1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 - 1 -
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで、
11 後記の〔設問〕に答えなさい。
12
13
14
15 山懐に抱かれたA集落(人口約170人、
16 世帯数約50戸)は、
17 B市の字(あざ)の一つであ
18 り、
19 何百年にもわたって集落の氏神を祀(まつ)るC神社を中心に生活が営まれてきた。
20
21 A町内会
22 は、
23 A集落の住民が自治的に組織した任意団体であり、
24 地方自治法第260条の2の「認可地縁団
25 体」(資料参照)であって、
26 現在の加入率は100パーセントである。
27
28 A町内会規約はその目的に
29 「会員相互の親睦及び福祉の増進を図り、
30 地域課題の解決等に取り組むことにより、
31 地域的な共同
32 生活に資すること」を掲げ、
33 この目的を達成するための事業として、
34 @清掃、
35 美化等の環境整備に
36 関すること、
37 A防災、
38 防火に関すること、
39 B住民相互の連絡、
40 広報に関すること、
41 C集会所の管理
42 運営に関すること、
43 Dその他A町内会の目的を達成するために必要なこと、
44 を挙げている。
45
46
47 A集落では地域の共同事業を住民自ら担ってきた。
48
49 A町内会として、
50 例えば、
51 生活道路・下水道
52 の清掃、
53 ごみ収集所の管理、
54 B市の「市報」等の配布、
55 C神社の祭事挙行への協力などを行ってい
56 る。
57
58 町内会費は1世帯当たり年額8000円であり、
59 町内会費からは、
60 街路灯費やごみ収集所管理
61 費などに加え、
62 C神社祭事挙行費を支出している。
63
64 祭事挙行費は1世帯当たり年額約1000円で
65 ある。
66
67
68 C神社は宗教法人ではなく、
69 氏子名簿もない。
70
71 かつて火事で鳥居を除いて神社建物が失われたた
72 め、
73 同所にA町内会が、
74 御神体を安置した集会所を建設した。
75
76 集会所入り口には「A町内会集会
77 所」「C神社」と並列して表示されている。
78
79 集会所は大きな一部屋から成る建物であり、
80 平素から
81 人々の交流や憩いの場となっている。
82
83 C神社には神職が常駐しておらず、
84 日々のお祀(まつ)りは
85 集会所の管理と併せて、
86 A町内会の役員が持ち回りで行っている。
87
88 年2回行われるC神社の祭事で
89 は、
90 近隣から派遣された宮司が祝詞をあげるなど、
91 神道方式により神事が行われるほか、
92 集落に伝
93 えられてきた文化である伝統舞踊が、
94 神事の一環として披露される。
95
96 祭事の準備・執行・後始末な
97 どを担当しているのは、
98 A町内会の会員である住民である。
99
100 住民の中にはC神社の氏子としての意
101 識が強い者もいれば弱い者もいるが、
102 住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と
103 認識している。
104
105
106 D教の熱心な信者であるXは、
107 旅行中にA集落の風景が大変気に入り、
108 A集落内に定住すること
109 とした。
110
111 Xは、
112 生活道路・下水道の清掃、
113 ごみ収集所の管理、
114 B市の「市報」等の配布について
115 は、
116 日常生活に不可欠であり、
117 A集落に住む以上はA町内会に加入せざるを得ないと思っている。
118
119
120 しかしC神社の祭事挙行のために町内会費が使われることは、
121 金額の多寡にかかわらず、
122 D教徒で
123 あるXとしては、
124 到底認められない。
125
126 そこで、
127 町内会に加入するに当たり「祭事挙行費を町内会
128 の予算から支出する慣行をなくしてほしい、
129 もしそれが無理なら、
130 祭事挙行費1世帯割合相当の
131 1000円を差し引いた年額7000円のみを会費として納めたい。
132
133 」とA町内会会長に相談を持
134 ち掛けた。
135
136
137 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。
138
139 会員Eは「A町内会は任意の私
140 的団体なのだから、
141 私たちが決めたやり方でいいはずだ。
142
143 」と言い、
144 会員Fは「祭事はA集落の重
145 要な年中行事だ。
146
147 集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、
148 集落に伝えられてきた伝統
149 舞踊も続けられなくなる。
150
151 」と発言した。
152
153 また、
154 氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとっ
155 - 2 -
156
157 て、
158 祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。
159
160 祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるの
161 か。
162
163 」と述べた。
164
165 さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。
166
167 一人一人が都合を言い
168 始めたら話が収まらない。
169
170 」と意見を言うなど、
171 種々様々であった。
172
173 そこでA町内会会長は、
174 知り
175 合いの法律家に、
176 憲法上の問題について意見を求めることにした。
177
178
179
180 〔設問〕
181 あなたが意見を求められた法律家であるとして、
182 以下の及びについて、
183 必要に応じて判例に
184 触れつつ、
185 あなた自身の見解を述べなさい。
186
187
188
189
190 祭事挙行費を町内会の予算から支出することの可否
191
192
193
194 祭事挙行費を予算から支出し得るとして、
195 町内会費8000円を一律に徴収することの可否
196
197 【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録)
198 第260条の2
199
200 町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形
201
202 成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。
203
204 )は、
205 地域的な共同活動を円滑に行
206 うため市町村長の認可を受けたときは、
207 その規約に定める目的の範囲内において、
208 権利を有し、
209 義
210 務を負う。
211
212
213 ABCD
214 E
215
216 (略)
217
218 第一項の認可は、
219 当該認可を受けた地縁による団体を、
220 公共団体その他の行政組織の一部とする
221 ことを意味するものと解釈してはならない。
222
223
224
225 (以下略)
226
227 - 3 -
228
229 [行政法]
230 Xは、
231 Y県A市の郊外において多数の農地がまとまって存在する地域(以下「本件地域」とい
232 う。
233
234 )内にある土地を所有している(以下、
235 Xが所有する土地を「甲土地」という。
236
237 )。
238
239 本件地域
240 は、
241 北東から南西に向かって緩やかに下る地形をなしており、
242 多くは田として利用されている。
243
244 X
245 は、
246 甲土地の北東部分に木造平屋建ての住宅(以下「本件住宅」という。
247
248 )を建築してそこで居住
249 するとともに、
250 甲土地のその他の部分を畑(以下「本件畑」という。
251
252 )として耕作し、
253 根菜類を栽
254 培している。
255
256 本件畑は、
257 農業用の用排水路に接続していないものの、
258 本件地域には、
259 高い位置にあ
260 る田から低い位置にある田に向かって自然に水が浸透し流下するという性質があるため、
261 本件畑の
262 耕作条件は良好であった。
263
264 Xは、
265 本件畑で育てた野菜の販売により収入を得ることによって、
266 生活
267 を営んできた。
268
269
270 Bは、
271 本件地域内に複数の農地を所有しており、
272 それらの農地の中には、
273 甲土地の南側に接する
274 土地(以下「乙土地」という。
275
276 )及び西側に接する土地(以下「丙土地」という。
277
278 )がある。
279
280 B及
281 び土木建築会社Cは、
282 乙土地を宅地として売り出すことを計画し、
283 Cは、
284 令和5年10月下旬頃か
285 ら乙土地の造成工事(以下「本件造成工事」という。
286
287 )に着手した。
288
289 本件造成工事は、
290 乙土地のう
291 ち本件畑に接する部分の地下にコンクリートの基礎を築き、
292 その上にコンクリート製擁壁を設置し
293 て、
294 同擁壁の上端まで造成土を入れるというものであった。
295
296 同年11月半ば頃には本件造成工事が
297 完成し、
298 乙土地の地表面は本件畑の地表面より40センチメートルほど高くなった。
299
300
301 B及びCは、
302 令和5年11月15日、
303 乙土地をCの資材置場にするという名目で、
304 農地法第5条
305 第1項に基づき、
306 同法にいう「都道府県知事等」に該当するY県知事に対して、
307 乙土地にCの賃借
308 権を設定することの許可を求める旨の申請(以下「本件申請」という。
309
310 )をした。
311
312 提出された許可
313 申請書には、
314 土地造成及び工事の着手時期が令和6年1月10日であることが記載されており、
315 付
316 近の土地等の被害を防除する施設については記載がなかった。
317
318 本件造成工事によって造成された土
319 地の面積は、
320 同申請書に記載された土地造成の所要面積に合致するものであった。
321
322
323 Xは、
324 令和5年11月20日、
325 Y県の担当部局に赴き、
326 本件造成工事によって本件畑の排水に支
327 障が生じると主張して復旧を求めた。
328
329 Y県の担当者Dは、
330 B及びCに対し、
331 本件畑の排水に支障を
332 生じさせないための措置を採ることを指導し、
333 Bは、
334 丙土地上に、
335 本件畑の南西角から西に向かう
336 水路を設けた。
337
338 この水路は、
339 排水に十分な断面が取られておらず、
340 勾配も十分なものではなかった
341 が、
342 Dは、
343 目視による短時間の確認を行っただけで、
344 Bが指導に従って措置を採ったと判断した。
345
346
347 Dの報告を受けたY県知事は、
348 農地法第5条第2項第4号にいう「周辺の農地(中略)に係る営農
349 条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には当たらないと認定して、
350 令和6年1月9
351 日、
352 本件申請を許可する処分(以下「本件処分」という。
353
354 )をした。
355
356
357 令和6年5月頃、
358 本件畑は、
359 付近の田に入水がされた際に冠水するようになった。
360
361 特に本件畑の
362 南側部分の排水障害は著しく、
363 同部分では常に水がたまり、
364 根菜類の栽培ができない状態になって
365 いる。
366
367 本件畑の排水を改善するために、
368 本件畑に盛土をしてかさ上げをする工事を行う場合、
369 その
370 費用(以下「本件費用」という。
371
372 )は120万円余と見込まれている。
373
374 同年6月の時点において、
375
376 本件住宅に関する損害は発生していないが、
377 Xは、
378 本件住宅の床下が浸水による被害を受けるおそ
379 れもあると考えている。
380
381
382 Xは、
383 法的措置として、
384 令和6年6月中に本件処分の取消訴訟(以下「本件訴訟1」という。
385
386 )
387 を提起するとともに、
388 本件処分によって本件費用相当額の損害が発生したことを理由とする国家賠
389 償請求訴訟(以下「本件訴訟2」という。
390
391 )及びY県知事がCに対して農地法第51条第1項に基
392 づく原状回復の措置命令をすることを求める義務付け訴訟(以下「本件訴訟3」という。
393
394 )を提起
395 することを検討している。
396
397
398 以上を前提として、
399 以下の設問に答えなさい。
400
401 また、
402 農地法の抜粋を【資料】として掲げるの
403
404 - 4 -
405
406 で、
407 適宜参照しなさい。
408
409 なお、
410 【資料】に掲げられていない同法の規定については、
411 考慮しなくて
412 よい。
413
414
415 〔設問1〕
416 ]は、
417 本件訴訟1における原告適格についてどのような主張をすべきか、
418 検討しなさい。
419
420
421 〔設問2〕
422 Xが本件訴訟1における原告適格を有することを前提として、
423 以下の各小問に答えなさい。
424
425
426
427
428 Xは、
429 本件訴訟2において、
430 国家賠償法第1条第1項の「違法」及び「過失」についてど
431 のような主張をすべきか、
432 検討しなさい。
433
434
435
436
437
438 Xは、
439 本件訴訟3において、
440 行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51
441 条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか、
442 検討しなさ
443 い。
444
445
446
447 - 5 -
448
449 【資料】
450 〇
451
452 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋)
453
454 (農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
455 第3条
456
457 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、
458 又は(中略)賃借権若しくはその他の使用及
459
460 び収益を目的とする権利を設定し、
461 若しくは移転する場合には、
462 政令で定めるところにより、
463 当
464 事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
465
466 (以下略)
467 一〜十六
468 2〜6
469
470 (略)
471
472 (略)
473
474 (農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限)
475 第5条
476
477 農地を農地以外のものにするため(中略)、
478 これらの土地について第3条第1項本文に掲げ
479
480 る権利を設定し、
481 又は移転する場合には、
482 当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならな
483 い。
484
485 (以下略)
486 一〜七
487 2
488
489 (略)
490
491 前項の許可は、
492 次の各号のいずれかに該当する場合には、
493 することができない。
494
495 (以下略)
496 一〜三
497 四
498
499 (略)
500
501 申請に係る農地を農地以外のものにすること(中略)により、
502 土砂の流出又は崩壊その他の災
503 害を発生させるおそれがあると認められる場合、
504 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼ
505 すおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地(中略)に係る営農条件に支障を生ずる
506 おそれがあると認められる場合
507
508 五〜八
509 3〜5
510
511 (略)
512 (略)
513
514 (違反転用に対する処分)
515 第51条
516
517 都道府県知事等は、
518 (中略)次の各号のいずれかに該当する者(以下この条において「違
519
520 反転用者等」という。
521
522 )に対して、
523 土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益
524 を衡量して特に必要があると認めるときは、
525 その必要の限度において、
526 第4条若しくは第5条の
527 規定によつてした許可を取り消し、
528 その条件を変更し、
529 若しくは新たに条件を付し、
530 又は工事そ
531 の他の行為の停止を命じ、
532 若しくは相当の期限を定めて原状回復その他違反を是正するため必要
533 な措置(中略)を講ずべきことを命ずることができる。
534
535
536 一
537
538 第4条第1項若しくは第5条第1項の規定に違反した者又はその一般承継人
539
540 二、
541 三
542 四
543 2〜5
544
545 (略)
546
547 偽りその他不正の手段により、
548 第4条第1項又は第5条第1項の許可を受けた者
549 (略)
550
551 - 6 -
552
553