1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 1.本問は、
4 架空の「新遺族年金法案骨子」(新制度案)を素材に、
5 社会保障立法の憲法第2
6 5条、
7 第14条第1項適合性を、
8 訴訟をも念頭に置いて検討することを求めるものである。
9
10
11 設問1に対しては、
12 A省の任期付公務員(法曹資格者)であるXの立場から、
13 新制度案の憲
14 法適合性について、
15 判例だけでなく学説をも踏まえて批判的に論じる必要がある。
16
17 つまり、
18
19 Xとしては、
20 生存権を具体化する立法について広い立法裁量を認める判例の立場よりも立法
21 裁量を狭め、
22 より厳密な違憲審査をもたらすような主張をすることが期待されている。
23
24 ただ
25 し、
26 必ずしも「憲法違反である」という結論に至らなければならないわけではない。
27
28 他方、
29
30 設問2では、
31 設問1で述べられた新制度案に対する批判的な見解について、
32 自己の立場から
33 その適否を論じることが求められている。
34
35 設問1で述べられた見解とは異なり、
36 社会保障立
37 法の制定、
38 社会保障立法上の区別について広い立法裁量を認める立場から論じてもよいが、
39
40 その場合でも設問1で述べられた見解に対して十分な批判を加えた上で自説を論じることが
41 必要である。
42
43
44 本問は社会保障制度についての知識を問うものではなく、
45 甲とXとの会話文(以下「会話
46 文」という。
47
48 )の中で架空の新制度案の概要が説明され、
49 また、
50 関連する立法事実について
51 も示されている。
52
53 さらに、
54 新制度案において憲法適合性を検討すべき部分も会話文の中で具
55 体的に挙げられている。
56
57 それゆえ、
58 会話文と「新遺族年金法案骨子」から適切に必要な事実
59 や情報、
60 論点を見いだし、
61 生存権に関する判例・学説の理解を基に考察を加えることができ
62 るのかどうかが問われている。
63
64
65 会話文の中でXが指摘しているように、
66 新制度案において憲法適合性を検討すべき部分と
67 しては、
68 @死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が一定の年齢以上でなけれ
69 ば「遺族」として新遺族年金を受給できないとされていること、
70 A新遺族年金の受給資格が
71 認められる年齢について夫と妻との間で大きな開きがあること、
72 B現行の制度の下で遺族年
73 金の給付を受けている者が、
74 新遺族年金の受給資格要件を満たしていない場合、
75 受給資格を
76 喪失するとしていること、
77 が挙げられる。
78
79
80 2.まず、
81 新制度案が、
82 死亡した被保険者の配偶者に対して遺族年金の受給に年齢要件を課し
83 ていることについては、
84 配偶者の生存権を侵害し、
85 憲法第25条に違反しないかが問題とな
86 ろう。
87
88 しかし、
89 最高裁判所は、
90 堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1
91 235頁)において、
92 「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を
93 講ずるかの選択決定は、
94 立法府の広い裁量にゆだねられており、
95 それが著しく合理性を欠き
96 明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、
97 裁判所が審査判断するのに
98 適しない事柄であるといわなければならない」として、
99 生存権具体化立法について非常に広
100 い立法裁量を認めている。
101
102 それに対して、
103 Xの立場から、
104 配偶者の年齢要件の憲法第25条
105 適合性についてより立ち入った違憲審査を導こうとするのであれば、
106 遺族年金は文字どおり
107 「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を実現するためのものであって、
108 生存権の中
109 核的な部分と関わる、
110 といった説明が必要であろう。
111
112
113 さらに、
114 配偶者の年齢要件は一定の年齢に達した者と達していない者との間で年齢により
115 差別をするものであって、
116 憲法第14条第1項に違反すると論じることも考えられる。
117
118 確か
119 に、
120 堀木訴訟判決も、
121 「憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、
122 受給
123 者の範囲、
124 支給要件、
125 支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をした…
126 …ときは、
127 別に……憲法14条……違反の問題を生じうることは否定しえない」、
128 としてい
129 るところである。
130
131 しかし、
132 堀木訴訟判決や同判決に依拠した学生無年金訴訟判決(最判平成
133 19年9月28日民集61巻6号2345頁)からして、
134 生存権を実現するための法律にお
135 ける区別が憲法第14条第1項違反として争われる場合にも広い立法裁量を認めるのが最高
136
137 - 1 -
138
139 裁判所の立場である。
140
141 果たして生存権具体化立法における区別が年齢差別であることを理由
142 に、
143 合理的な区別と言えるか否かについて裁判所による厳密な検討が必要であると説得的に
144 主張できるかどうかが、
145 問題となる。
146
147
148 3.それに対して、
149 新制度案で、
150 被保険者の妻が40歳以上であれば遺族年金を受給できるの
151 に対して、
152 夫は55歳以上でなければ遺族年金を受給できないとされているのは、
153 性別によ
154 る不合理な差別であり憲法第14条第1項に違反するのではないか、
155 という点も問題となる。
156
157
158 もっとも、
159 最高裁判所は、
160 地方公務員災害補償法が死亡した職員の夫について一定の年齢に
161 達していることを遺族補償年金受給の要件としていることが、
162 憲法第14条第1項に違反し
163 ないとしている(最判平成29年3月21日判時2341号65頁)。
164
165 ただし、
166 そこでは、
167
168 妻以外の遺族と妻との区別の問題として扱っており、
169 性別による区別の問題として捉えられ
170 てはいなかった。
171
172 そこで、
173 本問の新制度案のように性別による区別として理解される場合、
174
175 社会保障立法上の区別についての広い立法裁量を認める立場が妥当するかどうか検討する必
176 要があろう。
177
178 Xとしては、
179 憲法第14条第1項後段は歴史的な経験を踏まえて不当な差別事
180 由を掲げたものであるので、
181 性別といった憲法第14条第1項後段列挙事由による区別がな
182 されている場合には、
183 厳格な違憲審査基準あるいは厳格な合理性の基準による違憲審査がな
184 されるべきであるなどと主張することが考えられる。
185
186 あるいは、
187 「健康で文化的な最低限度
188 の生活」に関わるものである遺族年金受給について、
189 性別という憲法第14条第1項後段列
190 挙事由によって区別をするものであることを理由に違憲審査の厳格度を高める主張をするこ
191 ともあり得る。
192
193
194 もっとも、
195 不当な性差別として念頭に置かれてきたのは女性を不利に扱う女性差別であっ
196 たのに対して、
197 新制度案は男性を女性に比較して不利に扱うものであるという点をどう考え
198 るかが問題となる。
199
200 会話文では、
201 男女の就労状況、
202 収入の実情に大きな格差があることがデ
203 ータによって裏付けられており、
204 新制度案における夫と妻の年齢要件の相違はそうした格差
205 を踏まえてのものであるとされている。
206
207 そこで、
208 こうした女性の優遇が実質的平等実現のた
209 めの区別であり、
210 厳密な違憲審査がなされる「性差別」には当たらないと解すべきなのか、
211
212 あるいは、
213 実質的平等を実現するという名目での女性優遇が、
214 男女の役割についてのステレ
215 オ・タイプの発想に基づくものであり、
216 現状を固定化させてしまうものであると批判的に捉
217 えるべきなのか、
218 どちらの立場をとるのかが問われることになる。
219
220
221 4.これまで遺族年金の受給権が認められてきた者に対して、
222 新遺族年金の受給資格要件を遡
223 及的に適用し、
224 受給資格要件を満たさない場合には受給資格を喪失させることは、
225 憲法第2
226 5条に違反しないのかも問題となろう。
227
228 これについては、
229 Xとしては、
230 生存権を具体化する
231 法律が制定された後に、
232 当該法律を改廃して法律上の受給権をなくしたり、
233 縮減したりする
234 場合には、
235 法律を制定して受給権を生み出す場合よりも立法裁量が狭まり、
236 合理的な理由が
237 求められるという、
238 いわゆる「制度後退禁止原則」に依拠することが考えられる。
239
240 この場合
241 には、
242 法律によって抽象的な権利である生存権が具体的な権利とされているからであるとか、
243
244 生存権の自由権的な側面の侵害に当たるからであるとか、
245 制度後退禁止原則が認められる理
246 由が論じられていなければならない。
247
248 他方、
249 最高裁判所が、
250 生活保護基準における老齢加算
251 廃止について、
252 厚生労働大臣は「被保護者の……期待的利益についても可及的に配慮するた
253 め、
254 その廃止の具体的な方法等について、
255 激変緩和措置の要否などを含め、
256 ……専門技術的
257 かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである」、
258 としていることも参
259 考になろう(最判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)。
260
261 つまり、
262 この判示を
263 参考にして、
264 国会には新遺族年金制度の創設について立法裁量が認められるが、
265 これまで遺
266 族年金を受給してきた者の期待的利益を考慮に入れてその裁量を行使しなければならず、
267 裁
268 判所は、
269 国会が新遺族年金制度の創設に当たりそうした期待的利益に適切な考慮を払ったか
270 審査すべきである、
271 と論じることも考えられる。
272
273
274
275 - 2 -
276
277 さらに、
278 新遺族年金の受給資格要件を満たさない遺族年金受給者の受給資格を喪失させる
279 ことが憲法第25条に違反しないとしても、
280 せめて受給資格喪失者に対して経過措置をとる
281 べきでないか、
282 また、
283 従前の年金の受給を認める期間が5年間でよいのか、
284 3年目から受給
285 額を半減させることは不当でないか、
286 問題となろう。
287
288 また、
289 上記老齢加算廃止についての判
290 決が「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は、
291 ……老齢加算の廃止に際し激変緩和
292 等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当
293 であるとした同大臣の判断に、
294 被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量
295 権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、
296 生活保護法3条、
297 8条2項の規定
298 に違反し、
299 違法となるものというべきである」、
300 としていることも参考になろう。
301
302
303 〔第2問〕
304 社会福祉法人が法令違反等の不適正な運営を行った場合、
305 都道府県知事等の所轄庁は、
306 当該
307 不適正な運営を是正するために社会福祉法(以下「法」という。
308
309 )第56条に基づく各種の監
310 督措置を執ることになる。
311
312 本問は、
313 所轄庁であるB県知事が社会福祉法人A(以下「A」とい
314 う。
315
316 )に対して行った監査でAの理事Dに対する法第27条に違反する貸付け(以下「本件貸
317 付け」という。
318
319 )が発覚したことを受けて、
320 B県知事が、
321 法第56条に基づき、
322 Aに対して行
323 った改善勧告から解散命令に至るまでの一連の監督措置の中で、
324 B県とA等との間で生じる法
325 的問題について問うものである。
326
327
328 本問では、
329 Aの理事長であるCが一連の監督措置を争うために相談した弁護士Eと弁護士F
330 による【法律事務所の会議録】及び【資料1
331 と【資料2
332
333 社会福祉法(昭和26年法律第45号)
334 (抜粋)】
335
336 B県社会福祉法人指導監査実施要綱(抜粋)】を読んで、
337 法の規定する要件や効
338
339 果とその運用を踏まえて、
340 Aに対する理事長Cの役員解職勧告(以下「本件解職勧告」という。
341
342 )
343 の取消訴訟、
344 A及びDが原告となって提起することが想定されるAに対する解散命令(以下「本
345 件解散命令」という。
346
347 )の取消訴訟並びにAによる本件解散命令の執行停止の申立てに関する
348 各法的問題について、
349 弁護士Fの立場からの検討過程を論理的に示すことが求められる。
350
351
352 まず、
353 〔設問1〕では、
354 法第56条第7項に基づき行われた本件解職勧告が行政事件訴訟
355 法(以下「行訴法」という。
356
357 )第3条第2項の取消訴訟の対象となる処分に該当するか否かを、
358
359 想定される反対の見解の論拠も踏まえて検討することが求められる。
360
361 その際には、
362 医療法上の
363 勧告について処分性を認めた最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(以下「平
364 成17年判決」という。
365
366 )が、
367 通常は行政指導として位置付けられる「勧告」について処分性
368 を肯定するに至った論拠等を押さえながら、
369 本件解職勧告と当該勧告の拒否に際して執られる
370 措置との連動関係及び当該措置が相手方に及ぼす影響等の観点から、
371 本件と平成17年判決と
372 を比較検討することが求められる。
373
374 また、
375 法が本件解職勧告について予定している弁明手続と、
376
377 行政手続法上の意見聴取に関する手続の相違等にも着目し、
378 本件解職勧告が処分に当たるかど
379 うかを検討することが求められる。
380
381
382 〔設問1〕は、
383 Aの理事Dが本件解散命令の取消訴訟を提起することを想定し、
384 Dの原告
385 適格の有無を問うものである。
386
387 本問では、
388 本件解散命令の相手方以外の第三者であるDの原告
389 適格の有無を、
390 形式的には処分の相手方以外の第三者を処分の相手方に準ずる者として不服申
391 立適格又は原告適格を認めた最判平成18年1月19日民集60巻1号65頁や最判平成25
392 年7月12日集民244号43頁を手掛かりにして、
393 所轄庁の解散命令により解散を命ぜられ
394 た社会福祉法人の解散当時の役員は、
395 以後、
396 社会福祉法人の評議員及び役員に就任することが
397 できない旨を定める法第40条第1項第5号及び法第44条第1項の規定を摘示するなどし
398 て、
399 行訴法第9条第2項による検討を経ることなく、
400 本件解散命令の法効果からDについて当
401 該処分の取消しにより回復すべき「法律上の利益」(行訴法第9条第1項)が肯定されるか否
402 かを検討することが求められる。
403
404
405
406 - 3 -
407
408 次に、
409 〔設問2〕では、
410 Aが本件解散命令の取消訴訟を適法に提起したことを前提に、
411 A
412 が行った執行停止の申立てに関する要件のうち、
413 行訴法第25条第2項の「重大な損害」につ
414 いて、
415 Aはどのような主張を行うべきかを、
416 想定されるB県の反論も踏まえて、
417 検討すること
418 が求められる。
419
420 「重大な損害」の有無の判断に関しては、
421 行訴法第25条第3項で考慮事項が
422 定められているところ、
423 同項の考慮事項を踏まえて執行停止を認容した最決平成19年12月
424 18日集民226号603頁(以下「平成19年決定」という。
425
426 )を参考にして、
427 その「重大
428 な損害」の有無を、
429 本件と平成19年決定との違いを意識しながら、
430 本件解散命令によりAが
431 被る損害や、
432 Aが提供する福祉サービスの利用者等に不利益が生じるという本件解散命令の性
433 質、
434 あるいは本件解散命令により保護される利益等を同項の定める考慮要素に当てはめて、
435 本
436 問における事実関係に即して検討することが求められる。
437
438
439 〔設問2〕は、
440 同じくAが本件解散命令の取消訴訟を適法に提起したことを前提に、
441 Aが
442 提起した本件解散命令の取消訴訟において、
443 Aはどのような本案に関する主張をすべきか、
444 想
445 定されるB県の反論を踏まえた検討を求めるものである。
446
447 本問は、
448 B県知事が本件解散命令を
449 監督措置として選択したことに関する違法性の有無を問うものであり、
450 特に、
451 法第56条第8
452 項の規定を踏まえてB県知事に裁量が認められるかどうかや、
453 B県知事に裁量が認められる場
454 合にはその裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとならないかの検討を求めるもの
455 である。
456
457 そして、
458 その検討に当たっては、
459 法第24条、
460 第61条第1項第2号等が社会福祉法
461 人の自主性・自律性の尊重を定めていることや、
462 法が監督措置のうち最も過酷な措置である解
463 散命令については、
464 「他の方法により監督の目的を達することができないとき」と比例原則の
465 要請をあえて明文化した要件を定めていることなど、
466 法の趣旨を踏まえつつ、
467 本問における事
468 実関係や【法律事務所の会議録】で示された監督措置の実績等に照らした検討が求められる。
469
470
471 【民事系科目】
472 〔第1問〕
473 1
474
475 設問1について
476 設問1は、
477 建物の所有者の死亡により生じた遺産共有状態の下で、
478 被相続人の子であった
479 共有者の1人が、
480 被相続人の配偶者であった共有者が建物を無権限で使用しているとして建
481 物の明渡請求及び金銭の支払請求をした事案を基に、
482 物権及び相続の両分野にまたがる諸制
483 度の基本的知識と相互関係の理解を問うものである。
484
485
486
487
488 設問1では、
489 配偶者Dが被相続人Aの生前から建物に無償で居住していたことによる
490 無償での占有権原の成立を主張した場合の法律関係が問われている。
491
492
493 ア
494
495 その前提として、
496 本問で問題となっている請求は、
497 建物を共同相続することによって
498 取得した共有持分権に基づく返還請求権としての建物明渡請求(請求1)と、
499 請求者B
500 の共有持分権に対応する使用利益をDが不当に利得していることを理由とする不当利得
501 返還請求、
502 又は共有持分権に対応する使用収益権をDの故意又は過失により侵害された
503 ことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(請求2)であることを確認する必要
504 がある。
505
506
507 その際、
508 Bは、
509 Aの財産を共同相続しており、
510 遺産分割は未了であるから、
511 Bは甲建
512 物について共有持分権を有し(民法第898条第1項)、
513 その持分の割合はBの法定相
514 続分である4分の1であること(民法第898条第2項、
515 第887条第1項、
516 第890
517 条、
518 第900条第1号、
519 第4号)、
520 も指摘する必要がある。
521
522
523
524 イ
525
526 その上で、
527 Dが主張する無償の占有権原の成否につき、
528 その法的構成を明らかにし、
529
530 本問での当てはめを展開する必要がある。
531
532 すなわち、
533 Dは、
534 被相続人の配偶者として、
535
536 被相続人の生前から被相続人所有の建物に無償で居住していたことに基づき、
537 配偶者短
538 期居住権(民法第1037条第1項第1号)の成立を主張しているものと考えられる。
539
540
541
542 - 4 -
543
544 そのため、
545 Dがその法律要件を満たすことを丁寧に論ずることが求められる。
546
547
548 なお、
549 Dの主張は、
550 遺産に属する建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人
551 との間に使用貸借契約が推認される場合に関する判例法理(最判平成8年12月17日
552 民集50巻10号2778頁)によるものと解することもできなくはない。
553
554 もっとも、
555
556 この判例は平成30年法律第72号により配偶者短期居住権制度が創設される前のもの
557 であり、
558 現行法制の下では、
559 従前の判例法理と配偶者短期居住権との関係について適切
560 に論ずることが求められる。
561
562
563 ウ
564
565 次に、
566 Dが無断で居住用建物の改築及び店舗開業をしていることから、
567 配偶者短期居
568 住権の消滅が問題となる。
569
570 これらの行為は、
571 建物の従前の用法を変動させるものであっ
572 て、
573 用法遵守の善管注意義務(民法第1038条第1項)に違反し、
574 配偶者短期居住権
575 の消滅請求事由となり得る(同条第3項)ところ、
576 Bの申入れ(事実3)により消滅請
577 求の意思表示がされたものと解することができるかについて、
578 事案を分析して法律要件
579 に適切に当てはめることが求められる。
580
581
582 なお、
583 目的不動産が共有される場合において、
584 配偶者短期居住権の消滅請求を各共有
585 者が単独でできるかどうかも問題となり、
586 この点について適切に論ずる答案は、
587 高く評
588 価される。
589
590
591
592
593
594 設問1では、
595 Dが、
596 建物の共有持分権を有していることを根拠に、
597 無償での占有権原
598 があると主張した場合の法律関係が問われている。
599
600
601 ア
602
603 請求1については、
604 まず、
605 Dが、
606 Aの配偶者として法定相続分2分の1の割合で共同
607 相続し、
608 甲建物について2分の1の共有持分権を有していることを確認する必要がある。
609
610
611 そして、
612 相続財産の共有(遺産共有)も民法第249条以下に規定する共有とその性質
613 を異にするものではなく(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)、
614 共有の
615 規定が適用されるが、
616 各共有者は共有物の全部についてその持分に応じた使用をする権
617 限を有するため(同条第1項)、
618 Dは甲建物につき正当な占有権原を有する。
619
620
621 そのため、
622 Bの明渡請求は直ちには認められず、
623 明渡しを求める理由があることを主
624 張立証する必要があること(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)につ
625 いて、
626 判例法理を踏まえて適切に論ずることが求められる。
627
628 共有者間で誰が共有物を使
629 用するかを決めるのは共有物の管理に関する事項に当たること(民法第252条第1項
630 後段)を踏まえ、
631 Bの請求に理由があるかどうかにつき、
632 BがCの同意を得たとしても
633 なお持分の過半数による決定を得ることができないことを指摘しつつ、
634 事案を分析して
635 自説を展開する必要がある。
636
637
638
639 イ
640
641 他方で、
642 請求2については、
643 Dが共有者として正当な占有権原を有しているとしても、
644
645 その持分は2分の1にすぎないことに着目する必要がある。
646
647 共有者は、
648 その持分割合を
649 超えた使用利益を享受することまでは正当化されないため(民法第249条第2項)、
650
651 Dが、
652 請求2(Bの持分割合に応じた使用利益相当額の支払請求)を拒むことができな
653 いとの結論を導くことが求められる。
654
655
656
657 2
658
659 設問2について
660 設問2は、
661 物品(動物)の売買契約において売主が提供した目的物を買主が受領しない事
662 案を基に、
663 受領義務の成否、
664 その不履行による契約解除の成否及び契約解除の場合の損害賠
665 償の具体的内容について問うものである。
666
667 債権の分野に関する基本的な知識・理解を踏まえ
668 つつ、
669 受領義務の不履行及び売主側の解除という事案の特殊性に即して論理を展開する能力
670 が問われている。
671
672
673 ア
674
675 設問2では、
676 下線部でのEの主張が、
677 Fに本件コイを受け取る債務(受領義務)
678 があることを前提に、
679 その不履行による催告解除(民法第541条)を主張するもので
680 あることから、
681 まず受領義務の成否を検討する必要がある。
682
683
684
685 - 5 -
686
687 債権者が履行を受領しない場合における債務者の不利益については、
688 受領遅滞制度や
689 供託制度による手当てがあり、
690 通常、
691 債務不履行の効果までは必要とされない。
692
693 そこで、
694
695 判例・通説は、
696 債権者の一般的な受領義務は否定しつつ、
697 一定の場合に限って受領義務
698 を認める立場をとる(最判昭和40年12月3日民集19巻9号2090頁、
699 最判昭和
700 46年12月16日民集25巻9号1472頁)。
701
702 受領義務の成否は特に物の売買契約
703 について問題となるが、
704 受領義務を認めるべき範囲をめぐっては、
705 この立場の中でも見
706 解が分かれる。
707
708 大別すれば、
709 個別の売買契約の事情に着目して、
710 信義則や契約解釈を通
711 じて個別に受領義務を認める見解(判例もこの見解とみられる。
712
713 )と、
714 売買契約一般に
715 つき、
716 契約の趣旨から類型的に買主の受領義務を導く見解とがある。
717
718
719 いずれの見解をとるにせよ、
720 本問では、
721 受領義務が、
722 何を根拠に、
723 どのような範囲で
724 認められるかについての考え方を示した上で、
725 それを設例に当てはめる必要がある。
726
727 F
728 が本件コイを受領しなければ、
729 Eは、
730 その管理のため毎日の世話が必要となり、
731 また、
732
733 その保管場所とするため乙池を塞がれて他の用途に利用できなくなることからすれば、
734
735 個別の契約の事情に着眼する前者の見解からも、
736 Fの受領義務が認められよう。
737
738
739 なお、
740 債権者が一般的に受領義務を負うとする答案も、
741 判例・通説の見解を踏まえて
742 自説を論じていれば、
743 同等に評価される。
744
745 また、
746 結論としてFの受領義務を否定する答
747 案も、
748 契約@の個別事情についての検討が説得的であれば、
749 同等に評価される。
750
751
752 イ
753
754 Fに受領義務があるとしても、
755 民法第541条に基づく解除をするためには、
756 受領義
757 務の不履行がなければならない。
758
759 受領義務の不履行は、
760 履行の提供がされたにもかかわ
761 らず、
762 債権者が目的物を受領しない場合に成立する。
763
764 引渡日におけるEの行為が本件コ
765 イの引渡債務の現実の提供(民法第493条本文)に当たること、
766 及び、
767 Fがそれを受
768 領しないことが受領義務の不履行(履行遅滞)となることの指摘が求められる。
769
770
771 さらに、
772 催告と解除の意思表示も要件となる。
773
774 Eが、
775 相当の期間を定めた催告と同時
776 に、
777 停止条件付きの解除の意思表示をしていることについて指摘する必要がある。
778
779
780
781 ア
782
783 設問2では、
784 下線部の損害について具体的に検討するに先立ち、
785 Eの損害賠償請
786 求の根拠を確認しておく必要がある。
787
788 Eは、
789 受領義務の債務不履行に基づく損害賠償請
790 求(民法第415条第1項)をしているところ、
791 Fには民法第415条第1項ただし書
792 の事由がないため、
793 この請求は認められる。
794
795 Eは契約@を解除しているが、
796 このことは
797 債務不履行に基づく損害賠償請求を妨げず(民法第545条第4項)、
798 また、
799 Eの債務
800 不履行は履行遅滞であるが、
801 契約解除に伴い、
802 債務の履行に代わる損害賠償が認められ
803 る(民法第415条第2項第3号)ことの指摘が求められる。
804
805
806
807 イ
808
809 これを前提に、
810 本件コイの代金相当額100万円の損害賠償請求の当否を論ずること
811 になるが、
812 Fが受領義務を履行しなかったために、
813 契約@の解除によりFの受領義務と
814 ともにEの代金債権が消滅し、
815 Eは代金相当額の損害を受けている。
816
817 そのため、
818 消滅し
819 た受領義務又は代金債権に代わる填補賠償として、
820 代金相当額100万円の損害賠償請
821 求が認められるとの結論を導くことが求められる。
822
823
824
825 ウ
826
827 次に、
828 釣堀の営業利益10万円の損害賠償請求の当否が問われる。
829
830 Fが受領義務を履
831 行しなかったために、
832 Eは釣堀の営業利益を失った。
833
834 この損害については、
835 民法第41
836 6条が定める損害賠償の範囲に含まれるかが問題となり、
837 特別損害として同条第2項の
838 規定が適用されることを、
839 乙池での釣堀営業の計画が特別事情に当たることを明示しつ
840 つ指摘することが求められる。
841
842
843 同項が要件とする特別事情の予見可能性について、
844 判例は、
845 債務不履行時までに債務
846 者がその事情を予見すべきであったことと解する(大判大正7年8月27日民録24輯
847 1658頁、
848 大判昭和15年2月28日新聞4543号7頁)。
849
850 この解釈を、
851 その合理
852 性とともに、
853 明確に提示することが必要となる。
854
855 Fは、
856 Eから釣堀営業の計画を知らさ
857
858 - 6 -
859
860 れた後も、
861 受領義務の履行遅滞を継続して(Fが前記の計画を知った時以降の不履行を
862 指摘することが必要である。
863
864 )、
865 Eの営業利益を失わせたのであるから、
866 営業利益10万
867 円は損害賠償の範囲に含まれることになる。
868
869
870 なお、
871 民法第416条第2項は「予見すべき」という規範的基準をとっているため、
872
873 Eが催告時にFに計画を告げただけではFが計画を「予見すべき」とまではいえないと
874 いう評価もあり得る。
875
876 また、
877 同項について、
878 前記の判例の解釈を説明した上で、
879 契約締
880 結時の予見を基準とする解釈をとって、
881 本問での予見を否定する答案も、
882 同等の評価を
883 受ける。
884
885
886 エ
887
888 最後に、
889 損害賠償の額に関して、
890 損益相殺の検討が求められる。
891
892 Eは、
893 契約@の解除
894 により本件コイの引渡債務を免れるから、
895 損益相殺として、
896 賠償額から本件コイの価値
897 が控除されることを指摘しなければならない。
898
899
900 その上で、
901 本件コイの価値をどの時点の市場価格によって算定すべきかが問題となる。
902
903
904 これについては、
905 市場価格が下落傾向にある中で売主が契約を解除するという事案の特
906 殊性に即した考察が求められる。
907
908 Eは、
909 解除までは契約に拘束されるため、
910 解除時点の
911 下落価格によってしか本件コイを他に売却処分することができない。
912
913 他方で、
914 解除後は、
915
916 本件コイの保管に伴う負担を免れるべく、
917 早期の処分を行うことが期待される。
918
919 このよ
920 うに考えれば、
921 解除時点の下落価格70万円を損益相殺の額とすべきことになる。
922
923 解除
924 時以降の他の時点を基準とする考え方も、
925 その論拠の説得力に応じて同等に評価される。
926
927
928
929 3
930
931 設問3について
932 設問3は、
933 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位の可否及び範囲につき、
934 担保物
935 権の諸規定と判例に関する基本的な知識・理解を踏まえ、
936 事案に即しつつ一貫した論理を展
937 開する能力を問うものである。
938
939
940
941
942 転貸賃料債権に対する物上代位について論ずる前提として、
943 Hは、
944 抵当権に基づく賃料
945 債権に対する物上代位権の行使をすることができるかどうかが問題となる。
946
947
948 ア
949
950 抵当権に基づく賃料債権に対する物上代位は可能と解されているが、
951 その根拠につい
952 ては、
953 主に、
954 実体的根拠を民法第371条の規定に求めた上で、
955 物上代位による差押
956 えは、
957 民法第372条において準用する同法第304条第1項ただし書の規定によりこ
958 れをすることができるとする見解(以下「説」という。
959
960 )と、
961 実体的根拠を民法第
962 372条において準用する同法第304条第1項の規定に求め、
963 同法第371条の規定
964 は、
965 担保不動産収益執行の実体的根拠となるとする見解(以下「説」という。
966
967 )とが
968 ある。
969
970
971 そして、
972 抵当権の効力が賃料に及ぶ理由について、
973 説からは、
974 抵当権は、
975 被担保債
976 権について不履行があったときは、
977 天然果実・法定果実を問わず、
978 果実についてその効
979 力が及ぶことを民法第371条の規定に基づいて説明することが考えられる。
980
981 これに対
982 し、
983 説からは、
984 賃料については、
985 付加的物上代位として抵当権の効力が及ぶと説明す
986 ることが考えられる。
987
988 いずれにせよ、
989 抵当権の効力が賃料に対して及ぶ理由の検討にお
990 いて、
991 利害関係人の利益を考量したり、
992 抵当権の本質に遡ったりするものには、
993 高い評
994 価が与えられる。
995
996
997
998 イ
999
1000 その上で、
1001 抵当権に基づく物上代位権の行使としての差押えは、
1002 抵当権の実行方法の
1003 一つであり、
1004 抵当権の被担保債権について不履行が生じていることを要件とするため、
1005
1006 Hが有する抵当権の被担保債権であるα債権について不履行が生じていることを指摘す
1007 る必要がある。
1008
1009
1010
1011 ア
1012
1013 以上を前提に、
1014 Hの転貸賃料債権に対する抵当権に基づく物上代位権の行使の可否を
1015 論ずることが求められる。
1016
1017 その解答に当たっては、
1018 最決平成12年4月14日民集54
1019 巻4号1552頁(以下「平成12年決定」という。
1020
1021 )を正確に理解した上で、
1022 解釈論
1023
1024 - 7 -
1025
1026 として一貫した論述をする必要がある。
1027
1028
1029 平成12年決定は、
1030 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位は、
1031 原則として認
1032 められないとした。
1033
1034 その理由は、
1035 (@)抵当権に基づく物上代位は、
1036 物的責任を負担する
1037 者、
1038 つまり抵当不動産の所有者が有する債権についてのみ可能であること、
1039 (A)正常な
1040 転貸借をした賃借人=転貸人の利益も考慮しなければならないこと、
1041 (B)(平成15年
1042 法律第134号による改正前の民法第371条の規定の下では、
1043 抵当権に基づく転貸賃
1044 料債権に対する物上代位は専ら民法第372条において準用する同法第304条の規定
1045 が根拠となっていたことを前提として)同条第1項の文言に照らして、
1046 抵当不動産の賃
1047 借人=転貸人を「債務者」に含めることができないことである。
1048
1049
1050 これを踏まえて、
1051 本問でも、
1052 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位が原則と
1053 して認められないという定式を示した上で、
1054 その理由を論ずる必要があるが、
1055 平成15
1056 年法律第134号による改正後の現行民法の下では、
1057 説に立つ場合には、
1058 平成12年
1059 決定の(B)を理由として援用することができる一方で、
1060 説に立つ場合には、
1061 (B)を援
1062 用すると論理が一貫しないこととなることに留意しなければならない。
1063
1064
1065 イ
1066
1067 その上で、
1068 平成12年決定が示した、
1069 「抵当不動産の賃借人を所有者と同視すること
1070
1071 を相当とする場合」には抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位が例外的に認め
1072 られるという定式を示して、
1073 事案に即した論述を行うことが求められる。
1074
1075
1076 Lは、
1077 Gの弟であり、
1078 形式的にも実質的にも同一人であるとはいえないが、
1079 抵当権の
1080 行使を妨害する目的や不当な債権回収目的があるといった事情から、
1081 Lを所有者と同視
1082 することを相当とする場合に当たるといえるかどうかが問題となる。
1083
1084
1085 抵当権の行使を妨害する目的に焦点を合わせる場合には、
1086 @LがGの弟であること、
1087
1088 A賃貸借関係への割込みにより転貸借関係が作出されたこと、
1089 B転貸借契約がされた時
1090 期が資金繰りの悪化した後、
1091 α債権の弁済期の直前であったこと、
1092 C賃貸料の額と転貸
1093 賃料の額との間の差が大きいこと、
1094 D原賃貸料は、
1095 実際には支払われないこととされて
1096 いたことを考慮すれば、
1097 転貸借関係の作出は、
1098 Hの賃料債権に対する物上代位権の行使
1099 を妨害する目的でされたものといえよう。
1100
1101
1102 債権を回収する目的に焦点を合わせる場合には、
1103 債権回収そのものは何ら不当なもの
1104 ではないとしても、
1105 抵当権設定登記がされた後、
1106 一般債権者であるLが賃料債権から自
1107 己のβ債権を回収するために上記のような形で賃貸借関係に割り込むことは、
1108 不当な債
1109 権行使目的でされたものと評価されよう(最判平成10年1月30日民集52巻1号1
1110 頁、
1111 最判平成10年3月26日民集52巻2号483頁等を参照)。
1112
1113
1114 いずれにせよ、
1115 本問では、
1116 抵当不動産の賃借人Lを所有者と同視することを相当とす
1117 る場合に当たり、
1118 Hは、
1119 転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権の行使をする
1120 ことができるとの結論を導くことが求められる。
1121
1122
1123 ア
1124
1125 5月分の転貸賃料債権は、
1126 Hが有する抵当権の被担保債権であるα債権についての債
1127 務不履行の前に生じたものである。
1128
1129 そこで、
1130 5月分の転貸賃料債権に対しても、
1131 抵当権
1132 に基づく物上代位権の行使をすることができるかどうかが問題となる。
1133
1134
1135 抵当権者が抵当権の被担保債権についての不履行前に生じた賃料から物上代位に基づ
1136 いて優先弁済を受けることができるかどうかについては、
1137 肯定説と否定説とが対立して
1138 いる。
1139
1140
1141
1142 イ
1143
1144 肯定説からは、
1145 @抵当権は、
1146 抵当目的物件の換価代金の意味での交換価値のみではな
1147 く、
1148 使用・収益価値も抵当権設定時から潜在的に把握しているとされるが、
1149 否定説から
1150 は、
1151 @´抵当権は、
1152 非占有担保であることが強調される。
1153
1154
1155 また、
1156 説をとった上で肯定説をとるときは、
1157 A民事執行法第188条において準用
1158 する同法第93条第2項の規定は、
1159 賃料債権の発生時期を問題としていないとされるの
1160
1161 - 8 -
1162
1163 に対し、
1164 説をとった上で否定説をとるときは、
1165 A´強制執行としての強制管理の対象
1166 の範囲と担保執行としての担保不動産収益執行の対象の範囲とは異なってしかるべきで
1167 あるため、
1168 前記の準用は、
1169 根拠とならないとされるとともに、
1170 B´民法第371条の「生
1171 じた」という文言からは、
1172 否定説が素直な解釈であるとされる。
1173
1174
1175 他方で、
1176 説をとった場合において、
1177 担保不動産収益執行の対象の範囲と物上代位の
1178 対象の範囲とは同じであるべきであるとの評価を提示するときは、
1179 前記の説をとった
1180 上での肯定説の論拠と否定説の論拠とを肯定説・否定説の各立場から援用することがで
1181 きる。
1182
1183 さらに、
1184 説をとった上で肯定説をとるときは、
1185 B抵当権に基づく賃料債権に対
1186 する物上代位は、
1187 民法第372条において準用する同法第304条第1項の規定によっ
1188 て認められるため、
1189 民法第371条の文言は、
1190 妨げとならないとされる。
1191
1192
1193 ウ
1194
1195 どの結論をとるにせよ、
1196 論理を一貫させることが求められる。
1197
1198 例えば、
1199 説をとるに
1200 もかかわらず、
1201 Bの論拠を挙げて肯定説をとったり、
1202 説をとるにもかかわらず、
1203 単純
1204 にB´の論拠を挙げて否定説をとったりするものは、
1205 論理が一貫していないと評価され
1206 る。
1207
1208
1209
1210 〔第2問〕
1211 1
1212
1213 本問は、
1214 公開会社でない取締役会設置会社において、
1215 @唯一の株主であり、
1216 かつ、
1217 代表取
1218 締役でもある者が代表取締役として行った行為について、
1219 その者の会社法第423条第1項
1220 に基づく損害賠償責任及び会社法第429条第1項に基づく損害賠償責任の有無を検討する
1221 こと(設問1)、
1222 A権利行使者の指定のない共有株式につき議決権が行使された株主総会決
1223 議の効力を、
1224 当該株式を共有する者が当該株主総会決議の取消しの訴えを提起することの適
1225 法性(原告適格及び訴えの利益の有無)とともに検討すること(設問2)を求めるものであ
1226 る。
1227
1228 いずれについても、
1229 会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、
1230 問題
1231 点を適切に分析した上で、
1232 具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか否かを
1233 問うものである。
1234
1235
1236
1237 2
1238
1239 設問1は、
1240 甲社の唯一の株主であり、
1241 かつ、
1242 代表取締役であるAが、
1243 甲社の代表取締役
1244 として本件売買契約を締結したことについて、
1245 その法的責任の有無を問うものである。
1246
1247 小
1248 問1においては、
1249 その後に株主となったGが会社法第423条第1項に基づく損害賠償を
1250 請求する責任追及等の訴えを提起した場合、
1251 小問2においては、
1252 債権者である乙社が会社
1253 法第429条第1項に基づく損害賠償を請求する訴えを提起した場合において、
1254 Aの損害
1255 賠償責任が認められるか否かを検討することが求められるものであるが、
1256 特に任務懈怠の
1257 有無については、
1258 各小問を通じて整合的な検討をすることが望ましい。
1259
1260
1261
1262
1263
1264 小問1においては、
1265 まず、
1266 本問の事実関係の下で、
1267 会社法第423条第1項の損害賠償
1268 責任が認められるための要件に沿って検討することが求められる(なお、
1269 問題文に「会社
1270 法第423条第1項に基づく損害賠償を請求する責任追及等の訴えを適法に提起した」と
1271 記載されていることから、
1272 Gが責任追及等の訴えを提起するための訴訟要件について検討
1273 する必要はない。
1274
1275 )。
1276
1277
1278 その中でも特に問題となるのが、
1279 任務懈怠の有無である。
1280
1281 小問1においては、
1282 本件売買
1283 契約を締結することは、
1284 甲社の唯一の株主の意向に沿ったものであるから、
1285 そのような場
1286 合にも任務懈怠があるといってよいのかについて、
1287 取締役が負う善管注意義務又は忠実義
1288 務の本質に触れつつ、
1289 検討することが求められる。
1290
1291 これらの義務の内容について、
1292 株主の
1293 経済的利益を最大化するという観点から考えるのであれば、
1294 小問1においては任務懈怠を
1295 否定する方向に傾くことになろうが、
1296 これとは異なる考え方やこのような方向を修正すべ
1297 き要素があると考えるのであれば、
1298 その点も含めて的確に論ずることが求められる。
1299
1300
1301 さらに、
1302 小問1においては、
1303 Aの立場において考えられる反論及びその当否についての
1304
1305 - 9 -
1306
1307 検討も求められる。
1308
1309 Aの立場からすると、
1310 上記のように、
1311 取締役が負う善管注意義務又は
1312 忠実義務の内容について、
1313 株主の経済的利益を最大化するという観点から考えるべきであ
1314 ることを前提に、
1315 自らが唯一の株主であったことを理由に任務懈怠がなかったと主張する
1316 ことが考えられるため、
1317 この点について的確に論ずることが求められる。
1318
1319 また、
1320 それ以外
1321 にも、
1322 Aとしては、
1323 自らが唯一の株主であったことから、
1324 免除(会社法第424条)があ
1325 ったと主張することも考えられることから、
1326 その点についても検討することが望ましい。
1327
1328
1329 その場合には、
1330 問題文からは免除に関する明示的な意思表示があったとはいえず、
1331 また、
1332
1333 Gが責任追及等の訴えを提起していることに鑑み、
1334 AがGに対して甲社の株式を譲渡する
1335 前に免除に関する黙示の意思表示があったといえるか否かという観点から検討することが
1336 できると、
1337 なお望ましい。
1338
1339
1340 ところで、
1341 小問1において、
1342 利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第
1343 3号)の該当性を検討する場合であっても、
1344 それが肯定されることによって任務懈怠が推
1345 定されるにすぎないことから(会社法第423条第3項)、
1346 Aの立場において考えられる
1347 反論及びその当否として、
1348 上記の各点について検討することが求められることになる(任
1349 務懈怠責任の有無を検討するに当たって重要なのは上記の各点について検討することであ
1350 り、
1351 間接取引の該当性を検討する場合であっても、
1352 そのことを踏まえて論ずることが求め
1353 られる。
1354
1355 )。
1356
1357 なお、
1358 問題文に「甲社においては、
1359 本件売買契約の締結に先立ち、
1360 取締役会の
1361 決議等の会社法所定の手続が行われた」と記載されていることから、
1362 手続的な規制につい
1363 て検討する必要はない。
1364
1365
1366
1367
1368 次に、
1369 小問2であるが、
1370 小問2においても、
1371 まず、
1372 本問の事実関係の下で、
1373 会社法第4
1374 29条第1項の損害賠償責任が認められるための要件に沿って検討することが求められ
1375 る。
1376
1377
1378 ここでも、
1379 特に問題となる点は、
1380 小問1と同様である。
1381
1382 会社法第429条第1項に基づ
1383 く損害賠償責任の性質については、
1384 諸説があるが、
1385 判例(最判昭和44年11月26日民
1386 集23巻11号2150頁参照)によれば、
1387 株式会社に対する任務懈怠についての悪意又
1388 は重過失の有無が問われることとなる。
1389
1390 その上で、
1391 小問2においては、
1392 本件売買契約を締
1393 結したことが甲社の唯一の株主の意向に沿ったものではあるものの、
1394 それによって経営に
1395 悪影響が生じ、
1396 債務の弁済にも支障を来す程度に財務状態が悪化したことなどの小問1の
1397 事実関係とは異なる点に留意して検討することになる。
1398
1399 小問1の事実関係とは異なる点を
1400 重視すると、
1401 任務懈怠を肯定する方向に傾くことになろうが、
1402 その場合には、
1403 取締役が負
1404 う善管注意義務又は忠実義務の内容について株主の経済的利益を最大化するという観点か
1405 ら考えるべきであるという考え方によっているのであれば、
1406 そのこととの整合性をどのよ
1407 うに考えるのかという点にも配慮しながら論ずるのが望ましい。
1408
1409
1410
1411
1412
1413 どのような考え方によるにせよ、
1414 各小問を検討するに当たり、
1415 整合性に意識しながら検
1416 討することが望ましい。
1417
1418 例えば、
1419 小問1において任務懈怠を否定し、
1420 小問2において任務
1421 懈怠を肯定するのであれば、
1422 結論を異にする理由を意識しながら検討することが望ましい。
1423
1424
1425 実務においては、
1426 各小問のように、
1427 一人会社においてその唯一の株主自身が取締役として
1428 行った行為や唯一の株主の事実上の同意の下で行われた行為に係る任務懈怠の有無が問題
1429 となることは多く、
1430 参考となる下級審の裁判例も見られるところであり、
1431 より実務的な観
1432 点から、
1433 事例解析能力、
1434 論理的思考力、
1435 会社法に関する基本的な理解並びに法令の解釈及
1436 び適用の能力等を試そうとするものである。
1437
1438
1439
1440 3
1441
1442 設問2は、
1443 共有株式につき、
1444 権利行使者の指定もなく、
1445 共有者間で何一つ合意がされて
1446 いない状況において、
1447 共有者の一人によって株主総会で議決権が行使された結果、
1448 取締役
1449 を選任する旨の決議がされた場合に、
1450 その決議の効力について、
1451 他の共有者がその決議の
1452 取消しの訴えを提起することの適法性とともに検討することを求めるものである。
1453
1454 具体的
1455
1456 - 10 -
1457
1458 には、
1459 問題文に指摘されているところに従い、
1460 株主総会決議の取消しの訴えを提起するこ
1461 との適法性として原告適格及び訴えの利益の有無を検討するとともに、
1462 株主総会決議の取
1463 消しの訴えに係る請求が認められるか否かについて検討することになる。
1464
1465
1466
1467
1468 まず、
1469 原告適格(小問1)については、
1470 権利行使者としての指定を受けてその旨を株式
1471 会社に通知していないときは、
1472 特段の事情がない限り、
1473 原告適格を有しないという判例(最
1474 判平成2年12月4日民集44巻9号1165頁参照)の考え方を踏まえつつ、
1475 検討する
1476 ことが求められる。
1477
1478 判例のように、
1479 原則として原告適格が認められないとした上で、
1480 特段
1481 の事情の有無を検討することも考えられるし、
1482 判例とは異なる考え方に立って検討するこ
1483 とも考えられるが、
1484 いずれにしても、
1485 権利行使者の指定がないことによって原告適格の有
1486 無が問題となることを理解していることが求められる。
1487
1488
1489
1490
1491
1492 次に、
1493 訴えの利益(小問1及び小問2)についてであるが、
1494 小問1と小問2を通じて、
1495
1496 株主総会決議につきいわゆる瑕疵の連鎖がある場合にどのように考えるのかという点につ
1497 いての理解を問うものである。
1498
1499 まず、
1500 株主総会決議の取消しの訴えは、
1501 形成の訴えであり、
1502
1503 原告適格が認められる者は訴えの利益を有するのが通常であるものの、
1504 その後の事情の変
1505 化によって訴えの利益を欠くことがあり得るところ、
1506 取締役を選任する株主総会決議の取
1507 消し訴えの係属中に、
1508 その決議に基づいて選任された取締役が全て任期満了によって退任
1509 し、
1510 その後の株主総会決議によって新たな取締役が選任されたときは、
1511 特段の事情のない
1512 限り、
1513 訴えの利益を欠くに至るという判例(最判昭和45年4月2日民集24巻4号22
1514 3頁参照)の考え方を前提とすると、
1515 本件決議1に基づいて選任された取締役は、
1516 本件株
1517 主総会2の終結時に任期満了によって退任することになるため、
1518 本件訴えについては、
1519 特
1520 段の事情のない限り、
1521 訴えの利益を欠くことになると考えられるところである。
1522
1523
1524 これを踏まえ、
1525 小問1及び小問2の事実関係を下に、
1526 更に具体的に検討することが求め
1527 られる。
1528
1529 小問1においては、
1530 本件決議1が取り消されると、
1531 本件決議1に基づいて選任さ
1532 れた取締役によって構成される取締役会による代表取締役の選定も遡って無効になるた
1533 め、
1534 本件株主総会2はその招集手続に瑕疵があることとなり、
1535 本件決議1の瑕疵が連鎖す
1536 るものといえることから、
1537 この点を適切に評価し、
1538 訴えの利益を欠くことになるのか否か
1539 を検討することになろう(この点については、
1540 最判令和2年9月3日民集74巻6号15
1541 57頁を参考にすることが考えられる。
1542
1543 )。
1544
1545 これに対し、
1546 小問2においては、
1547 本件決議1が
1548 B、
1549 C及びDを取締役に再任するものであったことからすると、
1550 本件決議1が取り消され
1551 ても、
1552 B、
1553 C又はDは、
1554 会社法第346条第1項又は第351条第1項の規定により取締
1555 役又は代表取締役としての権利義務を有することになるなどの事情を適切に評価し(例え
1556 ば、
1557 本件株主総会2の招集手続に瑕疵があることにはならず、
1558 本件決議1の瑕疵が連鎖す
1559 るものとはいえないなど)、
1560 訴えの利益を欠くことになるのか否かを検討することになろ
1561 う。
1562
1563
1564
1565
1566
1567 最後に、
1568 株主総会決議取消しの訴えに係る請求が認められるか否か(小問1)であるが、
1569
1570 この点については、
1571 共有株式について会社法第106条本文の規定に基づく権利行使者の
1572 指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、
1573 当該権利
1574 の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、
1575 株式会社が同条ただし書の
1576 同意をしても、
1577 当該権利の行使は、
1578 適法となるものではないという判例(最判平成27年
1579 2月19日民集69巻1号25頁参照)の考え方を踏まえつつ、
1580 検討することが求められ
1581 る。
1582
1583 さらに、
1584 同判例は、
1585 共有株式についての議決権の行使は、
1586 当該議決権の行使をもって
1587 直ちに株式を処分し、
1588 又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、
1589
1590 株式の管理に関する行為として、
1591 各共有者の持分の価格に従い、
1592 その過半数で決せられる
1593 としていることから、
1594 判例と同様の考え方による場合には、
1595 本件準共有株式につき、
1596 Hと
1597 Iとの間で何一つ合意がされていない以上、
1598 Hによる議決権の行使は適法ではなかったこ
1599
1600 - 11 -
1601
1602 とになるものと考えられる。
1603
1604 それ以外にも、
1605 Hによる議決権の行使を保存行為とする考え
1606 方や、
1607 そもそも判例とは異なる考え方に立って検討することも考えられるが、
1608 いずれにし
1609 ても、
1610 会社法第106条本文及び同条ただし書の関係及び内容についての正しい理解と適
1611 切な解釈論を示すことが求められる。
1612
1613 その上で、
1614 決議取消事由(会社法第831条第1項
1615 第1号)の該当性を検討することになる(定足数に満たないことになる、
1616 又は議決権の取
1617 扱いに違法があるなど)。
1618
1619
1620 〔第3問〕
1621 本問は、
1622 XがYに対し、
1623 貸金の返還を求める訴えを提起し(以下、
1624 この訴えの訴訟物の内容
1625 をなす貸金債権を「甲債権」といい、
1626 この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。
1627
1628 )、
1629 これ
1630 に対し、
1631 Yが請求原因事実を認めた上で、
1632 主位的に弁済の抗弁を、
1633 予備的にXに対する売買代
1634 金債権(以下「乙債権」という。
1635
1636 )により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を主張したという
1637 事案を素材としている。
1638
1639 この事案について、
1640 @Yが不当な方法で収集した電子メールをプリン
1641 トアウトしたもの(以下「本件文書」という。
1642
1643 )の取調べを申し出た場合において、
1644 民事訴訟
1645 におけるいわゆる違法収集証拠の証拠能力についての検討(設問1)、
1646 A本件訴訟において、
1647
1648 更にXが相続により取得したYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。
1649
1650 )によって乙債権
1651 を相殺したという訴訟外の相殺の再抗弁を主張し、
1652 Xの請求を認容する判決に対してXのみが
1653 控訴した場合において、
1654 不利益変更禁止の原則を踏まえた控訴審の審理・判断についての検討
1655 (設問2)、
1656 B甲債権の保証人であるZが補助参加した本件訴訟についてXの請求を認容する
1657 判決が確定した場合において、
1658 その後に提起されたXのZに対する保証債務履行請求訴訟及び
1659 ZのYに対する求償請求訴訟における、
1660 上記確定判決に基づく効力ないし参加的効力について
1661 の検討(設問3)をそれぞれ求めるものである。
1662
1663
1664 設問1(a)は、
1665 民事訴訟において違法収集証拠の証拠能力が制限される場合があり得ること
1666 を前提としつつ、
1667 証拠能力を否定する際の法的根拠を挙げて、
1668 証拠能力の有無をいかなる基準
1669 により判断すべきかを問うものである。
1670
1671 民事訴訟法(以下「法」という。
1672
1673 )には、
1674 違法収集証
1675 拠の証拠能力を制限した規定はないが、
1676 にもかかわらず違法収集証拠の証拠能力がなぜ無制限
1677 には認められないかについては、
1678 裁判所が当事者等による証拠の違法な作成・収集を助長する
1679 おそれ、
1680 公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を損なうおそれ等への配慮があることの指摘
1681 が期待される。
1682
1683 具体的な事例において違法収集証拠の証拠能力を制限する際の法的根拠及び判
1684 断基準については、
1685 最高裁判所の判例がいまだ存在せず、
1686 様々な学説が提唱されている状況で
1687 あるから、
1688 いかなる見解を採用したかによって評価に差を設けることはない。
1689
1690 例えば、
1691 下級審
1692 裁判例(東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁参照)による場合には、
1693 人格権の
1694 保護を根拠としつつ、
1695 当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて取得されたものかどうかを基
1696 準とすることが考えられる。
1697
1698 また、
1699 訴訟上の信義則(法第2条)を根拠とし、
1700 証拠収集の手段
1701 や態様の違法性、
1702 被侵害利益の重大性、
1703 証拠の重要性、
1704 真実発見の要請等を総合的に考慮して
1705 証拠能力の有無を判断する有力説による場合には、
1706 判断基準となり得る重要な要素を摘示しつ
1707 つ、
1708 それらの総合考慮により判断すべきことを指摘する必要があろう。
1709
1710
1711 設問1(b)は、
1712 設問の事実関係の下で、
1713 (a)において採用した判断基準に照らして本件文書の
1714 証拠能力の有無を判断することを求めるものである。
1715
1716 証拠収集の手段や態様の違法性等の各要
1717 素に該当する具体的な事実の検討は、
1718 (a)において採用した判断基準と整合的でない限り、
1719 評
1720 価されない。
1721
1722 例えば、
1723 前掲下級審裁判例によるときは、
1724 人格権侵害ないし違法性との関係で、
1725
1726 証拠収集の手段・態様の違法性、
1727 被侵害利益の重大性を検討し、
1728 その結果、
1729 人格権侵害ないし
1730 違法性が肯定される場合でも、
1731 他の要素(証拠の重要性、
1732 真実発見の要請)に鑑み、
1733 違法性が
1734 阻却される余地があるかどうかを検討することが考えられる。
1735
1736 他方、
1737 訴訟上の信義則を根拠と
1738 した総合考慮による場合には、
1739 上記の各要素に該当する事実を設問の事実関係から抽出した上
1740
1741 - 12 -
1742
1743 で、
1744 個別にあてはめを行い、
1745 総合考慮の結果として、
1746 結論を導くことが期待される。
1747
1748
1749 設問2は、
1750 相殺の抗弁に対するいわゆる再相殺について、
1751 訴訟上の相殺の再抗弁は不適法で
1752 あるが、
1753 訴訟外の相殺の意思表示の主張は適法と解されること(最判平成10年4月30日民
1754 集52巻3号930頁参照)を前提として、
1755 第1審で訴訟外の再相殺の主張が認められて請求
1756 認容判決がされた事案において、
1757 Xのみが控訴した場合の控訴審の審理判断の在り方について、
1758
1759 具体的な事実関係を基に論じさせるものであり、
1760 民事訴訟の基本的な理解を踏まえた論理的思
1761 考力及び論述力を問うものである。
1762
1763
1764 (ア)では、
1765 控訴裁判所の心証に従えば、
1766 原判決を取り消し、
1767 請求を棄却する旨の判決をする
1768 ことが想定されるところ、
1769 この判決が不利益変更禁止の原則(法第304条)に違反するかに
1770 ついて、
1771 同原則の趣旨を踏まえ、
1772 控訴裁判所の判決が確定した場合と原判決が確定した場合の
1773 既判力の比較により検討することが求められる。
1774
1775 甲債権の弁済による消滅を理由とする請求棄
1776 却判決は、
1777 Xにとり不利益変更に当たると解されるから、
1778 控訴裁判所は、
1779 控訴を棄却する旨を
1780 主文とする判決をするにとどめるべきことになろう。
1781
1782
1783 (イ)においても、
1784 控訴裁判所は、
1785 原判決を取り消し、
1786 請求を棄却する旨の判決をすることが
1787 想定される。
1788
1789 ここでも不利益変更禁止原則の適用を検討する必要があるが、
1790 具体的な事実関係
1791 の下で、
1792 相殺の判断に係る既判力(法第114条第2項)の検討を含めるべきことを論じた上
1793 で、
1794 請求棄却判決がXにとって不利益変更に当たることを指摘することが期待される。
1795
1796
1797 (ウ)では、
1798 控訴裁判所も請求認容判決をすることが想定されるものの、
1799 乙債権の弁済による
1800 消滅により、
1801 訴訟外の相殺の主張につき判断が不要となる点を指摘し、
1802 原判決の理由中でされ
1803 ていた丙債権による相殺に係る判断が控訴裁判所の判決ではなされないことの帰結について検
1804 討することが求められる。
1805
1806 訴訟外の相殺の主張の判断に法第114条第2項の適用を認める通
1807 説では、
1808 丙債権に係る判断につき既判力の範囲に変更が生ずることから、
1809 控訴裁判所は、
1810 原判
1811 決を取り消し、
1812 Xの請求を認容する旨を主文とする判決をすべきことになろう。
1813
1814
1815 設問3の課題1では、
1816 甲債権を認めて、
1817 XのYに対する請求を認容する旨の判決が確定した
1818 後、
1819 XがYの補助参加人であったZに対して甲債権に係る保証債務の履行を請求したという場
1820 合において、
1821 XY間の確定判決が、
1822 XのZに対する保証債務履行請求訴訟において何らかの拘
1823 束力を及ぼすかを問うものである。
1824
1825 確定判決の拘束力としては様々なものを想定し得ることか
1826 ら、
1827 それらを広く取り上げた上で、
1828 それぞれの拘束力について十分に検討をすることが期待さ
1829 れる。
1830
1831 一例を挙げるならば、
1832 通説の立場から、
1833 Zは、
1834 法第115条により既判力の拡張を受け
1835 る者ではないこと、
1836 法第46条の効力は、
1837 参加人と被参加人との間の敗訴責任の共同分担とい
1838 う根拠から認められる特別な効力であって、
1839 参加人と相手方との間に生ずることは想定されな
1840 いことを論じた上で、
1841 さらに、
1842 争点効又は法第2条に基づく信義則上の拘束力の作用を認め得
1843 るか、
1844 を論ずることが考えられる。
1845
1846
1847 設問3の課題2は、
1848 XのYに対する請求認容判決の確定後、
1849 保証債務を履行したZがYに対
1850 して求償請求訴訟を提起した場合に、
1851 XのYに対する請求認容判決に係る法第46条の効力を
1852 Zが援用し得るか、
1853 という点を問うものである。
1854
1855 補助参加人による被参加人に対する同条の効
1856 力の援用が、
1857 同条の根拠から正当化し得るか、
1858 という点を、
1859 同条自体は、
1860 被参加人から補助参
1861 加人に対して同条の効力を援用する場合を想定していることを踏まえて論ずることが期待され
1862 る。
1863
1864 例えば、
1865 法第46条の根拠を敗訴責任の共同分担と捉える立場からは、
1866 補助参加人から被
1867 参加人に対して同条の効力を援用することは認められてしかるべきであると論ずることが考え
1868 られるが、
1869 このように論ずる場合には、
1870 同条が被参加人から補助参加人への援用を想定してい
1871 ることとの整合性をどうつけるかについても一定の説明が求められよう。
1872
1873
1874 【刑事系科目】
1875 〔第1問〕
1876
1877 - 13 -
1878
1879 1
1880
1881 設問1について
1882 本設問は、
1883 構成要件上、
1884 「人を欺いて財物を交付させ」るとして手段・態様が限定される
1885 詐欺罪について、
1886 現金の交付を求める文言が述べられるより前に、
1887 実行の着手を認めて詐欺
1888 未遂罪が成立するとする場合の論拠(設問1)及び当該論拠に基づき具体的事実関係に即
1889 して実行の着手が認められる時点を明らかにすること(設問1)を求めるものであり、
1890 現
1891 金を詐取する計画の下、
1892 段階を踏みながら複数のうそを重ねて行われる詐欺の犯行について、
1893
1894 詐欺未遂罪の成立を認める立場から、
1895 実行の着手を認める論拠を明示した上で、
1896 具体的事実
1897 に即して実行の着手時期を明らかにさせることによって、
1898 未遂犯の解釈に関する基本的な知
1899 識と理解を問うとともに、
1900 規範との関係で事実を適切に評価して規範を適用し、
1901 妥当な結論
1902 を導く思考力を問うものである。
1903
1904
1905 詐欺罪の実行行為としての欺罔行為は、
1906 財物交付に向けられたものである必要があるとこ
1907 ろ、
1908 詐欺において財物の交付を求める行為こそが、
1909 人に財物を交付しなければならないとい
1910 う中核部分に錯誤を生じさせる行為であると解し、
1911 それに至らない段階では財物交付に向け
1912 られた行為とは認められないと解した場合、
1913 甲らは、
1914 Aに対し、
1915
1916 「現金の交付を求める文言」
1917 (すなわち、
1918 「捜査のために必要なので現金を預けてほしい」旨のうそ)を述べる前の段階
1919 にあるため、
1920 未だ実行行為を行っていないことになる。
1921
1922 その上で、
1923 詐欺罪は、
1924 構成要件上、
1925
1926 欺罔行為を手段として限定している犯罪であるから、
1927 「犯罪の実行に着手してこれを遂げな
1928 かった」(刑法第43条)として未遂犯処罰を認めるためには、
1929 実行行為である欺罔行為に
1930 着手する必要があると解し、
1931 未遂犯処罰に構成要件的制約を認める立場に立つ場合、
1932 甲に詐
1933 欺未遂罪を認めることはできない。
1934
1935
1936 そこで、
1937 「現金の交付を求める文言を述べる」行為が実行行為としての欺罔行為であると
1938 しても、
1939 その前の段階で詐欺未遂罪の成立を認める立場からの説明として、
1940 a.構成要件上、
1941
1942 手段・態様を限定した詐欺罪においても、
1943 構成要件による制約を認める必要はないとし、
1944 実
1945 行行為の開始前に未遂罪の成立が認められるとする論拠を論じることが考えられる。
1946
1947 その際
1948 には、
1949 どのような場合に未遂罪の成立を認めるべきかについて、
1950 未遂罪の処罰が認められる
1951 根拠から、
1952 結果発生の客観的危険性や実行行為との密接関連性、
1953 犯行計画を基礎とした行為
1954 経過の自動性、
1955 時間的場所的近接性等の考慮要素を挙げるなどして具体的な規範を定立しつ
1956 つ論じることが求められよう。
1957
1958 この点、
1959 構成要件上、
1960 手段・態様を限定した犯罪ではないが、
1961
1962 殺人罪に関し、
1963 最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁が「実行犯3名の殺害計
1964 画は、
1965 …というものであって、
1966 第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠
1967 なものであったといえること、
1968 第1行為に成功した場合、
1969 それ以降の殺害計画を遂行する上
1970 で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、
1971 第1行為と第2行為と
1972 の間の時間的場所的近接性などに照らすと、
1973 第1行為は第2行為に密接な行為であり、
1974 実行
1975 犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるか
1976 ら、
1977 その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
1978
1979 」と判示
1980 しているのが参考となろう。
1981
1982
1983 一方、
1984 b.実行行為としての欺罔行為に財物交付要求行為までは必要ないが、
1985 詐欺未遂罪
1986 の成立には欺罔行為の一部を開始している必要があると解する場合には、
1987 詐欺罪の実行行為
1988 としての欺罔行為の意義を明らかにする必要がある。
1989
1990 被害者から現金を詐取する計画の下、
1991
1992 被害者が現金を交付する判断の前提となる事項につながる重要なうそや、
1993 現金交付を求める
1994 行為に直接つながるうそを積み重ね、
1995 段階を踏みながら進められる詐欺事犯の特徴を押さえ
1996 た上で、
1997 被害者に財物を交付させる危険性の高まりを考慮し、
1998 実行行為としての欺罔行為を
1999 認めることが考えられる。
2000
2001 この立場に立つ場合、
2002 甲らの行為が実行行為としての欺罔行為を
2003 一部開始しているとして詐欺未遂罪の成立を説明することになろう。
2004
2005 また、
2006 欺罔行為に財物
2007 交付要求行為は必要ないとの立場に立った上で、
2008 甲らの行為は実行行為としての欺罔行為に
2009
2010 - 14 -
2011
2012 当たらないとした場合でもなお、
2013 詐欺未遂罪の成立には欺罔行為の一部を開始している必要
2014 はないと解する場合には、
2015 上記a.の立場から詐欺未遂罪の成立を論じる余地はあろう。
2016
2017 い
2018 ずれの立場に立つ場合であっても、
2019 欺罔行為の意義、
2020 詐欺未遂罪の成立を認める論拠及び構
2021 成要件的制約の要否の相関関係に留意する必要がある。
2022
2023
2024 なお、
2025 判例は、
2026 詐欺未遂罪の成立に現金の交付を求める文言を述べることまでは必要とし
2027 ておらず、
2028 最判平成30年3月22日刑集72巻1号82頁が【事例1】と類似の事案にお
2029 いて、
2030 「本件嘘の内容は、
2031 その犯行計画上、
2032 被害者が現金を交付するか否かを判断する前提
2033 となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められる。
2034
2035 そして、
2036 このように段
2037 階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘
2038 には、
2039 預金口座から現金を下ろして被害者宅に移動させることを求める趣旨の文言や、
2040 間も
2041 なく警察官が被害者宅を訪問することを予告する文言といった、
2042 被害者に現金の交付を求め
2043 る行為に直接つながる嘘が含まれており、
2044 …被害者に対し、
2045 本件嘘を真実であると誤信させ
2046 ることは、
2047 被害者において、
2048 間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じ
2049 て即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる。
2050
2051 このような事実関係の
2052 下においては、
2053 本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において、
2054 被害者に現
2055 金の交付を求める文言を述べていないとしても、
2056 詐欺罪の実行の着手があったと認められ
2057 る。
2058
2059 」と判示していることも参考となろう(実行行為としての欺罔行為には財物交付を求め
2060 る行為が必要であるとしつつ、
2061 上記a.の立場に立ち、
2062 詐欺未遂罪の成立を認める山口厚裁
2063 判官の補足意見が付いている。
2064
2065 )。
2066
2067
2068 設問1は、
2069 設問1において定立した規範を【事例1】に当てはめ、
2070 具体的事実に即し
2071 て甲に実行の着手を認める時点を明らかにすることを求めるものである。
2072
2073 上記a.の立場に
2074 立つ場合は、
2075 設問1において定立した詐欺未遂罪成立のための規範を【事例1】の事実に
2076 当てはめ、
2077 @からEのどの時点で詐欺未遂罪成立とするのかを論じることになる。
2078
2079 上記b.
2080 の立場に立つ場合には、
2081 先に明らかにした欺罔行為の意義から、
2082 【事例1】の@からEのど
2083 の時点で実行行為を開始したと評価して実行の着手を認めるのかを論じる必要がある。
2084
2085
2086 規範の当てはめにおいては、
2087 先に定立した規範と整合する当てはめを行っていることはも
2088 とより、
2089 具体的事実の持つ意味を規範との関係で評価することが求められる。
2090
2091 また、
2092 本設問
2093 では実行の着手を認める時点とそれより前の時点との実質的相違を明らかにしつつ論じるこ
2094 とが求められているから、
2095 実行の着手を認める理由とそれより前の時点では実行の着手あり
2096 と認められない理由を、
2097 定立した規範との関係で説得的に論じる必要がある。
2098
2099
2100 【事例1】において、
2101 甲は、
2102 乙及び丙との詐欺の犯行計画の下、
2103 @時点で対象者となるA
2104 を選び出したが、
2105 Aに対する直接の働き掛けはない。
2106
2107 現金交付を求める前日のA時点で、
2108 甲
2109 は、
2110 Aに警察官であることなどを伝え、
2111 今後の虚言をAに信じさせるための前提となるうそ
2112 を言っているが、
2113 現金交付につながるような虚言は何ら含まれていない。
2114
2115 現金交付を求める
2116 当日午前10時のB時点で、
2117 甲は、
2118 Aの預金口座が不正に利用されている疑いがあり、
2119 捜査
2120 のために必要であるとして同口座から現金を引き出してA方に持ち帰らせるように仕向ける
2121 うそを言っており、
2122 捜査のために必要であると信じさせることは、
2123 Aが現金を乙らに引き渡
2124 す際の判断の前提につながるものである上、
2125 A方に現金を用意させることは、
2126 現金の交付を
2127 求める行為に直接つながるものであるから、
2128 B時点のうそが現金交付要求行為につながる重
2129 要なものであって、
2130 Aが甲らに現金を交付する危険を高めるものとも言えよう。
2131
2132 ただし、
2133 こ
2134 の段階でAの預金が引き出されるか否かは未だ不確定な要素があるとも言える。
2135
2136 C時点でA
2137 が現金を引き出してA方に持ち帰っているため、
2138 甲らの求めに応じて現金を交付する危険性
2139 が現実味を帯びてきたとも言えるが、
2140 C時点で甲らが何らかの行為を行ったものではない。
2141
2142
2143 同日正午のD時点で、
2144 甲がAに警察官がA方に向かう旨告げ、
2145 この後、
2146 警察官を装った乙ら
2147 がAに現金の交付を求めることになっていたから、
2148 この時点のうそは、
2149 現金の交付要求行為
2150
2151 - 15 -
2152
2153 に密接しているとも言えよう。
2154
2155 また、
2156 来訪者が警察官であると信じさせることも、
2157 Aが乙ら
2158 に現金を交付する危険性を高めるものとも言える。
2159
2160 その1時間後のE時点で、
2161 警察官を装っ
2162 た乙らがA方を訪ねており、
2163 Aが玄関ドアを開けさえすれば、
2164 正に現金交付要求文言が告げ
2165 られようとする段階と言える。
2166
2167 こうした各事実の持つ意味を評価しながら、
2168 定立した規範を
2169 具体的事実に当てはめ、
2170 事実に即して実行の着手時期を論じる必要がある。
2171
2172
2173 2
2174
2175 設問2について
2176 本設問は、
2177 甲が乙及び丙との詐欺の計画に従い、
2178 Bをだまして300万円を預金口座から
2179 引き出させてB方に持ち帰らせ、
2180 乙らに対し、
2181 計画どおりBから現金をだまし取ってくるよ
2182 うに指示し、
2183 乙らがこれを了承したが、
2184 乙らがB方に向かう道中、
2185 Bを縛って現金を奪うこ
2186 とを話し合い、
2187 ロープ等を用意してB方に赴き、
2188 インターホンを鳴らして玄関ドアを開けさ
2189 せた後、
2190 B方に押し入り、
2191 Bの手足を縛るなどしてBを床上に倒した後、
2192 上記300万円を
2193 B方から持ち出し、
2194 その後、
2195 B方に残されたBが緊縛を解いた後、
2196 立ち上がろうとして足の
2197 しびれから転倒して頭部打撲の傷害を負った事例を題材に、
2198 甲らの罪責の検討を求めること
2199 によって、
2200 刑事実体法の基本的な概念に関する正確な理解及び事実関係の的確な分析能力を
2201 問うものである。
2202
2203
2204 甲については、
2205 共犯者乙及び丙が当初の詐欺の共謀に引き続き、
2206 詐欺と異なる態様による
2207 犯行を行って、
2208 当初の目的どおりの財物を奪取し、
2209 甲がこの分配を受けていることから、
2210 共
2211 犯者の行為について、
2212 当初の共謀に基づくものとして罪責を負うか否かの検討が求められる。
2213
2214
2215 従前、
2216 乙及び丙が甲との間で詐欺を繰り返していたことから、
2217 乙らが現金の強奪行為に出る
2218 ことを甲が全く予見できなかった点などを理由に、
2219 乙及び丙の行為は甲との共謀に基づいて
2220 行われたものではないとみる余地もあろうが、
2221 甲及び乙らとの間の意思連絡の内容、
2222 動機の
2223 同一性・連続性、
2224 侵害法益の同一性、
2225 甲がBに300万円を用意させるなどした行為の影響、
2226
2227 関与の程度等の事情を考慮し、
2228 甲が乙及び丙が行った行為についても共謀に基づくものとし
2229 て罪責を負うと解することが考えられる。
2230
2231 このように解した場合には、
2232 甲には詐欺罪の故意
2233 しかないことから、
2234 異なる構成要件にまたがって実現された犯罪について故意既遂犯を認め
2235 ることができるのか(刑法第38条第2項)についても論じる必要があろう。
2236
2237
2238 また、
2239 甲の罪責を検討する前提として、
2240 乙及び丙の罪責を検討する必要があり、
2241 乙及び丙
2242 がBを緊縛するなどして300万円を奪った行為が強盗罪の構成要件に該当することは明ら
2243 かであるが、
2244 強盗の犯行後、
2245 Bが転倒して負った傷害結果を乙及び丙に帰責できるか否かの
2246 検討が求められる。
2247
2248
2249 Bの傷害結果は、
2250 乙らによる緊縛行為を原因とする足のしびれからくる転倒によって生じ
2251 ているところ、
2252 強盗の手段たる暴行から傷害結果が生じたと認められる場合、
2253 強盗の機会性
2254 を検討するまでもなく、
2255 強盗致傷罪が成立する。
2256
2257 他方で、
2258 Bの転倒には、
2259 BがCからそのま
2260 ま座っているように言われたにもかかわらず、
2261 自ら立ち上がったという事情が介在している
2262 ため、
2263 Bの行為が寄与して発生した傷害結果を乙及び丙の行為に帰責できるか否かについて、
2264
2265 緊縛行為と傷害結果との間の因果関係の有無を検討する必要があろう。
2266
2267 この場合、
2268 傷害の原
2269 因となる行為が強盗の手段である暴行であることの意味を的確に把握した上で問題の所在を
2270 示し、
2271 因果関係の有無を論述することが求められる。
2272
2273
2274
2275 3
2276
2277 設問3について
2278 本設問は、
2279 いずれも警察官の公務に対する丁による妨害行為でありながら、
2280 一方について
2281 は業務妨害罪の成立を否定しつつ、
2282 一方については業務妨害罪の成立を肯定するという結論
2283 を導くために、
2284 どのような説明があり得るかを検討させることによって、
2285 業務妨害罪に関す
2286 る解釈論の知識と理解を問うとともに、
2287 具体的な事実関係を分析し、
2288 法規範を適用する能力
2289 及び論理的思考力を問うものである。
2290
2291
2292 まず、
2293 結論を導くための前提として、
2294 丁によって妨害の対象となった公務を特定して把握
2295
2296 - 16 -
2297
2298 することが求められる。
2299
2300 その上で、
2301 本設問の結論を導くためには、
2302 一定の公務についてのみ
2303 業務妨害罪の成立を認める必要があることから、
2304 強制力を行使する権力的公務は、
2305 妨害に対
2306 する自力排除力を有するため業務妨害罪の「業務」に含まれず、
2307 非権力的公務は「業務」と
2308 して同罪により保護されると解する見解に立つことが考えられる。
2309
2310
2311 そうすると、
2312 設問3の6の事実において、
2313 丁の「威力」(刑法第234条)によって妨害
2314 の対象とされた公務が警察官Dの乙を逮捕しようとする強制力を行使する権力的公務である
2315 のに対し、
2316 設問3の7の事実において、
2317 丁による虚偽通報という「偽計」
2318 (刑法第233条)
2319 の手段によって妨害の対象とされた警察官5名の公務は、
2320 乙を追跡し、
2321 逮捕しようとする虚
2322 偽通報がなければ遂行されていたはずの公務であることなどから、
2323 未だ強制力を行使する段
2324 階にないと説明することによって警察官5名の公務が業務妨害罪によって保護されるとの結
2325 論を導くことができよう。
2326
2327
2328 また、
2329 偽計による妨害については、
2330 これらの妨害に対する自力排除力がないことを理由に、
2331
2332 すべての公務が業務妨害罪の「業務」に含まれるとする見解に立つことによっても、
2333 本設問
2334 の結論を導くことができよう。
2335
2336
2337 いずれの見解から説明する場合であっても、
2338 妨害の対象となる公務を的確に把握した上で、
2339
2340 一定の公務のみが業務妨害罪によって保護されるとの結論を導く理由を説得的に論述するこ
2341 とが求められる。
2342
2343
2344 〔第2問〕
2345 本問は、
2346 強盗殺人未遂事件を素材として、
2347 捜査及び公判に関する具体的事例を示し、
2348 各局面
2349 で生じる刑事手続上の問題点、
2350 その解決に必要な法解釈、
2351 法適用に当たって重要な具体的事実
2352 の分析及び評価並びに具体的結論に至る思考過程を論述させることにより、
2353 刑事訴訟法に関す
2354 る基本的学識、
2355 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
2356
2357
2358 〔設問1〕は、
2359 いずれも領置の適法性を問うものである。
2360
2361 すなわち、
2362 【捜査@】は、
2363 司法警
2364 察員が、
2365 強盗殺人未遂事件の犯人の可能性がある甲がその居住するアパートのごみ置場に投棄
2366 したごみ袋を回収した行為、
2367 【捜査A】は、
2368 司法警察員が、
2369 上記甲が公道上に投棄した使用済
2370 みの容器を回収した行為であり、
2371 それぞれの適法性を論じさせることにより、
2372 刑事訴訟法第2
2373 21条の定める「領置」の正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
2374
2375
2376 同条は、
2377 「被疑者その他の者が遺留した物」(遺留物)あるいは「所有者、
2378 所持者若しくは保
2379 管者が任意に提出した物」(任意提出物)を領置することを認めているが、
2380 【捜査@】では、
2381 本
2382 問のごみ袋が任意提出物といえるか、
2383 【捜査A】では、
2384 本問の容器が遺留物といえるかが問題
2385 となり、
2386 いえるとして捜査機関は何ら制限なくこれらを領置することができるかが問題となる
2387 ため、
2388 これらの問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じる必要がある。
2389
2390
2391 まず、
2392 同条における「領置」が、
2393 占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令状
2394 を要しないとされている趣旨に立ち返り、
2395 「遺留物」とは、
2396 遺失物より広い概念であり、
2397 自己
2398 の意思によらずに占有を喪失した場合に限られず、
2399 自己の意思によって占有を放棄し、
2400 離脱さ
2401 せた物も含むと定義する必要がある。
2402
2403 その上で、
2404 【捜査@】では、
2405 甲が自己の意思でごみ袋を
2406 投棄しており「遺留物」に該当しそうなところ、
2407 投棄場所がアパートのごみ置場であることか
2408 ら、
2409 なお当該アパートの大家にその占有が残っているとして、
2410 当該ごみ袋が「所有者、
2411 所持者
2412 若しくは保管者」たる大家からの「任意提出物」に該当するか否か、
2413 【捜査A】では、
2414 甲が自
2415 己の意思で容器を公道に投棄しているとして、
2416 当該容器が「遺留物」に該当するか否かを検討
2417 する必要がある。
2418
2419 そして、
2420 いずれの設問についても、
2421 「領置」の要件を満たすとして、
2422 排出者
2423 がごみを排出する場合における「通常、
2424 そのまま収集されて他人にその内容を見られることは
2425 ないという期待」や「DNA型を知られることはないという期待」がプライバシーの利益とし
2426 て法的に保護されるものか否かを検討し、
2427 さらに、
2428 それらが法的に保護される利益であるとし
2429
2430 - 17 -
2431
2432 ても、
2433 本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論じるべきである。
2434
2435
2436 こうした法解釈の枠組みの下で、
2437 本件事例の具体的状況下におけるごみ袋や容器の領置の必
2438 要性及び相当性を検討することになろうが、
2439 いずれについても事例中に現れた具体的事実を的
2440 確に抽出し、
2441 分析しながら論じる必要がある。
2442
2443 その論じ方については、
2444 個々の適法又は違法の
2445 結論はともかく、
2446 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく、
2447
2448 それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じなければならない。
2449
2450 例えば、
2451
2452 【捜査@】では、
2453
2454 本件ごみ袋が約2時間後に回収されるという状況の下で、
2455 強盗殺人未遂事件という重大犯罪の
2456 犯人特定のために、
2457 犯行現場に遺留された足跡や防犯カメラに記録された映像と対照させると
2458 いった捜査の必要性に加えて、
2459 甲が投棄したごみ袋の特徴を確認した上で、
2460 そのごみ袋1袋の
2461 みを領置したといったことを踏まえ、
2462 相当性を検討するべきである。
2463
2464 また、
2465 【捜査A】では、
2466
2467 甲が強盗殺人未遂事件の犯人である可能性がより高まったという状況の下で、
2468 犯人のものであ
2469 る可能性が高いDNA型が判明したことや、
2470 甲がアパートのごみ置場に投棄するごみの中から
2471 甲のDNAだけを採取することが困難であったという捜査の必要性に加え、
2472 捜査機関が領置の
2473 過程に関与している点をどのように評価するか、
2474 その際、
2475 捜査機関が捜査目的を秘してボラン
2476 ティアの一員になり、
2477 自ら甲に接触している一方で、
2478 甲が自ら投棄した容器を回収しているに
2479 とどまり、
2480 領置行為自体における捜査機関の関与の程度は高いものとは言えないことなどの事
2481 情をどのように評価するかについて、
2482 【捜査@】との違い(投棄された場所や保護されるべき
2483 プライバシーの利益の内容)を踏まえて、
2484 相当性を検討する必要があろう。
2485
2486
2487 〔設問2〕は、
2488 いずれも実況見分調書の証拠能力を問うものである。
2489
2490 すなわち、
2491 【実況見分
2492 調書@】には、
2493 被疑者甲が被害者V方と同種の錠前を解錠する状況が撮影された写真が貼付さ
2494 れ、
2495 かつ、
2496 解錠状況に関する甲の説明内容が記載され、
2497 また【実況見分調書A】には、
2498 Vが被
2499 害状況を再現した写真が貼付され、
2500 かつ、
2501 被害状況に関するVの説明内容が記載されており、
2502
2503 検察官は、
2504 各実況見分調書の立証趣旨について、
2505 それぞれ「甲がV方の施錠された玄関ドアの
2506 鍵を開けることが可能であったこと」、
2507 「被害再現状況」としているところ、
2508 こうした性質の異
2509 なる内容を含む実況見分調書について、
2510 それらの証拠能力を問うことにより、
2511 伝聞法則の正確
2512 な理解と具体的な事実への適用能力を試すものである。
2513
2514
2515 【実況見分調書@】は、
2516 司法警察員Qが行った実況見分の結果を記載したものであるから、
2517
2518 論述に当たっては、
2519 まず捜査官が五官の作用によって事物の存在及び状態を観察して認識する
2520 作用をもつ検証の結果を記載した書面に類似した書面として、
2521 刑事訴訟法第321条第3項に
2522 より、
2523 作成者Qが公判期日において証人として尋問を受け、
2524 その真正に作成されたものである
2525 ことを証言すれば証拠能力が付与されるという本調書全体の性質を論ずる必要があろう。
2526
2527 その
2528 上で、
2529 本調書には、
2530 公判期日外でなされた甲の供述が記載されていることから、
2531 これらの部分
2532 の証拠能力について、
2533 更に伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で検討した上で、
2534
2535 その有無を論じる必要がある。
2536
2537
2538 【実況見分調書A】についても、
2539 検察官Rが作成した実況見分調書の中に、
2540 公判期日外でな
2541 されたVの供述が記載されていることから、
2542 まず刑事訴訟法第321条第3項の適用を論じた
2543 上で、
2544 Vの供述を記載した部分の証拠能力について、
2545 最高裁判例(最決平成17年9月27日
2546 刑集59巻7号753頁)を踏まえつつ、
2547 伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で
2548 検討した上で、
2549 その有無を論じる必要がある。
2550
2551
2552 いずれの実況見分調書についても、
2553 正確な法的知識を当然の前提としながら、
2554 法解釈論や要
2555 件について抽象的に論じるだけでなく、
2556 事例中に現れた具体的事実関係を前提に、
2557 法的に意味
2558 のある事実の適切な把握と要件のあてはめを行うことが求められる。
2559
2560
2561 【選択科目】
2562 [倒産法]
2563 - 18 -
2564
2565 〔第1問〕
2566 本問は、
2567 個人事業主が破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を基に、
2568 主に、
2569 破産
2570 財団に関する規律、
2571 離婚に伴う財産分与請求権の破産手続における処遇についての基本的な
2572 理解と事例処理能力を問うものである。
2573
2574
2575 〔設問1〕は、
2576 破産者が有する種々の財産が破産財団に属するか否か(小問)、
2577 破産者が
2578 加入する医療保険の解約返戻金を破産財団に組み入れようとする破産管財人に対して破産者
2579 の代理人として採るべき手段(小問)について、
2580 それぞれ具体的な検討を求めるものであ
2581 る。
2582
2583
2584 まず、
2585 小問については、
2586 前提として、
2587 破産法第2条第14項が定める破産財団の定義に
2588 触れつつ、
2589 同法第34条第1項が定める破産財団の範囲を示した上で、
2590 @からCまでの各財
2591 産についての個別的な検討を進めることが期待される。
2592
2593 @については、
2594 同項括弧書きによれ
2595 ば、
2596 財産が日本国内にあることを問わないこととされていることを指摘し、
2597 破産財団に属す
2598 るとの結論を示すことが求められる。
2599
2600 Aについては、
2601 破産手続開始の決定時における破産者
2602 の財産であるにもかかわらず破産財団から除外されるもの(自由財産)があること、
2603 その一
2604 つとして、
2605 同条第3項第1号において、
2606 民事執行法上の差押禁止に係る金銭(同法第131
2607 条第3号)の1.5倍相当額の金銭が定められていること及びその趣旨を指摘した上で、
2608 9
2609 0万円全額が自由財産とされ、
2610 破産財団には属さないとの結論を示すことが求められる。
2611
2612 B
2613 については、
2614 破産法第34条第1項が破産手続開始の決定を基準時として破産財団の範囲を
2615 固定していることとの関係で、
2616 それ以後に取得した財産は新得財産として破産財団から除外
2617 されることを指摘し、
2618 破産財団には属さないとの結論を示すことが求められる。
2619
2620 Cについて
2621 は、
2622 同条第2項が「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の
2623 請求権」は破産財団に属すると定めていることとの関係で、
2624 破産者の有する保険金請求権が、
2625
2626 上記の「将来の請求権」に該当するか否かについての自説を論じた上で、
2627 結論を示す必要が
2628 ある。
2629
2630 この点に関し、
2631 最判平成28年4月28日民集70巻4号1099頁は、
2632 死亡保険金
2633 請求権は、
2634 被保険者の死亡前であっても、
2635 死亡保険金受取人において処分したり、
2636 その一般
2637 債権者において差押えをしたりすることが可能であると解され、
2638 一定の財産的価値を有する
2639 ことは否定できないことなどから、
2640 「将来の請求権」に該当するものとして、
2641 破産財団に属す
2642 るとの結論を示している。
2643
2644
2645 次に、
2646 小問については、
2647 一つ目の手段として、
2648 破産法第34条第4項に基づく自由財産
2649 の拡張の申立てについて論ずることが求められる。
2650
2651 解答に当たっては、
2652 自由財産の拡張は、
2653
2654 裁判所が、
2655 個々の事案において、
2656 破産者等の状況に照らし、
2657 具体的な必要性を考慮して裁量
2658 的に判断するものであることを踏まえつつ、
2659 同項に定める考慮要素を意識しながら、
2660 問題文
2661 から具体的事実を拾い上げ、
2662 破産債権者との利益衡量を図ることが求められる。
2663
2664 本問におい
2665 ては、
2666 破産者において持病があることや廃業により職を失ったことなどの事情が認められる
2667 ものの、
2668 他方で、
2669 遺産として600万円を相続したことや自由財産として現金90万円を有
2670 していることなどに照らすと、
2671 自由財産の拡張の申立ては認められない(可能性がある)と
2672 の方向で論ずることとなろう。
2673
2674 そこで、
2675 二つ目の手段として、
2676 破産者の代理人は、
2677 破産管財
2678 人に対し、
2679 解約返戻金に相当する額につき破産者が有する財産から破産財団へ組み入れるこ
2680 とと引き換えに、
2681 解約返戻金請求権について破産財団から放棄することを申し入れるという
2682 手段について論ずることが期待される。
2683
2684
2685 〔設問2〕は、
2686 破産手続開始の決定前に、
2687 離婚及びそれに伴う財産分与の協議が成立した
2688 事例を通じて、
2689 破産手続開始の決定時には履行されていない破産者に対する不動産の所有権
2690 移転登記請求権につき取戻権を行使することができるか否か(小問)、
2691 破産手続開始の決定
2692 時において支払済みの分与金について否認権を行使することができる否か(小問)につい
2693 て、
2694 それぞれ具体的な検討を求めるものである。
2695
2696
2697
2698 - 19 -
2699
2700 まず、
2701 小問については、
2702 Dの主張が破産法第62条に定める取戻権の行使に当たること
2703 を指摘する必要がある。
2704
2705 その上で、
2706 実体法上、
2707 対抗要件を具備しなければ「第三者」(民法第
2708 177条)に対して所有権を主張し得ない場合であることから、
2709 破産管財人が「第三者」に
2710 該当するか否か(破産管財人の第三者性)について論ずることになる。
2711
2712 そして、
2713 破産管財人
2714 には破産財団に所属する財産に対する差押債権者と類似の地位が認められることに異論はな
2715 いことから、
2716 破産管財人は「第三者」に該当するとして、
2717 対抗要件を具備していない以上、
2718
2719 取戻権を行使することはできないとの結論を示すことが求められる。
2720
2721
2722 次に、
2723 小問については、
2724 問題文中に、
2725 不動産の譲渡と分与金の支払は財産分与として相
2726 当なものであるとするとの記載があることから、
2727 破産管財人が行使しようとしている否認権
2728 は、
2729 破産法第162条第1項第1号の偏頗行為否認であることを指摘する必要がある。
2730
2731 その
2732 上で、
2733 要件該当性を順次検討することが求められるが、
2734 Dからの反論については、
2735 有害性又
2736 は不当性との関係で論ずることとなろう。
2737
2738 有害性の阻却事由としては、
2739 本件支払が取戻権に
2740 該当する又は財団債権の弁済に該当するとの指摘が想定され、
2741 不当性の阻却事由としては、
2742
2743 離婚に伴う財産分与は、
2744 民法第768条第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、
2745
2746 財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、
2747
2748 詐害行為とはならないと判示した最判昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁
2749 の考え方が偏頗行為否認についても及ぶとの指摘が想定される。
2750
2751 結論としては、
2752 肯定、
2753 否定
2754 の両論が考えられるところであるが、
2755 自らの考え方を説得的に論ずることが求められる。
2756
2757
2758 〔第2問〕
2759 本問は、
2760 株式会社について再生手続が開始された場合の具体的事例を基に、
2761 主に、
2762 再生手続
2763 における継続的給付に係る請求権の取扱い及び敷金返還請求権の取扱いについての基本的な理
2764 解と事例処理能力を問うものである。
2765
2766
2767 〔設問1〕は、
2768 電気の供給契約という一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付を目的
2769 とする双務契約を題材に、
2770 再生手続における継続的給付に係る請求権の取扱いについて、
2771 当該
2772 請求権の発生時期と、
2773 再生手続開始の申立て又は再生手続開始との前後を踏まえ、
2774 具体的な検
2775 討を求めるものである。
2776
2777
2778 解答に当たっては、
2779 まず、
2780 民事再生法第84条第1項を摘示して、
2781 再生債権の定義及び要件
2782 を明示しつつ、
2783 @の期間の請求権が再生債権に当たることを示した上、
2784 再生債権については、
2785
2786 再生手続開始後は、
2787 再生計画の定めるところによらなければ弁済をすることができないことか
2788 ら(同法第85条第1項)、
2789 支払期限までに支払うことはできないと回答すべきであるとの結
2790 論を示すことが求められる。
2791
2792 Aの期間の請求権については、
2793 同法第50条第1項及び第2項が
2794 定める継続的給付に当たることを示しつつ、
2795 同項括弧書きによれば、
2796 その全額が共益債権に当
2797 たることを示すことが求められる。
2798
2799 その上で、
2800 共益債権は、
2801 再生手続によらないで、
2802 随時弁済
2803 することができる(同法第121条第1項)ことから、
2804 支払期限までに支払うことができると
2805 回答すべきであるとの結論を示すことが求められる。
2806
2807 Bの期間の請求権については、
2808 再生手続
2809 開始前の分は同法第50条第2項により、
2810 再生手続開始後の分は同法第119条第2号(又は
2811 同法第49条第4項)により、
2812 その全額が共益債権に当たることから、
2813 上記Aと同様、
2814 支払期
2815 限までに支払うことができると回答すべきであるとの結論を示すことが求められる。
2816
2817
2818 〔設問2〕は、
2819 賃貸人について再生手続が開始されたとの具体的事例を通じて、
2820 再生手続に
2821 おける敷金返還請求権の取扱いについて、
2822 破産手続における取扱いとの違いに触れつつ、
2823 関連
2824 する条文等についての説明を求めるもの(小問)、
2825 その説明を踏まえ、
2826 敷金返還請求権に係
2827 る債務の弁済額についての具体的な検討を求めるもの(小問)である。
2828
2829
2830 小問については、
2831 まず、
2832 破産手続において、
2833 敷金返還請求権は破産債権(破産法第2条第
2834 5項)として扱われることを示した上で、
2835 敷金返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債
2836
2837 - 20 -
2838
2839 務を弁済する場合は、
2840 その債権額の限度において弁済額の寄託を請求することができることと
2841 されている(同法第70条後段)ことから、
2842 この点について説明する必要がある。
2843
2844 そして、
2845 こ
2846 の場合は、
2847 賃料債務の弁済は明渡しを解除条件とするものであることから、
2848 明渡しによって賃
2849 料の弁済は効力を失い、
2850 その結果未払となった賃料債務と敷金返還請求権との間に充当関係が
2851 生じること、
2852 他方、
2853 弁済していた賃料相当額は、
2854 不当利得により破産財団に対して生じた請求
2855 権として財団債権となる(同法第148条第1項第5号)ことを指摘することが期待される。
2856
2857
2858 これに対し、
2859 再生手続においては、
2860 敷金返還請求権は、
2861 下記の共益債権となる部分を除き、
2862
2863 再生債権(民事再生法第84条第1項)として扱われること、
2864 再生債権となる部分は再生計画
2865 の定めにより弁済されることを示した上で、
2866 同法第92条第3項を摘示し、
2867 その要件等につき
2868 適宜説明を加えつつ、
2869 これらの要件を満たした額については共益債権として扱われること、
2870 共
2871 益債権とされた部分は、
2872 再生手続によらないで、
2873 再生債権に先立って随時弁済されること(同
2874 法第121条第1項及び第2項)を指摘することが求められる。
2875
2876
2877 次に、
2878 小問については、
2879 事例に則して、
2880 敷金返還請求権に係る債務の弁済額についての具
2881 体的な検討を求めるものであるが、
2882 その前提となる再生計画上の敷金返還請求権の取扱いにつ
2883 いては、
2884 条件付権利として権利変更をした上で条件成就の際に未払賃料等を充当して敷金返還
2885 請求権の額を確定するとの考え方(権利変更先行説)と、
2886 未払賃料等を充当した後の敷金返還
2887 請求権について権利変更をするとの考え方(当然充当先行説)とがあるところ、
2888 問題文におい
2889 て後者の考え方に立つことが明示されていることに留意する必要がある。
2890
2891 解答に当たっては、
2892
2893 まず、
2894 未払賃料及び原状回復費用を充当した敷金返還請求権の残額が400万円であることを
2895 示した上、
2896 再生手続開始後に弁済期が到来するものとして弁済した賃料債務の額と賃料の6か
2897 月分に相当する額(民事再生法第92条第3項括弧書きによれば、
2898 賃料の6か月分相当額から
2899 同条第2項の相殺により免れる賃料債務の額が控除されることについても言及することが期待
2900 される。
2901
2902 )とを比較し、
2903 賃料債務と修理費用返還請求権との相殺が可能であること(同法第9
2904 2条第2項)にも触れつつ、
2905 共益債権となる額を算出することが求められる。
2906
2907 そして、
2908 再生債
2909 権となる部分については、
2910 再生計画の定めに従って権利変更されること(同法第179条第1
2911 項)を指摘した上で再生債権として弁済される額を算出し、
2912 その額と上記の共益債権となる額
2913 との合計が弁済額となるとの結論を示すことが求められる。
2914
2915
2916 [租税法]
2917 〔第1問〕
2918 設問1は、
2919 小問、
2920 ともに、
2921 新株予約権に関する所得の課税方法を踏まえた上で、
2922 総所得
2923 金額を具体的に考えさせる問題である。
2924
2925 所得分類を踏まえた上で、
2926 各所得の所得金額及び総所
2927 得金額がどのように算出されるのかについて、
2928 総所得金額の意義や規定を正しく理解している
2929 ことが求められる。
2930
2931 給与所得控除の規定の存在やその趣旨については、
2932 受験者によく理解され
2933 ていると思われるが、
2934 本問では、
2935 その規定がどのように適用されるかを具体的に理解している
2936 かどうかを問うている。
2937
2938 また、
2939 新株予約権に関しては、
2940 最判平成17年1月25日民集59巻
2941 1号64頁を踏まえて、
2942 新株予約権の権利行使益に係る課税タイミングと所得分類の検討、
2943 特
2944 に権利行使時と株式譲渡時の課税が整合的に理解されているかという点が重要である。
2945
2946
2947 設問2では、
2948 まず、
2949 本問における解決金のような収入が、
2950 非課税所得に該当するか否かが
2951 問題となる。
2952
2953 ここでは、
2954 設問の事実関係に基づき、
2955 一定の損害賠償金等が非課税所得とされて
2956 いることの趣旨を踏まえ、
2957 所得税法第9条第1項第18号、
2958 同法施行令第30条第2号又は第
2959 3号の規定に即して論じることが求められる。
2960
2961 仮に、
2962 その収入が非課税所得に当たらないと考
2963 える場合には、
2964 その収入に対する課税方法、
2965 特に所得分類が問題となる。
2966
2967 ここでも設問の事実
2968 関係に基づき、
2969 各種所得の規定に即して論じることが求められる。
2970
2971
2972 設問2は、
2973 更正の請求と通知処分の基本的な事項について問う問題である。
2974
2975 申告納税方式
2976 - 21 -
2977
2978 において、
2979 納税義務者の側から当初申告の内容につき修正を求める場合の手続には、
2980 更正の請
2981 求と修正申告があるが、
2982 その区別ができているかどうかを確認する。
2983
2984 国税通則法第23条に従
2985 って解答すれば足りる平易な問題であるが、
2986 受験者の中には上記の点を混同している者がいる
2987 かもしれないと考え出題することとしたものである。
2988
2989
2990 〔第2問〕
2991 第2問は、
2992 法人税法を中心に、
2993 事実関係を分析・処理する能力を問う出題である。
2994
2995 本問の個
2996 々の論点は、
2997 基本的なものが中心であるが、
2998 それらが事実関係の中に組み込まれたときに適切
2999 に把握して論述できるかがポイントとなる。
3000
3001
3002 設問1は、
3003 法人への遺贈について、
3004 遺贈を受けた法人の受贈益課税(小問)、
3005 無償により
3006 譲り受けた資産の取得価額(小問)、
3007 遺贈した個人のみなし譲渡所得課税(小問)を問う
3008 ものである。
3009
3010 いずれも基本的な論点であるが、
3011 小問の処理には、
3012 キャピタルゲインに対する
3013 課税における取得費ないし取得価額の機能についての着実な理解が求められる。
3014
3015 法科大学院の
3016 「租税法」において、
3017 個々の条文の正確な理解はもとより、
3018 それらの条文を支える理論的基礎
3019 についても確実に学習がなされていることを期待した出題である。
3020
3021
3022 設問2では、
3023 第1に、
3024 遺留分侵害額の請求に応じたことにより法人から財産が流出したこと
3025 を法人税法のどの条文で認識するのか(同法第22条第3項第3号の「損失」となる)、
3026 それ
3027 がどの課税年度に帰属するか、
3028 を論じることが求められる。
3029
3030 遺留分侵害については、
3031 本問が平
3032 成30年相続法改正(遺留分の金銭債権化)後の事案であることを踏まえた処理を期待してい
3033 る。
3034
3035 その上で、
3036 第2の要素として、
3037 無償で譲り受けた乙土地を譲渡したことが代物弁済に当た
3038 り、
3039 債務の消滅を伴う有償による資産の譲渡に該当することを踏まえた処理ができるかを問う
3040 ている。
3041
3042 第1の要素と併せて、
3043 法人税法が益金と損金それぞれを算定する構造となっているこ
3044 とを踏まえた解答が求められている。
3045
3046
3047 設問3では、
3048 まず、
3049 法人税法第22条第2項により無償による役務の提供から益金が生じ
3050 るという典型論点を、
3051 無償で不動産を利用させるという法律関係から読み取れるか、
3052 というや
3053 や応用的な力を問うている。
3054
3055 その上で、
3056 法人とその代表取締役の関係に着目して、
3057 この無償利
3058 用が法人税法上の役員給与に当たることを踏まえて、
3059 その損金算入要件について条文に則して
3060 論じればよい。
3061
3062 なお、
3063 法人税法第34条は一定の要件を満たす役員給与を除いて「損金算入を
3064 否定する」別段の定めであり、
3065 役員給与の損金算入の根拠規定は同法第22条3項2号の「費
3066 用」であることに注意されたい。
3067
3068
3069 設問3は、
3070 ある経済的利益が給与所得に該当する際の「給与等の支払」を行う者の所得税
3071 の源泉徴収義務について、
3072 基本的な知識を確認する問題である。
3073
3074
3075 [経済法]
3076 〔第1問〕
3077 本問は、
3078 業務用検査装置である甲装置とそれに組み込んで使用される乙機器を製造するX社
3079 とY社が、
3080 首位のZ社に対抗する上で甲装置や乙機器の製造コストの低減が重要であると考え
3081 て立案している業務提携及び企業結合の各計画について、
3082 私的独占の禁止及び公正取引の確保
3083 に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3084
3085 )上の問題点を分析して検討し、
3086 問題があると判
3087 断される場合には当該問題を解消するために必要と考えられる措置(以下「問題解消措置」と
3088 いう。
3089
3090 )を具体的に提示することを求めるものである。
3091
3092
3093 設問では、
3094 X社とY社が甲装置のうち大型甲と小型甲のそれぞれの製造に特化して、
3095 相互
3096 に他方に供給するという製造受委託(OEM)契約を締結する計画について、
3097 不当な取引制限
3098 (独占禁止法第2条第6項、
3099 第3条)の観点から検討することになる。
3100
3101 また、
3102 設問では、
3103 X
3104 社とY社それぞれの乙機器の製造部門を共同新設分割により切り出して共同製造子会社S社を
3105 - 22 -
3106
3107 設立する計画について、
3108 共同新設分割の方法による企業結合(独占禁止法第15条の2第1項
3109 第1号)の観点から検討することになる。
3110
3111 本問はそれぞれの計画について独立して検討するも
3112 のであり、
3113 このような出題形式は過去にもみられたが、
3114 独占禁止法の実体規定全般にわたる体
3115 系的な理解を確認しようとしている。
3116
3117 いずれの設問においても、
3118 行為要件として検討すべき重
3119 要な事項は少なく、
3120 効果要件の分析・論述が大宗を占めることになる。
3121
3122
3123 競争事業者間のOEM契約のような業務提携は、
3124 同じ不当な取引制限の問題として検討され
3125 るものであっても、
3126 いわゆるハードコアカルテルと評価される類型とは異なり、
3127 それがもたら
3128 し得る効率性の改善等の競争促進効果と競争制限効果を比較衡量してその適法性が判断され
3129 る。
3130
3131 また、
3132 競争事業者間の企業結合と業務提携には、
3133 当該事業者にとっては選択肢として代替
3134 的な面があり、
3135 その市場競争に及ぼし得る効果についても類似する点が多く、
3136 その分析方法は
3137 相当程度共通している。
3138
3139
3140 そして、
3141 設問上明らかなとおり、
3142 本問は計画を立案している段階(事前段階)で検討するも
3143 のであり、
3144 効果要件は実質的に共通する。
3145
3146 すなわち、
3147 「一定の取引分野」(市場)を画定し、
3148 当
3149 該市場ごとに「競争を実質的に制限する(こととなる)」か否かを検討することになる。
3150
3151 それ
3152 ぞれの意義や判断基準を示しつつ、
3153 問題文に示された事実関係を丁寧に当てはめ、
3154 それぞれの
3155 計画の独占禁止法上の問題点の有無を検討するとともに、
3156 必要に応じ問題解消措置を具体的に
3157 提示することが求められる。
3158
3159
3160 なお、
3161 不当な取引制限として検討するに当たっては、
3162 「公共の利益に反して」要件の取扱い
3163 が問題となり得るが、
3164 競争の実質的制限要件の判断の一環として総合的に検討することで足り
3165 ると考えられる。
3166
3167
3168 次に、
3169 設問と設問に共通する「一定の取引分野」と「競争の実質的制限(の蓋然性)」
3170 について説明する。
3171
3172 本問では、
3173 甲装置とその中核となる乙機器という二つの商品が関わってお
3174 り、
3175 各計画を検討する際に、
3176 どの範囲の市場に着目するかを判断することが必要になる。
3177
3178 その
3179 際には、
3180 市場画定の要素(典型的には商品範囲及び地理的範囲)と市場画定の方法(代替性の
3181 検討等)を論じた上で、
3182 問題文に示された事実関係を丁寧に拾い上げ、
3183 計画ごとに検討対象と
3184 なる市場を画定することになる。
3185
3186
3187 特に、
3188 甲装置には大型甲と小型甲があるところ、
3189 両者間の需要面の代替性や供給面の代替性
3190 に関わる事実が示されており、
3191 これらを的確に当てはめて適切な市場を画定することが求めら
3192 れる。
3193
3194 また、
3195 設問は、
3196 乙機器に係る共同製造子会社を設立する計画であるが、
3197 本計画が、
3198 乙
3199 機器の市場のみならず、
3200 乙機器を組み込んで製造される甲装置の市場にも影響を及ぼすことに
3201 留意する必要がある。
3202
3203 一つの企業結合について水平型及び垂直型の両面からの検討を求める点
3204 で、
3205 設問は応用的なものといえよう。
3206
3207
3208 画定された「一定の取引分野」(市場)ごとに、
3209 各計画が実施された場合に生じ得る競争制
3210 限効果を分析し、
3211 競争制限効果が生じ得る場合には更に競争促進効果を併せ総合的に考慮して、
3212
3213 競争の実質的制限がもたらされる蓋然性があるか否かを判断することになる。
3214
3215 その際には、
3216 競
3217 争の実質的制限(の蓋然性)についての解釈を示した上で、
3218 その判断方法や考慮要素を示すこ
3219 とが求められる。
3220
3221
3222 競争事業者間の業務提携又は企業結合の計画であり、
3223 水平的な競争制限効果が考えられ、
3224 単
3225 独行動による効果、
3226 協調的行動による効果の両面から検討することになる。
3227
3228 また、
3229 設問では、
3230
3231 乙機器と甲装置という川上・川下の関係にある市場が関わっており、
3232 垂直型企業結合として市
3233 場の閉鎖性・排他性の観点からの問題も生じることが考えられる。
3234
3235
3236 独占禁止法上の問題がある計画については、
3237 問題解消措置を具体的に提示することが求めら
3238 れている。
3239
3240 問題解消措置は、
3241 関係事業者ないし当事会社の事業活動を過度に制限・制約しない
3242 ようにしつつ、
3243 当該計画が有する独占禁止法上の問題を解消するに足るものであることが必要
3244 である。
3245
3246 論述に当たっては、
3247 指摘した独占禁止法上の問題を解消する上で当該措置がなぜ必要
3248
3249 - 23 -
3250
3251 になるのか、
3252 あるいは有効であるのかを説得的に示すことが期待される。
3253
3254
3255 問題解消措置について、
3256 公正取引委員会の企業結合ガイドラインでは構造的措置が原則であ
3257 る旨明記されているが、
3258 実務上は行動的措置が多用されており、
3259 特に垂直型企業結合では行動
3260 的措置が有効であることもある。
3261
3262 本問では、
3263 両計画とも、
3264 甲装置の販売活動をX社及びY社が
3265 それぞれ独立して行うことが前提であることから、
3266 両社間の販売面の競争を維持するための情
3267 報遮断措置が重要な意味を持つと考えられる。
3268
3269
3270 次に、
3271 設問ごとに、
3272 出題の趣旨を具体的に説明する。
3273
3274
3275 設問では、
3276 X社とY社の間で大型甲と小型甲の相互OEM供給が計画されている。
3277
3278 契約ベ
3279 ースによる、
3280 実質的な共同生産ともいえ、
3281 独占禁止法上は不当な取引制限の問題となる。
3282
3283 X社
3284 とY社の合意により計画・実施されるものであるから、
3285 「他の事業者と共同して」「事業活動を
3286 …拘束する」合意となることは明らかであるが、
3287 両社にとって制限内容が異なるともいえ(X
3288 社は小型甲の製造をやめてY社から供給を受け、
3289 逆に、
3290 Y社は大型甲の製造をやめてX社から
3291 供給を受けることとなる。
3292
3293 )、
3294 不当な取引制限の行為要件との関係について論述することが適切
3295 である。
3296
3297
3298 甲装置のうち大型甲市場には3社のみが存在し、
3299 特にX社とZ社の複占に近い市場であり、
3300
3301 Z社にはかなりの製造余力があるものの、
3302 X社とY社の協調を前提とすれば合算して60パー
3303 セントのシェアを有することになる。
3304
3305 これに対し、
3306 小型甲市場にはシェア首位で製造余力があ
3307 るZ社に加えて独自の技術を有するW社があり、
3308 シェアの異なる4社が競争しており、
3309 X社と
3310 Y社の協調を前提としても合算40パーセントのシェアを有することとなるにとどまる。
3311
3312 この
3313 ように、
3314 大型甲市場と小型甲市場では競争状況がかなり異なることに留意する必要がある。
3315
3316
3317 また、
3318 大型甲と小型甲の需要者向け販売価格に占める供給価格(調達価格)の割合が8割程
3319 度に達すると見込まれており、
3320 販売コストの共通化の割合が高いことが重要である。
3321
3322 そして、
3323
3324 計画では、
3325 それぞれ全量OEM供給を受けることとされているが、
3326 全量供給でないと両社にと
3327 って意味がないというものでもないと考えられ(問題文にY社の大型甲の製造設備に関する情
3328 報が示されている。
3329
3330 )、
3331 独占禁止法上の問題がある場合には、
3332 中間的な計画(部分的なOEM供
3333 給)に修正することの可能性を検討することが考えられる。
3334
3335
3336 また、
3337 計画では、
3338 X社とY社は引き続き甲装置の販売をそれぞれ独立して行うことが前提で
3339 あり、
3340 その前提が損なわれることとならないか、
3341 そのおそれがある場合にどのような措置が有
3342 効ないしは必要であるかを検討することとなる。
3343
3344
3345 設問では、
3346 X社とY社が、
3347 それぞれの乙機器製造部門を切り出して共同製造子会社S社を
3348 設立する計画であり、
3349 S社が製造販売することとなる乙機器の市場はもとより、
3350 S社から乙機
3351 器の供給を受けてX社及びY社が製造する甲装置の市場(実際には大型甲の市場と小型甲の市
3352 場に分かれると考えられる。
3353
3354 )にも影響が生じることとなる。
3355
3356
3357 X社及びY社としては、
3358 Z社に比べて乙機器の製造コスト面で不利な状況にあることから、
3359
3360 共同製造子会社としてS社を設立するものであり、
3361 甲装置の製造販売はそれぞれが独立して行
3362 うものである。
3363
3364 乙機器や甲装置の市場における競争が制限されないようにしつつ、
3365 乙機器の製
3366 造コストの引下げが実現できるようにすることが望ましい。
3367
3368
3369 本計画が実施されると、
3370 乙機器についてはS社とZ社を供給者、
3371 W社を需要者とする市場と
3372 なり、
3373 S社が高いシェアを有することになると想定されるが、
3374 S社やZ社には乙機器の製造余
3375 力があり、
3376 かつ、
3377 乙機器の製造コストの節減を図る観点からW社に乙機器を供給する意欲もあ
3378 ると考えられる。
3379
3380 また、
3381 W社は中期的には乙機器を自ら製造することが可能である。
3382
3383
3384 他方、
3385 甲装置については、
3386 前述したように、
3387 大型甲市場と小型甲市場では競争状況がかなり
3388 異なっており、
3389 本計画の水平的側面に関しては、
3390 それぞれの市場の特徴(両社の合算シェア、
3391
3392 Z社の製造余力、
3393 小型甲市場におけるW社の存在等)を踏まえつつ、
3394 S社から製造コストベー
3395 スで乙機器の供給を受けることになるX社とY社がどのように競争することとなるかを具体的
3396
3397 - 24 -
3398
3399 な事実関係を基に丁寧に分析することが求められる。
3400
3401 この分析では、
3402 S社から供給を受ける乙
3403 機器の調達コストが共通化することについても、
3404 その割合を含めて評価することになる。
3405
3406
3407 特に、
3408 小型甲については本計画の垂直的側面が重要であり、
3409 小型甲のみを製造するW社は、
3410
3411 S社からの乙機器の供給に大きく依存することとなり、
3412 乙機器の供給制限や価格上昇のおそれ
3413 が出てくることから、
3414 S社がこうした投入物閉鎖を行う能力やインセンティブを有するか、
3415 Z
3416 社が製造余力を有するかといった事情を考慮することになる。
3417
3418 この観点から問題があると判断
3419 される場合には、
3420 W社に対する乙機器の供給を確保するための措置を講じることが考えられる。
3421
3422
3423 また、
3424 S社からW社に対する乙機器の供給価格等に関する秘密情報をW社の競争者であるX社
3425 及びY社が入手できる立場になり、
3426 協調的行動につながるおそれがあることについても検討す
3427 る必要がある。
3428
3429
3430 また、
3431 X社とY社は引き続き甲装置の製造販売をそれぞれ独立して行うことが前提であり、
3432
3433 本計画のままではその前提が損なわれることとならないか、
3434 そのおそれがある場合にどのよう
3435 な措置が有効ないしは必要であるかを検討することになる。
3436
3437
3438 〔第2問〕
3439 第2問は、
3440 甲機械の有力なリース事業者4社(以下「リース4社」という。
3441
3442 )が、
3443 リースを
3444 希望する需要者に対して自ら直接リースを行うこと(以下「直接リース」という。
3445
3446 )を始めた
3447 甲機械のメーカー2社に対して甲機械の供給を受けることを拒絶した行為(以下「本件行為」
3448 という。
3449
3450 )について、
3451 独占禁止法上の問題点を分析して検討することを求めるものである。
3452
3453 不
3454 公正な取引方法のうちの取引拒絶に関する実体規定全体の体系的な理解を踏まえて、
3455 本件行為
3456 が、
3457 どの規定の行為要件を満たすか、
3458 また、
3459 どこの市場(取引の場)にいかなる機序によりど
3460 のような競争阻害効果をもたらすか、
3461 併せて、
3462 当該競争阻害効果を打ち消し又は上回るような
3463 正当化事由が認められるかについて、
3464 当該規定の各要件のあるべき解釈を示した上で、
3465 本問の
3466 事実関係を的確に挙げて分析し、
3467 検討することを要する。
3468
3469
3470 取引拒絶の事例解析では、
3471 行為主体が、
3472 競争者間で共同して行っているかどうか、
3473 直接に行
3474 っているか間接的にさせているか、
3475 検討対象行為が供給の拒絶なのか供給を受けることの拒絶
3476 なのかを識別することが重要なポイントになる。
3477
3478 本件行為については、
3479 リース4社間での合意
3480 を明示合意と評価するか暗黙合意と評価するかは置くとして、
3481 独占禁止法第2条第9項第6号
3482 ・不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。
3483
3484 )第1項第1号の「共同・直接・
3485 供給を受けることの拒絶」として検討することが期待される。
3486
3487 また、
3488 リース4社による「共同
3489 ・間接・供給拒絶」(独占禁止法第2条第9項第1号ロ)や、
3490 リース3社による明示若しくは
3491 暗黙の合意に基づく一般指定第1項第1号該当行為とD社による一般指定第2項該当行為が一
3492 体となったもの等としての検討もあり得ると考えられる。
3493
3494 例えば、
3495 本件行為をリース4社によ
3496 る共同・間接・供給拒絶として検討する場合には、
3497 リース4社がメーカー2社に、
3498 需要者に対
3499 して直接リースを今後行わないように申し入れたこと、
3500 その実効確保のために直接リースを今
3501 後も行うメーカーからは甲機械を購入しないことを併せて申し入れたことなど問題文に示され
3502 る諸事実を丁寧かつ的確に挙げて、
3503 本件行為をリース4社がメーカー2社に直接リースの供給
3504 を拒絶させるものであると明確に把握・識別して論じることが求められよう。
3505
3506 このように、
3507 本
3508 件行為に適用すべき規定として一般指定第1項第1号以外を選択した場合には、
3509 それぞれの条
3510 文に定める各要件に即して本問の事実関係を丁寧に挙げて、
3511 その要件該当性について論じるこ
3512 とが求められる。
3513
3514
3515 本件行為をリース4社による一般指定第1項第1号該当行為として検討する場合、
3516 まず、
3517 行
3518 為要件に関しては、
3519 競争関係にあるリース4社が「共同して」行っていると認定する必要があ
3520 る。
3521
3522 「共同して」に該当するためには、
3523 行為主体の間に当該取引拒絶行為を行うことについて
3524 意思の連絡が求められるところ、
3525 事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく、
3526
3527
3528 - 25 -
3529
3530 「他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれ
3531 と歩調をそろえる意思があれば足りる」(エイベックス・マーケティング鰍ルか3名審決取消
3532 請求事件東京高判平成22年1月29日、
3533 東芝ケミカル審決取消請求事件東京高判平成7年9
3534 月25日)。
3535
3536 この点を明らかにした上で、
3537 リース4社間での事前の情報交換、
3538 その内容及び事
3539 後行為の一致など本問の事実関係を挙げつつ、
3540 本件行為の共同性要件への該当性を論じること
3541 が必要になる。
3542
3543 特にD社については、
3544 問題文に示された具体的な事実関係に即して、
3545 リース3
3546 社とは別個に、
3547 意思の連絡の存否(暗黙合意参加)を検討することがより適切である。
3548
3549
3550 次に、
3551 本件行為に「公正な競争を阻害するおそれ」(独占禁止法第2条第9項第6号柱書)
3552 という公正競争阻害性が認められるか否かを検討することが求められる。
3553
3554 公正競争阻害性とは
3555 競争の実質的制限に至らない程度の競争阻害を意味すること、
3556 一般指定第1項第1号に定める
3557 「正当な理由がないのに」の文言が公正競争阻害性を意味し、
3558 自由競争減殺の観点から価格維
3559 持(競争回避)又は市場閉鎖(競争者排除)による競争阻害効果が必要であることを明らかに
3560 した上で、
3561 前提となる市場の画定及び競争(市場)分析を行う必要がある。
3562
3563 具体的には、
3564 まず、
3565
3566 自由競争減殺の観点から分析する前提として検討対象市場を画定する意義とその画定方法を簡
3567 潔に明らかにした上で、
3568 本問の事実関係に即して検討対象市場を「我が国における甲機械のリ
3569 ース取引市場」として画定することが考えられる。
3570
3571
3572 その上で、
3573 国内の甲機械購入数量において相当のシェアを有するリース4社が共同して、
3574 直
3575 接リースを行うメーカーからの甲機械の購入を一斉に拒絶するという取引上の圧力を掛けるこ
3576 とにより、
3577 メーカー2社が上記の検討対象市場への参入を断念せざるを得ない状況になってい
3578 ること(参入阻止の意味での市場閉鎖効果の発生)など検討対象市場における競争の状況及び
3579 本件行為が当該競争にもたらす影響を示す諸事実を挙げつつ、
3580 本件行為が当該市場に、
3581 どのよ
3582 うな機序に基づいて、
3583 いかなる競争阻害効果を発生させ得るかについて分析・検討を行うこと
3584 が重要である。
3585
3586
3587 なお、
3588 行為の共同性に鑑みて本件行為のような共同の取引拒絶については、
3589 原則違法の類型
3590 に当たるとする立場もあり得ると考えられる。
3591
3592 しかし、
3593 その場合も単に結論のみを記すのでは
3594 なく、
3595 一般指定第1項第1号の「正当な理由がないのに」の文言の適切な解釈を示しつつ、
3596 例
3597 えば、
3598 共同の取引拒絶が、
3599 事業者間競争が成立する前提となる市場参入の自由を明白かつ著し
3600 く侵害するものであって、
3601 また実際に、
3602 被拒絶者が当該市場から排除されて、
3603 市場の競争機能
3604 への悪影響(自由競争減殺)が生じていることなど、
3605 本件行為を原則違法として取り扱うべき
3606 理由・根拠を的確に示し、
3607 あるいは本問の事実関係に即してその当てはめ等を的確に論じてお
3608 くことが重要である。
3609
3610
3611 さらに、
3612 問題文に示されたリース4社の言い分が、
3613 上記の競争阻害効果と並んで考慮される
3614 べき正当化事由として成り立ち得るかについても検討することが求められる。
3615
3616 そもそも客観的
3617 データや資料等の裏付けのないリース4社の言い分のみから本件行為が正当化される余地は乏
3618 しいとも考えられるが、
3619 いずれにせよ、
3620 正当化事由の存否は、
3621 検討対象行為の目的の合理性及
3622 び当該目的達成のための手段の相当性の観点から評価されることを明らかにした上で、
3623 本問の
3624 事実関係に即して具体的に論じることが求められる。
3625
3626
3627 本件行為のような共同の取引拒絶については、
3628 独占禁止法第19条で禁止される不公正な取
3629 引方法として検討するほか、
3630 事業者間での「通謀」に基づく排除型私的独占(独占禁止法第2
3631 条第5項、
3632 第3条前段)や「他の事業者と共同して」行う不当な取引制限(同法第2条第6項、
3633
3634 第3条後段)への該当性を予備的に検討することも考えられる。
3635
3636 しかし、
3637 そのような場合には、
3638
3639 甲機械のリース取引におけるリース4社の合算シェアや、
3640 問題文に示される「他のリース業者
3641 も多数存在し、
3642 競争は活発に行われている」(第3段落3行目以下)という上記の検討対象市
3643 場における競争の状況を示す諸事実を丁寧に挙げて、
3644 特に市場効果要件について的確に論じる
3645 ことが求められる。
3646
3647
3648
3649 - 26 -
3650
3651 [知的財産法]
3652 〔第1問〕
3653 1
3654
3655 設問1は、
3656 発明者の認定、
3657 発明者名誉権に基づく補正手続請求、
3658 設問1は、
3659 職務発明
3660 に係る相当利益請求権の消滅時効を問うものである。
3661
3662 設問2は、
3663 取消判決の拘束力、
3664 設問
3665 2は、
3666 用途発明における顕著な効果の判断を問うものである。
3667
3668 設問3は、
3669 用途発明に係る
3670 特許権の効力を問うものである。
3671
3672
3673
3674 2
3675
3676 設問1については、
3677 まずBが本件発明の発明者といえるかを検討する必要がある。
3678
3679 その際
3680 には、
3681 本件発明が用途発明であって、
3682 効果の検証が発明の重要な要素となることを踏まえ、
3683
3684 Bが本件発明の技術的思想の創作に関与したといえるか否かを論じることが求められる。
3685
3686
3687 設問1については、
3688 特許法に直接の規定はないものの、
3689 発明者には人格権としての発明
3690 者名誉権が認められることを指摘した上で、
3691 Bが、
3692 Xに対して、
3693 願書の発明者名を訂正する
3694 補正手続(特許法(以下「法」という。
3695
3696 )第17条第1項)請求を行うことができるか否か
3697 について検討することが求められる(大阪地判平成14年5月23日判時1825号116
3698 頁【希土類の回収方法事件】参照)。
3699
3700
3701 設問1については、
3702 本件発明がXの職務発明(法第35条第1項)に該当すること、
3703 職
3704 務発明に係る相当利益請求権(同条第4項)が法定債権であり、
3705 消滅時効期間が5年又は1
3706 0年となること(民法第166条第1項)、
3707 Xの職務発明規程にはXが特許権を取得した時
3708 に一括して補償金を支払う旨の定めがあり、
3709 当該支払時期が到来するまでBの権利行使につ
3710 き法律上の障害があるため、
3711 当該支払時期が消滅時効の起算点となること(最判平成15年
3712 4月22日民集57巻4号477頁【オリンパス事件】参照)を指摘した上で、
3713 設問の事実
3714 関係の下で、
3715 Bの相当利益請求権について消滅時効期間が経過しているか否かを検討するこ
3716 とが求められる。
3717
3718
3719
3720 3
3721
3722 設問2については、
3723 取消判決の拘束力(行政事件訴訟法第33条第1項)が「判決主文
3724 が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に及ぶこと、
3725 取消判決の拘束力に従って
3726 した審決はその限りで適法であり、
3727 再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはで
3728 きないこと(最判平成4年4月28日民集46巻4号245頁【高速旋回式バレル研磨法事
3729 件】参照)、
3730 進歩性(法第29条第2項)の判断では、
3731 構成の容易想到性に加えて、
3732 予測し
3733 得ない顕著な効果が考慮されることを指摘した上で、
3734 設例の事実関係の下で、
3735 第一次取消判
3736 決の拘束力が本件発明に係る進歩性の判断全体に及ぶのか、
3737 それとも、
3738 用途(予防剤への適
3739 用)の容易想到性の判断にのみ及び、
3740 効果の顕著性の判断には及ばないと解すべきかを具体
3741 的に論述することが求められる。
3742
3743
3744 設問2については、
3745 予測し得ない効果の顕著性は、
3746 特許発明以外の発明との比較のみで
3747 決するべきではなく、
3748 特許発明の効果が奏するものとして予測される効果との比較により決
3749 するべきと判示した最判令和元年8月27日判時2446号37頁【アレルギー性眼疾患用
3750 処方物事件】を踏まえ、
3751 X及びCの主張の当否について具体的に論述することが求められる。
3752
3753
3754
3755 4
3756
3757 設問3については、
3758 本件発明が用途発明であり、
3759 本件発明に係る特許権の効力がαを有効
3760 成分とする予防剤の製造、
3761 譲渡等にのみ及ぶこと(知財高判平成28年7月28日(平成2
3762 8年(ネ)10023号)【メニエール病治療薬事件】参照)を指摘した上で、
3763 D製剤の添
3764 付文書に治療剤としての用途と予防剤としての用途が併記されていることを踏まえ、
3765 D製剤
3766 の販売が本件発明の実施(法第68条、
3767 法第2条第3項第1号)に該当するか否か、
3768 該当す
3769 るとした場合には、
3770 D製剤の販売の差止め(法第100条第1項)及び廃棄(同条第2項)
3771 を認めるべきか否かについて具体的に検討することが求められる(東京地判平成4年10月
3772 23日判時1469号139頁【アレルギー性喘息予防剤事件】参照)。
3773
3774 また、
3775 差止請求の
3776 検討においては、
3777 D製剤が治療剤としても使用可能なものであることから、
3778 D製剤の販売の
3779 - 27 -
3780
3781 差止めが過剰差止めとならないか否かが考慮されるべきであり、
3782 廃棄請求の検討においては、
3783
3784 最判平成11年7月16日民集53巻6号957頁【生理活性物質測定法事件】を踏まえ、
3785
3786 D製剤の廃棄が、
3787 「差止請求権の行使を実効あらしめるものであって差止請求権の実現のた
3788 めに必要な範囲内のものである」か否かを検討されるべきである。
3789
3790
3791 〔第2問〕
3792 1
3793
3794 設問1及び設問2は、
3795 著作物性、
3796 問題となる著作権法上の権利及びその侵害の成否、
3797 並び
3798 に侵害が肯定された場合の適切な救済について、
3799 それぞれ異なる観点から理解を問うもので
3800 ある。
3801
3802 設問3は、
3803 著作物の享受を目的としない利用行為やそれに関連してなされる行為が著
3804 作権法上どのように評価されるかについての理解を問うものである。
3805
3806
3807
3808 2
3809
3810 設問1については、
3811 X映像1とX映像2のどの部分に創作性が認められ、
3812 保護範囲にど
3813 のような差異が生ずるかについて検討し、
3814 後者の方が設問の訴訟において著作物性(著作権
3815 法(以下「法」という。
3816
3817 )第2条第1項第1号)及び類似性が認められる可能性が高いこと
3818 を示す必要がある。
3819
3820
3821
3822 3
3823
3824 設問1については、
3825 Z図鑑1及びZ図鑑2の作成に関して複製権(法第21条)侵害が、
3826
3827 Z図鑑1の販売に関して譲渡権(法第26条の2第1項)侵害が、
3828 Z図鑑2の販売に関して
3829 は、
3830 譲渡権侵害に加え頒布権(法第26条第1項)侵害が問題となることを指摘した上で、
3831
3832 救済として、
3833 差止請求(法第112条第1項)及び廃棄請求(同条第2項)の具体的な内容
3834 について論述する必要がある。
3835
3836 このほか、
3837 損害賠償請求(民法第709条)についても言及
3838 する必要がある。
3839
3840
3841 次に、
3842 上記の請求の妥当性の問題として、
3843 とりわけZ画像において、
3844 X映像2の創作的表
3845 現が維持されているかを検討する必要がある。
3846
3847 また、
3848 権利侵害に係る部分の分離可能性等を
3849 考慮して、
3850 差止めや廃棄の適切な範囲についても論ずることが求められる。
3851
3852
3853
3854 4
3855
3856 設問2については、
3857 Xが主張すべき著作者人格権として、
3858 氏名表示権(法第19条第1
3859 項)及び同一性保持権(法第20条第1項)を、
3860 著作権として、
3861 複製権(法第21条)及び
3862 公衆送信権(法第23条第1項)を挙げる必要がある。
3863
3864
3865
3866 5
3867
3868 設問2については、
3869 まずにおいて特定した権利との関係で可能な救済として、
3870 差止請
3871 求(法第112条第1項)、
3872 廃棄請求(同条第2項)、
3873 名誉回復等措置請求(法第115条)
3874 及び損害賠償請求(民法第709条)について指摘する必要がある。
3875
3876 これらのうち、
3877 損害賠
3878 償請求を除く各請求については、
3879 Yに求める作為や不作為の内容を具体的に論述することが
3880 求められる。
3881
3882
3883 次に、
3884 Xの請求の妥当性を検討する際に、
3885 同一の撮影方法を用いて撮影した素材から、
3886 類
3887 似の取捨選択方針に基づいて作成されたY映像において、
3888 X映像2の創作的表現が維持され
3889 ているかについて具体的に論述する必要がある。
3890
3891 氏名表示権侵害については、
3892 「協力者」と
3893 してXの氏名を表示することが著作者名の表示に当たらない点を指摘する必要がある。
3894
3895 さら
3896 に、
3897 救済の妥当性について、
3898 Y映像の将来の放送の差止め(法第112条第1項)の必要性
3899 や、
3900 Y映像を記録した媒体の廃棄(同条第2項)の必要性が認められるか等についても検討
3901 する必要がある。
3902
3903
3904
3905 6
3906
3907 設問3については、
3908 タブレットへの記録が複製(法第2条第1項第15号)に、
3909 犬にタ
3910 ブレットで映像を再生して見せる行為が上映(同項第17号)にそれぞれ該当することを指
3911 摘し、
3912 これらに関係する支分権の侵害に当たらないとYが判断した根拠を挙げる必要がある。
3913
3914
3915 より具体的には、
3916 複製権(法第21条)との関係では法第30条の4を、
3917 上映権(法第22
3918 条の2)との関係では「公に」の要件を満たさないことを、
3919 それぞれ指摘する必要がある。
3920
3921
3922
3923 7
3924
3925 設問3については、
3926 の解答を踏まえ、
3927 設問の事実関係の下で、
3928 Yの各行為が複製権や
3929 上映権を侵害するといえるかについて具体的に述べる必要がある。
3930
3931 上映権との関係では、
3932 結
3933
3934 - 28 -
3935
3936 果的にX映像2のすべてを見た3名の飼い主がいたことをもって、
3937 著作物を「公に上映」
3938 (法
3939 第22条の2)したといえるかにつき検討する必要がある。
3940
3941 その上で、
3942 法第30条の4に該
3943 当するか否かについて、
3944 自らの見解を説得的に述べる必要がある。
3945
3946 複製権については、
3947 複製
3948 物の目的外使用(法第49条第1項第2号)の可能性についても検討することが望ましい。
3949
3950
3951 [労働法]
3952 〔第1問〕
3953 本問は、
3954 私傷病(業務に起因する傷病以外の傷病)を理由として就業規則に定められた休
3955 職制度により休職命令を受けた労働者が、
3956 同制度上の休職期間を経ても十分には回復しなか
3957 ったため、
3958 直ちに原職に復職することは困難と判断した会社が復職命令をせず、
3959 就業規則の
3960 規定により当該労働者を自然退職したものとしたという事例を素材として、
3961 これに関連する
3962 法律上の論点を挙げて検討し、
3963 見解を述べることを求めるものであり、
3964 当該雇用関係の終了
3965 に適用され得る規律及びそれに関連する判例・裁判例等の正確な理解と、
3966 それらから導き出
3967 される労働法規範に対し、
3968 本件の具体的な事実から関係する事実を的確に拾い上げて当ては
3969 め、
3970 評価する能力を問うものである。
3971
3972
3973 本問は、
3974 当該労働者の主治医及び会社の産業医のいずれもが症状の改善は不十分であり無
3975 条件では原職の複雑な業務の遂行は困難とする一方で、
3976 労働者本人は復職を望んでいるとい
3977 う設例を基礎として、
3978 設問1及び2において、
3979 会社(Y社)の対応及びXの意向の点で異な
3980 る事実関係をそれぞれ付加し、
3981 それぞれの事例におけるXの請求の当否を問うものである。
3982
3983
3984 このうち設問1は、
3985 Xが原職での復職を強く希望し、
3986 それ以外の形での復職を拒否したこ
3987 とから、
3988 Y社が、
3989 そうしたXの意思を踏まえ、
3990 就業規則に基づき、
3991 休職期間の満了をもって
3992 Xを自然退職したものとしたことの適否等を問うものである。
3993
3994
3995 本問においては、
3996 まず、
3997 Y社が休職期間の満了をもってXを自然退職したものとすること
3998 ができる法的根拠を明らかにする必要があろう。
3999
4000 すなわち、
4001 私傷病による就労不能は、
4002 労働
4003 契約上の債務の本旨に従った労務の提供ができない状態であり、
4004 解雇理由となり得るところ、
4005
4006 就業規則により休職制度が設けられていることによって、
4007 休職の間は解雇が猶予され、
4008 その
4009 後復職が可能となり復職命令がなされれば退職の効果は発生しないが、
4010 猶予期間を経ても復
4011 職ができないときは、
4012 労働者は退職することとなる。
4013
4014 このような休職及び休職期間の経過に
4015 よる自然退職は、
4016 法令には規定がなく、
4017 前記のY社の就業規則の関連規定の内容が合理的で
4018 ありかつ労働者に周知されていた場合にY社とXとの間の労働契約の内容となるから(労働
4019 契約法7条本文)、
4020 まず、
4021 これらの点を指摘し、
4022 論ずることが、
4023 最初の論述のポイントとなる。
4024
4025
4026 次に、
4027 就業規則第35条による自然退職がY社とXの間の労働契約の内容になっているこ
4028 とを前提に、
4029 Xが同条の「復職することができないとき」に当たるかを検討することとなる
4030 が、
4031 ここにいう「復職」できる状態は、
4032 原則として、
4033 当該労働者の従前の(休職前の)職務
4034 を通常程度行える健康状態をいうものであることを指摘しておく必要があろう。
4035
4036 本問の事例
4037 においては、
4038 前記の主治医及び産業医の診断内容等によれば、
4039 その状態にないことが認めら
4040 れるから、
4041 その上でさらに、
4042 従前の職務以外の職務での復帰の余地があるかどうかを論じる
4043 こととなる。
4044
4045 ここで、
4046 判例(片山組事件・最判平成10年4月9日労判736号15頁)は、
4047
4048 労働契約上その職種や業務内容が限定されていたとはいえず、
4049 従前の業務以外の労務の提供
4050 は可能であり、
4051 かつ、
4052 労働者がその提供を申し出ていたときには、
4053 当該労働者の能力、
4054 経験、
4055
4056 地位、
4057 会社の規模、
4058 業種、
4059 労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らし、
4060 当該労働者が配
4061 置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討した上でなけれ
4062 ば、
4063 債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできない旨の判断を
4064 示している。
4065
4066 この判例は、
4067 賃金請求権の存否が争われた事案であるが、
4068 その後の裁判例にお
4069 いては、
4070 その判断枠組みが自然退職の適法性が争われる事案にも広く用いられている(東海
4071 - 29 -
4072
4073 旅客鉄道事件・大阪地判平成11年10月4日労判771号25頁等)ことから、
4074 本問にお
4075 いても、
4076 この判例の考え方が当てはまるかを検討した上で、
4077 導き出される規範について、
4078 本
4079 問の事実関係を的確に当てはめ、
4080 事例についての結論を導いていくこととなろう。
4081
4082 その際は、
4083
4084 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)において、
4085 事業主が雇用
4086 する障害者である労働者についてはその障害の特性に配慮した措置を講じなければならない
4087 旨が規定されており、
4088 同法の趣旨から使用者において労働者の復職の可否を判断するに当た
4089 って合理的な配慮をすることを求める裁判例もある(日本電気事件・東京地判平成27年7
4090 月29日・労判1124号5頁)ことから、
4091 当てはめではそれらの点を踏まえた検討も必要
4092 となる。
4093
4094
4095 設問2は、
4096 Y社において、
4097 Xが直ちに原職(本社システム開発課の課長補佐)に復職する
4098 ことは困難であることを前提として、
4099 Xの意向も聴取しつつ、
4100 休職期間を2か月延長し、
4101 そ
4102 の期間中に、
4103 正式な復職の可否の判断のため、
4104 休職扱いのまま、
4105 原職とは異なる定型的かつ
4106 繁忙度の低い他の課の事務に、
4107 週3日隔日・時間短縮で従事させ(以下「試験出社」という。
4108
4109 )、
4110
4111 同課課長に簡易な業務から担当させるように指示することさえしたが、
4112 Xは試験出社開始2
4113 週間ほどで体調不良となり、
4114 欠勤を重ねるようになったという事例において、
4115 Y社が、
4116 前記
4117 の就業規則に基づき、
4118 延長後の休職期間満了を理由としてXを自然退職したものとしたこと
4119 の適否等を問うとともに、
4120 Xが試験出社中の事務従事を根拠としてその間の賃金を請求する
4121 ことの当否を問うものである。
4122
4123
4124 本問においても、
4125 まず、
4126 地位確認請求との関係で、
4127 Y社が正式にXに復職を命じず自然退
4128 職したものとした時点(延長後の休職期間満了時)において、
4129 Xが従前の職務に復職可能な
4130 状態であったか及び判例の考え方から導き出される規範の下で復職可能といえる状態にあっ
4131 たかを、
4132 設問2の事実関係(Xが試験出社中に従事した事務の内容やその遂行状況等)に照
4133 らして論ずることとなる。
4134
4135 特に、
4136 試験出社を経た上でXは復職できないとY社が判断するに
4137 至った事実経過に即して、
4138 Xが配置される現実的可能性があると認められる業務がなお他に
4139 あったかどうかを具体的に論ずることが、
4140 ポイントとなろう。
4141
4142 そこでは、
4143 同法の趣旨や前記
4144 のような裁判例等に鑑み、
4145 Xの自然退職に至るまでの経過においてY社による合理的な配慮
4146 があったと評価することができるか等を検討することも考えられよう。
4147
4148
4149 次に、
4150 試験出社中の事務従事に対応する賃金を請求することの可否との関係では、
4151 試験出
4152 社及びその間における事務への従事が、
4153 Y社とXとの間の労働契約の債務の本旨に従った労
4154 務の提供といえるか否かを論ずる必要があろう。
4155
4156 ここでは、
4157 就業規則第32条において休職
4158 中は賃金を支給されないものとしていることを前提に、
4159 試験出社の趣旨やそれを提案したY
4160 社及びこれに応じたXの間に成立した合意の内容を事実関係に照らして確定した上で、
4161 賃金
4162 請求権の成否を検討することが求められる。
4163
4164 その際は、
4165 試験出社中の事務従事は債務の本旨
4166 に従った労務の提供ということができないと考えられる場合であっても賃金請求権が発生す
4167 ることとなり得る法律構成の可否等についても検討し、
4168 論述することが求められる。
4169
4170
4171 〔第2問〕
4172 本問は、
4173 設問1において、
4174 派遣労働者により組織された労働組合が派遣労働者の派遣先で
4175 ある旅客自動車運送等事業者に対してした団体交渉の申入れを同事業者が拒否した事例を素
4176 材として、
4177 労働組合法第7条にいう「使用者」の概念及び同条第2号に規定する団体交渉拒
4178 否の不当労働行為の成否の要件等についての理解を問うとともに、
4179 設問2において、
4180 同労働
4181 組合と労働者派遣事業者との間で締結された労働協約により、
4182 12か月間の基本給の一部の
4183 支払猶予が約定され、
4184 さらに、
4185 これに続く別の労働協約により、
4186 当該支払猶予分の賃金債権
4187 の放棄が約定されたという事例を素材として、
4188 労働条件を労働者に不利益に変更することを
4189 内容とする労働協約についていかなる場合に規範的効力が認められるか、
4190 具体的に発生した
4191
4192 - 30 -
4193
4194 賃金請求権を労働協約によって事後的に処分・変更することは可能かといった点についての
4195 理解を問うものであり、
4196 いずれも、
4197 集団的労働関係法における基本的かつ主要な論点に関し、
4198
4199 関係する法令、
4200 判例・裁判例等から導き出される規範についての正確な理解と、
4201 当該規範へ
4202 の具体的事実の当てはめ(関係する事実の摘示と評価)の的確さを問うものである。
4203
4204
4205 設問1では、
4206 派遣元の事業者であるB社に雇用されている労働者(添乗員)を組織する労
4207 働組合であるC組合が派遣先の事業者であるA社に対して行った同組合の組合員である添乗
4208 員の労働時間管理の改善に向けた事項を議題とする団体交渉の申入れをA社が拒否したこと
4209 が、
4210 労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たるか(したがってC組合
4211 は労働委員会において救済を受けることができるか)が問われている。
4212
4213 この問いに答えるに
4214 当たっては、
4215 @添乗員の雇用主ではないA社が、
4216 派遣労働者たる添乗員との関係で、
4217 不当労
4218 働行為を禁止される「使用者」(労働組合法第7条)に当たるか、
4219 AC組合がA社に対して団
4220 体交渉を申し入れた上記事項がいわゆる義務的団体交渉事項に当たるか、
4221 BA社による団体
4222 交渉の申入れ拒否には同号所定の「正当な理由」があるかを、
4223 論ずべきこととなる。
4224
4225
4226 @については、
4227 判例(朝日放送事件・最判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)
4228 が示す判断枠組みを正確に理解し、
4229 本件の具体的事実に的確に当てはめることが論述のポイ
4230 ントとなる。
4231
4232 また、
4233 A社は労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関
4234 する法律(昭和60年法律第88号)に基づき労働者派遣事業を営むB社から派遣労働者た
4235 る添乗員を受け入れている事業者であるところ、
4236 そうした事業者が派遣労働者との関係で「使
4237 用者」に当たるかどうかに関し、
4238 上記の判例の趣旨を踏まえつつ、
4239 特別な判断枠組みを提示
4240 する労働委員会命令(ショーワ事件・中労委命令平成24年9月19日別中労時1436号
4241 16頁)や裁判例(阪急交通社事件・東京地判平成25年12月5日労判1091号14頁)
4242 もあり、
4243 そうした特別な判断枠組みによって判断すべきかについても検討がなされるべきで
4244 あろう。
4245
4246 その上で、
4247 Aにおいて、
4248 いわゆる義務的団体交渉事項の範囲についての一般的な理
4249 解(例えば、
4250 INAXメンテナンス事件・最判平成23年4月12日労判1026号27頁
4251 参照)を正確に示しつつ、
4252 本件においてC組合がA社に対してした申入れ事項がこれに該当
4253 するかを的確に検討し、
4254 Bにおいて、
4255 A社が主張する理由が同号所定の「正当な理由」に該
4256 当するか等を、
4257 本件の具体的事実に照らして検討することが、
4258 論述の重要なポイントとなる。
4259
4260
4261 設問2では、
4262 C組合とB社との間で、
4263 まず、
4264 C組合の組合員である添乗員の時間外労働に
4265 係る未払の割増賃金を一括して支払う一方で、
4266 12か月間の基本給の1割について支払を猶
4267 予することなどを内容とする労働協約(令和3年協約)が締結され、
4268 その後さらに、
4269 当該支
4270 払猶予分の賃金債権を放棄することなどを内容とする労働協約(令和5年協約)が締結され
4271 たという事例において、
4272 C組合の組合員たるDがB社に対してした支払猶予分の賃金及びそ
4273 の遅延損害金の支払請求が認められるかが問われている。
4274
4275 この問いに答えるに当たっては、
4276
4277 @令和3年協約は労働者の賃金債権の一部の履行期を遅らせることをその内容の一つとする
4278 ものであり、
4279 労働条件を労働者に不利益に変更するものであるところ、
4280 そのような労働協約
4281 に規範的効力が認められるかという点、
4282 さらに、
4283 A令和3年協約による同年12月分の賃金
4284 の支払の猶予と、
4285 令和3年協約により支払が猶予された賃金の令和5年協約による放棄は、
4286
4287 それぞれ労働者に具体的に発生した賃金請求権を処分・変更することとなるものであるとこ
4288 ろ、
4289 労働協約によってそうした処分・変更をすることが許されるかという点を、
4290 論ずべきこ
4291 ととなる。
4292
4293
4294 @については、
4295 労働協約によって労働条件を労働者に不利益に変更することそれ自体の可
4296 否や、
4297 それが可能であるとしてどのような場合であればそれが許容されるか等について論じ
4298 ることが重要なポイントとなり、
4299 関係する判例(朝日火災海上保険(石堂)事件・最判平成
4300 9年3月27日労判713号27頁)の考え方についての正確な理解を前提に、
4301 これを踏ま
4302 えつつ、
4303 事例の関連する事実を的確に拾い上げ、
4304 令和3年協約による労働条件の不利益変更
4305
4306 - 31 -
4307
4308 に規範的効力が認められるかを検討することが求められる。
4309
4310 そして、
4311 Aについては、
4312 具体的
4313 に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約によって処分又は変更することは、
4314 個々
4315 の組合員による特別の授権がない限り許されない旨を述べる判例があること(平尾事件・最
4316 判平成31年4月25日労判1208号5頁。
4317
4318 香港上海銀行事件・最判平成元年9月7日労
4319 判546号6頁及び朝日火災海上保険(高田)事件・最判平成8年3月26日民集50巻4
4320 号1008頁も参照)及びそこに示された考え方を正確に理解していることを前提に、
4321 事例
4322 の事実関係に照らしてその可否を論述することが、
4323 重要なポイントとなる。
4324
4325 その上で、
4326 Dに
4327 ついて上記の判例がいう特別の授権があったとは認め難い本件の事例においては、
4328 具体的に
4329 発生した賃金請求権の事後的な処分・変更は許されないと考えられ、
4330 そうであるとすれば、
4331
4332 支払猶予分の賃金の請求は認められることとなり、
4333 その遅延損害金の支払請求に関し、
4334 その
4335 起算点との関係で、
4336 @についての検討が求められることとなる。
4337
4338
4339 [環境法]
4340 〔第1問〕
4341 本問は、
4342 国道の自動車騒音や基幹的な空港・自衛隊基地の航空機騒音が問題となるケースに
4343 おいて、
4344 周辺住民が司法的救済を裁判所に求めようとする際に、
4345 どのような法的問題を検討し
4346 なければならないのかを、
4347 最高裁判所の判例を踏まえて解答することを受験者に求めている。
4348
4349
4350 解答に際して踏まえるべき最高裁判所の判例は、
4351 @大阪国際空港訴訟上告審判決・最大判昭和
4352 56年12月16日民集35巻10号1369頁(以下「大阪空港訴訟最判」という。
4353
4354 )、
4355 A厚
4356 木基地第1次訴訟上告審判決・最判平成5年2月25日民集47巻2号643頁、
4357 B国道43
4358 号・阪神高速道路訴訟上告審判決・最判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁(損害賠
4359 償請求。
4360
4361 以下「国道43号訴訟最判(損害賠償)」という。
4362
4363 )、
4364 C同上告審判決・最判同日民集
4365 49巻7号2599頁(差止請求。
4366
4367 以下「国道43号訴訟最判(差止)」という。
4368
4369 )、
4370 D厚木基
4371 地第4次訴訟上告審判決・最判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁(以下「厚木
4372 基地訴訟平成28年最判」という。
4373
4374 )であり、
4375 いずれも環境法のみならず、
4376 民法、
4377 民事訴訟法、
4378
4379 行政事件訴訟法に関する基本判例である。
4380
4381
4382 〔設問1〕の小問は、
4383 国道の道路騒音及び基幹的空港の騒音に係る民事差止訴訟の提起の
4384 適法性に関する理解を問うものであり、
4385 国道43号訴訟最判(差止)及び大阪空港訴訟最判に
4386 ついて、
4387 両判決が異なる結論に至った理由を分析して明らかにする能力を試している。
4388
4389
4390 【資料】
4391 を参照しつつ、
4392 各差止請求の内容と公権力の発動との関係を論じることが期待される。
4393
4394 また、
4395
4396 小問は、
4397 民事差止請求の違法性の判断枠組みに関する理解を問うものであり、
4398 まずは、
4399 国道
4400 43号訴訟最判(差止)が提示した民事差止請求の違法性及び同訴訟最判(損害賠償)が示し
4401 た損害賠償請求の違法性の各判断枠組みを説明し、
4402 両者の相違を指摘することが求められる(さ
4403 らに、
4404 両者の相違の理由について詳しい分析を加えていると、
4405 なお望ましい。
4406
4407 )。
4408
4409 その上で、
4410 損
4411 害賠償請求の違法性における考慮要素のうち、
4412 公共性に関する最高裁判決の判断枠組みの特色
4413 を分析し、
4414 これに対する学説からの評価(公共性の考慮の当否)を指摘すること、
4415 両請求の違
4416 法性の関係(要求される違法性の程度、
4417 各請求における各考慮要素の重要性の相違)について
4418 論じることが期待される。
4419
4420
4421 〔設問2〕の小問においては、
4422 厚木基地訴訟平成28年最判を前提とした上で、
4423 差止訴訟
4424 (法定抗告訴訟)及び民事差止訴訟を検討すべきであるが、
4425 当事者訴訟、
4426 法定外抗告訴訟とし
4427 ての差止訴訟や権力的妨害排除訴訟等も比較の検討対象となり得る。
4428
4429 差止訴訟(法定抗告訴訟)
4430 と民事差止訴訟との比較検討は必須であるものの、
4431 当事者訴訟や権力的妨害排除訴訟を比較検
4432 討する答案も評価される。
4433
4434 小問に関しては、
4435 差止訴訟の本案勝訴要件を規定する行政事件訴
4436 訟法第37条の4第5項に即した検討がされるべきである。
4437
4438 その際、
4439 厚木基地訴訟平成28年
4440 最判が、
4441 防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められること、
4442 当該判断の司法審査の際には、
4443 @自
4444 - 32 -
4445
4446 衛隊機の運航目的等に照らした公共性や公益性、
4447 A周辺住民の被害の性質と程度に加え、
4448 B被
4449 害軽減措置の有無や内容等が考慮される、
4450 と判断した点に留意すべきである。
4451
4452 民事差止訴訟の
4453 みを検討する解答は厚木基地訴訟に関する二つの最高裁判決を踏まえたことにはならない。
4454
4455 小
4456 問においては、
4457 国道43号訴訟最判(差止)の判断枠組みと小問に示した判断枠組みとの
4458 比較を行うことが求められる。
4459
4460 民事差止訴訟と行政事件訴訟法上の差止訴訟とにおいて、
4461 差止
4462 めの可否に関する判断枠組みは大きくは異ならないとの評価は一般的である。
4463
4464 また、
4465 厚木基地
4466 訴訟平成28年最判が、
4467 防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められ、
4468 被害軽減措置の有無や内容
4469 等も考慮されると述べた点を指摘する解答は、
4470 同判決の精確な理解を示したものとして評価さ
4471 れる。
4472
4473
4474 〔第2問〕
4475 本問は、
4476 いわゆる循環管理の分野における費用負担の問題を中心として、
4477 特に、
4478 容器包装に
4479 関する循環管理法制を取り上げるものである。
4480
4481 具体的には、
4482 容器包装に係る分別収集及び再商
4483 品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」という。
4484
4485 )の意義と仕組み、
4486 費用
4487 負担、
4488 制裁手段、
4489 同法の課題に関する理解、
4490 さらに、
4491 循環型社会形成推進基本法における拡大
4492 生産者責任の考え方に関する理解を問うものである。
4493
4494
4495 〔設問1〕の小問では、
4496 まず、
4497 容器包装リサイクル法における費用負担がいわゆる拡大生
4498 産者責任に基づくことを、
4499 その内容とともに説明することが求められる。
4500
4501 小問では、
4502 拡大生
4503 産者責任の考え方が、
4504 容器包装リサイクル法の中でどのように規定されているかを具体的な条
4505 文との関係で説明できるかが問われている。
4506
4507 具体的には、
4508 対象事業者の再商品化義務の規定(同
4509 法第11条〜第13条)及び(対象事業者が指定法人を通じて市町村に一定の資金を拠出する)
4510 拠出金に関する規定(同法第10条の2)である(なお、
4511 関連して、
4512 指定法人(日本容器包装
4513 リサイクル協会)との再商品化契約によって再商品化をしたものとみなされる規定(同法第1
4514 4条)がある。
4515
4516 )。
4517
4518 拠出金に関する規定については、
4519 同法第10条の2が、
4520 実際に要した再商
4521 品化費用の総額が想定額の総額を下回った場合に、
4522 その差額の一部を市町村に拠出する規定と
4523 なっており、
4524 実施から年を経るにつれ、
4525 実際に要した費用が想定額に徐々に近づくため、
4526 最終
4527 的に拠出金がゼロになる仕組みとなっていることを指摘することが望まれる。
4528
4529 小問では、
4530 循
4531 環型社会形成推進基本法における拡大生産者責任の根拠規定(同法第11条、
4532 第18条。
4533
4534 さら
4535 に、
4536 第17条、
4537 第20条も関連する)と、
4538 同法の下での拡大生産者責任の内容及びそれに基づ
4539 く措置を実施するための要件に関する理解が問われている。
4540
4541 拡大生産者責任の内容としては、
4542
4543 同法第11条に定められている@廃棄物等となることの抑制措置、
4544 A表示、
4545 設計の工夫等、
4546 B
4547 引取り・リサイクルの措置、
4548 C循環資源の利用ができる者による利用の4点、
4549 国が引取り・リ
4550 サイクルの措置を実施するための要件としては、
4551 1)国・地方公共団体・事業者及び国民の適
4552 切な役割分担が必要であるもの、
4553 2)設計・原材料の選択、
4554 循環資源となったものの収集等の
4555 観点から、
4556 事業者が果たすべき役割が循環型社会形成推進の上で重要と認められるものである
4557 こと、
4558 3)当該循環資源の処分の技術上の困難性、
4559 4)循環的な利用の可能性の存在があげら
4560 れていること(同法第18条第3項)、
4561 さらに、
4562 製品・容器等に対する事業者の事前評価の促
4563 進及び情報提供に関して、
4564 国が必要な措置を講じるとされていること(同法第20条)がポイ
4565 ントとなる。
4566
4567 これらがコンパクトにまとめられるかにより、
4568 条文の内容が理解されているかが
4569 問われることになる。
4570
4571
4572 〔設問2〕の小問では、
4573 特定容器利用事業者に費用負担を課する理由として、
4574 特定容器に
4575 対する選択権(実質的な決定権)があることを解答することが求められる。
4576
4577 小問では、
4578 対象
4579 事業者について販売予定額を基礎として費用負担が定められていること(容器包装リサイクル
4580 法第11条第2項第2号ロ)が、
4581 特定容器利用事業者にとっては過重な負担と感じられる理由
4582 となっている点を解答することが求められる。
4583
4584 この点は、
4585 容器包装リサイクル法の費用負担に
4586
4587 - 33 -
4588
4589 関する基本を問うものである。
4590
4591 小問では、
4592 問題文で示した訴訟に関しては、
4593 不合理な差別と
4594 はいい難く、
4595 国の立法裁量を理由として憲法違反とはならないことは前提としつつも、
4596 環境法
4597 政策としては何が望ましいかを、
4598 【資料】を読み解いて解答することを求めている。
4599
4600 拡大生産
4601 者責任は生産者に環境負荷低減、
4602 環境配慮設計のインセンティブを与えることを目的としたも
4603 のであることを踏まえつつ、
4604 【資料】から、
4605 OECDやフランスで、
4606 製品・容器の環境負荷の
4607 程度に応じて委託料を変える考え方が採用されていることに気が付いてほしい。
4608
4609 小問は、
4610 X
4611 が委託料の支払留保という挙に出た場合の行政側の措置を問うものである。
4612
4613 まず、
4614 特定容器利
4615 用事業者は、
4616 指定法人(容器包装リサイクル協会)に委託料を支払うことによって再商品化義
4617 務を履行したものとみなされ(容器包装リサイクル法第14条)、
4618 支払を留保しつつほかの二
4619 つの再商品化手法(指定法人以外の者への委託による再商品化ルート及び自主回収ルート。
4620
4621 同
4622 法第15条第1項括弧書き、
4623 第18条)も用いないときは、
4624 再商品化義務の不履行(同法第1
4625 5条違反)となることを指摘することが求められる。
4626
4627 その上で、
4628 行政側の措置としては、
4629 指導
4630 ・助言(同法第19条)、
4631 勧告(同法第20条第1項)、
4632 氏名の公表(同条第2項)があり、
4633 そ
4634 の上で、
4635 勧告に従わない場合に勧告措置の命令(同条第3項)がなされ、
4636 さらに、
4637 その命令違
4638 反に対して罰金が科されること(同法第46条)を解答することが求められる。
4639
4640
4641 [国際関係法(公法系)
4642 ]
4643 〔第1問〕
4644 本問は、
4645 国際司法裁判所(以下「ICJ」という。
4646
4647 )の仮保全措置(暫定措置)の指示要件
4648 という国際裁判の手続事項のほか、
4649 排他的経済水域(以下「EEZ」という。
4650
4651 )及び大陸棚に
4652 関する海洋境界画定方式、
4653 直線基線と低潮高地との関係、
4654 直線基線の内側の海域の法的地位、
4655
4656 及び領海における外国軍艦の無害通航権という国際法上の基本的な知識と理解を確認するこ
4657 とを目的とする。
4658
4659
4660 設問1は、
4661 ICJの仮保全措置の要件に関する基本的な問題である。
4662
4663 まず、
4664 仮保全措置の
4665 指示が認められるための要件を近時の判例から確認し、
4666 A国の主張に即して設例の事実の当
4667 てはめを行うことが求められる。
4668
4669 A・B両国とも国際連合(以下「国連」という。
4670
4671 )の原加盟
4672 国であり、
4673 そのため国際司法裁判所規程の当事国となっていることを確認した上で、
4674 同規程
4675 を適用し、
4676 同規程第36条第2項の規定に基づきICJの裁判管轄権を受諾する宣言(以下
4677 「選択条項受諾宣言」という。
4678
4679 )を行っていることにも留意する必要がある。
4680
4681
4682 ICJが仮保全措置を指示する権限を行使するためには、
4683 以下の要件を満たすことが近時
4684 のICJの判例では確立している(訴追か引渡しかの義務に関する問題事件仮保全命令(2
4685 009年)、
4686 テロ資金供与防止条約及び人種差別撤廃条約適用事件仮保全命令(2017年)、
4687
4688 ジェノサイド条約適用事件(ガンビア対ミャンマー)仮保全命令(2020年)、
4689 ジェノサイ
4690 ド条約におけるジェノサイドの主張事件仮保全命令(2022年)など)。
4691
4692 すなわち、
4693 @一応
4694 の(prima facie)裁判管轄権の存在、
4695 A仮保全措置要請国が本案で主張する権利が少なくと
4696 ももっともらしい(at least plausible)ものであること、
4697 B当該権利とこれを保全するた
4698 めに要請される措置との間に関連性が存在すること、
4699 C回復不能な侵害を起こすような緊急
4700 性の存在が確認されることを満たすことが必要である。
4701
4702
4703 本件では、
4704 A国からの議論としては、
4705 以下のような主張が考えられる。
4706
4707 まず、
4708 A・B両国
4709 とも選択条項受諾宣言を行っており、
4710 しかもいずれも裁判管轄権を制約する趣旨の留保は付
4711 していないので、
4712 一応の裁判管轄権の存在は認められる(@)。
4713
4714 A国が本案で主張する権利は
4715 EEZ及び大陸棚の境界線により画定されるそれぞれの海域・区域に対する権利であり、
4716 A
4717 国は問題の海域の沿岸国であることからこの権利の主張が可能であることは明らかである
4718 (A)。
4719
4720 また、
4721 その大きさなどについてのγ島の法的地位は問題の海洋境界画定線の設定に影
4722 響を及ぼし得るので、
4723 A国の上記権利を保全するためにも島の現状に人工的な変更を加えな
4724 - 34 -
4725
4726 い状態を維持することが求められることから、
4727 埋立作業を行うB国の関係船舶及びそれを護
4728 衛する軍艦をγ島から撤収させて埋立作業と軍事活動の停止を求め、
4729 紛争を悪化させる行動
4730 をB国に控えさせることは、
4731 A国からみて正当と考えられる(B)。
4732
4733 最後に、
4734 γ島をB国が人
4735 工的に改変することで海洋境界画定に関するA国の権利に回復し難い侵害が生じる可能性が
4736 あることのほか、
4737 現に武力衝突が継続しているために人命保護も追加的な理由として緊急性
4738 も認められる(C)と主張することが可能である。
4739
4740
4741 設問2は、
4742 近時の国際判例がEEZと大陸棚に関する海洋境界画定についていわゆる「三
4743 段階アプローチ」を採用していることから、
4744 その内容を正確に理解しているかどうか、
4745 そし
4746 てこれに依拠してB国の主張を展開できるかが問われている。
4747
4748
4749 A・B両国とも1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」とい
4750 う。
4751
4752 )の締約国であることから、
4753 EEZと大陸棚に関する海洋境界画定規則の出発点は、
4754 それ
4755 ぞれ国連海洋法条約の第74条と第83条になる。
4756
4757 しかし、
4758 これら規定は具体的な画定方式
4759 を定めておらず、
4760 その後の国際判例により実践的に具体的な画定方式が発展し、
4761 現在では「三
4762 段階アプローチ」方式が定着したといえる。
4763
4764
4765 この「三段階アプローチ」方式は、
4766 黒海海洋境界画定事件ICJ判決(2009年)で採
4767 用され、
4768 その後、
4769 国際海洋法裁判所(以下「ITLОS」という。
4770
4771 )判決(ベンガル湾事件(バ
4772 ングラデシュ/ミャンマー)(2012年))、
4773 ITLОS特別裁判部判決(ガーナ/コートジ
4774 ボワール海洋境界画定事件(2017年))及び仲裁裁判所判決(ベンガル湾事件(バングラ
4775 デシュ対インド)(2014年))でも採用されている境界画定方式である。
4776
4777 そこでは、
4778 まず
4779 暫定的に等距離線を引き、
4780 次に関連事情を考慮して暫定等距離線を調整し、
4781 最後に紛争当事
4782 国に帰属する海域の面積の比と関連海岸線の長さの比の間に不均衡がないかについて検証を
4783 行うというものである。
4784
4785 このアプローチの各段階の内容を正確に理解していることが求めら
4786 れる。
4787
4788
4789 B国の立場からは、
4790 第一段階として、
4791 本件では、
4792 領海の境界画定で等距離線が採用されて
4793 いることから、
4794 EEZと大陸棚に関する海洋境界画定についても等距離線を引くことに不都
4795 合はないと考えられる。
4796
4797 すなわちEEZと大陸棚に関する海洋境界画定について等距離線を
4798 引くことができないような地形ではないことについてA・B両国とも合意していることにな
4799 るからである。
4800
4801 また暫定等距離線を修正する第二段階として、
4802 γ島がB国領であることはA
4803 国も認めており、
4804 小さな無人島とはいえ、
4805 境界画定の対象となるA国側の海域に存在するこ
4806 とにより、
4807 この島を関連事情として考慮して暫定等距離線をA国側にやや移動させることも
4808 正当化される。
4809
4810 そして修正された等距離線によって確定される海域が衡平な結果となるかを
4811 検証する第三段階において、
4812 そのように移動させた修正等距離線により分けられるA国とB
4813 国の海域の面積は、
4814 B国が主張する関連海岸線の長さの比とほぼ同じであることから、
4815 EE
4816 Z及び大陸棚の面積と関連海岸線の長さの比に不均衡はないという主張が可能となる。
4817
4818 この
4819 ように、
4820 「三段階アプローチ」方式の内容を正確に理解した上で、
4821 同方式による海洋境界画定
4822 からB国の主張が正当化されることを示さなければならない。
4823
4824
4825 設問3は、
4826 直線基線の内側にある海域の法的地位と領海における外国軍艦の無害通航権に
4827 ついての理解度を問う問題である。
4828
4829
4830 直線基線の設定において、
4831 国連海洋法条約第7条第4項は、
4832 低潮高地との間に引いてはな
4833 らないと規定し、
4834 例外として直線基線を引くことが可能なのは、
4835
4836 「恒久的に海面上にある灯台」
4837 などが建設されている場合と問題の低潮高地に直線基線を引くことが「一般的な国際的承認
4838 を受けている」場合に限られるとしている。
4839
4840 本件でB国が主張する直線基線は、
4841 海岸に沿っ
4842 て至近距離に引かれており、
4843 海岸の全般的な方向から著しく離れて引かれてはいないと考え
4844 られるものの(国連海洋法条約第7条第1項及び同第3項参照)、
4845 低潮高地に引かれる例外に
4846 該当するかどうかが問題となる。
4847
4848 C国からは、
4849 この例外に該当しないので、
4850 B国が主張する
4851
4852 - 35 -
4853
4854 直線基線は国際法上合法ではないと主張できるのであり、
4855 したがってB国の基線は直線基線
4856 ではなく低潮線である通常基線であって、
4857 航行中のX号をB国の沿岸警備隊が発見した海域
4858 は、
4859 B国の内水ではなく領海であると主張することができる。
4860
4861
4862 領海において軍艦の無害通航権が認められるかについては国連海洋法条約に明文規定がな
4863 く国家実行も一致していない。
4864
4865 学説上は船舶の航行の態様で通航禁止ができるという態様別
4866 規制説と船舶の種類を理由に通航禁止が許される船種別規制説が対立しているが、
4867 B国は、
4868
4869 国内法令で自国領海内での外国軍艦の通航について事前の許可申請や事前の通告を求めては
4870 いないことから、
4871 軍艦であるというだけで無害ではないとする船種別規制説に立った実行を
4872 採用していない。
4873
4874 したがって、
4875 C国は、
4876 B国が自国領海内での外国軍艦の通航を許容してい
4877 ることを主張するとともに、
4878 軍艦も領海内で無害通航権の行使を主張し得る態様別規制説の
4879 立場から主張を行えばよい。
4880
4881
4882 B国の直線基線の内側の海域は領海であることから、
4883 X号は、
4884 B国領海内を迅速かつ継続
4885 的に通航しなければならない(国連海洋法条約第18条第2項)。
4886
4887 態様別規制説に立った場合、
4888
4889 X号の通航の態様は、
4890 国連海洋法条約第19条第1項にいう「沿岸国の平和、
4891 秩序又は安全
4892 を害しない」ものであって無害であり、
4893 また同条第2項に列挙されている無害でない通航に
4894 も該当しない。
4895
4896
4897 さらに、
4898 仮にB国が主張する直線基線が、
4899 A国もその有効性を認めて領海の境界線に合意
4900 していることから推測して、
4901 一般的な国際的承認を受けて基線として有効であり、
4902 したがっ
4903 て直線基線の内側の水域が内水となることが認められるとしても、
4904 国連海洋法条約第8条第
4905 2項によりこの直線基線の内側の海域には無害通航権が存続するので、
4906 この場合でも上記の
4907 同条約第19条にいう無害性の基準が適用可能であり、
4908 やはりX号は無害通航を行ったと主
4909 張することが可能である。
4910
4911
4912 以上のように、
4913 C国としては、
4914 B国が設定した直線基線が国連海洋法条約の関連規定と合
4915 致するかどうかを検討した上で、
4916 当該直線基線が同条約上合法であれ違法であれ、
4917 態様別規
4918 制説に立って軍艦X号の無害通航権が許容されることを主張するように論ずることになる。
4919
4920
4921 〔第2問〕
4922 本問は、
4923 条約法、
4924 国家責任法、
4925 国際組織法という国際法上の基本的分野における知識と理解、
4926
4927 その具体的な運用能力を問うものである。
4928
4929
4930 設問1は、
4931 条約の解釈に関する基本的問題である。
4932
4933 A国ほか登場する関係国は全て条約法に
4934 関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。
4935
4936 )の当事国でありこれが適用されることと
4937 なるが、
4938 解釈については、
4939 特に条約法条約第31条、
4940 第32条が関連条文となる。
4941
4942 本問ではA
4943 国が新たに始めたβ川の利用である観光業、
4944 生物資源関連事業、
4945 軍事兵器・物資の輸送が、
4946 P
4947 協定における「産業」に該当するかが問題となるが、
4948
4949 「産業」の文言が必ずしも明確といえず、
4950
4951 またP協定が20世紀初頭という古い時期に締結されたことが特徴になっている。
4952
4953 ここでは条
4954 約で用いられている語句が条約締結時ともはや同じ意味ではない可能性が問題になっており、
4955
4956 発展的解釈について論ずることが望まれる。
4957
4958 本設問と類似する通航権事件(コスタリカ対ニカ
4959 ラグア)ICJ判決(2009年)では、
4960 当事国が締結した条約中の「通商」の語が問題にな
4961 っていたが、
4962 ICJは、
4963 条約中に用いた語句が総称的であって当事者が時の経過とともに語句
4964 の意味が発展していくと当然に認識しており、
4965 かつ、
4966 条約が非常に長期にわたって効力を有し
4967 ている又は継続的性格を有している場合、
4968 当事者は用語の意味が発展することを意図していた
4969 と推定されなければならないとした。
4970
4971 本問でも、
4972 「産業」の語が総称的であることやP協定の
4973 永続性に言及しつつ、
4974 これらの観点からA国が始めた新しい3つの活動について論じていくこ
4975 とが求められる。
4976
4977 観光業と軍事兵器・物資の輸送に関しては、
4978 通航権事件と同様に判断できる
4979 だろう。
4980
4981
4982
4983 - 36 -
4984
4985 設問2は、
4986 国際組織の権限に関する基本的な問題である。
4987
4988 その前提として国際組織の法主体
4989 性が問題になるが、
4990 国際組織は本源的主体である国家と同様の仕方で法主体性をもち得るわけ
4991 ではない。
4992
4993 国際組織は条約によって設立されるが、
4994 当該設立条約の当事国であればともかく、
4995
4996 非加盟国からすると自国と関係ないところで設立されたことになる。
4997
4998 非当事国との関係で当該
4999 国際組織が新たな法人格をもち得るのかは容易には判断できない。
5000
5001 本設問で、
5002 E国はQの非当
5003 事国であり、
5004 QがE国に対しても法人格を主張できるか、
5005 そして法人格が認められるとしても、
5006
5007 損害賠償を請求する権利を有するかが問題になる。
5008
5009 この点に関する最も重要な法的見解は国連
5010 損害賠償事件(ICJ勧告的意見(1949年))で示されている。
5011
5012 国連が国連憲章の目的を
5013 達成するためには国際法人格を備えることが不可欠だとされ、
5014 また憲章中に明文規定はないも
5015 のの、
5016 黙示的権限論に従って、
5017 また、
5018 機能的保護に言及しつつ、
5019 損害賠償を請求する権能を認
5020 めている。
5021
5022 この判断に照らしつつ、
5023 本問でもQの設立条約やその実行に言及しつつ、
5024 論ずるこ
5025 とが求められるが、
5026 上記の勧告的意見が参考になるだろう。
5027
5028
5029 設問3は、
5030 条約法及び国家責任法に関する基本的な問題である。
5031
5032 国内法を理由として条約を
5033 遵守しないことについては、
5034 条約法条約第27条が規定しており、
5035 「条約の不履行を正当化す
5036 る根拠として自国の国内法を援用することができない」とされる。
5037
5038 国内法を理由として国際法
5039 を遵守しないことについては現実にもしばしば見られることであるが、
5040 第27条に示される規
5041 則は「合意は守られなければならない(pacta sunt servanda)」(条約法条約第26条)と同
5042 様に、
5043 国際社会における基本的規範である。
5044
5045 本問はこの第27条を端的に適用すればよい。
5046
5047 ま
5048 た、
5049 同様のことは条約の無効についても当てはまり、
5050 条約法条約第46条第1項が「無効にす
5051 る根拠として援用することができない」としている。
5052
5053 ただし、
5054 ここで「違反が明白でありかつ
5055 基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合」は例外となるので、
5056 γ川流域を
5057 自然保護区とするC国国内法がこれに当たるかどうかを論ずることが求められる。
5058
5059
5060 R協定の不履行によってC国に損害賠償を支払う義務があるかどうかは、
5061 国家責任法の問題
5062 である。
5063
5064 この点、
5065 国家責任条文が最も関連する国際文書といえるが、
5066 国家責任条文自体は条約
5067 にはなっていないので、
5068 適用する前提として国家責任条文の「緊急避難」に関する条項が慣習
5069 国際法となっていることの確認が必要である。
5070
5071 ガブチコボ・ナジマロシュ計画事件(ハンガリ
5072 ー/スロヴァキア)ICJ判決(1997年)で、
5073 ICJは、
5074 緊急避難は慣習国際法によって
5075 認められた基礎を有し、
5076 厳格に定義された一定の要件の下に例外的に認められるとし、
5077 当時国
5078 際法委員会で起草中であった国家責任条文草案を参照しつつ、
5079 「根本的利益」「重大かつ差し迫
5080 った危険」「唯一の方法」「根本的利益の深刻な毀損」「緊急避難の発生への寄与」の諸条件が
5081 慣習国際法を反映したものだとしている。
5082
5083 本問においても、
5084 経済的苦境や環境保護がこれらの
5085 緊急避難の要件を満たすかを一つ一つ当てはめつつ検討することが求められる。
5086
5087
5088 [国際関係法(私法系)
5089 ]
5090 〔第1問〕
5091 本問の〔設問1〕は、
5092 渉外性を有する相殺の事例を素材として、
5093 〔小問1〕では、
5094 自働債権
5095 の発生原因である契約から生じる紛争について外国裁判所の専属的管轄合意が存在する場合
5096 に、
5097 日本の裁判所において相殺の抗弁を主張することの可否についての理解を、
5098 〔小問2〕で
5099 は、
5100 相殺の準拠法についての基本的理解を問うものである。
5101
5102 また、
5103 本問の〔設問2〕は、
5104 渉
5105 外性を有する債権譲渡の事例を素材として、
5106 〔小問1〕では、
5107 債務者との関係における債権譲
5108 渡の効力の準拠法についての理解を、
5109 〔小問2〕では、
5110 同一の債権をめぐり債権譲渡の譲受人
5111 及び債権譲渡担保権者が存在する場合に、
5112 その対抗関係の準拠法についての理解と応用力を
5113 問うものである。
5114
5115
5116 〔設問1〕の〔小問1〕は、
5117 A社とB社の間に債権@及び債権Aの二つの対立する金銭債
5118 権があり、
5119 債権@についてA社が日本の裁判所に訴えを提起し、
5120 被告B社が債権Aを自働債
5121 - 37 -
5122
5123 権として相殺しようとしたところ、
5124 債権Aの発生原因である売買契約Aについて、
5125 外国裁判
5126 所を専属的管轄裁判所とする旨の条項(以下「本件条項」という。
5127
5128 )が存在する場合に、
5129 B社
5130 は日本の裁判所において相殺の抗弁を主張することができるかを問うものである。
5131
5132
5133 まず、
5134 相殺の抗弁を主張する前提として、
5135 自働債権である債権Aについて、
5136 本案裁判所に
5137 国際裁判管轄権が認められる必要があるのかを検討することが求められている。
5138
5139 管轄不要説、
5140
5141 管轄必要説のいずれに立つにせよ、
5142 その根拠を示す必要がある。
5143
5144 管轄不要説に立つ場合には、
5145
5146 抗弁として債権Aを自働債権とする相殺の主張をすることは可能であり、
5147 A社の主張は認め
5148 られないことになる。
5149
5150 管轄必要説に立つ場合には、
5151 さらに、
5152 本件条項に係る合意が民事訴訟
5153 法第3条の7の規定の要件を満たしているかが問題となるが、
5154 この点は満たしており、
5155 合意
5156 は効力を生じている。
5157
5158 そして、
5159 本件条項に照らすと、
5160 債権Aは専属的管轄合意の適用範囲に
5161 含まれることから、
5162 債権Aを自働債権とする相殺の抗弁は不適法却下され、
5163 A社の主張は認
5164 められることになろう。
5165
5166
5167 〔設問1〕の〔小問2〕では、
5168 相殺の準拠法についての理解が問われている。
5169
5170 法の適用に
5171 関する通則法(以下「通則法」という。
5172
5173 )には、
5174 相殺の準拠法について直接定めた規定は存在
5175 しないため、
5176 相殺の準拠法について検討し、
5177 その根拠について説明することが求められてい
5178 る。
5179
5180 例えば、
5181 自働債権準拠法と受働債権準拠法の累積的適用説、
5182 受働債権準拠法説等の立場
5183 が考えられよう。
5184
5185 その上で、
5186 本問への当てはめを行い、
5187 いずれの法が準拠法となるかを示す
5188 必要がある。
5189
5190
5191 〔設問2〕の〔小問1〕では、
5192 債務者との関係における債権譲渡の効力の準拠法について
5193 の理解を問うている。
5194
5195 債権譲受人であるC社からの債務者であるB社に対する訴訟において、
5196
5197 債権譲渡人であるA社に対する債権@の弁済を理由とするB社の抗弁が認められるかについ
5198 ては、
5199 債権の譲渡の債務者に対する効力の問題と性質決定することが考えられ、
5200 その場合、
5201
5202 通則法第23条の規定によることとなり、
5203 同条の「譲渡に係る債権について適用すべき法」
5204 は、
5205 債権@の発生原因となっているA社とB社との間の売買契約@の準拠法であり、
5206 本件で
5207 は、
5208 日本法になると考えられる。
5209
5210
5211 〔設問2〕の〔小問2〕では、
5212 同一の債権@をめぐり債権譲渡の譲受人及び債権譲渡担保
5213 権者が存在する場合に、
5214 その対抗関係の準拠法についての理解が問われている。
5215
5216 債権の譲渡
5217 の第三者に対する効力の準拠法については通則法に明文の規定があるが、
5218 債権譲渡担保の第
5219 三者に対する効力の準拠法についての直接の明文規定は存在しない。
5220
5221 本問では、
5222 債権譲渡の
5223 譲受人であるC社と債権譲渡担保権者であるD社のいずれが債権@を取得したかについて、
5224
5225 いずれの国の法によって判断されるのかを検討し、
5226 その根拠について説明することが求めら
5227 れている。
5228
5229
5230 例えば、
5231 本問における債権譲渡の第三者に対する効力については、
5232 債権の譲渡の第三者に
5233 対する効力の問題と性質決定し、
5234 通則法第23条の規定により準拠法を指定し、
5235 債権譲渡担
5236 保の第三者に対する効力については、
5237 債権質の第三者に対する効力の準拠法に関する従来の
5238 多数説・判例の立場を参考とすることが考えられる。
5239
5240 その場合、
5241 まず、
5242 A社からC社への債
5243 権譲渡の第三者に対する効力については、
5244 通則法第23条の規定に従い、
5245 同条の「譲渡に係
5246 る債権について適用すべき法」によること、
5247 譲渡対象債権の準拠法は、
5248 債権@の発生原因と
5249 なっているA社とB社との間の売買契約@の準拠法であり、
5250 本問では、
5251 それが日本法である
5252 ことを示す必要がある。
5253
5254 そして、
5255 実質法の本件事案への当てはめを行えば、
5256 日本民法第46
5257 7条第2項の確定日付のある証書による、
5258 債務者B社への通知がされているため、
5259 C社は日
5260 本法の債権譲渡の第三者対抗要件を具備していることを説明しなければならない。
5261
5262 次に、
5263 D
5264 社がA社から設定を受けた債権譲渡担保の第三者に対する効力については、
5265 債権質の第三者
5266 に対する効力の準拠法に関する従来の多数説・判例を参考にするならば、
5267 これは物権の問題
5268 と性質決定されるが、
5269 有体物を目的としない債権譲渡担保には目的物の所在地を観念できな
5270
5271 - 38 -
5272
5273 いため、
5274 通則法第13条の規定によることはできず、
5275 また、
5276 債権譲渡担保は客体たる権利の
5277 運命に直接影響を与えるものであるので、
5278 債権譲渡担保の客体たる債権の準拠法によるべき
5279 であることを示す必要がある。
5280
5281 本問では、
5282 債権譲渡担保の客体たる債権の準拠法は、
5283 債権@
5284 の発生原因である売買契約@の準拠法であり、
5285 日本法である。
5286
5287 そして、
5288 実質法の本件事案へ
5289 の当てはめを行えば、
5290 A社はB社に対し、
5291 債権譲渡担保の設定について何ら通知をしていな
5292 いため、
5293 日本法上、
5294 D社は債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備していない。
5295
5296 以上の
5297 とおり、
5298 本問では、
5299 債権譲渡の第三者に対する効力の準拠法と債権譲渡担保の第三者に対す
5300 る効力の準拠法は、
5301 いずれも日本法となるが、
5302 C社は日本法上の債権譲渡の第三者対抗要件
5303 を具備しているのに対し、
5304 D社は日本法上の債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備し
5305 ていないため、
5306 C社が債権@を取得したことが示されねばならない。
5307
5308
5309 また、
5310 異なる見解として、
5311 債権譲渡担保を一種の債権譲渡であるとし、
5312 その第三者に対す
5313 る効力については、
5314 通則法第23条の規定を適用又は準用する立場、
5315 同一の債権をめぐり優
5316 先権を争う可能性のある債権譲渡の譲受人、
5317 債権譲渡担保権者などの権利の第三者に対する
5318 効力については、
5319 同一の準拠法によるべきであるとして、
5320 明文規定のある通則法第23条と
5321 同様、
5322 譲渡対象債権の準拠法によるべきであるとする立場なども考えられる。
5323
5324 いずれの立場
5325 でも、
5326 通則法第23条の規定に従い、
5327 譲渡対象債権の準拠法によることになるが、
5328 本問では、
5329
5330 譲渡対象債権の準拠法は日本法であることを示す必要がある。
5331
5332 その上で、
5333 実質法の本件事案
5334 への当てはめを行い、
5335 C社は日本法上の債権譲渡の第三者対抗要件を具備しているのに対し、
5336
5337 D社は日本法上の債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備していないため、
5338 C社が債権
5339 @を取得したことが示されねばならない。
5340
5341
5342 〔第2問〕
5343 本問は、
5344 渉外性を有する身分関係に関する事例を素材として、
5345 国際私法及び国際民事手続
5346 法、
5347 とりわけ、
5348 親子関係の成立の準拠法及び身分関係に関する外国裁判の承認執行に関する
5349 基礎的理解と応用力を問うものである。
5350
5351
5352 〔設問1〕は、
5353 非嫡出親子関係の成立の準拠法についての理解を問うものである。
5354
5355
5356 〔設問1〕の〔小問1〕は、
5357 認知の方式の準拠法についての基本的理解を問うものである。
5358
5359
5360 認知の成立は通則法第29条の規定により規律されるので、
5361 その方式は、
5362 通則法第25条か
5363 ら第33条までに規定する親族関係についての法律行為の方式と性質決定されて通則法第3
5364 4条の規定により準拠法が決定されること、
5365 同条によると、
5366 認知の実質的成立要件の準拠法
5367 (第1項)と行為地法(第2項)が選択的適用され、
5368 いずれかの法の方式を満たす場合には、
5369
5370 認知は方式上有効となることを示さなければならない。
5371
5372 本件認知は、
5373 甲国法(行為地法であ
5374 るが、
5375 認知の実質的成立要件の準拠法でもある。
5376
5377 後述〔小問2〕参照。
5378
5379 )の方式を満たしてい
5380 るため、
5381 方式上有効である。
5382
5383
5384 〔設問1〕の〔小問2〕は、
5385 血縁の事実に反して行われた認知の無効が認められるかにつ
5386 いて問うことで、
5387 認知の実質的成立要件の準拠法、
5388 さらには、
5389 非嫡出親子関係の成立一般に
5390 ついての準拠法に関する理解を確認するものである。
5391
5392
5393 認知の実質的成立要件については、
5394 子の出生の当時における父の本国法又は認知の当時に
5395 おける認知する者の本国法若しくは子の本国法が選択的適用される(通則法第29条第1項
5396 前段、
5397 第2項前段。
5398
5399 なお、
5400 同条第1項後段及び第2項後段にいわゆるセーフガード条項の定
5401 めもあるが、
5402 本問ではこれに該当する事実はない。
5403
5404 )。
5405
5406 本問では日本法と甲国法が選択的適用
5407 されるが、
5408 いずれかの法の実質的成立要件を満たせば認知が有効に成立するということであ
5409 るから、
5410 逆に、
5411 認知が無効となるためには、
5412 日本法でも甲国法でも認知が無効となる必要が
5413 あることを示さなければならない。
5414
5415 本問では、
5416 日本法では認知の無効が認められるであろう
5417 が、
5418 認知から提訴まで7年以上経過しているために甲国法の定める出訴期間制限にかかり、
5419
5420
5421 - 39 -
5422
5423 甲国法では認知の無効は認められないため、
5424 原則として、
5425 認知の無効は認められないという
5426 結論になろう。
5427
5428
5429 これに対して、
5430 提出された証拠により、
5431 Yの血縁上の父がBであることが証明された場合
5432 には、
5433 Xにより認知された子であるYとBの親子関係が成立しているのではないかが問題と
5434 なるので、
5435 その点を検討し、
5436 その結論を踏まえて、
5437 Xによる認知無効の請求が認められない
5438 という上記の結論を再検討することが求められている。
5439
5440 YとBの親子関係の成立は、
5441 非嫡出
5442 親子関係の成立と性質決定され、
5443 通則法第29条第1項により、
5444 子の出生当時のBの本国法
5445 である乙国法が準拠法となり、
5446 乙国法はいわゆる事実主義を採用しているため、
5447 YとBの間
5448 の血縁関係が証明されたときには、
5449 YB間の非嫡出親子関係が成立していることを示す必要
5450 があろう。
5451
5452 これを前提として、
5453 Xによる認知無効の請求が認められないという結論を再検討
5454 することになる。
5455
5456 認知の無効が認められないとすれば、
5457 Yについて、
5458 XY間の親子関係と、
5459
5460 BY間の親子関係のいずれもが成立していることになり、
5461 このような状態をそのままにして
5462 よいかが問題となるが、
5463 このような事態は、
5464 単位法律関係ごとに準拠法を選択して、
5465 それを
5466 適用して得られた結論を持ち寄り事案全体の処理を行うという国際私法の基本的構造から生
5467 じたという理解に基づいて、
5468 具体的にどのような処理をするべきかについて、
5469 自己の見解を
5470 説得的に論じることが求められる。
5471
5472
5473 〔設問2〕は、
5474 外国裁判所において、
5475 離婚判決の附帯処分としてなされた財産分与を命じ
5476 る裁判の承認執行の要件としての、
5477 民事訴訟法第118条第1号のいわゆる間接管轄の判断
5478 についての基礎的理解を問うものである。
5479
5480
5481 まず、
5482 間接管轄の有無は、
5483 承認国である日本の立場から判断される。
5484
5485
5486 次に、
5487 間接管轄がどのような基準で判断されるかについては、
5488 直接管轄の基準と同一でな
5489 ければならないとの同一説(いわゆる鏡像理論)と、
5490 必ずしも直接管轄の基準と同一でなく
5491 てもよいとの非同一説の対立があるが、
5492 いずれを採用するかについて自己の見解を理由付け
5493 して示した上で、
5494 事案に当てはめて結論を導くことが求められる。
5495
5496 ただ、
5497 同一説による場合
5498 のほか、
5499 非同一説によるとしても、
5500 まずは、
5501 日本の直接管轄の基準に準拠して間接管轄の有
5502 無を判断することに変わりはない。
5503
5504 そこで、
5505 離婚の訴えの際の附帯処分としての財産分与に
5506 ついては、
5507 人事訴訟法第3条の4第2項により、
5508 家事事件手続法第3条の12に照らして間
5509 接管轄が認められるかを検討することになろう。
5510
5511 同条第1号から第3号までに照らすと間接
5512 管轄は認められないことを示した上で、
5513 同条第4号により間接管轄が認められないかを検討
5514 すること、
5515 あるいは、
5516 非同一説に立つ場合には、
5517 個々の事案における具体的事情に即して間
5518 接管轄が認められるかを検討することが、
5519 本問において間接管轄が認められるか否かの結論
5520 を左右することになろう。
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