1 論文式試験問題集[公法系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [公法系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 1.20××年,
8 各地の大規模なデモにおいて,
9 いくつかの団体の構成員が,
10 覆面や仮面で顔を隠
11 して参加するようになった。
12
13 これらの団体は,
14 それぞれ異なる政治的主張を掲げ,
15 組織的な活動
16 を行っていた。
17
18 これらの団体の構成員は,
19 集団行進(集団示威運動を含む。
20
21 )に際して,
22 顔を隠
23 すだけでなく,
24 団体の主張が書かれた大きな旗を振り回す,
25 抗議の対象となるものが書かれた紙
26 を燃やすなどの行動も行っていた。
27
28 また,
29 これらの団体は,
30 このような行動の動画や,
31 集団行進
32 への参加の呼び掛けを,
33 ウェブサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SN
34 S」という。
35
36 )を通じて配信していた。
37
38
39 上記各団体は,
40 顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかったが,
41 このような集団
42 行進のスタイルが大きな注目を集めた。
43
44 SNS等では,
45 「デモの報道で顔が映る心配がない。
46
47 」
48 「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。
49
50 」といった意見が多く見られ,
51 上記各団
52 体の構成員ではないデモ参加者の中にも,
53 顔を隠す者が多数現れるようになった。
54
55
56 2.前記の大規模なデモでは,
57 参加者の大部分は平穏に集団行進を行っていた。
58
59 しかし,
60 その最中
61 に,
62 顔を隠した参加者の一部が,
63 商店のショーウィンドウを破壊する,
64 ごみ箱に放火するなどの
65 暴力的な行為を行うようになった。
66
67 さらに,
68 いくつかのデモでは,
69 顔を隠した参加者の一部が警
70 備に当たる警察官を負傷させ,
71 それぞれ数十名が逮捕される事態となった。
72
73
74 逮捕者には,
75 前記各団体の構成員が相当数含まれていた。
76
77 しかし,
78 逮捕者の半数ほどはそれら
79 の団体の構成員ではなく,
80 専ら暴力的な行為を目的として,
81 その都度SNSで仲間を募り,
82 デモ
83 に参加していた者であった。
84
85 さらにそれ以外にも,
86 その場の雰囲気に刺激された一般の参加者が,
87
88 暴力的な行為に加わり逮捕された例もあった。
89
90
91 集団行進の許可を求められた公安委員会は,
92 主催者側に適切な対応を求め,
93 また所轄の警察署
94 も警備を強化していた。
95
96 しかし,
97 大規模なデモの最中に暴力的な行為が散発的に行われることか
98 ら,
99 集団行進の主催者も警察も,
100 そのような行為を行う者を事前に把握し対応することが困難で
101 あった。
102
103 また,
104 顔を隠している被疑者の特定が難しいため,
105 逮捕者は暴力的な行為を行った者の
106 一部にとどまっていた。
107
108
109 3.このような状況に強い懸念を抱いた国会議員Xらは,
110 次のような規制を内容とする法律案を検
111 討している。
112
113
114 規制@
115
116 顔を隠して集団行進に参加することを禁止する。
117
118
119
120 規制A
121
122 集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観
123 察対象として指定し,
124 当該団体がその活動のために利用している機関紙,
125 ウェブサイト,
126
127 SNSのアカウント等について,
128 報告を義務付ける。
129
130
131
132 4.【別添資料】は,
133 規制@及びAの内容として検討されている法律案の骨子である。
134
135 Xらは,
136 法
137 律案の骨子について,
138 法律家甲に相談した。
139
140 その際の甲とXとのやり取りは,
141 以下のとおりであ
142 った。
143
144
145 甲:まず規制@ですが,
146 暴力的な行為をしている者だけでなく,
147 平穏にデモを行っている多くの参
148 加者にまで,
149 一律に規制を及ぼすのは行き過ぎではないですか。
150
151
152 X:規制@の目的は,
153 集団行進において公共の安全を害する行為が行われるのを抑止することであ
154 り,
155 デモそれ自体を規制するつもりはありません。
156
157 覆面や仮面で顔を隠している人はそのことで
158 何かを伝えようとしているわけではないのですから,
159 顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセ
160 ージを届けることは,
161 十分に可能なはずです。
162
163 他方,
164 覆面や仮面で顔を隠すことによって,
165 誰が
166 やっているか分からないという感覚が生じて,
167 普段はしないような行動に走る面があることは否
168 定できません。
169
170 同じようなことは,
171 ウェブサイトやSNSでの表現一般をめぐっても,
172 問題にな
173 - 2 -
174
175 っています。
176
177
178 甲:顔を隠すことが許される「正当な理由」としては,
179 どのようなものを想定していますか。
180
181 例え
182 ば,
183 マスクの着用についてはどうですか。
184
185
186 X:感染症対策や健康上の理由でマスクをする,
187 信仰上の理由から顔を隠すといったことは,
188 もち
189 ろん「正当な理由」があるものとして扱われます。
190
191
192 なお,
193 この種の規制では,
194 文言の明確性も問題になりますが,
195 この点は別途相談する予定です
196 ので,
197 本日は検討いただく必要はありません。
198
199
200 甲:分かりました。
201
202 次に規制Aですが,
203 団体の規制に関する既存の立法と比べると,
204 対象となる団
205 体の危険性はさほど大きくないように思います。
206
207 どのようにお考えでしょう。
208
209
210 X:公共の安全を害する行為を実効的に抑止するためには,
211 そのような行為を助長している団体の
212 活動を把握する必要があります。
213
214 これが規制Aの目的です。
215
216 規制Aを担当するのは,
217 公共の安全
218 の確保のために最近新たに設置されたA1委員会とA2庁です。
219
220
221 また,
222 観察処分を受けた団体が,
223 そのことを意識して自覚ある行動をとることも期待していま
224 す。
225
226
227 甲:団体の指定の要件に関してですが,
228 そもそも構成員の範囲の画定が可能なのでしょうか。
229
230
231 X:団体の指定の要件は,
232 我々の間でも議論になり,
233 これまで逮捕者が出た事案を調査しました。
234
235
236 構成員としては,
237 組織としての活動に継続的に参加している者を想定しており,
238 A2庁である程
239 度の把握ができているとのことです。
240
241 SNS等をフォローして集団行進に参加しているだけの者
242 は,
243 構成員に含みません。
244
245
246 公共の安全を害する行為を助長している団体は,
247 現状では,
248 構成員がおおむね50人から10
249 0人程度の,
250 比較的規模の小さなものです。
251
252 これらの団体のいずれでも,
253 過去5年以内に,
254 デモ
255 において「法律案の骨子」の第2の2に掲げる行為のいずれかを行い,
256 処罰された構成員が全体
257 の10パーセント以上に上ります。
258
259 構成員の10パーセント以上という基準であれば,
260 当面は,
261
262 指定の対象を,
263 実際に問題を起こした団体だけに絞り込むことができるとみています。
264
265 基準につ
266 いては,
267 今後の状況の変化も踏まえ,
268 A1委員会で見直してもらいます。
269
270
271 また,
272 規制Aで報告が義務付けられるのは,
273 団体がその活動のために利用している媒体の名称
274 等のみです。
275
276 報告によって得られた情報は,
277 A2庁による団体の活動の把握に用いますが,
278 必要
279 な場合には,
280 A2庁が各都道府県の公安委員会に提供し,
281 公安条例や道路交通法等の運用を通じ,
282
283 公共の安全を害する行為の抑止に役立ててもらうこともあります。
284
285
286 甲:確認ですが,
287 報告義務の対象となるのは,
288 機関紙のほか,
289 団体が利用しているウェブサイト等,
290
291 誰もが見ることができるようなものですね。
292
293 SNSでも,
294 そのサービスの利用者であれば自由に
295 閲覧できる投稿をしているアカウント等も,
296 ここには含まれてきますね。
297
298 一方で,
299 サービスの利
300 用に当たって用いている氏名,
301 住所,
302 パスワード等の情報は含まれないという理解でよろしいで
303 しょうか。
304
305
306 X:そのとおりです。
307
308 現在問題となっている団体は,
309 団体名を使っているウェブサイトやSNS等
310 に限らず,
311 様々なルートで公共の安全を害する行為を助長する可能性がありますが,
312 その全てを
313 把握するのは困難です。
314
315 代表者や幹部に限らず,
316 構成員が,
317 個人名義のアカウントを使って団体
318 の主張を流布する場合も含めて,
319 それらを網羅的に把握し,
320 団体の活動を継続的に観察する必要
321 があります。
322
323
324 なお,
325 規制Aの指定の要件に該当するかどうかの判断は難しい場合があり,
326 団体や構成員にも
327 いろいろ言い分はあるでしょうから,
328 告知・聴聞の機会の保障など,
329 適正な手続の整備が必要に
330 なります。
331
332 しかし,
333 手続保障については,
334 別途相談する予定ですので,
335 本日は検討いただく必要
336 はありません。
337
338
339
340 - 3 -
341
342 〔設問〕
343 あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして,
344 規制@及びAの憲法適合性について論じな
345 さい。
346
347 なお,
348 その際には,
349 必要に応じて,
350 参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及す
351 ること。
352
353 規定の文言の明確性,
354 手続の適正については,
355 論じる必要はない。
356
357
358
359 - 4 -
360
361 【別添資料】
362 ○
363
364 公共の安全を害する行為の抑止及び公共の安全を害する行為を助長する団体の規制に関する法律
365 案の骨子
366
367 第1
368
369 目的
370 この法律は,
371 集団行進(集団示威運動を含む。
372
373 )における公共の安全を害する行為を抑止すると
374
375 ともに,
376 そのような行為を助長する団体の活動状況を明らかにするために必要な措置を定め,
377 もっ
378 て公共の安全の確保に寄与することを目的とする。
379
380
381 第2
382 1
383
384 定義
385 この法律において「顔面を覆う行為」とは,
386 手段のいかんを問わず顔面の全体又は一部を覆い,
387
388 容貌の確認を困難にする行為をいう。
389
390
391
392 2
393
394 この法律において「公共の安全を害する行為」とは,
395 次に掲げる行為をいう。
396
397
398 刑法第95条第1項〔公務執行妨害〕,
399 第106条〔騒乱〕,
400 第108条〔現住建造物等放
401 火〕,
402 第109条〔非現住建造物等放火〕,
403 第110条〔建造物等以外放火〕,
404 第199条
405 〔殺人〕,
406 第204条〔傷害〕,
407 第205条〔傷害致死〕,
408 第206条〔現場助勢〕,
409 第20
410 8条〔暴行〕,
411 第208条の2〔凶器準備集合及び結集〕,
412 第260条〔建造物等損壊及び同
413 致死傷〕,
414 第261条〔器物損壊等〕に規定する行為をなすこと。
415
416
417
418 3
419
420 この法律において「集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団
421 体」とは,
422 その構成員と認められる者のうち,
423 第4の1の処分に係る手続が開始された日から遡
424 って5年間に,
425 集団行進において公共の安全を害する行為を行い刑に処せられた者の比率が,
426 A
427 1委員会規則で定める基準(当分の間,
428 100分の10を下回らない比率とする。
429
430 )を超える団
431 体をいう。
432
433
434
435 第3
436
437 顔面を覆う行為の禁止
438
439 1
440
441 何人も,
442 集団行進において,
443 正当な理由なく,
444 顔面を覆う行為をしてはならない。
445
446
447
448 2
449
450 第3の1の規定に違反した者は,
451 10万円以下の過料に処する。
452
453
454
455 第4
456 1
457
458 観察処分
459 A1委員会は,
460 集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体に対
461 して,
462 1年を超えない期間を定めて,
463 A2庁長官の観察に付する処分(以下「観察処分」とい
464 う。
465
466 )を行うことができる。
467
468 A1委員会は,
469 さらに必要と認めるときは,
470 その期間を更新するこ
471 とができる。
472
473
474
475 2
476
477 観察処分を受けた団体の代表者は,
478 名義のいかんを問わず,
479 団体の活動として団体の主義,
480 主
481 張等を不特定又は多数の者に対して伝えるために利用している機関紙,
482 ウェブサイト,
483 SNSの
484 アカウント等について,
485 1か月ごとにA2庁長官に対して報告しなければならない。
486
487
488
489 3
490
491 A2庁長官は,
492 必要と認めるときは,
493 観察処分を受けた団体の名称,
494 当該団体の活動等の情報
495 を各都道府県公安委員会に提供することができる。
496
497
498
499 4
500
501 観察処分を受けた団体の代表者が,
502 正当な理由なく,
503 第4の2の報告義務に違反した場合(虚
504 偽の報告を行った場合を含む。
505
506 )は,
507 50万円以下の過料に処する。
508
509
510
511 - 5 -
512
513 論文式試験問題集[公法系科目第2問]
514
515 - 1 -
516
517 [公法系科目]
518 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,
519 〔設問1〕,
520 〔設問2〕の配点割合は,
521 35:20:
522 45〕)
523 A市の市道上には多くの屋台が設けられ,
524 簡単な飲食物を提供する営業を行っており,
525 全国各地
526 でこの種の屋台が姿を消しつつある中で,
527 A市の個性として貴重な観光資源となっているほか,
528 街
529 に賑わいや防犯効果をもたらしている。
530
531 その一方で,
532 A市の屋台には通行の阻害,
533 道路の汚れや排
534 水の垂れ流し等の問題があり,
535 とりわけ,
536 屋台の設置に必要な市道占用許可(道路法第32条第1
537 項第6号)を有する者から名義を借りた別の者が営業を行っている屋台があることから,
538 許可が事
539 実上売買の対象となったり,
540 営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的
541 な話合いが難しくなったりするといった課題が指摘され,
542 こうした課題はA市議会でも繰り返し取
543 り上げられてきたが,
544 長年にわたり手付かずのままになっていた。
545
546
547 そこで,
548 A市が昨年制定したA市屋台基本条例(以下「本件条例」という。
549
550 )では,
551 屋台営業に
552 係る市道占用許可の基準及び手続を,
553 新規の許可に係るものと許可の更新に係るものに分けて規定
554 した上で,
555 屋台営業に係る名義貸しを禁止することにより,
556 名義貸し行為の一掃を目指すことにし
557 た。
558
559 具体的には,
560 本件条例は,
561 新規に市道占用許可を受けることができる者を,
562 本件条例の施行の
563 日において市道占用許可を受けて屋台営業を営む者の配偶者又は直系血族に当たる者以外は,
564 本件
565 条例第25条所定の屋台営業候補者に限定している。
566
567 また,
568 A市のウェブサイトに掲載されている
569 「A市屋台営業候補者募集要項」によると,
570 屋台営業候補者の公募に応募する者は営業希望場所
571 (1か所)を明記した応募申請書等をA市長(以下「市長」という。
572
573 )に提出し,
574 これを受けて,
575
576 有識者で構成されるA市屋台専門委員会(以下「委員会」という。
577
578 )は,
579 市長によって策定された
580 屋台営業候補者選定指針(以下「本件指針」という。
581
582 )に従って審査を行い,
583 営業希望場所ごとに
584 総合成績が最も優れた者各1名を屋台営業候補者として適当と認める者として推薦し,
585 その後,
586 市
587 長が屋台営業候補者を選定することとされている(なお,
588 屋台営業候補者が市道占用許可及びその
589 後の更新を受けられる期間は通算して原則3年までである。
590
591 )。
592
593 このように,
594 他人の名義を借りて
595 営業を行っている屋台にあっては,
596 本件条例の施行後も営業を続けようとすれば,
597 名義人本人が屋
598 台営業を行うか,
599 実際に屋台営業を行っている者が屋台営業候補者の公募に応募することが必要と
600 なった。
601
602
603 A市の市道上で他人の名義を借りて屋台営業を行ってきたBは,
604 本件条例の施行後も同じ場所
605 (以下「本件区画」という。
606
607 )で屋台営業を続けることを希望し,
608 本件条例の施行後に実施された
609 屋台営業候補者の公募(合計20区画)に応募したところ,
610 市長は本件区画についてBを屋台営業
611 候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」という。
612
613 )を行う一方で,
614 Cを屋台営業候
615 補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」という。
616
617 )を行った。
618
619 本件区画で屋台営業を行
620 ってきた実績から,
621 屋台営業候補者に選定されるはずであると考えていたBは,
622 本件不選定決定に
623 不服を持ち,
624 今後の対応を相談するため,
625 弁護士Dに相談した。
626
627 以下に示された【法律事務所の会
628 議録】を踏まえて,
629 弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,
630 設問に答えなさい。
631
632
633 なお,
634 関係法令の抜粋を【資料
635
636 関係法令】に掲げてあるので,
637 適宜参照しなさい。
638
639
640
641 〔設問1〕
642
643
644 本件不選定決定は,
645 取消訴訟の対象となる処分に当たるか,
646 検討しなさい。
647
648
649
650
651
652 Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有するか,
653 検討しなさい。
654
655 なお,
656 解答に当
657 たっては,
658 本件不選定決定が処分に当たることを前提にしなさい。
659
660
661
662 〔設問2〕
663 本件不選定決定の取消訴訟において,
664 Bはどのような違法事由の主張をすべきか。
665
666 想定されるA
667 - 2 -
668
669 市の反論を踏まえて,
670 検討しなさい。
671
672 なお,
673 解答に当たっては,
674 当該訴訟が適法であることを前提
675 にしなさい。
676
677
678
679 - 3 -
680
681 【法律事務所の会議録】
682 弁護士D:Bさんの不服の内容からすると,
683 まずは本件不選定決定の取消訴訟を提起することが考え
684 られます。
685
686 市長は本件不選定決定が処分に当たると理解して,
687 屋台営業候補者不選定通知書
688 において審査請求や取消訴訟の教示をしていますが,
689 この理解が正しいか検討しましょう。
690
691
692 弁護士E:Bさんは,
693 屋台営業候補者の公募に応募して,
694 本件不選定決定を受けたので,
695 本件条例及
696 び本件条例施行規則の仕組みに即して,
697 屋台営業候補者の選定が申請に対する処分に当たる
698 か,
699 したがって,
700 本件不選定決定が申請拒否処分に当たるかを検討すればいいでしょうか。
701
702
703 弁護士D:基本的な方針はそれでいいと思いますが,
704 Bさんが屋台営業候補者の公募に応募したのは,
705
706 飽くまでも市道占用許可を受けるためなので,
707 市道占用許可との関係にも注意してください。
708
709
710 なお,
711 A市は,
712 本件条例第9条を行政手続法上の審査基準として定めたようです。
713
714 本件条例
715 第9条の性格については,
716 我々もA市と同じ立場を取ることにしましょう。
717
718
719 弁護士E:本件不選定決定が処分に当たるとしても,
720 既に市長はCさんに対して本件候補者決定を行
721 っているため,
722 本件候補者決定が取り消されない限り,
723 Bさんは本件区画について屋台営業
724 候補者への選定を受けることができないとも考えられ,
725 本件不選定決定の取消しを求める訴
726 えの利益は失われていることにならないでしょうか。
727
728
729 弁護士D:その問題については,
730 放送局の開設免許に関する判例(最高裁判所昭和43年12月24
731 日第三小法廷判決・民集22巻13号3254頁)がありますので,
732 この判例を参考にして
733 検討してください。
734
735
736 弁護士E:承知しました。
737
738
739 弁護士D:次に本案で主張すべき違法事由ですが,
740 Bさんは,
741 本件区画で10年以上も屋台営業を行
742 ってきて,
743 A市との間でトラブルもなかったのに,
744 今後営業が続けられなくなると生活の基
745 盤が失われてしまうと述べています。
746
747
748 弁護士E:新しい条例を施行する場合には経過措置を設けるのが通例で,
749 そうすることが法的に要請
750 される場合もありますが,
751 本件条例の施行に際して,
752 Bさんのように従前から他人の名義を
753 借りて屋台営業を行っていた者(以下「他人名義営業者」という。
754
755 )の地位への配慮はなか
756 ったのですか。
757
758
759 弁護士D:市長は,
760 本件条例可決後の記者会見において,
761 A市での屋台営業に係る市道占用許可は6
762 か月ごとの更新のため,
763 本件条例の施行から6か月後には屋台営業候補者が営業を開始でき
764 るよう速やかに公募を実施し,
765 その間は他人名義営業の継続を暫定的に認めると述べました。
766
767
768 そうすると,
769 他人名義営業者の地位への配慮は市道占用許可の期間の範囲内にとどまること
770 になりますが,
771 他人名義営業者が市道占用許可の更新を期待し得る地位を有しないのか疑問
772 です。
773
774
775 弁護士E:他人の名義を借りた屋台営業はそもそも道路法上無許可営業に当たり,
776 法的な保護に値し
777 ないということでしょうか。
778
779
780 弁護士D:しかし,
781 本件条例制定に至るまでの経緯や関係法令の規定等に照らして,
782 屋台営業におい
783 て他人の名義を借りることは,
784 営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為
785 と評価できるのでしょうか。
786
787 本件条例が違法であるとまではいえないとしても,
788 本件不選定
789 決定の違法事由を検討する上で,
790 まずは,
791 Bさんの地位に対する配慮に欠けるところがなか
792 ったか検討してください。
793
794
795 弁護士E:承知しました。
796
797
798 弁護士D:それから,
799 Bさんへの屋台営業候補者不選定通知書には,
800 Bさんの総合成績が本件区画で
801 第2位であった旨が記されていますが,
802 実は,
803 委員会は,
804 Bさんを屋台営業候補者として適
805 当と認める者として推薦していたようです。
806
807 20区画の応募に対する屋台営業候補者選定決
808 定後の記者会見で,
809 市長が自ら発表したことですが,
810 A市のウェブサイトで公開されている
811 本件指針は,
812 本件条例施行規則第19条第1号から第4号までの各号の審査に25点ずつ配
813 - 4 -
814
815 点するとともに各号の審査において考慮すべき要素を例示しているところ,
816 委員会では,
817 他
818 人名義営業者が本件条例の施行後6か月以内に新たな店舗や仕事を探すことは困難である上,
819
820 特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は,
821 今後A市の屋台政策への確実な貢
822 献が期待できるとして,
823 各号の審査では25点の配点の範囲内で営業実績を踏まえて5点を
824 与えるという本件指針の運用を申し合わせたのです。
825
826
827 弁護士E:そうすると,
828 委員会は,
829 他人名義営業者の地位への更なる配慮が必要であると考えていた
830 といえますね。
831
832
833 弁護士D:ところが,
834 委員会の各委員がこの申合せどおりに審査を行った結果,
835 ほとんどの区画につ
836 いてBさんのような他人名義営業者が屋台営業候補者として適当と認める者として推薦され
837 たため,
838 不審に思った市長が委員会の議事録を取り寄せて申合せの内容を知ったのです。
839
840 前
841 回市長選挙で屋台営業の刷新を公約に掲げて当選した市長としては,
842 屋台営業者の交代をよ
843 り積極的に推進して公約を実現したいと考え,
844 委員会の審査結果から申合せに基づく点数を
845 差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定したと記者会見で発表しました。
846
847 その
848 結果,
849 Bさんの総合成績が2位になったと考えられます。
850
851
852 弁護士E:事情がよく分かりました。
853
854
855 弁護士D:我々としては,
856 市長は委員会の推薦どおりにBさんを屋台営業候補者に選定すべきであっ
857 たという立場ですので,
858 既に検討をお願いした他人名義営業者の地位への配慮の問題のほか
859 に,
860 屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せが合理的であったかという
861 問題を検討する必要があります。
862
863 委員会の申合せが不合理であれば,
864 市長がこれに基づく推
865 薦を覆すのは当然ということになりますから。
866
867 具体的には,
868 委員会の申合せが本件条例施行
869 規則第19条各号の選定基準に照らして是認することができるか,
870 また,
871 新規に屋台営業を
872 始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することにならないか検討してくださ
873 い。
874
875 なお,
876 A市は,
877 平成7年からA市行政手続条例を施行しており,
878 同条例は行政手続法第
879 2章と同じ内容の規定を設けていますので,
880 必要に応じて参照してください。
881
882
883 弁護士E:承知しました。
884
885
886 弁護士D:そして,
887 これらの検討を踏まえて,
888 本件不選定決定の取消訴訟における違法事由の主張と
889 して,
890 市長の選定に係る判断の内容に瑕疵があったと主張することができないか検討してく
891 ださい。
892
893 さらに,
894 市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体に瑕疵があったと主張する
895 ことも考えられます。
896
897 その際には,
898 行政庁である当時の運輸大臣の処分と諮問機関である運
899 輸審議会の決定との関係について一般論を述べた判例(最高裁判所昭和50年5月29日第
900 一小法廷判決・民集29巻5号662頁)がありますので,
901 この判例を参考に,
902 諮問機関の
903 機能等を踏まえて本件不選定決定が違法であると主張することができないか,
904 検討すること
905 にしましょう。
906
907
908 弁護士E:承知しました。
909
910
911
912 - 5 -
913
914 【資料
915 ○
916
917 関係法令】
918
919 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋)
920 (道路の占用の許可)
921
922 第32条
923
924 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物,
925 物件又は施設を設け,
926 継続して道路を使用し
927
928 ようとする場合においては,
929 道路管理者の許可を受けなければならない。
930
931
932 一〜五
933
934 (略)
935
936 六
937
938 露店,
939 商品置場その他これらに類する施設
940
941 七
942
943 (略)
944
945 2
946
947 前項の許可を受けようとする者は,
948 左の各号に掲げる事項を記載した申請書を道路管理者に提出
949 しなければならない。
950
951
952 一
953
954 道路の占用(道路に前項各号の一に掲げる工作物,
955 物件又は施設を設け,
956 継続して道路を使用
957 することをいう。
958
959 以下同じ。
960
961 )の目的
962
963 二
964
965 道路の占用の期間
966
967 三
968
969 道路の占用の場所
970
971 四
972
973 工作物,
974 物件又は施設の構造
975
976 五
977
978 工事実施の方法
979
980 六
981
982 工事の時期
983
984 七
985
986 道路の復旧方法
987
988 3〜5
989
990 (略)
991
992 (道路の占用の許可基準)
993 第33条
994
995 道路管理者は,
996 道路の占用が前条第1項各号のいずれかに該当するものであつて道路の敷
997
998 地外に余地がないためにやむを得ないものであり,
999 かつ,
1000 同条第2項第2号から第7号までに掲げ
1001 る事項について政令で定める基準に適合する場合に限り,
1002 同条第1項(中略)の許可を与えること
1003 ができる。
1004
1005
1006 2〜6
1007 ○
1008
1009 (略)
1010
1011 A市屋台基本条例(抜粋)
1012 (定義)
1013
1014 第3条
1015
1016 この条例において,
1017 次の各号に掲げる用語の意義は,
1018 それぞれ当該各号に定めるところによ
1019
1020 る。
1021
1022
1023
1024
1025 屋台
1026
1027 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第4項に規定する軽車両に飲食店
1028
1029 営業(食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)第35条第1号に規定する飲食店営業を
1030 いう。
1031
1032 次号において同じ。
1033
1034 )のための設備を備え付けたものをいう。
1035
1036
1037
1038
1039 屋台営業
1040
1041 屋台を一定の時間一定の場所に設置して行う飲食店営業をいう。
1042
1043
1044
1045
1046
1047 屋台営業者
1048
1049
1050
1051 屋台営業従事者
1052
1053
1054
1055 市道
1056
1057 屋台営業を営む者をいう。
1058
1059
1060 屋台営業者以外の者であって屋台営業に従事するものをいう。
1061
1062
1063
1064 道路法(昭和27年法律第180号)第2条第1項に規定する道路であって市が管理す
1065
1066 るものをいう。
1067
1068
1069
1070
1071 市道占用許可
1072
1073 屋台営業を行うための道路法第32条第1項(中略)の規定による市道の占用
1074
1075 の許可をいう。
1076
1077
1078 (市道占用許可の申請)
1079 第8条
1080
1081 市道占用許可を受けようとする者(次条第1項(中略)において「申請者」という。
1082
1083 )は,
1084
1085
1086 道路法第32条第2項に規定する申請書のほか規則で定める書類を市長に提出しなければならない。
1087
1088
1089 (市道占用許可の基準等)
1090 - 6 -
1091
1092 第9条
1093
1094 市長は,
1095 申請者(次条第1項に規定する更新申請者を除く。
1096
1097 以下この項において同じ。
1098
1099 )の
1100
1101 申請の内容が道路法第33条第1項に規定する場合に該当する場合であって,
1102 次に掲げる基準のい
1103 ずれにも適合するときに限り,
1104 市道占用許可を与えるものとする。
1105
1106
1107
1108
1109 申請者が,
1110 次のいずれにも該当しないこと。
1111
1112
1113 ア
1114
1115 A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団員
1116
1117 イ
1118
1119 A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団又は暴力団員と密接な関係を有する者
1120
1121
1122
1123 申請者が,
1124 次のいずれかであること。
1125
1126
1127 ア
1128
1129 この条例の施行の日において市道占用許可を受けている屋台営業者(以下「現営業者」とい
1130 う。
1131
1132 )の配偶者又は直系血族のうち,
1133 同日及び申請の日(現営業者が死亡している場合にあっ
1134 ては,
1135 現営業者が死亡した日。
1136
1137 )において,
1138 主として現営業者が営む屋台営業による収入によ
1139 り生計を維持している屋台営業従事者(その者が2人以上である場合は,
1140 そのうちの1人に限
1141 る。
1142
1143 )
1144
1145 イ
1146
1147
1148 第25条第1項に規定する屋台営業候補者
1149 市道占用許可を受けようとする場所が,
1150 次のいずれにも適合すること。
1151
1152
1153
1154 ア〜ウ
1155 2
1156
1157 (略)
1158
1159 (略)
1160 (市道占用許可を受けた者による屋台営業等)
1161
1162 第13条
1163 2
1164
1165 市道における屋台営業は,
1166 市道占用許可を受けた者が,
1167 自ら行わなければならない。
1168
1169
1170
1171 市道占用許可を受けた者は,
1172 市道占用許可に係る権利を他人に譲渡し,
1173 転貸し,
1174 又は担保に供し
1175 てはならない。
1176
1177
1178 (屋台営業候補者の公募)
1179
1180 第25条
1181
1182 市長は,
1183 市道における屋台営業が,
1184 まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,
1185 観光資源
1186
1187 としての効用を発揮することができると認めるときは,
1188 場所を指定して,
1189 当該場所において市道占
1190 用許可を受けることができる者(法人を除く。
1191
1192 以下「屋台営業候補者」という。
1193
1194 )の公募を行うこ
1195 とができる。
1196
1197
1198 2〜3
1199 4
1200
1201 (略)
1202
1203 前3項に定めるもののほか,
1204 屋台営業候補者の公募に関し必要な事項は,
1205 規則で定める。
1206
1207
1208 (屋台営業候補者の選定等)
1209
1210 第26条
1211
1212 市長は,
1213 前条第1項の規定による公募を行った場合は,
1214 A市屋台専門委員会に諮り,
1215 屋台
1216
1217 営業候補者を選定するものとする。
1218
1219
1220 2
1221
1222 A市屋台専門委員会は,
1223 規則で定める基準に基づき,
1224 当該公募に応募した者のうちから屋台営業
1225 候補者として適当と認める者を推薦するものとする。
1226
1227
1228
1229 3
1230
1231 市長は,
1232 第1項の規定による選定を行ったときは,
1233 その旨を当該屋台営業候補者に通知しなけれ
1234 ばならない。
1235
1236
1237 (A市屋台専門委員会)
1238
1239 第28条
1240 2〜5
1241 ○
1242
1243 市長の附属機関として,
1244 A市屋台専門委員会(以下「委員会」という。
1245
1246 )を置く。
1247
1248
1249 (略)
1250
1251 A市屋台基本条例施行規則(抜粋)
1252
1253 〔(注)
1254
1255 本規則中,
1256 「条例」はA市屋台基本条例を指す。
1257
1258 〕
1259
1260 (公募書類)
1261 第18条
1262
1263 条例第26条第1項の規定により屋台営業候補者の選定を受けようとする者(以下「公募
1264
1265 申請者」という。
1266
1267 )は,
1268 市長が定める期間内に,
1269 公募屋台営業候補者応募申請書(中略)に次の各
1270 号に掲げる書類を添えて市長に提出しなければならない。
1271
1272
1273 〜
1274
1275 (略)
1276 - 7 -
1277
1278 (選定基準)
1279 第19条
1280
1281
1282 条例第26条に規定する規則で定める基準は,
1283 次に掲げるとおりとする。
1284
1285
1286
1287 関係法令等を遵守し,
1288 安全で快適な公共空間及び良好な公衆衛生を確保する具体的な取組が示
1289 されていること。
1290
1291
1292
1293
1294
1295 市民,
1296 地域住民及び観光客に親しまれ,
1297 観光資源としてA市を広報することができる屋台を目
1298 指し,
1299 従来のA市らしい屋台文化を守るとともに,
1300 新たな魅力を創出するための創意工夫が見ら
1301 れること。
1302
1303
1304
1305
1306
1307 地域の清掃活動に参加する等地域貢献に向けた具体的な取組が示されていること。
1308
1309
1310
1311
1312
1313 まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,
1314 まちの魅力を高めようとする意欲が感じられるこ
1315 と。
1316
1317
1318
1319 (決定の通知)
1320 第21条
1321
1322 条例第26条第3項の規定による通知は,
1323 屋台営業候補者選定通知書(中略)により行う
1324
1325 ものとする。
1326
1327
1328 2
1329
1330 市長は,
1331 屋台営業候補者として選定しないこととしたときは,
1332 屋台営業候補者不選定通知書(中
1333 略)により公募申請者に通知するものとする。
1334
1335
1336
1337 - 8 -
1338
1339