組と抗争中の暴力団Y組の組長乙を襲撃する計画を立てていたところ,
1360 乙が,
1361 交際中
1362 のA宅に足繁く通っているとの情報を入手した。
1363
1364 甲は,
1365 A宅を監視する目的で,
1366 A宅の向かい
1367 にあるB所有のマンション居室(以下「本件居室」という。
1368
1369 )を借りるため,
1370 某月1日,
1371 Bに会
1372 い,
1373 「部屋を借りたい。
1374
1375 」と申し込んだ。
1376
1377 Bは,
1378 暴力団員やその関係者とは本件居室の賃貸借契
1379 約を締結する意思はなく,
1380 準備していた賃貸借契約書にも「賃借人は暴力団員又はその関係者
1381 ではなく,
1382 本物件を暴力団と関係する活動に使いません。
1383
1384 賃借人が以上に反した場合,
1385 何らの
1386 催告も要せずして本契約を解除することに同意します。
1387
1388 」との条項(以下「本件条項」という。
1389
1390 )
1391 を設けていた。
1392
1393 Bは,
1394 甲に対し,
1395 本件条項の内容を説明した上,
1396 身分や資力を証明する書類の
1397 提示のほか,
1398 家賃の引落しで使用する口座の指定を求めた。
1399
1400
1401 甲は,
1402 自己がX組組員であり,
1403 A宅を監視する目的で本件居室を使用する予定である旨告げ
1404 れば,
1405 前記契約の締結ができないと考え,
1406 Bに対し,
1407 X組組員であることは告げず,
1408 その目的
1409 を秘しつつ本件居室を人材派遣業の事務所として使用する予定である旨告げた。
1410
1411 甲は,
1412 Bに変
1413 更後の氏名を名乗れば,
1414 暴力団員であることが発覚する可能性があると考え,
1415 Bに対し,
1416 変更
1417 前の氏名を名乗った上,
1418 養子縁組前に取得し,
1419 氏名欄に変更前の氏名が記載された正規の有効
1420 な自動車運転免許証を示した。
1421
1422 また,
1423 甲は,
1424 養子縁組前に開設し,
1425 口座名義を変更していない
1426 預金口座の通帳に十分な残高が記帳されていたため,
1427 Bに対し,
1428 同通帳を示し,
1429 同口座を家賃
1430 の引落しで使用する口座として指定した。
1431
1432 甲は,
1433 同日,
1434 前記契約書の賃借人欄に現住所及び変
1435 更前の氏名を記入した上,
1436 その認印を押し,
1437 同契約書をBに渡した。
1438
1439 Bは,
1440 甲が暴力団員やそ
1441 の関係者でなく,
1442 本件居室を暴力団と関係する活動に使うつもりもない旨誤信し,
1443 甲との間で
1444 上記契約を締結した。
1445
1446 この際,
1447 甲には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあった。
1448
1449
1450 なお,
1451 前記マンションが所在する某県では,
1452 暴力団排除の観点から,
1453 不動産賃貸借契約には本
1454 件条項を設けることが推奨されていた。
1455
1456 また,
1457 実際にも,
1458 同県の不動産賃貸借契約においては,
1459
1460 暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避
1461 けたいとの賃貸人側の意向も踏まえ,
1462 本件条項が設けられるのが一般的であった。
1463
1464
1465
1466 3
1467
1468 乙の警護役であるY組組員の丙(20歳,
1469 男性,
1470 身長180センチメートル,
1471 体重85キログ
1472 ラム)は,
1473 同月9日午前1時頃,
1474 A宅前路上に停めた自動車に乗り,
1475 A宅にいた乙を待ってい
1476 たところ,
1477 前記マンション敷地から同路上に出てきた甲を見掛けた。
1478
1479 その際,
1480 丙は,
1481 甲のこと
1482 を,
1483 風貌が甲と酷似する後輩の丁と勘違いし,
1484 甲に対し,
1485
1486 「おい,
1487 こんな時間にどこに行くんだ。
1488
1489 」
1490 と声を掛けた。
1491
1492 これに対し,
1493 甲は,
1494 無言で上記路上から立ち去ろうとした。
1495
1496 これを見た丙は,
1497
1498 丁に無視されたと思い込み,
1499 同車から降りて甲を追い掛け,
1500 「無視すんなよ。
1501
1502 こら。
1503
1504 」と威圧的
1505 に言い,
1506 上記路上から約30メートル先の路上において,
1507 甲の前に立ち塞がった。
1508
1509 丙は,
1510 その
1511 時,
1512 甲が丁でないことに気付くとともに,
1513 暴力団員風で見慣れない人物であったことから,
1514 そ
1515 の行動を不審に思い,
1516 乙に電話で報告しようと考え,
1517 着衣のポケットからスマートフォンを取
1518 り出した。
1519
1520 他方,
1521 甲は,
1522 丙が取り出したものがスタンガン(高電圧によって相手にショックを
1523 与える護身具)であると勘違いし,
1524 それまでの丙の態度から,
1525 直ちにスタンガンで攻撃され,
1526
1527 火傷を負わされたり,
1528 意識を失わされたりするのではないかと思い込み,
1529 同日午前1時3分頃,
1530
1531
1532 自己の身を守るため,
1533 丙に対し,
1534 とっさに拳でその顔面を1回殴ったところ,
1535 丙は,
1536 転倒して
1537 路面に頭部を強く打ち付け,
1538 急性硬膜下血腫の傷害を負い,
1539 そのまま意識を失った。
1540
1541 なお,
1542 甲
1543 は,
1544 丙の態度を注視していれば,
1545 丙が取り出したものがスマートフォンであり,
1546 丙が直ちに自
1547 己に暴行を加える意思がないことを容易に認識することができた。
1548
1549
1550 甲は,
1551 同日午前1時4分頃,
1552 丙が身動きせず,
1553 意識を失っていることを認識したが,
1554 丙に対
1555 する怒りから,
1556 丙に対し,
1557 足でその腹部を3回蹴り,
1558 丙に加療約1週間を要する腹部打撲の傷
1559 害を負わせた。
1560
1561
1562 丙は,
1563 同日午前9時頃,
1564 搬送先の病院において,
1565 前記急性硬膜下血腫により死亡したが,
1566 甲の
1567 足蹴り行為により死期が早まることはなかった。
1568
1569
1570
1571 (出題の趣旨)
1572 本問は,
1573 甲が,
1574 本件居室の賃貸借契約締結に際し,
1575 その契約書の賃借人欄に変
1576 更後の氏名ではなく変更前の氏名を記入するなどした上,
1577 同契約書をBに渡したこ
1578 と,
1579 その際,
1580 Bに対し,
1581 自己が暴力団員であることを告げず,
1582 本件居室の使用目
1583 的がA宅の監視目的であることを秘しつつ,
1584 Bとの間で同契約を締結し,
1585 本件居室
1586 の賃借権を取得したこと,
1587 丙の顔面を拳で殴って丙を転倒させ,
1588 丙に急性硬膜下
1589 血腫の傷害を負わせ,
1590 さらに,
1591 丙の腹部を足で蹴って丙に腹部打撲の傷害を負わせ,
1592
1593 丙を同急性硬膜下血腫の傷害により死亡させたことを内容とする事例について,
1594 甲
1595 の罪責に関する論述を求めるものである。
1596
1597
1598 については,
1599 有印私文書偽造罪・同行使罪の成否が問題になるところ,
1600 前者に
1601 ついては,
1602 客観的構成要件要素である「偽造」の意義を示した上で,
1603 変更前の氏名
1604 は,
1605 甲が自営していた人材派遣業や日常生活で専ら使用していたものであることを
1606 踏まえつつ,
1607 前記契約書の性質に照らし,
1608 名義人と作成者との人格の同一性に齟齬
1609 が生じたといえるのか否かを検討する必要がある。
1610
1611
1612 については,
1613 2項詐欺罪の成否が問題になるところ,
1614 主に論ずべき点として,
1615
1616 客観的構成要件要素である「人を欺く行為」(欺罔行為)の意義を示した上で,
1617 甲
1618 には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあったことを踏まえつつ,
1619 甲の属性(暴
1620 力団員であるか否か)や,
1621 本件居室の使用目的(暴力団と関係する活動か否か)が,
1622
1623 前記契約締結の判断の基礎となる重要な事項といえるか否かを検討する必要がある。
1624
1625
1626 については,
1627 甲は,
1628 丙が取り出したスマートフォンをスタンガンと勘違いして,
1629
1630 これで攻撃されると思い込みながら,
1631 自己の身を守るため,
1632 第1暴行(丙の顔面を
1633 殴る行為)を行っていることから,
1634 誤想防衛又は誤想過剰防衛の処理が問題になる
1635 ところ,
1636 甲は,
1637 丙が意識を失っていることを認識したのに,
1638 丙に対する怒りから,
1639
1640 第2暴行(丙の腹部を蹴る行為)を行い,
1641 丙に腹部打撲の傷害を負わせているため,
1642
1643 第1暴行と第2暴行の関係を踏まえつつ,
1644 その擬律を判断する必要がある。
1645
1646
1647 いずれについても,
1648 各構成要件等の正確な知識,
1649 基本的理解や,
1650 本事例にある事
1651 実を丁寧に拾って的確に分析した上,
1652 当てはめを具体的に行う能力が求められる。
1653
1654
1655
1656 [刑事訴訟法]
1657 次の【事例】を読んで,
1658 後記〔設問〕に答えなさい。
1659
1660
1661 【事例】
1662 甲は,
1663 @「被告人は,
1664 令和元年6月1日,
1665 H県I市内の自宅において,
1666 交際相手の乙に対し,
1667
1668 その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,
1669 よって,
1670 同人に加療約5日間を要する顔面挫傷等
1671 の傷害を負わせたものである。
1672
1673 」との傷害罪の公訴事実により,
1674 同月20日,
1675 H地方裁判所に起訴
1676 された。
1677
1678
1679 同事件について,
1680 同年8月1日,
1681 甲に対し,
1682 同公訴事実の傷害罪により有罪判決が宣告され,
1683
1684 同月16日,
1685 同判決が確定した。
1686
1687
1688 ところが,
1689 前記判決が確定した後,
1690 甲が同年5月15日に路上で見ず知らずの通行人丙に傷害
1691 を負わせる事件を起こしていたことが判明し,
1692 同事件について,
1693 甲は,
1694 A「被告人は,
1695 令和元年
1696 5月15日,
1697 J県L市内の路上において,
1698 丙に対し,
1699 その顔面,
1700 頭部を拳骨で多数回殴るなどの
1701 暴行を加え,
1702 よって,
1703 同人に加療約6か月間を要する脳挫傷等の傷害を負わせたものである。
1704
1705 」と
1706 の傷害罪の公訴事実により,
1707 同年12月20日,
1708 J地方裁判所に起訴された。
1709
1710
1711 公判において,
1712 甲の弁護人は,
1713 「Aの起訴の事件は,
1714 既に有罪判決が確定した@の起訴の事件と
1715 共に常習傷害罪の包括一罪を構成する。
1716
1717 よって,
1718 免訴の判決を求める。
1719
1720 」旨の主張をした。
1721
1722
1723 〔設問〕
1724 前記の弁護人の主張について,
1725 裁判所は,
1726 どのように判断すべきか。
1727
1728
1729 仮に,
1730 @の起訴が,
1731 「被告人は,
1732 常習として,
1733 令和元年6月1日,
1734 H県I市内の自宅において,
1735
1736 交際相手の乙に対し,
1737 その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,
1738 よって,
1739 同人に加療約5日間
1740 を要する顔面挫傷等の傷害を負わせたものである。
1741
1742 」との常習傷害罪の公訴事実で行われ,
1743 同公訴
1744 事実の常習傷害罪により有罪判決が確定していた場合であればどうか。
1745
1746
1747 (参照条文)
1748
1749 暴力行為等処罰ニ関スル法律
1750
1751 第1条ノ3第1項
1752
1753 常習トシテ刑法第204条,
1754 第208条,
1755 第222条又ハ第261条ノ罪ヲ犯シ
1756
1757 タル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3
1758 月以上5年以下ノ懲役ニ処ス
1759
1760 (出題の趣旨)
1761 本問は,
1762 常習傷害罪として包括一罪を構成する可能性がある複数の行為の一部に
1763 つき,
1764 確定判決を経た事件(以下「前訴」という。
1765
1766 )と,
1767 前訴の確定判決前に犯さ
1768 れたが同判決後に発覚して起訴された行為に関する事件(以下「後訴」という。
1769
1770 )
1771 の両者,
1772 あるいは一方が,
1773 単純一罪として訴因構成された事例において,
1774 前訴の確
1775 定判決の一事不再理効が及ぶ範囲の検討を通じ,
1776 刑事訴訟法の基本的な学識の有無
1777 及び具体的事案における応用力を試すものである。
1778
1779
1780 憲法第39条は,
1781 「何人も,
1782 ……既に無罪とされた行為については,
1783 刑事上の責
1784 任を問はれない。
1785
1786 又,
1787 同一の犯罪について,
1788 重ねて刑事上の責任を問はれない。
1789
1790 」
1791 とし,
1792 これを受けた刑事訴訟法第337条第1号は,
1793 「確定判決を経たとき」には,
1794
1795 「判決で免訴の言渡をしなければならない」と定めているところ,
1796 本問では,
1797 後訴
1798 について,
1799 既に確定判決を経たものとみて免訴判決をすべきか,
1800 すなわち,
1801 確定判
1802
1803 決の一事不再理効の客観的範囲をどのように考えるべきかが問題となる。
1804
1805 この点に
1806 ついては,
1807 「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法第312条第1項)の有無を基準とす
1808 る見解や同時訴追の可能性の有無を基準とする見解など様々な立場があり得るが,
1809
1810 いかなる見解を採るにせよ,
1811 一事不再理効の根拠・趣旨に言及した上で,
1812 その客観
1813 的範囲に関する判断基準を明らかにする必要がある。
1814
1815
1816 また,
1817 前者の見解を採った場合に本問で問題となるのは,
1818 公訴事実の狭義の同一
1819 性ではなく,
1820 公訴事実の単一性の有無であるから,
1821 その旨を明らかにした上で,
1822 裁
1823 判所は,
1824 前訴・後訴の両訴因に記載された事実のみを基礎として単一性を判断すべ
1825 きなのか,
1826 それとも,
1827 いずれの訴因の記載内容にもなっていない要素について証拠
1828 により心証形成した上で単一性を判断すべきなのかなど,
1829 公訴事実の単一性の判断
1830 方法について,
1831 その根拠とともに論じることが求められる。
1832
1833
1834 本問の検討に当たっては,
1835 実体的には常習特殊窃盗罪を構成するとみられる窃盗
1836 行為が単純窃盗罪として起訴され,
1837 確定判決があった後,
1838 確定判決前に犯された余
1839 罪の窃盗行為が単純窃盗罪として起訴された事案に関する最高裁判所の判例(最判
1840 平成15年10月7日刑集57巻9号1002頁)があることから,
1841 この判例につ
1842 いての理解も示しつつ,
1843 自説の立場から本問の【事例】及び〔設問〕の仮設事例へ
1844 の当てはめを行い,
1845 それぞれ免訴判決をすべきか否かの結論を述べる必要がある。
1846
1847
1848 上記判例は,
1849 公訴事実の単一性の有無について,
1850 基本的には,
1851 前訴・後訴の各訴因
1852 の記載のみを基礎としてその比較対照により判断するのが相当であるとしつつも,
1853
1854 訴因自体において一方の罪が他方の罪と実体的に一罪を構成するかどうかにつき検
1855 討すべき契機が存在する場合には,
1856 実体に立ち入って付随的に心証形成をし,
1857 両訴
1858 因間における公訴事実の単一性の有無を判断すべきであるとしている。
1859
1860 この基準に
1861 よる場合には,
1862 本問の前訴・後訴の各訴因において,
1863 常習性の発露という要素を考
1864 慮すべき契機が存在するかどうかに焦点を当てて,
1865 結論を導くこととなろう。
1866
1867
1868
1869 [民
1870
1871 事]
1872
1873 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
1874 以下の各設問に答えなさい。
1875
1876 ただし,
1877 登記上の利害関
1878 係を有する第三者に対する承諾請求権(不動産登記法第68条参照)を検討する必要はない。
1879
1880
1881 なお,
1882 解答に当たっては,
1883 文中において特定されている日時にかかわらず,
1884 試験時に施行されて
1885 いる法令に基づいて答えなさい。
1886
1887
1888 〔設問1〕
1889 弁護士Pは,
1890 Xから次のような相談を受けた。
1891
1892
1893 【Xの相談内容】
1894 「私(X)はZ県の出身ですが,
1895 大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。
1896
1897 近年,
1898
1899 定年退職の時期が迫り,
1900 老後は故郷に戻りたいと考え,
1901 自宅を建築するためにZ県内で手頃な
1902 土地を探していたところ,
1903 甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,
1904
1905 立地も良かったことから,
1906 甲土地を買うことにしました。
1907
1908
1909 私は,
1910 令和2年5月1日,
1911 Aから,
1912 売買代金500万円,
1913 売買代金の支払時期及び所有権移転
1914 登記の時期をいずれも同月20日とし,
1915 代金の完済時に所有権が移転するとの約定で甲土地を買
1916 い受け,
1917 同月20日に売買代金を支払いました。
1918
1919 なお,
1920 所有権移転登記については,
1921 甲土地の付
1922 近に居住し,
1923 料亭を営む私の兄のBを名義人とした方が都合がよいと考え,
1924 AやBと相談の上,
1925
1926 B名義で所有権移転登記を経由することにしました。
1927
1928
1929 ところが,
1930 甲土地の購入後,
1931 私は,
1932 引き続き勤務先で再雇用されることになり,
1933 甲土地上に自
1934 宅を建築するのを見合わせることにしました。
1935
1936 すると,
1937 令和7年7月上旬頃,
1938 甲土地の隣地に住
1939 むCから,
1940 甲土地を使わないのであれば1000万円で買い受けたいとの申出があり,
1941 諸経費の
1942 負担を考慮しても相当のもうけがでることから,
1943 甲土地をCに売ることにしました。
1944
1945
1946 私は,
1947 早速,
1948 Cに甲土地を売却する準備にとりかかり,
1949 甲土地の登記事項証明書を取り寄せま
1950 した。
1951
1952 すると,
1953 原因を令和2年8月1日金銭消費貸借同日設定,
1954 債権額を600万円,
1955 債務者を
1956 B,
1957 抵当権者をYとする別紙登記目録(略)記載の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」
1958 という。
1959
1960 )がされていることが判明しました。
1961
1962
1963 私は,
1964 慌ててBに確認したところ,
1965 Bは,
1966 経営する料亭の資金繰りが悪化したことから,
1967 令和
1968 2年8月1日,
1969 友人のYから,
1970 返済期限を同年12月1日,
1971 無利息で,
1972 600万円の融資を受け
1973 るとともに,
1974 甲土地に抵当権を設定したが,
1975 返済が滞っているとのことでした。
1976
1977
1978 以上のとおり,
1979 甲土地の所有者は私であり,
1980 本件抵当権設定登記は所有者である私に無断でさ
1981 れた無効なものですので,
1982 Yに対し,
1983 本件抵当権設定登記の抹消登記手続を求めたいと考えてい
1984 ます。
1985
1986 なお,
1987 Bは,
1988 甲土地の所有権名義を私に戻すことを確約していますし,
1989 兄弟間で訴訟まで
1990 はしたくありませんので,
1991 今回は,
1992 Yだけを被告としてください。
1993
1994 」
1995 弁護士Pは,
1996 令和8年1月15日,
1997 【Xの相談内容】を前提に,
1998 Xの訴訟代理人として,
1999 Yに対
2000 し,
2001 本件抵当権設定登記の抹消登記を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
2002
2003 )を提起することに
2004 した。
2005
2006
2007 以上を前提に,
2008 以下の各問いに答えなさい。
2009
2010
2011 (1)
2012
2013 弁護士Pが,
2014 本件訴訟において,
2015 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
2016 載しなさい。
2017
2018
2019
2020 (2)
2021
2022 弁護士Pが,
2023 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
2024
2025 )において記載すべき請求の趣旨(民
2026
2027 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。
2028
2029 なお,
2030 付随的申立てについては,
2031 考慮す
2032 る必要はない。
2033
2034
2035 (3)
2036
2037 弁護士Pは,
2038 本件訴状において,
2039 仮執行宣言の申立て(民事訴訟法第259条第1項)をしな
2040 かった。
2041
2042 その理由を,
2043 民事執行法の関係する条文に言及しつつ,
2044 簡潔に説明しなさい。
2045
2046
2047
2048 (4)
2049
2050 弁護士Pは,
2051 本件訴状において,
2052 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし
2053 て,
2054 以下の各事実を主張した。
2055
2056
2057
2058 (あ)
2059
2060 Aは,
2061 令和2年5月1日当時,
2062 甲土地を所有していた。
2063
2064
2065
2066 (い)
2067
2068 Aは,
2069 〔@〕。
2070
2071
2072
2073 (う)
2074
2075 甲土地について,
2076 〔A〕。
2077
2078
2079 上記@及びAに入る具体的事実を,
2080 それぞれ記載しなさい。
2081
2082
2083
2084 〔設問2〕
2085 弁護士Qは,
2086 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
2087
2088
2089 【Yの相談内容】
2090 「(a)
2091
2092 私(Y)は,
2093 Bの友人です。
2094
2095 私は,
2096 令和2年7月下旬頃,
2097 Bから,
2098 Bが経営する料亭
2099
2100 の資金繰りに困っているとして,
2101 600万円を貸してほしいと頼まれました。
2102
2103 私は,
2104 他
2105 ならぬBの頼みではありましたが,
2106 金額も金額なので,
2107 誰かに保証人になってもらうか,
2108
2109 担保を入れてほしいと告げました。
2110
2111 すると,
2112 Bは,
2113 令和2年5月1日に所有者であるA
2114 から売買代金500万円で甲土地を買っており,
2115 甲土地を担保に入れても構わないと述
2116 べたため,
2117 私は,
2118 貸付けに応じることにしました。
2119
2120 私は,
2121 令和2年8月1日,
2122 Bに対し,
2123
2124 返済期限を同年12月1日,
2125 無利息で600万円を貸し付け,
2126 同年8月1日,
2127 Bとの間
2128 で,
2129 この貸金債権を被担保債権として,
2130 甲土地に抵当権を設定するとの合意をしました。
2131
2132
2133 ところが,
2134 Bは,
2135 令和4年12月1日に100万円を返済し,
2136 令和7年12月25日に
2137 200万円を返済したのみで,
2138 それ以外の返済をしません。
2139
2140
2141 Xは,
2142 Xが令和2年5月1日にAから甲土地を買ったと主張していますが,
2143 同日にA
2144 から甲土地を買ったのはXではなくBであり,
2145 私は,
2146 所有者であるBとの間で甲土地に
2147 抵当権を設定するとの合意をし,
2148 その合意に基づき本件抵当権設定登記を経由したので
2149 すから,
2150 正当な抵当権者であり,
2151 本件抵当権設定登記を抹消する必要はありません。
2152
2153
2154 (b)
2155
2156 仮にXが主張するとおり,
2157 BではなくXが甲土地の買主であったとしても,
2158 Bは,
2159 令
2160
2161 和2年8月1日の貸付けの際,
2162 甲土地の登記事項証明書を持参しており,
2163 私が確認する
2164 と,
2165 確かにBが甲土地の所有名義人となっていましたので,
2166 私は,
2167 Bが甲土地の所有者
2168 であると信じ,
2169 上記(a)で述べたとおり,
2170 Bに対して600万円を貸し付け,
2171 抵当権の
2172 設定を受けたのです。
2173
2174 仮にXが甲土地の買主であったとしても,
2175 Xの意思でB名義の所
2176 有権移転登記がされたことは明らかですので,
2177 今回の責任はXにあることになります。
2178
2179
2180 私は,
2181 本件抵当権設定登記の抹消に応じる必要はないと思います。
2182
2183 」
2184 弁護士Qは,
2185 【Yの相談内容】を前提に,
2186 Yの訴訟代理人として,
2187 本件訴訟の答弁書(以下「本
2188 件答弁書」という。
2189
2190 )を作成した。
2191
2192
2193 以上を前提に,
2194 以下の各問いに答えなさい。
2195
2196
2197 (1)
2198
2199 @弁護士Qは,
2200
2201 【Yの相談内容】(a)の言い分を本件訴訟における抗弁として主張すべきか否か,
2202
2203 その結論を記載しなさい。
2204
2205 A抗弁として主張する場合には,
2206 どのような抗弁を主張するか,
2207 そ
2208 の結論を記載し(当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。
2209
2210 ),
2211 抗弁として主張し
2212 ない場合は,
2213 その理由を説明しなさい。
2214
2215
2216
2217 (2)
2218
2219 弁護士Qは,
2220 【Yの相談内容】(b)を踏まえて,
2221 本件答弁書において,
2222 抗弁として,
2223 以下の各事
2224 実を主張した。
2225
2226
2227
2228 (ア)
2229
2230 Yは,
2231 Bに対し,
2232 令和2年8月1日,
2233 弁済期を同年12月1日として,
2234 600万円を貸し付
2235 けた。
2236
2237
2238
2239 (イ)
2240
2241 BとYは,
2242 令和2年8月1日,
2243 Bの(ア)の債務を担保するため,
2244 甲土地に抵当権を設定す
2245 るとの合意をした(以下「本件抵当権設定契約」という。
2246
2247 )。
2248
2249
2250
2251 (ウ)
2252
2253 本件抵当権設定契約当時,
2254 〔@〕。
2255
2256
2257
2258 (エ)
2259
2260 (ウ)は,
2261 Xの意思に基づくものであった。
2262
2263
2264
2265 (オ)
2266
2267 Yは,
2268 本件抵当権設定契約当時,
2269 〔A〕。
2270
2271
2272
2273 (カ)
2274
2275 本件抵当権設定登記は,
2276 本件抵当権設定契約に基づく。
2277
2278
2279
2280 (@)
2281
2282 上記@及びAに入る具体的事実を,
2283 それぞれ記載しなさい。
2284
2285
2286
2287 (A)
2288
2289 弁護士Qが,
2290 本件答弁書において,
2291 【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために,
2292 上
2293
2294 記(ア)の事実を主張した理由を簡潔に説明しなさい。
2295
2296
2297 〔設問3〕
2298 弁護士Pは,
2299 準備書面において,
2300 本件答弁書で主張された【Yの相談内容】(b)に関する抗弁に
2301 対し,
2302 民法第166条第1項第1号による消滅時効の再抗弁を主張した。
2303
2304
2305 弁護士Qは,
2306 【Yの相談内容】を前提として,
2307 二つの再々抗弁を検討したところ,
2308 そのうちの一
2309 方については主張自体失当であると考え,
2310 もう一方のみを準備書面において主張することとした。
2311
2312
2313 以上を前提に,
2314 以下の各問いに答えなさい。
2315
2316
2317 (1)
2318
2319 弁護士Qとして主張することとした再々抗弁の内容を簡潔に説明しなさい。
2320
2321
2322
2323 (2)
2324
2325 弁護士Qが再々抗弁として主張自体失当であると考えた主張について,
2326 主張自体失当と考えた
2327 理由を説明しなさい。
2328
2329
2330
2331 〔設問4〕
2332 Yに対する訴訟は,
2333 審理の結果,
2334 Xが敗訴した。
2335
2336 すると,
2337 Bは,
2338 自分が甲土地の買主であると主
2339 張して,
2340 Xへの所有権移転登記手続を拒むようになった。
2341
2342 そこで,
2343 弁護士Pは,
2344 Xの訴訟代理人と
2345 して,
2346 Bに対して,
2347 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権を訴訟物として,
2348
2349 真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を求める訴訟(以下「本件第2訴訟」という。
2350
2351 )
2352 を提起した。
2353
2354
2355 第1回口頭弁論期日で,
2356 Bは,
2357 Aが令和2年5月1日当時甲土地を所有していたことは認めたが,
2358
2359 AがXに対して甲土地を売ったことは否認し,
2360 自分がAから甲土地を買ったと主張した。
2361
2362
2363 その後,
2364 第1回弁論準備手続期日で,
2365 弁護士Pは,
2366 書証として令和2年5月20日にAの銀行預
2367 金口座に宛てて500万円が送金された旨が記載されたX名義の銀行預金口座の通帳(本件預金通
2368 帳)及び甲土地の令和3年分から令和7年分までのBを名宛人とする固定資産税の領収書(本件領
2369 収書)を提出し,
2370 いずれも取り調べられ,
2371 Bはいずれも成立の真正を認めた。
2372
2373
2374 その後,
2375 2回の弁論準備手続期日を経た後,
2376 第2回口頭弁論期日において,
2377 本人尋問が実施され,
2378
2379 Xは次の【Xの供述内容】のとおり,
2380 Bは次の【Bの供述内容】のとおり,
2381 それぞれ供述した。
2382
2383
2384 【Xの供述内容】
2385 「私はZ県の出身ですが,
2386 大学卒業後は仕事の都合でZ県を離れていました。
2387
2388 近年,
2389 定年退職の時
2390 期が迫り,
2391 老後は故郷に戻りたいと考え,
2392 自宅を建築するためにZ県内で手頃な土地を探していたと
2393 ころ,
2394 甲土地の所有者であるAが甲土地を売りに出していることを知り,
2395 立地も良かったことから,
2396
2397
2398 甲土地を買うことにし,
2399 Aとの間で,
2400 売買代金額の交渉を始めました。
2401
2402 最初は,
2403 私が400万円を主
2404 張し,
2405 Aが600万円を主張していましたが,
2406 お互い歩み寄り,
2407 代金を500万円とすることで折り
2408 合いがつきました。
2409
2410
2411 私は,
2412 令和2年5月1日,
2413 兄のBと共にA宅を訪れ,
2414 Aと私は,
2415 口頭で,
2416 私がAから売買代金50
2417 0万円で甲土地を買い受けることに合意しました。
2418
2419 所有権移転登記については,
2420 甲土地の付近に居住
2421 し,
2422 料亭を営み地元でも顔が広いBを所有名義人とした方が,
2423 建物建築のための地元の金融機関から
2424 の融資が円滑に進むだろうと考え,
2425 AやBの了解を得て,
2426 B名義で所有権移転登記を経由することに
2427 しました。
2428
2429 私は,
2430 同月20日,
2431 私の銀行口座からAの銀行口座に500万円を送金して,
2432 売買代金を
2433 Aに支払いました。
2434
2435 ところが,
2436 甲土地の購入後,
2437 私は,
2438 引き続き勤務先で再雇用されることになった
2439 ため,
2440 甲土地上に自宅を建築するのを見合わせることにし,
2441 甲土地は更地のままになり,
2442 金融機関か
2443 ら融資を受けることもありませんでした。
2444
2445
2446 甲土地は,
2447 私の所有ですので,
2448 令和3年分から令和7年分までその固定資産税は私が負担していま
2449 す。
2450
2451 甲土地は,
2452 登記上は,
2453 Bが所有者であり,
2454 Bに固定資産税の納付書が届くので,
2455 私は,
2456 Bから納
2457 付書をもらって固定資産税を納付していました。
2458
2459
2460 」
2461 【Bの供述内容】
2462 「私は,
2463 Z県内の自己所有の建物で妻子と共に生活をしています。
2464
2465 甲土地は,
2466 当初は,
2467 定年退職の
2468 時期が迫り,
2469 老後は故郷に戻りたいと考えたXが,
2470 自宅を建てるために購入しようと,
2471 Aとの間で代
2472 金額の交渉をしていました。
2473
2474 しかし,
2475 Xは,
2476 令和2年の正月,
2477 やはり老後も都会で生活したいと考え
2478 るようになったので,
2479 甲土地の購入はやめようと思う,
2480 ただ甲土地は良い物件であるし,
2481 Aも甲土地
2482 を売りたがっていると述べて,
2483 私に甲土地を購入しないかと打診してきました。
2484
2485
2486 私は,
2487 早速甲土地を見に行ったところ,
2488 立地もよく,
2489 XとAとの間でまとまっていた500万円と
2490 いう代金額も安く感じられたことから,
2491 私がAから甲土地を買うことにしました。
2492
2493
2494 もっとも,
2495 令和元年末に私の料亭が食中毒を出してしまい,
2496 客足が遠のいており,
2497 私自身が甲土地
2498 の売買代金をすぐに工面することはできなかったことから,
2499 差し当たり,
2500 Xに立て替えてもらうこと
2501 になりました。
2502
2503 もちろん,
2504 私は,
2505 資金繰りがつき次第Xに同額を返還するつもりでしたが,
2506 なかなか
2507 料亭の売上げが回復せず,
2508 Xに立替金を返還することができないまま,
2509 今日に至ってしまいました。
2510
2511
2512 このことは大変申し訳ないと思っています。
2513
2514
2515 所有権移転登記の名義が私であることからも,
2516 私が甲土地の所有者であることは明らかです。
2517
2518 なお,
2519
2520 甲土地の固定資産税は,
2521 私が支払っていると思いますが,
2522 税金関係は妻に任せており,
2523 詳しくは分か
2524 りません。
2525
2526
2527 」
2528 以上を前提に,
2529 以下の問いに答えなさい。
2530
2531
2532 弁護士Pは,
2533 本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
2534 準備書面を提出することを予定している。
2535
2536
2537 その準備書面において,
2538 弁護士Pは,
2539 前記の提出された各書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Bの
2540 供述内容】と同内容のX及びBの本人尋問における供述に基づいて,
2541 XがAから甲土地を買った事実が
2542 認められることにつき,
2543 主張を展開したいと考えている。
2544
2545 弁護士Pにおいて,
2546 上記準備書面に記載すべ
2547 き内容を,
2548 提出された各書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
2549 答案用紙1頁程
2550 度の分量で記載しなさい。
2551
2552
2553
2554 (出題の趣旨)
2555 設問1は,
2556 所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記請求
2557 権が問題となる訴訟において,
2558 原告の希望に応じた訴訟物,
2559 請求の趣旨,
2560 仮執行宣
2561 言の申立ての当否及び請求を理由づける事実について説明を求めるものである。
2562
2563 物
2564
2565 権的登記請求権の法律要件や意思表示を命ずる判決の効力について正確な理解が問
2566 われている。
2567
2568
2569 設問2は,
2570 被告の二つの主張に関し,
2571 各主張の位置付け及び抗弁となる場合の抗
2572 弁事実の内容を問うものである。
2573
2574 否認と抗弁の違いについて正確な理解が求められ
2575 るとともに,
2576 実体法及び判例の理解を踏まえて抗弁事実の内容を正確に論ずること
2577 が求められる。
2578
2579
2580 設問3は,
2581 被告代理人の訴訟活動上の選択に関し,
2582 時効の更新の要件効果や時効
2583 援用権の喪失に関する判例の理解を踏まえながら,
2584 本件への当てはめを適切に検討
2585 することが求められる。
2586
2587
2588 設問4は,
2589 原告代理人の立場から,
2590 請求原因事実が認められることに関し準備書
2591 面に記載すべき事項を問うものである。
2592
2593 書証及び当事者尋問の結果を検討し,
2594 いか
2595 なる証拠によりいかなる事実を認定することができるかを示すとともに,
2596 各認定事
2597 実に基づく推認の過程を,
2598 本件の具体的な事案に即して,
2599 説得的に論述することが
2600 求められる。
2601
2602
2603
2604 [刑
2605
2606 事]
2607
2608 次の【事例】を読んで,
2609 後記〔設問〕に答えなさい。
2610
2611
2612 【事例】
2613 1
2614
2615 H地方検察庁検察官Pは,
2616 I警察署司法警察員Kから,
2617 令和2年2月1日にJ県L市内の
2618 民家で住人のV(77歳,
2619 男性)が殺害された殺人被疑事件について,
2620 A(45歳,
2621 男性)
2622 を逮捕することの是非について相談を受けた。
2623
2624 その時点までに収集された主な証拠の概要は
2625 以下のとおりである。
2626
2627
2628
2629
2630 捜査の端緒に関する捜査報告書(証拠@)
2631 「令和2年2月1日午後9時50分頃,
2632 Vと同居していた息子Bから,
2633 『Vが何者かに殺
2634 されている。
2635
2636 』旨の110番通報があり,
2637 同日午後9時58分頃,
2638 警察官がV方に臨場した
2639 ところ,
2640 Vが1階居間の床上に大量に血を流して仰向けに倒れていた。
2641
2642 Vは,
2643 臨場した救
2644 急隊員により直ちに病院へ搬送されたものの,
2645 医師によりVの死亡が確認された。
2646
2647 」
2648
2649
2650
2651 実況見分調書(証拠A)
2652 「警察官が臨場した際にVが倒れていた位置は,
2653 V方1階居間中央にある応接テーブル
2654 の西側約1メートルの位置であり,
2655 その周囲の床部分には,
2656 多量の血痕が付着していた。
2657
2658
2659 V方からは,
2660 遺留指紋6点が採取されたが,
2661 凶器の発見には至らなかった。
2662
2663 」
2664
2665
2666
2667 遺留指紋に関する捜査報告書(証拠B)
2668 上記遺留指紋のうち5点は,
2669 Vの指紋と一致し,
2670 残りの1点は,
2671 上記応接テーブル上面
2672 から採取されたもので,
2673 Aの指紋と一致した旨が記載されている。
2674
2675
2676
2677
2678
2679 司法解剖医の警察官面前の供述録取書(証拠C)
2680 「Vの死因は,
2681 胸部刺創による心臓刺創に起因する失血死である。
2682
2683 成傷器は,
2684 先端は鋭
2685 利,
2686 かつ,
2687 刃の長さが15センチメートル以上の片刃の刃物と推定される。
2688
2689 Vは,
2690 これに
2691 より1回刺突され,
2692 ほぼ即死したものと考えられる。
2693
2694 」
2695
2696
2697
2698 Bの警察官面前の供述録取書(証拠D)
2699 「令和2年2月1日午後2時頃,
2700 Vに見送られて外出した。
2701
2702 同日午後9時45分頃,
2703 帰
2704 宅して自宅に入ると,
2705 Vが大量に血を流して倒れており,
2706 全く反応がなかったので,
2707 何者
2708 かに殺害されたのだと思い,
2709 110番通報した。
2710
2711
2712 Aのことは知っている。
2713
2714 Vは,
2715 V方の東隣の店舗でクリーニング店を営んでおり,
2716 Aは,
2717
2718 同店で15年間にわたり従業員として働いていた者である。
2719
2720 同店の経営状況が悪くなった
2721 ことから,
2722 Vが令和元年12月末にAを解雇した。
2723
2724 しかし,
2725 Aは,
2726 新しい就職先が見つか
2727 らず,
2728 令和2年1月20日頃から毎日のように同店を訪れては,
2729 再び雇ってほしいとVに
2730 懇願しており,
2731 Vは,
2732 これを断り続けていた。
2733
2734 同月27日夕方には,
2735 同店事務室でVとA
2736 が話をしていた際,
2737 Aが大声を上げながら両手でVを突き飛ばしたということがあった。
2738
2739
2740 その時は,
2741 たまたま店番をしていた私がAを制止し,
2742 Aをなだめて帰ってもらった。
2743
2744
2745 Aは,
2746 Vに用があるときはいつもクリーニング店を訪ねて来ており,
2747 私が知る限り,
2748 A
2749 がV方に上がったことはなかった。
2750
2751 また,
2752 V方1階居間にあった応接テーブル上面は,
2753 事
2754 件当日,
2755 私が外出する直前の午後1時45分頃に,
2756 私が全体にわたり拭き掃除をした。
2757
2758 応
2759 接テーブル上面にAの指紋が残されていたのであれば,
2760 その指紋が付いたのは,
2761 私が同日
2762 午後2時頃に外出してから午後9時45分頃に帰宅するまでの間としか考えられない。
2763
2764 」
2765
2766
2767
2768 V方西隣の住民W1の警察官面前の供述録取書(証拠E)
2769 「令和2年2月1日午後6時頃,
2770 私が自宅にいたところ,
2771 V方から男性の大きな怒鳴り
2772 声が聞こえたが,
2773 何と言って怒鳴っていたかまでは分からなかった。
2774
2775 」
2776
2777 2
2778
2779 検察官Pは,
2780 司法警察員Kからの上記相談に対し,
2781 AがVを死亡させた犯人であること
2782 (Aの犯人性)について,
2783 証拠B等の有力な証拠があるものの,
2784 これらの証拠に基づき認め
2785 られる間接事実の推認力が十分でないと考えた。
2786
2787 そのため,
2788 検察官Pは,
2789 現時点でAを逮捕
2790 することは妥当ではなく,
2791 更なる捜査が必要であると判断し,
2792 司法警察員Kにその旨を伝え
2793 た。
2794
2795
2796
2797 3
2798
2799 その後,
2800 主に以下の証拠が収集され,
2801 再度司法警察員Kから相談を受けたことから,
2802 検察
2803 官Pは,
2804 以前に収集された証拠に基づき認められる間接事実に,
2805 証拠FからJに基づき認
2806 められる間接事実が加わったことにより,
2807 Aの犯人性を十分に推認できると考え,
2808 Aを逮捕
2809 することが妥当であると判断して,
2810 司法警察員Kにその旨を伝えた。
2811
2812
2813
2814
2815 Cの警察官面前の供述録取書(証拠F)
2816 「Aは,
2817 私の高校時代の同級生で,
2818 今も友人である。
2819
2820 令和2年2月1日夜,
2821 Aから私の
2822 携帯電話に電話がかかってきた。
2823
2824 その通話で,
2825 Aは,
2826 『むかついたので人をナイフで刺して
2827 やった。
2828
2829 刺したナイフは,
2830 高校の近くのM県N市O町にある竹やぶに投げ捨てた。
2831
2832 さすが
2833 に見付かることはないよな。
2834
2835 』と言ってきた。
2836
2837 その時は,
2838 Aが酒に酔って冗談を言っている
2839 ものと思って受け流したが,
2840 その後,
2841 Aが前に働いていたクリーニング店の経営者が自宅
2842 で刺し殺されたことを報道で知って,
2843 Aがやったのではないかと思い,
2844 怖くなった。
2845
2846 友人
2847 であるAのことを裏切りたくなくて悩んだが,
2848 Aが罪を犯したのであればきちんと償って
2849 ほしいと思い,
2850 同月5日朝,
2851 自分から警察に連絡して,
2852 Aから聞いた話を伝えることにし
2853 た。
2854
2855 」
2856
2857
2858
2859 Cの携帯電話の精査結果に関する捜査報告書(証拠G)
2860 Cから任意提出を受けたC所有の携帯電話のデータを精査した結果,
2861 Aが契約する携帯電話の
2862 番号がAの姓名で登録されており,
2863 令和2年2月1日午後9時頃に同番号から着信があり,
2864 約5
2865 分間にわたって通話した履歴があった旨が記載されている。
2866
2867
2868
2869
2870
2871 ナイフの領置経過に関する捜査報告書(証拠H)
2872 Cの供述に基づき,
2873 警察官がM県N市O町にある上記竹やぶ内を探索したところ,
2874 令和
2875 2年2月5日午前11時頃,
2876 血痕様のものが付着した刃体の長さ約15.5センチメート
2877 ルの片刃のナイフを発見し,
2878 これを領置した旨が記載されている。
2879
2880
2881
2882
2883
2884 上記ナイフに付着した血痕様のものに関する鑑定書(証拠I)
2885 上記ナイフに付着した血痕様のものは,
2886 人血であり,
2887 そのDNA型は,
2888 Vのものと一致
2889 した旨が記載されている。
2890
2891
2892
2893
2894
2895 司法解剖医の警察官面前の供述録取書(証拠J)
2896 「上記ナイフは,
2897 その形状から,
2898 Vの死因となった胸部刺創を形成した凶器と考えて矛盾
2899
2900 はない。
2901
2902 上記胸部刺創が,
2903 深さ約15センチメートルに達していた上,
2904 肋骨が刺切されてい
2905 たことに照らすと,
2906 凶器をかなり強い力でVの身体に突き刺したものと認められる。
2907
2908 」
2909 4
2910
2911 Aは,
2912 Vを被害者とする殺人罪の被疑事実で通常逮捕され,
2913 引き続き,
2914 勾留された。
2915
2916 勾留
2917 期限までに収集された主な証拠の概要は以下のとおりである。
2918
2919
2920
2921
2922 Bの検察官面前の供述録取書(証拠K)
2923 証拠D記載の内容と同旨。
2924
2925
2926
2927
2928
2929 Cの検察官面前の供述録取書(証拠L)
2930 証拠F記載の内容と同旨。
2931
2932
2933
2934
2935
2936 通行人W2の警察官面前の供述録取書(証拠M)
2937 「令和2年2月1日午後6時頃,
2938 保育園に預けている娘を迎えに行くためV方の前を通っ
2939 たところ,
2940 V方から,
2941
2942 『お前は長年店に尽くしてきた俺のことを何も考えていない。
2943
2944 殺すぞ。
2945
2946 』
2947 と怒鳴り付ける男性の大声が聞こえた。
2948
2949 続いて,
2950 別の男性の声で,
2951 『ろくに働きもしていな
2952
2953 かったくせに。
2954
2955 また働かせろなんて無理に決まっているだろう。
2956
2957 』と怒鳴り返しているのが
2958 聞こえた。
2959
2960 気になったが,
2961 保育園のお迎えの時間が迫っていたので,
2962 それ以上は聞かずに
2963 その場を離れた。
2964
2965 」
2966
2967
2968 W2の検察官面前の供述録取書(証拠N)
2969 証拠M記載の内容と同旨。
2970
2971
2972
2973
2974
2975 Aの警察官面前の供述録取書(証拠O)
2976
2977 「Vを殺したのは私ではない。
2978
2979 V方に上がったこともない。
2980
2981 事件があった日は,
2982 ずっと
2983 自宅にいたと思う。
2984
2985
2986 」
2987 Aの検察官面前の供述録取書(証拠P)
2988 「警察の取調べではうそをついていた。
2989
2990 私が持っていたナイフがVの胸に刺さり,
2991 Vを死
2992 なせてしまったことは,
2993 事実である。
2994
2995 しかし,
2996 私は,
2997 刺そうと思って刺したのではないし,
2998
2999 Vを殺すつもりもなかった。
3000
3001 事件当日は,
3002 Vを脅して再雇用に応じさせようと思い,
3003 午後
3004 6時頃,
3005 ナイフを持ってV方に行った。
3006
3007 Vに居間に通された後,
3008 Vを脅すために,
3009 何も言
3010 わずにVの方に刃先を向けてナイフを構えたところ,
3011 突然Vが向かってきたので,
3012 とっさ
3013 に目を閉じて後ずさりした。
3014
3015 次の瞬間,
3016 強い衝撃を手に感じ,
3017 目を開けるとVの胸にナイ
3018 フが突き刺さっていたので怖くなり,
3019 そのナイフを抜き取って逃げた。
3020
3021 」
3022 5 検察官Pは,
3023 勾留期限までに,
3024 Aにつき,
3025 Vを被害者とする殺人罪の公訴事実(逮捕勾留
3026 に係る被疑事実と同一の内容)で公訴を提起し,
3027 同公訴提起に係る殺人被告事件は,
3028 公判前
3029 整理手続に付された。
3030
3031
3032 6 公判前整理手続において,
3033 検察官は,
3034 「Aは,
3035 令和2年2月1日午後6時頃,
3036 大声でVを怒
3037 鳴り付けて再雇用を迫ったものの,
3038 VがかつてのAの勤務態度を非難して再雇用を断ったた
3039 め,
3040 これに憤慨し,
3041 殺意をもって,
3042 Vの胸部をナイフで1回突き刺し,
3043 Vを死亡させた。
3044
3045 」な
3046 どと記載した証明予定事実記載書を裁判所に提出するとともに弁護人に送付し,
3047 併せて,
3048 証
3049 拠@からC,
3050 GからL,
3051 N及びPの各証拠の取調べを裁判所に請求した。
3052
3053
3054 これに対し,
3055 Aの弁護人は,
3056 証拠Pと同旨の予定主張を明らかにするとともに,
3057 証拠C,
3058
3059 J,
3060 L及びNについて「不同意」とし,
3061 その他の証拠については「同意」との意見を述べた
3062 ので,
3063 検察官は,
3064 司法解剖医,
3065 C及びW2の証人尋問を請求した。
3066
3067
3068 裁判所は,
3069 争点を刺突行為及び殺意の有無と整理した上で,
3070 司法解剖医,
3071 C及びW2につ
3072 き,
3073 いずれも証人として尋問する旨の決定をするなどし,
3074 公判前整理手続を終結した。
3075
3076
3077 7 その後,
3078 第1回公判期日までの間において,
3079 Aの弁護人は,
3080 Aについて保釈の請求をした
3081 が,
3082 H地方裁判所裁判官は,
3083 刑事訴訟法第89条第1号及び第4号に該当する事由があり,
3084
3085 また,
3086 同法第90条に基づく職権による保釈を許すべき事情も認められないとして,
3087 同保釈
3088 請求を却下した。
3089
3090
3091 8 公判期日に実施されたCの証人尋問において,
3092 検察官が,
3093 Cに対し,
3094 事件当日の夜にAか
3095 ら電話で聞かされた内容について質問し,
3096 Cが証拠Lと同旨の証言をしたところ,
3097 Aの弁
3098 護人は,
3099 「ただ今の証言は証拠能力のない伝聞供述であるから,
3100 証拠排除を求める。
3101
3102 」と述べ
3103 た。
3104
3105 裁判長が検察官に意見を求めたところ,
3106 検察官は,
3107 弁護人の申立てには理由がない旨を
3108 条文上の根拠とともに答えた。
3109
3110
3111 〔設問1〕
3112
3113
3114 下線部に関し,
3115 検察官Pは,
3116 V方1階居間中央の応接テーブル上面にAの指紋が付着
3117 していた事実は,
3118 Aの犯人性を推認させる間接事実であるが,
3119 その推認力は限定的である
3120 と考えた。
3121
3122 その思考過程を,
3123 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
3124
3125 なお,
3126 証拠Dに記載さ
3127 れたBの供述の信用性は認められることを前提とする。
3128
3129
3130
3131
3132
3133 下線部に関し,
3134 検察官PがAの犯人性を十分に推認できると考えた思考過程を,
3135 具体
3136
3137 的事実を指摘しつつ答えなさい。
3138
3139 なお,
3140 証拠Fに記載されたCの供述の信用性は認められ
3141 ることを前提とする。
3142
3143
3144 〔設問2〕
3145
3146
3147 公判前整理手続において,
3148 Aの弁護人は,
3149 検察官が取調べを請求した証拠の開示を受け,
3150
3151 これらの証拠に対してどのような意見を述べるかを検討するに当たり,
3152 犯行が行われた時
3153 刻頃にV方からの物音を聞いた者がW2のほかにいるならば,
3154 その者の供述録取書の開示
3155 を受けたいと考えた。
3156
3157 この場合,
3158 Aの弁護人は,
3159 どのような手段を採るべきか,
3160 また,
3161 そ
3162 の手段を採る際に具体的にどのようなことを明らかにすべきか,
3163 条文上の根拠を示しつつ
3164 答えなさい。
3165
3166
3167
3168
3169
3170 Aの弁護人が上記の手段を採ったのに対し,
3171 検察官は,
3172 証拠EをAの弁護人に開示し
3173 た。
3174
3175 その検察官の思考過程を,
3176 その判断要素を踏まえ,
3177 具体的事実を指摘しつつ答えなさ
3178 い。
3179
3180
3181
3182 〔設問3〕
3183 下線部に関し,
3184 裁判所は,
3185 Aの弁護人の申立てに基づき証拠排除決定をすべきか。
3186
3187 検察官
3188 がCの証言によりどのような事実を立証しようとしているかを踏まえた上で,
3189 具体的理由を付
3190 して答えなさい。
3191
3192
3193 〔設問4〕
3194 結審後,
3195 判決宣告期日までの間に,
3196 Aの父親が死亡した。
3197
3198 Aの弁護人が勾留中のAとの接
3199 見でその旨を伝えたところ,
3200 Aから「父の葬儀にだけは出席したい。
3201
3202 何とか出席できるよう
3203 にしてほしい。
3204
3205 」と依頼された。
3206
3207 Aの弁護人が採り得る複数の手段について,
3208 条文上の根拠を
3209 示しつつ,
3210 本事例における具体的な事実関係に即して答えなさい。
3211
3212
3213
3214 (出題の趣旨)
3215 本問は,
3216 犯人性あるいは実行行為・殺意が争点となる殺人事件を題材に,
3217 犯人性
3218 の認定における間接事実の推認力(設問1),
3219 類型証拠開示請求の要件及び類型証
3220 拠該当性(設問2),
3221 被告人の供述を内容とする証言の証拠能力(設問3),
3222 被告人
3223 を身柄拘束から解放する手段(設問4)について,
3224 【事例】に現れた証拠や事実,
3225
3226 手続の経過を適切に把握した上で,
3227 法曹三者それぞれの立場から,
3228 その思考過程及
3229 び採るべき具体的対応について解答することを求めており,
3230 刑事事実認定の基本構
3231 造及び刑事手続についての基本的知識の理解並びに基礎的実務能力を試すものであ
3232 る。
3233
3234
3235
3236 [一般教養科目]
3237 次の文章は,
3238 ソポクレス『アンティゴネ』(福田恆存訳)中の一節である。
3239
3240 これを読んで,
3241 後記
3242 の各設問に答えなさい。
3243
3244 なお,
3245 冒頭に人物紹介及び背景説明を置くので,
3246 適宜参考にされたい。
3247
3248
3249 〈人物紹介と背景説明〉
3250 ギリシア神話によれば,
3251 テバイ王オイディプスは,
3252 自らの呪われた運命を知り,
3253 王位を離れて
3254 諸国を放浪する。
3255
3256 オイディプスの娘アンティゴネは,
3257 それに同行する。
3258
3259 やがてオイディプスは外地
3260 で亡くなり,
3261 アンティゴネはテバイに戻ってくる。
3262
3263
3264 テバイでは,
3265 アンティゴネの叔父クレオンが摂政として実権を握っている。
3266
3267 オイディプスの息
3268 子であるエテオクレスとポリュネイケス──いずれもアンティゴネの兄──が王位をめぐって争っ
3269 たとき,
3270 クレオンは,
3271 エテオクレスを支持する。
3272
3273 エテオクレスとポリュネイケスは戦い,
3274 一騎打ち
3275 の末に二人とも亡くなる。
3276
3277
3278 その後,
3279 クレオンが,
3280 急遽テバイ王を継ぐ。
3281
3282 クレオンは,
3283 エテオクレスの遺骸は丁重に埋葬す
3284 る。
3285
3286 しかし,
3287 ポリュネイケスの遺骸については,
3288 埋葬を禁じ,
3289 城外に野晒しにする。
3290
3291 これに対して,
3292
3293 アンティゴネは,
3294 城外に赴き,
3295 兄ポリュネイケスの遺骸に砂をかけて埋葬の代わりとする。
3296
3297 アンテ
3298 ィゴネは,
3299 国禁を破ったとして捕らえられ,
3300 クレオンの前に引き出される。
3301
3302
3303 (省
3304
3305 略)
3306
3307 〔設問1〕
3308 アンティゴネによるポリュネイケスの埋葬について,
3309 クレオンとアンティゴネの主張は対立して
3310 いる。
3311
3312
3313 クレオンの主張とアンティゴネの主張をそれぞれ要約しなさい。
3314
3315
3316 ただし,
3317 両者を合わせて15行程度とすること。
3318
3319
3320 〔設問2〕
3321 「ポリュネイケスの埋葬」をめぐるクレオンとアンティゴネの論争については様々な解釈をす
3322 ることが可能である。
3323
3324
3325 この論争における対立軸を一つ取り上げた上で,
3326 今日における社会事象の中から同様の対立軸
3327 を持つ事象を挙げ,
3328 当該事象における対立に係るそれぞれの立場からの主張について論じなさい。
3329
3330
3331 ただし,
3332 20行程度とすること。
3333
3334
3335 【出典】ソポクレス『アンティゴネ』福田恆存訳
3336
3337 (出題の趣旨)
3338 設問1は,
3339 「ポリュネイケスの埋葬」をめぐるクレオンとアンティゴネの各主張
3340 についての理解を問うものである。
3341
3342 解答に当たっては,
3343 クレオンとアンティゴネそ
3344 れぞれにおける,
3345 「ポリュネイケスの埋葬」という行為に対する意味付けや,
3346 自ら
3347 の主張を正当化する根拠について触れつつ,
3348 的確に要約することが求められる。
3349
3350
3351 設問2は,
3352 「ポリュネイケスの埋葬」をめぐるクレオンとアンティゴネの論争(以
3353 下「本件論争」という。
3354
3355 )に関する理解を踏まえて,
3356 類似の対立構造を持つ現代の
3357 社会事象を素材とした思考力や分析力を問うものである。
3358
3359 解答に当たっては,
3360 本件
3361
3362 論争における様々な対立軸の理解を前提として,
3363 そのうち一つの対立軸を抽出し,
3364
3365 同様の対立軸を持つ適切かつ具体的な社会事象を取り上げることが求められる。
3366
3367 そ
3368 の上で,
3369 上記社会事象における対立に係るそれぞれの立場からの主張を論じるに際
3370 しては,
3371 今日における多様な価値観に基づく見解の相違や,
3372 社会情勢の変化等に伴
3373 う国民意識の移り変わりに基づく見解の相違など,
3374 様々な切り口からの論述が考え
3375 られるが,
3376 いずれにしても,
3377 各立場からの主張につき,
3378 抽出した対立軸を踏まえた
3379 的確な分析に基づく具体的かつ説得的な考察が求められる。
3380
3381
3382 なお,
3383 当然ながら,
3384 いずれの設問においても,
3385 全体として指定の分量で簡潔に記
3386 述する能力も求められている。
3387
3388
3389
3390