1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 1.本問は,
4 匿名表現の自由の制約(規制@),
5 結社の自由,
6 団体とその構成員の表現の自由・
7 プライバシーの権利の制約(規制A)の可否を問うものである。
8
9
10 規制@は,
11 集団行進(集団示威運動を含む)における公共の安全を害する行為の抑止を目
12 的に,
13 行進参加者が覆面や仮面等で顔を隠し容貌の確認を困難にする行為を禁止するもので
14 ある。
15
16 単に,
17 集団行進への参加の態様の制約にとどまらず,
18 匿名での表現の制約という問題
19 を含むことに留意する必要がある。
20
21
22 規制Aは,
23 公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,
24 そのような行為を助長する
25 団体の活動を把握し,
26 集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするという目的のもと,
27
28 集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観察対
29 象として指定するとともに,
30 当該団体がその活動のために利用している機関紙,
31 ウェブサイ
32 ト,
33 SNSのアカウント等について,
34 報告を義務付けるものである。
35
36 また,
37 上記の目的に加
38 えて,
39 団体の活動を観察対象とすることで,
40 団体の表現活動を抑止しようという狙いもうか
41 がえる。
42
43 かかる措置は,
44 結社の自由,
45 団体の表現活動・プライバシーの制約に加えて,
46 その
47 構成員の表現活動・プライバシーをも制約するものとなっている。
48
49
50 2.規制@については,
51 匿名で表現を行うことがどこまで憲法第21条で保障されるのかを踏
52 まえておく必要がある。
53
54 匿名表現の自由は,
55 基本書などでは必ずしも正面から論じられてい
56 ない。
57
58 しかし,
59 憲法第21条第1項は,
60 特に限定を付することなく幅広い表現行為を保障し
61 ており,
62 本問で問題となる表現行為についても,
63 顕名であるか匿名であるかを問わず,
64 保障
65 されているとみることができよう。
66
67 表現の匿名性は,
68 発信者情報開示の仕組みなどに関連し
69 て,
70 インターネット上の表現をめぐり議論となっている点でもあり,
71 その意義や問題を意識
72 して立論することは十分に可能であろう。
73
74 表現者が特定されない匿名での表現には,
75 弱い立
76 場の者であっても,
77 社会的圧力にさらされやすい表現行為を萎縮せずに行い得るといったメ
78 リットがあり,
79 表現の自由として保護する価値は高いと言える。
80
81 他方で,
82 顕名であれば行わ
83 ないような,
84 他者の権利を侵害する行為や違法行為などがなされるおそれもある。
85
86 以上のよ
87 うな問題の所在が把握できていれば,
88 匿名表現という言葉を使っていなくとも差し支えない。
89
90
91 匿名表現を正面から扱った最高裁判所の判例はないが,
92 報道関係者の取材源の秘匿について,
93
94 情報提供者の匿名性に配慮した判断を行っている決定(最決平成18年10月3日民集60
95 巻8号2647頁)がある。
96
97
98 規制@では,
99 集団行進における匿名表現の規制が問題となっている。
100
101 集団行進の自由は,
102
103 「動く集会」とみれば「集会の自由」の内容として,
104 あるいは「その他一切の表現の自由」
105 の一つとして,
106 位置付けることができる。
107
108 集団行進の規制については,
109 公安条例による集団
110 示威運動の規制をめぐる判決(新潟県公安条例事件,
111 最大判昭和29年11月24日刑集8
112 巻11号1866頁)や,
113 市民会館の利用拒否をめぐり「明らかな差し迫った危険の発生が
114 具体的に予見される」ことが必要だとした判決(泉佐野市民会館事件,
115 最判平成7年3月7
116 日民集49巻3号687頁)などが想起されよう。
117
118
119 規制@は,
120 集団行進について不許可としたり条件を付したりするものではない。
121
122 また,
123 顔
124 を隠す行為自体には,
125 特定のメッセージは込められていないとされており,
126 その限りでは,
127
128 表現内容に着目した規制が問題になるわけではない。
129
130 集団行進への参加の態様の規制であり,
131
132 ひとまずは,
133 内容中立的な規制とみることができよう。
134
135 ただし,
136 匿名での集団行進への参加
137 が禁止されており,
138 上記の匿名表現の意義を考えれば,
139 社会的圧力にさらされやすい表現行
140 為に対して強い萎縮効果を及ぼす規制となっている。
141
142 それだけに,
143 規制@の憲法適合性の判
144 断に当たっては,
145 匿名表現の意義を踏まえた慎重な検討が必要となる。
146
147
148 全国の大規模なデモで暴力行為が頻発し,
149 現実に身体や財産が侵害される事態が生じてい
150
151 - 1 -
152
153 ることからすると,
154 上記の立法目的は重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうと言え
155 よう。
156
157
158 一方,
159 この目的を達成するために採られる措置は,
160 暴力行為が発生する蓋然性などを考慮
161 せず,
162 暴力行為を行っている者や行うおそれが高い者だけでなく,
163 平穏に集団行進に参加し
164 ている者に対してまで一律に顔を隠す行為を禁止している。
165
166 かなり広範囲な規制であり,
167 ま
168 た,
169 その萎縮効果も無視できない。
170
171 「正当な理由」がある場合には顔を隠すことが許される
172 が,
173 その運用のいかんでは,
174 過剰な規制ともなり得る。
175
176
177 これに対して,
178 表現内容に着目した規制ではなく集団行進への参加の一態様を規制するに
179 すぎない,
180 顔を隠さなくてもメッセージは十分に伝達可能であり,
181 集団行進において匿名で
182 の表現行為を保障する必要性は高くない,
183 といった点を強調した議論を行うことも考えられ
184 る。
185
186 いわゆるデモ隊暴徒化論(東京都公安条例事件,
187 最大判昭和35年7月20日刑集14
188 巻9号1243頁)などを援用し,
189 規制@の必要性を根拠付けることもできる。
190
191
192 3.規制Aでは,
193 団体の指定の要件,
194 報告義務を課すこと、
195 さらには観察処分それ自体の合憲
196 性が問題となるが,
197 それらは一体をなしているから,
198 適切な判断枠組みを設定する前提とし
199 て,
200 規制A全体からどのような憲法上の権利の制約が生じているかを,
201 まずは検討すること
202 になろう。
203
204 制約される権利としては,
205 結社の自由,
206 表現の自由,
207 プライバシーの権利が考え
208 られる。
209
210 これら3つの権利の制約を論じる際には,
211 いくつかの構成があり得る。
212
213 例えば,
214 規
215 制対象となるのは表現活動を行っている団体であるから,
216 表現活動の制約を結社の自由の制
217 約として論じ,
218 それと関連付けて,
219 あるいはそれとは独立に,
220 団体のプライバシーの権利の
221 制約を論じることが可能である。
222
223 あるいは,
224 結社の自由それ自体の制約ではなく,
225 団体の表
226 現の自由・プライバシーの権利の制約を論ずることもあり得る。
227
228 さらに,
229 観察処分を受ける
230 こと自体が,
231 団体の表現の自由・プライバシーの権利の制約には解消されない団体の活動の
232 制約を含むとみるならば,
233 結社の自由の制約を,
234 他の2つの権利の制約とは別に検討するこ
235 とになろう。
236
237
238 結社の自由の制約が問題となる立法としては,
239 破壊活動防止法や,
240 無差別大量殺人行為を
241 行った団体を対象としたいわゆる団体規制法がある。
242
243 後者は,
244 規制Aと同様の観察処分につ
245 いて定めており,
246 下級審ではあるが,
247 同法の合憲性をめぐる裁判例(東京地判平成13年6
248 月13日判時1755号3頁)が本問でも参考となる。
249
250 ただし,
251 本問の法律案の骨子との違
252 いには留意する必要がある。
253
254 本問で規制対象となっている団体の危険性は,
255 団体規制法が対
256 象とする団体と比べると,
257 決して高いとは言えない。
258
259 規制の仕組みも異なっている。
260
261
262 報告義務の対象となるのは,
263 誰もが閲覧可能な表現に係るものである。
264
265 しかし,
266 団体の名
267 義が直接用いられていない場合には,
268 報告によって,
269 団体の構成員が特定されたり、
270 あるい
271 はその可能性が高まったりすることになる。
272
273 また,
274 観察処分を受け報告義務を課されること
275 が,
276 萎縮効果を生じさせ,
277 団体による表現活動の抑制につながる可能性もある。
278
279 なお,
280 個人
281 が利用しているウェブサイトやSNSのアカウントも,
282 団体の活動に用いられている場合に
283 は報告の対象となるので,
284 構成員の表現の自由やプライバシーの権利を制約する側面もある。
285
286
287 ウェブサイト,
288 SNS等には,
289 団体の主張や構成員の思想信条など,
290 個人の内面に関わる
291 情報が含まれ得る。
292
293 公権力によるこれらの情報の収集は,
294 団体及びその構成員双方のプライ
295 バシーの権利の制約となり得る。
296
297 プライバシーの意義や保護範囲をめぐっては,
298 前科照会事
299 件(最判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁),
300 指紋押捺訴訟(最判平成7年1
301 2月15日刑集49巻10号842頁),
302 住基ネット訴訟(最判平成20年3月6日民集6
303 2巻3号665頁)などの判決を参考として,
304 立論することが期待される。
305
306
307 本問の法律案の骨子は,
308 誰もが閲覧可能な表現に関して報告義務を課するにとどまり,
309 団
310 体規制法にある立入検査や構成員氏名等の報告義務は含んでおらず,
311 規制態様は必ずしも強
312 くないとみることもできる。
313
314 また,
315 団体規制法と同様に,
316 団体の政治的主張などではなく,
317
318
319 - 2 -
320
321 専ら公共の安全に対する団体の危険性に着目した規制である。
322
323 一方で,
324 誰もが閲覧可能なウ
325 ェブサイトやSNS等が対象とはいえ,
326 観察処分を受け,
327 報告義務を課されることで,
328 上記
329 のように,
330 団体や構成員の表現活動に対し無視できない影響が生じ得る。
331
332 また,
333 個人の内面
334 に関わる情報が収集され,
335 団体及び構成員の活動が把握され得る。
336
337
338 上記のような問題となる権利の重要性,
339 制約の態様などを考慮して,
340 規制Aの憲法適合性
341 を判断する適切な判断枠組みを設定する必要がある。
342
343
344 規制Aの目的は,
345 公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,
346 そのような行為を助
347 長する団体の活動を把握し,
348 集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするというもの
349 であり,
350 規制@と同様に,
351 重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうものと言えよう。
352
353
354 目的達成の手段としては,
355 まず,
356 団体の指定の要件が問題となる。
357
358 規制Aでは,
359 過去5年
360 間に公共の安全を害する行為で処罰された者の比率という客観的な指標を基準として,
361 実際
362 に問題を起こしている団体が規制対象となるような仕組みが採られている。
363
364 規制対象が一定
365 の危険性がある団体のみに絞り込まれているとみることもできる。
366
367 しかし,
368 ここで問題とな
369 る団体は,
370 組織の外延が曖昧であり,
371 構成員の把握は決して容易ではない。
372
373 規制目的を達成
374 する手段としての実効性には疑問も残る。
375
376 また,
377 過去5年間の行為を問題としていること,
378
379 処分期間が最長で1年に及ぶことから,
380 現在は危険性が低い団体が指定対象となる可能性が
381 ある。
382
383
384 報告義務の対象となるのは,
385 誰もが閲覧可能な機関紙,
386 ウェブサイト,
387 SNS等の情報に
388 とどまる。
389
390 とはいえ,
391 団体の活動に用いられている媒体について幅広く,
392 また1か月ごとの
393 報告が義務付けられており,
394 団体や構成員のプライバシーに係る情報が,
395 継続的かつ網羅的
396 に収集され,
397 把握されているという点には留意する必要がある。
398
399 継続的・網羅的な情報収集
400 の問題をめぐっては,
401 GPS捜査に関する判決(最大判平成29年3月15日刑集71巻3
402 号13頁)が参考となろう。
403
404
405 〔第2問〕
406 本問は,
407 A市の市道上で屋台営業を行うために必要な市道占用許可(道路法第32条第1項
408 第6号)を自ら取得せず,
409 他人の名義を借りて屋台営業を行ってきた者(以下「他人名義営業
410 者」という。
411
412 )であるBが,
413 名義貸し行為の一掃を目指すA市屋台基本条例(以下「本件条例」
414 という。
415
416 )の施行後も,
417 従前からの場所(以下「本件区画」という。
418
419 )で屋台営業を続けるため,
420
421 本件条例第25条所定の屋台営業候補者の公募に応募したところ,
422 A市長(以下「市長」とい
423 う。
424
425 )が本件区画についてBを屋台営業候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」
426 という。
427
428 )を行う一方で,
429 Cを屋台営業候補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」
430 という。
431
432 )を行ったという事例における法的問題について論じさせるものである。
433
434
435 〔設問1〕は,
436 本件不選定決定の処分性の有無を問うものである。
437
438 Bは屋台営業候補者の
439 公募に応募して本件不選定決定を受けたことから,
440 まずは,
441 本件条例及び本件条例施行規則の
442 仕組み(屋台営業候補者であることが市道占用許可の要件の一つとなっていること,
443 A市屋台
444 専門委員会(以下「委員会」という。
445
446 )は選定基準に則して推薦を行い,
447 それを受けて市長は
448 選定を行うこと,
449 市長は選定又は不選定の決定の通知を行うこと等)に即して,
450 屋台営業候補
451 者の選定が申請に対する処分に当たるか,
452 したがって本件不選定決定は申請拒否処分に当たる
453 かについて検討することが求められる。
454
455 他方で,
456 Bが最終的に求めているのは市道占用許可で
457 あるため,
458 本件不選定決定は中間段階の決定にすぎず,
459 処分に当たらないのではないかという
460 問題もある。
461
462 そこで,
463 本件不選定決定の処分性の有無については,
464 Bが市道占用許可を申請し
465 て不許可処分を引き出し,
466 その取消訴訟の中で本件不選定決定の違法性を争うといった訴訟手
467 段との比較も視野に入れて検討する必要がある。
468
469
470 〔設問1〕は,
471 市長が既にCに対して本件候補者決定を行っていることから,
472 Bが本件不
473
474 - 3 -
475
476 選定決定の取消しを求める訴えの利益が失われていないかを問うものである。
477
478 この問題につい
479 ては,
480 最判昭和43年12月24日民集22巻13号3254頁を参考にして,
481 BとC及び本
482 件不選定決定と本件候補者決定がいかなる関係にあるかを踏まえ,
483 本件不選定決定の取消判決
484 の効力によって生じることになる事態を正確に追跡し,
485 Bが屋台営業候補者に選定される可能
486 性が残っているかを検討することが求められる。
487
488
489 〔設問2〕は,
490 本件不選定決定の取消訴訟において主張すべき違法事由を問うものである。
491
492
493 まず,
494 本件不選定決定の違法事由を検討する前提として,
495 @本件条例の施行の際にBの地位へ
496 の配慮に欠ける点がなかったか,
497 A委員会の屋台営業候補者の推薦に係る判断に瑕疵はなかっ
498 たか(より具体的には,
499 屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せに不合理
500 な点はなかったか。
501
502 )という問題の検討が求められる。
503
504
505 @の問題については,
506 Bが本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきたという事実を踏ま
507 え,
508 市道占用許可は財産権保護の観点から更新が原則であるという解釈が成り立たないか,
509 屋
510 台営業において他人の名義を借りることは,
511 A市における実害や過去の取扱い,
512 道路法及び本
513 件条例で定める市道占用許可の要件に照らして,
514 営業の実績が全て法的な保護に値しなくなる
515 ほど悪質な行為と評価できるかといった検討を行うことが要求される。
516
517 この@の問題の検討の
518 結果を踏まえ,
519 市長が本件不選定決定を行う際に自身の公約を重視する一方でBの地位に更な
520 る配慮を行わなかったことについていかなる違法事由を主張すべきかが論じられるべきことに
521 なる。
522
523
524 Aの問題については,
525 委員会の申合せが本件条例施行規則第19条各号の選定基準に照らし
526 て是認することができるか,
527 また,
528 新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の利益
529 を不当に侵害することにならないかの検討が要求される。
530
531 前者は,
532 基本的に本件条例施行規則
533 第19条各号の解釈の問題であるが,
534 後者は,
535 とりわけ,
536 屋台営業候補者選定指針は目にした
537 ものの本件委員会の申合せを知るすべもなく公募に応募した者の権利保護といった観点からの
538 検討が期待される。
539
540 このAの問題の検討の結果を踏まえ,
541 最判昭和50年5月29日民集29
542 巻5号662頁を参考にして,
543 市長が本件不選定決定を行うことによって「特段の合理的な理
544 由」がないにもかかわらず委員会の推薦を覆したとの違法事由を主張し得るかが論じられるべ
545 きことになる。
546
547
548 【民事系科目】
549 〔第1問〕
550 1
551
552 設問1について
553
554
555
556 設問1は,
557 民法第192条及び第193条に関する基本知識を確認する趣旨の出題であり,
558
559 これらの規定がどのような関係に立つか,
560 指図による占有移転による即時取得は認められる
561 か,
562 盗品・遺失物につき被害者が回復請求をするまでの使用利益が誰に帰属するかなどにつ
563 いて理解を問うものである。
564
565
566
567
568
569 請求1については,
570 Aが占有者Cに対して甲の所有権に基づく返還請求権を行使するもの
571 であることを示す必要がある。
572
573 これに対し,
574 Cは,
575 下線部において,
576 Dが甲の所有権を即
577 時取得したことにより,
578 Aが所有権を喪失したとの抗弁を主張していると考えられ,
579 この抗
580 弁に言及することが求められる。
581
582 占有権原を有するとの抗弁を主張していると考える余地も
583 あるが,
584 仮にそのような主張をしようとする場合には,
585 使用貸主が所有権を有していること
586 が前提とされなければならず,
587 また,
588 使用借権は第三者対抗力を欠くから,
589 結局は,
590 Dが甲
591 を即時取得し,
592 それによってAが甲の所有権を喪失したことに言及する必要がある。
593
594
595 Dの即時取得が認められるかを解答するに当たっては,
596 即時取得の要件について,
597 本問に
598 おける具体的な事実に当てはめて検討することが必要になる。
599
600 その際,
601 要件の一部について
602 は推定が認められていること,
603 善意無過失の意義などについても触れておくことが望ましい。
604
605
606
607 - 4 -
608
609 本問においては「占有を始めた」という要件がポイントとなり,
610 Dは指図による占有移転に
611 よってその間接占有を承継取得したことを指摘する必要がある。
612
613
614 下線部におけるAの反論は,
615 指図による占有移転によっては即時取得に必要な「占有を
616 始めた」という要件は満たされないと主張するものであり,
617 観念的な占有の移転によっては
618 「占有を始めた」とはいえないことを指摘する趣旨のものであることを示す必要がある。
619
620 そ
621 の上で,
622 民法第192条の「占有を始めた」という要件が同法第178条の「引渡し」の要
623 件と区別されることから,
624 後者を満たしても前者を満たすとは当然にはいえないことも指摘
625 されていることが望ましい。
626
627
628 次に下線部におけるAの反論は,
629 甲が盗品であることから,
630 たとえ民法第192条の要
631 件が満たされるとしても,
632 同法第193条に基づき,
633 Aは甲の回復を求めることができると
634 いう趣旨を述べるものであると考えられる。
635
636 そこで,
637 甲が盗品であること,
638 Cが甲の「占有
639 者」であること,
640 Aによる回復請求は盗難の日から2年を経過していないことを指摘する必
641 要がある。
642
643 その際,
644 同条における「占有者」を同法第192条の「占有を始めた者」と同義
645 に解すべき理由がないことも示されていることが望ましい。
646
647 もっとも,
648 この点に関しては,
649
650 同法第193条と同法第192条の「占有者」を同義に解したうえで,
651 Dが「占有者」に当
652 たり,
653 Dとの使用貸借関係に基づき甲を占有するCはDと別個独自の地位を主張して甲の回
654 復請求を拒むことはできないとの説明や,
655 盗難時から2年間は同条による即時取得がそもそ
656 も生じ得ないとして,
657 同法第193条の要件のうち盗品であることと期間以外のものが充足
658 されているかどうかの検討を経ることなく,
659 Aは所有権に基づき甲の返還請求権を行使する
660 ことができ,
661 Aとの関係で占有権原を有しないCはこれを拒むことができないという説明も
662 考えられる。
663
664
665 請求1の当否を検討するに当たっては,
666 下線部からまでの各主張の趣旨を正確に理解
667 した上でそれぞれの当否を検討する必要がある。
668
669 まず,
670 下線部のAの反論に関しては,
671 そ
672 の当否についていずれの立場に立つにしても,
673 民法第192条の「占有を始めた」とは,
674 占
675 有者が「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得すること」を意味す
676 るものと解する判例準則(最判昭和35・2・11民集14巻2号168頁)が確立してい
677 ることを踏まえ,
678 下線部におけるAの反論の内容がこの判例準則の理解として適切である
679 かどうかについて理由を付して述べることが求められる。
680
681 そして,
682 Dによる即時取得の成否
683 について検討した上で,
684 民法第193条の適用の可否について検討し,
685 CはAからの甲の返
686 還請求を拒絶することができないという結論を述べる必要がある。
687
688
689
690
691 請求2では,
692 Cが甲の占有を開始した令和2年5月1日から甲をAに返還するまでの間の
693 使用利益が誰に帰属するかが問われている。
694
695 盗品・遺失物の占有者が占有の開始時から被害
696 者又は遺失者に目的物を返還するまでの間の使用利益の帰属について,
697 民法第194条が適
698 用される事例においては,
699 所有権帰属の観点ではなく,
700 同条の趣旨に基づき,
701 代価弁償の提
702 供があるまでの間の使用収益権が占有者に認められている(最判平成12・6・27民集5
703 4巻5号1737頁)。
704
705 しかし,
706 本問は同条の適用事例ではなく,
707 同法第193条が同法第
708 192条とどのような関係に立ち,
709 どのような効果を定めているのかが別途問題となり得る。
710
711
712 まず,
713 Aは,
714 Aに甲の所有権が帰属するという前提に立ち,
715 使用貸借契約に基づく占有権
716 原を主張することができないCに対し,
717 不当利得返還請求権に基づいて使用利益の返還を請
718 求していることを示す必要がある。
719
720
721 そこで,
722 民法第193条の趣旨に鑑み,
723 盗難又は遺失から回復請求がされるまでの間の所
724 有権が原権利者と占有者のいずれに帰属するかが問題になり,
725 この点について理由を付して
726 その結論を述べる必要がある。
727
728 判例は,
729 同条の効果について,
730 占有者がいったんその物につ
731 き即時取得した所有権その他の本権を回復するのではなく,
732 占有者が盗難又は遺失の時から
733 2年以内に被害者又は遺失主より回復の請求を受けない場合にはじめてその物の上に行使す
734
735 - 5 -
736
737 る権利を取得する趣旨を定めたものであると解している(大判大正10・7・8民録27輯
738 1373頁)。
739
740 原所有者帰属説によると,
741 CはBからDへの譲渡がされた後も無権原でAの
742 所有物である甲を占有し使用していたこととなり,
743 使用利益の返還に関しては同法第189
744 条及び第190条の定めに従うべきこととなる。
745
746 Cが善意であれば同法第189条第1項に
747 基づき甲の果実収取権を有し,
748 少なくとも回復請求をされるまでの使用利益についても返還
749 する必要がなく,
750 Aは,
751 令和2年5月1日以降回復請求がされるまでの間の甲の使用料相当
752 額の支払をCに求めることができない。
753
754 もっとも,
755 本権に基づく訴えに敗訴し,
756 悪意占有者
757 とみなされる場合,
758 Cは訴え提起時以降甲を返還するまでの使用料相当額の支払義務を負う。
759
760
761 なお,
762 甲を直接占有するCは「占有者」に当たり,
763 間接占有者としてBがかつて存在してい
764 た,
765 あるいは現にDが存在するとしても,
766 上記の結論に影響を及ぼさないことも併せて指摘
767 されることが望ましい。
768
769
770 占有者帰属説は,
771 回復請求の効果が遡及するという立場と将来に向かって効力を生ずると
772 いう立場に分かれ得るが,
773 効果が遡及するという立場からは,
774 甲の所有権はAの下にとどま
775 っていたことになるため,
776 AC間の法律関係は原所有者帰属説と同様に処理される。
777
778 他方,
779
780 将来に向かって効力を生ずるという立場を採る場合には,
781 占有者に使用収益権能が帰属する
782 以上,
783 占有者の主観的態様を問わず,
784 およそ原権利者がその間の使用利益相当額の支払請求
785 をすることができないとする結論が比較的に自然に導かれるが,
786 目的物の所有権の帰属と使
787 用利益の帰属が分離して規律されているとする見方もあり得ないではない。
788
789 いずれの立場で
790 あっても,
791 DがBから甲を譲り受ける令和2年5月15日以前の使用料相当額にかかる請求
792 に関しては,
793 Cは無権原占有であるという評価を免れないから,
794 この間の使用利益の返還に
795 ついては別途検討する必要がある。
796
797
798 2
799
800 設問2について
801
802
803
804 設問2は,
805 有償の役務提供契約が中途で終了した場合の法律関係を,
806 特にその場合の報酬
807 及び損害賠償について問うものである。
808
809 当該役務提供契約の性質決定に関して,
810 当該契約に
811 おける債務の内容及びその特徴を明らかにし,
812 民法の規定する役務提供型の契約類型の特質
813 を踏まえて,
814 当該契約の性質を決定することができるか,
815 また,
816 それを前提として,
817 その中
818 途終了の場合の報酬や損害賠償に関連する民法の規定の構造を理解しているか,
819 契約類型に
820 伴う異同について理解しているかを問うものである。
821
822
823
824
825
826 AE間の契約@は有償の役務提供契約であるところ,
827 雇用(労働契約)は使用者との間の
828 指揮命令関係の下での役務提供,
829 請負は仕事の完成という結果の保証,
830 委任は結果保証を伴
831 わない事務の委託と裁量ある他人の事務の処理をもって,
832 それぞれの特質と解されている。
833
834
835 AE間には,
836 使用者・労働者の指揮命令関係は認められず,
837 EはAから独立して役務を提供
838 するものであるから,
839 契約@の性質としてあり得るのは,
840 請負,
841 委任(法律行為でないこと
842 から準委任(民法第656条)),
843 またはいずれでもない非典型契約(無名契約)である。
844
845
846 契約@の性質をいずれと決定するかに当たっては,
847 それぞれの契約類型の特質とともに,
848
849 その特質に対応した契約@におけるEの役務提供の内容を明らかにすることが求められる。
850
851
852 すなわち,
853 請負の場合には,
854 何をもって仕事の完成・結果保証といえるのか,
855 委任の場合に
856 は,
857 何をもってAの事務の委託あるいは裁量ある事務の処理といえるのか,
858 また,
859 無名契約
860 の場合は典型契約の類型に該当しないという判断がどのように基礎付けられるのかを,
861 Eの
862 債務内容に照らして明らかにする必要がある。
863
864
865 契約@の性質の決定に当たっては,
866 月額報酬と成果報酬が組み合わされているという契約
867 @における報酬の定め方の捉え方も手がかりとなるため,
868 契約@におけるEの債務内容の確
869 定とその特質の抽出,
870 契約@の性質決定においては,
871 報酬の定め方を通じて,
872 これらの報酬
873 が何に対して支払われるものかについても考慮することが望ましい。
874
875
876
877
878
879 Aによる契約@の解除の性質は,
880 任意解除権の行使によるものであると考えられる。
881
882 請負,
883
884
885 - 6 -
886
887 委任については,
888 民法に任意解除権に関する規定が設けられている。
889
890 無名契約であるときは,
891
892 そのルール自体を構築していく必要があるが,
893 Aのための役務提供であることなどに鑑み,
894
895 請負や委任等の規定を手掛かりとして,
896 少なくとも,
897 Aからの解除は認められると論じるこ
898 とになろう。
899
900 それぞれの立場から,
901 根拠条文の要件を踏まえ,
902 【事実】に即して当てはめる
903 必要がある。
904
905
906 Aの解除を債務不履行解除とみる余地がないわけではないが,
907 Eが提供する役務の性質上,
908
909 Eには相当の裁量が認められるものと解されるので,
910 Aによる改善要求が抽象的なものにと
911 どまっていることも考慮すると,
912 Eによる講座の運営がその裁量を逸脱したものとして債務
913 不履行に当たると評価することは,
914 結論的には困難であると考えられる。
915
916
917
918
919 AE間の報酬の取決めは,
920 Eによる本件講座の提供に対して月々の報酬と,
921 Aの従業員で
922 ある受講者の乙検定の合格者数に応じた成果の報酬(成功報酬)という2本立てでされてい
923 る。
924
925 Eの請求3は,
926 Aによる契約@の解除に伴い,
927 講座提供がされた8月分について未払報
928 酬の支払を求めるものである。
929
930
931 報酬については,
932 準委任の場合も請負の場合も役務提供が先履行であり後払いが原則であ
933 る(民法第648条第2項,
934 第633条)。
935
936 約定の月額報酬については,
937 契約@を準委任と
938 みる考え方においては,
939 民法第648条第2項ただし書により準用される同法第624条第
940 2項により,
941 期間経過後に報酬を請求することができる。
942
943 もっとも,
944 対応する期間に履行が
945 されていることが前提であるから,
946 Eの役務提供が契約に適合した債務の履行であったかが
947 問題となり,
948 債務不履行の該当性を判断することになる。
949
950 請負の場合は,
951 民法第633条た
952 だし書・第624条第1項により,
953 約定の役務提供が終わった後でなければ報酬を請求する
954 ことができない。
955
956 仕事完成前の解除がされた場合には,
957 同法第634条により,
958 既にした役
959 務提供によってAが利益を受けているかどうかが問題となる。
960
961 5か月の役務提供をもって仕
962 事の完成とみるか,
963 月々の講義・役務提供が5か月分用意されるものとみるかによって中途
964 解約であるかどうかが異なり,
965 報酬の根拠条文が異なるため,
966 Eの債務内容に即して根拠条
967 文及び請求の可否を示す必要がある。
968
969 その前提として,
970 債務の履行が必要であることは準委
971 任の場合と同様である。
972
973
974
975
976
977 請求4の120万円の支払請求は,
978 役務提供がされていない9月分,
979 10月分についてそ
980 の月額報酬相当分を損害賠償として請求するものと考えられる。
981
982 また,
983 通学講座における代
984 替講師のこの間の報酬40万円の支払は,
985 Eが9月・10月の履行の準備のために支出を余
986 儀なくされたものであり,
987 約定どおりの報酬が得られたならばそれに織り込まれる性格の支
988 出である。
989
990
991 中途解除の場合の損害賠償については,
992 任意解除の場合,
993 契約@が準委任であれば民法第
994 651条第2項によることになる。
995
996 したがって,
997 Eに不利な時期の解除であるとき,
998 契約@
999 が受任者Eの利益をも目的とするものであるときのいずれかの場合には,
1000 AはEに対しその
1001 損害を賠償しなければならない。
1002
1003 設問では,
1004 Eは,
1005 期間全体にわたり他の講座を断り(他の
1006 収入機会の喪失),
1007 また,
1008 代替要員の手配(準備費用投下)などを行っており,
1009
1010 「不利な時期」
1011 の解除に該当する余地がある。
1012
1013 そのため,
1014 同項第1号にいう「不利な時期」とは何を指すの
1015 かを明らかにしつつ,
1016 本件のそれらへの該当性を判断し,
1017 また,
1018 それぞれの場合の損害賠償
1019 の内容について検討する必要がある。
1020
1021 損害賠償を認める場合,
1022 まず,
1023 具体的に何が損害賠償
1024 の範囲に含まれるかを示す必要がある。
1025
1026 損害賠償の範囲は不利な時期に解除したことによる
1027 損害に限られるというのが通説であり,
1028 そのように解釈される理由についても示すことが望
1029 ましい。
1030
1031 また,
1032 委任契約が解除されなければ受任者が得たであろう利益から受任者が債務を
1033 免れることによって得た利益を控除する必要がある。
1034
1035
1036 同項第2号の「受任者の利益」については,
1037 報酬を得るだけでは該当しないことが明文化
1038 されている。
1039
1040 設問では,
1041 それ以外に受任者の利益として評価できる事実は見受けられない。
1042
1043
1044
1045 - 7 -
1046
1047 任意解除の場合のEの損害賠償請求については,
1048 これらについても言及することが望ましい。
1049
1050
1051 準委任の場合には,
1052 損害賠償の成否は「やむを得ない事由」の存否に左右されるため(民
1053 法第651条第2項柱書ただし書),
1054 それについて検討する必要がある。
1055
1056
1057 請負の場合は,
1058 完成前に解除されたと捉えるのであれば民法第641条により損害賠償が
1059 必要であり,
1060 その場合の損害賠償は履行利益賠償となる。
1061
1062 したがって,
1063 Eは,
1064 9月分,
1065 10
1066 月分について,
1067 報酬から節約できた費用を差し引いた分を請求でき,
1068 一方,
1069 10月分につい
1070 て他所の講座を引き受けたことで得た報酬分は,
1071 損益相殺によって差し引くことになる。
1072
1073
1074 無名契約の場合には,
1075 請負と委任のいずれに引き付けて考えるかによる。
1076
1077
1078 3
1079
1080 設問3について
1081
1082
1083
1084 設問3は,
1085 連帯保証ないし共同保証に関する条文と判例を正確に理解し,
1086 これを事例の解
1087 決のために適切に用いることができるかを問うものである。
1088
1089
1090
1091
1092
1093 小問は,
1094 保証人が債権者からの請求を拒絶することのできる事由について問うものであ
1095 る。
1096
1097
1098 HはFに対して保証債務の履行を請求しているが,
1099 本問を検討する上では,
1100 まずHのFに
1101 対する500万円の支払請求についての請求原因を明らかにしておくことが求められる。
1102
1103 H
1104 のFに対する請求の根拠(請求原因)は,
1105 AがHとの間で諾成的消費貸借契約である契約A
1106 を締結し,
1107 借入金500万円の交付を受けたこと,
1108 Fは,
1109 Hとの間で本件債務を連帯保証す
1110 る旨の契約Bを書面により締結していることである。
1111
1112
1113 Fは,
1114 Hによる保証債務の履行請求に対して,
1115 まず,
1116 保証債務の消滅時効を援用し,
1117 債務
1118 の全額の支払を拒むことが考えられる。
1119
1120 また,
1121 Fとしては主債務の時効消滅を援用すること
1122 もでき(民法第145条括弧書),
1123 主債務が消滅すれば,
1124 付従性によって保証債務も消滅す
1125 る。
1126
1127 解答に当たっては,
1128 関連条文を示しながら,
1129 事実に即して消滅時効を主張することの可
1130 能性を指摘することが求められる。
1131
1132
1133 本問では,
1134 Aが令和10年6月20日に弁済の猶予を求める書面を送付して債務を承認し
1135 ており,
1136 これによって時効は更新されている(民法第152条第1項)。
1137
1138 本問の場合,
1139 令和
1140 15年5月10日の時点では,
1141 それから5年は経過していないので,
1142 消滅時効は完成してい
1143 ないことになる。
1144
1145 Fが自身の負う保証債務の消滅時効を援用しようとしても,
1146 主債務者によ
1147 る時効の更新は保証人に対してもその効力を生ずるものとされているため,
1148 これは認められ
1149 ない。
1150
1151 また,
1152 Fが主債務の消滅時効を主張しようとする場合も,
1153 主債務について消滅時効の
1154 更新がされており,
1155 保証人はこれを否定することができないから,
1156 やはり認められない。
1157
1158 F
1159 がどちらの債務の消滅時効を援用するか,
1160 ということと,
1161 Aの債務承認による時効更新の影
1162 響が同債務にどのように及ぶのか,
1163 ということとが矛盾なく説明されている必要がある。
1164
1165 こ
1166 こでは,
1167 主債務者の債務承認による時効更新の保証債務に対する影響関係が理解できている
1168 かが問われることとなる。
1169
1170
1171 次に,
1172 AはHに対して絵画丙の売買契約による100万円の売買代金債権を有しており,
1173
1174 Aが本件債務についてこの売買代金債権を自働債権とする相殺権を有していることを理由と
1175 して,
1176 保証人であるFは,
1177 100万円分の支払を拒むことが考えられる(民法第457条第
1178 3項)。
1179
1180 ここでは,
1181 主債務者の相殺権をもってする履行拒絶の可能性とその根拠条文が摘示
1182 されている必要がある。
1183
1184
1185 もっとも,
1186 AがHに対して有する売買代金債権の弁済期は令和4年8月31日であり,
1187 令
1188 和15年5月10日の時点ではそれから11年が経過しているため,
1189 FがAの相殺権を理由
1190 として履行を拒絶した場合,
1191 Hとしては,
1192 自働債権が時効消滅しており,
1193 Aの相殺(ひいて
1194 は,
1195 そのことに基づくFの履行拒絶)は認められない,
1196 と主張することが考えられる。
1197
1198 時効
1199 によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには,
1200 自働債権の消滅時効期間経過
1201 以前に受働債権と相殺適状にあったことを要し,
1202 そのためには受働債権の弁済期が現実に到
1203
1204 - 8 -
1205
1206 来していたことを要するとした判例があり(最判平成25・2・28民集67巻2号343
1207 頁),
1208 解答に当たっては,
1209 この判例を正しく理解している必要がある。
1210
1211 単に判例の結論を知
1212 っていてそれを問題の事例に当てはめる,
1213 というだけでなく,
1214 なぜそのような解釈が採られ
1215 るべきなのか,
1216 そして判例と同じ結論が本問の事例においても妥当するのかを説明すること
1217 が求められる。
1218
1219
1220
1221
1222 小問は,
1223 連帯保証人と主債務者,
1224 共同連帯保証人との関係について,
1225 弁済をした連帯保
1226 証人がすることのできる求償の範囲を問うものである。
1227
1228
1229 連帯保証債務の弁済をしたFは,
1230 主債務者Aに対して求償をすることができる。
1231
1232 FがAの
1233 委託を受けない保証人であるため,
1234 求償の根拠は,
1235 民法第462条第1項ないし事務管理に
1236 基づく費用償還請求(同法第702条第1項)に求められる。
1237
1238 求償が認められる範囲につい
1239 ては,
1240 同法第462条第1項が準用する同法第459条の2第1項により,
1241 主債務者が弁済
1242 の当時利益を受けた限度となる。
1243
1244 このことから,
1245 FはAに対して弁済以後の法定利息や費用
1246 等までは請求できないことを示したうえで,
1247 求償額が300万円となることを説明すること
1248 が求められる。
1249
1250
1251 共同保証人のうちの1人が自己の負担部分を超える額を弁済したときは,
1252 他の共同保証人
1253 に対して求償をすることができる(民法第465条第1項)。
1254
1255 共同保証人間の求償の場合は,
1256
1257 弁済額が負担部分を超えていなくても負担部分の割合に応じて認められるという連帯債務者
1258 間の求償とは要件が異なり,
1259 負担部分を超える額を弁済したことが必要である。
1260
1261 本問におい
1262 ては,
1263 FがHにした300万円の弁済が自己の負担部分を超えるものであるならば,
1264 FはG
1265 に対してその分の求償をすることができる。
1266
1267
1268 そこで,
1269 共同保証人の内部的負担割合は特約等がなければ各自平等となること,
1270 Fが債権
1271 者から一部免除を得ていることを踏まえて,
1272 本問における具体的な事実関係に当てはめてF
1273 の負担部分を算出し,
1274 その上で求償の可否及び求償権の額を解答することが求められる。
1275
1276 F
1277 がHにした免除がGをも免除する趣旨のものと解すべき事情が認められない限り,
1278 当該免除
1279 があってもFとGの内部的負担部分は各250万円のままであり,
1280 Fとしては,
1281 弁済をした
1282 300万円から250万円を差し引いた50万円をGに対して求償できることとなる。
1283
1284
1285
1286 〔第2問〕
1287 1
1288
1289 本問は,
1290 公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。
1291
1292 )において,
1293 @代表取締
1294 役が当該株式会社を代表して当該代表取締役が個人として負う債務を連帯して保証する旨の
1295 合意をした場合に,
1296 当該株式会社がその連帯保証債務の履行を拒絶するために考えられる法
1297 的な主張としてどのようなものがあり,
1298 そのような主張が認められるのかを問うとともに(設
1299 問1),
1300 A誰が株主であるかが争われている場合に,
1301 具体的な事実関係の下でどのように株
1302 主を認定すべきか(設問2),
1303 B議決権の行使を委任することができる代理人を株主に限る
1304 旨の定款の規定がある場合に株主ではない弁護士が代理人として議決権を行使することの可
1305 否や,
1306 株主である株式会社の代表取締役がその内部的制限に反して当該株式会社を代表して
1307 議決権を行使することの可否といった株主総会における議決権行使の在り方(設問3)を問
1308 うものである。
1309
1310 いずれについても,
1311 会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前
1312 提に,
1313 問題点を適切に分析した上で,
1314 具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができ
1315 るか否かを問うものである。
1316
1317
1318
1319 2
1320
1321 設問1においては,
1322 甲社としては,
1323 @Aが甲社の代表取締役として締結した本件連帯保
1324 証契約は,
1325 利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第3号)に該当し,
1326 取
1327 締役会設置会社である甲社においてはその取締役会の承認が必要であった(同法第365
1328 条第1項)のに,
1329 取締役会の承認を得ていないので無効(甲社に効果不帰属)である,
1330 A
1331 本件連帯保証契約は,
1332 多額の借財(同法第362条第4項第2号)又は重要な業務執行(同
1333
1334 - 9 -
1335
1336 項柱書)に該当し,
1337 取締役会設置会社である甲社においてはその取締役会によって決定さ
1338 れなければならなかったのに,
1339 取締役会によって決定されていないので無効(甲社に効果
1340 不帰属)であるなどと主張して,
1341 本件連帯保証契約に基づく債務の履行を拒絶することが
1342 考えられる。
1343
1344 なお,
1345 甲社としては,
1346 上記@及びAのいずれかの主張が認められれば,
1347 上記
1348 債務の履行を拒絶することができることになる。
1349
1350
1351
1352
1353 甲社の上記@の主張の当否を論ずるに当たっては,
1354 本件連帯保証契約が間接取引に該当
1355 するものであるにもかかわらず,
1356 甲社の取締役会の承認がないことを指摘した上で,
1357 取締
1358 役会の承認がない間接取引の効力について,
1359 判例(最判昭和43年12月25日民集22
1360 巻13号3511頁)を踏まえて検討することが求められる。
1361
1362
1363
1364
1365
1366 続いて,
1367 甲社の上記Aの主張の当否を論ずるに当たっては,
1368 まず,
1369 甲社の財務状況や本
1370 件連帯保証契約に係る主債務の額等の本問の事実関係に照らし,
1371 多額の借財又は重要な業
1372 務執行に当たるか否かを検討することが求められる。
1373
1374 本問の事実関係からすると,
1375 これら
1376 に当たると判断することが一般的であると考えられることから,
1377 更に進んで,
1378 甲社の取締
1379 役会によって決定されていないことを指摘した上で,
1380 その場合の効力について,
1381 判例(最
1382 判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)を踏まえて検討することになる。
1383
1384
1385
1386
1387
1388 上記@及びAの主張のいずれにおいても,
1389 判例の立場に立って検討する場合には,
1390 本件
1391 連帯保証契約の相手方である乙社の主観面の検討が必要となる。
1392
1393 まずは,
1394 本件連帯保証契
1395 約を締結することが間接取引に該当することや,
1396 多額の借財又は重要な業務執行に該当す
1397 ることについての乙社の認識を検討することになるが,
1398 前者については,
1399 本件連帯保証契
1400 約の内容からして乙社の悪意が認められるのが自然であろうし,
1401 後者についても,
1402 甲社の
1403 財務状況の概要を確認したという本問の事実関係からすると,
1404 乙社の悪意が認められるの
1405 が自然であろう。
1406
1407 その上で,
1408 取締役会の決議がないことについて,
1409 自らが立てた規範に沿
1410 って,
1411 過失又は重過失の有無を中心に検討することになる。
1412
1413 その際には,
1414 取引をめぐるこ
1415 れまでの経緯や本件連帯保証契約に関するやりとりに関する事実関係を丁寧に拾い,
1416 それ
1417 らに対する評価を加えながら検討することが求められる。
1418
1419 例えば,
1420 甲社との取引を望む小
1421 さな事業会社である乙社の代表取締役としては,
1422 本件確認書が交付されたにもかかわらず
1423 取締役会の議事録の写しを強く求めることは困難であったことなどを指摘して,
1424 過失又は
1425 重過失がないと評価することも考えられよう。
1426
1427
1428
1429 3
1430
1431 設問2においては,
1432 Cとしては,
1433 名義上の引受人ではなく,
1434 実質上の引受人が株主にな
1435 るという考え方を前提に,
1436 本件株式について,
1437 引受けの申込みなど引受契約の締結に至る
1438 までCの主導で行われてきたこと,
1439 Cの貯金から払い込まれたこと,
1440 その発行に至る経緯
1441 及び本件株式に係る権利を行使してきたのはCであることなどの本問の事実関係を指摘し
1442 て,
1443 自らが実質上の引受人であって本件株式の株主であると認定されるべきであるなどと
1444 主張することが考えられる。
1445
1446
1447
1448
1449
1450 Cの上記主張の当否を検討するに当たっては,
1451 まず,
1452 本問のような場合に誰を株主と認
1453 定するのかについての考え方を検討する必要がある。
1454
1455 すなわち,
1456 株式の申込みや引受けに
1457 際して名義に現れた者が株主であると考えるのか(いわゆる形式説),
1458 名義が誰であるか
1459 にかかわらず,
1460 一般私法上の法律行為の場合と同じく,
1461 実質上の引受人が株主となると考
1462 えるのか(いわゆる実質説),
1463 といった考え方の対立がある中で,
1464 どのような考え方に立
1465 脚するのかを検討する必要がある。
1466
1467
1468 実質説に立つ場合には,
1469 本問の事実関係を拾いつつ,
1470 それらを適切に評価して結論を導
1471 く必要がある。
1472
1473 本問では様々な事実関係があるが,
1474 払込金額がCの貯金によって賄われた
1475 こと,
1476 「従業員や取引先の手前,
1477 多少の株式を持っておく必要がある」や「金のことは心
1478 配しなくていい」といったCの発言,
1479 甲社の株主総会においてAを引受人とする決議がさ
1480 れたこと,
1481 本件株式の引受けに係る書面に記載された名義はAであったこと,
1482 Aが甲社の
1483
1484 - 10 -
1485
1486 役員に就任した経緯,
1487 Cが本件株式に係る権利を行使してきたことなどの各事実について,
1488
1489 単に事実を列挙するだけでなく,
1490 それぞれについての評価を加えた上で結論を導くことが
1491 求められる。
1492
1493 例えば,
1494 「金のことは心配しなくていい」というCの発言については,
1495 Aに
1496 対して払込金額に相当する金銭を贈与する趣旨であったという方向で評価することもでき
1497 るし,
1498 本件株式の実質的な引受人はCであって名義のみAとしたにすぎないという方向で
1499 評価することもでき,
1500 いずれの方向であっても,
1501 自分なりに事実に対する評価を加えて結
1502 論を導き出すことが求められる。
1503
1504 さらに,
1505 本件株式を引き受けた時点における実質的な引
1506 受けの意思が問題となることに意識した上で,
1507 その後の事情については当時の意思を推認
1508 させるものであるなどの評価を加えながら検討するといったように,
1509 より実務的な観点か
1510 らの考察が加えられていると,
1511 なお望ましい。
1512
1513
1514 他方で,
1515 形式説に立つ場合には,
1516 判例(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2
1517 448頁)が実質説を採用していると評価されていることを踏まえ,
1518 より説得的な論述が
1519 望まれる。
1520
1521 例えば,
1522 その根拠として,
1523 集団的関係における画一的な取扱いの必要性や,
1524 非
1525 公開会社においては名義に現れない実質上の引受人を株主とすることによって閉鎖性を維
1526 持することができなくなることを指摘したり,
1527 事実関係として,
1528 本件株式の引受けの申込
1529 みをする際に提出すべき書面(会社法第203条第2項)の名義がAであることや,
1530 甲社
1531 の株主総会において本件株式をAに発行する旨の決議がされたことを指摘したりすること
1532 により,
1533 説得的な論述を展開することが望ましい。
1534
1535
1536 4
1537
1538 設問3においては,
1539 Aとしては,
1540 @他の株主1名を代理人としてその議決権を行使する
1541 ことができる旨の定款の規定(以下「本件定款規定」という。
1542
1543 )に基づいてDの代理人で
1544 ある弁護士Gによる議決権の行使が認められなかったこと,
1545 A丙社の内規に従って包括委
1546 任状が提出されていたにもかかわらず,
1547 内規によって権限が制限されているFによる議決
1548 権の行使が認められ,
1549 包括委任状に基づくAの議決権行使が認められなかったことが,
1550 そ
1551 れぞれ決議の方法が法令に違反する場合(会社法第831条第1項第1号)に該当すると
1552 主張することが考えられる。
1553
1554 なお,
1555 上記@及びAのいずれについても,
1556 株主総会決議取消
1557 しの訴えを提起したAではないD又は丙社の議決権の行使に関する事由であることから,
1558
1559 株主総会決議取消しの訴えにおいて他の株主に係る事由を主張できることが前提となる
1560 し,
1561 仮に法令違反が肯定されるとすれば,
1562 「決議に影響を及ぼさないもの」(同条第2項)
1563 には当たらず,
1564 裁量棄却はされないものと考えられることから,
1565 これらの点についても言
1566 及されていることが望ましい。
1567
1568 また,
1569 Aとしては,
1570 上記@及びAのいずれかが認められれ
1571 ば,
1572 本件決議の取消しが認められることになる。
1573
1574
1575
1576
1577
1578 Aの上記@の主張の当否を論ずるに当たっては,
1579 株主は,
1580 代理人によってその議決権を
1581 行使することができるものとされていること(会社法第310条第1項)を前提に,
1582 他の
1583 株主1名を代理人としてその議決権を行使することができるという本件定款規定の有効性
1584 及び適用範囲について,
1585 判例(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁等)
1586 を踏まえて検討することが求められる。
1587
1588 その際には,
1589 Dの代理人であるGが弁護士である
1590 こと,
1591 甲社が非公開会社であることなどの本問の事実関係を踏まえ,
1592 これらの事実関係が
1593 どのように影響するのかについての考察を加えながら検討することが求められる。
1594
1595 例えば,
1596
1597 Gが弁護士であるという点については,
1598 一般的には本件定款規定のような議決権の行使に
1599 係る代理人資格の制限は有効ではあるものの,
1600 弁護士であるGが代理人とされている本問
1601 においては適用されるべきではないといった指摘をすることが考えられる一方,
1602 職種によ
1603 り株主総会のかく乱のおそれを個別に判断すれば,
1604 円滑な総会運営を阻害し,
1605 恣意的な判
1606 断を招くおそれがあることを理由に,
1607 弁護士であるGにも本件定款規定は適用されるとす
1608 る立場に立つことも考えられる。
1609
1610 また,
1611 甲社が非公開会社であるという点については,
1612 そ
1613 れゆえに株主ではない第三者の株主総会への参加を排除する必要があるということもでき
1614
1615 - 11 -
1616
1617 る一方で,
1618 本問のように株主間で対立がある場合には代理人を株主に限ることによって株
1619 主権の代理行使の機会を実質的に奪うことになりかねないということもできるところであ
1620 る。
1621
1622 いずれにしても,
1623 これらの事実関係が,
1624 本件定款規定の有効性や適用範囲にどのよう
1625 に影響するのかを具体的に考察することが望まれる。
1626
1627
1628
1629
1630 続いて,
1631 Aの上記Aの主張の当否を論ずるに当たっては,
1632 まず,
1633 丙社の内規によれば,
1634
1635 甲社の株式の議決権行使については他の代表取締役であるEに委ねられることとなるが,
1636
1637 Fも,
1638 「副社長」ではあるものの,
1639 丙社の代表取締役であって,
1640 丙社の業務に関する一切
1641 の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しており(会社法第349条第4項),
1642 上記内
1643 規は,
1644 代表取締役であるFのこのような権限を内部的に制限するものであって善意の第三
1645 者に対抗することができないということ(同条第5項)を指摘する必要がある。
1646
1647 その上で,
1648
1649 上記内規による代表権の制限が第三者である甲社との関係で問題となることを前提に,
1650 本
1651 問の事実関係を踏まえて,
1652 甲社の主観面を検討した上で結論を導くことが求められる。
1653
1654 そ
1655 の際には,
1656 議決権行使という集団的権利行使の場面であること,
1657 他方で,
1658 甲社が株主数の
1659 少ない閉鎖的な非公開会社であることなどの事情がどのように影響するのかについても検
1660 討することができれば,
1661 なお望ましい。
1662
1663 なお,
1664 本問の事実関係からすると,
1665 Fによる議決
1666 権の行使は,
1667 Fがその代表権を濫用したとみる余地もあり得ることから,
1668 上記の点に加え
1669 て,
1670 そのような観点から検討を加えることも考えられるところである。
1671
1672
1673
1674 〔第3問〕
1675 本問は,
1676 XがYに対して,
1677 土地(以下「本件土地」という。
1678
1679 )の賃貸借契約(以下「本件契
1680 約」という。
1681
1682 )終了に基づいて,
1683 Yが本件土地上に所有する建物(以下「本件建物」という。
1684
1685 )
1686 の収去と本件土地の明渡しを求めて提起した訴えに係る訴訟(以下「本件訴訟」という。
1687
1688 )の
1689 係属中にYがZに対して本件建物を賃貸し,
1690 これに基づいて本件建物をZに引き渡したという
1691 事案を題材として,
1692 @原告が一定の額の立退料の支払と引換えに建物収去土地明渡請求訴訟を
1693 提起した場合に,
1694 原告が申し出た額とは異なる額の立退料の支払との引換給付判決をすること
1695 の許否の検討(設問1),
1696 AXがZを引受人とする訴訟引受けの申立てをした場合に,
1697 Zが民
1698 事訴訟法(以下「法」という。
1699
1700 )第50条にいう承継人に該当するか否かの検討(設問2),
1701 B
1702 ZがXによる更新拒絶を争うために,
1703 BからAに対して権利金が支払われていた旨を主張する
1704 ことが時機に後れた攻撃防御方法として却下されるかどうかの検討(設問3)をそれぞれ求め
1705 るものである。
1706
1707
1708 まず,
1709 設問1の課題1では,
1710 Xが,
1711 Yに対して1000万円程度の立退料の支払を申し出た
1712 上で,
1713 1000万円の立退料の支払と引換えに本件建物を収去して本件土地を明け渡せとの判
1714 決を求め,
1715 さらに,
1716 第1回口頭弁論期日において,
1717 1000万円という額には大きなこだわり
1718 はない旨の陳述をしたという事実関係において,
1719 Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて
1720 増額した額の立退料の支払との引換給付判決(以下「増額判決」という。
1721
1722 )をすることの許否
1723 の検討が求められている。
1724
1725 ここでは,
1726 法第246条には,
1727 原告の意思の尊重と当事者に対する
1728 不利益の最大限の予告という二つの趣旨が認められるところ,
1729 とりわけ前者の観点から,
1730 増額
1731 判決の許否につき検討する必要がある。
1732
1733 訴状の記載及び第1回口頭弁論期日におけるXの陳述
1734 から,
1735 Xがいかなる意思であるかを可能な限り具体的に特定するとともに,
1736 Xの現実の意思が
1737 明らかにならない部分は,
1738 原告の合理的意思の推測により補うことが期待される。
1739
1740 原告の合理
1741 的意思を推測する際には,
1742 裁判所が増額判決をし得ないとすれば,
1743 どのような判決がされるか
1744 を特定した上で,
1745 この両者を比較検討しつつ,
1746 通常の原告であればいずれを望むかを検討する
1747 ことが求められる。
1748
1749 なお,
1750 最高裁判所昭和46年11月25日第一小法廷判決・民集25巻8
1751 号1343頁は,
1752 原告が「立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範
1753 囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し,
1754 かつその支払と引き換えに(中略)
1755
1756 - 12 -
1757
1758 店舗の明渡を求めている」との事実関係の下で,
1759 申出額よりも多額である500万円の支払と
1760 の引換給付判決をした原判決を是認しているが,
1761 本設問では,
1762 Xが1000万円又はこれと格
1763 段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思しか表明していないと
1764 評価することができるか否かが問題であるから,
1765 この判決に依拠して,
1766 直ちに申出額と格段の
1767 相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決をすることができないとする
1768 のみでは,
1769 課題1に十分に答えたとはいえない。
1770
1771
1772 次に,
1773 設問1の課題2では,
1774 課題1と同様の事実関係において,
1775 Xの申出額よりも少額の立
1776 退料の支払との引換給付判決をすることの許否の検討が求められている。
1777
1778 ここでも,
1779 法第24
1780 6条の二つの趣旨からの検討が必要となるところ,
1781 原告の意思の尊重という観点から行うべき
1782 作業は,
1783 課題1と基本的に同様であり,
1784 課題2では,
1785 当事者,
1786 とりわけ被告に対する不利益の
1787 最大限の予告という観点から詳細な検討をする必要がある。
1788
1789 訴状の記載のみならず,
1790 第1回口
1791 頭弁論期日における陳述も踏まえた上で,
1792 Yに対して不利益の最大限として何が予告されてい
1793 たと評価することができるかについて,
1794 Xの申出額と裁判所が正当事由を認める上で必要と考
1795 える立退料額との差の大きさが結論に影響を与えるか否かにも留意しつつ,
1796 具体的に検討する
1797 ことが期待される。
1798
1799
1800 設問2では,
1801 本件訴訟の係属中に,
1802 YがZに対して本件建物を賃貸し,
1803 これに基づき本件建
1804 物を引き渡したという事実関係において,
1805 Zが法第50条の承継人に該当するか否かの検討が
1806 求められている。
1807
1808 ここではまず,
1809 訴訟承継制度の趣旨を明らかにすることが要求される。
1810
1811 具体
1812 的には,
1813 訴訟の係属中に第三者による承継が生じた場合において,
1814 従前の訴訟状態を流用して
1815 当該第三者との間で訴訟を進めることが訴訟経済に資するとともに,
1816 とりわけ相手方が従前の
1817 既得的地位を維持することができるという意味で公平の確保に資するという点を指摘すること
1818 が期待される。
1819
1820 次に,
1821 このような訴訟承継制度の趣旨と適合的な形で,
1822 同条にいう承継の意味
1823 内容を具体的に明らかにすることが要求される。
1824
1825 この点については,
1826 学説上,
1827 種々の見解が示
1828 されており,
1829 いずれを採用するかにより評価に差をつけることは想定していないが,
1830 承継の意
1831 味内容を具体的に明らかにすることが要求されている以上,
1832 最高裁判所昭和41年3月22日
1833 第三小法廷判決・民集20巻3号484頁において用いられている「紛争の主体たる地位の承
1834 継」というのみでは,
1835 十分に課題に答えたことにはならない。
1836
1837 この判例に依拠する場合も,
1838 そ
1839 こでいう紛争の主体たる地位とはいかなるものか等の点についてより踏み込んだ記述が求めら
1840 れる。
1841
1842 最後に,
1843 以上のように具体的に明らかにされた承継の意味内容に照らして,
1844 Zが承継人
1845 に該当するか否かの検討が要求される。
1846
1847 例えば,
1848 承継前の訴訟において,
1849 被承継人を当事者と
1850 して適切な者としていた法的地位が第三者に移転し,
1851 この地位が相手方の当該第三者に対する
1852 訴訟において,
1853 当該第三者を当事者として適切な者としている場合に同条にいう承継が認めら
1854 れると考えるのであれば,
1855 Yを本件訴訟で被告として適切な者としている法的地位は何か,
1856 こ
1857 れはYからZに移転しているか,
1858 移転しているとして,
1859 このような地位はXのZに対する訴訟
1860 においてZを被告として適切な者としているか,
1861 といった点を検討する必要がある。
1862
1863
1864 設問3の課題1は,
1865 訴訟を引き受けたZが,
1866 弁論準備手続の終結及び人証の取調べの後に,
1867
1868 従前当事者から主張されていなかった「BからAに対して更新料の前払の性質をも含む権利金
1869 が支払われていた」との新主張(以下「本件新主張」という。
1870
1871 )をしようとしているという事
1872 実関係において,
1873 Xの立場から,
1874 仮にYが本件新主張をしたとしたら,
1875 時機に後れた攻撃防御
1876 方法として却下されることの論証を求めるものである。
1877
1878 法第157条第1項を摘示した上で,
1879
1880 同項の定める各要件の具体的意味内容を明らかにし,
1881 それぞれが充足されることを説得的に述
1882 べる必要がある。
1883
1884 なお,
1885 同項の要件のうち,
1886 「訴訟の完結を遅延させること」の検討に際して
1887 は,
1888 その後予想されるXY双方の主張立証活動を踏まえることが要求される。
1889
1890 YがAの証人尋
1891 問を申請することは問題文から明らかであるが,
1892 Xとしても,
1893 立退料額にも関わることである
1894 から,
1895 BからAへの振込みの趣旨について反論をする機会を欲するであろうことを指摘するこ
1896
1897 - 13 -
1898
1899 とが期待される。
1900
1901 また,
1902 本件新主張は,
1903 弁論準備手続終結後にされるものであるから,
1904 法第1
1905 74条及び第167条により,
1906 XからYに対して説明要求がされ得ること,
1907 このような要求が
1908 された場合には,
1909 Yは説明義務を負い,
1910 Yが説明を拒絶し,
1911 又は不十分な説明しかし得なかっ
1912 た場合には,
1913 法第157条第1項の「時機に後れた」又は「重大な過失」が推定され得ること
1914 を指摘することも期待される。
1915
1916
1917 設問3の課題2の前半部分では,
1918 Yが本件新主張をしたとしたら,
1919 同項により却下されるこ
1920 とを前提として,
1921 Xの立場から,
1922 Zによる本件新主張も却下されるべきであるという立論をす
1923 ることが求められる。
1924
1925 具体的には,
1926 まず,
1927 法第50条の承継人は,
1928 承継原因発生時の訴訟状態
1929 を承認する義務を負う旨を,
1930 一定の理由をもって論証した上で,
1931 そこでいう訴訟状態とはいか
1932 なるものであるかを明らかにする必要がある。
1933
1934 その上で,
1935 同条にいう承継人であるZは訴訟状
1936 態を承認する義務を負い,
1937 その結果,
1938 法第157条第1項によりY自身がすることができない
1939 本件新主張は,
1940 Zもすることができないという結論に至ることが期待される。
1941
1942
1943 設問3の課題2の後半部分では,
1944 Yが本件新主張をしたとしたら,
1945 同項により却下されるこ
1946 とを前提として,
1947 Zの立場から,
1948 そうであるとしても,
1949 Zによる本件新主張は,
1950 却下されない
1951 という立論をすることが求められる。
1952
1953 このような立論としては,
1954 Zは訴訟状態を承認する義務
1955 を負うものの,
1956 承継の前後で,
1957 Xによる更新拒絶の可否を判断する上での本件新主張の重要性
1958 が変容している場合や,
1959 Yによる訴訟追行がなれ合いと評価し得る場合には,
1960 一定の例外が認
1961 められると論じた上で,
1962 本件では,
1963 そのような例外が認められるとするものと,
1964 承継人は,
1965 お
1966 よそ訴訟状態を承認する義務を負わないとするものが考えられる。
1967
1968 いずれであっても十分な理
1969 由が示されている限り,
1970 評価に差をつけることはない。
1971
1972 ただし,
1973 後者であれば,
1974 訴訟状態承認
1975 義務を伴わない訴訟承継制度はいかなる意義を持つものであるか,
1976 という点についても検討す
1977 ることが期待される。
1978
1979
1980 【刑事系科目】
1981 〔第1問〕
1982 本問は,
1983 設問1で,
1984 甲及びB腕時計店(以下「B店」という。
1985
1986
1987 )の副店長である丙が,
1988 あらかじめ意
1989 を通じ,
1990 B店に押し入った甲が丙にサバイバルナイフを示すなどして丙を脅すふりをして,
1991 B店の売
1992 場に陳列されていた商品の腕時計100点(以下「本件腕時計」という。
1993
1994 )を持ち去った行為について
1995 窃盗罪の共同正犯の成否を,
1996 甲と共に腕時計を強奪することを計画していたものの,
1997 甲と丙が内通し
1998 ていた事実を知らないで,
1999 甲及び丙の前記犯行中に周囲を見張るなどして加担した乙について窃盗罪
2000 の共同正犯の成否をそれぞれ検討させ,
2001 さらに,
2002 丙からの依頼を受け,
2003 本件腕時計の一部が入ったボ
2004 ストンバッグ(以下「本件バッグ」という。
2005
2006
2007 )を自宅の押し入れ内に保管していた丁が,
2008 本件バッグの
2009 中に盗品が入っていることを認識するに至った後も保管を継続した行為について盗品等保管罪の成否
2010 を検討させ,
2011 設問2で,
2012 甲が,
2013 丙と意を通じ,
2014 まず甲が木刀で乙の頭部を殴打した(以下「第1暴行」
2015 という。
2016
2017
2018 )が,
2019 乙が甲らのB店における犯行を警察に話すなどと言ったことから,
2020 丙が乙に暴行を加え,
2021
2022 暴行を終了するようにいさめた甲を殴打して気絶させた後,
2023 前記木刀で乙の頭部を殴打した(以下「第
2024 2暴行」という。
2025
2026
2027 )ところ,
2028 乙に生じた頭部裂傷(以下「本件傷害」という。
2029
2030
2031 )が第1暴行又は第2暴
2032 行のいずれか一方だけによって形成されたものであることは明らかであるものの,
2033 いずれの暴行から
2034 形成されたものか不明であったという事例について,
2035 甲が本件傷害に関する刑事責任を負わないとの
2036 結論を導くための説明及び甲が本件傷害に関する刑事責任を負うとの立場からの反論を,
2037 それぞれ論
2038 点ごとに論拠を示しつつ検討させ,
2039 それにより,
2040 刑事実体法及びその解釈論の知識と理解を問うとと
2041 もに,
2042 具体的な事実関係を分析し,
2043 その事実に法規範を適用する能力並びに論理的な思考力及び論述
2044 力を試すものである。
2045
2046
2047 設問1について
2048 甲及び丙の罪責について
2049 - 14 -
2050
2051 甲及び丙は,
2052 丙以外に従業員がいない時間帯に甲がB店に来て,
2053 丙に刃物を示し,
2054 腕時計が保管
2055 されているショーケースを開けるように要求すること,
2056 丙は,
2057 後で怪しまれないように拒むふりを
2058 するが,
2059 最後にはショーケースを開けるので,
2060 甲が直ちに腕時計を持ち去ること,
2061 持ち去った腕時
2062 計は後で分配することなどをあらかじめ示し合わせた上で,
2063 実際に,
2064 この犯行計画に従った内容の
2065 犯行を実行し,
2066 甲が本件腕時計を持ち去っている。
2067
2068
2069 まず,
2070 甲及び丙の行為が,
2071 強盗罪の構成要件に該当しないことは明らかである。
2072
2073 すなわち,
2074 強盗
2075 罪の客観的構成要件は,
2076 相手方に対し,
2077
2078 「暴行又は脅迫」を加え,
2079
2080 「他人の財物」を「強取」するこ
2081 とであるところ,
2082 強盗罪にいう「暴行又は脅迫」は,
2083 財物の奪取に向けられた相手方の反抗を抑圧
2084 するに足りる程度の暴行又は脅迫を意味すると解されている。
2085
2086 確かに,
2087 甲が丙に対して,
2088 サバイバ
2089 ルナイフを示し,
2090
2091 「殺されたくなかったら,
2092 これに時計を入れろ。
2093
2094
2095 」と要求した行為は,
2096 一般的には
2097 相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫と評価することが可能であろうが,
2098 甲と丙があらかじ
2099 め内通していた事実を隠蔽するために,
2100 あたかも丙が犯人から脅されたかのように仮装することを
2101 企図し,
2102 実際にその計画どおりに犯行を遂行したにすぎない本事例の事実関係の下では,
2103 甲が丙に
2104 サバイバルナイフを示して前記文言を述べた行為は,
2105 財物の奪取に向けられたものと評価すること
2106 はできず,
2107 強盗罪の「脅迫」たり得ないし,
2108 また,
2109 甲はそのことを認識しているのであるから,
2110 強
2111 盗罪の故意を認めることもできない。
2112
2113
2114 そこで,
2115 甲及び丙の罪責として,
2116 窃盗罪の構成要件該当性及び共同正犯の成否を検討する必要が
2117 あるところ,
2118 仮に,
2119 本件腕時計の占有が丙の上位者であるCに帰属せず,
2120 もっぱら丙に帰属するも
2121 のであるとすれば,
2122
2123 「自己の占有する他人の物」として業務上横領罪の客体となるため,
2124 本件腕時計
2125 の占有の帰属が問題となる。
2126
2127
2128 この点,
2129 複数の保管者間に上下関係がある場合には,
2130 財物を現実に握持しているのが下位者であ
2131 ったとしても,
2132 原則として,
2133 占有は上位者に属し,
2134 下位者は占有補助者にすぎないとするのが判例
2135 の立場であるが(最決昭和31年1月19日刑集10巻1号67頁等)
2136 ,
2137 上位者が下位者に財物の管
2138 理を完全に委ねている場合など,
2139 下位者が上位者の判断を個別に仰ぐことなく,
2140 独立の権限・裁量
2141 を有している場合は,
2142 財物の占有が下位者に属すると解されることから,
2143 本件腕時計の管理に関す
2144 る丙の権限・裁量の有無及び程度について,
2145 具体的事実を摘示して当てはめを行う必要がある。
2146
2147 す
2148 なわち,
2149 B店では,
2150 商品の仕入れ,
2151 店外への持ち出し及び価格設定について,
2152 丙に権限はなく,
2153 全
2154 てCの承認を得る必要があるとされていたこと,
2155 本件腕時計が店舗という閉鎖された空間の中にお
2156 いて,
2157 原則として常時施錠されたショーケース内に保管されていたこと,
2158 その鍵を丙のみならずC
2159 も所持していたこと,
2160 B店の売場及び従業員控室の状況は,
2161 常時,
2162 防犯カメラで撮影録画されてい
2163 たことなどの事情を踏まえ,
2164 占有の帰属を検討することになる。
2165
2166
2167 その上で,
2168 Cの占有を肯定した場合は,
2169 窃盗罪の構成要件該当性を検討することになり,
2170 客観的
2171 構成要件要素として「他人の財物」
2172 ,
2173
2174 「窃取」を,
2175 主観的構成要件要素として故意及び不法領得の意
2176 思を,
2177 それぞれ検討する必要がある。
2178
2179 また,
2180 甲丙間に意思連絡があること及び両者が実行行為を分
2181 担していることから,
2182 窃盗罪の共同正犯が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
2183
2184 なお,
2185 上記
2186 各事情にもかかわらずCの占有を否定する結論を採用した場合は,
2187 業務上横領罪の構成要件該当性
2188 を検討することになり,
2189 客観的構成要件要素として「業務上」
2190 ,
2191
2192 「他人の物」
2193 ,
2194
2195 「横領」を,
2196 主観的構
2197 成要件要素として故意及び不法領得の意思を,
2198 それぞれ検討する必要がある。
2199
2200 また,
2201 この場合,
2202 共
2203 同正犯の成否を検討するに当たっては,
2204 甲丙間に意思連絡があること,
2205 甲に正犯性が認められるこ
2206 とに加え,
2207 財物を業務上占有している丙の犯行に業務上の占有者たる身分を有しない甲が加功した
2208 との構造となることから,
2209 刑法第65条の解釈を論じた上で,
2210 自説の立場から,
2211 甲に成立する罪名
2212 を決定する必要がある。
2213
2214
2215 乙の罪責について
2216 乙は,
2217 甲との間で,
2218 腕時計販売店に押し入って腕時計を強奪する計画を立てていたところ,
2219 甲か
2220 ら,
2221 甲がB店内に入って店員に刃物を突き付けて腕時計を奪い取ること,
2222 その間,
2223 乙は付近に駐車
2224
2225 - 15 -
2226
2227 した自動車内で周囲を見張り,
2228 甲が戻ってきたらすぐに車を発進させること,
2229 奪った腕時計は後で
2230 分配することを持ち掛けられてこれを承諾し,
2231 実際にその計画どおりの行動をとっている。
2232
2233
2234 乙の罪責としては,
2235 甲及び丙との共犯の成否を検討する必要があるところ,
2236 乙は実行行為を分担
2237 していないため,
2238 共謀共同正犯か幇助犯かが問題となる。
2239
2240 その検討に際しては,
2241 共同正犯と幇助犯
2242 の区別基準を示した上で,
2243 その判断の基礎となる具体的事実を摘示して当てはめを行う必要がある。
2244
2245
2246 すなわち,
2247 共同正犯と幇助犯の区別基準としては,
2248 自己の犯罪を遂行する意思(正犯意思)で犯行
2249 に加わっているかによって区別する立場,
2250 犯行において客観的に重要な因果的寄与を果たしたとい
2251 えるかを基準とする立場,
2252 他の関与者の行為を支配する地位にあったかを基準とする立場などがあ
2253 るが,
2254 いずれの立場に立ったとしても,
2255 甲及び乙は,
2256 いずれも金に困った挙げ句に相談して犯行を
2257 計画したものであり,
2258 両者の積極性に差はないこと,
2259 甲乙間に指揮命令関係や支配服従関係までは
2260 認められないこと,
2261 乙が行った見張り行為や甲を乗車させて自動車を発進させる行為が犯行の遂行
2262 に当たって重要であること,
2263 乙が相当多額の利益を得ていることなどを重視すれば,
2264 乙の正犯性を
2265 肯定する結論に至り得る。
2266
2267 他方,
2268 乙が真実の犯行計画を知らされておらず,
2269 いわば甲及び丙の犯行
2270 計画における中核部分に関する意思連絡から排除されていたことなどを重視すれば,
2271 乙の正犯性を
2272 否定する結論に至ることも可能であろう。
2273
2274
2275 また,
2276 乙は,
2277 主観的には,
2278 強盗罪に該当する行為の認識・認容を有していたところ,
2279 甲及び丙に
2280 よって客観的に実現された行為は窃盗罪であることから,
2281 いわゆる共犯の錯誤の処理が問題となる。
2282
2283
2284 まず,
2285 甲は,
2286 当初から窃盗の意思を有していたにすぎない一方で,
2287 乙は強盗の意思で謀議を遂げて
2288 おり,
2289 謀議の時点で両者の認識に不一致があることから,
2290 そもそも,
2291 甲乙間での「共謀」の存否が
2292 問題となるところ,
2293 共同正犯の本質に関する部分的犯罪共同説からは,
2294 強盗罪と窃盗罪の構成要件
2295 が重なり合う窃盗罪の限度で共謀の要件を満たすと解することになる(なお,
2296 強盗罪と(業務上)
2297 横領罪の関係を検討する場合,
2298 両罪の間に構成要件の重なり合いをそもそも認めることができるか,
2299
2300 また,
2301 認められるとして,
2302 いかなる範囲で認めることができるかについては,
2303 構成要件の符合の判
2304 断基準によって,
2305 結論が異なり得るだろう。
2306
2307
2308 )
2309 。
2310
2311 他方,
2312 行為共同説からは,
2313 甲乙間において,
2314 B店で
2315 保管されている腕時計を取得する旨の行為を共同するとの合意があるから,
2316 共謀の要件を満たすと
2317 考えられる。
2318
2319
2320 さらに,
2321 乙に窃盗罪の故意を認めることができるか,
2322 いわゆる抽象的事実の錯誤が問題となると
2323 ころ,
2324 甲及び丙の罪責において窃盗罪の共同正犯の成立を認めた場合,
2325 判例・通説である法定的符
2326 合説からは,
2327 強盗罪と窃盗罪の構成要件は窃盗罪の限度で重なり合うことから,
2328 乙には窃盗罪の故
2329 意を認めることができる(強盗罪と(業務上)横領罪の関係については前記のとおりである。
2330
2331
2332 )
2333 。
2334
2335 こ
2336 の点,
2337 共同正犯の本質論と抽象的事実の錯誤の関係については様々な考え方があり得るところであ
2338 り,
2339 共同正犯の本質論を論じれば重ねて抽象的事実の錯誤を論じる必要はないとする立場,
2340 もっぱ
2341 ら抽象的事実の錯誤の問題として処理すべきとする立場などがあり得るが,
2342 いかなる立場に立つに
2343 せよ,
2344 自説の論理的整合性を保ちつつ論じる必要がある。
2345
2346
2347 丁の罪責について
2348 丁は,
2349 丙から,
2350 本件バッグをしばらく預かっておいてほしいと言われ,
2351 これを自宅の押し入れ内
2352 に放置していたところ,
2353 その後,
2354 本件バッグの中に入っていた腕時計全てに値札が付いていたのを
2355 見て,
2356 丙が自分のものにするためにB店から無断で持ち出した商品であろうと認識したが,
2357 本件バ
2358 ッグを丙に返すまでの間,
2359 これを押し入れ内に置き続けている。
2360
2361
2362 丁の罪責としては,
2363 盗品等保管罪の成否が問題となるところ,
2364 同罪の客観的構成要件要素として,
2365
2366 「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」
2367 ,
2368
2369 「保管」を,
2370 主観的構成要件要
2371 素として故意をそれぞれ検討する必要がある。
2372
2373 この点,
2374 丁は,
2375 本件バッグを預かった時点で中に盗
2376 品の腕時計が入っていることを知らず,
2377 かつ,
2378 これを知った後も,
2379 従前と同様の形態で保管を続け
2380 ていたにすぎないため,
2381 このような場合でも同罪が成立するかを,
2382 同罪の法的性質を意識しつつ検
2383 討して論じる必要がある。
2384
2385
2386
2387 - 16 -
2388
2389 すなわち,
2390 同罪を継続犯と解する立場からは,
2391 保管が継続する限り実行行為が継続しているから,
2392
2393 保管途中から盗品等であることの認識が生じた場合であっても,
2394 それ以降も本犯者のために保管を
2395 継続すれば同罪が成立するとの結論に結び付きやすいと考えられるが,
2396 保管開始後に盗品であるこ
2397 との認識を生じた者に委託者への返還や警察への提出等を強制することは困難であること,
2398 盗品等
2399 有償譲受け罪の場合には占有移転の時点で盗品性の認識が必要と解されていることとの均衡等を強
2400 調して,
2401 盗品等保管罪の成立を否定することも可能であろう。
2402
2403 他方,
2404 同罪を状態犯と解する立場か
2405 らは,
2406 盗品等であることの認識は寄託時点で存在していなければならないと解され,
2407 同罪は不成立
2408 となる。
2409
2410
2411 設問2について
2412 前提事実及び問題の所在について
2413 まず,
2414 各立場からの説明及び反論を論じる前提として,
2415 本事例の事実関係を的確に分析し,
2416 甲が
2417 本件傷害に関する刑事責任を負うか否かについて,
2418 問題となる論点を正しく把握する必要がある。
2419
2420
2421 すなわち,
2422 本事例では,
2423 第1暴行及び第2暴行がいずれも暴行罪の構成要件に該当する行為である
2424 ことが明らかであるところ,
2425 甲丙間において,
2426 乙に暴行を加える旨の事前共謀が成立しており,
2427 甲
2428 は,
2429 この共謀に基づいて第1暴行を実行している。
2430
2431 仮に,
2432 第1暴行から本件傷害が発生したと認め
2433 られるのであれば,
2434 甲は,
2435 傷害罪の共同正犯として本件傷害に関する刑事責任を負うことになるが,
2436
2437 第1暴行及び第2暴行と本件傷害の因果関係が不明である。
2438
2439 この点,
2440 第2暴行も前記共謀に基づく
2441 ものと評価できるのであれば,
2442 一部実行全部責任の法理により,
2443 甲には傷害罪の共同正犯が成立す
2444 る。
2445
2446 したがって,
2447 甲が本件傷害に関する刑事責任を負わないとするためには,
2448 第2暴行が前記共謀
2449 に基づくものでないこと,
2450 すなわち,
2451 第2暴行の前に甲丙間の共犯関係が解消されたことが必要と
2452 なる(これを共謀の射程の問題として捉え,
2453 第2暴行は当初の共謀による犯行計画が大幅に変更さ
2454 れ,
2455 別個の犯罪が実現したものと評価して甲の刑事責任を否定する構成も考えられるであろう。
2456
2457
2458 )
2459 。
2460
2461
2462 もっとも,
2463 仮に共犯関係の解消が認められたとしても,
2464 同時傷害の特例(刑法第207条)が適
2465 用されるとすれば,
2466 甲は「共犯の例による」ことになり,
2467 本件傷害に関して刑事責任を負うことに
2468 なるから,
2469 甲が責任を負わないとするためには,
2470 同特例が適用されないと解する必要がある。
2471
2472 同特
2473 例を適用するための要件として,
2474 各暴行が本件傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること
2475 及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたことを要する
2476 (最決平成28年3月24日刑集70巻3号1頁参照)と解されているが,
2477 本事例の事実関係から,
2478
2479 これらの要件は充足されていると考えられるので,
2480 行為者間に一部共犯関係が存在し,
2481 傷害結果に
2482 ついて明らかに責任を負う者が存在する場合にも同特例を適用できるか,
2483 その適用範囲をいかに解
2484 すべきかが問題となる。
2485
2486
2487 甲は本件傷害に関する刑事責任を負わないとの立場からの説明について
2488 まず,
2489 第2暴行に先立って,
2490 甲丙間の共犯関係が解消されたとの説明について論じる必要がある
2491 ところ,
2492 共犯関係の解消を認めるための要件を明らかにした上で,
2493 それを本事例の具体的な事実関
2494 係に当てはめた場合,
2495 共犯関係の解消を肯定できるとの説明を,
2496 論拠を示しつつ論じることが求め
2497 られる。
2498
2499 この点,
2500 通説である因果性遮断説からは,
2501 関与者の因果的寄与が解消された場合に共犯関
2502 係の解消を認めることから,
2503 @第1暴行後,
2504 甲は,
2505 丙の暴行を制止しようとしたこと,
2506 A甲は,
2507 丙
2508 から殴打されて気絶したこと,
2509 B丙は,
2510 気絶した甲を放置したまま,
2511 第2暴行を実行していること,
2512
2513 C事前の甲丙間の共謀には,
2514 丙が乙の頭部を木刀で強打する計画は含まれていないこと,
2515 D第1暴
2516 行と第2暴行は動機を異にすることなどの事情を挙げて,
2517 甲の因果的寄与が解消されたと説明する
2518 ことが考えられる。
2519
2520
2521 次に,
2522 仮に,
2523 甲丙間の共犯関係が解消していたとしても,
2524 同時傷害の特例が適用されるのであれ
2525 ば,
2526 甲は本件傷害に関する刑事責任を負うことになるという論理関係を意識した上で,
2527 同特例が適
2528 用されないとの説明を,
2529 論拠を示しつつ論じる必要がある。
2530
2531 この点,
2532 同時傷害の特例は,
2533 複数人の
2534 暴行が競合しているにもかかわらず,
2535 傷害結果について誰も責任を負わない不都合を解消するため
2536
2537 - 17 -
2538
2539 の規定であると解すれば,
2540 暴行の行為者間に一部共犯関係が存在し,
2541 傷害結果について明らかに責
2542 任を負う者(丙)が存在する本事例のような事案では,
2543 同時傷害の特例は適用されないと解される。
2544
2545
2546 甲は本件傷害に関する刑事責任を負うとの立場からの反論について
2547 この立場からは,
2548 まず,
2549 第2暴行が行われた時点においても,
2550 甲丙間の共犯関係は解消されてい
2551 なかったとの反論を,
2552 論拠を示しつつ論じる必要がある。
2553
2554 ここでは,
2555 甲の因果的寄与がいまだ解消
2556 されていないことを基礎付ける具体的事情,
2557 すなわち,
2558 @甲は,
2559 乙に暴行を加えることを発案し,
2560
2561 当初は乗り気でなかった丙を説得して共謀関係を構築しており,
2562 首謀者的立場にあること,
2563 A甲は,
2564
2565 自ら第1暴行を実行することで,
2566 丙の犯意を強化していること,
2567 B甲は,
2568 凶器として木刀を準備し
2569 ているところ,
2570 丙は,
2571 第2暴行で同木刀を使用していることなどの事情を挙げて,
2572 甲の因果的寄与
2573 が未だ解消されていないと説明することが考えられる。
2574
2575
2576 次に,
2577 甲丙間の共犯関係が解消されていたとしても,
2578 同時傷害の特例が適用されるとの反論を,
2579
2580 論拠を示しつつ論じる必要がある。
2581
2582 ここでは,
2583 暴行の行為者間に一部共犯関係が存在する場合であ
2584 っても,
2585 同特例が適用できなくなるとする理由はなく,
2586 むしろ同特例を適用しないとすれば,
2587 共犯
2588 関係が認められないときとの均衡を失することなどを論じることが考えられる。
2589
2590
2591 〔第2問〕
2592 本問は,
2593 住居侵入強盗事件を素材として,
2594 捜査及び公判に関する具体的事例を示し,
2595 各局面
2596 で生じる刑事手続上の問題点,
2597 その解決に必要な法解釈,
2598 法適用に当たって重要な具体的事実
2599 の分析及び評価並びに具体的結論に至る思考過程を論述させることにより,
2600 刑事訴訟法に関す
2601 る基本的学識,
2602 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
2603
2604
2605 〔設問1〕は,
2606 警察官が行った名刺1枚の差押え(以下「下線部@の差押え」という。
2607
2608 )及
2609 びUSBメモリ2本の差押え(以下「下線部Aの差押え」という。
2610
2611 )の適法性を検討させるこ
2612 とにより刑事訴訟法の規定する差押えの要件に関する法的問題の理解と具体的事案への適用能
2613 力を試すものである。
2614
2615
2616 司法警察職員は,
2617 犯罪の捜査をするについて必要があるときは,
2618 裁判官の発する令状により,
2619
2620 証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押さえることができるところ(刑事訴訟法第2
2621 18条第1項),
2622 捜索差押許可状により差押えできる物は,
2623 令状に明示された「差し押さえる
2624 べき物」に該当するものに限られる。
2625
2626 これは,
2627 差押えが対象者の財産権への制約となることか
2628 ら,
2629 これを可能な限り限定する趣旨であり,
2630 「差し押さえるべき物」は,
2631 @令状に明記された
2632 物件に当てはまり(憲法第35条,
2633 刑事訴訟法第219条第1項),
2634 かつ,
2635 A被疑事実との関
2636 連性を有すること(憲法第35条,
2637 刑事訴訟法第222条第1項,
2638 第99条第1項)が求めら
2639 れる。
2640
2641 本問では,
2642 この要件を踏まえた上で,
2643 下線部@の差押え及び下線部Aの差押えの適法性
2644 について検討する必要がある。
2645
2646
2647 下線部@の差押えについては,
2648 本問の捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」に「名刺」
2649 が含まれていることから,
2650 差し押さえられた名刺が令状に明記された物件に当てはまることは
2651 明らかである一方,
2652 同名刺は本件住居侵入強盗の現場で被害者に示されたりしたものではなく,
2653
2654 犯行自体に使用されたものではないことから,
2655 被疑事実との関連性の有無が問題となる。
2656
2657
2658 被疑事実との関連性が認められる証拠の範囲については,
2659 被疑事実それ自体を立証する価値
2660 を有する物のほかに,
2661 情状事実や背景事情に関する物も被疑事実との関連性が認められる証拠
2662 に含めるべきか否かについて様々な考え方があり,
2663 この点に関する最高裁判例(最判昭和51
2664 年11月18日判時837号104頁)の内容も踏まえながら,
2665 自己の見解をその根拠も含め
2666 て論じることが求められる。
2667
2668 その上で,
2669 捜索差押許可状の被疑事実を意識しながら,
2670 本件住居
2671 侵入強盗の事案の性質,
2672 差し押さえられた名刺の記載内容,
2673 捜索・差押えの現場がどのような
2674 場所であるかなど,
2675 事例に現れた具体的事実を適切に抽出,
2676 分析し,
2677 それらの事実が持つ意味
2678 を適切に評価して,
2679 自己の見解に当てはめ,
2680 差し押さえられた名刺と被疑事実との関連性を論
2681
2682 - 18 -
2683
2684 じることが求められる。
2685
2686
2687 下線部Aの差押えについては,
2688 可視性・可読性がなく,
2689 その外観からは被疑事実との関連性
2690 を判断し難い電磁的記録媒体について,
2691 その記録内容を確認せずに差押えを行うことの適否が
2692 問題となる。
2693
2694
2695 この点に関して,
2696 最高裁判例(最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁)が存在す
2697 るが,
2698 学説上は,
2699 @可能な限り捜索・差押えの現場で内容を確認すべきことを前提に,
2700 やむを
2701 得ない事情のある場合には,
2702 内容を確認せずとも,
2703 罪の内容や現場の状況等に照らして当該電
2704 磁的記録媒体に関連する情報が記録されていると疑うに足りる合理的な理由があれば,
2705 被疑事
2706 実との関連性が認められ,
2707 差押えが許されるとする考え方,
2708 A捜索・差押えの現場で,
2709 差し押
2710 さえるべき物とそうでない物の選別が容易でなく,
2711 かつ罪証隠滅の高度の蓋然性がある場合に
2712 は,
2713 被疑事実との関連性の確認のために,
2714 刑事訴訟法第222条第1項,
2715 第111条第1項の
2716 「必要な処分」として,
2717 占有を取得した上,
2718 事後に選別を行うことも許容されるとする考え方
2719 (この考え方は,
2720 当該占有取得の法的性質を「差押え」ではなく,
2721 あくまでも,
2722 捜索に「必要
2723 な処分」(刑事訴訟法第222条第1項,
2724 第111条第1項)であると理解する点に注意が必
2725 要である。
2726
2727 )などが主張されている。
2728
2729
2730 いずれの考え方を採るにしても,
2731 上記判例の内容を踏まえた上で,
2732 各自の考え方を展開する
2733 ことが求められ,
2734 その上で,
2735 差し押さえられたUSBメモリに関して警察官が事前に得ていた
2736 情報,
2737 捜索・差押えの現場におけるUSBメモリの発見状況,
2738 同現場における立会人乙の言動,
2739
2740 本件住居侵入強盗の事案の性質,
2741 捜索・差押え実施後の状況など,
2742 事例に現れた具体的事実を
2743 適切に抽出,
2744 分析し,
2745 それらの事実が持つ意味を適切に評価して,
2746 自己の考え方に当てはめ,
2747
2748 下線部Aの差押えの適法性を論じることが求められる。
2749
2750
2751 〔設問2〕は,
2752 乙の公判において証拠調べ請求された乙作成の本件メモ1(〔設問2−1〕),
2753
2754 甲作成の本件メモ2(〔設問2−2〕)について,
2755 それぞれの証拠能力の有無を問うことにより,
2756
2757 刑事訴訟法第320条第1項の伝聞法則についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試
2758 すものである。
2759
2760
2761 まず,
2762 前提として,
2763 伝聞法則の適用を受ける証拠であるか否か,
2764 すなわち伝聞証拠と非伝聞
2765 証拠を区別する基準を示す必要があるところ,
2766 一般に,
2767 伝聞法則の主要な根拠は,
2768 公判期日外
2769 の供述については,
2770 公判期日での供述に比べ,
2771 類型的に信用性の担保に欠けるという点に求め
2772 られ,
2773 この根拠に照らすと,
2774 公判期日外の供述(原供述)を含む供述ないし書面に伝聞法則の
2775 適用があるか否かを判断するに当たっては,
2776 原供述を証拠とすることにより何を立証しようと
2777 するか,
2778 すなわち要証事実が何であるかが重要であり,
2779 原供述の内容に示される事実が存在す
2780 ること(原供述の内容の真実性)を立証するために用いられる場合は,
2781 信用性の担保に欠ける
2782 証拠を立証に用いることで事実認定の正確性を損なうおそれが生じるため,
2783 伝聞証拠に当たり,
2784
2785 一定の要件を満たさない限り証拠能力を認めるべきでないこととなる。
2786
2787 他方で,
2788 一定の内容の
2789 原供述の存在が示されれば,
2790 その内容の真偽にかかわらず立証の目的を達し得る場合や,
2791 原供
2792 述についてその生成過程に照らして信用性を担保する必要が低いと評価される場合は,
2793 伝聞法
2794 則の趣旨が妥当せず,
2795 その適用がないと考えることが可能となる。
2796
2797
2798 〔設問2−1〕について,
2799 本件メモ1は,
2800 「書面」であって,
2801 本件住居侵入強盗の被害者V
2802 の名前,
2803 住所等や,
2804 本件住居侵入強盗の犯行態様と一致する記載があるものの,
2805 甲乙間におけ
2806 る本件住居侵入強盗に関するやり取りがうかがわれる記載はなく,
2807 その記載の内容(被害者の
2808 名前,
2809 住所,
2810 500万円の在りか等)の真実性を立証したとしても,
2811 甲乙間における本件住居
2812 侵入強盗に関する共謀という要証事実の認定上直接の意味を持たない。
2813
2814
2815 他方で,
2816 犯行計画を記載したメモの証拠能力に関しては,
2817 @そのメモの内容が客観的な犯罪
2818 事実と一致している場合,
2819 偶然の一致は考えにくいような事項の一致が認められ,
2820 かつ,
2821 それ
2822 が犯罪発生前に作成されたことが判明していれば,
2823 そこから直ちに犯罪がそのメモに記載され
2824
2825 - 19 -
2826
2827 た犯行計画にのっとって遂行されたことを推認でき,
2828 かかる一致の認められるメモの作成者が
2829 判明していれば,
2830 そのこと自体から,
2831 メモの作成者と犯行の実行者の間で当該メモに記載され
2832 た内容の共謀が推認し得るとする考え方,
2833 A犯行計画を記載したメモは,
2834 その作成者が作成当
2835 時に有していた犯行計画ないし犯罪意思を述べたものとして,
2836 心理状態の供述に当たり,
2837 原供
2838 述者の原供述時における心理状態を立証する上では,
2839 内心の状態について知覚と記憶の過程は
2840 問題にならないため,
2841 供述者の外界の事実の存在を示す典型的な供述証拠に比べて誤りの危険
2842 は小さく,
2843 また,
2844 真摯性,
2845 叙述の点について誤りの有無・程度を吟味する必要はあるものの,
2846
2847 それは原供述者の尋問によらなくても,
2848 その記載内容や作成状況等から誤りの有無・程度の吟
2849 味が可能であることなどから,
2850 非伝聞証拠として,
2851 刑事訴訟法第320条第1項の適用はなく,
2852
2853 かつ,
2854 その記載内容が客観的な犯罪事実と一致し,
2855 当該犯罪をメモの作成者以外の者が実行し
2856 た場合には,
2857 作成者と実行者の間で当該メモに記載された内容の共謀が形成されたことを推認
2858 し得るとする考え方などが主張されている。
2859
2860
2861 いずれの考え方を採るにせよ,
2862 本件メモ1により甲乙間における本件住居侵入強盗に関する
2863 共謀を推認し得る推論過程について,
2864 自己の理論構成を明示し,
2865 その上で,
2866 本件住居侵入強盗
2867 の犯行状況,
2868 本件メモ1の記載内容,
2869 その作成時期・作成者など,
2870 事例に現れた具体的事実を
2871 適切に抽出,
2872 分析し,
2873 それらの事実が持つ意味を適切に評価して,
2874 自己の理論構成に当てはめ,
2875
2876 本件メモ1の証拠能力の有無を論じることが求められる。
2877
2878
2879 〔設問2−2〕では,
2880
2881 「書面」である本件メモ2に,
2882
2883 「乙から指示されたこと」の記載のほか,
2884
2885 本件住居侵入強盗の被害者の名前,
2886 住所等と一致する記載及び本件住居侵入強盗の犯行態様と
2887 一致する記載があることから,
2888 本件メモ2は,
2889 乙から本件住居侵入強盗を指示された旨を甲が
2890 供述した内容を記載した書面であるといえ,
2891 甲乙間における本件住居侵入強盗に関する共謀と
2892 いう要証事実との関係で,
2893 その内容の真実性を立証するために用いられる場合に当たることか
2894 ら,
2895 刑事訴訟法第320条第1項の適用を受ける伝聞証拠として証拠能力を検討することが求
2896 められる。
2897
2898
2899 本件メモ2は,
2900 甲が自己の供述を記載した書面であり,
2901 乙との関係では,
2902 「被告人以外の者
2903 が作成した供述書」に該当することから,
2904 伝聞例外となる規定として刑事訴訟法第321条第
2905 1項第3号を選択した上で,
2906 同号が規定する@供述不能,
2907 A不可欠性,
2908 B絶対的特信性の各要
2909 件を指摘し,
2910 それらの要件の意義・解釈について的確に論じることが求められる。
2911
2912 なお,
2913 甲は
2914 乙との共謀に関する事項について証言を一切拒絶しているところ,
2915 このような証言拒絶の場合
2916 が「供述不能」に含まれるか否かについては,
2917 この点に関する最高裁判例(最大判昭和27年
2918 4月9日刑集6巻4号584頁,
2919 最判昭和44年12月4日刑集23巻12号1546頁)の
2920 内容を踏まえた上で,
2921 自己の見解を展開することが求められる。
2922
2923
2924 その上で,
2925 甲の証人尋問実施状況,
2926 甲による証言拒絶の具体的状況,
2927 本件メモ2以外の証拠
2928 の収集状況,
2929 本件メモ2の保管・発見状況,
2930 同メモの記載内容など,
2931 事例に現れた具体的事実
2932 を適切に抽出,
2933 分析し,
2934 それらの事実が持つ意味を適切に評価して,
2935 刑事訴訟法第321条第
2936 1項第3号が規定する上記の各要件に当てはめ,
2937 本件メモ2の証拠能力の有無を論じることが
2938 求められる。
2939
2940
2941 【選択科目】
2942 [倒産法]
2943 〔第1問〕
2944 本問は,
2945 株式会社が破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を基に,
2946 主に,
2947 双方未履
2948 行双務契約の処理に関する規律,
2949 相殺権と相殺禁止の規律についての基本的な理解と事例処理
2950 能力を問うものである。
2951
2952
2953 〔設問1〕は,
2954 倉庫建設工事に係る請負契約の注文者である株式会社が,
2955 建物完成後に破産
2956 - 20 -
2957
2958 手続開始の決定を受けたとの事例を通じて,
2959 破産管財人が請負契約を解除した場合に,
2960 支払済
2961 みの請負代金及び未払の請負代金債権が,
2962 破産手続においてどのように取り扱われるかについ
2963 ての基本的な理解を問うものである。
2964
2965
2966 解答に当たっては,
2967 まず,
2968 破産管財人Xによる解除について適用される具体的な規律を摘示
2969 する必要がある。
2970
2971 この点については,
2972 注文者であるA社について破産手続開始の決定があった
2973 時において,
2974 本件請負契約が双方未履行の状態にあることから,
2975 注文者が破産した事例に当た
2976 るものとして,
2977 破産法第53条第1項の特則である民法第642条第1項本文の規律が適用さ
2978 れることを指摘することが求められる。
2979
2980
2981 次に,
2982 支払済みの請負代金については,
2983 Xによる解除の効果が出来高部分には及ばないこと
2984 を前提としつつ,
2985 E建設による仕事完成債務は全て履行されているのに対し,
2986 支払済みの報酬
2987 は5000万円(全体の3分の1)にすぎず,
2988 原状回復の必要がないことから,
2989 破産手続にお
2990 ける処理の対象とはならないことを説明することが求められる。
2991
2992
2993 他方,
2994 未払の請負代金債権については,
2995 民法第642条第2項を摘示しつつ,
2996 「既にした仕
2997 事の報酬」に当たることから,
2998 破産債権として取り扱われることを説明することが求められる。
2999
3000
3001 〔設問2〕及び〔設問3〕は,
3002 預金者である株式会社が破産手続開始の決定を受けたとの事
3003 例を通じて,
3004 支払不能後又は支払停止後に預金払戻債務が負担された場合を念頭に,
3005 銀行が有
3006 する貸金返還請求権を自働債権とする相殺の可否についての的確な理解を問うものである。
3007
3008
3009 解答に当たっては,
3010 その前提として,
3011 破産法第67条第1項を摘示しつつ,
3012 B銀行の有する
3013 貸金返還請求権は,
3014 破産手続開始前の原因に基づいて生じた請求権として破産債権に当たるこ
3015 とから,
3016 原則として,
3017 これを自働債権として相殺権を行使することは可能であることを指摘す
3018 ることが求められる。
3019
3020 その上で,
3021 〔設問2〕及び〔設問3〕のいずれにおいても,
3022 F商店が,
3023
3024 危機時期に,
3025 B銀行に開設されたA社の預金口座に売買代金を振り込んだことにより,
3026 B銀行
3027 がA社に対して債務を負担することになったのであるから,
3028 受働債権たる債務負担の時期によ
3029 る相殺の禁止が問題となるとして,
3030 破産法第71条第1項各号の適用の有無について,
3031 順次検
3032 討することが求められる。
3033
3034
3035 〔設問2〕については,
3036 まず,
3037 破産法第71条第1項第2号の適用の有無を検討することに
3038 なる。
3039
3040 解答に当たっては,
3041 同法第2条第11項を摘示して支払不能の定義を示した上で,
3042 事例
3043 に掲げられた具体的な事実を拾い出して当てはめを行い,
3044 令和2年5月31日の時点でA社が
3045 支払不能となった(同年6月1日との考え方もあり得る。
3046
3047 )ことを認定し,
3048 F商店による振込
3049 は令和2年6月5日であるから支払不能後の債務負担に当たることを明示することが求められ
3050 る。
3051
3052 さらに,
3053 同法第71条第1項第2号については,
3054
3055 「破産者の財産の処分を内容とする契約」
3056 を,
3057 「専ら破産債権をもってする相殺に供する目的」で締結した場合や,
3058 既に発生している他
3059 人の「債務を引き受ける」場合の相殺を禁止していることから,
3060 これらの加重要件が設けられ
3061 ている趣旨を踏まえ,
3062 その該当性についての検討を加えることが求められる。
3063
3064 この点について
3065 は,
3066 主として,
3067 B銀行の関与がなく,
3068 F商店の選択によって振込入金がされているとの事実の
3069 評価がポイントとなるが,
3070 事例に掲げられた具体的な事実に照らすと,
3071 基本的には上記の要件
3072 はいずれも満たさないとの方向となろう。
3073
3074
3075 破産法第71条第1項第2号が適用されないとの結論に至った場合は,
3076 他の規定(同項第1
3077 号,
3078 第3号及び第4号)の適用の有無についても検討する必要がある。
3079
3080 このうち,
3081 特に検討す
3082 べきは第3号の適用の有無であるが,
3083 この検討に当たっては,
3084 「支払停止」について,
3085 債務者
3086 が弁済期に到来した債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為である
3087 ことを示した上で,
3088 令和2年6月8日に本件通知を発送したことが支払停止に当たることを認
3089 定し,
3090 結論として,
3091 F商店による振込は支払停止後の債務負担に当たらないことから同号の適
3092 用対象とはならないことを導くことが求められる。
3093
3094
3095 次に,
3096 〔設問3〕については,
3097 F商店による振込が令和2年6月16日であることから,
3098 ま
3099
3100 - 21 -
3101
3102 ずは,
3103 破産手続開始の申立てがあった後に債務を負担した場合であるとして,
3104 破産法第71条
3105 第1項第4号の適用の有無について検討することが求められる。
3106
3107 ただし,
3108 この点については,
3109
3110 問題文中に,
3111 破産手続開始の申立てがされていたことを知らなかったことが明示されているこ
3112 とから,
3113 結論として同号の適用はないことを指摘する必要がある。
3114
3115 その上で,
3116 〔設問2〕での
3117 検討を踏まえると,
3118 支払停止後の債務負担に当たることから,
3119 同項第3号の適用があることを
3120 前提に,
3121 同条第2項各号の適用の有無について検討することが求められる。
3122
3123 解答に当たっては,
3124
3125 特に,
3126 同項第2号の「前に生じた原因」の該当性について論じることが求められる。
3127
3128 具体的に
3129 は,
3130 同号の規定の趣旨が,
3131 相殺の担保的効力に対する破産債権者の合理的な期待を保護するも
3132 のであることからすると,
3133 「原因」はその期待を直接かつ具体的に基礎付けるものである必要
3134 があることを指摘した上で,
3135 事例に掲げられた具体的な事実に照らし,
3136 基本的には消極の方向
3137 で結論を示すことが期待される。
3138
3139
3140 〔第2問〕
3141 本問は,
3142 株式会社の民事再生に関する具体的事例を通じて,
3143 主として,
3144 再生債権の届出,
3145 再
3146 生計画の取消し,
3147 再生手続の廃止といった再生手続についての基本的な理解と事例処理能力を
3148 問うものである。
3149
3150
3151 〔設問1〕は,
3152 結婚披露宴に関する役務の提供を受ける権利を題材に,
3153 再生債権の概念,
3154 再
3155 生債権該当性についての理解のほか,
3156 破産債権の届出内容との相違を含め,
3157 再生債権の届出に
3158 ついての理解を問うものである。
3159
3160
3161 解答に当たっては,
3162 まず,
3163 民事再生法第84条第1項を摘示して,
3164 再生債権の定義及び要件
3165 を明示しつつ,
3166 Dの有する債権(結婚披露宴に関する役務の提供を受ける権利)が,
3167 再生手続
3168 開始前の原因に基づいて生じた財産権上の請求権に当たることを指摘することが求められる。
3169
3170
3171 次に,
3172 再生債権の届出については,
3173 同法第94条第1項の定めに従い,
3174 債権届出期間内に,
3175 債
3176 権の内容及び原因,
3177 議決権の額,
3178 民事再生規則第31条で定める事項を届け出なければならな
3179 いことを,
3180 事例に即して指摘することが求められる。
3181
3182 なお,
3183 清算型の手続である破産手続にお
3184 いては,
3185 全ての債権を金銭化する取扱いがされている(破産法第103条第2項第1号イ)こ
3186 とから,
3187 債権の「内容」ではなく,
3188 債権の「額」を届け出ること(同法第111条第1項第1
3189 号)とされている点で再生債権の届出と異なることを指摘することが求められる。
3190
3191 本問で債権
3192 者が有する権利は金銭債権ではなく役務の提供を受ける権利であるため,
3193 「内容」と「額」の
3194 違いが生じることになる。
3195
3196
3197 〔設問2〕は,
3198 再生計画案の可決に当たって虚偽の債権届出がされたとの具体的事例を通じ
3199 て,
3200 再生計画の取消事由の有無及び取消事由がある場合における裁判所の判断について,
3201 これ
3202 らの規律の基本的な理解を前提に,
3203 事例分析能力を問うものである。
3204
3205
3206 設問前段(再生計画の取消事由の有無)の検討に当たっては,
3207 まず,
3208 民事再生法第172条
3209 の3第1項第1号によれば,
3210 再生計画案の可決要件につき,
3211 議決権額の過半数のみでは足りず,
3212
3213 議決権者の頭数の過半数の同意が必要であるとされているところ,
3214 本問の事例においては,
3215 再
3216 生債務者であるA社の代表取締役Fが,
3217 A社の従業員であるGら10名に虚偽の再生債権届出
3218 書を提出させ,
3219 債権調査においてA社がこれらの債権を認めたことが,
3220 同法第189条第1項
3221 第1号の「不正の方法」に当たるか否かについて論じることが求められる。
3222
3223 この点に関連して,
3224
3225 同法第174条第2項第3号所定の「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至った
3226 とき」には,
3227 議決権を行使した再生債権者が詐欺,
3228 強迫又は不正な利益の供与等を受けたこと
3229 により再生計画案が可決された場合はもとより,
3230 再生計画案の可決が信義則に反する行為に基
3231 づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当であるとした判例(最決平成20年3月1
3232 3日民集62巻3号860頁)がある。
3233
3234 この考え方を踏まえると,
3235 本問の事例については,
3236 基
3237 本的に,
3238 「不正の方法」に該当するとの方向となろう。
3239
3240
3241
3242 - 22 -
3243
3244 次に,
3245 事例における再生計画案が不正の方法「により」成立したこと,
3246 すなわち,
3247 再生計画
3248 の成立との因果関係の有無についても検討する必要がある。
3249
3250 この点については,
3251 Gらが虚偽の
3252 届出をしなくても過半数の頭数は確保できており可決することができたとの事実や,
3253 Gらが虚
3254 偽の届出をしたことが途中で発覚していれば,
3255 債権者2名の反対により可決することはできな
3256 かったとの事実を踏まえながら,
3257 これらの事実をどのように評価するかについて論じることが
3258 求められる。
3259
3260
3261 設問後段(取消事由がある場合における裁判所の判断)については,
3262 まず,
3263 民事再生法第1
3264 89条第1項を摘示し,
3265 裁判所は取消事由がある場合でも裁量により申立てを棄却することが
3266 可能であることを指摘する必要がある。
3267
3268 その上で,
3269 取り消す方向の要素と棄却する方向の要素
3270 とを事例に則して的確に拾い出し,
3271 分析・検討をすることが求められる。
3272
3273
3274 最後に,
3275 〔設問3〕については,
3276 再生計画に基づく弁済を継続していくことができなくなっ
3277 た場合において裁判所が採るべき方策として,
3278 民事再生法上どのような制度が設けられている
3279 かについての理解を問うものである。
3280
3281 具体的には,
3282 同法第194条を摘示して,
3283 再生計画を遂
3284 行できないことが明らかである以上,
3285 裁判所は再生手続を廃止しなければならないとの指摘が
3286 求められるほか,
3287 同法第250条を摘示して,
3288 職権による破産手続開始の決定をすることがで
3289 きるとの指摘が求められる。
3290
3291 裁判所に裁量棄却の選択肢がある再生計画の取消し〔設問2〕と
3292 の対比で,
3293 再生手続の廃止は必要的であることの理解を示すことが望ましい。
3294
3295
3296 [租税法]
3297 〔第1問〕
3298 本問は,
3299 離婚時の財産分与(民法第768条)をめぐる譲渡所得の課税関係(設問1,
3300 ),
3301
3302 事業所得における必要経費(設問2),
3303 不動産所得の人的帰属(設問3)について問うもので
3304 ある。
3305
3306
3307 設問1では,
3308 分与をした者に対する課税について,
3309 所得税法第33条の規定に即して譲渡
3310 所得の基礎を踏まえた上で,
3311 最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁の趣旨を正確
3312 に理解しているかどうかが問われている。
3313
3314
3315 ここは特に,
3316 譲渡所得の総収入金額が問題となる。
3317
3318 この総収入金額は,
3319 原則として,
3320 資産の
3321 譲渡により実際に得た対価の額となる。
3322
3323 これを財産分与に当てはめると,
3324 財産分与による分与
3325 義務の消滅が,
3326 その対価に当たる。
3327
3328 この分与義務の価額は,
3329 通常は分与した資産の分与時にお
3330 ける価額と等しいと考えられる。
3331
3332 この点を丁寧に論じる必要があり,
3333 分与した資産の分与時に
3334 おける価額を,
3335 当然に総収入金額とするのは適当ではない。
3336
3337
3338 この点に注意をしつつ,
3339 譲渡所得の金額の計算,
3340 長期譲渡所得と短期譲渡所得のいずれに当
3341 たるか等を説明することが求められる。
3342
3343
3344 なお,
3345 上記判例に対しては,
3346 学説上は反対論も少なくないので,
3347 それらに基づいて論述をす
3348 ることもできるが,
3349 その場合でも,
3350 上記判例を正確に理解していることが前提となる。
3351
3352
3353 設問1では,
3354 分与を受けた者について,
3355 分与された資産を譲渡した場合の課税関係が問われ
3356 ている。
3357
3358 ここでは特に,
3359 当該資産の取得費(所得税法第33条第3項,
3360 第38条)が問題とな
3361 る。
3362
3363 ここでも,
3364 と同様に,
3365 財産分与を受けることにより消滅した財産分与請求権の価額が「そ
3366 の資産の取得に要した金額」となり,
3367 その価額は,
3368 通常は分与された資産の分与時における価
3369 額と等しいと考えられる(東京地判平成3年2月28日行集42巻2号341頁参照)ことを
3370 丁寧に論じる必要がある。
3371
3372
3373 設問2では,
3374 資格を取得するための支出や,
3375 その他の技能等を得るための支出について,
3376 事
3377 業所得における必要経費に該当するか否かを問うものである。
3378
3379
3380 必要経費の意義は,
3381 所得税法第37条に規定されているが,
3382 本件の支出は「売上原価その他
3383 当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に当たらないことは明らかであるので,
3384
3385 「販
3386 - 23 -
3387
3388 売費,
3389 一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に当たるか否かが
3390 問題となる。
3391
3392 これに該当するには,
3393 その支出が,
3394 業務の遂行と関連し,
3395 かつ,
3396 業務の遂行上必
3397 要であることが要件とされる。
3398
3399
3400 また,
3401 本件のような支出に関しては,
3402 家事費・家事関連費(所得税法第45条第1項第1号)
3403 に該当するか否かも問題となりうる。
3404
3405 家事費とは,
3406 個人の消費生活上の支出であって,
3407 もとも
3408 と必要経費に該当するものではない。
3409
3410 家事関連費とは,
3411 家事費と必要経費の両方の性格を持つ
3412 支出であり,
3413 所得税法施行令第96条第1項によれば,
3414 その主たる部分が所得を生ずべき業務
3415 の遂行上必要であり,
3416 かつ,
3417 その必要である部分を明らかに区分することができる場合に,
3418 そ
3419 の部分について必要経費に算入される(ただし,
3420 所得税法基本通達45−2参照)。
3421
3422
3423 本問においては,
3424 これらの点を踏まえた上で,
3425 2つの支出それぞれについての判断が求めら
3426 れる。
3427
3428
3429 設問3では,
3430 不動産所得の人的帰属が問われている。
3431
3432 所得の人的帰属については,
3433 所得税法
3434 第12条に規定されており,
3435 その解釈についてはいわゆる法律的帰属説が妥当する。
3436
3437 法律的帰
3438 属説によれば,
3439 資産から得られる所得は,
3440 通常はその資産の所有者に帰属すると考えられる。
3441
3442
3443 このことを遺産分割前の相続財産に当てはめればよい。
3444
3445 なお,
3446 本問では,
3447 遺産分割後において
3448 本件の賃料収入がどのように扱われるかは問うていない。
3449
3450
3451 〔第2問〕
3452 本問は,
3453 含み益のある資産を関連会社で転々譲渡して少しずつ含み益を実現させ,
3454 複数の会
3455 社の繰越欠損金と相殺しようとした場合の,
3456 法人税法の適用(設問1,
3457 ,
3458 設問2),
3459 国税
3460 通則法第68条第1項(重加算税)の「隠ぺい,
3461 仮装」の理解(設問1,
3462 ),
3463 会社からリ
3464 ベートを受けた場合の所得分類(設問3)について問うものである。
3465
3466
3467 設問1とはセットで捉えていただきたい。
3468
3469 導入として,
3470 設問1では時価譲渡時の法人
3471 税法の適用を確認している。
3472
3473 過去の答案の危うさの例として,
3474 法人税法第22条第2項の適用
3475 により◇◇−△△=☆☆の譲渡益が益金に計上される,
3476 という答案が散見される。
3477
3478 法人税法第
3479 22条第2項により益金◇◇が,
3480 同条第3項(ここでは第1号の「原価」)により損金△△が,
3481
3482 という形で,
3483 益金,
3484 損金を別々に説明できるかを確認している。
3485
3486
3487 設問1の低額譲渡に関し,
3488 適用条文は法人税法第22条第2項の「無償」譲渡なのか「有
3489 償」譲渡なのか,
3490 という問題がある。
3491
3492 南西通商株式会社事件・最判平成7年12月19日民集
3493 49巻10号3121頁の原々審は「正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持
3494 するために,
3495 無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定」と判示していたが,
3496
3497 最高裁は低額譲渡を有償譲渡に含めた上で「適正な価額との差額部分の収益が認識され得ない
3498 ものとすれば……無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになる」ので「資産の低額譲渡が行
3499 われた場合には,
3500 譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資
3501 産の譲渡に係る収益の額に当たる」と判示していた。
3502
3503 この旨は,
3504 現在は法人税法第22条の2
3505 第4項で明確化されている。
3506
3507
3508 次に,
3509 時価9000万円の資産を7000万円で譲渡した場合には,
3510 2000万円の社外流
3511 出が生じる。
3512
3513 この社外流出が,
3514 特別な規定がなければ法人税法第22条第3項第3号の「損失」
3515 に当たるであろうところ,
3516 同条第3項柱書の「別段の定め」である法人税法第37条の適用を
3517 考えることとなる。
3518
3519 令和2年度の第1問では,
3520 高額譲受という,
3521 法人税法第37条の中で明示
3522 的には規律されていない難しい問題が扱われていた。
3523
3524 一方,
3525 今回の設問1では,
3526 法人税法第
3527 37条第8項で明示的に規律されている低額譲渡が扱われている。
3528
3529 なお,
3530 同条第8項に該当し
3531 寄附金であるとされると,
3532 同条第1項により,
3533 寄附金のうち損金算入限度額の範囲でしか損金
3534 算入できなくなる。
3535
3536 本問では損金算入限度額の計算は求められていないものの,
3537 「寄附金につ
3538 いては,
3539 法人税法第37条第1項により損金算入が制限される」といった説明であると,
3540 全額
3541
3542 - 24 -
3543
3544 が損金算入できないことになるのか一部が損金算入できないことになるのか不明であるので,
3545
3546 損金算入限度額という限度があることの理解を答案で示してほしい。
3547
3548
3549 設問1とはセットで捉えていただきたい。
3550
3551 司法試験受験生で国税通則法第68条第1項
3552 (重加算税)に関する最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁を勉強してきている
3553 者は少ないと予想されるので,
3554 長めの判旨を問題文中に示しつつ,
3555 先に設問1で国税通則法
3556 第65条の単純な過少申告加算税との区別を問うている。
3557
3558 最高裁は,
3559 問題文に示した部分より
3560 前の部分で「重加算税を課するためには,
3561 納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい,
3562 仮装
3563 に当たるというだけでは足りず,
3564 過少申告行為そのものとは別に,
3565 隠ぺい,
3566 仮装と評価すべき
3567 行為が存在し,
3568 これに合わせた過少申告がされたことを要する」と判示しているが,
3569 多くの受
3570 験生はそこまでの知識を有していないかもしれないことを前提に,
3571 国税通則法第65条と第6
3572 8条とで単純な過少申告と重加算税の対象となる過少申告とが区別されているという最低限の
3573 国税通則法に関する知識を有しているかを設問1で確認している。
3574
3575 国税通則法第65条に「隠
3576 ぺい,
3577 仮装」という文言がないということを指摘するだけでもよい。
3578
3579
3580 続いて,
3581 設問1では,
3582 問題文中で長めに引用されている判旨から「意図を外部からもうか
3583 がい得る特段の行動」という鍵となる規範を抽出する能力と,
3584 それに当たる事実を問題文中か
3585 ら拾う当てはめの能力を問うている。
3586
3587 本件各取引は,
3588 架空名義の利用もなく,
3589 私法上は有効に
3590 成立していると考えられるが,
3591 判旨が注目しているのは「意図」であり,
3592 法律行為の内容を構
3593 成しない動機レベルの事実も,
3594 ここでは重要である。
3595
3596
3597 設問2では,
3598 設問1,
3599 からひねりが加えられており,
3600 B社にとっての本件土地の法人税
3601 法上の価値は,
3602 時価である9000万円なのか,
3603 それとも転売価格拘束が意味を持つのか,
3604 が
3605 問われている。
3606
3607 そして,
3608 PL農場事件・大阪高判昭和59年6月29日行集35巻6号822
3609 頁によれば,
3610 転売価格が拘束されている場合はその価格が本件でいうB社にとっての価値(本
3611 問では7500万円)であって,
3612 時価ではない,
3613 ということになる。
3614
3615 この理は,
3616 法人税法第2
3617 2条の2第4項が立法された後でも変わらない。
3618
3619
3620 続いて,
3621 B社にとって7500万円の価値のある資産をB社が7000万円で購入している
3622 ことから,
3623 B社に500万円の所得が生じそうであるが,
3624 それはいつなのか,
3625 本件AB取引の
3626 時点においてか,
3627 本件BP取引の時点においてか,
3628 が問題となる。
3629
3630 PL農場事件では,
3631 本件A
3632 B取引に相当する取引と本件BP取引に相当する取引が同一年度内に行なわれたため,
3633 いつな
3634 のか,
3635 という問題を意識しにくい。
3636
3637 そこで本問では,
3638 本件AB取引と本件BP取引の年度をず
3639 らすことにより,
3640 いつなのか,
3641 の問題を受験生に意識させようとした。
3642
3643 PL農場事件の判示は,
3644
3645 いつなのか,
3646 の問題についても明瞭な指針を与えている。
3647
3648 本件AB取引の時点で,
3649 7500万
3650 円の価値のあるものを7000万円の支出で取得しているから,
3651 500万円の受贈益が本件A
3652 B取引の時点で生じる。
3653
3654 なお,
3655 受贈益が2000万円になるわけではない。
3656
3657 次に,
3658 本件BP取
3659 引の時点では,
3660 法人税法第22条第3項第1号にいう「原価」は,
3661 受贈益が原価に加算される
3662 ため7000万円ではなく7500万円であって,
3663 「売却差益は存しない」とPL農場事件の
3664 判旨は述べている。
3665
3666
3667 設問3は本件リベートの所得分類を問うている。
3668
3669 所得分類について万全を期すならば,
3670 十種
3671 類の所得分類全てについて検討すべきであるということになりかねないところ,
3672 本問では事業
3673 所得,
3674 一時所得,
3675 雑所得に絞っている。
3676
3677 所得税法第34条第1項の「一時所得とは……以外の
3678 一時の所得」,
3679 第35条第1項の「雑所得とは……のいずれにも該当しない所得」という規定
3680 の構造に照らし,
3681 最初に検討すべきは事業所得該当性である。
3682
3683
3684 事業所得該当性を論ずる際,
3685 まず弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻
3686 3号672頁などの判例による基準を提示し,
3687 本問の状況がこれに該当するかを検討すること
3688 となる。
3689
3690
3691 次に一時所得か雑所得かを検討することになる。
3692
3693 この際,
3694 所得税法第34条第1項の「一時
3695
3696 - 25 -
3697
3698 所得とは……営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役
3699 務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
3700
3701 」の要件のうち,
3702 対価性が焦点
3703 となることを示せるかが鍵となる。
3704
3705
3706 なお,
3707 本件リベートのような金員の授受について,
3708 本問では法人税法と所得税法とのバラン
3709 スに鑑みて質問されていないが,
3710 法人税法第55条第1項の意義,
3711 及び,
3712 株式会社エス・ブイ・
3713 シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁における脱税協力手数料の損金算
3714 入の可否(結論は否)についても,
3715 復習しておくことが望ましい。
3716
3717
3718 [経済法]
3719 〔第1問〕
3720 第1問は,
3721 入札談合に関する出題であり,
3722 Y1ないしY15の行為が,
3723 私的独占の禁止及び
3724 公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3725
3726 )第2条第6項に定義される不当
3727 な取引制限に該当し,
3728 同法第3条に違反するかどうかを中心に同法上の問題点の検討を求める
3729 ものである。
3730
3731 不当な取引制限の諸要件を正確に理解していることを前提に,
3732 特にY14及びY
3733 15については,
3734 それぞれの主張の趣旨を的確に捉えた上で,
3735 問題となる要件についてあるべ
3736 き解釈を示し,
3737 設例の事実関係を当てはめ,
3738 その当否を説得的に論じる必要がある。
3739
3740
3741 まず,
3742 行為要件として,
3743 「共同して」(多摩談合(新井組ほか)事件・最判平成24年2月2
3744 0日民集66巻2号796頁に従って,
3745
3746 「共同して・・・相互に」の要件と考えることもできる。
3747
3748 )
3749 は,
3750 意思の連絡を意味する。
3751
3752 また,
3753 「相互にその事業活動を拘束する」(相互拘束)の要件をど
3754 う定義するかについては,
3755 複数の解釈があり得るが,
3756 いずれの立場に立つとしても,
3757 その意義
3758 を定立する必要がある。
3759
3760 本件合意の当事者であるY1ないしY13については,
3761 いずれの要件
3762 も充足することは明らかであり,
3763 簡潔に解答すれば足りる。
3764
3765
3766 これに対して,
3767 本件会合に参加していないY14及びY15については,
3768 各主張を十分に踏
3769 まえた検討が求められる。
3770
3771
3772 Y14は,
3773 本件合意の参加者の正確な範囲を知らないと主張しており,
3774 本件合意に参加する
3775 事業者の範囲をどの程度認識していれば「共同して」といえるのかが問題となる(「順次の意
3776 思連絡」等の問題ではない。
3777
3778 )。
3779
3780 この点に関しては,
3781 元詰種子カルテル事件・東京高判平成20
3782 年4月4日審決集55巻791頁において,
3783 参加者の範囲の概括的認識をもって足り,
3784 参加者
3785 の範囲を具体的かつ明確に認識することまでは要しない旨判示されている点が参考となるが,
3786
3787 理由を示すこともなく,
3788 同裁判例の結論に依拠するのみでは十分でない。
3789
3790 本問において,
3791 Y1
3792 4は,
3793 調整役のY1から「X県所在の有力な業者の多くが本件合意に参加する意思を表明して
3794 いる」と伝えられているから,
3795 上記裁判例の結論に照らせば,
3796 Y14の主張を肯定することは
3797 困難であろう。
3798
3799
3800 また,
3801 Y14は,
3802 受注希望はなく,
3803 実際に落札した工事もないと主張しており,
3804 これは相互
3805 拘束の不存在を主張するものと理解できる。
3806
3807 相互拘束の意義については複数の解釈があり得る
3808 が,
3809 例えば,
3810 拘束の相互性や共通性を厳格に捉える解釈によれば,
3811 Y14の主張は一定の合理
3812 性を有するかもしれない。
3813
3814 他方,
3815 合意を遵守し合う関係ないしは合意に事実上拘束されている
3816 状態にあれば足りるとの解釈によれば,
3817 Y14の主張は失当であろう。
3818
3819 いずれにせよ,
3820 相互拘
3821 束の意義を明確に示した上で,
3822 設例の事実関係を当てはめ,
3823 Y14の主張の当否を説得的に論
3824 じることが必要となる。
3825
3826
3827 Y15は,
3828 本件合意への参加に関するY1の呼び掛けにいったん応じたものの,
3829 入札公告前
3830 にY1に対して本件合意に参加しないことを明確に伝えたと主張しており,
3831 ここでは,
3832 いつの
3833 段階で違反が成立するのか,
3834 すなわち個別調整等を待たずとも基本合意により違反は成立する
3835 のか,
3836 また,
3837 基本合意により違反が成立すると考えるならば,
3838 本問においてY1に対する意思
3839 表示のみで離脱を認めることができるのかが問題となる。
3840
3841 前者については,
3842 基本合意の成立時
3843 - 26 -
3844
3845 点で違反が成立すると考えられよう。
3846
3847 競争を実質的に制限すると認められる合意があれば,
3848 そ
3849 の実施等がなくとも不当な取引制限の要件を満たすし(なお,
3850 石油価格カルテル刑事事件・最
3851 判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁を参照),
3852 その実施等がなされるまで違反
3853 は成立しないと考えるべき実際上の理由もないからである。
3854
3855 後者については,
3856 どのような場合
3857 に離脱を認め得るか複数の立場があり得る。
3858
3859 一つの立場を示すものとして,
3860 岡崎管工事件・東
3861 京高判平成15年3月7日審決集49巻624頁は,
3862 「離脱者が離脱の意思を参加者に対し明
3863 示的に伝達することまでは要しないが,
3864 離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどま
3865 るだけでは足りず,
3866 少なくとも離脱者の行動等から他の参加者が離脱者の離脱の事実を窺い知
3867 るに十分な事情の存在が必要」とする。
3868
3869 これによれば,
3870 本問では,
3871 調整役のY1に対する明示
3872 的な離脱意思の表明が他の参加者にとって離脱の事実を窺い知るに十分な事情の存在といえる
3873 かについて,
3874 Y1が調整役であり個別調整の取りまとめ役であることといった設例の事実関係
3875 を当てはめて論じることになろう。
3876
3877 このような立場を採らず,
3878 一部の参加者に対する離脱意思
3879 の表明で足りるとするのであれば,
3880 当てはめを含めて説得的に論述することが必要となる。
3881
3882 な
3883 お,
3884 基本合意の参加者全員に対して離脱意思を明示しなければならないなどという立場に立つ
3885 場合には,
3886 Y14の主張の当否に関して参加者の範囲を具体的かつ明確に認識することまでは
3887 要しないという立場に立つこととの整合性に留意する必要があろう。
3888
3889
3890 次に,
3891 効果要件である「公共の利益に反して,
3892 一定の取引分野における競争を実質的に制限
3893 する」のうち,
3894 「一定の取引分野」については,
3895 本問におけるような専ら競争制限を目的ない
3896 し効果とする合意に関しては,
3897 通常,
3898 共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受
3899 ける範囲をもって画定することで足りると解されるところ,
3900 本問では,
3901 本件合意が対象とする
3902 「X県が条件付一般競争入札の方法により発注する本件各工事の取引分野」が一定の取引分野
3903 として画定されることを簡潔に解答することが求められる。
3904
3905 また,
3906
3907 「競争を実質的に制限する」
3908 とは,
3909 当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,
3910 本問のような入札談合にお
3911 いては,
3912 当事者らがその意思で落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状
3913 態をもたらすことをいうところ(前記多摩談合(新井組ほか)事件判決),
3914 その意義を示した
3915 上で設例の事実関係を当てはめて論述することが求められる。
3916
3917 本問の設例では,
3918 入札価格を8
3919 0点満点で評価する「価格評価点」と技術力を20点満点で評価する「技術評価点」を合算し
3920 た点数の最も高い者を落札者とする総合評価落札方式が採用されている。
3921
3922 技術評価点によって
3923 は落札者が変わり得るが,
3924 本件合意の参加者が技術力の高い事業者であること,
3925 個別物件ごと
3926 に技術評価点の予測値を算出した上で個別調整を行う仕組みとなっていること,
3927 入札結果をみ
3928 ても,
3929 Y1ないしY15以外の入札参加者は技術力が高くない数社にとどまり,
3930 20件中19
3931 件の工事について本件合意に基づく調整の結果どおり受注予定者が受注していることを示し
3932 て,
3933 論述することが求められる。
3934
3935 公共の利益に反することについては,
3936 受注価格の低落防止及
3937 び受注機会の均等化を図るという本件合意の目的に絡めて簡潔に解答すれば足りよう。
3938
3939
3940 なお,
3941 設問は課徴金の賦課及び犯則事件について論じる必要はないとしている。
3942
3943 前者は,
3944 Y
3945 1が課徴金を加重される主導的事業者に該当するのかという点を含め課徴金の賦課に関する検
3946 討を除外する趣旨である。
3947
3948 後者は,
3949 設例の事実関係が行政事件を念頭に置いたものか不明確で
3950 あることから,
3951 念のため示したものであって,
3952 今後,
3953 犯則事件について論じる必要はない旨明
3954 示されていなければ,
3955 必ずこれを論じなければならない趣旨ではないことに留意されたい。
3956
3957
3958 〔第2問〕
3959 第2問は,
3960 4社寡占の甲製品市場において,
3961 45パーセントのシェアを有するX社が,
3962 後発
3963 でシェアは15パーセントにとどまるが相対的に低価格であるY社の甲製品の伸長に危機感を
3964 抱き,
3965 Y社の甲製品を積極的にユーザーに推奨する取引先販売店に対して個別に,
3966 X社による
3967 販売促進等の支援において不利に扱う旨を示唆したこと(措置1)及び取引先特約店に対して
3968
3969 - 27 -
3970
3971 専らX社の甲製品を推奨することを約束させる活動を行ったこと(措置2)について,
3972 設問1
3973 ではそれぞれの措置が独占禁止法に違反するかを問い,
3974 設問2では追加的事情の下で措置1及
3975 び措置2の全体が同法に違反するかを問うものである。
3976
3977
3978 設問を分け,
3979 設問2では追加的事情を加えることにより,
3980 設問1では「公正な競争を阻害す
3981 るおそれ」(公正競争阻害性)を効果要件とする不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項・
3982 第19条)に,
3983 設問2では「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(競争の
3984 実質的制限)を効果要件とする私的独占(同法第2条第5項・第3条)に,
3985 それぞれ該当する
3986 かについて検討することを求めていることがおのずと分かるようにしている。
3987
3988 独占禁止法の実
3989 体規定の体系的な理解を前提に,
3990 不公正な取引方法と私的独占の行為要件及び効果要件の違い
3991 を踏まえて解答することが求められている。
3992
3993
3994 設問1においては,
3995 まず,
3996 措置1と措置2のそれぞれについて,
3997 どの類型の不公正な取引方
3998 法に該当するかを特定する必要があるところ,
3999 取引の相手方に対するいわゆる垂直的制限とし
4000 て,
4001 独占禁止法第2条第9項第6号ニの「相手方の事業活動を・・・拘束する条件をもって取引
4002 すること」(広義の拘束条件付取引)に該当するか,
4003 具体的には,
4004 不公正な取引方法の一般指
4005 定(以下「一般指定」という。
4006
4007 )第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引)
4008 に該当するかがポイントとなる。
4009
4010 措置1については,
4011 設例上,
4012 広義の拘束条件付取引と直ちに
4013 評価できるだけの十分な事実関係は示されておらず,
4014 その態様(不利益措置の示唆にとどまる
4015 上,
4016 Y社の甲製品を積極的に推奨している販売店がどの程度存在するか設例上明らかにされて
4017 いない。
4018
4019 )等に照らせば,
4020 Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店に対する個別の牽制ないし
4021 は圧力と評価できよう。
4022
4023 そうすると,
4024 措置1は,
4025 Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店に対
4026 する,
4027 販売促進等の支援における「取引条件等の差別取扱い」(一般指定第4項),
4028 Y社の甲製
4029 品を積極的に推奨しないように仕向けて取引の内容を制限させる「その他の取引拒絶」(一般
4030 指定第2項),
4031 Y社という自己の「競争者に対する取引妨害」(一般指定第14項)に該当する
4032 ものと考えることができ,
4033 そのいずれを選択するにしても,
4034 それぞれの類型を定める条文に即
4035 して行為要件を充足するかを的確に論述する必要がある。
4036
4037 なお,
4038 仮に,
4039 措置1が上記の態様に
4040 とどまるものであるにもかかわらず,
4041 拘束条件付取引として捉える場合には,
4042 拘束条件を付け
4043 る取引の相手方の範囲や拘束条件の内容,
4044 その実効性が確保されていることを検討し,
4045 さらに,
4046
4047 排他条件付取引として捉える場合には,
4048 そのような検討に加えて,
4049 甲製品の販売店では併売が
4050 一般的であるにもかかわらず,
4051 Y社の甲製品を積極的に推奨しないということをもって「競争
4052 者と取引しない」という要件に該当することを検討することになろう。
4053
4054 他方,
4055 措置2について
4056 は,
4057 X社が特約店に対し,
4058 専らX社の甲製品を推奨することを約束する場合にはリベートを供
4059 与する旨提案し,
4060 これを実施するものであるから,
4061 拘束条件付取引に該当することが明らかで
4062 あり,
4063 上記約束の履行状況のモニタリングや指導,
4064 指導による改善が見られない場合における
4065 リベートの不支給や販売促進等の支援策の削減の通告という上記約束の実効性確保措置が講じ
4066 られていることも踏まえつつ,
4067 行為要件を充足するかを的確に論述する必要がある。
4068
4069 なお,
4070 措
4071 置2を排他条件付取引として捉える場合には,
4072 措置1と同様に,
4073 甲製品はX社の特約店であっ
4074 ても併売が一般的であるにもかかわらず,
4075 専らX社の甲製品の推奨という上記約束を「競争者
4076 と取引しない」ことと同視できるのかを検討することになろう。
4077
4078
4079 次に,
4080 措置1及び措置2のそれぞれについて,
4081 不公正な取引方法の効果要件である公正競争
4082 阻害性が認められるか否かを検討することになる。
4083
4084 ここでは,
4085 公正競争阻害性の意義を的確に
4086 示した上で,
4087 X社がY社の甲製品の販売台数の伸長等に危機感を抱いて2つの措置を採ること
4088 とした経緯に鑑み,
4089 競争排除(他の事業者を市場から排除したり,
4090 新規参入を妨げたりするこ
4091 と)ないしは市場閉鎖(代替的な取引先を容易に確保することができなくなること)による競
4092 争減殺効果を検討することになろう(措置1について,
4093 競争者に対する取引妨害と捉える場合
4094 には,
4095 競争手段の不公正さの観点を加味して論述することもできよう。
4096
4097 )。
4098
4099 なお,
4100 これらに加え
4101
4102 - 28 -
4103
4104 て,
4105 Y社の甲製品が排除されることによる価格維持を通じた競争減殺効果に着目することもで
4106 きるが,
4107 設例においてはその点を的確に判断するために必要な事実関係は明らかにされていな
4108 いことに留意する必要がある。
4109
4110
4111 前提として,
4112 自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性を検討するには,
4113 検討対象となる市
4114 場を画定することが必要であり,
4115 市場の意義とその画定方法を的確に示した上で,
4116 設例の事実
4117 関係に即して「我が国における甲製品の製造販売市場」と画定できることを簡潔に解答するこ
4118 とが求められる。
4119
4120
4121 画定した上記市場において,
4122 設例の事実関係の下で具体的にどのようなメカニズムにより競
4123 争排除ないしは市場閉鎖による競争減殺効果が生じるかを検討する必要がある。
4124
4125 まず,
4126 措置1
4127 について,
4128 設例の事実関係を踏まえて,
4129 X社による販売促進等の支援における不利な扱いの示
4130 唆によってどのような広がりのある効果がもたらされるのか,
4131 現に不利な扱いを受けた販売店
4132 が存在し,
4133 そうした販売店に関する情報が流布していることを加味して論じた上で,
4134 ユーザー
4135 は販売店の推奨によってメーカーを選定する傾向が強いことを前提に,
4136 低価格を武器にしてそ
4137 のシェアを漸増させていたY社の甲製品への影響を論じる必要があろう。
4138
4139 次に,
4140 措置2につい
4141 ては,
4142 措置1よりも特約店の事業活動に対する制約が強く働き得ることや,
4143 そのために市場閉
4144 鎖の状況がある程度具体的に発現していることに留意して論述する必要がある。
4145
4146 すなわち,
4147 設
4148 例の事実関係に照らせば,
4149 特約店には専らX社の甲製品を推奨するという約束に応じない又は
4150 これを履行しないという選択は考えにくく,
4151 そうすると,
4152 ユーザーは販売店の推奨によってメ
4153 ーカーを選定する傾向が強いことを前提に,
4154 併売が一般的である特約店が上記約束をそのとお
4155 りに実行すれば,
4156 X社の特約店が実質的にX社の専売店に近いものとなりかねないと考えられ
4157 ること,
4158 設例の事実関係を総合すると,
4159 販売店全体の3割程度が上記約束に応じていることに
4160 なり,
4161 実際にも,
4162 Y社では新たな取引先の獲得に懸念が生じていることといった事実関係を踏
4163 まえて,
4164 措置2により,
4165 Y社は代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,
4166 取引機
4167 会が減少するような状態をもたらすおそれが発現しているかを説得的に論述することが求めら
4168 れる。
4169
4170 なお,
4171 正当化事由については,
4172 競争者に対抗することは有力な事業者においても認めら
4173 れるべきであるとはいえ,
4174 2つの措置はいずれも,
4175 単なる対抗策の域を超え,
4176 X社の家庭用電
4177 動器具の総合メーカーとしての地位等を背景に,
4178 Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店を狙
4179 い撃ちにし(措置1),
4180 また,
4181 実質的にX社の特約店を専売店化することにつながりかねない
4182 (措置2)ものであり,
4183 正当化されないであろう。
4184
4185
4186 設問2については,
4187 X社による措置1及び措置2の全体について,
4188 私的独占の手段としての
4189 他の事業者の事業活動の「排除」に該当するかを検討することになろう。
4190
4191 NTT東日本事件・
4192 最判平成22年12月17日民集64巻8号2067頁によれば,
4193 「正常な競争手段の範囲を
4194 逸脱するような人為性」を有し,
4195 「市場への参入を著しく困難にするなどの効果」を有するか
4196 を様々な事情を総合考慮して判断することになるところ,
4197 その場合には,
4198 設例の事実関係(な
4199 お,
4200 販売店全体の4割程度が上記約束に応じていることになる。
4201
4202 )を踏まえて,
4203 X社が他の事
4204 業者では到底採り得ない人為的手段を用いて,
4205 Y社をはじめとする競争者にとって販売店を獲
4206 得することや販売店における推奨を確保することが容易にできない状態をもたらしているかを
4207 説得的に論述することが求められる。
4208
4209
4210 次に,
4211 前記のとおり画定した市場を「一定の取引分野」とすることを前提に,
4212 競争の実質的
4213 制限の成否を検討することになる。
4214
4215 まず,
4216 競争の実質的制限の意義を的確に示した上で,
4217 これ
4218 まで価格競争は限定的であったものの,
4219 Y社が参入し,
4220 相対的な低価格を強調する販売戦略に
4221 より販売台数を伸ばし,
4222 そのためX社のシェアが漸減し,
4223 市場に変化が現れ始めていたことを
4224 前提に,
4225 設例の事実関係を当てはめて,
4226 競争を実質的に制限するに至っているかを論述する必
4227 要がある。
4228
4229
4230 最後に,
4231 X社の2つの措置について,
4232 「公共の利益に反し」ないとする特段の事情がないこ
4233
4234 - 29 -
4235
4236 とを簡潔に付言することが求められる。
4237
4238
4239 [知的財産法]
4240 〔第1問〕
4241 1
4242
4243 設問1は,
4244 均等侵害の成否を問うものである。
4245
4246 設問2は,
4247 消尽の成否を問うものである。
4248
4249
4250 設問3は,
4251 特許法(以下「法」という。
4252
4253 )第101条第2号の間接侵害の成否,
4254 設問3
4255 は,
4256 同号の間接侵害に基づく損害賠償請求と法第102条第2項の関係を問うものである。
4257
4258
4259
4260 2
4261
4262 設問1については,
4263 A製品がX発明の構成要件の一部を欠くことから,
4264 文言侵害が成立せ
4265 ず,
4266 均等侵害の成否が問題となることを指摘した上で,
4267 均等侵害の5要件を提示した最判平
4268 成10年2月24日民集52巻1号113頁【ボールスプライン事件】を踏まえ,
4269 均等論の
4270 意義・根拠に言及しつつ,
4271 設問の事例において,
4272 均等侵害の5要件が充足されるか否かを具
4273 体的に論述することが求められる。
4274
4275 特に,
4276 本問では,
4277 「その他の硬い針を用いてもよい」と
4278 いう明細書の記載との関係で,
4279 「樹脂製の針」に係る構成をX発明の特許請求の範囲に含め
4280 なかったことが「特段の事情」に該当するか否かについて詳しく検討する必要がある。
4281
4282 この
4283 点については,
4284 容易想到な出願時同効材を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは「特段
4285 の事情」に当たらないが,
4286 客観的,
4287 外形的にみて,
4288 対象製品等の構成が特許請求の範囲の構
4289 成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたとき
4290 は「特段の事情」に当たると判示した最判平成29年3月24日民集71巻3号359頁【マ
4291 キサカルシトール事件】を踏まえ,
4292 設問の事例において,
4293 「特段の事情」があると言えるか
4294 否かについて,
4295 自説を説得的に論証することが求められる。
4296
4297
4298
4299 3
4300
4301 設問2については,
4302 Bが販売している製品は,
4303 X製品の使用済み品を再生したものである
4304 ため,
4305 消尽の成否が問題となる。
4306
4307 まず消尽の意義・根拠(市場における特許製品の円滑な流
4308 通・特許権者の利得確保の機会の存在)を指摘しつつ,
4309 解釈により特許権の消尽を認めるべ
4310 きことを論じる必要がある。
4311
4312 また,
4313 本問では,
4314 X製品の添付文書に「再使用禁止」の記載が
4315 あるが,
4316 特許権の消尽は,
4317 政策的理由から特許権の効力を画するものであり,
4318 特許権者の意
4319 思でその効力を変更することはできないから,
4320 添付文書の記載を理由に直ちに消尽の成立を
4321 阻止することはできないことを論じる必要がある。
4322
4323
4324
4325 次に,
4326 本問では,
4327 Bが,
4328 X製品を再生する過程で,
4329 分解,
4330 洗浄,
4331 再組立て,
4332 滅菌処理等を
4333 行っていることから,
4334 特許製品に加工等がされた場合には,
4335 特許製品の属性,
4336 特許発明の内
4337 容,
4338 加工及び部材の交換の態様,
4339 取引の実情等を総合考慮し,
4340 元の特許製品と同一性を欠く
4341 製品が新たに製造されたといえるか否かにより特許権の行使の可否を判断すると判示した最
4342 判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁【インクタンク事件】を踏まえ,
4343 設問の
4344 事例において,
4345 特許権の行使を認めるべきか否かについて,
4346 自説を説得的に論述することが
4347 4
4348
4349 求められる。
4350
4351
4352 設問3については,
4353 C製品がそれ自体としては一体化同時穿刺に使用することができず,
4354
4355 かつ,
4356 一体化同時穿刺以外の態様で使用することが可能なものであるから,
4357 直接侵害及び法
4358 第101条第1号の間接侵害は成立せず,
4359 同条第2号の間接侵害の成否が問題となることを
4360 指摘し,
4361 設問の事例において,
4362 同号の要件が充足されるか否かについて説得的に論じること
4363 が求められる。
4364
4365 「物の生産」については,
4366 「生産」の意義を明らかにしつつ,
4367 一体化同時穿刺
4368 に使用することを禁じた添付文書の記載との関係で,
4369 C製品が「物の生産」に用いるものと
4370 いえるかを具体的に論じる必要がある。
4371
4372 また,
4373
4374 「その発明による課題の解決に不可欠なもの」
4375 については,
4376 「課題の解決に不可欠なもの」の意義を明らかにしつつ,
4377 X発明の技術的特徴
4378 との関係でC製品が「課題の解決に不可欠」といえるかを具体的に論じる必要がある。
4379
4380 さら
4381 に,
4382 主観的要件(「知りながら」)については,
4383 C製品が一般に一体化同時穿刺に使用される
4384
4385 - 30 -
4386
4387 ものではないことを念頭に置きつつ,
4388 Cへの警告や本件訴えの提起をもって,
4389 主観的要件の
4390 充足を認めて良いかを論じる必要がある。
4391
4392
4393 5
4394
4395 設問3については,
4396 法第101条第2号の間接侵害の成立に主観的要件の充足が必要で
4397 あることを指摘し,
4398 主観的要件の充足が認められる前に販売されたC製品には間接侵害が成
4399 立しないため,
4400 Xの損害賠償請求は認められないことを論じる必要がある。
4401
4402
4403
4404 次に,
4405 法第102条第2項が損害に関する法律上の事実推定規定であり,
4406 侵害行為がなけ
4407 れば,
4408 特許権者が利益を得られたであろうという事情が認められれば,
4409 同項の適用が認めら
4410 れることを踏まえつつ(知財高判平成25年2月1日判時2179号36頁【ごみ貯蔵器事
4411 件】
4412 )
4413 ,
4414 Cが主観的要件充足後に販売したC製品のうち,
4415 一体化同時穿刺に使用されていない
4416 製品については,
4417 Cの販売行為がなければ,
4418 XがX製品を販売することができたとはいえな
4419 いため,
4420 損害が生じていない,
4421 もしくは,
4422 Cの販売行為とX製品の販売減少との相当因果関
4423 係を阻害する事情があり,
4424 法第102条第2項の推定が覆滅されるということを論じる必要
4425 がある(東京地判平成23年6月10日知財管理62巻10号1461頁【医療用器具事
4426 件】
4427 )
4428 。
4429
4430
4431 〔第2問〕
4432 1
4433
4434 設問1は,
4435 公表を予定されていない著作物について職務著作の成否を問うものである。
4436
4437 設
4438 問2は,
4439 頒布権等の消尽について問うものである。
4440
4441 設問3は,
4442 著作権を全部譲渡した著作者
4443 が,
4444 譲受人の許諾を得た者が行った改変について同一性保持権の侵害を理由とする損害賠償
4445 を請求した場合に,
4446 当該許諾を得た者がどのような反論をなし得るかを問うものである。
4447
4448
4449
4450 2
4451
4452 設問1については,
4453 まず甲を撮影した写真に著作物性(著作権法(以下「法」という。
4454
4455 )
4456 第2条第1項第1号)が認められることが前提となる。
4457
4458
4459 その上で,
4460 Aが,
4461 法第15条第1項の規定により,
4462 当該写真の著作者の資格を有するか否
4463 かを論ずることになる。
4464
4465 丙がAの業務に従事する者であること,
4466 丙がAの発意に基づいて職
4467 務上当該写真を撮影したこと,
4468 丙とAとの間に前者を当該写真の著作者とする別段の定めが
4469 存しないことは問題文より肯定されるが,
4470 当該写真は,
4471 その公表が一切予定されていなかっ
4472 たものであることから,
4473 Aが「自己の著作の名義の下に公表するもの」といえるかどうかが
4474 問題となる。
4475
4476
4477 もっぱら法人等の内部で使用するものとして業務従事者に作成させたものが,
4478 それゆえに
4479 かえって後者の著作物となり,
4480 この者に公表権や公の利用に係る著作権が帰属することは不
4481 合理であると考えられるから,
4482 結論としては,
4483 当該写真について職務著作の成立を認めるこ
4484 ととなろう。
4485
4486 そして,
4487 そのための解釈としては,
4488 法第15条第1項にいう「法人等が自己の
4489 著作の名義の下に公表するもの」には,
4490 仮に公表するとすれば法人等の名義で公表するもの
4491 も含まれるとすること(東京高判昭和60年12月4日判時1190号143頁【新潟鉄工
4492 事件】,
4493 知財高判平成18年12月26日判時2019号92頁【宇宙開発事業団プログラ
4494 ム事件】)等が考えられよう。
4495
4496
4497 当該写真の著作者であるAは,
4498 複製権(法第21条)及び譲渡権(法第26条の2第1項)
4499 に基づいて,
4500 その印刷及び譲渡の差止め並びにそのデータの廃棄を請求することになる(法
4501 第112条第1項・第2項)。
4502
4503
4504
4505 3
4506
4507 設問2については,
4508 まずαが,
4509 映画の著作物(法第2条3項,
4510 法第10条第1項第7号)
4511 及びプログラムの著作物(同項第9号)の両面を有しており,
4512 さらに前者の著作物には音楽
4513 の著作物(同項第2号)であるβが複製されていることを的確に踏まえることが前提となる。
4514
4515
4516 その上で,
4517 Aが,
4518 これらの著作物の著作者(法第15条第1項・第2項)又は著作権者で
4519 あることを指摘しなければならない。
4520
4521
4522
4523 - 31 -
4524
4525 では,
4526 Aが,
4527 映画の著作物及びβに係る頒布権(法第2条第1項第19号,
4528 法第26条
4529 第1項・第2項)に基づいて請求する場合並びにプログラムの著作物に係る譲渡権(法第2
4530 6条の2第1項)に基づいて請求する場合について論じることになる。
4531
4532
4533 頒布権に基づく請求については,
4534 判例(最判平成14年4月25日民集56巻4号808
4535 頁【中古ソフト事件】)を踏まえ,
4536 当該権利の消尽の有無について論ずることが求められる。
4537
4538
4539 譲渡権に基づく請求については,
4540 法第26条の2第2項第1号の規定により,
4541 認められない
4542 と論ずることになろう。
4543
4544
4545 では,
4546 まず,
4547 Bの提供する「割賦販売サービス」が,
4548 複製物の「譲渡」又は「貸与」の
4549 いずれに該当するかを明らかにしなければならない。
4550
4551 当該サービスは,
4552 客による商品の返品
4553 を自由としていることから,
4554 外観上は販売の形式をとっていても,
4555 実質的には貸与と同様の
4556 使用権原を客に取得させるものであり,
4557 「貸与」に当たると考えられる(法第2条第8項)。
4558
4559
4560 もっとも,
4561 「譲渡」に当たるとの考え方も,
4562 法目的等に鑑みて説得的といい得る理由が付さ
4563 れていれば,
4564 一概に否定されるところではない。
4565
4566
4567 当該サービスを「貸与」と性質づけた場合には,
4568 映画の著作物及びβに係る頒布権並びに
4569 プログラムの著作物に係る貸与権(法第26条の3)の消尽の有無について論じる必要があ
4570 る。
4571
4572
4573 4
4574
4575 設問3では,
4576 主に,
4577 次の二つの視点から考察することが求められる。
4578
4579
4580 第一に,
4581 著作者から著作権を全部譲り受けた者が編曲等の許諾を第三者に与えたとしても,
4582
4583 著作者が当該改変を常に同一性保持権の侵害に問えるとすると,
4584 当該譲受人が著作権を全部
4585 譲り受けたことの意義が損なわれるので,
4586 明文の規定(法第61条第1項)により著作権の
4587 全部譲渡を認めている法の趣旨に反するのではないかという視点である。
4588
4589
4590 第二に,
4591 著作権が全部譲渡されれば,
4592 譲受人等が行うどのような改変にも同一性保持権の
4593 侵害が成立しないとすると,
4594 著作者人格権の一身専属性(法第59条)を定めた法の趣旨に
4595 反するのではないかという視点である。
4596
4597
4598 したがって,
4599 丁の反論を構成するに当たっては,
4600 上記第一の視点に立脚しつつ,
4601 上記第二
4602 の視点からの批判に耐える内容とすることが求められる。
4603
4604 例えば,
4605 著作者の名誉声望を害す
4606 るような改変であれば,
4607 著作権の全部譲渡後も著作者はこれに反対できてしかるべきである
4608 が,
4609 それ以外の通常の改変であれば,
4610 これが譲受人等によって行われることは著作者も譲渡
4611 の際に当然に想定していたといえるので,
4612 法第20条第1項にいう「意に反して……改変を
4613 受け」た場合に当たらないとの一般論を示した上で,
4614 βをビートの効いたテンポの速い曲に
4615 編曲することは,
4616 かかる通常の改変の範囲内であると論述することが考えられよう。
4617
4618
4619 以上はあくまで丁の反論として考え得るものの一例であり,
4620 β’の作成が乙の同一性保持
4621 権を侵害しないとの結論を導く上では,
4622 他の論述の仕方もあり得るところである。
4623
4624 いずれに
4625 せよ,
4626 当該反論を構成するに当たっては,
4627 上記二つの法の趣旨を踏まえた上で,
4628 具体的な法
4629 律構成とともに著作権の全部譲渡がされた場合の同一性保持権侵害の成否に係る基準を定立
4630 し,
4631 当てはめを行うことが求められる。
4632
4633
4634
4635 [労働法]
4636 〔第1問〕
4637 労働紛争は,
4638 労働組合が組織されていることが多い大規模な企業だけでなく,
4639 労働組合が組
4640 織化されず労働者の声を反映する媒体がない小規模な企業においても多発している。
4641
4642 本問は,
4643
4644 事業場が1か所のみの小規模な企業において発生した懲戒処分,
4645 労働者への損害賠償請求及び
4646 整理解雇をめぐる基本的な論点について検討することを求めるものである。
4647
4648 とりわけ本問では,
4649
4650 就業規則の整備など人事労務管理が整った大企業等とは異なり,
4651 労働者数が10人未満で就業
4652 規則が作成されていない企業において懲戒処分を行うことができるか(その法的根拠は何か),
4653
4654 - 32 -
4655
4656 解雇に関する就業規則や労働契約の規定がない企業で解雇を行うことができるか(その法的根
4657 拠は何か),
4658 整理解雇の権利濫用性の判断(特に解雇回避努力の履践)において小規模の企業
4659 であること(他事業場がないことなど)がいかに考慮されるかといった点が,
4660 重要な検討課題
4661 となる。
4662
4663
4664 設問1では,
4665 機密情報の持ち出し・紛失等を理由とする懲戒処分の有効性が問われている。
4666
4667
4668 懲戒処分の有効性については,
4669 一般に,
4670 懲戒権の法的根拠,
4671 懲戒事由該当性(形式的な懲戒事
4672 由該当性及び懲戒処分の趣旨に基づく懲戒事由該当性の限定解釈),
4673 懲戒処分の権利濫用性,
4674
4675 罪刑法定主義類似の要請の考慮(手続の適正さ等)などの点が論点となり得る。
4676
4677 本問では,
4678 こ
4679 れらの諸点について,
4680 基本的な判断枠組みを示しつつ,
4681 本件事案にこれを的確に当てはめて論
4682 述することが求められる。
4683
4684 その中で,
4685 本件事案では特に,
4686 最高裁判例(フジ興産事件・最判平
4687 成15年10月10日労判861号5頁)が懲戒処分を行うに当たって求めている就業規則上
4688 の懲戒の種別と事由の定めが存在しないことについてどのように考えるか(同判例が求めるこ
4689 の要件は理論的にどのような意味を持つのか,
4690 本件懲戒処分の法的根拠はどこに求められるの
4691 か等),
4692 長時間労働と会社内での勤務制限という使用者側の事情が機密情報の持ち出しと紛失
4693 の一因となっている点を懲戒事由該当性や懲戒処分の権利濫用性の判断においてどのように考
4694 慮するのか,
4695 7日間の出勤停止処分(無給)という処分の重さや弁明の機会が与えられなかっ
4696 たことを懲戒処分の権利濫用性等の判断においてどのように考慮するのかが,
4697 検討すべき重要
4698 な課題となる。
4699
4700
4701 設問2では,
4702 媒体紛失行為による損害の発生について,
4703 使用者が労働者に対し損害賠償請求
4704 をできるかが問われている。
4705
4706 近時,
4707 職務遂行に係る損害の発生に対して,
4708 使用者が労働者に対
4709 し債務不履行又は不法行為として損害賠償請求をする事件が増えている。
4710
4711 これに対し,
4712 学説や
4713 裁判例では,
4714 職務遂行を指揮命令している使用者も危険発生に責任を負っているとする危険責
4715 任の原理,
4716 及び,
4717 職務遂行により生じるリスクは事業活動から利益を得ている使用者が負うべ
4718 きであるとする報償責任の原理を勘案して,
4719 労働者の損害賠償義務の成立に限定を加え(例え
4720 ば,
4721 故意・重過失がある場合にのみ労働者の損害賠償責任を認める。
4722
4723 ),
4724 また,
4725 損害の公平な分
4726 担という観点から労働者の損害賠償責任の範囲を信義則上限定する解釈が示されている。
4727
4728 本問
4729 では,
4730 このような学説や裁判例の状況を踏まえつつ,
4731 本件事案の事実関係(媒体紛失行為の一
4732 因となった使用者側の事情,
4733 労働者の帰責性等)を考慮し,
4734 労働者の損害賠償義務の成否,
4735 及
4736 び,
4737 損害賠償義務が成立する場合に労働者が負担すべき損害賠償の範囲について論述すること
4738 が求められる。
4739
4740
4741 設問3では,
4742 使用者が労働者2名に対して行った経営上の理由による解雇の有効性が問われ
4743 ている。
4744
4745 ここではまず,
4746 解雇について規定する就業規則や労働契約がない企業において,
4747 解雇
4748 権の根拠を確認する必要がある。
4749
4750 その上で,
4751 経営上の理由による解雇(いわゆる「整理解雇」)
4752 については,
4753 労働者側に帰責性のある事情を直接の理由とした解雇ではないことから,
4754 解雇の
4755 客観的合理性・社会的相当性の要件(労働契約法第16条)をより具体化した整理解雇の4要
4756 件(又は4要素)という観点からより厳しい制約が課されていることを指摘する必要がある。
4757
4758
4759 本問においても,
4760 この整理解雇法理に照らして,
4761 本件解雇に,
4762 @人員削減の必要性,
4763 A解雇回
4764 避努力,
4765 B人選の合理性,
4766 C手続の妥当性が備わっているかを具体的に検討することが求めら
4767 れる。
4768
4769 本件事案では特に,
4770 他事業場がない小規模会社において余剰人員の配転・出向等の措置
4771 を採っていないことを解雇回避努力の点でいかに考慮するか(A),
4772 経営方針の理解や改革へ
4773 の柔軟な対応といった抽象的な基準は合理的な人選基準といえるのか(B),
4774 朝礼の場での方
4775 針説明と被解雇者選定後の個別説明は整理解雇手続として妥当といえるのか(C)といった点
4776 が問題となり得る。
4777
4778 これらの諸点等について論述しつつ,
4779 本件解雇の有効性を判断することが
4780 求められる。
4781
4782
4783 本問は,
4784 設問1から設問3までを通して,
4785 懲戒処分,
4786 労働者への損害賠償請求,
4787 整理解雇と
4788
4789 - 33 -
4790
4791 いった近時頻発している労働法上の問題についての基本的な理解を問うものである。
4792
4793 ただし,
4794
4795 本問では,
4796 就業規則のない小規模企業の事案であることで,
4797 これまでの判例等が必ずしも想定
4798 してこなかった就業規則のない企業での懲戒処分の可否や解雇の法的根拠の所在等を理論的に
4799 考察することが必要になり,
4800 また,
4801 大企業の人事労務管理をモデルとして形成されてきた整理
4802 解雇法理において小規模企業の特殊性をいかに考慮するのかも検討課題となっている。
4803
4804 労働法
4805 の重要論点についての基本的な判断枠組みと理論的な基盤を正確に理解するとともに,
4806 これま
4807 で想定されてこなかった事態に対してもその趣旨・基盤に基づいて的確な解釈・判断を行うと
4808 いう,
4809 法曹人としての基本的な能力を問う問題である。
4810
4811
4812 〔第2問〕
4813 本問は,
4814 労働組合の支部長が,
4815 @組合本部の了承を得ないまま支部組合員を扇動して一斉に
4816 罷業させ,
4817 また,
4818 Aその罷業期間中,
4819 同支部名義の情報宣伝活動用アカウントでインターネッ
4820 ト上に経営陣を批判したり会社の製品の不買を呼び掛けたりするなどの投稿をし,
4821 それらの行
4822 為によって会社に重大な損害を与え,
4823 その名誉・信用を傷つけたことなどを理由として,
4824 会社
4825 が当該支部長を懲戒解雇した事案を題材に,
4826 正当な行為として法的保護を受け得る団体行動の
4827 範囲とその限界,
4828 その保護の効果などについての理解を問い,
4829 また,
4830 そうした理解を前提に,
4831
4832 支部に属する組合員,
4833 組合本部,
4834 経営陣それぞれの利害関係が相克する複雑な事実関係を分析
4835 し,
4836 それを的確に規範に当てはめ,
4837 衡量し,
4838 結論に至る過程を論理的・説得的に論述する能力
4839 を問うものである。
4840
4841
4842 本問において直接問われているのは,
4843 懲戒解雇の有効性であるが,
4844 労働組合法第7条第1号
4845 は,
4846 労働者が労働組合の正当な行為をしたことを理由に解雇することを不当労働行為として禁
4847 止し,
4848 判例は,
4849 この禁止規定に違反する解雇を当然に無効としている(医療法人新光会事件・
4850 最判昭和43年4月9日民集22巻4号845頁)。
4851
4852 また,
4853 憲法第28条が勤労者の団体行動
4854 権を保障していることの効果として,
4855 正当な団体行動を理由としてその実行者に不利益な取扱
4856 いをすることは,
4857 「公序」(民法第90条)に反すると理解されている。
4858
4859 こうした基本的な法令
4860 や判例の正確な理解を前提に,
4861 本問における懲戒処分の有効性を判断する法的枠組みを適切に
4862 示すことが,
4863 本問における論述の出発点となる。
4864
4865
4866 そこで,
4867 まず問題となるのは,
4868 上記@及びAの行為が,
4869 正当な団体行動に当たるかどうかで
4870 ある。
4871
4872 その検討に際しては,
4873 @の行為が,
4874 支工場の製造ライン従業員の大半を一斉に罷業させ
4875 る行為であって,
4876 製造部門の操業停止を意図した行為であるのに対し,
4877 Aの行為は,
4878 @の行為
4879 の期間中に行われ,
4880 これと同じく使用者に対して圧力を加えようとする行為ではあるものの,
4881
4882 操業停止それ自体を意図した行為ではないという差異があることを踏まえる必要がある。
4883
4884 その
4885 上で,
4886 各行為について,
4887 争議行為として行われたと認められるものについては行為の主体,
4888 目
4889 的,
4890 手続及び態様の観点から,
4891 いわゆる組合活動として行われたと認められるものについては
4892 行為の主体,
4893 目的,
4894 態様の観点から,
4895 それぞれの正当性に係る諸事情を的確に取り上げて検討
4896 し,
4897 結論を導くことが求められる。
4898
4899 また,
4900 それらの検討の結果,
4901 @やAの行為の正当性が否定
4902 され,
4903 解雇が不当労働行為に当たることなどを理由に無効とされる場合には当たらないと判断
4904 される場合においても,
4905 就業規則所定の懲戒事由該当性や懲戒権の濫用の有無(労働契約法第
4906 15条)など,
4907 懲戒処分の効力に関するその他の要件について,
4908 別途,
4909 検討することが必要と
4910 なる。
4911
4912
4913 @の行為の正当性に関しては,
4914 (i)支部は単位組合の下部機構であって組合本部から独立し
4915 た団体交渉権や労働協約締結権を有さず,
4916 それ自体独立した労働組合とは認め難いものであっ
4917 たにもかかわらず,
4918 組合本部の了承を得ないまま行われたものであったことや,
4919 (A)工場長に
4920 対する直接的な要求事項は,
4921 管理職であって組合員ではなかった製造部長に対する懲戒解雇の
4922 撤回を本社に具申することであったこと,
4923 (B)その直前に工場長室のドア越しに「交渉」が行
4924
4925 - 34 -
4926
4927 われ,
4928 また,
4929 その要求が工場長により拒否されたといっても,
4930 それより前の予告は一切なく,
4931
4932 交渉開始の当日に直ちに一斉罷業を決行し,
4933 支工場を操業停止に追い込んだものであったこと
4934 などが,
4935 重要な検討のポイントとなり得る。
4936
4937
4938 また,
4939 Aの行為の正当性に関しては,
4940 (i)支部名義の情報宣伝活動用アカウントを通じての
4941 投稿であって,
4942 @の行為とは切り離して主体の正当性や目的の正当性などを検討することが可
4943 能と考えられるものであることや,
4944 (A)世論喚起が必要であると考えたとしても,
4945 投稿内容は,
4946
4947 事実の誇張や使用者に対する攻撃・中傷などが大部分を占めるものであったことなどが,
4948 重要
4949 な検討のポイントとなり得る。
4950
4951
4952 さらに,
4953 懲戒処分の効力に関する要件のうち,
4954 団体行動の正当性以外の点では,
4955 @及びAの
4956 行為の就業規則所定の懲戒事由該当性,
4957 懲戒権の濫用の有無が問題となるが,
4958 特に,
4959 後者の点
4960 の検討においては,
4961 処分に当たって就業規則の規定に基づき弁明の機会が与えられたことなど
4962 のほか,
4963 処分の理由となった@及びAの行為の態様やそれにより生じた結果(すなわち使用者
4964 に生じた経済的損失)の重大性,
4965 それが意図され,
4966 あるいは,
4967 少なくとも十分に予期すべきも
4968 のであったこと,
4969 企業秩序維持の観点からの処分の必要性,
4970 他の処分との均衡などの点が,
4971 重
4972 要な考慮事情となろう。
4973
4974
4975 本問に解答するに当たっては,
4976 整理・検討し,
4977 論述すべき事項が決して少なくないが,
4978 団体
4979 行動に対する法的保護の在り方という労働法の基本問題について,
4980 その趣旨を踏まえ,
4981 十分に
4982 整理された理解がされているかどうかが問われることとなる。
4983
4984
4985 [環境法]
4986 〔第1問〕
4987 本問は,
4988 国道建設事業の事例を通じて,
4989 環境影響評価法(以下「法」という。
4990
4991 )の意義と仕
4992 組み,
4993 争訟方法,
4994 現在の課題に関する理解を問うものである。
4995
4996 法は,
4997 規模が大きく環境影響の
4998 程度が著しい事業について環境保全に係る適正な配慮がなされることを確保することを目的と
4999 するが,
5000 環境影響評価の実施主体は事業者であることから,
5001 市町村長,
5002 都道府県知事,
5003 環境大
5004 臣の意見に加え,
5005 地域住民等,
5006 環境保全の見地から意見を有する者の意見提出の仕組みを定め
5007 るとともに,
5008 いわゆる横断条項(法第33条以下)を通じて,
5009 環境影響評価の実効性を確保す
5010 ることを予定している。
5011
5012
5013 このことを前提に,
5014 〔設問1〕では,
5015 まず,
5016 本件国道建設事業は環境影響評価が必要とさ
5017 れる事業であり(法第2条第2項,
5018 法施行令第1条,
5019 別表1),
5020 本件認可については本件事業
5021 の実施による利益と環境影響評価の結果を併せて判断する必要があること(法第33条第2項
5022 第3号)を指摘することが求められる。
5023
5024 その上で,
5025 環境影響評価に手続的瑕疵があった場合を
5026 含め,
5027 法の趣旨に照らし,
5028 どのような場合に本件認可が裁量権の踰越濫用等により違法となる
5029 のかについて論ずることが必要である。
5030
5031 その際,
5032 手続的瑕疵については,
5033 配慮書段階で,
5034 複数
5035 案が検討されておらず,
5036 かつ,
5037 その理由も示されていないこと(法第3条の2第1項・第3項,
5038
5039 主務省令第3条第1項),
5040 C及びDの意見に対する事業者の見解の未記載(法第21条第2項
5041 第4号),
5042 いわゆるゼロオプション(主務省令第3条第2項),
5043 移植措置以外のQの保全措置や
5044 トンネル化案が検討されていないことの妥当性,
5045 データ改ざん等に着目して検討することが期
5046 待される。
5047
5048
5049 〔設問1〕では,
5050 本件国道の新設を行政訴訟により争う方法が問われている。
5051
5052 典型的な争
5053 訟方法の1つは本件認可の差止訴訟を提起するとともに,
5054 仮の差止めを申し立てることである
5055 が,
5056 本件では,
5057 特にCとDそれぞれの原告適格,
5058 本件認可の処分性,
5059 重大な損害のおそれの有
5060 無が問題となり得る。
5061
5062 法,
5063 行政事件訴訟法等の規定に照らし合理的な根拠が示されていれば,
5064
5065 原告適格の可否については,
5066 いずれの結論であるかを問わない。
5067
5068 また,
5069 特にC及びDの差止訴
5070 訟の原告適格を否定する場合には,
5071 住民訴訟の可能性(公金支出の差止請求)についても指摘
5072 - 35 -
5073
5074 することが期待される。
5075
5076 その場合には,
5077 特に財務会計法規上の違法性をどのように構成するか
5078 がポイントとなる。
5079
5080
5081 〔設問2〕については,
5082 まず,
5083 環境影響評価法の2011年改正により,
5084 第1種事業につい
5085 て計画段階配慮書手続が導入された(第3条の2以下)ことの立法趣旨として,
5086 事業に係る環
5087 境の保全について適正な配慮がなされるためには,
5088 可能な限り早期の段階で環境保全の見地か
5089 ら検討を加え,
5090 事業に反映することが望ましいという点を論じる必要がある。
5091
5092 そして,
5093 計画段
5094 階配慮書について環境大臣が計画立案の段階で意見を述べることができるようになったのであ
5095 るが(法第3条の5),
5096 その効果としては,
5097 主務大臣は,
5098 意見を述べる際に,
5099 環境大臣の意見
5100 を勘案しなければならないため(法第3条の6),
5101 事業者は,
5102 計画段階配慮書の段階で環境大
5103 臣が当該石炭火力発電所の設置について否定的な意見を述べると,
5104 計画立案段階という早い段
5105 階でこの意見に対処しなければならなくなり,
5106 事業の変更の可能性が高まるという結果となっ
5107 たこと,
5108 そしてそれを踏まえて事業官庁がエネルギー関連法において温暖化対策を強化すると
5109 いう政策を導く結果となったことを論じることが期待される。
5110
5111
5112 〔設問3〕では,
5113 法に基づく環境影響評価は,
5114 事業者が個別事業段階で行う手続であること
5115 から,
5116 事業そのものの中止,
5117 複合影響の考慮等の点で限界があることを指摘する。
5118
5119 その上で,
5120
5121 環境基本法第19条を参照し,
5122 国の施策による広汎・多様な環境影響について適正配慮が求め
5123 られること(生物多様性基本法第25条も参照)を踏まえ,
5124 政策・計画・プログラム段階での
5125 戦略的環境アセスメント(SEA)の導入の必要性等について論じることが期待される。
5126
5127
5128 〔設問4〕については,
5129 まず,
5130 Fらが,
5131 @誰に対していかなる規定に基づいて損害賠償請求
5132 ができるかを論じることになるが,
5133 国道についてA県の営造物責任としての国家賠償法第2条
5134 の責任と,
5135 G社の民法第709条の責任との共同不法行為として,
5136 民法第719条の適用の有
5137 無が問題となる。
5138
5139
5140 第1に,
5141 民法第719条の適用を検討するに当たって,
5142 道路管理者には「行為」があるかが
5143 問題となるが,
5144 この点は加点事由とする。
5145
5146
5147 第2に,
5148 G社の工場からの排煙と国道からの排煙には民法第719条の関連共同性が認めら
5149 れるかが問題となる。
5150
5151
5152 この点を論じるに当たっては,
5153 まず,
5154 伝統的多数説及び判例のように,
5155 民法第719条の要
5156 件として,
5157 個々の行為者の第709条の不法行為の要件を全て満たすよう要求することについ
5158 ては,
5159 有力説及び下級審裁判例からは,
5160 第709条の複数の行為が重なる競合的不法行為と比
5161 較して,
5162 (さらに関連共同性を要求している)第719条の存在意義がなくなると批判されて
5163 いる。
5164
5165 この点に触れられるかが1つのポイントとなる。
5166
5167
5168 有力説及び下級審裁判例の立場,
5169 伝統的多数説及び判例の立場のどちらを採用してもよいが,
5170
5171 根拠規定の指摘が期待される。
5172
5173
5174 A請求する場合に,
5175 いかなる点を主張立証しなければならないかについて,
5176 有力説及び下級
5177 審裁判例の立場,
5178 伝統的多数説及び判例の立場のどちらを採用するかにより,
5179 主張立証のポイ
5180 ントは異なってくるため,
5181 どちらかの立場から記述することとなる。
5182
5183
5184 本問の場合,
5185 有力説及び下級審裁判例によれば,
5186 A県とG社の関連共同性については,
5187 弱い
5188 関連共同性を肯定する裁判例と,
5189 否定する裁判例とに分かれるため,
5190 いずれを採用するにせよ,
5191
5192 適切な理由付けを行うことが期待される。
5193
5194 伝統的多数説・判例の立場を採用する場合には,
5195 関
5196 連共同性は客観的共同で足りるとされ,
5197 容易に認められることになる。
5198
5199
5200 〔第2問〕
5201 本問は,
5202 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。
5203
5204 )の下で,
5205 産業廃棄
5206 物の処理により生活環境に影響を及ぼす事態が生じた場合に,
5207 発生から処分に至るまでの過程
5208 に関与した者が負う法的責任や都道府県知事の採り得る措置についての理解を問うものであ
5209
5210 - 36 -
5211
5212 る。
5213
5214
5215 〔設問1〕@は,
5216 平成22年改正によって,
5217 重層的な事業形態を採る建設事業において,
5218
5219 排出事業者を元請人と明確化された廃掃法第21条の3第1項を前提に,
5220 排出事業者たるB社
5221 が,
5222 著しく安価な委託料金しか負担していない場合における責任を問うものである。
5223
5224 原因者負
5225 担原則を徹底した平成12年改正により規定された廃掃法第19条の6第1項に基づく措置命
5226 令の発令の可否を,
5227 問題文に現れた具体的な事情を踏まえて論じることが期待される。
5228
5229 設問で
5230 は,
5231 乙地区住宅地への危険が触れられていることから,
5232 「生活環境の保全上支障が生ずるおそ
5233 れ」があることを具体的に論じてほしい。
5234
5235 なお,
5236 A社は,
5237 当該運搬又は処分を,
5238 再委託の禁止
5239 に触れない形(廃掃法第14条第16項ただし書)により,
5240 産業廃棄物の収集運搬業及び処分
5241 業の許可を受けているC社に委託しており,
5242 廃掃法第19条の5第1項第4号に基づく措置命
5243 令はできないことに留意する必要がある。
5244
5245
5246 C社に対しては,
5247 産業廃棄物処理基準に適合しない処分をしたことのほか,
5248 投棄禁止(廃掃
5249 法第16条)に反することをもって違反行為(廃掃法第14条の3第1号)に該当するとの指
5250 摘をして,
5251 事業の全部又は一部の停止命令の可否を論じてほしい。
5252
5253 その際,
5254 「みだりに・・・捨て
5255 た」の意義を具体的に検討することが期待される。
5256
5257 さらに,
5258 C社は,
5259 産業廃棄物処理基準に適
5260 合しない収集運搬をしていることから,
5261 廃掃法第19条の5第1項第1号に基づく措置命令を
5262 論じる必要がある。
5263
5264
5265 Aは,
5266 上記@の措置命令等をしていては生活環境の保全上の支障が現に生じてしまうおそ
5267 れがある場合において,
5268 P県知事が採り得る措置を論じる問題である。
5269
5270 行政代執行法の特別規
5271 定として規定された廃掃法第19条の8に基づく行政代執行として,
5272 行政庁自らが支障の除去
5273 措置を行い,
5274 その費用を徴収する仕組みを論じてほしい。
5275
5276 設問では,
5277 「乙地区の住宅地へ前記
5278 コンクリート破片の小規模な崩落が生じ始め,
5279 その拡大の兆候が現れていた」との事情がある
5280 のであり,
5281 具体的な当てはめが期待される。
5282
5283
5284 は,
5285 設問が設定する事態においては,
5286 処理業の許可取消しや改善命令等の複数の措置が考
5287 えられるところ,
5288 許可取消しを先行した場合にP県知事が採り得る措置を論じる問題である。
5289
5290
5291 食品廃棄物の不適正な処理がなされていたところ,
5292 改善命令ができなくなることを懸念して処
5293 理業の許可取消しができなくなるといった事態が生じたダイコー事件を契機とする平成29年
5294 改正により規定された廃掃法第19条の10第2項第3号に基づく措置命令の可能性を論じて
5295 ほしい。
5296
5297 なお,
5298 この措置命令の発令には,
5299 「生活環境の保全上の支障が生じ,
5300 又は生ずるおそ
5301 れ」は不要であり,
5302 「産業廃棄物処理基準に適合しない産業廃棄物の保管を行っていると認め
5303 られるとき」で足り,
5304 その効果も,
5305 産業廃棄物処理基準に従って当該産業廃棄物の保管をする
5306 ことその他必要な措置を命じることになる点には留意が必要である。
5307
5308
5309 〔設問2〕は,
5310 まずは,
5311 近隣に居住するDのC社に対する民事上の請求の可能性を論じるこ
5312 とになる。
5313
5314 差止め請求については,
5315 根拠となる権利として,
5316 土地建物の所有権に基づく妨害予
5317 防請求権,
5318 生命身体に関する人格権などを検討することを要する。
5319
5320 また,
5321 乙地区住宅地へ崩れ
5322 る危険が発生したとの設問の事情を踏まえると,
5323 仮処分の可能性についても検討してほしい。
5324
5325
5326 なお,
5327 設問では,
5328 Dに損害が発生していることは明示されておらず,
5329 損害賠償請求については
5330 検討を要しない。
5331
5332
5333 次に,
5334 DがP県を被告としていかなる行政訴訟を提起することができるのかを論じることに
5335 なる。
5336
5337 A社,
5338 B社及びC社に対する措置命令の義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項第
5339 1号),
5340 行政代執行の義務付け,
5341 仮の義務付けの申立て(同法第37条の5第1項)の可能性
5342 と,
5343 それぞれの要件充足性を検討してほしい。
5344
5345
5346 [国際関係法(公法系)
5347 ]
5348 〔第1問〕
5349 - 37 -
5350
5351 本問は,
5352 ある国家からの少数民族の分離独立を契機に,
5353 国家の成立要件,
5354 国家承認の形式,
5355
5356 庇護の権利,
5357 犯罪人引渡しの義務,
5358 外交関係法の内容,
5359 国家責任の成立要件などの国際法規則
5360 の内容とその具体的適用について,
5361 基本的な理解を問うものである。
5362
5363
5364 設問1は,
5365 国家承認の制度と国家成立の要件,
5366 とりわけ外的自決の行使としての分離権を理
5367 解できているかを問うものである。
5368
5369
5370 独立を宣言した実体との間で相互に大使館を開設し外交使節を派遣することは,
5371 当該実体に
5372 対して黙示的に国家としての承認を与えたものとみなされる。
5373
5374 本事例では,
5375 B国による黙示の
5376 承認時点で既にPが主権国家として成立していなければならない。
5377
5378 他方,
5379 B国の行為に対する
5380 A国の批判は,
5381 そうしたB国による黙示の国家承認が,
5382 国際法上,
5383 尚早の承認となるというこ
5384 とにある。
5385
5386 したがって,
5387 B国がPに対する自国の行為を正当化するためには,
5388 Pが国際法上国
5389 家として成立していることを証明することが必要となる。
5390
5391
5392 そこで,
5393 まず,
5394 国家の成立要件(恒常的な住民,
5395 明確な領域及び実効的な政府,
5396 さらに外交
5397 能力を含める場合もある。
5398
5399 )の確認が求められる。
5400
5401 さらに,
5402 既存の国家から人民や民族が分離
5403 して独立する場合は,
5404 通常,
5405 自決権行使の一形態である分離権の要件が問題となる。
5406
5407 この点に
5408 ついて,
5409 ケベック分離事件カナダ連邦最高裁意見(1998年)が参考となる。
5410
5411 それによれば,
5412
5413 人民の自決権は「内的」自決−国内で政治的地位を自由に決定すること−を通じて実現される
5414 のであり,
5415 「外的」自決は例外的に植民地的支配及び外国人による支配又は搾取に服している
5416 場合に行使され,
5417 その最後の手段として分離権が行使されるという。
5418
5419
5420 本事例では,
5421 A国内での少数者であるβ民族が外的自決としての分離権を行使することがで
5422 きるかどうかが重要な論点となる。
5423
5424 β民族は,
5425 P県で自治が認められていたとはいえ,
5426 A国の
5427 議会ではβ民族のために制度上指定された議席枠がなく,
5428 さらに,
5429 P県には豊富な天然資源が
5430 ありながら,
5431 A国政府の支配の下で長年その恩恵を受けられずに予算の面でも民族を理由とし
5432 た差別があるという状況にある。
5433
5434 しかも,
5435 A国政府が「P国独立運動」の指導者を逮捕してP
5436 県を対象に非常事態宣言を発し,
5437 自治を取り上げて住民を弾圧するに至ったことから,
5438 植民地
5439 支配又は外国勢力による支配に類似した状況がP県において現れたのであれば,
5440 β民族が分離
5441 権を行使し得る。
5442
5443 この場合に,
5444 P国は,
5445 β民族による外的自決としての分離権行使の結果,
5446 主
5447 権国家として成立したこと,
5448 そして,
5449 B国によるP国の黙示の承認は,
5450 P国が国家として成立
5451 した後の承認であって,
5452 尚早の承認という内政干渉には該当しないと主張することができる。
5453
5454
5455 設問2では,
5456 国際法上の庇護が領域的庇護と外交的庇護から構成されており,
5457 本事例は後者
5458 に該当すること,
5459 そして犯罪人の引渡しについて国家は一般国際法上の義務を負わないことを
5460 正確に理解しているかどうかが問われる。
5461
5462
5463 在A国のB国大使館に所在する甲に対して与えられたB国による庇護は,
5464 在外公館で与えら
5465 れるいわゆる外交的庇護(領域外庇護)であり,
5466 一般国際法上は認められていない。
5467
5468 ただし,
5469
5470 中南米諸国の間では外交的庇護が特別法の規則としてこれまで援用されてきた。
5471
5472 庇護事件国際
5473 司法裁判所判決(1950年)は,
5474 外交的庇護を認める地域的慣習の存在をコロンビアが証明
5475 しなかったことを理由に同国の主張を退けたものの,
5476 地域的慣習の存在自体を否定したわけで
5477 はない。
5478
5479 このため,
5480 A・B両国とも南米に位置する国であることから,
5481 B国が甲に対する外交
5482 的庇護を中南米諸国の地域的慣習であると指摘して,
5483 B国は,
5484 この外交的庇護を理由に甲をA
5485 国に引き渡す義務はないと主張することが可能である。
5486
5487
5488 また,
5489 A国とB国との間には犯罪人引渡条約が締結されていないので,
5490 甲をA国に引き渡す
5491 条約上の義務をB国は負わず,
5492 また,
5493 A国には一般国際法上甲をA国に引き渡す義務もない。
5494
5495
5496 したがって,
5497 A国による甲の身柄の引渡要求についてB国には国際法上の義務はないと主張す
5498 ることができる。
5499
5500
5501 設問3は,
5502 問題の行為の国家への帰属と当該行為の国際義務の違反という国家責任の発生要
5503 件及び外交関係法の適用についての正確な理解を問うものである。
5504
5505
5506
5507 - 38 -
5508
5509 A国の民間警備会社乙の職員の行為は私人の行為であって,
5510 それ自体はA国の国家責任を生
5511 じさせるものではない。
5512
5513 しかし,
5514 在A国のB国大使館に侵入した乙の職員の行為はA国の指示
5515 を受けて実施されており,
5516 国家の指示に基づき行われた私人の行為は,
5517 国家による支配が当該
5518 私人の行為に対して実効的に及んでいることにより(ニカラグア事件国際司法裁判所本案判決
5519 (1986年)参照),
5520 国際法上当該国家の行為とみなされる(国家責任条文第8条参照)。
5521
5522 こ
5523 の場合には,
5524 乙の職員の行為はA国の行為とみなされる。
5525
5526
5527 外交関係法上,
5528 各国の大使館は,
5529 外交関係に関するウィーン条約(以下「外交関係条約」と
5530 いう。
5531
5532 )第22条第1項前段にあるように,
5533 不可侵である。
5534
5535 これは絶対的な性格を有するとさ
5536 れており,
5537 同項後段によれば,
5538 「使節団の長が同意した場合を除くほか」,
5539 接受国の官吏は,
5540 公
5541 館に立ち入ることができない。
5542
5543 本事例では,
5544 A国もB国も外交関係条約の当事国であり,
5545 在A
5546 国のB国大使館のB国大使は同大使館への立入りを許可していない。
5547
5548 にもかかわらず,
5549 A国の
5550 指示に基づき乙の職員が同大使館に侵入したことは,
5551 国際法上A国自らの行為とみなされるこ
5552 とから,
5553 外交関係条約第22条第1項の規定に定める接受国の義務に違反し,
5554 A国の国家責任
5555 を発生させることになる。
5556
5557 このように,
5558 乙の職員の行為がA国に帰属しA国の行為とみなされ
5559 ること,
5560 当該行為は外交関係条約上A国がB国に負う義務に反することから,
5561 国家責任発生の
5562 要件を満たし,
5563 B国はA国に対して国家責任を追及することができる。
5564
5565
5566 さらに,
5567 A国の不作為によるその国家責任を問うことも可能である。
5568
5569 接受国には,
5570 外交関係
5571 条約第22条第2項によると,
5572 「侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため」,
5573 「適当な
5574 すべての措置を執る特別の責務」があり,
5575 接受国は大使館の保護等を確保する適当な措置を講
5576 じなければならない相当の注意義務を有する。
5577
5578 本事例では,
5579 A国は問題の侵入事件の前にB国
5580 大使館周辺の警備を解いており,
5581 接受国が執るべき適当な措置としての警備を怠っていた。
5582
5583 こ
5584 のA国の不作為が「適当なすべての措置を執る特別の責務」を果たさなかったことに該当し,
5585
5586 外交関係条約第22条第2項違反であるとB国は主張することができる。
5587
5588
5589 〔第2問〕
5590 本問は,
5591
5592 「陸が海洋を支配する」との原則を前提に,
5593 領域紛争の解決に必要な国際法の規則,
5594
5595 領域紛争が未解決である場合の海洋の利用に関する国際法の規則及び係争海域における沿岸国
5596 の活動に関する国際法の規則の内容とその具体的な適用並びに当該活動に関する紛争の解決手
5597 続についての基本的な理解を問うものである。
5598
5599
5600 設問1は,
5601 領域紛争及び力による現状の変更が原因となる紛争の解決に関する国際法の規則
5602 の理解を問うものである。
5603
5604
5605 A国による力による係争地域の支配の中止を請求するために,
5606 B国は,
5607 サールーガ島に対し
5608 て自国が主権を有すること,
5609 又は,
5610 力による現状の変更が現在の国際法では容認されないこと
5611 を主張することが可能である。
5612
5613
5614 同一の宗主国から独立した国家間の領域紛争に関する国際裁判では,
5615 まず,
5616 ウティ・ポシデ
5617 ティス・ユリス原則(現状承認の原則)により,
5618 境界の位置を示す法律等の明文の文書があれ
5619 ば,
5620 これに基づいて境界が決定される(例えば,
5621 国境紛争事件(ベナン/ニジェール)国際司
5622 法裁判所判決(2005年))。
5623
5624 そのような文書により境界が決定できない場合,
5625 どちらの国が
5626 より有効に係争地域を支配してきたかを問うエフェクティビテ又は実効的支配や,
5627 国家として
5628 の主権を行使する意思の表示に当たる行為である「主権者としての行為」に基づく判断がなさ
5629 れる(例えば,
5630 国境紛争事件(ブルキナファソ/マリ)国際司法裁判所判決(1986年))。
5631
5632
5633 本問では,
5634 植民地時代の行政区の境界に関する規定によってはサールーガ島の帰属又はサー
5635 ルーガ島周辺の境界を決定できないため,
5636 エフェクティビテ又は実効的支配や,
5637 「主権者とし
5638 ての行為」を示す主張が必要である。
5639
5640 現在のB国側の住民による伝統的なサールーガ島の利用,
5641
5642 及び,
5643 植民地時代とB国の独立後の課税権の行使の経緯から見て,
5644 サールーガ島に対するB国
5645
5646 - 39 -
5647
5648 の主権が認められ,
5649 A国とB国の国境は,
5650 A国側の水路の中間線となる可能性が高い。
5651
5652 B国は
5653 A国に対し,
5654 軍隊及び警察によるサールーガ島の支配の中止を請求し得る。
5655
5656
5657 力による現状の変更については,
5658 武力による威嚇又は武力の行使が禁止されている現在の国
5659 際社会では,
5660 たとえ大規模な武力の行使でなくとも,
5661 領域紛争が解決されていない地域につい
5662 て,
5663 力により現状を変更し,
5664 支配を継続することは国際法に違反する行為である。
5665
5666 A国の力に
5667 よるサールーガ島の支配はこうした国際法に違反する行為であり,
5668 B国はA国に対し,
5669 軍隊及
5670 び警察によるサールーガ島の支配の中止を請求し得る。
5671
5672
5673 設問2は,
5674 海洋に対する沿岸国の権原の根拠となる領域の帰属に関する紛争が未解決の場合
5675 における海域の利用に関する国際法の規則の理解を問うものである。
5676
5677
5678 海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。
5679
5680 )第74条第3項及び第8
5681 3条第3項は暫定的取極に関する規定である。
5682
5683 これは,
5684 排他的経済水域(以下「EEZ」とい
5685 う。
5686
5687 )又は大陸棚の境界画定に関する紛争が未解決であっても,
5688 当事者間での実際的な内容の
5689 暫定的取極の締結により,
5690 境界画定に関する紛争の最終的な解決までの過渡的期間に,
5691 海域利
5692 用を実現するための制度である。
5693
5694 紛争当事国は暫定的取極の締結のための努力義務を負うが,
5695
5696 合意を達成する義務は負わない。
5697
5698 また紛争当事国には,
5699 「過渡的期間において,
5700 理解及び協力
5701 の精神により,
5702 最終的な合意への到達を危うくし又は妨げないためにあらゆる努力を払う義務
5703 を負う」という,
5704 自制義務があるとされる。
5705
5706 B国が,
5707 係争海域を含む海域の探査と自国のEE
5708 Z及び大陸棚で実施した開発を国際法上正当化するためには,
5709 この自制義務に配慮した主張が
5710 必要である。
5711
5712
5713 本問では,
5714 暫定的取極の具体的な内容や実施方法について紛争当事国間の合意が達成されて
5715 いないことは,
5716 第74条第3項及び第83条第3項の義務の違反には当たらない。
5717
5718 B国は,
5719 自
5720 国が権原を主張する海域に限定した探査を行い,
5721 その探査結果を受けての石油・天然ガスの開
5722 発を行っているが,
5723 これらは自国のEEZ及び大陸棚であることが確定している海域に限定し
5724 た活動である。
5725
5726 したがって,
5727 B国は自制義務を遵守しつつ,
5728 国際法上の権利を行使したと主張
5729 し得る。
5730
5731 また,
5732 B国の資源開発はA国の大陸棚及び係争海域の大陸棚の資源に影響を与えない
5733 との主張も可能である。
5734
5735
5736 設問3は,
5737 国連海洋法条約の義務的裁判制度についての理解を問うものである。
5738
5739
5740 A国とB国は国連海洋法条約第287条第1項の下での紛争解決のための手段を選択する宣
5741 言をしていないので,
5742 附属書Zによって組織される仲裁裁判所が管轄権を有する。
5743
5744
5745 第286条によれば,
5746 第15部の下での義務的裁判に紛争を付託するための要件は,
5747 第一に,
5748
5749 国連海洋法条約の解釈又は適用に関する紛争が存在すること,
5750 第二に,
5751 第1節に定める方法に
5752 よって解決が得られなかったこと,
5753 及び,
5754 第三に,
5755 第3節に規定される制限や選択的除外の適
5756 用がないことである。
5757
5758
5759 A国は,
5760 係争海域におけるB国の沿岸警備隊の行為が第74条第3項及び第83条第3項の
5761 下での義務に違反することを紛争主題とすることで,
5762 第一の要件である,
5763 国連海洋法条約の解
5764 釈又は適用に関する紛争が存在すると主張し得る。
5765
5766 A国は,
5767 仲裁の通告の前にB国に対し両国
5768 間の紛争の解決のための交渉の速やかな開始を提案していたが,
5769 B国がこれに応じていないこ
5770 とから,
5771 第283条の意見を交換するA国の義務が果たされている。
5772
5773 また,
5774 両国間の係争海域
5775 に関する紛争の解決手段について,
5776 国連海洋法条約以外の紛争解決手段に両国間の別途の合意
5777 があるとの記述が見られないため,
5778 紛争当事者が選択する別途の手段による解決は見込めない。
5779
5780
5781 以上により第二の要件が満たされている。
5782
5783 さらに,
5784 第三の要件については,
5785 本件の紛争主題は
5786 第297条の適用対象ではないし,
5787 両国ともに第298条第1項に基づく宣言を行っていない。
5788
5789
5790 本案については,
5791 B国は沿岸国として,
5792 自国のEEZにおける外国籍船の探査活動の取締り
5793 の権限を行使したと主張し得る。
5794
5795 しかし,
5796 係争海域でのそのような権限の行使は,
5797 両国間の紛
5798 争を悪化させる可能性を持つ。
5799
5800 また,
5801 A国船籍のX号に対するB国の沿岸警備隊の発砲により,
5802
5803
5804 - 40 -
5805
5806 負傷者が出ており,
5807 このような武器の使用は,
5808 国連憲章第2条第4項及び慣習国際法に違反す
5809 ると主張し得る。
5810
5811 B国の沿岸警備隊の発砲が法執行措置の一環であったとしても,
5812 人の命を危
5813 険にさらすような発砲は過剰な武器の使用に当たるとも主張できる(例えば,
5814 サイガ号(第2)
5815 事件国際海洋法裁判所判決(1999年))。
5816
5817
5818 [国際関係法(私法系)
5819 ]
5820 〔第1問〕
5821 本問は,
5822 渉外性を有する婚姻の事案を素材として,
5823 身分関係事件の国際裁判管轄権と婚姻の
5824 無効・取消し及び方式の準拠法に関する基本的理解と応用力を問うものである。
5825
5826
5827 〔設問1〕の〔小問1〕は,
5828 BによるAC間の婚姻無効の訴えについて,
5829 日本の裁判所の国
5830 際裁判管轄権が認められるかを問うものである。
5831
5832 特に人事訴訟法(以下「人訴法」という。
5833
5834 )
5835 第3条の2第2号について論ずることが求められている。
5836
5837
5838 まず,
5839 Bによる訴えが,
5840 人訴法第2条第1号の「婚姻の無効の訴え」として人事訴訟に該当
5841 することを指摘した上で,
5842 本件訴えは人訴法第3条の2第2号の規定が定める「身分関係の当
5843 事者の双方に対する訴え」であること,
5844 また,
5845 「その一方又は双方の住所が日本国内にあると
5846 き」が管轄原因とされていることを示す必要がある。
5847
5848 本件で,
5849 AC双方の住所は日本国内にあ
5850 ると認定し得ることから,
5851 本件訴えについては,
5852 人訴法第3条の2第2号の規定に基づき日本
5853 の裁判所が国際裁判管轄権を有することになろう。
5854
5855 さらに,
5856 人訴法第3条の5の規定が定める
5857 「特別の事情」による訴えの却下に該当する事情が存在しないことについても言及する必要が
5858 あろう。
5859
5860
5861 〔小問2〕は,
5862 婚姻の無効・取消しの準拠法に関する理解を問うものである。
5863
5864
5865 まず,
5866 婚姻の無効・取消しは,
5867 婚姻の成立と表裏一体の関係にあること,
5868 また,
5869 重婚禁止の
5870 要件のように実質的成立要件の欠缺が問題となるときは,
5871 「婚姻の成立」の問題として法律関
5872 係の性質決定がされ,
5873 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5874
5875 )第24条第1項の
5876 規定によって準拠法が決定されること及び配分的適用と呼ばれる適用方法について示す必要が
5877 ある。
5878
5879 Aの本国法は甲国法であり,
5880 日本国籍及び甲国籍の重国籍者であるCの本国法は,
5881 通則
5882 法38条1項ただし書の規定に基づき日本法であるとされることになろう。
5883
5884
5885 次に,
5886 通則法第24条第1項の規定の解釈として,
5887 通説は,
5888 いわゆる一方的要件か双方的要
5889 件かの判断を国際私法の次元で行い,
5890 重婚禁止を双方的要件と捉えている。
5891
5892 それに対し,
5893 この
5894 問題を準拠実質法の解釈問題と捉え,
5895 性質決定の段階で一方的要件か双方的要件かを区別すべ
5896 きではないとする見解も有力に主張されている。
5897
5898 婚姻の一方的要件と双方的要件とを国際私法
5899 又は実質法のいずれの次元の問題と捉えるにしても,
5900 重婚禁止の要件は一方的要件か双方的要
5901 件かについて,
5902 理由を示した上で,
5903 言及することが求められている。
5904
5905 通説の立場からは,
5906 Aの
5907 本国法たる甲国民法の重婚禁止の要件は,
5908 その相手方であるCも充足する必要があり,
5909 Cの本
5910 国法である日本民法の重婚禁止の要件は,
5911 その相手方であるAも充足する必要があると解され
5912 ることから,
5913 AC間の婚姻は実質的成立要件を欠いていると判断することとなろう。
5914
5915
5916 さらに,
5917 婚姻の実質的成立要件を欠く場合に生じる効果についても検討することを要する。
5918
5919
5920 AC間の婚姻については,
5921 各当事者の本国法による婚姻の実質的成立要件が共に充足されず,
5922
5923 また,
5924 その効果が無効と取消しで異なっていることから,
5925 各準拠法が異なる効果を定める場合
5926 の処理についても検討しなければならない。
5927
5928 通則法第24条第1項の趣旨にのっとった上で解
5929 釈・適用を行い,
5930 結論を導くことが求められている。
5931
5932
5933 〔小問3〕は,
5934 Bによる婚姻無効の請求を認める判決が確定し,
5935 AC間の婚姻が無効となっ
5936 た場合のその婚姻から生まれた子の嫡出性の準拠法について問うものである。
5937
5938 通説によれば,
5939
5940 婚姻の無効後の嫡出である子の法的地位は,
5941 嫡出親子関係の成立の問題と性質決定され,
5942 通則
5943 法第28条第1項の規定に基づき準拠法が決定される(通則法第28条適用説又は準用説)。
5944
5945
5946 - 41 -
5947
5948 通則法第28条第1項の選択的連結の趣旨に則した上で解釈・適用を行い,
5949 結論が示されなけ
5950 ればならない。
5951
5952
5953 〔設問2〕は,
5954 婚姻の方式の準拠法及び通則法第24条第3項ただし書のいわゆる日本人条
5955 項の理解を問うものである。
5956
5957
5958 まず,
5959 本件は,
5960 「婚姻の方式」の問題として性質決定されることに言及する必要がある。
5961
5962 そ
5963 の上で,
5964 Cは国籍法第14条の規定に基づき日本国籍を選択しており,
5965 本件は,
5966 通則法第24
5967 条第3項ただし書の規定が定める「日本において婚姻が挙行された場合において,
5968 当事者の一
5969 方が日本人であるとき」に当たることから,
5970 規定の趣旨に沿った解釈・適用を行い,
5971 同項本文
5972 の規定の適用が排除され,
5973 同条第2項の規定に基づき,
5974 婚姻挙行地法である日本法が準拠法と
5975 して指定されることを示すことが求められている。
5976
5977 本件のような甲国民法の規定に従った日本
5978 での領事婚は,
5979 日本民法が定める戸籍法に基づく婚姻の届出という方式要件を満たしておらず,
5980
5981 本件婚姻は日本において有効に成立しないとの結論が導き出されることになろう。
5982
5983
5984 〔第2問〕
5985 本問は,
5986 渉外性を有する交通事故の事案を素材として,
5987 財産関係事件の国際裁判管轄権と不
5988 法行為(交通事故及び生産物責任)の準拠法に関する基本的理解と応用力を問うものである。
5989
5990
5991 〔設問1〕の〔小問1〕は,
5992 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟について,
5993 被告が外国に住
5994 所を有する場合,
5995 すなわち民事訴訟法(以下「民訴法」という。
5996
5997 )第3条の2の規定に基づく
5998 国際裁判管轄権が日本の裁判所に認められない場合において,
5999 どのような管轄原因があれば日
6000 本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかを問うものである。
6001
6002 特に民訴法第3条の3第8号
6003 について論ずることが求められている。
6004
6005
6006 まず,
6007 Xの訴えが「不法行為に関する訴え」に該当することを指摘した上で,
6008 「不法行為が
6009 あった地」の解釈として,
6010 加害行為が行われた地(加害行為地)と加害行為の結果が発生した
6011 地(結果発生地)の双方が含まれることを示すことが求められている。
6012
6013 本件事故が丙国内で生
6014 じていることから,
6015 加害行為地は,
6016 丙国内に所在する。
6017
6018
6019 次に,
6020 加害行為の結果について,
6021 直接の法益侵害の結果のみを意味すると解すれば,
6022 Xが傷
6023 害を負った丙国内においてのみ結果が発生していることになる。
6024
6025 この立場からは,
6026 民訴法第3
6027 条の3から第3条の7までの規定が定める他の管轄原因が日本国内にない旨の言及を行い,
6028 最
6029 終的に,
6030 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められないとの結論が導き出されることになろう
6031 (問題文から,
6032 民訴法第3条の8の応訴による国際裁判管轄権については論じる必要がない。
6033
6034 )。
6035
6036
6037 これに対し,
6038 加害行為の結果の発生について,
6039 直接の法益侵害の結果の発生だけでなく,
6040 損害
6041 の発生も含まれると解する立場からは,
6042 本件訴えが,
6043 日本の病院で要した入院治療費の賠償請
6044 求であることから,
6045 加害行為の結果が日本国内で発生しているとも考えられる。
6046
6047 この立場を採
6048 る場合には,
6049 さらに日本国内におけるその結果の発生が通常予見することができるものであっ
6050 たか否かについて検討することを要する。
6051
6052 通常予見することができるものであったと認定する
6053 場合には,
6054 民訴法第3条の3第8号の規定に基づき日本の裁判所が国際裁判管轄権を有するこ
6055 ととなるため,
6056 民訴法第3条の9の「特別の事情」の有無についても検討することが必要であ
6057 る。
6058
6059
6060 〔小問2〕は,
6061 不法行為(交通事故)の準拠法に関する理解を問うものである。
6062
6063
6064 まず,
6065 XのBに対する損害賠償請求が交通事故を理由とするものであるから,
6066 「不法行為に
6067 よって生ずる債権」の問題として法律関係の性質決定がされ,
6068 法の適用に関する通則法(以下
6069 「通則法」という。
6070
6071 )第17条の規定によって準拠法が決定されることを示す必要がある。
6072
6073 「加
6074 害行為の結果が発生した地」(結果発生地)については,
6075 直接の法益侵害の結果が発生した地
6076 と解するのが通説である。
6077
6078 このような解釈を採る理由を示した上で,
6079 本件事故の結果発生地は
6080 丙国であるとの認定を行うことになろう。
6081
6082
6083
6084 - 42 -
6085
6086 次に,
6087 本件請求については,
6088 明らかに丙国よりも密接な関係がある他の地(通則法第20条)
6089 がないかが問題となる。
6090
6091 XとBの常居所地やXとBの間の関係その他の事情に照らして,
6092 丙国
6093 と比べ明らかにより密接な関係がある他の地があるか否かの認定を行うことが必要である。
6094
6095
6096 なお,
6097 外国法が準拠法となる場合には,
6098 通則法第22条によって日本法が累積的に適用され
6099 ることにも言及すべきである。
6100
6101
6102 〔設問2〕は,
6103 生産物責任の準拠法についての理解を問うものである。
6104
6105
6106 〔小問1〕では,
6107 A社が購入した本件自動車の欠陥によって損害を被ったと主張して本件自
6108 動車の製造者であるC社に対して損害賠償請求をしていることから,
6109 A社の請求が認められる
6110 か否かは,
6111 「生産物責任」(通則法第18条)の問題として法律関係の性質決定がされる。
6112
6113 その
6114 上で,
6115 A社が甲国内で本件自動車の引渡しを受けたこと(同条本文),
6116 甲国内での本件自動車
6117 の引渡しが通常予見することができるものであること(同条ただし書),
6118 甲国よりも明らかに
6119 密接な関係がある地の有無(通則法第20条),
6120 外国法が準拠法となる場合には日本法の累積
6121 的適用があること(通則法第22条)などについて検討を行うことが求められる。
6122
6123
6124 〔小問2〕では,
6125 同じく生産物責任の問題として法律問題の性質決定をした上で,
6126 本件自動
6127 車の引渡しを受けた地が甲国内であることを認定し,
6128 甲国内における本件自動車の引渡しが通
6129 常予見できるものであるか否かについて論じることが求められている。
6130
6131 通則法第18条ただし
6132 書の趣旨にのっとった上で解釈・適用を行い,
6133 結論を導くことを要する。
6134
6135 甲国内での本件自動
6136 車の引渡しが通常予見できないものであると認定する場合には,
6137 生産業者であるC社の主たる
6138 事業所の所在地法である日本法が準拠法となろう。
6139
6140 なお,
6141 日本よりも明らかに密接な関係があ
6142 る地の有無(通則法第20条)も検討すべきである。
6143
6144
6145
6146 - 43 -
6147
6148