1 論文式試験問題集[倒
2
3 - 1 -
4
5
6
7 法]
8
9 [倒
10
11
12
13 法]
14
15 〔第1問〕(配点:50)
16 次の【事例】について,
17 以下の設問に答えなさい。
18
19
20 なお,
21 解答に当たっては,
22 文中において特定されている日時にかかわらず,
23 試験時に施行されて
24 いる法令に基づいて答えなさい。
25
26
27 【事
28
29 例】
30
31 A株式会社(以下「A社」という。
32
33 )は,
34 家具の卸売を業とする株式会社である。
35
36 A社は,
37
38 成元年の設立以来,
39 地元の地方銀行であるB銀行を主要な取引銀行として,
40 当座預金口座を開設
41 するとともに,
42 しばしば運転資金の融資や手形の割引等に応じてもらってきた。
43
44 また,
45 A社は,
46
47 B銀行のほか,
48 C信用金庫及びD銀行にもそれぞれ普通預金口座を開設し,
49 取引先に送付する請
50 求書にこれらの口座を記載して,
51 取引先の選択により,
52 これらのいずれかの口座に振込送金させ
53 る方法により決済を行っていた。
54
55
56 A社の業績は,
57 創業以来順調に発展してきたが,
58 平成20年頃になると,
59 製造業者から直接仕
60 入れをする小売業者が増加し,
61 卸売業の役割が相対的に低下するとともに,
62 家具の製造から販売
63 まで一手に行う大規模家具小売業者の進出等もあり,
64 次第にA社の業績は悪化し,
65 平成25年以
66 降は赤字決算となる年度もあった。
67
68
69 A社は製造業者から仕入れた家具を保管するための自社倉庫(以下「本件倉庫」という。
70
71 )を
72 所有していたが,
73 令和元年9月に台風の影響により屋根が大きく破損し,
74 仕入れた家具の多くに
75 水濡れの被害が生じた。
76
77 本件倉庫については,
78 屋根の破損のみならず,
79 建物全体が大きな損傷を
80 受けたため,
81 抜本的な補修ないし建て替えが必要な状況であった。
82
83 そこで,
84 A社は,
85 本件倉庫を
86 建て替えることとし,
87 同年10月10日,
88 E建設との間で,
89 倉庫建設請負契約(以下「本件請負
90 契約」という。
91
92 )を締結した。
93
94 本件請負契約においては,
95 請負代金は1億5000万円とされ,
96
97 A社がE建設に対して,
98 契約成立時に5000万円を支払い,
99 残代金は完成した倉庫の引渡しと
100 引換えに支払うこと,
101 E建設は,
102 令和2年6月30日までに倉庫を完成させてA社に引渡しをす
103 ることを合意した。
104
105 A社は,
106 本件請負契約の前払金を支払うため,
107 B銀行から5000万円の融
108 資を受けて,
109 E建設に支払った。
110
111 E建設による倉庫の建設は順調に進み,
112 同年5月31日までに
113 は倉庫は完成したが,
114 A社への引渡しはまだされていない。
115
116
117 また,
118 台風被害により水濡れしてしまった在庫商品について,
119 比較的損害の程度が軽かったも
120 のは,
121 以前から取引があった小売業者に割引価格で売却するなどにより処分することができたが,
122
123 程度の悪いものについては買取り先が見つからないまま,
124 令和2年の春を迎えることとなった。
125
126
127 この時点でA社の資金繰りはかなり苦しくなってきているとともに,
128 商品の保管場所の問題もあ
129 り,
130 同業者からの紹介により,
131 中古家具販売業者であるF商店に残りの水濡れした在庫商品一式
132 (以下「本件商品」という。
133
134 )を300万円で一括売却することとした。
135
136 この売買契約(以下
137 「本件売買契約」という。
138
139 )は同年4月15日に締結され,
140 本件売買契約によれば,
141 同年5月末
142 日までにF商店の負担により本件商品を引き取り,
143 商品の引取り後10日以内に,
144 B銀行,
145 C信
146 用金庫又はD銀行に開設したA社のいずれかの口座に代金300万円を振り込む方法で支払うこ
147 ととされた。
148
149
150 在庫商品の水濡れによる損失に加え,
151 本件倉庫の建て替え工事の間,
152 商品を保管するために借
153 り上げた倉庫の賃料の支払等の支出が重なったこともあり,
154 令和2年4月頃には,
155 A社の資金繰
156 りはかなり苦しい状況に陥っていた。
157
158 そこで,
159 A社は当面の事業資金3000万円の融資をB銀
160 行に申し込んだが,
161 既に本件請負契約の前払金5000万円について融資を受けていたため,
162
163 銀行からは追加の融資を受けることができなかった。
164
165 そのため,
166 A社は,
167 C信用金庫及びD銀行
168 にも緊急の融資を求めたが,
169 主要な取引銀行であるB銀行が融資を見送っていることもあり,
170
171 - 2 -
172
173 金融機関とも融資については二の足を踏み,
174 結局融資を受けることができないまま,
175 仕入先であ
176 るG木工への買掛代金の支払期日である同年5月31日を徒過してしまった。
177
178 翌6月1日,
179 買掛
180 代金の振込みがないことを知ったG木工からの問合せを受け,
181 A社の経理担当者は,
182 事務手続上
183 のミスで支払が遅れているが,
184 数日のうちには必ず振り込むとの返答をしたものの,
185 実際にはG
186 木工への支払はもとより,
187 他の仕入先に対する買掛代金の調達のみならず,
188 取引金融機関からの
189 借入金の弁済のめども立たない状況であった。
190
191
192 そこで,
193 A社の経営陣は,
194 顧問弁護士のHに連絡をし,
195 令和2年6月3日にA社の会議室にお
196 いて今後の方針について協議を行った結果,
197 主な取引先や取引金融機関に対して,
198 A社は近日中
199 にH弁護士を申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり,
200 債務の支払についても
201 それまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。
202
203 )を,
204 翌週の同月8日に発送するこ
205 とを決めた。
206
207 ただし,
208 この方針については,
209 混乱を避けるため,
210 本件通知の発送までは,
211 H弁護
212 士と協議に参加した経営陣限りにとどめておくこととした。
213
214
215 本件通知は,
216 予定どおり,
217 令和2年6月8日に,
218 H弁護士名義で発送され,
219 翌9日に,
220 B銀行
221 を始めとする取引金融機関及び主な取引先に到達した。
222
223 その後,
224 A社は,
225 H弁護士の下で破産手
226 続開始の申立ての準備を進め,
227 同月15日にI地方裁判所に破産手続開始の申立てをし,
228 同月2
229 5日にA社について破産手続開始の決定がされ,
230 破産管財人Xが選任された。
231
232
233 〔設
234
235 問〕
236
237 以下の1から3については,
238 それぞれ独立したものとして解答しなさい。
239
240
241
242 1.破産管財人Xは,
243 破産財団にとって建て替えられた倉庫は不要であると考え,
244 E建設に対し,
245
246 本件請負契約を解除する旨の通知をした。
247
248 仮に,
249 この解除が認められるとした場合,
250 A社の破
251 産手続において,
252 支払済み及び未払の請負代金がどのように扱われることになるか,
253 説明しな
254 さい。
255
256
257 2.F商店は,
258 本件売買契約に従い,
259 令和2年5月28日までに本件商品を引き取り,
260 同年6月
261 5日に,
262 B銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り込んだとする。
263
264 破産
265 手続の開始後に破産管財人XがB銀行に対してF商店から振り込まれた300万円の引き出し
266 を求めた場合において,
267 B銀行は,
268 本件請負契約の前払金として融資した5000万円と対当
269 額について相殺するとして,
270 300万円の支払請求を拒絶することができるか,
271 論じなさい。
272
273
274 3.前記2において,
275 F商店がB銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り
276 込んだのが令和2年6月16日であり,
277 その時点では,
278 B銀行は,
279 前日の同月15日にA社に
280 ついて破産手続開始の申立てがされていたことを知らなかった場合,
281 B銀行は,
282 本件請負契約
283 の前払金として融資した5000万円と対当額について相殺するとして,
284 300万円の支払請
285 求を拒絶することができるか,
286 論じなさい。
287
288
289
290 - 3 -
291
292 〔第2問〕(配点:50)
293 次の【事例】について,
294 以下の設問に答えなさい。
295
296
297 なお,
298 解答に当たっては,
299 文中において特定されている日時にかかわらず,
300 試験時に施行されて
301 いる法令に基づいて答えなさい。
302
303
304 【事
305
306 例】
307 A株式会社(以下「A社」という。
308
309 )は,
310 リゾートホテルの運営と別荘の販売を業とする株式
311
312 会社であり,
313 平成10年の創業以来,
314 積極的に事業を展開してきたが,
315 借入金により大規模な投
316 資をした直後,
317 新型の感染症の影響を受けて売上げが激減し,
318 借入金の元利金支払に窮するよう
319 になった。
320
321 そこで,
322 A社は,
323 令和3年5月6日,
324 B地方裁判所に再生手続の開始を申し立てたと
325 ころ,
326 同日,
327 Cを監督委員とする監督命令が発せられた。
328
329
330 裁判所は,
331 令和3年5月31日,
332 A社について再生手続開始の決定をした。
333
334 再生債権の届出を
335 すべき期間は同年6月30日まで,
336 再生債権の調査をするための期間は同年8月2日から同月9
337 日まで,
338 再生計画案の提出期限は同月31日とされた。
339
340
341 〔設
342
343 問〕
344
345 以下の1から3については,
346 それぞれ独立したものとして解答しなさい。
347
348
349
350 1.Dは,
351 令和3年4月1日,
352 A社が運営するリゾートホテルで同年12月4日にEとの結婚披
353 露宴を開くこととし,
354 割安な全額前払プランを選択してA社と契約を締結した。
355
356 Dは,
357 同年4
358 月16日に料金の全額110万円を一括して支払った。
359
360
361 Dは,
362 A社の再生手続において,
363 自らの債権をどのように届け出るべきか,
364 説明しなさい。
365
366
367 なお,
368 解答に当たっては,
369 @Dが有する権利がなぜ再生債権となるか,
370 AA社について開始さ
371 れたのが破産手続であり,
372 その開始決定までに全ての事業を廃止していた場合との届出内容の
373 相違についても,
374 言及しなさい。
375
376
377 2.A社は,
378 令和3年8月30日に再生計画案を提出し,
379 同計画案は,
380 同年10月27日の債権
381 者集会において可決され,
382 同年11月29日には裁判所による再生計画の認可決定が確定した。
383
384
385 ところが,
386 令和4年2月1日になって,
387 A社の株主で代表取締役でもあるFが,
388 民事再生法
389 第172条の3第1項第1号所定の再生計画案の可決要件を確実に満たすことを目的として,
390
391 A社従業員であるGら10名に命じ,
392 A社に対する債権を有していないにもかかわらず債権を
393 有しているものとして再生債権届出書を提出させ,
394 債権調査においてA社がこれらの債権を認
395 めていたことが判明した。
396
397 そこで,
398 監督委員Cが調査した結果,
399 Gら10名を除いても,
400 A社
401 の再生計画案に同意した議決権者は,
402 議決権者の半数を一人だけ上回っており,
403 可決要件を満
404 たしていたことが明らかになった。
405
406 ただし,
407 同意した議決権者の中には,
408 Fが虚偽の債権の届
409 出を従業員に命じたことを債権者集会の際に知っていれば再生計画案に同意しなかったと回答
410 する者が2名いた。
411
412 上記の調査結果を記載したCの報告書は,
413 令和4年4月1日,
414 再生債権者
415 に送付された。
416
417
418 再生債権者であるHは,
419 Cの上記調査報告書により事情を初めて知り,
420 令和4年4月30日,
421
422 再生計画の取消しを申し立てた。
423
424 A社の再生計画には,
425 法定の取消事由があると認められるか,
426
427 論じなさい。
428
429 また,
430 仮にこれが認められる場合に,
431 裁判所はどのように判断すべきか,
432 論じな
433 さい。
434
435
436 なお,
437 Hによる前記の申立てまでの間,
438 再生計画はA社により滞りなく履行されており,
439
440 後も,
441 その履行を継続することが可能な状況である。
442
443
444 3.A社の再生計画に対する認可決定が確定した後,
445 A社からの報告により,
446 A社の収支が改善
447 せず,
448 逆に大きな損失を出してしまい,
449 もはや再生計画に基づく弁済を継続していくことがで
450 きなくなったことが判明した。
451
452 この場合,
453 裁判所はどのように対応すべきか,
454 説明しなさい。
455
456
457
458 - 4 -
459
460 論文式試験問題集[租
461
462 - 5 -
463
464
465
466 法]
467
468 [租
469
470
471
472 法]
473
474 〔第1問〕(配点:50)
475 Aは,
476 平成元年1月からBと婚姻し同居していた。
477
478 婚姻中は,
479 Aが専ら収入を得ており,
480 Bは家
481 事に従事していた。
482
483
484 Aは,
485 平成12年12月31日付けの契約で,
486 不動産業者である株式会社P社から,
487 土地(以下
488 「本件土地」という。
489
490 )を4000万円の対価により取得した。
491
492 この金額は,
493 この時の本件土地の
494 時価と等しいものであった。
495
496 Aは,
497 この金額を,
498 婚姻中に蓄積した貯蓄から支払った。
499
500
501 平成18年3月1日,
502 AとBは離婚することになった。
503
504 同日,
505 財産分与として,
506 Aは本件土地を
507 Bに引き渡した。
508
509 この時点において,
510 AとBとが婚姻中に形成した資産の時価相当額は約1億円で
511 あり,
512 本件土地の時価は5000万円であった。
513
514
515 平成20年3月1日,
516 Bは,
517 本件土地を個人Cに5500万円の対価により譲渡した。
518
519
520 Cは,
521 本件土地の取得後直ちに,
522 その上に居住用の部屋10室から成る建物(以下「本件建物」
523 という。
524
525 )を建築した。
526
527 そして,
528 平成22年1月から,
529 本件建物の各部屋を賃貸する不動産賃貸業
530 を個人で営み始めた。
531
532 本件建物の賃借人は,
533 C名義の銀行口座への振込みによりその賃料を支払っ
534 ていた。
535
536 本件建物に係る賃貸借契約や管理業務には,
537 Cはほとんど関わっておらず,
538 Cの子である
539 Dが事実上行っていた。
540
541 Dは,
542 本件建物の部屋の一室に居住しているが,
543 Cに対して賃料の支払は
544 していない。
545
546
547 さらに,
548 Cは,
549 平成23年1月から,
550 本件建物の一室を使って,
551 個人でQ鍼灸院という屋号の鍼
552 灸院の事業を開始した。
553
554 鍼灸の施術サービスを行うには,
555 はり師及びきゅう師の国家資格が必要で
556 あったが,
557 鍼灸院の経営自体は,
558 経営者がはり師及びきゅう師の国家資格を持っていなくても,
559
560 り師及びきゅう師の国家資格を持つ者を別に雇用することで営業することが可能であった。
561
562 Cは,
563
564 個人経営者としてQ鍼灸院の事業運営を取り仕切り,
565 また,
566 はり師及びきゅう師の国家資格を持つ
567 Fを雇用した。
568
569 Fが来院客に鍼灸の施術サービスを提供するとともに,
570 C自らは,
571 施術サービスを
572 行うのに国家資格の不要なリラクゼーションセラピストとして,
573 来院客にリラクゼーションの施術
574 サービスを提供し,
575 Q鍼灸院は鍼灸及びリラクゼーションの各施術サービスによる収入を得ていた。
576
577
578 Cは,
579 本件建物の居住用の部屋の賃貸収入と,
580 Q鍼灸院の収入により生計を立てていた。
581
582
583 他方,
584 Cは,
585 平成26年1月から,
586 かねて趣味にしようと考えていた生花の専門学校に半年間通
587 い,
588 その腕を磨き,
589 かなりの腕前を持つに至った。
590
591 そこで,
592 Cは,
593 同年10月に,
594 Q鍼灸院の待合
595 室に自作の生花を飾ったところ,
596 来院客からも好評で,
597 待合室の雰囲気が良くなったためか,
598 生花
599 を飾って以降毎月の売上げが1割上昇した。
600
601
602 さらに,
603 Cは,
604 将来は自らも鍼灸の施術サービスを提供し,
605 より多くの来院客に施術サービスを
606 提供できるようにし,
607 Q鍼灸院の事業の拡大を図ろうと考え,
608 平成27年1月から,
609 はり師及びき
610 ゅう師の国家資格取得のための専門学校に通い始め,
611 はり師及びきゅう師の国家資格取得を目指し
612 た。
613
614
615 令和元年10月にCが死亡し,
616 Cの子であるD及びEの2名のみが共同相続人となったが,
617 現在
618 に至るまで遺産分割協議は成立していない。
619
620 なお,
621 Cは遺言をしていない。
622
623 また,
624 C死亡後,
625 速や
626 かにQ鍼灸院は廃業した。
627
628
629 本件建物の居住用の部屋の賃料については,
630 DとEとの合意により,
631 遺産分割協議が成立するま
632 ではD名義の銀行口座への振込みにより受領することとし,
633 その旨を賃借人に通知した。
634
635 実際に,
636
637 令和2年1月からは,
638 本件建物の賃借人は,
639 D名義の銀行口座への振込みにより賃料を支払ってい
640 る。
641
642 この賃料収入は,
643 現在に至るまでD名義の銀行口座から引き出されていない。
644
645
646 以上の事案について,
647 以下の設問に答えなさい。
648
649
650
651 - 6 -
652
653 〔設
654
655 問〕
656
657
658
659 平成18年3月1日に,
660 Aが本件土地をBに引き渡したことは,
661 財産分与の額として適正なも
662 のであったとする。
663
664 このとき,
665
666
667
668 上記の財産分与に関して,
669 Aの所得税の課税関係はどうなるか。
670
671
672
673
674
675 平成20年3月1日に,
676 Bが本件土地をCに譲渡したことに関して,
677 Bの所得税の課税関係
678 はどうなるか。
679
680
681
682
683
684 Cの平成26年分の所得税の計算上,
685 Cが生花の専門学校に支払った学費は,
686 CのQ鍼灸院に
687 係る事業所得における必要経費に該当するか。
688
689 また,
690 Cの平成27年分の所得税の計算上,
691 同年
692 中にCがはり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は,
693 CのQ鍼灸院
694 に係る事業所得における必要経費に該当するか。
695
696
697
698
699
700 所得税法上は,
701 令和2年分の本件建物の居住用の部屋の賃料収入は,
702 誰に帰属するか。
703
704
705
706 - 7 -
707
708 〔第2問〕(配点:50)
709 株式会社A(以下「A社」という。
710
711 )及び株式会社P(以下「P社」という。
712
713 )は,
714 株主及び役
715 員の一部を同じくする関連会社である。
716
717 A社は,
718 昭和50年に甲県乙市郊外の土地(以下「本件土
719 地」という。
720
721 )を3000万円で購入し,
722 A社の保養施設の敷地として利用していた。
723
724 平成29年
725 に本件土地上の保養施設は取り壊され,
726 本件土地は更地となっていた。
727
728 令和元年9月,
729 A社代表取
730 締役のQは,
731 知り合いのRから,
732 本件土地を時価相当額である9000万円で売却してほしいとの
733 電話連絡を受けた。
734
735 Qは,
736 A社が直接Rに本件土地を売却するのではなく,
737 A社からP社へ,
738 そし
739 てP社からRへ,
740 順次売却することを計画した。
741
742 その目的は,
743 A社及びP社がそれぞれ譲渡益を得
744 て,
745 A社及びP社の繰越欠損金を消滅させることにより,
746 2社合計の法人税額を,
747 A社が直接Rに
748 本件土地を売却した場合と比して低くすることであった。
749
750
751 Qは,
752 課税上問題視されないようにするため,
753 A社とP社との間に株式会社B(以下「B社」と
754 いう。
755
756 )を挟むことを考えた。
757
758 Qの大学時代の同じサークルの後輩で今でも交流を続けているCが,
759
760 乙市内で不動産販売会社たるB社を立ち上げ,
761 B社の代表取締役を務めていることを思い出したた
762 めである。
763
764 QはCに,
765 B社がA社から本件土地を購入する取引を提案した。
766
767 ただし,
768 B社がA社か
769 ら7000万円で本件土地を買い受けた後,
770 2か月以内にこれをP社に7500万円で売却するこ
771 と(以下「本件特約」という。
772
773 )を条件とするものであった。
774
775 Qとしては,
776 A社及びP社とは何ら
777 関係性のないB社を間に介在させることで,
778 本件土地の適正な時価が7000万円であると見せ掛
779 けることを企図していた。
780
781 Cとしては,
782 古くから世話になっている先輩からの依頼であり無下に断
783 ることもできず,
784 立ち上げたばかりのB社の売上げが少しでも上がるのであればと思い,
785 承諾した。
786
787
788 なお,
789 本件特約は,
790 Qの希望により本件土地の売買契約書とは別の覚書(以下「本件覚書」とい
791 う。
792
793 )という形でA社,
794 B社間で締結された。
795
796 また,
797 Qは,
798 本件土地の売却時期が令和2年2月頃
799 になることをあらかじめRに連絡し,
800 Rの了解を得ていた。
801
802
803 以上に基づき,
804 B社は,
805 令和元年11月15日にA社から本件土地を7000万円で買い受け
806 (以下,
807 この取引を「本件AB取引」という。
808
809 ),
810 令和2年1月10日に本件土地をP社に750
811 0万円で売却した(以下,
812 この取引を「本件BP取引」という。
813
814 )。
815
816 同月20日,
817 QはRに対し,
818
819 本件土地は,
820 現在,
821 関連会社であるP社が保有しているので,
822 P社に買付証明書を提出してほしい
823 と連絡し,
824 Rは,
825 同月23日付け買付証明書をP社に郵送した。
826
827 P社は,
828 同年2月25日にRに対
829 し,
830 本件土地を9000万円で売却した(以下,
831 この取引を「本件PR取引」という。
832
833 また,
834 「本
835 件AB取引」,
836 「本件BP取引」,
837 「本件PR取引」をまとめて,
838 以下「本件各取引」という。
839
840 )。
841
842
843 P社は,
844 同月29日にCに対し,
845 協力金として100万円(以下「本件リベート」という。
846
847 )を支
848 払った。
849
850
851 A社,
852 B社及びP社は,
853 毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。
854
855
856 A社は,
857 本件土地の時価が7000万円であるという前提で,
858 令和元年12月期の法人税の申告
859 (以下「本件A申告」という。
860
861 )をした。
862
863 令和2年9月,
864 税務署によるA社に対する法人税の実地
865 調査がなされた。
866
867 本件土地が転々譲渡されていることにつき調査官から尋ねられたQは,
868 本件土地
869 を,
870 交渉の末,
871 B社に7000万円で売却したところ,
872 その後,
873 本件土地を9000万円で購入し
874 たいとRから連絡を受けたが,
875 既にB社に売却してしまっており,
876 当時,
877 A社にて買い戻すだけの
878 資金的余裕もなかったことから関連会社のP社が本件土地をB社から7500万円で購入した上で,
879
880 Rに売却することになった旨を説明した。
881
882 その際,
883 Qは,
884 本件各取引の売買契約書(以下「本件各
885 売買契約書」という。
886
887 )について調査官に示したものの,
888 本件覚書については開示しなかった。
889
890
891 お,
892 本件各売買契約書には架空の名義の利用はない。
893
894
895 調査後,
896 QはすぐにCに連絡し,
897 B社について調査官から事情を聴かれた際には,
898 本件覚書の存
899 在やQとCとの関係については一切触れずに,
900 交渉の末に,
901 購入価額が7000万円となったと説
902 明するよう要請した。
903
904 また,
905 Qは,
906 Rに対してもQが調査官に説明した内容での口裏合わせを行っ
907 た。
908
909 しかし,
910 B社に反面調査がなされた際,
911 本件覚書の存在が発覚し,
912 本件各取引の全貌が明らか
913 - 8 -
914
915 となった。
916
917
918 以上の事案について,
919 以下の設問に答えなさい。
920
921 ただし,
922 第2問において,
923 グループ法人税制及
924 び同族会社行為計算否認規定の適用は考えなくてよい。
925
926
927 〔設
928
929 問〕
930
931
932
933 仮にA社が令和元年11月15日に直接Rに本件土地を9000万円で譲渡していた場合,
934
935 当該譲渡に関して,
936 同年12月期のA社の法人税の計算上,
937 益金の額及び損金の額への計上
938 に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。
939
940
941
942
943
944 本件AB取引に関して,
945 令和元年12月期のA社の法人税の計算上,
946 益金の額及び損金の
947 額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。
948
949
950
951
952
953 国税通則法第68条第1項の「隠蔽」,
954 「仮装」につき,
955 最高裁判所平成7年4月28日
956 第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁は「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な
957 行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく,
958 納税者が,
959 当初から所得を過
960 少に申告することを意図し,
961 その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上,
962 その
963 意図に基づく過少申告をしたような場合には,
964 重加算税の右賦課要件が満たされる」と判示
965 した。
966
967 益金を2000万円少なくした本件A申告そのものが同項の「隠蔽」,
968 「仮装」に当
969 たるか,
970 説明しなさい。
971
972
973
974
975
976 本件A申告そのもの以外に,
977 国税通則法第68条第1項の「隠蔽」,
978 「仮装」に当たる事
979 実があるかについて,
980 本件各取引の法律行為の内容が本件各売買契約書に偽りなく記載され
981 ており,
982 架空名義の利用はないことに留意しつつ,
983 上記最高裁判所の判決の判示を踏まえて
984 説明しなさい。
985
986
987
988
989
990 本件AB取引及び本件BP取引に関して,
991 B社の令和元年12月期及び令和2年12月期の
992 法人税の計算上,
993 益金の額及び損金の額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。
994
995
996
997
998
999 本件リベートは,
1000 Cの令和2年分の所得税の計算上,
1001 事業所得,
1002 一時所得,
1003 雑所得のいずれ
1004 の所得に分類されるか,
1005 説明しなさい。
1006
1007
1008
1009 - 9 -
1010
1011 - 10 -
1012
1013 論文式試験問題集[経
1014
1015 - 11 -
1016
1017
1018
1019 法]
1020
1021 [経
1022
1023
1024
1025 法]
1026
1027 〔第1問〕(配点:50)
1028 Y1ないしY15は,
1029 いずれも土木工事の施工等を業とする株式会社である。
1030
1031
1032 X県は,
1033 大雨により崩壊した県道の復旧工事20件(以下「本件各工事」という。
1034
1035 )を条件付一
1036 般競争入札の方法(入札公告により,
1037 特定の入札参加資格を付して入札の参加希望者を募り,
1038 当該
1039 参加資格を満たしていると認められた者を当該入札の参加者とする方法)により発注することとし,
1040
1041 落札方式については,
1042 入札価格を80点満点で評価する「価格評価点」と技術力を20点満点で客
1043 観的に評価する「技術評価点」を合算した点数の最も高い者を落札者とする総合評価落札方式を採
1044 用することとした。
1045
1046 本件各工事は,
1047 いずれも同じ日に入札公告がなされ,
1048 その後,
1049 いずれも同じ日
1050 に入札がなされる。
1051
1052
1053 X県が本件各工事の入札公告に先立ってその発注見通しを公表したことを受け,
1054 X県に所在する
1055 技術力の高いY1ないしY13は,
1056 受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため,
1057 それぞ
1058 れの担当者による会合(以下「本件会合」という。
1059
1060 )を開き,
1061 次のないしのとおり合意した
1062 (以下「本件合意」という。
1063
1064 )。
1065
1066
1067
1068
1069 本件合意の参加者は,
1070 本件各工事の入札に先立ち,
1071 Y1に対し,
1072 受注を希望する工事を知ら
1073 せるとともに,
1074 当該工事について技術評価点に係る自社の予測値を提供すること
1075
1076
1077
1078 Y1は,
1079 受注希望者の中から受注予定者を決めるとともに,
1080 それ以外の入札参加者も決め,
1081
1082 受注予定者が確実に受注できるようにするため,
1083 提供を受けた技術評価点の予測値に基づいて,
1084
1085 受注予定者及びそれ以外の入札参加者が入札すべき価格を算出し,
1086 これらをそれぞれに伝える
1087 こと
1088
1089
1090
1091 受注予定者はY1から伝えられた価格で入札すること,
1092 それ以外の入札参加者はY1から伝
1093 えられた価格で入札し,
1094 受注予定者が受注できるよう協力すること
1095
1096 また,
1097 本件会合において,
1098 本件各工事の性質上,
1099 X県の隣接県に所在するY14及びY15が本
1100 件各工事の入札に参加することが予想されるとのY1の担当者の発言を受けて,
1101 Y1ないしY13
1102 は,
1103 Y1を調整役として,
1104 Y14及びY15に本件合意への参加を呼び掛けることにした。
1105
1106
1107 Y1の担当者とY14又はY15の担当者との面談状況は,
1108 それぞれ以下のとおりであった。
1109
1110
1111 まず,
1112 Y1の担当者は,
1113 面談したY14の担当者に対して,
1114 本件合意の内容を説明した上で,
1115
1116 件合意の参加者を特定することなく,
1117 X県所在の有力な業者の多くが本件合意に参加する意思を表
1118 明していると伝え,
1119 本件合意への参加を呼び掛けた。
1120
1121 その際,
1122 Y14の担当者は,
1123 本件合意の参加
1124 者の正確な範囲を認識しておらず,
1125 それを確認することもせず,
1126 また,
1127 本件合意に参加した場合の
1128 見返りに関する質問もしなかった。
1129
1130 Y14の担当者は,
1131 Y1の担当者に対し,
1132 会社としてY1の呼
1133 び掛けに応じる意思を表明したが,
1134 その理由は,
1135 本件各工事を受注する希望はないものの,
1136 X県に
1137 よる追加工事の発注があり得ると考えた上で,
1138 それらについて受注を希望することがあれば,
1139 Y1
1140 を通じてX県所在の業者から協力を得ることができるかもしれないと期待したからであった。
1141
1142
1143 次に,
1144 Y1の担当者は,
1145 面談したY15の担当者に対して,
1146 本件合意の内容を説明した上で,
1147
1148 件合意の参加者がY1ないしY14であることを伝え,
1149 本件合意への参加を呼び掛けた。
1150
1151 その際,
1152
1153 Y1の担当者が,
1154 Y15において本件各工事の受注を希望することがあれば,
1155 Y15を受注予定者
1156 とすることもあるなどと述べたことから,
1157 Y15の担当者は,
1158 Y1の担当者に対し,
1159 会社としてY
1160 1の呼び掛けに応じる意思を表明した。
1161
1162
1163 上記の各面談後,
1164 Y1の担当者は,
1165 Y2ないしY13の各担当者に対し,
1166 Y14及びY15が本
1167 件合意に参加することになったと伝えた。
1168
1169 しかし,
1170 本件各工事の入札公告に先立ち,
1171 Y15は,
1172
1173 ンプライアンス上の理由から本件合意への参加には応じられないこととなった。
1174
1175 このため,
1176 Y15
1177 の担当者は,
1178 Y1の担当者に対し,
1179 会社として,
1180 上記面談時に伝えた本件合意に参加する意思を撤
1181 回する旨の連絡を行い,
1182 Y1の担当者からの再度の呼び掛けに対してもこれを拒否する姿勢を明確
1183 - 12 -
1184
1185 に示した。
1186
1187 Y1の担当者は,
1188 Y15の技術力や確保できる作業員数の見込みなどに照らして,
1189 Y1
1190 5が本件合意への大きな脅威になることはないと判断した上で静観することとし,
1191 Y15の翻意を
1192 Y2ないしY13の各担当者に伝えず,
1193 また,
1194 Y14の担当者にも伝えなかった。
1195
1196
1197 その後,
1198 本件各工事の入札公告がなされ,
1199 本件合意に従って受注予定者の決定等がなされた。
1200
1201
1202 0件の本件各工事のうち19件は,
1203 本件合意に基づく調整の結果どおり,
1204 Y1ないしY13が落札
1205 した。
1206
1207 残る1件は,
1208 Y1に対して本件合意への参加の意思を撤回したY15が,
1209 独自の積算で入札
1210 して落札した。
1211
1212 Y14は,
1213 本件各工事の受注希望を表明することはなかったが,
1214 特にY1より依頼
1215 のあった1件の工事について,
1216 技術評価点の予測値をY1に提供するとともに,
1217 Y1から伝えられ
1218 た価格で入札した。
1219
1220 なお,
1221 本件合意への参加を呼び掛けることのなかったY1ないしY15以外の
1222 技術力が高くない数社が本件各工事の入札に参加したが,
1223 落札した工事はなかった。
1224
1225
1226 〔設
1227
1228 問〕
1229 Y1ないしY13,
1230 Y14及びY15の行為について,
1231 私的独占の禁止及び公正取引の確保に
1232
1233 関する法律(以下「独占禁止法」という。
1234
1235 )上の問題点を検討しなさい。
1236
1237 解答に当たっては,
1238
1239 14及びY15による以下の主張の当否を踏まえること。
1240
1241 なお,
1242 課徴金の賦課及び犯則事件につ
1243 いて論じる必要はない。
1244
1245
1246 Y14の主張:「本件合意の参加者の正確な範囲を知らない。
1247
1248 また,
1249 そもそも本件各工事に受
1250 注希望はなかったし,
1251 実際,
1252 落札した工事もない。
1253
1254
1255 Y15の主張:「当初,
1256 Y1の呼び掛けに応じたが,
1257 その後,
1258 少なくともY1に対しては入札
1259 公告前に,
1260 本件合意に参加しないことを明確に伝えた。
1261
1262
1263
1264 - 13 -
1265
1266 〔第2問〕(配点:50)
1267 甲製品は,
1268 主要な家庭用電動器具の一つであり,
1269 特有の機能・効用を有し,
1270 代替品は存在しない。
1271
1272
1273 甲製品には,
1274 その安全性に関する公的規格が設定されている。
1275
1276
1277 甲製品の国内メーカーとして,
1278 従来からX社,
1279 A社及びB社の3社があり,
1280 令和元年における甲
1281 製品の国内販売台数のシェアは,
1282 X社が45パーセント,
1283 A社が25パーセント,
1284 B社が15パー
1285 セントであった。
1286
1287 また,
1288 近年,
1289 Y社が参入し,
1290 その甲製品のシェアは毎年漸増しており,
1291 令和元年
1292 において15パーセントであった。
1293
1294 先発の3社及びY社以外には,
1295 上記の公的規格による甲製品を
1296 製造・販売するものはいない。
1297
1298
1299 甲製品は,
1300 各種の家庭用電動器具を専門に取り扱う販売店のほか,
1301 ホームセンター等の販売店で
1302 販売されており,
1303 これらの販売店では2社以上の甲製品を取り扱う併売が一般的であるが,
1304 後発の
1305 Y社の甲製品を取り扱っている販売店は限定的である。
1306
1307 甲製品の販売店にとっては,
1308 メーカーによ
1309 る販売促進や技術面の支援が重要な意味を持っている。
1310
1311 また,
1312 甲製品のユーザーは,
1313 販売店の助言
1314 や推奨によってメーカーを選定する傾向が強い。
1315
1316
1317 X社は,
1318 家庭用電動器具の総合メーカーとしてブランド力が強く,
1319 また,
1320 国内における甲製品の
1321 最先発のメーカーとしてユーザーからの知名度も高く,
1322 販売店にとってはX社の甲製品を取り扱う
1323 ことが不可欠である。
1324
1325 X社は,
1326 その取引先販売店のうち,
1327 家庭用電動器具全体を対象にその販売力
1328 や技術力等を評価して選定したものをX社の「特約店」として認定し,
1329 家庭用電動器具の販売促進
1330 や技術面での支援策を総合的に提供する特約店制度を実施しており,
1331 X社の甲製品を取り扱う取引
1332 先販売店の約60パーセントが特約店となっている(なお,
1333 特約店にあっても併売が一般的であ
1334 る。
1335
1336 )。
1337
1338 こうした事情から,
1339 X社は,
1340 甲製品について大きなシェアを確保してきたが,
1341 近年参入し
1342 てきたY社の伸長により,
1343 そのシェアをやや低下させてきていた。
1344
1345 また,
1346 A社及びB社は,
1347 いずれ
1348 も甲製品を主体とするメーカーであり,
1349 X社に比べればブランド力は強くないが,
1350 一定のシェアを
1351 維持してきた。
1352
1353 他方,
1354 Y社の甲製品は,
1355 先発の3社の甲製品と比較して相対的に低価格であり,
1356
1357 社は,
1358 そのことを強調した販売戦略により,
1359 甲製品の販売台数を増加させてきていた。
1360
1361
1362 こうした状況において,
1363 Y社では,
1364 その甲製品の更なる販売拡大を目指すこととし,
1365 令和2年1
1366 月以降,
1367 従来Y社の甲製品を取り扱っていない販売店に対して新規の取引を申し入れる取組を強化
1368 し始めた。
1369
1370 その結果,
1371 販売店の中には,
1372 Y社の甲製品の取扱いを新たに始めるものが出てきた。
1373
1374
1375 れに対し,
1376 従来から甲製品のシェアがやや低下してきていたX社は,
1377 その原因がY社の甲製品の伸
1378 長にあり,
1379 特にY社の甲製品をユーザーに積極的に推奨する販売店が存在していること,
1380 Y社が新
1381 たな取引先販売店の開拓に乗り出したこと,
1382 これまで甲製品の価格競争は限定的であったにもかか
1383 わらず,
1384 相対的に廉価なY社の甲製品の伸長が甲製品全体の価格水準に影響しかねないことに危機
1385 感を抱き,
1386 次の二つの措置を講じることとした。
1387
1388
1389 まず,
1390 X社は,
1391 直ちに実施できる措置として,
1392 令和2年4月から,
1393 Y社の甲製品も取り扱う取引
1394 先販売店のうち,
1395 Y社の甲製品を積極的にユーザーに推奨しているものに対して個別に,
1396 このまま
1397 Y社の甲製品の積極的な推奨を続けると,
1398 X社の家庭用電動器具の販売促進や技術面の支援におい
1399 て不利な扱いをする旨示唆している(以下「措置1」という。
1400
1401 )。
1402
1403 そして,
1404 実際にX社から不利な
1405 扱いを受けた販売店も出てきており,
1406 また,
1407 X社の取引先販売店の間では,
1408 X社から不利な扱いを
1409 受けた販売店があるとの情報が流布している。
1410
1411 このため,
1412 販売店の中には,
1413 X社との取引上不利に
1414 なることを恐れて,
1415 ユーザーに対するY社の甲製品の積極的な推奨を取りやめるものが出てきてお
1416 り,
1417 Y社の甲製品の取扱いを検討していたX社の取引先販売店の中には,
1418 Y社の甲製品の取扱いを
1419 断念したものもある。
1420
1421
1422 次に,
1423 X社は,
1424 措置1と並行して,
1425 特約店制度を利用した措置を採ることとし,
1426 令和2年10月
1427 から,
1428 X社の甲製品を取り扱う特約店に対し,
1429 ユーザーに対して専らX社の甲製品を推奨すること
1430 を約束する場合には,
1431 X社の甲製品の販売台数の増加率に応じて家庭用電動器具全体の仕入額を計
1432 算基礎とする累進的なリベートを供与する旨提案し,
1433 これを実施し始めた。
1434
1435 そして,
1436 X社は,
1437 特約
1438 - 14 -
1439
1440 店における上記の約束の履行状況を確認するために,
1441 自社の従業員又は第三者による特約店のモニ
1442 タリングを実施し,
1443 必要に応じ,
1444 上記の約束を履行していない特約店に対する指導を行っており,
1445
1446 改善されない場合には,
1447 リベートを供与しないだけでなく,
1448 特約店に対する販売促進や技術面での
1449 支援策を削減する旨通告している(以上の措置を以下「措置2」という。
1450
1451 )。
1452
1453 令和2年12月末時
1454 点では,
1455 X社の甲製品を取り扱う特約店の約半数が上記の約束をしており,
1456 措置2により,
1457 Y社に
1458 よる新たな取引先販売店の獲得に懸念が生じている。
1459
1460
1461 〔設問1〕
1462 X社による措置1及び措置2のそれぞれについて,
1463 独占禁止法に違反するか検討しなさい。
1464
1465
1466 〔設問2〕
1467 問題文に加えて,
1468 令和3年5月時点で以下の事情が認められる場合に,
1469 X社による措置1及び
1470 措置2の全体について,
1471 独占禁止法に違反するか検討しなさい。
1472
1473
1474 X社の甲製品を取り扱う特約店のうち,
1475 専らX社の甲製品の推奨を約束しているものは,
1476 約7
1477 0パーセントに達している。
1478
1479 また,
1480 Y社,
1481 A社及びB社の甲製品の販売台数にかなりの影響が出
1482 ており,
1483 その結果,
1484 X社の甲製品のシェアは,
1485 令和3年第1四半期(令和3年1月から同年3月
1486 まで)において60パーセントに達した。
1487
1488 さらに,
1489 Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店が少
1490 なくなり,
1491 また,
1492 Y社の甲製品を取り扱う販売店が増えていないことから,
1493 甲製品の価格水準は,
1494
1495 従来どおり安定した状態にある。
1496
1497
1498
1499 - 15 -
1500
1501 - 16 -
1502
1503 論文式試験問題集[知的財産法]
1504
1505 - 17 -
1506
1507 [知的財産法]
1508 〔第1問〕(配点:50)
1509 Xは,
1510 腹壁と胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)に用いられる「医療用器具」(以下
1511 「X発明」という。
1512
1513 )について特許権(以下「X特許権」という。
1514
1515 )を有している。
1516
1517 X発明は,
1518
1519 壁と胃壁の縫合を短時間に迅速かつ確実に行うという課題を解決するために,
1520 縫合糸を挿入するた
1521 めの針と,
1522 これとほぼ平行に設けられた縫合糸を保持するための針とを固定部材により固定する構
1523 成(以下「構成要件α」という。
1524
1525 )を採用し,
1526 2本の針を一体化させ,
1527 同時穿刺(注)可能な構造
1528 としたことを技術的特徴の一つとする。
1529
1530
1531 Xは,
1532 X発明の実施品である医療用器具(以下「X製品」という。
1533
1534 )を製造し,
1535 販売している。
1536
1537
1538 以上の事実関係を前提として,
1539 以下の設問に答えなさい。
1540
1541 なお,
1542 各設問はそれぞれ独立したもの
1543 であり,
1544 相互に関係はないものとする。
1545
1546
1547 (注)「穿刺」とは,
1548 体外から体腔内,
1549 血管内,
1550 臓器内に針を刺し入れることをいう。
1551
1552
1553 〔設
1554
1555 問〕
1556
1557 1.Xは,
1558 X発明の特許出願時に,
1559 その特許請求の範囲において,
1560 構成要件αの針を金属製の針
1561 と記載していたが,
1562 当該特許出願の願書に添付した明細書には,
1563 針の材質に関して,
1564 その他の
1565 硬い針を用いてもよいことが記載されていた。
1566
1567 X特許権については,
1568 特許出願から設定登録ま
1569 での間に補正がされていない。
1570
1571
1572 Aは,
1573 樹脂製の針を使用した医療用器具(以下「A製品」という。
1574
1575 )を製造し,
1576 販売してい
1577 る。
1578
1579 A製品は,
1580 樹脂製の針を用いている点を除き,
1581 X発明の構成要件を全て充足する。
1582
1583 X発明
1584 の特許出願時において,
1585 樹脂製の針が硬い針であることは,
1586 X発明の属する技術の分野におけ
1587 る通常の知識を有する者にとって自明であり,
1588 また,
1589 金属製の針に替えて樹脂製の針を用いて
1590 もX発明の作用効果を奏することは,
1591 それらの者が容易に想到することができたとする。
1592
1593 この
1594 場合,
1595 Aの行為は,
1596 X特許権を侵害するかについて論じなさい。
1597
1598
1599 2.Bは,
1600 医療機関からX製品の使用済み品を入手し,
1601 X製品を分解し,
1602 各部品を洗浄し,
1603 再組
1604 立てを行い,
1605 滅菌処理を施した上で,
1606 医療機関に販売している。
1607
1608 Bによるこれらの作業の過程
1609 では,
1610 部品交換は行われていない。
1611
1612 一方で,
1613 X製品の添付文書には,
1614 「再使用禁止」と明記さ
1615 れている。
1616
1617 この場合,
1618 Bの行為は,
1619 X特許権を侵害するかについて論じなさい。
1620
1621
1622 3.Cは,
1623 胃壁固定術に用いられる医療用器具(以下「C製品」という。
1624
1625 )を製造し,
1626 販売して
1627 いる。
1628
1629 C製品は,
1630 縫合糸を挿入するための針と縫合糸を保持するための針より構成されており,
1631
1632 2本の針が固定部材によって一体化されていない点を除いて,
1633 X発明の構成要件を全て充足す
1634 る。
1635
1636 しかし,
1637 C製品は,
1638 使用後,
1639 2本の針をまとめて容易かつ安全に廃棄するために,
1640 2本の
1641 針を一体化して係止する機構(以下「一体化機構」という。
1642
1643 )を備えている。
1644
1645 C製品の一体化
1646 機構は,
1647 2本の針をまとめて廃棄するための仮止めにすぎないから,
1648 2本の針を一体化機構に
1649 より係止した状態のC製品を一体化同時穿刺に使用すると,
1650 穿刺する力が2本の針に均等に伝
1651 わらず,
1652 針先が曲がり,
1653 臓器を損傷する危険性がある。
1654
1655 ゆえに,
1656 C製品の添付文書においても,
1657
1658 使用上の注意として,
1659 「一体化させた状態で2本の針を同時に穿刺しないこと。
1660
1661 臓器の損傷,
1662
1663 誤穿刺や出血の危険性がある。
1664
1665 」との記載がなされている。
1666
1667 もっとも,
1668 C製品の2本の針を一
1669 体化機構により係止し,
1670 さらに汎用クリップで留めると,
1671 係合力が増し,
1672 一体化同時穿刺を安
1673 全に実施することが可能となる。
1674
1675
1676 Xは,
1677 第三者機関に依頼して,
1678 C製品の使用状況に関する調査を実施したところ,
1679 C製品の
1680 使用経験がある医療機関におけるC製品の全使用症例数の3割の症例で汎用クリップを用いた
1681 一体化同時穿刺が行われていることが判明した。
1682
1683 そこで,
1684 Xは,
1685 Cに対し,
1686 上記調査の結果を
1687 - 18 -
1688
1689 摘示した上で,
1690 一体化機構により係止し,
1691 汎用クリップで留めた状態にあるC製品は,
1692 X発明
1693 の技術的範囲に属するものであり,
1694 その製造,
1695 販売はX特許権を侵害するものであるから,
1696
1697 れらの行為を止めるように警告した。
1698
1699 しかし,
1700 CがC製品の製造,
1701 販売を継続したため,
1702 Xは,
1703
1704 Cに対し,
1705 差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。
1706
1707
1708
1709
1710 Xは,
1711 C製品の製造及び販売の差止めを請求することができるかについて論じなさい。
1712
1713
1714
1715
1716
1717 Xは,
1718 Cがこれまでに販売したC製品の全数量を対象として特許法第102条第2項を用
1719 いて損害額を算定し,
1720 損害賠償を請求している。
1721
1722 仮にCの行為がX特許権を侵害するとした
1723 場合,
1724 Xの請求に対するCの反論としてどのような主張が考えられるかについて論じなさい。
1725
1726
1727
1728 - 19 -
1729
1730 〔第2問〕(配点:50)
1731 著名なタレントである甲は,
1732 各種エンターテインメント事業を行う会社Aに所属している。
1733
1734 Aは,
1735
1736 甲をイラスト化した主人公が迷宮を脱出する内容のコンピュータ用ゲームソフト(以下「α」とい
1737 う。
1738
1739 )の制作を企画し,
1740 そのBGMに,
1741 甲が歌唱する代表的な歌曲の楽曲部分(以下「β」とい
1742 う。
1743
1744 )を使用することにした。
1745
1746
1747 βは,
1748 作曲家である乙がかつてAに依頼されて作曲したものであり,
1749 乙の著作の名義の下に公表
1750 されたものである。
1751
1752 Aは,
1753 αの制作に先立ち,
1754 乙との間で,
1755 βに係る著作権を全部譲り受ける旨の
1756 契約を締結した。
1757
1758 当該契約においては,
1759 著作権法第27条及び第28条に定める著作権も譲渡対象
1760 として特掲されている。
1761
1762
1763 その後,
1764 Aの従業員がαを完成させ,
1765 αはAの著作の名義の下に公表された。
1766
1767 Aは,
1768 αの複製物
1769 の販売を開始した。
1770
1771
1772 以上の事実関係を前提として,
1773 以下の設問に答えなさい。
1774
1775
1776 〔設
1777
1778 問〕
1779
1780 1.αの制作過程においては,
1781 甲を簡略なイラストで表現する作業の参考に資するために,
1782 Aの
1783 内部で甲の写真撮影が行われた。
1784
1785 撮影は,
1786 当時Aの従業員であった丙が担当し,
1787 丙は,
1788 デジタ
1789 ルカメラを用いて,
1790 写真の構図,
1791 採光,
1792 露光,
1793 シャッタースピード等を調節して,
1794 甲を撮影し
1795 た。
1796
1797 Aは,
1798 当該写真とそのデータをαの開発部署の外に持ち出すことを禁じ,
1799 また,
1800 αの完成
1801 後は,
1802 直ちにそれらを廃棄することを命じていたが,
1803 Aを退職した丙は,
1804 その所有するUSB
1805 メモリーを用いて当該データを密かに自宅に持ち帰り,
1806 不特定多数の者が閲覧できる丙のホー
1807 ムページ上で,
1808 当該データを保有している旨及び当該写真を印刷したものの売却に応じる旨を
1809 告知した。
1810
1811 Aは,
1812 丙に対して,
1813 著作権に基づいて,
1814 当該写真の印刷及び譲渡の差止め並びに当
1815 該データの廃棄を請求することができるかについて論じなさい。
1816
1817
1818 2.Bは,
1819 中古ゲームソフトの販売を行う会社であり,
1820 Aが販売したαの複製物を含む中古ゲー
1821 ムソフトを,
1822 自社の店舗内で販売している。
1823
1824
1825
1826
1827 Aは,
1828 Bに対して,
1829 αの複製物の販売の差止めを請求することができるかについて論じな
1830 さい。
1831
1832
1833
1834
1835
1836 Bは,
1837 中古ゲームソフトの通常の販売に係るサービスと並行して,
1838 それとは異なるサービ
1839 スを「割賦販売サービス」と称して提供しているものとする。
1840
1841 当該サービスにおいては,
1842
1843 の商品である中古ゲームソフトの販売価格の一部に相当する金銭が「頭金」と呼ばれ,
1844 客は
1845 「頭金」を支払うことで,
1846 直ちに商品の引渡しを受けることができ,
1847 残額分は引渡しから1
1848 週間後に支払えばよいとされていた。
1849
1850 また,
1851 引渡しから6日以内であれば,
1852 客は,
1853 「頭金」
1854 の払戻しを受けることはできないが,
1855 商品を自由に返品することができ,
1856 残額分の支払を免
1857 れることもできた。
1858
1859 Aは,
1860 Bに対して,
1861 αの複製物について当該サービスを提供することの
1862 差止めを請求することができるかについて論じなさい。
1863
1864
1865
1866 3.数年後,
1867 Aは,
1868 αの続編に当たるコンピュータ用ゲームソフトの制作を決定し,
1869 βを編曲し
1870 たものを,
1871 そのBGMとして使用することにした。
1872
1873 Aは,
1874 作曲家である丁にβの編曲を依頼し,
1875
1876 丁は,
1877 もともと落ち着いた曲調であったβをビートの効いたテンポの速い曲調に編曲したβ’
1878 を作成した。
1879
1880 当該編曲の事実を知った乙は,
1881 丁に対して,
1882 乙の同一性保持権の侵害を理由とす
1883 る損害賠償を請求している。
1884
1885 乙の請求に対する丁の反論として,
1886 どのような主張が考えられる
1887 かについて論じなさい。
1888
1889
1890
1891 - 20 -
1892
1893 論文式試験問題集[労
1894
1895 - 21 -
1896
1897
1898
1899 法]
1900
1901 [労
1902
1903
1904
1905 法]
1906
1907 〔第1問〕(配点:50)
1908 次の事例を読んで,
1909 後記の設問に答えなさい。
1910
1911
1912 【事
1913
1914 例】
1915 有料職業紹介事業を営むY社は,
1916 本社と事業所が一体となった事業場1か所のみで,
1917 労働者6人
1918
1919 を使用して事業を行っていた。
1920
1921
1922 Y社と無期労働契約を締結して雇用されているX1は,
1923 時間外・休日労働の時間数が1か月当た
1924 り60時間を超える状態が続く中で,
1925 Y社社長のAから,
1926 午後8時以降は会社内で勤務しないよう
1927 にとの通告を受けた。
1928
1929 そこでX1は,
1930 やむを得ず,
1931 求職者の個人情報等の機密情報が記録された記
1932 憶媒体(以下「媒体」という。
1933
1934 )を,
1935 Y社の許可を得ることなく自宅に持ち帰り,
1936 自宅で深夜まで
1937 残務処理を行うようになった。
1938
1939 そのような状況が続いたある日,
1940 X1は,
1941 会社から帰宅する電車の
1942 中でうたた寝をしてしまい,
1943 媒体の入った鞄を紛失した。
1944
1945 X1は,
1946 翌朝出勤してすぐに,
1947 Aに媒体
1948 を紛失した経緯を説明した。
1949
1950 AとX1は,
1951 媒体に個人情報が記録されていた求職者160人と連絡
1952 を取り,
1953 媒体紛失の経緯を説明して謝罪した。
1954
1955 Y社は,
1956 これらの求職者160人に対し,
1957 お詫びの
1958 品として金券3000円相当をそれぞれ送付した。
1959
1960
1961 Y社は,
1962 就業規則を作成していなかったが,
1963 各労働者との間で労働契約を締結する際に,
1964 後記の
1965 労働契約書を手交し,
1966 各労働者の署名・押印を得ていた。
1967
1968 Y社は,
1969 X1の前記の媒体紛失行為が労
1970 働契約書第18条第3号,
1971 第4号及び第10号記載の懲戒事由に該当するとして,
1972 X1に弁明の機
1973 会を与えることなく,
1974 同第19条に基づき,
1975 X1を7日間の出勤停止処分とした。
1976
1977 また,
1978 Y社は,
1979
1980 前記の媒体紛失行為によるY社の損害額を48万円とし,
1981 X1に対して48万円の損害を賠償する
1982 よう請求した。
1983
1984
1985 その後Y社は,
1986 他の大手企業に顧客の多くを奪われていく中で,
1987 売上げが3年連続で低下し,
1988
1989 働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった。
1990
1991 そこでAは,
1992 「会社の経営方針を正しく理解
1993 し,
1994 経営改革に柔軟に対応してくれる人材」の雇用を継続し,
1995 これに該当しない者2人を解雇する
1996 との方針を立てて,
1997 Y社の労働者全員が出席する朝礼の場で,
1998 この方針を説明した。
1999
2000 このAからの
2001 説明に対し,
2002 労働者からは特段意見や質問は出なかった。
2003
2004 そこでAは,
2005 この方針に基づいて被解雇
2006 者を決定することとし,
2007 全労働者6人の中から,
2008 これまでの勤務態度に照らし,
2009 会社への協調性や
2010 柔軟性に欠ける傾向にあると評価したX2及びX3の2人を選定した(会社の経営方針に協力的で
2011 あると評価していたX1は,
2012 被解雇者に選定しなかった)。
2013
2014 Aは,
2015 X2及びX3に対し,
2016 被解雇者
2017 に選定されたことを説明し,
2018 30日の予告期間を置いて,
2019 両名を解雇した。
2020
2021 なお,
2022 Y社と各労働者
2023 との間で締結された労働契約書には,
2024 解雇に関する定めはない。
2025
2026
2027 【労働契約書(抜粋)】
2028 第18条
2029 1,
2030
2031
2032 従業員が次の各号の一に該当する場合は,
2033 第19条の定めるところに従い,
2034 懲戒を行う。
2035
2036
2037 (略)
2038
2039
2040
2041 会社の許可なく,
2042 会社の物品や機密情報を持ち出したとき。
2043
2044
2045
2046
2047
2048 不正な行為により,
2049 会社の名誉・信用を毀損し,
2050 又は,
2051 会社に損害を与えたとき。
2052
2053
2054
2055 5〜9
2056 10
2057
2058 (略)
2059 前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき。
2060
2061
2062
2063 第19条
2064
2065 懲戒は,
2066 けん責,
2067 減給,
2068 出勤停止(14日間を限度とし,
2069 無給とする),
2070 諭旨退職,
2071 懲戒
2072
2073 解雇の5種類とし,
2074 会社は情状に応じて処分を決定する。
2075
2076
2077
2078 - 22 -
2079
2080 〔設
2081
2082 問〕
2083
2084 1.Y社がX1に対して行った出勤停止処分は有効か。
2085
2086 検討すべき法律上の論点を挙げて,
2087 あなた
2088 の見解を述べなさい。
2089
2090
2091 2.Y社からX1への損害賠償請求は認められるか。
2092
2093 検討すべき法律上の論点を挙げて,
2094 あなたの
2095 見解を述べなさい。
2096
2097
2098 3.Y社がX2及びX3に対して行った解雇は有効か。
2099
2100 検討すべき法律上の論点を挙げて,
2101 あなた
2102 の見解を述べなさい。
2103
2104
2105
2106 - 23 -
2107
2108 〔第2問〕(配点:50)
2109 次の事例を読んで,
2110 後記の設問に答えなさい。
2111
2112
2113 【事
2114
2115
2116 例】
2117 合板等の製造等を業とするY社は,
2118 本社工場と3つの支工場を有し,
2119 その従業員の約8割がA
2120 労働組合に加入していた。
2121
2122 同組合には,
2123 本社工場に事務局を置く組合本部とは別に支工場ごとに
2124 組合支部が置かれていたが,
2125 各支部は,
2126 同組合の下部機構であって,
2127 各支工場に特有の問題につ
2128 いては工場協議会を開催して工場側と折衝して処理するなどしていたものの,
2129 組合本部とは独立
2130 してY社と団体交渉をしたり,
2131 労働協約を締結したりする権限はなかった。
2132
2133 Xは,
2134 Y社F支工場
2135 従業員であり,
2136 A労働組合F支部長である。
2137
2138
2139
2140
2141
2142 令和2年1月20日,
2143 Y社T支工場において原料木粉の粉塵爆発と思われる事故が発生し,
2144
2145 業員1人が死亡したほか複数の者が負傷した。
2146
2147 労働基準監督官等の調査によっても事故原因の特
2148 定には至らなかったが,
2149 爆発の中心地点にあったM社製機械が着火源になった可能性が調査の過
2150 程で指摘され,
2151 そのことがM社製の同型同年式の機械を使用していたF支工場従業員を著しく動
2152 揺させた。
2153
2154 その結果,
2155 生命の危険があるなどとして同機械による作業を拒否する者が現れ,
2156 一部
2157 の従業員が繁忙期を乗り越えるためにやむなく集中的にこの作業を受け持つという状況が生じた。
2158
2159
2160 同年2月3日,
2161 F支工場製造部長であるBは,
2162 この状況を解消すべく,
2163 F支工場の工場長であ
2164 るWに対し,
2165 「安心して働ける環境の回復のため,
2166 M社製機械を全て廃棄し,
2167 L社製の同等品を
2168 導入すべきである」旨,
2169 意見を具申した。
2170
2171 Bは,
2172 かつて組合員であったが,
2173 創業者である代表取
2174 締役Zに管理能力を買われて現職に昇進し,
2175 人事権を有する管理職となるに伴い,
2176 非組合員とな
2177 っていた。
2178
2179
2180 Wは,
2181 Zの三男であって長く経理部門の要職を務め,
2182 工場勤務の経験はないものの,
2183 製造部門
2184 の経費率が特に高いF支工場の経営見直しのため,
2185 Zの判断で工場長に任命されていた。
2186
2187 Wは,
2188
2189 M社製機械を事故の原因とする科学的根拠が乏しい中で「安心」のために設備更新をするという
2190 コスト意識を欠く提案をするBに憤りを覚え,
2191 Bに「お前らは,
2192 ありもしない亡霊を仕立てて,
2193
2194 金がかかることばかり考える。
2195
2196 機械にケチをつける暇があったら危険予測活動を徹底しろ。
2197
2198 親父
2199 はかわいがっていたようだが,
2200 お前はもうだめだな。
2201
2202 」と言って罵倒した。
2203
2204
2205 かねてWの工場運営方針に不満を覚えていたBは,
2206 激高してWの胸ぐらにつかみかかり,
2207 周囲
2208 にいた製造部の従業員に制止されながらもなおWに罵声を浴びせた。
2209
2210 Wは,
2211 暴行についての謝罪
2212 と機械の更新をしない方針に従うことをBに指示したが,
2213 Bは返事をしなかった。
2214
2215 Wから事態の
2216 報告を受けたY社は,
2217 Bには後記の就業規則第59条第5号及び第6号の懲戒事由があり,
2218 その
2219 情状は極めて重いとし,
2220 Bに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,
2221 同年3月2日,
2222 Bに対して
2223 同年4月2日付けで懲戒解雇する旨を予告し,
2224 同日,
2225 同人を懲戒解雇した。
2226
2227
2228
2229
2230
2231 Xは,
2232 Bの懲戒解雇は,
2233 人命を軽視するWの策動による不当なものであるというにとどまらず,
2234
2235 組合員がどれだけ会社の発展に身を捧げ,
2236 管理職に栄進したとしても,
2237 創業家の一存で解雇され
2238 得ることを示すものであり,
2239 放置すれば組合員の将来に希望はないと考えた。
2240
2241 そこでXは,
2242 F支
2243 部の幹部数人と協議の上,
2244 Bの懲戒解雇の撤回を本社に上申するようWに要求し,
2245 これが拒否さ
2246 れた場合にはF支部組合員15人(製造ライン従業員の約8割)が示威的に一斉に早退し,
2247 罷業
2248 に入るという計画を立てた。
2249
2250
2251 Xは,
2252 この計画を組合本部のP書記長に電話で伝達したが,
2253 Pは,
2254 Bの懲戒解雇に対しては厳
2255 重に抗議すべきであるとしつつ,
2256 要求が拒否された場合に組合員が一斉に早退して罷業する行動
2257 にまで及ぶのは時期尚早であり,
2258 相当ではないと返答した。
2259
2260 しかしながら,
2261 Xは,
2262 交渉が長期化
2263 すれば不当な前例が既成事実化しかねないことを懸念し,
2264 組合本部の了承を得ないまま,
2265 F支部
2266 組合員にはそのことを秘して,
2267 計画を実行に移すこととした。
2268
2269
2270
2271
2272
2273 同年4月13日午前10時頃,
2274 Xは,
2275 F支部組合員10人を引き連れて工場長室前に赴き,
2276
2277 - 24 -
2278
2279 室の扉を激しくノックして「工場長!B部長の解雇の件でお願いしたいことがある。
2280
2281 」と叫んだ。
2282
2283
2284 Wは,
2285 管理職であったBの懲戒解雇について組合と話すことはないと考え,
2286 返事もせずに無視し
2287 た。
2288
2289 Xは,
2290 さらに激しくノックしながら,
2291 「工場長!組合としてB部長の懲戒解雇の撤回を要求
2292 する。
2293
2294 聞こえないのか。
2295
2296 現場を分かっているのはあんたじゃない。
2297
2298 B部長だ。
2299
2300 そのB部長をクビ
2301 にして俺たちを爆弾のそばで働かせ,
2302 浮いた経費で飲む洋酒はそんなにうまいか!」と大声で言
2303 い放った。
2304
2305 Xは,
2306 Wがなおも返事をしないことから,
2307 同行した組合員に「この野郎は俺たちが大
2308 人しく作業をしているうちは動く気はない。
2309
2310 こんなところでワイワイ言っても無駄だ。
2311
2312 聞く気が
2313 ないなら俺たちも作業を放棄せざるを得ない。
2314
2315 B部長が戻り,
2316 怯えて働かずに済むようになるま
2317 で,
2318 組合は断固戦う。
2319
2320 」などと言ってあおり,
2321 工場長室前を立ち去った。
2322
2323 F支部組合員は,
2324 支部
2325 長の指揮によるものである以上本部が了解した方針であるものと誤信しつつも,
2326 Y社の対応やW
2327 の態度に憤りを覚え,
2328 Xに賛同し,
2329 同日午前11時30分頃,
2330 全員がXと共に早退届を提出して
2331 F支工場から立ち去った。
2332
2333
2334 同日から始まった同盟罷業は,
2335 組合本部の仲介により要求事項の実現を見ないまま同月21日
2336 に終了したが,
2337 その間,
2338 F支工場の製造部門の操業が完全に停止したため,
2339 Y社は,
2340 生産予定で
2341 あった全製品について納期を守ることができず,
2342 その後取引先から債務不履行責任を問われるな
2343 どの事態となった。
2344
2345
2346 また,
2347 Xは,
2348 罷業期間中,
2349 世論を味方に付けるため,
2350 F支部名義の情報宣伝活動用アカウント
2351 でインターネット上に「創業家の横暴・人命を無視した搾取の実態」などと題したY社経営陣を
2352 批判する投稿をしたり,
2353 Y社製品の不買を呼び掛ける投稿をしたりした。
2354
2355 これらの投稿の大部分
2356 は,
2357 事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり,
2358 それがインターネット上で注目を
2359 集めた結果,
2360 これに呼応してY社を批判する匿名の投稿が爆発的に増加するとともに,
2361 これらの
2362 投稿の内容や騒動の経過が全国放送のテレビ番組で取り上げられ,
2363 それが更に反響を拡大させ,
2364
2365 本社に抗議の電話が殺到するなどした。
2366
2367
2368
2369
2370 Y社は,
2371 X自身が罷業期間中一切出勤せず,
2372 組合本部の了解も得ずにF支部組合員を扇動し,
2373
2374 罷業させた行為は就業規則第59条第1号,
2375 第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,
2376
2377 た,
2378 Y社を誹謗中傷する,
2379 事実に基づかない内容の投稿を拡散させ,
2380 本社への抗議の電話を殺到
2381 させた行為は同条第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に,
2382 それぞれ該当し,
2383 いずれも情
2384 状は極めて重いとし,
2385 Xに同規則所定の弁明の機会を与えた上で,
2386 同年6月1日,
2387 Xに対して同
2388 年7月3日付けで懲戒解雇する旨を予告し,
2389 同日,
2390 同人を懲戒解雇した。
2391
2392
2393
2394 【Y社就業規則(抜粋)】
2395 第59条
2396
2397 従業員が次のいずれかに該当するときは,
2398 情状に応じ,
2399 訓戒,
2400 けん責,
2401 減給,
2402 出勤停止,
2403
2404
2405 降格,
2406 諭旨退職,
2407 懲戒解雇に処する。
2408
2409
2410
2411
2412 正当な理由なく,
2413 無断で3日以上欠勤し,
2414 出勤の督促に応じなかったとき。
2415
2416
2417
2418 2,
2419
2420
2421 (略)
2422
2423
2424
2425 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
2426
2427
2428
2429
2430
2431 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い,
2432 その犯罪事実が明らかとな
2433
2434 ったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。
2435
2436 )。
2437
2438
2439
2440
2441 勤務怠慢,
2442 素行不良又は会社の秩序又は風紀を乱したとき。
2443
2444
2445
2446
2447
2448 他の従業員の業務を妨害したとき。
2449
2450
2451
2452
2453
2454 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉・信用を傷つけ,
2455 業務に重大
2456
2457 な悪影響を及ぼすような行為があったとき。
2458
2459
2460
2461
2462 その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。
2463
2464
2465
2466 第60条
2467
2468 前条の規定により懲戒を行うときは,
2469 当該従業員に対し,
2470 事前に弁明の機会を与える。
2471
2472
2473
2474 - 25 -
2475
2476 〔設
2477
2478 問〕
2479 Y社がXに対して行った懲戒解雇は有効か。
2480
2481 検討すべき法律上の論点を挙げて,
2482 あなたの見解を
2483
2484 述べなさい。
2485
2486
2487
2488 - 26 -
2489
2490 論文式試験問題集[環
2491
2492 - 27 -
2493
2494
2495
2496 法]
2497
2498 [環
2499
2500
2501
2502 法]
2503
2504 〔第1問〕(配点:50)
2505 A県は,
2506 輸送量の増加に伴う渋滞緩和のため,
2507 A県内に6車線の一般国道(以下「本件国道」と
2508 いう。
2509
2510 )の新設を計画している。
2511
2512 本件国道の新設事業は,
2513 環境影響評価法の第一種事業に該当する
2514 ものであったため,
2515 A県は,
2516 同法に基づく環境影響評価を実施し,
2517 国土交通大臣に対し,
2518 法令上必
2519 要とされる道路法第74条に基づく認可(以下「本件認可」という。
2520
2521 )を申請中である。
2522
2523
2524 A県は,
2525 計画段階環境配慮書において,
2526 道路の位置について,
2527 費用対効果が高いという理由でP
2528 ルートを設定した。
2529
2530 Pルート上のB地区には,
2531 A県の固有種で,
2532 絶滅危惧種の植物Qの稀少な群生
2533 地が存在していたが,
2534 道路の新設中止や別ルート設定の検討はなされなかった。
2535
2536
2537 計画段階環境配慮書に対し,
2538 B地区に居住し,
2539 長年Qの研究・保護活動をしているC,
2540 及びA県
2541 に拠点を置く自然保護団体である特定非営利活動法人Dは,
2542 「輸送量の増加は僅かであるため,
2543
2544 道の新設自体が不要で財政上の無駄である。
2545
2546 」,
2547 「Qを保護するため,
2548 少なくとも別ルートの検討
2549 をすべきである。
2550
2551 」との意見書をA県に提出した。
2552
2553 しかし,
2554 A県は,
2555 環境影響評価準備書において
2556 Qの一部を別の場所に移植する旨を記載するにとどまった。
2557
2558 これに対し,
2559 C及びDは,
2560 「Qの移植
2561 が成功した例はなく,
2562 環境保全措置が不十分である。
2563
2564 」との意見書を提出したが,
2565 環境影響評価書
2566 にはこの点に関するA県の見解は記載されていなかった。
2567
2568 環境影響評価書作成後に,
2569 A県がQの移
2570 植実験を行ったところ,
2571 全株が消滅した。
2572
2573
2574 また,
2575 Pルート上には密集市街地のE地区も含まれており,
2576 E地区の住民Fらは,
2577 計画段階環境
2578 配慮書,
2579 環境影響評価方法書及び環境影響評価準備書について,
2580 「E地区の近くにはG社の石炭火
2581 力発電所があり,
2582 同発電所による環境負荷との複合影響を検討すべきである。
2583
2584 本件国道の供用によ
2585 り,
2586 環境基準を超える浮遊粒子状物質(SPM)及び騒音による健康被害や生活環境被害が生じる
2587 蓋然性が高く,
2588 少なくともE地区についてはトンネル化し,
2589 換気所にSPM除去装置を設置すべき
2590 である。
2591
2592 」との意見書をA県に提出した。
2593
2594 環境影響評価準備書及び環境影響評価書には「本件事業
2595 により環境基準を超えるSPMや騒音が発生するおそれはない。
2596
2597 」と記載されていたが,
2598 A県に対
2599 するFらの情報公開請求により,
2600 SPMに関する予測データの一部が改ざんされていたことが明ら
2601 かになった。
2602
2603
2604 〔設問1〕
2605
2606
2607 C,
2608 D及びFらは,
2609 前記の環境影響評価手続には瑕疵があり,
2610 また,
2611 環境影響評価法及び
2612 【資料】に照らし,
2613 国土交通大臣が本件認可をすることは違法であると考えている。
2614
2615 本件認可
2616 が違法であることの論拠としては,
2617 どのようなことが考えられるか,
2618 説明しなさい。
2619
2620
2621
2622
2623
2624 C及びDは,
2625 本件国道の新設を阻止するために,
2626 どのような行政訴訟を提起することが考え
2627 られるか。
2628
2629 の検討も踏まえて論じなさい。
2630
2631
2632
2633 〔設問2〕
2634 環境大臣は,
2635 環境影響評価法の下で,
2636 2015年以来,
2637 複数の石炭火力発電所の設置に関して
2638 意見表明をした。
2639
2640 その内容は,
2641 事業者の対応は国の地球温暖化対策の2030年度目標と整合し
2642 ないため「現段階で是認できない。
2643
2644 」とするものであった。
2645
2646 このことを重要な契機として,
2647 20
2648 16年にエネルギー関連の法律の仕組みが,
2649 温暖化対策に資するように改正された。
2650
2651 この改正経
2652 緯には,
2653 環境影響評価法の2011年改正が相当程度影響したといわれる。
2654
2655 環境影響評価法のど
2656 の点の改正か,
2657 同法の規定を挙げた上で,
2658 改正の趣旨と効果を述べなさい。
2659
2660
2661 〔設問3〕
2662 C,
2663 D及びFらは,
2664 生物多様性への影響や複数の汚染源による複合影響について適正な環境配
2665 - 28 -
2666
2667 慮を行うためには,
2668 現在の計画段階環境配慮書制度のみでは限界があり,
2669 環境基本法第19条を
2670 具体化するために新たな制度の導入が必要であると感じている。
2671
2672 ここでいう現行制度の限界及び
2673 新たに導入すべき制度として,
2674 具体的にどのようなことが考えられるか,
2675 説明しなさい。
2676
2677
2678 〔設問4〕
2679 本件国道が設置された後,
2680 E地区における大気中のSPMの濃度は環境基準を超え,
2681 その後F
2682 らは呼吸器系疾患に悩まされるようになった。
2683
2684 これについては,
2685 本件国道に起因するSPMとG
2686 社の石炭火力発電所から排出されてきたSPMその他の大気汚染物質との競合の可能性も指摘さ
2687 れている。
2688
2689 Fらは,
2690 @誰に対して,
2691 いかなる規定に基づいて損害賠償請求ができるか。
2692
2693 また,
2694 A
2695 請求する場合,
2696 いかなる点を主張立証しなければならないか,
2697 説明しなさい。
2698
2699
2700 なお,
2701 本件国道の道路管理者は,
2702 A県とする。
2703
2704 また,
2705 国に対する請求は考慮しなくてよい。
2706
2707
2708
2709 - 29 -
2710
2711 【資
2712
2713
2714 料】
2715 環境影響評価法施行令(平成9年政令第346号)(抜粋)
2716
2717 (第一種事業)
2718 第1条
2719
2720 環境影響評価法(以下「法」という。
2721
2722 )第2条第2項の政令で定める事業は,
2723 別表第一の第
2724
2725 一欄に掲げる事業の種類ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる要件に該当する一の事業とする。
2726
2727
2728 (以下,
2729 略)
2730 (免許等に係る法律の規定)
2731 第3条
2732
2733 法第2条第2項第2号イの法律の規定であって政令で定めるものは,
2734 別表第一の第一欄に掲
2735
2736 げる事業の種類(第二欄及び第三欄に掲げる事業の種類の細分を含む。
2737
2738 )ごとにそれぞれ同表の第
2739 四欄に掲げるとおりとする。
2740
2741
2742 (環境の保全の配慮についての審査等に係る法律の規定)
2743 第19条
2744
2745 法第33条第2項各号の法律の規定であって政令で定めるものは,
2746 別表第四に掲げるとお
2747
2748 りとする。
2749
2750
2751 別表第一(第1条,
2752 第3条,
2753 第7条関係)(抜粋)
2754 第一欄
2755
2756
2757 事業の種類
2758 法第2条第2項第1号イに掲げる事業の種類
2759
2760 第二欄
2761
2762
2763 第一種事業の要件
2764 道路法(昭和27年法律第180号)第5条第1項に規定する道路(首都高速道路等である
2765
2766 ものを除く。
2767
2768 以下「一般国道」という。
2769
2770 )の新設の事業(車線の数が4以上であり,
2771 かつ,
2772
2773 さが10キロメートル以上である道路を設けるものに限る。
2774
2775
2776 第四欄
2777
2778 法律の規定
2779
2780 事業主体が国土交通大臣以外の者である場合につき,
2781 道路法第74条(以下,
2782 略)
2783 別表第四(第19条関係)(抜粋)
2784
2785
2786 法第33条第2項第3号の法律の規定であって政令で定めるもの
2787 道路法第74条(前後,
2788 略)
2789
2790
2791
2792 道路事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,
2793 予測及び評価を合理的に行うた
2794 めの手法を選定するための指針,
2795 環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(平成10
2796 年建設省令第10号)(抜粋)
2797
2798 (位置等に関する複数案の設定)
2799 第3条
2800
2801 第一種道路事業を実施しようとする者は,
2802 第一種道路事業に係る計画段階配慮事項について
2803
2804 の検討に当たっては,
2805 第一種道路事業が実施されるべき区域の位置又は第一種道路事業の規模に関
2806 する複数の案(以下「位置等に関する複数案」という。
2807
2808 )を適切に設定するものとし,
2809 当該複数の
2810 案を設定しない場合は,
2811 その理由を明らかにするものとする。
2812
2813
2814
2815
2816 第一種道路事業を実施しようとする者は,
2817 前項の規定による位置等に関する複数案の設定に当た
2818 っては,
2819 既存の道路を活用する場合その他第一種道路事業を実施しないこととする案を含めた検討
2820 を行うことが合理的であると認められる場合には,
2821 当該案を含めるよう努めるものとする。
2822
2823
2824
2825
2826
2827 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋)
2828
2829 (国土交通大臣の認可)
2830 第74条
2831
2832 指定区間外の国道の道路管理者は,
2833 当該国道を新設し,
2834 又は改築しようとする場合におい
2835
2836 ては,
2837 国土交通省令で定めるところにより,
2838 国土交通大臣の認可を受けなければならない。
2839
2840 (以下,
2841
2842 略)
2843
2844 - 30 -
2845
2846
2847
2848 道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)(抜粋)
2849
2850 (指定区間外の国道の新設又は改築の認可)
2851 第7条
2852
2853 指定区間外の国道の道路管理者は,
2854 法第74条の規定により国道の新設又は改築について認
2855
2856 可を受けようとする場合においては,
2857 別記様式第九の申請書を地方整備局長又は北海道開発局長に
2858 提出しなければならない。
2859
2860
2861
2862
2863 前項の申請書には,
2864 次に掲げる書類を添付しなければならない。
2865
2866
2867
2868
2869 工事計画書
2870
2871
2872
2873 工事費及び財源調書
2874
2875
2876
2877 平面図,
2878 縦断図,
2879 横断定規図その他必要な図面
2880
2881 - 31 -
2882
2883 〔第2問〕(配点:50)
2884 建設業を営み,
2885 P県知事から,
2886 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。
2887
2888
2889 に基づく産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可を受けているA社は,
2890 総合建設業を営むB社か
2891 ら,
2892 B社が元請業者(同法第21条の3第1項にいう「元請業者」である。
2893
2894 )となる甲病院新築工
2895 事のうち,
2896 下請負人として,
2897 基礎工事の施工を受注した。
2898
2899 A社は,
2900 同工事において地下を掘削した
2901 ところ,
2902 予定地に従前建っていた建物の地中梁が残っていることを発見した。
2903
2904 A社は,
2905 B社との間
2906 で,
2907 別途,
2908 地中梁を破砕して解体する処理について,
2909 書面による委託契約を締結し,
2910 その際,
2911 B社
2912 は,
2913 この処理によって発生するコンクリート破片の標準的な処理費用の3分の1を負担することと
2914 された。
2915
2916
2917 A社は,
2918 上記により発生したコンクリート破片の処理を,
2919 P県知事から,
2920 廃掃法に基づく産業廃
2921 棄物の収集運搬業及び処分業の許可を受けているC社に対し,
2922 書面により再委託し,
2923 その費用を支
2924 払った(この再委託は,
2925 同法第14条第16項ただし書の適用により,
2926 同項本文が規定する再委託
2927 の禁止に抵触しないものとする。
2928
2929 )。
2930
2931 C社は,
2932 上記コンクリート破片を,
2933 甲病院新築工事現場から
2934 搬出し,
2935 乙地区の住宅地に接するC社所有の山林に運搬して,
2936 何らの囲いをせず,
2937 産業廃棄物処理
2938 基準に違反する状態で野積みした。
2939
2940 その結果,
2941 野積みされた上記コンクリート破片が乙地区の住宅
2942 地へ崩れる危険が発生した。
2943
2944 その後,
2945 C社の経営状況は悪化した。
2946
2947
2948 なお,
2949 上記の経緯において,
2950 産業廃棄物管理票は,
2951 適法に作成・交付されていたこととする。
2952
2953
2954 本件設例に表れた事実関係及び【資料】に基づき,
2955 以下の設問に答えなさい。
2956
2957 なお,
2958 設問はいず
2959 れも独立したものである。
2960
2961
2962 〔設問1〕
2963
2964
2965 本件設例において,
2966 P県知事は,
2967 C社に対する産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可の
2968 取消しをしない場合,
2969 廃掃法上,
2970 @B社及びC社に対し,
2971 どのような理由で,
2972 どのような措置
2973 を講ずることができるか,
2974 A上記@の措置を講ずる前に,
2975 乙地区の住宅地へ前記コンクリート
2976 破片の小規模な崩落が生じ始め,
2977 その拡大の兆候が現れていた場合に,
2978 どのような措置が考え
2979 られるか,
2980 それぞれ説明しなさい。
2981
2982
2983 なお,
2984 上記@及びAの検討に当たっては,
2985 廃掃法第21条の3第1項によりB社のみを「事
2986 業者」とすればよく,
2987 同条第2項ないし第4項の適用については,
2988 検討を要しない。
2989
2990
2991
2992
2993
2994 本件設例において,
2995 P県知事は,
2996 C社に対する産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可の
2997 取消しをした場合,
2998 その後,
2999 廃掃法上,
3000 C社に対し,
3001 どのような理由で,
3002 どのような措置を講
3003 ずることができるか,
3004 説明しなさい。
3005
3006
3007
3008 〔設問2〕
3009 乙地区に土地建物を所有し,
3010 そこに以前から居住するDは,
3011 C社及びP県に対して,
3012 どのよう
3013 な法的請求が可能か,
3014 論じなさい。
3015
3016
3017
3018 - 32 -
3019
3020 【資
3021
3022
3023 料】
3024 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)(抜粋)
3025
3026 (産業廃棄物)
3027 第2条
3028
3029 法第2条第4項第1号の政令で定める廃棄物は,
3030 次のとおりとする。
3031
3032
3033
3034 一〜八
3035
3036
3037 (略)
3038
3039 工作物の新築,
3040 改築又は除去に伴つて生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物
3041 (以下,
3042 略)
3043
3044 - 33 -
3045
3046 - 34 -
3047
3048 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)]
3049
3050 - 35 -
3051
3052 [国際関係法(公法系)]
3053 〔第1問〕(配点:50)
3054 A国とB国は,
3055 南米大陸に所在して隣り合う2つの国である。
3056
3057 A国の一部を構成し,
3058 B国との国
3059 境に接して位置するP県では,
3060 A国全体の人口の約8割を占めるα民族とは異なるβ民族がP県人
3061 口の約9割を占めていることから,
3062 β民族が中心となって自治政府を形成しP県の統治を約50年
3063 にわたり行っていた。
3064
3065 その間,
3066 P県ではA国にとって主要な輸出品である石油及び天然ガスが産出
3067 されてきたが,
3068 その生産量,
3069 石油製品の卸価格及び天然ガスの卸価格等はP県自治政府ではなくA
3070 国政府が決定している。
3071
3072 β民族の多くは,
3073 これら天然資源の産出によるA国財政への貢献にもかか
3074 わらず,
3075 P県自治政府に配分される予算については人口一人当たりの額がA国内の他の県と比較す
3076 ると半分に満たないことに不満を持ち,
3077 A国政府にP県内の資源が搾取されていると考えた住民の
3078 一部は「P国独立運動」を立ち上げ,
3079 「P国」の独立に向けて武装闘争を行っていた。
3080
3081 こうした不
3082 満を背景に,
3083 P県自治政府は,
3084 予算配分の不平等が民族差別に起因するとして,
3085 A国政府に再三再
3086 四是正を求めてきた。
3087
3088 さらにP県自治政府は,
3089 A国全体の人口の約2割を占めるβ民族の意思を国
3090 政レベルに反映させるため,
3091 A国の議会においてβ民族が恒常的にかつ公正に代表されるべきこと
3092 も主張してきた。
3093
3094 また,
3095 P県自治政府は,
3096 A国の議会選挙ではこれまで少数派のβ民族の議員が当
3097 選することがほとんどなかった現状を改め,
3098 具体的な改革案として,
3099 同議会の議員定員の2割に当
3100 たる20名をβ民族の議員枠として確保するようA国政府に申し入れてきたのである。
3101
3102
3103 しかし,
3104 こうした要求や申入れは,
3105 民族差別の存在自体を否定するA国政府に聴き入れられるこ
3106 とはなく,
3107 状況が改善されることもなかった。
3108
3109 さらにA国政府が「P国独立運動」の指導者を逮捕
3110 する行動に出たところ,
3111 P県の主要都市はA国政府を批判する群衆で騒乱状態となったため,
3112 A国
3113 政府は,
3114 P県一帯に非常事態宣言を発してP県の自治を終了させるとともに,
3115 治安部隊によりデモ
3116 に参加する民衆を徹底的に取り締まった。
3117
3118 このA国政府の弾圧は1年以上続き,
3119 P県ではβ民族を
3120 中心に200名以上の死傷者が生じたほか,
3121 身柄を拘束された者の数は数千名以上に上った。
3122
3123 こう
3124 した状況を前にして,
3125 P県自治政府は,
3126 A国からの独立か,
3127 それともA国に残るか,
3128 そのいずれを
3129 選択するかについて住民投票を行うことに決め,
3130 2015年3月にこれを実施した。
3131
3132 その結果,
3133
3134 9割のP県住民がA国からの独立に賛成したことから,
3135 投票結果が発表されて約1か月後の201
3136 5年5月1日に,
3137 P県自治政府は「P国」としてA国からの独立を宣言した。
3138
3139
3140 A国政府はP県による独立宣言に対して嫌悪感を示し,
3141 「P国」を国家として承認することなく,
3142
3143 「P県は依然としてA国の領域の一部である。
3144
3145 」との声明を公表した。
3146
3147 他方,
3148 B国は,
3149 「P国」が
3150 独立を宣言すると,
3151 その2週間後に,
3152 「P国」との間で互いの首都に大使館を設置し外交使節を派
3153 遣した。
3154
3155 これに対して,
3156 A国は,
3157 「今回のB国による行為はA国への内政干渉である。
3158
3159 」としてB
3160 国を非難した。
3161
3162
3163 「P国」の独立宣言でA国内が騒然とする中,
3164 A国籍の甲がA国警察の追及を避けるために在A
3165 国のB国大使館に逃げ込んだ。
3166
3167 甲は,
3168 「P国独立運動」の指導者の一人で,
3169 A国内においてA国政
3170 府の施設やA国政府を支援する企業の建物を爆破しA国政府要人を暗殺するなどの武装闘争に従事
3171 していた。
3172
3173 A国は,
3174 甲につきA国刑法上の殺人罪等の容疑で指名手配をしており,
3175 甲が在A国のB
3176 国大使館に逃げ込んだ情報をつかんで,
3177 B国に甲の引渡しを正式に請求した。
3178
3179 ところがB国はこの
3180 請求に何ら応答せず,
3181 また甲をB国大使館から強制的に退去させることもなかった。
3182
3183 このため,
3184
3185 国は,
3186 B国大使館の周囲でそれまで行っていた警備活動を放棄するとともに,
3187 A国の民間警備会社
3188 乙に対して,
3189 その職員5名をB国大使館に差し向けるよう指示した。
3190
3191 これら職員は,
3192 在A国のB国
3193 大使の許可なくB国大使館内に侵入して甲の身柄を確保することを試みたが,
3194 その試みはB国大使
3195 館の警備職員によって阻止された。
3196
3197 その後,
3198 B国は,
3199 この事件がA国の行為に起因するものである
3200 としてA国に対して外交上の抗議を行ったが,
3201 A国は問題のB国大使館への侵入行為がA国による
3202 行為であることを否定した。
3203
3204
3205 - 36 -
3206
3207 南米諸国であるA国及びB国は,
3208 外交関係に関するウィーン条約について,
3209 いずれもその効力発
3210 生日(1964年4月24日)から当事国となっているが,
3211 犯罪人引渡条約は締結していない。
3212
3213
3214 以上の事実を基に,
3215 以下の設問に答えなさい。
3216
3217
3218 〔設
3219
3220 問〕
3221
3222 1.B国の行為は内政干渉だとして非難するA国に対して,
3223 これに反論するB国の立場とその国
3224 際法上の根拠について論じなさい。
3225
3226
3227 2.B国は,
3228 甲を在A国のB国大使館に滞在させたままにしておくことについて国際法上の義務
3229 に違反せず,
3230 またA国に甲を引き渡す国際法上の義務を負わないという立場から,
3231 これらの主
3232 張を正当化するためにいかなる議論が可能かについて論じなさい。
3233
3234
3235 3.民間警備会社乙の職員による在A国のB国大使館への侵入行為について,
3236 B国はA国の国家
3237 責任を追及するためにいかなる主張が可能かについて論じなさい。
3238
3239
3240
3241 - 37 -
3242
3243 〔第2問〕(配点:50)
3244 A国とB国は,
3245 隣接する国家である。
3246
3247 両国は共に太平洋に面した海岸線を有しており,
3248 両国の国
3249 境を成すサール川が太平洋に注いでいる。
3250
3251 植民地統治時代,
3252 A国は「A行政区」,
3253 B国は「B行政
3254 区」として,
3255 C国により統治されていた。
3256
3257 A国は1967年,
3258 B国は1978年に独立を達成した。
3259
3260
3261 植民地統治時代のC国植民地法令によれば,
3262 「A行政区」と「B行政区」の境界はサール川の航
3263 行可能な水路の中間線であるとされていた。
3264
3265 もっとも,
3266 サール川には多くの中洲があり,
3267 2つの行
3268 政区の境界は明確ではなかった。
3269
3270 特にサール川が太平洋に注ぐ地点に位置する,
3271 約3.5平方キロ
3272 メートルの広さのサールーガ島周辺は,
3273 植民地統治時代には,
3274 「A行政区」側と「B行政区」側の
3275 両方の水路が航行可能であり,
3276 両行政区の境界がサールーガ島のどちらの側にあるのかは明確では
3277 なく,
3278 C国植民地法令にも明文の規定がなかった。
3279
3280 また,
3281 同法令には,
3282 サールーガ島の帰属につい
3283 ても,
3284 明確な規定が置かれていなかった。
3285
3286 ただし,
3287 現在のB国に当たる河岸の住民は,
3288 伝統的にサ
3289 ールーガ島を放牧と農業に利用しており,
3290 この住民たちのサールーガ島での活動に対する課税権は,
3291
3292 植民地統治時代,
3293 「B行政区」の当局が管轄し,
3294 B国の独立後は,
3295 B国がこれを行使するようにな
3296 った。
3297
3298
3299 A国が独立した際,
3300 A国と「B行政区」の境界は,
3301 A国とC国の間で決定されたが,
3302 サールーガ
3303 島の帰属とその周辺の国境については,
3304 「B行政区」が国家として独立を達成した後に,
3305 当該国家
3306 とA国との間で決定されることになった。
3307
3308 1980年,
3309 A国とB国は,
3310 サールーガ島の帰属と周辺
3311 の国境の画定のための交渉を開始したが,
3312 交渉は難航した。
3313
3314 なお,
3315 両国がこの交渉を開始した時点
3316 では,
3317 サールーガ島のA国側の水路が浅くなり,
3318 航行に適さなくなっていた。
3319
3320
3321 1980年代半ば以降,
3322 A国でサール川及びサールーガ島の希少な動植物の生態系を中心とする
3323 環境の保護への関心が高まった。
3324
3325 1987年,
3326 A国は軍隊と警察を派遣し,
3327 サールーガ島への人の
3328 立入りを厳格に制限するようになり,
3329 B国の国民はここでの放牧や農業ができなくなった。
3330
3331
3332 1970年代に,
3333 国際的な科学者の団体がA国と「B行政区」の沖合の大陸棚の調査を行い,
3334
3335 の海域の海底は,
3336 地質的に1つの大陸棚を構成しており,
3337 この大陸棚に石油・天然ガス資源が賦存
3338 している可能性が高いとの報告書を提出した。
3339
3340 1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下
3341 「国連海洋法条約」という。
3342
3343 )の採択後,
3344 A国は1992年,
3345 B国は1993年に,
3346 それぞれ同条
3347 約を締結し,
3348 領海,
3349 排他的経済水域,
3350 及び大陸棚に関する国内法を制定した。
3351
3352 A国法は,
3353 サール川
3354 のB国側の水路の中間点から沖合に向かって,
3355 これらの海域を設定しているのに対し,
3356 B国法は,
3357
3358 サール川のA国側の水路の中間点から沖合に向かって,
3359 これらの海域を設定している。
3360
3361
3362 2005年12月,
3363 A国とB国は,
3364 サールーガ島の帰属と同島周辺の国境の画定に関する紛争を
3365 国際司法裁判所に付託することについて合意し,
3366 特別合意の締結のための交渉を開始した。
3367
3368 また,
3369
3370 サールーガ島の帰属と同島周辺の国境に関する紛争の最終的な解決まで,
3371 国連海洋法条約第74条
3372 第3項及び第83条第3項に基づき,
3373 サール川の沖合の海域の石油・天然ガス資源の探査及び開発
3374 を推進するための暫定的な取極を締結することに,
3375 原則として合意した。
3376
3377 しかし,
3378 特別合意の締結
3379 のための両国間の交渉は難航し,
3380 締結には至っていない。
3381
3382 また,
3383 暫定的取極の具体的な内容と実施
3384 に関する交渉も進展していない。
3385
3386
3387 2010年5月,
3388 B国は,
3389 サールーガ島沖合の係争海域を含む,
3390 B国が自国の大陸棚であると主
3391 張する海域の石油・天然ガス資源の探査を開始した。
3392
3393 その結果,
3394 A国が主張する境界線よりも更に
3395 1キロメートルB国側に入った海域で石油・天然ガス資源が発見され,
3396 2016年8月にB国の国
3397 有企業が開発を開始した。
3398
3399 A国は,
3400 B国による探査及び開発の活動について,
3401 暫定的取極の趣旨に
3402 反すると外交上の抗議を行った。
3403
3404
3405 2017年9月,
3406 A国は,
3407 サールーガ島沖合の係争海域を含む,
3408 A国が自国の大陸棚であると主
3409 張している海域における石油・天然ガス資源の探査及び開発に関する認可を甲社に与え,
3410 同社が海
3411 洋調査船X号(A国船籍)による探査を開始した。
3412
3413 2018年9月,
3414 サールーガ島沖合のA国とB
3415 国との間の係争海域において探査を実施していたX号に対し,
3416 B国の沿岸警備隊が,
3417 B国の大陸棚
3418 - 38 -
3419
3420 の資源の探査活動を即時に停止し,
3421 当該海域から立ち去るよう命令した。
3422
3423 X号は,
3424 資源探査に関し
3425 てA国から認可を受けていると返信し,
3426 探査を続けたところ,
3427 B国の沿岸警備隊の船舶から発砲を
3428 受けた。
3429
3430 そのうちの2発がX号に当たり,
3431 負傷者が出たことから,
3432 X号はこの発砲の後,
3433 A国の港
3434 湾に避難した。
3435
3436 B国は,
3437 この発砲は威嚇射撃であったとの声明を出した。
3438
3439 A国はB国に対し,
3440 この
3441 発砲事件について外交上の抗議を行った。
3442
3443 また,
3444 A国は紛争の解決のための交渉を速やかに開始し,
3445
3446 交渉により紛争が解決できない場合,
3447 第三者機関にこれを付託すべきであるとしたが,
3448 B国は協議
3449 に応じていない。
3450
3451 これを受けて,
3452 A国は国連海洋法条約第15部に基づき,
3453 附属書Zによって組織
3454 される仲裁裁判所に,
3455 この紛争を付託する旨の通告をB国に送付した。
3456
3457
3458 なお,
3459 A国とB国は,
3460 国連海洋法条約第287条第1項の下での紛争解決のための手段を選択す
3461 る宣言,
3462 及び第298条第1項に基づく宣言(第二節の規定の適用からの選択的除外に関する宣
3463 言)を行っていない。
3464
3465
3466 以上の事実を基に,
3467 以下の設問に答えなさい。
3468
3469
3470 〔設
3471
3472 問〕
3473
3474 1.B国がA国に対し,
3475 サールーガ島からの軍隊と警察の撤退を請求するために,
3476 国際法上どの
3477 ような主張が可能かを論じなさい。
3478
3479
3480 2.B国が,
3481 2010年5月からの石油・天然ガス資源の探査,
3482 及び2016年8月からの開発
3483 を正当化するために,
3484 国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。
3485
3486
3487 3.A国が,
3488 国連海洋法条約附属書Zによって組織される仲裁裁判所にB国の沿岸警備隊による
3489 発砲事件に関する紛争を付託することが可能か,
3490 及び,
3491 これが可能な場合,
3492 沿岸警備隊の発砲
3493 の違法性について,
3494 国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。
3495
3496
3497
3498 - 39 -
3499
3500 - 40 -
3501
3502 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]
3503
3504 - 41 -
3505
3506 [国際関係法(私法系)]
3507 〔第1問〕(配点:50)
3508 甲国籍のA男は甲国において甲国籍のB女と適法に婚姻し,
3509 甲国で婚姻生活を営んでいたが,
3510
3511 がてABは別居し,
3512 婚姻は事実上破綻状態にあった。
3513
3514 AはBを甲国に残したまま10年前(201
3515 1年)に仕事のため単身で来日し,
3516 以後現在まで日本に居住している。
3517
3518 Aは,
3519 6年前(2015
3520 年)に,
3521 出生以来,
3522 日本に居住する日本及び甲国の重国籍者であるC女と日本で知り合った。
3523
3524
3525 以上の事実を前提として,
3526 以下の設問に答えなさい。
3527
3528 なお,
3529 各問は独立した問いであり,
3530 全ての
3531 問いにおいて,
3532 反致については検討を要しない。
3533
3534
3535 〔設問1〕
3536 AとC(現時点まで,
3537 Cは国籍法第14条の国籍の選択をしていないものとする。
3538
3539 )は,
3540 5年
3541 前(2016年),
3542 日本の戸籍管掌者に婚姻の届出をした。
3543
3544 その際,
3545 Aは,
3546 独身であるかのよう
3547 に装うため,
3548 婚姻届に添付する書類として,
3549 甲国に妻のいることの記載がない偽造の甲国官憲作
3550 成名義の書類を使用した。
3551
3552 婚姻届が受理された後,
3553 AとCは現在までずっと日本で婚姻生活を営
3554 んでおり,
3555 2017年には子D(日本及び甲国の重国籍)が生まれた。
3556
3557 なお,
3558 日本の国際私法の
3559 観点からみて,
3560 AB間の婚姻は現在でも有効に成立していることを前提とする。
3561
3562
3563 〔小問1〕
3564 AC間の婚姻の事実を知ったBが2021年にAC間の婚姻無効の訴えを日本の裁判所に提
3565 起した。
3566
3567 この訴えについて,
3568 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論
3569 じなさい。
3570
3571
3572 〔小問2〕
3573 仮にBによる婚姻無効の訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるものとし
3574 た場合に,
3575 Bによる婚姻無効の請求は認められるか。
3576
3577 甲国民法が以下に記すような規定を定め
3578 ていることに加え,
3579 甲国民法の規定は配偶者のある甲国人が重ねて婚姻することを禁じている
3580 のみならず,
3581 配偶者のいない甲国人が既婚者と婚姻することをも禁じているものとして,
3582 準拠
3583 法の決定過程を明らかにしつつ,
3584 論じなさい。
3585
3586
3587 【甲国民法】
3588 @
3589
3590 配偶者のある者は,
3591 重ねて婚姻することができない。
3592
3593
3594
3595 A
3596
3597 配偶者のある者が重ねてした婚姻は無効とする。
3598
3599
3600
3601 〔小問3〕
3602 Dの出生に伴って,
3603 AとCは日本の戸籍管掌者に嫡出である子としての出生の届出をし,
3604
3605 の出生届は受理された。
3606
3607 仮にBによる婚姻無効の請求を認める判決が確定した場合に,
3608 AC間
3609 の婚姻が無効となったことによって,
3610 Dは嫡出である子として扱われるか論じなさい。
3611
3612 なお,
3613
3614 甲国民法は以下に記すような規定を定めている。
3615
3616
3617 【甲国民法】
3618 B
3619
3620 父母の婚姻について,
3621 その無効の判決が確定する前に出生した子は,
3622 嫡出である子とみなす。
3623
3624
3625
3626 〔設問2〕
3627 2015年2月にAとBは甲国で適法に離婚した。
3628
3629 AB間の離婚から1年が経過した2016
3630 年2月に,
3631 AとCは,
3632 甲国民法の規定に従って,
3633 日本に駐在する甲国の領事の面前で婚姻を挙行
3634 した(この時点において,
3635 Cは国籍法第14条の規定に基づいて,
3636 日本の国籍を選択していたも
3637 のとする。
3638
3639 )。
3640
3641 この婚姻は日本において有効に成立するか論じなさい。
3642
3643 なお,
3644 日本の国際私法の
3645 観点からみて,
3646 AB間の離婚は有効に成立していること,
3647 また,
3648 AC間の婚姻の実質的成立要件
3649 は満たされていることを前提とする。
3650
3651
3652 - 42 -
3653
3654 〔第2問〕(配点:50)
3655 A社は,
3656 システムの開発及び販売を業とする甲国の株式会社である。
3657
3658 A社は,
3659 日本の株式会社J
3660 社と甲国の株式会社K社が10年前に共同で設立したものであり,
3661 甲国以外に資産や営業所を有し
3662 ていない。
3663
3664
3665 Bは,
3666 J社の従業員であったが,
3667 A社の設立に際し,
3668 J社を退職してA社の取締役に就任した。
3669
3670
3671 Bは,
3672 A社の取締役に就任する際に日本から甲国に住所を移した。
3673
3674 Bは,
3675 甲国以外に資産を有して
3676 いない。
3677
3678
3679 G庁は,
3680 乙国の政府機関である。
3681
3682 乙国は,
3683 丙国を挟んで甲国と地続きの関係にある。
3684
3685 G庁は,
3686
3687 社の大口取引先であり,
3688 A社におけるG庁の担当者はBである。
3689
3690 Bは,
3691 頻繁にG庁を訪問している
3692 が,
3693 その際には,
3694 A社が保有する自動車(以下「本件自動車」という。
3695
3696 )を自ら運転し,
3697 甲国から
3698 丙国を通過して乙国に至る国際高速道路を利用するのが通常であった。
3699
3700
3701 Xは,
3702 Bの大学時代の友人であり,
3703 出生以来,
3704 日本に住んでいる。
3705
3706 Xは,
3707 かねてより乙国に関心
3708 があり,
3709 その観光についてBに相談したところ,
3710 Bは,
3711 その翌月にA社製の最新型システム管理用
3712 機械(以下「本件機械」という。
3713
3714 )をG庁に納入することになっていたことから,
3715 本件機械をG庁
3716 に納入する際に本件自動車に同乗してはどうかとXに提案した。
3717
3718 この提案を受け,
3719 Xは,
3720 甲国に渡
3721 航し,
3722 Bが運転する本件自動車に同乗し,
3723 B宅から乙国に向けて出発した。
3724
3725 ところが,
3726 Bが運転す
3727 る本件自動車は,
3728 国際高速道路を進行中,
3729 丙国の領域内に入った地点でカーブを曲がり切れずに道
3730 路側壁に衝突した(以下「本件事故」という。
3731
3732 )。
3733
3734 本件事故により,
3735 Bは軽傷で済んだものの,
3736
3737 は重傷を負い,
3738 本件自動車に積載していた本件機械も完全に損壊してしまった。
3739
3740 Xは,
3741 丙国内の救
3742 急病院で緊急手術を受けた後,
3743 医療環境の整った日本での治療を希望したため,
3744 日本に帰国して病
3745 院での入院治療を継続した。
3746
3747
3748 Bは,
3749 Xに対し,
3750 丙国内での緊急手術の費用等については,
3751 その支払を任意で行ったが,
3752 日本の
3753 病院での入院治療費については,
3754 Xが自ら日本での入院治療を選択したことを理由に,
3755 その支払を
3756 拒んでいる。
3757
3758
3759 以上の事実を前提として,
3760 以下の設問に答えなさい。
3761
3762 なお,
3763 各問は独立した問いである。
3764
3765
3766 〔設問1〕
3767 Xは,
3768 本件事故の原因がBの過失によるものであると主張し,
3769 Bに対し,
3770 本件事故に基づく損
3771 害賠償として,
3772 日本の病院での入院や治療に要した費用の支払を求める訴え(以下,
3773 本設問にお
3774 いて「本件訴え」という。
3775
3776 )を日本の裁判所に提起した。
3777
3778
3779 〔小問1〕
3780 本件訴えについて,
3781 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさ
3782 い。
3783
3784 ただし,
3785 応訴による国際裁判管轄権について論じる必要はない。
3786
3787
3788 〔小問2〕
3789 Bは,
3790 本件訴えに対して応訴し,
3791 日本の裁判所において,
3792 本件事故はBの過失によるもので
3793 はないと主張して争っている。
3794
3795 本件訴えにおいて,
3796 XのBに対する損害賠償請求が認められる
3797 か否かについて,
3798 日本の裁判所は,
3799 いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
3800
3801 なお,
3802
3803 日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。
3804
3805
3806 〔設問2〕
3807 本件自動車は,
3808 日本国内に本店を有する日本法人C社が日本国内の工場で製造したものであっ
3809 た。
3810
3811
3812 A社は,
3813 本件事故の原因が本件自動車の欠陥にあったと主張し,
3814 C社に対し,
3815 本件事故に基づ
3816 く損害賠償として,
3817 G庁への本件機械の売却代金に相当する金額の支払を求める訴えを日本の裁
3818 判所に提起した。
3819
3820
3821 - 43 -
3822
3823 〔小問1〕及び〔小問2〕のそれぞれの場合において,
3824 A社のC社に対する損害賠償請求が認
3825 められるか否かについて,
3826 日本の裁判所は,
3827 いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
3828
3829
3830 なお,
3831 日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。
3832
3833
3834 〔小問1〕
3835 A社は,
3836 甲国の自動車販売会社D社から本件自動車を購入し,
3837 甲国内でその引渡しを受けて
3838 いた。
3839
3840 C社は,
3841 自社の自動車を甲国内で販売するための契約をD社との間で締結しており,
3842
3843 件自動車は,
3844 この契約に基づき,
3845 C社からD社に対して甲国内で引き渡されたものであった。
3846
3847
3848 〔小問2〕
3849 甲国は,
3850 甲国内で新車として販売される自動車が満たすべき排気ガス等の環境基準について,
3851
3852 周辺国よりも厳しい基準を設定していたところ,
3853 C社は,
3854 甲国の環境基準を満たす自動車を製
3855 造しておらず,
3856 甲国市場には販路を有していなかった。
3857
3858
3859 C社は,
3860 乙国の環境基準を満たす自動車を製造しており,
3861 自社の自動車を乙国内で販売する
3862 ための契約を乙国の自動車販売会社E社との間で締結していたところ,
3863 本件自動車は,
3864 この契
3865 約に基づき,
3866 C社からE社に対して乙国内で引き渡され,
3867 これをE社が新車として乙国居住者
3868 Fに販売したものであった。
3869
3870 Fは,
3871 その後,
3872 本件自動車と共に甲国に転居し,
3873 計3年ほど甲国
3874 内で本件自動車を使用した後,
3875 本件自動車を中古車として甲国の自動車販売会社D社に売却し,
3876
3877 甲国内で本件自動車をD社に引き渡していた。
3878
3879
3880 その後,
3881 A社は,
3882 D社から本件自動車を購入し,
3883 甲国内でその引渡しを受けていた。
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