1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,35:25:40〕)
7 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。
8 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて
9 いる法令に基づいて答えなさい。
10 T
11 【事実】
12 1.令和2年4月10日,Aが所有する工作機械甲が盗まれ,行方不明となった。
13 2.令和2年4月25日,土木業を営むBは,空き地に放置されている甲を発見し,所有者が廃
14 棄したものだろうと考えて,甲を持ち帰った。
15 3.令和2年5月1日,Bは,Cとの間で,期間を6か月間として甲を無償で貸す契約を締結し,
16 同日,甲をCに引き渡した。Cは,その際,【事実】1及び2を知らなかった。
17 4.令和2年5月15日,Bは,弁済期が到来していたDに対する借入金債務の弁済に代えて,
18 甲をCに貸与したままDに譲渡した。その際,Bは,Dに「甲は中古機械の販売業者から買っ
19 た。」と虚偽の説明をした。また,甲に所有者を示すプレート等はなく,他に不審な点もなか
20 ったので,Dは,Bの説明を信じた。同日,Bは,Cに対して,甲をDに譲渡したので,以後
21 はDのために占有し,同年11月1日に甲をDに返却するよう指示し,Dは,このような方法
22 によりBから甲の引渡しを受けることを了承した。
23 5.Aは,Cが甲を使用している事実を知り,令和2年10月15日,Cに対して【事実】1の
24 経緯を説明し,甲の返還を求める(以下「請求1」という。)とともに,同年5月1日から甲
25 がAに返還されるまでの間の使用料相当額の支払を求めた(以下「請求2」という。)ところ,
26 Cは,自分は,甲の所有権を取得したDから甲を借りていると主張して,Aの請求に応じな
27 い。これに対して,Aは,BからDへの譲渡後もCが甲を現実に支配する状態に変わりがな
28 い以上,Dは甲の所有権を取得したとはいえず,いずれにせよ【事実】1に照らすと,Cは
29 Aの請求に応じるべきであると反論した。
30 〔設問1〕
31 【事実】1から5までを前提として,次の問いに答えなさい。
32 下線部におけるCの主張並びに下線部及びにおけるAの主張の根拠を明らかにし,これら
33 の主張の当否を検討した上で,請求1及び請求2の可否について論じなさい。なお,不法行為に基
34 づく構成について検討する必要はない。
35 U
36
37 【事実】1から5までに加え,以下の【事実】6から14までの経緯があった。
38
39 【事実】
40 6.Aは,個人で事業を営んでいたところ,従業員の技能の向上のため,毎年11月に実施され
41 る業界の技能検定試験である「○○検定1級」(以下「乙検定」という。)に従業員を合格さ
42 せる方針を打ち出した。そこで,Aは,乙検定の高い合格実績をうたって通学講座を開設して
43 いるEに対して,Aの従業員専用の出張講座の開設を依頼した。A及びEは,令和3年5月1
44 0日,Eが,同年6月から10月までの5か月間,Aの事業所にて出張講座を開設し,週4日,
45 授業を行うこと,Aが,月額報酬60万円,及び同年の乙検定の合格者数に応じた成功報酬を
46 支払うことを合意した(以下「契約@」という。)。なお,月額60万円は,Eの他の出張講
47 座よりも高額であった。
48 7.Eは,契約@の出張講座(以下「本件講座」という。)に専念するため,新たな出張講座の
49 - 2 -
50
51 依頼は受けないこととし,また,通学講座のための代替の講師を手配し,これらをAに伝えた。
52 8.Aの従業員で,乙検定の合格レベルの技能を有しない30名が本件講座を受講することにな
53 った。滑り出しは順調であり,開講から1か月後に実施された模擬試験では,受講生の技能は
54 顕著な伸びを見せた。
55 9.ところが,Eが本件講座の受講生に求める課題の量が膨大で,受講生の大半が汲々としてお
56 り,引き続き技能を伸ばす受講生が相当数いた反面で,課題の不提出についてEに叱責される
57 などしたため,止めたいと言い出す受講生も現れた。令和3年8月6日,Aは,Eに対し善処
58 を求めたが,Eから「こちらはプロなのだから任せてほしい。」と言われた。Aは,Eの態度
59 に失望し,「このままの状況が続くようであれば同年8月末で本件講座を取りやめることも考
60 える。」と伝えた。
61 10.Eはその指導方法を維持したまま,令和3年8月31日となった。この時点で,本件講座に
62 継続して出席している受講生は20名となっていた。Aは,同日,Eに対し,契約@を解除す
63 る旨の意思表示をし,これによって本件講座は閉鎖された。
64 11.Eは,令和3年9月及び10月に【事実】7により手配した講師の報酬として合計40万円
65 を支出した。また,Eは,同年10月に別の企業において2週間の出張講座を行い,その報酬
66 として15万円を得た。
67 12.本件講座の閉鎖後,受講生30名は,全員が,Aから費用の補助を受けて他者の開設する通
68 学講座を受講して,令和3年11月,乙検定を受験し,その6割である18名が合格した。乙
69 検定の当年の全体の合格率は4割であり,Eの通学講座の受講生の合格率は6割程度であった。
70 13.Aは,令和3年8月分以降の月額報酬等の支払をしていない。
71 14.Eは,令和3年12月,Aに対し,同年8月分の月額報酬60万円の支払を求める(以下
72 「請求3」という。)とともに,同年9月及び10月に関する損害賠償金120万円(【事
73 実】11で支出した40万円を含む。)の支払を求め(以下「請求4」という。),更に,乙検
74 定の合格者数に応じた成功報酬の支払も求めた。
75 これに対し,Aは,【事実】9及び10の経緯などを指摘して支払を拒絶した。
76 〔設問2〕
77 【事実】6から14までを前提として,次の及びの問いに答えなさい。
78
79
80 契約@によるEの債務の内容及び契約@の性質を,理由を示して明らかにしなさい。
81
82
83
84 における契約@の性質を踏まえて,請求3及び請求4の可否について,Aの反論を考慮しつ
85 つ,論じなさい。
86
87 V
88
89 【事実】1から14までに加え,以下の【事実】15から21までの経緯があった。
90
91 【事実】
92 15.Aには,子F及びGがいた。Fは,長らくAとの交流を断っていた。
93 16.令和4年3月,Aは,難病を発症した妻の治療費を捻出するため,友人であるHに500万
94 円の借入れを懇請したところ,Hは,Gが連帯保証をすることを条件にこれに応じた。同年4
95 月1日,Hは,Aとの間で,弁済期を令和10年4月1日としてAに500万円を貸し付ける
96 旨の契約(以下「契約A」という。)を,またGとの間で,契約Aに基づくAの借入金債務
97 (以下「本件債務」という。)につきGが連帯保証をする旨の契約を,それぞれ書面により締
98 結し,令和4年4月2日,契約Aに基づき500万円をAに交付した。
99 17.Aは,更なる治療費の支出に備えて,令和4年8月9日,Hに対して自己所有の絵画丙を1
100 00万円で買い取ってほしいと頼んだ。
101 18.令和4年8月15日,HとAとの間で,Hが同月31日までに代金100万円を支払うこと
102 等を内容とする丙の売買契約が締結され,丙がAからHに引き渡された。
103 - 3 -
104
105 19.一方,【事実】17からAの資力に不安を感じたHは,Gに対して,本件債務について連帯保
106 証人をもう一人増やしてほしいと告げた。そこで,GがFに依頼した結果,令和4年8月22
107 日,FとHとの間で,Aに知らせないまま,本件債務をFが連帯保証する旨の契約(以下「契
108 約B」という。)が書面により締結された。なお,FG間の内部的負担割合に関する合意はな
109 い。
110 20.令和10年6月20日,Aは,Hに対して本件債務の弁済の猶予を求める書面を送付したが,
111 Fはこの事実を知らなかった。
112 21.令和15年5月10日,Hは,契約Bに基づき,Fに対して500万円の支払を求めた(以
113 下「請求5」という。)。
114 〔設問3〕
115 【事実】15から21までを前提として,次の及びの問いに答えなさい。
116
117
118 Hは丙の売買代金を全くAに支払っていないものとする。この場合,Fは,令和15年5月1
119 1日の時点で,Hに対して500万円全額又は丙の売買代金100万円分につき支払を拒むこと
120 ができるか。
121
122
123
124 Hは丙の売買代金全額を期日までにAに支払っていたとする。令和15年5月11日,請求5
125 につきFとHが話し合い,FがHに300万円を支払い,Hはその余の支払を免除した。この場
126 合,Fは,A及びGに対して各々求償をすることができるか。また,求償をすることができると
127 すれば,その額は各々いくらか。
128
129 - 4 -
130
131 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
132
133 - 1 -
134
135 [民事系科目]
136 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)
137 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
138 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,和食器の製造・販売を業とする株式会社であり,取
139 締役会及び監査役を置いているが,会社法上の公開会社ではなく,平成28年3月31日現在,
140 資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万
141 円であった。甲社の取締役は,Aほか3名であり,Aが代表取締役を務めている。
142 甲社の和食器は,伝統美の中に現代的なテイストを取り入れる点が評価され,人気が高まって
143 いたが,甲社は,厳格な品質管理体制を有し,信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅
144 持していた。
145 2.高級食器の販売を業とする乙株式会社(取締役会を設置しておらず,株主はBのみである。以
146 下「乙社」という。)の代表取締役Bは,Aに対し,甲社の和食器を販売させてほしいと再三申
147 し入れていたが,断られていた。
148 3.Aは,平成28年5月頃,Bに対し,「私個人でレストランを開業するので,下見に同行して
149 ほしい。」と頼んだ。Aは,同行したBに対し,「レストランでは甲社の和食器を利用するので,
150 気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか。」と持ち掛けるとともに,「こ
151 の計画の実現には5000万円資金が足りない。」と漏らした。Bは,これを機に甲社との取引
152 関係を深めようと思い,前記1の事項を含む甲社の財務状況の概要をAに確認した上で,乙社と
153 してAに5000万円を融資することとし,Aに対し,「我が社にお任せください。ただ,個人
154 に事業上の融資をした実績がないので,甲社の連帯保証を付けてください。」と述べたところ,
155 Aは,「分かった。」と答えた。Bは,後日,Aに対し,「連帯保証についての甲社の取締役会
156 の議事録の写しをもらえれば,すぐに融資できます。」と述べた。
157 4.このレストラン業は,Aが甲社の事業として提案したところ,採算がとれる見通しがないこと
158 を理由に他の取締役らに反対されたものであった。このような経緯から,Aは,甲社が連帯保証
159 することについて,他の取締役らの賛成を得ることはできないと考え,取締役会の議事録の写し
160 ではなく,甲社代表取締役A名義でAの乙社に対する債務を連帯保証することについて取締役会
161 の承認がある旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これをBに交付することと
162 した。
163 5.Aは,平成28年5月25日,Bに対し,「社内規定により,取締役会の議事録は金融機関以
164 外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述
165 べて,本件確認書を交付した。しかし,Aの言う社内規定は存在しなかった。Bは,Aが知名度
166 の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし,甲社の和食器を取り扱うことによ
167 る利益が期待できる一方で,自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを
168 強く求めれば,Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え,これ以上の確認をせず,
169 乙社内で必要な手続を経た。
170 6.Aは,平成28年6月1日,乙社から5000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約(利息
171 は,年1%として1年ごとに後払いとするものとされ,最後の利息と元本の返済期日は,平成3
172 1年(令和元年)9月30日とされた。)を締結するとともに,甲社取締役会の承認を受けない
173 まま,甲社を代表して,書面により,乙社との間でAの乙社に対する前記金銭消費貸借契約に基
174 づく債務を連帯して保証する旨の合意をした(以下「本件連帯保証契約」という。)。なお,A
175 から甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。
176 7.Aは,乙社に対し,1年目の利息は支払ったものの,その後の支払を怠り,返済期日に元本の
177 返済もしなかった。そこで,乙社は,令和元年10月頃,甲社に対し,本件連帯保証契約に基づ
178 - 2 -
179
180 く保証債務の履行を請求したが,これにより,本件連帯保証契約の存在を甲社の他の取締役らが
181 知ることとなった。
182 〔設問1〕
183
184 乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むために甲社の立場
185
186 において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
187 8.甲社の設立当時の株主名簿上の株主及びその保有株式数は,Aの父親であるCが10万株,A
188 の祖母でありCの母親でもあるDが20万株,甲社の仕入先であり創業資金を出資した丙株式会
189 社(以下「丙社」という。)が10万株であった。甲社では,平成24年6月開催の定時株主総
190 会の決議を経て新たに10万株(以下「本件株式」という。)が発行され,本件株式の株主名簿
191 上の株主はAであった。なお,甲社は,株券発行会社でも種類株式発行会社でもない。
192 9.本件株式が発行された経緯は,次のとおりであった。すなわち,Aは,平成24年3月頃,甲
193 社の代表取締役であったCの要請に従い,家業である甲社を継ぐため,大学卒業後に就職した会
194 社を辞めて実家に戻ることとした。Cは,実家に戻ったAに対し,次の株主総会でAを甲社の取
195 締役に就任させる予定である旨を伝え,「いずれ社長になる身として,従業員や取引先の手前,
196 多少の株を持っておく必要がある。金のことは心配しなくていい。」と述べたが,それ以上のや
197 り取りはされなかった。そして,前記8の定時株主総会において,Aを取締役に選任するととも
198 に,本件株式をAに発行する旨の決議がされたが,本件株式の発行に必要な事務手続は,Cの指
199 示に基づいて,甲社の総務部が進め,株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印もAが
200 甲社に預けていた印章を用いて総務部が行った。また,払込金額である2000万円は,全てC
201 の貯金によって賄われた。
202 10.本件株式に係る剰余金配当は,C名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれ
203 ており,これらの剰余金配当についてはCの所得としてCのみが確定申告をしていた。A及びC
204 宛ての株主総会の招集通知等は,Cの指示により,いずれも甲社の総務部に留め置かれ,本件株
205 式に係る株主総会の議決権についても,甲社の総務部が,C名義の株式に係る議決権と併せて,
206 会社提案に賛成するものとして事務処理がされた。Cは,平成27年6月に取締役を退任し,以
207 後は,Aが代表取締役の地位にあったが,前記のような事務処理は継続された。
208 11.Cは,令和元年10月頃,本件連帯保証契約の件を耳にし,甲社の将来を憂慮するようになり,
209 Aに対し,「君は,しばらく代表取締役を降りたほうがよい。次の定時株主総会で私が再び取締
210 役に戻り,代表取締役として甲社の経営を仕切り直すから,そのように株主総会の準備を進めな
211 さい。」と伝えたが,Aは,これに応じなかった。そこで,Cは,Aに対し,本件株式の株主の
212 地位はCに帰属するものであると主張したが,Aは,本件株式の株主の地位はAに帰属すると主
213 張して譲らなかった。
214 〔設問2〕
215
216 CがAに対して本件株式に係る株主の地位の確認を求める訴えを提起した場合に,C
217
218 の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
219 12.AとCは,令和元年12月頃,@AがCに対して一定額の解決金を支払うこと,A本件株式は
220 Aに帰属することを確認することを内容とする和解契約を締結したが,甲社の経営をめぐる意見
221 の対立は続いていた。この和解契約により,甲社の株主構成は,Aが10万株,Cが10万株,
222 Dが20万株,丙社が10万株となった。
223 13.甲社においては,令和2年6月,Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件を議
224 題とし(他の取締役の任期は満了していない。),Aを取締役に選任することを議案(以下「本
225 件選任議案」という。)とする定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を招集すること
226 が取締役会において決定され,必要事項が記載された書面にて各株主に通知された。なお,甲社
227 - 3 -
228
229 の定款には「株主は,当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として,そ
230 の議決権を行使することができる。」旨の定めがある。
231 14.丙社(公開会社である取締役会設置会社であり,多数の株主が存在する。)の内規においては,
232 総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使は,総務担当の代表
233 取締役専務に委ねられていた。丙社の甲社への売上げが丙社の総売上げに占める割合は0.3%
234 程度であり,丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の総資産に占める割合は0.1%程度で
235 あった。本件株主総会の招集通知には,例年と同様,本件株主総会における議決権の行使その他
236 一切の事項について甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状用紙が同封されていた。そこで,
237 丙社の総務担当の代表取締役専務であるEは,例年と同様,前記包括委任状用紙に必要事項を記
238 載し,甲社に送った。
239 15.前記14の丙社の内規を知らないCは,この機会にAを甲社の経営から排除しようと考え,丙社
240 の営業担当の代表取締役副社長であり,大学の同窓生であるFに相談し,本件株主総会において,
241 Cを取締役に選任する旨の修正動議を提出してこれに賛成することを示し合わせた。Fは,Eが
242 いつものように包括委任状を提出していることを知りながら,本件株主総会に出席することをC
243 に約束した。
244 16.Dは,甲社の定時株主総会に毎年出席していたが,AとCがもめていることを知り,一方にの
245 み肩入れすることを避けるため,弁護士G(甲社の株主ではない。)に代わりに出席してもらう
246 こととし,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項についてGに委任する旨の委任
247 状を作成し,Gに交付した。
248 17.FとGは,本件株主総会の当日,受付担当者に対し,議場への入場を求めたところ,受付担当
249 者は,株主名簿の記載,Fの名刺及び前記16のDのGに対する委任状を確認し,FとGを議場へ
250 案内した。その後,A及びCが議場に入り,Aが議事を進めようとしたところ,Cは,「Aは,
251 本件連帯保証契約について説明を果たす立場にもあるから,私が議長を務める。」との動議を提
252 出した。Aは,本件連帯保証契約の件もあることから,ひとまず父親の顔を立てようと考え,動
253 議に賛成し,ほかに異論もなく,Cが議長となった。
254 18.議長となったCは,「Gには出席資格がない。」と述べるとともに,「Fには丙社代表者とし
255 ての出席を認めます。」と述べた。これらに対し,AとGが異論を唱えたが,Cが取り合わなか
256 ったため,Gは,仕方なく退場した。Cが議事を進めると,Fは,本件選任議案に対する修正動
257 議として,Cを取締役に選任する旨の議案(以下「本件修正議案」という。)を提出した。これ
258 を受けて,Cは,「取締役1名の選任が議題となっているので,候補者ごとに採決をするのでは
259 なく,取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決を
260 することとしたい。」と提案したところ,誰も異論を唱えなかった。そこで,Cがあらかじめ用
261 意した投票用紙と投票箱により投票が実施された。
262 各株主の議決権の行使状況は,次のとおりであった。すなわち,Aは,Aの議決権についてA
263 を取締役に選任すべき旨の投票をするとともに,丙社の代理人として丙社の議決権についてAを
264 取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Aによる投票」欄参照。)。Cは,Cの議決権に
265 ついてCを取締役に選任すべき旨の投票をした。Gは,退場したため,Dの代理人としてDの議
266 決権について投票することはできなかった。Fは,丙社の代表取締役副社長として丙社の議決権
267 についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Fによる投票」欄参照。)。
268 株主の氏名又は名称
269
270 A
271
272 C
273
274 D
275
276 丙社
277
278 議決権の数(万個)
279
280 10
281
282 10
283
284 20
285
286 10
287
288 取締役として選任すべき
289
290 A
291
292 C
293
294 者として記載した氏名
295
296 - 4 -
297
298 Aによる投票
299
300 Fによる投票
301
302 A
303
304 C
305
306 19.投票用紙の集計後,Cは,丙社の議決権の行使については,Fによる投票が有効であり,Aに
307 よる投票が無効であることを前提に,Cが取締役として選任された旨を宣言して(以下「本件決
308 議」という。),本件株主総会を閉会した。
309 20.Fが,丙社の代表者として,本件株主総会に出席した上で本件修正議案を提出して議決権を行
310 使したことは,独断によるものであった。また,AもCも,前記14の内規の存在を知らなかった。
311 〔設問3〕
312
313 Aは,令和2年7月,本件株式の株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起し
314
315 たいと考えているが,本件決議の効力を争うためにAの立場において考えられる主張及びその主
316 張の当否について,論じなさい。
317
318 - 5 -
319
320 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
321
322 - 1 -
323
324 [民事系科目]
325 〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:20:40])
326 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
327 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて
328 いる法令に基づいて答えなさい。
329 【事
330
331 例】
332 AとBは,Aを貸主,Bを借主として,Aの所有する土地(以下「本件土地」という。)につ
333 いて,期間を30年,賃料を1か月30万円,目的を建物所有とする賃貸借契約(以下「本件契
334 約」という。なお,本件契約は,事業用定期借地権を設定するものではない。)を締結した。
335 Bは,本件土地上に,レストラン経営のための店舗建物(以下「本件建物」という。)を建築
336 し,本件建物でレストラン(以下「本件レストラン」という。)を経営してきた。Bが本件契約
337 の締結から20年後に死亡すると,その子であるYが相続により本件土地の賃借人としての地位
338 を承継し,本件レストランの経営を引き継いだ。また,Bの死亡と同じ時期に,AがXに本件土
339 地を譲渡したことから,Xが本件土地の賃貸人としての地位を承継した。
340 Yは,本件契約の期間満了の3か月前に,Xと面談し,本件契約が期間満了後も更新されるこ
341 との確認を求めたが,Xは,その場で,以下のように主張しつつ,本件契約の更新を拒絶した。
342
343 1.Xの息子Cは,歯科医であり,開業を予定している。本件土地は,Cが歯科医院を営むのに最
344 適の立地条件であることから,本件土地上に歯科医院用の建物を建築することを計画している。
345 2.XはYに対して立退料として1000万円程度を支払う用意がある。
346 XY間での交渉はまとまらず,Xは,本件契約の期間満了の直後,本件契約の終了に基づき,
347 「Yは,Xから1000万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件建物を収去して本件
348 土地を明け渡せ。」との判決を求めて,訴え(この訴えに係る訴訟を,以下「本件訴訟」とい
349 う。)を提起した。
350 本件訴訟の第1回口頭弁論期日においては,XとYの双方が出頭し,Xが前記1と2記載の主
351 張をしたのに対して,Yは,本件レストランの経営継続を予定しているところ,離れた地に移転
352 してしまうと経営が成り立たず,近隣において適当な土地を取得することは困難である旨及びX
353 から申出があった程度の立退料では本件レストランの収入喪失まで補償するには全く不十分であ
354 る旨を主張した。
355 また,この期日において,裁判官Jは,訴状の請求の趣旨には,「1000万円の支払を受け
356 るのと引換えに」と記載してあるが,他方で,Xが1000万円程度を支払う用意がある旨を申
357 し出た旨を主張していることから,1000万円という額にどの程度のこだわりがあるかという
358 点についてXに釈明を求めた。これに対して,Xは,「1000万円という額に強いこだわりは
359 ありません。この額は,早期解決の趣旨で若干多めに提示したものですので,早期解決の目がな
360 くなった以上,より少ない額が適切であると思っておりますが,本件土地を明け渡してもらうの
361 が一番大事ですから,裁判所がより多額の立退料の支払が必要であると考えるならば,検討する
362 用意があります。」と陳述し,その要旨は口頭弁論調書にも記載された。
363 以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
364 J:Xは,立退料の支払を申し出ていますね。立退料は,借地借家法第6条の正当事由の有無を判
365 断する上で,どのような役割を担うのでしょうか。
366 P:借家に関してですが,判例は,立退料は他の諸般の事情と総合考慮され,相互に補充しあって
367 - 2 -
368
369 正当事由の判断の基礎となるものであるとしています(最高裁判所昭和46年11月25日第一
370 小法廷判決・民集25巻8号1343頁。以下「最判昭和46年」という。)。
371 J:そうすると,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも多額で
372 ある場合は,どういう判決をすることになりますか。
373 P:最判昭和46年は,原告は「立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の
374 範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し,かつその支払と引き換えに(中略)
375 店舗の明渡を求めている」と述べた上で,申出額よりも多額である500万円の支払との引換給
376 付判決をした原判決を是認しています。本件でも,Xの第1回口頭弁論期日における陳述の内容
377 から見て,Xの申出額と格段の相違のない範囲内で増額した立退料の支払との引換給付判決は許
378 容されそうです。
379 J:それはそうでしょうね。それでは,申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の
380 支払との引換給付判決はどうでしょうか。
381 P:最判昭和46年に照らすと難しいと思います。
382 J:そう結論を急がないでください。最判昭和46年は,格段の相違のない範囲を超えて増額した
383 立退料の支払との引換給付判決の許否について直接判断したものではありません。また,格段の
384 相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決を拒否するというのがXの意思
385 であるとは直ちにはいえないように思います。
386 P:確かにそうですね。
387 J:それでは,引換給付判決をすることができないとすると,その場合にすべきことになる判決は
388 どのようなものとなるのかを示し,その判決を,Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて増
389 額した立退料の支払との引換給付判決と対比した上で,後者のような引換給付判決をすることの
390 許否を検討してください。これを「課題1」とします。
391 ところで,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも少ないと
392 いうことも考えられます。この場合には,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判
393 決をすることはできるのでしょうか。
394 P:それは,Xが求めている判決よりも有利な判決をXに与えることになりそうでやや違和感があ
395 ります。しかし,口頭弁論調書を見ると,Xはより少ない額が適切であるとも陳述していますね。
396 J:こちらも額によるかもしれないですね。それでは,第1回口頭弁論期日におけるXの陳述の内
397 容にも留意しつつ,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることは許容さ
398 れるかという点も検討してください。これを「課題2」とします。
399 なお,「課題1」及び「課題2」を検討するに当たっては,どのような事実を判決の基礎にす
400 ることができるかという問題と借地借家法第6条に関する実体法上の解釈問題に言及する必要は
401 ありません。
402 〔設問1〕
403 あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
404 【事
405
406 例(続き)】
407 本件訴訟が第一審に係属中,弁護士に頼らず自ら訴訟を追行してきたYは,心労もあって健康
408 を害し,以前から本件レストランの経営を手伝っていたZにレストラン経営を任せることとした。
409 そこで,Yは,Zに本件建物を賃貸し,これに基づき本件建物を引き渡した。
410 Xは,前記の事実を直ちに察知し,Zを本件建物から立ち退かせなければ,目的は達成するこ
411 とができないと考え,Zに対する建物退去土地明渡請求を定立しつつ,Zが本件訴訟の係属中に
412 Yから本件建物を賃借し,これに基づき本件建物の引渡しを受けたことを理由としてZを引受人
413 とする訴訟引受けの申立てをした。
414 - 3 -
415
416 以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
417 J:本件で,民事訴訟法第50条の承継は認められるのでしょうか。
418 P:同条の「訴訟の目的である義務」という文言を素直に捉えて,同条にいう承継とは訴訟物であ
419 る義務の承継を指すと理解するのであれば,Zがこのような義務をYから承継したというのは難
420 しいと思います。
421 J:しかし,そのような承継の理解は狭すぎるように思います。そこで,そのような理解を離れた
422 上で,訴訟承継制度の趣旨を踏まえて,同条の承継の意味内容を具体的に明らかにし,Zが同条
423 にいう承継をしたといえるか否か検討してください。これを「課題」とします。
424 なお,検討に際しては,XのYに対する訴えの訴訟物は,賃貸借契約の終了に基づく目的物返
425 還請求権としての建物収去土地明渡請求権であることを前提にしてください。
426 〔設問2〕
427 あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。
428 【事
429
430 例(続き)】
431 本件訴訟では,弁論準備手続における争点及び証拠の整理が完了したことから弁論準備手続が
432 終結となり,Cの証人尋問並びにX及びYの当事者尋問が実施され,口頭弁論の終結が予定され
433 た口頭弁論期日(以下「最終期日」という。)の指定がされた。本件建物がYからZに対して賃
434 貸され,引き渡されたのは,最終期日の指定がされた直後であり,Xの訴訟引受けの申立ては,
435 最終期日前に認められることとなった。
436 本件訴訟に従前関わっていないZは,弁護士に頼らずに訴訟を追行するのは難しいと考え,直
437 ちに弁護士Lに訴訟委任をした。Lは,正当事由の判断の基準時が本件契約の期間満了時である
438 としても,Yが本件レストランの経営から退いたことが,Yの従前の主張に関して不利にしんし
439 ゃくされることもあり得ることから,更新拒絶に正当事由があると評価されるのを妨げる事実を
440 追加して主張するのが適切であろうと考えた。
441 そこで,Lが改めて本件レストラン経営に係る資料を調査すると,B名義の預金通帳(以下
442 「本件通帳」という。)に,本件契約締結の際にBがAの預金口座に対して1500万円を振り
443 込んだ旨の記帳がされていることを発見した。LがYに対してこれについて質問をすると,「B
444 から,亡くなる直前に,本件契約の際に権利金としてAの口座にかなりの額を振り込んだ,本件
445 土地の更新時にもめるといけないから,本件通帳はきちんと保管しておくように,と伝えられて
446 いました。言われたとおり,本件通帳は本件契約の契約書と共に厳重に保管し,本件訴訟の前に
447 も本件通帳の中身を見てBからAへの振込みも把握していましたが,本件訴訟においてそれほど
448 重要なものとは思っていませんでした。」との回答を得た。その後,Lは,近隣の土地の相場や
449 賃料相場を調査した結果,BからAに支払われた権利金は,賃料の前払の性質だけではなく,更
450 新料の前払の性質も含むものであったと思うに至った。
451 以下は,弁護士Lと司法修習生Qとの間の会話である。
452
453 L:最終期日には,BからAに対して更新料の前払の性質も含む権利金が支払われていた旨の新主
454 張(以下「本件新主張」という。)をするとともに,この事実を立証するために本件通帳につい
455 ての書証の申出とAの証人尋問の申出をしようと思います。ただ,最終期日にAの証人尋問を実
456 施するというのは無理がありますから,改めて期日を指定してもらうことになります。
457 Q:Xは,これらの攻撃防御方法の提出は,時機に後れた攻撃防御方法であるとして,却下決定を
458 申し立ててくるのではないでしょうか。
459 L:その可能性は十分にあります。そこで,差し当たり本件新主張が却下されるか否かについて考
460 - 4 -
461
462 えてほしいのです。Xは,@Y自身が最終期日に本件新主張をしたとしたら,時機に後れたもの
463 として却下されるべきである,Aそうである以上,Zによる本件新主張も却下されるべきである,
464 と主張してくると思います。まず,Xの立場から,@について,その結論を得るための理由を説
465 明してください。また,その際には,以後予想されるXとY双方の主張立証活動と,却下決定を
466 得るのを容易にするためにXがYに対してすることができる訴訟法上の行為にも言及してくださ
467 い。これを「課題1」とします。
468 その上で,Xの立場からAについてZによる本件新主張は却下されるべきであるという立論を
469 して,さらに,Zの立場からこれに対する反論をしてください。これを「課題2」とします。
470 「課題2」の検討に当たっては,Y自身が本件新主張をしたとしたら,時機に後れたものとし
471 て却下されるということを前提としてください。
472 〔設問3〕
473 あなたが司法修習生Qであるとして,Lから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
474
475 - 5 -
476
477