1 論文式試験問題集
2 [刑法・刑事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [刑
7
8 法]
9
10 以下の事例に基づき,
11 甲及び乙の罪責について論じなさい(住居等侵入罪及び特別法違反の点を除く。
12
13
14
15
16
17
18 1 甲(50歳)は,
19 実父X(80歳)と共同して事業を営んでいたが,
20 数年前にXが寝たきり状態にな
21 った後は単独で事業を行うようになり,
22 その頃から売上高の過少申告等による脱税を続けていた。
23
24 甲は,
25
26 某月1日,
27 税務署から,
28 同月15日に税務調査を行うとの通知を受け,
29 甲が真実の売上高をひそかに記
30 録していた甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。
31
32
33 )を発見されないようにするため,
34 同月2日,
35 事情
36 を知らない知人のYに対して,
37
38 「事務所が手狭になったので,
39 今月16日まで書類を預かってほしい。
40
41
42
43 と言い,
44 本件帳簿を入れた段ボール箱(以下「本件段ボール箱」という。
45
46
47 )を預けた。
48
49
50 Yは,
51 本件段ボール箱を自宅に保管していたが,
52 同月14日,
53 甲の事業の従業員から,
54 本件帳簿が甲
55 の脱税の証拠であると聞かされた。
56
57 甲は,
58 税務調査が終了した後の同月16日,
59 Yに電話をかけ,
60 本件
61 段ボール箱を回収したい旨を告げたが,
62 Yから,
63
64 「あの帳簿を税務署に持っていったら困るんじゃないの
65 か。
66
67 返してほしければ100万円を持ってこい。
68
69
70 」と言われた。
71
72
73 甲は,
74 得意先との取引に本件帳簿が必要であったこともあり,
75 これを取り返そうと考え,
76 同日夜,
77
78 宅に忍び込み,
79 Yが保管していた本件段ボール箱をY宅から持ち出し,
80 自宅に帰った。
81
82
83 2 甲は,
84 帰宅直後,
85 Yから電話で,
86
87 「帳簿を持っていったな。
88
89 すぐに警察に通報するからな。
90
91
92 」と言われた。
93
94
95 甲は,
96 すぐに警察が来るのではないかと不安になり,
97 やむなく,
98 本件帳簿を廃棄しようと考えた。
99
100 甲は,
101
102 自宅近くの漁港に,
103 沖合に突き出した立入禁止の防波堤が設けられており,
104 そこに空の小型ドラム缶が
105 置かれていることを思い出し,
106 そのドラム缶に火をつけた本件帳簿を投入すれば,
107 確実に本件帳簿を焼
108 却できると考えた。
109
110 そこで,
111 甲は,
112 同日深夜,
113 本件段ボール箱を持って上記防波堤に行き,
114 本件帳簿に
115 ライターで火をつけて上記ドラム缶の中に投入し,
116 その場を立ち去った。
117
118
119 その直後,
120 火のついた多数の紙片が炎と風にあおられて上記ドラム缶の中から舞い上がり,
121 周囲に飛
122 散した。
123
124 上記防波堤には,
125 油が付着した無主物の漁網が山積みにされていたところ,
126 上記紙片が接触し
127 たことにより同漁網が燃え上がり,
128 たまたま近くで夜釣りをしていた5名の釣り人が発生した煙に包ま
129 れ,
130 その1人が同防波堤に駐車していた原動機付自転車に延焼するおそれも生じた。
131
132 なお,
133 上記防波堤
134 は,
135 釣り人に人気の場所であり,
136 普段から釣り人が立ち入ることがあったが,
137 甲は,
138 そのことを知らず,
139
140 本件帳簿に火をつけたときも,
141 周囲が暗かったため,
142 上記漁網,
143 上記原動機付自転車及び上記釣り人5
144 名の存在をいずれも認識していなかった。
145
146
147 3 甲は,
148 妻乙(45歳)と2人で生活していたところ,
149 乙と相談の上,
150 入院していたXを退院させ,
151
152 宅で数か月間,
153 その介護を行っていたが,
154 自力で移動できず回復の見込みもないXは,
155 同月25日から,
156
157 甲及び乙に対して,
158 しばしば「死にたい。
159
160 もう殺してくれ。
161
162
163 」と言うようになった。
164
165 甲は,
166 Xが本心から
167 死を望んでいると思い,
168 その都度Xをなだめていた。
169
170 しかし,
171 Xは本心では死を望んでおらず,
172 乙もX
173 の普段の態度から,
174 Xの真意を認識していた。
175
176
177 乙は,
178 同月30日,
179 甲の外出中,
180 Xの介護に疲れ果てたことから,
181 Xを殺害しようと決意し,
182 Xの居
183 室に行き,
184
185 「もう限界です。
186
187
188 」と言ってXの首に両手を掛けた。
189
190 これに対し,
191 Xは,
192 乙に「あれはうそだ。
193
194
195 やめてくれ。
196
197
198 」と言ったが,
199 乙は,
200 それに構わず,
201 殺意をもって,
202 両手でXの首を強く絞め付け,
203 Xは失
204 神した。
205
206 乙は,
207 その後も,
208 Xの首を絞め続け,
209 その結果,
210 Xは窒息死した。
211
212
213 甲は,
214 Xが失神した直後に帰宅し,
215 乙がXの首を絞めているのを目撃したが,
216 それまでのXの言動か
217 ら,
218 Xが乙に自己の殺害を頼み,
219 乙がこれに応じてXを殺害することにしたのだと思った。
220
221 甲は,
222 Xが
223 望んでいるのであれば,
224 そのまま死なせてやろうと考え,
225 乙を制止せずにその場から立ち去った。
226
227 乙は,
228
229 その間,
230 甲が帰宅したことに気付いていなかった。
231
232
233 仮に,
234 甲が目撃した時点で,
235 直ちに乙の犯行を止めてXの救命治療を要請していれば,
236 Xを救命でき
237 たことは確実であった。
238
239 また,
240 甲が乙に声を掛けたり,
241 乙の両手をXの首から引き離そうとしたりする
242
243 - 2 -
244
245 など,
246 甲にとって容易に採り得る措置を講じた場合には,
247 乙の犯行を直ちに止めることができた可能性
248 は高かったが,
249 確実とまではいえなかった。
250
251
252
253 - 3 -
254
255 [刑事訴訟法]
256 次の【事例】を読んで,
257 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
258
259
260 【事例】
261 令和2年10月2日午後2時頃,
262 H県I市所在のマンション内にあるV方に2名の男が侵入し,
263 金品を物
264 色中,
265 帰宅したVと鉢合わせとなり,
266 同男らのうち1名がナイフでVの腕を切り付けた上,
267 もう1名がV
268 の持っていたバッグを奪うという住居侵入,
269 強盗傷人事件が発生した。
270
271 Vは,
272 犯人らが立ち去った後,
273
274 ちに110番通報し,
275 同日午後2時20分頃,
276 制服を着用したI署の司法警察員PとQがV方に到着した。
277
278
279 Pらは,
280 Vから,
281 犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出した上,
282 管理人に依頼して同マンション
283 の出入口の防犯カメラ画像を確認した。
284
285 その結果,
286 同日午後2時1分頃に犯人らと特徴の一致する2名の
287 男が走り去っていく様子が映っており,
288 そのうち1名は被害品と特徴の一致するバッグを所持していた。
289
290
291 その後,
292 Pらは,
293 同男らの行方を捜した。
294
295
296 同日午後4時頃,
297 Pらは,
298 V方から直線距離で約5キロメートル離れた同市内の路上で,
299 犯人らと特徴の
300 一致する甲及びもう1名の男を発見した。
301
302 その際,
303 甲は,
304 被害品と特徴の一致するバッグを持っていた。
305
306
307 そこで,
308 Pは,
309 甲らに対し,
310
311 「I署の者ですが,
312 話を聞きたいので,
313 ちょっといいですか。
314
315
316 」と声をかけた。
317
318
319 すると,
320 甲らがいきなり逃げ出し,
321 途中で二手に分かれたことから,
322 Pらは,
323 前記バッグを持っていた甲
324 を追跡した。
325
326 甲は,
327 同バッグを投棄して逃走を続けたが,
328 Pらは300メートルくらい走ったところで甲
329 に追い付き,
330 同日午後4時3分頃,
331 @Pが甲を刑事訴訟法第212条第2項に基づき本件住居侵入,
332 強盗
333 傷人の被疑事実で逮捕した。
334
335 もう1名の男は,
336 発見には至らなかった。
337
338
339 甲は,
340 同日午後4時30分頃からI署で開始された弁解録取手続において,
341 本件の主任捜査官である司法
342 警察員Rに対し,
343
344 「私がV方で強盗をしてバッグを奪ったことは間違いない。
345
346 ナイフでVを切り付けたのは,
347
348 もう1人の男である。
349
350 そのナイフは,
351 警察に声をかけられる前に捨てた。
352
353 捨てた場所は,
354 地図で説明する
355 ことはできないが,
356 近くに行けば案内できると思う。
357
358 もう1人の男の名前などは言いたくない。
359
360
361 」旨述べた。
362
363
364 同日午後4時50分頃,
365 弁解録取手続が終了し,
366 Rは,
367 直ちに甲にナイフの投棄場所を案内させて,
368 ナイ
369 フの発見,
370 押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施しようと考え,
371 捜査員や車両の手配をし
372 た。
373
374
375 同日午後5時頃,
376 出発しようとしたRに対し,
377 甲の父親から甲の弁護人になるように依頼を受けたS弁護
378 士から電話があり,
379 同日午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出があった。
380
381 Rは,
382 S弁護士
383 が到着し,
384 接見を終えてから出発したのでは,
385 現場に到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれてい
386 たことから,
387 S弁護士に対し,
388 今から甲に案内させた上で実況見分を実施する予定があるため接見は午後
389 8時以降にしてほしい旨述べた。
390
391 これに対し,
392 S弁護士は,
393 本日中だと前記30分間以外には接見の時間
394 が取れず,
395 翌日だと午前9時から接見の時間が取れるが,
396 何とか本日中に接見したい旨述べた。
397
398 Rは,
399
400 き続きS弁護士と協議を行うも,
401 両者の意見は折り合わなかった。
402
403 そのため,
404 ARは,
405 S弁護士に対し,
406
407 接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えて通話を終えた上,
408 予定どおり甲を連れて実況見分に向か
409 った。
410
411 それまでの間,
412 甲は,
413 弁護人及び弁護人となろうとする者のいずれとも接見していなかった。
414
415
416 〔設問1〕
417 @の逮捕の適法性について論じなさい。
418
419
420 〔設問2〕
421 Aの措置の適法性について論じなさい。
422
423 ただし,
424 @の逮捕の適否が与える影響については論じなくてよい。
425
426
427
428 - 4 -
429
430