1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、
8 後記〔設問1〕及び〔設問2〕について、
9 答えなさ
10 い。
11
12
13 【事例1】
14 1
15
16 Aは、
17 某月1日、
18 立ち寄ったホームセンターの駐車場において、
19 エンジンキーが付いたままの
20 状態で駐車されていたB所有の普通自動二輪車(以下「本件バイク」という。
21
22 )を発見し、
23 これ
24 を自由に乗り回したいと考え、
25 Bに無断で本件バイクを発進させて走り去った。
26
27
28
29 2
30
31 Aは、
32 本件バイクに偽造ナンバープレートを装着しようと思い、
33 これを手に入れるまでの間、
34
35 本件バイクを人目に付かない場所に隠しておこうと考えた。
36
37
38 そこで、
39 Aは、
40 友人甲の自宅にシャッター付きのガレージがあることを思い出し、
41 当分の間、
42
43 甲に頼んで同ガレージに本件バイクを保管させようと考えた。
44
45 Aは、
46 同日、
47 本件バイクを運転し
48 て甲宅に行き、
49 甲に「これは俺のバイクなんだが、
50 今まで使っていた駐車場が使えなくなってし
51 まったので、
52 しばらく預かってくれないか。
53
54 」と頼んだところ、
55 甲はこれを承諾し、
56 本件バイク
57 を上記ガレージに入れた。
58
59
60
61 3
62
63 甲は、
64 本件バイクの保管を続けていたが、
65 同月5日夜、
66 Aと電話で話をした際、
67 ささいなこと
68 から激しい口論となった。
69
70 甲は、
71 Aと仲違いしたまま電話を切ったが、
72 怒りが収まらなかったこ
73 とから、
74 Aを困らせるため、
75 Aに無断で本件バイクを別の場所に移動させて隠そうと考えた。
76
77
78 甲は、
79 自宅から約5キロメートル離れた場所にある甲の実家の物置内に本件バイクを移動させ
80 ればAに見付からないだろうと考え、
81 同月6日未明、
82 自己が所有する軽トラックの荷台に本件バ
83 イクを積み込むと、
84 同トラックを運転して実家まで行き、
85 同物置内に本件バイクを隠して帰宅し
86 た。
87
88 なお、
89 甲は、
90 怒りにまかせて本件バイクを上記物置内に移動させて隠したが、
91 本件バイクを
92 その後どうするかは考えていなかった。
93
94
95
96 〔設問1〕
97
98 【事例1】の甲に横領罪(刑法第252条第1項)の成立を認める立場から後記及
99
100 びの各主張がなされたとする。
101
102 各主張の当否について、
103 それぞれ簡潔に論じなさい。
104
105
106
107
108 甲は、
109 Aに頼まれて本件バイクを保管している以上、
110 これを「横領」(同項)すれば横領罪が
111 成立する。
112
113
114
115
116
117 甲が実家の物置内に本件バイクを移動させて隠した行為は、
118 「横領した」(同項)に当たる。
119
120
121
122 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、
123 以下の事実があったものとする。
124
125 )
126 4
127
128 Aは、
129 偽造ナンバープレートを手に入れたことから、
130 本件バイクを回収しようと考え、
131 同月1
132 0日午後8時頃、
133 甲に電話を掛け、
134 「今日これからバイクを取りに行く。
135
136 」と言った。
137
138 これに対
139 し、
140 甲は、
141 笑いながら、
142 「あのバイクはここにはないよ。
143
144 ざまあみろ。
145
146 俺を怒らせたお前が悪い
147 んだぞ。
148
149 」と言った。
150
151 Aは、
152 甲の発言を聞いて激怒し、
153 甲に殴る蹴るなどの制裁を加えようと考
154 え、
155 強い口調で甲に、
156 「いい度胸をしているじゃないか。
157
158 8時半にC公園に来い。
159
160 覚悟しておけ
161 よ。
162
163 」と言った。
164
165 これに対し、
166 甲も、
167 「おう、
168 行ってやるよ。
169
170 」と怒鳴って電話を切った。
171
172
173 甲は、
174 高校時代にAと同じ不良グループに所属しており、
175 Aが短気で粗暴な性格で、
176 過去にも
177 怒りにまかせて他人に暴力を振るったことが数回あったことを知っていたため、
178 Aの前に姿を現
179 せば、
180 Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと思ったが、
181 甲も頭に
182 血が上っていたことから、
183 自宅にあった包丁(刃体の長さ15センチメートル。
184
185 以下「本件包丁」
186 という。
187
188 )をズボンのベルトに差して準備した上で、
189 C公園に出向き、
190 Aを待ち構えていた。
191
192
193 Aは、
194 同日午後8時30分頃、
195 C公園に到着し、
196 甲の姿を見るなり、
197 「お前、
198 ふざけんなよ。
199
200
201
202 - 2 -
203
204 ボコボコにしてやるからな。
205
206 」と怒鳴り声を上げた。
207
208 これに対し、
209 甲は、
210 「できるものならやっ
211 てみろ。
212
213 この野郎。
214
215 」と大声で言い返した。
216
217
218 5
219
220 Aは、
221 甲の態度に逆上し、
222 甲に至近距離まで接近すると、
223 右手の拳を突き出して甲の顔面を殴
224 打しようとした。
225
226 甲は、
227 Aの拳をかわしながら、
228 本件包丁をベルトから抜いて、
229 Aに向けて突き
230 出した。
231
232 Aは、
233 これをかわし、
234 ひるむことなく更に甲の顔面を殴打しようと拳を振り上げた。
235
236
237
238 6
239
240 ちょうどその頃、
241 甲の勤務先の後輩乙は、
242 偶然にC公園に来て、
243 前記5のとおり、
244 Aが甲を殴
245 打しようとしているのを目撃し、
246 とっさに甲を助けようと考えた。
247
248
249 乙は、
250 護身用に携帯していたサバイバルナイフ(刃体の長さ18センチメートル。
251
252 以下「本件
253 ナイフ」という。
254
255 )を取り出して、
256 直ちにAの背後に回り、
257 同日午後8時31分頃、
258 何の警告も
259 せずにAの右上腕部を狙って本件ナイフを同部に強く突き刺し、
260 Aに加療約3週間を要する右上
261 腕部刺創の傷害を負わせた。
262
263
264 このとき、
265 乙は、
266 前記1から4までの各事実を知らず、
267 また、
268 甲が本件包丁を持っていること
269 も認識しておらず、
270 Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思い込んでいた。
271
272
273
274 7
275
276 Aは、
277 すぐに後方を振り向き、
278 乙に刺されたことを認識した。
279
280 Aは、
281 「誰だ、
282 お前。
283
284 何をしや
285 がる。
286
287 」と怒鳴りながら、
288 乙を蹴り付け、
289 ひるんだ乙は本件ナイフをその場に落とした。
290
291 乙は、
292
293 Aから更に殴る蹴るなどの暴力を振るわれてしまうと思って怖くなり、
294 走って逃げ出した。
295
296 これ
297 を見たAは、
298 乙を捕まえて痛め付けようと考え、
299 「待て。
300
301 この野郎。
302
303 」と叫びながら、
304 走って乙
305 を追い掛けた。
306
307
308 乙は、
309 逃げながらAが背後から追跡してきているのを見て、
310 このままではすぐに追い付かれて
311 暴力を振るわれてしまうと思っていたところ、
312 進路前方の道路脇に、
313 飲食物の宅配業務に従事し
314 ていたDがエンジンを掛けたままで一時的に停めていたD所有の原動機付自転車(以下「本件原
315 付」という。
316
317 )を見付けた。
318
319 このとき、
320 Dは、
321 配達のために付近のマンション内に立ち入ってい
322 たことからその場にいなかった。
323
324
325 Aは乙よりも足が速く、
326 乙がAの追跡を振り切るためには、
327 本件原付を運転して逃げることが
328 唯一採り得る手段であったところ、
329 乙は、
330 本件原付を使ってAの追跡を振り切り、
331 安全な場所ま
332 で移動したら本件原付をその場に放置して立ち去ろうと考えた。
333
334 乙は、
335 同日午後8時33分頃、
336
337 Dに無断で本件原付を発進させ、
338 Aの追跡を振り切った。
339
340
341
342 8
343
344 甲、
345 乙及びAは、
346 いずれも20歳代の男性であり、
347 各人の体格に大差はなかった。
348
349
350
351 〔設問2〕
352
353 【事例2】における乙の罪責について、
354 論じなさい(特別法違反の点は除く。
355
356 )。
357
358
359
360 - 3 -
361
362 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
363
364 - 1 -
365
366 [刑事系科目]
367 〔第2問〕(配点:100)
368 次の各【事例】を読んで、
369 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
370
371
372 【事例1】
373 1
374
375 H県警察I警察署の司法警察員らは、
376 過去の大麻事件の捜査過程から大掛かりな大麻密売の
377 疑いのある者として氏名不詳者(以下「甲」という。
378
379 )の存在を把握した。
380
381 甲は、
382 契約名義の
383 異なる携帯電話を順次使用しており、
384 身元や所在地は関係者の供述からも不明であった。
385
386
387
388 2
389
390 ところが、
391 令和3年11月2日、
392 I警察署の司法警察員Pは、
393 大麻所持の罪で1年間服役し
394 た後出所した暴力団X組の組員Aから、
395 「以前は話せなかったが、
396 私が逮捕された際に所持し
397 ていた大麻は、
398 甲から入手したものである。
399
400 当時、
401 甲は大麻を栽培し、
402 紹介を受けた者に対し
403 て密売していた。
404
405 先日、
406 甲から出所祝いの電話があった。
407
408 また私に大麻を売ろうとしているの
409 ではないかと思った。
410
411 私は暴力団や大麻とは縁を切りたいので、
412 情報を提供して警察に協力す
413 ることにした。
414
415 」旨言われた。
416
417
418 Pらは、
419 甲がAにかけてきた電話番号の契約名義人を捜査したが、
420 実在しないことが判明し
421 た。
422
423 そこで、
424 Pらは、
425 Aを介してPを大麻の買い手として甲に紹介させた上、
426 まずは少量の大
427 麻をサンプルとして持参させて、
428 甲との信頼関係を構築するとともに、
429 甲に大麻密売の意思が
430 あることを確認することとした。
431
432 そして、
433 その際には甲を逮捕せず、
434 その後甲が多量の大麻を
435 持参したときに現行犯人として逮捕し、
436 甲による大掛かりな大麻密売の全容解明につなげるこ
437 ととした。
438
439
440
441 3
442
443 同月20日、
444 Aは、
445 Pの依頼を受けて甲に電話をし、
446 甲が今でも大麻を密売していることを
447 確認した上で、
448 大麻の買い手としてPを紹介し、
449 Pから聞いた電話番号を甲に伝えるとともに、
450
451 甲の使用する携帯電話の番号をPに伝えることの承諾を得た。
452
453 同日、
454 Aから連絡を受けたPは、
455
456 甲に電話をかけ、
457 「大麻を5キロ欲しいが、
458 まずは100グラムをサンプルとして手に入れて、
459
460 その質を確認したい。
461
462 」旨述べた。
463
464 これに対し、
465 甲は、
466 「Aの紹介でもあるし、
467 サンプルの件
468 は分かった。
469
470 しかし、
471 安全に取引できる場所があるのか不安なので、
472 気が進まない。
473
474 この間、
475
476 知り合いの密売人も捕まった。
477
478 」旨述べた。
479
480 そこで、
481 Pは、
482 甲に対し、
483 「K県J市内に私がオ
484 ーナーを務める宿泊施設がある。
485
486 そこなら安全だ。
487
488 」旨述べたところ、
489 甲は、
490 これに応じたが、
491
492 「危険を感じたら行かない。
493
494 」旨述べた。
495
496 その後、
497 Pは、
498 K県J市内にある宿泊施設を手配し
499 た。
500
501
502
503 4
504
505 同月23日、
506 Pは、
507 前記施設の一室でAを伴って甲と会い、
508 甲から、
509 乾燥大麻100グラム
510 を譲り受けた。
511
512 そして、
513 2日後に同じ場所で残りの大麻と代金の授受を行うことになった。
514
515 そ
516 の場で、
517 甲からは「10キロ程度なら扱うこともある。
518
519 」旨の話が出ていた。
520
521 Pが甲と別れた
522 後、
523 I警察署の司法警察員らは甲を尾行したが、
524 途中で見失った。
525
526
527
528 5
529
530 同月24日、
531 甲からPに電話があり、
532 「明日の取引は取りやめたい。
533
534 」旨告げてきた。
535
536 Pが
537 繰り返しその理由を尋ねると、
538 甲は、
539 「密売人の摘発が続いているようで、
540 嫌な予感がする。
541
542 」
543 旨述べた。
544
545 これに対し、
546 Pは、
547 「自分は長年X組と交遊があり、
548 X組との取引も続けてきたの
549 で不安に感じる必要はない。
550
551 サンプルの質が良かったので、
552 約束した代金の1.5倍の代金を
553 払う。
554
555 」旨述べた。
556
557 それでも甲が渋る態度を示したことから、
558 Pは、
559 「この前、
560 10キロ程度
561 の大麻なら扱うこともあると言っていたが、
562 同じ単価で10キロをまとめて買ってもよい。
563
564 現
565 金はすぐに用意できるので心配ない。
566
567 取引の場で先に金を見せてもよい。
568
569 」旨述べ、
570 具体的な
571 金額を提示した。
572
573
574 すると、
575 甲は、
576 また連絡すると言って電話を切った。
577
578 Pは、
579 直ちにAに電話をかけ、
580 甲との
581 やり取りを伝え、
582 甲から電話があった際の対応について指示した。
583
584 その後、
585 甲がAに電話をか
586 け、
587 X組とPとの関係を尋ねたのに対し、
588 Aは、
589 Pの指示に従い、
590 Pは古くからX組と交遊し、
591
592
593 - 2 -
594
595 取引もある信用できる人物である旨告げた。
596
597 これを聞いた甲は、
598 Pに再び電話をして、
599 「よく
600 分かった。
601
602 大麻を10キロ売ることにするが、
603 必ず先に金を見せてほしい。
604
605 」旨述べた。
606
607
608 6
609
610 同月25日、
611 Pは、
612 前記施設の一室で甲に対し、
613 見せ金として用意していた現金を見せた。
614
615
616 すると、
617 甲は、
618 一旦退室した後、
619 大型トランクに入れた10キログラムの乾燥大麻を持って部
620 屋に戻ってきた。
621
622 そこで、
623 Pは、
624 隣室で待機していた同署の司法警察員らと共に、
625 その場で甲
626 を大麻の営利目的所持の現行犯人として逮捕し、
627 逮捕に伴い前記乾燥大麻を差し押さえた。
628
629
630
631 〔設問1〕
632 【事例1】記載のおとり捜査の適法性について、
633 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
634
635
636 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、
637 以下の事実があったものとする。
638
639 )
640 7
641
642 甲を逮捕した翌日の令和3年11月26日、
643 H県I市内の家屋(以下「本件家屋」という。
644
645 )
646 が柱や床を残して全焼した。
647
648 捜査の結果、
649 甲がB所有の空き家である本件家屋を大麻栽培拠点
650 としており、
651 それが放火された疑いが濃厚となった。
652
653 そして、
654 その実行犯として乙が浮上し、
655
656 I警察署の司法警察員らは、
657 同年12月2日、
658 乙を非現住建造物等放火事件の被疑者として同
659 署に任意同行した。
660
661
662 乙は、
663 同日、
664 取調べにおいて、
665 本件家屋1階12畳間の全面に灯油を散布した上、
666 点火した
667 石油ストーブを蹴り倒して着火させ、
668 本件家屋に放火したこと、
669 その際、
670 本件家屋内には自分
671 しかいなかったことを供述し、
672 その旨録取した供述調書1通が作成され、
673 同日中に通常逮捕さ
674 れた。
675
676 その後、
677 乙は、
678 黙秘に転じた。
679
680
681 本件家屋について実施された検証等の捜査の結果、
682 本件家屋1階12畳間の床下から焼け落
683 ちた床部分と石油ストーブが発見されるとともに、
684 焼け残った同室の床部分から広範囲にわた
685 り灯油が検出され、
686 また、
687 同ストーブには転倒時の自動消火装置がなく、
688 乙が供述していた方
689 法で灯油に着火できることが判明した。
690
691
692 検察官は、
693 同月23日、
694 乙を本件家屋に対する非現住建造物等放火の罪で起訴した(公訴事
695 実は【資料1】のとおり。
696
697 )。
698
699
700
701 8
702
703 乙は、
704 第1回公判期日の冒頭手続において、
705 「放火はしていない。
706
707 その日、
708 部屋にいて、
709 煙
710 臭いと感じ、
711 石油ストーブを見ると、
712 傍らの乾燥大麻が燃えていた。
713
714 布をかぶせても火が消え
715 なかったので、
716 そのまま逃走した。
717
718 灯油をまいてもいない。
719
720 」旨弁解し、
721 弁護人も同旨の主張
722 をした。
723
724
725 公判において、
726 火災科学の専門家の証人尋問が実施され、
727 検察官及び弁護人の尋問を通じて、
728
729 「焼け残った床面の広い範囲から灯油が検出されたことからすると、
730 人為的に灯油がまかれた
731 と考えるのが自然である。
732
733 」「今回の火災については、
734 被告人が捜査段階で話していたように、
735
736 室内に灯油を散布した上で、
737 点火した石油ストーブを倒して灯油に着火させたと考えて矛盾は
738 ない。
739
740 」旨証言した。
741
742 これに対し、
743 裁判所が、
744 補充尋問において、
745 石油ストーブを倒す方法以
746 外での着火の可能性について質問すると、
747 同証人は、
748 「例えば、
749 可燃物に火をつけて散布され
750 た灯油に着火させることも可能と考えられる。
751
752 」旨証言した。
753
754 同証人尋問の終了後、
755 裁判所は、
756
757 検察官及び弁護人に対し、
758 放火の態様に関して追加の主張、
759 立証の予定があるかを確認したが、
760
761 いずれもその予定はない旨回答した。
762
763
764 裁判所は、
765 証拠調べが終わった時点で、
766 乙が室内に灯油を散布し、
767 その灯油に何らかの方法
768 により着火させたことは認定できるが、
769 乙が石油ストーブを倒して着火させたとまでは認定で
770 きないとの心証を得た。
771
772 その後、
773 論告、
774 弁論においても、
775 検察官及び弁護人は当初の主張を維
776 持し、
777 被告人も従前と同旨の陳述をして、
778 裁判所は結審した。
779
780
781
782 - 3 -
783
784 〔設問2〕
785 1
786
787 裁判所が、
788 前記の心証に至った理由を説示した上で、
789 【資料1】の公訴事実に対して【資料
790 2】の罪となるべき事実を認定し、
791 判決をすることが許されるかについて論じなさい。
792
793
794 なお、
795 罪となるべき事実の記載が判示として十分かについて論じる必要はない。
796
797
798
799 2
800
801 【事例2】につき、
802 仮に、
803 乙が捜査段階において、
804 「令和3年11月1日に、
805 本件家屋内で、
806
807 甲が逮捕されたときには同家屋に放火するように甲から指示されていたので、
808 その指示に従っ
809 て同家屋の室内に灯油をまいた上、
810 点火した石油ストーブを蹴り倒して放火した。
811
812 」旨述べ、
813
814 これを踏まえ、
815 検察官が甲を本件家屋に対する非現住建造物等放火の罪で起訴したとする(公
816 訴事実は【資料3】のとおり。
817
818 )。
819
820
821 甲は、
822 捜査段階から一貫して乙との共謀を否認し、
823 弁護人も、
824 第1回公判期日の冒頭手続に
825 おいて同旨の主張をした。
826
827 検察官は、
828 裁判長からの求釈明に応じて、
829 冒頭陳述で、
830 共謀が成立
831 した日にちを令和3年11月1日、
832 共謀が成立した場所を本件家屋内であるとそれぞれ明らか
833 にした。
834
835 これに対し、
836 弁護人は、
837 冒頭陳述で、
838 「検察官が乙との共謀が成立したと主張する日
839 は、
840 甲は、
841 一日中、
842 K県L市内にある自宅にいて、
843 本件家屋には行っていない。
844
845 」旨述べてア
846 リバイを主張した。
847
848 証人尋問において、
849 乙は、
850 「同月1日、
851 甲から放火の指示を受けた。
852
853 」旨
854 証言し、
855 これに対し、
856 弁護人は、
857 その証言の信用性を弾劾する反対尋問をした。
858
859 裁判所も、
860 ア
861 リバイの主張を念頭に、
862 その日の甲及び乙の行動について補充尋問をした。
863
864 甲は、
865 被告人質問
866 においても同日のアリバイを述べ、
867 検察官及び裁判所も、
868 同日中の行動について甲に質問した。
869
870
871 裁判所は、
872 その後の証拠調べの結果をも踏まえ、
873 甲から乙に対して前記のような指示があっ
874 たことに疑いはないが、
875 その日にちについては、
876 同月1日ではなく同月2日であり、
877 乙はそれ
878 を取り違えて供述しているとの心証を得た。
879
880 その後、
881 論告、
882 弁論において、
883 検察官及び弁護人
884 は、
885 従前と同様の主張をし、
886 被告人も従前と同旨の陳述をして、
887 裁判所は結審した。
888
889
890 この場合、
891 裁判所が、
892 前記の心証に従い、
893 事実認定の理由として、
894 共謀が成立したのは同月
895 2日である旨説示した上で、
896 【資料3】のとおりの事実を罪となるべき事実として認定し、
897 判
898 決をすることが許されるかについて論じなさい。
899
900
901 なお、
902 罪となるべき事実の記載が判示として十分かについて論じる必要はない。
903
904
905
906 (参照条文)
907 第24条の2
908
909 大麻取締法
910 大麻を、
911 みだりに、
912 所持し、
913 譲り受け、
914 又は譲り渡した者は、
915 5年以下の懲役に
916
917 処する。
918
919
920 2
921
922 営利の目的で前項の罪を犯した者は、
923 7年以下の懲役に処し、
924 又は情状により7年以下の懲
925 役及び200万円以下の罰金に処する。
926
927
928
929 3
930
931 (略)
932
933 - 4 -
934
935 【資料1】公訴事実
936 被告人は、
937 令和3年11月26日午後2時頃、
938 H県I市〇町△丁目×番地所在の現に人が住居に
939 使用せず、
940 かつ、
941 現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、
942 床面積合計約98.
943 6平方メートル)内において、
944 同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、
945 点火した石油ストーブを倒
946 して火を放ち、
947 その火を同家屋の壁、
948 天井等に燃え移らせ、
949 よって、
950 同家屋を全焼させて焼損した
951 ものである。
952
953
954 【資料2】罪となるべき事実
955 被告人は、
956 令和3年11月26日午後2時頃、
957 H県I市〇町△丁目×番地所在の現に人が住居に
958 使用せず、
959 かつ、
960 現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、
961 床面積合計約98.
962 6平方メートル)内において、
963 同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、
964 何らかの方法で火を放ち、
965
966 その火を同家屋の壁、
967 天井等に燃え移らせ、
968 よって、
969 同家屋を全焼させて焼損したものである。
970
971
972 【資料3】公訴事実
973 被告人は、
974 乙と共謀の上、
975 令和3年11月26日午後2時頃、
976 H県I市〇町△丁目×番地所在の
977 現に人が住居に使用せず、
978 かつ、
979 現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、
980 床
981 面積合計約98.6平方メートル)内において、
982 同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、
983 点火した
984 石油ストーブを倒して火を放ち、
985 その火を同家屋の壁、
986 天井等に燃え移らせ、
987 よって、
988 同家屋を全
989 焼させて焼損したものである。
990
991
992
993 - 5 -
994
995