1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 1.本問は、
4 大学の自治と学問の自由との関係、
5 学問の自由の射程とその制約の可否について、
6
7 問うものである。
8
9 学問の自由については、
10 学問研究の自由、
11 研究発表の自由、
12 教授の自由が
13 含まれることについても、
14 留意する必要がある。
15
16
17 決定@については、
18 大学が進める研究方針に基づく研究助成の趣旨に合致しないことを理
19 由とした、
20 学問研究の自由の制約が問題となる。
21
22 決定Aについては、
23 大学の成績評価として
24 著しく妥当性を欠くことを理由とした、
25 教授の自由の制約が問題となる。
26
27 決定@、
28 決定Aの
29 双方について、
30 大学が研究・教育の内容や方法に関し大学の自治に基づきどこまで自律的に
31 決定できるのか、
32 学問研究と関連する社会的活動にどこまで学問の自由の保障が及ぶのか、
33
34 特定の見解(観点)に基づく差別的取扱いがなされていないかなどの論点に留意しつつ、
35
36 論を組み立てる必要がある。
37
38
39 2.設問1では、
40 X大学の側から、
41 決定@、
42 決定Aが正当であることを基礎付ける憲法上の主
43 張を検討することになる。
44
45 大学が研究・教育の内容や方法に関し広い裁量権を有していると
46 主張するだけでなく、
47 X大学が大学の自治の主体となり得ることを踏まえ、
48 そうした裁量権
49 を憲法から基礎付けることが求められる。
50
51
52 判例(東大ポポロ事件、
53 最判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁)は、
54 大学の
55 学問の自由と自治は、
56 大学が学術の中心として深く真理を探求し、
57 専門の学芸を教授研究す
58 ることを本質とすることに基づくから、
59 直接には教授その他の研究者の研究、
60 その結果の発
61 表、
62 研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味する、
63 と指摘している。
64
65
66 判例は、
67 大学の自治の内容として、
68 研究者の人事、
69 大学の施設・学生の管理を挙げているが、
70
71 判旨を踏まえれば、
72 さらに、
73 大学が、
74 個々の教員の研究・教育の自由に配慮しつつも、
75 大学
76 としてどのような研究に重点を置くかを決定したり、
77 講義や成績評価が適切な範囲でなされ
78 ているかを判断したりするなど、
79 研究・教育の内容や方法について自律的に決定することも、
80
81 大学の自治の内容を構成すると論じることは十分に可能であろう。
82
83
84 3.決定@をめぐっては、
85 Yが、
86 A研究所からの研究助成金を用いて研究所のサーバー上に開
87 設しているウェブサイトに、
88 YやYが主宰する団体Cの政治的な性格を持った活動の様子を
89 記録した動画を掲載していること、
90 また、
91 研究助成金を用いた調査のための出張に際し政治
92 的な内容を含む講演を行ったことの評価が、
93 問題となる。
94
95
96 X大学の側からは、
97 まずは、
98 (a)Yによるこうした活動は、
99 学問の自由として保障される
100 学問研究や成果発表の範囲を超えた社会的活動であって学問の自由の保障を受けない、
101 とい
102 った主張をすることが考えられる。
103
104 さらに、
105 (b)これらが学問研究や成果発表と関連し学問
106 の自由の保障を受けるとみる余地があるとしても、
107 地域経済の振興に資する研究活動を支援
108 するという研究助成金の趣旨に適合せず、
109 また、
110 (c)Yは他の研究資金を得るなどして研究
111 活動を継続することも可能であるから、
112 研究活動に対する制約も軽微であるなどと主張する
113 こともできよう。
114
115
116 決定Aをめぐっては、
117 Yが、
118 地域経済論の講義において、
119 ブックレットの執筆者である団
120 体Cの構成員をゲストとして招くとともに、
121 学生に対して団体Cに加入するよう勧誘したこ
122 と、
123 また、
124 期末試験において、
125 自身が主宰する団体Cに加入した学生にいずれも高い評価を
126 与える一方、
127 ブックレットの内容を批判した学生の多くに不合格の評価を行ったことが、
128
129 題となる。
130
131
132 X大学の側からは、
133 まずは、
134 (d)大学教員には教授の自由が保障されるが、
135 成績評価は教
136 員が全く自由になし得るわけではなく、
137 また教授の自由に基づき授業内容だけでなく成績評
138 価をめぐる裁量が認められるとしても、
139 大学は大学の自治に基づき教育の内容・方法を自律
140 的に決定することができ、
141 教授の自由も大学が定める教育目的や科目編成等の方針の範囲内
142
143 - 1 -
144
145 で行使されるべきものであるといった主張を行うことになろう。
146
147 その上で、
148 (e)Yによる成
149 績評価は、
150 政治的観点に強く影響されており、
151 学術的観点からなされるべき成績評価の範囲
152 を明らかに逸脱していること、
153 (f)地域経済論は必修科目であり、
154 以上のような不適切な成
155 績評価により不合格となった学生の不利益が極めて大きいこと、
156 などを主張することができ
157 よう。
158
159 なお本問では、
160 司法権の限界について論じる必要はないが、
161 この分野において、
162 単位
163 認定や専攻科修了認定について判断した判例(最判昭和52年3月15日民集31巻2号2
164 34頁、
165 最判昭和52年3月15日民集31巻2号280頁)の考え方は、
166 学生の不利益の
167 大きさを論じる上で参考になろう。
168
169
170 4.設問2では、
171 まずは、
172 Yの側からの憲法上の主張を検討することになる。
173
174 決定@をめぐっ
175 ては、
176 (ア)Yのような社会科学分野の研究者にとっては学問研究と研究成果に基づいた社
177 会的活動を切り離すことは困難である、
178 (イ)学問研究と切り離すことができない活動を記
179 録した動画を研究所のサーバー上のウェブサイトに掲載したこと、
180 調査のための出張に際し
181 交流のある団体の集会で講演を行ったことは、
182 いずれも研究の自由や成果発表の自由に含ま
183 れる、
184 (ウ)決定@は翌年度に予定されていた研究活動を困難にするもので、
185 研究活動の自
186 由に対する重大な侵害に当たる、
187 (エ)決定@は経営審議会での学外委員の発言を考慮して
188 なされたもので、
189 X県の産業政策を批判するという特定の見解に着目してYの研究を差別的
190 に取り扱うものである、
191 といった主張が考えらえる。
192
193
194 決定Aをめぐっては、
195 (オ)教授の自由は教育の内容・方法の決定及び成績評価の自由を
196 含み、
197 そうした自由の行使について大学では教員に広い裁量が認められる、
198 (カ)講義も成
199 績評価も研究成果に基づきなされている、
200 (キ)X県の産業政策を批判する見解に対する否
201 定的な立場から、
202 団体Cに加入した学生への高い評価やX県の政策をめぐるYの主張に批判
203 的な学生への低い評価を問題視し、
204 Yの教授の自由を制約するものである、
205 といった主張が
206 考えられる。
207
208
209 5.以上のようなYの主張を踏まえ、
210 設問1でのX大学の主張も考慮しつつ、
211 決定@、
212 決定A
213 について自説を展開することになる。
214
215
216 Yの主張のうち、
217 決定@に関わる(ア)(イ)については、
218 X大学側からの(a)(b)の主張
219 も踏まえつつ、
220 社会科学分野の研究者にとっては研究活動と社会的活動とを切り離すことが
221 難しい場合もあることを考慮して、
222 学問の自由の保障範囲を見定め、
223 その制約の当否を論じ
224 る必要がある。
225
226 決定Aに関わる(カ)についても、
227 X大学側からの(d)の主張を踏まえ、
228
229 様に論じる必要がある。
230
231
232 また、
233 決定@・決定Aの双方について、
234 X大学が大学の自治の主体であることにも意識し
235 つつ、
236 学問の自由の制約を論じなければならない。
237
238 県立大学であるX大学を公権力としての
239 み捉え、
240 公権力が精神的自由である学問の自由を侵害しているとして厳格な判断基準を導く
241 といっただけの形式的・図式的な議論では不十分であろう。
242
243 行政機関とは異なり、
244 大学が研
245 究・教育の内容や方法について自律的に決定し得ること、
246 本来は学問の自由の保障のために
247 認められる大学の自律性に基づく決定が、
248 個々の研究者の学問の自由と対立する側面がある
249 ことにも、
250 留意しなければならない。
251
252
253 決定@に関する(ウ)については、
254 学問の自由を論じる際には、
255 今日の社会では研究者は
256 学問の自由が保障された大学のような機関に所属しその支援を受けなければ研究の継続が難
257 しいという点にも留意してほしい。
258
259 その上で、
260 X大学側からの(c)の主張も踏まえつつ、
261
262 定@がYの研究にとってどの程度の制約となるのかを慎重に見極める必要があろう。
263
264
265 決定Aに関する(オ)については、
266 判例(旭川学テ事件、
267 最判昭和51年5月21日刑集
268 30巻5号615頁)が、
269 普通教育とは異なり、
270 大学教育の場合には、
271 学生が一応教授内容
272 を批判する能力を備えていると考えられると指摘していることが参考になろう。
273
274 Yが教育の
275 内容・方法の決定や成績評価について広い裁量を有していることを踏まえつつ、
276 X大学側の
277
278 - 2 -
279
280 (e)(f)の主張にも留意して、
281 学問の自由と社会活動の関係や学生の不利益にも配慮しながら、
282
283 決定Aの妥当性を検討することになろう。
284
285
286 (エ)(キ)については、
287 事案も踏まえつつ、
288 見解(観点)に基づく差別的な取扱いがな
289 かったかを検討することになる。
290
291 表現の自由をめぐる見解(観点)規制に準じて考えること
292 ができよう。
293
294 研究助成という仕組みにおいては大学の裁量が認められるとみることもできる
295 が、
296 これまで研究員全員に一律に研究助成金が配分されてきたことにも留意し、
297 決定@につ
298 いて検討する必要があろう。
299
300
301 〔第2問〕
302 林地を開発して一定規模以上の事業場を設置するためには、
303 森林法(以下「法」という。
304
305
306 第10条の2第1項に基づく都道府県知事の許可(以下「開発許可」という。
307
308
309 )が必要となる。
310
311
312 本問は、
313 A株式会社(以下「A」という。
314
315 )がB県C市に所在する自己所有地を中心とする区
316 域を事業の用に供するための大規模な開発行為(以下「本件開発行為」という。
317
318 )に関し、
319
320 発許可に係る申請前の段階から開発許可後の開発行為に関する工事の完了までの一連の行政
321 過程の中で、
322 C市や地域住民との間で生じる法的問題について検討するものである。
323
324
325 本問では、
326 Aの申請に係る開発行為の許否を決定する審査段階で行われた、
327 B県担当課長
328 とB県法務室長(弁護士)との【検討会議の会議録】を読んで、
329 地域住民や地権者が原告と
330 なって提起することが想定される取消訴訟の訴訟要件と本案の主張に関する法的問題のいく
331 つかについて同法務室長の立場から検討することが求められる。
332
333
334 まず、
335 【設問1】は、
336 Aの申請に係る開発許可の取消訴訟を第三者が提起する場合におけ
337 る原告適格の存否を問うものである。
338
339 本問では、
340 仮に、
341 B県知事がAの開発行為を許可した
342 後、
343 開発区域内外の土地所有者で立木所有者であるEと、
344 開発区域を水源とする沢(以下「本
345 件沢」という。
346
347 )に沿って本件開発区域外に居住する者で過去に溢水等による浸水被害を受け
348 たことがあり、
349 かつ、
350 本件沢から取水した水を飲料水や生活用水として使用するFの2名が
351 原告となって同許可の取消訴訟が提起されることを想定し、
352 最判平成13年3月13日民集
353 55巻2号283頁を参考にして、
354 同訴訟におけるE及びFの原告適格の存否を問うもので
355 ある。
356
357 行政事件訴訟法第9条に基づき、
358 法第10条の2等の規定を踏まえ、
359 E及びFのそれ
360 ぞれについて原告適格の存否を検討することが求められる。
361
362
363 次に、
364 【設問1】は、
365 Aの申請時点では開発区域内の土地所有者であるEは本件開発行為
366 に同意していなかったが、
367 仮にEが同意に転じ、
368 Fのみが前記許可の取消訴訟を提起した場
369 合を想定し、
370 同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了した後においても、
371 Fに訴
372 えの利益が認められるかを問うものである。
373
374 このような場合の訴えの利益はゴルフ場建設を
375 目的とした開発許可の事例に関する最判平成7年11月9日集民177号125頁によれば
376 否定されているが、
377 その理由が必ずしも明確ではない。
378
379 そこで本問では、
380 建築確認の取消訴
381 訟係属中に当該建築物の建築工事が完了した事例に関する最判昭和59年10月26日民集
382 38巻10号1169頁を参考にしつつ、
383 開発行為に関する工事の完了による開発許可の法
384 効果など、
385 法の仕組みを踏まえ、
386 Fの訴えの利益が否定される理由付けを明確化し、
387 検討す
388 ることが求められる。
389
390
391 最後に、
392 【設問2】は、
393 B県知事がAの申請に係る許可をし、
394 Fが同許可の取消訴訟を提起
395 した場合を想定して、
396 Fによる違法事由の主張とそれに対するB県の反論を問うものである。
397
398
399 開発行為の許否の判断に当たっては、
400 開発区域内の森林の現に有する水源かん養機能に依
401 存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないこと(法第10条の2第2
402 項第2号。
403
404 以下「水確保要件」という。
405
406 )のほか、
407 森林の保続培養及び森林生産力の増進に留
408 意する(同条第3項)旨の規定内容から、
409 公益を考慮しつつ、
410 専門技術的判断を基礎とする
411 都道府県知事の裁量権が認められる。
412
413 この点を踏まえ、
414 【検討会議の会議録】からすると、
415
416
417 - 3 -
418
419 許可の取消訴訟におけるFによる違法事由の主張とそれに対するB県の反論としては、
420 以下
421 の(i)〜(B)が考えられる。
422
423
424 まず、
425 (i)Fの主張する違法事由として、
426 Eの同意がない段階においてB県知事がAの申請
427 に係る開発許可をした場合、
428 森林法施行規則第4条第2号に規定する「相当数の同意」に関
429 し、
430 同知事が審査基準として自ら設定・公表しているB県林地開発行為の許可基準(以下「本
431 件許可基準」という。
432
433 )第1−1−@を満たしていない旨の主張が考えられる。
434
435 この点に関す
436 るB県の反論では、
437 開発行為に関する許可につきB県知事に裁量権が認められることから、
438
439 本問のように開発区域内における権利者が2者である場合、
440 開発区域内でAの所有林が占め
441 る面積の割合をも考慮して許可することができるかに関して本問における事実関係に即した
442 検討が求められる。
443
444
445 次に、
446 (A)Fの主張する違法事由として、
447 C市水道水源保護条例に基づき規制対象事業場
448 として認定(以下「本件認定」という。
449
450 )されているから、
451 本件許可基準第1−1−Aを満た
452 していない旨の主張が考えられる。
453
454 この点に関するB県の反論では、
455 いわゆる紀伊長島町水
456 道水源保護条例事件の最判平成16年12月24日民集58巻9号2536頁を参考にしつ
457 つ、
458 本件認定に至るプロセスなどの本問における事実関係に即した検討が求められる。
459
460 その
461 際、
462 かつて市町村による土地の使用制限に関する処分が違法であると評価して開発許可をし
463 たというB県の運用を踏まえた検討も求められる。
464
465
466 最後に、
467 (B)Fの主張する違法事由として、
468 Aが設置を計画している貯水池の容量ではFの
469 生活用水に不足が生じ、
470 水確保要件と本件許可基準第4−1を満たしていない旨の主張が考え
471 られる。
472
473 この点に関するB県の反論では、
474 Aが設置を計画している住民の生活用水確保のため
475 の貯水池に関して水確保要件及び本件許可基準第4−1の規定内容を踏まえ、
476 Fが主張する規
477 模の貯水池設置に関する技術的制約とそれに要する費用の問題等について検討することが求め
478 られる。
479
480
481 【民事系科目】
482 〔第1問〕
483
484
485 設問1について
486
487
488 設問1は、
489 虚偽の外観を信頼して取引をした者の保護をどのような要件の下で図るか
490 という問題に関する理解を問うものである。
491
492
493 設問1においては、
494 甲土地の所有権登記がAからB、
495 BからCと順次移転しているが、
496
497 Bは無権利者であり、
498 Cが外観を信じて取引をした者として保護されるかが問題となる。
499
500
501 虚偽の外観の作出・存続に本人の意思が直接には関与していない事例について、
502 判例は、
503
504 民法(以下「法」という。
505
506 )第94条第2項と第110条の法意を重畳的に適用すること
507 によって、
508 権利外観法理の伸張を図っている。
509
510 本問の解答としては、
511 この判例法理の趣旨
512 を正確に理解した上で、
513 本人の帰責性の程度を勘案しつつ第三者に求められる要件を論じ、
514
515 本問に当てはめて結論を導くことが求められる。
516
517
518
519
520
521 まず、
522 無権利者からの譲受人は権利を取得できないのが基本であるところ、
523 判例は、
524
525 偽の権利外観の作出・存続が所有者の意思に基づくと評価される場合に法第94条第2項
526 を類推適用し、
527 登記の外形を信頼して無権利者と取引をした善意の第三者の保護を図って
528 いる。
529
530 解答に当たっては、
531 こうした本問の基本構造が提示されることが求められる。
532
533
534 なお、
535 本問においては、
536 代理権の存在についての信頼を保護することを趣旨とする法第
537 110条の適用が問題となるわけではない。
538
539
540
541
542
543 法第94条第2項が類推適用される要件である本人の帰責性が認められる場合として
544 は、
545 本人自らが虚偽の外観を作出したとき(外形意思対応=外形自己作出型)や、
546 虚偽の
547 外観の作出が他人によるものであっても、
548 本人がその存在を知りつつその存続を明示又は
549
550 - 4 -
551
552 黙示に承認していたとき(外形意思対応=外形他人作出型)が挙げられる。
553
554 これに対し、
555
556 本人が作出した虚偽の外観に他人の行為が加わって更なる虚偽の外観が作出されたが、
557
558 人がそれを知らなかった場合(外形意思非対応型)や、
559 本人が他人を信用して交付した書
560 類が濫用されて虚偽の外観が作出されるなど、
561 本人が虚偽の外観作出の原因を与えていた
562 場合(外形与因型)には、
563 判例は、
564 法第94条第2項と第110条の「法意」又は「趣旨
565 の類推」により、
566 善意無過失の第三者を保護するものとしている(最判昭和43年10月
567 17日民集22巻10号2188頁、
568 最判平成15年6月13日判時1831号99頁(以
569 下「平成15年判決」という。
570
571 )、
572 最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁【民
573 法判例百選T<第8版>22事件】(以下「平成18年判決」という。
574
575
576 ))。
577
578
579
580
581 本問は、
582 Aは、
583 Bに対して抵当権抹消登記手続を委託しているものの、
584 甲土地の所有権
585 をBに移転させる意思は有していないことから、
586 上記の「外形与因型」に該当する。
587
588 「外
589 形与因型」の事例への対処については、
590 判例のように法第94条第2項と第110条の法
591 意に照らし判断するもののほか、
592 学説には、
593 法第110条を持ち出さずに、
594 法第94条第
595 2項類推適用によるものとする見解や、
596 「外形与因型」の事例は法第94条第2項類推適
597 用の許容範囲を超えるものとして第三者保護を否定すべきとの見解もある。
598
599 論拠が適切に
600 示されているのであれば、
601 判例とは異なる見解に依拠するのであっても等しく評価される
602 が、
603 いずれの見解によるとしても、
604 法第94条第2項類推適用が認められる事例の限界に
605 ついては言及がされるべきである。
606
607
608
609
610
611 本問の解答としては、
612 ここまでに述べてきた法的論拠に関する議論を踏まえ、
613 本人Aの
614 帰責性と第三者Cの善意又は善意無過失の要件具備の当否を適切に判断することが求めら
615 れる。
616
617 平成18年判決は、
618 虚偽の外観作出について権利者本人が知らなかった事案におい
619 て、
620 権利者に不実登記を承認したと「同視し得るほど重い」帰責性がある場合に無過失の
621 第三者が保護されるとした。
622
623 本問においても、
624 Cの無過失はもとより、
625 Aの帰責性につい
626 ても、
627 その判断については相当の慎重さが求められる。
628
629
630 Aの帰責性に関しては、
631 所有権移転登記手続に必要となる書類をBに言われるまま交付
632 していることが事実4に示されているものの、
633 契約@の契約書がBの偽造によるものであ
634 ることは重視されるべきである。
635
636 所有権移転登記それ自体にAの意思的関与はなく、
637 Bに
638 よって作出された外観を是正し得る契機も見いだせない。
639
640 こうしたことからすれば、
641 本問
642 は、
643 上記の平成18年判決の事案よりも平成15年判決の事案に類似しているといえる。
644
645
646 法第94条第2項と第110条の法意に照らしても、
647 Cに対抗し得ないとすべき程の帰責
648 性がAにあるとは評価できず、
649 Cに対する権利主張は妨げられないものと解される。
650
651 ただ
652 し、
653 Aの帰責性を是認する答案も、
654 その論拠が説得的に示されていれば、
655 相応に点を与え
656 る。
657
658
659
660
661
662 設問1について
663
664
665 設問1は、
666 Aが、
667 甲土地をDとBに二重譲渡した事例であり、
668 登記名義はAからB、
669
670 BからCへと順次移転している。
671
672 登記のない譲受人が自己の所有権取得を登記のある譲
673 受人に対抗するための方途としてまず考えられるのは、
674 登記を有する譲受人が背信的悪
675 意者であるとの主張である。
676
677 通説・判例によれば、
678 法第177条にいう「第三者」には
679 背信的悪意者は含まれず、
680 登記がなくても物権の取得を対抗することができる(最判昭
681 和40年12月21日民集19巻9号2221頁、
682 最判昭和43年8月2日民集22巻
683 8号1571頁等)。
684
685 自由競争の前提となる信義則に違反し、
686 権利濫用法理に違背する
687 ような者は、
688 自由競争の範囲を逸脱し、
689 登記による保護を認められるべきではないから
690 であるとされている。
691
692 背信的悪意者の典型例としては、
693 「不動産登記法第5条の第三者
694 と類似する立場にある第三者」、
695 「不動産取得の目的や方法が著しく信義に反する第三
696 者」、
697 「第1譲受人の不動産取得を害意をもって侵害しようとする第三者」、
698 「譲受人と実
699
700 - 5 -
701
702 質的に同一人格と判断される第2譲受人」などが挙げられる。
703
704
705 もっとも、
706 学説上は、
707 悪意者排除論や有過失者排除論も有力であり、
708 これらを論拠と
709 する場合も、
710 判例法理となっている背信的悪意者排除論への疑問を提示しつつ説得的に
711 論じられていれば、
712 同様に点を与える。
713
714
715 設問1において、
716 Bは、
717 第1売買の事実を知り、
718 またDへの第1売買を妨害する意
719 図をもって自己への所有権移転、
720 Cへの転売をしているため、
721 上記の「不動産取得の目
722 的が著しく信義に反する第三者」に該当し、
723 背信的悪意者であると認定することができ
724 る。
725
726 したがって、
727 悪意者排除論に依拠する場合はもちろん、
728 判例・通説のいう背信的悪
729 意者排除論に依拠するのでも、
730 Dは、
731 甲土地について登記なくして自己の所有権取得を
732 Bに対抗することができると解される。
733
734
735
736
737 では、
738 Dは、
739 背信的悪意者からの転得者Cとの関係でも、
740 同様に登記なくして所有権
741 の取得を対抗することができるか。
742
743 背信的悪意者からの譲受人は所有権を取得し得るの
744 か、
745 また、
746 背信的悪意者としての地位を承継することにならないのかが検討されるべき
747 こととなる。
748
749 判例は、
750 背信的悪意者につき相対的に判断をしており、
751 第1譲受人との関
752 係で登記の欠缺を主張できない背信的悪意者も所有権取得者であって、
753 背信的悪意者か
754 ら所有権を承継取得する転得者は、
755 自身が第1譲受人との関係で背信的悪意者と評価さ
756 れるのでない限り、
757 登記を備えれば第1譲受人に対抗できるとしている(最判平成8年
758 10月29日民集50巻9号2506頁【民法判例百選T<第8版>61事件】)
759
760
761
762 本問では、
763 事実11において、
764 背信的悪意者Bからの譲受人Cが、
765 Dへの第一売買(契
766 約B)を知っていたものとされており、
767 悪意であるということができるが、
768 Dを害する
769 意図がBにあったことまでは知らなかったというのであるから、
770 背信的悪意者とはいえ
771 ないものと解される。
772
773 したがって、
774 Dは、
775 登記名義人が背信的悪意者であることを理由
776 として、
777 Cに対して、
778 自己に所有権があることを主張し、
779 自己への登記名義の移転を請
780 求することはできない。
781
782
783
784
785
786 次に、
787 Aは、
788 財産権移転義務・登記移転義務を負っているDを害することを知りなが
789 ら、
790 評価額よりも低い価額で、
791 唯一のめぼしい財産である甲土地をBに売却し、
792 登記移
793 転をしている。
794
795 Dとしては、
796 この売買契約が詐害行為に当たるとして(法第424条)、
797
798 転得者Cに対し、
799 法第424条の5に基づいて詐害行為取消権を行使することが考えら
800 れる。
801
802
803 本問において、
804 DがAに対して有しているのは甲土地の引渡しや登記の移転を目的と
805 する債権である。
806
807 一般債権者の共同担保を保全するという詐害行為取消権の趣旨からす
808 れば、
809 被保全債権は金銭債権に限られるのではないか、
810 この見地から、
811 本問において詐
812 害行為取消権の行使は認められないのではないかが問題となる。
813
814 判例・通説は、
815 特定物
816 債権でも、
817 債務者が目的物を処分することにより無資力になる場合なら、
818 処分行為の取
819 消しは認められるとしている(最判昭和36年7月19日民集15巻7号1875頁
820 【民
821 法判例百選U<第8版>15事件】)。
822
823 特定物債権でも窮極において損害賠償債権に変じ
824 うることが、
825 その理由とされる。
826
827
828
829
830
831 詐害行為取消権を行使するための要件としては、
832 「債権者を害することを知ってした
833 行為」「受益者の悪意」があり(法第424条)、
834 転得者に対して行使をするには、
835 さら
836 に「転得者の悪意」が要件として加わる(法第424条の5第1号)。
837
838 本問においてこ
839 れら要件が具備されているかを事実に即して確認することが求められる。
840
841
842 第1に、
843 Aが債務超過状態に陥っていること、
844 甲土地がAの唯一のめぼしい財産であ
845 ることが事実8に示されていること。
846
847 また、
848 事実7にあるように、
849 甲土地の時価は40
850 00万円であるところ、
851 その半額で売却をしていること。
852
853 以上より、
854 契約Cは詐害行為
855 に当たる。
856
857 第2に、
858 事実9からすれば、
859 Aに詐害意思があることも明らかであり、
860 受益
861
862 - 6 -
863
864 者Bの悪意も、
865 同事実に示されているとおりである。
866
867 第3に、
868 事実11において、
869 売買
870 Bの存在やAが無資力であることにつき転得者Cは知っていたことが示されているた
871 め、
872 転得者の悪意の要件も満たされている。
873
874
875 以上より、
876 本問では、
877 Cに対する詐害行為取消権の行使は認められると解される。
878
879
880
881
882 詐害行為取消権の行使によって、
883 転得者に対してはどのような内容の請求が認められ
884 るか。
885
886 法第424条の6によれば、
887 債務者のした行為の取消しとともに、
888 転得者が転得
889 した財産の返還を請求することができる。
890
891 Dは、
892 転得者Cに対して債務者Aに登記を戻
893 すよう請求することはできるが、
894 直接自己に移転登記せよと請求することはできない
895 (法
896 第424条の9の反対解釈。
897
898 最判昭和53年10月5日民集32巻7号1332頁【民
899 法判例百選U<第8版>16事件】)。
900
901
902
903
904
905 設問2について
906
907
908 設問2は、
909 賃貸不動産が債権担保を目的として譲渡された場合における法第605条の
910 2第1項及び第2項の適用可能性を問うものである。
911
912 事案は、
913 対抗要件を備えた賃借権の
914 負担が付いた不動産が債権担保の目的で譲渡され、
915 その譲渡につき所有権移転登記がされ
916 た場合において、
917 被担保債権の弁済期が経過した後、
918 設定者の受戻権が存続する状態で、
919
920 設定者が賃借人に対して賃料の支払を請求した、
921 というものである。
922
923 設定者(譲渡人)F
924 がHに債務αを弁済することなく、
925 賃借人Gに賃料を請求したのに対して、
926 Gが法第60
927 5条の2第1項に基づいて、
928 Fは所有権とともに賃貸人の地位をも喪失したと主張して(下
929 線部)Fに対する賃料の支払を拒絶した場合に、
930 Fからの反論として想定される根拠(下
931 線部)の妥当性につき検討することが求められている。
932
933
934
935
936
937 まず、
938 下線部の各主張の根拠は次のとおりであると考えられる。
939
940
941 下線部が法第605条の2第1項を根拠として、
942 乙建物の所有権移転に随伴して直ち
943 に賃貸人の地位がFからHに移転したという趣旨を述べるものであることを示す必要があ
944 る。
945
946 そのために、
947 同項を摘示しつつ、
948 下線部の主張が、
949 乙建物の所有権に随伴して賃貸
950 人の地位がFからHに移転したという趣旨を述べるものであること、
951 乙建物に係るGの借
952 家権が引渡しにより対抗要件を備えていること(借地借家法第31条)、
953 乙建物が所有者
954 FからHに譲渡されたことを指摘することが求められる。
955
956
957 次に、
958 下線部の反論の趣旨及び論拠を明らかにする必要がある。
959
960 反論は、
961 契約Fに
962 基づく譲渡が債権担保を目的とする譲渡であり、
963 譲渡担保は一般的に法第605条の2第
964 1項の「譲渡」に当たらないから、
965 賃貸人の地位はHに移転することなくFのもとにとど
966 まるという趣旨を述べるものであることを指摘することが求められる。
967
968 加えて、
969 請求3の
970 時点において債務αの弁済期が経過していること、
971 契約Fに基づく担保の実行が未了であ
972 り、
973 かつHは乙建物を第三者に処分しておらず、
974 Fの受戻権が失われていないことを確認
975 することも必要である。
976
977
978 さらに、
979 反論が、
980 法第605条の2第2項の類推適用により、
981 賃貸人の地位がFに留
982 保されるという趣旨を述べていることを指摘することが求められる。
983
984 そのためには、
985 @F
986 H間における乙建物の使用・収益に関する合意は賃貸人の地位をFに留保する趣旨を定め
987 たものと解されること、
988 AFの設定者留保権に内包される利用権限は賃貸借に類比するこ
989 とができること、
990 BFの設定者留保権が担保の実行により消滅すると、
991 賃貸人の地位が確
992 定的に譲受人Hに移転することが予定されていることから、
993 同項の類推適用の基礎がある
994 という趣旨の主張であることを指摘する必要がある。
995
996
997 以上を踏まえて、
998 Fの反論の当否を検討しつつ、
999 請求3の可否について結論を述べるこ
1000 とが求められる。
1001
1002 その際、
1003 5月分と6月分との間で違いが生じ得るか、
1004 つまり債務αの弁
1005 済期経過が本問の検討において意味を持ち得るか、
1006 という点にも留意しなければならない。
1007
1008
1009 反論は、
1010 契約Fに基づく譲渡が法第605条の2第1項の「譲渡」に当たらないと主張
1011
1012 - 7 -
1013
1014 するものであり、
1015 反論は、
1016 上記の主位的主張が奏功しない場合に備えて、
1017 契約Fに基づ
1018 く譲渡が同項の「譲渡」に当たると仮定した場合の追加的主張であり、
1019 反論を不当とす
1020 る場合は反論の当否を検討することが不可欠となる一方、
1021 の反論を正当とする場合は、
1022
1023 重ねての当否を論じる必要はない。
1024
1025
1026
1027
1028 Fの反論の当否及び請求3の可否を論じるに当たっては、
1029 それに先立ち、
1030 法第605条
1031 の2第1項の趣旨を確認する必要がある。
1032
1033 同項は、
1034 不動産の賃借権が対抗力を備えている
1035 場合、
1036 賃貸不動産の譲渡に伴い、
1037 特段の事情がない限り、
1038 当然に賃貸人の地位が譲渡人か
1039 ら譲受人に移転するものとした平成29年改正前民法下の判例法理(最判昭和39年8月
1040 28日民集18巻7号1354頁)の趣旨を明文化したものとされている。
1041
1042 その趣旨の理
1043 解については、
1044 (合理的)当事者意思の推定を根拠とするという説明が一般的になってい
1045 るが、
1046 賃貸人の債務の性質、
1047 法律関係の複雑化の回避など、
1048 当事者意思の推定以外の説明
1049 が記載されていた場合も、
1050 その説得力に応じて相応に評価される。
1051
1052
1053
1054
1055
1056 譲渡担保においては、
1057 債権担保の目的の範囲内で所有権が譲渡担保権者に移転すること
1058 を認める法律構成が定着しつつあるといえる(最判昭和57年9月28日判時1062号
1059 81頁)が、
1060 確定的な所有権移転と目的物の使用・収益権限との関係につき従来十分な議
1061 論がされているとはいえず、
1062 譲渡担保と賃貸人の地位の移転の関係について直接判断した
1063 最高裁判例は存在しない。
1064
1065 よって、
1066 譲渡担保の法的構成に関する上記の昭和57年最判の
1067 法律構成に依拠する場合、
1068 反論の当否に関しては、
1069 理論上、
1070 肯定・否定いずれの結論も
1071 導くことができる。
1072
1073 検討に当たっては、
1074 純然たる所有権的構成ではなく、
1075 担保的構成に依
1076 拠する場合であっても、
1077 譲渡担保においては所有権移転という法形式が採られている以上、
1078
1079 非占有担保・占有担保いずれの形態も対等に成立し得ることに留意すべきである。
1080
1081 また、
1082
1083 抵当権においても被担保債権の債務不履行後は果実に抵当権の効力が及ぶ(法第371条)
1084 とされていることとの均衡上、
1085 譲渡担保においても被担保債権の弁済期到来が譲渡担保権
1086 の実体法上の効力にどう影響するのか、
1087 特に目的物の処分権限についての制約が撤廃され
1088 ること以上の変化がないと考えるべきか否か、
1089 といった点にも目配りがされることが望ま
1090 しい。
1091
1092
1093
1094
1095
1096 次に、
1097 反論の根拠とされる法第605条の2第2項は、
1098 賃貸不動産の譲渡人と譲受人
1099 との間における賃貸人の地位を譲渡人に留保する旨の合意の存在のみをもって譲渡人が賃
1100 貸人の立場にとどまり続けることができるとすれば、
1101 賃借人の法的地位を不安定なものに
1102 してしまうから妥当でないとした平成29年改正前民法下の判例法理(最判平成11年3
1103 月25日集民192号607頁)を受けて、
1104 賃借人の法的地位の安定化を阻害しない範囲
1105 で、
1106 賃貸人の地位の留保合意の効果を認めるものである。
1107
1108 そのために、
1109 譲渡人に使用・収
1110 益権限を留保することに加えて、
1111 譲受人との間の賃貸借契約の存在が求められている。
1112
1113
1114 渡担保契約の当事者間において、
1115 譲渡担保権者が設定者に目的物を賃貸するという法律関
1116 係は通常予定されていないため、
1117 同項前段が定める賃貸借契約の存在という要件を満たさ
1118 ず、
1119 同項を直接適用することはできないと考えられる。
1120
1121
1122 もっとも、
1123 法第605条の2第2項は、
1124 賃貸不動産の譲渡にもかかわらず賃貸人の地位
1125 が移転しない場合を完結的に要件化しているわけではなく、
1126 同項の類推適用や趣旨の類推
1127 により、
1128 譲渡人への留保が認められるべき場合が存在し得ることを否定する趣旨まで含ん
1129 でいないと考えられる。
1130
1131
1132
1133
1134
1135 請求3の当否を論じるに当たっては、
1136 契約Fに基づく譲渡が、
1137 法第605条の2第1項
1138 の「譲渡」に当たるかどうかを検討する必要がある。
1139
1140 一つの方向性として、
1141 同項の「譲渡」
1142 に当たるためには、
1143 目的物の確定的な所有権が譲渡担保権者に移転していることが必要で
1144 あり、
1145 設定者の受戻権が存続する限りは、
1146 その趣旨が妥当しないという立論の方向性が考
1147 えられる(構成α―1)。
1148
1149 他方で、
1150 所有権留保に関しては、
1151 担保目的で所有権を留保する
1152
1153 - 8 -
1154
1155 売主は、
1156 被担保債権の弁済期経過後は、
1157 目的物の占有権限を取得し、
1158 目的物に関して必要
1159 となる管理行為を行うことができるものと解されている(最判平成21年3月10日民集
1160 63巻3号385頁)。
1161
1162 このような考え方を譲渡担保にも推及し、
1163 「譲渡」は、
1164 目的物の所
1165 有権及び使用・収益の基礎となる占有権限を取得する必要があるが、
1166 それで足り、
1167 所有権
1168 が確定的に譲受人に移転していることまで要求すべきだと考える必然性はないという方向
1169 の立論も考えられる(構成α―2)。
1170
1171
1172
1173
1174 以上のような法律構成に対して、
1175 債権担保目的での所有権移転も「譲渡」に当たると解
1176 した上で、
1177 乙建物に関する使用・収益権限に関するFH間の合意の効果として、
1178 賃貸人の
1179 地位がFに留保されるかどうかを検討するという方向性の立論もあり得る(構成β)。
1180
1181
1182 の立場による場合、
1183 法第605条の2第1項の「譲渡」は所有権の移転があれば足り、
1184
1185 れが債権担保目的でなされていれば十分であること、
1186 譲受人は、
1187 所有権の部分権能である
1188 使用・収益権限も観念的には取得した上で間接占有を取得し(譲渡担保は、
1189 抵当権と同様
1190 に非占有担保として扱われることが多いが、
1191 不動産譲渡担保に関しては、
1192 所有権移転登記
1193 を備えることにより、
1194 特段の事情がない限り、
1195 同時に占有改定の合意が認められ、
1196 譲受人
1197 は、
1198 目的不動産の(間接)占有を取得しているものと考えられる。
1199
1200
1201 )、
1202 賃借人に使用・収益
1203 させる義務を履行することが可能な状態にあることを指摘することが求められる。
1204
1205 以上を
1206 踏まえて、
1207 反論の当否を検討するに当たっては、
1208 まず、
1209 譲渡担保に関しては、
1210 典型担保
1211
1212 (抵当権や質権)と異なり、
1213 使用・収益権限の帰属が当事者の合意に委ねられていること、
1214
1215 次に、
1216 本件合意の内容を解釈し、
1217 同第2項の類推の可否を論じ、
1218 結論を述べる必要がある。
1219
1220
1221 譲渡担保の場合、
1222 被担保債権の弁済期経過後であっても担保権の実行まで使用・収益権
1223 限を設定者Fに委ねる趣旨を内包しており、
1224 担保権者が担保の実行を遅らせることもしば
1225 しば見受けられる。
1226
1227 本件においても、
1228 弁済期が経過した後もHが担保権を実行しておらず、
1229
1230 第三者への目的物の処分もしていないことから、
1231 黙示的に期限の猶予がされ、
1232 5月分・6
1233 月分いずれの賃料もFに賃貸人の地位が留保された状態で発生したものと解するのが合意
1234 の趣旨に沿うとする立場があり得る(構成β―1−1)。
1235
1236 他方で、
1237 本件合意は、
1238 債務αの
1239 弁済期経過によりHは債権担保目的に伴う制約である処分権の制約から解放され、
1240 担保権
1241 実行を待つことなく使用・収益権限を取得するものであり、
1242 5月分に関してのみ本件合意
1243 の効果に基づく賃貸人の地位の留保を認める考え方も成り立ち得る(構成β―1−2)。
1244
1245
1246 さらには、
1247 法第605条の2第2項の類推適用を否定する考え方もあり得る(構成β―2)
1248
1249
1250
1251 この立場からは、
1252 同第1項の原則に従い、
1253 賃貸人の地位はHに移転しており、
1254 反論は妥
1255 当せず、
1256 請求3は5月分・6月分ともに認められない、
1257 という結論が導かれることになる。
1258
1259
1260
1261
1262 設問3について
1263 設問3は、
1264 被相続人が死亡前に同一の不動産について死因贈与契約を締結した後に特定遺
1265 贈を行っていた場合における、
1266 死因贈与契約の遺言による撤回(又は解除(以下では、
1267 「撤
1268 回」を用いるが、
1269 「解除」を用いる答案も「撤回」を用いる答案と同等に評価される。
1270
1271 ))の
1272 可否について、
1273 条文を踏まえた考察の能力を問うものである。
1274
1275
1276 本問におけるMの請求は、
1277 契約Gが死因贈与契約(法第554条)であって、
1278 Kの死亡に
1279 よってそれが効力を発したことを理由に、
1280 Kの唯一の相続人として贈与者の地位を承継して
1281 いるLに対し、
1282 契約Gの履行を求めるものである。
1283
1284 これに対するLのの主張は、
1285 死因贈与
1286 契約には遺贈の規定が準用され(同条)、
1287 贈与者は遺言の撤回と同様に死因贈与契約を遺言
1288 によって撤回することができる(法第1022条・法第1023条)との論拠によるもので
1289 ある。
1290
1291 Kが丙不動産をNに特定遺贈する遺言を行っているため、
1292 前の死因贈与契約が「後の
1293 遺言と抵触するとき」に当たり、
1294 死因贈与契約が撤回されたものとみなされることになる(法
1295 第1023条第1項準用)。
1296
1297
1298 Lのの主張の当否は、
1299 遺言に関する法第1022条及び第1023条が死因贈与契約に
1300
1301 - 9 -
1302
1303 準用されるか否か、
1304 法第554条が死因贈与契約に遺贈に関する規定が準用されるのは「そ
1305 の性質に反しない限り」としていることをどのように考えるかによって左右される。
1306
1307 Mから
1308 の反論としては、
1309 遺言の撤回の規定を準用するならば、
1310 相手方との間で締結された契約を単
1311 独行為である遺言によって一方的に撤回できることとなり、
1312 相手方の利益を害するから、
1313
1314 れらの規定の準用は死因贈与契約の性質に反し、
1315 認められない等の主張が考えられる。
1316
1317
1318 この点について、
1319 判例は、
1320 死因贈与への遺言の撤回の規定(法第1022条、
1321 法第102
1322 3条)の準用を原則として肯定しつつ
1323 (最判昭和47年5月25日民集26巻4号805頁)、
1324
1325 負担付死因贈与において負担が履行されている場合における類型的な例外(最判昭和57年
1326 4月30日民集36巻4号763頁)及び死因贈与の動機や内容等に照らして撤回を否定す
1327 ることが相当と認められる場合における個別事例に即した例外(最判昭和58年1月24日
1328 民集37巻1号21頁)を認める立場であるものと一応まとめることができるが、
1329 判例の立
1330 場をどのように捉えるかは見解が一致しているわけではない。
1331
1332
1333 学説には、
1334 準用肯定を原則とすることに批判的な見解が多いが、
1335 死因贈与契約と遺贈との
1336 共通性を強調する準用肯定説も有力であり、
1337 準用の可否を論じるのではなく個々の事案にお
1338 ける具体的な諸事情の総合的な考慮によって撤回が認められるかどうかを判断すべきとする
1339 説もある。
1340
1341
1342 本問では、
1343 第1に、
1344 死因贈与契約について遺言の撤回の規定の準用の可否が問題になると
1345 いう基本的な理解を有することを前提に、
1346 第2に、
1347 条文の文言を踏まえつつ、
1348 契約の相手方
1349 の保護と死亡後の財産の処分に係る被相続人の最終意思の尊重との調整をどのように行うか
1350 について検討し、
1351 結論を示すことが求められる。
1352
1353 その際、
1354 第2については、
1355 上記のとおり、
1356
1357 判例の立場の捉え方も、
1358 学説上の見解も、
1359 必ずしも一致した状況にあるわけでないことから、
1360
1361 判例の知識があれば相応の評価が与えられるものの、
1362 判例の知識の有無にかかわらず、
1363 上記
1364 の調整についての考察を立ち入って行うことができているかどうかが問われる。
1365
1366
1367 〔第2問〕
1368
1369
1370 本問は、
1371 公開会社でない株式会社において、
1372 @取締役の任期を短縮する定款変更がされ
1373 るとともに取締役選任議案が否決されたという一連の経緯によって取締役の地位を失った
1374 者が会社に対して損害賠償請求をすることの可否(設問1)、
1375 A親会社の圧力の下でいわゆ
1376 るデュー・ディリジェンスを行うことなく事業を譲り受けたことに関する取締役の任務懈
1377 怠責任(設問2)、
1378 B事業を譲渡した会社(譲渡会社)の商号の一部が含まれている商標を
1379 使用した場合における事業を譲り受けた会社(譲受会社)の責任(設問3)を問うもので
1380 ある。
1381
1382 いずれについても、
1383 会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、
1384
1385 問題点を適切に分析した上で、
1386 具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか
1387 否かを問うものである。
1388
1389
1390
1391
1392
1393 設問1においては、
1394 Dが甲社の取締役の地位を失ったことが実質的な解任であると考
1395
1396 えていることを踏まえると、
1397 Dとしては、
1398 まず、
1399 甲社に対して会社法第339条第2項
1400 の規定に基づいて損害賠償請求をすることが考えられる。
1401
1402 本問では、
1403 取締役の任期を短
1404 縮する定款変更がされるとともに取締役選任議案が否決されたにすぎず、
1405 Dが解任され
1406 たわけではないことから、
1407 そのことを指摘した上で、
1408 同項の規定の類推適用又は適用を
1409 することができるか否かを検討することになる。
1410
1411 なお、
1412 そのような検討をする前提とし
1413 て、
1414 取締役の任期を短縮する定款変更が行われた場合における在任中の取締役の任期に
1415 ついて言及することができると、
1416 なお望ましい(例えば、
1417 取締役の任期を短縮する定款
1418 変更が行われた場合には、
1419 定款変更の効力が発生した時点において在任している取締役
1420 の任期も短縮されると解され、
1421 本問のDは、
1422 短縮後の任期が既に経過しているので、
1423
1424 款変更がされた時点で取締役の任期が満了したことになるなどと言及することが考えら
1425
1426 - 10 -
1427
1428 れる。
1429
1430 )。
1431
1432
1433
1434
1435 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用を検討する場合には、
1436 同項の趣旨
1437 を踏まえつつ、
1438 類推適用の基礎は何であるか、
1439 何をもって実質的な解任であると評価す
1440 るかを意識した検討をする必要がある。
1441
1442 すなわち、
1443 取締役の任期を短縮する定款変更を
1444 したことを対象とする、
1445 取締役選任議案を否決したことを対象とする、
1446 その双方を対象
1447 とするといった様々な考え方があり得るが、
1448 いずれの考え方によるにせよ、
1449 どのような
1450 行為についての正当な理由の有無が問題になるのか、
1451 損害としてどのような主張をする
1452 ことができるのかといった問題にも関連することから、
1453 類推適用又は適用の対象とそれ
1454 以外の部分についても一貫した論述が求められる。
1455
1456
1457
1458
1459
1460 正当な理由の有無については、
1461 判例(最判昭和57年1月21日集民第135号77
1462 頁参照)等を踏まえ、
1463 取締役でもあり、
1464 株主でもあるAらとの間で経営方針をめぐって
1465 意見が対立していたなどの本問における事実関係を適切に分析した上で論じることが求
1466 められる。
1467
1468 なお、
1469 正当な理由の有無を検討するに当たっては、
1470 会社法第339条第2項
1471 の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても意識して検討することが
1472 できると望ましい。
1473
1474 例えば、
1475 取締役の任期を短縮する定款変更をしたことに対して同項
1476 の規定を類推適用又は適用すべきであるという考え方による場合には、
1477 「信任を得る機会
1478 を多くし、
1479 取締役の業務に緊張感を持たせたい」という定款変更議案の理由の本事案に
1480 おける当否についても検討をすることなどが考えられる。
1481
1482
1483
1484
1485
1486 損害については、
1487 Dの立場から考えられる主張とその当否を検討することが求められ
1488 ているのであるから、
1489 Dが変更前の定款に定められた任期を満了するまで取締役を務め
1490 たいと考えていたことを踏まえると、
1491 まずは変更前の定款に定められた任期が満了する
1492 までの期間の報酬相当額に関する主張とその当否を検討し、
1493 それが認められないとする
1494 場合には、
1495 慣例となっていた4年の任期が満了するまでの期間の報酬相当額が認められ
1496 るか否かを検討することなどが考えられる。
1497
1498 そして、
1499 その当否を検討するに当たっては、
1500
1501 会社法第339条第2項の類推適用又は適用の対象をどのように考えるのかについても
1502 意識して検討する必要がある。
1503
1504 例えば、
1505 取締役の任期を短縮する定款変更をしたことで
1506 はなく、
1507 取締役選任議案を否決したことに対して同項の規定を類推適用又は適用すべき
1508 であるという考え方による場合には、
1509 変更後の任期以上の期間の報酬相当額を損害とし
1510 て主張することは困難となるはずであるが、
1511 そのような理論的な関係も踏まえた検討を
1512 することが求められる。
1513
1514
1515
1516
1517
1518 会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用以外の法律構成もあり得るところ
1519 ではあるが、
1520 いずれにしても、
1521 会社に対する損害賠償請求の可否が問われていることを
1522 踏まえた上で、
1523 本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求められる。
1524
1525 なお、
1526
1527 設問1では、
1528 定時株主総会の招集の手続及び議事は適法であったものとされていること
1529 から、
1530 これに反する法律構成(例えば、
1531 株主総会の招集の手続等が法令等に違反するこ
1532 とを理由とする株主総会決議の取消しを前提として報酬相当額の損害賠償請求をするこ
1533 となど)を採用しても評価はされない点に留意する必要がある。
1534
1535
1536
1537
1538
1539 設問2においては、
1540 事業譲渡の譲受会社である戊社の少数株主であるJとしては、
1541 その
1542
1543 代表取締役Gが親会社である甲社の代表取締役Aの圧力の下でデュー・ディリジェンス
1544 を行うことなく高値で事業を譲り受けたことについての任務懈怠責任を問うことが考え
1545 られるところであり、
1546 会社法第423条第1項が定める要件に沿って検討することが求
1547 められる。
1548
1549
1550
1551
1552 まず、
1553 Gの義務違反の有無については、
1554 @通常であれば、
1555 いわゆる経営判断原則が妥
1556 当し得るところ、
1557 甲社が戊社の親会社であるという関係に着目し、
1558 以下に述べるような
1559 利益相反関係が存在することを指摘した上で、
1560 Gの善管注意義務又は忠実義務違反の有
1561
1562 - 11 -
1563
1564 無を判断する基準を提示し、
1565 A本問の事実関係の下でデュー・ディリジェンスを行う必
1566 要性がどの程度あったかなどを踏まえて検討することが求められる。
1567
1568
1569 @の検討においては、
1570 甲社が戊社の総株主の議決権の60パーセントを有する親会社
1571 であり、
1572 本件事業譲渡が、
1573 親会社である甲社の利益にはなるものの、
1574 戊社の利益にはな
1575 らないおそれがあるとともに、
1576 戊社には、
1577 親会社である甲社だけではなくJをはじめと
1578 する少数株主が存在することから、
1579 構造的な利益相反が生じる可能性があることを考慮
1580 するとともに、
1581 Gは、
1582 親会社である甲社の代表取締役Aから取締役として再任されない
1583 可能性があることを示され、
1584 甲社の利益のために戊社にとって不利な事業譲渡を進める
1585 ように圧力をかけられており、
1586 具体的な利益相反が生じていたことを考慮した上で、
1587
1588 のように義務違反を判断するのかについて検討することが求められる。
1589
1590
1591 また、
1592 Aの検討においては、
1593 戊社の取締役であるHが銀行や弁護士に確認して、
1594 デュ
1595 ー・ディリジェンスを行う必要性が高いことを認識し、
1596 このことをGに指摘していたと
1597 いう経緯等に言及した上で、
1598 本件事業譲渡契約を締結するに当たってはデュー・ディリ
1599 ジェンスを行う必要性が高いことを指摘しつつ、
1600 Gとしても、
1601 甲社の利益のみを考えて
1602 いたわけではなく戊社を含む甲社を中心としたグループ全体の利益を考えていたこと、
1603
1604 戊社にとって甲社は重要な取引先であることなども踏まえた上で、
1605 それでもデュー・デ
1606 ィリジェンスを行わずに本件事業譲渡契約を締結したことが善管注意義務又は忠実義務
1607 に違反すると評価することができるか否かを説得的に論じることが求められる。
1608
1609
1610
1611
1612 次に、
1613 損害については、
1614 そもそも本件事業譲渡契約を締結すべきではなかったのか、
1615
1616 それともデュー・ディリジェンスを行った上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結す
1617 べきであったのかのいずれの立場を前提とするのかにもよるが、
1618 いずれの立場によるに
1619 せよ、
1620 自己の立場と整合的な論述をすることが求められる。
1621
1622 例えば、
1623 そもそも本件事業
1624 譲渡契約を締結すべきではなかったと考える場合には、
1625 本件事業譲渡契約の対価の額か
1626 ら本件事業譲渡に係る評価損計上後の資産の額を控除した残額にその後に計上した負債
1627 の額を加えたものを損害とすることが考えられるし、
1628 デュー・ディリジェンスを行った
1629 上で公正な対価で本件事業譲渡契約を締結すべきであったと考える場合には、
1630 本件事業
1631 譲渡契約の対価の額から公正な対価の額を控除した残額を損害とすることなどが考えら
1632 れる。
1633
1634
1635
1636
1637
1638 設問3においては、
1639 乙社から事業を譲り受けた戊社が、
1640 乙社の商号の一部である「乙」
1641 が含まれている登録商標Pを使用している場合において、
1642 乙社の債務を弁済する責任を
1643 負うか否かが問われている。
1644
1645 本問において、
1646 乙社の事業を譲り受けた戊社の責任の有無
1647 を検討するに当たっては、
1648 まず、
1649 会社法第22第1項の規定を適用することが考えられ
1650 るが、
1651 本問では、
1652 戊社が乙社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないこと
1653 から、
1654 そのことを指摘した上で、
1655 同項の類推適用をすることができるか否かを検討する
1656 ことになる。
1657
1658
1659
1660
1661
1662 会社法第22条第1項の規定の類推適用を検討するに当たっては、
1663 譲受会社が、
1664 譲渡
1665 会社の商号そのものを引き続き使用しているわけではないものの、
1666 その使用する登録商
1667 標に譲渡会社の商号の一部が含まれているという本問の事情に着目し、
1668 同項の規定の趣
1669 旨を踏まえ、
1670 譲渡会社の商号の一部が含まれている商標を使用した場合にも同項の規定
1671 の類推適用をすることができるか、
1672 できるとする場合にはどのような要件が求められる
1673 のかを論じた上で、
1674 本問の事実関係の下で同項の規定の類推適用をすることができるか
1675 否かを検討することが求められる。
1676
1677 その際には、
1678 商号が事業主の表示であることを踏ま
1679 えつつ、
1680 商号と商標の異同、
1681 乙社における登録商標Pの意味と戊社による登録商標Pの
1682 利用方法、
1683 戊社に対して乙社の残債務の弁済を求めている者が銀行であることなどの事
1684 情を意識しつつ、
1685 説得的に論じることが求められる。
1686
1687 例えば、
1688 登録商標Pは、
1689 商号では
1690
1691 - 12 -
1692
1693 ないものの、
1694 乙社の商号の一部である「乙」を含むものであり、
1695 消費者には譲渡会社で
1696 ある乙社を示すものとして受け取られていたことを指摘しつつ、
1697 乙社が登録商標Pを使
1698 用した商品を消費者等に対して直接販売することはなかったものの、
1699 戊社が、
1700 本件事業
1701 譲渡後に、
1702 その店舗の入口に登録商標Pを描写した看板を掲げたり、
1703 ウェブサイトに登
1704 録商標Pを掲載したりするなどした上で、
1705 乙社が製造していた商品と重複する商品を製
1706 造販売して消費者等に直接販売していたことなどから、
1707 譲受会社である戊社が譲渡会社
1708 である乙社の債務を引き受けたかのような外観が作出されたものと評価し得るか否かを
1709 検討することなどが考えられる。
1710
1711 なお、
1712 本問においては、
1713 乙社が戊社に日用品製造販売
1714 事業を譲渡したことが事業の譲渡に当たることは明らかであるから、
1715 事業や事業譲渡の
1716 意味等を詳細に論ずる必要はない。
1717
1718
1719
1720
1721 会社法第22条第1項の規定の類推適用のほかには、
1722 会社法第23条の2第1項の規
1723 定により詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求をすることや、
1724 会社法
1725 第23条第1項の規定により債務引受広告をした譲受会社の責任に言及することなども
1726 考えられるが、
1727 いずれにしても、
1728 本問の事実関係を適切に分析した上で論じることが求
1729 められる。
1730
1731
1732
1733 〔第3問〕
1734 本問は、
1735 令和3年4月20日、
1736 Xが、
1737 その所有する建物の一部(以下「本件事務所」とい
1738 う。
1739
1740 )につき、
1741 平成30年5月21日設立の会社である甲(商号「株式会社Mテック」)との
1742 間で締結した賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。
1743
1744 )の終了に基づき、
1745 「株式会社M
1746 テック」を被告と表示して本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した(以下、
1747 この訴えに
1748 係る訴訟手続を「本件訴訟」という。
1749
1750 )ところ、
1751 本件訴訟の提起前である令和3年4月2日、
1752
1753 甲の代表者Aが、
1754 甲の商号を「株式会社Mテック」から「株式会社Gテック」に変更し、
1755
1756 の代表取締役としてAの配偶者Bを就任させ、
1757 商号の変更等の登記をした一方で、
1758 自身を代
1759 表取締役とし、
1760 商号を「株式会社Mテック」とする乙という会社を新たに設立し、
1761 設立の登
1762 記をしていたことに加え、
1763 Xが訴状の附属書類として添付した代表者事項証明書には「株式
1764 会社Mテック」の設立年月日の記載がないため、
1765 乙を甲と誤認したまま本件訴訟を提起して
1766 いたという事案を素材としている。
1767
1768 この事案について、
1769 @原告が請求の原因として主張した
1770 本件賃貸借契約締結及びその解除の事実等を被告が認めたことを踏まえて口頭弁論が終結さ
1771 れた後、
1772 Aから口頭弁論の再開が申し立てられ、
1773 被告と表示された乙はXと賃貸借契約を締
1774 結していない等として自白の撤回が主張された場合における当事者の確定の基準及び自白の
1775 撤回を主張することの当否の検討(設問1)、
1776 A本件訴訟の被告が乙であることを前提とした
1777 場合に、
1778 Xが甲を被告として追加する主観的追加的併合を申し立てる際に留意すべき4つの
1779 問題点の検討(設問2)、
1780 B本件訴訟の被告が乙と確定され、
1781 Xが甲を被告として本件賃貸借
1782 契約の終了に基づき本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した場合において、
1783 甲が本件賃
1784 貸借契約には賃料支払猶予の合意(以下「本件合意」という。
1785
1786 )があることを理由に解除する
1787 ことができないと主張し、
1788 その証拠として提出された本件合意を記録した電子ファイルを保
1789 存したUSBメモリの取調べを書証によってすることができることの論証(設問3)をそれ
1790 ぞれ求めるものである。
1791
1792
1793 まず、
1794 設問1の課題1では、
1795 当事者の確定の基準に関する種々の見解から、
1796 被告を甲と確
1797 定し得る見解と乙と確定し得る見解をそれぞれ一つ取り上げ、
1798 これらの見解に従えば被告を
1799 甲又は乙と確定し得ることを実際に論証することが求められている。
1800
1801 甲は訴状に現れていな
1802 いため、
1803 被告を甲と確定することができる見解としては、
1804 例えば、
1805 意思説が考えられ、
1806 この
1807 見解によるならば、
1808 この見解が、
1809 原告の意思に着目するものであることを指摘した上で、
1810
1811 が甲を被告とする意思であったことを、
1812 訴状の記載等に言及しつつ、
1813 説得的に論証すること
1814
1815 - 13 -
1816
1817 が求められる。
1818
1819 次に、
1820 被告を乙と確定することができる見解としては、
1821 例えば、
1822 行動説が考
1823 えられ、
1824 この見解によるならば、
1825 この見解が、
1826 被告らしく行動した者は誰であるかに着目す
1827 るものであることを指摘した上で、
1828 実際に訴訟追行をしたのは乙の代表者Aであることに言
1829 及するなどして被告らしく行動したのは乙であることを説得的に論証することが期待される。
1830
1831
1832 次に、
1833 設問1の課題2では、
1834 被告を乙と確定した場合に、
1835 第2回口頭弁論期日において乙
1836 (代表者A)が請求原因事実を認める旨を陳述したことにより裁判上の自白が成立したこと
1837 になるか、
1838 仮に自白が成立したとして、
1839 再開後の第3回口頭弁論期日における自白の撤回が
1840 許されるかどうかの検討が求められる。
1841
1842 課題2の前半部分では、
1843 裁判上の自白の成立要件を
1844 明らかにした上で、
1845 乙(代表者A)の上記陳述について要件該当性を検討することが求めら
1846 れる。
1847
1848 課題2の後半部分では、
1849 裁判上の自白が成立した場合には、
1850 原則としてその撤回が禁
1851 止されることを踏まえ、
1852 例外として自白撤回が許される場合を明らかにすることが期待され
1853 る。
1854
1855 本件において問題となる自白撤回の要件としては、
1856 自白した事実が真実に反し、
1857 かつ、
1858
1859 自白が錯誤に基づくことが証明されたことが挙げられるが、
1860 個々の要件につき、
1861 反真実を錯
1862 誤よりも重視する見解、
1863 また、
1864 錯誤を反真実よりも重視する見解が主張されていることに鑑
1865 み、
1866 撤回要件の当てはめに先立ち、
1867 自白撤回の要件をどのように構成するかを理由付けとと
1868 もに明らかにすることが期待される。
1869
1870 この理由付けができている限り、
1871 自白撤回の要件をど
1872 の見解に従って構成したかによって評価に差を設けることはない。
1873
1874 当てはめにおいては、
1875
1876 らが採用した見解に従い、
1877 乙(代表者A)による自白撤回の許否を検討する必要があるとこ
1878 ろ、
1879 反真実については、
1880 本件賃貸借契約の締結当時、
1881 賃借人は「株式会社Mテック」こと甲
1882 であるから、
1883 Xと乙との間で賃貸借契約が締結された事実はないことに言及する必要がある。
1884
1885
1886 他方で、
1887 錯誤については、
1888 乙(代表者A)は、
1889 請求原因事実を認める旨を陳述した際、
1890 本件
1891 賃貸借契約の賃借人が乙ではないことを知っていたことに言及する必要がある。
1892
1893
1894 設問2では、
1895 本件訴訟の被告が乙と確定されることを想定し、
1896 Xが甲に対する給付判決を
1897 得る上で便宜な手段として主観的追加的併合の申立てがあるところ、
1898 最判昭和62年7月1
1899 7日民集41巻5号1402頁が主観的追加的併合を認めた場合の問題として主に4点を指
1900 摘していることを踏まえ、
1901 Xによる主観的追加的併合の申立てが認められるような立論を上
1902 記4点を踏まえて検討することが求められている。
1903
1904 第1に、
1905 新たな当事者に対する別訴に対
1906 し、
1907 旧訴訟の訴訟状態を利用することができ、
1908 それが訴訟経済に資する旨の立論については、
1909
1910 Xが乙を甲と誤認して旧訴訟(X乙間の訴訟)に提出した資料は、
1911 本来甲に対する新訴訟(X
1912 甲間の訴訟)において提出すべきであったことを踏まえ、
1913 甲と乙はたとえ別法人であっても、
1914
1915 それはAがXに乙を甲と誤認させるように図った結果であるから、
1916 信義則上、
1917 旧訴訟におい
1918 て形成された乙に不利な訴訟状態が弁論の併合を通じて新当事者が引き継ぐことを甲は拒否
1919 することができないのではないか、
1920 といった点に言及することが期待される。
1921
1922 第2に、
1923 主観
1924 的追加的併合を認めることにより全体として訴訟が複雑化するという弊害は予測されない旨
1925 の立論については、
1926 旧訴訟では請求原因事実について乙が自白しているところ、
1927 弁論の併合
1928 の結果、
1929 この訴訟状態が新訴訟に引き継がれることにより、
1930 裁判所は事案全体を統一的に把
1931 握することができるようになるから、
1932 必ずしも訴訟が複雑化するという弊害は生じないので
1933 はないか、
1934 といった点に言及することが期待される。
1935
1936 第3に、
1937 主観的追加的併合を認めても
1938 軽率な提訴等を誘発するおそれはない旨の立論としては、
1939 Xが乙を甲と誤認した主な原因が、
1940
1941 甲の商号変更、
1942 乙の設立及び甲の旧商号の使用等のAによる一連の行為にあることから、
1943
1944 は被告の誤認について帰責性が乏しいため、
1945 この事案において主観的追加的併合による被告
1946 の追加を認めたからといって、
1947 必ずしも軽率な提訴は誘発されないのではないか、
1948 といった
1949 点に言及することが期待される。
1950
1951 第4に、
1952 主観的追加的併合が訴訟の遅延を招来しない旨の
1953 立論としては、
1954 例えば、
1955 主観的追加的併合の申立ては、
1956 甲を被告に追加するXの申立てを伴
1957 うところ、
1958 追加された甲に対して防御の機会を保障するには新たな期日を設ける必要がある
1959
1960 - 14 -
1961
1962 以上訴訟手続の遅延は生じるが、
1963 そもそも訴訟手続の遅延はそれが著しい場合に限り不適法
1964 となることに鑑みると(民事訴訟法(以下「法」という。
1965
1966 )第143条第1項ただし書の類推)、
1967
1968 甲を被告に追加する旨をXが申し立てた時期は第1審手続の係属中であり、
1969 旧訴訟の訴訟状
1970 態が引き継がれることなどからすれば、
1971 著しい訴訟遅延が生じるおそれはないといった点に
1972 言及することが考えられる。
1973
1974
1975 設問3では、
1976 Xが、
1977 甲を被告として、
1978 本件賃貸借契約の終了に基づいて提起した、
1979 本件事務
1980 所の明渡しを求める訴えに係る訴訟手続において、
1981 第1回口頭弁論期日に出頭した甲の代表者
1982 Bが証拠として提出したUSBメモリが、
1983 「情報を表すために作成された物件で文書でないも
1984 の」(法第231条)に該当し、
1985 書証により取り調べることができることの論証が求められて
1986 いる。
1987
1988 設問3の課題前半部分では、
1989 「文書」の定義を明らかにした上で、
1990 USBメモリが「文
1991 書でないもの」に該当することの論証が求められる。
1992
1993 文書は、
1994 「文字その他の記号を使用して
1995 人間の思想、
1996 判断、
1997 認識、
1998 感情等の思想的意味を可視的状態に表示した有形物」(大阪高決昭
1999 和53年3月6日高民集31巻1号38頁)のように定義されることから、
2000 このような文書の
2001 定義に照らして、
2002 USBメモリが文書に当たらないことを論証することが期待される。
2003
2004 設問3
2005 の課題後半部分では、
2006 USBメモリを録音テープ等と同様に取り調べることが許される理由の
2007 検討が求められる。
2008
2009 ここでは、
2010 証拠方法の一つとしての書証がどのようなものであるかを明ら
2011 かにした上で、
2012 法第231条においては、
2013 USBメモリのようなコンピュータ用の電磁的記録
2014 媒体が例示されていないことに留意しつつ、
2015 USBメモリに保存された電子ファイルは、
2016 適切
2017 な出力装置によってこれを閲読可能な状態にすることができる限り、
2018 これを閲読し、
2019 その結果
2020 を証拠資料にすることができることに言及する必要がある。
2021
2022
2023 【刑事系科目】
2024 〔第1問〕
2025 本問は、
2026 設問1で、
2027 Aが盗んだB所有のバイク(以下「本件バイク」という。
2028
2029
2030 )の保管をAから依頼
2031 された甲が、
2032 甲宅のシャッター付きのガレージに保管していた本件バイクを、
2033 Aを困らせるため、
2034
2035 宅から約5キロメートル離れた場所にある甲の実家の物置内に移動させて隠した行為について、
2036 甲に
2037 横領罪(刑法第252条第1項)の成立を認める立場から、
2038 甲は、
2039 Aに頼まれて本件バイクを保管
2040 している以上、
2041 これを「横領」
2042 (同項)すれば横領罪が成立する、
2043 甲が実家の物置内に本件バイクを
2044 移動させて隠した行為は、
2045
2046 「横領した」
2047 (同項)に当たるという各主張がなされた場合のそれぞれの当
2048 否を検討させ、
2049 設問2で、
2050 Aと口論になり公園に呼び出された甲が、
2051 Aの前に姿を現せば、
2052 Aから殴
2053 る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと考え、
2054 包丁を準備して同公園に出向いた
2055 ところ、
2056 同公園に現れたAから拳で殴られそうになったため、
2057 自らも包丁をAに向けて突き出すなど
2058 したが、
2059 その様子を目撃した乙が、
2060 Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思い込み、
2061
2062 甲を助けようと考えて、
2063 Aの背後から、
2064 持っていたサバイバルナイフ(以下「本件ナイフ」という。
2065
2066
2067
2068 をAの右上腕部に突き刺し、
2069 Aに加療約3週間を要する右上腕部刺創の傷害を負わせた行為について
2070 傷害罪の成否を検討させ、
2071 さらに、
2072 その後、
2073 乙が、
2074 Aから蹴り付けられて本件ナイフをその場に落と
2075 し、
2076 更にAから追い掛けられて逃げ出したところ、
2077 進路前方の道路脇に、
2078 飲食物の宅配業務に従事し
2079 ていたDが一時的に停めていた原動機付自転車(以下「本件原付」という。
2080
2081
2082 )を見付け、
2083 本件原付を使
2084 ってAの追跡を振り切り、
2085 安全な場所まで移動したら本件原付をその場に放置して立ち去ろうと考え、
2086
2087 Dに無断で本件原付を発進させてAの追跡を振り切った行為について窃盗罪の成否を検討させ、
2088 それ
2089 により、
2090 刑事実体法及びその解釈論の知識と理解を問うとともに、
2091 具体的な事実関係を分析し、
2092 その
2093 事実に法規範を適用する能力並びに論理的な思考力及び論述力を試すものである。
2094
2095
2096 設問1について
2097 甲は、
2098 Aに頼まれて本件バイクを保管している以上、
2099 これを「横領」すれば横領罪が成立すると
2100 の主張の当否について
2101
2102 - 15 -
2103
2104 横領罪は、
2105 自己の占有する他人の物を横領したときに成立するところ、
2106 本件バイクは、
2107 Bが所有
2108 する「他人の物」であり、
2109 これを甲が自宅のガレージに保管して事実上支配していたのであるから、
2110
2111 甲が「他人の物」を占有していたことは明らかである。
2112
2113
2114 もっとも、
2115 横領罪における「占有」は、
2116 他人からの委託信任関係を原因とするものであることを
2117 要するところ、
2118 本件バイクは、
2119 AがBから盗んだ盗品であり、
2120 甲は、
2121 その情を知らなかったものの、
2122
2123 客観的には窃盗犯人であるAから盗品の保管を委託されたものであったことから、
2124 設問1の主張
2125 は、
2126 このような窃盗犯人からの委託に基づく場合でも本罪の「占有」に当たると解することが前提
2127 となっている。
2128
2129 そこで、
2130 設問1においては、
2131 窃盗犯人からの盗品の保管の委託を保護することの
2132 当否が問題となることを示した上で、
2133 その当否及び根拠を論じる必要がある。
2134
2135
2136 設問の主張の正当性を肯定する立場からは、
2137 窃盗犯人からの盗品の保管の委託が保護に値する根
2138 拠として、
2139 a.窃盗罪において窃盗犯人の占有も保護されていることとの均衡上、
2140 横領罪においても
2141 窃盗犯人との委託信任関係は保護されるとの説明等が考えられる。
2142
2143
2144 他方、
2145 設問の主張の正当性を否定する立場からは、
2146 窃盗犯人からの盗品の保管の委託が保護に値
2147 しないとする根拠として、
2148 b.委託の内容は、
2149 客観的には盗品の保管の委託であり、
2150 盗品等保管罪を
2151 構成する行為であるところ、
2152 委託の内容が犯罪を構成する場合には、
2153 委託関係の要保護性を否定す
2154 べきであるとの説明や、
2155 c.横領罪の委託関係は所有者又は所有者から権限を与えられた者と行為者
2156 との間において必要であるから、
2157 正当な権限を与えられていない窃盗犯人からの委託関係を横領罪
2158 に必要な委託と認めるべきではないとの説明等が考えられる。
2159
2160
2161 甲が実家の物置内に本件バイクを移動させて隠した行為は、
2162
2163 「横領した」に当たるとの主張の当否
2164 について
2165 甲は、
2166 Aを困らせるため、
2167 Aに無断で本件バイクを隠匿したものであり、
2168 かかる行為は、
2169 Aから
2170 の委託の趣旨に反する行為とは評価できるものの、
2171 バイクの効用に基づいて利用処分したものとは
2172 評価できない。
2173
2174 設問1の主張は、
2175 このような物の効用に基づいた利用処分とはいえない隠匿行為
2176 も「横領した」に当たると考える立場に立つことが前提になっている。
2177
2178 そこで、
2179 設問1において
2180 は、
2181
2182 「横領した」というため、
2183 物の効用に基づく利用処分をすることを不要とすることの当否が問題
2184 となることから、
2185 かかる問題の所在を示した上で、
2186 その当否及びその根拠等を論じる必要がある。
2187
2188
2189 物の効用に基づく利用処分をすることを不要とする立場からの説明としては、
2190 a.横領行為とは、
2191
2192 委託の趣旨に反する権限逸脱行為であるとの説明(越権行為説)や、
2193 b.横領行為とは、
2194 不法領得の
2195 意思を発現する行為である(領得行為説)とした上、
2196 横領罪における不法領得の意思とは「他人の
2197 物の占有者が委託の任務に背いて、
2198 その物につき権限がないのに所有者でなければできないような
2199 処分をする意思」であり、
2200 目的物をその効用に基づいて利用、
2201 処分する意思までは不要であるとの
2202 説明等が考えられる。
2203
2204 なお、
2205 判例は、
2206 領得行為説に立ちつつ(最判昭和27年10月17日集刑6
2207 8号361頁等)
2208
2209 不法領得の意思の内容につき、
2210 b説と同様の説明をしている(最判昭和24年3
2211 月8日刑集3巻3号276頁等)
2212
2213
2214
2215 他方、
2216 物の効用に基づく利用処分をすることを必要とする立場からの説明としては、
2217 c.領得行為
2218 説に立ちつつ、
2219 横領罪における不法領得の意思の内容として、
2220 窃盗罪など他の領得罪と同様に、
2221
2222 棄罪との区別として、
2223 客体を何らかの用途に利用、
2224 処分する意思が必要であり、
2225 客体を専ら隠匿す
2226 る行為は不法領得の意思を発現する行為とはいえないなどの説明等が考えられる。
2227
2228
2229 設問1はいずれについても、
2230 自説の論拠や他説への批判などを踏まえつつ、
2231 各主張の当否を
2232 論ずることが求められる。
2233
2234
2235 設問2について
2236 乙がAを刺突して傷害を負わせた行為について
2237 乙は、
2238 Aが甲を殴打しようとしていたところを偶然目撃し、
2239 Aが甲に対して一方的に攻撃を加
2240 えようとしていると思い込み、
2241 甲を助けようと考え、
2242 Aの背後から、
2243 本件ナイフでAの右上腕部
2244 を突き刺し、
2245 Aに傷害を負わせている。
2246
2247 乙の行為は、
2248 有形力の行使によりAの生理的機能に障害
2249
2250 - 16 -
2251
2252 を与えており、
2253 また、
2254 乙は少なくとも暴行の故意に基づいて同行為に及んでいることから、
2255 傷害
2256 罪の構成要件に該当することは明らかである。
2257
2258
2259 もっとも、
2260 乙は、
2261 甲を助けるため、
2262 Aの右上腕部を本件ナイフで突き刺したものであるから正
2263 当防衛が成立する余地があるが、
2264 被侵害者である甲は、
2265 Aからの侵害を予期した上で対抗行為に
2266 及んでいる。
2267
2268 そこで、
2269 乙の正当防衛の成否を検討するに当たっては、
2270 正当防衛状況を基礎付ける
2271 侵害の急迫性が認められるか否かが問題となるところ、
2272 本事例では、
2273 被侵害者と防衛者が同一で
2274 ないことから、
2275 いずれを基準に侵害の急迫性を判断すべきかとの問題の所在を示しつつ、
2276 根拠と
2277 ともに自らの立場を示し、
2278 それに基づいて侵害の急迫性を検討する必要がある。
2279
2280
2281 刑法第36条は、
2282 急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めること
2283 が期待できないときに、
2284 侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものであ
2285 るところ、
2286 侵害の回避が十分に可能であるのに積極的な態度で侵害に臨んだ者は、
2287 侵害にあえて
2288 身をさらすことでそれを受け入れているのでその侵害に対する要保護性を欠き、
2289 刑法第36条の
2290 趣旨が妥当しないと考えれば、
2291 正当防衛を否定すべき事情は専ら被侵害者を基準として判断され
2292 ることとなる。
2293
2294 そして、
2295 本事例において、
2296 被侵害者甲を基準に侵害の急迫性を検討する場合、
2297
2298 は、
2299 Aからの侵害を予期した上で対抗行為に及んでいることから、
2300 最決平成29年4月26日刑
2301 集71巻4号275頁が指摘する事情を踏まえつつ、
2302 対抗行為に先行する事情を含めた行為全般
2303 の状況に照らして検討することとなろう。
2304
2305 すなわち、
2306 当該判例は、
2307 @行為者と相手方との従前の
2308 関係、
2309 A予期された侵害の内容、
2310 B侵害の予期の程度、
2311 C侵害回避の容易性、
2312 D侵害場所に出向
2313 く必要性、
2314 E侵害場所にとどまる相当性、
2315 F対抗行為の準備の状況、
2316 G実際の侵害行為の内容と
2317 予期された侵害との異同、
2318 H行為者が侵害に臨んだ状況、
2319 Iその際の意思内容等を考慮し、
2320 行為
2321 者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、
2322
2323 記刑法第36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には侵害の急迫性の要件を充た
2324 さないとするところ、
2325 甲は、
2326 高校時代にAと同じ不良グループに所属しており、
2327 Aが短気で粗暴
2328 な性格であり、
2329 過去にも怒りにまかせて他人に暴力を振るったことが数回あったと知っていたこ
2330 と、
2331 Aの前に姿を現せば、
2332 Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと
2333 思っていたこと、
2334 わざわざ出向く必要はなかったのにAが指定した公園に出向いてAを待ち構え
2335 ていたこと、
2336 その際に自宅にあった包丁を準備していたこと、
2337 Aからの実際の侵害の内容は拳で
2338 殴打しようとするというものであり、
2339 予期された侵害を超えるものではなかったこと、
2340 甲もすか
2341 さず包丁を抜いてAに向けて突き出すなどしたことなどの事情に照らせば、
2342 本件におけるAの侵
2343 害行為は、
2344 被侵害者甲を基準とすれば、
2345 侵害の急迫性の要件を充たさないと解されることとなる。
2346
2347
2348 そして、
2349 Aの甲に対する急迫不正の侵害が否定されると考えた場合、
2350 防衛者である乙はこれが
2351 存在すると認識していることから、
2352 急迫不正の侵害があると誤信した上で、
2353 主観的には防衛行為
2354 に及んでいることになるため、
2355 かかる誤信に基づいて対抗行為に及んだ乙に故意犯が成立するか
2356 どうかを検討する必要がある。
2357
2358
2359 通説は、
2360 故意を認めるためには、
2361
2362 「罪」
2363 (=犯罪)を犯す意思が必要である以上、
2364 その認識対象
2365 は、
2366 構成要件に該当する違法な行為として理解すべきであることを前提に、
2367 構成要件該当事実の
2368 認識・予見があっても、
2369 違法性阻却事由を誤信しているときには故意犯の成立を否定する。
2370
2371 同説
2372 によれば、
2373 行為者の認識・予見した事情が正当防衛に該当する事情である場合には、
2374 違法性を基
2375 礎付ける事実の認識が欠けるとして責任段階で故意が阻却され(その誤信について過失がある場
2376 合に限って、
2377 過失犯の成立を認める。
2378
2379
2380
2381
2382 過剰防衛と評価される事実を認識していた場合には、
2383
2384 法性を基礎付ける事実の認識が認められ故意犯が成立する。
2385
2386
2387 そこで、
2388 乙に故意犯が成立するか否かを判断するに当たっては、
2389 乙の認識・予見した事実が、
2390
2391 正当防衛と評価されるか、
2392 過剰防衛と評価されるかを明らかにする必要がある。
2393
2394 そして、
2395 判例実
2396 務では、
2397 防衛行為の危険性や防衛手段としての必要最小限度性等の事情を考慮して「やむを得ず
2398 にした行為」に当たるか否かを判断しているところ、
2399 乙が認識していた事実は、
2400 Aが甲の顔面を
2401
2402 - 17 -
2403
2404 拳で一方的に殴打しようとしているというものであったのに対し、
2405 乙は、
2406 Aの背後から、
2407 何の警
2408 告もせずにAの右上腕部を本件ナイフで強く突き刺し、
2409 Aに加療約3週間を要する右上腕部刺創
2410 の傷害を負わせており、
2411 かかる乙の行為は、
2412 明らかにAの行為の危険性を大きく上回るものと評
2413 価できる上、
2414 甲、
2415 乙及びAがいずれも20歳代の男性であり、
2416 各人の体格に大差がなかったこと
2417 なども併せて考慮すれば、
2418 Aを後ろから羽交い締めにするなど、
2419 より侵害性が軽微な手段が他に
2420 存在したといえることから、
2421 乙の行為は、
2422 その認識した事実を前提としても「やむを得ずにした
2423 行為」とは評価できない。
2424
2425
2426 したがって、
2427 故意は阻却されず乙に傷害罪が成立するが、
2428 乙の誤信した侵害を前提とすると、
2429
2430 乙の行為は過剰防衛としての性質を有することから、
2431 刑法第36条第2項の適用(又は準用)の
2432 可否も問われることになるため、
2433 この点についても根拠とともに自説を論じる必要がある。
2434
2435
2436 他方、
2437 前記判例と異なり、
2438 自招侵害の場合を除いて先行事情を正当防衛の成立を否定する事情
2439 とすることに否定的な立場に立つ場合には、
2440 被侵害者甲を基準に侵害の急迫性を判断するとして
2441 も、
2442 急迫性が肯定されることになるが、
2443 その場合には自説の根拠を十分に論ずる必要がある。
2444
2445
2446 また、
2447 防衛者乙を基準に正当防衛状況を判断する立場に立つ場合にも、
2448 客観的にAの甲に対す
2449 る侵害が切迫していた以上、
2450 急迫性は肯定されることになるが、
2451 その場合、
2452 甲自らは(判例の立
2453 場によれば)Aに正当防衛として対抗することが認められない状況でありながら、
2454 乙が甲のため
2455 に正当防衛をすることが許される理由に言及した上で、
2456 急迫性の判断が相対化する理由を的確に
2457 示す必要がある。
2458
2459
2460 そして、
2461 侵害の急迫性が肯定されると考えた場合、
2462 正当防衛に関する他の要件の充足性につい
2463 ても論じる必要があるところ、
2464 前記のとおり、
2465 乙の行為は「やむを得ずにした行為」とは評価で
2466 きないことから、
2467 傷害罪が成立し過剰防衛を認めることとなる。
2468
2469
2470 乙が本件原付を乗り去った行為について
2471 乙は、
2472 Aの右上腕部を本件ナイフで突き刺した後、
2473 Aから蹴り付けられて本件ナイフをその場
2474 に落とし、
2475 更にAから追い掛けられて逃げ出したところ、
2476 進路前方の道路脇に停められていたD
2477 所有の本件原付を見付け、
2478 Aの追跡を振り切るため、
2479 Dに無断で本件原付を発進させてAの追跡
2480 を振り切っている。
2481
2482 同行為については、
2483 窃盗罪の成否を検討することとなるため、
2484 まず同罪の客
2485 観的構成要件要素である「他人の財物」
2486
2487
2488 「窃取」と、
2489 主観的構成要件要素である故意及び不法領
2490 得の意思が、
2491 いずれも認められることについて論じる必要がある。
2492
2493
2494 その上で、
2495 乙の行為は、
2496 客観的には、
2497
2498 「自己又は他人の生命、
2499 身体、
2500 自由又は財産に対する現在
2501 の危難を避けるため」の行為であり、
2502 緊急避難として違法性が阻却されないかが問題となり得る
2503 ところ、
2504 これに先行する事情として、
2505 避難行為者である乙が、
2506 自らAを本件ナイフで刺すなどし
2507 て、
2508 乙自身の法益に対する「現在の危難」を自ら招いたという事情が存在するため、
2509 かかる事情
2510 があるにもかかわらず、
2511 自己が招いた危難を回避するために、
2512 無関係の第三者Dに侵害を加える
2513 ことが緊急避難として正当化されるかが問題となる。
2514
2515 そこで、
2516 かかる問題の所在を示しつつ、
2517
2518 拠とともに自説を論じ、
2519 乙の罪責について論じる必要がある。
2520
2521
2522 危難を自招した場合に緊急避難を認めるか否かについては、
2523 自招侵害に関する最決平成20年
2524 5月20日刑集62巻6号1786頁が参考になる。
2525
2526 すなわち、
2527 当該判例は、
2528 自招侵害の状況に
2529 ついて、
2530
2531 「被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況」を否定しているが、
2532
2533 この実質的根拠は、
2534 自らの不正行為によって緊急状況を招いた者の利益は、
2535 あえて正当防衛を用
2536 いて保護する必要性が乏しいという意味において、
2537 被侵害者の要保護性の欠如に求めることがで
2538 きる。
2539
2540 そして、
2541 被侵害者の要保護性の欠如という観点は、
2542 その状況が共通であれば、
2543 対抗行為が
2544 正当防衛であっても、
2545 緊急避難であっても、
2546 同様に当てはまると考えられる。
2547
2548 このような立場か
2549 らは、
2550 当該判例の考え方が自招危難にも妥当することに触れた上、
2551 不正の行為によって危難を招
2552 致したといえるか否か(危難が、
2553 自招行為によって触発された、
2554 その直後における近接した場所
2555 での一連、
2556 一体の事態であるか否か)
2557
2558 危難がその招致行為の程度を大きく超えるものでないかど
2559
2560 - 18 -
2561
2562 うかといった当該判例の判断基準を示し、
2563 乙による本件ナイフでの刺突行為が違法であること、
2564
2565 Aの追跡は同刺突行為によって触発された、
2566 その直後における近接した場所での一連、
2567 一体の事
2568 態であること、
2569 Aは素手で暴行を加えようとしてきているにすぎず、
2570 同刺突行為の程度を大きく
2571 超えるものでないこと等の具体的事実を摘示した上で緊急避難の成立が否定されると説明するこ
2572 とが考えられる。
2573
2574
2575 また、
2576 自招危難に関する判例・裁判例(大判大正13年12月12日刑集3巻867頁、
2577 東京
2578 高判昭和45年11月26日東高刑時報21巻11号408頁等)によれば、
2579 行為者が自己の故
2580 意又は過失により有責に危難を招致したといえる場合には緊急避難の成立を否定するという理解
2581 もあり得るところである。
2582
2583 このような前提からは、
2584 乙がAによる侵害を招致することを予見して
2585 いなかったとしても、
2586 予見可能性は認められることなどを踏まえて、
2587 緊急避難の成否を検討する
2588 ことが必要となる。
2589
2590
2591 そのほか、
2592 危難を自招した場合に緊急避難を認めるか否かについては、
2593 緊急避難の成立要件の
2594 いずれか(
2595 「現在の危難」又は「やむを得ずにした行為」
2596 )の存在を否定することにより解決しよ
2597 うとするものや緊急避難の成立要件の外に解決の糸口を求め、
2598 社会的相当性や権利濫用などの一
2599 般理論を援用することによって解決しようとするものなど、
2600 様々な考え方が存在するが、
2601 いずれ
2602 にしても、
2603 緊急避難や違法性の本質を意識しつつ、
2604 自招危難として緊急避難が否定される具体的
2605 な判断基準を示した上で、
2606 本件の具体的な事実関係に即して緊急避難の成否を論述することが求
2607 められる。
2608
2609
2610 〔第2問〕
2611 本問は、
2612 大麻取締法違反事件及び非現住建造物等放火事件を素材として、
2613 捜査及び公判に
2614 関する具体的事例を示し、
2615 各局面で生じる刑事手続上の問題点、
2616 その解決に必要な法解釈、
2617
2618 法適用に当たって重要な具体的事実の分析及び評価並びに具体的結論に至る思考過程を論述
2619 させることにより、
2620 刑事訴訟法に関する基本的学識、
2621 法適用能力及び論理的思考力を試すも
2622 のである。
2623
2624
2625 〔設問1〕は、
2626 大麻密売の疑いのある者として把握されていた甲に対するおとり捜査の適
2627 法性を論じさせることにより、
2628 おとり捜査の適法性の判断基準に対する理解と具体的事案へ
2629 の適用能力を試すものである。
2630
2631
2632 おとり捜査の適法性が争われた事案に関する最高裁判所の判例としては、
2633 最決平成16年
2634 7月12日刑集58巻5号333頁(以下「平成16年決定」という。
2635
2636 )がある。
2637
2638 平成16年
2639 決定は、
2640 おとり捜査の意義を示した上で、
2641 これが許容される場合がある旨判示しているとこ
2642 ろ、
2643 おとり捜査の適法性を検討するに当たっては、
2644 おとり捜査に関する法律上の定義規定が
2645 ないことから、
2646 前提として、
2647 おとり捜査の意義に関する理解を示すことが求められる。
2648
2649
2650 また、
2651 おとり捜査については、
2652 刑事訴訟法に特別の根拠規定がなく、
2653 平成16年決定も、
2654
2655 おとり捜査が刑事訴訟法第197条第1項に基づき任意捜査として許容される場合があると
2656 していることから、
2657 おとり捜査の適法性を検討する際には、
2658 おとり捜査の法的性質について
2659 も論じることが求められる。
2660
2661 そして、
2662 その判断には、
2663 おとり捜査が違法とされる実質的理由
2664 が影響し得ることに留意する必要がある。
2665
2666 すなわち、
2667 おとり捜査が違法とされる実質的理由
2668 については、
2669 学説上、
2670 不公正な捜査方法であるからとする考え方、
2671 国家が犯罪を創出し法益
2672 侵害を生じさせるからとする考え方、
2673 人格的自律権・個人の尊厳に対する侵害があるからと
2674 する考え方などが主張されているところ、
2675 これらの理由とおとり捜査の法的性質との整合性
2676 に留意して論述する必要がある。
2677
2678
2679 次に、
2680 おとり捜査の適法性の判断基準については、
2681 学説上、
2682 もともと犯意を有していた者
2683 に犯罪の機会を提供した場合(以下「機会提供型」という。
2684
2685 )と、
2686 おとり捜査によって対象者
2687 に犯意を生じさせた場合(以下「犯意誘発型」という。
2688
2689 )とを区別し、
2690 機会提供型は適法であ
2691
2692 - 19 -
2693
2694 るが、
2695 犯意誘発型は違法であるとする考え方や、
2696 捜査比例の原則に従い、
2697 必要性と相当性と
2698 いう枠組みの下で、
2699 比較衡量によりおとり捜査の適否を判断する考え方などが主張されてい
2700 る。
2701
2702 いずれの見解に立つにせよ、
2703 おとり捜査の適法性の判断基準は、
2704 おとり捜査の法的性質
2705 や、
2706 おとり捜査が違法とされる実質的理由と結び付くものであるから、
2707 それらの点を踏まえ
2708 た上で判断基準と判断要素を示すことが求められる。
2709
2710 また、
2711 平成16年決定は、
2712 おとり捜査
2713 の適法性について、
2714 必ずしも機会提供型と犯意誘発型のどちらに当たるかのみで判断してい
2715 るわけではないことにも留意する必要がある。
2716
2717
2718 このようにおとり捜査の適法性の判断基準について論じた上で、
2719 本設問の事例に現れた具
2720 体的事実の持つ意味を的確に評価し、
2721 判断基準に当てはめて、
2722 おとり捜査の適法性を検討す
2723 ることが求められる。
2724
2725
2726 本設問において、
2727 おとり捜査の対象となる犯罪は、
2728 大掛かりな大麻密売をしている疑いが
2729 ある者として把握されていた甲による大麻密売事案であり、
2730 大麻の密売先は紹介者に限られ、
2731
2732 密売に使用される携帯電話の契約名義は架空人名義で、
2733 その番号も変わり、
2734 甲の氏名や身元
2735 などは判明せず、
2736 その後、
2737 司法警察員らが甲を尾行した際も見失っている。
2738
2739 また、
2740 捜査協力
2741 を申し出たAにより甲が今でも大麻を密売しているとの情報が得られ、
2742 その後、
2743 甲はサンプ
2744 ルとしての大麻の取引に応じ、
2745 その際、
2746 10キログラム程度の大麻であれば取り扱うことが
2747 ある旨述べている。
2748
2749 また、
2750 大麻密売事案は、
2751 直接の被害者がいない犯罪で、
2752 さらに、
2753 本件で
2754 売り渡される大麻は、
2755 おとり捜査を通じて司法警察員らにより回収されることが見込まれて
2756 いる。
2757
2758
2759 他方で、
2760 甲は、
2761 サンプルとしての大麻の取引の前に、
2762 司法警察員Pに対し、
2763 取引場所を気
2764 にする発言をし、
2765 気が進まない旨述べ、
2766 これに対し、
2767 Pが取引場所を手配している。
2768
2769 また、
2770
2771 甲は、
2772 本取引の前日には、
2773 明日の取引はやめたい旨述べたが、
2774 これに対し、
2775 Pは暴力団X組
2776 と交遊があるかのように装い、
2777 約束した代金の1.5倍の代金を払う旨や同じ単価で10キ
2778 ログラムの大麻を買っても良い旨述べた上、
2779 Aに指示し、
2780 PがX組と取引のある信用できる
2781 人物である旨甲に告げさせている。
2782
2783
2784 また、
2785 本設問では、
2786 司法警察員らは、
2787 甲からサンプルとしての大麻を譲り受けた際に甲を
2788 逮捕せず、
2789 その後、
2790 より大量の大麻を取引する際に甲を逮捕している。
2791
2792
2793 以上のような本設問の事例に現れた具体的事実を踏まえ、
2794 自己の拠って立つおとり捜査の
2795 適法性の判断基準を前提に、
2796 抽出した事実の持つ意味を的確に評価しつつ、
2797 おとり捜査の適
2798 法性について論じることが求められる。
2799
2800
2801 〔設問2〕について、
2802 まず〔設問2―1〕は、
2803 非現住建造物等放火事件の犯行態様の一部
2804 について公訴事実と裁判所の心証との間にずれが生じた事例について、
2805 裁判所が現訴因のま
2806 ま自己の心証に従って判決をすることができるか否かを問うことにより、
2807 訴因変更の要否に
2808 関する判断枠組みに対する理解と具体的事案への適用能力を試すものである。
2809
2810
2811 訴因変更の要否を論じるに当たっては、
2812 訴因の本質をどのように考えるかが問題となる。
2813
2814
2815 この点について、
2816 訴因は検察官がその存在を主張して審判を請求する具体的な犯罪事実を示
2817 したものとするいわゆる事実記載説によれば、
2818 訴因と異なる事実を認定するには、
2819 訴因変更
2820 の必要が生じ得ることになるが、
2821 その上で、
2822 どのような事実の変動が生じる場合に訴因変更
2823 が必要となるのかが、
2824 さらに問題となる。
2825
2826
2827 この点について、
2828 学説上、
2829 訴因が被告人に防御の範囲を示す機能を有することに鑑み、
2830
2831 因と異なる事実を認定することによって被告人の防御の利益を実質的に害することになるか
2832 否かにより判断する考え方があり、
2833 その中でも、
2834 被告人の防御活動等具体的な審理の経過に
2835 鑑み、
2836 それを個々の事件ごとに個別に判定すべきとするいわゆる具体的防御説や、
2837 訴因事実
2838 と認定事実とを一般的・類型的に対比することにより判定すべきとするいわゆる抽象的防御
2839 説などがある。
2840
2841 これに対して、
2842 判例上、
2843 最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁
2844
2845 - 20 -
2846
2847 (以下「平成13年決定」という。
2848
2849 )において、
2850 訴因変更の要否に関する判断枠組みが示され、
2851
2852 その後、
2853 最決平成24年2月29日刑集66巻4号589頁においても、
2854 その判断枠組みを
2855 踏まえた判断がされている。
2856
2857 そのため、
2858 訴因変更の要否の判断枠組みにつきどのような見解
2859 に立つにせよ、
2860 平成13年決定を意識した論述が求められる。
2861
2862 平成13年決定は、
2863 まず、
2864
2865 判対象画定に必要不可欠な事実については、
2866 防御活動のいかんにかかわらず、
2867 訴因と異なる
2868 事実を認定するには訴因変更が必要であるとし(第1段階の検討)
2869
2870 次に、
2871 上記以外の事実で、
2872
2873 被告人の防御にとって重要な事実については、
2874 それが訴因に明示された以上、
2875 訴因と異なる
2876 事実を認定するには原則として訴因変更が必要であるが、
2877 そのような場合でも、
2878 被告人の防
2879 御の具体的状況等の審理の経過に照らし、
2880 被告人に不意打ちを与えず、
2881 かつ、
2882 判決で認定さ
2883 れる事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとって不利益であるといえない場合には、
2884
2885 例外的に訴因変更を必要としない場合がある(第2段階の検討)という判断枠組みを取って
2886 いるものと考えられる。
2887
2888
2889 〔設問2−1〕において、
2890 公訴事実は犯行態様を「点火した石油ストーブを倒し」と記載
2891 しているのに対し、
2892 裁判所の認定に係る罪となるべき事実は、
2893 「何らかの方法で」と記載して
2894 いる。
2895
2896 そこで、
2897 例えば、
2898 平成13年決定の判断枠組みによれば、
2899 まず、
2900 第1段階の検討とし
2901 て、
2902 この点が審判対象画定に必要不可欠な事実の変動に該当するか否かを論じる必要がある。
2903
2904
2905 そして、
2906 これが審判対象画定に必要不可欠な事実の変動に当たらないと考えた場合、
2907 次に、
2908
2909 第2段階の検討として、
2910 公訴事実に「点火した石油ストーブを倒し」と明示されていること
2911 から、
2912 これを「何らかの方法」と認定することが被告人の防御にとって重要な事実の変動に
2913 該当するか否かを論じる必要がある。
2914
2915 そして、
2916 それが被告人の防御にとって重要な事実の変
2917 動に該当すると考えた場合、
2918 さらに、
2919 被告人の防御の具体的状況等の審理の経過に照らし、
2920
2921 被告人に不意打ちを与えず、
2922 かつ、
2923 判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて
2924 被告人にとって不利益であるといえない場合に該当するか否かを論じる必要がある。
2925
2926 その際
2927 には、
2928 本設問における火災科学の専門家である証人への尋問状況、
2929 尋問結果を踏まえた裁判
2930 所の当事者への働きかけとそれに対する当事者の対応等の事情も踏まえて検討することが求
2931 められる。
2932
2933 判例とは異なる判断枠組みによって論じる場合にも、
2934 それぞれの立場を踏まえて、
2935
2936 訴因と異なる事実を認定することの適否を論じる必要がある。
2937
2938
2939 次に、
2940 〔設問2−2〕は、
2941 共謀共同正犯において、
2942 検察官が冒頭陳述で釈明した共謀の日に
2943 ちと裁判所が心証を形成した共謀の日にちとの間にずれが生じた事例について、
2944 裁判所がそ
2945 の心証に従って判決をすることができるか否かを問うことにより、
2946 検察官の釈明の効果及び
2947 それを踏まえた裁判所の採るべき措置に対する理解と具体的事案への適用能力を試すもので
2948 ある。
2949
2950
2951 〔設問2−2〕において、
2952 検察官は、
2953 特定の日にちに共謀が成立したと釈明するものの、
2954
2955 訴因には「共謀の上」としか記載されておらず、
2956 共謀の日にちは記載されていない。
2957
2958 そこで、
2959
2960 まず、
2961 検察官が釈明した内容が訴因の内容になるのかが問題となる。
2962
2963
2964 この点について、
2965 検察官が釈明した事項が訴因の明示・特定に必要な事項である場合には、
2966
2967 訴因の内容になるとする考えによれば、
2968 訴因の明示・特定に必要な事項は何かが問題となる。
2969
2970
2971 この点について、
2972 学説上、
2973 訴因は他の犯罪事実から識別可能な程度に特定されていれば足り
2974 るとするいわゆる識別説や、
2975 訴因は他の犯罪事実と識別できるかだけでなく被告人の防御権
2976 の行使に支障がない程度まで具体化される必要があるとするいわゆる防御権説が主張されて
2977 いる。
2978
2979 識別説に立ち、
2980 共謀の日にちは訴因の明示・特定に必要な事項とはいえないとして、
2981
2982 検察官の釈明により訴因の内容になるものではないとする見解や、
2983 防御権説の立場から、
2984
2985 謀共同正犯における共謀の日にちは共謀のみに関与した被告人との関係では訴因の明示・特
2986 定に必要な事項であるとして、
2987 検察官の釈明により訴因の内容になるとする見解などが考え
2988 られる。
2989
2990
2991
2992 - 21 -
2993
2994 その上で、
2995 検察官が釈明した共謀の日にちが訴因の内容になるとする見解を採ると、
2996 次に、
2997
2998 釈明の内容と異なる共謀の日にちを認定するに当たり、
2999 訴因変更の要否が問題となる。
3000
3001
3002 他方で、
3003 検察官の釈明した共謀の日にちは訴因の内容にはならず、
3004 それゆえ訴因変更の要否
3005 の問題にならないと考える場合にも、
3006 検察官の釈明の内容と異なる共謀の日にちを認定するに
3007 当たり、
3008 被告人の防御との関係で、
3009 裁判所が何らかの措置を講じる必要がないかが問題となる。
3010
3011
3012 この点、
3013 共謀共同正犯の成否が問題となった事案において、
3014 被告人の謀議への関与が、
3015 検察官
3016 の主張する日にちとは異なる日にちになされた旨を、
3017 原審が、
3018 その成否を審理における争点と
3019 して顕在化させることなく認定したことの適法性が問題となった最高裁判所の判例として、
3020
3021 判昭和58年12月13日刑集37巻10号1581頁がある。
3022
3023 同判決は、
3024 原審の訴訟手続は、
3025
3026 事案の性質や審理の経過等に鑑みると、
3027 被告人に不意打ちを与え、
3028 その防御権を不当に侵害す
3029 るものであるとしており、
3030 同判決を意識した上で、
3031 本設問の事例に現れた具体的事実を適切に
3032 評価した上で、
3033 裁判所として採るべき措置を論じることが求められる。
3034
3035
3036 【選択科目】
3037 [倒産法]
3038 〔第1問〕
3039 本問は、
3040 株式会社が破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を基に、
3041 主に、
3042 相殺権
3043 と相殺禁止に関する規律、
3044 別除権者による破産債権の行使に関する規律についての基本的な
3045 理解と事例処理能力を問うものである。
3046
3047
3048 〔設問1〕は、
3049 破産者に対して債務を負担する者が、
3050 破産手続開始後に債権譲渡を受けた
3051 事例(小問)、
3052 危機時期より前に締結した保証契約に基づいて破産手続開始後に破産者の保
3053 証人として主債務を全額弁済した事例(小問及び)について、
3054 破産者に対する請求権(相
3055 殺に係る自働債権)の破産手続上の取扱いに触れつつ、
3056 相殺の可否についての検討を求める
3057 ものである。
3058
3059
3060 まず、
3061 小問については、
3062 譲り受けた売掛金債権を自働債権とする相殺であるから、
3063 同債
3064 権が「破産債権」(破産法第2条第5項)に当たり、
3065 原則として相殺が可能である(同法第6
3066 7条第1項)ことを指摘することになる。
3067
3068 続いて、
3069 事例によれば、
3070 破産手続開始後の債権譲
3071 渡という同法第72条第1項第1号の典型的な適用場面であることから、
3072 同号による相殺禁
3073 止の趣旨に言及しつつ、
3074 「破産手続開始後」の取得であること、
3075 自働債権が「他人の」債権で
3076 あることを指摘した上で、
3077 結論として相殺が禁止されることを淡々と論ずることが求められ
3078 る。
3079
3080
3081 次に、
3082 小問については、
3083 続く小問との比較の観点からの検討を求めるものである。
3084
3085
3086 なわち、
3087 問題文から明らかなとおり、
3088 小問及びは、
3089 いずれも保証契約に基づく事後求償
3090 権を自働債権とする相殺を問題とするものであるが、
3091 保証契約についての主債務者の委託の
3092 有無に違いがある。
3093
3094 この点に関し、
3095 小問で検討することとなる無委託保証人の事後求償権
3096 の破産債権該当性及び同求償権を自働債権とする相殺の可否については判例(最判平成24
3097 年5月28日民集66巻7号3123頁[倒産判例百選<第6版>70事件])が存するとこ
3098 ろ、
3099 同判例は、
3100 保証人の弁済が破産手続開始後にされても、
3101 保証契約が主債務者の破産手続
3102 開始前にされていれば、
3103 求償権の発生の基礎となる保証関係は、
3104 その破産手続開始前に発生
3105 しているということができるとして、
3106 無委託保証人の事後求償権は「破産債権」であると解
3107 しつつも、
3108 無委託保証人が事後求償権を自働債権としてする相殺は、
3109 破産法第72条第1項
3110 第1号の類推適用により許されないと解するのが相当であると判示している。
3111
3112
3113 解答に当たっては、
3114 必ずしも上記判例の考え方、
3115 結論に依拠する必要はないものの、
3116 主債
3117 務者による委託の有無という違いが破産債権該当性や相殺の可否との関係でどのような影響
3118 を及ぼすのか(例えば、
3119 求償権の現実化や相殺に対する期待を検討するに当たってどのよう
3120 - 22 -
3121
3122 に考慮されるべきか)といった点につき、
3123 上記判例を踏まえ、
3124 破産法における相殺権・相殺
3125 禁止に関する規律の構造及びその趣旨、
3126 両小問間における理論的整合性を意識しつつ、
3127 自ら
3128 の考え方を説得的に論ずることが求められる。
3129
3130
3131 〔設問2〕は、
3132 破産者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とに共同抵当が設定された
3133 事例を通じて、
3134 主に、
3135 不足額責任主義及び開始時現存額主義の内容及び関連する条文等につ
3136 いての基本的な理解について問うものである。
3137
3138
3139 まず、
3140 小問は、
3141 別除権者が最後配当に参加するためにとるべき手続についての説明を求
3142 めるものであるが、
3143 解答に当たっては、
3144 本件貸金債権が、
3145 破産者所有の乙建物に設定された
3146 抵当権との関係で「別除権」(破産法第2条第9項)に当たり、
3147 破産手続によらないで行使す
3148 ることができる(同法第65条第1項)ことに触れつつ、
3149 別除権者は、
3150 その被担保債権につ
3151 いて、
3152 別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ、
3153 破産債権
3154 者としてその権利を行使することができる(同法第108条第1項)ことを指摘する必要が
3155 ある。
3156
3157 その上で、
3158 別除権者が被担保債権である破産債権について最後配当の手続に参加する
3159 には、
3160 最後配当に関する除斥期間内に、
3161 破産管財人に対し、
3162 当該別除権に係る被担保債権の
3163 全部若しくは一部が破産手続開始後に担保されないこととなったことを証明し、
3164 又は担保権
3165 の行使によって弁済を受けることができない債権の額を証明しなければならない(同法第1
3166 98条第3項)ことを、
3167 条文を摘示しながら説明することが求められている。
3168
3169
3170 次に、
3171 小問は、
3172 配当額の計算の基礎となる破産債権の額についての具体的な検討を求め
3173 るものであるが、
3174 解答に当たっては、
3175 破産者所有の乙建物に設定された抵当権の実行による
3176 配当額と物上保証人所有の甲土地に設定された抵当権の実行による配当額とを区別して検討
3177 する必要がある。
3178
3179
3180 まず、
3181 乙建物に設定された抵当権との関係では、
3182 上記の破産法第108条第1項が定める不
3183 足額責任主義の内容とその趣旨に触れつつ、
3184 乙建物の売却代金からの配当額(1000万円)
3185 は控除されるとの結論を導くことが求められる。
3186
3187 他方、
3188 甲土地に設定された抵当権との関係で
3189 は、
3190 同法第104条第5項が準用する同条第2項が、
3191 破産手続開始後に物上保証人が弁済等を
3192 したときであっても、
3193 被担保債権の全額が消滅した場合を除き、
3194 その債権者が、
3195 破産手続開始
3196 時における全額について、
3197 その権利を行使することができることを規定し、
3198 開始時現存額主義
3199 を採っていること及びその趣旨に触れつつ、
3200 事例によれば、
3201 甲土地に設定された抵当権の実行
3202 によっても被担保債権の全額は消滅していないことから、
3203 甲土地の売却代金からの配当額(4
3204 000万円)は控除されないとの結論を導くことが求められる。
3205
3206
3207 〔第2問〕
3208 本問は、
3209 株式会社の民事再生に関する具体的事例を通じて、
3210 主に、
3211 再生手続開始の決定をす
3212 るための要件及びその趣旨、
3213 手形の商事留置権者による取立金の弁済充当についての基本的な
3214 理解と事例処理能力を問うものである。
3215
3216
3217 〔設問1〕は、
3218 具体的事例を題材に、
3219 裁判所が再生手続開始の決定をすることができるか
3220 どうかを問うものである。
3221
3222 解答に当たっては、
3223 再生手続開始の申立てにつき、
3224 再生手続開始
3225 の原因(民事再生法第21条)があれば、
3226 申立ての棄却事由(同法第25条)がある場合を
3227 除き、
3228 再生手続開始の決定をする(同法第33条第1項)との構造がとられていることに言
3229 及した上で、
3230 @又はAの事情がある場合のそれぞれにつき、
3231 開始の決定をすることの可否に
3232 ついての結論を示すことが求められる。
3233
3234
3235 まず、
3236 @及びAに共通する点として、
3237 再生手続開始の原因があることを示す必要がある。
3238
3239
3240 具体的には、
3241 民事再生法第21条第1項前段において、
3242 「債務者に破産手続開始の原因となる
3243 事実の生ずるおそれがあるとき」に再生手続開始の申立てをすることができるとされている
3244 ところ、
3245 本問においては、
3246 事例に掲げられた具体的な事実に照らし、
3247 破産手続開始の原因の
3248
3249 - 23 -
3250
3251 うち「支払不能」(破産法第15条、
3252 第2条第11項)のおそれがあることを示すことが求め
3253 られる。
3254
3255
3256 @の事情がある場合については、
3257 C信金が債権者として既に破産手続開始の申立てをして
3258 いることから、
3259 民事再生法第25条第2号に該当するか否かを検討することになる。
3260
3261 解答に
3262 当たっては、
3263 同号所定の要件とその趣旨を摘示した上で、
3264 破産手続との関係では原則として
3265 再生手続が優先することを意識しつつ、
3266 丁寧に論ずる必要がある。
3267
3268 本問においては、
3269 低額の
3270 売上げしか見込めない再生計画内の収益弁済によるよりも、
3271 事業の継続を断念して土地を高
3272 額で売却する方が、
3273 はるかに高額の配当が見込まれるというのであるから、
3274 基本的に、
3275 破産
3276 手続によることが債権者一般の利益に適合するとして、
3277 同号の要件を満たすとの方向となろ
3278 う。
3279
3280
3281 次に、
3282 Aの事情がある場合については、
3283 事業譲渡代金の額では一般優先債権である滞納国
3284 税の全額を支払うことができない状況にあるため、
3285 このままでは再生債権の弁済ができず、
3286
3287 再生計画が作成できないおそれがあるとして、
3288 同条第3号に該当するか否かを検討すること
3289 になる。
3290
3291 解答に当たっては、
3292 @の事情がある場合と同様、
3293 同号所定の要件とその趣旨を摘示
3294 した上で、
3295 積極、
3296 消極の双方の事実を拾いつつ、
3297 丁寧に論ずる必要がある。
3298
3299 本問においては、
3300
3301 延滞税について分納の合意があることや事業譲渡代金についても増額される見込みが十分に
3302 あることに照らすと、
3303 基本的に、
3304 見込みがないことが「明らか」とはいえないとして、
3305 同号
3306 の要件は満たさないとの方向となろう。
3307
3308 なお、
3309 開始の決定をすることができるとの結論を採
3310 るのであれば、
3311 同条第1号、
3312 第2号及び第4号に該当する事情はうかがわれないことに言及
3313 する必要がある。
3314
3315
3316 〔設問2〕は、
3317 取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行が、
3318 再生手続開
3319 始後の取立てに係る取立金を銀行取引約定に基づき債務の弁済に充当することができるかど
3320 うかについて、
3321 破産手続における取扱いとの相違を含めた検討を求めるものである。
3322
3323
3324 まず、
3325 再生手続においては、
3326 商事留置権は別除権として扱われる(民事再生法第53条第
3327 1項)ものの、
3328 優先弁済権までは与えられていないことを指摘した上で、
3329 本件条項の有効性
3330 が問題となることに言及する必要がある。
3331
3332 この点については、
3333 肯定、
3334 否定の両論が考えられ
3335 るところであるが、
3336 別除権の行使として留置した取立金を法定の手続によらずに債務の弁済
3337 に充当できる旨定める銀行取引約定は、
3338 別除権の行使に付随する合意として、
3339 民事再生法上
3340 も有効であるとした判例(最判平成23年12月15日民集65巻9号3511頁[倒産判
3341 例百選<第6版>54事件])が存することを踏まえ、
3342 自らの考え方を論ずることが求められ
3343 る。
3344
3345
3346 他方、
3347 破産手続においては、
3348 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する
3349 商事留置権は、
3350 破産財団に対しては特別の先取特権とみなされる(破産法第66条第1項)こ
3351 とから、
3352 再生手続とは異なり、
3353 優先弁済権が与えられていること、
3354 商事留置権は、
3355 別除権(同
3356 法第2条第9項)に当たることから、
3357 破産手続によらないで行使することができる(同法第6
3358 5条第1項)ことを指摘することになる。
3359
3360 ただし、
3361 優先弁済権があるからといって、
3362 法律に定
3363 められた方法によらない任意処分としての弁済充当まで直ちに認められることにはならないこ
3364 とから、
3365 やはり本件条項の有効性が問題となることに言及すべきであろう。
3366
3367 この点については、
3368
3369 現行破産法制定前の判例であるが、
3370 最判平成10年7月14日民集52巻5号1261頁[倒
3371 産判例百選<第6版>53事件]がある。
3372
3373
3374 [租税法]
3375 〔第1問〕
3376 本問は、
3377 所得税法第56条における必要経費の算入主体(設問1)、
3378 代償分割の場合の代償
3379 金の取得費の算入の可否と代償金を受けた側の課税関係(設問2)、
3380 保証債務履行時の求償不
3381 - 24 -
3382
3383 能額の所得税法第64条第2項による課税所得からの除外(設問3)について問うものであ
3384 る。
3385
3386
3387 設問1では、
3388 業務用の土地に係る固定資産税が所得税法第37条第1項により必要経費に
3389 算入され得るという理解が前提となる。
3390
3391 念の為に所得税法第45条第1項各号の必要経費不
3392 算入項目に掲げられていないことを確認できるとなおよい。
3393
3394
3395 所得税法第56条に関し、
3396 弁護士夫婦事件・最判平成16年11月2日判時1883号4
3397 3頁等を題材として、
3398 事業主から配偶者等に支払われた対価の扱いについての学習は十分に
3399 なされていると思われるが、
3400 当該配偶者等が支出した必要経費に算入されるべき額について
3401 の扱いも所得税法第56条で規律されていることについて、
3402 注意を促すことが設問1の趣旨
3403 である。
3404
3405 設問1では、
3406 甲土地について所得税法第56条の適用がありDの事業所得に係る必
3407 要経費となり、
3408 乙土地についてBの不動産所得に係る必要経費となる。
3409
3410
3411 設問2は代償分割を扱う。
3412
3413 最判平成6年9月13日判時1513号97頁がP説を採って
3414 いることが実務の前提であるとはいえ、
3415 代償金の取得費算入の可否の知識より、
3416 P説とQ説
3417 とでCの譲渡益も変わってくるという租税属性の引継ぎの構造の理解の方が、
3418 受験生に求め
3419 られる。
3420
3421 そこで、
3422 判例の知識は不問とした上で、
3423 民法第909条本文を重視する法律構成(P
3424 説)と重視しない説(Q説)との違いを問うこととした。
3425
3426 また、
3427 設問2でCについて尋ね
3428 ていることが、
3429 設問2及びについてヒントとなる。
3430
3431
3432 設問2は、
3433 民法第909条本文の遡及効を重視するので、
3434 Bが相続開始時より単独で甲
3435 土地を取得したと考えることになる。
3436
3437 すると、
3438 代償金を取得費に算入する余地はなくなる。
3439
3440
3441 所得税法第60条第1項第1号の趣旨は課税の繰延べであり、
3442 Aの取得費1500万円がB
3443 に全額引き継がれる。
3444
3445 実務上は相続登記費用16万円がBの不動産所得に係る必要経費とし
3446 て扱われることもあるが、
3447 ゴルフ会員権贈与事件(右山事件)・最判平成17年2月1日判時
3448 1893号17頁及び支払利子付随費用事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号49
3449 2頁を勉強した受験生は付随費用として取得費に算入される可能性も考えるであろう。
3450
3451 相続
3452 登記費用16万円が不動産所得に係る必要経費に当たる場合、
3453 譲渡益は500万円となり、
3454
3455 必要経費ではなく取得時の付随費用に当たる場合、
3456 譲渡益は484万円となる。
3457
3458 所得税法第
3459 33条第3項及び第4項に従い、
3460 譲渡益から特別控除額50万円を控除して譲渡所得を計算
3461 し、
3462 所得税法第22条第2項第2号により長期譲渡所得(第33条第3項第2号)の半額が
3463 課税総所得金額に算入される(225万円又は217万円)。
3464
3465 なお、
3466 第1問では、
3467 租税特別措
3468 置法の適用は考えない、
3469 としている。
3470
3471
3472 設問2は、
3473 Q説に従った場合の譲渡益等の計算を問うている。
3474
3475 Q説について、
3476 代償金を
3477 取得費に算入できるという理解だけでは不十分である。
3478
3479 代償金の取得費算入が合理的である
3480 というための法律構成は、
3481 甲土地の半分のCからBへの譲渡という法律構成である、
3482 という
3483 ことに思い至るかが鍵である。
3484
3485 Q説とP説との違いは、
3486 代償金の取得費算入の可否の違いで
3487 ある、
3488 という理解は表面的であり、
3489 根源的な違いは、
3490 Aに生じていた甲土地に係る含み益を、
3491
3492 BとCとで半分ずつ引き継がせるか、
3493 B単独で引き継がせるかという違いである。
3494
3495 Q説なの
3496 にAの取得費の全額を引き継ぐとしてしまうと、
3497 代償金の取得費算入と合わせ、
3498 譲渡損失が
3499 生じてしまい、
3500 値上がりしている事案なのにおかしい、
3501 ということからも、
3502 Aの租税属性の
3503 半分をBが引き継ぐということに思い至ってほしい。
3504
3505
3506 設問2は、
3507 P説を前提とすると、
3508 甲土地のBの単独取得が想定されるので、
3509 Cに譲渡益は
3510 生じない。
3511
3512 設問2で甲土地の半分のCからBへの譲渡という法律構成が理解できれば、
3513 Q説
3514 を前提とした場合にのみCにも代償分割の際に甲土地に係る譲渡益が生じる、
3515 という理解に達
3516 するであろう。
3517
3518
3519 設問3は、
3520 所得税法第64条第2項の理解を問うている。
3521
3522 同項は、
3523 保証債務を履行するた
3524 めに資産を譲渡した場合で、
3525 求償権を行使できなかった部分がある場合、
3526 同条第1項に準じ
3527
3528 - 25 -
3529
3530 て、
3531 その部分はなかったものとみなすと規定している。
3532
3533 その趣旨は、
3534 資産の譲渡による所得
3535 をBが実質的に使うことができない、
3536 という担税力減殺要因を課税所得算定に反映させるこ
3537 とである。
3538
3539
3540 所得税法第64条第2項の適用の有無に関し、
3541 札幌高判平成6年1月27日判タ861号2
3542 29頁を重視し、
3543 本件でもBはF社の取締役であって債務不履行を予見できたであろうから、
3544
3545 同項は適用されないと論じても、
3546 又は、
3547 さいたま地判平成16年4月14日判タ1204号2
3548 99頁を重視し、
3549 Bが主債務者たるF社の取締役であるといえどもF社の判断とBの判断は同
3550 一視される訳ではないので、
3551 同項は適用されると論じても、
3552 どちらでも設問3では説得的に論
3553 じることができるであろう。
3554
3555
3556 〔第2問〕
3557 本問は、
3558 所得税における所得分類(設問1)、
3559 損害賠償金を支払った場合の必要経費該当性
3560 (設問2)、
3561 過大収入とその返金に係る法人税法上の益金及び損金の取扱い(設問3、
3562 4)、
3563
3564 退職所得に対する課税(設問5)について問うものである。
3565
3566
3567 設問1は、
3568 九州電力検針員事件・福岡地判昭和62年7月21日訟務月報34巻1号18
3569 7頁を参考にした事例である。
3570
3571 本問においては、
3572 給与所得及び事業所得について、
3573 それらの
3574 意義及び判断基準を示した上で、
3575 それを事例に当てはめることが求められる。
3576
3577 そして、
3578 問題
3579 文中には、
3580 Aが給与所得者であると認定させる方向に働く事実と、
3581 そうでない事実があるが、
3582
3583 これらをバランスよく考慮に入れて結論を出すことが求められる。
3584
3585
3586 設問2においては、
3587 Aが給与所得者であるという前提に立つか否かによって論述が分かれ
3588 る。
3589
3590 前者によれば、
3591 給与所得については必要経費の控除はないということになる。
3592
3593 後者によ
3594 れば、
3595 必要経費の意義を示した上で、
3596 それを事例に当てはめることになる。
3597
3598 その上で、
3599 所得
3600 税法及び同施行令から、
3601 重過失に基づく損害賠償金の取扱いを読み取ることが求められる。
3602
3603
3604 設問3は、
3605 相栄産業事件・最判平成4年10月29日訟務月報39巻8号1591頁を参
3606 考にした事例である。
3607
3608 この判例でも法廷意見と少数意見とで判断が分かれたところであるが、
3609
3610 本問においては、
3611 過大に支払った分が損金に算入されるか、
3612 もし算入されるとしたら返還請
3613 求権がいつの時点で益金に算入されるかを、
3614 事例に挙げた事実関係に基づいて論じることが
3615 求められる。
3616
3617 また、
3618 損失と損害賠償請求権の関係について、
3619 いわゆる同時両建説を採った大
3620 栄プラスチックス事件・最判昭和43年10月17日集民92号607頁、
3621 結論において異
3622 時両建説を採った日本美装事件・東京高判平成21年2月18日訟務月報56巻5号164
3623 4頁等も参考になるであろう。
3624
3625
3626 設問4は、
3627 設問3とは逆に、
3628 受取側の課税関係を問う。
3629
3630 ここでも、
3631 過大に受け取った分が
3632 益金に算入されるか、
3633 もし算入されるとしたら返還債務がいつの時点で損金に算入されるか
3634 を論じることになるが、
3635 支払側と受取側との違いに留意することが求められる。
3636
3637
3638 設問5は、
3639 退職所得について問う。
3640
3641 退職所得については過去にも出題されているが、
3642 今回は、
3643
3644 退職所得に対する課税方法の趣旨・目的、
3645 退職所得金額の計算及び徴収手続という、
3646 退職所得
3647 課税の基礎を理解しているか否かを問うている。
3648
3649
3650 [経済法]
3651 〔第1問〕
3652
3653
3654 本問は、
3655 本体商品と補完商品(純正品)を共に製造販売する事業者Y社が、
3656 自己の純正品
3657 が使用された場合にのみ本体商品が作動するようにして、
3658 非純正の補完商品を製造販売する
3659 事業者X社を排除することについて、
3660 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以
3661 下「独占禁止法」という。
3662
3663 )上の評価を問うものである。
3664
3665 X社が差止請求訴訟の提起を検討
3666 していることから、
3667 差止請求の根拠となる同法第24条の要件を充足するか否かを検討する
3668 - 26 -
3669
3670 こととなる。
3671
3672
3673
3674
3675 独占禁止法第24条の要件として、
3676 まず事業者であるY社の行為が、
3677 同法第19条で禁止
3678 される不公正な取引方法(同法第2条第9項)に違反する行為に該当するか否かを検討する
3679 ことになろうが、
3680 この検討に当たっては、
3681 Y社の行為が不公正な取引方法の一般指定(以下
3682 「一般指定」という。
3683
3684 )第10項(抱き合わせ販売等)又は第14項(競争者に対する取引
3685 妨害)に該当するかが問題となる。
3686
3687 いずれの適用を検討する場合であっても、
3688 それぞれの行
3689 為要件を満たすことを確認した上で、
3690 効果要件である「不当に」、
3691 すなわち公正競争阻害性
3692 の有無を検討する必要がある。
3693
3694
3695
3696
3697
3698 行為要件については、
3699 一般指定第10項を適用する場合には、
3700
3701 「商品」
3702 ・「他の商品」や「購
3703 入させ(る)」こと、
3704 一般指定第14項を適用する場合には、
3705 「競争関係」や取引を「妨害す
3706 る」ことの検討が、
3707 それぞれ必要となろう。
3708
3709 一般指定第10項の「購入させ(る)」ことに
3710 ついては、
3711 ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を
3712 余儀なくされるか否かによって判断されよう。
3713
3714
3715
3716
3717
3718 公正競争阻害性については、
3719 一般指定第10項、
3720 第14項のいずれに関しても、
3721 自由競争
3722 減殺と競争手段の不公正さが問題になり得るが、
3723 本問の事実関係の下では、
3724 主に自由競争減
3725 殺効果の有無について検討することが求められる。
3726
3727
3728 自由競争減殺効果の有無を検討するためには、
3729 まず市場を画定する必要がある。
3730
3731 市場は、
3732
3733 商品範囲(商品市場)、
3734 地理的範囲(地理的市場)のそれぞれについて、
3735 基本的に需要の代
3736 替性、
3737 必要に応じて供給の代替性を考慮して画定することになるが、
3738 問題の行為に係る取引
3739 及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定することもできよう。
3740
3741 本問の事実関係の下
3742 では、
3743 甲の購入者が甲の購入時に乙の交換費用や交換時期を十分に認識していないことや、
3744
3745 甲の購入者が乙の交換時に純正品又は非純正品を自ら選択して購入していることを適切に評
3746 価することが重要となる。
3747
3748
3749 本問において、
3750 「Y社製甲を使用するためには、
3751 取付け部分の形状等から、
3752 Y社製甲に専
3753 用の乙が必要であ」り、
3754 Y社製甲を購入した需要者にとって、
3755 Y社製甲向け乙の価格が引き
3756 上げられたとしても、
3757 他社製甲向け乙に代替することはできない。
3758
3759 仮にY社製甲向け乙の価
3760 格が引き上げられた場合に、
3761 他社製甲に代替する需要者が十分に存在すれば、
3762 自社の甲及び
3763 乙の売上げの減少を危惧して、
3764 Y社にとってそのような乙の価格引上げは合理的でなくなる
3765 が、
3766 本問の前提事実からは、
3767 ユーザーは甲の購入時点では乙の価格を考慮しないということ
3768 であって、
3769 甲をめぐる競争が乙をめぐる競争に十分な影響を与えることはなさそうである。
3770
3771
3772 そして、
3773 このように考えていくならば、
3774 Y社製甲向け乙の狭い市場が画定されそうではある。
3775
3776
3777 これとは異なり、
3778 複数メーカーがABC各社製甲向けの非純正品を製造していること等の
3779 事実関係を拾い上げた上でより広く乙の市場を検討対象市場として画定することもできよう
3780 が、
3781 その場合であっても、
3782 甲の購入時に甲の購入者が乙の交換費用等を十分に認識していな
3783 いことを、
3784 自由競争減殺効果の認定等において適切に評価することが必要である。
3785
3786
3787
3788
3789
3790 次いで、
3791 画定された市場における自由競争減殺効果を検討することになるが、
3792 自由競争減
3793 殺効果の具体的認定においては、
3794 本件行為により、
3795 非純正品メーカーにおいて、
3796 本件行為後
3797 に製造販売されたY社製甲に向けた乙の製造販売は不可能となること、
3798 本件行為前に製造販
3799 売されたY社製甲に向けた乙の製造販売は可能であるものの、
3800 甲の買換えとともに、
3801 非純正
3802 品を利用できないY社製甲の割合が大きくなっていくことをどのように評価するかが重要と
3803 なる。
3804
3805
3806 検討の対象をY社製甲向け乙市場や乙市場などとすれば、
3807 甲の製造販売について約20パ
3808 ーセントのシェアを有するにすぎないとのY社の主張については、
3809 自由競争減殺効果が発生
3810 しているのは乙の市場であって検討すべき市場を誤るものであり失当である、
3811 又は少なくと
3812 もそれら乙市場への影響とは無関係に甲の製造販売に係るシェアを評価することはできな
3813
3814 - 27 -
3815
3816 い、
3817 と言えよう。
3818
3819 甲の製造販売に係るシェアが関連市場における自由競争減殺効果の発生と
3820 どのような関係を有するのか、
3821 有さないのかを述べることが必要である。
3822
3823
3824
3825
3826 本件行為について、
3827 Y社は安全性の確保のためとも主張しており、
3828 この点を違反要件に的
3829 確に位置付けて検討する必要がある。
3830
3831 まずは安全性の確保が公正競争阻害性の判断において
3832 考慮要素となるかを検討する必要がある。
3833
3834 なお、
3835 「商品の安全性の確保は、
3836 直接の競争の要
3837 因とはその性格を異にするけれども、
3838 これが一般消費者の利益に資するものであることはい
3839 うまでもなく、
3840 広い意味での公益に係わる」として、
3841 安全性の確保を公正競争阻害性の考慮
3842 要素とした裁判例がある(大阪高判平成5年7月30日判時1479号21頁)。
3843
3844
3845 仮に安全性の確保を考慮するとして、
3846 その具体的な評価方法を示す必要がある。
3847
3848 安全性の
3849 確保の場合を含め、
3850 広く正当化事由に関しては、
3851 目的の正当性及び手段の相当性から分析す
3852 る考えのほか、
3853 目的の正当性とともに、
3854 手段の相当性に代わり、
3855 より競争制限的でない代替
3856 手段を評価する考えも存在する。
3857
3858 さらには、
3859 技術上の必要性等の合理的理由があり、
3860 かつ、
3861
3862 その必要性の範囲を超えないかを検討する考え方もあり得よう(公正取引委員会「レーザー
3863 プリンタに装着されるトナーカートリッジへのICチップの搭載とトナーカートリッジの再
3864 生利用に関する独占禁止法上の考え方」(平成16年10月21日))。
3865
3866
3867 本問では、
3868 発火事故がC社製甲向けのE社製乙に限定されたものであり、
3869 また、
3870 既に解決
3871 済みであることをどのように評価するかがポイントとなる。
3872
3873 Y社は発火事故の原因が自社に
3874 は関係しないことを認識していたとして、
3875 本件行為の真の目的は安全性の確保になかったと
3876 する評価のほか、
3877 Y社が発火事故の原因が自社に関係しないことを認識していたかは不明で
3878 あるが、
3879 仮に安全性の確保が目的であったとしても、
3880 非純正品を全面的に排除する本件行為
3881 は手段の相当性を欠くといった評価もあろう。
3882
3883
3884
3885
3886
3887 Y社の行為が、
3888 独占禁止法第19条で禁止される不公正な取引方法に該当するとしても、
3889
3890 本問において差止請求が認められるためには、
3891 同法第24条のその他の要件を充足すること
3892 が必要となる。
3893
3894 同条のその他の要件として、
3895 違反行為による「利益(の)侵害」、
3896
3897 「著しい損
3898 害」がある。
3899
3900 利益の侵害については何が利益に当たるのかを示す必要がある。
3901
3902 その上で、
3903
3904 件においてX社の売上高が大きく減少することが予想されることを適切に評価する必要があ
3905 る。
3906
3907 著しい損害の意味については、
3908 複数の考え方が存在するが、
3909 いずれの考えを採用する場
3910 合でも、
3911 本件行為後のX社によるY社製甲向け乙の製造販売が不可能になること、
3912 X社の売
3913 上高の大きな減少が予想されること、
3914 販売できないY社製甲向け乙の在庫が発生すること、
3915
3916 Y社の自発的対応が期待できないことなどを適切に評価することが必要となる。
3917
3918 差止請求が
3919 認められるとの結論もあれば、
3920 認められないとの結論もあり得よう。
3921
3922
3923
3924 〔第2問〕
3925
3926
3927 本問は、
3928 比較的高額な家庭用機器である甲製品の第1位(シェア約30パーセント)の
3929 メーカーであるX社(設問)又は第3位(シェア約20パーセント)のメーカーである
3930 Y社(設問)がそれぞれ、
3931 自己の供給する甲製品の取引先小売業者に対して用いている
3932 行為について、
3933 独占禁止法に違反するかを問うものであり、
3934 いわゆる垂直的価格制限(設
3935 問)及び垂直的非価格制限(設問)の事案である。
3936
3937
3938 X社が用いている行為は、
3939 取引先小売業者の販売価格の決定に関わるものであり、
3940 独占
3941 禁止法第2条第9項第4号イの直接取引する相手方に対する再販売価格の拘束に該当し、
3942
3943 同法第19条に違反するか否かが問題となる。
3944
3945 特に、
3946 X社は、
3947 設問の事情に示されてい
3948 るとおり、
3949 時を追って様々な手段を用いており、
3950 独占禁止法上問題となり得るものを識別
3951 し、
3952 それぞれについて検討する必要がある。
3953
3954 また、
3955 本問では、
3956 違反行為の消滅について検
3957 討することも明示的に求めている。
3958
3959
3960 これに対し、
3961 Y社が用いている行為は、
3962 取引先小売業者の販売価格の決定以外の事業活
3963
3964 - 28 -
3965
3966 動の拘束に関わるものであり、
3967 独占禁止法第2条第9項第6号ニ、
3968 一般指定第12項(拘
3969 束条件付取引)に該当し、
3970 同法第19条に違反するかが問題となる。
3971
3972
3973
3974
3975 設問及び設問のいずれにおいても、
3976 「事業者」であるX社又はY社が用いている行為
3977 が独占禁止法第2条第9項第4号イ又は一般指定第12項の定める行為要件を満たすか否
3978 かを検討することがまず必要になる。
3979
3980 行為要件を満たす場合には、
3981 独占禁止法第2条第9
3982 項第4号にいう「正当な理由がないのに」又は一般指定第12項にいう「不当に」に該当
3983 するか否かを検討することが必要である。
3984
3985 これらは、
3986 いずれも不公正な取引方法の共通の
3987 効果要件である公正競争阻害性を意味するものであり、
3988 その際には必要に応じて正当化事
3989 由についても検討することになる。
3990
3991
3992 いずれの行為についても、
3993 自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性が問題となるもの
3994 であり、
3995 特に上記両社の取引先小売業者間の競い合いが減少すること(競争回避ないし競
3996 争停止)による価格維持効果に着目することとなる。
3997
3998
3999
4000
4001
4002 設問の事情において、
4003 X社がX社製甲製品の機種ごとに希望小売価格を設定し、
4004 取引
4005 先小売業者に通知してきていることについては、
4006 「それが参考である旨明記」していること
4007 と相まって、
4008 取引先小売業者の事業活動を「拘束」するものとは考えられない。
4009
4010
4011 しかし、
4012 @平成28年4月に「希望小売価格で販売することが十分可能であることを強
4013 調する説明を加えた」こと、
4014 A令和元年10月にX社製甲製品の価格調査を実施したこと、
4015
4016 B令和2年4月に「参考である旨の記述を削除して」「販価」を通知し、
4017 価格調査を実施す
4018 ることがある旨明記したこと、
4019 C令和2年10月に販価どおりに販売するよう要請し、
4020
4021 請に反した場合の出荷制限を通知し、
4022 さらに、
4023 実際に出荷制限措置を講じたことについて
4024 は、
4025 それぞれ再販売価格の拘束の行為要件を満たすか検討する必要がある。
4026
4027 なお、
4028 Aにつ
4029 いては、
4030 再販売価格の拘束のほか、
4031 価格調査に対する回答義務を課すものとして拘束条件
4032 付取引の問題を検討することもあり得る。
4033
4034 また、
4035 Cには、
4036 一般指定第2項(その他の取引
4037 拒絶)に該当し得る行為が含まれており、
4038 再販売価格の拘束の実効性確保手段として捉え
4039 るか、
4040 あるいはそれ自体を独立の違反行為として検討することもあり得る。
4041
4042
4043 また、
4044 令和4年1月に販売価格に関する従前の通知や要請等を全て廃止するとともに、
4045
4046 改めて「参考」と明記した「希望小売価格」を通知したことについて、
4047 これが再販売価格
4048 の拘束行為の取りやめ(違反行為の終了)と認められるか否かを検討する必要がある。
4049
4050
4051 こうした検討に当たっては、
4052 和光堂事件・最判昭和50年7月10日民集29巻6号8
4053 88頁などで示された基準を提示した上で、
4054 本問の事実に当てはめることが求められる。
4055
4056
4057 その際には、
4058 X社の取引先小売業者の営業においてX社製甲製品が有する意味合いをどう
4059 評価するかも重要となる。
4060
4061 また、
4062 再販売価格の拘束行為の終了を認定したソニー・コンピ
4063 ュータエンタテインメント事件・公正取引委員会審判審決平成13年8月1日審決集48
4064 巻3頁が提示する基準も参考になる。
4065
4066
4067 次に、
4068 X社の再販売価格の拘束の行為要件を満たす行為が不公正な取引方法に該当する
4069 ためには、
4070 「正当な理由がないのに」(独占禁止法第2条第9項第4号柱書き)行われるこ
4071 と、
4072 すなわち、
4073 公正競争阻害性が認められることが必要である。
4074
4075 前述したように、
4076 再販売
4077 価格の拘束における公正競争阻害性は、
4078 自由競争減殺の観点から、
4079 特に拘束を受ける取引
4080 先の販売業者間の価格競争を消滅・停止させる点にあり、
4081 こうした価格維持効果が生じる
4082 ことを本問の事実に即して示すことになる。
4083
4084
4085 もっとも、
4086 X社の行為が再販売価格の拘束であることから、
4087 拘束を受ける取引先小売業
4088 者間の価格競争に直接的な影響を及ぼすことは明らかであり、
4089 こうした行為は市場画定や
4090 当該市場における具体的な影響を検討することを必ずしも必要とせず、
4091 特段の正当化事由
4092 がない限り、
4093 公正競争阻害性を認定することができると考えられる。
4094
4095 ただし、
4096 この考え方
4097 を採る場合には、
4098 再販売価格の拘束についてそのような判断方法を採ることが妥当である
4099
4100 - 29 -
4101
4102 ことを説明する必要がある。
4103
4104
4105 他方、
4106 価格維持効果が生じることを示す上で、
4107 検討対象とする市場を画定し、
4108 X社の行
4109 為が当該市場における価格競争に及ぼす影響を本問の事実に即して検討することも考えら
4110 れる。
4111
4112 その場合には、
4113 市場画定の必要性やその方法を説明した上で、
4114 X社製甲製品の市場
4115 又は甲製品全体の市場を画定することになる。
4116
4117 そして、
4118 X社がX社製甲製品の販売価格に
4119 係る制限を取引先小売業者に課す行為が当該市場における競争に及ぼす具体的な影響につ
4120 いて、
4121 例えば、
4122 X社や他社のシェア、
4123 X社製甲製品が小売業者の営業にとって有する意味
4124 合い、
4125 ブランド間競争及びブランド内競争の状況等に関する本問の事実に即して検討する
4126 ことが求められる。
4127
4128
4129 さらに、
4130 X社がこのような行為を用いることを正当化するような事由があるか否かを検
4131 討することとなる。
4132
4133
4134
4135
4136 設問については、
4137 Y社の行為で独占禁止法上問題となり得るものは、
4138 設問の事情か
4139 ら明らかであり、
4140 令和3年4月に、
4141 Y社製甲製品の使用方法等の説明義務条項を小売業者
4142 との取引契約に追加し、
4143 実施していることである。
4144
4145 このY社の行為が拘束条件付取引の行
4146 為要件(「事業活動を・・・拘束する条件をつけて」)を満たすかについては、
4147 前述した再
4148 販売価格の拘束についてと同様の基準により、
4149 本問の事実の下で当てはめを行うこととな
4150 る。
4151
4152
4153 また、
4154 Y社の行為が拘束条件付取引に該当するためには、
4155 一般指定第12項の「不当に」
4156 の要件を満たす必要があるところ、
4157 本問での「不当に」は、
4158 自由競争減殺の観点からの公
4159 正競争阻害性である。
4160
4161 具体的には、
4162 検討対象の行為を通じて拘束を受ける取引先の小売業
4163 者間の価格競争が制限されることにより、
4164 価格維持効果が生じるか否かを本問の事実に即
4165 して検討する必要がある。
4166
4167
4168 メーカーが自己の製品をどのような方法で販売し、
4169 最終ユーザーに届けるかについては、
4170
4171 基本的には各メーカーが自由に決定することができる事項であり、
4172 販売業者に特定の販売
4173 方法を義務付けることが直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
4174
4175 また、
4176 それによっ
4177 て販売費用が増加し、
4178 販売価格に影響することがあるとしても、
4179 全ての販売業者に義務付
4180 けること自体が販売業者間の価格競争を制限することによる価格維持効果と直ちに評価さ
4181 れるものではない。
4182
4183 他方、
4184 メーカーが販売業者の販売方法に制限を課すことをもって、
4185
4186 売業者を統制する手段とすることにより、
4187 取引先の販売業者間の競争に悪影響を及ぼすこ
4188 とも考えられる。
4189
4190
4191 Y社の行為は、
4192 Y社製甲製品の使用方法等に関するユーザー向け説明を取引先小売業者
4193 に義務付けることであり、
4194 価格に関連するものではなく、
4195 ユーザーから見ても有益なもの
4196 ともいえる。
4197
4198 Y社の行為が及ぼす競争への影響をどのように分析・評価するかが問われる。
4199
4200
4201 具体的には、
4202 化粧品の販売方法の制限に関する資生堂東京販売事件・最判平成10年1
4203 2月18日民集52巻9号1866頁によって示された、
4204 それなりの合理性と制限の同等
4205 性の基準にのっとって検討することが考えられる。
4206
4207
4208 また、
4209 拘束条件付取引一般の分析方法に沿って、
4210 検討対象となる市場を画定し、
4211 当該市
4212 場における競争への影響を本問の事実に即して検討することもできる。
4213
4214 この場合には、
4215
4216 束の具体的内容、
4217 対象となる取引の性質、
4218 ユーザーの特性、
4219 Y社や他社のシェア、
4220 Y社が
4221 説明義務を課す目的や理由、
4222 ブランド間競争及びブランド内競争の状況等を本問の事実に
4223 即して検討することが求められる。
4224
4225 特に、
4226 Y社がシェア約20パーセントの第3位のメー
4227 カーであること、
4228 Y社が取引先小売業者に課すユーザー向け説明義務が特有の機能を有す
4229 るY社製甲製品の使用方法に重点を置いたものであることに留意する必要がある。
4230
4231
4232 仮にY社の行為に価格維持効果が認められるとした場合には、
4233 Y社が説明義務を課す目的
4234
4235 やその態様に鑑みてY社の行為が正当化できるかを検討する必要がある。
4236
4237
4238
4239 - 30 -
4240
4241 [知的財産法]
4242 〔第1問〕
4243
4244
4245 設問1は、
4246 特許権侵害訴訟の相手方が被疑侵害物件ないし方法の具体的態様を明らかに
4247 しない場合に、
4248 特許法に設けられている訴訟手続上の特則についての基本的な理解を問う
4249 ものである。
4250
4251 設問2は、
4252 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲が製造方法を含む
4253 記載となっている場合における、
4254 当該発明の技術的範囲の解釈手法や、
4255 無効の抗弁の成否
4256 についての理解を問うものである。
4257
4258 設問3は、
4259 新規性喪失理由の一つである、
4260 公然実施に
4261 ついての理解を問うものである。
4262
4263 設問4は、
4264 いわゆる拡大先願についての理解を問うもの
4265 である。
4266
4267
4268
4269
4270
4271 設問1において問題となっているのは物(Y商品)の構造であるため、
4272 後述の特許法
4273 (以下「法」という。
4274
4275 )第104条は問題とはならない。
4276
4277 ここでは、
4278 法第104条の2の具
4279 体的態様の明示義務について指摘する必要がある。
4280
4281
4282
4283
4284
4285 設問1は、
4286 法第104条についての基本的な理解を問うものである。
4287
4288 Xの主張するY
4289 商品の構造についてはYは争っていないので、
4290 Xとしては、
4291 この構造を前提として、
4292 同条
4293 の下でY商品の製造方法についてYの側が立証責任を負うことを主張することとなる。
4294
4295
4296 はX発明1の新規性について調査しており、
4297 これを前提として、
4298 Xのなし得る主張につい
4299 て同条に即して簡潔に説明する必要がある。
4300
4301
4302
4303
4304
4305 設問2においては、
4306 X発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)が、
4307 製造方法(経時
4308 的要素)を含むものとなっている点を、
4309 同発明の技術的範囲の解釈においてどのように位
4310 置付けるかが問題となる。
4311
4312 これについては、
4313 最判平成27年6月5日民集69巻4号70
4314 0頁【プラバスタチンナトリウム事件】を十分に意識して論述する必要がある。
4315
4316 すなわち、
4317
4318 X発明1の特許請求の範囲に製造方法の記載があること(プロダクト・バイ・プロセス・
4319 クレームであること)を指摘した上で、
4320 このような場合の特許発明の技術的範囲の解釈に
4321 ついて同最判の示した規範を踏まえ、
4322 説得的に述べることが求められる。
4323
4324
4325
4326
4327
4328 設問2においては、
4329 Yとしては、
4330 上記最判の規範に即して、
4331 X発明1に係る特許請求
4332 の範囲(請求項1)に製造方法が記載されていること、
4333 及びX発明の出願時においてX発
4334 明1に係る物をその構造又は特性により直接特定することが容易にできたはずであること
4335 (そのような特定が不可能又はおよそ実際的でないというような事情が存在しないこと)
4336 を挙げて、
4337 X特許権1について明確性要件(法第36条第6項第2号)違反による無効の
4338 抗弁(法第104条の3第1項、
4339 法第123条第1項第4号)を主張することになる。
4340
4341
4342 れに対するXの主張としては、
4343 本問においてはX発明1に係る物の構造や特性は請求項1
4344 の記載から明らかであり、
4345 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえな
4346 いため、
4347 明確性要件違反には当たらないとするなど(知財高判平成29年12月21日【旨
4348 み成分と栄養成分を保持した無洗米事件】など参照)、
4349 上記最判を踏まえて説得的に述べる
4350 ことが求められる。
4351
4352
4353
4354
4355
4356 設問3において、
4357 Yとしては公然実施による新規性喪失(法第29条第1項第2号)を
4358 理由とする無効の抗弁(法第104条の3第1項、
4359 法第123条第1項第2号)を主張す
4360 ることとなるが、
4361 ここで特に問われているのは「公然実施」の理解である。
4362
4363 本設問の事実
4364 関係の下で、
4365 物の発明であるX発明1及び方法の発明であるX発明2それぞれにつき、
4366
4367 発明の出願前の時点において実施(法第2条第3項第1号、
4368 同項第3号)がなされている
4369 ことを条文を挙げて指摘した上で、
4370 それらが「公然」なされたといえるのかについて、
4371
4372 第29条第1項第2号の趣旨を踏まえ検討する必要がある。
4373
4374 特にX発明2との関係では、
4375
4376 X発明の出願時点において、
4377 精米の分野における通常の知識を有する者がX商品の構造か
4378 らX発明2の方法を知るための分析手段の利用可能性の有無や程度に応じて(東京地判平
4379 成17年2月10日判時1906号144頁【ブラニュート顆粒事件】参照)、
4380 論じること
4381 - 31 -
4382
4383 が必要となる。
4384
4385
4386
4387
4388 設問4においても、
4389 Yとしては無効の抗弁を主張することとなるが、
4390 ここではいわゆる拡
4391 大先願(法第29条の2)についての理解が問われている。
4392
4393 本設問の事実関係の下で、
4394 X発
4395 明1について特許を無効にするに十分な「発明」の開示がなされているといえるのかについ
4396 て、
4397 拡大先願制度の趣旨を踏まえて論じることが求められる。
4398
4399
4400
4401 〔第2問〕
4402
4403
4404 設問1は、
4405 共同著作物性、
4406 二次的著作物性、
4407 各種支分権についての理解を問うものであ
4408 る。
4409
4410 設問2は、
4411 一部の共有者の合意を得ずに共同著作物が利用された場合の当該共有者の
4412 差止請求の可否を問うものである。
4413
4414 設問3は、
4415 各種支分権及び権利制限についての理解と
4416 複製主体の認定について問うものである。
4417
4418
4419
4420
4421
4422 設問1においては、
4423 まず模型βが漫画αに描かれた甲のイラストの二次的著作物(著作
4424 権法(以下「法」という。
4425
4426 )第2条第1項第11号)に該当することを論じる必要がある。
4427
4428
4429 また、
4430 甲のイラストはXが創作したものであるが、
4431 甲のイラストを含む漫画αはXとYの
4432 共同著作物(法第2条第1項第12号)に該当することから、
4433 甲のイラストの利用につい
4434 て、
4435 Xに加え、
4436 Yの権利行使が認められるかについて論じる必要がある。
4437
4438 その上で、
4439 Yの
4440 権利行使が認められるとする場合には、
4441 XとYがそれぞれ単独で権利行使できることを指
4442 摘する必要がある(法第117条参照)。
4443
4444
4445
4446
4447
4448 設問1においては、
4449 模型βの制作について変形権(法第27条)の侵害が、
4450 模型βの
4451 譲渡について譲渡権(法第28条、
4452 法第26条の2第1項)の侵害が成立することを指摘
4453 する必要がある。
4454
4455 模型βは既にCに譲渡されており、
4456 Bに著作権侵害のおそれが認められ
4457 ないため、
4458 Bに対する請求としては、
4459 差止請求は問題とならず、
4460 損害賠償請求(民法第7
4461 09条)のみが可能となる。
4462
4463
4464
4465
4466
4467 設問1においては、
4468 フィギュアの制作行為について複製権(法第28条、
4469 法第21条)
4470 の侵害が、
4471 フィギュアの販売行為について譲渡権(法第28条、
4472 法第26条の2第1項)
4473 の侵害が成立することを指摘する必要がある。
4474
4475 解答に当たっては、
4476 Cが漫画αの存在を知
4477 らず、
4478 模型βに依拠してフィギュアを制作していることから、
4479 Cが漫画αに描かれた甲の
4480 イラストに依拠したといえるか否かについて検討することが求められる。
4481
4482 また、
4483 Cに対す
4484 る請求としては、
4485 差止・廃棄等請求(法第112条)と損害賠償請求(民法第709条)
4486 が問題となるが、
4487 Cは模型βがBの完全なオリジナル作品と思い込んでいたとあるから、
4488
4489 損害賠償請求について論じる際には、
4490 Cの過失の有無を検討することが必要となる。
4491
4492
4493
4494
4495
4496 設問2においては、
4497 Yの主張として、
4498 映画γが漫画αの二次的著作物(法第2条第1項
4499 第11号)に該当すること、
4500 漫画αはXとYの共同著作物(法第2条第1項第12号)で
4501 あり、
4502 共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使することができないから(法第
4503 65条第2項)、
4504 DがX・Y間の合意がないままに映画γをインターネット上で配信する行
4505 為は、
4506 Yの公衆送信権(法第28条、
4507 法第23条第1項)の侵害となることを論じる必要
4508 がある。
4509
4510 一方、
4511 Dの反論としては、
4512 共有著作権の行使について、
4513 各共有者は正当な理由が
4514 ない限り合意の成立を妨げることができないから(法第65条第3項)、
4515 Yの合意拒絶に正
4516 当な理由がなく、
4517 Yの差止請求は認められないことを論じる必要がある。
4518
4519 それぞれの主張
4520 の当否を論じるに当たっては、
4521 「正当な理由」の存否をどのように判断すべきか(東京地判
4522 平成12年9月28日【経済学書籍事件】など参照)、
4523 また、
4524 合意拒絶に正当な理由がない
4525 場合でも、
4526 「合意をせよ」との判決を得ることなく、
4527 侵害訴訟の場で正当な理由がないこと
4528 を抗弁として主張することができるかについて、
4529 具体的に論述することが求められる。
4530
4531
4532
4533
4534
4535 設問3においては、
4536 漫画αのコマ絵のコピーを作成する行為について複製権(法第2
4537 1条)の侵害を、
4538 当該コピーを用いてコマ絵をスライドに映し出す行為について上映権(法
4539
4540 - 32 -
4541
4542 第22条の2)の侵害を、
4543 漫画αのコマ絵の拡大コピーを受講生に配布する行為について
4544 複製権(法第21条)及び譲渡権(法第26条の2第1項)の侵害を論じる必要がある。
4545
4546
4547 解答に当たっては、
4548 Fが作画指導を目的として上記各行為を行っていることから、
4549 引用(法
4550 第32条第1項)などの権利制限規定の適用の余地がないかどうかを検討することが求め
4551 られる。
4552
4553
4554
4555
4556 設問3については、
4557 最判平成23年1月20日民集65巻1号399頁【ロクラクU事
4558 件】が提示した複製主体の判断基準を踏まえて論じる必要がある。
4559
4560 Xの主張としては、
4561 物理
4562 的に模写(複製)を行っているのは生徒であるものの、
4563 Fが模写の対象を選定し、
4564 模写のた
4565 めの施設や教材を提供し、
4566 模写の指導を通じて生徒から受講料収入を得ていることなどから、
4567
4568 漫画教室事業の社会的、
4569 経済的側面を重視すれば、
4570 Fを生徒の模写に係る複製の主体と捉え
4571 るべきであると論じることが考えられる(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199
4572 頁【クラブキャッツアイ事件】参照)。
4573
4574 次に、
4575 Fの反論としては、
4576 物理的な模写の主体は生
4577 徒であり、
4578 生徒は作画指導を受けるために任意かつ自主的に複製を行っていることから、
4579
4580 は生徒の模写に係る複製の主体となり得ないと論じることが考えられる(知財高判令和3年
4581 3月18日判時2519号73頁【音楽教室事件】参照)。
4582
4583 それぞれの主張の当否を論じる
4584 に当たっては、
4585 本設問の事実関係に即して、
4586 Fを複製の主体と評価することが妥当か否かを
4587 具体的に論述することが求められる。
4588
4589
4590
4591 [労働法]
4592 〔第1問〕
4593 本問は、
4594 配置転換命令の法的根拠、
4595 その適法性及び有期労働契約の雇止めの可否という、
4596
4597 個別的労働関係法における基本的な論点について検討することを求めるものであり、
4598 それら
4599 の論点に関する最高裁判例や関係条文から導き出される規範の正確な理解と当該規範への具
4600 体的事実の当てはめの的確さを問うものである。
4601
4602 設問1では、
4603 資格等を有する労働者のキャ
4604 リア形成への期待を配置転換命令の適法性を判断する上でどのように考慮すべきか、
4605 設問2
4606 では、
4607 更新がない旨を明示する条項(いわゆる「不更新条項」)がある有期労働契約書に労働
4608 者が署名をした場合における雇止めの問題、
4609 雇止めが不適法であった場合において通算契約
4610 期間が5年を超えるときの労働契約法第18条による期間の定めのない労働契約への転換、
4611
4612 といった近時の労働法実務において問題となる点が問われており、
4613 前記の判例・関係条文の
4614 理解を前提に、
4615 本問の事例の事実関係に照らして的確に論述をする能力を問うものである。
4616
4617
4618 設問1は、
4619 運行管理者の資格を有することや運行管理業務に従事した経験を有することが
4620 評価されてY社に採用され、
4621 採用後Y社の運行管理者として運行管理業務に従事していた労
4622 働者に対し、
4623 倉庫部門への配置転換を命ずることの適法性等を問うものである。
4624
4625
4626 本問において配置転換命令の適法性を検討するに当たっては、
4627 まずY社がX1に対して配
4628 置転換命令権を有するのか、
4629 その法的根拠は何かを明らかにすることが求められる。
4630
4631 就業規
4632 則に配置転換命令権に関する規定があり、
4633 その内容が合理的であって、
4634 かつ労働者に周知さ
4635 れていたのであれば、
4636 これが労働契約の内容になるが(労働契約法第7条本文)、
4637 勤務地限定
4638 の合意や職種業務限定の合意があれば、
4639 当該合意された内容が優先することとなる(同条た
4640 だし書)。
4641
4642 本問の事例における配置転換命令は、
4643 Y社の就業規則の規定に基づいてなされてお
4644 り、
4645 労働契約に職種や業務を限定する定めはないが、
4646 X1がY社に採用された経緯や採用時
4647 のY社の説明等を踏まえると、
4648 X1は、
4649 職種・業務を限定する合意があったと主張すること
4650 が考えられるところであり、
4651 その当否について検討することが論述のポイントの一つとなる。
4652
4653
4654 使用者が配置転換命令権を有すると認められる場合であっても、
4655 それを濫用してはならな
4656 い(労働契約法第3条第5項参照)。
4657
4658 転勤命令(勤務地変更命令)が権利濫用となる場合につ
4659 いて判示した最高裁判例(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日労判477号6頁)
4660 - 33 -
4661
4662 の判旨は、
4663 配置転換命令の事案にも妥当するものとされており(日産自動車村山工場事件・
4664 最判平成元年12月7日労判554号6頁)、
4665 それによれば、
4666 権利濫用となるのは、
4667 @業務上
4668 の必要性が存しない場合、
4669 A他の不当な動機・目的をもってなされた場合、
4670 B労働者に対し
4671 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等、
4672 特段の事情の存する場合であ
4673 る。
4674
4675 本問についても、
4676 これらの場合に該当するかを、
4677 事実を摘示して検討することとなる。
4678
4679
4680 特にBに関しては、
4681 労働者が自身の能力・経験を活用することの利益や労働者のキャリア形
4682 成への期待を、
4683 この判断枠組みの中でどのように(どの程度)考慮に入れるかという観点か
4684 らの検討をすること(安藤運輸事件・名古屋高判令和3年1月20日労判1240号5頁等
4685 参照)が、
4686 論述の重要なポイントとなる。
4687
4688
4689 設問のとおり、
4690 X1は、
4691 「運行管理業務に戻すべきである」と主張しており、
4692 本問では、
4693
4694 律上の論点として、
4695 運行管理者としての地位確認請求(就労請求権)が認められるか、
4696 ある
4697 いは、
4698 倉庫部門における就労義務のないことの確認にとどまるのかについても検討する必要
4699 があろう。
4700
4701
4702 設問2は、
4703 X2について、
4704 有期労働契約の期間満了時に契約の更新を拒否すること(いわ
4705 ゆる「雇止め」)の可否等を問うものである。
4706
4707
4708 本問において、
4709 X2は、
4710 採用時に、
4711 契約期間を通算した期間が5年を超えて更新すること
4712 はないとの説明を受け、
4713 また、
4714 令和3年5月1日から令和4年4月30日までを契約期間と
4715 する5年目の契約締結時には、
4716 更新はないことが記載された有期労働契約書に署名をしてい
4717 るものの、
4718 その期間満了時に契約が更新されることをX2が期待していたことは明らかであ
4719 り、
4720 実際、
4721 X2は、
4722 契約更新拒否は不当であり、
4723 同年5月1日以降もY社に雇用され続けて
4724 いると考えている。
4725
4726 本問は、
4727 そのようなX2の見解の当否について検討することを求めるも
4728 のであるから、
4729 労働契約法第19条の適用があるか、
4730 具体的には、
4731 同条第1号該当性、
4732 同条
4733 第2号該当性、
4734 同条柱書の要件充足性について、
4735 それぞれ本問の事案に即して検討し、
4736 論述
4737 することが、
4738 重要なポイントとなる。
4739
4740 特に、
4741 同条第2号該当性に関しては、
4742 同号に規定する
4743 「当該有期労働契約が更新されるものと期待することについての合理的な理由」の有無の認
4744 定について、
4745 積極方向に働き得る事実関係と消極方向に働き得る事実関係とがいずれも存在
4746 することから、
4747 採用時の状況、
4748 4年目の途中で職種を変更した事情、
4749 5年目の契約締結時の
4750 状況やその際のY社事務担当者の発言等、
4751 その判断に必要な事実を的確に拾い上げ、
4752 論述す
4753 ることが求められる。
4754
4755 また、
4756 本問においてX2に対する契約更新の拒否が不適法とされ、
4757
4758 働契約法第19条による更新が認められる場合には、
4759 通算契約期間が5年を超えることとな
4760 ることから、
4761 X2は、
4762 同法第18条第1項による無期労働契約への転換を主張することが考
4763 えられる。
4764
4765 本問では、
4766 この点についても検討し、
4767 論じることが求められよう。
4768
4769
4770 〔第2問〕
4771 本問は、
4772 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第7
4773 1号。
4774
4775 いわゆる働き方改革関連法)による短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改
4776 善等に関する法律(以下「短時間・有期雇用労働法」という。
4777
4778 )の改正(題名も変更)に伴い
4779 企業内の賞与制度が改定されたという事案を素材に、
4780 労働協約、
4781 就業規則、
4782 労使慣行など労
4783 働法の法源に関する基本問題についての正確な理解と、
4784 近時実務上の重要課題となっている
4785 有期・無期雇用労働者間の待遇格差の是正をめぐる論点についての法的な理解と事例に即し
4786 た判断の能力を問うものである。
4787
4788
4789 設問1では、
4790 労働協約を締結した労働組合の組合員である正社員X1が改定前の基準によ
4791 る賞与の支払を請求できるかが問われている。
4792
4793 この問いに答えるに当たっては、
4794 @令和2年
4795 の就業規則改定前の書面化されていない労使合意に労働協約としての規範的効力が認められ
4796 るか、
4797 A30年間継続して行われてきた賞与支給という取扱いに労使慣行としての法的効力
4798
4799 - 34 -
4800
4801 が認められるか、
4802 B労働条件を不利益に変更する労働協約について労働組合に協約締結権限
4803 が認められ、
4804 同協約は規範的効力をもつものといえるか、
4805 C労働条件を不利益に変更する就
4806 業規則に法的拘束力が認められるかという点が、
4807 主たる論点となる。
4808
4809
4810 @書面化されていない労使合意の効力については、
4811 労働組合法第14条の要件を満たして
4812 いない労使合意の効力についての判例の立場と同条の趣旨(都南自動車教習所事件・最判平
4813 成13年3月13日民集55巻2号395頁参照)を理解し、
4814 自らの見解を述べること、
4815 A
4816 労使慣行の法的効力については、
4817 その要件を考察し(商大八戸ノ里ドライビングスクール事
4818 件・大阪高判平成5年6月25日労判679号32頁等参照)、
4819 本件事案に適切に当てはめる
4820 こと、
4821 B労働条件を不利益に変更する協約締結権限(規範的効力)の有無については、
4822 判例
4823 の原則的な立場とその例外(朝日火災海上保険〔石堂・本訴〕事件・最判平成9年3月27
4824 日労判713号27頁等参照)を理解し、
4825 自らの見解を述べること、
4826 C労働条件を不利益に
4827 変更する就業規則の拘束力については、
4828 労働契約法第10条の周知と合理性の要件を満たし
4829 ているか否かについて本件事案における適切な判断ができること(特に、
4830 契約社員の待遇改
4831 善のために正社員の待遇を引き下げることの相当性や多数組合との合意〔労働協約〕の存在
4832 等が合理性判断にいかなる影響を与えるかについて適切に判断すること)が、
4833 それぞれ論述
4834 の重要なポイントとなる。
4835
4836
4837 設問2では、
4838 契約社員であるX2が正社員との賞与の相違(改正短時間・有期雇用労働法
4839 施行以降のもの)について何らかの請求ができるかが問われている。
4840
4841 ここでは、
4842 @短時間・
4843 有期雇用労働法第8条が禁止する不合理な待遇の相違の有無、
4844 A同条違反を理由に請求する
4845 場合の請求の根拠が主たる論点となる。
4846
4847
4848 @同条の不合理な待遇の相違の有無については、
4849 不合理性の判断枠組み、
4850 改正前の労
4851 働契約法第20条に関する判例の存在(学校法人大阪医科薬科大学〔旧大阪医科大学〕事件
4852 ・最判令和2年10月13日労判1229号77頁)とその理解、
4853 改正前の労働契約法第
4854 20条と改正後の短時間・有期雇用労働法第8条の不合理性の判断の異同、
4855 判例の事案と
4856 本件事案の異同、
4857 短時間・有期雇用労働法第14条第2項の事業主の説明義務の遵守状況
4858 と不合理性判断との関係等の点を踏まえながら、
4859 本件の賞与の相違(正社員については1.
4860 8か月分、
4861 契約社員には0.5か月分)の不合理性の有無について、
4862 同法第8条に則した適
4863 切な判断ができるかが、
4864 A短時間・有期雇用労働法第8条違反を理由とする場合の請求の根
4865 拠については、
4866 不法行為損害賠償請求との構成に言及し、
4867 労働契約上の賃金請求の可能性(ハ
4868 マキョウレックス〔差戻審〕事件・最判平成30年6月1日民集72巻2号88頁等参照)
4869 を検討することが、
4870 それぞれ論述の重要なポイントとなる。
4871
4872
4873 本問では、
4874 設問1において、
4875 集団的な労働関係を含む労働法の法源に関する基本的な理解
4876 が、
4877 設問2において、
4878 近時の法律改正と判例の動向についての正確な理解と論述の能力が問
4879 われている。
4880
4881 伝統的な労働法の枠組みとともに近時の法律や判例の動きについて正確に理解
4882 し、
4883 初見の事案に対しても適切な解釈と判断ができるという、
4884 法曹人としての基本的な能力
4885 を問う問題である。
4886
4887
4888 [環境法]
4889 〔第1問〕
4890 本問は、
4891 伝統的かつ中核的な環境管理の制度である大気汚染防止法制の仕組みの特徴に関
4892 して正確に理解していることを示した解答を求めている。
4893
4894 大気汚染防止法上の環境管理の仕
4895 組みに関しては、
4896 公害対策に典型的な手法を用いた「第2章 ばい煙の排出の規制等」のみな
4897 らず、
4898 「第2章の2 揮発性有機化合物の排出の規制等」から「第4章 大気の汚染の状況の監
4899 視等」までの汚染対策の特徴等を理解しておくことが受験生に望まれる。
4900
4901 例えば、
4902 「第2章
4903 ばい煙の排出の規制等」等の固定汚染源対策の仕組みと「第3章 自動車排出ガスに係る許容
4904 - 35 -
4905
4906 限度等」の仕組みとの対比において制度を把握する視点は、
4907 大気汚染防止法制の理解に不可
4908 欠である。
4909
4910 そして、
4911 本問においては、
4912 固定汚染源対策の法制度のなかにも性格の異なるもの
4913 が含まれる点を理解していることを示した解答が期待される。
4914
4915
4916 すなわち、
4917 大気汚染防止法は、
4918 伝統的な公害規制法制として出発したものの、
4919 公害対策が
4920 一定程度進展する一方において、
4921 ばい煙発生施設から排出される物質の汚染とは性質の異な
4922 る大気汚染リスクが顕在化したことに対応して、
4923 「第2章 ばい煙の排出の規制等」に代表さ
4924 れる強制力を伴った手法とともに、
4925 関係者の自主的取組みや情報を通じた誘導的手法を採用
4926 する「第2章の5 有害大気汚染物質対策の推進」等の性格の異なる仕組みが盛り込まれたも
4927 のとなった。
4928
4929 本問の解答に際してはこの点が理解できているか否かが重要となる。
4930
4931
4932 また、
4933 環境管理法制は、
4934 対象となる環境上の各種リスクに関する科学的な知見を踏まえた
4935 上で、
4936 環境管理の実効性・効率性、
4937 関係主体の適切な役割分担、
4938 環境管理手法のポリシーミ
4939 ックス等の見地を踏まえて法制化されることから、
4940 対象リスクに関する自然科学的な分析の
4941 成果とそれを前提に設計される管理手法の特徴に関する最低限の理解は必要とされよう。
4942
4943
4944 〔設問1〕は、
4945 上記の観点から、
4946 まず、
4947 直接的規制の手法を採用する伝統的な公害規制の
4948 仕組みである「第2章 ばい煙の排出の規制等」のなかでも、
4949 ばい煙に含まれる有害物質が大
4950 気という環境媒体に拡散しつつ人の生活圏に到達する汚染の性格を踏まえた、
4951 いおう酸化物
4952 に係る排出規制基準であるK値規制基準を取り上げた。
4953
4954
4955 K値規制基準の算定式においてはHeの2乗が採用されており、
4956 これはばい煙から排出さ
4957 れるいおう酸化物の最大着地濃度はHeの2乗と風速に反比例するとの知見に基づいたもの
4958 である。
4959
4960 解答に際してはここまでの知識は不要であるものの、
4961 ばい煙に含まれるいおう酸化
4962 物によって人の生活圏にもたらされるリスクの大きさは大気中で拡散しつつ人の生活圏に到
4963 達することから排出口が高ければ高いほど小さくなる点を説明できることが受験者に求めら
4964 れる(反比例の語を用いる必要はない)。
4965
4966 なお、
4967 設問に記したように、
4968 Heの値の算出方法及
4969 びHeの2乗が用いられた根拠に関し、
4970 記述する必要はない。
4971
4972
4973 その上で、
4974 〔設問2〕は、
4975 法令違反に対する行政命令と刑事的制裁とを用いた直接的規制の
4976 仕組みである「第2章 ばい煙の排出の規制等」について、
4977 条文を踏まえて、
4978 法令違反行為に
4979 対して行政規制と刑事的制裁とがどのような形で発動されるかに関する説明を求めている。
4980
4981
4982 大気汚染防止法の該当条文を具体的に指摘しつつ、
4983 行政処分としての命令が法令違反に発動
4984 され得ること、
4985 直罰の仕組みが設けられていることから、
4986 命令を経ずに告発され得ることを
4987 的確に説明できることが重要である。
4988
4989
4990 〔設問3〕に関しては、
4991 「第2章の5 有害大気汚染物質対策の推進」の制度について、
4992
4993 1に、
4994 この制度が、
4995 対象物質の健康リスクに関する科学的知見が不十分であるものの予防的
4996 アプローチに基づいて、
4997 関係者の自主的取組に依拠しつつ、
4998 情報を通じた誘導的手法を用い、
4999
5000 長期暴露による影響が懸念される物質が大気を媒体として人に暴露されるリスクを低減する
5001 ことを目指す制度であること、
5002 したがって、
5003 命令及び罰則等の強制力を伴う手段は採用され
5004 ていないことの説明が求められる。
5005
5006 併せて、
5007 第2に、
5008 有害大気汚染物質のなかでも、
5009 特に長
5010 期暴露の影響が懸念されることにつき一定の根拠がある指定物質に関しては、
5011 大気汚染防止
5012 法附則第9項以下に勧告や報告の求め等の規定が置かれていること、
5013 ただし、
5014 大気汚染防止
5015 法附則第10項・第11項の文言は「勧告」及び「報告の求め」であり、
5016 罰則等の適用もな
5017 いことの指摘が求められる。
5018
5019
5020 〔設問4〕においては、
5021 〔設問3〕において示した理解を前提として、
5022 行政の対応に不満を
5023 もつ事業者はいかなる訴訟上の対応を採ることができるかに関しての記述が求められる。
5024
5025
5026 おう酸化物に係る行政の対応については、
5027 「第2章 ばい煙の排出の規制等」に基づく命令が
5028 処分性を有することを前提として差止訴訟の提起が検討されるべきである。
5029
5030 ただし、
5031 設問に
5032 記したように損害賠償請求や仮の救済等に係る検討は不要である。
5033
5034
5035
5036 - 36 -
5037
5038 そして、
5039 〔設問3〕に関して述べたように、
5040 大気汚染防止法附則第9項以下の仕組みに関し
5041 ては、
5042 「第2章の5 有害大気汚染物質対策の推進」のなかの仕組みであること、
5043 大気汚染防
5044 止法附則第9項以下の文言や罰則の適用のないこと等を踏まえると、
5045 立法者はこれを強制力
5046 の伴った手段と位置付けていないものと解される。
5047
5048 よって、
5049 勧告に処分性のあることを前提
5050 して立論を行う場合には、
5051 公表を伴う勧告が法人の名誉・信用を毀損する重大な不利益を与
5052 えること等に加え、
5053 処分性を根拠付ける詳細な記述が求められよう。
5054
5055 他方、
5056 勧告が処分性の
5057 ない法定の行政指導であるとの立場を採る場合には、
5058 公法上の当事者訴訟あるいは民事訴訟
5059 が検討されることとなる。
5060
5061 公法上の当事者訴訟を検討する際には、
5062 行政事件訴訟法の改正の
5063 経緯からは確認訴訟がまず想起されることとなろうが、
5064 本件の事例においては、
5065 直截に勧告
5066 及びその公表の差止めの請求が可能であること、
5067 そして、
5068 特に勧告の公表については法人の
5069 名誉・信用を毀損するおそれのあることに留意する必要がある。
5070
5071 ただし、
5072 確認訴訟の可能性
5073 を論ずる答案も環境行政訴訟に関する一定の理解を示したものといえよう。
5074
5075 また、
5076 差止めの
5077 法的請求について、
5078 本設例においては公法上の当事者訴訟と民事訴訟とを区別する実益は大
5079 きくないと考えられるため、
5080 解答に際してこの点を論ずることまでを求めるものではない。
5081
5082
5083 〔第2問〕
5084 本問は、
5085 水質汚濁防止及び土壌汚染対策に関する法制の特徴と、
5086 双方の関係について正確
5087 に理解しているかを確認し、
5088 資料の助けを借りながら両法制の基礎にある考え方を摘出する
5089 能力を試すものである。
5090
5091 また、
5092 未規制物質によって損害が発生した水質汚濁事例に関して、
5093
5094 民法第709条の過失の有無をどのように判断するかにつき、
5095 諸要素を摘出して判断過程を
5096 明らかにする能力を問うものでもある。
5097
5098
5099 〔設問1〕は、
5100 有害物質使用特定施設について、
5101 地下水汚染防止のため、
5102 水質汚濁防止法
5103 がどのような義務付けを行っているかを確認するものである。
5104
5105
5106 〔設問2〕は、
5107 地下水汚染と土壌汚染の両方が生じた場合に、
5108 水質汚濁防止法と土壌汚染
5109 対策法のどのような措置が問題とされ、
5110 それらがどのような関係にあるかを、
5111 資料を参照し
5112 つつ、
5113 解答するよう求めるものである。
5114
5115 水質汚濁防止法第14条の3(地下水浄化措置命令)
5116 と、
5117 土壌汚染対策法第5条(調査命令)の要件は類似しているが、
5118 前者は当該地点において
5119 地下水を飲用に利用している等の状況があることを必要とするのに対し、
5120 後者の調査命令で
5121 は、
5122 土壌汚染のおそれがある地点の周辺で、
5123 地下水を飲用に利用している等の状況があれば
5124 足り(土壌汚染対策法施行令第3条第1号イ、
5125 ロ、
5126 同施行規則第30条)、
5127 汚染のある地点と、
5128
5129 地下水の飲用等の地点が離れていても命令を発出できる点で、
5130 より広く適用できると解され
5131 ている(土壌汚染対策法第7条の指示措置及び措置命令についても同様である)。
5132
5133 このように、
5134
5135 水質汚濁防止法第14条の3の地下水浄化措置命令の方が、
5136 土壌汚染対策法第5条の調査命
5137 令、
5138 第7条の指示措置・措置命令よりも要件が狭く、
5139 特別な場合であると考えられるところ
5140 から、
5141 両方が発出される場合には、
5142 水質汚濁防止法第14条の3の方が優先的に適用される。
5143
5144
5145 この点まで触れることが望ましい。
5146
5147
5148 〔設問3〕は、
5149 都道府県知事の指示に基づく汚染除去等の措置が完了した後に、
5150 土壌環境
5151 基準が強化された場合、
5152 土地所有者等に対して、
5153 同環境基準の強化を理由として、
5154 汚染除去
5155 等の追加的措置を求めることができるか、
5156 という問題を、
5157 資料を参照しつつ考察するもので
5158 ある。
5159
5160 環境法の問題は、
5161 種々の科学的問題とも関連するが、
5162 本設問は、
5163 実務的資料を基に法
5164 的な考え方を自ら導き出していく能力を試そうとするものである。
5165
5166 資料を基に、
5167 既に都道府
5168 県知事の指示に基づく汚染除去等の措置を講じた者に対しては、
5169 土壌環境基準の強化のみを
5170 理由に、
5171 当該措置の再実施(追加的措置)が求められることは一般的にはない点を指摘する
5172 ことが期待される。
5173
5174 その理由としては、
5175 行政法上の信義則と比例原則を挙げることが適切で
5176 ある。
5177
5178 ただし、
5179 土壌汚染対策法第5条第1項に基づく土壌汚染状況調査の対象となる土地の
5180
5181 - 37 -
5182
5183 基準を満たす場合には、
5184 都道府県知事は、
5185 指導により汚染の摂取経路を遮断するための措置
5186 を講じさせることや、
5187 同項の調査命令を発出することが適当であるとする点を資料から摘出
5188 してほしい。
5189
5190 その理由については、
5191 資料におけるその結論の上段に示されるところを読み込
5192 むことにより、
5193 健康被害のおそれに対する対応であることを導き出すことが期待される。
5194
5195
5196 〔設問4〕は、
5197 民法第709条の過失の有無を判断することになる。
5198
5199 本設問におけるCが未
5200 規制物質であること、
5201 他の物質との化合によって損害が発生したこと、
5202 他方で、
5203 下流に浄水場
5204 があることについてはAは知ることができたことなどの事情を摘出することが求められる。
5205
5206
5207 して、
5208 環境法の原点ともいうべき熊本水俣病第1次訴訟判決(熊本地判昭和48年3月20日
5209 判時696号15頁)における過失論などを参照しつつ、
5210 「他の物質との化合による損害」と
5211 いう、
5212 熊本水俣病事件とはやや異なる本件の特徴をどう考えるかといった点を検討することが
5213 期待される。
5214
5215 具体的には、
5216 民法第709条の過失における予見可能性及び結果回避義務違反が
5217 Aにあったかを、
5218 上記の事情を考慮しつつ判断することが求められる。
5219
5220 過失を肯定するか否か
5221 という結論だけではなく、
5222 その理由付けが極めて重要となる。
5223
5224 なお、
5225 本設問では生命・健康被
5226 害の危険はあったものの、
5227 その被害は発生しておらず、
5228 無過失責任に関する水質汚濁防止法第
5229 19条の適用はない。
5230
5231
5232 [国際関係法(公法系)
5233
5234 〔第1問〕
5235 本問は、
5236 武力不行使原則の例外に該当する個別的集団的自衛権の発動要件、
5237 政府の交替と
5238 国家の同一性、
5239 外交的保護の行使要件といった事項についての国際法上の基本的な知識と理
5240 解を確認するとともに、
5241 条約締約国間対世的な(erga omnes partes)義務の違反に係る国際司
5242 法裁判所(以下「ICJ」という。
5243
5244 )の裁判管轄権及び請求の受理可能性という応用的な事項
5245 についての理解を問うことを目的としている。
5246
5247
5248 設問1は、
5249 B国軍隊がA国領域内に侵入してきた場合に、
5250 A国がいかなる国際法上の根拠
5251 に基づき武力行使により対処できるか、
5252 そして第三国たるC国の軍隊が単独でA国内におい
5253 てB国軍に対して武力を行使し得る国際法上の根拠は何か、
5254 ということを問うものである。
5255
5256
5257 本問では、
5258 まずいかなる国際法規則が適用されるかを特定する必要がある。
5259
5260 A国、
5261 B国及び
5262 C国はいずれも国際連合(以下「国連」という。
5263
5264 )の加盟国であることから、
5265 慣習国際法規則
5266 とされている国連憲章第2条第4項の武力不行使原則の適用を前提に考え、
5267 その例外として認
5268 められる武力行使の形態の根拠を国際法規則に求めなければならない。
5269
5270 国連憲章上、
5271 武力不行
5272 使原則の例外事由は、
5273 核兵器使用の合法性事件ICJ勧告的意見(1996年)によれば、
5274
5275 連憲章第51条に基づく個別的集団的自衛権の行使と、
5276 同第42条で予定されている国連の軍
5277 事的強制措置であるが、
5278 これらのうち、
5279 A国とC国の行為がそれぞれ個別的自衛権と集団的自
5280 衛権の行使として正当化されるためにその発動要件を満たすことを論じることが求められる。
5281
5282
5283 A国が主張する個別的自衛権の行使が認められるためには、
5284 相手国による武力攻撃が存在す
5285 ること、
5286 他の手段が利用できない状況であること(必要性)、
5287 そして先行する武力攻撃に照ら
5288 して均衡のとれた自衛措置であること(均衡性)が満たされなければならない。
5289
5290 外国の正規軍
5291 が自国領域内で行う軍事活動は侵略行為に該当するのであり(侵略の定義に関する国連総会決
5292 議(1974年)第3条(a)及び(b)参照)、
5293 設例によれば、
5294 B国は既にA国領域内で「建物へ
5295 の砲撃を含む軍事活動」を行っており、
5296 これが武力攻撃に該当するとともに他の手段が利用で
5297 きるほどの時間的猶予もないことが明らかであることから、
5298 前二者の要件は充足し、
5299 「国境外
5300 に撃退」する自衛措置の内容も均衡性を満たしていることを論じることになる。
5301
5302 さらに、
5303 国連
5304 安全保障理事会への報告も国連憲章第51条の手続に従ったもので、
5305 個別的自衛権を行使した
5306 ことの証拠として捉えられるであろう。
5307
5308
5309 他方、
5310 C国が主張する集団的自衛権の行使については、
5311 ニカラグア軍事活動事件ICJ本案
5312 - 38 -
5313
5314 判決(1986年)によれば、
5315 上記の個別的自衛権の行使要件を充足するほか、
5316 被攻撃国が攻
5317 撃を受けたことを宣言し集団的自衛権を行使しようとする国に援助を要請することも要件とし
5318 て付加されている。
5319
5320 したがって、
5321 A国との関係においてA国による個別的自衛権の行使の要件
5322 が充足されている上で、
5323 C国が集団的自衛権を行使するためには被攻撃国であるA国が自ら攻
5324 撃を受けたことを宣言し、
5325 A国がC国に援助を要請することが条件となることを論じなければ
5326 ならない。
5327
5328 なお、
5329 この集団的自衛権を行使するためには、
5330 関係国間で事前に集団的自衛権の行
5331 使に関する合意を締結している必要はなく、
5332 設例にあるように、
5333 「A国とC国との間では、
5334
5335 互の安全保障や軍事協力に関する合意は締結されていなかった」ことは、
5336 C国による集団的自
5337 衛権の行使を妨げるものではない。
5338
5339
5340 設問2は、
5341 A国によるXの引渡し要請に対するD国の拒否が1984年の拷問及び他の残虐
5342 な、
5343 非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」と
5344 いう。
5345
5346 )の違反であるとして、
5347 C国がICJにD国を訴えることができることを論じるもので
5348 ある。
5349
5350 A国、
5351 C国及びD国はいずれも留保を付すことなく拷問等禁止条約の締約国となってい
5352 るので、
5353 同条約第30条に従い、
5354 C国とD国との間での交渉により解決されず、
5355 しかも仲裁の
5356 設置を要請しても6か月間その組織について合意できなかった紛争をC国が付託できることを
5357 示すことになる。
5358
5359 また、
5360 訴追か引渡しかの義務事件ICJ判決(2012年)によると、
5361 拷問
5362 等禁止条約は拷問行為の防止と処罰の確保という共通利益を有し、
5363 同条約第7条第1項にいう
5364 自国領域内に所在する被疑者を訴追するか、
5365 引渡しを要請する他の締約国に引き渡すかのいず
5366 れかを行う義務は、
5367 条約締約国間対世的な(erga omnes partes)義務として、
5368 全ての締約国に
5369 対して課されており、
5370 この義務違反に対していかなる締約国も違反の中止を求めて請求する権
5371 利を有するとされている。
5372
5373 この裁判例に従って、
5374 D国による当該義務の違反の疑いがあるとき
5375 は、
5376 同条約締約国であるC国にD国の義務違反を中止させる請求を行う権利が認められ、
5377 同条
5378 約第30条に基づきICJに紛争を付託することが可能となることを示すことになる。
5379
5380
5381 設問3は、
5382 B国によりZが受けた損害についてC国が外交的保護を行使できることを論じる
5383 ものである。
5384
5385 まず、
5386 ティノコ利権契約事件仲裁判断(1923年)が示すように、
5387 政府の変更
5388 は、
5389 たとえ国内法に違反して行われたとしても、
5390 国際法上の国家の地位に影響しないため、
5391
5392 高軍事評議会が行った収用行為もY政権の行為と同じくB国の行為とされることを確認しなけ
5393 ればならない。
5394
5395 この行為について、
5396 C国が、
5397 国籍継続の原則及び国内的救済手段完了原則とい
5398 う外交的保護の要件を満たしてその行使を行うことを論じることになる。
5399
5400 前者に関しては、
5401
5402 交的保護において国籍は被害の日から請求の正式な提出の日まで継続していることが求められ
5403 (外交的保護条文(2007年)第5条第1項参照)、
5404 C国はこれを満たすことを説明する必
5405 要がある。
5406
5407 チュニス・モロッコ国籍法事件勧告的意見(1923年)で常設国際司法裁判所が
5408 確認したように、
5409 国籍に関する問題は国内管轄事項であり、
5410 原則として各国が国内法で国籍を
5411 付与することができる。
5412
5413 ノッテボーム事件ICJ第2段階判決(1955年)は、
5414 その事案の
5415 特殊性から重国籍者の場合に適用される真正結合理論と呼ばれる実効的国籍原則を採用した
5416 が、
5417 国連国際法委員会は自然人の国籍国に関する一般的規定ではこの実効的国籍原則を採用し
5418 ておらず(上記外交的保護条文第4条参照)、
5419 B国籍を離脱した重国籍者ではないZについて
5420 は、
5421 C国国籍法によるZへの国籍付与もB国に対して有効である。
5422
5423 また後者に関しては、
5424 収用
5425 が行われた当時、
5426 最高軍事評議会が全権を掌握していたことから、
5427 同評議会による権利侵害を、
5428
5429 それより下位に位置するB国の行政機関や裁判所が救済する可能性はなかったことが推定され
5430 るため、
5431
5432 国内的救済手段は全て尽くされたとみてこの要件も充足したことを論じることになる。
5433
5434
5435 〔第2問〕
5436 本問は、
5437 ある国における逃亡犯罪人の行動を契機に、
5438 条約法上の論点(条約終了の要件)、
5439
5440 国際法の国内裁判所における適用、
5441 政治犯不引渡しといった基本的な事項に関して、
5442 国際的規
5443
5444 - 39 -
5445
5446 制の内容と事例問題に対する具体的適用についての基本的な能力を問うことを目的としてい
5447 る。
5448
5449
5450 設問1は条約終了の要件を問うものであるが、
5451 両国が条約法に関するウィーン条約(以下「条
5452 約法条約」という。
5453
5454 )の当事国であることから、
5455 条約法条約の適用が問題となる。
5456
5457 B国が犯罪
5458 人引渡条約を終了させることができるかについては、
5459 B国が締結時からの事情の根本的変化を
5460 挙げているので、
5461 これに関する条約法条約第62条の適用が問題になる。
5462
5463 同条第1項は、
5464 事情
5465 の根本的変更は条約の終了の根拠として援用することができないことを原則としつつ、
5466 例外と
5467 して、
5468 これが援用可能となるための2つの条件を示しており、
5469 これらに照らして判断すること
5470 になる。
5471
5472 また、
5473 A国に存する特定の法律を問題にしつつ重大な条約違反を主張しているので、
5474
5475 条約法条約第60条の適用が問題になる。
5476
5477 同条は「重大な条約違反」があったときに、
5478 終了・
5479 運用停止の援用を認めており、
5480 同条第3項で「重大な条約違反」となる2つのものを限定的に
5481 定義しているが、
5482 相手国への犯罪人引渡しが慣行となっていた中で、
5483 B国が見付けたA国の古
5484 くからある特定の法律の存在がこの2つに当たるのかを判断することになる。
5485
5486 また、
5487 B国の過
5488 去の行為によって、
5489 A国側から犯罪人引渡条約の終了を援用できるかを判断するに当たっても、
5490
5491 この条約法条約第60条の適用が問題になる。
5492
5493 上記と同様に、
5494 B国による条約の手続上の違反
5495 や、
5496 A国の要請に対する無視、
5497 さらに条約を履行する意思が全くないことの表明が「重大な条
5498 約違反」となるのかを、
5499 同条第3項に照らしつつ判断することになる。
5500
5501
5502 設問2は、
5503 Y及びZの立場に立ちつつ、
5504 彼(女)らが引き渡されないための条件を問うこと
5505 によって、
5506 国内的に妥当する国際法の適用について問うものである。
5507
5508 条約及び慣習国際法上の
5509 政治犯不引渡し原則を主張するためには、
5510 そもそもそれらがA国裁判所で援用可能であること
5511 が前提となる。
5512
5513
5514 本事例ではA国が日本と同様の仕方で国際法を尊重する体制を採用しており、
5515 日本における
5516 場合と同様に論ずることが求められている。
5517
5518 日本では、
5519 条約がその国について発効すると直ち
5520 に当該国家の国内法秩序においても効力を有する制度が採用されている(一般的受容方式とし
5521 て一般には知られている。
5522
5523 )。
5524
5525 また、
5526 慣習国際法についても同様に考えられている。
5527
5528 国際法規範
5529 の遵守を担保するために国内法令を制定することが日本では通常であるが、
5530 本事例では、
5531 直接
5532 に対応する法令がない。
5533
5534 また、
5535 A国内の特定の法律の一部に犯罪人の引渡しを禁止する規定が
5536 あることとの関係では、
5537 国内法秩序における国際法の位階関係が問題になるが、
5538 日本法では国
5539 際法が法律よりも上位であるとの理解が一般的であり、
5540 これを踏まえて議論することが求めら
5541 れる。
5542
5543
5544 YやZは民主化運動の過程で罪を犯したとされ、
5545 B国に引き渡されないためには、
5546 AB両国
5547 間の犯罪人引渡条約が国内法上効力を有することを前提としつつ、
5548 同条約上の「政治犯」及び
5549 慣習国際法上のそれに当たると主張することになるが、
5550 条項なり当該規範を直接に適用しよう
5551 とするのであれば、
5552 一般的には、
5553 @当該国際法規範が明確であること、
5554 A対象事項が司法機関
5555 の権限内にあること、
5556 B直接に適用する当事国の意思が検討されなくてはならないと理解され
5557 ている。
5558
5559 これを本事例に即して論ずることになる。
5560
5561
5562 とりわけ、
5563 政治犯不引渡し原則が慣習国際法の地位を獲得していると議論する場合、
5564 これと
5565 の関係も論じなくてはならない。
5566
5567 慣習国際法は不文の法であるために精確な適用には困難が生
5568 ずる(日本の代表的先例としては、
5569 シベリア抑留補償請求事件(最判平成9年3月13日民集
5570 51巻3号1233頁)がある)。
5571
5572 もっとも、
5573 国際法規範の直接の適用は当該規範が国内的効
5574 力の効果の全てではなく、
5575 YやZの立場から、
5576 政治犯不引渡し原則を援用する可能性はなお残
5577 される。
5578
5579
5580 設問3では、
5581 実際に、
5582 YとZがそれぞれ引渡対象となるかが問われているが、
5583 まずは、
5584 双方
5585 可罰性の原則を確認する必要がある。
5586
5587 これは引渡請求対象行為が実行時に請求国と被請求国の
5588 双方で同等の刑罰が科される犯罪に該当することであり、
5589 A国とB国の国内法に照らしてこれ
5590
5591 - 40 -
5592
5593 が満たされているかに言及することになる。
5594
5595 その上で、
5596 具体的に適用するに当たって、
5597 「相対
5598 的政治犯」の観念が問題になっている。
5599
5600 犯罪人のうち政治犯は引き渡してはならないとする原
5601 則(政治犯不引渡し原則)が一般的に妥当すると考えられているが、
5602 この原則の適用は個々具
5603 体的状況に依存している。
5604
5605 本事例でA国裁判所の裁判官らは日本の裁判所における同種の決定
5606 例に倣うこととしたが、
5607 日本の代表決定例は、
5608 張振海事件(逃亡犯罪人引渡審査請求事件、
5609
5610 京高決平成2年4月20日刑集44巻3号321頁(第一審))であり、
5611
5612 「政治犯」が相対的に
5613 観念されている。
5614
5615 この決定によれば、
5616 相対的政治犯罪の解釈や政治犯罪の認定範囲については、
5617
5618 事案ごとの個別事情を多角的に検討して当該行為の「政治的性質が普通犯的性質をはるかに凌
5619 いでいるか」などを明らかにして、
5620
5621 「健全な常識に従って個別的に判断」することが求められ、
5622
5623 「判断にあたって比較的重要なメルクマールになると思われるのは、
5624 差しあたり、
5625 その行為は
5626 真に政治目的によるものであったか否か、
5627 その行為は客観的に見て政治目的を達成するのに直
5628 接的で有用な関連性を持っているか否か、
5629 行為の内容、
5630 性質、
5631 結果の重大性等は、
5632 意図された
5633 目的と対比して均衡を失っておらず、
5634 犯罪が行われたにもかかわらず、
5635 なお全体として見れば
5636 保護に値すると見られるか否か等の諸点」である。
5637
5638 これらから、
5639 YとZの行為を評価すること
5640 になる。
5641
5642 同じく政治的理由を背景に犯罪者とされているものの、
5643 YとZの行為態様には明確な
5644 差異があり、
5645 それを反映して論ずることが求められている。
5646
5647
5648 [国際関係法(私法系)
5649
5650 〔第1問〕
5651 本問の〔設問1〕は、
5652 渉外性を有する成年後見開始の審判事件及び成年後見人の選任の審
5653 判事件を素材として、
5654 成年後見開始の審判事件及び成年後見人の選任の審判事件の国際裁判
5655 管轄権と成年後見開始の審判及び成年後見人の選任の準拠法に関する基本的理解と応用力を
5656 問うものである。
5657
5658 また、
5659 本問の〔設問2〕は、
5660 渉外性を有する未成年後見人の選任の事案を
5661 素材として、
5662 後見人の選任の準拠法についての理解を、
5663 本問の〔設問3〕は、
5664 渉外性を有す
5665 る遺言による贈与により遺留分が侵害されているとして遺留分侵害額に相当する金銭の支払
5666 を請求する訴えが提起された事案を素材として、
5667 遺言能力、
5668 遺言の方式、
5669 遺言による贈与の
5670 有効性、
5671 遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の準拠法についての理解を問うものである。
5672
5673
5674 〔設問1〕は、
5675 BによるAの後見開始の審判の申立て及びAの後見人の選任の申立てにつ
5676 いて、
5677 日本の家庭裁判所の国際裁判管轄権が認められるか、
5678 また、
5679 日本の家庭裁判所がいず
5680 れの申立てについても国際裁判管轄権を有すると仮定した場合に、
5681 Aの後見開始の審判及び
5682 Aの後見人の選任の準拠法がそれぞれいずれの国の法になるかを問うものである。
5683
5684
5685 まず、
5686 BによるAの後見開始の審判の申立てが、
5687 法の適用に関する通則法(以下「通則法」
5688 という。
5689
5690 )第5条の規定が定める後見開始の審判であること、
5691 また、
5692 成年被後見人となるべき
5693 者が日本に住所若しくは居所を有するとき又は日本の国籍を有するときは、
5694 日本の裁判所の
5695 国際裁判管轄権が認められることを示す必要がある。
5696
5697 本件申立てについては、
5698 Aは甲国人で
5699 あり、
5700 Aの住所は日本国内に所在すると認定し得ることから、
5701 BによるAの成年後見開始の
5702 審判の申立てについては、
5703 通則法第5条の規定に基づき、
5704 日本の家庭裁判所が国際裁判管轄
5705 権を有することとなろう。
5706
5707
5708 次に、
5709 BによるAの成年後見人の選任の申立てについて日本の家庭裁判所の国際裁判管轄
5710 権が認められるかに関しては、
5711 これについて直接定めた明文規定が存在しないため、
5712 本問で
5713 は、
5714 Aの後見人の選任の申立てについても日本の家庭裁判所に国際裁判管轄権が認められる
5715 かを検討し、
5716 その根拠について説明することが求められている。
5717
5718 例えば、
5719 成年後見に関する
5720 審判事件の国際裁判管轄権については、
5721 条理により、
5722 被後見人が日本に住所若しくは居所を
5723 有するとき又は日本の国籍を有するときは、
5724 日本の裁判所に国際裁判管轄権を認めるべきで
5725 あるとする立場や、
5726 通則法第5条と通則法第35条の規定は連動しており、
5727 通則法第5条の
5728 - 41 -
5729
5730 規定により成年後見が開始した場合には、
5731 日本法上要求される後見人の選任、
5732 辞任、
5733 解任や
5734 後見監督人の選任等の全ての国際裁判管轄権が日本の裁判所に認められるとする立場などが
5735 考えられよう。
5736
5737
5738 本問は、
5739 日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定した場合に、
5740 Aの成年後見開
5741 始の審判及びAの成年後見人の選任について、
5742 それぞれいずれの国の法によるべきかについ
5743 ても問うている。
5744
5745 まず、
5746 Aの後見開始の審判については、
5747 通則法第5条の規定に従い、
5748 日本
5749 法が準拠法となることの説明が求められている。
5750
5751 次に、
5752 Aの後見人の選任については、
5753
5754 「後見」
5755 の問題として法律関係の性質決定がされ、
5756 通則法第35条の規定によって準拠法が決定され
5757 ることを示す必要がある。
5758
5759 外国人が被後見人である場合の後見人の選任の審判については、
5760
5761 同条第2項第2号の規定によれば、
5762 「日本において当該外国人について後見開始の審判等があ
5763 ったとき。
5764
5765 」は、
5766 日本法によると定められており、
5767 本問では、
5768 日本法に従い、
5769 Aの後見人の選
5770 任を行うことを説明する必要があろう。
5771
5772
5773 〔設問2〕は、
5774 Cの後見人の選任の審判事件について日本の家庭裁判所が国際裁判管轄権
5775 を有すると仮定した場合に、
5776 DをCの後見人に選任することができるか、
5777 すなわち、
5778 未成年
5779 後見の場合の後見人の選任の準拠法の理解を問うものである。
5780
5781 Cが未成年者であるかという
5782 問題は、
5783 通則法第4条の「人の行為能力」の問題として法律関係の性質決定がされ、
5784 同条第
5785 1項の規定に従い、
5786 Cの本国法である甲国法により判断されること、
5787 甲国民法を本件事案に
5788 当てはめると、
5789 Cが未成年者であることの説明が求められている。
5790
5791 本問では、
5792 Cの父母であ
5793 るABが共に死亡しているため、
5794 Cについて親権を行う者が存在せず、
5795 DをCの後見人に選
5796 任することができるかが問題となる。
5797
5798 Cの後見人の選任の問題は、
5799 通則法第35条の「後見」
5800 の問題として法律関係の性質決定がされ、
5801 同条第1項の規定に従い、
5802 被後見人Cの本国法で
5803 ある甲国法が準拠法となることを示す必要がある。
5804
5805 甲国民法の規定によれば、
5806 未成年者に対
5807 して、
5808 親権を行う者がないときは、
5809 後見が開始するほか、
5810 未成年者の父若しくは母が死亡し
5811 ているか又は親権を喪失したときは、
5812 @祖父母、
5813 A兄、
5814 姉、
5815 Bその他の親族の順序で、
5816 特別
5817 の手続を要することなく、
5818 当然に後見人となる。
5819
5820 本問では、
5821 Cの祖母であるDはCの後見人
5822 となることができるという、
5823 実質法の本件事案への当てはめの結果を説明することが求めら
5824 れている。
5825
5826
5827 〔設問3〕の〔小問1〕は、
5828 遺言能力、
5829 遺言の方式及び遺言による贈与の有効性について
5830 の準拠法の理解を問うものである。
5831
5832
5833 まず、
5834 Aの遺言能力の有無については、
5835 遺言能力の準拠法について定める規定が通則法の
5836 いずれの規定かを検討して準拠法を決定し、
5837 実質法の本件事案への当てはめの結果を説明す
5838 ることが求められている。
5839
5840 通説的な理解に従いAの遺言能力を意思表示としての遺言の実質
5841 的有効性の問題であると解すれば、
5842 遺言能力は、
5843 通則法第37条第1項の「遺言の成立」の
5844 問題と性質決定され、
5845 遺言の成立の当時における遺言者Aの本国法である甲国法が準拠法と
5846 なること、
5847 甲国民法によれば、
5848 Aは遺言能力を有しており、
5849 意思表示としての遺言は本件で
5850 は有効に成立していることを説明する必要があろう。
5851
5852
5853 次に、
5854 遺言の方式上の有効性については、
5855 「遺言の方式」の問題と性質決定されること、
5856
5857 言は、
5858 遺言の方式の準拠法に関する法律(以下「方式法」という。
5859
5860 )第2条の規定が掲げるい
5861 ずれかの法の定める要件に合致しているときは方式上有効とされることを指摘した上で、
5862
5863 式法第2条の規定の本件事案への適用の結果を丁寧に述べ、
5864 本件遺言は、
5865 甲国民法又は日本
5866 民法の要求する方式を満たし、
5867 有効に成立していることを説明する必要がある。
5868
5869
5870 仮に、
5871 本件遺言が有効に成立しているとした場合には、
5872 本件遺言による贈与は有効に成立
5873 しているかが問題となるが、
5874 本問では、
5875 遺言による贈与の有効性の準拠法について定める規
5876 定について検討することが求められている。
5877
5878 通説的な理解に従い、
5879 遺言の内容となる法律行
5880 為の問題については、
5881 意思表示としての遺言自体の問題とは区別し、
5882 当該法律行為の準拠法
5883
5884 - 42 -
5885
5886 によると解すれば、
5887 本問では、
5888 遺言による贈与の有効性は、
5889 通則法第36条の「相続」に関
5890 する問題と性質決定され、
5891 被相続人Aの本国法である甲国法が準拠法となり、
5892 実質法の本件
5893 事案への当てはめの結果として、
5894 甲国民法によれば、
5895 本件遺言による贈与が有効に成立して
5896 いることを説明する必要があろう。
5897
5898
5899 〔設問3〕の〔小問2〕は、
5900 B及びCが主張する遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求が
5901 認められるか否かの問題の準拠法についての理解を問うものである。
5902
5903 通説的な理解では、
5904 この
5905 問題は通則法第36条の「相続」の問題と性質決定され、
5906 被相続人Aの本国法である甲国法が
5907 準拠法とされることになろう。
5908
5909
5910 〔第2問〕
5911 本問は、
5912 渉外性を有する物品売買契約の事案を素材として、
5913 財産関係事件の国際裁判管轄
5914 権、
5915 財産法領域(契約や不当利得など)における準拠法、
5916 「国際物品売買契約に関する国際連
5917 合条約」(以下「ウィーン売買条約」という。
5918
5919 )の適用範囲に関する基本的理解と応用力を問
5920 うものである。
5921
5922
5923 [設問1]は、
5924 契約債務の不履行を理由とする損害賠償請求訴訟について、
5925 被告が外国に
5926 住所を有する場合、
5927 すなわち民事訴訟法(以下「民訴法」という。
5928
5929 )第3条の2の規定に基づ
5930 く国際裁判管轄権が日本の裁判所に認められない場合において、
5931 どのような管轄原因があれ
5932 ば日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかを問うものである。
5933
5934 特に民訴法第3条の3
5935 第1号について論ずることが求められている。
5936
5937
5938 まず、
5939 本件訴えは、
5940 Yの債務不履行を理由とする損害賠償請求訴訟であるから、
5941 「契約上の
5942 債務の不履行による損害賠償の請求を目的とする訴え」(民訴法第3条の3第1号)に該当す
5943 ることを指摘した上で、
5944 「契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき」
5945 又は「契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき」に
5946 は、
5947 日本の管轄権が肯定されることを示すことが求められている。
5948
5949
5950 次に、
5951 本件の損害賠償債務は、
5952 Yの契約上の本来債務がその不履行によって転化したもの
5953 であるから、
5954 「当該債務」は、
5955 Yの物品引渡債務であること、
5956 契約中に履行地(物品引渡地)
5957 の定めはないが、
5958 準拠法として選択された甲国法(契約法第Q条)によれば、
5959 不特定物につ
5960 いては債権者の営業所で引き渡さなければならないこと、
5961 そして、
5962 本件商品が不特定物であ
5963 り、
5964 債権者Xの営業所が日本国内にあることから、
5965 「契約において選択された地の法によれば
5966 当該債務の履行地が日本国内にあるとき」に該当し、
5967 日本の裁判所の国際裁判管轄権が肯定
5968 されるとの結論が導き出されることになろう。
5969
5970
5971 なお、
5972 日本の裁判所の国際裁判管轄権が肯定されると解した場合には、
5973 日本の裁判所での
5974 訴訟が当事者間の衡平を害し、
5975 適正・迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情(民
5976 訴法第3条の9)についても検討した上で、
5977 最終的な結論を示すことが必要である。
5978
5979
5980 [設問2]の〔小問1〕は、
5981 契約の方式の準拠法の決定に関する理解を問うものである。
5982
5983
5984 まず、
5985 本件契約が消費者契約ではないため法の適用に関する通則法(以下「通則法」とい
5986 う。
5987
5988 )第10条によって準拠法を決定すべきこと、
5989 通則法第10条によれば、
5990 契約成立の準拠
5991 法(同条第1項)と行為地法(同条第2項)のいずれかの方式に適合していればよいことを
5992 指摘することが求められる。
5993
5994 そして、
5995 本件契約の場合、
5996 その成立の準拠法は、
5997 当事者が選択
5998 した甲国法である(通則法第7条)こと、
5999 Xが甲国内で滞在していたホテルから本件契約を
6000 締結していた場合(外出禁止令の場合)には、
6001 Xも甲国内から意思表示しているため、
6002 本件
6003 契約の締結地法(行為地法)は、
6004 甲国法となることを示した上で、
6005 方式準拠法である甲国法
6006 (契約法第P条)の方式要件に適合していない本件契約は無効であり、
6007 Xの主張が認められ
6008 るとの結論が導き出されることになろう。
6009
6010
6011 これに対して、
6012 Xが日本国内の自宅から意思表示していた場合(入国制限措置の場合)に
6013
6014 - 43 -
6015
6016 は、
6017 異なる法域に所在する当事者間の隔地的契約であるから、
6018 契約成立の準拠法(通則法第
6019 10条第1項)と申込み又は承諾の発信地法(同条第4項)のいずれかの方式に適合してい
6020 ればよいこと、
6021 当事者の便宜の観点からは、
6022 申込みと承諾を分解して、
6023 それぞれについて申
6024 込み又は承諾の発信地法を適用することまでは不要であり、
6025 申込みと承諾を一体として申込
6026 み又は承諾の発信地法の選択的な適用を認めれば足りることを指摘した上で、
6027 本件では、
6028
6029 込み又は承諾の発信地法は日本法であること、
6030 日本法上、
6031 原則として特別な方式は不要であ
6032 る(民法第522条第2項参照)から、
6033 本件契約は日本法上の方式要件に適合しており、
6034
6035 式上有効と解されることを示し、
6036 Xの主張が認められないとの結論が導き出されることにな
6037 ろう。
6038
6039
6040 [設問2]の〔小問2〕は、
6041 不当利得の準拠法についての理解を問うものである。
6042
6043
6044 まず、
6045 Xの支払済み代金の返還請求は、
6046 「不当利得」を理由とするものであるから、
6047 通則法
6048 第14条以下の規定によって準拠法を決定することを指摘することが求められる。
6049
6050 同条によ
6051 れば、
6052 不当利得によって生ずる債権の成立及び効力は、
6053 不当利得の原因事実発生地法による
6054 こと、
6055 本件では、
6056 Xの損失が日本で、
6057 Yの利得が甲国で、
6058 それぞれ生じていること、
6059 そして、
6060
6061 このような隔地的不当利得の場合に、
6062 損失地法と利得地法のいずれの法を準拠法と解すべき
6063 かを理由を付して解答することが求められる。
6064
6065
6066 次に、
6067 本件の不当利得が当事者間の契約に関連して生じたもの(通則法第15条)である
6068 ことを指摘した上で、
6069 契約に関連して生ずる不当利得については契約準拠法を適用するのが
6070 当事者の合理的期待にかない、
6071 契約準拠法との不一致による調整問題の発生を回避すること
6072 ができることから、
6073 むしろ契約準拠法と明らかにより密接に関連すると解されないかの検討
6074 を行い、
6075 最終的な結論を導き出すことが求められる。
6076
6077
6078 なお、
6079 本問において、
6080 不当利得ではなく、
6081 契約の効力(通則法第7条以下)と法性決定し
6082 た上で、
6083 本件契約の準拠法は、
6084 当事者が選択した甲国法であることから、
6085 裁判所が、
6086 甲国法
6087 を適用すべきとの結論を導いて解答することも考えられる。
6088
6089
6090 [設問3]は、
6091 ウィーン売買条約の適用範囲についての理解を問うものである。
6092
6093
6094 まず、
6095 ウィーン売買条約が適用されるためには、
6096 「営業所が異なる国に所在する当事者間の
6097 物品売買契約」(ウィーン売買条約第1条)であって、
6098 同条(1)(a)又は(b)の条件を満たす必
6099 要があることを指摘した上で、
6100 本件契約は物品売買契約であり、
6101 契約当事者XYの営業所は
6102 それぞれ日本と甲国に所在すること、
6103 また、
6104 日本と甲国はいずれも同条約締約国である((a)
6105 の条件を満たす)から、
6106 同条約第1条によれば、
6107 本件契約にウィーン売買条約が適用される
6108 ことを示すことが求められる。
6109
6110
6111 次に、
6112 本件商品は、
6113 Xが家族用に購入している(ウィーン売買条約第2条(a)本文)こと、
6114
6115 Xが配偶者へのプレゼントである旨をYに伝えていたことから、
6116 売主Yも家族用の購入である
6117 ことを知っていたはずである(同ただし書)ことを指摘した上で、
6118 同条約第2条によれば、
6119
6120 件契約にウィーン売買条約が適用されないことから、
6121 最終的に、
6122 日本の裁判所は、
6123 本件契約に
6124 ウィーン売買条約を適用すべきでないとの結論が導き出されることになろう。
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