1 論文式試験問題集
2 [刑法・刑事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [刑
7
8 法]
9
10 以下の事例に基づき、
11 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16 1
17
18 甲(20歳、
19 男性)は、
20 自宅から道のり約1キロメートルにあるX駅構内の居酒屋において、
21
22 某年7月1日午後7時から友人乙(20歳、
23 男性)と飲食する約束をしていたため、
24 同日午後6
25 時40分頃、
26 自宅を出発した。
27
28
29
30 2
31
32 甲は、
33 X駅に向かって人通りの少ない路上を歩いていたところ、
34 同日午後6時45分頃、
35 甲の
36 約10メートル前を歩いていたA(30歳、
37 男性)がズボンの後ろポケットから携帯電話機を取
38 り出した際、
39 同ポケットに入れていたコインケース(縦横の長さがそれぞれ約10センチメート
40 ルのもの。
41
42 以下「本件ケース」という。
43
44 )を路上(以下「第1現場」という。
45
46 )に落としたこと
47 に気付いた。
48
49
50 Aは、
51 同日午後6時40分頃、
52 仕事を終え、
53 自己の携帯電話機及び本件ケースをズボンの後ろ
54
55 ポケットに入れて勤務先を出発し、
56 X駅に向かっていたが、
57 急いでいたため本件ケースを落とし
58 たことに気付かなかった。
59
60
61 甲は、
62 本件ケースが自己の好みのものであったため、
63 このままAが気付かなければ、
64 本件ケー
65 スを自己のものにしようと考え、
66 第1現場にとどまってAの様子を注視していたところ、
67 Aが第
68 1現場の先にある交差点を右折し、
69 同交差点付近の建物によりAの姿が隠れて見えなくなったこ
70 とを確認した。
71
72
73 そのため、
74 甲は、
75 本件ケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れ、
76 再びX駅に向かっ
77 た。
78
79
80 甲が本件ケースを拾い上げたのは、
81 Aが本件ケースを落としてから約1分後であった。
82
83
84 Aは、
85 甲が本件ケースを拾い上げた時点で、
86 第1現場から道のり約100メートルの地点にお
87 り、
88 同地点と第1現場との間には建物があるため相互に見通すことができなかったが、
89 同地点か
90 ら上記交差点方向に約20メートル戻れば第1現場を見通すことができた。
91
92
93 Aは、
94 同日午後6時55分頃、
95 第1現場から道のり約700メートルのX駅に到着し、
96 間もな
97 く本件ケースを落としたことに気付き、
98 勤務先からX駅までの道中で落としたのではないかと考
99 えて、
100 本件ケースを探しながらX駅から第1現場を経由して勤務先まで戻ったが、
101 本件ケースが
102 見当たらなかったため、
103 本件ケースを紛失した旨を警察官に届け出た。
104
105
106 3
107
108 甲は、
109 上記居酒屋に徒歩で向かったところ、
110 X駅まで道のり約500メートルのコンビニエン
111 スストア(以下「本件店舗」という。
112
113 )前の歩道(以下「第2現場」という。
114
115 )において、
116 ガー
117 ドレールに沿って駐輪された3台の自転車のうちの1台(以下「本件自転車」という。
118
119 )が新品
120 に近い状態である上に無施錠であることに気付いた。
121
122
123 本件店舗には専用の自転車置場がなかったが、
124 第2現場は、
125 自転車が駐輪できる相当程度のス
126
127 ペースがあり、
128 事実上、
129 本件店舗を含む付近店舗利用客の自転車置場として使用されていた。
130
131
132 本件自転車の所有者B(25歳、
133 男性)は、
134 本件店舗を利用してからX駅構内にある書店に立
135 ち寄って参考書を購入したいと考えていたものの、
136 X駅付近にある有料自転車置場の料金を支払
137 うことが惜しくなった。
138
139
140 そのため、
141 Bは、
142 第2現場に本件自転車を駐輪したまま徒歩で上記書店に行き、
143 同日午後8時
144 頃には本件自転車を取りに戻ろうと考え、
145 同日午後6時15分頃、
146 本件自転車を第2現場に駐輪
147 した。
148
149 その際、
150 Bは、
151 本件自転車の施錠を失念した。
152
153 Bは、
154 本件店舗に立ち寄った後、
155 同日午後
156 6時20分頃、
157 第2現場に本件自転車を駐輪したまま上記書店に向かった。
158
159
160 甲は、
161 本件自転車が本件店舗を含む付近店舗の利用客が駐輪したものであると考えたが、
162 上記
163 居酒屋まで歩くことが面倒になり、
164 本件自転車を足代わりにして乗り捨てようと考え、
165 同日午後
166
167 - 2 -
168
169 6時50分頃、
170 本件自転車を持ち去った。
171
172
173 Bは、
174 甲が本件自転車を持ち去った時点で上記書店におり、
175 同日午後8時頃、
176 第2現場に戻っ
177 たが、
178 本件自転車が見当たらなかったため、
179 本件自転車が盗まれたと考え、
180 その旨を警察官に届
181 け出た。
182
183
184 4
185
186 甲は、
187 上記居酒屋に向かっていた際、
188 自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転して
189 いたため、
190 甲の前方を歩いていたC(30歳、
191 男性)の存在に気付かず、
192 Cに接触しそうになっ
193 た。
194
195 甲は、
196 Cから「気を付けろよ。
197
198 」と注意されたことで逆上し、
199 本件自転車から降り、
200 同日午
201 後6時55分頃、
202 Cの顔面を拳で数回殴った上、
203 Cの腹部を足で数回蹴った。
204
205
206 甲は、
207 ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、
208 乙に対し、
209 「こいつが俺に説教してきた
210 から痛め付けてやった。
211
212 お前も一緒に痛め付けてくれ。
213
214 」と言った。
215
216
217 乙は、
218 Cの顔面が腫れていた上、
219 Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、
220 甲
221 の言うとおり、
222 甲がCに暴行を加えたと認識した。
223
224
225 乙は、
226 勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、
227 Cが逃げたり抵抗したりす
228 る様子がなかったことから、
229 この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、
230 ストレスを解消した
231 いと考え、
232 甲に対し、
233 「分かった。
234
235 やってやる。
236
237 」と言って、
238 同日午後7時頃、
239 Cの頭部を拳で
240 数回殴った上、
241 Cの腹部を足で数回蹴った。
242
243
244 甲は、
245 乙がCに暴行を加えている間、
246 その様子を間近で見ていたが、
247 乙と共にCに暴行を加え
248 ることはなかった。
249
250
251 甲及び乙は、
252 気が済んだため、
253 その場にCを残し、
254 本件自転車を乗り捨てて上記居酒屋に徒
255 歩で向かった。
256
257
258 Cは、
259 甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。
260
261
262 Cは、
263 乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。
264
265
266 Cは、
267 全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、
268 同傷害は、
269 甲がCの腹部を蹴った
270 暴行から生じたのか、
271 乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、
272 甲の同
273 暴行及び乙の同暴行は、
274 いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。
275
276
277
278 - 3 -
279
280 [刑事訴訟法]
281 次の【事例】を読んで、
282 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
283
284
285 【事例】
286 1
287
288 令和6年2月2日午後10時頃、
289 A(30歳代、
290 女性)は、
291 H県I市J町内を歩いていたとこ
292 ろ、
293 背後から黒色の軽自動車に衝突された。
294
295 Aが路上に転倒すると、
296 すぐに同車から男性が降りて
297 きて、
298 「大丈夫ですか。
299
300 」と声を掛けながらAに歩み寄り、
301 立ち上がろうとしたAの顔面を拳で1
302 回殴り、
303 Aが手に持っていたハンドバッグを奪い取った上で、
304 直ちに同車に乗り込んでその場から
305 逃走した(以上の事件を、
306 以下【事件@】という。
307
308 )。
309
310 このとき、
311 Aは、
312 同車のナンバーを目視し
313 た。
314
315
316
317 2 同日午後11時頃、
318 B(50歳代、
319 男性)は、
320 同市K町内を歩いていたところ、
321 背後から黒色の
322 軽自動車に衝突された。
323
324 Bが路上に転倒すると、
325 すぐに同車から男性が降りてきて、
326 「怪我はあり
327 ませんか。
328
329 」と声を掛けながらBに歩み寄り、
330 倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに
331 手を掛けたが、
332 付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、
333 直ちに同車に乗り込んで
334 その場から逃走した(以上の事件を、
335 以下【事件A】という。
336
337 )。
338
339 このとき、
340 B及びXは、
341 同車の
342 ナンバーを目視することができなかった。
343
344
345 なお、
346 【事件@】と【事件A】の現場は、
347 約3キロメートル離れていたが、
348 いずれも、
349 一戸建て
350 の民家が建ち並ぶ住宅街で、
351 夜間は交通量及び人通りが少ない場所であった。
352
353
354 3 同日以降、
355 【事件@】の犯行に使用された車のナンバーに合致する軽自動車の名義人であった甲
356 に対する捜査が開始され、
357 所要の捜査の結果、
358 甲は、
359 【事件@】については強盗罪、
360 【事件A】に
361 ついては強盗未遂罪により起訴された。
362
363
364 4 公判において、
365 甲及び甲の弁護人は、
366 【事件@】については争わず、
367 金品を奪取する目的でAに
368 軽自動車を衝突させたことなどを認め、
369 裁判所は、
370 証拠調べの結果、
371 【事件@】について、
372 甲に強
373 盗罪が成立するとの心証を得た。
374
375
376 〔設問1〕
377 甲及び甲の弁護人は、
378 【事件A】について、
379 甲が犯人であることを否認したとする。
380
381 その場合、
382 甲
383 が【事件@】の犯人であることを、
384 【事件A】の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用
385 いることができるかについて論じなさい。
386
387
388 〔設問2〕
389 甲及び甲の弁護人は、
390 【事件A】について、
391 甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、
392 金品奪
393 取の目的を否認したとする。
394
395 その場合、
396 【事件@】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、
397 【事
398 件A】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論
399 じなさい。
400
401
402
403 - 4 -
404
405