1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 -1-
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 A県B市の中心部には,
11 江戸時代に宿場町として栄え現在もその趣を濃厚に残しているC地区
12 があり,
13 B市の住民DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための運動を続けてきた。
14
15
16 の結果,
17 C地区の看板等の7割程度が街並み全体に違和感なく溶け込んだ江戸時代風のものとなっ
18 ているが,
19 Dらはそれでもまだ不十分だと考えている。
20
21 他方,
22 C地区の整備が進み多くの観光客が
23 訪れるようになると,
24 観光客を目当てにして,
25 C地区の歴史・伝統とは無関係の各種のビラが路上
26 で頻繁に配布されるようになり,
27 Dらは,
28 C地区の歴史的な環境が損なわれることを心配するよう
29 になった。
30
31 そこで,
32 DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための条例の制定をB市に要
33 望した。
34
35 この要望を受けて,
36 B市は「B市歴史的環境保護条例」案をまとめた。
37
38
39 条例案では,
40 市長は,
41 学識経験者からなるB市歴史的環境保護審議会の意見を聴いた上で,
42
43 史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な地区を「特別規制区域」に指定する
44 ことができる(C地区を特別規制区域に指定することが想定されている。
45
46 )。
47
48 そして,
49 特別規制区
50 域については,
51 当該地区の歴史的な環境を維持し向上させていくという目的で,
52 建造物の建築又
53 は改築,
54 営業活動及び表現活動などが制限されることになる。
55
56 このうち表現活動に関わるものと
57 しては,
58 広告物掲示の原則禁止と路上での印刷物配布の原則禁止とがある。
59
60
61 まず第一に,
62 特別規制区域に指定された日以降に,
63 特別規制区域内で広告物(看板,
64 立看板,
65
66 ポスター等。
67
68 表札など居住者の氏名を示すもので,
69 規則で定める基準に適合するものを除く。
70
71 )を
72 新たに掲示することは禁止される(違反者は罰金刑に処せられる。
73
74 )。
75
76 しかし,
77 市長が「特別規制
78 区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」として許可を与える場合には,
79 広告物を掲
80 示することができる。
81
82
83 条例案の取りまとめに携わったB市の担当者Eによれば,
84 この広告物規制の趣旨は,
85 江戸時代
86 に宿場町として栄えたC地区の歴史的な環境を維持し向上させていくためには,
87 屋外広告物は原
88 則として認めるべきではない,
89 ということにある。
90
91 また,
92 Eは,
93 「特別規制区域の歴史的な環境
94 を向上させるものと認められる」かどうかは,
95 当該広告物が伝えようとしているテーマ,
96 当該広
97 告物の形状や色などを踏まえて総合的に判断されるが,
98 単に歴史的な環境を維持するにとどまる
99 広告物は「向上させるもの」と認められない,
100 と説明している。
101
102
103 第二に,
104 特別規制区域内の路上での印刷物(ビラ,
105 チラシ等)の配布は禁止される(違反者は
106 罰金刑に処せられる。
107
108 )。
109
110 しかし,
111 特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物
112 を路上で配布することは禁止されない。
113
114 これは,
115 担当者Eの説明によれば,
116 そのような印刷物は
117 C地区の歴史・伝統に何らかの関わりのあるものであって,
118 C地区の歴史的な環境を損なうとは
119 言えないからである。
120
121
122 「B市歴史的環境保護条例」案のうち,
123 表現活動を規制する部分の憲法適合性について論じな
124 さい。
125
126 なお,
127 同条例案と屋外広告物法・屋外広告物条例,
128 道路交通法などの他の法令との関係に
129 ついては論じなくてよい。
130
131
132
133 -2-
134
135 [行政法]
136 Aは,
137 B県知事から,
138 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。
139
140 )第14条の4
141 第1項に基づき,
142 特別管理産業廃棄物に該当するポリ塩化ビフェニル廃棄物(以下「PCB廃棄物」
143 という。
144
145 )について収集運搬業(積替え・保管を除く。
146
147 )の許可を受けている特別管理産業廃棄物収
148 集運搬業者(以下「収集運搬業者」という。
149
150 )である。
151
152 PCB廃棄物の収集運搬業においては,
153
154 替え・保管が認められると,
155 事業者から収集したPCB廃棄物が収納された容器を運搬車から一度
156 下ろし,
157 一時的に積替え・保管施設内で保管し,
158 それを集積した後,
159 まとめて別の大型運搬車で処
160 理施設まで運搬することができるので効率的な輸送が可能となる。
161
162 しかし,
163 Aは,
164 積替え・保管が
165 できないため,
166 事業者から排出されたPCB廃棄物の収集量が少なく運搬車の積載量に空きがあっ
167 ても,
168 遠隔地にある処理施設までそのまま運搬しなければならず,
169 輸送効率がかなり悪かった。
170
171
172 こで,
173 Aは,
174 自らが積替え・保管施設を建設してPCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業
175 を行うことで輸送効率を上げようと考えた。
176
177 同時に,
178 Aは,
179 Aが建設する積替え・保管施設におい
180 ては,
181 他の収集運搬業者によるPCB廃棄物の搬入・搬出(以下「他者搬入・搬出」という。
182
183 )も
184 行えるようにすることで事業をより効率化しようと考えた。
185
186 Aは,
187 B県担当者に対し,
188 前記積替え
189 ・保管施設の建設に関し,
190 他者搬入・搬出も目的としていることを明確に伝えた上でB県の関係す
191 る要綱等に従って複数回にわたり事前協議を行い,
192 B県内のAの所有地に高額な費用を投じ,
193 各種
194 規制に適合する相当規模の積替え・保管施設を設置した。
195
196 B県知事は,
197 以上の事前協議事項につい
198 てB県担当課による審査を経て,
199 Aに対し,
200 適当と認める旨の協議終了通知を送付した。
201
202 その後,
203
204 Aは,
205 令和3年3月1日,
206 PCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業を行うことができるよ
207 うに,
208 法第14条の5第1項による事業範囲の変更許可の申請(以下「本件申請」という。
209
210 )をし
211 た。
212
213 なお,
214 本件申請に係る書類には,
215 他者搬入・搬出に関する記載は必要とされていなかった。
216
217
218 B県知事は,
219 令和3年6月21日,
220 本件申請に係る変更許可(以下「本件許可」という。
221
222 )をし
223 たが,
224 「積替え・保管施設への搬入は,
225 自ら行うこと。
226
227 また,
228 当該施設からの搬出も,
229 自ら行うこ
230 と。
231
232 」という条件(以下「本件条件」という。
233
234 )を付した。
235
236 このような内容の条件を付した背景には,
237
238 他者搬入・搬出をしていた別の収集運搬業者の積替え・保管施設において,
239 保管量の増加と保管期
240 間の長期化によりPCB廃棄物等の飛散,
241 流出,
242 異物混入などの不適正事例が発覚し,
243 社会問題化
244 していたことがあった。
245
246 そこで,
247 B県知事は,
248 特別管理産業廃棄物の性状等を踏まえ,
249 他者搬入・
250 搬出によって収集・運搬に関する責任の所在が不明確となること,
251 廃棄物の飛散,
252 流出,
253 異物混入
254 などのおそれがあること等を考慮して,
255 本件申請直前に従来の運用を変更することとし,
256 本件許可
257 に当たり,
258 B県で初めて本件条件を付することになった。
259
260
261 本件条件は法第14条の5第2項及び第14条の4第11項に基づくものであった。
262
263 しかし,
264
265 Aは,
266 近隣の県では本件条件のような内容の条件は付されていないのに,
267 B県においてのみ本件条
268 件が付された結果,
269 当初予定していた事業の効率化が著しく阻害されると考えている。
270
271 また,
272 Aは,
273
274 本件条件が付されることについて,
275 事前連絡を受けておらず,
276 事前協議が無に帰してしまい裏切ら
277 れたとの思いから,
278 強い不満を持っている。
279
280
281 以上を前提として,
282 以下の設問に答えなさい。
283
284
285 なお,
286 法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「法施行規則」という。
287
288 )の抜
289 粋を【資料】として掲げるので,
290 適宜参照しなさい。
291
292
293 〔設問1〕
294 本件条件に不満を持つAは,
295 どのような訴訟を提起すべきか。
296
297 まず,
298 本件条件の法的性質を明
299 らかにし,
300 次に,
301 行政事件訴訟法第3条第2項に定める取消訴訟について,
302 考えられる取消しの対
303 象を2つ挙げ,
304 それぞれの取消判決の効力を踏まえて検討しなさい。
305
306 なお,
307 解答に当たっては,
308
309 -3-
310
311 件許可が処分に当たることを前提にしなさい。
312
313 また,
314 取消訴訟以外の訴訟及び仮の救済について検
315 討する必要はない。
316
317
318 〔設問2〕
319 Aは,
320 取消訴訟において,
321 本件条件の違法性についてどのような主張をすべきか。
322
323 想定される
324 B県の反論を踏まえて検討しなさい。
325
326 なお,
327 本件申請の内容は,
328 法施行規則第10条の13等の各
329 種基準に適合していることを前提にしなさい。
330
331 また,
332 行政手続法上の問題について検討する必要は
333 ない。
334
335
336
337 -4-
338
339 【資料】
340
341
342 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
343
344 (目的)
345 第1条
346
347 この法律は,
348 廃棄物の排出を抑制し,
349 及び廃棄物の適正な分別,
350 保管,
351 収集,
352 運搬,
353 再生,
354
355
356 処分等の処理をし,
357 並びに生活環境を清潔にすることにより,
358 生活環境の保全及び公衆衛生の向
359 上を図ることを目的とする。
360
361
362 (定義)
363 第2条
364
365
366 1〜4
367
368 (略)
369
370 この法律において「特別管理産業廃棄物」とは,
371 産業廃棄物のうち,
372 爆発性,
373 毒性,
374 感染性その
375 他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの(中略)をいう。
376
377
378
379
380
381 (略)
382
383 (国及び地方公共団体の責務)
384 第4条
385
386
387 (略)
388
389 都道府県は,
390 (中略)当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況をはあくし,
391 産業廃棄物
392 の適正な処理が行なわれるように必要な措置を講ずることに努めなければならない。
393
394
395
396 3〜4
397
398 (略)
399
400 (特別管理産業廃棄物処理業)
401 第14条の4
402
403 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は,
404 当該業を行おうと
405
406 する区域(運搬のみを業として行う場合にあつては,
407 特別管理産業廃棄物の積卸しを行う区域に
408 限る。
409
410 )を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
411
412 (以下略)
413 2〜4
414
415
416 (略)
417
418 都道府県知事は,
419 第1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,
420 同項
421 の許可をしてはならない。
422
423
424
425
426 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
427 かつ,
428 継続して行うに足
429 りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
430
431
432
433
434
435 (略)
436
437 6〜10
438 11
439
440 (略)
441
442 第1項(中略)の許可には,
443 生活環境の保全上必要な条件を付することができる。
444
445
446
447 12〜14
448 15
449
450 (略)
451
452 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)以外の者は,
453 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を
454
455 (中略)受託してはならない。
456
457
458 16〜18
459
460 (略)
461
462 (変更の許可等)
463 第14条の5
464
465 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)は,
466 その特別管理産業廃棄物の収集若しく
467
468 は運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは,
469 都道府県知事の許可を受けなければな
470 らない。
471
472 (以下略)
473
474
475 前条第5項及び第11項の規定は,
476 収集又は運搬の事業の範囲の変更に係る前項の許可について
477 (中略)準用する。
478
479
480
481 3〜5
482
483 (略)
484
485 -5-
486
487
488
489 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
490
491 (特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可の基準)
492 第10条の13
493
494 法第14条の4第5項第1号(法第14条の5第2項において準用する場合を含
495
496 む。
497
498 )の規定による環境省令で定める基準は,
499 次のとおりとする。
500
501
502
503
504 施設に係る基準
505
506
507 特別管理産業廃棄物が,
508 飛散し,
509 及び流出し,
510 並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車,
511
512 運搬船,
513 運搬容器その他の運搬施設を有すること。
514
515
516
517 ロ〜ホ
518
519
520 (略)
521
522 積替施設を有する場合には,
523 特別管理産業廃棄物が飛散し,
524 流出し,
525 及び地下に浸透し,
526
527 並びに悪臭が発散しないよう必要な措置を講じ,
528 かつ,
529 特別管理産業廃棄物に他の物が混入
530 するおそれのないように仕切り等が設けられている施設であること。
531
532
533
534
535
536 申請者の能力に係る基準
537
538
539 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。
540
541
542
543
544
545 (略)
546
547
548
549 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に,
550 かつ,
551 継続して行うに足りる経理的基礎を
552 有すること。
553
554
555
556 -6-
557
558