1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕 (配点:100〔〔設問1〕、
7 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は、
8 50:30:20〕)
9 次の各文章を読んで、
10 後記の〔設問1・〕 、
11 〔設問2〕 及び〔設問3〕 に答えなさい。
12
13
14 なお、
15 解答に当たっては、
16 文中において特定されている日時にかかわらず、
17 試験時に施行されて
18 いる法令に基づいて答えなさい。
19
20
21 【事実T】
22 1.個人で事業を営んでいるAは、
23 その所有する甲土地を売却することとした。
24
25
26 2.令和2年3月20日、
27 不動産取引の経験がなかったAは、
28 かつて不動産業に携わっていた友
29 人のBに甲土地の売却について相談をした。
30
31 甲土地の登記記録には、
32 弁済によって被担保債権
33 が既に消滅した抵当権の設定登記が残っていたことから、
34 Bは、
35 甲土地の売却先を探してみる
36 が、
37 その前に抵当権の登記を抹消してあげようと申し出、
38 Aはこれを了承した。
39
40
41 【事実U】
42 前記【事実T】の1と2に続いて、
43 以下の事実があった。
44
45
46 3.Bは、
47 自身が負う金銭債務の弁済期が迫っていたため、
48 甲土地を自己の物として売却し、
49
50 の代金を債務の弁済に充てようと考えた。
51
52
53 4.令和2年4月2日、
54 Bは、
55 Aに対し、
56 抵当権の抹消登記手続に必要であると偽って所有権移
57 転登記手続に必要な書類等の交付を求め、
58 Aは、
59 Bの言葉を信じてこれに応じた。
60
61 Bは、
62 Aが
63 甲土地をBに3500万円で売却する旨の契約(以下「契約@」という。
64
65 )が成立したことを
66 示す売買契約書を偽造し、
67 同契約書とAから受け取った書類等を用いて、
68 同月5日、
69 甲土地に
70 つき、
71 抵当権の抹消登記手続及びAからBへの所有権移転登記手続をした。
72
73
74 5.令和2年4月20日、
75 Bは、
76 甲土地を4000万円でCに売却する旨の契約(以下「契約A」
77 という。
78
79 )をCとの間で締結した。
80
81 Cは、
82 契約Aの締結に当たり、
83 甲土地の登記記録を確認し、
84
85 Bが甲土地を短期間のうちに手放すことになった経緯につきBに尋ねたところ、
86 Bは、
87 「知ら
88 ない人と契約を交わすのを不安に感じたAの意向で、
89 いったん友人である自分が所有権を取得
90 することになった」旨の説明をした。
91
92
93 6.令和2年4月25日、
94 CからBへの代金全額の支払と、
95 甲土地につきBからCへの所有権移
96 転登記がされた。
97
98
99 〔設問1〕
100 【事実T】及び【事実U】(1から6まで)を前提として、
101 令和2年5月1日、
102 CがAに対して
103 甲土地の引渡しを請求した。
104
105 Aはこれを拒むことができるか、
106 論じなさい。
107
108
109 【事実V】
110 前記【事実T】の1と2に続いて、
111 以下の事実があった(前記【事実U】の3から6までは存在
112 しなかったものとする。
113
114 )。
115
116
117 7.令和2年4月2日、
118 Aは、
119 知人のDから甲土地を4000万円で購入したいとの申出を受け、
120
121 この額が時価相当であったことから、
122 Dに売却することを決めた。
123
124 Aは、
125 同日、
126 Bに対して、
127
128 甲土地の売却先を探してもらう必要はなくなったが、
129 抵当権の抹消登記手続については急いで
130 ほしい旨を述べ、
131 Bはこれを了承した。
132
133
134 8.Aは、
135 事業の不振により債務超過に陥っていたことから、
136 Dに対し、
137 登記手続は来月になっ
138 てしまうが、
139 売買契約の締結と代金の授受は早々にさせてほしいと懇請し、
140 Dはこれに応じた。
141
142
143 令和2年4月5日、
144 Aが甲土地を4000万円でDに売却する旨の契約(以下「契約B」とい
145
146 - 2 -
147
148 う。
149
150 )がAとDとの間で締結され、
151 代金全額がDからAに支払われた。
152
153 なお、
154 甲土地は、
155 Aが
156 所有する唯一のめぼしい財産であった。
157
158
159 9.令和2年4月8日、
160 Bは、
161 Aが甲土地を売却した相手が、
162 かねてより恨みを抱いているDで
163 あることを知って、
164 契約Bを阻止し、
165 Dに損害を与えようと考えた。
166
167 Bは、
168 Aに対して、
169 今後
170 継続的にAの事業を支援するから、
171 甲土地は自分に2000万円で売ってほしいと述べた。
172
173
174 は、
175 今後のBからの支援に期待をかけ、
176 Bの申出を受けることにした。
177
178
179 10.令和2年4月12日、
180 Aは、
181 甲土地を2000万円でBに売却する旨の契約(以下「契約C」
182 という。
183
184 )をBとの間で締結した。
185
186 同月15日、
187 BからAに代金全額が支払われ、
188 甲土地につ
189 き抵当権の抹消登記及びBへの所有権移転登記がされた。
190
191
192 11.令和2年5月8日、
193 Bは、
194 甲土地を4000万円でCに売却する旨の契約(以下「契約D」
195 という。
196
197 )をCとの間で締結した。
198
199 同月10日、
200 CからBへの代金全額の支払と、
201 甲土地につ
202 きCへの所有権移転登記がされた。
203
204 なお、
205 Cは、
206 契約Dの締結に当たり、
207 契約Bの存在やAが
208 十分な資力を有していないことについてBから説明を受けていたが、
209 BにDを害する意図があ
210 ったことは、
211 Cへの所有権移転登記がされた後も知らないままであった。
212
213
214 〔設問1〕
215 【事実T】及び【事実V】(1、
216 2及び7から11まで)を前提として、
217 令和2年6月1日、
218 Dは、
219
220 Cに対し、
221 甲土地につき、
222 Dへの所有権移転登記手続をするよう請求し(以下「請求1」という。
223
224 )、
225
226 それができないとしても、
227 Aへの所有権移転登記手続をするよう請求した(以下「請求2」という。
228
229 )。
230
231
232 これらの請求は認められるか、
233 請求1及び請求2のそれぞれについて論じなさい。
234
235
236 【事実W】
237 12.令和3年3月、
238 Fは、
239 その所有する乙建物を、
240 期間5年、
241 賃料月額30万円でGに賃貸する
242 契約(以下「契約E」という。
243
244 )をGとの間で締結し、
245 Gに引き渡した。
246
247
248 13.令和3年5月31日、
249 Fは、
250 Hから1000万円を弁済期を2年後とする約定で借り受け、
251
252 その借入金債務(以下「債務α」という。
253
254 )を担保する目的で乙建物をHに譲渡する契約(以
255 下「契約F」という。
256
257 )をHとの間で締結した。
258
259 契約Fにおいて、
260 Fが債務αの弁済期が経過
261 するまで乙建物の使用収益をする旨が合意された。
262
263 同年6月5日、
264 契約Fに基づき、
265 乙建物に
266 つきHへの所有権移転登記がされた。
267
268
269 14.Gは、
270 その後もFに対して契約Eに基づく賃料を支払っていたが、
271 令和5年5月、
272 乙建物に
273 つきHへの所有権移転登記がされていることを知り、
274 賃料を支払わなくなった。
275
276
277 15.Fは、
278 債務αの弁済期経過後もその弁済をしないまま、
279 令和5年7月、
280 債務αの弁済期経過
281 前に発生した同年5月分の賃料と弁済期経過後に発生した同年6月分の賃料の支払をGに請求
282 した(以下「請求3」という。
283
284 )。
285
286 Gは、
287 「乙建物がHに譲渡されたので、
288 Fに対して賃料
289 を支払う必要はない。
290
291 」と述べて支払を拒んだ。
292
293 Fは、
294 「Hへの所有権移転登記がされてい
295 るが、
296 これは契約Fに基づくものであって、
297 賃貸人の地位が直ちにHに移転する効果を生ずべ
298 き譲渡があったわけではない。
299
300 仮にそのような譲渡があったとしても、
301 債務αの弁済期が経
302 過するまでFが乙建物の使用収益をする旨の合意があるから、
303 賃貸人の地位は自分に留保され
304 ている。
305
306 」と反論した。
307
308
309 16.Hは、
310 請求3の時点で、
311 契約Fに基づく担保の実行も、
312 乙建物の第三者への処分もしていな
313 い。
314
315
316 〔設問2〕
317 【事実W】(12から16まで)を前提として、
318 次の問いに答えなさい。
319
320
321 下線部の各主張の根拠を説明した上で、
322 Fの反論の当否を検討し、
323 請求3が認められる
324
325 - 3 -
326
327 か、
328 論じなさい。
329
330 その際、
331 令和5年5月分と6月分とで結論に違いが生じ得るかにも留意しなさ
332 い。
333
334
335 【事実X】
336 17.Kは、
337 別荘とその敷地(以下併せて「丙不動産」という。
338
339 )を所有していた。
340
341 Kには子Lが
342 いたが、
343 Kは、
344 姪のMを幼少の頃からかわいがっていたことから、
345 令和6年1月17日、
346 Mとの
347 間で「Kが死亡したときには、
348 丙不動産をMに与える」旨の贈与契約(以下「契約G」という。
349
350
351 を書面で締結した。
352
353
354 18.令和8年2月頃よりKとMの関係が悪化した。
355
356
357 19.令和8年10月1日、
358 Kは、
359 丙不動産をN県に遺贈する旨を記した適式な自筆証書遺言を作
360 成し、
361 同日、
362 LとN県にその内容を通知した。
363
364
365 20.Kは、
366 令和9年5月1日に死亡した。
367
368 Kの相続人はLのみであった。
369
370
371 21.丙不動産の所有権の登記名義人はKのままであった。
372
373 令和9年8月20日、
374 Mは、
375 Lに対し、
376
377 契約Gに基づき丙不動産のMへの所有権移転登記手続を求めた(以下「請求4」という。
378
379 )。
380
381
382 これに対し、
383 Lは、
384 「契約Gは、
385 その後にKがN県に丙不動産を遺贈する遺言をしたことに
386 より、
387 撤回されたはずである。
388
389 」と主張してこれを拒んだ。
390
391
392 〔設問3〕
393 【事実X】(17から21まで)を前提として、
394 次の問いに答えなさい。
395
396
397 下線部の主張の根拠を説明した上で、
398 考えられるMからの反論を踏まえ、
399 請求4が認められ
400 るか、
401 論じなさい。
402
403
404
405 - 4 -
406
407 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
408
409 - 1 -
410
411 [民事系科目]
412 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、
413 35:35:30〕)
414 次の文章を読んで、
415 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
416
417
418 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
419
420 )は、
421 平成10年(1998年)4月に設立され、
422 首都圏
423 においてドラッグストアを営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社である。
424
425 また、
426
427 株式会社(以下「乙社」という。
428
429 )は、
430 医薬品、
431 化粧品及び日用品等の企画、
432 製造及び販売の業
433 務を営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社である。
434
435
436 2.甲社と乙社の間に資本関係はなく、
437 下記3のとおり、
438 甲社の取締役のうち1名が乙社出身であ
439 るほかは、
440 役員の兼任等の人的関係もない。
441
442 乙社は、
443 甲社から甲社が経営する店舗で販売する商
444 品の製造の委託を受けており、
445 その売上が乙社の売上総利益の約50パーセントを占めている。
446
447
448 乙社が製造する商品には「乙」の名称が入った登録商標Pが使用されている。
449
450
451 3.甲社では、
452 設立以来、
453 A、
454 Aの親族及び乙社出身者を中心に取締役会が構成され、
455 令和3年
456 (2021年)4月の時点では、
457 Aが代表取締役、
458 B(Aの弟)、
459 C(Aの長女)、
460 D(乙社出
461 身者)及びE(Aの親族でも乙社出身者でもない)が取締役を務めていた。
462
463
464 甲社の取締役の任期については、
465 その定款において、
466 当初、
467 選任後2年以内に終了する事業年
468 度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされていたところ、
469 平成22年(2
470 010年)6月に開催した定時株主総会において、
471 その期間を選任後10年以内に終了する事業
472 年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと変更された。
473
474 もっとも、
475 乙社出身
476 の取締役については、
477 上記定款変更の前後を問わず、
478 選任から4年で退任するのが慣例となって
479 いた。
480
481
482 甲社の発行済株式総数は10万株であり、
483 Aが4万株、
484 B及びCがそれぞれ2万株を保有し、
485
486 残りを甲社の従業員複数で保有している。
487
488
489 4.Dは、
490 大学を卒業してから35年間にわたって乙社で勤務し、
491 57歳になった平成30年(2
492 018年)3月、
493 Aから甲社の取締役になるように誘われた。
494
495 その際、
496 Aは、
497 Dに対し、
498 乙社出
499 身の取締役は従前より4年ごとに交代していることを説明した。
500
501 Dは、
502 乙社の就業規則に定年が
503 60歳と定められていたことから、
504 Aに対し、
505 「61歳まで甲社の取締役を務めた方がより長く
506 安定した収入が得られるので、
507 引き受けます。
508
509 」と述べ、
510 Aの誘いに応じた。
511
512 Dは、
513 同年5月3
514 1日に乙社を退職し、
515 同年6月20日に開催された甲社の定時株主総会において、
516 取締役に選任
517 された。
518
519 Dの前任の乙社出身の取締役は、
520 選任から4年が経過した上記定時株主総会の日に辞任
521 した。
522
523
524 Dは、
525 甲社の常勤取締役として、
526 甲社から役員報酬として月40万円の支払を受けていた。
527
528
529 た、
530 Dには他の収入はなかった。
531
532
533 5.Aは、
534 令和2年(2020年)3月、
535 Dに対し、
536 「次の株主総会で取締役の選任から2年にな
537 る。
538
539 そろそろ折り返し地点なので、
540 乙社出身の後任者を探してほしい。
541
542 」と述べたところ、
543 Dは、
544
545 「定款に定められた任期を満了するまで取締役を務めたいので、
546 まだ後任者を探すつもりはな
547 い。
548
549 」と答えた。
550
551
552 その頃、
553 Aは、
554 東北地方にも新規店舗を設けて甲社の事業の拡大を図ろうとしていた。
555
556 東北地
557 方への進出は、
558 Aの先代が果たせなかったものであり、
559 B及びC(以下、
560 A、
561 B及びCを総称し
562 て「Aら」という。
563
564 )も達成すべきものであると考えていた。
565
566 これに対し、
567 Dは、
568 丙株式会社と
569 の競争に伴う値下げによって2年連続営業損失を計上していることを理由に事業の拡大には反対
570 であり、
571 Aらとの間で意見が対立していた。
572
573
574 6.Aは、
575 令和2年(2020年)4月、
576 他の取締役らに対し、
577 「取締役の任期を1年に短縮する
578 ことで、
579 信任を得る機会を多くし、
580 取締役の業務に緊張感を持たせたいから、
581 次の定時株主総会
582
583 - 2 -
584
585 でその旨の定款変更を行いたい。
586
587 」と提案した。
588
589 Dは、
590 東北地方への進出に反対したことから、
591
592 自分を追い出すためにするものではないかと疑って上記提案に反対した。
593
594 しかし、
595 甲社の取締役
596 会は、
597 D以外の取締役らの賛成により、
598 同年の定時株主総会において、
599 @定款変更を議題とし、
600
601 取締役の任期を選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終
602 結の時までとする旨の議案を提出すること、
603 A取締役の選任を議題とし、
604 A、
605 B、
606 C、
607 D及びE
608 を取締役に選任する旨の議案を提出することを決めた。
609
610 なお、
611 A、
612 B、
613 C及びEは、
614 いずれも平
615 成22年(2010年)の定時株主総会において取締役に選任されていた。
616
617
618 7.甲社の定時株主総会は、
619 令和2年(2020年)6月25日に開催され、
620 計算書類の承認等の
621 ほか、
622 上記6@の定款変更議案及び上記6AのうちA、
623 B、
624 C及びEを取締役に選任する旨の議
625 案がAらの賛成により可決されたが、
626 上記6AのうちDを取締役に選任する旨の議案は、
627 Aらの
628 反対により否決された。
629
630
631 〔設問1〕
632
633 Dは、
634 一連の経緯により甲社の取締役の地位を失ったことは実質的な解任であって不
635
636 当であり、
637 甲社に対して会社法上の損害賠償責任を追及しようと考えている。
638
639 Dの立場において
640 考えられる法律構成及び損害に関する主張並びにそれらの当否について、
641 論じなさい。
642
643 なお、
644
645 記6及び7の定時株主総会の招集の手続及び議事は、
646 適法であったものとする。
647
648
649 8. 乙社は、
650 令和2年(2020年)に入ってから業績が悪化するようになった。
651
652 同年1月末日の
653 時点では資産1億円、
654 負債5000万円、
655 資本金2000万円であったところ、
656 現預金の流出が
657 続くなどして、
658 令和3年(2021年)10月1日の時点では、
659 資産6000万円、
660 負債400
661 0万円、
662 資本金2000万円となった。
663
664
665 9.乙社は、
666 令和2年(2020年)6月までに株式会社丁銀行(以下「丁銀行」という。
667
668 )から
669 複数回にわたって融資を受けており、
670 令和3年(2021年)6月末日の弁済期日を経過した同
671 年10月1日の時点で合計3000万円の残債務があった。
672
673
674 10.乙社の代表取締役Fは、
675 業績の悪い事業を譲渡しようと考え、
676 令和3年(2021年)9月頃
677 から、
678 関西地方でスーパーマーケットを営む会社法上の公開会社ではない取締役会設置会社であ
679 る戊株式会社(以下「戊社」という。
680
681 )と交渉を始めた。
682
683 乙社及び戊社は、
684 同年10月1日、
685
686 要な手続を経た上で、
687 乙社が戊社に日用品製造販売事業を譲渡する旨の契約を締結した(以下、
688
689 この事業譲渡を「本件事業譲渡」といい、
690 この契約を「本件事業譲渡契約」という。
691
692 )。
693
694
695 11.本件事業譲渡契約においては、
696 乙社の日用品製造販売事業の資産と負債(日用品製造販売事業
697 に従事する従業員との間の雇用契約を含む。
698
699 )が対象とされ、
700 その対価は4000万円とされた。
701
702
703 また、
704 戊社の代表取締役Gは、
705 本件事業譲渡契約を締結するに当たり、
706 上記8及び9の事実をF
707 から知らされていた。
708
709
710 12.戊社は、
711 本件事業譲渡の約3年後、
712 下記14の問題点が発覚したことにより、
713 その事業年度の決
714 算において、
715 乙社から譲り受けた日用品製造販売事業の資産について多額の評価損を計上すると
716 ともに、
717 多額の負債を計上した。
718
719
720 13.本件事業譲渡契約が締結された経緯の詳細は、
721 下記14から17までのとおりであった。
722
723
724 14.会社やその事業の買収を行う場合には、
725 買収の対象となる会社又は事業の業績、
726 資産、
727 財務状
728 態及び法律上の問題点等の調査(以下「デュー・ディリジェンス」という。
729
730 )を行うことが実務
731 上広く行われている。
732
733 しかし、
734 戊社は、
735 本件事業譲渡の際に、
736 乙社の日用品製造販売事業につい
737 てデュー・ディリジェンスを実施しなかった。
738
739 もし、
740 デュー・ディリジェンスを行っていれば、
741
742 乙社の日用品製造販売事業の在庫の価値が落ちていること、
743 その製品に知的財産権上の問題があ
744 ること等の問題点を発見することができ、
745 本件事業譲渡契約を締結しなかったか、
746 仮に締結して
747 いたとしても、
748 その対価は1000万円以下となるはずであった。
749
750
751 15.戊社の取締役でそのメインバンク出身であるHは、
752 本件事業譲渡について検討されていること
753
754 - 3 -
755
756 を知ってから、
757 乙社とも取引のあった出身銀行の知人に乙社のことを尋ねたところ、
758 「日用品製
759 造販売事業はうまくいっているとはいえず、
760 在庫の価値が下落している可能性がある上に、
761 知的
762 財産権等の管理もいい加減であるから気を付けた方がよい。
763
764 」との回答を得た。
765
766 そこで、
767 Hは、
768
769 知人の弁護士に確認したところ、
770 「事業の買収を行う場合には常にデュー・ディリジェンスが必
771 要とまではいえないものの、
772 そうした事情がある場合は行った方がよい。
773
774 」との回答を得た。
775
776
777 のため、
778 Hは、
779 戊社の代表取締役Gに対し、
780 上記の回答内容を伝えた上で、
781 本件事業譲渡には慎
782 重になるべきであり、
783 デュー・ディリジェンスを行うべき旨を指摘した。
784
785
786 16.Hの指摘にもかかわらず、
787 デュー・ディリジェンスが行われなかったのは、
788 次の事情による。
789
790
791 すなわち、
792 甲社は、
793 戊社の総株主の議決権の60パーセントを有する親会社であり、
794 戊社の取締
795 役5名のうちG及びIの2名は、
796 かつて甲社の従業員であった。
797
798 甲社の代表取締役Aは、
799 戊社の
800 代表取締役Gに対し、
801 「乙社の日用品製造販売事業が立ちゆかなくなると甲社の事業に大きな影
802 響が及ぶため、
803 本件事業譲渡を迅速に進めてほしい。
804
805 これが実現しなければ、
806 GとIの取締役の
807 再任はない。
808
809 」と述べた。
810
811 その後に行われた本件事業譲渡の交渉において、
812 Aの意向を知ってい
813 た乙社の代表取締役Fは、
814 Gに対し、
815 「乙社の主要ブランドを譲渡するのであるから、
816 相応の対
817 価とすべきである。
818
819 1か月程度で交渉がまとまらないのであれば別の譲渡先を探すか、
820 最悪の場
821 合には乙社の法的整理も検討するつもりである。
822
823 」と述べた。
824
825 これらのやり取りを踏まえ、
826 Gは、
827
828 上記15の事実の下でもデュー・ディリジェンスを省略して交渉に当たるのもやむを得ないと判断
829 し、
830 Fの主張を受け入れて上記11の内容で本件事業譲渡契約を締結した。
831
832
833 17.戊社の取締役会は、
834 令和3年(2021年)10月1日に開催されたところ、
835 Hは、
836 その必要
837 性が見いだせない上にデュー・ディリジェンスを行っていないことを理由に反対する旨の意見を
838 表明した。
839
840 他の取締役から説明を求められたGは、
841 「乙社の日用品製造販売事業を救わないと、
842
843 甲社の主力商品の1つが欠けることになり、
844 甲社を中心とした我がグループに大きな不利益が及
845 ぶ。
846
847 戊社の売上総利益の約50パーセントは甲社との取引に由来するものであるため、
848 単純に乙
849 社の日用品製造販売事業だけを見て本件事業譲渡に反対するのは適切ではない。
850
851 」と説明した。
852
853
854 その後、
855 戊社の取締役5名のうち甲社出身のGとIは自ら退席し、
856 残りの3名の取締役によって
857 審議が行われ、
858 Hを除く2名の取締役の賛成により、
859 本件事業譲渡契約を締結することが決定さ
860 れた。
861
862
863 〔設問2〕 戊社の少数株主であるJは、
864 株主代表訴訟を提起して、
865 Gに対し、
866 本件事業譲渡契約を締
867 結する旨の判断をして実行したという一連の経緯について、
868 会社法上の損害賠償責任を追及しようと
869 考えている。
870
871 Jの立場において考えられる主張(損害に関する主張を含む。
872
873 )及びその当否について、
874
875 論じなさい。
876
877 なお、
878 株主代表訴訟は、
879 適法に提起されたものとする。
880
881
882 下記18以下においては、
883 上記11から17までの事実は存在せず、
884 上記10のとおり、
885 必要な手続を経て本
886 件事業譲渡契約が締結されたことを前提として、
887 〔設問3〕に答えなさい。
888
889
890 18.本件事業譲渡契約においては、
891 乙社の日用品製造販売事業の業績が低下していたことから、
892 その資
893 産(日用品製造販売事業に従事する従業員との間の雇用契約を含む。
894
895 )が対象とされ、
896 負債は対象と
897 されなかった。
898
899 また、
900 本件事業譲渡契約が締結された令和3年(2021年)10月1日の時点での
901 乙社の日用品製造販売事業の資産の簿価は4000万円であったが、
902 戊社が「専門家を交えた調査の
903 結果によれば簿価どおりの資産価値がない可能性がある。
904
905 」と主張し、
906 乙社も早く現金を手にしたい
907 と考えていたことから、
908 本件事業譲渡契約の対価は、
909 2000万円とされた。
910
911
912 19.また、
913 乙社及び戊社は、
914 本件事業譲渡契約において、
915 乙社が戊社に対して登録商標Pの使用を認め
916 ることに合意した。
917
918 これは、
919 乙社が使用してきた登録商標Pとこれに含まれる「乙」が日用品のブラ
920
921 - 4 -
922
923 ンドとして確立し、
924 消費者には登録商標Pが乙社を示すものと受け取られており、
925 業績が悪くなった
926 とはいえ顧客誘引力が残っているからであった。
927
928
929 なお、
930 乙社は、
931 登録商標Pを使用した商品を製造して卸売を行うだけであり、
932 これまでに消費者等
933 に直接販売したことはなかった。
934
935 また、
936 戊社は、
937 関西地方でスーパーマーケットを営んでおり、
938 これ
939 までに乙社の商品を扱ったことはなく、
940 その商号や経営する店舗の名称に「乙」の文字や登録商標P
941 に含まれる文字と共通するものを使用したことはなかった。
942
943
944 20.戊社は、
945 本件事業譲渡の完了後、
946 経営するスーパーマーケットの店舗内において、
947 登録商標Pを描
948 写した看板を複数の入口に掲げて、
949 登録商標Pを使用した日用品を販売した。
950
951 また、
952 戊社は、
953 自社の
954 ウェブサイトにおいて、
955 「Pが新たに生まれ変わり、
956 当店で扱うことになりました。
957
958 」との宣伝を掲
959 載し、
960 そこには登録商標Pも掲載されていた。
961
962 戊社が扱っている登録商標Pが使用された日用品のう
963 ち6割程度は、
964 従来、
965 乙社が登録商標Pを使用して販売していたものと同じ商品であった。
966
967
968 21.乙社の業績は、
969 その後も改善しないことから、
970 丁銀行に上記9の残債務を弁済することができなく
971 なった。
972
973 そこで、
974 乙社は、
975 令和4年(2022年)5月、
976 丁銀行に対し、
977 その旨を通知した。
978
979
980 〔設問3〕
981
982 丁銀行が戊社に対して乙社の残債務の弁済を請求できるかについて、
983 論じなさい。
984
985
986
987 - 5 -
988
989 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
990
991 - 1 -
992
993 [民事系科目]
994 〔第3問〕 (配点:100[〔設問1〕 から〔設問3〕 までの配点の割合は、
995 45:30:25])
996 次の文章を読んで、
997 後記の〔設問1〕から〔設問3〕 までに答えなさい。
998
999
1000 なお、
1001 解答に当たっては、
1002 文中において特定されている日時にかかわらず、
1003 試験時に施行されて
1004 いる法令に基づいて答えなさい。
1005
1006 また、
1007 商号のうち「株式会社」は省略して差し支えありません。
1008
1009
1010 【事
1011
1012 例】
1013
1014 1.動画コンテンツの企画・制作を行う会社(商号「株式会社Mテック」)(この会社は平成30年5
1015 月21日に設立された。
1016
1017 以下、
1018 この会社を「甲」という。
1019
1020 )の設立者で代表取締役であるAは、
1021 事務
1022 所の移転先を検討していたところ、
1023 都内に雑居ビルを所有するXを知人から紹介された。
1024
1025 Xが同ビル
1026 の4階部分(以下「本件事務所」という。
1027
1028 )を勧めるとAは即決し、
1029 令和2年4月10日、
1030 Xは甲と
1031 の間で、
1032 賃料を月額30万円、
1033 毎月末日に翌月分を支払う、
1034 期間を2年とすることを主な内容とする
1035 賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。
1036
1037 )。
1038
1039 同月14日、
1040 Aは、
1041 本件事務所の所在
1042 地を甲の本店とする本店移転の登記をし、
1043 Xにその旨を伝えた。
1044
1045
1046 2.移転後の甲の業績は当初好調であったが、
1047 令和2年10月頃から徐々に業績が悪化し、
1048 運転資金に
1049 不足が生じるようになった。
1050
1051 賃料の支払が滞り、
1052 令和3年3月の時点で賃料の未払は3か月に及んだ。
1053
1054
1055 Xは、
1056 同年3月10日、
1057 甲に対し、
1058 3月末日までに未払賃料の全額を支払うように催告するとともに、
1059
1060 その支払がなければ、
1061 本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をし、
1062 訴えを提起して明渡しを求める
1063 旨を内容証明郵便で通知した。
1064
1065 甲は、
1066 期間内に未払賃料を支払わなかった。
1067
1068 Aは、
1069 Xの訴えを空振り
1070 させて時間稼ぎができるように一計を案じ、
1071 同年4月2日、
1072 まず甲の商号を「株式会社Gテック」に、
1073
1074 代表取締役をAの配偶者であるBに変更し、
1075 商号の変更等の登記をした。
1076
1077 さらにAは、
1078 同日、
1079 代表取
1080 締役をA、
1081 商号を「株式会社Mテック」とする株式会社を設立し、
1082 設立の登記をした(以下、
1083 新設さ
1084 れた会社を「乙」という。
1085
1086 )。
1087
1088 乙の商業登記簿上の本店所在地、
1089 目的等は甲のそれと同一であった。
1090
1091
1092 3.Xは、
1093 令和3年4月20日、
1094 Aによる一連の行為を知らぬまま、
1095 本件事務所の所在地を住所とする
1096 「株式会社Mテック」を被告として表示し、
1097 請求の原因として、
1098 原告は、
1099 被告との間で、
1100 令和2年
1101 4月10日に本件事務所につき賃貸借契約を締結した、
1102 原告は、
1103 同日、
1104 本件事務所を被告に引き渡
1105 した、
1106 原告は、
1107 被告が令和3年1月分以降の賃料を支払わないため、
1108 催告の上同契約を解除した(以
1109 下省略)旨を記載した訴状を作成し、
1110 賃貸借契約の終了に基づき、
1111 本件事務所の明渡しを求める訴え
1112 を提起した(以下、
1113 この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。
1114
1115 )。
1116
1117 なお、
1118 訴状には、
1119 同年4月
1120 16日に発行された乙の代表者事項証明書が附属書類として添付されていた。
1121
1122 代表者事項証明書には、
1123
1124 会社の商号、
1125 本店所在地、
1126 法人番号、
1127 代表者の資格、
1128 氏名及び住所の記載はあるが、
1129 会社の設立年月
1130 日については記載がないため、
1131 Xは、
1132 乙を甲と誤認していた。
1133
1134
1135 4.第1回口頭弁論期日の呼出状を受領したAは、
1136 Xの請求を棄却するとの判決を求める旨を記載した
1137 答弁書を提出したものの、
1138 同期日には出頭しなかった。
1139
1140 なお、
1141 答弁書には、
1142 請求の原因に対する認否
1143 につき、
1144 「追って認否する。
1145
1146 」とのみ記載されていた。
1147
1148
1149 5.第2回口頭弁論期日に出頭したAは、
1150 請求原因事実、
1151 及びを認める旨の陳述をした。
1152
1153 その際、
1154
1155 Aは、
1156 同年4月2日付けで行われた甲の商号変更及び新会社乙の設立については一切明らかにしなか
1157 った。
1158
1159 裁判所は、
1160 以上の経過を踏まえて口頭弁論を終結し、
1161 判決の言渡期日を指定した。
1162
1163
1164 6.ところが、
1165 Aは、
1166 判決の言渡期日の直前に、
1167 本件訴訟に係る訴えの提起時において「株式会社M
1168 テック」は乙の商号であるから被告は乙である、
1169 乙はXとの間で本件賃貸借契約を締結していない、
1170
1171 第2回口頭弁論期日におけるXの主張を認める旨の陳述は事実に反するからこれを撤回する、
1172
1173 告たる乙はXに対していかなる債務も負わないからXの請求は棄却されるべきである、
1174 として口頭弁
1175
1176 - 2 -
1177
1178 論の再開を申し立てた。
1179
1180 再開された第3回口頭弁論期日において、
1181 Aは、
1182 上記と同旨の主張をし、
1183
1184 の証拠として、
1185 乙の全部事項証明書を提出した。
1186
1187 全部事項証明書には、
1188 乙の設立年月日が記載されて
1189 いる。
1190
1191 裁判所は、
1192 Xに対し、
1193 対応について検討するように指示し、
1194 次回期日を指定した。
1195
1196
1197 以下は、
1198 裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
1199
1200
1201 J:本件訴訟の被告に疑義が生じていますから、
1202 裁判所としては被告を確定しなければなりません。
1203
1204
1205 当事者の確定の基準については様々な見解がありますが、
1206 ここでは、
1207 本件訴訟の被告が甲となる
1208 ような見解、
1209 乙となるような見解をそれぞれ一つ取り上げ、
1210 これらの見解に従って、
1211 被告を甲又
1212 は乙と確定することができることをそれぞれ論じてもらえますか。
1213
1214 これを「課題1」とします。
1215
1216
1217 P:承知しました。
1218
1219
1220 J:次に、
1221 仮に被告を乙と確定した場合について、
1222 裁判所は、
1223 第2回口頭弁論期日における乙の代
1224 表者としてのAの陳述につき、
1225 自白が成立していると取り扱うべきか、
1226 仮に自白が成立している
1227 とすると、
1228 再開後の第3回口頭弁論期日における自白の撤回をどのように取り扱うべきかを検討
1229 してください。
1230
1231 これを「課題2」とします。
1232
1233 なお、
1234 最高裁判所昭和48年10月26日第二小法
1235 廷判決・民集27巻9号1240頁(以下「最判昭和48年」という。
1236
1237 )は、
1238 新旧会社が実質的
1239 に同一という事案において、
1240 新会社が旧会社と別人格であることを信義則によって実体法上否定
1241 し、
1242 新会社は旧会社の責任を負うべきものとしましたが、
1243 課題1及び課題2について最判昭和4
1244 8年を考慮する必要はありません。
1245
1246
1247 〔設問1〕
1248 あなたが司法修習生Pであるとして、
1249 Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
1250
1251
1252 【事
1253
1254 例(続き)】
1255
1256 7.第3回口頭弁論期日後、
1257 本人訴訟を続けることに不安を覚えたXは、
1258 相談のため弁護士Lの事務所
1259 を訪問した。
1260
1261 Lは、
1262 事件の経過を一通り確認し、
1263 本件訴訟の被告が甲と確定される可能性は必ずしも
1264 高くはないとの見方を示した。
1265
1266 Xは、
1267 Lの指摘を踏まえ、
1268 甲に対する給付判決を得て、
1269 本件事務所の
1270 明渡しを実現したい旨をLに伝え、
1271 対処法の検討を依頼した。
1272
1273
1274 以下は、
1275 弁護士Lと司法修習生Qとの間の会話である。
1276
1277
1278 L:Xは、
1279 甲に対する給付判決を得たいとのことですが、
1280 本件訴訟の被告が乙と確定されることを
1281 前提とした場合に、
1282 Xにとって便宜な手段はありますか。
1283
1284
1285 Q:甲を被告に追加する主観的追加的併合を申し立てることが考えられます。
1286
1287 もっとも、
1288 最高裁判
1289 所昭和62年7月17日第三小法廷判決・民集41巻5号1402頁(以下「最判昭和62年」
1290 という。
1291
1292 )は、
1293 この場合につき、
1294 仮に新旧両訴訟の目的たる権利又は義務につき現行の民事訴訟
1295 法(以下「法」という。
1296
1297 )第38条所定の共同訴訟の要件が具備する場合であっても、
1298 新訴が法
1299 第152条1項の適用をまたずに当然に旧訴訟に併合されるとの効果を認めることはできない旨
1300 判示しました。
1301
1302 最判昭和62年によれば、
1303 甲に対して別訴を提起し、
1304 裁判所の裁量により弁論が
1305 併合されるのを待つしかないと思います。
1306
1307
1308 L:基本はそのとおりですが、
1309 本件訴訟においてXが被告の追加を求めるに至った原因が、
1310 甲が被
1311 告にならないように乙を設立して甲の旧商号を乙に使用させたAの一連の行為にあるとしますと、
1312
1313 Xには主観的追加的併合を求めるだけの理由があると思います。
1314
1315 それでも最判昭和62年と同様
1316 に考えるべきでしょうか。
1317
1318
1319 Q:最判昭和62年が主観的追加的併合を認めた場合の問題として指摘したのは、
1320 主として次の4
1321 点に整理できると思います。
1322
1323 第1に、
1324 新たな当事者に対する別訴(新訴)に対し、
1325 係属中の訴訟
1326
1327 - 3 -
1328
1329 (旧訴訟)の訴訟状態を当然に利用できるとは限らないので、
1330 訴訟経済に資するとはいえないこ
1331 と、
1332 第2に、
1333 全体として訴訟を複雑化させる弊害が予測されること、
1334 第3に、
1335 訴訟の途中で被告
1336 の間違いや被告の脱漏が判明しても、
1337 原告は被告を追加できるため、
1338 軽率な提訴等が誘発される
1339 おそれがあること、
1340 第4に、
1341 新訴の提起の時期いかんによっては訴訟の遅延を招きやすいことで
1342 す。
1343
1344
1345 L:そうですね。
1346
1347 では、
1348 これらの4点を踏まえ、
1349 甲を被告に追加するXの申立てが認められるよう
1350 に立論してもらえますか。
1351
1352 これを「課題」とします。
1353
1354
1355 〔設問2〕
1356 あなたが司法修習生Qであるとして、
1357 Lから与えられた課題について答えなさい。
1358
1359
1360 【事
1361
1362 例(続き)】
1363
1364 8.本件訴訟の被告は乙と確定された。
1365
1366 そこで、
1367 Xから訴訟委任を受けたLは、
1368 甲を被告として、
1369 本件
1370 賃貸借契約の終了に基づき、
1371 本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した。
1372
1373 第1回口頭弁論期日に出
1374 頭したBは、
1375 令和3年1月15日、
1376 甲はXとの間で賃料の支払猶予につき協議し、
1377 支払が遅れた賃料
1378 及びその後2か月分の賃料の支払を猶予する旨の合意(以下「本件合意」という。
1379
1380 )が成立したため、
1381
1382 Xは本件賃貸借契約を解除することはできないと主張し、
1383 「賃料支払猶予合意書」と題する電子ファ
1384 イル(以下「本件合意書」という。
1385
1386 )を保存したUSBメモリを証拠として申し出た。
1387
1388 Bの説明によ
1389 れば、
1390 本件合意書は、
1391 Aがコンピュータで賃貸人記名欄を未入力にした原案を作成し、
1392 Xに対し電子
1393 メールで送信し、
1394 Xが内容を確認した上で賃貸人記名欄に氏名及び住所を入力して完成させた後、
1395
1396 SBメモリに保存し、
1397 Aに渡されたものとのことである。
1398
1399 これに対し、
1400 Lと共に出頭したXは、
1401 本件
1402 合意の成立を否認し、
1403 本件合意書は知らないと反論した。
1404
1405
1406 以下は、
1407 裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
1408
1409
1410 J:Bが証拠として申し出たUSBメモリは、
1411 情報を電磁的に記録する媒体であり、
1412 情報の読み出
1413 しにはコンピュータやプリンター等の出力機器が不可欠ですから、
1414 新種証拠と呼ばれます。
1415
1416 Xが
1417 本件合意の成立を否認している以上、
1418 USBメモリを取り調べる必要があります。
1419
1420 新種証拠の証
1421 拠調べの方法をめぐっては、
1422 見解の対立がありますが、
1423 電磁的記録媒体のうち録音テープ及びビ
1424 デオテープについては法第231条により立法的に解決されました。
1425
1426 これに対し、
1427 USBメモリ
1428 のようなコンピュータ用の記録媒体は、
1429 同条に挙がっていないため解釈が必要です。
1430
1431 良い機会で
1432 すから、
1433 この種の記録媒体の取り調べは書証によるべきであるとの見解に立って、
1434 同条をUSB
1435 メモリに適用することができることを論証してもらえますか。
1436
1437
1438 P:USBメモリは、
1439 法第231条の「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」に該
1440 当し、
1441 同条を適用することができる理由を明らかにせよということですね。
1442
1443
1444 J:そのとおりです。
1445
1446 ただし、
1447 論証する際には、
1448 まず「文書」を定義して、
1449 USBメモリが「文書
1450 でないもの」に当たることを論証してください。
1451
1452 その上で、
1453 USBメモリを録音テープ等と同様
1454 に取り調べることが許容される理由を明らかにしてください。
1455
1456 以上を「課題」とします。
1457
1458
1459 〔設問3〕
1460 あなたが司法修習生Pであるとして、
1461 Jから与えられた課題について答えなさい。
1462
1463
1464
1465 - 4 -
1466
1467