1 令和3年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 A県B市の中心部には,
7 江戸時代に宿場町として栄え現在もその趣を濃厚に残しているC地区
8 があり,
9 B市の住民DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための運動を続けてきた。
10
11
12 の結果,
13 C地区の看板等の7割程度が街並み全体に違和感なく溶け込んだ江戸時代風のものとなっ
14 ているが,
15 Dらはそれでもまだ不十分だと考えている。
16
17 他方,
18 C地区の整備が進み多くの観光客が
19 訪れるようになると,
20 観光客を目当てにして,
21 C地区の歴史・伝統とは無関係の各種のビラが路上
22 で頻繁に配布されるようになり,
23 Dらは,
24 C地区の歴史的な環境が損なわれることを心配するよう
25 になった。
26
27 そこで,
28 DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための条例の制定をB市に要
29 望した。
30
31 この要望を受けて,
32 B市は「B市歴史的環境保護条例」案をまとめた。
33
34
35 条例案では,
36 市長は,
37 学識経験者からなるB市歴史的環境保護審議会の意見を聴いた上で,
38
39 史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な地区を「特別規制区域」に指定する
40 ことができる(C地区を特別規制区域に指定することが想定されている。
41
42 )。
43
44 そして,
45 特別規制区
46 域については,
47 当該地区の歴史的な環境を維持し向上させていくという目的で,
48 建造物の建築又
49 は改築,
50 営業活動及び表現活動などが制限されることになる。
51
52 このうち表現活動に関わるものと
53 しては,
54 広告物掲示の原則禁止と路上での印刷物配布の原則禁止とがある。
55
56
57 まず第一に,
58 特別規制区域に指定された日以降に,
59 特別規制区域内で広告物(看板,
60 立看板,
61
62 ポスター等。
63
64 表札など居住者の氏名を示すもので,
65 規則で定める基準に適合するものを除く。
66
67 )を
68 新たに掲示することは禁止される(違反者は罰金刑に処せられる。
69
70 )。
71
72 しかし,
73 市長が「特別規制
74 区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」として許可を与える場合には,
75 広告物を掲
76 示することができる。
77
78
79 条例案の取りまとめに携わったB市の担当者Eによれば,
80 この広告物規制の趣旨は,
81 江戸時代
82 に宿場町として栄えたC地区の歴史的な環境を維持し向上させていくためには,
83 屋外広告物は原
84 則として認めるべきではない,
85 ということにある。
86
87 また,
88 Eは,
89 「特別規制区域の歴史的な環境
90 を向上させるものと認められる」かどうかは,
91 当該広告物が伝えようとしているテーマ,
92 当該広
93 告物の形状や色などを踏まえて総合的に判断されるが,
94 単に歴史的な環境を維持するにとどまる
95 広告物は「向上させるもの」と認められない,
96 と説明している。
97
98
99 第二に,
100 特別規制区域内の路上での印刷物(ビラ,
101 チラシ等)の配布は禁止される(違反者は
102 罰金刑に処せられる。
103
104 )。
105
106 しかし,
107 特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物
108 を路上で配布することは禁止されない。
109
110 これは,
111 担当者Eの説明によれば,
112 そのような印刷物は
113 C地区の歴史・伝統に何らかの関わりのあるものであって,
114 C地区の歴史的な環境を損なうとは
115 言えないからである。
116
117
118 「B市歴史的環境保護条例」案のうち,
119 表現活動を規制する部分の憲法適合性について論じな
120 さい。
121
122 なお,
123 同条例案と屋外広告物法・屋外広告物条例,
124 道路交通法などの他の法令との関係に
125 ついては論じなくてよい。
126
127
128
129 (出題の趣旨)
130 本問は,
131 地域の歴史的な環境を維持し向上させていくためになされる表現活動
132 の規制について,
133 憲法第21条等との関連で検討することを求めるものである。
134
135
136 本問の条例案は,
137 歴史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な
138 地区である「特別規制区域」について広告物掲示と印刷物配布の規制をするとし
139 ている。
140
141
142
143 街の美観風致の維持のための屋外広告物法・条例について,
144 大阪市屋外広告物条
145 例事件判決(最大判昭和43年12月18日)は「公共の福祉」論により簡単に
146 合憲であるとしたが,
147 「特別規制区域」における広告物規制は原則的に広告物掲示
148 を禁止するものであるから,
149 屋外広告物法・条例よりも強力な規制である。
150
151 表現の
152 自由が民主主義国家の基盤をなし,
153 国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要な
154 ものであるということも踏まえれば,
155 より緻密な合憲性の判断が必要であろう。
156
157
158 まず,
159 表現内容規制・内容中立的規制二分論を採る場合,
160 この広告物掲示の原
161 則禁止が表現内容規制か表現内容中立的規制かを検討する必要がある。
162
163 その際,
164
165 例外的に掲示が許される「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認め
166 られる」場合に当たるかどうかは,
167 市長によって当該広告物が伝えようとしてい
168 るテーマ等を踏まえて総合的に判断されるということをどう評価するかが問題と
169 なろう。
170
171 また,
172 市長が広告物のテーマ等を審査した上で広告物の掲示の許可につ
173 いて判断することが,
174 表現活動に対する事前抑制ではないかも論点となる。
175
176 その
177 上で,
178 「歴史的な環境を維持し向上させていく」という目的の実現にとって,
179 広告
180 物掲示の原則禁止まで必要なのかが問われる。
181
182 特別規制区域の歴史的な環境を維
183 持するにとどまらず,
184 「向上させるもの」でなければ広告物掲示が認められない点
185 について着目した検討が望まれる。
186
187
188 さらに,
189 「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」という
190 許可基準が,
191 表現の自由を規制する法令の定めとして,
192 あるいは,
193 刑罰法規の構
194 成要件の一部を定めるものとして,
195 不明確に過ぎないかも検討しなければならな
196 い。
197
198 この点は,
199 徳島市公安条例事件判決(最大判昭和50年9月10日)の基準を
200 参考にすべきであろう。
201
202 また,
203 合憲限定解釈を試みるのであれば,
204 表現の自由を規
205 制する法律の合憲限定解釈についての税関検査事件判決(最大判昭和59年12月
206 12日)の判示が参考になろう。
207
208
209 印刷物配布の規制についても,
210 まず合憲性判断の枠組み又は基準を設定する必
211 要があるが,
212 その際,
213 道路が本来的に表現活動に開かれている場所であることが
214 踏まえられなければならない。
215
216 さらに,
217 表現内容規制か表現内容中立的規制かに
218 ついては広告物規制の場合とはまた別の考察が必要である。
219
220 その際,
221 特別規制区
222 域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を配布する場合以外は全て路
223 上での印刷物配布が禁止されていることをどう評価するかが問題となる。
224
225 印刷物
226 配布の原則禁止の合憲性を判断する枠組み又は基準を設定した上で,
227 この規制が
228 「歴史的な環境を維持し向上させていく」という目的の実現のためにどれほど必要
229 かが問われることになる。
230
231 その際,
232 果たして店舗の関係者が通行人に対して自己
233 の営業を宣伝するために配布する印刷物が地域の歴史的な環境を損なわないと言
234 えるのか,
235 店舗の関係者以外の者が配布する印刷物であっても店舗の関係者によ
236 る印刷物以上に地域の歴史的な環境の維持,
237 向上に資するものもあるのではない
238 かといった点を考慮することになろう。
239
240
241
242 [行政法]
243 Aは,
244 B県知事から,
245 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。
246
247 )第14条の4
248 第1項に基づき,
249 特別管理産業廃棄物に該当するポリ塩化ビフェニル廃棄物(以下「PCB廃棄物」
250 という。
251
252 )について収集運搬業(積替え・保管を除く。
253
254 )の許可を受けている特別管理産業廃棄物収
255 集運搬業者(以下「収集運搬業者」という。
256
257 )である。
258
259 PCB廃棄物の収集運搬業においては,
260
261 替え・保管が認められると,
262 事業者から収集したPCB廃棄物が収納された容器を運搬車から一度
263 下ろし,
264 一時的に積替え・保管施設内で保管し,
265 それを集積した後,
266 まとめて別の大型運搬車で処
267 理施設まで運搬することができるので効率的な輸送が可能となる。
268
269 しかし,
270 Aは,
271 積替え・保管が
272 できないため,
273 事業者から排出されたPCB廃棄物の収集量が少なく運搬車の積載量に空きがあっ
274 ても,
275 遠隔地にある処理施設までそのまま運搬しなければならず,
276 輸送効率がかなり悪かった。
277
278
279 こで,
280 Aは,
281 自らが積替え・保管施設を建設してPCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業
282 を行うことで輸送効率を上げようと考えた。
283
284 同時に,
285 Aは,
286 Aが建設する積替え・保管施設におい
287 ては,
288 他の収集運搬業者によるPCB廃棄物の搬入・搬出(以下「他者搬入・搬出」という。
289
290 )も
291 行えるようにすることで事業をより効率化しようと考えた。
292
293 Aは,
294 B県担当者に対し,
295 前記積替え
296 ・保管施設の建設に関し,
297 他者搬入・搬出も目的としていることを明確に伝えた上でB県の関係す
298 る要綱等に従って複数回にわたり事前協議を行い,
299 B県内のAの所有地に高額な費用を投じ,
300 各種
301 規制に適合する相当規模の積替え・保管施設を設置した。
302
303 B県知事は,
304 以上の事前協議事項につい
305 てB県担当課による審査を経て,
306 Aに対し,
307 適当と認める旨の協議終了通知を送付した。
308
309 その後,
310
311 Aは,
312 令和3年3月1日,
313 PCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業を行うことができるよ
314 うに,
315 法第14条の5第1項による事業範囲の変更許可の申請(以下「本件申請」という。
316
317 )をし
318 た。
319
320 なお,
321 本件申請に係る書類には,
322 他者搬入・搬出に関する記載は必要とされていなかった。
323
324
325 B県知事は,
326 令和3年6月21日,
327 本件申請に係る変更許可(以下「本件許可」という。
328
329 )をし
330 たが,
331 「積替え・保管施設への搬入は,
332 自ら行うこと。
333
334 また,
335 当該施設からの搬出も,
336 自ら行うこ
337 と。
338
339 」という条件(以下「本件条件」という。
340
341 )を付した。
342
343 このような内容の条件を付した背景には,
344
345 他者搬入・搬出をしていた別の収集運搬業者の積替え・保管施設において,
346 保管量の増加と保管期
347 間の長期化によりPCB廃棄物等の飛散,
348 流出,
349 異物混入などの不適正事例が発覚し,
350 社会問題化
351 していたことがあった。
352
353 そこで,
354 B県知事は,
355 特別管理産業廃棄物の性状等を踏まえ,
356 他者搬入・
357 搬出によって収集・運搬に関する責任の所在が不明確となること,
358 廃棄物の飛散,
359 流出,
360 異物混入
361 などのおそれがあること等を考慮して,
362 本件申請直前に従来の運用を変更することとし,
363 本件許可
364 に当たり,
365 B県で初めて本件条件を付することになった。
366
367
368 本件条件は法第14条の5第2項及び第14条の4第11項に基づくものであった。
369
370 しかし,
371
372 Aは,
373 近隣の県では本件条件のような内容の条件は付されていないのに,
374 B県においてのみ本件条
375 件が付された結果,
376 当初予定していた事業の効率化が著しく阻害されると考えている。
377
378 また,
379 Aは,
380
381 本件条件が付されることについて,
382 事前連絡を受けておらず,
383 事前協議が無に帰してしまい裏切ら
384 れたとの思いから,
385 強い不満を持っている。
386
387
388 以上を前提として,
389 以下の設問に答えなさい。
390
391
392 なお,
393 法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「法施行規則」という。
394
395 )の抜
396 粋を【資料】として掲げるので,
397 適宜参照しなさい。
398
399
400 〔設問1〕
401 本件条件に不満を持つAは,
402 どのような訴訟を提起すべきか。
403
404 まず,
405 本件条件の法的性質を明
406 らかにし,
407 次に,
408 行政事件訴訟法第3条第2項に定める取消訴訟について,
409 考えられる取消しの対
410 象を2つ挙げ,
411 それぞれの取消判決の効力を踏まえて検討しなさい。
412
413 なお,
414 解答に当たっては,
415
416
417 件許可が処分に当たることを前提にしなさい。
418
419 また,
420 取消訴訟以外の訴訟及び仮の救済について検
421 討する必要はない。
422
423
424 〔設問2〕
425 Aは,
426 取消訴訟において,
427 本件条件の違法性についてどのような主張をすべきか。
428
429 想定される
430 B県の反論を踏まえて検討しなさい。
431
432 なお,
433 本件申請の内容は,
434 法施行規則第10条の13等の各
435 種基準に適合していることを前提にしなさい。
436
437 また,
438 行政手続法上の問題について検討する必要は
439 ない。
440
441
442
443 【資料】
444
445
446 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
447
448 (目的)
449 第1条
450
451 この法律は,
452 廃棄物の排出を抑制し,
453 及び廃棄物の適正な分別,
454 保管,
455 収集,
456 運搬,
457 再生,
458
459
460 処分等の処理をし,
461 並びに生活環境を清潔にすることにより,
462 生活環境の保全及び公衆衛生の向
463 上を図ることを目的とする。
464
465
466 (定義)
467 第2条
468
469
470 1〜4
471
472 (略)
473
474 この法律において「特別管理産業廃棄物」とは,
475 産業廃棄物のうち,
476 爆発性,
477 毒性,
478 感染性その
479 他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの(中略)をいう。
480
481
482
483
484
485 (略)
486
487 (国及び地方公共団体の責務)
488 第4条
489
490
491 (略)
492
493 都道府県は,
494 (中略)当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況をはあくし,
495 産業廃棄物
496 の適正な処理が行なわれるように必要な措置を講ずることに努めなければならない。
497
498
499
500 3〜4
501
502 (略)
503
504 (特別管理産業廃棄物処理業)
505 第14条の4
506
507 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は,
508 当該業を行おうと
509
510 する区域(運搬のみを業として行う場合にあつては,
511 特別管理産業廃棄物の積卸しを行う区域に
512 限る。
513
514 )を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
515
516 (以下略)
517 2〜4
518
519
520 (略)
521
522 都道府県知事は,
523 第1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,
524 同項
525 の許可をしてはならない。
526
527
528
529
530 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
531 かつ,
532 継続して行うに足
533 りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
534
535
536
537
538
539 (略)
540
541 6〜10
542 11
543
544 (略)
545
546 第1項(中略)の許可には,
547 生活環境の保全上必要な条件を付することができる。
548
549
550
551 12〜14
552 15
553
554 (略)
555
556 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)以外の者は,
557 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を
558
559 (中略)受託してはならない。
560
561
562 16〜18
563
564 (略)
565
566 (変更の許可等)
567 第14条の5
568
569 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)は,
570 その特別管理産業廃棄物の収集若しく
571
572 は運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは,
573 都道府県知事の許可を受けなければな
574 らない。
575
576 (以下略)
577
578
579 前条第5項及び第11項の規定は,
580 収集又は運搬の事業の範囲の変更に係る前項の許可について
581 (中略)準用する。
582
583
584
585 3〜5
586
587 (略)
588
589
590
591 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
592
593 (特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可の基準)
594 第10条の13
595
596 法第14条の4第5項第1号(法第14条の5第2項において準用する場合を含
597
598 む。
599
600 )の規定による環境省令で定める基準は,
601 次のとおりとする。
602
603
604
605
606 施設に係る基準
607
608
609 特別管理産業廃棄物が,
610 飛散し,
611 及び流出し,
612 並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車,
613
614 運搬船,
615 運搬容器その他の運搬施設を有すること。
616
617
618
619 ロ〜ホ
620
621
622 (略)
623
624 積替施設を有する場合には,
625 特別管理産業廃棄物が飛散し,
626 流出し,
627 及び地下に浸透し,
628
629 並びに悪臭が発散しないよう必要な措置を講じ,
630 かつ,
631 特別管理産業廃棄物に他の物が混入
632 するおそれのないように仕切り等が設けられている施設であること。
633
634
635
636
637
638 申請者の能力に係る基準
639
640
641 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。
642
643
644
645
646
647 (略)
648
649
650
651 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に,
652 かつ,
653 継続して行うに足りる経理的基礎を
654 有すること。
655
656
657
658 (出題の趣旨)
659 本問は,
660 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき特別管理産業廃棄物収集運
661 搬業の許可を受けている収集運搬業者が,
662 その事業範囲の変更許可を申請したのに
663 対し,
664 行政庁が一定の条件(以下「本件条件」という。
665
666 )を付した上で変更許可(以
667 下「本件許可」という。
668
669 )をしたという事実を基にして,
670 行政処分の附款に関わる
671 訴訟方法及びその実体法上の制約について,
672 基本的な知識・理解を試す趣旨の問題
673 である。
674
675
676 設問1は,
677 本件条件に不満がある場合において,
678 いかなる訴訟を提起すべきかを
679 問うものである。
680
681 本件条件は本件許可の附款という性質を有することから,
682 本件許
683 可の取消訴訟において本件条件の違法性を争うことができるか,
684 本件条件の取消訴
685 訟を提起すべきかが主に問題となる。
686
687 その際,
688 本件許可と本件条件が不可分一体の
689 関係にあるか否か,
690 それぞれの取消訴訟における取消判決の形成力,
691 拘束力(行政
692 事件訴訟法第33条)について,
693 本件の事実関係及び法令の諸規定を基に論ずるこ
694 とが求められる。
695
696
697 設問2は,
698 取消訴訟における本件条件の違法性に関する主張を問うものである。
699
700
701 とりわけ,
702 本件条件が付されたことに関して主に比例原則と信頼保護について,
703
704 件事実関係及び法令の諸規定とその趣旨を指摘し,
705 また,
706 信頼保護に関する裁判例
707 (最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決など)を踏まえ,
708 本件条件の
709 違法性を論ずることが求められる。
710
711
712
713 [民
714
715 法]
716
717 次の文章を読んで,
718 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
719
720
721 【事実】
722 1.Aは,
723 酒類及び食品類の卸売を主たる業務とする株式会社である。
724
725 令和3年4月頃,
726 Aは,
727
728 蔵保存を要する高級ワインの取扱いを新しく開始することを計画し,
729 海外から酒類を輸入販売
730 することを主たる業務とする株式会社Bと協議を重ねた上で,
731 同年6月1日,
732 Bとの間で,
733
734 下の内容の売買契約を締結した(以下「本件ワイン売買契約」という。
735
736 )。
737
738
739 当事者
740
741 買主A,
742 売主B
743
744 目的物
745
746 冷蔵倉庫甲に保管中の乙農園の生産に係るワイン1万本(以下「本件ワイン」という。
747
748
749
750
751
752 5000万円
753
754
755
756 引渡日
757
758 令和3年9月1日
759
760 また,
761 Aは,
762 Bとの交渉の際に,
763 本件ワインの引渡日までに高級ワインの保存に適した冷蔵倉
764 庫を購入し又は賃借することを予定しており,
765 本件ワインの販売が順調であれば,
766 将来的には取
767 り扱う高級ワインの種類や数量も増やしていく予定であることを伝えていた。
768
769 なお,
770 本件ワイン
771 と同種同等のワインは他に存在しない。
772
773
774 2.ところが,
775 令和3年7月末になっても,
776 Aの事業計画に適した冷蔵倉庫は見つからず,
777 購入や
778 賃借の見込みは全く立たなかった。
779
780 そこで,
781 Aは,
782 Bに対して,
783 適切な規模の冷蔵倉庫が見つ
784 かるまでの当面の保管場所として同人の所有する冷蔵倉庫甲を借りたいと伝えて,
785 交渉し,
786
787 の了承を得て,
788 同年8月27日,
789 冷蔵倉庫甲を,
790 賃料を月20万円とし,
791 賃借期間を同年9月
792 1日から1年間の約定で賃借する旨の契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。
793
794 )。
795
796
797 は,
798 翌28日,
799 冷蔵倉庫甲から本件ワイン以外の酒類を全て搬出し,
800 本件賃貸借契約の開始に
801 備えた。
802
803
804 3.令和3年8月30日未明,
805 冷蔵倉庫甲に隣接する家屋において落雷を原因とする火災が発生し,
806
807 高熱によって冷蔵倉庫甲の配電設備が故障した。
808
809 同日夕方頃に同火災は鎮火したが,
810 火災によ
811 る高熱に加え,
812 配電設備の故障によって空調機能を喪失していたことから,
813 冷蔵倉庫甲の内部
814 は異常な高温となり,
815 これによって本件ワインは飲用に適さない程度に劣化してしまった。
816
817
818 お,
819 同日深夜までに配電設備の修理は完了し,
820 冷蔵倉庫甲の空調機能は復旧し,
821 その使用には
822 何らの支障がなくなっている。
823
824
825 4.令和3年9月1日,
826 Bは,
827 Aに対して,
828 本件ワイン及び冷蔵倉庫甲の引渡しをしようとしたが,
829
830 Aはこれを拒絶した。
831
832
833 〔設問1〕
834 Aは,
835 本件ワイン売買契約及び本件賃貸借契約を解除したいと考えている。
836
837 Bからの反論にも言
838 及しつつ,
839 Aの主張が認められるかどうかを検討しなさい。
840
841
842 【事実(続き)】
843 5.Aは,
844 レストラン等に飲料及び食料品等を販売しており,
845 そのため大量の飲料及び食料品等を
846 貯蔵できる保管用倉庫丙を別に所有していた。
847
848 倉庫丙は,
849 冷蔵設備を備えた独立した建物であ
850 り,
851 内部には保管のための多くの棚が設置されていた。
852
853 Aは,
854 複数の製造業者や流通業者から
855 購入した飲料及び食料品を一旦倉庫丙に貯蔵し,
856 レストラン等からの注文があると,
857 注文の品
858 を取り出してレストラン等に配送していた。
859
860
861 6.Aは,
862 令和3年10月,
863 一時的に資金不足に陥ったため,
864 日頃から取引のあるCから5000
865
866 万円の融資を受けることになり,
867 AとCは,
868 同月1日,
869 金銭消費貸借契約を締結した(以下「本
870 件金銭消費貸借契約」という。
871
872 )。
873
874 本件金銭消費貸借契約を締結するに当たり,
875 AとCは,
876 以下
877 のような合意をした(以下「本件譲渡担保契約」という。
878
879 )。
880
881
882 @
883
884 Aは,
885 AのCに対する本件金銭消費貸借契約に係る貸金債務を担保するために,
886 倉庫丙内
887 にある全ての酒類(アルコール分1パーセント以上の飲料をいう。
888
889 以下同じ。
890
891 )を目的物と
892 して,
893 Cに対してその所有権を譲渡し,
894 占有改定の方法によって引き渡す。
895
896
897
898 A
899
900 Aは,
901 通常の営業の範囲の目的のために倉庫丙内の酒類を第三者に相当な価額で譲渡する
902 ことができる。
903
904
905
906 B
907
908 Aは,
909 Aにより倉庫丙内の酒類を第三者に譲渡した場合には,
910 遅滞なく同種同品質の酒類
911 を倉庫丙内に補充する。
912
913 補充された酒類は,
914 倉庫丙に搬入された時点で,
915 当然に@の譲渡
916 担保の目的となる。
917
918
919
920 7.令和3年10月15日,
921 Aは,
922 ウイスキーの流通業者Dから,
923 国産ウイスキー100ダース(以
924 下「本件ウイスキー」という。
925
926 )を1200万円で購入した(以下「本件ウイスキー売買契約」
927 という。
928
929 )。
930
931 AとDが締結した本件ウイスキー売買契約には,
932 以下のような条項が含まれていた。
933
934
935 @
936
937 本件ウイスキーの引渡しは,
938 同月20日とし,
939 代金の支払は引渡しの翌11月10日とす
940 る。
941
942
943
944 A
945
946 本件ウイスキーの所有権は,
947 代金の完済をもって,
948 DからAに移転する。
949
950
951
952 B
953
954 DはAに対して,
955 本件ウイスキーの引渡日以降,
956 本件ウイスキーの全部又は一部を転売す
957 ることを承諾する。
958
959
960
961 8.令和3年10月20日,
962 Dは,
963 本件ウイスキー売買契約に従って,
964 本件ウイスキーを倉庫丙に
965 搬入した。
966
967 本件ウイスキーは倉庫丙内の他の酒類とともに棚に保管されたが,
968 どのウイスキー
969 が本件ウイスキーかは判別できる状態にあった。
970
971
972 9.令和3年11月10日,
973 Aは,
974 本件ウイスキーの代金1200万円をDに支払わなかった。
975
976
977 のためDが,
978 本件ウイスキーの引渡しをAに対して求めたところ,
979 Aは,
980 Cから,
981 @倉庫丙内
982 の酒類は,
983 本件譲渡担保契約により担保の目的でCに所有権が譲渡され,
984 対抗要件も具備され
985 ていると主張されているとして,
986 本件ウイスキーの引渡しを渋っている。
987
988 これに対してDは,
989
990 A本件譲渡担保契約は何が目的物かもはっきりせず無効であること,
991 B仮に本件譲渡担保契約
992 が有効であるとしても,
993 本件ウイスキーには,
994 本件譲渡担保契約の効力が及ばないことなどを
995 主張している。
996
997
998 〔設問2〕
999 (1) Cは,
1000 本件譲渡担保契約の有効性について,
1001 第三者に対して主張することができるか,
1002
1003 【事実】
1004 9の@の主張とAの主張に留意しつつ論じなさい。
1005
1006
1007 (2) Dは,
1008 Cに対して,
1009 本件ウイスキーの所有権を主張することができるか,
1010 【事実】9のBの主
1011 張に留意しつつ論じなさい。
1012
1013
1014
1015 (出題の趣旨)
1016 設問1は,
1017 制限種類債権の全部が履行不能になったと評価できる事例を題材とし
1018 て,
1019 その目的が相互に密接に関連付けられている2個の契約の一方の債務不履行を
1020 理由として他方を解除することができるかを問う問題である。
1021
1022 どのような場合に履
1023 行不能と評価されるかという問題を通して,
1024 債権法の基本的な理解を問うとともに,
1025
1026 複合的契約の債務不履行と解除という応用的な事例について,
1027 論理的な思考力及び
1028 事案に応じた当てはめを行うことを求めるものである。
1029
1030
1031
1032 設問2は,
1033 集合動産譲渡担保と所有権留保の優劣が問題になり得る事例を題材と
1034 して,
1035 集合動産譲渡担保及び所有権留保という非典型担保の効力について,
1036 事案を
1037 分析して,
1038 法的に論述する能力を試す問題である。
1039
1040 非典型担保に関する判例法理に
1041 ついての基本的な理解を問うだけでなく,
1042 非典型担保の法的構成や物権変動論への
1043 理解を組み合わせて,
1044 事案に応じた分析及び法的思考に基づく結論を説得的に論述
1045 することが求められる。
1046
1047
1048
1049 [商
1050
1051 法]
1052
1053 次の文章を読んで,
1054 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1055
1056
1057 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
1058
1059
1060 )は,
1061 医療用検査機器等の製造販売を業とする取締役会設置会社
1062 であり,
1063 監査役設置会社である。
1064
1065 甲社は種類株式発行会社ではなく,
1066 その定款には譲渡による甲社株
1067 式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。
1068
1069 甲社の発行済株式の総数は100
1070 0株であり,
1071 昨年までは創業者であるAがその全てを保有していた。
1072
1073 Aは創業以来甲社の代表取締役
1074 でもあったが,
1075 昨年高齢を理由に経営の第一線から退いた。
1076
1077 Aの後任を選定する取締役会においては,
1078
1079 以前Aが他社から甲社の取締役として引き抜いてきたBが代表取締役に選定された。
1080
1081 また,
1082 Aは,
1083 退
1084 任に際し,
1085 Bと,
1086 Aの子であるCに,
1087 それぞれ100株を適法に譲渡した。
1088
1089 その結果,
1090 甲社株主は8
1091 00株を保有するAのほか,
1092 100株ずつ保有するBとCの3名となった。
1093
1094 創業以来,
1095 甲社において
1096 株主総会が現実に開かれたことはなく,
1097 役員等の選任は,
1098 3年前の改選時も含め,
1099 Aによる指名をも
1100 って株主総会決議に代えていた。
1101
1102 また役員報酬や退職慰労金は,
1103 役職や勤続年数に応じた算定方法を
1104 定めた内規(以下「本件内規」という。
1105
1106
1107 )を基に,
1108 Aの指示によって支払われてきた。
1109
1110 そしてAの退任
1111 時も本件内規に従った退職慰労金が支払われた。
1112
1113
1114 2.甲社の定款では,
1115 取締役の任期については「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のも
1116 のに関する定時株主総会の終結の時まで」と規定されている。
1117
1118 また「代表取締役は取締役会決議によ
1119 って定めるものとするが,
1120 必要に応じ株主総会の決議によって定めることができる」旨の定めがある。
1121
1122
1123 役員の報酬については定款に定められていない。
1124
1125 甲社の取締役は,
1126 代表取締役社長であるBのほか,
1127
1128 代表権のない取締役であるC,
1129 D及びEの計4名であった。
1130
1131
1132 3.従来,
1133 甲社の事業は,
1134 医療用検査機器の製造販売が中心であったが,
1135 次代の社長を自負するCは,
1136
1137 家庭用検査機器の製造販売を拡充すべきであると主張し,
1138 度々Bと経営戦略について対立するように
1139 なった。
1140
1141 またAも,
1142 いずれはCに甲社を継がせたいと考えており,
1143 少なくともBと同等の権限をCに
1144 も与えるべきであると考えるようになっていた。
1145
1146
1147 4.Aの意向を知ったCは,
1148 Bら他の取締役の承諾を得ることなく,
1149 自ら「代表取締役副社長」と名乗
1150 って取引先と交渉するようになった。
1151
1152 さらに,
1153 Cは,
1154 Aと相談して了承を得た上で,
1155 Cを代表取締役
1156 に選定する臨時株主総会決議があったものとして株主総会議事録を作成し,
1157 Cを代表取締役に追加す
1158 る旨の登記申請をし,
1159 その旨登記された。
1160
1161 これらCの一連の行動を,
1162 Bら他の取締役が察知すること
1163 はなかった。
1164
1165
1166 5.そのような中,
1167 Cは,
1168 家庭用検査機器の製造販売を拡充するべく部品の調達先を確保しようと考え,
1169
1170 新たに乙株式会社(以下「乙社」という。
1171
1172
1173 )と取引基本契約を締結することとした。
1174
1175 Cは,
1176 甲社の代表
1177 者印が常に経理担当従業員Fに預けられていることを知っており,
1178 契約書に「代表取締役副社長C」
1179 と記名してFに指示して代表者印を押印させた。
1180
1181 乙社の代表取締役は,
1182 甲社の代表取締役副社長とし
1183 て振る舞うCを信頼して取引に応じ,
1184 この契約書に記名押印した。
1185
1186 その後,
1187 乙社が甲社に対して供給
1188 した部品の代金2000万円(以下「本件代金」という。
1189
1190
1191 )の支払を請求したところ,
1192 Cによる一連の
1193 行動はBら他の取締役の知るところとなり,
1194 BとCとの関係が更に悪化した。
1195
1196 Bは,
1197 Cは適法な会社
1198 代表者ではなく,
1199 甲社は乙社と契約など締結していないとして,
1200 本件代金の請求に応じない意向を示
1201 している。
1202
1203
1204 〔設問1〕
1205 甲社に対して本件代金を請求するために,
1206 乙社の立場において考えられる主張及びその当否につい
1207 て,
1208 論じなさい。
1209
1210
1211
1212 6.BとCとの対立は,
1213 その後も激化の一途をたどり,
1214 ついにCはBを代表取締役から解職することを
1215 決意した。
1216
1217 Cは,
1218 D及びEの協力を取り付けた上で適法な招集手続を経て取締役会を招集し,
1219 Bの解
1220 職と改めてCを代表取締役に選定する旨の決議が成立した。
1221
1222
1223 7.Bは,
1224 もはや甲社に自分の居場所はないと考え,
1225 取締役を辞任することを決意した。
1226
1227 Aは強く翻意
1228 を促したが,
1229 Bは聞き入れず,
1230 直後に開催された取締役会で取締役を辞任することを申し入れ,
1231 了承
1232 された。
1233
1234 Bに申し訳ないことをしたと感じていたAは,
1235 Bを引き抜いた際,
1236 取締役退任時には本件内
1237 規に基づいて退職慰労金が支給されると説明したことを思い出し,
1238 Fに対して,
1239 本件内規に基づく退
1240 職慰労金をBに支給することの検討を依頼した。
1241
1242 Fは,
1243 この依頼に応じ,
1244 本件内規に基づいて算定さ
1245 れた金額である1800万円の退職慰労金(以下「本件慰労金」という。
1246
1247
1248 )をBに支払った。
1249
1250
1251 8.本件慰労金が支給されてから程なくしてAが死亡した。
1252
1253 Aが保有していた甲社株式800株は全て
1254 Cが相続によって取得した。
1255
1256 Aの死後,
1257 Cは,
1258 Fから報告を受けた際,
1259 Bに本件慰労金が支給された
1260 ことを知った。
1261
1262 そこで,
1263 Cは,
1264 甲社として,
1265 Bに対して本件慰労金の返還を請求することとした。
1266
1267
1268 〔設問2〕
1269 甲社のBに対する本件慰労金の返還請求の根拠及び内容について説明した上で,
1270 これを拒むために,
1271
1272 Bの立場において考えられる主張及びその当否について,
1273 論じなさい。
1274
1275
1276
1277 (出題の趣旨)
1278 設問1では,
1279 Cと乙社との取引が甲社に効果帰属するための主張及びその当否を
1280 指摘することが求められている。
1281
1282 具体的には,
1283 @Cは甲社の代表取締役として適法
1284 に選定された者といえるかにつき,
1285 取締役会設置会社における株主総会による代表
1286 取締役選定に関する定款規定の有効性に関する議論(最判平成29年2月21日参
1287 照)を前提に,
1288 Aの承諾をもって株主総会決議としてよいか,
1289 さらにCが甲社の代
1290 表取締役であるとは認められない場合であっても,
1291 ACが登記簿上は代表取締役で
1292 あることから,
1293 会社法第908条第2項に基づき,
1294 甲社は乙社にCが代表取締役で
1295 はないと主張することができないと解する余地があるか,
1296 あるいはBCが表見代表
1297 取締役(同法第354条)に該当するために,
1298 甲社はCの行為についての責任を負
1299 うと解する余地があるかについて,
1300 検討することが期待されている。
1301
1302 上記A及びB
1303 を検討するに当たっては,
1304 大株主であるAの関与や代表者印の管理不備の問題をど
1305 のように評価するかがポイントとなる。
1306
1307
1308 設問2では,
1309 本件慰労金の返還請求の根拠・内容として,
1310 本件慰労金が取締役の
1311 報酬等(会社法第361条第1項)に当たることを前提に,
1312 本件慰労金の支給につ
1313 いて定款の定めも株主総会決議もないことから,
1314 Bは本件慰労金相当額の具体的請
1315 求権を有しているとはいえず,
1316 本件慰労金は不当利得となることを指摘することが
1317 求められる。
1318
1319 本件慰労金の返還を拒むために,
1320 Bの立場からは,
1321 本件慰労金を不確
1322 定額の報酬(同項第2号)と捉えて,
1323 AがBをスカウトした際にその支給を約束し,
1324
1325 かつその当時は甲社の全株式を有していたAがその支給について同意したと主張す
1326 ることが考えられる。
1327
1328 また,
1329 甲社における取締役報酬支給の慣行,
1330 AがBをスカウ
1331 トした際の説明,
1332 及び本件慰労金の返還請求に至った経緯等を前提とすると,
1333 甲社
1334 による本件慰労金の返還請求は信義則に反し,
1335 権利濫用に当たると主張することが
1336 考えられる(最判平成21年12月18日参照)。
1337
1338
1339
1340 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
1341 7:3)
1342 次の文章を読んで,
1343 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1344
1345
1346 【事例】
1347 Xは,
1348 Yに対して貸付債権を有していた(以下「本件貸付債権」という。
1349
1350
1351 )が,
1352 Xの本件貸付債権の
1353 回収に資すると思われるのは,
1354 Yがその母親から相続によって取得したと思われる一筆の土地(以下
1355 「本件不動産」という。
1356
1357
1358 )のみであった。
1359
1360 不動産登記記録上,
1361 本件不動産は,
1362 相続を登記原因とし,
1363
1364 とその兄であるZの,
1365 法定相続分である2分の1ずつの共有とされていたが,
1366 Xは,
1367 YとZが遺産分
1368 割協議を行い,
1369 本件不動産をYの単独所有とすることに合意したとの情報を得ていた。
1370
1371
1372 そこで,
1373 Xは,
1374 本件不動産のZの持分となっている部分について,
1375 その所有者はZではなくYであ
1376 ると主張し,
1377 本件貸付債権を保全するため,
1378 Yに代位して,
1379 Zを被告として,
1380 本件不動産のZの持分
1381 2分の1について,
1382 ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める
1383 訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。
1384
1385
1386
1387
1388
1389
1390 〔設問1〕
1391 ((1)と(2)は,
1392 独立した問題である。
1393
1394
1395
1396 (1) Yとしては,
1397 Xの主張する本件貸付債権は既に弁済しており,
1398 XY間には債権債務関係はないと
1399 考えている。
1400
1401 他方,
1402 本件不動産のZの持分の登記については,
1403 遺産分割協議に基づいて,
1404 自己に登
1405 記名義を移転してほしいと考えている。
1406
1407
1408 この場合に,
1409 Yが本件訴訟に共同訴訟参加をすることはできるか,
1410 訴訟上考え得る問題点を挙げ
1411 て,
1412 検討しなさい。
1413
1414
1415 (2) Xの得ていた情報とは異なり,
1416 YZ間の遺産分割協議は途中で頓挫していた。
1417
1418 そのため,
1419 Yとし
1420 ては,
1421 Zに対して登記名義の移転を求めるつもりはない。
1422
1423 他方,
1424 YがXY間には債権債務関係はな
1425 いと考えている点は,
1426 (1)と同様である。
1427
1428
1429 この場合に,
1430 Yが本件訴訟に独立当事者参加をすることはできるか,
1431 訴訟上考え得る問題点を挙
1432 げて,
1433 検討しなさい。
1434
1435
1436 〔設問2〕
1437 〔設問1〕の場合と異なり,
1438 本件訴訟係属中に,
1439 XからYに対して訴訟告知がされたものの,
1440 Yが
1441 本件訴訟に参加することはなく,
1442 XとZのみを当事者として訴訟手続が進行し,
1443 その審理の結果,
1444
1445 の請求を棄却する旨の判決がされ(以下「本件判決」という。
1446
1447
1448
1449
1450 同判決は確定した。
1451
1452
1453 本件判決の確定後,
1454 Yの債権者であるAは,
1455 その債権の回収を図ろうとし,
1456 Yの唯一の資産と思わ
1457 れる本件不動産の調査を行う過程で,
1458 既にXから本件訴訟が提起され,
1459 Xの請求を棄却する本件判決
1460 が確定している事実を初めて知った。
1461
1462
1463 Aとしては,
1464 本件不動産についてYの単独所有と考えており,
1465 Yに代位して,
1466 Zを被告として,
1467
1468 件不動産のZの持分2分の1について,
1469 ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続
1470 を求める訴えを提起することを検討しているが,
1471 確定した本件判決の効力がAに及ぶのではないか,
1472
1473 という疑問を持った。
1474
1475
1476 本件判決の効力はAに及ぶか,
1477 本件判決の既判力がYに及ぶか否かの検討を踏まえて答えなさい。
1478
1479
1480
1481 (出題の趣旨)
1482 本問は,
1483 債権者代位訴訟に関する訴訟法上の論点について,
1484 民法改正も踏まえた基本的
1485 理解を問うものであり,
1486 いずれの設問も,
1487 条文上の根拠を明確にし,
1488 いかなる要件や効果
1489 との関係で問題となるのか,
1490 問題の所在を適切に指摘することがまずは求められる。
1491
1492
1493
1494 〔設問1〕では,
1495 債務者が本問の事実状況において,
1496 当事者として債権者代位訴訟へど
1497 のような形で関与し得るかが問われており,
1498 その形態として,
1499 共同訴訟参加と独立当事者
1500 参加の検討を求めている。
1501
1502 設問1(1)は,
1503 まずYがXに共同訴訟参加する場合の一般的要件
1504 として,
1505 当事者適格の存在や合一確定の必要を論じた上で,
1506 次に本問の事実状況からはY
1507 の主張によればXとYが共同訴訟人としての協力関係にないことがうかがわれるため,
1508
1509 の点を踏まえてなお共同訴訟参加を認めることが適当か,
1510 合一確定の要請等も踏まえ,
1511
1512 析する論述が求められる。
1513
1514 設問1(2)では,
1515 債権者代位訴訟における債権者の被保全債権の
1516 存否を争っているため,
1517 独立当事者参加として片面的な権利主張参加の可否が問題となる。
1518
1519
1520 Yの主張するところをXに対する本件貸付債権に係る債務の不存在確認請求と法律構成し
1521 た上で,
1522 権利主張参加の可否に関し,
1523 例えば,
1524 請求の非両立性といった規範を定立し,
1525
1526 とYの各請求内容やそれを基礎付ける主張事実を比較した場合はどうかにつき,
1527 Yにとっ
1528 て本件訴訟を牽制する必要性が高いという実質的観点も踏まえ,
1529 本件事案に即して具体的
1530 に検討されているかが問われている。
1531
1532
1533 〔設問2〕は,
1534 債権者代位訴訟の判決効に関する問題である。
1535
1536 まず債権者代位訴訟にお
1537 ける既判力が債務者(Y)に及ぶかについて,
1538 改正後の民法下での理論構成を論じること
1539 が求められる。
1540
1541 その上で,
1542 本件訴訟の判決効を代位債権者以外の債権者(A)に拡張する
1543 ことが肯定されるかを,
1544 第三債務者(Z)の保護等の観点も勘案しつつ,
1545 その理論構成と
1546 合わせて検討されているかを問うものである。
1547
1548
1549
1550 [刑
1551
1552 法]
1553
1554 以下の事例に基づき,
1555 甲及び乙の罪責について論じなさい(住居等侵入罪及び特別法違反の点を除く。
1556
1557
1558
1559
1560
1561
1562 1 甲(50歳)は,
1563 実父X(80歳)と共同して事業を営んでいたが,
1564 数年前にXが寝たきり状態にな
1565 った後は単独で事業を行うようになり,
1566 その頃から売上高の過少申告等による脱税を続けていた。
1567
1568 甲は,
1569
1570 某月1日,
1571 税務署から,
1572 同月15日に税務調査を行うとの通知を受け,
1573 甲が真実の売上高をひそかに記
1574 録していた甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。
1575
1576
1577 )を発見されないようにするため,
1578 同月2日,
1579 事情
1580 を知らない知人のYに対して,
1581
1582 「事務所が手狭になったので,
1583 今月16日まで書類を預かってほしい。
1584
1585
1586
1587 と言い,
1588 本件帳簿を入れた段ボール箱(以下「本件段ボール箱」という。
1589
1590
1591 )を預けた。
1592
1593
1594 Yは,
1595 本件段ボール箱を自宅に保管していたが,
1596 同月14日,
1597 甲の事業の従業員から,
1598 本件帳簿が甲
1599 の脱税の証拠であると聞かされた。
1600
1601 甲は,
1602 税務調査が終了した後の同月16日,
1603 Yに電話をかけ,
1604 本件
1605 段ボール箱を回収したい旨を告げたが,
1606 Yから,
1607
1608 「あの帳簿を税務署に持っていったら困るんじゃないの
1609 か。
1610
1611 返してほしければ100万円を持ってこい。
1612
1613
1614 」と言われた。
1615
1616
1617 甲は,
1618 得意先との取引に本件帳簿が必要であったこともあり,
1619 これを取り返そうと考え,
1620 同日夜,
1621
1622 宅に忍び込み,
1623 Yが保管していた本件段ボール箱をY宅から持ち出し,
1624 自宅に帰った。
1625
1626
1627 2 甲は,
1628 帰宅直後,
1629 Yから電話で,
1630
1631 「帳簿を持っていったな。
1632
1633 すぐに警察に通報するからな。
1634
1635
1636 」と言われた。
1637
1638
1639 甲は,
1640 すぐに警察が来るのではないかと不安になり,
1641 やむなく,
1642 本件帳簿を廃棄しようと考えた。
1643
1644 甲は,
1645
1646 自宅近くの漁港に,
1647 沖合に突き出した立入禁止の防波堤が設けられており,
1648 そこに空の小型ドラム缶が
1649 置かれていることを思い出し,
1650 そのドラム缶に火をつけた本件帳簿を投入すれば,
1651 確実に本件帳簿を焼
1652 却できると考えた。
1653
1654 そこで,
1655 甲は,
1656 同日深夜,
1657 本件段ボール箱を持って上記防波堤に行き,
1658 本件帳簿に
1659 ライターで火をつけて上記ドラム缶の中に投入し,
1660 その場を立ち去った。
1661
1662
1663 その直後,
1664 火のついた多数の紙片が炎と風にあおられて上記ドラム缶の中から舞い上がり,
1665 周囲に飛
1666 散した。
1667
1668 上記防波堤には,
1669 油が付着した無主物の漁網が山積みにされていたところ,
1670 上記紙片が接触し
1671 たことにより同漁網が燃え上がり,
1672 たまたま近くで夜釣りをしていた5名の釣り人が発生した煙に包ま
1673 れ,
1674 その1人が同防波堤に駐車していた原動機付自転車に延焼するおそれも生じた。
1675
1676 なお,
1677 上記防波堤
1678 は,
1679 釣り人に人気の場所であり,
1680 普段から釣り人が立ち入ることがあったが,
1681 甲は,
1682 そのことを知らず,
1683
1684 本件帳簿に火をつけたときも,
1685 周囲が暗かったため,
1686 上記漁網,
1687 上記原動機付自転車及び上記釣り人5
1688 名の存在をいずれも認識していなかった。
1689
1690
1691 3 甲は,
1692 妻乙(45歳)と2人で生活していたところ,
1693 乙と相談の上,
1694 入院していたXを退院させ,
1695
1696 宅で数か月間,
1697 その介護を行っていたが,
1698 自力で移動できず回復の見込みもないXは,
1699 同月25日から,
1700
1701 甲及び乙に対して,
1702 しばしば「死にたい。
1703
1704 もう殺してくれ。
1705
1706
1707 」と言うようになった。
1708
1709 甲は,
1710 Xが本心から
1711 死を望んでいると思い,
1712 その都度Xをなだめていた。
1713
1714 しかし,
1715 Xは本心では死を望んでおらず,
1716 乙もX
1717 の普段の態度から,
1718 Xの真意を認識していた。
1719
1720
1721 乙は,
1722 同月30日,
1723 甲の外出中,
1724 Xの介護に疲れ果てたことから,
1725 Xを殺害しようと決意し,
1726 Xの居
1727 室に行き,
1728
1729 「もう限界です。
1730
1731
1732 」と言ってXの首に両手を掛けた。
1733
1734 これに対し,
1735 Xは,
1736 乙に「あれはうそだ。
1737
1738
1739 やめてくれ。
1740
1741
1742 」と言ったが,
1743 乙は,
1744 それに構わず,
1745 殺意をもって,
1746 両手でXの首を強く絞め付け,
1747 Xは失
1748 神した。
1749
1750 乙は,
1751 その後も,
1752 Xの首を絞め続け,
1753 その結果,
1754 Xは窒息死した。
1755
1756
1757 甲は,
1758 Xが失神した直後に帰宅し,
1759 乙がXの首を絞めているのを目撃したが,
1760 それまでのXの言動か
1761 ら,
1762 Xが乙に自己の殺害を頼み,
1763 乙がこれに応じてXを殺害することにしたのだと思った。
1764
1765 甲は,
1766 Xが
1767 望んでいるのであれば,
1768 そのまま死なせてやろうと考え,
1769 乙を制止せずにその場から立ち去った。
1770
1771 乙は,
1772
1773 その間,
1774 甲が帰宅したことに気付いていなかった。
1775
1776
1777 仮に,
1778 甲が目撃した時点で,
1779 直ちに乙の犯行を止めてXの救命治療を要請していれば,
1780 Xを救命でき
1781 たことは確実であった。
1782
1783 また,
1784 甲が乙に声を掛けたり,
1785 乙の両手をXの首から引き離そうとしたりする
1786
1787 など,
1788 甲にとって容易に採り得る措置を講じた場合には,
1789 乙の犯行を直ちに止めることができた可能性
1790 は高かったが,
1791 確実とまではいえなかった。
1792
1793
1794
1795 (出題の趣旨)
1796 本問は,
1797 甲が,
1798 脱税の証拠である甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。
1799
1800
1801 )をYに
1802 預けていたところ,
1803 情を知ったYからその返還と引き替えに100万円の支払を求められ
1804 たため,
1805 Y宅に忍び込み,
1806 Yが保管していた本件帳簿が入った段ボール箱をY宅から
1807 持ち出したこと,
1808 その後,
1809 の犯行を知ったYから警察に通報する旨を告げられた甲
1810 が,
1811 本件帳簿を廃棄するため,
1812 自宅近くの防波堤で,
1813 これに火をつけて燃やしたところ,
1814
1815 火のついた紙片が同防波堤にあった漁網に接触してこれを燃焼させ,
1816 その煙が釣り人を
1817 包み,
1818 釣り人の原動機付自転車にも延焼するおそれを生じさせたこと,
1819 甲の妻乙が,
1820
1821 自宅において,
1822 甲の実父Xの首を絞めて窒息死させたところ,
1823 甲は,
1824 その状況を目
1825 撃しながら,
1826 Xが死を望んでいるものと考えてこれを放置してXを死亡させたことを
1827 内容とする事例について,
1828 甲及び乙の罪責に関する論述を求めるものである。
1829
1830
1831 については,
1832 本件帳簿が甲の所有物であることを踏まえて,
1833 これが刑法第242条に
1834 いう「他人が占有」する財物に当たるかを検討しつつ,
1835 自救行為としての違法性阻却の可
1836 能性も含めて,
1837 甲に窃盗罪が成立するか否かに関して,
1838 本事例における事実関係を基に検
1839 討する必要がある。
1840
1841
1842 については,
1843 本件帳簿が自己所有建造物等以外放火罪の客体に当たることを前提に,
1844
1845 本事例において,
1846 同罪における「公共の危険」が発生したといえるか否かを検討するとと
1847 もに,
1848 これを肯定したときには,
1849 同罪の成立に「公共の危険の認識」が必要かどうかを踏
1850 まえた成立罪名を検討する必要がある。
1851
1852
1853 については,
1854 乙に殺人罪が成立するところ,
1855 甲の不作為による関与の可罰性を検討す
1856 るに当たり,
1857 作為義務の有無,
1858 結果回避可能性の要否,
1859 関与類型,
1860 抽象的事実の錯誤の処
1861 理等に関する基本的理解を踏まえつつ,
1862 本事例における事実関係を適切に当てはめて,
1863
1864 の罪責について具体的に検討する必要がある。
1865
1866
1867 いずれについても,
1868 各構成要件等の正確な知識,
1869 基本的理解や,
1870 本事例にある事実を丁
1871 寧に拾って的確に分析した上で当てはめを具体的に行う能力が求められる。
1872
1873
1874
1875 [刑事訴訟法]
1876 次の【事例】を読んで,
1877 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1878
1879
1880 【事例】
1881 令和2年10月2日午後2時頃,
1882 H県I市所在のマンション内にあるV方に2名の男が侵入し,
1883 金品を物
1884 色中,
1885 帰宅したVと鉢合わせとなり,
1886 同男らのうち1名がナイフでVの腕を切り付けた上,
1887 もう1名がV
1888 の持っていたバッグを奪うという住居侵入,
1889 強盗傷人事件が発生した。
1890
1891 Vは,
1892 犯人らが立ち去った後,
1893
1894 ちに110番通報し,
1895 同日午後2時20分頃,
1896 制服を着用したI署の司法警察員PとQがV方に到着した。
1897
1898
1899 Pらは,
1900 Vから,
1901 犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出した上,
1902 管理人に依頼して同マンション
1903 の出入口の防犯カメラ画像を確認した。
1904
1905 その結果,
1906 同日午後2時1分頃に犯人らと特徴の一致する2名の
1907 男が走り去っていく様子が映っており,
1908 そのうち1名は被害品と特徴の一致するバッグを所持していた。
1909
1910
1911 その後,
1912 Pらは,
1913 同男らの行方を捜した。
1914
1915
1916 同日午後4時頃,
1917 Pらは,
1918 V方から直線距離で約5キロメートル離れた同市内の路上で,
1919 犯人らと特徴の
1920 一致する甲及びもう1名の男を発見した。
1921
1922 その際,
1923 甲は,
1924 被害品と特徴の一致するバッグを持っていた。
1925
1926
1927 そこで,
1928 Pは,
1929 甲らに対し,
1930
1931 「I署の者ですが,
1932 話を聞きたいので,
1933 ちょっといいですか。
1934
1935
1936 」と声をかけた。
1937
1938
1939 すると,
1940 甲らがいきなり逃げ出し,
1941 途中で二手に分かれたことから,
1942 Pらは,
1943 前記バッグを持っていた甲
1944 を追跡した。
1945
1946 甲は,
1947 同バッグを投棄して逃走を続けたが,
1948 Pらは300メートルくらい走ったところで甲
1949 に追い付き,
1950 同日午後4時3分頃,
1951 @Pが甲を刑事訴訟法第212条第2項に基づき本件住居侵入,
1952 強盗
1953 傷人の被疑事実で逮捕した。
1954
1955 もう1名の男は,
1956 発見には至らなかった。
1957
1958
1959 甲は,
1960 同日午後4時30分頃からI署で開始された弁解録取手続において,
1961 本件の主任捜査官である司法
1962 警察員Rに対し,
1963
1964 「私がV方で強盗をしてバッグを奪ったことは間違いない。
1965
1966 ナイフでVを切り付けたのは,
1967
1968 もう1人の男である。
1969
1970 そのナイフは,
1971 警察に声をかけられる前に捨てた。
1972
1973 捨てた場所は,
1974 地図で説明する
1975 ことはできないが,
1976 近くに行けば案内できると思う。
1977
1978 もう1人の男の名前などは言いたくない。
1979
1980
1981 」旨述べた。
1982
1983
1984 同日午後4時50分頃,
1985 弁解録取手続が終了し,
1986 Rは,
1987 直ちに甲にナイフの投棄場所を案内させて,
1988 ナイ
1989 フの発見,
1990 押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施しようと考え,
1991 捜査員や車両の手配をし
1992 た。
1993
1994
1995 同日午後5時頃,
1996 出発しようとしたRに対し,
1997 甲の父親から甲の弁護人になるように依頼を受けたS弁護
1998 士から電話があり,
1999 同日午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出があった。
2000
2001 Rは,
2002 S弁護士
2003 が到着し,
2004 接見を終えてから出発したのでは,
2005 現場に到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれてい
2006 たことから,
2007 S弁護士に対し,
2008 今から甲に案内させた上で実況見分を実施する予定があるため接見は午後
2009 8時以降にしてほしい旨述べた。
2010
2011 これに対し,
2012 S弁護士は,
2013 本日中だと前記30分間以外には接見の時間
2014 が取れず,
2015 翌日だと午前9時から接見の時間が取れるが,
2016 何とか本日中に接見したい旨述べた。
2017
2018 Rは,
2019
2020 き続きS弁護士と協議を行うも,
2021 両者の意見は折り合わなかった。
2022
2023 そのため,
2024 ARは,
2025 S弁護士に対し,
2026
2027 接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えて通話を終えた上,
2028 予定どおり甲を連れて実況見分に向か
2029 った。
2030
2031 それまでの間,
2032 甲は,
2033 弁護人及び弁護人となろうとする者のいずれとも接見していなかった。
2034
2035
2036 〔設問1〕
2037 @の逮捕の適法性について論じなさい。
2038
2039
2040 〔設問2〕
2041 Aの措置の適法性について論じなさい。
2042
2043 ただし,
2044 @の逮捕の適否が与える影響については論じなくてよい。
2045
2046
2047
2048 (出題の趣旨)
2049
2050 本問は,
2051 共犯者2名による住居侵入,
2052 強盗傷人事件において,
2053 設問1では,
2054 事前
2055 に被害者から犯人や被害品の特徴を聴取し,
2056 防犯カメラの画像でもこれを確認して
2057 いた警察官が,
2058 犯行の約2時間後,
2059 犯行現場から約5キロメートル離れた路上で,
2060
2061 犯人の特徴と一致する2名の男を発見し,
2062 そのうち1名が被害品の特徴と一致する
2063 バッグを所持していたことから,
2064 その男に声をかけたところ,
2065 両名が逃走したため,
2066
2067 これを追跡し,
2068 途中で上記バッグを投棄した1名を刑事訴訟法第212条第2項に
2069 基づき逮捕(準現行犯逮捕)した事例において,
2070 この逮捕が,
2071 準現行犯逮捕の要件
2072 を充足するかどうかを検討させることを通じて,
2073 準現行犯逮捕が令状主義の例外と
2074 して認められる趣旨や,
2075 準現行犯逮捕の条文構造を踏まえた具体的事案における適
2076 用のあり方を示すことを求めるものである。
2077
2078 設問2では,
2079 逮捕された被疑者につい
2080 て,
2081 間近い時期に被疑者を未発見の凶器の投棄現場に案内させ,
2082 その立会の下で同
2083 所の実況見分を実施する確実な予定がある中で,
2084 弁護人となろうとする者から,
2085
2086 疑者との初回の接見を30分後から30分間行いたい旨の申出があったのに対し,
2087
2088 接見の日時を翌日と指定した事例において,
2089 接見指定の要件である「捜査のため必
2090 要があるとき」(刑事訴訟法第39条第3項本文)の意義や,
2091 初回接見についての
2092 指定内容と同項ただし書の「指定は,
2093 被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限
2094 するようなものであってはならない。
2095
2096 」との関係についての理解を踏まえて,
2097 当該
2098 指定の適否を検討させるものである。
2099
2100 その検討においては,
2101 最高裁判所の判例(最
2102 高裁平成11年3月24日大法廷判決,
2103 最高裁平成12年6月13日第三小法廷判
2104 決等)を意識して自説を展開する必要がある。
2105
2106
2107 設問1及び2のいずれも刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案におけ
2108 る応用力を問う問題である。
2109
2110
2111
2112 [民
2113
2114 事]
2115
2116 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
2117 以下の各設問に答えなさい。
2118
2119
2120 〔設問1〕
2121 弁護士Pは,
2122 Xから次のような相談を受けた。
2123
2124
2125 【Xの相談内容】
2126 「私(X)は,
2127 娘の夫であるYから,
2128 会社員を辞めて骨董品店を開業したいので甲建物を貸してほ
2129 しいと頼まれ,
2130 Yの意志が固かったことから,
2131 これに応ずることにしました。
2132
2133 私は,
2134 Yとの間で,
2135
2136 和2年6月15日,
2137 私が所有する甲建物について,
2138 賃貸期間を同年7月1日から3年間,
2139 賃料を月額
2140 10万円として毎月末日限り当月分を支払う,
2141 敷金30万円との約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸
2142 借契約」という。
2143
2144
2145 )を締結し,
2146 Yから敷金30万円の交付を受け,
2147 同年7月1日,
2148 Yに甲建物を引き渡
2149 しました。
2150
2151 私は,
2152 契約締結の当日,
2153 市販の賃貸借契約書の用紙に,
2154 賃貸期間,
2155 賃料額,
2156 賃料の支払日
2157 及び敷金額を記入し,
2158 賃貸人欄に私の氏名を,
2159 賃借人欄にYの氏名をそれぞれ記入して,
2160 Yの自宅を
2161 訪れ,
2162 私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をし,
2163 賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。
2164
2165
2166
2167 を完成させました。
2168
2169
2170 Yは,
2171 間もなく,
2172 甲建物で骨董品店を開業しましたが,
2173 その経営はなかなか軌道に乗らず,
2174 令和2
2175 年7月30日に同月分の賃料の一部として5万円を支払ったものの,
2176 それ以降は,
2177 賃料が支払われる
2178 ことは全くありませんでした。
2179
2180
2181 そこで,
2182 私は,
2183 Yに対し,
2184 令和2年7月分から同年12月分までの賃料合計60万円から弁済済み
2185 の5万円を控除した残額である55万円の支払を請求したいと思います。
2186
2187 私は,
2188 支払が遅れたことに
2189 ついての損害金の支払までは求めませんし,
2190 私自身が甲建物を利用する予定はありませんので,
2191 甲建
2192 物の明渡しも求めません。
2193
2194
2195 なお,
2196 Yは,
2197 現在,
2198 友人であるAに対して,
2199 令和2年12月2日に壺を売った50万円の売掛債権
2200 を有しているものの,
2201 それ以外には,
2202 めぼしい財産を有していないようです。
2203
2204 Yは,
2205 これまでのとこ
2206 ろ,
2207 この売掛債権の回収に着手しておらず,
2208 督促をするつもりもないようですが,
2209 Aがこの代金を支
2210 払ってしまうと,
2211 私の未払賃料債権を回収する手段がなくなってしまうので心配しています。
2212
2213
2214
2215 弁護士Pは,
2216 令和3年1月12日,
2217
2218 【Xの相談内容】を前提に,
2219 Xの訴訟代理人として,
2220 Yに対し,
2221
2222 Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
2223
2224 )を提起することにした。
2225
2226
2227 以上を前提に,
2228 以下の各問いに答えなさい。
2229
2230
2231 (1) 弁護士Pが,
2232 本件訴訟において,
2233 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載し
2234 なさい。
2235
2236
2237 (2) 弁護士Pが,
2238 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
2239
2240
2241 )において記載すべき請求の趣旨(民事訴
2242 訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。
2243
2244 なお,
2245 付随的申立てについては,
2246 考慮する必要はな
2247 い。
2248
2249
2250 (3) 弁護士Pが,
2251 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)
2252 を記載しなさい。
2253
2254
2255 (4) 弁護士Pは,
2256 本件訴状において,
2257
2258 「Yは,
2259 Xに対し,
2260 令和2年7月30日,
2261 本件賃貸借契約に基づく
2262 同月分の賃料債務につき,
2263 5万円を弁済した。
2264
2265
2266 」との事実を主張した。
2267
2268
2269 (@) 裁判所は,
2270 上記事実の主張をもって,
2271 本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,
2272
2273 論と理由を述べなさい。
2274
2275
2276
2277 (A) (@)のほかに,
2278 上記主張は本件訴訟においてどのような意味を有するか。
2279
2280 簡潔に説明しなさい。
2281
2282
2283 〔設問2〕
2284 弁護士Pは,
2285 Yから未払賃料を確実に回収するために,
2286 Aに対する売掛債権を仮に差し押さえた上で
2287 本件訴訟を提起する方法と,
2288 Yに代位してAに対して50万円の売買代金の支払を求める訴えを提起す
2289 る方法とを検討したが,
2290
2291 【Xの相談内容】の下線部の事情を踏まえ,
2292 後者の方法ではなく,
2293 前者の方法を
2294 採ることとした。
2295
2296 その理由について説明しなさい。
2297
2298
2299 〔設問3〕
2300 弁護士Qは,
2301 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
2302
2303
2304 【Yの相談内容】
2305 「(a) 私(Y)は,
2306 Xの娘の夫に当たります。
2307
2308
2309 私は,
2310 令和2年7月1日から甲建物で骨董品店を営業していますが,
2311 Xから甲建物を賃借し
2312 たのではなく,
2313 無償で甲建物を使用させてもらっています。
2314
2315 したがって,
2316 私が甲建物の賃料を
2317 支払っていないのは当然のことです。
2318
2319 私は,
2320 本件契約書の賃借人欄に氏名を書いていませんし,
2321
2322 誰かに指示して書かせたこともありません。
2323
2324 私の氏名の横の印影は,
2325 私の印鑑によるものです
2326 が,
2327 私が押したり,
2328 また,
2329 誰かに指示して押させたりしたこともありません。
2330
2331
2332 (b) ところで,
2333 令和3年1月8日,
2334 Xの知人を名乗るBが私を訪れました。
2335
2336 話を聞くと,
2337 令和2
2338 年8月1日,
2339 Xに,
2340 弁済期を同年10月15日として,
2341 50万円を貸したが,
2342 一向に返しても
2343 らえないので,
2344 督促を続けていたところ,
2345 令和3年1月5日,
2346 Xから,
2347 その50万円の返還債
2348 務の支払に代えて,
2349 私(Y)に対する令和2年7月分から同年12月分までの合計60万円の
2350 賃料債権を譲り受けたので,
2351 賃料を支払ってほしいとのことでした。
2352
2353 もちろん,
2354 私は,
2355 Xから
2356 甲建物を賃借したことなどありませんので,
2357 Bの求めには応じませんでした。
2358
2359 もっとも,
2360 Bの
2361 話が真実であれば,
2362 仮にXの言い分のとおり本件賃貸借契約締結の事実が認められたとしても,
2363
2364 私が賃料を支払うべき相手はBであってXではないので,
2365 Xからの請求は拒むことができるの
2366 ではないでしょうか。
2367
2368 ただし,
2369 私はXからこの債権譲渡の通知を受けておらず,
2370 私がこの債権
2371 譲渡を承諾したこともありません。
2372
2373 この場合でも,
2374 私はXからの請求を拒めるのか教えてくだ
2375 さい。
2376
2377
2378 (c) また,
2379 Xの言い分が認められるのであれば,
2380 私はXに対して敷金30万円を差し入れている
2381 ことになるはずです。
2382
2383 したがって,
2384 Xの言い分が認められる場合には,
2385 上記敷金返還請求権を
2386 もって相殺したいと考えています。
2387
2388
2389
2390 弁護士Qは,
2391
2392 【Yの相談内容】を前提に,
2393 Yの訴訟代理人として,
2394 本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁
2395 書」という。
2396
2397
2398 )を作成した。
2399
2400
2401 以上を前提に,
2402 以下の各問いに答えなさい。
2403
2404
2405 (1) 弁護士Qは,
2406
2407 【Yの相談内容】(b)を踏まえて,
2408 本件答弁書において,
2409 抗弁を主張した。
2410
2411
2412 (@) 弁護士Qが,
2413 本件答弁書において,
2414
2415 【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために主張すべ
2416 き要件事実(主要事実)を全て記載しなさい。
2417
2418
2419 (A) 弁護士Qは,
2420
2421 【Yの相談内容】(b)の下線部の質問に対して,
2422
2423 「Xからの請求を拒むことができる」
2424 と回答した。
2425
2426 その理由を簡潔に説明しなさい。
2427
2428
2429 (2) 弁護士Qは,
2430
2431 【Yの相談内容】(c)を踏まえて,
2432 本件答弁書において抗弁を主張できないか検討した
2433 が,
2434 その主張は主張自体失当であると考えて断念した。
2435
2436 弁護士Qが主張自体失当と考えた理由を簡潔
2437
2438 に説明しなさい。
2439
2440
2441 〔設問4〕
2442 第1回口頭弁論期日において,
2443 本件訴状と本件答弁書が陳述された。
2444
2445 同期日において,
2446 弁護士Pは,
2447
2448 本件契約書を書証として提出し,
2449 それが取り調べられ,
2450 弁護士Qは,
2451 本件契約書のY作成部分につき,
2452
2453 成立の真正を否認し,
2454
2455 「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,
2456 Xが盗用した。
2457
2458
2459 」と主張した。
2460
2461
2462 その後,
2463 2回の弁論準備手続期日を経た後,
2464 第2回口頭弁論期日において,
2465 本人尋問が実施され,
2466
2467 件賃貸借契約の締結につき,
2468 Xは,
2469 次の【Xの供述内容】のとおり,
2470 Yは,
2471 次の【Yの供述内容】のと
2472 おり,
2473 それぞれ供述した(なお,
2474 それ以外の者の尋問は実施されていない。
2475
2476
2477
2478
2479
2480
2481 【Xの供述内容】
2482 「Yは,
2483 私の娘の夫です。
2484
2485 私は,
2486 令和2年6月頃,
2487 Yから,
2488
2489 『この度,
2490 会社員を辞めて,
2491 小さい頃か
2492 らの夢であった骨董品店を経営しようと思います。
2493
2494 ついては,
2495 空き家になっている甲建物を賃貸して
2496 いただけないでしょうか。
2497
2498
2499 』との依頼を受けました。
2500
2501 Yの言うとおり,
2502 甲建物は長年空き家になってお
2503 り,
2504 時々様子を見に行くのも面倒でしたので,
2505 ちょうどよいと思い,
2506 Yに賃貸することにしました。
2507
2508
2509 その後,
2510 私とYは賃料額の交渉を行い,
2511 私は近隣の相場を参考にして,
2512 月額15万円を提案したので
2513 すが,
2514 Yからは,
2515 採算がとれるか不安なので月額10万円にしてくださいと懇願されたため,
2516 これに
2517 応ずることにしました。
2518
2519
2520 私は,
2521 令和2年6月15日,
2522 Yとの間で,
2523 私の所有する甲建物について,
2524 賃貸期間を同年7月1日
2525 から3年間,
2526 賃料を月額10万円として毎月末日限り当月分を支払う,
2527 敷金30万円との約定で賃貸
2528 借契約(本件賃貸借契約)を締結しました。
2529
2530 私は,
2531 契約締結の当日,
2532 市販の賃貸借契約書の用紙に,
2533
2534 賃貸期間,
2535 賃料額,
2536 賃料の支払日及び敷金額を記入し,
2537 賃貸人欄に私の氏名を,
2538 賃借人欄にYの氏名
2539 をそれぞれ記入して準備をして,
2540 Yの自宅を訪れ,
2541 私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をして,
2542
2543 本件契約書を完成させました。
2544
2545 また,
2546 私は,
2547 その際,
2548 Yから現金で敷金30万円の交付を受けていま
2549 す。
2550
2551 本来であれば,
2552 Yの方が私の自宅に来るべき筋合いでしたが,
2553 私は孫への会いたさから,
2554 週に2
2555 日はYの自宅を訪れていましたので,
2556 そのついでに契約書を作成することにしたのです。
2557
2558 ちなみに,
2559
2560 Yは,
2561 この時,
2562 いわゆる三文判で押印しておりましたが,
2563 契約書を作成するのに礼儀知らずだなと思
2564 った記憶があります。
2565
2566
2567 私は,
2568 令和2年7月1日,
2569 Yに対し,
2570 甲建物を引き渡し,
2571 Yは甲建物で骨董品店を開業しました。
2572
2573
2574 ところが,
2575 Yの骨董品店の経営はなかなか軌道に乗らず,
2576 同月30日には,
2577 同月分の賃料の一部とし
2578 て5万円の支払を受けましたが,
2579 それ以降は,
2580 賃料が支払われることは全くありませんでした。
2581
2582 もっ
2583 とも,
2584 Yは私の娘の夫ですし,
2585 開業当初は何かと大変だろうと考え,
2586 その年の年末までは賃料の請求
2587 をするのを差し控えてきましたが,
2588 一言の謝罪すらないまま令和3年になりましたので,
2589 本件訴訟を
2590 提起することにしました。
2591
2592
2593 なお,
2594 最近,
2595 私の妻が体調を崩したため,
2596 娘はしばしば私の家に泊まって看病をするようにな
2597 りましたが,
2598 Yと私の娘が別居したという事実はありません。
2599
2600
2601 【Yの供述内容】
2602 「私は,
2603 令和2年6月15日,
2604 妻の父であるXから甲建物を借り,
2605 同年7月1日から骨董品店の店
2606 舗として使用しています。
2607
2608 しかし,
2609 甲建物は,
2610 Xから無償で借りたものであって,
2611 賃借しているもの
2612 ではありません。
2613
2614 賃貸借契約を締結したのであれば,
2615 契約書を作成し,
2616 敷金を差し入れるのが通常で
2617 すが,
2618 私とXとの間では甲建物の使用についての契約書は作成されていませんし,
2619 私が敷金を差し入
2620 れたこともありません。
2621
2622 Xが書証として提出した本件契約書の賃借人欄の氏名は,
2623 明らかにXの筆跡
2624 です。
2625
2626 私の氏名の横の印影は,
2627 確かに私の印鑑によるものですが,
2628 これはいわゆる三文判で,
2629 Xが勝
2630
2631 手に押したものだと思います。
2632
2633
2634 令和2年12月中旬だったと思いますが,
2635 私と妻が買物に行っている間,
2636 Xに私の自宅で子どもの
2637 面倒を見てもらっていたことがあります。
2638
2639 恐らく,
2640 Xは,
2641 その際に,
2642 あらかじめ準備しておいた賃貸
2643 借契約書の賃借人欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。
2644
2645 この印鑑は,
2646 居間の引き出しの中に
2647 保管していたのですが,
2648 Xは週に2日は孫に会いに私の自宅に来ていましたので,
2649 その在りかを知っ
2650 ていたはずです。
2651
2652
2653 確かに,
2654 私は,
2655 令和2年7月30日,
2656 Xに対し,
2657 5万円を支払っていますが,
2658 これは,
2659 甲建物の賃
2660 料として支払ったものではありません。
2661
2662 その年の6月頃にXと私の家族で買物をした際,
2663 私が財布を
2664 忘れたため,
2665 急きょXから5万円を借りたことがあったのですが,
2666 その5万円を返済したのです。
2667
2668
2669 私が骨董品店を開業してからも,
2670 令和2年の年末までは,
2671 Xから甲建物の賃料の支払を求められた
2672 ことはありませんでした。
2673
2674 ところが令和3年に入り,
2675 私と妻が不仲となり別居したのと時期を同じく
2676 して,
2677 突然Xが賃料を支払うよう求めてきて困惑しています。
2678
2679 私の骨董品店も,
2680 次第に馴染みの客が
2681 増えており,
2682 経営が苦しいなどということはありません。
2683
2684
2685
2686 以上を前提に,
2687 以下の問いに答えなさい。
2688
2689
2690 弁護士Qは,
2691 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
2692 準備書面を提出することを予定している。
2693
2694 その
2695 準備書面において,
2696 弁護士Qは,
2697 前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内
2698 容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて,
2699 XとYが本件賃貸借契約を締結した事実
2700 が認められないことにつき,
2701 主張を展開したいと考えている。
2702
2703 弁護士Qにおいて,
2704 上記準備書面に記載
2705 すべき内容を,
2706 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
2707 答案用紙1頁
2708 程度の分量で記載しなさい。
2709
2710 なお,
2711 記載に際しては,
2712 本件契約書のY作成部分の成立の真正に関する争
2713 いについても言及すること。
2714
2715
2716
2717 (出題の趣旨)
2718 設問1は,
2719 賃貸借契約に基づく賃料支払請求権が問題となる訴訟において,
2720 原告
2721 の希望に応じた訴訟物,
2722 請求の趣旨,
2723 請求を理由づける事実及び一部弁済の主張の
2724 訴訟上の位置付けについて説明を求めるものである。
2725
2726 賃貸借契約に関する法律要件
2727 や一部請求と一部弁済との関係について正確な理解が問われている。
2728
2729
2730 設問2は,
2731 債権回収の手段について原告代理人としての選択を問うものである。
2732
2733
2734 債権者代位権の行使及び仮差押えの効果についての正確な理解が求められる。
2735
2736
2737 設問3は,
2738 被告の二つの主張に関し,
2739 各主張の位置付けや抗弁となる場合の抗弁
2740 事実の内容を問うものである。
2741
2742 実体法及び判例の理解を踏まえながら,
2743 本件への当
2744 てはめを適切に検討することが求められる。
2745
2746
2747 設問4は,
2748 被告代理人の立場から,
2749 本件賃貸借契約を締結した事実が認められな
2750 いことに関し準備書面に記載すべき事項を問うものである。
2751
2752 文書に作成名義人の印
2753 章により顕出された印影があることを踏まえ,
2754 いわゆる二段の推定が働くことを前
2755 提として,
2756 自らの主張の位置付けを明らかにすることが求められる。
2757
2758 その上で,
2759
2760 かなる証拠によりいかなる事実を認定することができるかを示すとともに,
2761 各認定
2762 事実に基づく推認の過程を,
2763 本件の具体的な事案に即して,
2764 説得的に論述すること
2765 が求められる。
2766
2767
2768
2769 [刑
2770
2771 事]
2772
2773 次の【事例】を読んで,
2774 後記〔設問〕に答えなさい。
2775
2776
2777 【事例】
2778
2779
2780 A(35歳,
2781 男性)は,
2782 令和2年1月18日,
2783 「被疑者は,
2784 令和2年1月9日午前1時頃,
2785
2786 県I市J町1番地K駐車場において,
2787 同所に駐輪中のV所有の大型自動二輪車1台の座席シー
2788 ト上にガソリンをかけ,
2789 マッチを使用してこれに火を放ち,
2790 その火を同車に燃え移らせてこれを
2791 全焼させ,
2792 そのまま放置すれば隣接する住宅に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ,
2793
2794 って公共の危険を生じさせた。
2795
2796 」旨の建造物等以外放火の被疑事実(以下「本件被疑事実」とい
2797 う。
2798
2799
2800 )で通常逮捕され,
2801 同月20日,
2802 I地方検察庁の検察官に送致された。
2803
2804
2805 送致記録にある主な証拠の概要は以下のとおりである(以下,
2806 特に年を明示していない日付は
2807 全て令和2年である。
2808
2809
2810
2811
2812
2813
2814 @ 1月9日付け捜査報告書
2815 目撃者W(27歳,
2816 女性)から1月9日午前1時3分に119番通報が寄せられた旨が記載
2817 されている。
2818
2819
2820 A 1月9日付けWの警察官面前の供述録取書
2821 「この日,
2822 仕事が遅く終わった私は,
2823 会社を出て少し歩き,
2824 通勤に使っている車を止めて
2825 いるK駐車場の中に入った。
2826
2827 すると,
2828 駐輪スペースに止めてある3台のバイクのうち,
2829 真ん
2830 中のバイクの脇に男が1人立っているのに気付いた。
2831
2832 何をしているのだろうと思い,
2833 立ち止
2834 まってその男を見ていると,
2835 男は,
2836 左肘に提げていた白いレジ袋からペットボトルを取り出し,
2837
2838 中に入った液体をそのバイクの座席シート上に振りかけ,
2839 そのペットボトルを再びレジ袋に仕
2840 舞った。
2841
2842 そして,
2843 男は,
2844 そのレジ袋からマッチ箱を取り出し,
2845 その中に入っていたマッチ1本
2846 を擦って火をつけ,
2847 これを座席シート上に放り投げた。
2848
2849 その火は瞬く間に座席シート全体に広
2850 がった。
2851
2852 男は,
2853 火が燃え上がる様子を少しの間見ていたが,
2854 私に見られているのに気付くと,
2855
2856 慌てて走り出し,
2857 そのまま私とすれ違い,
2858 K駐車場を西側出入口から出て南の方向へ逃げてい
2859 った。
2860
2861 私が119番通報をしたのはその直後である。
2862
2863 私が見ていた場所は,
2864 男が火をつけて
2865 いた場所から約7メートル離れていたが,
2866 付近に街灯があり,
2867 駐車場の敷地内にも照明があ
2868 ったので明るく,
2869 視界を遮るものもなかった。
2870
2871 男は,
2872 胸元に白色で『L』と書かれた黒っぽ
2873 い色のパーカーを着て,
2874 黒っぽい色のスラックスを履いていた。
2875
2876 私が男の顔を見たのは,
2877 まず,
2878
2879 男がバイクに火を放った直後に,
2880 男がその火を見ていた時である。
2881
2882 ただ,
2883 この時の男はうつむ
2884 き加減だったので,
2885 その顔がはっきりと見えたわけではない。
2886
2887 しかし,
2888 私が見ているのに男が
2889 気付いた時,
2890 男がその顔を上げ,
2891 男と視線が合ったので,
2892 私は,
2893 この時点ではっきりと男の顔
2894 を見ることができた。
2895
2896 私は,
2897 放火犯人の顔をよく見ておかなければならないと思ったし,
2898 すれ
2899 違い様には男の顔を間近で見ることができたので,
2900 男の顔の特徴はしっかりと覚えている。
2901
2902
2903 は,
2904 30歳代くらいの小太りで,
2905 私より身長が高く,
2906 170センチメートルくらいあった。
2907
2908
2909 の特徴は,
2910 短めの黒髪で,
2911 眉毛が太く,
2912 垂れ目だった。
2913
2914 なお,
2915 当時,
2916 犯人も私も顔にマスクは
2917 着けておらず,
2918 眼鏡も掛けていなかった。
2919
2920
2921
2922 B 1月9日付けV(40歳,
2923 男性)の警察官面前の供述録取書
2924 「放火されたバイクは私が半年前に200万円で購入し,
2925 通勤に使用しているものである。
2926
2927
2928 私は,
2929 自宅アパートから徒歩5分の所にあるK駐車場にこのバイクを駐輪していた。
2930
2931 本日午
2932 前1時30分頃,
2933 K駐車場の管理者から電話がかかってきて,
2934 私のバイクが放火されたことを
2935 知り,
2936 急いで現場に駆けつけた。
2937
2938 私には放火されるような心当たりは全くない。
2939
2940
2941
2942
2943 C 1月9日付け実況見分調書
2944 同日午前2時30分から同日午前3時30分までの間に実施されたV及びW立会に係る実況
2945 見分の内容が記載され,
2946 別紙見取図が添付されている。
2947
2948
2949 現場であるK駐車場は,
2950 月ぎめ駐車場兼駐輪場であり,
2951 同敷地及びその周辺の状況は別紙見
2952 取図のとおりである。
2953
2954 K駐車場西側市道の駐車場出入口付近に街灯が1本設置され,
2955 同駐車場
2956 敷地内に照明が4本設置されている。
2957
2958 被害車両の両隣にはそれぞれ大型自動二輪車が1台ずつ
2959 駐輪されており,
2960 被害車両の火が消し止められなかった場合には,
2961 その両隣の車両に燃え移る
2962 危険があり,
2963 風向きによっては,
2964 現場に止められた他の普通乗用自動車4台や隣接する一戸
2965 建て家屋にも延焼するおそれがあった。
2966
2967 被害車両は大型自動二輪車で,
2968 車体全体が焼損してお
2969 り,
2970 特に車両中央部の座席シートの焼損が激しい。
2971
2972
2973 また,
2974 Wが犯行を目撃した地点(別紙見取図の)と,
2975 犯人が火をつけていた地点(同)
2976 との距離は6.8メートルであり,
2977 地点と地点の間に視界を遮る物は存在せず,
2978 地点に
2979 立ったWが,
2980 地点に立たせた身長170センチメートルの警察官の顔を識別することができ
2981 た。
2982
2983
2984 D 1月9日付け捜査報告書
2985 K駐車場があるH県I市J町の同日午前0時から同日午前4時までの天候は晴れであった旨
2986 の捜査結果が記載されている。
2987
2988
2989 E 1月14日付け鑑定書
2990 被害車両の焼け焦げた座席シートの燃え残りからガソリン成分が検出された旨の鑑定結果が
2991 記載されている。
2992
2993
2994 F 1月15日付け捜査報告書
2995 「現場から南側に約100メートル離れた場所付近の防犯カメラに録画された映像を解析し
2996 た結果,
2997 1月9日午前0時55分頃,
2998 現場方向から進行してきた普通乗用自動車が道路脇に停
2999 止し,
3000 運転席から,
3001 白いレジ袋を左手に持ち,
3002 胸元に『L』の白い文字が入った黒っぽい色の
3003 パーカーを着て,
3004 黒っぽい色のスラックスを履いた人物が降り,
3005 現場方向に歩いていく様子
3006 が確認され,
3007 同日午前1時3分頃,
3008 同一人物が,
3009 白いレジ袋を左手に持ちながら,
3010 現場方向か
3011 ら走って戻ってきて,
3012 同車に乗り込んで発進させ,
3013 現場と反対方向に走り去る様子が確認され
3014 た。
3015
3016 また,
3017 同車のナンバーから,
3018 その所有者及び使用者がAであることが判明した。
3019
3020 」旨が記
3021 載されている。
3022
3023
3024 G 1月16日付け写真台帳
3025 短めの黒髪で眼鏡を掛けていない30歳代の男性20名の顔写真が貼付されている。
3026
3027 写真番
3028 号13番がAであり,
3029 その容貌は眉毛が太く,
3030 垂れ目である。
3031
3032
3033 H 1月16日付けWの警察官面前の供述録取書
3034 (警察官が,
3035 Wに対し,
3036 「この中に見覚えがある人がいるかもしれないし,
3037 いないかもしれ
3038 ない。
3039
3040
3041 」旨告知し,
3042 Gの写真台帳を見せたところ)
3043 「写真番号13番の男性が,
3044 私が目撃した犯
3045 人の男に間違いない。
3046
3047 眉毛が太くて垂れ目なところがそっくりである。
3048
3049 私は,
3050 この男と面識は
3051 ない。
3052
3053
3054
3055 I 1月17日付けVの警察官面前の供述録取書
3056 「刑事からAの顔写真を見せられたが,
3057 昨年11月までうちの会社にいた元部下である。
3058
3059
3060 に恨まれるような心当たりはない。
3061
3062
3063
3064 J 1月18日付けA方の捜索差押調書
3065 同日,
3066 A立会いの下,
3067 A方を捜索したところ,
3068 胸元に白色で「L」と書かれた黒地のパーカ
3069 ー1着,
3070 紺色のスラックス1着及び携帯電話機1台が発見されたので,
3071 これらを差し押さえて
3072 押収した旨が記載されている。
3073
3074
3075 K 1月18日付けAの警察官面前の弁解録取書
3076
3077 「被疑事実は,
3078 全く身に覚えがない。
3079
3080 1月9日午前1時頃は1人で自宅にいた。
3081
3082
3083
3084 L 1月19日付けAの警察官面前の供述録取書
3085 「私は,
3086 自宅で一人暮らしをしている。
3087
3088 酒気帯び運転の罰金前科が1犯ある。
3089
3090 婚姻歴はない。
3091
3092
3093 昨年11月まではバイク販売の営業の仕事をしていたが,
3094 勤務先での人間関係が嫌になったの
3095 で退社し,
3096 昨年12月から今の会社で自動車販売の営業の仕事をしている。
3097
3098 平日は午前9時か
3099 ら午後5時まで,
3100 会社で事務仕事をしたり,
3101 営業先を回ったりしている。
3102
3103 自宅から車で10分
3104 の所に両親が住む実家がある。
3105
3106 父は70歳,
3107 母は65歳であり,
3108 二人とも無職で,
3109 毎日実家に
3110 いる。
3111
3112 私は貯金がほとんどなく,
3113 両親も収入は年金だけであるため,
3114 生活は楽ではない。
3115
3116 私の
3117 身長は169センチメートル,
3118 体重は80キログラムである。
3119
3120 私も両親も,
3121 これまで健康を害
3122 したことはない。
3123
3124
3125
3126 2 検察官は,
3127 Aの弁解録取手続を行い,
3128 以下の弁解録取書を作成した。
3129
3130
3131 M 1月20日付けAの検察官面前の弁解録取書
3132 K記載の内容と同旨。
3133
3134
3135 3 同日,
3136 検察官がAにつき本件被疑事実で勾留請求をしたところ,
3137 Aは,
3138 勾留質問において,
3139
3140 「本
3141 件被疑事実について身に覚えがない。
3142
3143
3144 」と供述した。
3145
3146
3147 同日,
3148 裁判官は,
3149 刑事訴訟法第207条第1項本文,
3150 第60条第1項第2号及び第3号に当た
3151 るとして,
3152 本件被疑事実でAを勾留した。
3153
3154
3155 同日,
3156 Aに国選弁護人(以下,
3157 単に「弁護人」という。
3158
3159
3160 )が選任された。
3161
3162
3163 4 弁護人は,
3164 同日中に,
3165 勾留されているAと接見した。
3166
3167 その際,
3168 Aは,
3169 弁護人に対し,
3170 L記載の
3171 内容と同旨のことに加え,
3172 逮捕当日にA方が捜索されて,
3173 パーカー,
3174 スラックス及び携帯電話機
3175 が押収されたことを告げたほか,
3176
3177 「自分は放火などしていない。
3178
3179 1月9日午前1時頃は家にいた。
3180
3181
3182 不当な勾留だ。
3183
3184 両親や勤務先の上司に,
3185 自分が無実の罪で捕まっていると伝えてほしい。
3186
3187 」と述
3188 べた。
3189
3190
3191 弁護人は,
3192 1月22日,
3193 Aの勾留を不服として裁判所に準抗告を申し立て,
3194 その申立書に以
3195 下の疎明資料及びを添付した。
3196
3197
3198 Aの両親の誓約書
3199 「Aを私たちの自宅で生活させ,
3200 私たちが責任をもってAを監督します。
3201
3202 また,
3203 Aに事件関
3204 係者と一切接触させないことを誓約します。
3205
3206
3207
3208 Aの勤務先上司の陳述書(同人の名刺が添付されているもの)
3209 「Aは当社の業務の遂行に不可欠な人材です。
3210
3211 Aがいないと,
3212 Aが取ってきた商談が潰れて
3213 しまいます。
3214
3215 Aには早く職場に復帰してもらい,
3216 継続的に働いてもらいたいです。
3217
3218
3219
3220 これに対し,
3221 裁判所は,
3222 同日,
3223 弁護人の準抗告を棄却した。
3224
3225
3226 5 その後,
3227 検察官は所要の捜査を行い,
3228 以下の証拠等を収集した。
3229
3230 なお,
3231 Aは黙秘に転じたため,
3232
3233 Aの供述録取書は一切作成されなかった。
3234
3235
3236 N 2月3日付け捜査報告書
3237 1月14日実施のWの健康診断結果記載書の写しが添付されており,
3238 同記載書には,
3239 Wの視
3240 力は左右とも裸眼で1.2であり,
3241 色覚異常も認められない旨が記載されている。
3242
3243
3244 O 2月3日付けWの検察官面前の供述録取書
3245 A及びH記載の内容と同旨。
3246
3247
3248 6 検察官は,
3249 V所有の大型自動二輪車に放火したのはAである旨のW供述は信用できると判断
3250 し,
3251 勾留期限までに,
3252 Aについて,
3253 I地方裁判所に本件被疑事実と同一内容の公訴事実で公訴を
3254 提起した。
3255
3256
3257 7 第1回公判期日において,
3258 A及び弁護人は,
3259 Aは犯人ではなく無罪である旨主張した。
3260
3261
3262 弁護人は,
3263 検察官が犯行目撃状況を立証するために取調べを請求したC及びOの証拠について,
3264
3265 「Cについては,
3266 別紙見取図を含め,
3267 Wによる現場指示説明部分を不同意とし,
3268 その余の部分は
3269
3270 同意する。
3271
3272 Oは全部不同意とする。
3273
3274 」との意見を述べ,
3275 裁判所は,
3276 Cに関し,
3277 弁護人の同意があ
3278 った部分を取り調べた。
3279
3280 引き続き,
3281 検察官はWの証人尋問を請求し,
3282 同証人尋問が第2回公判期
3283 日に実施されることになった。
3284
3285
3286 8 検察官は,
3287 第2回公判期日前,
3288 Wと打合せを行った。
3289
3290 その際,
3291 Wは,
3292 検察官から各種の証人保
3293 護制度について教示を受けた後,
3294
3295 「Aは人のバイクに放火するような人間なので,
3296 復しゅうが怖
3297 い。
3298
3299 Aに見られていたら証言できない。
3300
3301 それに,
3302 私は人前で話すのも余り得意ではないので,
3303
3304 聴人にも見られたくない。
3305
3306 I地方裁判所に出頭して証言すること自体は構わないが,
3307 ビデオリン
3308 ク方式にした上で,
3309 遮へい措置を採ってもらいたい。
3310
3311
3312 」と申し出た。
3313
3314 検察官は,
3315 その申出を踏
3316 まえ,
3317 AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当である旨考え,
3318 Wと協議した上で,
3319 裁判所
3320 に対してその旨の申立てをし,
3321 裁判所は,
3322 AとWとの間の遮へい措置を採る決定をした。
3323
3324
3325 9 第2回公判期日におけるWの証人尋問の主尋問において,
3326 WがAの犯行を目撃した際のAとW
3327 の位置関係を供述した後,
3328 検察官が,
3329 その位置関係の供述を明確にするため,
3330 裁判長に対し,
3331 C
3332 の実況見分調書添付の別紙見取図の写しをWに示して尋問することの許可を求めたところ,
3333
3334 判長は,
3335 検察官に対し,
3336 「見取図から,
3337 立会人の現場指示に基づいて記入された記号などは消さ
3338 れていますか。
3339
3340
3341 」と尋ね,
3342 釈明を求めた。
3343
3344 これに対し,
3345 検察官が「消してあります。
3346
3347
3348 」と釈明した
3349 ため,
3350 裁判長は,
3351 前記写し(ただし,
3352 及びの各記号を消したもの)をWに示して尋問するこ
3353 とを許可した。
3354
3355
3356 〔設問1〕
3357
3358
3359 下線部に関し,
3360 準抗告申立書に疎明資料及びを添付すべきと判断した弁護人の思考
3361
3362 過程について,
3363 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
3364
3365
3366
3367
3368 下線部に関し,
3369 弁護人の準抗告を棄却すべきと判断した裁判所の思考過程について,
3370 具体
3371
3372 的事実を指摘しつつ答えなさい。
3373
3374 ただし,
3375 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由の有無に
3376 ついては言及する必要はない。
3377
3378
3379 〔設問2〕
3380 下線部に関し,
3381 W供述の信用性が認められると判断した検察官の思考過程について,
3382 具体的
3383 事実を指摘しつつ答えなさい。
3384
3385 なお,
3386 証拠@,
3387 BからG(ただし,
3388 Cのうち,
3389 Wによる現場指示
3390 説明部分を除く。
3391
3392
3393
3394
3395 I,
3396 J,
3397 L及びNに記載された内容については,
3398 信用性が認められることを
3399 前提とする。
3400
3401
3402 〔設問3〕
3403 下線部に関し,
3404 AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当と判断した検察官の思考過
3405 程について,
3406 刑事訴訟法の条文上の根拠に言及しつつ答えなさい。
3407
3408
3409 〔設問4〕
3410 裁判長が検察官に下線部の釈明を求めた理由について,
3411 証人尋問に関する規制及びその趣旨
3412 に言及しつつ答えなさい。
3413
3414
3415
3416 別紙 見取図
3417
3418
3419 一戸建て家屋
3420
3421
3422
3423
3424
3425
3426
3427
3428
3429
3430 被害車両
3431 街 灯
3432
3433
3434 一戸建て家屋
3435
3436
3437
3438
3439
3440
3441
3442
3443
3444
3445
3446
3447 一戸建て家屋
3448
3449 (出題の趣旨)
3450 本問は,
3451 犯人性が争点となる建造物等以外放火事件を題材に,
3452 刑事手続の基本的
3453 知識,
3454 刑事事実認定の基本構造及び基礎的刑事実務能力を試すものである。
3455
3456
3457 設問1は,
3458 弁護人が準抗告申立書に誓約書等の疎明資料を添付すべきと考えた思
3459 考過程と,
3460 裁判所が弁護人の準抗告を棄却すべきと判断した思考過程を,
3461 それぞれ
3462 具体的な事実関係を踏まえて検討することを通じて,
3463 捜査段階における弁護人の活
3464 動と勾留要件の正確な理解を示すことが求められる。
3465
3466
3467 設問2は,
3468 犯人識別供述について具体的な事実関係を踏まえて検討することを通
3469 じて,
3470 事案を分析する能力と供述の信用性判断に関する基本的理解を示すことが求
3471 められる。
3472
3473
3474 設問3は,
3475 証人尋問に難色を示す証人からの申出を受けて検察官が採った措置に
3476 係る思考過程を,
3477 刑事訴訟法の条文に規定された要件に沿って具体的に検討するこ
3478 とを通じて,
3479 現行法における証人保護制度,
3480 取り分け,
3481 証人尋問における遮へい措
3482 置及びビデオリンク方式に対する基本的理解を示すことが求められる。
3483
3484
3485 設問4は,
3486 実務において証人尋問の主尋問の際に記号等を消した図面が用いられ
3487 るのが,
3488 主尋問で誘導尋問が原則禁止されることに由来していること,
3489 及びその趣
3490 旨を正確に示すことが求められる。
3491
3492
3493
3494 [一般教養科目]
3495 次の文章は,
3496 ともに作家である辻邦生と水村美苗の新聞紙上での往復書簡を収録した著作中の,
3497
3498 水村の書簡からの抜粋である(なお,
3499 出題の都合上,
3500 原文の一部を適宜省略してある。
3501
3502 )。
3503
3504
3505 これを読んで,
3506 後記の各設問に答えなさい。
3507
3508
3509
3510 (省
3511
3512 略)
3513
3514 〔設問1〕
3515 本文における筆者の主張を,
3516 15行程度で要約しなさい。
3517
3518
3519 〔設問2〕
3520 本文における筆者の主張に対する賛否を明らかにした上で,
3521 現代における「文学を読むこと」
3522 の意味についてのあなた自身の主張及びその理由を,
3523 適切な具体的事象(文学以外の事象でもよい。
3524
3525
3526 を挙げつつ,
3527 20行程度で論じなさい。
3528
3529
3530 【出典】辻邦生・水村美苗『手紙,
3531 栞を添えて』朝日新聞社,
3532 1998年
3533
3534 (出題の趣旨)
3535 設問1は,
3536 「文学を読むこと」についての筆者の見解に関する理解を問うもので
3537 ある。
3538
3539 解答に当たっては,
3540 「文学とは誰もが読むべきものである」,
3541 「文学とは誰に
3542 でも読めるものである」という2つの前提に対する筆者の見解やその根拠に触れつ
3543 つ,
3544 筆者が,
3545 「文学を読むこと」をどのように意味付けているかについて,
3546 的確に
3547 要約することが求められる。
3548
3549
3550 設問2は,
3551 現代における「文学を読むこと」の意味について,
3552 各自の考えを問う
3553 ものである。
3554
3555 解答に当たっては,
3556 筆者の見解に対する自身の賛否を明示するととも
3557 に,
3558 昨今の社会情勢などを踏まえつつ,
3559 現代における「文学を読むこと」の意味に
3560 ついて自身の考えを明らかにし,
3561 その根拠について適切な具体的事象に触れながら,
3562
3563 説得力をもって論じることが期待される。
3564
3565
3566 なお,
3567 当然ながら,
3568 いずれの設問においても,
3569 指定の分量で,
3570 簡潔に記述する能
3571 力が求められる。
3572
3573
3574
3575