1 論文式試験問題集[公法系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [公法系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 X県公立大学法人が運営する県立X大学では、
8 かねてより、
9 地域経済の振興に貢献する研究の推
10 進・人材の育成に力を入れており、
11 その中核となる組織としてA研究所を設置している。
12
13 A研究所
14 にはX大学の各学部の教員のうち、
15 学部の推薦に基づき特に優れた研究業績があると認められた者
16 が研究員として所属している。
17
18 A研究所は、
19 「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」こと
20 を目的に、
21 研究員の申請に基づき、
22 年100万円の研究助成金を交付する制度を設けている。
23
24 研究
25 員はこれまで全員が毎年研究助成金を交付され、
26 そうした手厚い支援の下でそれぞれの専門分野の
27 研究を行うとともに、
28 その成果を踏まえた教育を各学部の教員として行ってきた。
29
30 X県には有名企
31 業の製造拠点が複数あり、
32 地域経済の原動力となってきたことから、
33 X県はそれらの企業に積極的
34 な支援を行っており、
35 A研究所においても、
36 県の産業政策の根拠となる研究が進められてきた。
37
38
39 地域経済を研究しているX大学B学部教授Yは、
40 A研究所に研究員として所属し、
41 研究助成を受
42 けて研究・教育に当たってきた。
43
44 Yは、
45 持続可能な地域経済の在り方を研究する中で、
46 X県の自然
47 環境をいかした農業や観光業などに力を入れていくことが必要であると考えるようになり、
48 かかる
49 観点から学術論文を積極的に発表するようになった。
50
51 丁寧な実地調査とデータ分析に基づき地域経
52 済の構造転換の必要性を主張するYの論文は、
53 国内外の学界で高い評価を得た。
54
55
56 Yは、
57 環境保護運動にも強く関与するようになり、
58 地域で環境保護運動を進める団体Cを設立し
59 て、
60 自らその代表となった。
61
62 団体Cは、
63 X県の自然環境の保全を訴え、
64 工業団地への企業誘致など
65 X県が進めてきた産業政策を、
66 環境を犠牲に産業振興を図っているなどとして批判する活動をも展
67 開していた。
68
69 著名な研究者であるYによるこうした活動は、
70 広く社会的な注目を集めた。
71
72 Yはまた、
73
74 研究成果を発信するためにA研究所のサーバー上に開設している自身のウェブサイト「Y研究室」
75 において、
76 団体Cの活動を記録した動画と、
77 X県の産業政策に対する批判的なコメントを掲載した。
78
79
80 動画には、
81 Yを含む団体Cの構成員が、
82 X県の産業政策の推進に熱心な県議会議員Dらと県庁前で
83 激しく口論する様子や、
84 Yが、
85 環境保護に熱心に取り組む県議会議員らと団体Cの集会で対談する
86 様子などが含まれていた。
87
88
89 202*年、
90 団体Cは、
91 自己の資金を用いて、
92 学生や一般市民を読者として想定した、
93 X県にお
94 ける環境保護の必要性を訴えるブックレット『持続可能な地域社会の未来に向けて―今こそ政策を
95 転換すべきとき』を刊行した(以下「ブックレット」という。
96
97 )。
98
99 ブックレットでは、
100 編者である
101 Yのほか、
102 X県各地で活動する団体Cの構成員らもそれぞれ一章を担当し、
103 それぞれの活動を紹介
104 するとともに、
105 X県の産業政策を厳しく批判する論考を執筆していた。
106
107 X県を中心に発行されてい
108 る地方紙は、
109 ブックレットについて、
110 「持続可能な社会の在り方を考える上で貴重な学問的示唆を
111 含んでいる」との好意的な書評を掲載した。
112
113
114 Yは長年にわたり、
115 B学部の必修科目である「地域経済論」の講義を担当し、
116 地域経済の経済学
117 的分析を行ってきたが、
118 202*年度前期の講義では、
119 ブックレットを教科書として使用し、
120 毎回
121 の講義にブックレットの共著者をゲストとして招いた。
122
123 また、
124 Yは、
125 講義の中で、
126 再三にわたり団
127 体Cへの加入を勧め、
128 加入申込書の配布なども行った。
129
130 さらに、
131 期末試験では、
132 ブックレットの章
133 の一つを選んで学術的観点から検討せよ、
134 という出題を行った。
135
136
137 このようなYの活動に対して、
138 公務員ではないとはいえ県立大学の教員としてふさわしくないと
139 いった強い批判が学内の一部の教員からなされるようになった。
140
141 X県議会でも、
142 Dなど一部の議員
143 から、
144 Yの活動を問題視する発言がなされた。
145
146 さらに、
147 202*年12月、
148 X大学の経営の重要事
149 項を審議するX大学経営審議会において、
150 地元経済界出身の委員から、
151 特定の議員らと連携して県
152 の産業政策を批判する教員の活動に研究助成を行っているのは県立大学として問題ではないかとい
153 う、
154 明らかにYを念頭に置いたと思われる発言がなされた。
155
156 これに対して、
157 A研究所長である教授
158 Eは、
159 特定の政策への批判は研究者としてあり得ることだが、
160 県費を原資とする研究助成金が学外
161
162 - 2 -
163
164 での政治活動にも用いられているとすれば問題であるから、
165 研究助成金が適正に用いられているか
166 どうかについては精査したいと応答した。
167
168
169 経営審議会の後、
170 Eを委員長とするA研究所の運営委員会が開催され、
171 次年度の研究助成金の交
172 付について審議された。
173
174 Yに対しては、
175 過去数年にわたり研究助成金が助成の趣旨に適合しない形
176 で使用されており、
177 次年度についてもYが提出した申請書では同様の支出が想定されるとの理由で、
178
179 運営委員会は助成金を交付しないことを決定した。
180
181 不交付決定の通知を受けたYは、
182 助成が認めら
183 れなければ次年度の研究活動に重大な支障が生じる、
184 自分が助成を得て行ってきた研究活動は全て
185 「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」という助成の趣旨に沿ったものである、
186 A研究所
187 ではこれまで研究員に研究助成が認められなかった例はなく、
188 優れた成果を上げてきた自分に対し
189 てだけ助成が認められないのは到底納得できないなどと述べ、
190 Eに対して詳しい説明を求めた。
191
192
193 は、
194 経営審議会での指摘を受けて運営委員会がYについて過去数年の支出を精査したところ、
195 その
196 結果、
197 ウェブサイト「Y研究室」の運営の委託及び実地調査のための国内各地への出張に研究助成
198 金の3分の2以上が支出されているが、
199 ウェブサイトは研究成果の発信のほかにYの政治的な意見
200 表明や団体Cの活動のためにも利用されていること、
201 また出張に際しては、
202 Yが、
203 団体Cと連携し
204 て活動している各地の団体に聞き取り調査を行うだけでなく、
205 それらの団体が主催する学習会でX
206 県の産業政策を批判する講演を無報酬で行っていることが明らかになった、
207 と述べた。
208
209 そしてEは、
210
211 いずれもが助成対象となる研究活動とは認め難いものであったので、
212 研究助成の趣旨に適合しない
213 同様の支出が想定される次年度については、
214 助成金を交付しないこととした、
215 と説明した。
216
217
218 また、
219 Yが202*年度前期に担当した「地域経済論」の成績評価に対して、
220 団体Cに加入した
221 学生がいずれも「S」の最高評価を得ている一方で、
222 期末試験の答案でブックレットの内容を批判
223 した学生の多くが不合格の評価を受けている、
224 この科目の単位を取得しなければ卒業できないのに
225 このような評価では納得できないなど、
226 成績評価が著しく不公正であるという異議の申立てが、
227
228 科目を履修した学生からなされた。
229
230 202*年の翌年の1月、
231 B学部教授会は、
232 学部長Fらによる
233 Yに対する事情聴取や答案の調査の結果を踏まえ、
234 異議申立てについての審査を行った。
235
236 教授会で
237 は、
238 事情聴取に際し、
239 Yが、
240 「大学生は十分な批判能力を備えているので、
241 高校までの授業とは異
242 なり大学では講義内容などについて教員に広い裁量が認められており、
243 成績評価もその中に入るは
244 ずだ。
245
246 」、
247 「ブックレットの論考はいずれも私の研究を踏まえた学問的な根拠に基づくものであっ
248 て、
249 それを十分な理由を示さず批判している答案は評価できない。
250
251 」、
252 「団体Cへの加入勧誘は何
253 ら強制を伴っておらず、
254 社会問題に関心の高い学生が自発的に加入しただけである。
255
256 そうした意識
257 の高い学生が、
258 結果として優れた答案を書き高い評価を得たのは自然なことである。
259
260 」、
261 「大学が
262 実施した今年度の授業評価で6割以上の学生が私の講義について5段階評価で4以上の評価をして
263 いることは大学も承知しているはずだ。
264
265 」などと述べたことが報告された。
266
267 続けてFからは、
268 期末
269 試験の答案の調査により、
270 ブックレットの内容を批判した答案の成績評価が全体として著しく低い
271 ことが確認され、
272 学術的観点からなされるべき大学の成績評価として著しく妥当性を欠くと判断さ
273 れるとの説明があった。
274
275 Fは、
276 B学部教授会の議を経て、
277 「地域経済論」の不合格者の成績評価を
278 取り消し、
279 別の教員が不合格者を対象とした再試験を行い、
280 それにより成績を評価することを決定
281 した。
282
283
284 Yは、
285 研究助成金の不交付決定(以下「決定@」という。
286
287 )及び「地域経済論」の不合格者の成
288 績評価を取り消し、
289 他の教員による再試験・成績評価を実施するとの決定(以下「決定A」という。
290
291
292 のいずれにも納得できないとして、
293 X大学長Gと面会した。
294
295 面会には、
296 A研究所長EとB学部長F
297 も同席した。
298
299 決定@及び決定Aは政治的圧力による不当な決定であり、
300 大学に撤回を求めるとする
301 Yに対して、
302 Gは、
303 E・Fとともに、
304 決定@及び決定Aは大学としての決定である、
305 大学の一員で
306 ある以上、
307 研究・教育の内容や方法について大学の自主的な決定に従うのは当然である、
308 と述べた。
309
310
311 YはGの説明に納得せず、
312 自分が依頼した弁護士も同席の上で、
313 再度話合いの場を設けることを要
314 求すると告げた。
315
316
317
318 - 3 -
319
320 〔設問1〕
321 X大学長Gは、
322 X県公立大学法人の顧問弁護士Zに対して、
323 Yとの再度の話合いに応じるつも
324 りだが、
325 大学としては憲法を踏まえてできるだけ丁寧な説明を行いたい、
326 と相談した。
327
328 あなたが
329 Zであるとして、
330 X大学の立場から、
331 決定@及び決定Aそれぞれについて、
332 次回の面会において
333 どのような憲法上の主張が可能かを述べなさい。
334
335
336 〔設問2〕
337 〔設問1〕で述べられた憲法上の主張に対するYからの反論を想定しつつ、
338 あなた自身の見解
339 を述べなさい。
340
341
342 なお、
343 〔設問1〕及び〔設問2〕とも、
344 司法権の限界については、
345 論じる必要がない。
346
347 また必
348 要に応じて、
349 参考とすべき判例に言及すること。
350
351
352
353 - 4 -
354
355 論文式試験問題集[公法系科目第2問]
356
357 - 1 -
358
359 [公法系科目]
360 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕、
361 〔設問1〕、
362 〔設問2〕の配点割合は、
363 40:20:
364 40〕)
365 A株式会社(以下「A」という。
366
367 )は、
368 水素・燃料電池自動車や自動運転等の研究開発と自動車
369 の整備や走行テストを実施するため、
370 B県C市内にある台地状のD山山頂部のA所有地と、
371 これに
372 連なる中腹部のE所有地の一部を開発区域(以下「本件開発区域」という。
373
374 )として、
375 山林の伐採、
376
377 大規模な切土と盛土により合計200ヘクタールの土地を造成し(以下「本件開発行為」という。
378
379 )、
380
381 周回路等の走行試験場、
382 開発・整備工場等の施設を設置する計画(以下「本件計画」という。
383
384 )を
385 立てた。
386
387 本件開発区域は、
388 森林法(以下「法」という。
389
390 )第10条の2第1項における地域森林計
391 画の対象となっている民有林で、
392 総面積の98パーセントがA所有林、
393 2パーセントがE所有林で
394 ある。
395
396
397 本件計画のうちE所有林の部分においては、
398 立木の伐採、
399 住民の生活用水のための貯水池(以下
400 「本件貯水池」という。
401
402 )の設置等が予定されている。
403
404 本件開発区域には、
405 A所有林からE所有林
406 を通過して本件開発区域外に流れ出す沢(以下「本件沢」という。
407
408 )があり、
409 Fは、
410 本件開発区域
411 の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いに居住し、
412 本件沢の水を飲料水や生活用水として使
413 用している。
414
415 また、
416 本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一部となっている。
417
418 過去に
419 数十年に一度程度の集中豪雨があった際、
420 本件沢からの溢水等により、
421 本件開発区域外のE所有地
422 の土砂等が流失しE所有の立木の育成に悪影響が生じ、
423 Fの住居も浸水被害を受けたことがあった。
424
425
426 なお、
427 Eは、
428 D山から30キロメートル離れたC市外に居住し、
429 D山を水源とする水道水を使用し
430 ていない。
431
432
433 B県には、
434 法第10条の2第1項に基づく開発行為の許可(以下「開発許可」という。
435
436 )の手続
437 を円滑に進めるための指導指針(以下「B県指針」という。
438
439 )があり、
440 開発行為を行う者は、
441 開発
442 計画に関する概要等を記載した書面を担当課であるB県農林水産部森林課(以下「担当課」という。
443
444
445 や関係市町村に提出すること、
446 開発区域の周辺住民や地権者等に対し、
447 開発計画、
448 開発行為に係る
449 防災計画等について説明することなどが定められている。
450
451 Aが開催した説明会では、
452 参加したFを
453 含む地域住民やEが、
454 本件開発行為を含む本件計画が実施された場合、
455 水害や土砂災害の発生リス
456 クが高まり、
457 また、
458 安定的な水の確保も困難になるなどとして反対意見を述べた。
459
460 これに対し、
461
462 は、
463 担当課と地域住民等に、
464 説明会で出された質問や要望に対する見解と対応方針を伝達した上で、
465
466 B県知事に対し、
467 本件計画に係る開発許可の申請(以下「本件申請」という。
468
469 )を行った。
470
471
472 B県指針に基づき上記書面の提出を受け、
473 上記説明会に参加したC市担当者は、
474 今後、
475 本件計画
476 のようなC市の水道水源確保に支障が生じるおそれのある事業を規制する必要があると考えた。
477
478
479 こで、
480 C市は本件申請前に水道水源保護を目的としたC市水道水源保護条例(以下「本件条例」と
481 いう。
482
483 )を新たに制定・施行し、
484 C市長は、
485 直ちに、
486 所定の手続を経て、
487 本件開発区域を含むD山
488 の林地を本件条例第6条第1項に基づく水源保護地域に指定し、
489 公示した。
490
491 本件申請後に同指定を
492 知ったAは、
493 本件条例第7条第1項に基づくC市長との協議を開始したが、
494 C市長は、
495 C市水道水
496 源保護審議会においてAの事業用の取水量・貯水量の多さが問題として重視されたことから、
497 同審
498 議会の意見に従い、
499 本件計画により設置する予定の施設を本件条例第7条第3項に基づく規制対象
500 事業場として認定し(以下「本件認定」という。
501
502 )、
503 Aに通知した。
504
505
506 以下に示された担当課長とB県法務室長(弁護士)による【検討会議の会議録】を読んだ上で、
507
508 法務室長の立場に立って、
509 設問に答えなさい。
510
511
512 なお、
513 関係法令の抜粋を【資料1
514
515 関係法令】に、
516 B県における法第10条の2第2項に基づく
517
518 都道府県知事の許可に係る開発許可基準(以下「本件許可基準」という。
519
520 )の抜粋を【資料2
521 県林地開発行為の許可基準(抜粋)】に、
522 それぞれ掲げてあるので、
523 適宜参照しなさい。
524
525
526
527 - 2 -
528
529
530
531 〔設問1〕
532 B県知事がAに対し本件申請に係る許可をした場合を想定して、
533 以下の点を検討しなさい。
534
535
536
537
538 E及びFが同許可の取消訴訟を提起した場合、
539 E及びFには、
540 この取消訴訟における原告適格
541 が認められるか、
542 検討しなさい。
543
544
545
546
547
548 仮にEが本件開発行為に同意し、
549 Fのみが同許可の取消訴訟を提起した場合、
550 同訴訟の係属中
551 に本件開発行為に関する工事が完了した後においても、
552 Fに訴えの利益は認められるか、
553 検討し
554 なさい。
555
556 なお、
557 解答に当たっては、
558 Fに原告適格が認められることを前提にしなさい。
559
560
561
562 〔設問2〕
563 B県知事がAに対し本件申請に係る許可をし、
564 Fが同許可の取消訴訟を提起した場合を想定して、
565
566 Fによる違法事由の主張として考えられるものを挙げた上で、
567 それぞれに対するB県の反論を検討
568 しなさい。
569
570 ただし、
571 同許可が法第10条の2第2項第1号及び同項第1号の2に定める基準を満た
572 すかどうかについては、
573 違法事由として検討する必要はない。
574
575 また、
576 Fによる違法事由の主張につ
577 いては、
578 主張制限(行政事件訴訟法第10条第1項参照)を考慮しなくてよい。
579
580
581
582 - 3 -
583
584 【検討会議の会議録】
585 担当課長:本件申請に係る許可の審査に当たり、
586 Aの開発行為に関わる紛争発生時におけるB県の対
587 応戦略について、
588 法的観点からの検討をお願いします。
589
590
591 法務室長:それでは、
592 B県知事がAに対し本件申請に係る許可をした後、
593 EやFから同許可の取消訴
594 訟が提起された場合を想定します。
595
596 まず、
597 訴訟要件について検討しますが、
598 本件開発行為に
599 よりどのようなことが起こる可能性がありますか。
600
601
602 担当課長:一般に、
603 大規模に行われる盛土、
604 切土等の造成による地形の改変は、
605 造成前に比べ、
606 地盤
607 の安定を害し、
608 また、
609 山林を伐採すれば、
610 山林の保水力も低下し、
611 土砂による濁水も増え、
612
613 水源かん養機能を低下させるおそれが高くなります。
614
615 しかも、
616 本件計画では工事が長期に及
617 ぶ予定ですから、
618 その間に集中豪雨により土砂災害や水害が発生する可能性は否定できませ
619 ん。
620
621
622 法務室長:開発許可が処分であることは明らかですので、
623 論点の一つは、
624 E及びFに原告適格がある
625 かです。
626
627 この点は、
628 ゴルフ場建設に関わる開発許可の取消訴訟に関する最高裁判決(最高裁
629 判所平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁)を参考に、
630 EとFの
631 各々について検討することにします。
632
633
634 担当課長:本件申請では、
635 Eの同意書は添付されていません。
636
637 仮に本件申請に係る許可をしても、
638
639 の同意が得られなければ、
640 本件開発行為の完了を見込むことはできません。
641
642 ただ、
643 Aによれ
644 ば、
645 AとEは協議中であり、
646 今後、
647 Eが同意に転じる可能性はあるようですが、
648 明らかでは
649 ありません。
650
651 仮にEが本件開発行為に同意し、
652 Fのみが本件申請に係る許可の取消訴訟を提
653 起した場合、
654 同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了するとどうなるのでしょう
655 か。
656
657
658 法務室長:その場合、
659 Fの訴えの利益の問題が生じます。
660
661 取消訴訟係属中に林地の開発行為に関する
662 工事が完了した事例に関する最高裁判決(最高裁判所平成7年11月9日第一小法廷判決・
663 裁判集民事177号125頁)では訴えの利益が否定されていますが、
664 その理由が明確では
665 ありません。
666
667 訴えの利益を否定する理由を明確化するため、
668 建築確認の取消訴訟係属中に建
669 築工事が完了した事例に関する最高裁判決(最高裁判所昭和59年10月26日第二小法廷
670 判決・民集38巻10号1169頁)を参考にしつつ、
671 開発許可の法的効果などを法の仕組
672 みに即して検討することにします。
673
674 次に、
675 本案の問題ですが、
676 開発許可に当たっては、
677 水源
678 の確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する専門技術的判断はもとより、
679 公益
680 の考慮も必要となります。
681
682 そこで、
683 法第1条と法第10条の2第3項に規定する「森林の保
684 続培養」の意味を教えてください。
685
686
687 担当課長:「森林の保続培養」とは、
688 森林造成には長期を要し、
689 一度開発して土砂災害・水害防止機
690 能や水源かん養機能などの公益的機能が破壊されると回復は相当難しいので、
691 森林の無秩序
692 な開発により森林の持つ機能発揮を阻害しないように、
693 合理的かつ計画的に森林を維持改善
694 することを意味します。
695
696
697 法務室長:B県知事が定め、
698 B県ウェブサイト等で公開している本件許可基準(【資料2
699
700 B県林地
701
702 開発行為の許可基準(抜粋)】参照)第1−1−@の趣旨は何ですか。
703
704
705 担当課長:本件許可基準では、
706 法第10条の2第3項を踏まえ、
707 同条第2項各号の要件を判断するた
708 めに共通して必要となる一般的事項を定めています。
709
710 森林法施行規則(以下「規則」という。
711
712
713 第4条第2号に関し、
714 本件許可基準第1−1−@では、
715 開発行為の完了が確実であるといえ
716 るかを判断するため、
717 開発区域内の私法上の権原を有する者全てではなく、
718 3分の2以上の
719 権利者が現に同意していること等を求めています。
720
721 本来、
722 全員の同意が望ましいのですが、
723
724 申請時には開発行為が許可されるか不明であり、
725 申請者に過度な負担を課さないためです。
726
727
728 この基準を前提に、
729 Eの同意書が添付されていない現段階で本件開発行為を許可すると、
730
731 的にはどのように評価されるのでしょうか。
732
733
734
735 - 4 -
736
737 法務室長:想定する取消訴訟では、
738 本件許可基準第1−1−@との関係が問題になりそうです。
739
740 そこ
741 で、
742 開発許可につきB県知事の裁量権が認められる理由や、
743 本件許可基準に定める同意を要
744 する権利者数以外に、
745 本件許可基準に定めのない本件開発区域における所有林面積の割合を
746 本件開発行為の許否の判断に当たって考慮することができないか、
747 検討することにします。
748
749
750 なお、
751 規則及び本件許可基準は適法であることを前提にしておきます。
752
753
754 担当課長:本件計画によれば、
755 Aは本件開発区域全域に本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池を設置
756 して事業用水等を確保する予定です。
757
758 本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一
759 つですから、
760 C市長は、
761 Aによる事業用水の取水や貯水によってC市の水道水源が枯渇する
762 おそれを解消するため、
763 本件計画の阻止を意図して本件認定をしたようです。
764
765 この点に関す
766 るAとC市長の本件条例に基づく協議では各々の主張を言い合っただけで終わったそうです。
767
768
769 B県としては、
770 C市長が丁寧に協議を行い、
771 Aの協力を得ることができれば、
772 水道水源の枯
773 渇という問題は生じないと考えています。
774
775 いずれにしても、
776 C市長の本件認定は、
777 Aの権利
778 に重大な影響を与えますが、
779 本件申請との関係ではどのような影響が生じるでしょうか。
780
781
782 いうのも、
783 本件認定はAの土地の使用を制限する処分ですが、
784 B県では、
785 市町村による土地
786 の使用制限に関する処分が違法であると評価して開発許可をした事例がかつてあったからで
787 す。
788
789
790 法務室長:本件許可基準第1−1−Aとの関係で本件認定の違法性が問題となります。
791
792 想定する取消
793 訴訟で、
794 B県が本件認定の違法を主張することができるかは、
795 別の機会に検討する必要があ
796 りそうですが、
797 ここでは、
798 本件認定が違法で取り消されるべきものであれば、
799 本件許可基準
800 第1−1−Aに適合し、
801 B県知事が本件申請に係る許可をするのに支障はないという前提で、
802
803 本件認定の違法性について検討することにします。
804
805
806 担当課長:本件開発行為についてEが同意し、
807 本件申請に係る許可がされて本件開発行為が始まれば、
808
809 Aは本件計画に従い本件貯水池を設置することになります。
810
811 しかし、
812 Fは、
813 説明会で、
814 本件
815 貯水池の容量が少なく、
816 Fの生活用水に不足が生じると主張していました。
817
818 B県としては、
819
820 Fが主張する容量の確保は技術的に難しく、
821 実現には費用が掛かりすぎると考えています。
822
823
824 法務室長:想定する取消訴訟では、
825 本件計画による水資源確保対策が法第10条の2第2項第2号及
826 び本件許可基準第4−1に適合しているかが問題となるでしょう。
827
828 そこで、
829 B県として法的
830 にどのような反論をすることができるか、
831 検討することにします。
832
833 その他の本案の論点は別
834 の機会に検討することにしたいと思います。
835
836
837
838 - 5 -
839
840 【資料1
841
842
843 関係法令】
844
845 森林法(昭和26年法律第249号)(抜粋)
846 (この法律の目的)
847
848 第1条
849
850 この法律は、
851 森林計画、
852 保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、
853 森林の保続培養
854
855 と森林生産力の増進とを図り、
856 もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする。
857
858
859 (開発行為の許可)
860 第10条の2
861
862 地域森林計画の対象となつている民有林(中略)において開発行為(土石又は樹根の
863
864 採掘、
865 開墾その他の土地の形質を変更する行為(中略)をいう。
866
867 以下同じ。
868
869 )をしようとする者は、
870
871 農林水産省令で定める手続に従い、
872 都道府県知事の許可を受けなければならない。
873
874 (以下略)
875
876
877 都道府県知事は、
878 前項の許可の申請があつた場合において、
879 次の各号のいずれにも該当しないと
880 認めるときは、
881 これを許可しなければならない。
882
883
884
885
886 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、
887 当該開発行為
888 により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあ
889 ること。
890
891
892
893 一の二
894
895 当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、
896 当該開発行為により当
897
898 該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
899
900
901
902
903 当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、
904 当該開発行為により当該
905 機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
906
907
908
909
910
911
912 (略)
913 前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、
914 森林の保
915
916 続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
917
918
919 4〜6
920
921 (略)
922
923 (監督処分)
924 第10条の3
925
926 都道府県知事は、
927 森林の有する公益的機能を維持するために必要があると認めるとき
928
929 は、
930 前条第1項の規定に違反した者若しくは同項の許可に附した同条第4項の条件に違反して開発
931 行為をした者又は偽りその他の不正な手段により同条第1項の許可を受けて開発行為をした者に対
932 し、
933 その開発行為の中止を命じ、
934 又は期間を定めて復旧に必要な行為をすべき旨を命ずることがで
935 きる。
936
937
938 第206条
939
940 次の各号のいずれかに該当する者は、
941 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処す
942
943 る。
944
945
946
947
948 第10条の2第1項の規定に違反し、
949 開発行為をした者
950
951 二〜四
952
953
954 (略)
955
956 森林法施行規則(昭和26年農林省令第54号)(抜粋)
957
958 〔(注)
959
960 本規則中、
961 「法」は森林法を指す。
962
963
964
965 (開発行為の許可の申請)
966 第4条
967
968 法第10条の2第1項の許可を受けようとする者は、
969 申請書(中略)に開発行為に係る森林
970
971 の位置図及び区域図並びに次に掲げる書類を添え、
972 都道府県知事に提出しなければならない。
973
974
975
976
977 開発行為に関する計画書
978
979
980
981 開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意
982 を得ていることを証する書類
983
984
985
986 (略)
987
988 - 6 -
989
990
991
992 C市水道水源保護条例(抜粋)
993 (目的)
994
995 第1条
996
997 この条例は、
998 住民が安心して飲める水を確保するため、
999 市の水道水源を保護し、
1000 もって市民
1001
1002 の生命及び健康を守ることを目的とする。
1003
1004
1005 (定義)
1006 第2条
1007
1008 この条例において、
1009 次の各号に掲げる用語の意義は、
1010 当該各号に定めるところによる。
1011
1012
1013
1014
1015
1016 (略)
1017
1018
1019
1020 水源保護地域
1021
1022
1023
1024 水源の枯渇
1025
1026
1027
1028 対象事業
1029
1030
1031
1032 規制対象事業場
1033
1034 市の水道に係る水源及びその上流地域で、
1035 市長が指定する区域をいう。
1036
1037
1038 取水施設の水位を著しく低下させることをいう。
1039
1040
1041
1042 水源の枯渇をもたらすおそれのある事業をいう。
1043
1044
1045 対象事業を行う工場その他の事業場のうち、
1046 水道に係る水源の枯渇をもたら
1047
1048 し、
1049 又はそのおそれのある工場その他の事業場で、
1050 第7条第3項の規定により規制対象事業場と
1051 認定されたものをいう。
1052
1053
1054
1055
1056 (略)
1057
1058 (水道水源保護審議会の設置)
1059 第5条
1060
1061 市の水道水源の保護を図り、
1062 水道事業を円滑に実施するため、
1063 (中略)水道水源保護審議会
1064
1065 (以下「審議会」という。
1066
1067 )を設置する。
1068
1069
1070 2 審議会は、
1071 水源の保護に関する重要な事項について、
1072 調査、
1073 審議する。
1074
1075
1076 (水源保護地域の指定等)
1077 第6条
1078
1079
1080 市長は、
1081 水道水源を保護するため、
1082 水源保護地域を指定することができる。
1083
1084
1085
1086 市長が、
1087 水源保護地域を指定しようとするときは、
1088 あらかじめ審議会の意見を聴かなければなら
1089 ない。
1090
1091
1092
1093
1094
1095 市長が、
1096 第1項の規定により、
1097 水源保護地域の指定をしたときは、
1098 その旨を直ちに公示するもの
1099 とする。
1100
1101
1102 (事前の協議及び措置等)
1103
1104 第7条
1105
1106 水源保護地域内において対象事業を行おうとする者(以下「事業者」という。
1107
1108 )は、
1109 あらか
1110
1111 じめ市長と協議しなければならない。
1112
1113
1114
1115
1116 (略)
1117
1118
1119
1120 市長は、
1121 第1項の規定による協議の申出があった場合において、
1122 審議会の意見を聴き、
1123 規制対象
1124 事業場と認定したときは、
1125 事業者に対し、
1126 その旨を速やかに通知するものとする。
1127
1128
1129 (規制対象事業場の設置の禁止)
1130
1131 第8条
1132
1133 何人も、
1134 水源保護地域内において、
1135 規制対象事業場を設置してはならない。
1136
1137
1138
1139 (罰則)
1140 第20条
1141
1142 次の各号の一に該当する者は、
1143 1年以下の懲役、
1144 又は10万円以下の罰金に処する。
1145
1146
1147
1148
1149
1150 第8条の規定に違反した者
1151
1152
1153
1154 (略)
1155
1156 - 7 -
1157
1158 【資料2
1159 第1
1160
1161 B県林地開発行為の許可基準(抜粋)】
1162
1163 一般的事項
1164
1165
1166
1167 次の事項の全てに該当し、
1168 申請に係る開発行為を行うことが確実であること。
1169
1170
1171
1172 @
1173
1174 開発行為に係る森林につき、
1175 開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を申
1176 請者が得ていることが明らかであること。
1177
1178 この場合の相当数の同意とは、
1179 開発行為に係る森林に
1180 つき開発行為の妨げとなる権利を有する全ての者の3分の2以上の者から同意を得ており、
1181 その
1182 他の者についても同意を得ることができると認められる場合を指すものとする。
1183
1184
1185
1186 A
1187
1188 開発行為又は開発行為に係る事業の実施について、
1189 法令等による許認可等を必要とする場合に
1190 は当該許認可等がなされているか若しくはそれが確実であること又は法令等による土地の使用に
1191 関する制限等に抵触しないこと。
1192
1193 (以下略)
1194
1195 第4
1196
1197
1198 水資源確保の要件(法第10条の2第2項第2号関係)
1199 飲用水、
1200 かんがい用水等の水源として依存している森林を開発行為の対象とする場合で、
1201 周辺
1202 における水利用の実態等からみて必要な水量を確保するため必要があるときには、
1203 貯水池又は導
1204 水路の設置その他の措置が適切に講ぜられることが明らかであること。
1205
1206 (以下略)
1207
1208 - 8 -
1209
1210