1 論文式試験問題集
2 [民法・商法・民事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
12
13
14 【事実】
15 1.Aは,
16 酒類及び食品類の卸売を主たる業務とする株式会社である。
17
18 令和3年4月頃,
19 Aは,
20
21 蔵保存を要する高級ワインの取扱いを新しく開始することを計画し,
22 海外から酒類を輸入販売
23 することを主たる業務とする株式会社Bと協議を重ねた上で,
24 同年6月1日,
25 Bとの間で,
26
27 下の内容の売買契約を締結した(以下「本件ワイン売買契約」という。
28
29 )。
30
31
32 当事者
33
34 買主A,
35 売主B
36
37 目的物
38
39 冷蔵倉庫甲に保管中の乙農園の生産に係るワイン1万本(以下「本件ワイン」という。
40
41
42
43
44
45 5000万円
46
47
48
49 引渡日
50
51 令和3年9月1日
52
53 また,
54 Aは,
55 Bとの交渉の際に,
56 本件ワインの引渡日までに高級ワインの保存に適した冷蔵倉
57 庫を購入し又は賃借することを予定しており,
58 本件ワインの販売が順調であれば,
59 将来的には取
60 り扱う高級ワインの種類や数量も増やしていく予定であることを伝えていた。
61
62 なお,
63 本件ワイン
64 と同種同等のワインは他に存在しない。
65
66
67 2.ところが,
68 令和3年7月末になっても,
69 Aの事業計画に適した冷蔵倉庫は見つからず,
70 購入や
71 賃借の見込みは全く立たなかった。
72
73 そこで,
74 Aは,
75 Bに対して,
76 適切な規模の冷蔵倉庫が見つ
77 かるまでの当面の保管場所として同人の所有する冷蔵倉庫甲を借りたいと伝えて,
78 交渉し,
79
80 の了承を得て,
81 同年8月27日,
82 冷蔵倉庫甲を,
83 賃料を月20万円とし,
84 賃借期間を同年9月
85 1日から1年間の約定で賃借する旨の契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。
86
87 )。
88
89
90 は,
91 翌28日,
92 冷蔵倉庫甲から本件ワイン以外の酒類を全て搬出し,
93 本件賃貸借契約の開始に
94 備えた。
95
96
97 3.令和3年8月30日未明,
98 冷蔵倉庫甲に隣接する家屋において落雷を原因とする火災が発生し,
99
100 高熱によって冷蔵倉庫甲の配電設備が故障した。
101
102 同日夕方頃に同火災は鎮火したが,
103 火災によ
104 る高熱に加え,
105 配電設備の故障によって空調機能を喪失していたことから,
106 冷蔵倉庫甲の内部
107 は異常な高温となり,
108 これによって本件ワインは飲用に適さない程度に劣化してしまった。
109
110
111 お,
112 同日深夜までに配電設備の修理は完了し,
113 冷蔵倉庫甲の空調機能は復旧し,
114 その使用には
115 何らの支障がなくなっている。
116
117
118 4.令和3年9月1日,
119 Bは,
120 Aに対して,
121 本件ワイン及び冷蔵倉庫甲の引渡しをしようとしたが,
122
123 Aはこれを拒絶した。
124
125
126 〔設問1〕
127 Aは,
128 本件ワイン売買契約及び本件賃貸借契約を解除したいと考えている。
129
130 Bからの反論にも言
131 及しつつ,
132 Aの主張が認められるかどうかを検討しなさい。
133
134
135 【事実(続き)】
136 5.Aは,
137 レストラン等に飲料及び食料品等を販売しており,
138 そのため大量の飲料及び食料品等を
139 貯蔵できる保管用倉庫丙を別に所有していた。
140
141 倉庫丙は,
142 冷蔵設備を備えた独立した建物であ
143 り,
144 内部には保管のための多くの棚が設置されていた。
145
146 Aは,
147 複数の製造業者や流通業者から
148 購入した飲料及び食料品を一旦倉庫丙に貯蔵し,
149 レストラン等からの注文があると,
150 注文の品
151 を取り出してレストラン等に配送していた。
152
153
154 6.Aは,
155 令和3年10月,
156 一時的に資金不足に陥ったため,
157 日頃から取引のあるCから5000
158
159 - 2 -
160
161 万円の融資を受けることになり,
162 AとCは,
163 同月1日,
164 金銭消費貸借契約を締結した(以下「本
165 件金銭消費貸借契約」という。
166
167 )。
168
169 本件金銭消費貸借契約を締結するに当たり,
170 AとCは,
171 以下
172 のような合意をした(以下「本件譲渡担保契約」という。
173
174 )。
175
176
177 @
178
179 Aは,
180 AのCに対する本件金銭消費貸借契約に係る貸金債務を担保するために,
181 倉庫丙内
182 にある全ての酒類(アルコール分1パーセント以上の飲料をいう。
183
184 以下同じ。
185
186 )を目的物と
187 して,
188 Cに対してその所有権を譲渡し,
189 占有改定の方法によって引き渡す。
190
191
192
193 A
194
195 Aは,
196 通常の営業の範囲の目的のために倉庫丙内の酒類を第三者に相当な価額で譲渡する
197 ことができる。
198
199
200
201 B
202
203 Aは,
204 Aにより倉庫丙内の酒類を第三者に譲渡した場合には,
205 遅滞なく同種同品質の酒類
206 を倉庫丙内に補充する。
207
208 補充された酒類は,
209 倉庫丙に搬入された時点で,
210 当然に@の譲渡
211 担保の目的となる。
212
213
214
215 7.令和3年10月15日,
216 Aは,
217 ウイスキーの流通業者Dから,
218 国産ウイスキー100ダース(以
219 下「本件ウイスキー」という。
220
221 )を1200万円で購入した(以下「本件ウイスキー売買契約」
222 という。
223
224 )。
225
226 AとDが締結した本件ウイスキー売買契約には,
227 以下のような条項が含まれていた。
228
229
230 @
231
232 本件ウイスキーの引渡しは,
233 同月20日とし,
234 代金の支払は引渡しの翌11月10日とす
235 る。
236
237
238
239 A
240
241 本件ウイスキーの所有権は,
242 代金の完済をもって,
243 DからAに移転する。
244
245
246
247 B
248
249 DはAに対して,
250 本件ウイスキーの引渡日以降,
251 本件ウイスキーの全部又は一部を転売す
252 ることを承諾する。
253
254
255
256 8.令和3年10月20日,
257 Dは,
258 本件ウイスキー売買契約に従って,
259 本件ウイスキーを倉庫丙に
260 搬入した。
261
262 本件ウイスキーは倉庫丙内の他の酒類とともに棚に保管されたが,
263 どのウイスキー
264 が本件ウイスキーかは判別できる状態にあった。
265
266
267 9.令和3年11月10日,
268 Aは,
269 本件ウイスキーの代金1200万円をDに支払わなかった。
270
271
272 のためDが,
273 本件ウイスキーの引渡しをAに対して求めたところ,
274 Aは,
275 Cから,
276 @倉庫丙内
277 の酒類は,
278 本件譲渡担保契約により担保の目的でCに所有権が譲渡され,
279 対抗要件も具備され
280 ていると主張されているとして,
281 本件ウイスキーの引渡しを渋っている。
282
283 これに対してDは,
284
285 A本件譲渡担保契約は何が目的物かもはっきりせず無効であること,
286 B仮に本件譲渡担保契約
287 が有効であるとしても,
288 本件ウイスキーには,
289 本件譲渡担保契約の効力が及ばないことなどを
290 主張している。
291
292
293 〔設問2〕
294 (1) Cは,
295 本件譲渡担保契約の有効性について,
296 第三者に対して主張することができるか,
297
298 【事実】
299 9の@の主張とAの主張に留意しつつ論じなさい。
300
301
302 (2) Dは,
303 Cに対して,
304 本件ウイスキーの所有権を主張することができるか,
305 【事実】9のBの主
306 張に留意しつつ論じなさい。
307
308
309
310 - 3 -
311
312 [商
313
314 法]
315
316 次の文章を読んで,
317 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
318
319
320 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
321
322
323 )は,
324 医療用検査機器等の製造販売を業とする取締役会設置会社
325 であり,
326 監査役設置会社である。
327
328 甲社は種類株式発行会社ではなく,
329 その定款には譲渡による甲社株
330 式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。
331
332 甲社の発行済株式の総数は100
333 0株であり,
334 昨年までは創業者であるAがその全てを保有していた。
335
336 Aは創業以来甲社の代表取締役
337 でもあったが,
338 昨年高齢を理由に経営の第一線から退いた。
339
340 Aの後任を選定する取締役会においては,
341
342 以前Aが他社から甲社の取締役として引き抜いてきたBが代表取締役に選定された。
343
344 また,
345 Aは,
346 退
347 任に際し,
348 Bと,
349 Aの子であるCに,
350 それぞれ100株を適法に譲渡した。
351
352 その結果,
353 甲社株主は8
354 00株を保有するAのほか,
355 100株ずつ保有するBとCの3名となった。
356
357 創業以来,
358 甲社において
359 株主総会が現実に開かれたことはなく,
360 役員等の選任は,
361 3年前の改選時も含め,
362 Aによる指名をも
363 って株主総会決議に代えていた。
364
365 また役員報酬や退職慰労金は,
366 役職や勤続年数に応じた算定方法を
367 定めた内規(以下「本件内規」という。
368
369
370 )を基に,
371 Aの指示によって支払われてきた。
372
373 そしてAの退任
374 時も本件内規に従った退職慰労金が支払われた。
375
376
377 2.甲社の定款では,
378 取締役の任期については「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のも
379 のに関する定時株主総会の終結の時まで」と規定されている。
380
381 また「代表取締役は取締役会決議によ
382 って定めるものとするが,
383 必要に応じ株主総会の決議によって定めることができる」旨の定めがある。
384
385
386 役員の報酬については定款に定められていない。
387
388 甲社の取締役は,
389 代表取締役社長であるBのほか,
390
391 代表権のない取締役であるC,
392 D及びEの計4名であった。
393
394
395 3.従来,
396 甲社の事業は,
397 医療用検査機器の製造販売が中心であったが,
398 次代の社長を自負するCは,
399
400 家庭用検査機器の製造販売を拡充すべきであると主張し,
401 度々Bと経営戦略について対立するように
402 なった。
403
404 またAも,
405 いずれはCに甲社を継がせたいと考えており,
406 少なくともBと同等の権限をCに
407 も与えるべきであると考えるようになっていた。
408
409
410 4.Aの意向を知ったCは,
411 Bら他の取締役の承諾を得ることなく,
412 自ら「代表取締役副社長」と名乗
413 って取引先と交渉するようになった。
414
415 さらに,
416 Cは,
417 Aと相談して了承を得た上で,
418 Cを代表取締役
419 に選定する臨時株主総会決議があったものとして株主総会議事録を作成し,
420 Cを代表取締役に追加す
421 る旨の登記申請をし,
422 その旨登記された。
423
424 これらCの一連の行動を,
425 Bら他の取締役が察知すること
426 はなかった。
427
428
429 5.そのような中,
430 Cは,
431 家庭用検査機器の製造販売を拡充するべく部品の調達先を確保しようと考え,
432
433 新たに乙株式会社(以下「乙社」という。
434
435
436 )と取引基本契約を締結することとした。
437
438 Cは,
439 甲社の代表
440 者印が常に経理担当従業員Fに預けられていることを知っており,
441 契約書に「代表取締役副社長C」
442 と記名してFに指示して代表者印を押印させた。
443
444 乙社の代表取締役は,
445 甲社の代表取締役副社長とし
446 て振る舞うCを信頼して取引に応じ,
447 この契約書に記名押印した。
448
449 その後,
450 乙社が甲社に対して供給
451 した部品の代金2000万円(以下「本件代金」という。
452
453
454 )の支払を請求したところ,
455 Cによる一連の
456 行動はBら他の取締役の知るところとなり,
457 BとCとの関係が更に悪化した。
458
459 Bは,
460 Cは適法な会社
461 代表者ではなく,
462 甲社は乙社と契約など締結していないとして,
463 本件代金の請求に応じない意向を示
464 している。
465
466
467 〔設問1〕
468 甲社に対して本件代金を請求するために,
469 乙社の立場において考えられる主張及びその当否につい
470 て,
471 論じなさい。
472
473
474
475 - 4 -
476
477 6.BとCとの対立は,
478 その後も激化の一途をたどり,
479 ついにCはBを代表取締役から解職することを
480 決意した。
481
482 Cは,
483 D及びEの協力を取り付けた上で適法な招集手続を経て取締役会を招集し,
484 Bの解
485 職と改めてCを代表取締役に選定する旨の決議が成立した。
486
487
488 7.Bは,
489 もはや甲社に自分の居場所はないと考え,
490 取締役を辞任することを決意した。
491
492 Aは強く翻意
493 を促したが,
494 Bは聞き入れず,
495 直後に開催された取締役会で取締役を辞任することを申し入れ,
496 了承
497 された。
498
499 Bに申し訳ないことをしたと感じていたAは,
500 Bを引き抜いた際,
501 取締役退任時には本件内
502 規に基づいて退職慰労金が支給されると説明したことを思い出し,
503 Fに対して,
504 本件内規に基づく退
505 職慰労金をBに支給することの検討を依頼した。
506
507 Fは,
508 この依頼に応じ,
509 本件内規に基づいて算定さ
510 れた金額である1800万円の退職慰労金(以下「本件慰労金」という。
511
512
513 )をBに支払った。
514
515
516 8.本件慰労金が支給されてから程なくしてAが死亡した。
517
518 Aが保有していた甲社株式800株は全て
519 Cが相続によって取得した。
520
521 Aの死後,
522 Cは,
523 Fから報告を受けた際,
524 Bに本件慰労金が支給された
525 ことを知った。
526
527 そこで,
528 Cは,
529 甲社として,
530 Bに対して本件慰労金の返還を請求することとした。
531
532
533 〔設問2〕
534 甲社のBに対する本件慰労金の返還請求の根拠及び内容について説明した上で,
535 これを拒むために,
536
537 Bの立場において考えられる主張及びその当否について,
538 論じなさい。
539
540
541
542 - 5 -
543
544 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
545 7:3)
546 次の文章を読んで,
547 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
548
549
550 【事例】
551 Xは,
552 Yに対して貸付債権を有していた(以下「本件貸付債権」という。
553
554
555 )が,
556 Xの本件貸付債権の
557 回収に資すると思われるのは,
558 Yがその母親から相続によって取得したと思われる一筆の土地(以下
559 「本件不動産」という。
560
561
562 )のみであった。
563
564 不動産登記記録上,
565 本件不動産は,
566 相続を登記原因とし,
567
568 とその兄であるZの,
569 法定相続分である2分の1ずつの共有とされていたが,
570 Xは,
571 YとZが遺産分
572 割協議を行い,
573 本件不動産をYの単独所有とすることに合意したとの情報を得ていた。
574
575
576 そこで,
577 Xは,
578 本件不動産のZの持分となっている部分について,
579 その所有者はZではなくYであ
580 ると主張し,
581 本件貸付債権を保全するため,
582 Yに代位して,
583 Zを被告として,
584 本件不動産のZの持分
585 2分の1について,
586 ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める
587 訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。
588
589
590
591
592
593
594 〔設問1〕
595 ((1)と(2)は,
596 独立した問題である。
597
598
599
600 (1) Yとしては,
601 Xの主張する本件貸付債権は既に弁済しており,
602 XY間には債権債務関係はないと
603 考えている。
604
605 他方,
606 本件不動産のZの持分の登記については,
607 遺産分割協議に基づいて,
608 自己に登
609 記名義を移転してほしいと考えている。
610
611
612 この場合に,
613 Yが本件訴訟に共同訴訟参加をすることはできるか,
614 訴訟上考え得る問題点を挙げ
615 て,
616 検討しなさい。
617
618
619 (2) Xの得ていた情報とは異なり,
620 YZ間の遺産分割協議は途中で頓挫していた。
621
622 そのため,
623 Yとし
624 ては,
625 Zに対して登記名義の移転を求めるつもりはない。
626
627 他方,
628 YがXY間には債権債務関係はな
629 いと考えている点は,
630 (1)と同様である。
631
632
633 この場合に,
634 Yが本件訴訟に独立当事者参加をすることはできるか,
635 訴訟上考え得る問題点を挙
636 げて,
637 検討しなさい。
638
639
640 〔設問2〕
641 〔設問1〕の場合と異なり,
642 本件訴訟係属中に,
643 XからYに対して訴訟告知がされたものの,
644 Yが
645 本件訴訟に参加することはなく,
646 XとZのみを当事者として訴訟手続が進行し,
647 その審理の結果,
648
649 の請求を棄却する旨の判決がされ(以下「本件判決」という。
650
651
652
653
654 同判決は確定した。
655
656
657 本件判決の確定後,
658 Yの債権者であるAは,
659 その債権の回収を図ろうとし,
660 Yの唯一の資産と思わ
661 れる本件不動産の調査を行う過程で,
662 既にXから本件訴訟が提起され,
663 Xの請求を棄却する本件判決
664 が確定している事実を初めて知った。
665
666
667 Aとしては,
668 本件不動産についてYの単独所有と考えており,
669 Yに代位して,
670 Zを被告として,
671
672 件不動産のZの持分2分の1について,
673 ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続
674 を求める訴えを提起することを検討しているが,
675 確定した本件判決の効力がAに及ぶのではないか,
676
677 という疑問を持った。
678
679
680 本件判決の効力はAに及ぶか,
681 本件判決の既判力がYに及ぶか否かの検討を踏まえて答えなさい。
682
683
684
685 - 6 -
686
687