1 論文式試験問題集
2 [民法・商法・民事訴訟法]
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4 - 1 -
5
6 [民
7
8 法]
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10 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
11 解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法
12 令に基づいて答えなさい。なお、民法以外の法令の適用について検討する必要はない。
13 【事実】
14 1.Aは、書画骨董品の収集を趣味とする東京在住の個人である。Bは、京都に店舗を有し、掛け
15 軸、屏風及び衝立等の表装・修理や書画骨董品の売買等を行う専門の事業者である。
16 2.Aは、令和5年1月頃、自己が所有する掛け軸甲の経年劣化が激しいことに気付き、たまたま
17 自宅を訪れていたBに甲を見せ、その修復をBに持ち掛けた。Bは、「甲は保存状態が悪く、そ
18 の修復には高額の費用が見込まれるから、考え直した方がよい。」と述べたが、Aが「甲は大事
19 な家宝だから、いくら費用が掛かっても修復したい。」と強く主張したため、これに同意するに
20 至った。
21 3.Aは、令和5年7月1日、Bとの間で、Bの店舗において、以下の内容を含む契約(以下「本
22 件請負契約」という。)を締結した。
23
24 Aは、Bに対して、甲を、その修復のため、令和5年7月15日までに預託する。
25 Bは、甲の汚損を鑑賞可能な程度にまで修復し、令和6年7月15日までにAに返還す
26 る。
27 Aは、Bに対して、報酬として250万円を甲の返還と引換えに支払う。
28 4.本件請負契約を締結するに当たり、Bは、Aに、「甲の状態を最後に確認してから半年ほど経
29 つが、その後どのように保管しているのか。現在も修復可能なのか。」と尋ね、「きちんと保管
30 しているから大丈夫だ。」との回答を得た。Bは、個人宅での保管であることから甲の現在の状
31 態に疑念を抱き、「蓋を開けてみたら修復不能なほどに傷んでいた、などと言われても知りませ
32 んよ。」と念を押した上で本件請負契約を締結した。
33 5.Aは、個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い
34 屋外の物置に放置したため、本件請負契約の締結に先立つ令和5年6月15日頃までに、甲は原
35 型をとどめないまでに腐敗し、修復することができなくなってしまった(以下「本件損傷」とい
36 う。)。
37 6.Aは、本件請負契約の交渉過程において、甲の状態を確認しておらず、Bから数回にわたって
38 「甲の状態や保管方法に問題はないか。」と問い合わせられても「問題ない。」と答えるのみで
39 放置していたため、本件請負契約を締結した時点では、本件損傷の事実を知らなかった。Aは、
40 令和5年7月13日、甲を梱包するために物置から取り出したところ、本件損傷に気付き、直ち
41 にBに連絡し、Bは自ら本件損傷を確認した。
42 7.Bは、令和5年7月2日から同月10日にかけて、甲の修復に要する材料費等の費用一切とし
43 て40万円を支払っていた。
44 8.Bは、「本件請負契約は有効に成立しており、甲の修復ができないのはAの問題である。」と
45 して、Aに対して250万円の支払を請求している。これに対して、Aは、「本件請負契約は無
46 効である。仮に有効だとしても、甲が現に修復されていない以上、金銭を支払う理由はない。」
47 と反論している。
48 〔設問1〕
49 【事実】1から8までを前提として、BのAに対する請求が認められるかどうか、認められると
50 した場合にはどのような範囲で認められるかについて、法的根拠を明示しつつ論じなさい。なお、
51 - 2 -
52
53 利息及び遅延損害金について検討する必要はない。
54 【事実】
55 9.Bは、令和5年4月27日、コレクターCとの間で、Cが所有する古美術の壺乙に関して、次
56 の内容を含む契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した上で、同日、Cから乙の引渡し
57 を受け、これをBの店舗内に展示することになった。
58
59
60 Bは、Cから引き渡された乙につき、これを無償でCのために善良なる管理者の注意義務
61 をもって管理し保管するものとする。他方で、CはBに対し、乙をBの店舗内において顧客
62 に展示し、Bの名において販売する権限を与えるものとする。
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66 Bが乙を顧客に対して販売したときは、CがBに対し乙を代金180万円で販売する旨の
67 契約が当然に成立するものとし、乙の所有権は、CからBに直ちに移転するものとする。な
68 お、BのCに対する代金の支払期限は、当該売買契約成立日の翌月末日とする。
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72 Bは、乙につき顧客に対して販売する前にCから返還請求があったときは、乙の顧客への
73 販売権限を当然に失い、直ちに、乙をCに対し返還しなければならないものとする。
74
75 10.令和5年5月初めから、Bの店舗には、顧客Dが頻繁に訪れて、展示物を鑑賞していた。なか
76 でも、Dは乙に強い関心を示し、Bにいろいろと質問をしたため、BはDの質問に答えたが、そ
77 の際、〔
78
79
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81 〕。同月25日頃、BはDに対して、200万円で乙を販売してもよいという意
82
83 向を示した。それに対してDは、しばらく考えたいと返事を留保した。
84 11.令和5年6月1日、Cは、Bの資金繰りが悪化したとの情報を入手したため、Bに対し、本件
85 委託契約の契約条項に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発し、当該通知は同日中にBに到
86 達した。しかし、Bは乙の展示を継続した。
87 12.令和5年6月2日、Bは、前記11の通知を受けたにもかかわらず、Bの店舗を訪れて乙購入の
88 意向を示したDとの間で、Bを売主、Dを買主とし、代金を200万円とする乙の売買契約を締
89 結した。Bは、乙を無償でDの自宅に後日配送するものとし、Dは、その場で代金200万円の
90 全額を支払った。売買契約時、Dは乙について、〔
91
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93
94 〕と信じていた。Bは、Dとの売買契
95
96 約が成立した直後に、Dに対し、「乙は、以後DのためにBが保管する。」と告げ、売却済みの
97 表示を施した。その後、Bは、乙を梱包してBの店舗のバックヤードに移動した。
98 13.Cが、令和5年6月3日、Bの店舗に赴いたところ、バックヤードで梱包済みの乙を発見し、渋る
99 Bを説き伏せて乙の引渡しを受け、自宅に持ち帰った。後日、Dは、Cに対し、乙の引渡しを請求し
100 た。
101 〔設問2〕
102 【事実】9から13までを前提として、次の問いに答えなさい。
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105 本文中空欄〔
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109 〕〔
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113 〕に、次の語句が入る場合に、DはCに対して、所有権に基づ
114
115 いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
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123 〕=乙の所有者がCであることは説明しなかった
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129 〕=Bが所有者である
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131 本文中空欄〔
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135 〕〔
136
137
138
139 〕に、次の語句が入る場合に、DはCに対して、所有権に基づ
140
141 いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
142
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144
145
146 〕=本件委託契約の契約書を示して、Cから委託を受けて、Bは乙の売却権限を有し
147 ている旨を説明した
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153 〕=Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有している
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157 [商
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159 法]
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161 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
162 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、会社法上の公開会社であるが、金融商品取引所にその
163 発行する株式を上場していない。甲社は、種類株式発行会社ではなく、発行可能株式総数は2万株
164 であり、発行済株式の総数は1万株(議決権の総数は1万個)である。甲社の取締役はA、B及び
165 Cの3名であり、代表取締役はAである。甲社の定款には、株主総会における議決権行使の代理人
166 の資格を甲社の株主に限る旨の定め及び取締役の員数を3名とする旨の定めがある。
167 2.乙株式会社(以下「乙社」という。)は、事業の成功により一代で巨額の財を築いたDがその資
168 産を管理するために設立した会社である。乙社の株式の全部を有するDは、乙社の唯一の取締役
169 として、乙社の管理運営を全て自ら行っている。乙社は唯一の従業員としてDの子であるEを雇
170 用しているが、Eの職務内容は乙社の決算期における書類の整理のみであり、それ以外に勤務の
171 実態はない。
172 3.乙社は、令和4年6月頃から引き続き甲社の株式1000株を有している。甲社の業績と経営方
173 針に不満を抱いているDは、乙社を代表して、甲社の代表取締役であるAに対し、甲社の経営に
174 関する意見を繰り返し述べてきたが、Aは、乙社が甲社の経営に介入してくることを快く思って
175 おらず、乙社の意見を全て無視してきた。
176 4.Dは、自らの意見を甲社の経営に反映させるために、令和5年4月10日、乙社を代表して、甲
177 社の代表取締役であるAに対し、同年6月に開催予定の甲社の定時株主総会(以下「本件総会」
178 という。)において、本件総会の終結により取締役の任期が満了するBを取締役に再任するので
179 はなく、乙社が推薦するFを新たに取締役に選任する旨の議案の要領を本件総会の招集通知に記
180 載することを請求した。
181 ところが、Aは、乙社が甲社の経営に対する介入を強めることは甲社の利益にならないと考え、
182 乙社の提案を無視することとし、これを他の取締役らに伝えることもしなかった。
183 5.甲社の代表取締役であるAは、令和5年6月12日、株主に対し、同月29日に開催予定の本件
184 総会の招集通知(以下「本件招集通知」という。)を発した。本件招集通知には、「取締役1名
185 選任の件」として、Bを取締役に選任する旨の議案が記載されていたが、乙社が提案したFを取
186 締役に選任する旨の議案の要領は記載されていなかった。
187 Dは、乙社として、本件総会の議場で、Fを取締役に選任する旨の動議を提出し、議案の説明を
188 すべきだと考えたが、スケジュールの都合上、自らが乙社を代表して本件総会に出席することはで
189 きなかったため、乙社の代理人としてEを本件総会に出席させ、動議を提出させることにした。な
190 お、Eは、甲社の株主ではない。
191 6.令和5年6月29日、本件総会が開催された。Eは、本件総会の受付において、乙社の委任状を
192 提示して、「私は乙社の従業員である。乙社を代理して本件総会に出席したい。」と述べたが、
193 受付近辺に控えていたAから「甲社の定款の定めにより、株主以外の者による代理出席は認めら
194 れない。」として出席を拒絶され、本件総会に出席することができなかった。なお、Aは、上記
195 2の事実を知っていた。
196 本件総会には、甲社の総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の
197 過半数の賛成により、Bを取締役に選任する旨の議案が可決された(以下「本件決議」とい
198 う。)。
199 〔設問1〕
200 乙社は、本件決議の取消しを求める訴えを適法に提起した。この訴えに関して、本件決議の効力
201
202 - 4 -
203
204 を争うために乙社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について、論じなさい。
205 7.乙社は、本件総会の後も、甲社の他の株主から株式を買い受けることにより保有株式数を増や
206 し、令和5年7月31日の時点で、甲社の株式を2400株有するに至っていた。また、Dは、日
207 頃から、乙社を代表して、甲社の代表取締役であるAに対し、「令和6年6月に開催予定の甲社の
208 定時株主総会では、乙社は、A及びCの取締役への再任に反対し、対立候補を擁立するつもりだ。
209 また、他の株主にも乙社の提案への賛成を呼び掛けるつもりだ。」と述べていた。
210 8.令和5年8月1日に開催された取締役会において、Aは「乙社が持株比率を増やし続けるのを放
211 置するわけにはいかない。現在、我が社に特段の資金需要があるわけではないが、長年の取引先で
212 ある丙株式会社との資本関係を強化し、経営の安定化を図るべきではないか。実は、既に丙株式会
213 社との間で内々に話をつけてある。」と提案したところ、B及びCもAの提案に賛同したため、取
214 締役全員の賛成により、丙株式会社(以下「丙社」という。)に対する第三者割当てによって新た
215 に5000株の株式を発行すること(以下「本件発行」という。)、払込金額は1株当たり10万
216 円とすること、払込期日は同月21日とすること等が決定された。
217 なお、本件発行の後に丙社が有することとなる甲社の株式の数は、6000株である。また、本
218 件発行の当時における甲社の事業及び財産の状況に鑑みると、本件発行における公正な払込金額は
219 1株当たり20万円であった。
220 9.甲社は、乙社が本件発行の計画を事前に察知するのを防ぐために、本件発行について、株主に対
221 する通知及び公告を行わなかった。丙社は、令和5年8月21日、本件発行に係る払込みを完了
222 し、これにより本件発行の効力が発生した。
223 〔設問2〕
224 上記8及び9の事実を知ったDは、乙社を代表して、本件発行の無効の訴えを適法に提起した。
225 この訴えに関して、本件発行の効力を争うために乙社の立場において考えられる主張及びその主張
226 の当否について、論じなさい。なお、上記6の本件決議の効力に関する主張については、論じなく
227 てよい。
228
229 - 5 -
230
231 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は、3:2)
232 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
233 【事例】
234 甲土地は、Xの所有である。
235 Yは、甲土地に乙建物を建築し、これを所有していた。Yは、その後、乙建物を3つの部分に
236 分けて、それぞれ、A、B、C(以下「Aら3名」という。)に賃貸した。Aら3名は、Yの承
237 諾を得て、それぞれが賃借していた建物の部分を各自増改築した。なお、増築した各部分は、そ
238 れぞれ増改築される前から存在していた部分と一体として店舗兼居宅として利用されており、増
239 築した各部分は構造的にも機能的にも建物としての独立性を欠き、それぞれ不可分の状態にあっ
240 た。
241 Xは、Yを被告として、甲土地の所有権に基づき、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを
242 求める訴え(@訴訟)を提起し、第一審では勝訴の判決を得た。その後、Yは控訴した。
243 【事実T】
244 【事例】の控訴審において、Yから、乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変
245 更され、乙建物はAら3名の所有に属するものとなっている旨の主張がされた。真実は、増築部
246 分も含めて乙建物の所有権はYに帰属していたが、Xは、乙建物は増改築によって形状が著しく
247 変更されており、増築部分も含む乙建物はAら3名の所有に属し、Yは所有しておらず、Yとの
248 間で乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを維持することは不可能であると誤認
249 して、この訴えに換えて、甲土地についてのYの賃借権の不存在を確認することを求める訴えに
250 変更した。
251 控訴審は、変更後の訴えにつき、甲土地についてYの賃借権が存在しないことを確認する判決
252 をし、その判決が確定した。しかし、その後、Yが、増築部分を含めて乙建物は自らの所有であ
253 ることを主張したので、Xは、Yに対して、甲土地の所有権に基づき乙建物を収去して甲土地を
254 明け渡すことを求める訴え(A訴訟)を提起し、他方、Aら3名に対しては、甲土地の所有権に
255 基づき乙建物から退去してその敷地部分を明け渡すことを求める訴えを提起した。
256 〔設問1〕
257 【事例】及び【事実T】の事実関係を前提に、次の設問に答えなさい。
258 Yは、判例を踏まえれば、【事実T】の下線部の訴え(A訴訟)は却下を免れないと主張してい
259 る。Yの主張の根拠を明らかにした上で、その主張の当否について、理由を付して答えよ。
260 【事実U】(【事実T】とは別の事実関係である。)
261 【事例】の第一審の判決後、かねてから乙建物を店舗兼居宅として利用したいと考えていた第
262 三者Dは、Yに対して、Xとの間で和解が成立するなどして乙建物を利用することができる状態
263 になれば借り受けたいとして、その賃借を申し入れた。Yは、Dに対して乙建物を賃貸したいと
264 考えたことから、控訴審において、Xとの和解を申し出た。裁判所から(a)X及びYは甲土地が
265 Xの所有であること及び乙建物がYの所有であることを相互に確認する、(b)XがYに甲土地を
266 賃貸することを相互に確認するなどの和解案が提示され、XY間で当該和解案どおりの内容の訴
267 訟上の和解が成立し、その旨調書に記載された。
268 その後、Aら3名は乙建物を退去し、Yは乙建物をDに賃貸した。
269
270 - 6 -
271
272 〔設問2〕
273 【事例】及び【事実U】の事実関係を前提に、次の設問に答えなさい。
274 和解交渉の際に、Yは、Xに対して、乙建物を賃貸して生計を立てていたが、現在居住している
275 丙建物が取り壊されることになり、今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいので和解に応
276 じてほしいとの虚偽の説明をし、Xは、Yの説明を信じ、やむを得ないと考えて、和解に応じるこ
277 とにした。しかし、訴訟上の和解が成立した後、Xは、丙建物が取り壊される予定はなく、Yが引
278 き続き丙建物に居住し、乙建物はDが店舗兼居宅として利用していることを知り、だまされたこと
279 に気が付いた。Xは、第一審では勝訴しており、控訴審がそのまま継続していれば、勝訴したと考
280 えている。Xとしては、Yに対して、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めたいと考えて
281 いるが、この場合には、どのような手続上の手段を採ることが考えられるか。理由を付して答え
282 よ。
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