1 令和5年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 大手新聞社Aで記者として働いていたXは、
7 編集方針等の違いからAを退社し、
8 現在は、
9 フリー
10 ジャーナリストを自称し、
11 B県を拠点に、
12 主に環境問題について取材その他の活動を行っている。
13
14
15 しかし、
16 Xの取材及び発表の手段は、
17 Aの記者だったときとは変化している。
18
19 取材の手段について
20 言えば、
21 B県には、
22 新聞社等の報道機関によって設立された取材・報道のための自主的な組織であ
23 るB県政記者クラブが存在するが、
24 同クラブは、
25 その規約上、
26 日本新聞協会加盟社とこれに準ずる
27 報道機関から派遣された県政担当記者のみを構成員としており、
28 フリージャーナリストであるXは
29 入会を認められていない。
30
31 B県庁やB県警は、
32 記者発表には、
33 B県政記者クラブに所属する報道機
34 関の記者のみに出席を認めているため、
35 Xは出席することができない。
36
37 また、
38 Xの発表の場は主に
39 インターネットとなり、
40 自らの関心に応じて取材した内容を動画サイトに投稿し、
41 閲覧数に応じて
42 支払われる広告料によって収入を得ている。
43
44 環境問題に鋭く切り込むXの動画は若い世代を中心に
45 関心を集め、
46 インフルエンサーとして認識されつつある。
47
48 さらに、
49 Xは、
50 これまでに取材・投稿し
51 た内容に基づくノンフィクションの著作1冊を公表している。
52
53
54 Xは、
55 森林破壊に関する取材の過程で、
56 SDGsに積極的にコミットしていることで知られる家
57 具メーカー甲が、
58 実はコストを安く抑えるために、
59 濫開発による森林破壊が国際的に強い批判を受
60 けているC国から原材料となる木材を輸入し、
61 日本国内で加工し製品化しているのではないかと考
62 え、
63 甲に取材を申し入れた。
64
65 しかし、
66 甲は、
67 輸入元は企業秘密に当たるので回答できないとして、
68
69 これを拒否した。
70
71 そこでXは、
72 半年前に甲を退社し、
73 現在は間伐材を活用したエコロジー家具の工
74 房を開いている元従業員乙に取材を申し入れた。
75
76 乙は当初、
77 「退職していても守秘義務があるから
78 何も話せない。
79
80 」と言い、
81 取材に応じることを断っていた。
82
83 しかし、
84 Xは乙の工房に通い詰めたば
85 かりか、
86 乙が家族と住む自宅にまで執ように押し掛け、
87 「あなたが甲の行為を黙認することは、
88
89 境破壊に手を貸すのも同然だ。
90
91 保身のためなら環境などどうなっても良いという、
92 あなたのそんな
93 態度が世間に知れたら、
94 エコロジー家具の看板にも傷がつく。
95
96 それでいいのか。
97
98 」などと強く迫
99 り、
100 エコフレンドリーという評判が低下し工房経営に悪影響が及ぶことを匂わせた。
101
102 そこで乙は、
103
104 最終的には、
105 名前を仮名にすること及び画像と音声を加工することを条件に、
106 Xの求めに応じてイ
107 ンタビューを受け、
108 甲はC国から原材料を輸入していると語った。
109
110 Xは、
111 このインタビューに基づ
112 き、
113 「SDGsを標榜する甲の裏の顔」と題する動画を作成し、
114 動画サイトに投稿した。
115
116 動画に
117 は、
118 乙が特定されない加工が施されていたが、
119 Xが繰り返し取材をし、
120 取材対象者に強く証言を迫
121 る様子が映っていた。
122
123 この動画は反響を呼び、
124 その後、
125 マスコミ各社が後追い報道を行ったことも
126 あって、
127 濫開発による森林破壊に加担しているとして甲の製品の不買運動が起こるなどの影響をも
128 たらした。
129
130
131 甲は、
132 労働者との間に守秘義務契約を交わしており、
133 同契約書には、
134 原材料の輸入元を含む取引
135 先の情報は守秘義務の対象となる企業秘密に含まれること、
136 守秘義務の対象となる情報は、
137 退職後
138 においても、
139 開示、
140 漏えい又は使用しないことが明記されている。
141
142 同契約書によれば、
143 守秘義務に
144 反した場合は損害を賠償することとされている。
145
146
147 Xの作成した動画を見た甲は、
148 乙が情報を漏えいしたと考え、
149 乙に対して守秘義務違反に基づく
150 損害賠償請求訴訟を提起し、
151 その訴訟においてXを証人として尋問することを求め、
152 裁判所はこれ
153 を認めた。
154
155 Xは、
156 証人尋問においてインタビューに応じた者の名前を問われたが、
157 民事訴訟法第1
158 97条第1項第3号所定の職業の秘密に該当するとして、
159 証言を拒んだ。
160
161 これに対し甲は、
162 Xの証
163 言拒絶は認められないと主張している。
164
165
166 この証言拒絶について、
167 Xの立場から憲法に基づく主張を述べた上で、
168 それに対して想定される
169
170 反論や関連する判例を踏まえて、
171 あなた自身の見解を述べなさい。
172
173
174
175 (出題の趣旨)
176 本問は、
177 フリージャーナリストが民事訴訟において取材源について証言を求めら
178 れた際にそれを秘匿することについて、
179 憲法上の根拠の有無及び保護の範囲を問う
180 ものである。
181
182 この問いに答えるためには、
183 報道を行う上で不可欠の前提である取材
184 の自由及び取材源秘匿について、
185 それを享有する主体の範囲を含めて、
186 判例及び学
187 説の正確な理解とそれを事案に適用する能力とが必要である。
188
189
190 第一に問われるのは、
191 取材の自由及び取材源秘匿の憲法上の位置付けである。
192
193
194 例(博多駅事件(最大判昭和44年11月26日刑集23巻11号1490頁))
195 は、
196 報道機関の報道は国民の知る権利に奉仕するものであり、
197 事実の報道の自由
198 は、
199 表現の自由を規定した憲法第21条の保障の下にあるとする。
200
201 取材の自由はそ
202 の不可欠の前提であり、
203 判例は「憲法21条の精神に照らし、
204 十分尊重に値いす
205 る」と述べる。
206
207 そのため、
208 学説においては、
209 憲法第21条は取材の自由を直接保障
210 していないとするものもあるが、
211 表現の自由の一つとして憲法第21条の保障を受
212 けるとする見解が有力である。
213
214 また、
215 取材源秘匿については「取材の自由を確保す
216 るために必要なものとして、
217 重要な社会的価値を有する」と認められている(NH
218 K記者証言拒絶事件(最判平成18年10月3日民集60巻8号2647頁))。
219
220
221 ただし、
222 上記の各判例は、
223 いずれも「報道機関」を対象としたものであり、
224 フリ
225 ージャーナリストの位置付けは、
226 判例上明確に示されていない。
227
228 そこで、
229 その点を
230 どう判断するかが第二の論点となる。
231
232 報道は国民の知る権利に奉仕するもので、
233
234 のために、
235 取材の自由は「報道機関」に対して特に認められたものである。
236
237 しか
238 し、
239 「報道機関」の範囲をどう捉えるかは議論の余地がある。
240
241 Xのようなフリージ
242 ャーナリストに取材の自由の保障が及ばないとすれば、
243 そうした区分の合理性が問
244 題となり、
245 実質的に報道機関としての性質を備えているかで判断するとすれば、
246
247 「報道機関」としての性質をどう捉えるかが問題となる。
248
249
250 第三に、
251 本問では、
252 フリージャーナリストは、
253 取材相手に対して民事上の守秘義
254 務契約があると知りながら、
255 それに反する行為を強く迫っており、
256 これが正当な取
257 材活動に当たるか否かが問題となる。
258
259 この点については、
260 外務省秘密電文漏洩事件
261 (最決昭和53年5月31日刑集32巻3号457頁)における「報道機関といえ
262 ども……取材の手段・方法が……一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、
263
264 その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、
265 取材対象者の個人と
266 しての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認す
267 ることのできない態様のものである場合にも、
268 正当な取材活動の範囲を逸脱し違法
269 性を帯びる」との判示が参考になる。
270
271 本問は、
272 刑罰法令違反ではなく、
273 民事上の守
274 秘義務違反が問題となる事例であるが、
275 上記判旨を踏まえ、
276 かつ、
277 本問で事実とし
278 て示された取材の態様に照らして判断を示す必要がある。
279
280
281 最後に、
282 民事訴訟法第197条第1項第2号は一定の職業について、
283 職務上知り
284 得た事実で黙秘すべきものであることを理由とする証言拒絶を認め、
285 さらに、
286 同項
287 第3号で概括的に「技術又は職業の秘密に関する事項」について証言拒絶を認めて
288
289 いる。
290
291 フリージャーナリストは同項第2号に列挙された職業には該当しないため、
292
293 同項第3号による保護が及ぶかどうかが問題となる。
294
295 これについて、
296 判例(NHK
297 記者証言拒絶事件)は「職業の秘密に当たる場合においても……直ちに証言拒絶が
298 認められるものではなく、
299 そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認め
300 られ」、
301 「保護に値する秘密であるかどうかは、
302 秘密の公表によって生ずる不利益
303 と証言の拒絶によって犠牲となる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せ
304 られる」とした上で、
305 「報道関係者の取材源は、
306 一般に、
307 それがみだりに開示され
308 ると、
309 報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、
310 将来にわたる自
311 由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、
312 報道機関の業務に深刻な影響を与え
313 以後その遂行が困難になると解されるので、
314 取材源の秘密は職業の秘密に当たる」
315 としている。
316
317 上記判旨をも踏まえて、
318 結論を示す必要がある。
319
320
321
322 [行政法]
323 A市では、
324 浄化槽(便所と連結してし尿等を処理し、
325 公共下水道以外に放流するための設備又は
326 施設をいう。
327
328 )の設置による便所の水洗化が進んだ昭和50年代に、
329 それまで十数社存在していた
330 し尿収集業者がB、
331 Cの2社に集約され、
332 それ以後、
333 当該2社が浄化槽汚泥の収集運搬に従事して
334 きた。
335
336 一般に、
337 浄化槽汚泥の発生量は浄化槽の設置世帯数に応じてほぼ一定しており、
338 また、
339 その
340 収集運搬に支障が生じると、
341 衛生状態が悪化し、
342 住民の健康と生活環境に被害が生じるおそれがあ
343 る。
344
345 そのためA市は、
346 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。
347
348 )第6条に規定す
349 る一般廃棄物処理計画に当たる計画(以下「旧計画」という。
350
351 )の中で、
352 「一般廃棄物の適正な処
353 理(中略)を実施する者に関する基本的事項」(同条第2項第4号)として、
354 「一般廃棄物(浄化
355 槽汚泥)の収集運搬についてはB、
356 Cの2社に一般廃棄物収集運搬業の許可を与えてこれを行わせ
357 る。
358
359 」と記載するとともに、
360 「大幅な変動がない限り、
361 新たな許可は行わないものとする。
362
363 」と記
364 載していた。
365
366 その結果、
367 この2社体制の下で、
368 A市の区域内で発生する浄化槽汚泥の量に対してお
369 よそ2倍の収集運搬能力が確保され、
370 適切な収集運搬体制が維持されていた。
371
372 A市では、
373 公共下水
374 道の普及が十分でない中、
375 便所のくみ取り式から水洗式への改修が進んでいるため、
376 浄化槽の設置
377 世帯数は微増しているが、
378 将来の人口及び総世帯数は減少が予想されているため、
379 旧計画中の「発
380 生量及び処理量の見込み」(同項第1号)においては、
381 浄化槽汚泥について、
382 今後は発生量及び処
383 理量の減少が見込まれる旨記載されていた。
384
385 BとCは、
386 過当競争の結果として経営状態が悪化し、
387
388 それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避することで、
389 その適正な運営を継続
390 的かつ安定的に確保するため、
391 それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。
392
393
394 そうした中、
395 浄化槽汚泥の処理を含む公共サービスへの競争原理の導入を主張して当選した新A
396 市長は、
397 浄化槽の設置件数の増加が予想されること、
398 及び競争原理を導入する必要性を主張して、
399
400 それまで旧計画に定められてきた上述のB、
401 Cの2社体制と新たな許可をしない旨の記述を削除
402 し、
403 「一般廃棄物(浄化槽汚泥)収集運搬業にあっては、
404 競争性を確保するため、
405 浄化槽の設置件
406 数の推移に応じて新規の許可を検討する。
407
408 」との記載を追加する内容で、
409 旧計画を改訂した(以
410 下、
411 旧計画を改訂したものを「新計画」という。
412
413 )。
414
415 さらに、
416 旧計画の基礎とされた将来の人口及
417 び総世帯数の減少予測は新計画においても維持されているにもかかわらず、
418 新計画中の「発生量及
419 び処理量の見込み」において、
420 浄化槽の設置件数の増加に伴い、
421 浄化槽汚泥について、
422 発生量及び
423 処理量の大幅な増加が見込まれる旨記載された。
424
425
426 令和2年4月1日付けで、
427 新A市長は、
428 Dの申請に基づき、
429 法第7条第2項に基づく政令が一般
430 廃棄物収集運搬業の許可の有効期間を2年と定めていることに従い、
431 期限を令和4年3月31日と
432 する一般廃棄物(浄化槽汚泥)収集運搬業の許可(以下「本件許可」という。
433
434 )をした。
435
436 Dの代表
437 者はBの代表者の実弟であり、
438 従来、
439 一般廃棄物収集運搬業に従事した経験はなかった。
440
441 Dの営業
442 所所在地は、
443 Bの営業所所在地と同一の場所になっており、
444 D単独の社屋等は存在せず、
445 Dの代表
446 者はBの営業所内で執務を行っていた。
447
448 さらに、
449 BとDは業務提携契約を締結し、
450 その中で、
451 Bが
452 雇用する人員が随時Dに出向すること、
453 Bが保有している運搬車をDも使用し得ることが定められ
454 ていた。
455
456
457 令和2年4月以降、
458 Dは従来Cが担当していた区域においてCからの乗換客を獲得しつつあり、
459
460 それによりCの売上げは徐々に減少している。
461
462 そこで、
463 Cは、
464 同年9月30日、
465 本件許可の取消訴
466 訟(以下「本件取消訴訟」という。
467
468 )を提起した。
469
470
471 なお、
472 法及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」の抜粋を【資料】として掲げるの
473 で、
474 適宜参照しなさい。
475
476
477
478 〔設問1〕
479
480
481 Cに本件取消訴訟における原告適格は認められるか、
482 関係する法令の規定を挙げながら、
483 検討
484 しなさい。
485
486 なお、
487 解答に当たっては、
488 市町村において既存の一般廃棄物収集運搬業者によって適
489 正な収集及び運搬がされていることを踏まえて法第6条に規定する一般廃棄物処理計画が策定さ
490 れている場合には、
491 新規の一般廃棄物収集運搬業の許可申請を法第7条第5項第2号の要件を充
492 足しないものとして不許可とすることが適法と解されていることを前提にしなさい。
493
494
495
496
497
498 本件取消訴訟係属中に令和4年3月31日が経過し、
499 同年4月1日付けで本件許可が更新され
500 た。
501
502 A市は、
503 同年3月31日の経過により本件許可は失効し、
504 本件取消訴訟の訴えの利益は失わ
505 れたと主張している。
506
507 本件取消訴訟の訴えの利益は肯定されると主張したいCとしては、
508 どのよ
509 うな主張をすることが考えられるか、
510 関係する法令の規定を挙げながら、
511 検討しなさい。
512
513 なお、
514
515 解答に当たっては、
516 Cに原告適格が認められることを前提にしなさい。
517
518
519
520 〔設問2〕
521 A市は、
522 本件取消訴訟において、
523 本件許可は新計画に適合していること、
524 法第6条に規定する一
525 般廃棄物処理計画の策定及び内容の変更についてはA市長に裁量が認められており、
526 新計画の内容
527 はその裁量の範囲内であること、
528 並びにDに事業遂行能力がある以上、
529 自由な参入を認めざるを得
530 ないことを主張している。
531
532 これに対し、
533 法第7条第5項第2号及び第3号の各要件に関して、
534 Cは
535 本件許可の違法事由としてどのような主張をすることが考えられるか、
536 検討しなさい。
537
538 なお、
539 解答
540 に当たっては、
541 本件取消訴訟が適法であることを前提にしなさい。
542
543
544
545 【資料】
546
547
548 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
549
550 (目的)
551 第1条
552
553 この法律は、
554 廃棄物の排出を抑制し、
555 及び廃棄物の適正な分別、
556 保管、
557 収集、
558 運搬、
559 再生、
560
561
562 処分等の処理をし、
563 並びに生活環境を清潔にすることにより、
564 生活環境の保全及び公衆衛生の向
565 上を図ることを目的とする。
566
567
568 (一般廃棄物処理計画)
569 第6条
570
571 市町村は、
572 当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以下「一般廃棄物処理計
573
574 画」という。
575
576 )を定めなければならない。
577
578
579
580
581 一般廃棄物処理計画には、
582 環境省令で定めるところにより、
583 当該市町村の区域内の一般廃棄物の
584 処理に関し、
585 次に掲げる事項を定めるものとする。
586
587
588
589
590 一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み
591
592
593
594 一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項
595
596
597
598 (略)
599
600
601
602 一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項
603
604
605
606 (略)
607
608 3・4
609
610 (略)
611
612 (市町村の処理等)
613 第6条の2
614
615 市町村は、
616 一般廃棄物処理計画に従つて、
617 その区域内における一般廃棄物を生活環境の
618
619 保全上支障が生じないうちに収集し、
620 これを運搬し、
621 及び処分(中略)しなければならない。
622
623
624 2〜7
625
626 (略)
627
628 (一般廃棄物処理業)
629 第7条
630
631 一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、
632 当該業を行おうとする区域(中
633
634 略)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。
635
636 (以下略)
637
638
639 前項の許可は、
640 1年を下らない政令で定める期間ごとにその更新を受けなければ、
641 その期間の経
642 過によつて、
643 その効力を失う。
644
645
646
647
648
649 前項の更新の申請があつた場合において、
650 同項の期間(以下この項及び次項において「許可の有
651 効期間」という。
652
653 )の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、
654 従前の許可は、
655
656 許可の有効期間の満了後もその処分がされるまでの間は、
657 なおその効力を有する。
658
659
660
661
662
663 前項の場合において、
664 許可の更新がされたときは、
665 その許可の有効期間は、
666 従前の許可の有効期
667 間の満了の日の翌日から起算するものとする。
668
669
670
671
672
673 市町村長は、
674 第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなけれ
675 ば、
676 同項の許可をしてはならない。
677
678
679
680
681 当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること。
682
683
684
685
686
687 その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
688
689
690
691
692
693 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、
694 かつ、
695 継続して行うに足
696 りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
697
698
699
700
701
702 (略)
703
704 6〜16
705
706 (略)
707
708
709
710 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
711
712 (一般廃棄物収集運搬業の許可の基準)
713 第2条の2
714
715 法第7条第5項第3号(中略)の規定による環境省令で定める基準は、
716 次のとおりとす
717
718 る。
719
720
721
722
723 施設に係る基準
724
725
726 一般廃棄物が飛散し、
727 及び流出し、
728 並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車、
729 運搬船、
730
731 搬容器その他の運搬施設を有すること。
732
733
734
735
736
737
738 (略)
739
740 申請者の能力に係る基準
741
742
743 一般廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。
744
745
746
747
748
749 一般廃棄物の収集又は運搬を的確に、
750 かつ、
751 継続して行うに足りる経理的基礎を有するこ
752 と。
753
754
755
756 (出題の趣旨)
757 本問は、
758 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。
759
760 )に基づく一
761 般廃棄物収集運搬業の許可について、
762 新規参入者に対する同許可(以下「本件許
763 可」という。
764
765 )に対し既存の許可事業者が取消訴訟を提起するという設例の下で、
766
767 競業者の原告適格、
768 更新制を採っている許可制に係る取消訴訟の訴えの利益の存否
769 に関する基本的な知識・理解を問うと同時に、
770 本案での主張を判例及び参照条文か
771 ら組み立てる力を問う趣旨の問題である。
772
773
774 〔設問1〕(1)は、
775 最判平成26年1月28日民集68巻1号49頁を手掛か
776 りにして、
777 いわゆる競業者の原告適格を問うものである。
778
779 問題文中に示された一般
780 廃棄物収集運搬業務の性質を前提として、
781 一般廃棄物処理は市町村の事務であるこ
782 と(法第6条の2第1項)、
783 他の要件と並んで、
784 一般廃棄物処理業は市町村による
785 処理が困難であり(法第7条第5項第1号)、
786 かつ一般廃棄物処理計画に適合して
787 いる場合(同項第2号)にのみ許可されること、
788 一般廃棄物処理計画には一般廃棄
789 物の発生量及び処理量の見込み(法第6条第2項第1号)、
790 並びに一般廃棄物の適
791 正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項(同項第4号)等が定められる
792 こと等の制度の仕組みを踏まえ、
793 本件許可については、
794 許可業者の濫立等によって
795 事業の適正な運営が害されることのないよう、
796 一般廃棄物処理業の需給状況の調整
797 が図られる仕組みが設けられていること、
798 それゆえ既存の許可事業者の営業上の利
799 益が法律上保護されていることを導く必要がある。
800
801
802 〔設問1〕(2)については、
803 一般廃棄物収集運搬業の許可の有効期間が2年と
804 されていること(法第7条第2項に基づく政令)、
805 更新の申請がなされた場合にお
806 いては、
807 従前の許可は許可の有効期間の満了後も更新処分がなされるまでは有効と
808 されていること(法第7条第3項)等の参照条文から、
809 本件許可については更新制
810 が採られており、
811 本件許可の期間経過後も訴えの利益が維持されることを主張する
812 必要がある。
813
814
815 〔設問2〕は、
816 本件許可の違法性を、
817 参照条文を手掛かりにしながら事案に即し
818 て検討する力を問う趣旨の問題である。
819
820 まず、
821 申請の一般廃棄物処理計画への適合
822
823 を求める法第7条第5項第2号の要件に関して、
824 最判平成18年11月2日民集6
825 0巻9号3249頁を手掛かりにして、
826 同計画の策定及び内容の変更に係る計画裁
827 量の存否を明らかにしたうえで、
828 新計画の違法性を、
829 事実誤認、
830 事実に対する評価
831 の誤り、
832 考慮脱落及び他事考慮等の面から検討する必要がある。
833
834 次いで、
835 同項第3
836 号所定の設備要件及び能力要件に関して、
837 問題文に示された事実を挙げつつ、
838 Dの
839 事業遂行能力の欠如について論じる必要がある。
840
841
842
843 [民
844
845 法]
846
847 次の文章を読んで、
848 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
849
850
851 解答に当たっては、
852 文中において特定されている日時にかかわらず、
853 試験時に施行されている法
854 令に基づいて答えなさい。
855
856 なお、
857 民法以外の法令の適用について検討する必要はない。
858
859
860 【事実】
861 1.Aは、
862 書画骨董品の収集を趣味とする東京在住の個人である。
863
864 Bは、
865 京都に店舗を有し、
866 掛け
867 軸、
868 屏風及び衝立等の表装・修理や書画骨董品の売買等を行う専門の事業者である。
869
870
871 2.Aは、
872 令和5年1月頃、
873 自己が所有する掛け軸甲の経年劣化が激しいことに気付き、
874 たまたま
875 自宅を訪れていたBに甲を見せ、
876 その修復をBに持ち掛けた。
877
878 Bは、
879 「甲は保存状態が悪く、
880
881 の修復には高額の費用が見込まれるから、
882 考え直した方がよい。
883
884 」と述べたが、
885 Aが「甲は大事
886 な家宝だから、
887 いくら費用が掛かっても修復したい。
888
889 」と強く主張したため、
890 これに同意するに
891 至った。
892
893
894 3.Aは、
895 令和5年7月1日、
896 Bとの間で、
897 Bの店舗において、
898 以下の内容を含む契約(以下「本
899 件請負契約」という。
900
901 )を締結した。
902
903
904
905 Aは、
906 Bに対して、
907 甲を、
908 その修復のため、
909 令和5年7月15日までに預託する。
910
911
912 Bは、
913 甲の汚損を鑑賞可能な程度にまで修復し、
914 令和6年7月15日までにAに返還す
915 る。
916
917
918 Aは、
919 Bに対して、
920 報酬として250万円を甲の返還と引換えに支払う。
921
922
923 4.本件請負契約を締結するに当たり、
924 Bは、
925 Aに、
926 「甲の状態を最後に確認してから半年ほど経
927 つが、
928 その後どのように保管しているのか。
929
930 現在も修復可能なのか。
931
932 」と尋ね、
933 「きちんと保管
934 しているから大丈夫だ。
935
936 」との回答を得た。
937
938 Bは、
939 個人宅での保管であることから甲の現在の状
940 態に疑念を抱き、
941 「蓋を開けてみたら修復不能なほどに傷んでいた、
942 などと言われても知りませ
943 んよ。
944
945 」と念を押した上で本件請負契約を締結した。
946
947
948 5.Aは、
949 個人宅における掛け軸の標準的な保管方法に反し、
950 甲を紙箱に入れたのみで湿度の高い
951 屋外の物置に放置したため、
952 本件請負契約の締結に先立つ令和5年6月15日頃までに、
953 甲は原
954 型をとどめないまでに腐敗し、
955 修復することができなくなってしまった(以下「本件損傷」とい
956 う。
957
958 )。
959
960
961 6.Aは、
962 本件請負契約の交渉過程において、
963 甲の状態を確認しておらず、
964 Bから数回にわたって
965 「甲の状態や保管方法に問題はないか。
966
967 」と問い合わせられても「問題ない。
968
969 」と答えるのみで
970 放置していたため、
971 本件請負契約を締結した時点では、
972 本件損傷の事実を知らなかった。
973
974 Aは、
975
976 令和5年7月13日、
977 甲を梱包するために物置から取り出したところ、
978 本件損傷に気付き、
979 直ち
980 にBに連絡し、
981 Bは自ら本件損傷を確認した。
982
983
984 7.Bは、
985 令和5年7月2日から同月10日にかけて、
986 甲の修復に要する材料費等の費用一切とし
987 て40万円を支払っていた。
988
989
990 8.Bは、
991 「本件請負契約は有効に成立しており、
992 甲の修復ができないのはAの問題である。
993
994 」と
995 して、
996 Aに対して250万円の支払を請求している。
997
998 これに対して、
999 Aは、
1000 「本件請負契約は無
1001 効である。
1002
1003 仮に有効だとしても、
1004 甲が現に修復されていない以上、
1005 金銭を支払う理由はない。
1006
1007
1008 と反論している。
1009
1010
1011 〔設問1〕
1012 【事実】1から8までを前提として、
1013 BのAに対する請求が認められるかどうか、
1014 認められると
1015 した場合にはどのような範囲で認められるかについて、
1016 法的根拠を明示しつつ論じなさい。
1017
1018 なお、
1019
1020
1021 利息及び遅延損害金について検討する必要はない。
1022
1023
1024 【事実】
1025 9.Bは、
1026 令和5年4月27日、
1027 コレクターCとの間で、
1028 Cが所有する古美術の壺乙に関して、
1029
1030 の内容を含む契約(以下「本件委託契約」という。
1031
1032 )を締結した上で、
1033 同日、
1034 Cから乙の引渡し
1035 を受け、
1036 これをBの店舗内に展示することになった。
1037
1038
1039
1040
1041 Bは、
1042 Cから引き渡された乙につき、
1043 これを無償でCのために善良なる管理者の注意義務
1044 をもって管理し保管するものとする。
1045
1046 他方で、
1047 CはBに対し、
1048 乙をBの店舗内において顧客
1049 に展示し、
1050 Bの名において販売する権限を与えるものとする。
1051
1052
1053
1054
1055
1056 Bが乙を顧客に対して販売したときは、
1057 CがBに対し乙を代金180万円で販売する旨の
1058 契約が当然に成立するものとし、
1059 乙の所有権は、
1060 CからBに直ちに移転するものとする。
1061
1062
1063 お、
1064 BのCに対する代金の支払期限は、
1065 当該売買契約成立日の翌月末日とする。
1066
1067
1068
1069
1070
1071 Bは、
1072 乙につき顧客に対して販売する前にCから返還請求があったときは、
1073 乙の顧客への
1074 販売権限を当然に失い、
1075 直ちに、
1076 乙をCに対し返還しなければならないものとする。
1077
1078
1079
1080 10.令和5年5月初めから、
1081 Bの店舗には、
1082 顧客Dが頻繁に訪れて、
1083 展示物を鑑賞していた。
1084
1085 なか
1086 でも、
1087 Dは乙に強い関心を示し、
1088 Bにいろいろと質問をしたため、
1089 BはDの質問に答えたが、
1090
1091 の際、
1092
1093
1094
1095
1096 〕。
1097
1098 同月25日頃、
1099 BはDに対して、
1100 200万円で乙を販売してもよいという意
1101
1102 向を示した。
1103
1104 それに対してDは、
1105 しばらく考えたいと返事を留保した。
1106
1107
1108 11.令和5年6月1日、
1109 Cは、
1110 Bの資金繰りが悪化したとの情報を入手したため、
1111 Bに対し、
1112 本件
1113 委託契約の契約条項に基づき乙の返還を請求する旨の通知を発し、
1114 当該通知は同日中にBに到
1115 達した。
1116
1117 しかし、
1118 Bは乙の展示を継続した。
1119
1120
1121 12.令和5年6月2日、
1122 Bは、
1123 前記11の通知を受けたにもかかわらず、
1124 Bの店舗を訪れて乙購入の
1125 意向を示したDとの間で、
1126 Bを売主、
1127 Dを買主とし、
1128 代金を200万円とする乙の売買契約を締
1129 結した。
1130
1131 Bは、
1132 乙を無償でDの自宅に後日配送するものとし、
1133 Dは、
1134 その場で代金200万円の
1135 全額を支払った。
1136
1137 売買契約時、
1138 Dは乙について、
1139
1140
1141
1142
1143 〕と信じていた。
1144
1145 Bは、
1146 Dとの売買契
1147
1148 約が成立した直後に、
1149 Dに対し、
1150 「乙は、
1151 以後DのためにBが保管する。
1152
1153 」と告げ、
1154 売却済みの
1155 表示を施した。
1156
1157 その後、
1158 Bは、
1159 乙を梱包してBの店舗のバックヤードに移動した。
1160
1161
1162 13.Cが、
1163 令和5年6月3日、
1164 Bの店舗に赴いたところ、
1165 バックヤードで梱包済みの乙を発見し、
1166 渋る
1167 Bを説き伏せて乙の引渡しを受け、
1168 自宅に持ち帰った。
1169
1170 後日、
1171 Dは、
1172 Cに対し、
1173 乙の引渡しを請求し
1174 た。
1175
1176
1177 〔設問2〕
1178 【事実】9から13までを前提として、
1179 次の問いに答えなさい。
1180
1181
1182
1183
1184 本文中空欄〔
1185
1186
1187
1188 〕〔
1189
1190
1191
1192 〕に、
1193 次の語句が入る場合に、
1194 DはCに対して、
1195 所有権に基づ
1196
1197 いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
1198
1199
1200
1201
1202
1203
1204
1205
1206
1207 〕=乙の所有者がCであることは説明しなかった
1208
1209
1210
1211
1212
1213 〕=Bが所有者である
1214
1215 本文中空欄〔
1216
1217
1218
1219 〕〔
1220
1221
1222
1223 〕に、
1224 次の語句が入る場合に、
1225 DはCに対して、
1226 所有権に基づ
1227
1228 いて乙の引渡しを請求することができるかについて論じなさい。
1229
1230
1231
1232
1233
1234
1235 〕=本件委託契約の契約書を示して、
1236 Cから委託を受けて、
1237 Bは乙の売却権限を有し
1238 ている旨を説明した
1239
1240
1241
1242
1243
1244 〕=Bは本件委託契約に基づく処分権限を現在も有している
1245
1246 (出題の趣旨)
1247 設問1は、
1248 請負契約に基づく請負人の債務の履行が原始的に不能であった場合
1249 に、
1250 請負人が請負代金相当額を請求することができるかを問う問題である。
1251
1252 請負人
1253 が請負代金を請求するためには仕事の完成が必要であることを踏まえた上で、
1254 危険
1255 負担における債権者主義を定めた民法第536条第2項に基づいて請負代金を請求
1256 することができるかを論ずることが必要である。
1257
1258 その際には、
1259 請負契約締結前の注
1260 文者の行為が「債権者の責めに帰すべき事由」に当たるかについて、
1261 自分なりの考
1262 え方を論理的に展開することが求められる。
1263
1264
1265 設問2は、
1266 いわゆる処分授権によって他人の物を売却する権限を与えられた者
1267 が、
1268 権限を失った後にその物を売却した場合に、
1269 相手方が所有権を取得することが
1270 できるかを問う問題である。
1271
1272 設問2(1)においては、
1273 相手方は、
1274 売却した者がそ
1275 の物の所有者であると信じているため、
1276 即時取得が問題になる。
1277
1278 そこで、
1279 即時取得
1280 の要件、
1281 特に占有改定によって民法第192条の「動産の占有を始めた」という要
1282 件を満たすかどうかを論ずる必要がある。
1283
1284 設問2(2)においては、
1285 相手方は売却
1286 した者に処分権限があると信じているが、
1287 この処分権限は代理権ではないため、
1288
1289 見代理に関する規定が直接適用されるわけではない。
1290
1291 そこで、
1292 処分授権と代理との
1293 違いを意識しつつ、
1294 その類似性に着目して表見代理に関する規定を類推適用するこ
1295 とができるかを論じ、
1296 本問の事案がその要件を満たすかどうかを論ずる必要があ
1297 る。
1298
1299
1300
1301 [商
1302
1303 法]
1304
1305 次の文章を読んで、
1306 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1307
1308
1309 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
1310
1311 )は、
1312 会社法上の公開会社であるが、
1313 金融商品取引所にその
1314 発行する株式を上場していない。
1315
1316 甲社は、
1317 種類株式発行会社ではなく、
1318 発行可能株式総数は2万株
1319 であり、
1320 発行済株式の総数は1万株(議決権の総数は1万個)である。
1321
1322 甲社の取締役はA、
1323 B及び
1324 Cの3名であり、
1325 代表取締役はAである。
1326
1327 甲社の定款には、
1328 株主総会における議決権行使の代理人
1329 の資格を甲社の株主に限る旨の定め及び取締役の員数を3名とする旨の定めがある。
1330
1331
1332 2.乙株式会社(以下「乙社」という。
1333
1334 )は、
1335 事業の成功により一代で巨額の財を築いたDがその資
1336 産を管理するために設立した会社である。
1337
1338 乙社の株式の全部を有するDは、
1339 乙社の唯一の取締役
1340 として、
1341 乙社の管理運営を全て自ら行っている。
1342
1343 乙社は唯一の従業員としてDの子であるEを雇
1344 用しているが、
1345 Eの職務内容は乙社の決算期における書類の整理のみであり、
1346 それ以外に勤務の
1347 実態はない。
1348
1349
1350 3.乙社は、
1351 令和4年6月頃から引き続き甲社の株式1000株を有している。
1352
1353 甲社の業績と経営方
1354 針に不満を抱いているDは、
1355 乙社を代表して、
1356 甲社の代表取締役であるAに対し、
1357 甲社の経営に
1358 関する意見を繰り返し述べてきたが、
1359 Aは、
1360 乙社が甲社の経営に介入してくることを快く思って
1361 おらず、
1362 乙社の意見を全て無視してきた。
1363
1364
1365 4.Dは、
1366 自らの意見を甲社の経営に反映させるために、
1367 令和5年4月10日、
1368 乙社を代表して、
1369
1370 社の代表取締役であるAに対し、
1371 同年6月に開催予定の甲社の定時株主総会(以下「本件総会」
1372 という。
1373
1374 )において、
1375 本件総会の終結により取締役の任期が満了するBを取締役に再任するので
1376 はなく、
1377 乙社が推薦するFを新たに取締役に選任する旨の議案の要領を本件総会の招集通知に記
1378 載することを請求した。
1379
1380
1381 ところが、
1382 Aは、
1383 乙社が甲社の経営に対する介入を強めることは甲社の利益にならないと考え、
1384
1385 乙社の提案を無視することとし、
1386 これを他の取締役らに伝えることもしなかった。
1387
1388
1389 5.甲社の代表取締役であるAは、
1390 令和5年6月12日、
1391 株主に対し、
1392 同月29日に開催予定の本件
1393 総会の招集通知(以下「本件招集通知」という。
1394
1395 )を発した。
1396
1397 本件招集通知には、
1398 「取締役1名
1399 選任の件」として、
1400 Bを取締役に選任する旨の議案が記載されていたが、
1401 乙社が提案したFを取
1402 締役に選任する旨の議案の要領は記載されていなかった。
1403
1404
1405 Dは、
1406 乙社として、
1407 本件総会の議場で、
1408 Fを取締役に選任する旨の動議を提出し、
1409 議案の説明を
1410 すべきだと考えたが、
1411 スケジュールの都合上、
1412 自らが乙社を代表して本件総会に出席することはで
1413 きなかったため、
1414 乙社の代理人としてEを本件総会に出席させ、
1415 動議を提出させることにした。
1416
1417
1418 お、
1419 Eは、
1420 甲社の株主ではない。
1421
1422
1423 6.令和5年6月29日、
1424 本件総会が開催された。
1425
1426 Eは、
1427 本件総会の受付において、
1428 乙社の委任状を
1429 提示して、
1430 「私は乙社の従業員である。
1431
1432 乙社を代理して本件総会に出席したい。
1433
1434 」と述べたが、
1435
1436 受付近辺に控えていたAから「甲社の定款の定めにより、
1437 株主以外の者による代理出席は認めら
1438 れない。
1439
1440 」として出席を拒絶され、
1441 本件総会に出席することができなかった。
1442
1443 なお、
1444 Aは、
1445 上記
1446 2の事実を知っていた。
1447
1448
1449 本件総会には、
1450 甲社の総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、
1451 出席した株主の議決権の
1452 過半数の賛成により、
1453 Bを取締役に選任する旨の議案が可決された(以下「本件決議」とい
1454 う。
1455
1456 )。
1457
1458
1459 〔設問1〕
1460 乙社は、
1461 本件決議の取消しを求める訴えを適法に提起した。
1462
1463 この訴えに関して、
1464 本件決議の効力
1465
1466 を争うために乙社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について、
1467 論じなさい。
1468
1469
1470 7.乙社は、
1471 本件総会の後も、
1472 甲社の他の株主から株式を買い受けることにより保有株式数を増や
1473 し、
1474 令和5年7月31日の時点で、
1475 甲社の株式を2400株有するに至っていた。
1476
1477 また、
1478 Dは、
1479
1480 頃から、
1481 乙社を代表して、
1482 甲社の代表取締役であるAに対し、
1483 「令和6年6月に開催予定の甲社の
1484 定時株主総会では、
1485 乙社は、
1486 A及びCの取締役への再任に反対し、
1487 対立候補を擁立するつもりだ。
1488
1489
1490 また、
1491 他の株主にも乙社の提案への賛成を呼び掛けるつもりだ。
1492
1493 」と述べていた。
1494
1495
1496 8.令和5年8月1日に開催された取締役会において、
1497 Aは「乙社が持株比率を増やし続けるのを放
1498 置するわけにはいかない。
1499
1500 現在、
1501 我が社に特段の資金需要があるわけではないが、
1502 長年の取引先で
1503 ある丙株式会社との資本関係を強化し、
1504 経営の安定化を図るべきではないか。
1505
1506 実は、
1507 既に丙株式会
1508 社との間で内々に話をつけてある。
1509
1510 」と提案したところ、
1511 B及びCもAの提案に賛同したため、
1512
1513 締役全員の賛成により、
1514 丙株式会社(以下「丙社」という。
1515
1516 )に対する第三者割当てによって新た
1517 に5000株の株式を発行すること(以下「本件発行」という。
1518
1519 )、
1520 払込金額は1株当たり10万
1521 円とすること、
1522 払込期日は同月21日とすること等が決定された。
1523
1524
1525 なお、
1526 本件発行の後に丙社が有することとなる甲社の株式の数は、
1527 6000株である。
1528
1529 また、
1530
1531 件発行の当時における甲社の事業及び財産の状況に鑑みると、
1532 本件発行における公正な払込金額は
1533 1株当たり20万円であった。
1534
1535
1536 9.甲社は、
1537 乙社が本件発行の計画を事前に察知するのを防ぐために、
1538 本件発行について、
1539 株主に対
1540 する通知及び公告を行わなかった。
1541
1542 丙社は、
1543 令和5年8月21日、
1544 本件発行に係る払込みを完了
1545 し、
1546 これにより本件発行の効力が発生した。
1547
1548
1549 〔設問2〕
1550 上記8及び9の事実を知ったDは、
1551 乙社を代表して、
1552 本件発行の無効の訴えを適法に提起した。
1553
1554
1555 この訴えに関して、
1556 本件発行の効力を争うために乙社の立場において考えられる主張及びその主張
1557 の当否について、
1558 論じなさい。
1559
1560 なお、
1561 上記6の本件決議の効力に関する主張については、
1562 論じなく
1563 てよい。
1564
1565
1566
1567 (出題の趣旨)
1568 設問1は、
1569 @株主の議案要領通知請求(会社法第305条第1項)を不当に拒絶
1570 することが当該議題の下での会社提案議案に係る決議の取消事由(同法第831条
1571 第1項第1号)となるか及びA株主総会における代理人資格を株主に限る旨の定款
1572 の定めがある場合に、
1573 法人株主の代理人として来場した従業員の出席を拒むことが
1574 決議の取消事由(同号)となるかを問うものである。
1575
1576 @については、
1577 本件決議は不
1578 当拒絶の対象となった株主提案とは異なる議案であることを前提としつつ、
1579 株主提
1580 案が本件決議に係る議案と同一の議題についての代替的な議案を提案するものであ
1581 ったという関係を踏まえて、
1582 不当拒絶が本件決議の瑕疵を構成するかを検討するこ
1583 とが求められる。
1584
1585 Aについては、
1586 株主総会における代理人資格を株主に限る旨の定
1587 款の定めの有効性について検討した上で(最判昭和43年11月1日民集22巻1
1588 2号2402頁参照)、
1589 本件の代理人が法人株主の従業員であること(最判昭和5
1590 1年12月24日民集30巻11号1076頁参照)、
1591 当該法人は個人の資産管理
1592 会社であり、
1593 かつ、
1594 当該従業員に当該法人における勤務の実態がほとんどないこと
1595 などといった本問の事実関係に即して、
1596 本件の代理人に上記定款の定めの効力を及
1597 ぼすべきかを実質的に検討することが求められる。
1598
1599
1600
1601 設問2は、
1602 公開会社において公示をすることなく取締役会限りで行われた新株発
1603 行に無効事由があるかを問うものである。
1604
1605 新株発行の公示(会社法第201条第3
1606 項、
1607 第4項)を欠くことは、
1608 差止請求(同法第210条)をしたとしても差止事由
1609 がないため許容されないと認められる場合でない限り、
1610 新株発行の無効事由となる
1611 とする判例(最判平成9年1月28日民集51巻1号71頁)の趣旨を踏まえ、
1612
1613 利発行であるにもかかわらず株主総会の特別決議を経ずに新株発行が行われている
1614 こと(同法第199条第2項、
1615 第3項、
1616 第201条第1項、
1617 第309条第2項第5
1618 号)、
1619 大株主との間で支配権争いが生じている中で既存株主の持株比率に重大な影
1620 響を及ぼす新株発行が行われていることといった本問の事実関係に即して、
1621 新株発
1622 行の無効事由の有無を検討することが求められる。
1623
1624
1625
1626 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は、
1627 3:2)
1628 次の文章を読んで、
1629 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1630
1631
1632 【事例】
1633 甲土地は、
1634 Xの所有である。
1635
1636
1637 Yは、
1638 甲土地に乙建物を建築し、
1639 これを所有していた。
1640
1641 Yは、
1642 その後、
1643 乙建物を3つの部分に
1644 分けて、
1645 それぞれ、
1646 A、
1647 B、
1648 C(以下「Aら3名」という。
1649
1650 )に賃貸した。
1651
1652 Aら3名は、
1653 Yの承
1654 諾を得て、
1655 それぞれが賃借していた建物の部分を各自増改築した。
1656
1657 なお、
1658 増築した各部分は、
1659
1660 れぞれ増改築される前から存在していた部分と一体として店舗兼居宅として利用されており、
1661
1662 築した各部分は構造的にも機能的にも建物としての独立性を欠き、
1663 それぞれ不可分の状態にあっ
1664 た。
1665
1666
1667 Xは、
1668 Yを被告として、
1669 甲土地の所有権に基づき、
1670 乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを
1671 求める訴え(@訴訟)を提起し、
1672 第一審では勝訴の判決を得た。
1673
1674 その後、
1675 Yは控訴した。
1676
1677
1678 【事実T】
1679 【事例】の控訴審において、
1680 Yから、
1681 乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変
1682 更され、
1683 乙建物はAら3名の所有に属するものとなっている旨の主張がされた。
1684
1685 真実は、
1686 増築部
1687 分も含めて乙建物の所有権はYに帰属していたが、
1688 Xは、
1689 乙建物は増改築によって形状が著しく
1690 変更されており、
1691 増築部分も含む乙建物はAら3名の所有に属し、
1692 Yは所有しておらず、
1693 Yとの
1694 間で乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを維持することは不可能であると誤認
1695 して、
1696 この訴えに換えて、
1697 甲土地についてのYの賃借権の不存在を確認することを求める訴えに
1698 変更した。
1699
1700
1701 控訴審は、
1702 変更後の訴えにつき、
1703 甲土地についてYの賃借権が存在しないことを確認する判決
1704 をし、
1705 その判決が確定した。
1706
1707 しかし、
1708 その後、
1709 Yが、
1710 増築部分を含めて乙建物は自らの所有であ
1711 ることを主張したので、
1712 Xは、
1713 Yに対して、
1714 甲土地の所有権に基づき乙建物を収去して甲土地を
1715 明け渡すことを求める訴え(A訴訟)を提起し、
1716 他方、
1717 Aら3名に対しては、
1718 甲土地の所有権に
1719 基づき乙建物から退去してその敷地部分を明け渡すことを求める訴えを提起した。
1720
1721
1722 〔設問1〕
1723 【事例】及び【事実T】の事実関係を前提に、
1724 次の設問に答えなさい。
1725
1726
1727 Yは、
1728 判例を踏まえれば、
1729 【事実T】の下線部の訴え(A訴訟)は却下を免れないと主張してい
1730 る。
1731
1732 Yの主張の根拠を明らかにした上で、
1733 その主張の当否について、
1734 理由を付して答えよ。
1735
1736
1737 【事実U】(【事実T】とは別の事実関係である。
1738
1739
1740 【事例】の第一審の判決後、
1741 かねてから乙建物を店舗兼居宅として利用したいと考えていた第
1742 三者Dは、
1743 Yに対して、
1744 Xとの間で和解が成立するなどして乙建物を利用することができる状態
1745 になれば借り受けたいとして、
1746 その賃借を申し入れた。
1747
1748 Yは、
1749 Dに対して乙建物を賃貸したいと
1750 考えたことから、
1751 控訴審において、
1752 Xとの和解を申し出た。
1753
1754 裁判所から(a)X及びYは甲土地が
1755 Xの所有であること及び乙建物がYの所有であることを相互に確認する、
1756 (b)XがYに甲土地を
1757 賃貸することを相互に確認するなどの和解案が提示され、
1758 XY間で当該和解案どおりの内容の訴
1759 訟上の和解が成立し、
1760 その旨調書に記載された。
1761
1762
1763 その後、
1764 Aら3名は乙建物を退去し、
1765 Yは乙建物をDに賃貸した。
1766
1767
1768
1769 〔設問2〕
1770 【事例】及び【事実U】の事実関係を前提に、
1771 次の設問に答えなさい。
1772
1773
1774 和解交渉の際に、
1775 Yは、
1776 Xに対して、
1777 乙建物を賃貸して生計を立てていたが、
1778 現在居住している
1779 丙建物が取り壊されることになり、
1780 今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいので和解に応
1781 じてほしいとの虚偽の説明をし、
1782 Xは、
1783 Yの説明を信じ、
1784 やむを得ないと考えて、
1785 和解に応じるこ
1786 とにした。
1787
1788 しかし、
1789 訴訟上の和解が成立した後、
1790 Xは、
1791 丙建物が取り壊される予定はなく、
1792 Yが引
1793 き続き丙建物に居住し、
1794 乙建物はDが店舗兼居宅として利用していることを知り、
1795 だまされたこと
1796 に気が付いた。
1797
1798 Xは、
1799 第一審では勝訴しており、
1800 控訴審がそのまま継続していれば、
1801 勝訴したと考
1802 えている。
1803
1804 Xとしては、
1805 Yに対して、
1806 乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めたいと考えて
1807 いるが、
1808 この場合には、
1809 どのような手続上の手段を採ることが考えられるか。
1810
1811 理由を付して答え
1812 よ。
1813
1814
1815
1816 (出題の趣旨)
1817 〔設問1〕 は、
1818 民事訴訟法第262条第2項の「再訴禁止」に関する問題であ
1819 る。
1820
1821 その前提としていわゆる「訴えの交換的変更」についても考えることになる。
1822
1823
1824 両者の理解を、
1825 具体的な事例を通して複合的に問うものである。
1826
1827
1828 設問1では、
1829 まず、
1830 訴えの交換的変更について検討することが求められている。
1831
1832
1833 判例(最判昭和32年2月28日民集11巻2号374頁)は、
1834 交換的に訴えが変
1835 更される場合は、
1836 訴えの変更の独自の類型とせず、
1837 新訴の提起と旧訴の取下げとが
1838 結合したものと解している。
1839
1840 設問1では、
1841 このような先行判例の存在を踏まえて、
1842
1843 A訴訟は却下を免れないとするYの主張の意味を考えることになる。
1844
1845
1846 次に、
1847 第一審の判決があった後の控訴審において訴えの交換的変更が行われたこ
1848 とを前提に、
1849 民事訴訟法第262条第2項の再訴禁止規定の適用について検討する
1850 ことが求められている。
1851
1852 既判力や信義則適用の問題につき検討することは求められ
1853 ていない。
1854
1855 その検討に際しては、
1856 判例(最判昭和52年7月19日民集31巻4号
1857 693頁)の理解を踏まえて検討することが期待されている。
1858
1859
1860 〔設問2〕は、
1861 和解が実体法上無効である場合の訴訟上の和解の効果についての
1862 問題である。
1863
1864 訴訟上の和解に関して、
1865 その効力(特に民事訴訟法第267条による
1866 既判力の有無)の理解とそれが無効となる場合のその主張方法の理解を、
1867 具体的な
1868 事例を通して問うものである。
1869
1870
1871 つまり、
1872 設問2では、
1873 まず、
1874 訴訟上の和解につき、
1875 詐欺により当事者の意思表示
1876 に瑕疵があることを理由に、
1877 それが無効となるかどうかにつき検討することが求め
1878 られている。
1879
1880 その検討に際しては、
1881 判例(最判昭和33年6月14日民集12巻9
1882 号1492頁等)の理解を踏まえながら、
1883 既判力の有無の議論と関連させて、
1884 検討
1885 することが期待されている。
1886
1887
1888 その上で、
1889 設問での訴訟上の和解を無効とする場合には、
1890 どのような手続上の手
1891 段を採って主張するのかを検討することが求められる。
1892
1893 そこでは、
1894 設問2に記載さ
1895 れている事情を踏まえて、
1896 その事情に対応した手段を検討し、
1897 指摘することが期待
1898 されている。
1899
1900
1901
1902 [刑
1903
1904 法]
1905
1906 以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、
1907 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1908
1909
1910 【事例1】
1911 1 甲は、
1912 かねてより会社の上司であるXから執ように叱責されるなどしていたことに恨みを募
1913 らせ、
1914 登山が趣味のXを登山に誘って山中に連れ出し、
1915 Xを殺害した上でXが滑落によって事
1916 故死したように装い、
1917 犯跡を隠蔽しようと考えた。
1918
1919 甲は、
1920 某月1日、
1921 Xを登山に誘い、
1922 Xが喜
1923 んで応じたことから、
1924 同月10日、
1925 Xと2人で1泊2日の登山に出掛けた。
1926
1927
1928 2 甲とXは、
1929 同日午前10時頃から登山を始めたが、
1930 同日午後4時頃、
1931 天候が急変して降雨と
1932 なったため、
1933 当初の登山計画を変更し、
1934 山頂付近にあった無人の小屋で一晩を過ごすことにし
1935 た。
1936
1937 甲は、
1938 同日午後5時頃、
1939 疲れていたXが上記小屋内で熟睡したことから、
1940 この機会にXを
1941 殺してしまおうと決めた。
1942
1943 ちょうどその頃、
1944 雨が止んだため、
1945 甲は、
1946 Xを殺した後にXの滑落
1947 死を装うための場所をあらかじめ探そうと思い立ち、
1948 上記小屋周辺を下見しておくことにし
1949 た。
1950
1951 甲は、
1952 しばらくの間、
1953 上記小屋を離れ、
1954 外に出ることにしたが、
1955 外にいる間にXに逃げら
1956 れないようにするため、
1957 同日午後5時5分頃、
1958 同小屋の出入口扉を外側からロープできつく縛
1959 り、
1960 内側から同扉を開けられないようにした。
1961
1962 なお、
1963 上記小屋は、
1964 木造平屋建てで、
1965 窓はな
1966 く、
1967 出入口は上記扉1か所のみであった。
1968
1969
1970 3 その後、
1971 甲は、
1972 上記小屋から歩いて約100メートル離れた場所に、
1973 高さ約70メートルの
1974 岩場の崖があるのを確認し、
1975 同日午後6時頃、
1976 同小屋に戻り、
1977 上記ロープをほどいた。
1978
1979 Xは、
1980
1981 同日午後5時頃に熟睡した後、
1982 一度も目を覚まさなかった。
1983
1984
1985 〔設問1〕
1986 【事例1】において、
1987 甲に監禁罪が成立するという主張の当否について、
1988 具体的な事実関係を
1989 踏まえつつ、
1990 反対の立場からの主張にも言及して論じなさい。
1991
1992
1993 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、
1994 以下の事実があったものとする。
1995
1996
1997 4 甲は、
1998 上記小屋内に戻った後、
1999 Xを殺そうと思ったが、
2000 死体がすぐに見つかってしまっては何
2001 らかの殺害の痕跡が発見され、
2002 滑落による事故死ではないことが判明してしまうと不安に思っ
2003 た。
2004
2005 そこで、
2006 甲は、
2007 同日午後6時10分頃、
2008 Xの携帯電話機をXの死体から遠く離れた場所に捨
2009 てておけば、
2010 同携帯電話機のGPS機能によって発信される位置情報をXの親族等が取得した場
2011 合であっても、
2012 Xの死体の発見を困難にできる上、
2013 Xが甲とはぐれた後、
2014 山中をさまよって滑落
2015 したかのように装う犯跡隠蔽に使えると考え、
2016 眠っているXの上着のポケットからXの携帯電話
2017 機1台を取り出し、
2018 自分のリュックサックに入れた。
2019
2020
2021 5 甲は、
2022 同日午後6時20分頃、
2023 Xを殺すため、
2024 眠っているXの首を両手で強く絞め付け、
2025
2026 がぐったりしたのを見て、
2027 Xが死亡したものと思い込んだ。
2028
2029 しかし、
2030 この時点で、
2031 Xは、
2032 意識
2033 を失っただけで、
2034 実際には生きていた。
2035
2036
2037 6 甲は、
2038 同日午後6時25分頃、
2039 Xの死体を上記崖まで運んで崖下に落とすため、
2040 Xの背後か
2041 ら両脇に両手を回してXの身体を抱え上げた。
2042
2043 その際、
2044 XのズボンのポケットからXの財布が
2045 床に落ち、
2046 これを見た甲は、
2047 にわかに同財布内の現金が欲しくなり、
2048 同財布内から現金3万円
2049 を抜き取って自分のズボンのポケットに入れ、
2050 同財布をXのポケットに戻した。
2051
2052
2053 7 甲は、
2054 同日午後7時頃、
2055 Xを上記崖まで運び、
2056 Xを崖下に落とした。
2057
2058 甲は、
2059 Xが既に死んで
2060 いると軽信し続けていたが、
2061 この時点でもXはまだ生きており、
2062 上記崖から地面に落下した
2063 際、
2064 頭部等を地面に強く打ち付け、
2065 頭部外傷により即死した。
2066
2067
2068 8 甲は、
2069 すぐに上記崖から離れ、
2070 同日午後10時頃、
2071 同崖から約6キロメートル離れた場所ま
2072 で来ると、
2073 その場に上記携帯電話機を捨てた。
2074
2075 同月11日、
2076 Xが帰宅しなかったことから、
2077
2078 の親族が上記携帯電話機のGPS機能によって発信される位置情報を取得し、
2079 その情報を基に
2080 Xの捜索が行われたが、
2081 Xの発見には至らなかった。
2082
2083
2084 〔設問2〕
2085 【事例2】における甲の罪責を論じなさい(特別法違反の点は除く。
2086
2087 )。
2088
2089
2090
2091 (出題の趣旨)
2092 〔設問1〕は、
2093 甲がXと山中にある無人の小屋で過ごしていた際、
2094 甲が同小屋か
2095 ら出て離れている間に熟睡しているXが目を覚まして同小屋から逃げないようにす
2096
2097 るため、
2098 同小屋の出入口扉を外側からロープで縛った行為に監禁罪が成立するとい
2099 う主張の当否について、
2100 具体的な事実関係を踏まえつつ、
2101 反対の立場からの主張に
2102 も言及して論述することを求めるものである。
2103
2104 【事例1】では、
2105 Xは、
2106 熟睡してい
2107 るため上記小屋から外に出る意思がなく、
2108 上記出入口扉をロープで縛られたことに
2109 も気付かず熟睡し続け、
2110 目覚める前にロープが解かれたことから、
2111 甲の行為は、
2112
2113 の現実の移動の意思に影響を及ぼしていない。
2114
2115 このような場合に監禁罪が成立する
2116 という主張の当否について、
2117 監禁罪の保護法益である移動の自由の意義に関して、
2118
2119 反対する立場からの帰結やその問題点等にも留意しつつ論じなければならない。
2120
2121
2122 の際には、
2123 本件の具体的事実が保護法益論とどのように関連するのかを意識しなが
2124 ら論じる必要がある。
2125
2126
2127 〔設問2〕は、
2128 甲が、
2129 眠っていたXが所持していた携帯電話機を自分のリュッ
2130 クサックに入れ、
2131 Xを殺害するため、
2132 眠っていたXの首を両手で強く絞め付け
2133 (以下「第1行為」という。
2134
2135 )、
2136 Xが死亡したものと思い込んでいたところ、
2137 Xが
2138 所持していた財布内から現金3万円を抜き取って自分のポケットに入れ、
2139 さらに、
2140
2141 Xが死亡したものと思い込んだまま、
2142 実際には生きていたXを崖下に落とし(以
2143 下「第2行為」という。
2144
2145 )、
2146 死亡させたことを内容とする事例について、
2147 甲の罪責
2148 に関する論述を求めるものである。
2149
2150
2151 では、
2152 甲は、
2153 Xの携帯電話機を離れた場所に捨てておけば、
2154 同携帯電話機のG
2155 PS機能によって発信される位置情報をXの親族等が取得したとしても、
2156 Xの死体
2157 発見を困難にできるなどという目的で、
2158 同携帯電話機を自己の占有下に移してい
2159 る。
2160
2161 これは犯跡隠蔽の意図である一方で、
2162 同携帯電話機のGPS機能を利用する意
2163 図も含まれる点を踏まえ、
2164 甲に不法領得の意思を認めるか否かについて利用処分意
2165 思の内容を具体的に明らかにしつつ検討する必要がある。
2166
2167 その上で窃盗罪あるいは
2168 器物損壊罪の成否を論じることになろう。
2169
2170
2171 では、
2172 甲が現金を抜き取ってポケットに入れた行為は窃盗罪の客観的構成要件
2173 を充足するが、
2174 Xが死亡していると誤信していることから、
2175 甲に窃盗罪の故意が認
2176 められるかについて、
2177 死者の占有を認めるか否かとの関係を明らかにしつつ検討す
2178 る必要がある。
2179
2180
2181 また、
2182 の殺意をもって行われた第1行為から死亡結果が発生せず、
2183 の殺意な
2184 く行われた第2行為によって死亡結果が発生した場合(いわゆる遅すぎた構成要件
2185 の実現)の殺人既遂罪の成否に関し、
2186 問責対象となる行為を特定して各行為の擬律
2187 判断(第1行為と死亡結果との因果関係及び因果関係の錯誤並びに第2行為の処理
2188 等)を検討する必要がある。
2189
2190
2191 いずれについても、
2192 刑法の基本的な概念に関する正確な理解を前提に、
2193 事実関係
2194 を的確に分析し、
2195 それを法的に構成する能力や、
2196 具体的な事実を法的に分析する能
2197 力が問われている。
2198
2199
2200
2201 [刑事訴訟法]
2202 次の【事例】を読んで、
2203 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
2204
2205
2206 【事例】
2207
2208
2209 司法警察員Pは、
2210 令和4年7月1日にH県内の飲食店で甲が同店店員の顔面を殴打した(以下
2211 「本件暴行」という。
2212
2213 )という事件を捜査し、
2214 甲を逮捕することなく、
2215 H地方検察庁検察官Qに同
2216 事件を送致した。
2217
2218 しかし、
2219 甲は、
2220 まもなく所在不明となった。
2221
2222
2223
2224 2 その後、
2225 同年8月20日、
2226 H県内で、
2227 V方に何者かが侵入し、
2228 Vの顔面を多数回殴打してその両
2229 手両足をひもでしばるなどの暴行を加え、
2230 V所有の高級腕時計を奪い、
2231 その際、
2232 Vに傷害を負わせ
2233 た(以下「本件住居侵入・強盗致傷」という。
2234
2235 )という事件が発生した。
2236
2237 そして、
2238 Vの供述等か
2239 ら、
2240 実行犯は1人であることが想定された。
2241
2242 Pは、
2243 同事件が発生した直後、
2244 実行犯とは容ぼうが異
2245 なる甲が同腕時計を中古品買取店に売却した事実を把握し、
2246 甲が同事件の実行犯と共犯関係にある
2247 との嫌疑を抱いた。
2248
2249 なお、
2250 捜査の過程で、
2251 甲の所在は判明したが、
2252 実行犯の氏名や住居等は判明し
2253 なかった。
2254
2255
2256 そこで、
2257 Pは、
2258 同年9月7日、
2259 本件住居侵入・強盗致傷の事実で甲の逮捕状を請求し、
2260 その発付
2261 を受け、
2262 甲を通常逮捕し、
2263 同月9日、
2264 Qに送致した。
2265
2266 Qは、
2267 同日、
2268 @H地方裁判所裁判官に対し、
2269
2270 本件住居侵入・強盗致傷の事実で甲の勾留を請求した。
2271
2272
2273 3 甲は、
2274 逮捕・勾留中、
2275 一貫して黙秘した。
2276
2277 Pは、
2278 その間、
2279 甲の所持する携帯電話機や甲方から押
2280 収したパソコン等の解析、
2281 甲と交友関係にある者の取調べ、
2282 V方周辺の防犯カメラに映っていた不
2283 審者に関する更なる聞き込みなどの捜査をしたが、
2284 実行犯の氏名及び所在も前記腕時計が甲に渡っ
2285 た状況等も判明しなかった。
2286
2287
2288 そのため、
2289 Qは、
2290 本件住居侵入・強盗致傷の事実で甲について公判請求するのは困難であると考
2291 え、
2292 勾留延長期間が満了する同月28日、
2293 甲を釈放した。
2294
2295
2296 4 乙は、
2297 同年10月6日、
2298 別事件で逮捕され、
2299 その後の取調べにおいて、
2300 Pに対し、
2301 本件住居侵入
2302 ・強盗致傷について、
2303 V方に侵入して金品を強取することを甲と相談し、
2304 乙が実行し、
2305 甲が換金す
2306 る旨の役割分担をして犯行に及んだことを供述した。
2307
2308
2309 そして、
2310 Pが乙を逮捕した際に押収した乙の携帯電話機を解析したところ、
2311 本件住居侵入・強盗
2312 致傷について、
2313 甲との共謀を裏付けるメッセージのやりとりが記録されていることが分かった。
2314
2315
2316 そのため、
2317 Pは、
2318 甲に対する嫌疑が高まったと考えて、
2319 同月19日、
2320 本件住居侵入・強盗致傷の
2321 事実につき、
2322 改めて逮捕状を請求し、
2323 その発付を受け、
2324 甲を通常逮捕した上、
2325 同月21日、
2326 Qに送
2327 致した。
2328
2329 そして、
2330 Qは、
2331 同日、
2332 AH地方裁判所裁判官に対し、
2333 本件住居侵入・強盗致傷の事実で甲
2334 の勾留を請求した。
2335
2336
2337 〔設問1〕
2338 下線部@につき、
2339 仮に検察官が本件住居侵入・強盗致傷の事実に本件暴行の事実を付加して甲の勾
2340 留を請求した場合、
2341 裁判官は甲を本件住居侵入・強盗致傷の事実及び本件暴行の事実で勾留すること
2342 ができるかについて論じなさい。
2343
2344 ただし、
2345 各事実につき、
2346 勾留の理由及び必要性はあるものとする。
2347
2348
2349 〔設問2〕
2350 下線部Aにつき、
2351 裁判官は甲を勾留することができるかについて論じなさい。
2352
2353
2354
2355 (出題の趣旨)
2356 本問は、
2357 民家に侵入した犯人が住人に暴行を加えて被害品を強取し、
2358 その際に同
2359
2360 人に怪我を負わせたという住居侵入、
2361 強盗致傷事件について、
2362 警察官が甲による被
2363 害品転売の事実を把握し、
2364 甲を同事件で逮捕、
2365 勾留したが、
2366 共犯者の氏名や住居等
2367 が判明しなかったことから甲を釈放したところ、
2368 その後に共犯者が判明したため、
2369
2370 改めて甲の逮捕状を取得して逮捕し、
2371 勾留を請求したという事例であり、
2372 設問1で
2373 は、
2374 当初の勾留につき、
2375 仮に、
2376 住居侵入、
2377 強盗致傷の事実に甲が逮捕されていない
2378 別件暴行事件の事実を付加して勾留を請求した場合、
2379 これが許されるか否か検討さ
2380 せることを通じて、
2381 逮捕前置主義という刑事訴訟法の基本原則の理解を問うもので
2382 ある。
2383
2384 また、
2385 設問2は、
2386 前記事例を通じて、
2387 再勾留禁止の原則という刑事訴訟法の
2388 基本原則及び関連する裁判例の理解を問うとともに、
2389 具体的事例を通じて、
2390 再逮捕
2391 との違いについての理解を示しつつ、
2392 再勾留の可否を検討させる問題である。
2393
2394
2395
2396 [民
2397
2398 事]
2399
2400 司法試験予備試験用法文を適宜参照して、
2401 以下の各設問に答えなさい。
2402
2403
2404 〔設問1〕
2405 弁護士Pは、
2406 Xから次のような相談を受けた。
2407
2408
2409 【Xの相談内容】
2410 「私は、
2411 中古車の収集を趣味としている個人です。
2412
2413 令和4年8月上旬、
2414 友人Aが私の自宅に併
2415 設されたガレージに遊びに来た際、
2416 私が中古で入手しカスタマイズした自動車(以下「本件車
2417 両」という。
2418
2419 )を見ていたく気に入り、
2420 是非とも本件車両を売却してほしいと言いました。
2421
2422 Aが
2423 余りに強く希望するため、
2424 私も根負けして、
2425 本件車両を売却することを了解しました。
2426
2427 ただ、
2428
2429 が即金での支払は難しく分割払になるというので、
2430 私は、
2431 そうであれば連帯保証人を付けてほし
2432 いと伝えたところ、
2433 数日後、
2434 Aから、
2435 Aの父親Yに連帯保証人となることの内諾を得たとの連絡
2436 がありました。
2437
2438
2439 令和4年8月17日、
2440 私は、
2441 Aとの間で、
2442 本件車両を代金240万円で売却し、
2443 代金の支払に
2444 ついては、
2445 同月から令和6年7月まで、
2446 毎月末日限り10万円ずつの分割払とし、
2447 Aが分割金の
2448 支払を2回以上怠ったときは催告等要せず当然に期限の利益を喪失する旨を合意しました(以下
2449 「本件売買契約」という。
2450
2451 )。
2452
2453
2454 また、
2455 私は、
2456 Yとの間で、
2457 令和4年8月17日、
2458 Yが、
2459 Aの私に対する上記売買代金の支払債
2460 務につき、
2461 連帯して保証する旨の合意をしました(以下「本件保証契約」という。
2462
2463 )。
2464
2465
2466 これらの合意については、
2467 別紙の売買契約書(以下「本件契約書」という。
2468
2469 )に私、
2470 A及びY
2471 がそれぞれ署名押印する形で行いました。
2472
2473
2474 そして、
2475 私は、
2476 Aに対し、
2477 令和4年8月17日、
2478 本件車両を引き渡しました。
2479
2480
2481 しかし、
2482 Aは、
2483 令和4年8月及び同年9月の各月末に10万円ずつ合計20万円を支払ったの
2484 みで、
2485 同年10月及び同年11月の各末日が経過したにもかかわらず、
2486 分割金の支払を怠り、
2487
2488 在は行方不明となっています。
2489
2490
2491 そこで、
2492 私は、
2493 連帯保証人のYに対し、
2494 Aに代わって残代金220万円の支払を求めたいと思
2495 います。
2496
2497 なお、
2498 残代金の元本さえ支払ってもらえればよく、
2499 利息・損害金の支払は求めませ
2500 ん。
2501
2502
2503 弁護士Pは、
2504 令和5年4月5日、
2505 【Xの相談内容】を前提に、
2506 Xの訴訟代理人として、
2507 Yに対
2508 し、
2509 Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
2510
2511 )を提起することとした。
2512
2513
2514 以上を前提に、
2515 以下の各問いに答えなさい。
2516
2517
2518
2519
2520 弁護士Pが、
2521 本件訴訟において、
2522 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
2523 載しなさい。
2524
2525
2526
2527
2528
2529 弁護士Pが、
2530 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
2531
2532 )において記載すべき請求の趣旨
2533 (民事訴訟法第134条第2項第2号)を記載しなさい。
2534
2535 なお、
2536 付随的申立てについては、
2537 考慮
2538 する必要がない。
2539
2540
2541
2542
2543
2544 弁護士Pが、
2545 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1
2546 項。
2547
2548 以下同じ。
2549
2550 )を記載しなさい。
2551
2552 なお、
2553 いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとし
2554 て、
2555 訴訟物を明示するとともに、
2556 請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするも
2557 の)は記載しないこと。
2558
2559
2560
2561
2562
2563 【Xの相談内容】のうち下線部の事実について、
2564 請求を理由づける事実として本件訴状に記載
2565 すべきか否かについて、
2566 @結論を答えた上で、
2567 Aその理由を簡潔に説明しなさい。
2568
2569
2570
2571
2572
2573 弁護士Pは、
2574 Xの権利の実現を確実なものとするため、
2575 本件訴訟を提起するに当たり、
2576 Yの財
2577 産に対する仮差押命令の申立てを行うこととした。
2578
2579 調査の結果、
2580 Yはα銀行に対する預金債権を
2581 有するほか、
2582 自宅の土地建物(以下「自宅不動産」という。
2583
2584 )を所有しているが、
2585 自宅不動産に
2586 ついては2年前(令和3年)に抵当権(被担保債権はいわゆる住宅ローン債権で、
2587 当初債権額は
2588 3000万円)が設定されていることが判明した。
2589
2590 なお、
2591 α銀行の銀行取引約定書によれば、
2592
2593 金債権に対する仮差押えは銀行借入れがあった場合にその期限の利益喪失事由とされている。
2594
2595
2596 弁護士Pは、
2597 Yの財産のうち、
2598 α銀行の預金債権に対し仮差押命令の申立てを行うこととした
2599 が、
2600 その申立てに当たり、
2601 Yの自宅不動産の時価を明らかにする必要があると考えた。
2602
2603 その理由
2604 を民事保全法の関係する条文に言及しつつ簡潔に説明せよ。
2605
2606
2607
2608 〔設問2〕
2609 弁護士Qは、
2610 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
2611
2612
2613 【Yの相談内容】
2614 「(a)
2615
2616 私は、
2617 Xから、
2618 息子のAが車両を購入した際の代金について、
2619 連帯保証人として支払
2620
2621 うよう請求を受けていますが、
2622 私が、
2623 Aの代金支払債務について連帯保証した事実はあ
2624 りません。
2625
2626 私は、
2627 Aから連帯保証人になってほしいと頼まれたものの、
2628 他にもAの借金
2629 の保証をしていましたので、
2630 これ以上保証はできないと伝えて断っています。
2631
2632 Xは、
2633
2634 件契約書の連帯保証人欄に私の署名押印があると主張していますが、
2635 私は本件契約書に
2636 署名押印などしていません。
2637
2638
2639 (b)
2640
2641 AがXから令和4年8月17日に代金240万円で本件車両を購入したこと、
2642 代金は
2643
2644 毎月末日限り10万円ずつ24回の分割払の約定だったこと、
2645 Aが同月及び同年9月の
2646 各月末に10万円ずつ合計20万円を支払ったのみで、
2647 その後、
2648 支払をしていないこ
2649 と、
2650 現在、
2651 Aが所在不明であることは、
2652 いずれも争いません。
2653
2654
2655 (c)
2656
2657 Aは、
2658 令和4年9月中旬頃、
2659 本件車両につき、
2660 いわゆる車検(道路運送車両法所定の
2661
2662 継続検査。
2663
2664 以下、
2665 単に「車検」という。
2666
2667 )のため、
2668 業者Bに依頼して検査を受けたとこ
2669 ろ、
2670 保安基準に適合せず車検が通らなかったとこぼしていました。
2671
2672 Aによると、
2673 Xか
2674 ら、
2675 本件車両は保安基準に適合しており、
2676 車検は通ると説明されたことから、
2677 本件車両
2678 の購入を決めたようですが、
2679 実際にはライト(前照灯)の改造部分が保安基準に適合し
2680 なかったため、
2681 車検が通らなかったそうです。
2682
2683 保安基準に適合せず、
2684 車検に通らない
2685 と、
2686 公道を走行させることもできません。
2687
2688 Aも、
2689 Xに対し、
2690 本件車両が保安基準に適合
2691 することを前提に本件車両を購入する旨を伝えていたそうですし、
2692 保安基準に適合しな
2693 い車両と知っていれば、
2694 本件車両を購入しなかったはずです。
2695
2696 このように、
2697 本件売買契
2698 約はそもそもAの錯誤に基づくものですので、
2699 仮に私がAの債務を連帯保証したのだと
2700 しても、
2701 私としてはXの請求を拒めるのではないでしょうか。
2702
2703
2704 弁護士Qは、
2705 【Yの相談内容】を前提に、
2706 Yの訴訟代理人として、
2707 本件訴訟の答弁書(以下「本
2708 件答弁書」という。
2709
2710 )を作成した。
2711
2712 その際、
2713 弁護士Qは、
2714 【Yの相談内容】(c)を踏まえて、
2715 抗弁
2716 として、
2717 以下のとおり主張する必要があると考えた。
2718
2719
2720 (あ)
2721 (い)
2722
2723 Aは、
2724 本件売買契約当時、
2725
2726 本件売買契約の際、
2727
2728
2729 Aに同じ
2730
2731 示されていた。
2732
2733
2734 (う)
2735
2736 Yは、
2737 Xに対し、
2738
2739
2740 @
2741
2742 B
2743
2744 〕。
2745
2746
2747
2748 〕にもかかわらず、
2749
2750
2751 A
2752
2753 〕と信じていた。
2754
2755
2756
2757 〕ことを前提にAが本件車両を買い受けることが表
2758
2759 以上を前提に、
2760 以下の各問いに答えなさい。
2761
2762 なお、
2763 本件に民法第95条の適用があることは解答
2764 の前提としてよい。
2765
2766
2767
2768
2769 上記@からBまでに入る要件事実(主要事実。
2770
2771 以下同じ。
2772
2773 )を、
2774 それぞれ記載しなさい。
2775
2776
2777
2778
2779
2780 弁護士Qが、
2781 上記(う)が必要であると考えた理由を、
2782 民法の関係する条文に言及しつつ、
2783
2784 潔に説明しなさい。
2785
2786
2787
2788 〔設問3〕
2789 弁護士Pは、
2790 Aが本件車両の検査を依頼した業者Bに対し問合せを行い、
2791 次のような回答を得た。
2792
2793
2794 【業者Bの回答結果】
2795 「Aが業者Bに対し、
2796 本件車両の検査を依頼したのは令和4年8月28日であり、
2797 業者BがA
2798 に対し、
2799 本件車両のライト(前照灯)の改造部分のため保安基準に適合しない旨を通知したのは
2800 同年9月15日である。
2801
2802
2803 弁護士Pは、
2804 【業者Bの回答結果】を踏まえて、
2805 〔設問2〕における抗弁に対する再抗弁を主張
2806 することができるか検討したところ、
2807 本件訴訟において、
2808 以下のとおり主張する必要があると考えた。
2809
2810
2811 (ア) Aは、
2812 遅くとも令和4年9月15日には、
2813 本件車両が保安基準に適合しないことを知った。
2814
2815
2816 (イ)
2817
2818 Aは、
2819 Xに対し、
2820
2821
2822 C
2823
2824 〕。
2825
2826
2827
2828 以上を前提に、
2829 以下の各問いに答えなさい。
2830
2831
2832
2833
2834 上記Cに入る要件事実を記載しなさい。
2835
2836
2837
2838
2839
2840 上記各事実の主張が再抗弁として機能すると判断した理由を、
2841 実体法上の法律効果を踏まえて
2842 説明しなさい。
2843
2844
2845
2846 〔設問4〕
2847 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、
2848 本件訴状と本件答弁書が陳述された。
2849
2850 同期日におい
2851 て、
2852 弁護士Pは、
2853 本件保証契約の締結を裏付ける証拠として、
2854 別紙の売買契約書(本件契約書。
2855
2856
2857 お、
2858 斜体部分は全て手書きである。
2859
2860 )を、
2861 「丙(連帯保証人)」作成部分の作成者をYとして提出
2862 し、
2863 書証として取り調べられた。
2864
2865 これに対し、
2866 弁護士Qは、
2867 同期日において、
2868 本件契約書のうちY
2869 作成部分の成立を否認した。
2870
2871 その後、
2872 2回の弁論準備手続期日が行われた後、
2873 第2回口頭弁論期日
2874 において、
2875 XとYの各本人尋問が実施され、
2876 Xは【Xの供述内容】のとおり、
2877 Yは【Yの供述内
2878 容】のとおり、
2879 それぞれ供述した(それ以外の者の尋問は実施されていない。
2880
2881 )。
2882
2883 なお、
2884 各供述の
2885 うち下線部については該当する書証が提出されて取り調べられており、
2886 その成立に争いがない。
2887
2888
2889 【]の供述内容】
2890 「私は、
2891 令和4年8月上旬に学生時代の友人Aにせがまれて、
2892 私が収集しカスタマイズした中
2893 古車(本件車両)をAに売却することになりました。
2894
2895 代金額について240万円とすることが決
2896 まりましたが、
2897 Aから、
2898 蓄えがないので、
2899 代金は分割払にしてほしいと言われました。
2900
2901 私は、
2902
2903 くからの友人の頼みでもあり、
2904 これを了承しましたが、
2905 代わりに、
2906 連帯保証人を付けてほしいと
2907 頼みました。
2908
2909 そうしたところ、
2910 同月10日頃、
2911 Aから、
2912 父親のYに連帯保証人になってもらうこ
2913 とで内諾を得たとの説明を受けました。
2914
2915 Aは、
2916 あらかじめYには契約書の連帯保証人欄に署名押
2917 印してもらっておくというので、
2918 私は、
2919 インターネットで見つけたひな型を使って本件契約書の
2920 文案を作成し、
2921 Aに交付しました。
2922
2923
2924 令和4年8月17日、
2925 Aが私の自宅にやってきました。
2926
2927 このとき、
2928 本件契約書の丙(連帯保証
2929
2930 人)の署名欄には既にY名義の署名押印があり、
2931 Aは、
2932 Yの印鑑登録証明書を持参していまし
2933 た。
2934
2935 私とAは、
2936 本件契約書の甲(売主)の署名欄と乙(買主)の署名欄にそれぞれ署名押印しま
2937 した。
2938
2939
2940 本件契約書のY名義の署名がYの自筆によるものかは不明ですが、
2941 Y名義の印影は、
2942 間違いな
2943 くYの実印によるものです。
2944
2945
2946 私は、
2947 その日(令和4年8月17日)の夜にY宅に電話をして、
2948 Yに、
2949 本件車両の売却につい
2950 て、
2951 Aとの間で本件契約書の調印が終わり、
2952 Yとの間で本件保証契約が成立したことを報告しま
2953 した。
2954
2955 Yは、
2956 『Aからも聞いているので問題ない』と応じました。
2957
2958
2959 なお、
2960 Yは、
2961 Aがアパートを借りる際の保証人となるため、
2962 実印を預託したと供述しますが、
2963
2964 Aの住民票によれば、
2965 AがYの自宅から住所を移転したのは令和4年12月15日のことで
2966 す。
2967
2968
2969 【Yの供述内容】
2970 「私は今年で72歳になります。
2971
2972 令和4年8月当時、
2973 私の自宅に同居していた息子のAが、
2974
2975 の友人のXから本件車両を購入したことは事実のようです。
2976
2977 しかし、
2978 本件契約書のうち私が連帯
2979 保証人になっている部分は全く身に覚えがありません。
2980
2981
2982 Aは昔から浪費癖があり、
2983 金銭消費貸借契約書のとおり、
2984 令和4年8月当時、
2985 私は、
2986 Aの貸金
2987 業者に対する約200万円の借入れについて保証人になっていました。
2988
2989 私は、
2990 Aから、
2991 友人の車
2992 を分割払で買うので保証人になってほしいと言われましたが、
2993 年金振込通知書のとおり、
2994 当時、
2995
2996 月15万円の年金暮らしで生活に余裕がありませんでしたので、
2997 さすがにこれ以上は無理だと言
2998 って断りました。
2999
3000 私の日記の同月9日の欄にも、
3001 「Aから車購入の相談。
3002
3003 保証はさすがに断
3004 る。
3005
3006 」と記載されています。
3007
3008
3009 ちょうど同じ令和4年8月にAが就職し、
3010 私の自宅を出て一人暮らしをすることになり、
3011 アパ
3012 ートの賃貸借契約を結ぶことになりましたが、
3013 賃貸借契約に保証人が必要とのことでしたので、
3014
3015 私は、
3016 保証人になることを承諾し、
3017 Aに私の実印を預け、
3018 印鑑登録証明書を渡したことがありま
3019 した。
3020
3021 実印は1週間くらいで返してもらいましたが、
3022 この時に預けた実印を悪用し、
3023 本件契約書
3024 に私の実印を無断で押したのだと思います。
3025
3026 なお、
3027 本件契約書の私名義の署名は、
3028 私の筆跡に似
3029 てはいますが、
3030 私が記載したものではありません。
3031
3032
3033 令和4年8月17日、
3034 知らない男性から電話があって、
3035 保証がどうとか言われましたので、
3036
3037 は、
3038 Aがアパートを借りた際の不動産仲介業者だろうと思い、
3039 適当に相づちを打ってしまいまし
3040 た。
3041
3042 この電話の際に、
3043 相手から車の売買の件であるなどといった説明はありませんでした。
3044
3045
3046 以上を前提に、
3047 以下の各問いに答えなさい。
3048
3049
3050
3051
3052 弁護士Qは、
3053 本件契約書のY作成部分の成立を否認するに当たり、
3054 次のように理由(民事訴訟
3055 規則第145条)を述べた。
3056
3057 以下のD及びEに入る陳述内容を記載しなさい。
3058
3059
3060 「本件契約書のY名義の印影が〔
3061
3062 D
3063
3064 〕ことは認めるが、
3065 同印影が〔
3066
3067 E
3068
3069 〕ことは否認す
3070
3071 る。
3072
3073 YがAに預託した実印を、
3074 Aが預託の趣旨に反して冒用したものである。
3075
3076
3077
3078
3079 弁護士Pは、
3080 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、
3081 準備書面を提出することを予定してい
3082 る。
3083
3084 その準備書面において、
3085 弁護士Pは、
3086 前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及
3087 び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、
3088 本件保証契約が締
3089 結された事実が認められることにつき、
3090 主張を展開したいと考えている。
3091
3092 弁護士Pにおいて、
3093
3094 記準備書面に記載すべき内容を、
3095 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を
3096 踏まえて、
3097 答案用紙1ページ程度の分量で記載しなさい。
3098
3099 なお、
3100 記載に際しては、
3101 本件契約書の
3102 Y作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。
3103
3104
3105
3106 (別紙)
3107 (注)斜体部分は全て手書きである。
3108
3109
3110 売買契約書
3111
3112
3113 売主甲( ])は、
3114 買主乙(A)に対し、
3115 別紙目録(省略)記載の車両を代金24
3116 0万円で売却する。
3117
3118
3119
3120
3121
3122 乙は、
3123 甲に対し、
3124 前項の代金240万円を、
3125 次のとおり分割して支払う。
3126
3127
3128 令和4年8月から令和6年7月まで 毎月末日限り10万円ずつ(24回払)
3129
3130
3131
3132 連帯保証人丙(Y)は、
3133 甲に対し、
3134 乙の甲に対する第1項及び前項の代金支払債
3135
3136 務を連帯して保証する。
3137
3138
3139 4 (以下略)
3140 令和 4 年 8 月 17 日
3141 甲(売主)
3142
3143
3144 X印
3145
3146
3147
3148
3149 A印
3150 Y印
3151
3152 乙(買主)
3153 丙(連帯保証人)
3154
3155 (出題の趣旨)
3156 設問1は、
3157 保証契約に基づく保証債務履行請求権が問題となる訴訟において、
3158
3159 告の希望に応じた訴訟物、
3160 請求の趣旨及び請求を理由づける事実を整理するととも
3161 に、
3162 主たる債務である売買契約に基づく代金支払請求権につき分割払いの合意があ
3163 る場合の期限の利益喪失事由について請求を理由づける事実として訴状に記載すべ
3164 きか否かの検討を求めるものであり、
3165 前記訴訟物の法律要件及び要件事実の正確な
3166 理解が問われている。
3167
3168 また、
3169 仮差押命令の申立てに当たり疎明すべき保全の必要性
3170 について、
3171 債務者の資産状況に即して具体的に検討することが求められている。
3172
3173
3174 設問2は、
3175 設問1の請求原因に対する抗弁として機能するために必要な要件事実
3176 及びその事実が必要となる理由の説明を求めるものである。
3177
3178 主たる債務者の錯誤に
3179 基づく取消権を理由とする保証人の履行拒絶(民法第457条第3項)につき、
3180
3181 律要件及び要件事実の理解が問われている。
3182
3183
3184 設問3は、
3185 設問2の抗弁に対する再抗弁として機能するために必要な要件事実及
3186 びその事実が必要となる理由の説明を求めるものである。
3187
3188 法定追認(民法第125
3189 条第1号)に関する法律要件及び要件事実の理解が問われている。
3190
3191
3192 設問4は、
3193 本件契約書(Y作成部分)につき、
3194 Yの印章により顕出された印影が
3195 あり、
3196 いわゆる二段の推定が働くことを前提に、
3197 被告が文書の成立を否認する理由
3198 を整理した上で、
3199 原告代理人の立場から、
3200 本件契約書(Y作成部分)が要証事実で
3201 ある保証契約締結の事実についての直接証拠となることを踏まえつつ、
3202 要証事実の
3203 存否につき、
3204 原告に有利・不利な複数の事実を適切に分析・評価しながら、
3205 本件契
3206 約書(Y作成部分)が真正に成立したものであり、
3207 要証事実が認められるという点
3208 を、
3209 説得的に論述することが求められる。
3210
3211
3212
3213 [刑
3214
3215 事]
3216
3217 次の【事例】を読んで、
3218 後記〔設問〕に答えなさい。
3219
3220
3221 【事例】
3222
3223
3224 V(25歳、
3225 男性)は、
3226 令和5年6月1日午前8時頃、
3227 H県I市内のQ公園内ベンチに座り、
3228
3229 同ベンチ上に財布が入った水色のリュックサックを置いていた。
3230
3231 Vがうとうとしていたところ、
3232
3233 同ベンチの背後から、
3234 男(以下「犯人」という。
3235
3236 )が手を伸ばし、
3237 リュックサックをつかんだ。
3238
3239
3240 Vが人の気配を感じて目を覚まし、
3241 リュックサックがないことに気付いて周りを確認すると、
3242
3243 ュックサックを肩に掛けて逃走する犯人の後ろ姿が数十メートル先に見えた。
3244
3245 そこで、
3246 Vは「待
3247 て、
3248 泥棒。
3249
3250 」と叫び、
3251 犯人を追い掛けた。
3252
3253 Vは犯人に追い付き、
3254 犯人の背後から、
3255 犯人が着用し
3256 ていたパーカーのフード部分を右手でつかみ、
3257 左手で犯人の上半身を抱きかかえようとした。
3258
3259
3260 ると、
3261 犯人は、
3262 リュックサックを前方に投げ、
3263 「やめろ、
3264 離せ。
3265
3266 」と言って、
3267 Vの左手を自分の
3268 左手で払い、
3269 右手を勢いよく後ろに振った。
3270
3271 犯人の右手の甲がVの頬と鼻に当たり、
3272 Vはその衝
3273 撃でフードから手を離した。
3274
3275 そして、
3276 犯人はVの方に向き直り、
3277 Vの胸部を正面から両手で押
3278 し、
3279 Vは尻餅をついた。
3280
3281 Vはすぐさま起き上がり犯人を追い掛けようとしたが、
3282 公園の芝生が湿
3283 っていたため転倒してしまった。
3284
3285 その隙に、
3286 犯人は、
3287 リュックサックを拾い、
3288 付近に停めてあっ
3289 た赤色の自転車に乗って逃走した。
3290
3291 Vは、
3292 自転車で逃走する犯人を走って追い掛けたが、
3293 Q公園
3294 正面出入口付近で犯人を見失った。
3295
3296 なお、
3297 本件事件の目撃者はいなかった。
3298
3299
3300
3301
3302
3303 Vは、
3304 ズボンのポケットに入れていた携帯電話で110番通報をし、
3305 同日午前8時15分頃、
3306
3307 I警察署の司法警察員KらがQ公園に臨場した。
3308
3309 Vは、
3310 Kに、
3311 前記被害状況に加え、
3312 Vのリュッ
3313 クサックの中には、
3314 前日に給料として受け取った現金22万9500円(一万円札22枚、
3315 五千
3316 円札1枚、
3317 千円札4枚、
3318 五百円硬貨1枚)とNKドラッグストアの会員カード1枚在中の財布が
3319 あったこと、
3320 財布は、
3321 茶色の革製で二つ折りであることを説明した。
3322
3323 そして、
3324 犯人については、
3325
3326 「見たことのない男で、
3327 身長は170センチメートルくらいで細身だった。
3328
3329 年齢は60歳前後だ
3330 と思う。
3331
3332 黒い帽子と黒いマスクを着けており、
3333 上下紺色の着衣で、
3334 白いスニーカーを履いてい
3335 た。
3336
3337 上着はパーカーでフードが付いていた。
3338
3339 私は、
3340 リュックサックを取り戻すために同フードを
3341 引っ張ったが、
3342 男は暴れて抵抗し、
3343 最後は倒されて強くお尻を打った。
3344
3345 今も痛む。
3346
3347 」と供述し
3348 た。
3349
3350
3351 Vは、
3352 高校卒業後、
3353 とび職人として建築現場で稼働しており、
3354 身長175センチメートル、
3355
3356 重75キログラムで、
3357 週4回はジムでトレーニングをする習慣があった。
3358
3359
3360 Kらは、
3361 引き続きQ公園の実況見分を行った。
3362
3363 Q公園は、
3364 広大な敷地を有する公園であり、
3365
3366 が座っていたベンチは、
3367 一周400メートルのジョギングコースに沿って設置されていた。
3368
3369
3370 Kらが、
3371 Q公園正面出入口に設置してある防犯カメラ1台の画像を確認したところ、
3372 同日午前
3373 7時45分頃、
3374 黒い帽子と黒いマスクを着け、
3375 紺色のパーカーとズボンを着用し、
3376 白いスニーカ
3377 ーを履いた人物が、
3378 赤色の自転車に乗って同正面出入口からQ公園敷地内に入ってきて、
3379 午前8
3380 時9分頃、
3381 同一の人物が、
3382 水色のリュックサックを背負い、
3383 赤色の自転車に乗ってQ公園を出
3384 て、
3385 I市内のX駅方面に走り去っていく姿が撮影されていた。
3386
3387 Vが座っていたベンチ付近には防
3388 犯カメラは設置されておらず、
3389 被害状況は確認できなかった。
3390
3391 Kらは、
3392 Q公園に設置してあるそ
3393 の他の防犯カメラ画像も確認したが、
3394 犯人と思われる人物は撮影されていなかった。
3395
3396
3397 その後、
3398 Vは、
3399 KらとI警察署に行き、
3400 本件事件の被害届を提出し、
3401 前記被害状況等に関する
3402 Vの司法警察員面前調書が作成された。
3403
3404 Kは、
3405 Vに、
3406 医師の診断を受けるよう伝え、
3407 Vは帰宅し
3408 た。
3409
3410
3411
3412
3413
3414 同日午後1時20分頃、
3415 Kは、
3416 Q公園から約2キロメートル離れたX駅付近を警ら中、
3417 X駅前
3418
3419 の路地で、
3420 前記防犯カメラに撮影されていた人物と同様、
3421 黒い帽子と黒いマスクを着け、
3422 紺色の
3423 パーカーとズボンを着用し、
3424 白いスニーカーを履いた男を発見した。
3425
3426 その男は、
3427 水色リュックサ
3428 ックを背負っていた。
3429
3430 そこで、
3431 Kが、
3432 男に話を聞こうと近付いて行ったところ、
3433 男は駆け出し
3434 た。
3435
3436 Kが男に追い付いて停止させた上、
3437 「そのリュックサックはあなたの物ですか。
3438
3439 」と聞く
3440 と、
3441 男は、
3442 「そうです。
3443
3444 」と答えた。
3445
3446 Kが、
3447 「何が入っているのですか。
3448
3449 」と聞くと、
3450 男は、
3451
3452 「中を見たければどうぞ。
3453
3454 」と言ってリュックサックをKに渡した。
3455
3456 Kが中を確認すると、
3457 茶色
3458 の革製二つ折り財布が入っており、
3459 その中に現金22万9500円(一万円札22枚、
3460 五千円札
3461 1枚、
3462 千円札4枚、
3463 五百円硬貨1枚)とNKドラッグストアの会員カード(無記名で会員カード
3464 番号が記載されているもの)1枚が入っていた。
3465
3466 Kが、
3467 身分を証明するものを見せてほしいと言
3468 うと、
3469 男は、
3470 「今は持っていない。
3471
3472 家に来てくれれば自動車運転免許証はある。
3473
3474 」と答えたた
3475 め、
3476 Kは、
3477 男の了承を得て、
3478 一緒に男の家に向かった。
3479
3480
3481 男の家は、
3482 X駅から徒歩で約10分の場所にあるアパートであった。
3483
3484 自室前には赤色の自転車
3485 が停めてあったため、
3486 Kが「これはあなたの自転車ですか。
3487
3488 」と聞くと、
3489 男は「そうです。
3490
3491 」と
3492 答えた。
3493
3494
3495 男は、
3496 Kに自動車運転免許証を提示した。
3497
3498 男の氏名はA(65歳、
3499 身長168センチメート
3500 ル、
3501 体重55キログラム)であった。
3502
3503 Aは、
3504 「私はこの家に一人で住んでいます。
3505
3506 1年前から体
3507 調が良くなく、
3508 現在は無職で生活保護を受けています。
3509
3510 」と述べたため、
3511 Kが「生活保護を受け
3512 ながら約23万円ものお金を財布に入れていたのはなぜですか。
3513
3514 」と聞くと、
3515 Aは「すみませ
3516 ん。
3517
3518 実は、
3519 水色のリュックサックとその中の財布は、
3520 今日午後1時頃、
3521 X駅前のバス乗り場ベン
3522 チ横のごみ箱に捨ててあったので拾いました。
3523
3524 お金が入っていたので、
3525 警察に届けた方がいいの
3526 ではないかと思いながら持っていたら警察に声を掛けられました。
3527
3528 前科があるので、
3529 本当のこと
3530 を言っても警察に捕まるのではないかと怖くなり嘘をついてしまいました。
3531
3532 」と述べた。
3533
3534 その
3535 後、
3536 Kが確認をしたところ、
3537 Aは、
3538 現在は無職で、
3539 I市の生活保護を受けており、
3540 傷害や暴行の
3541 前科が複数あることが判明した。
3542
3543 Kは、
3544 AにI警察署への任意同行を求め、
3545 Aはこれに応じ、
3546
3547 とAは、
3548 同日午後2時頃、
3549 I警察署に到着した。
3550
3551
3552
3553
3554 その頃、
3555 警察から連絡を受けたVがI警察署を訪れ、
3556 Aが所持していた物品を確認し、
3557 「水色
3558 のリュックサックと財布、
3559 その中に入っている現金や会員カードは私の物です。
3560
3561 」と述べた。
3562
3563
3564 して、
3565 Vは、
3566 事情聴取を受けているAを別室からマジックミラー越しに確認し、
3567 「犯人と目元が
3568 似ており同一人物であると思う。
3569
3570 ただ、
3571 犯人はマスクをしていたので断定はできない。
3572
3573 」と述べ
3574 た。
3575
3576 同日、
3577 Vは、
3578 病院へ行って診察を受けており、
3579 「左足首捻挫、
3580 全治約10日間」と記載され
3581 た診断書をKに提出した。
3582
3583 Kは、
3584 Vの左足首が腫れているのを確認したので、
3585 同部位を写真撮影
3586 した。
3587
3588
3589 そして、
3590 Kは、
3591 Aの逮捕状の発付を得て、
3592 同日午後6時30分頃、
3593 Aを、
3594 強盗致傷の被疑事実
3595 で逮捕した。
3596
3597 Aは、
3598 Kによる弁解録取において、
3599 「私は、
3600 Q公園で、
3601 リュックサックを盗んだ
3602 り、
3603 人を殴ったりしていない。
3604
3605 これ以上何も話したくない。
3606
3607 」と述べ、
3608 その後黙秘した。
3609
3610
3611
3612
3613
3614 同年6月2日、
3615 Aは、
3616 強盗致傷(刑法240条前段)の送致事実(別紙のとおり)によりH地
3617 方検察庁検察官Pに送致された。
3618
3619
3620 @Pは、
3621 本件事件記録を確認し、
3622 Aが所持していた財布在中のNKドラッグストア会員カード
3623 の会員登録情報の捜査記録がなかったことから、
3624 Kに連絡をしたところ、
3625 捜査未了であったた
3626 め、
3627 この点につき捜査するように指示をした。
3628
3629
3630 その後、
3631 Aは、
3632 Pによる弁解録取においても黙秘し、
3633 所要の手続を経て、
3634 同日中に勾留され
3635 た。
3636
3637
3638
3639
3640
3641 同日、
3642 Aに国選弁護人Bが選任され、
3643 同日中にBはAと接見した。
3644
3645 Aは、
3646 Bに対し、
3647 「私は強
3648 盗などしていない。
3649
3650 無実の罪で捕まっている。
3651
3652 自宅に帰りたい。
3653
3654 」と述べた。
3655
3656
3657 Bは、
3658 Aを早期に身体拘束から解放すべきであると考えた。
3659
3660 そこで、
3661 Bの法律事務所に勉強に
3662
3663 来ている学生甲、
3664 乙及び丙の3名に、
3665 勾留されている被疑者を解放する方法としてどのような手
3666 続が考えられるかと尋ねたところ、
3667 各人は次のように発言した。
3668
3669
3670 甲「勾留理由開示の請求をすべきだ。
3671
3672
3673 乙「保釈の請求をすべきだ。
3674
3675
3676 丙「勾留に対する準抗告の申立てをすべきだ。
3677
3678
3679 同年6月3日、
3680 ABは、
3681 勾留の理由及び必要性がないとして裁判所に準抗告を申し立てた。
3682
3683
3684 れに対し、
3685 裁判所は、
3686 同日、
3687 その準抗告を棄却した。
3688
3689
3690
3691
3692 同年6月4日、
3693 Aが所持していた財布在中のNKドラッグストアの会員カードの会員登録情報
3694 につき、
3695 所要の捜査により、
3696 同カードはVのものであることが判明した。
3697
3698
3699 Aが前記のとおり、
3700 「水色のリュックサックは、
3701 6月1日午後1時頃、
3702 X駅前のバス乗り場ベ
3703 ンチ横のごみ箱に捨ててあったので拾った。
3704
3705 」と述べたことから、
3706 Kらは、
3707 同年6月7日、
3708 I市
3709 内X駅前に設置されている複数の防犯カメラにつき、
3710 保存されていた同年5月30日から同年6
3711 月1日までの間の画像を確認したところ、
3712 X駅前のバス乗り場周辺が撮影されている画像に、
3713
3714 や水色リュックサックは撮影されていなかった。
3715
3716
3717 同年6月15日、
3718 Pは、
3719 Vの事情聴取を実施し、
3720 Vの検察官面前調書を作成した。
3721
3722 Vは、
3723 前記
3724 被害状況等に加え、
3725 「私の左手で、
3726 犯人の上半身を背後から抱きかかえようとした際、
3727 犯人の体
3728 に触れた。
3729
3730 そのとき細い体だと思った。
3731
3732 犯人は、
3733 私の左手を振り払って、
3734 右手を勢いよく後ろに
3735 振った。
3736
3737 犯人の右手は私の頬と鼻に強く当たり、
3738 目の前に火花が散ったような衝撃があった。
3739
3740
3741 瞬何が起きたのか分からず、
3742 思わず手を離してしまった。
3743
3744 すると、
3745 Aが私の方を向いて正面から
3746 私の胸の部分を両手で勢いよく押してきたので、
3747 私は後ろに倒れて尻餅をついた。
3748
3749 あの細さから
3750 は想像がつかない強さだったのでびっくりした。
3751
3752 すぐに起き上がって追い掛けたが、
3753 芝生が濡れ
3754 ており、
3755 足を滑らせて転倒した。
3756
3757 その時、
3758 足首をひねったがそのまま追い掛けたので痛めてしま
3759 った。
3760
3761 病院で、
3762 左足首捻挫の診断を受けたが、
3763 生活に支障はなかった。
3764
3765 顔とお尻も医者に診ても
3766 らったが怪我はなかった。
3767
3768 」と述べた。
3769
3770
3771 Pは、
3772 所要の捜査を遂げ、
3773 Aが所持していた水色リュックサック並びに現金及びNKドラッグ
3774 ストアの会員カード在中の財布がVの物であり、
3775 本件の被害品であると判断した。
3776
3777 そして、
3778 BP
3779 は、
3780 本件犯人がAであることにつき、
3781 Aが被害品を所持していたことは重要な事実であるが、
3782
3783 れのみでは不十分であり、
3784 それ以外の事実も加えることでAが犯人であることを立証できると考
3785 えた。
3786
3787
3788 以上の検討を踏まえ、
3789 CPは、
3790 Aにつき、
3791 窃盗と暴行の公訴事実(別紙のとおり)で公判請求
3792 した。
3793
3794
3795
3796
3797
3798 その後、
3799 Aは接見において、
3800 Bに、
3801 「私は、
3802 Q公園に行っていない。
3803
3804 6月1日は自宅にいた。
3805
3806
3807 昼になってX駅の方に向かい、
3808 リュックサックは警察官に声を掛けられる直前に拾った。
3809
3810 拾った
3811 場所は、
3812 X駅前のバス停付近にあるごみ箱だったと思うが、
3813 ほかの場所かもしれない。
3814
3815 」旨説明
3816 した。
3817
3818 Aの説明を踏まえ、
3819 Bは、
3820 Aと犯人との同一性(犯人性)を争う方針を固めた。
3821
3822
3823
3824
3825
3826 第1回公判期日の罪状認否において、
3827 Aは「身に覚えがない。
3828
3829 」と述べた。
3830
3831
3832 証拠調べ手続において、
3833 Pは、
3834 関係各証拠の取調べを請求したが、
3835 このうち、
3836 「被害状況等」
3837 を立証趣旨とするVの検察官面前調書について、
3838 DBは「不同意」と述べた。
3839
3840 また、
3841 「本件後の
3842 Vの左足首の状況」を立証趣旨とするKが撮影したVの左足首の写真について、
3843 EBは「異議あ
3844 り。
3845
3846 」と述べた。
3847
3848
3849
3850 〔設問1〕
3851
3852
3853 検察官Pが下線部@の指示をした理由を答えなさい。
3854
3855
3856
3857
3858
3859 検察官Pが、
3860 下線部Bのとおり、
3861 本件の犯人がAであると認定するに当たり、
3862 Aが被害品を所
3863 持していた事実が重要であると考えた理由及びその事実のみでは不十分だと考えた理由を、
3864 それ
3865
3866 ぞれ具体的な事実を指摘しつつ答えなさい。
3867
3868
3869 〔設問2〕
3870 下線部Aにつき、
3871 弁護人Bが、
3872 Aを早期に身体拘束から解放するために
3873
3874
3875 甲及び乙が提案した各手続を採らなかった理由
3876
3877
3878
3879 丙が提案した手続を採った理由
3880
3881 を各手続の根拠条文を挙げつつ答えなさい。
3882
3883
3884 〔設問3〕
3885 下線部Cにつき、
3886 検察官Pが、
3887 送致事実の強盗致傷ではなく、
3888 別紙記載の公訴事実でAを公判請
3889 求した理由につき、
3890 具体的な事実を指摘しつつ答えなさい。
3891
3892 なお、
3893 Vの供述は信用できるものとし
3894 て検討すれば足りる。
3895
3896
3897 〔設問4〕
3898
3899
3900 下線部Dの弁護人Bの意見を踏まえて、
3901 その後想定される検察官Pの対応を答えなさい。
3902
3903
3904
3905
3906
3907 下線部Eにつき、
3908 異議の法的性質及び異議の理由を述べ、
3909 その後想定される裁判所の対応を答
3910 えなさい。
3911
3912
3913
3914 (別紙)
3915
3916 ※具体的な犯行場所や被害品時価合計金額は省略
3917
3918
3919
3920
3921
3922
3923
3924
3925 被疑者は、
3926 令和5年6月1日午前8時頃、
3927 H県I市内所在のQ公園において、
3928 V所有の現金22
3929 万9500円及び財布ほか1点在中のリュックサック(時価合計約○円相当)を窃取して逃走した
3930 ところ、
3931 Vにその犯行を発見されて追跡され、
3932 同公園内において追い付かれて取り押さえられる
3933 や、
3934 逮捕を免れるため、
3935 V(当時25歳)に対し、
3936 その顔面を手の甲で1回殴打し、
3937 さらに、
3938 その
3939 胸部を両手で押してVを転倒させる暴行を加え、
3940 同人に全治約10日間を要する左足首捻挫の傷害
3941 を負わせたものである。
3942
3943
3944
3945
3946
3947
3948
3949
3950
3951
3952
3953 被告人は
3954 第1
3955
3956 令和5年6月1日午前8時頃、
3957 H県I市内所在のQ公園において、
3958 V所有の現金22万9
3959 500円及び財布ほか1点在中のリュックサック(時価合計約○円相当)を窃取し
3960
3961 第2
3962
3963 前記日時場所において、
3964 V(当時25歳)に対し、
3965 その顔面を手の甲で1回殴打し、
3966 さら
3967 に、
3968 その胸部を両手で押して同人を転倒させる暴行を加え
3969
3970 たものである。
3971
3972
3973
3974
3975
3976
3977
3978
3979
3980
3981
3982
3983
3984
3985 第1
3986
3987
3988
3989
3990
3991 刑法235条
3992
3993 第2
3994
3995
3996
3997
3998
3999 同法208条
4000
4001 (出題の趣旨)
4002 本問は、
4003 犯人性及び実行行為性が問題となる強盗致傷事件を題材に、
4004 犯人性の認
4005 定における被害品の近接所持の推認力(設問1)、
4006 被疑者を身体拘束から解放する
4007 手段(設問2)、
4008 事後強盗罪における暴行の実行行為性の判断要素等(設問3)、
4009
4010 検察官請求証拠に対する弁護人の意見を踏まえたその後の公判手続の進行の在り方
4011 (設問4)について、
4012 【事例】に現れた証拠や事実、
4013 手続の経過を適切に把握した
4014 上で、
4015 法曹三者それぞれの立場から、
4016 その思考過程及び採るべき具体的対応につい
4017 て解答することを求めており、
4018 刑事事実認定の基本構造、
4019 刑事実体法及び刑事手続
4020 法についての基本的理解並びに基礎的実務能力を確認するものである。
4021
4022
4023
4024 [倒
4025
4026
4027
4028 法]
4029
4030 次の文章を読んで、
4031 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
4032
4033
4034 【事例】
4035 A社は、
4036 高級婦人服を中心とし、
4037 学生服の販売も手掛けている総合衣料品店を経営している、
4038
4039 本金1000万円の株式会社である。
4040
4041 A社は、
4042 衣料品の販売不振や販売商品の多角化による事業拡
4043 大の失敗により、
4044 総額2億円の負債を抱えて債務超過に陥り、
4045 令和5年3月1日、
4046 再生手続開始の
4047 申立てをした。
4048
4049 裁判所は、
4050 同日、
4051 監督命令を発令し、
4052 同月8日、
4053 A社について再生手続開始の決定
4054 をした。
4055
4056 なお、
4057 監督命令と同時に発令された弁済禁止の保全処分において、
4058 10万円以下の債務は
4059 弁済禁止の対象外とされた。
4060
4061
4062 A社の株主は2名で、
4063 株主構成としては、
4064 B(A社の代表取締役)が60株を、
4065 Bの父であるC
4066 が40株を保有している。
4067
4068
4069 A社の再生手続開始の決定時の債権者は、
4070 金融機関が計3社、
4071 衣料品の製造委託先10社や販売
4072 商品の仕入先20社を含む商取引先が計50社、
4073 A社の店舗で使用することができるクーポン券の
4074 保有者が300名である。
4075
4076
4077 〔設問1〕
4078 以下の小問からまでに答えなさい(各小問は独立した問題である。
4079
4080 )。
4081
4082
4083
4084
4085 販売商品の仕入先20社は、
4086 A社にとって、
4087 いずれも他の仕入先を見付けることも可能な取引
4088 先であり、
4089 取引継続の必要性の高い取引先ではない。
4090
4091 仕入先20社は、
4092 再生手続開始の決定後で
4093 ある令和5年3月13日から同月15日までの間にかけて、
4094 同年2月末日までに納品した商品に
4095 ついての未払売買代金を約定どおりに支払ってほしいとA社に伝えてきている。
4096
4097
4098 A社は、
4099 仕入先20社に対し、
4100 未払売買代金を約定どおりに支払うことができるか、
4101 説明しな
4102 さい。
4103
4104
4105
4106
4107
4108 クーポン券は、
4109 令和5年2月末日までに、
4110 A社の店舗で学生服を購入した者に対し、
4111 購入金額
4112 に応じて配布されたもので、
4113 額面が1000円であり、
4114 A社の店舗において、
4115 購入した学生服の
4116 仕立て直しや校章入りワイシャツの購入などをする際に、
4117 金券として使用することができる。
4118
4119
4120 ーポン券を最も多く保有する者は、
4121 1人で10枚(額面合計1万円)を保有している。
4122
4123 クーポン
4124 券の保有者300名が有するクーポン券の額面総額は、
4125 合計100万円である。
4126
4127 A社は、
4128 再生手
4129 続開始の決定後の同年3月13日、
4130 A社を学生服の指定販売店とする複数の学校から、
4131 保護者か
4132 ら学校に問合せが相次いでいるので、
4133 直ちに対応してもらいたいとの連絡を受けた。
4134
4135 学校からの
4136 連絡によれば、
4137 保護者は、
4138 学生服の仕立て直しや校章入りワイシャツの購入などをする際のクー
4139 ポン券の使用に支障が出るのかについて不安があるようであり、
4140 クーポン券を使用することがで
4141 きない場合には、
4142 店舗での混乱も予想される状況であった。
4143
4144
4145 A社として、
4146 再生手続開始の決定後、
4147 店舗での混乱を回避し、
4148 再生手続を円滑に進めるため
4149 に、
4150 保護者の要望に応じてクーポン券を使用させることができるか、
4151 クーポン券の保有者の権利
4152 が再生手続においてどのように取り扱われるかを述べた上で論じなさい。
4153
4154
4155
4156
4157
4158 製造委託先10社のうち高級服の製造を委託しているD社、
4159 E社及びF社(以下「D社ら」と
4160 いう。
4161
4162 )は、
4163 その縫製技術の高さから、
4164 早期に代替先を確保することが難しい委託先であり、
4165
4166 社販売の高級服を愛用する顧客層を維持するためにも不可欠な取引先である。
4167
4168 再生手続開始の決
4169 定後の令和5年3月9日にA社がD社らに連絡を取ったところ、
4170 D社らは、
4171 A社に対し、
4172 いずれ
4173 もA社との取引継続に理解を示したが、
4174 同年2月末日までに納品した高級服についての未払委託
4175 料が約定期限である同年3月31日までに支払われなければ、
4176 新たな取引はしないと伝えた。
4177
4178
4179
4180 社、
4181 E社及びF社に対する未払委託料は、
4182 それぞれ60万円、
4183 70万円、
4184 80万円である。
4185
4186 A社
4187 としては、
4188 事業価値の劣化を回避するためにも、
4189 D社らについて、
4190 その要望に応じて、
4191 未払委託
4192 料を約定期限までに支払って今後も取引を続けたいと考えている。
4193
4194
4195 A社として、
4196 D社らに対する未払委託料を約定期限までに支払うことができるか、
4197 論じなさ
4198 い。
4199
4200
4201 〔設問2〕
4202 Bは、
4203 A社の事業に関心を示してきた高級紳士服店を経営するG社に事業の全部の譲渡を行い、
4204
4205 その譲渡代金により、
4206 債権者に一括して弁済したいと考えている。
4207
4208 そこで、
4209 Bは、
4210 再生計画により
4211 事業譲渡を行うことも検討したが、
4212 その間の事業価値の劣化により、
4213 譲渡代金の低下やそれに伴う
4214 弁済率の低下も予想されたことから、
4215 早期に再生計画によらずにG社への事業譲渡を行いたいと考
4216 えている。
4217
4218 これに対し、
4219 A社の創業者であるCは、
4220 事業規模縮小による自主再建を目指したいと考
4221 えており、
4222 事業譲渡を行うというBの方針に反対の意向を示している。
4223
4224 Bが想定するG社への事業
4225 譲渡の対価は、
4226 公認会計士作成の資料によれば適正な価格である。
4227
4228
4229 A社として、
4230 再生計画によらずに事業譲渡を迅速に行うために、
4231 民事再生法上、
4232 どのような方策
4233 を採ることができるか、
4234 その場合の裁判所における手続についても触れつつ論じなさい。
4235
4236
4237
4238 (出題の趣旨)
4239 設問1は、
4240 事例を題材に、
4241 再生債権の概念についての理解及び再生債権について
4242 は再生手続開始後は再生計画によることなく個別の弁済等をすることが原則として
4243 禁止されていることとその例外についての理解を問うものである。
4244
4245
4246 小問(1)においては、
4247 再生債権の定義を条文(民事再生法(以下「法」とい
4248 う。
4249
4250 )第84条第1項)とともに摘示した上で、
4251 支払先20社に対する未払売買代
4252 金について、
4253 必要な事実を摘示して当てはめをすることが求められる。
4254
4255 また、
4256 再生
4257 手続開始後は、
4258 再生債権は再生計画によることなく個別の弁済をすることができな
4259 いことを条文(法第85条第1項)とともに摘示した上で、
4260 結論を論ずることが求
4261 められる。
4262
4263
4264 小問(2)においては、
4265 問題文にある事実を踏まえてクーポン券保有者の権利が
4266 「財産上の請求権」に該当することを論じ、
4267 更に必要な事実を摘示して再生債権の
4268 定義への当てはめをして、
4269 原則として再生計画によることなく個別に使用させるこ
4270 とができないことを指摘することが求められる。
4271
4272 そして、
4273 その例外として再生計画
4274 によることなく個別に使用させることが認められるかに関して、
4275 問題文の事実か
4276 ら、
4277 法第85条第5項前段の場面であることについて、
4278 その要件を条文とともに摘
4279 示した上で必要な事実を摘示して当てはめをし、
4280 結論を論ずることが求められる。
4281
4282
4283 小問(3)においては、
4284 D社らに対する未払委託料について、
4285 必要な事実を摘示
4286 して再生債権の定義への当てはめをし、
4287 原則として再生計画によることなく個別の
4288 弁済をすることができないことを指摘することが求められる。
4289
4290 そして、
4291 その例外と
4292 して再生計画によることなく個別の弁済が認められるかに関して、
4293 問題文の事実か
4294 ら、
4295 法第85条第5項後段の場面であることについて、
4296 その要件を条文とともに摘
4297 示した上で必要な事実を摘示して当てはめをし、
4298 結論を論ずることが求められる。
4299
4300
4301 設問2は、
4302 事例を題材に、
4303 再生手続開始後に再生計画によることなく事業譲渡を
4304
4305 する場合に必要とされる裁判所の許可について、
4306 その要件や手続についての理解を
4307 問うものである。
4308
4309
4310 再生手続開始後に再生計画によることなく事業譲渡をする場合に必要とされる裁
4311 判所の許可について、
4312 その要件を条文(法第42条第1項第1号)とともに摘示し
4313 た上で必要な事実を摘示して当てはめをすること、
4314 また、
4315 その際の手続について条
4316 文(摘示する手続に対応する条文)とともに説明することが求められる。
4317
4318
4319 さらに、
4320 A社が株式会社であることから事業譲渡をするために株主総会の特別決
4321 議による承認が必要であることを条文(会社法第467条第1項第1号、
4322 第309
4323 条第2項第11号)とともに摘示した上で、
4324 問題文にある事実を踏まえてその承認
4325 を得ることが困難であることを指摘し、
4326 株主総会の特別決議による承認に代わる裁
4327 判所の許可(代替許可)を得ることが考えられること及びその要件を条文(法第4
4328 3条第1項)とともに摘示した上で必要な事実を摘示して当てはめをし、
4329 結論を論
4330 ずることが求められる。
4331
4332
4333
4334 [租
4335
4336
4337
4338 法]
4339
4340 A社は、
4341 毎年4月1日から翌年3月31日までの期間を事業年度とする株式会社である。
4342
4343 A社
4344 は、
4345 平成20年6月1日、
4346 甲土地をその時点における時価である1000万円の対価により取得した。
4347
4348
4349 A社は、
4350 平成29年頃から、
4351 甲土地の売却先を探していたが、
4352 適当な相手が見付からず、
4353 結局、
4354
4355 平成30年6月1日、
4356 A社の取締役の一人であるBとの間で甲土地を2000万円で売却する旨の
4357 売買契約を締結した。
4358
4359 同日、
4360 BがA社に売買代金を支払うとともに、
4361 A社はBに対して甲土地を引
4362 き渡し、
4363 所有権移転登記を了した(以下、
4364 この取引を「本件売買」という。
4365
4366 )。
4367
4368 A社は、
4369 本件売買
4370 時における甲土地の時価が2000万円であるという前提で、
4371 平成30年4月1日から平成31年
4372 3月31日までの期間の事業年度(以下「平成31年3月期」という。
4373
4374 )に係る法人税の申告・納
4375 付をした。
4376
4377
4378 Bは、
4379 令和2年4月1日、
4380 その子であるCに、
4381 甲土地を贈与した。
4382
4383 ただし、
4384 この贈与には、
4385 Bの
4386 D銀行に対する2500万円の金銭支払債務をCが引き受ける旨の負担が付いていた(以下、
4387 この
4388 贈与を「本件贈与」という。
4389
4390 )。
4391
4392 同日、
4393 甲土地はBからCに引き渡され、
4394 所有権移転登記を了し
4395 た。
4396
4397 なお、
4398 本件贈与時における甲土地の時価は、
4399 5500万円である。
4400
4401
4402 所轄税務署長Yは、
4403 令和2年6月1日、
4404 本件売買時における甲土地の時価は3000万円であ
4405 り、
4406 売買代金との差額である1000万円はA社からBに対する役員給与に当たるとして、
4407 A社に
4408 対して平成31年3月期の法人税の更正処分等をした(以下「本件処分等」という。
4409
4410 )。
4411
4412 A社は、
4413
4414 これに対して、
4415 適法な不服申立てを経て訴訟を提起しており、
4416 本件売買時における甲土地の時価は
4417 2000万円であることを主張している。
4418
4419
4420 Cは、
4421 令和4年4月1日、
4422 不動産業者に、
4423 甲土地を6000万円の対価により譲渡した。
4424
4425
4426 〔設問〕
4427
4428
4429 本件売買に関して次の問いに答えなさい。
4430
4431
4432
4433
4434 本件売買についてYの認定に従うならば、
4435 平成31年3月期において、
4436 本件売買によりA社に
4437 生じる益金及び損金の額はどうなるか。
4438
4439
4440
4441
4442
4443 Yが令和2年6月1日に行った「本件処分等」には、
4444 平成31年3月期の法人税の更正処分の
4445 他に、
4446 どのような行政処分が含まれる可能性があるか。
4447
4448 ただし、
4449 地方法人税及び復興特別所得税
4450 は考慮しなくてよい。
4451
4452
4453
4454
4455
4456 本件贈与に関して次の問いに答えなさい。
4457
4458
4459
4460
4461 本件贈与は、
4462 所得税法第60条第1項第1号に規定される「贈与」に当たるか。
4463
4464
4465
4466
4467
4468 本件売買時における甲土地の時価が2000万円であることを前提として、
4469 本件贈与によって
4470 生じるBの所得税の課税関係、
4471 及び本件贈与により甲土地を取得したCにとっての甲土地の取得
4472 費について説明しなさい。
4473
4474 なお、
4475 甲土地に関しては、
4476 問題文中に記された以外の取得費又は譲渡
4477 費用はないものとする。
4478
4479
4480
4481
4482
4483 本件売買についてのYの認定を前提として、
4484 本件贈与によって生じるBの所得税の課税関係、
4485
4486 及び本件贈与により甲土地を取得したCにとっての甲土地の取得費について説明しなさい。
4487
4488
4489 お、
4490 甲土地に関しては、
4491 問題文中に記された以外の取得費又は譲渡費用はないものとする。
4492
4493
4494
4495 (参照条文)
4496
4497 所得税法施行令
4498
4499 (時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
4500 第169条
4501
4502 法第59条第1項第2号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定め
4503
4504 る額は、
4505 同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1
4506 に満たない金額とする。
4507
4508
4509
4510 (出題の趣旨)
4511 本問では、
4512 法人から個人(役員)、
4513 更に別の個人へと土地が転々譲渡された事例
4514 を題材として、
4515 法人税法、
4516 所得税法及び国税通則法の基本的な事項についての理解
4517 が問われている。
4518
4519
4520 まず設問1(1)は、
4521 法人から役員個人に資産が譲渡された場合の益金及び損金
4522 の算定が問われている。
4523
4524 設問のように税務署長Yの認定に従うとすれば、
4525 A社は1
4526 000万円で取得した土地を時価より低い価額で譲渡したことになる。
4527
4528 この場合
4529 に、
4530 益金及び損金の算定上、
4531 法人税法のどの条文が適用されるか、
4532 一つ一つ丁寧に
4533 論じればよい。
4534
4535 その上で、
4536 法人は本来受け取るべき対価1000万円を受け取らな
4537 いという形で経済的利益を役員Bに与えたとする認定に沿って、
4538 この経済的価値の
4539 移転が単純に損金算入できるかどうか、
4540 役員給与に係る「別段の定め」の処理を適
4541 切に行うことが求められている。
4542
4543
4544 設問1(2)は、
4545 役員給与が関わる事案では、
4546 「給与」の支払者としての法人の
4547 所得税の源泉徴収義務が問題になること、
4548 及び法人税の過少申告や源泉所得税の不
4549 納付には加算税が賦課されること、
4550 が理解できているかを問うている。
4551
4552 租税法の学
4553 習において、
4554 実際の判例を読む習慣を付けていれば容易に答えられる問題であろ
4555 う。
4556
4557
4558 設問2(1)は、
4559 親子間での負担付贈与の問題であり、
4560 著名な最高裁判例(最判
4561 昭和63年7月19日集民第154号443頁)の存在を踏まえた解答が求められ
4562 る。
4563
4564 ここで借用概念の解釈方法にも触れることができれば、
4565 より厚みのある答案と
4566 なろう。
4567
4568 譲渡所得の意義と所得税法60条の課税繰延べの制度趣旨に照らして、
4569
4570 与者に経済的利益を生じさせる負担付贈与が同条第1項第1号にいう「贈与」に含ま
4571 れないことを的確に指摘する必要がある。
4572
4573
4574 設問2(2)では、
4575 贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与の所得税にお
4576 ける扱い、
4577 及び、
4578 譲渡所得金額算定の基本的な仕組み、
4579 についての理解が問われて
4580 いる。
4581
4582 小問(1)の誘導にうまく乗れば、
4583 「贈与」ゆえに課税繰延べという誤った
4584 処理に陥ることは避けられよう。
4585
4586 小問(3)は、
4587 小問(2)との事実関係の違いに
4588 よって、
4589 課税関係がどのように変わるかを問う。
4590
4591 ここでは第1に、
4592 個人が法人から
4593 資産を低額で譲り受けた場合における、
4594 その資産の取得費が問題となる。
4595
4596 これは所
4597 得税法に明文規定がない問題であるので、
4598 解釈の論拠を適切に述べることが求めら
4599 れる。
4600
4601 第2に、
4602 個人間における資産の低額譲渡で譲渡損が生じている場合におけ
4603 る、
4604 条文の適用関係を正確に理解しているかどうかが問われている。
4605
4606
4607
4608 [経
4609
4610
4611
4612 法]
4613
4614 甲製品は特有の機能を有する事務機器であり、
4615 甲製品に代替できる製品はない。
4616
4617 我が国における
4618 甲製品のメーカーとして、
4619 A社、
4620 B社、
4621 C社、
4622 D社及びE社の5社(以下「5社」という。
4623
4624 )があ
4625 り、
4626 令和4年における各社のシェア(甲製品の国内における総販売額に占める各社の販売額の割
4627 合)は、
4628 それぞれ、
4629 30パーセント、
4630 25パーセント、
4631 20パーセント、
4632 15パーセント、
4633 10パ
4634 ーセントとなっている。
4635
4636 なお、
4637 輸入は事実上行われていない。
4638
4639 また、
4640 5社は、
4641 甲製品事業の振興と
4642 共通の利益の増進を目的として、
4643 一般社団法人日本甲製品協会(以下「甲製品協会」という。
4644
4645 )を
4646 設立している。
4647
4648
4649 5社は、
4650 それぞれ、
4651 甲製品を直接ユーザーに販売している。
4652
4653 甲製品の需要の大部分は買換えに伴
4654 うものであり、
4655 一般に、
4656 ユーザーは数年ごとに甲製品を買い換えている。
4657
4658 甲製品について、
4659 メーカ
4660 ーごとの性能、
4661 使用方法等に大きな違いはないことから、
4662 ユーザーは買換えに際して異なるメーカ
4663 ーの甲製品を選択することが少なくなく、
4664 5社間でユーザーの争奪が活発に行われてきている。
4665
4666
4667 使用済みとなった甲製品については、
4668 従来、
4669 メーカーがユーザーから無償で引き取り、
4670 整備等を
4671 行った上で中古品として販売することもあるが、
4672 多くは産業廃棄物処理業者に委託して廃棄してい
4673 たほか、
4674 ユーザーが自ら廃棄していた。
4675
4676
4677 ところが、
4678 数年前、
4679 法令により、
4680 使用済みの甲製品(整備等を行った上で中古品として販売され
4681 るものを除く。
4682
4683 以下同じ。
4684
4685 )について、
4686 製造販売したメーカーが回収し、
4687 再利用が可能な部品等を
4688 取り出し、
4689 洗浄・検査等を行って、
4690 甲製品の部品等としての再利用を可能とすること(以下「リサ
4691 イクル」という。
4692
4693 )が義務付けられ、
4694 所要の準備期間を置いて令和5年4月1日から施行されるこ
4695 ととなった。
4696
4697 リサイクルを義務付ける法令には、
4698 リサイクルに要する費用(以下「リサイクル費
4699 用」という。
4700
4701 )について、
4702 メーカーは合理的な範囲でユーザーに負担を求めることができる旨定め
4703 られている。
4704
4705
4706 リサイクル費用は、
4707 回収した使用済みの甲製品から部品等を取り出して再利用が可能となるよう
4708 に処理すること(以下「処理」という。
4709
4710 )に要する費用(処理施設を設置・運営する費用を含む。
4711
4712
4713 以下「処理費用」という。
4714
4715 )と、
4716 回収した使用済みの甲製品の処理施設への運送及び再利用される
4717 部品等の処理施設から甲製品の製造・修理拠点への運送(以下、
4718 合わせて「運送」という。
4719
4720 )に要
4721 する費用(以下「運送費用」という。
4722
4723 )に大別される。
4724
4725 また、
4726 部品等の再利用による製造費用の節
4727 減額はメーカーにより異なっているが、
4728 いずれのメーカーにおいても大きなものではない。
4729
4730
4731 使用済みの甲製品のリサイクルが義務付けられるに際し、
4732 甲製品協会において専門家を交えて対
4733 応を検討した。
4734
4735 その結果、
4736 各メーカーの甲製品はいずれも日本全国で販売されており、
4737 処理施設は
4738 運送費用との関係で全国に複数箇所設置する必要があるところ、
4739 どのメーカーも単独では効率的な
4740 規模の処理施設を設置・運営することはできないことが判明した。
4741
4742 このため、
4743 甲製品協会は、
4744 次の
4745 内容の甲製品のリサイクルシステム(以下「本リサイクルシステム」という。
4746
4747 )を構築し、
4748 実施す
4749 ることを決定し、
4750 会員5社に参加を求めた。
4751
4752 なお、
4753 会員の本リサイクルシステムへの参加義務や会
4754 員以外の者(新規参入者を含む。
4755
4756 )の利用等に関しては、
4757 何ら取り決められていない。
4758
4759
4760 【本リサイクルシステム】
4761 甲製品協会は全国2箇所に処理施設を設置・運営し、
4762 メーカーは同施設に使用済みの甲製品
4763 の処理を委託する。
4764
4765 また、
4766 運送は各メーカーが行う。
4767
4768
4769 甲製品協会は、
4770 令和5年4月1日から処理施設を運営することとし、
4771 処理を受託する対価と
4772 して、
4773 使用済みの甲製品1台当たりの処理費用の実費額(以下「処理単価」という。
4774
4775 メーカーご
4776 とに金額の違いは設けない。
4777
4778 )を決定し、
4779 メーカーから徴収する。
4780
4781 処理単価は、
4782 甲製品のユーザ
4783 ー向け販売価格の10パーセント程度になる。
4784
4785
4786
4787 メーカーは、
4788 令和5年4月1日以降、
4789 ユーザーから使用済みの甲製品を回収するに当たり、
4790
4791 リサイクル費用として、
4792 処理単価の1.5倍相当額をユーザーから徴収する。
4793
4794
4795 令和5年4月1日以降、
4796 5社は、
4797 いずれも本リサイクルシステムに参加しており、
4798 同システムは
4799 問題なく実施され、
4800 5社は、
4801 それぞれのユーザーから上記のリサイクル費用を徴収している。
4802
4803
4804 た、
4805 5社間では、
4806 ユーザーの争奪が引き続き活発に行われている。
4807
4808
4809 〔設問〕
4810 甲製品協会による本リサイクルシステムの構築・実施について、
4811 私的独占の禁止及び公正取引の
4812 確保に関する法律上の問題点を分析して検討しなさい。
4813
4814
4815
4816 (出題の趣旨)
4817 本問は、
4818 事業者団体の活動に対する、
4819 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関す
4820 る法律(以下「独占禁止法」という。
4821
4822 )の適用に関するものであり、
4823 具体的には、
4824
4825 事務機器である甲製品のメーカー5社が設立している事業者団体である甲製品協会
4826 が、
4827 法令上義務付けられた使用済みの甲製品のリサイクルを共同実施するという、
4828
4829 社会公共目的に基づく事業者団体の活動に係る事案である。
4830
4831
4832 事業者団体の活動については、
4833 事業者の共同行為であって一定の取引分野におけ
4834 る競争の実質的制限を要件とする不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項、
4835 第3
4836 条)の禁止に相当する同法第8条第1号に該当する行為の類型のほかに、
4837 公正競争
4838 阻害性を要件とする構成事業者の機能・活動を不当に制限する行為(同法第8条第
4839 4号)の類型もある。
4840
4841 甲製品協会の上記の活動を評価するに当たっては、
4842 事業者に
4843 よる共同行為の場合と比較して、
4844 上記のいずれかの類型に該当しないかについて、
4845
4846 より多面的な検討が求められる。
4847
4848
4849 なお、
4850 リサイクルの共同実施については、
4851 公正取引委員会が「リサイクル等に係
4852 る共同の取組に関する独占禁止法上の指針」(平成13年6月26日)を公表して
4853 おり、
4854 また、
4855 より包括的な「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する
4856 独占禁止法上の考え方」(令和5年3月31日)も作成されているが、
4857 本問は、
4858
4859 うした公正取引委員会のガイドラインに関する知識そのものを問うものではない。
4860
4861
4862 まず、
4863 甲製品協会が事業者団体(独占禁止法第2条第2項)に該当することを確
4864 認する必要がある。
4865
4866 また、
4867 甲製品協会において、
4868 本リサイクルシステムの構築が決
4869 定・実施されていることも本問の事情の下で明らかであって、
4870 行為主体は甲製品協
4871 会である。
4872
4873
4874 なお、
4875 甲製品協会のこうした活動について、
4876 実質的には構成事業者である5社の
4877 共同行為として捉え、
4878 不当な取引制限の観点から検討することもあり得ないわけで
4879 はないが、
4880 その際にはそうした捉え方をする論拠を述べておく必要がある。
4881
4882
4883 甲製品協会による本リサイクルシステムの構築・実施に関して独占禁止法上検討
4884 すべき行為としては、
4885 使用済みの甲製品のリサイクルを共同構築・実施すること自
4886 体に加えて、
4887 当該商品のリサイクル費用を決定し構成事業者にユーザーから徴収さ
4888 せる行為も識別することができる。
4889
4890 後者は、
4891 本リサイクルシステムの一環ではある
4892 が、
4893 リサイクルの共同実施に不可欠のものでも付随的なものでもなく、
4894 別個独立し
4895
4896 て独占禁止法上の問題点を検討する必要がある。
4897
4898 そして、
4899 前者は社会公共目的の非
4900 ハードコアカルテルとして、
4901 また、
4902 後者はハードコアカルテルとして捉えることが
4903 できる。
4904
4905
4906 これらの甲製品協会の行為に係る独占禁止法上の問題点を検討する上では、
4907 こう
4908 した行為がどの市場における競争に影響を及ぼし得るかに着目し、
4909 検討対象とする
4910 市場を画定する必要がある。
4911
4912 本問の事実関係の下では、
4913 特有の機能を有する事務機
4914 器である甲製品の販売市場に及ぼす影響と、
4915 それとは別に、
4916 使用済みの甲製品のリ
4917 サイクル取引に係る市場に及ぼす影響に着目することになる。
4918
4919 後者については、
4920
4921 来は廃棄されていた使用済みの甲製品を法令上の要請に基づいて新たにリサイクル
4922 しようとするものであり、
4923 当該商品のリサイクル市場を創り出すものともいえる。
4924
4925
4926 なお、
4927 本リサイクルシステムにおけるメーカーが回収する使用済みの甲製品の範
4928 囲について、
4929 問題文からは当該メーカーが製造販売した甲製品に限定されるのか、
4930
4931 限定されないのか(他のメーカーが製造販売した甲製品を含むのか否か)は明らか
4932 ではない。
4933
4934 競争分析上、
4935 いずれであるかによって甲製品の販売市場に及ぼす影響が
4936 異なってくるが、
4937 以下では前者であることを前提に検討する。
4938
4939
4940 また、
4941 甲製品協会においては、
4942 構成事業者の共同リサイクルへの参加義務や構成
4943 事業者以外の者(新規参入者を含む。
4944
4945 )の利用等に関しては何ら取り決めていない
4946 ことから、
4947 こうした競争者排除の観点からの問題点を検討する必要はない。
4948
4949 リサイ
4950 クルの共同化やリサイクル費用の決定が上記の市場における競争に及ぼす影響につ
4951 いて、
4952 競争回避の観点から検討することが求められる。
4953
4954
4955 まず、
4956 リサイクルの共同化それ自体について検討する。
4957
4958 全国に複数の処理施設を
4959 設置する必要があり、
4960 どのメーカーも単独では効率的な規模の処理施設を設置・運
4961 営することができないことからみて、
4962 共同リサイクルの必要性が認められる。
4963
4964 メー
4965 カー5社とは独立した法人である甲製品協会が実施主体となることには合理性があ
4966 り、
4967 また、
4968 各社が単独で実施することに比べて処理単価を節減できると考えられ、
4969
4970 使用済みの甲製品のリサイクルに係る市場における競争に弊害を及ぼすものではな
4971 いと考えられる。
4972
4973 また、
4974 甲製品協会が決定する処理単価は、
4975 各メーカーが処理する
4976 場合より低廉であると考えられ、
4977 ユーザーの負担を軽減することにつながる。
4978
4979 処理
4980 単価は甲製品のユーザー向け販売価格の10パーセント程度であり、
4981 メーカーで発
4982 生する運送費用を含むリサイクル費用全体でみても大きなものではなく、
4983 リサイク
4984 ルの共同化自体が甲製品の販売市場における競争に及ぼす影響は間接的であり、
4985
4986 さいと考えられる。
4987
4988
4989 甲製品協会は、
4990 自ら設置・運営する処理施設における処理費用として、
4991 処理単価
4992 を決定してメーカーから徴収しているが、
4993 このこと自体に独占禁止法上の問題はな
4994 いと考えられる。
4995
4996 しかし、
4997 甲製品協会では、
4998 メーカーがユーザーから徴収するリサ
4999 イクル費用を処理単価の1.5倍相当額とし、
5000 その徴収をメーカーに義務付けてお
5001 り、
5002 リサイクル費用に関する価格カルテルとして捉えることができる(独占禁止法
5003 第8条第1号)。
5004
5005 実際には、
5006 具体的なリサイクル費用はメーカーによって異なるも
5007 のであり、
5008 かつ、
5009 必要なリサイクル費用についてユーザーにどの程度負担を求める
5010
5011 かは各メーカーが本来独自に判断すべきことである。
5012
5013 リサイクル費用の一律決定
5014 は、
5015 各構成事業者がリサイクル費用を削減しようとするインセンティブを損ない、
5016
5017 効率的なリサイクルを阻害することになるおそれがある。
5018
5019 甲製品協会が共同リサイ
5020 クルを実施する上で、
5021 構成事業者がユーザーからそれぞれ徴収するリサイクル費用
5022 を統一する必要はないと考えられる。
5023
5024
5025 また、
5026 各メーカーが使用済みの甲製品を回収して甲製品を販売することになるか
5027 ら、
5028 リサイクル費用の決定は甲製品の販売市場における競争にも影響を及ぼすこと
5029 になる。
5030
5031 従来、
5032 使用済み甲製品は無償で回収・廃棄されており、
5033 甲製品の販売価格
5034 にはそのための費用も含まれていたと考えられることからは、
5035 一律にリサイクル費
5036 用全額のユーザー負担を求めることは過大な転嫁になるおそれもある。
5037
5038
5039 リサイクル費用の甲製品のユーザー向け販売価格に占める割合(費用共通化割
5040 合)が15パーセント程度であることやユーザーの争奪が引き続き活発であること
5041 を考慮しつつ、
5042 リサイクル費用の決定が甲製品の販売市場における競争を実質的に
5043 制限すること(独占禁止法第8条第1号)に該当するのか、
5044 構成事業者であるメー
5045 カーの機能・活動を不当に制限すること(同条第4号)にとどまるのか、
5046 検討を要
5047 することになる。
5048
5049
5050 なお、
5051 甲製品のリサイクルを義務付ける法令には、
5052 リサイクル費用について合理
5053 的な範囲でユーザー負担を求めることができる旨定められているところ、
5054 この定め
5055 がユーザーに負担を求めるリサイクル費用の一律の決定やその全額のユーザーから
5056 の徴収まで容認するものとはいえないと考えられる。
5057
5058
5059
5060 [知的財産法]
5061 共に工作機械メーカーであるA社及びB社は、
5062 精密部品の加工用の工作機械に関する共同研究開
5063 発契約(以下「本件契約」という。
5064
5065 )を締結し、
5066 いずれも研究開発部門に所属する、
5067 A社の従業員
5068 甲とB社の従業員乙が、
5069 勤務時間内に、
5070 A社及びB社の研究設備や施設を使用して共同研究開発し
5071 た結果、
5072 従来よりも精密で複雑な部品加工が可能な新たな工作機械を発明した(以下「本件発明」
5073 という。
5074
5075 )。
5076
5077 本件発明の技術的思想の創作行為に対する甲及び乙の関与の程度は同等である。
5078
5079
5080 た、
5081 本件契約には、
5082 本件契約に基づき発明がなされた場合には、
5083 各社に特許を受ける権利が帰属す
5084 るために必要な措置をお互い講ずる旨の定めがあった。
5085
5086 共同研究開発中、
5087 B社内では、
5088 乙の上司か
5089 ら、
5090 乙が行っている研究方針について反対の意向が示されていたが、
5091 乙は、
5092 これに従わずに研究を
5093 継続した結果、
5094 本件発明に至ったものである。
5095
5096
5097 A社の職務発明規程には、
5098 従業員が発明をするに至った行為が職務に属する場合には、
5099 当該発明
5100 についての特許を受ける権利をA社が承継することができる旨の定めがあり、
5101 B社の職務発明規程
5102 には、
5103 従業員が発明をするに至った行為が職務に属する場合には、
5104 その発明が完成した時に、
5105 当該
5106 発明についての特許を受ける権利をB社が取得する旨の定めがあった。
5107
5108
5109 以上の事実関係を前提として、
5110 以下の各設問に答えよ。
5111
5112 ただし、
5113 設問1及び設問2にそれぞれ記
5114 載した追加的な事実関係は、
5115 別個独立したものである。
5116
5117
5118 〔設問1〕
5119 甲が、
5120 本件発明の完成後、
5121 A社に本件発明について報告したところ、
5122 A社は、
5123 本件発明の特許を
5124 受ける権利を甲から承継することとし、
5125 甲とA社は、
5126 特許を受ける権利の譲渡に必要な手続を行っ
5127 た。
5128
5129 他方、
5130 乙は、
5131 乙の上司の反対を押し切って本件発明を完成させたことから、
5132 本件発明の特許を
5133 受ける権利は自己に帰属するものと考え、
5134 甲に対し、
5135 本件発明について一緒に特許出願をしようと
5136 持ちかけた。
5137
5138 しかし、
5139 甲は、
5140 A社との間で、
5141 特許を受ける権利の譲渡に必要な手続を済ませていた
5142 ことから、
5143 乙からの誘いを断った。
5144
5145 そのため、
5146 乙は、
5147 本件発明について、
5148 乙を発明者として特許出
5149 願を行い、
5150 その後、
5151 特許権の設定登録を受けた(以下、
5152 登録された権利を「乙特許権」とい
5153 う。
5154
5155 )。
5156
5157
5158
5159
5160 工作機械メーカーであるC社は、
5161 本件発明の実施品である工作機械(以下「C社機械」とい
5162 う。
5163
5164 )の製造及び販売を開始した。
5165
5166 乙がC社に対し、
5167 乙特許権に基づき、
5168 C社機械の製造及び販
5169 売の差止めを請求した場合、
5170 この請求が認められるかについて論じなさい。
5171
5172
5173
5174
5175
5176 乙による単独出願を知ったA社及びB社は、
5177 乙に対し、
5178 乙特許権の移転を請求することができ
5179 るかについて論じなさい。
5180
5181
5182
5183 〔設問2〕
5184 A社及びB社は、
5185 令和3年4月に本件発明について共同出願し、
5186 令和5年7月に特許権の設定登
5187 録を受けた(以下、
5188 登録された権利を「AB特許権」という。
5189
5190 )。
5191
5192
5193 D社は、
5194 工作機械メーカーであるが、
5195 令和元年秋頃から、
5196 日本国内の工場において、
5197 秘密裏に、
5198
5199 新たな工作機械の研究開発を続け、
5200 本件発明の内容を知らずに、
5201 独自に、
5202 従来よりも精密で複雑な
5203 部品加工が可能な新たな工作機械を開発し、
5204 その製造図面を作成の上、
5205 令和3年1月には当該工作
5206 機械の試作品を製作した。
5207
5208 この試作品は本件発明の技術的範囲に属するものであった。
5209
5210 その後、
5211
5212 社は、
5213 同工作機械の量産化に向けた事業化を進め、
5214 同年8月から、
5215 工作機械(以下「D社機械」と
5216 いう。
5217
5218 )の製造及び販売を開始した。
5219
5220 D社機械は、
5221 本件発明の技術的範囲に属するものであった。
5222
5223
5224 また、
5225 D社機械は、
5226 前記試作品から仕様の一部が変更されていたが、
5227 その変更に係る部分は、
5228 従来
5229 よりも精密で複雑な部品加工を可能にするための技術的手段とは無関係であった。
5230
5231
5232
5233
5234
5235 A社が、
5236 AB特許権に基づき、
5237 D社に対し、
5238 D社機械の製造及び販売の差止めを請求した場
5239 合、
5240 その請求が認められるかについて論じなさい。
5241
5242
5243
5244
5245
5246 D社は、
5247 工作機械メーカーであるE社に対し、
5248 D社機械を販売し、
5249 E社はそれを取引先に販売
5250 している。
5251
5252 A社が、
5253 AB特許権に基づき、
5254 E社に対し、
5255 D社機械の販売の差止めを請求した場
5256 合、
5257 その請求が認められるかについて論じなさい。
5258
5259
5260
5261
5262
5263 その後、
5264 D社は、
5265 E社に対し、
5266 D社機械と同一の工作機械(以下「E社機械」という。
5267
5268 )の製
5269 造を許諾し、
5270 E社は、
5271 E社機械を自ら製造し、
5272 取引先に販売するようになった。
5273
5274 A社が、
5275 AB特
5276 許権に基づき、
5277 E社に対し、
5278 E社機械の製造及び販売の差止めを請求した場合、
5279 その請求が認め
5280 られるかについて論じなさい。
5281
5282
5283
5284 【参考】特許法施行規則(昭和35年3月8日通商産業省令第10号)
5285 (特許権の移転の特例)
5286 第40条の2
5287
5288 特許法第74条第1項の規定による特許権の移転の請求は、
5289 自己が有すると認める
5290
5291 特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
5292
5293
5294
5295 (出題の趣旨)
5296 1 本問は、
5297 企業間の共同研究開発契約に基づく共同発明を題材として、
5298 職務発
5299 明、
5300 無効の抗弁、
5301 冒認に基づく特許権の移転請求、
5302 先使用権についての理解を問
5303 うものである。
5304
5305
5306 2 設問1について
5307 (1)小問(1)については、
5308 乙による発明の職務発明(特許法(以下「法」とい
5309 う。
5310
5311 )第35条第1項)該当性を論じた上で、
5312 B社の職務発明規程によれば、
5313
5314 職務発明が完成した時、
5315 当該職務発明に係る特許を受ける権利がB社に帰属す
5316 ること(同条第3項)を踏まえ、
5317 冒認を理由とする無効の抗弁の主張の可否
5318 (法第104条の3第1項及び第3項、
5319 法第123条第1項第6号及び第2
5320 項)について論じることが求められる。
5321
5322
5323 (2)小問(2)については、
5324 小問(1)で論じたB社と乙の権利関係に加え、
5325
5326 による発明の職務発明該当性を論じた上で、
5327 A社の職務発明規程によればA社
5328 が職務発明に係る特許を受ける権利を承継取得すること(法第35条第2項参
5329 照)、
5330 また、
5331 その場合、
5332 共有者の同意が必要である(法第33条第3項)とこ
5333 ろ、
5334 本件契約では、
5335 各社に特許を受ける権利が帰属するために必要な措置をお
5336 互い講ずる旨の定めがあること等を踏まえ、
5337 A社及びB社が共有持分について
5338 移転請求することができるかどうか(法第74条第1項)について論じること
5339 が求められる。
5340
5341
5342 3 設問2について
5343 (1)小問(1)については、
5344 D社における先使用権(法第79条)の成否の検討
5345 に当たり、
5346 D社において本件発明についての共同出願の際、
5347 発明を完成させ
5348 「事業の準備」をしていたといえるか、
5349 また、
5350 試作品とD社機械の仕様の一部
5351 が異なっていることから、
5352 「実施又は準備をしている発明の範囲」といえるか
5353 について、
5354 最判昭和61年10月3日民集40巻6号1068頁【ウォーキン
5355 グビーム炉事件】の判示を踏まえて論じることが求められる。
5356
5357
5358
5359 (2)小問(2)については、
5360 先使用権者が販売した実施品の購入者による先使用
5361 権の援用の可否(名古屋地判平成17年4月28日判例時報1917号142
5362 頁【移載装置事件】参照)、
5363 小問(3)については、
5364 先使用権に基づく実施許
5365 諾の可否について、
5366 それぞれ論じることが求められる。
5367
5368
5369
5370 [労
5371
5372
5373
5374 法]
5375
5376 次の事例を読んで、
5377 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
5378
5379 なお、
5380 会社法(平成17年
5381 法律第86号)の適用について検討する必要はない。
5382
5383
5384 【事例】
5385
5386
5387 宿泊業を営むA社は、
5388 国内にとどまらず国外においても広く事業を展開している。
5389
5390 A社は、
5391
5392 際的な人材を社内に育成するため、
5393 入社5年目までの若手社員を対象とし、
5394 英語力の強化や多様
5395 性に対する理解のかん養、
5396 社外ネットワークの構築等を図ることを目的とした海外研修制度を設
5397 けていた。
5398
5399 同制度においては、
5400 研修先となる大学・研究機関や専攻は、
5401 対象となった社員の選択
5402 に委ねられる一方で、
5403 海外研修中、
5404 職務に従事する場合と同額の基本給と賞与が支給され、
5405 これ
5406 らとは別に、
5407 海外研修に係る費用(以下「海外研修費用」という。
5408
5409 )は、
5410 A社が負担することと
5411 されていた。
5412
5413
5414 入社3年目のBは、
5415 前記の海外研修制度に自らの意思で応募し、
5416 選考を経て、
5417 C国所在の大学
5418 の大学院(国際関係学)への留学が決定した。
5419
5420 留学に先立ち、
5421 A社は、
5422 Bに対し、
5423 海外研修中は
5424 学業に精励すること、
5425 学位取得後は直ちに帰国して職務に復帰すること、
5426 帰国後60か月以内に
5427 自己都合でA社を退職する場合は海外研修費用の全部又は一部を返還することを内容とする誓約
5428 書について、
5429 その内容を説明した上で署名して提出するよう求め、
5430 Bはその内容を理解してこれ
5431 に署名し、
5432 A社に提出した。
5433
5434
5435 A社は、
5436 Bの留学に係る海外研修費用として、
5437 渡航費、
5438 大学院の学費及び寮費をその都度負担
5439 した。
5440
5441 留学中、
5442 Bは、
5443 2か月に1回程度、
5444 A社の全社員を対象とするオンライン研修(短いもの
5445 で15分、
5446 長いもので3時間程度のもの)を受講することのほかには、
5447 A社の業務に従事するこ
5448 とは求められず、
5449 学業に専念・精励することができた。
5450
5451 Bは、
5452 国際関係学の学位を取得後、
5453 直ち
5454 に帰国して職務に復帰した。
5455
5456
5457 ところが、
5458 Bは、
5459 帰国後6か月で自己都合によりA社を退職した。
5460
5461
5462
5463
5464
5465 Dは、
5466 クリーニングサービス業を営むE社(A社のグループ子会社)の社員であり、
5467 A社が経
5468 営するホテルでリネン類を回収し、
5469 クリーニング後のリネン類を同ホテルに配達する業務に従事
5470 していた。
5471
5472 また、
5473 Fは、
5474 清掃業を営むG社(A社のグループ子会社であり、
5475 同社ほか数社から業
5476 務委託を受けてホテルやオフィスの清掃業務を行うもの。
5477
5478 )の社員であり、
5479 A社が経営するホテ
5480 ルで客室内の清掃やベッドメイク、
5481 備品補充等の業務に従事していた。
5482
5483
5484 Dは、
5485 リネン類の回収・配達の業務中にFと知り合い、
5486 同人に好意を持った。
5487
5488 Dは、
5489 Fが喜ぶ
5490 と思って同人に菓子やアクセサリーを贈り、
5491 同人がお礼を言って受け取ったことから、
5492 同人も自
5493 分に好意を持っていると思い込み、
5494 退勤するFに自宅近くまで追随したり、
5495 休日にFの自宅近く
5496 を歩き回ったりした。
5497
5498 さらに、
5499 Dは、
5500 配達するリネン類をホテル内の所定の場所ではなく備品室
5501 や客室に持ち込み、
5502 これを取りに来るFと二人きりになる状況を作るなどした。
5503
5504 そのような状況
5505 でDに肩や腰を触られ、
5506 恐怖を感じたFは、
5507 G社に相談した。
5508
5509 G社は、
5510 FがDと顔を合わせる機
5511 会はDがリネン類の回収・配達業務のためにホテルを訪れるごく短時間であり、
5512 その間にDと二
5513 人きりにならないよう注意すればよいだけであると考え、
5514 Fが主張する前記のDの行為について
5515 更に調査をしたり、
5516 Fの職務場所の変更を検討したりするなどはしなかった。
5517
5518 Fは出勤をすれば
5519 Dと会うことを避けられないことから、
5520 恐怖と苦痛を感じてG社を退職した。
5521
5522
5523 A社は、
5524 同社及びそのグループ会社によるコンプライアンス違反行為を予防し、
5525 又は現に生じ
5526 たコンプライアンス違反行為に対処するため、
5527 コンプライアンス相談窓口を設置し、
5528 同社及びそ
5529 のグループ会社の社員に同窓口の存在を周知するとともに、
5530 社員からの相談への対応を行ってい
5531 た。
5532
5533 G社の社員にも同社を通じて同窓口の存在が周知されていたが、
5534 前記のFの主張や同人の退
5535
5536 職に関し、
5537 G社が同人にA社の相談窓口への相談を勧めることはなかった。
5538
5539 Fは、
5540 退職から約1
5541 年経過後、
5542 同窓口に電話をかけ、
5543 E社の社員の行為により退職を余儀なくされたG社の社員がい
5544 ることを伝え、
5545 事実関係を調査し、
5546 当該E社の社員を厳正に処分するよう求めた。
5547
5548 これを受け、
5549
5550 A社は、
5551 E社及びG社に事実関係を確認したが、
5552 両社とも問題となる事実はないと回答したの
5553 で、
5554 それ以上の対応をしなかった。
5555
5556
5557 〔設問1〕
5558 【事例】の1を前提として、
5559 A社は、
5560 Bに対して、
5561 A社が負担した海外研修費用の返還を請求す
5562 ることができるか。
5563
5564 考えられる論点を挙げて検討し、
5565 あなたの見解を述べなさい。
5566
5567
5568 〔設問2〕
5569 【事例】の2を前提として、
5570 DのFに対する不法行為責任が生じる場合に、
5571 FはA社及びG社に
5572 対して何らかの責任を追及できるか。
5573
5574 考えられる論点を挙げて検討し、
5575 あなたの見解を述べなさ
5576 い。
5577
5578
5579
5580 (出題の趣旨)
5581 設問1は、
5582 宿泊業を営むA社が、
5583 同社の社員であり、
5584 同社の海外研修制度を利用
5585 して外国の大学院で学位を取得後、
5586 帰国して6か月後に自己都合により退職したB
5587 に対し、
5588 同社が負担した海外研修費用の返還を請求することの可否について問うも
5589 のである。
5590
5591 本問では、
5592 Bは、
5593 留学に先立ち、
5594 帰国後60か月以内に自己都合で退職
5595 する場合は海外研修費用の全部又は一部を返還することを内容とする「誓約書」を
5596 示され、
5597 その内容を理解した上で署名し、
5598 これをA社に提出している。
5599
5600 そのため、
5601
5602 A社はこれを根拠に海外研修費用についてA社とBとの間には条件付きの返還合意
5603 が成立し、
5604 Bはこれに基づく返還義務を負うと主張するものと考えられる。
5605
5606 そこ
5607 で、
5608 本問において争点となるのは、
5609 まず、
5610 この「誓約書」の性格及びA社とBの間
5611 におけるその有効性であり、
5612 そこでは、
5613 「誓約書」の内容をどのように解釈し、
5614
5615 た、
5616 そこに示された合意がBにとって真に自由な合意であったといえるかが問題と
5617 なる。
5618
5619 その上で、
5620 次に争点となるのは、
5621 A社とBとの間に何らかの契約が成立して
5622 いたとしても、
5623 それが労働基準法第16条に違反するものではないか、
5624 である。
5625
5626
5627 条は、
5628 労働契約の不履行について違約金を定め、
5629 又は損害賠償額を予定する契約を
5630 することを禁止しており、
5631 A社が負担した海外研修費用をBの退職時に返還するこ
5632 とを求めるとするその内容が、
5633 同条違反を構成する可能性があるからである。
5634
5635
5636 これらの点について判示した最高裁判例は現在のところ存在しないが、
5637 下級審の
5638 裁判例には、
5639 本問と類似する人材育成目的の留学制度に関する事案において、
5640 留学
5641 への応募が社員の自由意思によるもので留学先大学院や学部の選択も本人の自由意
5642 思に任せられており、
5643 学位の取得は担当業務に直接役立つというわけではない一
5644 方、
5645 社員にとっては同社での勤務を継続するか否かにかかわらず有益な経験・資格
5646 となることなどの点を指摘し、
5647 同制度による留学は業務とみることはできず、
5648 会社
5649 と社員との間で、
5650 労働契約とは別に、
5651 学費について、
5652 一定期間勤務した場合には返
5653 還債務を免除する旨の特約付きの金銭消費貸借契約が成立していると解するのが相
5654 当であると判示したもの(長谷工コーポレーション事件・東京地判平成9年5月2
5655
5656 6日労判717号14頁)や、
5657 同様の債務免除特約付返還合意が労働基準法第16
5658 条違反となるか否かは、
5659 単に契約条項の定め方だけではなく、
5660 同条の趣旨を踏まえ
5661 て海外留学の実態等を考慮し、
5662 当該海外留学が業務性を有しその費用を会社が負担
5663 すべきものか、
5664 当該合意が労働者の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要
5665 するものかを判断すべきである旨を判示するもの(野村證券(留学費用返還請求)
5666 事件・東京地判平成14年4月16日労判827号40頁)があり、
5667 本問について
5668 論じる上で参考になる。
5669
5670 その他、
5671 最近のものでは、
5672 みずほ証券元従業員事件・東京
5673 地判令和3年2月10日労判1246号82頁、
5674 独立行政法人製品評価技術基盤機
5675 構事件・東京地判令和3年12月2日労経速2487号3頁等も参考になる。
5676
5677 本問
5678 においても、
5679 A社が海外研修制度を設けた目的、
5680 対象となる社員の選考の過程(特
5681 に応募の自発性)、
5682 研修先となる大学・研究機関や専攻の決定権者、
5683 留学中の業務
5684 従事の状況、
5685 学位取得と業務との関連性、
5686 債務免除までの期間の長さ等、
5687 本問の事
5688 実関係に照らし、
5689 前記の各論点について論じ、
5690 請求の可否について論じることが求
5691 められる。
5692
5693
5694 設問2は、
5695 A社のグループ子会社であるE社の社員Dが、
5696 業務を通じて接点を持
5697 った同グループ子会社であるG社の社員Fに一方的な好意を寄せ、
5698 身体への性的な
5699 接触を含むつきまとい行為をしたため、
5700 これに恐怖と苦痛を感じたFがG社を退職
5701 したという事案についてのものである。
5702
5703 本問においては、
5704 DのFに対する不法行為
5705 責任が生じることを前提に、
5706 Fが、
5707 @Fの勤務先であったG社及びAG社・E社の
5708 グループ親会社であるA社に対し、
5709 それぞれ何らかの責任を追及できるかが問われ
5710 ている。
5711
5712
5713 職場におけるセクシャル・ハラスメント(性的な言動に起因する問題)に関して
5714 は、
5715 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和4
5716 7年法律第113号。
5717
5718 いわゆる男女雇用機会均等法)第11条第1項が、
5719 事業主
5720 は、
5721 労働者の就業環境が害されることのないよう、
5722 労働者からの相談に応じ、
5723 適切
5724 に対応するために必要な体制を整備するなど、
5725 雇用管理上必要な措置を講じるべき
5726 ことを規定している。
5727
5728 本問においては、
5729 Dの性的な言動により、
5730 Fの就業環境が害
5731 されており、
5732 事業主であるG社は、
5733 同項により、
5734 雇用管理上必要な措置を採るなど
5735 する必要があったと考えられる。
5736
5737 そこで、
5738 Fは、
5739 G社に対し、
5740 そうした義務に違反
5741 したこと(義務の履行を怠ったこと)、
5742 それにより損害を受けたことを理由に、
5743
5744 の賠償を請求することが考えられる。
5745
5746 また、
5747 その根拠としては、
5748 労働契約上の職場
5749 環境配慮義務違反(民法第415条)あるいは労働契約法第5条に規定するいわゆ
5750 る安全配慮義務の違反、
5751 民法第709条による不法行為が考えられる。
5752
5753 G社はFか
5754 ら相談を受けたが、
5755 Dの行為について調査をしたり、
5756 Fの職務場所の変更を検討し
5757 たりはせず、
5758 また、
5759 A社の相談窓口への相談をFに勧めたりすることもしておら
5760 ず、
5761 そうしたG社の対応が適切であったかを、
5762 前記の請求の根拠について検討し、
5763
5764 前記の責任を追及することの可否を論じる必要がある。
5765
5766
5767 次に、
5768 A社に対する責任追及について論じるに当たっては、
5769 同社はG社のグルー
5770 プ親会社ではあるが、
5771 Fと直接の雇用関係にはないという点を押さえておく必要が
5772
5773 ある。
5774
5775 仮に、
5776 グループ親会社が子会社の労働者に対し指揮監督権を行使する立場に
5777 あったとか、
5778 当該労働者から実質的に労務の提供を受ける関係にあったといえる場
5779 合には、
5780 当該親会社が子会社の労働者に対して直接雇用契約上の付随義務(使用者
5781 が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務)を負い、
5782
5783 ら又は直接の使用者である子会社を通じて当該義務を履行する義務を負うことがあ
5784 ると考える余地がある。
5785
5786 しかしながら、
5787 本問において示された事情からは、
5788 A社と
5789 Fとの間にそのような関係があったとは認め難い。
5790
5791 もっとも、
5792 その一方で、
5793 そのよ
5794 うな場合においても、
5795 本問のA社のように、
5796 グループ親会社がグループ子会社の社
5797 員も対象とする法令等違反行為の相談窓口を設置し、
5798 そうした行為によって被害を
5799 受けた従業員等が相談の申出をすれば相応の対応をするよう努めることが想定され
5800 ていた場合において、
5801 申出の具体的状況いかんによっては、
5802 グループ親会社が、
5803
5804 談の申出をした者に対し、
5805 相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務
5806 を負う場合がある旨を判示した最高裁判例(イビデン社事件・最判平成30年2月
5807 15日労判1181号5頁)があり、
5808 本問におけるA社に対する責任追及の可否を
5809 論じる上で参考になる。
5810
5811 本問において、
5812 A社は、
5813 前記の相談窓口を設置し、
5814 グルー
5815 プ会社の社員から相談の申出があればこれに対応する体制を整備していたものであ
5816 るが、
5817 Fから電話で申出を受け、
5818 E社及びG社に事実関係を確認したものの、
5819 両社
5820 から問題となる事実はない旨の回答を得るのみで、
5821 それ以上の対応をしておらず、
5822
5823 そうした事実関係において、
5824 A社がFに対して前記の信義則上の義務を負うか、
5825
5826 にその義務を負うとして、
5827 本問におけるA社の対応は適切なものであったかを論じ
5828 ることが求められる。
5829
5830
5831
5832 [環
5833
5834
5835
5836 法]
5837
5838 A社は、
5839 長年、
5840 B県内にCが所有する甲土地を賃借し、
5841 同土地上にカドミウムを含有する排水を
5842 排出する(土壌汚染対策法上の)有害物質使用特定施設を伴う乙工場を保有し、
5843 これを稼働させて
5844 いたが、
5845 事業の見直しに伴い、
5846 乙工場の使用を廃止して解体・撤去した。
5847
5848 Dは、
5849 甲土地付近の丙土
5850 地を所有し、
5851 そこに居住し、
5852 庭に設置されていた井戸の揚水機によってくみ上げた井戸水を生活用
5853 水として利用していた。
5854
5855
5856 なお、
5857 以下の問いにおいて、
5858 水質汚濁防止法に基づく義務や措置は検討しなくてよい。
5859
5860
5861 〔設問1〕
5862
5863
5864 問題文の事例において、
5865 A社は、
5866 いかなる義務を負うか、
5867 根拠条文を挙げつつ説明しなさい。
5868
5869
5870
5871
5872
5873 問題文の事例において、
5874 B県知事は、
5875 A社以外に誰に対して、
5876 いかなる措置を採ることができ
5877 るか、
5878 根拠条文を挙げつつ説明しなさい。
5879
5880
5881
5882
5883
5884 の場合において、
5885 B県知事からの措置を受けたA社以外の者は、
5886 これに対してどのような訴
5887 訟を提起することができるか、
5888 説明しなさい。
5889
5890
5891
5892 〔設問2〕
5893 問題文の事例において、
5894 〔設問1〕でA社が義務を履行した結果、
5895 甲土地の広範囲において汚染
5896 状態に関する環境省令で定める基準を超えるカドミウムが検出され、
5897 その汚染により、
5898 人の健康に
5899 係る被害が生じるおそれがあるものとして政令が定める基準に該当することが確認された。
5900
5901
5902
5903
5904 B県知事は、
5905 甲土地について、
5906 いかなる措置を採ることができるか、
5907 根拠条文を挙げつつ説明
5908 しなさい。
5909
5910
5911
5912
5913
5914 の措置が採られた後、
5915 B県知事は、
5916 A社又はCに対して、
5917 いかなる場合に、
5918 いかなる措置を
5919 採ることができるか、
5920 根拠条文を挙げつつ説明しなさい。
5921
5922 なお、
5923 の措置が採られた後、
5924 CとA
5925 社は、
5926 甲土地の賃貸借契約を解除し、
5927 A社は、
5928 甲土地をCに返還しているものとする。
5929
5930
5931
5932
5933
5934 の場合において、
5935 B県知事の措置を受けてA社又はCが講じた実施措置が不十分な場合、
5936
5937 県知事は、
5938 A社又はCに対して、
5939 いかなる措置を採ることができるか、
5940 根拠条文を挙げつつ説明
5941 しなさい。
5942
5943
5944
5945 〔設問3〕
5946 問題文の事例において、
5947 Dは、
5948 甲土地にカドミウム汚染があり、
5949 その影響が丙土地にも及ぶ可能
5950 性があることを、
5951 新聞報道により知ったとする。
5952
5953 この場合において、
5954 Dは、
5955 A社に対して、
5956 どのよ
5957 うな法的請求をすることが考えられるか、
5958 法的根拠と要件に言及しつつ、
5959 簡潔に説明しなさい(損
5960 害賠償請求は考えなくてよい。
5961
5962 )。
5963
5964
5965
5966 【資料】
5967
5968
5969 土壌汚染対策法施行令(平成14年政令第336号)(抜粋)
5970
5971 (特定有害物質)
5972 第1条
5973
5974 土壌汚染対策法(以下「法」という。
5975
5976 )第2条第1項の政令で定める物質は、
5977 次に掲げる物
5978
5979 質とする。
5980
5981
5982
5983
5984 カドミウム及びその化合物(以下略)
5985
5986 (出題の趣旨)
5987 本問は、
5988 使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場の敷地であった土地
5989 に関する事例を題材として、
5990 土壌汚染対策法に加え、
5991 行政事件訴訟法及び民法の基
5992 本的な知識・理解を問うものである。
5993
5994
5995 設問1は、
5996 土壌汚染対策法第3条が定める、
5997 使用が廃止された有害物質使用特定
5998 施設に係る工場の敷地であった土地の調査について問うものである。
5999
6000 小問では、
6001
6002 根拠条文(同条第1項)を挙げつつ、
6003 当該土地の所有者等の土壌汚染状況調査・報
6004 告義務について説明することが求められ、
6005 小問では、
6006 根拠条文(同条第3項)を
6007 挙げつつ、
6008 都道府県知事による当該土地の所有者等に対する通知について説明する
6009 ことが求められる。
6010
6011 小問では、
6012 処分性に関する最高裁判例の一つである最高裁判
6013 所平成24年2月3日第二小法廷判決(民集第66巻2号148頁)を踏まえ、
6014
6015 条第3項が定める都道府県知事による通知が、
6016 抗告訴訟の対象となる処分に当たる
6017 か否かを説明することが求められる。
6018
6019
6020 設問2は、
6021 土壌汚染状況調査の結果、
6022 当該土地の土壌の特定有害物質による汚染
6023 状態が環境省令で定める基準に適合しないなどの事情が認められた土地に関し、
6024
6025 道府県知事が採ることができる土壌汚染対策法上の措置について問うものである。
6026
6027
6028 小問では、
6029 根拠条文(同法第6条第1項)を挙げつつ、
6030 都道府県知事による要措
6031 置区域の指定について説明することが求められる。
6032
6033 小問では、
6034 根拠条文(同法第
6035 7条第1項)を挙げつつ、
6036 都道府県知事による汚染除去等計画の提出の指示につい
6037 て説明することが求められる。
6038
6039 特に、
6040 Cについては、
6041 当該土地の所有者等として同
6042 項本文の適用が、
6043 A社については、
6044 小問のなお書きの事情により、
6045 当該土地の所
6046 有者等以外の者として同項ただし書の適用がそれぞれ問題になることに言及した上
6047 で論じることが求められる。
6048
6049 小問では、
6050 根拠条文(同条第8項)を挙げつつ、
6051
6052 道府県知事による実施措置命令について説明することが求められる。
6053
6054
6055 設問3は、
6056 当該土地の土壌汚染の影響が及ぶ可能性がある付近の土地の所有者か
6057 つ居住者による民事差止請求について問うものである。
6058
6059 設問3では、
6060 Dが付近の土
6061 地の所有者であり、
6062 かつ、
6063 同土地に居住して井戸水を生活用水として使用している
6064 といった事例を踏まえた上で、
6065 法的請求としてはDのA社に対する民事差止請求が
6066 考えられ、
6067 その法的根拠としては人格権などが考えられ、
6068 その要件としては権利侵
6069 害や因果関係などがあることなどに言及することが求められる。
6070
6071
6072
6073 [国際関係法(公法系)]
6074 【事例】
6075 A国では、
6076 B国からの分離・独立を主張するB国内の少数民族団体αの指導により、
6077 在A国のB
6078 国大使館前で連日デモ運動が行われ、
6079 その動きは日増しに激化していた。
6080
6081 事態を憂慮したB国によ
6082 る警備強化の要請にもかかわらず、
6083 A国の対応は鈍く、
6084 A国の警察をB国大使館付近に配置して警
6085 備に当たらせるなどの方策を講じることは一切なかった。
6086
6087 そのような中、
6088 αのメンバーがデモに乗
6089 じてB国大使館敷地内に火炎瓶を投げ込み、
6090 同大使館の建物に火災が発生した。
6091
6092
6093 近隣住民の通報によりA国の消防隊が出動してB国大使館に到着したところ、
6094 B国大使館員は全
6095 員、
6096 既に同大使館の敷地外に避難していたほか、
6097 B国大使もC国に出張して不在であり、
6098 A国から
6099 B国大使に連絡を取ることはできなかった。
6100
6101 その間にも火災はB国大使館の建物全体に広がり、
6102
6103 大使館の敷地周辺に所在する建物への延焼のおそれが生じたため、
6104 A国の消防隊は、
6105 B国から同国
6106 大使館の敷地内への立入許可を得ることなく、
6107 敷地内で消火活動を開始した。
6108
6109 B国大使館の建物は
6110 全焼したが、
6111 早期の消火活動の結果、
6112 周辺建物への延焼は免れた。
6113
6114
6115 A国の消防隊が消火活動を行う過程で、
6116 B国大使館内にC国国民Xが監禁されているのが発見さ
6117 れた。
6118
6119 Xは消防隊員により救助され、
6120 B国大使館付近の病院に搬送された。
6121
6122 また、
6123 A国の消防隊
6124 は、
6125 A国外務省を通じて、
6126 Xを救助した旨を在A国のC国大使館に通報した。
6127
6128 その後、
6129 病院でC国
6130 領事がXと面会し事情を尋ねたところ、
6131 Xは、
6132 A国滞在中に、
6133 B国大使館員により強制的にB国大
6134 使館に連行され監禁されたことが判明した。
6135
6136
6137 在A国のB国大使は、
6138 A国の消防隊の消火活動が終了した後にA国に再入国し、
6139 この間のB国大
6140 使館をめぐるA国の行為について、
6141 外交関係に関するウィーン条約(以下「外交関係条約」とい
6142 う。
6143
6144 )の違反を理由にA国に対して抗議した。
6145
6146 また、
6147 B国は、
6148 Xに関し、
6149 Xによるαへの活動支援
6150 がB国国内法違反に当たる疑いがあるため、
6151 同人をB国大使館に連行して同大使館内に留置したの
6152 であり、
6153 後日B国へ移送する予定であったと主張して、
6154 A国に対しXの身柄の引渡しを求めた。
6155
6156
6157 れに対して、
6158 A国は、
6159 B国によるXの身柄の引渡請求には応じなかった。
6160
6161
6162 Xは、
6163 退院後、
6164 在A国のC国大使館に身を寄せた。
6165
6166 そして、
6167 C国は、
6168 Xの身体の自由が侵害され
6169 たことなどを理由にB国に対して外交的保護権を行使して損害賠償請求を行った。
6170
6171 他方、
6172 A国は、
6173
6174 B国との間に、
6175 外交関係条約を含む国際法の解釈又は適用に関する紛争が存在することをB国に通
6176 告したが、
6177 2か月経過してもB国からは仲裁裁判所への付託を含むいかなる回答も受領しなかった
6178 ことから、
6179 当該紛争を国際司法裁判所(以下「ICJ」という。
6180
6181 )に付託することにした。
6182
6183
6184 A国、
6185 B国及びC国はいずれも国連の原加盟国であるとともに、
6186 外交関係条約及び紛争の義務的
6187 解決に関する選択議定書(以下「選択議定書」という。
6188
6189 )の締約国であり、
6190 外交関係条約にもその
6191 選択議定書にも留保は付していない。
6192
6193 また、
6194 これら3国は、
6195 ICJ規程第36条第2項に基づく宣
6196 言を留保なしに行っている。
6197
6198 なお、
6199 A国とB国の間には犯罪人引渡しに関する条約は存在しない。
6200
6201
6202 以上の事実を基に、
6203 以下の設問に答えなさい。
6204
6205
6206 〔設問〕
6207 1.A国は、
6208 外交関係条約上、
6209 いかなる義務の違反に問われ得るかについて論じなさい。
6210
6211
6212 2.B国大使館によるXの身柄の拘束について、
6213 A国がB国のいかなる国際法違反を問うことが可
6214 能かについて論じなさい。
6215
6216
6217 3.A国が前記設問2においてB国の国際法義務違反の追及が可能である場合、
6218 B国をICJに一
6219 方的に訴えるために可能な裁判管轄権の基礎を全て論じなさい。
6220
6221
6222 4.C国がB国に対して外交的保護権を行使するための要件を述べ、
6223 この事例においてその要件が
6224 満たされるかどうかについて論じなさい。
6225
6226
6227
6228 【参考資料】
6229
6230 選択議定書(抜粋)
6231
6232 この議定書及び1961年3月2日から同年4月14日までウィーンで開催された国際連合の会
6233 議において採択された外交関係に関するウィーン条約(以下「条約」という。
6234
6235 )の当事国は、
6236
6237 条約の解釈又は適用から生ずるあらゆる紛争を、
6238 自国に関するものである限り、
6239 他の解決方法が
6240 当事国により合理的な期間内に合意される場合を除くほか、
6241 国際司法裁判所の義務的管轄に付託する
6242 希望を有することを表明して、
6243
6244 次のとおり協定した。
6245
6246
6247 第1条
6248 条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、
6249 国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内に属するものとし、
6250
6251 したがつて、
6252 これらの紛争は、
6253 この議定書の当事国である紛争のいずれかの当事国が行なう請求によ
6254 り、
6255 国際司法裁判所に付託することができる。
6256
6257
6258 第2条
6259 両当事国は、
6260 一方の当事国が、
6261 他方の当事国に対し、
6262 紛争が存在する旨の見解を通告した後2箇月
6263 の期間内に、
6264 その紛争を国際司法裁判所にではなく仲裁裁判所に付託することにつき合意することが
6265 できる。
6266
6267 前記の期間が経過した後は、
6268 いずれか一方の当事国は、
6269 請求により、
6270 当該紛争を国際司法裁
6271 判所に付託することができる。
6272
6273
6274 第3条
6275
6276
6277 両当事国は、
6278 第2条に規定する2箇月の期間内においては、
6279 国際司法裁判所に付託する前に調停
6280 手続を執ることにつき、
6281 合意することができる。
6282
6283
6284
6285
6286
6287 調停委員会は、
6288 その構成の後5箇月以内に勧告を行なわなければならない。
6289
6290 勧告が行なわれた後
6291 2箇月以内に紛争の当事国がその勧告を受諾しない場合には、
6292 いずれか一方の当事国は、
6293 請求によ
6294 り、
6295 当該紛争を国際司法裁判所に付託することができる。
6296
6297
6298
6299 (出題の趣旨)
6300 本問は、
6301 外交関係法における派遣国の特権の範囲及び接受国に対する義務の内
6302 容、
6303 国家機関が自国国内法を執行する管轄権の領域的範囲の限界、
6304 国際司法裁判所
6305 (以下「ICJ」という。
6306
6307 )の裁判管轄権の基礎、
6308 外交的保護権の行使要件といっ
6309 た国際法上の基本的な知識を問うことを目的としている。
6310
6311
6312 設問1については、
6313 A国もB国も外交関係に関するウィーン条約(以下「外交関
6314 係条約」という。
6315
6316 )の締約国であることを示した上で、
6317 派遣国に対して接受国が負
6318 う以下の2つの義務を定める外交関係条約第22条の解釈及び適用の検討が問題と
6319 されている。
6320
6321
6322 第1に、
6323 外交関係条約第22条第1項は在外公館の不可侵権を定めており、
6324 「使
6325 節団の長が同意した場合を除くほか」、
6326 公館の不可侵を保障している。
6327
6328 設例では、
6329
6330 B国大使の許可なく、
6331 A国の消防隊が大使館敷地内に入り消火活動を行ったことか
6332 ら、
6333 A国による同規定の違反の疑いが問われることになる。
6334
6335 A国の立場からする
6336 と、
6337 公館の不可侵権は絶対的ではなく、
6338 設例の状況では、
6339 B国大使の許可を待って
6340 いてはB国大使館付近の建物への延焼のおそれがあることになるであろうし、
6341 その
6342 ような場合には公館に立ち入ることが認められるとする見解も有力である。
6343
6344 しか
6345
6346 し、
6347 学説上の対立はあるものの、
6348 外交関係条約の起草過程や国家実行、
6349 領事関係に
6350 関するウィーン条約(以下「領事関係条約」という。
6351
6352 )における類似の規定(領事
6353 関係条約第31条第1項及び第2項)との比較から、
6354 外交関係条約上は、
6355 緊急時の
6356 立入りも接受国には認められないとするのが通説的な見解である。
6357
6358 したがって、
6359
6360 者の立場によれば、
6361 国の機関であるA国の消防隊がB国大使の許可なく大使館敷地
6362 内に入り消火活動を行った行為は、
6363 A国の外交関係条約第22条第1項違反を構成
6364 するということになる。
6365
6366
6367 第2に、
6368 外交関係条約第22条第2項は、
6369 派遣国使節団の公館の安全を保護する
6370 接受国の義務を定めている。
6371
6372 設例では、
6373 B国大使館前でのデモが連日行われ、
6374 同大
6375 使館の安全が侵されるおそれが生じ、
6376 B国から警備強化要請がなされていたにもか
6377 かわらず、
6378 接受国としてA国はB国大使館の安全のための対策を講じなかった。
6379
6380
6381 の点、
6382 A国の不作為により火炎瓶が投げ込まれるような事態が生じたとも考えら
6383 れ、
6384 同規定に基づくB国大使館の安全確保義務にA国が違反したことを論じる必要
6385 がある。
6386
6387
6388 設問2については、
6389 第1に、
6390 B国によるC国国民Xの身柄の拘束が、
6391 B国以外の
6392 国家領域における執行管轄権の行使によって当該領域国の主権を侵害する行為であ
6393 るとして、
6394 この行為がB国の一般国際法上の義務違反となることを論じ、
6395 第2に、
6396
6397 B国大使館員がXをB国大使館内に監禁したため、
6398 B国大使館が外交使節団の任務
6399 (外交関係条約第3条参照)以外の目的でB国により利用されていることから、
6400
6401 国が外交関係条約上の派遣国の義務に違反することを示さなければならない。
6402
6403
6404 B国の国家機関である同国の大使館員がA国領域内においてB国国内法違反の容
6405 疑でXの身柄を拘束することは、
6406 B国が自国国内法を他国領域内で執行する行為で
6407 ある。
6408
6409 国家による執行管轄権の行使は当該国家の領域に限られるところ、
6410 他国領域
6411 内における執行管轄権の行使は、
6412 当該他国の同意や協力がない限り主権侵害行為を
6413 構成し得る。
6414
6415 したがって、
6416 A国領域内におけるB国のこの執行行為は、
6417 A国による
6418 同意や協力がない以上、
6419 A国の領域主権を侵害する一般国際法上の義務に違反する
6420 ことを論じることになる。
6421
6422
6423 また、
6424 B国の外交使節団は、
6425 A国において、
6426 「国際法が認める範囲内で派遣国及
6427 びその国民の利益を保護すること」ができるが(外交関係条約第3条第1項
6428 (b))、
6429 B国は接受国A国の国内法令を尊重する義務を負うとともに(外交関係
6430 条約第41条第1項)、
6431 使節団の任務と両立しない方法で在外公館を使用してはな
6432 らない義務を負うことから(同条第3項)、
6433 A国の領域主権に違反してXの身柄を
6434 連行しB国大使館に監禁することは、
6435 A国の国内法令に違反し、
6436 かつ、
6437 在外公館の
6438 使用目的に反し使節団の任務と両立しないと考えられるため、
6439 結果として外交関係
6440 条約第41条違反に問われ得る。
6441
6442
6443 設問3については、
6444 A国がICJに一方的に紛争を付託した場合に、
6445 ICJの裁
6446 判管轄権となり得る基礎を可能な限り挙げることになる。
6447
6448 ICJの裁判管轄権の基
6449 礎は紛争当事者の同意に求められるが、
6450 それには一般的に、
6451 事後に締結された付託
6452 合意のほか、
6453 事前に締結された裁判条約・裁判条項、
6454 事前に行われた国際司法裁判
6455
6456 所規程(以下「ICJ規程」という。
6457
6458 )第36条第2項に基づく選択条項受諾宣
6459 言、
6460 さらにICJの裁判所規則第38条第5項の規定内容から導き出される応訴管
6461 轄が挙げられる。
6462
6463
6464 設例では、
6465 A国もB国も国際連合の原加盟国であることから、
6466 当然にICJ規程
6467 の当事国であることが指摘される。
6468
6469 そして、
6470 第1に、
6471 選択条項受諾宣言をA国もB
6472 国も留保なく行っていることから、
6473 同宣言に基づくICJの裁判管轄権の設定が考
6474 えられる。
6475
6476 第2に、
6477 A国もB国も外交関係条約及び紛争の義務的解決に関する選択
6478 議定書(以下「選択議定書」という。
6479
6480 )に留保なく締約国となっていることから、
6481
6482 A国は、
6483 選択議定書第1条及び第2条の規定に従って外交関係条約の解釈・適用に
6484 関する紛争をICJに一方的に付託することができる。
6485
6486 第3に、
6487 こうした裁判管轄
6488 権の設定方式のほか、
6489 A国が一方的に提訴した後、
6490 B国がこれに応じた場合には応
6491 訴管轄が成立して、
6492 やはりICJの裁判管轄権が認められる。
6493
6494 本設問では、
6495 以上の
6496 裁判管轄権の基礎を説明することが求められる。
6497
6498
6499 設問4は、
6500 C国が自国民Xに対してB国が行った身体の自由を侵害する行為につ
6501 いて外交的保護権を行使し得る要件と本設問におけるその充足を確認する問題であ
6502 る。
6503
6504 まず、
6505 外交的保護権を行使し得る要件を確認することが必要で、
6506 それは、
6507 被害
6508 を受けた私人の国籍が被害発生時から国際請求時まで外交的保護権を発動する国の
6509 国籍であることと(国籍継続原則)、
6510 国籍国が外交的保護権を発動する前に、
6511 被害
6512 を受けた私人が当該被害を与えた加害国の国内的な救済手続を全て尽くしているこ
6513 と(国内的救済手段完了原則)の2つである。
6514
6515
6516 設例では、
6517 B国大使館員により身柄を拘束されたXはC国民であり、
6518 その後もC
6519 国による外交的保護権の行使による国際請求に至るまでXの国籍の変更が行われた
6520 形跡はないため、
6521 前者の国籍継続原則の要件は満たされている。
6522
6523 また、
6524 後者の国内
6525 的救済手段完了原則の要件については、
6526 問題の私人に対する加害国の行為が当該加
6527 害国領域内で行われることを前提として当該加害国の国内的な救済手続が利用され
6528 ることが求められているが、
6529 設例によると、
6530 Xに対する権利侵害行為が行われたの
6531 は加害国B国の領域外であるA国においてである。
6532
6533 このように領域国以外の国家が
6534 権利侵害行為を行った場合にまでこの要件の充足を要求することは想定されておら
6535 ず、
6536 したがって、
6537 本設問では、
6538 国内的救済手段完了原則の要件を満たす必要はな
6539 い。
6540
6541 以上から、
6542 C国によるB国に対する外交的保護権の行使は可能である。
6543
6544
6545
6546 [国際関係法(私法系)]
6547 Aは、
6548 いずれも日本在住の甲国人である両親の間の子として日本で生まれ、
6549 ずっと日本で暮らし
6550 てきた。
6551
6552 大学生になったAは、
6553 夏季休暇を利用して、
6554 一人で甲国内を1か月間旅行する計画を立
6555 て、
6556 初めて甲国を訪れた。
6557
6558 Aは、
6559 かつて両親から聞いた断片的な情報に基づき、
6560 甲国は夏でも比較
6561 的過ごしやすい気候であると思い込んでいたが、
6562 実際に甲国に渡航して滞在してみると、
6563 連日、
6564
6565 定していなかった厳しい暑さに見舞われたため、
6566 この暑さへの応急対策として、
6567 甲国の家電小売店
6568 Pで手持ち式小型扇風機α(以下「α」という。
6569
6570 )を購入した。
6571
6572 αは、
6573 国際規格に準拠した方式の
6574 ケーブル・充電器により充電するタイプの内蔵バッテリーを動力源としており、
6575 Aがスマートフォ
6576 ン用に日本から持参していた携帯充電器によっても充電することができる上、
6577 大出力の駆動モータ
6578 ーによる強力な送風機能を備えているなど、
6579 利便性や使い心地の面で、
6580 Aにとって満足のいくもの
6581 であった。
6582
6583 そこで、
6584 Aは、
6585 甲国滞在を終えて日本へ帰国するに際し、
6586 αを引き続き利用することと
6587 して日本へ持ち帰った。
6588
6589
6590 Aは、
6591 帰国後間もなく、
6592 全国的に最高気温の観測記録が更新されるほどの猛暑の昼下がり、
6593 αを
6594 使用しながら、
6595 京都の観光地区に近接する大学の図書館に向かって歩いていたが、
6596 観光客で混み合
6597 う道に差し掛かったところで、
6598 突然、
6599 αが動作を停止してしまった。
6600
6601 不審に思ったAが立ち止まっ
6602 てαの状態を確認すると、
6603 本体内部から白煙が上がっていたため、
6604 思わずαを放り投げたところ、
6605
6606 その直後、
6607 αは、
6608 路上に落下する前に空中で破裂した(以下、
6609 このαが破裂した事故を「本件事
6610 故」という。
6611
6612 )。
6613
6614
6615 本件事故によって周囲に飛散したαの破片の一部は、
6616 たまたま近くを歩いていた東京からの観光
6617 客Bの右目の付近に当たり、
6618 Bは、
6619 この負傷により右目の視力を失った。
6620
6621
6622 甲国の隣国である乙国の法人で、
6623 αを製造したQ社は、
6624 日本を含む数か国で本件事故と同様の破
6625 裂事故が発生していることを把握し、
6626 一連の事故の原因を究明するために内部調査を実施した。
6627
6628
6629 の結果、
6630 一連の事故が発生したαに使用されている内蔵バッテリーは全て、
6631 複数のサプライヤーの
6632 一つである日本法人R社東京工場製のバッテリーβ(以下「β」という。
6633
6634 )であり、
6635 極度に高温多
6636 湿となる条件下でβを使用した場合に、
6637 まれに膨張・破裂するとの実験結果を得た。
6638
6639
6640 なお、
6641 Q社は、
6642 営業所、
6643 工場等の拠点や財産を全て乙国内に置き、
6644 他国では営業活動も行ってお
6645 らず、
6646 αについても、
6647 その設計・製造から販売までを全て乙国内でのみ行っている。
6648
6649 もっとも、
6650
6651 国や日本などの他国の業者が、
6652 乙国内で販売されているαを仕入れて、
6653 自国の消費者向けに販売す
6654 ることは広く行われている。
6655
6656 Q社も、
6657 そのような他国での販売がαの売上げに大きく貢献している
6658 ことを認識して、
6659 αの全ての製品には、
6660 甲国語や日本語を含む多言語で並列的に記述した取扱説明
6661 書を一律に同梱して販売している。
6662
6663
6664 以上の事実を前提として、
6665 以下の設問に答えなさい。
6666
6667
6668 〔設問1〕
6669 αの製造者がQ社であることを認識したBは、
6670 Q社を被告として、
6671 製造物責任法第3条に基づ
6672 き、
6673 本件事故によって被った損害の賠償を求める訴え(以下「本件訴え」という。
6674
6675 )を東京地方裁
6676 判所に提起した。
6677
6678
6679 〔小問1〕
6680 本件訴えについて、
6681 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさ
6682 い。
6683
6684
6685 〔小問2〕
6686 本件訴えについて、
6687 日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。
6688
6689 この場合におい
6690 て、
6691 BのQに対する損害賠償請求について、
6692 いずれの国の法によって判断されるべきかを論じな
6693
6694 さい。
6695
6696
6697 〔設問2〕
6698 本件事故を含む一連のαの破裂事故の原因がβにある可能性が高いと考えたQ社は、
6699 R社に調査
6700 を求めたところ、
6701 βの特定の製造ロットの製造過程において、
6702 膨張・破裂の原因となる微小な金属
6703 異物が混入していたことが判明した。
6704
6705 そこで、
6706 Q社は、
6707 損害賠償金の支払やαの回収費用の支出に
6708 より生じた多額の損失について、
6709 R社に対し、
6710 応分の負担を求めたが、
6711 Q社とR社との間で、
6712 負担
6713 割合をめぐる交渉は決裂した。
6714
6715
6716 Q社とR社との間の取引は、
6717 R社がQ社に対して毎年一定数量のβを供給する旨の契約(以下
6718 「本件契約」という。
6719
6720 )に基づくものであった。
6721
6722 本件契約は、
6723 2018年1月、
6724 それぞれの本社ス
6725 タッフによる交渉の結果として締結されたものであり、
6726 本件契約には、
6727 「この契約は、
6728 日本法によ
6729 り解釈され規律される。
6730
6731 」との条項があった。
6732
6733
6734 Q社は、
6735 R社に対し、
6736 本件契約上の債務の不履行に基づき、
6737 損害の賠償を求める訴えを東京地方
6738 裁判所に提起した。
6739
6740 このQ社の請求について、
6741 裁判所は、
6742 「国際物品売買契約に関する国際連合条
6743 約」(以下「ウィーン売買条約」という。
6744
6745 )を適用して判断する内容の本案判決を言い渡したが、
6746
6747 乙国はウィーン売買条約の締約国ではなかった。
6748
6749
6750 上記判決において、
6751 裁判所が、
6752 Q社の請求についてウィーン売買条約を適用して判断したのはな
6753 ぜか。
6754
6755 理由を説明しなさい。
6756
6757
6758
6759 (出題の趣旨)
6760 本問は、
6761 生産物の瑕疵により生じた渉外的な不法行為の事例を素材として、
6762 国際
6763 裁判管轄、
6764 準拠法及び国際物品売買契約に関する国際連合条約(以下「ウィーン売
6765 買条約」という。
6766
6767 )の適用に関する基本的理解を問うものである。
6768
6769
6770 設問1の小問1は、
6771 生産物の瑕疵により発生した事故(以下「本件事故」とい
6772 う。
6773
6774 )にたまたま巻き込まれて傷害を負ったBによる、
6775 生産物の製造業者であるQ
6776 社に対する訴えについて、
6777 日本の裁判所の国際裁判管轄権の有無を問うものであ
6778 る。
6779
6780 特に民事訴訟法第3条の3第8号について論ずることが求められている。
6781
6782 同号
6783 の「不法行為があった地」の解釈を明らかにして本件に適用し、
6784 さらに、
6785 同号括弧
6786 書における予見可能性の対象についての理解を示した上で予見可能性の有無を検討
6787 しなければならない。
6788
6789 同号の規定に基づき日本の裁判所が国際裁判管轄権を有する
6790 こととなるときは、
6791 民事訴訟法第3条の9についても検討することが必要である。
6792
6793
6794 設問1の小問2は、
6795 上記のBによる損害賠償請求の準拠法を問うものである。
6796
6797
6798 件事故は生産物の瑕疵により発生したものであるが、
6799 Bは生産物の引渡しを受けて
6800 おらず、
6801 事故にたまたま巻き込まれたいわゆるバイスタンダーであるため、
6802 法の適
6803 用に関する通則法(以下「通則法」という。
6804
6805 )第18条の規定によるべきか、
6806 ある
6807 いは同法第17条の規定によるべきかをまず検討しなければならない。
6808
6809 通則法第1
6810 8条の趣旨及び文言から、
6811 本問のような場合には同法第18条によるべきではな
6812 く、
6813 同法第17条により準拠法を決定すべきであるとの立場によるとすれば、
6814 同条
6815 本文の「加害行為の結果が発生した地」を明らかにし、
6816 更に同条ただし書の予見可
6817 能性の有無を検討しなければならない。
6818
6819 最後に通則法第20条も検討した上で、
6820
6821 ずれの国の法が準拠法となるかについて結論を示さなければならない。
6822
6823
6824 設問2は、
6825 R社が製造した部品をQ社に供給する契約(以下「本件契約」とい
6826
6827 う。
6828
6829 )に関して、
6830 Q社がR社に対して、
6831 本件契約上の債務の不履行に基づく損害の
6832 賠償を求める訴えを日本の裁判所に提起したところ、
6833 裁判所がウィーン売買条約を
6834 適用して判断した理由の説明を求めることで、
6835 同条約の適用範囲についての理解を
6836 問うものである。
6837
6838 ウィーン売買条約第1条を検討し、
6839 本件契約が同条第1項の「営
6840 業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約」に該当することを指摘した上
6841 で、
6842 同項a号には当たらないが、
6843 通則法第7条により日本法が準拠法となるため同
6844 条約第1条第1項b号に当たり、
6845 また、
6846 当事者が同条約の適用を排除していないこ
6847 とを指摘することで、
6848 裁判所が同条約を適用した理由について説明することが求め
6849 られている。
6850
6851
6852
6853