1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
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5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕、〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は、30:40:30〕)
7 次の各文章を読んで、後記の〔設問1〕、〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。
8 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて
9 いる法令に基づいて答えなさい。
10 【事実T】
11 1.Aは、自らの所有する2階建ての居住用建物(以下「甲建物」という。)に、亡妻との間の
12 子であるB及びCと居住していた。B及びCは、いずれも、成人後に他県で居住するようにな
13 った。その後、Aは、Dと再婚し、Dと甲建物に同居していた。Dは、甲建物に無償で居住し、
14 また、Aに子B及びCがいることを知っていた。
15 2.令和5年4月1日、Aが遺言を残さずに死亡し、B、C及びDがAの財産を相続した。B、
16 C及びDの間での遺産分割は未了である。
17 同年5月1日、Dは、甲建物を改築してその1階部分を店舗として利用することを計画し、
18 B及びCの同意を得ないで、甲建物の改築工事を行った。同年8月1日、Dは、甲建物の2階
19 部分に居住を続けながら、1階部分で惣菜店を始めた。
20 3.甲建物の改築及び1階部分での開店の事実を知ったBは、令和5年8月10日、Dに対し、
21 「あなたには甲建物に住む権利はない。直ちに出て行くように。」と述べた。
22 4.令和5年8月31日、Bは、Dに対し、共有持分権に基づいて甲建物の明渡しを請求し(以
23 下「請求1」という。)、併せて、同年4月2日以降明渡しまで1か月当たり5万円(甲建物
24 の賃料相当額である月額20万円の4分の1)の支払を請求した(以下「請求2」という。)。
25 Dは、Bの請求に対し、「私は、Aの妻として甲建物に居住していたのだから、Aの死亡
26 後も無償で甲建物に住み続ける権利があり、仮にそのような権利が認められないとしても、
27 甲建物を共同で相続したのだから、いずれにせよ請求1及び請求2を拒むことができる。」と
28 反論した。
29 〔設問1〕
30 【事実T】を前提として、次の及びの問いに答えなさい。なお、【事実T】4の「月額20
31 万円」は賃料相当額として適正な額であるものとする。
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34 Dは、下線部の反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことができるかどうかを論じなさ
35 い。
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39 Dは、下線部の反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことができるかどうかを論じなさ
40 い。
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42 【事実U】
43 1.個人で養鯉業を営むEは、乙池で1等級の錦鯉を養殖している。
44 2.令和4年8月1日、錦鯉の輸出事業を新規に計画しているFが、Eの養殖池を見て回り、E
45 との間で、乙池で育成中の100匹の錦鯉全部(以下「本件コイ」という。)を買う契約(以
46 下「契約@」という。)を結んだ。契約@において、本件コイの引渡しは、同年10月1日に
47 Eの事務所で行うこととされ、また、代金は、100万円(1匹当たり1万円)とし、引渡し
48 から2か月以内に支払うこととされた。
49 3.令和4年9月1日、Eは、同年11月1日から同月7日まで開催される地域の秋祭りに際し、
50 空になるはずの乙池に5等級の錦鯉を放って釣堀を営業する計画を立てた。
51 4.令和4年10月1日の早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだ。E
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55 は、終日、事務所でFを待っていたが、Fが来訪することはなかった。
56 同月2日の朝、Eは、Fに対し、引渡日が過ぎたので早急に本件コイを受け取りに来てもら
57 いたいこと、その際は前日までに連絡が欲しいことを伝えた。
58 5.その後、Fからは特に連絡がないまま、2週間が過ぎた。Eは、この間も毎日、乙池に戻し
59 た本件コイの世話を続けていた。
60 6.令和4年10月16日、Eは、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取りに来なけれ
61 ば同月31日付けで契約@を解除する旨を告げた。その際、Eは、乙池は同年11月上旬に釣
62 堀営業のために使用する予定があり、同年10月末までにいったん空にしなければならないこ
63 とも説明した。
64 7.Fは、令和4年9月以降に錦鯉の相場が下落したため錦鯉の輸出事業計画を中止し、同年1
65 0月30日を過ぎても、本件コイを受け取りに行かなかった。そのため、Eは、釣堀の営業を
66 断念せざるを得なかった。
67 8.1等級の錦鯉の相場は、令和4年8月初めには1匹当たり1万円であったが、同年10月初
68 めには8000円、同年10月末には7000円、同年11月末には6000円となった。
69 9.令和4年11月30日、Eは、契約@が同年10月31日に解除されたと主張し、これを
70 前提に、Fに対し、本件コイの代金相当額100万円及び釣堀の営業利益10万円について
71 の損害賠償を請求した。同年11月30日まで、Eが本件コイを他に売却する等の処分をした
72 事実はない。
73 〔設問2〕
74 【事実U】を前提として、次の及びの問いに答えなさい。
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77 下線部におけるEの主張の根拠とその当否を検討しなさい。
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81 仮に下線部におけるEの主張が正当であるとした場合、Eは、Fに対し、下線部の損害の
82 全部について賠償を請求することができるかどうかを検討しなさい。なお、Eが釣堀を営業すれ
83 ば、10万円の利益を得ることができたものとする。
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85 【事実V】
86 1.令和4年2月1日、賃貸用建物(以下「丙建物」という。)を所有するGは、Hから200
87 0万円を借り入れた。この借入金に係る債権(以下「α債権」という。)については、令和5
88 年5月31日までに弁済することとされた。令和4年2月1日、Gは、α債権を担保するため、
89 Hに対し、丙建物について抵当権を設定し、その旨の登記がされた。
90 2.令和4年5月9日、GとKとの間で、GがKに対して丙建物を賃貸する契約(以下「契約A」
91 という。)がされ、これに基づき、丙建物はKに引き渡された。契約Aで定められた賃料は月
92 額25万円であり、当月末日払とされた。
93 3.令和5年1月、Gの経営する事業の資金繰りが悪化した。同月16日、Gは、弟のLから2
94 00万円を借り入れた。この借入金に係る債権(以下「β債権」という。)については、同年
95 5月1日までに弁済することとされた。
96 4.β債権は、令和5年5月1日を過ぎても、弁済されなかった。そこで、LがG及びKに働き
97 掛けた結果、次のことが行われた。
98 まず、同月2日、GとKとの間で、契約Aが合意により解除された。その上で、同日、Gと
99 Lとの間で、GがLに対して丙建物を賃貸する契約(以下「契約B」という。)がされ、また、
100 LとKとの間で、LがKに対して丙建物を転貸する契約(以下「契約C」という。)がされた。
101 実際には、Kが丙建物の使用を継続していた。
102 契約Bで定められた賃料は月額3万円であり、契約Cで定められた賃料は月額25万円であ
103 り、それぞれ当月末日払とされた。また、Lは、Kから、契約Cで定められた賃料の支払を受
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107 けるものの、Gに対し、契約Bで定められた賃料は実際には支払わないこととされた。KとL
108 との間では、同年5月分の賃料は、同年6月分の賃料と合わせて同年6月30日に支払うこと
109 とされた。
110 5.α債権は、令和5年5月31日を過ぎても、弁済されなかった。
111 〔設問3〕
112 【事実V】を前提として、次の問いに答えなさい。なお、利息や遅延損害金、敷金については考
113 慮しないものとする。
114 令和5年6月20日、Hは、契約Cに基づいてLがKに対して有する同年5月分以降の賃料債権
115 について、抵当権に基づく物上代位権の行使としての差押えを申し立てた。この物上代位権の行使
116 が認められるかどうか、同年5月分の賃料債権と同年6月分以降の賃料債権とで結論が異なるかを
117 含めて論じなさい。
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121 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
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125 [民事系科目]
126 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は、40:60〕)
127 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
128 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて
129 いる法令に基づいて答えなさい。
130 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、Aが個人事業として始めた工務店が昭和60年頃に
131 法人成りしたものであって、会社法上の公開会社ではなく、取締役会及び監査役を置いている。
132 甲社の定款には、@取締役の任期を選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関す
133 る定時株主総会の終結の時までとする旨の定め及びA譲渡による甲社の株式の取得について甲社
134 の取締役会の承認を要する旨の定めがあり、役員を選任する株主総会の決議の定足数に関する定
135 めはない。甲社は、種類株式発行会社ではなく、設立以来、Aがその発行済株式6万株の全部を
136 保有していた。甲社の取締役は、Aのほか、いずれも甲社の従業員であったB、C及びDの合計
137 4名であり、代表取締役は、Aであった。
138 2.甲社は、平成29年春頃、創業以来取引関係にあった乙株式会社(以下「乙社」という。)に
139 対して3000万円の買掛金債務(以下「本件債務」という。)を負った。本件債務の履行期は、
140 平成30年5月31日であった。
141 3.Aは、平成29年夏頃、Aの住居に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を所有するE
142 との間でトラブルとなり、それを解決するため、Eから本件土地を買い取るよう要求されるよう
143 になった。Aは、そのような要求に応じる義務はないと考えたが、今後平穏に暮らしていくため
144 にはEとの関係を断つのがよいと考え、Eの要求に応じることにした。Aは、自身で本件土地を
145 買い取るための資金を調達することは難しいと考え、甲社に本件土地を買い取らせることにした。
146 4.Eは、本件土地の代金として5000万円を提示してきたので、Aは、その金額で本件土地を
147 買い取ることにした。もっとも、近隣の不動産の相場に照らせば、当時の本件土地の評価額は高
148 く見積もっても1000万円程度であり、Aもそのことを知っていた。Aは、平成29年10月
149 2日、甲社を代表して、Eとの間で、本件土地を5000万円で購入する契約(以下「本件売買
150 契約」という。)を締結し、本件土地の所有権移転登記手続を受けるのと引換えに代金5000
151 万円を支払った。なお、甲社においては、本件売買契約の締結に先立ち、取締役会の決議等の会
152 社法所定の手続が行われた。
153 本件売買契約の代金5000万円は、甲社の定期預金(以下「本件定期預金」という。)を取
154 り崩すことで賄われた。また、本件土地は、本件売買契約後も甲社で利用されることなく放置さ
155 れていた。
156 5.Aの妹であるFは、外国に居住していたが、平成29年末頃、その配偶者であるGと共に帰国
157 した。Gのことが気に入ったAは、今後Gと共に甲社を経営していくことを見据え、平成30年
158 1月中旬頃、甲社の取締役会の承認を得て、Gに甲社の株式1万株を譲渡し、その旨の株主名簿
159 の名義書換が行われた。その後、Gは、本件土地が甲社の名義であるにもかかわらず活用されて
160 いないことに疑問を持ち、甲社の従業員にそれとなく尋ねてみたところ、上記3及び4の事実を
161 知った。
162 〔設問1〕
163 下記の小問に答えなさい。
164 〔小問1〕
165 Gは、平成30年末頃、Aに対し、本件売買契約を締結したことにより甲社に4000万円
166 の損害が生じたと主張して、会社法第423条第1項に基づく損害賠償を請求する責任追及等
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170 の訴えを適法に提起した。この請求が認められるか否かについて、Aの立場において考えられ
171 る反論及びその当否を検討した上で、論じなさい。
172 なお、本小問においては、甲社の経営は順調であり、本件売買契約の締結後も、その運転資
173 金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金繰りに困ることが予想される状態ではなかっ
174 たものとする。
175 〔小問2〕
176 乙社は、甲社が本件債務を履行しなかったことから、平成30年末頃、Aに対し、本件債務
177 の額に相当する3000万円を損害として会社法第429条第1項に基づく損害賠償を請求す
178 る訴えを適法に提起した。この請求が認められるか否かについて、論じなさい。
179 なお、本小問においては、次のような事実があったものとする。
180 @
181
182 甲社は、平成27年頃からその営業利益が減少し始めたものの、平成29年春頃の時点で
183 は運転資金が枯渇するような状態ではなかった。
184
185 A
186
187 Aは、本件債務の発生当時、本件債務を含む甲社の債務の履行のための運転資金が足りな
188 くなれば、本件定期預金を取り崩すか担保に入れることにより対応することを予定していた。
189
190 B
191
192 甲社は、本件売買契約に基づく代金の支払により実質的な債務超過に陥り、また、本件土
193 地には担保的価値がないために短期の融資を受けることもできず、平成30年5月頃には事
194 業活動を継続することができなくなった。
195
196 下記6以下においては、上記2から5までの事実は存在しないことを前提として、〔設問2〕に
197 答えなさい。
198 6.Aは、令和元年秋頃、高齢を理由に甲社の代表取締役を辞任し、甲社の創業以来従業員として
199 Aを支えたBにその地位を譲ることにした。AがBにそのことを相談したところ、Bは、Aに対
200 し、甲社の代表取締役に就任することを引き受ける条件として甲社の株式の一部を譲り受けたい
201 と述べた。Aは、その申出に応じることとし、Bと共に甲社を支えてきたC及びDにも甲社の株
202 式の一部を譲り渡すことにした。Bは、同年12月16日に開催された取締役会において、後任
203 の代表取締役として選定され、Aは、同日、甲社の取締役会の承認を得て、Bに甲社の株式1万
204 株を、C及びDに甲社の株式各5000株を譲渡し、その旨の株主名簿の名義書換が行われた。
205 その結果、甲社の株主及びその保有株式数は、Aが4万株、Bが1万株、C及びDが各5000
206 株となった。
207 7. 令和2年12月13日、Aが死亡した。Aの相続人は、HとI(いずれもAの子である。)で
208 あり、Aの保有する甲社の株式4万株は、H及びIが法定相続分である2分の1ずつの割合で準
209 共有することとなった(以下この株式を「本件準共有株式」という。)。HとIは、遺産分割協
210 議をしたが、対立点が多く、本件準共有株式についての権利を行使する者の指定も含めて、何一
211 つ合意することができないでいた。
212 8.Bは、令和3年6月25日に開催する甲社の定時株主総会(以下「本件株主総会1」という。)
213 を招集するに当たり、B、C及びDのほか、取りあえずH及びIの両名にも、会社法所定の日ま
214 でにその招集通知を発した。
215 令和3年6月25日、本件株主総会1が開催され、任期満了となる取締役B、C及びDの後任
216 となる取締役の選任が議題とされた。本件株主総会1の会場には、B、C、D及びHは来場した
217 が、Iは姿を現さなかった。議長を務めるBは、本件株主総会1においてHが本件準共有株式の
218 全部について議決権を行使することについて、甲社を代表して同意した。B、C、D及びHの賛
219 成により、取締役としてB、H及びJを選任する旨の決議(以下「本件決議1」という。)がさ
220 れた。
221 そして、その後の取締役会において、Jが代表取締役に選定された。
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225 9.Iは、令和3年9月15日、本件決議1の取消しの訴え(以下「本件訴え」という。)を提起
226 した。
227 10.Jは、令和5年6月23日に開催する甲社の定時株主総会(以下「本件株主総会2」という。)
228 を招集するに当たり、依然として、HとIが本件準共有株式について何一つ合意することができ
229 ないでいたため、B、C及びDのほか、取りあえずH及びIの両名にも、会社法所定の日までに
230 その招集通知を発した。
231 11.本件訴えに係る訴訟係属中の令和5年6月23日、本件株主総会2が開催され、取締役の選任
232 が議題とされた。本件株主総会2の会場には、B及びHは来場したが、C、D及びIは姿を現さ
233 なかった。議長を務めるJは、本件株主総会2においてHが本件準共有株式の全部について議決
234 権を行使することについて、甲社を代表して同意した。B及びHの賛成により、取締役としてB、
235 H及びJを選任する旨の決議(以下「本件決議2」という。)がされた。
236 〔設問2〕
237 下記の小問に答えなさい。
238 〔小問1〕
239 本件訴えに係るIの原告適格及び訴えの利益の有無並びに本件訴えに係る請求が認められる
240 か否かについて、論じなさい。
241 〔小問2〕
242 本小問においては、上記8、10及び11の事実がいずれも次のような事実であったものとする。
243 この場合における本件訴えに係る訴えの利益の有無について、論じなさい。
244 @
245
246 上記8の事実について、本件決議1は、B、C及びDを取締役に再任するというものであ
247 り、Bがその後の取締役会において代表取締役に選定されたものであった。
248
249 A
250
251 上記10の事実について、Bが、甲社の代表取締役として本件株主総会2を招集したもので
252 あった。
253
254 B
255
256 上記11の事実について、本件株主総会2の会場には、B、H及びIは来場したが、C及び
257 Dは姿を現さず、議長を務めるBが甲社を代表して行った同意に基づき、H及びIが本件準
258 共有株式の全部について議決権を共同で行使し、B、H及びIの賛成により、取締役として
259 B、H及びK(Kは、Iの配偶者である。)を選任する旨の本件決議2がされたものであっ
260 た。
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264 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
265
266 - 1 -
267
268 [民事系科目]
269 〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
270 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
271 なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されて
272 いる法令に基づいて答えなさい。
273 【事
274
275 例】
276 Xは、Yに対して令和3年5月20日に、弁済期を同年11月末日として200万円を貸し渡
277 し、既に弁済期は到来している旨を主張して、令和4年5月9日、Yを被告として200万円の
278 支払を求める訴えを提起した(以下、この訴えの訴訟物の内容をなす貸金債権を「甲債権」とい
279 い、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)。
280 Yは、第1回口頭弁論期日において、Xの主張を認めた上で、主位的に、甲債権に対しては既
281 に弁済をした旨を主張し、予備的に、Xに対する200万円の売買代金債権(以下「乙債権」と
282 いう。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を提出した。Yは、乙債権の発生原因事実とし
283 て、令和3年8月4日にXに対して代金200万円で美術品(以下「本件動産」という。)を売
284 却し、同日引き渡した旨を主張し、この売買契約の締結を証明するため、Xがその配偶者Aに対
285 して送った電子メール(以下「本件メール」という。)の内容をプリントアウトしたもの(以下
286 「本件文書」という。)を証拠として提出した。本件メールは、同月5日付けでXから送信され
287 たものであり、Xの健康状態やXA間の子の学業成績に関する相談とともに、念願の本件動産を
288 Yから200万円で購入し、引渡しを受けた旨が記載されていた。
289 Yが、本件文書を入手した経緯は、以下のようなものであった。甲債権及び乙債権に関する紛
290 争(以下「本件紛争」という。)が顕在化した後、その解決のため、Xは、令和4年3月、X宅
291 にYを呼び寄せ、Xの自室において話合いをした。話合いが難航する中、Xは「一旦休憩しよう、
292 コーヒーでも買ってくる。」と述べ、最寄りのコンビニエンスストアまで一人で赴いた。残され
293 たYは、本件紛争は訴訟に発展する可能性も高いと考え、自己に有利な証拠を探す趣旨で、Xの
294 机の上に閉じた状態で置いてあったノートパソコンを開いたところ、Xがプライベートで利用し
295 ているアカウントのメールが閲覧可能な状態になっていることに気付いた。そこで、Yは、自身
296 のUSBメモリにXが送受信した電子メールの全てを保存することとした。保存作業は、Xの帰
297 宅前に終了したため、XがYの行為を認識することはなかった。話合いが終了した後、Yは、自
298 宅において、保存したメールの内容を全て確認し、その結果、自己に有利な本件メールを発見し
299 た。本件動産についてのやりとりは全て口頭でなされ、引渡しもYがXに直接交付することによ
300 りなされた結果、本件動産の売買の証明に役立つ証拠がなかったことから、Yは、本件紛争が訴
301 訟にまで発展した場合に備えて、本件メールをプリントアウトした。
302 X及びYは、いずれも弁護士に対して訴訟委任をしていなかったが、第1回口頭弁論期日にお
303 いて、Yが本件文書を提出したことに動揺したXは、本件動産の売買契約締結の事実を否認する
304 にとどめ、同期日終了後に、弁護士L1に訴訟委任をした。
305 以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
306
307 L1:Xは、Yが自分と配偶者との間の電子メールを無断で閲覧した上で、本件文書を証拠として
308 提出するのはひどいと憤っています。本件文書の証拠としての利用を阻止することはできるで
309 しょうか。
310 P:不当な方法で収集された証拠(いわゆる違法収集証拠)については、民事訴訟でも証拠能力
311 が否定されることがあるということは承知していますが、不勉強で、その根拠も判断基準もあ
312 やふやです。
313
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316 L1:そうですか。しかし、情報技術の発達により、本件文書のような証拠が提出される訴訟事件
317 は増えている一方で、技術上の利便性を不当に利用した証拠収集も容易となっています。その
318 ような方法で入手された証拠を事実認定の資料にすることが許されるかどうかは重要な論点と
319 なりますから、少し頑張ってもらおうと思います。本件文書の証明力はそれなりにあると考え
320 られるので、ここでは専ら証拠能力の問題を検討してください。具体的には、民事訴訟にお
321 いて、不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力が制限される場合があり得ることを前提と
322 して、そのような証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠を挙げた上、証拠能力の有無を判
323 断する基準を示し、上記の基準に照らして本件文書の証拠能力を判断するとどのような結
324 論に至るかを明らかにすることを「課題」とします。なお、Yの行為は犯罪行為に該当しない
325 ことを前提としてください。
326 〔設問1〕
327 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下
328 に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
329 【事
330
331 例(続き)】
332 Xは、Yによる電子メールの無断閲覧は許し難いものの、本件動産の売買契約締結の事実自体
333 は争い難いと考えた。そこで、第2回口頭弁論期日において、本件動産の売買契約締結の事実を
334 認めた上、乙債権は既に弁済したとの主張をするとともに、仮に弁済が認められないとしても、
335 Yは、Xの亡父Bからかつて200万円を借りており、Xは令和3年9月に死亡したBの唯一の
336 相続人として、BのYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)を相続により取得し、同年
337 10月末日に弁済期が到来した旨、丙債権を自働債権、乙債権を受働債権として相殺するとの意
338 思表示を訴訟外でした旨、及び、丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状より
339 も先に生じており、民法第512条の趣旨からも前者の相殺が優先されるべきである旨の主張を
340 追加した。なお、甲債権についてはYの兄Zが保証しており、Zは、第3回口頭弁論期日から、
341 Yを補助するために補助参加をしている。
342 受訴裁判所は、Xによる丙債権を自働債権とする相殺の意思表示は、訴訟外で既に確定的にな
343 されているため、訴訟上許容されると判断した。その上で、受訴裁判所は、証拠調べを実施し、
344 その結果、@甲債権及び乙債権の発生はいずれも争いがなく、丙債権の存在も認められるところ、
345 甲債権及び乙債権の弁済の事実はいずれも認められない、AYによる相殺の意思表示は、本件訴
346 訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるも
347 のである一方、Xによる相殺の意思表示は、訴訟外で確定的になされていることから、Xによる
348 相殺の意思表示が優先する、B丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも
349 先に生じており、XY間に相殺の充当について別段の合意も認められないことから、Xによる相
350 殺の意思表示により、乙債権と丙債権が消滅したとの心証に至り、Xの請求を認容する旨の判決
351 をした。
352 以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
353
354 L1:原判決は、相殺の再抗弁を認めてXの請求を認容していますが、Xは、そもそも乙債権につ
355 いての弁済の事実が認められなかったことに不満があるようです。Xが強く希望しているとこ
356 ろですので、控訴を提起します。
357 P:この場合、控訴審では、審理の範囲は、乙債権の存否に限定されるのでしょうか。仮に、甲
358 債権や丙債権も審理の範囲に含まれるとすれば、かえってXに不利益な結果になる可能性もあ
359 るように思います。
360 L1:良い質問ですね。Xの控訴が適法であり、かつ、Y及びZが控訴も附帯控訴もしていないと
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363
364 いう仮定の下でも、控訴審の審理の範囲は限定されるものではなく、甲債権や丙債権が審理の
365 範囲に含まれると考えていいでしょう。
366 そこで、上記仮定の下、甲債権と丙債権が審理の範囲に含まれること、並びに原判決が示し
367 た相殺の再抗弁の許容性、相殺の優先順位及び相殺の充当に関する判断には変更がないことを
368 前提として、控訴裁判所が、(ア)甲債権は弁済により消滅した、(イ)甲債権と乙債権はいずれも
369 弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められない、(ウ)甲債権は弁済による消滅は
370 していないが、乙債権は弁済により消滅した、という判断に至った場合のそれぞれについて、
371 どのような判決をすべきことになるか、検討してください。これを「課題」とします。なお、
372 利息又は損害金及び費用についてはないものとし、控訴の利益について検討する必要もありま
373 せん。
374 〔設問2〕
375 あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下
376 に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
377 【事
378
379 例(続き)】
380 Xのみが控訴を提起し、Y及びZが控訴も附帯控訴もしなかったところ、控訴裁判所は、原判
381 決は正当であるとの判断に基づき、Xの控訴を棄却する旨の判決をした。誰も上告又は上告受理
382 の申立てをしなかったことから、Xの控訴を棄却する旨の判決が確定したため、Xの請求を認容
383 する第一審判決も確定した(以下、本件訴訟に係る確定判決を「前訴確定判決」という。)。
384 ところで、Zは、XのYに対する請求が認容されることを阻止するため、第一審において、甲
385 債権を保証している旨を主張して、Yを補助するために参加の申出をした。Zの補助参加にはX
386 もYも異議を述べなかったことから、Zは適法に補助参加人として訴訟追行し得ることとなった。
387 Zは、第一審の第3回口頭弁論期日において、甲債権については、Yからの要請により、Xが
388 債務を免除した事実(以下「免除の事実」という。)を、丙債権については、ZがYに代わって
389 Bに対して弁済した事実(以下「弁済の事実」という。)を主張した上で、免除の事実を証明す
390 るためにZ自身の証人尋問の申出をした。しかし、Yは、Yが主張する甲債権の弁済時期よりも
391 免除の事実の時期の方が遅かったことから、同期日において、免除の事実はない旨を主張すると
392 ともに、Zの証人尋問の申出を撤回した。なお、弁済の事実は、Xにより争われ、証拠調べが実
393 施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。
394 本件訴訟終了後、Zは、Xから保証債務の履行を迫られたことから、かねて付き合いのある弁
395 護士L2に電話で連絡をとった。L2は、「大変な状況ですね。少し込み入った事件ですので、
396 関連する書類を持って一度事務所においでください。お待ちしています。」と述べ、通話を終了
397 した。
398 以下は、弁護士L2と司法修習生Qとの間の会話である。
399
400 L2:Zの説明によると、XがZに対して保証債務の履行を求めて訴えを提起する可能性がありま
401 す。その場合、Zとしては甲債権の存在を争うことになると思いますので、XのZに対する上
402 記訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力
403 が作用するか否かが問題になります。そこで、この点を検討してください。これを「課題1」
404 とします。
405 Q:承知しました。もっとも、Zとしては、Xに対して任意に保証債務を履行した上で、Yに対
406 して求償することも考えられますね。
407 L2:そのとおりです。しかし、Yが求償に応じない場合には、ZはYに対して求償の訴えを提起
408 する必要があります。そして、この場合、Yは、求償債務を否定するために甲債権の存在を争
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412 うことを考えるでしょう。
413 Q:そうすると、ここでも、甲債権の存在を認めた前訴確定判決の効力が問題になりますね。
414 L2:そうです。ただ、この場合は、前訴である本件訴訟の補助参加人が被参加人に対して前訴確
415 定判決を援用するという珍しい構図になっており、このような援用が許されるか、という問題
416 も含んでいそうです。そこで、このような問題があることに留意しつつ、ZのYに対する上記
417 訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力が作用するか否かについて検討してくださ
418 い。これを「課題2」とします。なお、「課題2」については、民事訴訟法第46条の効力以
419 外の効力を検討する必要はありません。
420 〔設問3〕
421 あなたが司法修習生Qであるとして、L2から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
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