1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 1.本問は、
4 架空の法律(原案)を素材に、
5 職業選択の自由及び営利表現の自由の制約の憲法
6 適合性について問うものである。
7
8 いずれも憲法上の権利が争点となる訴訟及びその学習にお
9 いて大きなウェイトを占める権利であり、
10 これらの権利の制約をめぐっては参考となり得る
11 多くの事例が存在する。
12
13 本問では、
14 直接には、
15 訴訟ではなく立法過程において憲法上の疑義
16 を払拭し、
17 より憲法適合的な法案とするための憲法論を展開することが求められているが、
18
19 設問文で指示されているように「参照に値する事例」に言及する必要があり、
20 それを踏まえ
21 て立論すべきである。
22
23
24 2.規制@は、
25 飼い主や販売業者等による犬猫の遺棄や、
26 犬猫シェルターへのやむを得ない理
27 由のない持込みの増加への懸念に対応するために、
28 人と動物の共生する社会の実現という目
29 的で、
30 犬又は猫の販売業について、
31 免許制を導入するものである。
32
33 憲法第22条第1項の保
34 障する職業選択の自由には狭義の職業選択の自由と職業遂行の自由とが含まれる(薬事法事
35 件(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁))と解されるところ、
36 規制@は
37 犬猫の販売業に免許制を導入するものであって、
38 狭義の職業選択の自由の制限に該当すると
39 言えそうである。
40
41 しかし、
42 規制対象は犬又は猫に限定されているため、
43 職業=「動物の販売」
44 と捉えれば職業遂行の自由の制限と見ることも可能である。
45
46
47 職業の自由に対する規制措置は多種多様な形をとることから、
48 過去の裁判例では、
49 規制の
50 目的、
51 必要性、
52 内容、
53 これによって制限される職業の自由の性質、
54 内容及び制限の程度を検
55 討し、
56 比較考量した上で慎重に決定される必要があり、
57 その検討を行うのは第一次的には立
58 法府の権限と責務であるため、
59 立法府の判断が合理的な裁量の範囲にとどまる限り、
60 立法政
61 策上の問題としてその判断を尊重すべきとし、
62 裁判所は、
63 具体的な規制の目的、
64 対象、
65 方法
66 等の性質と内容に照らして、
67 これを決定すべきとしてきた。
68
69 かつては規制目的に着目して審
70 査基準を使い分ける規制目的二分論が有力であったが、
71 本件法案の規制目的は消極目的でも
72 積極目的でもないことから、
73 規制目的のみに着目して審査基準を設定することはできない。
74
75
76 その上で、
77 規制@を狭義の職業選択の自由そのものに制約を課すものと見る場合、
78 薬事法
79 事件で示された、
80 狭義の職業選択の自由の規制は「職業の自由に対する強力な制限であるか
81 ら、
82 その合憲性を肯定し得るためには、
83 原則として、
84 重要な公共の利益のために必要かつ合
85 理的な措置であることを要」するとの枠組みを踏まえることがまずは求められる。
86
87 薬事法事
88 件では、
89 さらに、
90 消極的・警察的措置であることを挙げて「よりゆるやかな制限・・・・・・によ
91 つては・・・・・・目的を十分に達成することができないと認められることを要する」との基準が
92 示されたが、
93 規制@は先述のように消極目的規制や積極目的規制の枠に分類できないもので
94 あり、
95 規制目的二分論の論理をそのまま用いることはできない。
96
97 具体的に権利制限の重大性
98 や規制の性質等に照らした判断が必要となる。
99
100
101 また、
102 職業選択の自由の制約は、
103 職業を行う条件として一定の個人的な資質や能力を要求
104 する場合(主観的制限)と、
105 当該職業を行おうとする者の個人的な資質や能力には関わらな
106 い基準による場合(客観的制限)とに大別できる。
107
108 学説には、
109 後者は前者以上の審査密度の
110 下で正当化されるべきであると唱えるものがある。
111
112 本件法案骨子の第2のうち、
113 1の要件は
114 主観的制限に当たるものであり、
115 この学説の考え方によれば、
116 審査密度は相対的に低いもの
117 で足りる。
118
119 当該要件は、
120 既存業者にとって、
121 施設の改修・変更が必要となることから、
122 その
123 負担次第では廃業も選択肢に入るものであり、
124 重い権利制限を伴う規制といい得るものの、
125
126 諸外国や専門家の意見を踏まえて設定されており、
127 犬猫の適正な取扱いとの関連性があるこ
128 とから、
129 いずれも適合性・必要性を認めることは難しくない。
130
131
132 これに対し、
133 本件法案骨子の第2のうち、
134 2及び3の要件は、
135 需給均衡のため、
136 ないし犬
137 猫シェルターの安定的運営のために設けられた客観的制限による規制であり、
138 前記学説によ
139
140 - 1 -
141
142 ればその正当化はより厳密な審査の下でなされる必要がある。
143
144 また、
145 薬事法事件が前記のよ
146 うに厳密な手段審査を行ったことを距離制限が客観的制限であることと結び付けて理解する
147 見方もあり、
148 その立場からすれば、
149 本件法案骨子の第2のうち、
150 2及び3の要件も同様の基
151 準で審査されるべきと主張することが可能である。
152
153
154 これに対し、
155 規制@を職業遂行の自由の制約と捉える場合には、
156 合憲性の推定はより強く
157 働く。
158
159 しかし、
160 本件の立法事実によれば、
161 規制対象となる犬又は猫は、
162 ペットとして飼養さ
163 れている動物の約半数を占めている。
164
165 そのため、
166 職業遂行の自由の制約であっても、
167 制限の
168 程度が甚だしいとして審査密度を上げるべきとの主張をなすことが考えられる。
169
170 この点、
171 薬
172 事法施行規則による医薬品インターネット販売規制に係る事件(最判平成25年1月11日
173 民集67巻1号1頁)及び「医薬品、
174 医療機器等の品質、
175 有効性及び安全性の確保等に関す
176 る法律」による要指導医薬品の対面販売規制に係る事件(最判令和3年3月18日民集75
177 巻3号552頁)が参考になるだろう。
178
179 前者は施行規則が委任の範囲を逸脱した違法なもの
180 であると認定した判決であるが、
181 その前提として、
182 当該施行規則により新たにインターネッ
183 トを通じた郵便等販売が禁止された医薬品が広範に及ぶことから、
184 規制が「郵便等販売をそ
185 の事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約する」としたのに対して、
186 後者は、
187
188 要指導医薬品の市場規模が1%に満たない僅かなものであることなどから「職業活動の内容
189 及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより、
190 その制限の程度が大きいとい
191 うこともできない」と断じている。
192
193
194 さらに、
195 審査基準を設定した上での具体的検討に際しては、
196 客観的制限といった特定の要
197 素のみで結論を導出することなく、
198 当該事例での制約の程度や権利の内容等を総合して審査
199 することが求められよう。
200
201 本件法案骨子の第2の3は、
202 本件法案骨子の第2の2と異なり、
203
204 犬猫の販売業には直接関係のない要件である。
205
206 その審査に際して、
207 いわゆるLRAの審査等
208 の規制手段としての必要性を問題にして結論を出すだけではなく、
209 問題視されている社会的
210 状況と規制の不存在との間に合理的な因果関係があるといえるのかについて、
211 設定した審査
212 基準の審査密度に応じて論じることにより論証を補強することも考えられよう。
213
214 これについ
215 ても薬事法事件において、
216 薬局開設の自由化により生じると主張された不良薬品の供給の危
217 険性について、
218 その因果関係が合理的に裏付けられるかについて検討されていたことが参考
219 になる。
220
221
222 3.規制Aは、
223 犬猫の販売業における広告へのイラスト、
224 写真及び動画の使用の禁止である。
225
226
227 規制Aは典型的な営利広告の自由の規制である。
228
229 規制Aは、
230 販売物の販売方法に関する規制
231 とみれば憲法第22条第1項との適合性が問題となるが、
232 広告を一種の表現とみれば、
233 又は、
234
235 販売場における写真等の掲出に着目すれば、
236 表現の自由に対する規制と捉えることも可能で
237 ある。
238
239
240 表現の自由は、
241 一般には、
242 いわゆる二重の基準論によってその規制の合憲性は厳格に審査
243 しなければならないとされるが、
244 営利表現の場合には、
245 自己統治の価値との関連性が希薄で
246 あることや萎縮効果に乏しいこと、
247 裁判所の審査能力の点から必ずしも厳格な審査を要求す
248 るものではないとする見解もある。
249
250 先例としては、
251 あん摩師等法による灸の適応症広告事件
252 (最大判昭和36年2月15日刑集15巻2号347頁)が挙げられるが、
253 ここでは誇大広
254 告等による弊害を未然に防止するためにやむを得ない措置であるとして精緻な審査基準を示
255 すことなく合憲の結論が導かれている。
256
257 これに対し学説は、
258 合法的活動に対する真実で誤解
259 を生まない表現の場合には、
260 主張される規制利益が実質的で、
261 規制がその利益を直接促進し
262 ており、
263 その利益を達成するために必要以上に広汎でないこと、
264 という基準で審査すべきと
265 するものが有力である。
266
267
268 灸の適応症広告事件は、
269 広告掲載事項をごく限定したものであり、
270 規制Aの広告規制と共
271 通点を持つが、
272 同事件で規制目的とされた誇大広告等による弊害の防止は、
273 実際に販売する
274
275 - 2 -
276
277 犬又は猫の写真を含めて広告への掲載を禁止する規制Aの規制目的とは異なる。
278
279 そのため、
280
281 真実の表現についての規制がどこまで正当化されるかを慎重に検討する必要がある。
282
283
284 〔第2問〕
285 本問は、
286 都市再開発法(以下「法」という。
287
288 )に基づく組合施行の第一種市街地再開発事業
289 を巡る紛争に関して、
290 第三者である隣接市の立場に立って、
291 本件事業計画変更認可の処分性(行
292 政事件訴訟法第3条第2項)及びその違法性、
293 並びに本件事業計画変更認可と権利変換処分と
294 の間の違法性の承継の各検討を求めるものである。
295
296
297 〔設問1〕は、
298 市街地再開発組合の事業計画の変更の認可の処分性について、
299 これを肯定
300 する立論を求める問題である。
301
302 定款と事業計画を対象とする市街地再開発組合の設立の認可(以
303 下「組合設立認可」という。
304
305 )については、
306 事業施行権限を付与された強制加入団体を成立せ
307 しめる行為であることを理由に土地区画整理組合の設立の認可の処分性を肯定した最判昭和6
308 0年12月17日民集39巻8号1821頁と同様の考え方から処分性を肯定することができ
309 るものと考えられる。
310
311 それに対して、
312 本問では強制加入団体が既に設立されており、
313 新たに加
314 入させられる者もいない。
315
316 そこで、
317 組合設立認可が強制加入以外の点で国民の権利義務、
318 法的
319 地位にいかなる法的効果を及ぼすのか、
320 次いで事業計画の変更の認可が国民の権利義務、
321 法的
322 地位にいかなる法的効果を及ぼすのかが問題となる。
323
324
325 最判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁及び最判平成20年9月10日民集6
326 2巻8号2029頁は、
327 いずれも地方公共団体が施行する第二種市街地再開発事業又は土地区
328 画整理事業における事業計画決定の処分性を認めたものであり、
329 本問で提示した事案とは異な
330 る。
331
332 しかし、
333 両判例の事案における事業計画も、
334 本問における事業計画も、
335 一定の区域内の土
336 地に対する権利を、
337 換地であれ、
338 権利変換であれ、
339 強制的に異質なものに変化させるための事
340 業の内容を示すものであり、
341 このことが一連の事業プロセスの出発点となっている点では共通
342 している。
343
344 したがって、
345 上記両判例を手掛かりにした論述が求められる。
346
347 すなわち、
348 @本件に
349 おける事業計画は施行地区を定め、
350 再開発ビルの設計を示すものであり、
351 当該事業の施行によ
352 って施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて一定の限度で具体的に
353 予測することが可能となること、
354 A第一種市街地再開発事業に係る組合設立認可が公告される
355 と権利変換手続が開始され、
356 権利変換を希望しない旨の申出をした者を除き、
357 特段の事情のな
358 い限り、
359 施行地区内の宅地所有者等に対して、
360 権利変換処分が当然に行われることになること、
361
362 さらにB施行地区内の宅地所有者等は、
363 認可の公告の日から起算して30日以内に、
364 金銭の給
365 付を受けて施行地区外へ転出するか、
366 又は新たに建築される施設建築物等に関する権利を取得
367 するかの選択を余儀なくされること、
368 Cしたがって、
369 施行地区内の宅地所有者等は、
370 組合設立
371 認可により、
372 市街地再開発事業の手続に従って権利変換処分を受けるべき地位に立たされるこ
373 ととなり、
374 その意味でその法的地位に直接的な影響が生じていることについて、
375 論述が求めら
376 れる。
377
378 以上を根拠として、
379 まずは、
380 本件における事業計画が施行地区内の宅地所有者等の権利
381 ないし法的地位に対して有する法的効果を手掛かりに組合設立認可に処分性を認めることがで
382 きる。
383
384 事業計画の変更の認可は、
385 以上のようにして成立する施行地区内の宅地所有者等の権利
386 ないし法的地位を、
387 何らかの形で直接的に変動させるという意味で、
388 直接的な(個別具体的な)
389 法的効果を持つといえる。
390
391 また、
392 新たな施行地区の編入を伴う事業計画の変更にあっては、
393 同
394 変更の認可が公告されると、
395 法第71条第5項により、
396 同条第1項の定める権利変換を希望し
397 ない旨の申出期間につき、
398 同公告があった日が改めて当該期間の起算日となる点でも直接的な
399 (個別具体的な)法的効果を認めることができる。
400
401 本件事業にあっては再開発ビルの設計の概
402 要の変更が伴わない形で施行地区が拡大されるため、
403 個々の組合員に割り当て得る権利床の面
404 積が変化することも、
405 直接的な(個別具体的な)法的効果といえよう。
406
407 以上の諸点から、
408 本件
409 事業計画変更認可にも処分性を認めることができる。
410
411
412
413 - 3 -
414
415 なお、
416 上記平成20年最判は建築行為の制限にも言及しているが、
417 判決の多数意見によれば、
418
419 それは「具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐ」ための手段
420 であるから、
421 それ自体が処分性を肯定する論拠とされているわけではないとの指摘もある。
422
423 し
424 たがって、
425 建築制限の存在は、
426 それが継続的に課され続けることにより市街地再開発事業の手
427 続の進行がより確実なものとなるという意味で、
428 本件事業計画変更認可が本件事業の施行地区
429 内の宅地所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすことを示す事情として言及することが望
430 まれる。
431
432
433 〔設問1〕は、
434 本件事業計画変更認可の違法性の検討を求めるものである。
435
436 【S市都市計
437 画課の会議録】において示唆したように、
438 本件事業計画変更認可には手続的瑕疵がある。
439
440 法第
441 38条第2項によれば、
442 事業計画の変更の認可の申請があった場合には法第16条が適用され
443 るので、
444 同条に従い事業計画の縦覧及び意見書提出手続が履践されなければならない。
445
446 ただし、
447
448 法第38条第2項括弧書きによれば、
449 当該変更が「政令で定める軽微な変更」である場合には、
450
451 上記の手続を行う必要はない。
452
453 【本件の事案の内容】で示した事業計画の変更の内容は、
454 公園
455 の設置に係る設計の概要の変更、
456 及び新たな土地の編入という形での施行地区の変更である。
457
458
459 このように、
460 本件における事業計画の変更は施行地区の変更を含んでいるところ、
461 【資料
462
463 関
464
465 係法令】で挙げた都市再開発法施行令第4条第1項各号に列挙された「軽微な変更」の内容を
466 見ても、
467 施行地区の変更は「軽微な変更」として挙げられていないため、
468 本件における事業計
469 画の変更は、
470 「軽微な変更」には当たらない。
471
472 したがって、
473 法第16条の定める手続を履践し
474 なければ、
475 本件事業計画変更認可には手続的瑕疵があることになる。
476
477 法第16条が定めている
478 手続のうち、
479 少なくとも意見書提出は「当該第一種市街地再開発事業に関係のある土地(中略)
480 について権利を有する者」に認められていることから、
481 それら手続は単なる情報収集にとどま
482 らず、
483 事業によって影響を受ける土地所有者等の権利保護をも目的としたものであるといえる。
484
485
486 そのような趣旨の手続を全く履践しなかったという瑕疵は、
487 本件事業計画変更認可を違法なら
488 しめるものである。
489
490
491 次に、
492 【S市都市計画課の会議録】では、
493 C地区を施行区域に編入する本件都市計画変更が
494 違法であることが示唆されている。
495
496 第一種市街地再開発事業の都市計画決定に処分性が認めら
497 れないこと、
498 したがって、
499 その違法性は後続の処分の違法事由として主張し得ることも会議録
500 中で示されているが、
501 答案ではそのことを本件事業計画変更認可の違法性を検討するための問
502 題の所在を明らかにするために明記した上で、
503 本件都市計画変更の実体的な違法性を検討する
504 必要がある。
505
506 都市計画決定権者は都市計画を決定するについて一定の裁量権を有しているとい
507 い得るが、
508 その裁量権は法令の定めに従って行使されなければならず、
509 第一種市街地再開発事
510 業の都市計画については、
511 都市計画法第13条第1項第13号所定の都市計画基準、
512 及び法第
513 3条各号所定の施行区域の要件を満たす必要がある。
514
515 本問においては、
516 本件都市計画変更がこ
517 れら規定に違反していることを端的に指摘することが求められる。
518
519
520 都市計画法第13条第1項第13号は、
521 市街地開発事業に係る都市計画基準として、
522 「一体
523 的に開発し、
524 又は整備する必要がある土地の区域」であることを求めているが、
525 C地区は、
526 都
527 市計画変更前の施行区域であるB地区とは河川で隔てられており、
528 C地区周辺からB地区側へ
529 は橋が架かっておらず、
530 変更に係る都市計画においても両地区の地理的な接続は予定されてい
531 ないため、
532 B地区と一体的に開発又は整備する必要があるということはできない。
533
534 また、
535 法第
536 3条は施行区域とすることができる土地の区域の要件を定めているが、
537 同条第4号は、
538 当該区
539 域内の土地の高度利用を図ることが当該都市の機能の更新に貢献することを求めている。
540
541 現況
542 が空き地であるC地区を公園として整備しても活発な利用を見込むことはできず、
543 本件事業が
544 施行される地区及びその周辺の都市機能の更新に貢献するということはできない。
545
546 したがって、
547
548 本件都市計画変更は、
549 施行区域要件も満たしていないことになる。
550
551
552 〔設問2〕は、
553 本件事業計画変更認可と本件権利変換処分の間の違法性の承継の検討を求め
554
555 - 4 -
556
557 る問題である。
558
559 違法性の承継の検討は、
560 最判平成21年12月17日民集63巻10号263
561 1頁を手掛かりにして行うことになるが、
562 そこでは違法性の承継を認める要素として、
563 先行処
564 分と後行処分が同一の目的を達成するために行われ、
565 両者が相結合して初めてその効果を発揮
566 するものであること(実体法的観点)と、
567 先行処分の適否を争うための手続的保障がこれを争
568 おうとする者に十分には与えられていないこと(手続法的観点)とが挙げられている。
569
570 そこで、
571
572 本問では、
573 実体法的観点と手続法的観点の双方から、
574 違法性の承継を否定する論拠と肯定する
575 論拠とを列挙した上で、
576 違法性の承継を肯定する立論を行うことが求められている。
577
578
579 実体法的観点に関しては、
580 空間利用の態様の決定である事業計画と、
581 その実現手法である権
582 利変換は趣旨目的を異にしていることが否定論の論拠となろう。
583
584 それに対して、
585 【市街地再開
586 発事業の制度の概要】で説明したように、
587 事業計画のうち設計の概要は再開発ビルの各階の平
588 面図を含むなど、
589 事業計画段階で事業の基本的内容が定められ、
590 権利変換処分はそれを個々の
591 組合員に適用するものであるから、
592 両者は一体として、
593 権利変換という法効果の実現に向けら
594 れている、
595 との論拠により、
596 実体法的観点から違法性の承継を肯定することが考えられる。
597
598
599 手続法的観点からは、
600 違法性の承継を否定する論拠として、
601 新たな事業地区の編入を伴う事
602 業計画変更にあっては申請前に宅地所有者等の3分の2以上の同意を要するとされていること
603 (法第38条第2項、
604 法第14条第1項)や、
605 事業計画変更の申請があった場合の事業計画の
606 縦覧及び意見書提出手続といった手続保障がされていること(法第38条第2項、
607 法第16条)、
608
609 事業計画変更認可があると施行地区の変更内容が公告されること(法第38条第2項、
610 法第1
611 9条第1項、
612 都市再開発法施行規則第11条第3項第2号)といった事情を指摘することが考
613 えられる。
614
615 それに対して、
616 肯定論の論拠としては、
617 問題文の【市街地再開発事業の制度の概要】
618 での「設計の概要」に関する説明に示されているように、
619 事業計画は事業内容を客観的に説明
620 するものであって、
621 それによって宅地所有者等に生じる権利変動の具体的内容は包括的には明
622 らかになっているものの、
623 なお、
624 個々の宅地所有者等に与えられるべき権利床等の詳細は確定
625 には至っていないことや、
626 上記の事業計画の縦覧及び意見書提出手続並びに変更認可の公告の
627 いずれも、
628 施行区域内の宅地所有者等に個別に通知する制度ではないこと、
629 そもそも権利侵害
630 の重大性と比較すると、
631 利害関係人に対する手続的保障は、
632 後行処分の段階での先行処分の違
633 法性の主張を排除するに十分であるとはいえないことといった事情を指摘することが考えられ
634 る。
635
636
637 いずれの設問に関しても、
638 資料として挙げられた関係法令の条文を正確に読み取ることが求
639 められる。
640
641 特に、
642 読み替え規定や政省令への委任規定を正確に読み解き、
643 どの条文が適用され
644 るのかを正確に特定することが求められる。
645
646
647 【民事系科目】
648 〔第1問〕
649 1
650
651 設問1について
652
653
654 設問1は、
655 他人物の賃貸借契約において、
656 賃貸人が死亡して目的物の所有者が賃貸人
657 を単独で相続した事例に基づき、
658 賃借人が、
659 賃貸人の地位を相続した所有者に対し、
660 占有
661 権原として賃借権を主張することの可否についての検討とともに、
662 賃借人が留置権を行使
663 して賃借物の返還を拒むことの可否についての検討を求めるものである。
664
665
666 設問1は、
667 賃貸借の目的である建物に雨漏りが生じた事例に基づき、
668 賃借物の一部の
669 使用収益が不能であることを理由とする賃料減額についての検討とともに、
670 賃借人が修繕
671 権に基づかずに賃借建物の修繕工事を行い、
672 通常の必要費を超える支出をした場合におけ
673 る必要費償還請求権の成否及び額についての検討を求めるものである。
674
675
676
677
678
679 設問1アでは、
680 Cは、
681 下線部において契約@に基づく賃借権を主張しているものと
682 解される。
683
684
685
686 - 5 -
687
688 ア
689
690 最初に、
691 Bの死亡により相続が開始する前には、
692 契約@による賃借権は甲土地の占有
693 権原とならないことを、
694 論じることが求められる。
695
696 契約@は、
697 Bが賃料の支払を受けて
698 A所有の甲土地をCに使用収益させる契約であって、
699 他人物賃貸借に当たる。
700
701 そのため、
702
703 Cは、
704 Bに対して賃借権を主張することができても、
705 甲土地の所有者Aに対しては、
706 賃
707 借権を占有権原として主張することができない。
708
709
710
711 イ
712
713 次に、
714 相続の開始によりAがBの賃貸借契約上の地位や債務を承継した場合にも、
715 こ
716 の点に変わりがないかを、
717 検討することが求められる。
718
719 判例は、
720 他人の権利の売主が死
721 亡し、
722 その権利者において売主を相続した場合につき、
723 権利者は、
724 相続によって売主の
725 義務を承継しても、
726 相続前と同様その権利の移転につき諾否の自由を有し、
727 信義則に反
728 すると認められるような特別の事情がない限り、
729 売主としての履行義務を拒否すること
730 ができるとする(最大判昭和49年9月4日民集28巻6号169頁)。
731
732 本問について
733 も、
734 当該判例で示された考え方を踏まえた検討が期待されている。
735
736
737 まず、
738 Aが、
739 相続により、
740 Bのどのような地位・債務を承継したかを分析することが
741 必要である。
742
743 Bは、
744 契約@に基づき、
745 他人物の賃貸人として、
746 Cに対し、
747 甲土地の所有
748 者Aからその賃貸権限を取得し、
749 賃貸権限に基づいて甲土地を使用収益させる債務を負
750 う(民法第601条、
751 第559条による第561条準用)ところ、
752 Aは、
753 このようなB
754 の地位・債務を相続により承継した(民法第896条)。
755
756
757 次に問われるのは、
758 Aの所有者としての地位との関係である。
759
760 相続開始後も、
761 Aにお
762 いては、
763 甲土地の所有者としての地位と(Bから承継した)賃貸人としての地位が、
764 融
765 合することなく併存する。
766
767 また、
768 相続開始前、
769 Aは、
770 甲土地の所有者として、
771 Bに賃貸
772 権限を与えるか否かを自由に決することができたところ、
773 相続開始後も、
774 Aは、
775 所有者
776 としての地位において、
777 Bから承継した債務の履行(甲土地の使用収益を賃貸権限に基
778 づくものとすること)を拒むことができると解される。
779
780 相続という偶然の事由によって
781 Aが前記の自由を奪われるべき理由はなく、
782 また、
783 Aの拒否によってCが不測の損害を
784 受けることもないからである。
785
786
787 結論として、
788 相続の開始後も、
789 Cは、
790 契約@による賃借権を甲土地の占有権原として
791 主張することができない。
792
793
794
795
796
797 設問1イでは、
798 Cは、
799 下線部において300万円の損害賠償債権を被担保債権とす
800 る留置権(民法第295条)を主張しているものと考えられる。
801
802
803 ア
804
805 まず、
806 被担保債権については、
807 AがCに甲土地の明渡しを請求したことにより、
808 Aが
809 Bから承継した賃貸人としての債務が履行不能になったこと、
810 契約@には賠償額の予定
811 (民法第420条)があること、
812 したがって、
813 Cは、
814 Aに対して、
815 債務不履行による損
816 害賠償(民法第415条第1項)として300万円の被担保債権を有することを、
817 述べ
818 ることが求められる。
819
820
821
822 イ
823
824 次に、
825 物と債権との牽連関係の要件については、
826 その重要性に応じた丁寧な検討が求
827 められる。
828
829 判例は、
830 他人の物の売買における買主は、
831 所有者の目的物返還請求に対し、
832
833 所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権を被担保債権とする留置
834 権を主張することは許されないとし、
835 物と債権との牽連関係を否定する(最判昭和51
836 年6月17日民集30巻6号616頁)。
837
838 本問についても、
839 当該判例を踏まえた検討が
840 期待されている。
841
842
843 他人物の賃貸借における賃借人が、
844 賃借物の所有者から返還請求を受けた場合に、
845 賃
846 貸人の債務の履行不能による損害賠償債権については、
847 物と債権の牽連関係を否定すべ
848 きものと考えられる。
849
850 例えば、
851 前記の判例(前掲・最判昭和51年6月17日)を参照
852 すれば、
853 他人物の賃貸人は、
854 自らの債務が履行不能となっても、
855 目的物の返還を賃借人
856 に請求し得る関係になく、
857 そのため、
858 賃借人が目的物の返還を拒絶することによって損
859
860 - 6 -
861
862 害賠償債務の履行を間接に強制するという関係が生じないことをもって、
863 牽連関係を否
864 定する論拠となし得る。
865
866 また、
867 仮に牽連関係が肯定されるとすれば、
868 賃貸権限のない第
869 三者が目的物を賃貸した行為によって当該目的物の上に留置権が成立することになり、
870
871 目的物の所有者の地位と衝突してしまう。
872
873
874 なお、
875 設例では、
876 相続により賃貸人Bと所有者Aの地位が同一人に帰した後における
877 留置権の成否が問われている。
878
879 しかし、
880 相続の開始という事情は、
881 Aにおいて所有者と
882 しての地位と賃貸人としての地位が併存するものと解する限り、
883 留置権の成否(物と債
884 権の牽連関係の存否)には影響しない。
885
886
887
888
889 設問1アでは、
890 Dは、
891 丙室の使用収益の不能により令和4年9月分の賃料債権が当然
892 減額されたことを理由に、
893 既に支払った同月分の賃料の一部について不当利得返還を請求
894 しているものと考えられる。
895
896
897 まず、
898 賃借物の一部の使用収益の不能による賃料減額(民法第611条第1項)の成否
899 についての検討が必要である。
900
901 Dは、
902 Aから賃借した乙建物のうちの丙室につき、
903 令和4
904 年9月11日から同月30日までの20日間、
905 雨漏りのために使用収益することができな
906 かった。
907
908 したがって、
909 令和4年9月分の賃料は、
910 民法第611条第1項により、
911 丙室が乙
912 建物の使用収益に占める割合及び使用収益を妨げられた日数に応じて当然に減額されるこ
913 とになる。
914
915
916 続いて、
917 不当利得返還請求権の成立を論じることが求められる。
918
919 令和4年9月分の賃料
920 につき、
921 Aは、
922 賃料債権が当然減額されるにもかかわらず全額の支払を受けているのであ
923 るから、
924 不当利得(給付利得)が成立する。
925
926 したがって、
927 Dは、
928 Aに対し、
929 減額分に対応
930 する賃料の返還を請求することができる。
931
932
933
934
935
936 設問1イでは、
937 Dは、
938 必要費償還請求権(民法第608条第1項)に基づき、
939 本件工
940 事のために支出した報酬額30万円の償還を請求しているものと考えられる。
941
942
943 ア
944
945 本件工事は、
946 雨漏りの修繕工事であるから、
947 その報酬の支払は必要費の支出に該当す
948 る。
949
950 もっとも、
951 本件工事はAに無断でされたから、
952 当該事情が何らかの意味を持ち得る
953 かの検討が必要となる。
954
955 本件工事には「急迫の事情」がなく、
956 また、
957 Aに対する事前の
958 「通知」もないため、
959 本件工事はDの修繕権(民法第607条の2)に基づくものとは
960 言えない。
961
962 しかし、
963 民法第607条の2の規定は、
964 同法第608条1項と接続されてお
965 らず、
966 また、
967 同条の趣旨は、
968 専ら、
969 賃借人による賃借物の修繕を賃貸人に対する債務不
970 履行・不法行為でなくするところにある。
971
972 したがって、
973 修繕権に基づかない修繕である
974 場合にも、
975 そのことを理由に、
976 必要費償還請求権が排除され、
977 または償還額が制限され
978 ることにはならない。
979
980
981
982 イ
983
984 また、
985 本件では、
986 Dが支出した費用が相当な報酬額よりも多額であるため、
987 その全額
988 の償還請求を認めてよいかも検討しなければならない。
989
990 通常の額を超える部分は「賃貸
991 人の負担に属する必要費」に当たらないと解されるので、
992 Dの必要費償還請求権は、
993 相
994 当な報酬額20万円を限度とするという結論に至る。
995
996
997
998 ウ
999
1000 民法第607条の2の趣旨については、
1001 上記アに述べた理解のほか、
1002 賃貸人が自ら修
1003 繕する利益の保護にあるとする理解も成り立つ。
1004
1005 この立場からは、
1006 賃借人が修繕権に基
1007 づかないで修繕を行った場合には、
1008 賃借人の必要費償還請求権は賃貸人が自ら修繕を行
1009 ったと仮定した場合の支出額を限度とするものと解される。
1010
1011
1012
1013 2
1014
1015 設問2について
1016 設問2は、
1017 不動産の所有権の取得をめぐる争いを素材として、
1018 基礎事情の錯誤(動機の錯
1019 誤、
1020 事実の錯誤ともいう。
1021
1022 以下同じ。
1023
1024 )による離婚に伴う財産分与の意思表示の取消しの可
1025 否や、
1026 錯誤による意思表示の取消しと第三者の保護といった基本的な問題について正確な理
1027 解をすることができているかどうかを問うとともに、
1028 錯誤による意思表示の取消し前の第三
1029
1030 - 7 -
1031
1032 者が保護を受けるための要件としての登記の要否、
1033 その第三者と表意者から物権の取得をす
1034 る原因を有する者との関係といった応用的な問題について相応の対処をすることができるか
1035 どうかを問い、
1036 あわせて、
1037 問題相互の関係を適切に把握する能力や具体的事実を法的な観点
1038 から適切に評価する能力等を確かめようとするものである。
1039
1040
1041
1042
1043 請求4は、
1044 Iが所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権を行使するものであ
1045 る。
1046
1047 したがって、
1048 請求4が認められるためには、
1049 Iが丁土地の所有者である必要がある。
1050
1051
1052 もっとも、
1053 Gは、
1054 錯誤により丁土地の所有権移転原因である契約Bの意思表示を取り消す
1055 (民法第95条第1項)こととしている(【事実】15)。
1056
1057 このことが認められれば、
1058 契約
1059 Bは、
1060 それにより遡って無効となる(民法第121条)。
1061
1062 無権利者Hからの取得者Iは、
1063
1064 原則として、
1065 丁土地の所有権を取得することができない。
1066
1067
1068 そこで、
1069 Gの錯誤による契約Bの意思表示の取消しが認められるかどうかが問題となる。
1070
1071
1072 この問題に関連する判例として、
1073 最判平成元年9月14日家月41巻11号75頁がある。
1074
1075
1076 ア
1077
1078 離婚に伴う財産分与を内容とする契約Bの意思表示も、
1079 売買契約の意思表示等と同じ
1080 ように、
1081 民法第95条第1項の規定の適用を受ける。
1082
1083
1084
1085 イ
1086
1087 本問では、
1088 Gは、
1089 離婚に伴う財産分与として丁土地をHに譲渡することを内容とする
1090 契約Bの意思表示を、
1091 これに対応する意思をもってしている。
1092
1093 そのため、
1094 Gの錯誤は、
1095
1096 民法第95条第1項第1号の定める錯誤に当たらない。
1097
1098
1099 もっとも、
1100 Gは、
1101 真実に反して、
1102 Gに課税がされないと認識していた(【事実】13及
1103 び15)。
1104
1105 さらに、
1106 Gは、
1107 財産及び収入の状況が悪かった(【事実】12)一方で、
1108 実際に
1109 Gに課税される額は、
1110 300万円程度であった(【事実】15)。
1111
1112 このことを踏まえれば、
1113
1114 民法第95条第1項第2号の「表意者が法律行為の基礎とした事情」の意義については
1115 解釈の余地があるものの、
1116 いずれにせよ、
1117 Gの錯誤は、
1118 同号の定める錯誤、
1119 つまり基礎
1120 事情の錯誤に当たるものと考えられる。
1121
1122
1123
1124 ウ
1125
1126 では、
1127 Gは、
1128 錯誤による契約Bの意思表示の取消しをすることができるのか。
1129
1130
1131
1132 (ア)
1133
1134 基礎事情の錯誤による意思表示の取消しは、
1135 「その事情が法律行為の基礎とされて
1136
1137 いることが表示されていたとき」(以下「基礎事情の表示の要件」という。
1138
1139 )に限り、
1140
1141 これをすることができる(民法第95条第2項)。
1142
1143 平成29年法律第44号による改
1144 正前の民法の下での動機の錯誤に関する判例(最判平成28年1月12日民集70巻
1145 1号1頁等)の理解の仕方については、
1146 争いがあった。
1147
1148
1149 基礎事情の表示の要件については、
1150 さまざまな考え方が示されている。
1151
1152 例えば、
1153 基
1154 礎事情の錯誤による不利益は、
1155 本来は表意者が負担すべきであるという観点を基礎に
1156 据えつつ、
1157 同要件を満たすためには、
1158 表意者が動機となった事情を相手方に一方的に
1159 表示しただけでは足りず、
1160 その事情がなければその内容の意思表示の効力は否定され
1161 ることについて相手方の了解があったことが必要であるとする見解がある。
1162
1163 本問では、
1164
1165 実際にGに課税される額は、
1166 300万円程度であったこと(【事実】15)を踏まえつ
1167 つ、
1168 GがHに対し、
1169 Gの財産及び収入の状況が悪いことを伝えた(【事実】12)上で、
1170
1171 Hに課税されることを気遣う発言をした(【事実】13)こと、
1172 これに対し、
1173 HがHに
1174 課税されるとの理解の下で「私に課税される税金は、
1175 何とかするから大丈夫。
1176
1177 」と応
1178 じたこと(【事実】13)を考慮すれば、
1179 前記の意味でのHの了解まで黙示的にあった
1180 ものと評価することができる。
1181
1182
1183 解答に当たっては、
1184 首尾一貫した論述をしていれば、
1185 どの考え方を採ってもよい。
1186
1187
1188 本問においては、
1189 いずれにせよ、
1190 基礎事情の表示の要件を満たすものと考えられる。
1191
1192
1193 (イ)
1194
1195 本問では、
1196 @Gは、
1197 Gに課税がされるのであれば契約Bの意思表示をしなかった(【事
1198 実】15)ため、
1199 「錯誤に基づ」(民法第95条第1項柱書)いて意思表示がされたこ
1200 との要件(主観的因果関係)を満たす。
1201
1202 また、
1203 AGは、
1204 財産及び収入の状況が悪かっ
1205
1206 - 8 -
1207
1208 た(【事実】12)一方で、
1209 実際にGに課税される額は、
1210 300万円程度であった(【事
1211 実】15)ことを考慮すれば、
1212 その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照
1213 らして重要なものである」(同柱書)ことの要件(客観的重要性)を満たすものと考
1214 えられる。
1215
1216
1217 これらの要件について、
1218 基礎事情の表示の要件(前記(ア))を踏まえた検討がされ
1219 ているものについては、
1220 高い評価が与えられる。
1221
1222 例えば、
1223 前記(ア)で示した考え方に
1224 よれば、
1225 両要件は、
1226 実際には重なるところがあるようにみえるため、
1227 両要件の関係に
1228 ついて検討を行うことが望まれる。
1229
1230
1231 エ
1232
1233 本問では、
1234 GとHとの双方が、
1235 Gに課税がされないとの同一の錯誤に陥っていたもの
1236 と考えられる(【事実】13及び15)。
1237
1238 したがって、
1239 Gの錯誤がGの重大な過失によるも
1240 のであったかどうかにかかわらず、
1241 Gは、
1242 錯誤により契約Bの意思表示を取り消すこと
1243 ができる(民法第95条第3項第2号)。
1244
1245
1246
1247
1248
1249 本問では、
1250 Gが錯誤による契約Bの意思表示の取消しをしたことによって、
1251 Iは、
1252 丁土
1253 地の所有権を取得することができないのが原則である(前記)。
1254
1255 もっとも、
1256 Gは、
1257 民法
1258 第95条第4項の規定により、
1259 その取消しをIに対抗することができないのではないか。
1260
1261
1262 ア
1263
1264 民法第95条第4項の規定は、
1265 取消しの遡及効(民法第121条)によって害され
1266 る第三者、
1267 つまり取消し前の第三者についてしか適用されない(詐欺による意思表示の
1268 取消しに関する大判昭和17年9月30日民集21巻911頁を参照)。
1269
1270 また、
1271 同項の
1272 「第三者」とは、
1273 錯誤の当事者及びその包括承継人以外の者であって、
1274 錯誤による意
1275 思表示によって生じた法律関係について、
1276 新たに法律上の利害関係を有するに至ったも
1277 のをいう(詐欺による意思表示の取消しに関する最判昭和49年9月26日民集28巻
1278 6号1213頁を参照)。
1279
1280 さらに、
1281 同項の「第三者」は、
1282 錯誤による意思表示である
1283 ことについて、
1284 善意無過失でなければならない。
1285
1286
1287 本問において、
1288 Iは、
1289 取消し前に(【事実】14及び15)、
1290 Hから丁土地の所有権
1291 を取得する原因を有するに至っていた(【事実】13)。
1292
1293 また、
1294 Iは、
1295 契約Bの意思表
1296 示がGの錯誤によるものであることについて、
1297 善意無過失であった(【事実】15)。
1298
1299
1300
1301 イ
1302
1303 もっとも、
1304 本問では、
1305 Iは、
1306 丁土地について、
1307 HからIへの所有権移転登記を備えて
1308 いない(【事実】14及び16)。
1309
1310 そこで、
1311 民法第95条第4項の「第三者」は、
1312 明文には
1313 ないものの、
1314 同項の規定により保護を受けるための要件としての登記、
1315 つまり権利保護
1316 資格要件としての登記を備える必要があるかどうかが問題となる。
1317
1318
1319
1320 (ア)
1321
1322 詐欺による意思表示の取消しに関する前掲最判昭和49年9月26日は、
1323 平成29
1324 年法律第44号による改正前の民法第96条第3項の規定について、
1325 同項の「第三者」
1326 を「対抗要件を備えた者に限定しなければならない理由は、
1327 見出し難い。
1328
1329 」としてい
1330 た。
1331
1332 もっとも、
1333 この判例が扱った事案は、
1334 特殊なものであったため、
1335 この判例が権利
1336 保護資格要件としての登記を不要としたものであると理解すべきかどうかについて
1337 は、
1338 争いがある。
1339
1340
1341
1342 (イ)
1343
1344 錯誤による意思表示の取消しについては、
1345 まだ議論が十分にされていない。
1346
1347 解答に
1348 当たっては、
1349 首尾一貫した論述をしていれば、
1350 不要説を採っても、
1351 必要説を採っても
1352 よい。
1353
1354 たとえば、
1355 錯誤に陥った表意者のほうが欺罔された表意者よりも帰責性が大き
1356 い点を考慮するならば、
1357 民法第96条第3項の「第三者」について不要説を採るとき
1358 はもちろん、
1359 必要説を採るときであっても、
1360 民法第95条第4項の「第三者」につい
1361 ては、
1362 不要説を採ることが考えられる。
1363
1364 他方で、
1365 前記の点を考慮したとしても、
1366 この
1367 点は取消しの要件のレベルで考慮されていると捉えるならば、
1368 民法第96条第3項の
1369 「第三者」について必要説を採るときは、
1370 民法第95条第4項の「第三者」について
1371 も必要説を採ることが考えられる。
1372
1373
1374
1375 - 9 -
1376
1377 (ウ)
1378
1379 本問では、
1380 請求4の相手方は、
1381 表意者であるGではない。
1382
1383 そのため、
1384 表意者との関
1385 係において対抗要件としての登記を備えるべきであるかどうかという問題は、
1386 本問で
1387 は論ずる必要がない。
1388
1389
1390
1391
1392
1393 民法第95条第4項の「第三者」について不要説を採るときは、
1394 Iは、
1395 同項の「第三者」
1396 としての保護を受ける。
1397
1398 本問では、
1399 丁土地についてGからHへの所有権移転登記がされて
1400 いる(【事実】13及び16)。
1401
1402 この場合において、
1403 請求4が認められるのか。
1404
1405
1406 ア
1407
1408 この問題については、
1409 (1)Iが民法第95条第4項の「第三者」としての保護を受け
1410 るときは、
1411 錯誤による意思表示の取消しをIに対抗することができなくなる結果、
1412 丁土
1413 地の所有権は、
1414 G→H→Iと移転すると捉える見解と、
1415 (2)この場合であっても、
1416 Gと
1417 Hとの間で締結された契約Bが有効になるわけではないとして、
1418 丁土地の所有権は、
1419 G
1420 →Iと直接に移転すると捉える見解とが考えられる。
1421
1422 (1)のうち、
1423 (1-1)Hが登記を備え
1424 たことによって丁土地の所有権を確定的に取得するため、
1425 Fは、
1426 Gから丁土地の所有権
1427 を取得することができず、
1428 無権利になると理解するならば、
1429 請求4は、
1430 認められる。
1431
1432 こ
1433 れに対し、
1434 (1)のうち、
1435 (1-2)H自身が登記を備えたことによって丁土地の所有権を確定
1436 的に取得したとFに主張することができない以上、
1437 IもそのことをFに主張することが
1438 できないと理解するか、
1439 又は(2)を採るならば、
1440 Iは、
1441 登記を備えなければ、
1442 丁土地の
1443 所有権を取得したことを民法第177条の「第三者」であるFに対抗することができな
1444 い。
1445
1446 そのため、
1447 請求4は、
1448 同条の「第三者」であるFが、
1449 登記を備えるまで丁土地の所
1450 有権を取得したことを認めないと主張したときは、
1451 認められない。
1452
1453
1454 (1-1)を採るときは、
1455 その根拠として、
1456 所有権の登記名義人でないGとの間で契約D
1457 を締結したFは、
1458 保護に値しないことを指摘することが考えられる。
1459
1460 他方で、
1461 (1-2)又
1462 は(2)を採るときは、
1463 その根拠として、
1464 契約BはGにより取り消されている以上、
1465 Fが
1466 保護に値しないとはいえないことや、
1467 (1-1)によれば、
1468 Gから丁土地を買おうとする者
1469 が現れなくなり、
1470 不動産の流通が著しく阻害されることを指摘することが考えられる。
1471
1472
1473
1474 イ
1475
1476 前記アは、
1477 民法第94条第2項の「第三者」の解釈を参考として、
1478 考え方の方向性を
1479 示したものである。
1480
1481 同項の規定に関する最判昭和42年10月31日民集21巻8号2
1482 232頁は、
1483 (2)に準ずる見解を採るものであるとされることがある。
1484
1485 解答にあたって
1486 は、
1487 首尾一貫した論述をしていれば、
1488 どの考え方を採ってもよい。
1489
1490 また、
1491 無効の対抗不
1492 能と取消しの対抗不能との違いを意識した上で、
1493 民法第94条第2項の解釈と民法第9
1494 5条第4項の解釈との関係を検討しているものは、
1495 その検討が説得的なものであれば、
1496
1497 高い評価が与えられる。
1498
1499
1500
1501 〔第2問〕
1502 1
1503
1504 設問1は、
1505 会社法上の公開会社である取締役会設置会社において、
1506 少数株主が裁判所の許
1507 可を得て取締役の解任等を目的とする株主総会を招集するに当たり、
1508 議決権行使書面及び株
1509 主総会参考書類のほかに、
1510 自らが提案する議案に賛成した株主には商品券を贈呈する旨の書
1511 面を株主に交付した場合に生じ得る会社法上の問題についての検討を求めるものである。
1512
1513 小
1514 問1は、
1515 株主総会の開催に法令違反があると考えた監査役が株主総会の開催前に採ることが
1516 できる会社法上の手段の有無の検討を、
1517 小問2は、
1518 株主総会を招集した少数株主が提案した
1519 議案に反対した他の株主がこれを可決した株主総会決議の取消しの訴えを提起した場合にお
1520 いて、
1521 当該他の株主の立場において考えられる主張及びその主張の当否の検討を、
1522 それぞれ
1523 求めるものである。
1524
1525
1526 設問2は、
1527 会社法上の公開会社でない取締役会設置会社において、
1528 特定の株主を締め出す
1529 ために行われた株式併合について、
1530 当該特定の株主がその効力を争うために採ることができ
1531 る会社法上の手段に関し、
1532 その立場において考えられる主張及びその当否の検討を求めるも
1533
1534 - 10 -
1535
1536 のである。
1537
1538
1539 2
1540
1541 設問1について
1542
1543
1544 小問1について
1545 小問1においては、
1546 Dが監査役として少数株主により行われた違法行為の差止めを請求
1547 するための会社法上の手段の有無が問われている(なお、
1548 小問1においては、
1549 少数株主の
1550 行為の違法性の有無自体について論ずることは求められていない。
1551
1552 )。
1553
1554 監査役による違法
1555 行為の差止めについては会社法第385条第1項に規定されているが、
1556 同項は、
1557 取締役の
1558 行為を対象としていることから、
1559 少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する場合
1560 にそのまま直接適用することは難しい。
1561
1562 まずは、
1563 その点を指摘した上で、
1564 同項の適用又は
1565 類推適用の可否を検討することが必要となる。
1566
1567 この点については、
1568 例えば、
1569 少数株主は、
1570
1571 株式会社のために株主総会を招集する権限を付与されているのであって個人の利益のため
1572 にその権限を付与されているわけではないという意味において取締役に準ずる立場にあ
1573 り、
1574 取締役と同様、
1575 適法に株主総会を招集する義務を負っていると考えられることに加え、
1576
1577 同項の適用又は類推適用を認めなければ、
1578 適法性を監査するという監査役の任務を全うす
1579 ることができないことなどを指摘して、
1580 同項の適用又は類推適用を肯定するということも
1581 考えられるであろう。
1582
1583 これに対し、
1584 少数株主と取締役とでは立場が異なることや少数株主
1585 による違法な株主総会の招集を差し止められないことになってもやむを得ないことなどを
1586 指摘して、
1587 同項の適用又は類推適用を否定することも考えられるであろうが、
1588 いずれにし
1589 ても、
1590 少数株主に株主総会を招集する権限が付与されていることや、
1591 少数株主による違法
1592 な株主総会の招集を監査役が差し止めることの必要性などについて、
1593 広く考慮した上で、
1594
1595 Dから相談を受けた弁護士としての回答を検討することが求められる。
1596
1597
1598 なお、
1599 そのほかにも、
1600 別の被保全権利の存在を指摘して仮の地位を定める仮処分命令(民
1601 事保全法第23条第2項)の申立てをするということも考えられないではない。
1602
1603 例えば、
1604
1605 監査役の少数株主に対する妨害排除請求権や株主総会決議の取消しの訴えを本案とする仮
1606 の地位を定める仮処分命令を求めることなどを検討することが考えられるであろうが、
1607 前
1608 者であれば、
1609 そのような権利が存在することを説得的に論ずることが求められるし、
1610 後者
1611 であれば、
1612 仮処分が認められてしまうと本案の対象となる株主総会決議が存在しないこと
1613 となり、
1614 そのような方法が許容されるのかも含めて説得的に論ずることが求められること
1615 となる。
1616
1617
1618
1619
1620
1621 小問2について
1622 小問2においては、
1623 本件決議1について株主総会決議の取消しの訴えを提起したEの立
1624 場において考えられる主張をどのように構成するのかが問われている。
1625
1626 具体的には、
1627 本件
1628 臨時株主総会1を招集した少数株主である乙社が自らの提案する議案に賛成した株主には
1629 商品券を贈呈する旨の本件書面を株主に交付したことなどを踏まえ、
1630 本件決議1が会社法
1631 第831条第1項各号に掲げる場合のいずれに該当するのかを明示して、
1632 株主総会決議取
1633 消事由の有無を検討することが求められる。
1634
1635
1636 まず、
1637 Eとしては、
1638 乙社の行為が「株主の権利の行使に関し、
1639 財産上の利益を供与」す
1640 るものに該当し(会社法第120条第1項)、
1641 株主総会の招集の手続又は決議の方法が法
1642 令に違反するものであった(会社法第831条第1項第1号)と主張することが考えられ
1643 る。
1644
1645 もっとも、
1646 会社法第120条第1項は、
1647 「株式会社」による「当該株式会社又はその
1648 子会社の計算においてする」利益供与を禁止しており、
1649 少数株主が自らの負担によって行
1650 う行為を直接の対象とはしていない。
1651
1652 まずは、
1653 そのことを指摘した上で、
1654 少数株主の行為
1655 に同項を適用又は類推適用することの可否を検討することが必要となる。
1656
1657 この点について
1658 は、
1659 例えば、
1660 同項は、
1661 会社財産の浪費を防止するものであり、
1662 株主によって意思決定がさ
1663 れるべき株式会社が株主の議決権の行使に影響を与えることを禁ずるものであると考える
1664
1665 - 11 -
1666
1667 のであれば、
1668 少数株主が、
1669 自らの負担によって商品券を贈与することにより、
1670 他の株主の
1671 議決権の行使に影響を与えることには問題はないということとなり、
1672 同項の適用又は類推
1673 適用を否定することになろう。
1674
1675 これに対し、
1676 同項は、
1677 株式会社の公正な運営を確保するも
1678 のであると考えるのであれば、
1679 株式会社による利益供与だけでなく株主総会を招集する少
1680 数株主による利益供与も株式会社の公正な運営を害し得ること、
1681 また、
1682 そのような問題は
1683 当該株式会社等の計算においてされたものであるか否かを問わずに生じ得ることなどを指
1684 摘し、
1685 同項の適用又は類推適用を肯定することもあり得る。
1686
1687
1688 次に、
1689 Eとしては、
1690 前記の点に加えて、
1691 株主総会の招集の手続又は決議の方法が「著し
1692 く不公正」であった(会社法第831条第1項第1号)と主張することが考えられる。
1693
1694 こ
1695 の点については、
1696 株主による議決権の行使が株主として株式会社から受ける経済的な利益
1697 とは異なる要因によって左右されるような状況で行われた株主総会決議が「著しく不公正」
1698 であったといい得ることを指摘した上で、
1699 本問の事実関係の下で具体的な検討をすること
1700 が考えられる。
1701
1702 前者については、
1703 前記のような状況で行われた株主総会決議が「著しく不
1704 公正」であったといい得る理論的な根拠を自分なりに考察することが求められる。
1705
1706 また、
1707
1708 後者については、
1709 例えば、
1710 乙社が提案する議案に賛成した株主にのみ商品券が贈呈される
1711 こと、
1712 乙社には当該議案を可決させることに強い利害関係があると認められること、
1713 例年
1714 の定時株主総会における結果との比較から乙社による商品券の贈呈が株主の議決権の行使
1715 に影響を与えた可能性が高いことなどを指摘した上で、
1716 「著しく不公正」であったといえ
1717 るとすることも考えられるであろうし、
1718 商品券の額が少額であること、
1719 乙社が提案する議
1720 案に反対する議決権の行使をすることが殊更妨害されたわけではないこと、
1721 甲社の業績悪
1722 化や筆頭株主である乙社との間で対立が生じているという点で例年とは状況が異なり、
1723 例
1724 年の定時株主総会における結果との比較は重要ではないことなどを指摘した上で、
1725 「著し
1726 く不公正」であったとまではいえないとすることも考えられるであろう。
1727
1728 また、
1729 そもそも、
1730
1731 株主総会を招集する少数株主であっても、
1732 株式会社ではない以上、
1733 自らの資金で他の株主
1734 の議決権の行使に影響を与えることとなったとしても「著しく不公正」とはいえないとの
1735 考え方を採用し、
1736 その理論的な根拠を自分なりに考察するということも考えられるであろ
1737 う。
1738
1739 なお、
1740 株主総会の招集の手続又は決議の方法が「著しく不公正」な場合には、
1741 決議へ
1742 の影響の有無にかかわらず、
1743 裁量棄却の対象にはならない
1744 (会社法第831条第2項参照)。
1745
1746
1747 3
1748
1749 設問2について
1750
1751
1752 設問2は、
1753 発行済株式の総数の3分の1に相当する200株を保有する丙社から再建の
1754 ための支援を受けていた甲社が、
1755 再建のめどがついてきた頃から丙社との間で見解の相違
1756 がみられるようになったことなどから、
1757 丙社との間の資本関係を断つために本件株式併合
1758 とそれに続く本件株式分割及び募集株式の第三者割当てを計画したという事例において、
1759
1760 締め出される丙社の立場から、
1761 本件株式併合の効力を争うために採ることができる会社法
1762 上の手段に関し、
1763 その立場において考えられる主張及びその主張の当否の検討を求めるも
1764 のである。
1765
1766
1767
1768
1769
1770 まず、
1771 株式併合の効力を争うための会社法上の手段については、
1772 会社の組織に関する行
1773 為の無効の訴え(会社法第828条)の対象となっていないことから、
1774 このような訴えを
1775 提起するのではなく、
1776 株式併合をするための株主総会決議(会社法第180条第2項)の
1777 効力を否定することにより、
1778 株式併合が無効となることを主張することが考えられる。
1779
1780 そ
1781 して、
1782 株主総会決議の効力を否定するための会社法上の手段としては、
1783 @特別の利害関係
1784 を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとして、
1785 株主総会
1786 決議の取消しの訴えを提起すること(会社法第831条第1項第3号)、
1787 A決議の内容が法
1788 令に違反することを理由として株主総会決議の無効の確認の訴えを提起すること(会社法
1789 第830条第2項)等が考えられる(なお、
1790 @の場合には、
1791 丙社が本件決議2の取消しに
1792
1793 - 12 -
1794
1795 よって株主となる者に該当すること(会社法第831条第1項後段)についても言及する
1796 ことができると、
1797 なお望ましい。
1798
1799 )。
1800
1801 会社の組織に関する行為の無効の訴えに関する会社法
1802 第828条の規定を類推適用するということも考えられるであろう。
1803
1804 いずれにしても、
1805 株
1806 式併合に関する会社法の規定を正しく理解した上で、
1807 その効力を争うための会社法上の手
1808 段を検討することが求められる。
1809
1810
1811
1812
1813 次に、
1814 前記の各手段のうち、
1815 前記@の手段による場合であれば、
1816 A又はCが特別の利
1817 害関係を有する者であることや「著しく不当な決議」がされたといえるか否かが問題とな
1818 るし、
1819 前記Aの手段による場合であれば、
1820 「決議の内容が法令に違反する」といえるか否
1821 かが問題となる。
1822
1823 まず、
1824 どのような場合に「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令
1825 に違反する」といえるのかについて、
1826 自分なりの基準を立てる必要があり、
1827 なぜそのよう
1828 な基準を採用するのかについても、
1829 理論的な根拠を自分なりに考察する必要がある。
1830
1831 また、
1832
1833 「決議の内容が法令に違反する」といえるか否かを検討する場合においては、
1834 法令違反の
1835 根拠についても触れる必要があり、
1836 この点については、
1837 例えば、
1838 いわゆる株主平等原則に
1839 違反すること(会社法第109条第1項)、
1840 権利の濫用に該当すること(民法第1条第3項)
1841 などを指摘することが考えられるであろう。
1842
1843
1844 その上で、
1845 本問の事実関係全体(例えば、
1846 丙社の案もAらの案も、
1847 甲社の企業価値との
1848 関係では、
1849 客観的にいずれか一方が他方よりも優れているとは言い難く、
1850 見解の分かれる
1851 問題であったことや、
1852 本件株式併合により1株に満たない端数となる株式の買取価格が公
1853 正な価格と認められるものであったことなど)について、
1854 多面的に、
1855 かつ、
1856 適切に評価す
1857 るなどして、
1858 「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令に違反する」といえるか否かに
1859 ついての結論を示す必要がある。
1860
1861
1862 本問は、
1863 会社法に明文の規定がない問題を素材に思考力を問うものであり、
1864 本件株式併
1865 合の効力を否定する方向、
1866 肯定する方向のいずれであっても構わない。
1867
1868 例えば、
1869 会社法上
1870 の公開会社でない株式会社においては、
1871 少数株主の有する利益は当該株式の金銭的価値に
1872 尽きず、
1873 それを保護する必要があるから、
1874 株式併合には正当な事業目的が要求されるとい
1875 う一般論を採りつつ、
1876 本問の事実関係の下では、
1877 正当な事業目的を欠くため本件株式併合
1878 の効力を否定する方向で検討することも、
1879 正当な事業目的が認められるため本件株式併合
1880 の効力を肯定する方向で検討することも考えられるであろう。
1881
1882 また、
1883 会社法上、
1884 株式併合
1885 の目的は制限されていないことなどから、
1886 特定の少数株主を締め出すために行われた株式
1887 併合も許容されるとして、
1888 本件株式併合の効力を肯定することも考えられるであろうが、
1889
1890 いずれの立場であっても、
1891 説得的に論ずることが求められる。
1892
1893 なお、
1894 本問では、
1895 本件株式
1896 併合の効力を争う丙社の立場において考えられる主張及びその主張の当否を検討すること
1897 が求められるものであることから、
1898 最終的に本件株式併合の効力を肯定するとしても、
1899 そ
1900 れを否定する立場からの立論とその当否について検討する姿勢が求められる。
1901
1902
1903
1904 〔第3問〕
1905 本問は、
1906 XらがYに対し、
1907 建物賃貸借契約の終了(賃料不払による債務不履行解除)に基づ
1908 く本件建物の明渡請求訴訟(本件訴え)を提起したという事案を素材として、
1909 @X1がいわゆ
1910 る任意的訴訟担当(者)として本件訴えを提起することの可否(設問1)、
1911 A本件訴えの弁論
1912 準備手続でYがした陳述が自白に該当するか、
1913 また、
1914 自白に該当するとしても撤回が可能か(設
1915 問2)、
1916 B本件訴えにおいてXらの請求を棄却する判決が確定したのち、
1917 本件訴えの基準時前
1918 に存在した別の事由(用法遵守義務違反)により、
1919 再度Yに対して賃貸借契約の終了(用法遵
1920 守義務違反による債務不履行解除)に基づき本件建物の明渡しを求める訴えを提起した場合の
1921 問題点(設問3)のそれぞれにつき検討を求めるものである。
1922
1923
1924 1
1925
1926 設問1について
1927
1928 - 13 -
1929
1930 設問1の課題@は、
1931 任意的訴訟担当の意義を述べた上、
1932 訴訟担当が認められる前提要件と
1933 して担当者に対する授権が必要であることを明らかにし、
1934 さらに、
1935 問題文記載の判例(最大
1936 判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)から、
1937 それが明文なくして許容さ
1938 れるための要件、
1939 すなわち弁護士代理原則(民事訴訟法第54条第1項)及び訴訟信託の禁
1940 止の潜脱とならず(以下「非潜脱要件」という。
1941
1942 )、
1943 かつ、
1944 訴訟担当を認める合理的必要が
1945 あること(以下「合理的必要性」という。
1946
1947 )を的確に示すことが期待される。
1948
1949 なお、
1950 任意的
1951 訴訟担当が許容される要件については学説上様々な見解があるが、
1952 ここではそれについて言
1953 及することまでは求めていない。
1954
1955 そして、
1956 課題Aにおいては、
1957 問題文記載の具体的事実から
1958 前記前提要件及び許容されるための要件充足の有無について検討していくことになるが、
1959 弁
1960 護士代理原則の潜脱の有無については、
1961 前記判例の判示内容に照らし、
1962 どのような点が認め
1963 られれば潜脱とならないのか、
1964 その要素(実体上の管理権の有無)に言及しつつ検討するこ
1965 とが期待される。
1966
1967 具体的には、
1968 前記判例が非潜脱要件を満たすとしたのは、
1969 当該業務執行組
1970 合員が単なる訴訟代理権だけではなく実体上の管理権も併せ有していたという点を主な理由
1971 としていることから、
1972 本問でもX1への授権により同じような事実関係が認められるかを検
1973 討していくことになる。
1974
1975 そして、
1976 合理的必要性の有無について、
1977 前記判例が、
1978 非潜脱要件を
1979 満たす場合には特段の事情がない限り合理的必要性を欠くものとはいえないと判示している
1980 ことを踏まえつつ、
1981 本問の具体的事情(例えば、
1982 X1が本件賃貸借契約についての賃貸人の
1983 1人であること、
1984 X1単独の訴え提起による目的達成の可能性、
1985 問題文に現れているX2及
1986 びX3の意向が合理的必要性を基礎付ける事情となり得るか、
1987 Xらが3名と比較的少数であ
1988 ることから、
1989 任意的訴訟担当によらず、
1990 選定当事者制度の利用やXらが弁護士代理人に委任
1991 することで足りるのではないか等々)から、
1992 前記判例との異同を踏まえつつ、
1993 合理的必要性
1994 の有無について具体的に検討することが期待される。
1995
1996 その他、
1997 前記判例においては、
1998 団体の
1999 目的遂行のための業務上の必要性があったという点や、
2000 当該訴訟追行に係る権利が、
2001 業務執
2002 行組合員を含む構成員共同の利益に関するものであったという点が、
2003 任意的訴訟担当の合理
2004 的必要性を肯定する一つの根拠になったとの指摘もあることから、
2005 本問でもこれに類するよ
2006 うな事情が認められるかにつき検討することも考えられる。
2007
2008
2009 2
2010
2011 設問2について
2012 設問2は、
2013 Yのした本件陳述がいわゆる先行自白に該当し得ることを前提に、
2014 これが裁判
2015 上の自白に該当しない、
2016 あるいは裁判上の自白が成立したとしても撤回ができることにつき、
2017
2018 Yの立場からの検討を求めるものである。
2019
2020 その際、
2021 本件陳述がされた第1回弁論準備手続期
2022 日の目的、
2023 裁判上の自白の意義及び要件並びに撤回が認められる要件と関連付けながらの検
2024 討が求められている。
2025
2026 したがって、
2027 自白の効果一般や撤回が認められる要件一般について冗
2028 長に検討している答案や、
2029 自白の対象事実に間接事実が含まれるかといった論点について、
2030
2031 本問との関連性を意識せずに漫然と検討している答案は評価されない。
2032
2033 また、
2034 特に説得的根
2035 拠もなく、
2036 料理教室開催の事実を信頼関係破壊に関する間接事実とした上、
2037 自白の対象にな
2038 らないとして済ませている答案も、
2039 本問が先行自白に関する問題であり、
2040 弁論準備手続の目
2041 的等からの検討も求めている本問の題意から外れるものであり、
2042 同じく評価されない。
2043
2044
2045 まず、
2046 裁判上の自白の意義につき、
2047 従来からの通説のように「当事者が、
2048 その訴訟の口頭
2049 弁論又は弁論準備手続においてする、
2050 相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述」
2051 と定義づけた場合、
2052 相互の事実認識の一致が要素になり、
2053 当事者の意思的要素は捨象される
2054 ことになるので、
2055 本問のY陳述は、
2056 自己に不利益な事実を先行自白し、
2057 これが弁論準備手続
2058 において援用されることによって自白となると考えられる。
2059
2060 したがって、
2061 この説に立った場
2062 合は、
2063 裁判上の自白に該当するという方向と親和性を有することになるが、
2064 先行自白の持つ
2065 問題点(不意打ちの危険)などから、
2066 本問のような場合は相手方が主張する事実との一致が
2067 認められないから自白に該当しない、
2068 とする立論も可能である。
2069
2070 これに対し、
2071 裁判上の自白
2072
2073 - 14 -
2074
2075 を「相手方の主張する自己に不利益な事実を争わない旨の意思を表明する、
2076 弁論としての陳
2077 述」と定義づけた場合、
2078 上記「争わない旨の意思を表明」とはどのようなものであるかを明
2079 らかにした上、
2080 これがあったとはいえない、
2081 あるいは、
2082 不利益性についての認識があったと
2083 はいえないとして自白の成立要件を欠く、
2084 と構成することが考えられる。
2085
2086
2087 次に、
2088 本問では、
2089 以上のような自白の意義から検討するというアプローチだけではなく、
2090
2091 本件陳述がされた第1回弁論準備手続期日の目的や実施方法に着目して、
2092 自白該当性や撤回
2093 可能性について検討するというアプローチも求められている。
2094
2095 これにつき、
2096 一つの考え方と
2097 して、
2098 同期日での発言内容について自白とは扱わない、
2099 あるいは撤回を容易に認めることに
2100 つき、
2101 裁判所と当事者間において何らかの合意等があったと構成することが考えられる。
2102
2103 例
2104 えば、
2105 弁論準備手続の中でされた陳述にも自白が成立し得ると一般的に解されるとしても、
2106
2107 争点に関する当事者間の自由な議論を促進するという弁論準備手続の目的ないし趣旨、
2108 本件
2109 での第1回弁論準備手続期日でのテーマ設定からすれば、
2110 争点整理手続中に自白がされても、
2111
2112 争点整理作業が完了するまでは、
2113 それを自白とは確定的に扱わない、
2114 あるいは自白と扱うと
2115 しても、
2116 その撤回は柔軟に認められると解すべきところ、
2117 同期日での発言内容については自
2118 白又は不利益な陳述として扱わない旨の事前の黙示的合意があったとすることが考えられ
2119 る。
2120
2121 あるいは、
2122 一般に自白の撤回は相手方の同意があれば許容されることの応用ないし延長
2123 として、
2124 同期日において自白に該当する陳述がそれぞれからされたとしても、
2125 これを撤回自
2126 由とすることについて事前に黙示的に同意ないし合意がされていた、
2127 といった構成をとるこ
2128 とも考えられる。
2129
2130 なお、
2131 自白の撤回が認められる場合として、
2132 自白が真実に反しかつ錯誤に
2133 よる場合が挙げられるが、
2134 本問の場合にこれに該当すると構成するのは困難ではないかと思
2135 われる。
2136
2137
2138 以上のほか、
2139 自白が原則撤回できないとする根拠ないし趣旨から、
2140 本件陳述を撤回するこ
2141 とはその趣旨に反しない、
2142 と構成することも考えられる。
2143
2144 例えば、
2145 自白事実についてはいわ
2146 ゆる不要証効が生じ(民事訴訟法第179条)、
2147 自白の相手方は当該事実について自白がさ
2148 れれば、
2149 それにつき証明不要との期待ないし信頼を有するに至るところ、
2150 これを撤回するの
2151 はかかる信頼を裏切るもので、
2152 禁反言(信義則)に抵触するという点から撤回が原則として
2153 制限されると解される。
2154
2155 本件陳述は、
2156 第1回弁論準備手続期日のテーマ(賃料不払解除に関
2157 する信頼関係破壊の有無について、
2158 それを基礎付けあるいは阻害する具体的事実について自
2159 由に討議する)に沿った形で主張されたものであること(法的には、
2160 賃料不払いに関する信
2161 頼関係破壊の評価障害事実(自己に有利な事実)として陳述されたものであること)、
2162 これ
2163 に対し、
2164 Xらによる先行自白との主張は、
2165 上記テーマとは反するものであり、
2166 援用を認める
2167 ことは禁反言(信義則)の見地から問題であることからすれば、
2168 不要証との相手方の信頼は
2169 そもそも働いておらず、
2170 これを撤回したとしても、
2171 自白の撤回を原則認めないとする趣旨に
2172 は抵触しない、
2173 と構成することが考えられる(ただし、
2174 このようなアプローチを採用する場
2175 合は、
2176 従来承認されてきた自白の撤回が認められる要件と乖離することになるので、
2177 その点
2178 についての検討が求められよう。
2179
2180 )。
2181
2182
2183 これに対し、
2184 本問の第1回弁論準備手続期日では争点に対する自由な討議が予定されてい
2185 たということから一足飛びに、
2186 同期日では自白はおよそ成立しない、
2187 あるいは撤回が自由で
2188 あったという結論に至ってしまうのは理論的検討が不十分と評価される。
2189
2190 これと同様に、
2191 本
2192 問をいわゆる争点整理手続におけるノンコミットメントルール(確定的な定義はないが、
2193 争
2194 点整理手続において当事者から口頭で述べられた事項については自白が成立せず、
2195 その発言
2196 が後に不利益に援用されることはないという訴訟運営上のルールとされている。
2197
2198 )の問題で
2199 あるとして、
2200 かかるルールからすれば自白は成立しない、
2201 又は撤回は自由であると早急に結
2202 論付けることも題意に沿ったものとはいえず、
2203 評価されない。
2204
2205 本問は、
2206 ノンコミットメント
2207 ルールそれ自体の知識を問うものではなく、
2208 弁論準備手続の趣旨や目的、
2209 弁論準備手続で相
2210
2211 - 15 -
2212
2213 手方の主張を認める陳述の持つ意味、
2214 本問での第1回弁論準備手続期日の目的等を的確に分
2215 析し、
2216 それを自白の要件又は撤回要件にどのように説得的に結び付けられているかがポイン
2217 トになる。
2218
2219
2220 3
2221
2222 設問3について
2223 設問3は、
2224 本件訴えの基準時前の事由である用法遵守義務違反を理由とする解除による建
2225 物賃貸借契約の終了に基づき、
2226 後訴において建物明渡を求めることができるかが問われてい
2227 る。
2228
2229 そして、
2230 解答に当たっては、
2231 本件訴えと後訴の訴訟物が同一であること、
2232 本件訴えの確
2233 定判決の既判力により、
2234 基準時前の用法遵守義務違反の主張が遮断されることが前提とされ
2235 ている。
2236
2237 また、
2238 本問に関しては、
2239 いわゆる「前訴基準時後における形成権行使の可否」とい
2240 う論点との関係で検討することも考えられるが、
2241 問題文中の会話においてこのアプローチは
2242 採らないことが明らかになっていることに留意が必要である。
2243
2244 以上を前提に、
2245 課題@におい
2246 て、
2247 既判力の遮断効(消極的作用)の根拠論を述べ、
2248 課題Aにおいて、
2249 課題@を踏まえなが
2250 ら、
2251 後訴の可否に関する理論構成を、
2252 反対の立場を踏まえて論じていくことが求められてい
2253 る。
2254
2255
2256 まず、
2257 既判力の基準時が口頭弁論終結時であることを根拠とともに簡潔に説明し、
2258 その上
2259 で、
2260 既判力の作用からの理論的説明として、
2261 遮断効(消極的作用)については、
2262 後訴の裁
2263 判所に対する拘束力(積極的作用)を前提として認められるものであること、
2264 基準時前に存
2265 在した事実については、
2266 後訴での蒸返し防止(勝訴者の紛争解決に対する合理的期待の保護、
2267
2268 法的安定性の確保等)の観点から後訴で主張することはできないといった制度的効力を挙げ
2269 た上、
2270 さらに実質的根拠(正当化の根拠)として、
2271 前訴において十分な主張立証の機会が与
2272 えられていたにもかかわらず、
2273 これを行使しなかった場合は後訴においてかかる主張が遮断
2274 されてもやむを得ない、
2275 といった点を述べていくことが期待される。
2276
2277
2278 そして、
2279 その上で、
2280 遮断を否定するアプローチとして、
2281 遮断効につき、
2282 前記のとおり法的
2283 安定性の確保や勝訴者の地位の安定といった制度的効力を基礎としつつも、
2284 前訴において十
2285 分に主張立証の機会が与えられていたにもかかわらず、
2286 これを行使しなかったことに対する
2287 自己責任の観点からすれば、
2288 前訴における主張立証がおよそ期待できなかった事実について
2289 は前訴確定判決の既判力による遮断効は生じないと解する説(期待可能性説)を挙げること
2290 が期待される。
2291
2292 この説に対しては、
2293 前記既判力の制度的効力からすると、
2294 このような主張を
2295 認めるのは慎重な態度が要請される、
2296 再審事由に関する民事訴訟法第338条第1項第5号
2297 からすれば、
2298 刑事罰が科されるような他人の行為によった場合であっても既判力が作用する
2299 とされているのであり、
2300 単なる期待可能性の欠如をもって既判力が作用しないとすることは
2301 再審と既判力の作用との境界をあいまいにするものであって不当である、
2302 あるいは、
2303 期待可
2304 能性の有無について後訴裁判所が審理判断することになり、
2305 後訴の審理負担が不当に重くな
2306 る懸念がある、
2307 といった批判がされているところである。
2308
2309 期待可能性説に立つ場合は、
2310 これ
2311 らの批判を示しつつ、
2312 自己の立場を説得的に展開し、
2313 判断基準を定立することが期待される
2314 (その上で、
2315 本問への当てはめにおいて、
2316 期待可能性があったとすることも考えられる。
2317
2318 )。
2319
2320
2321 これに対し、
2322 遮断効の根拠につき、
2323 前記制度的効力の点を重視する立場に立った場合は、
2324 前
2325 記期待可能性説に対する批判を加えつつ、
2326 前訴の基準時前に生じていた事由であれば例外な
2327 く遮断するという方向で検討することが考えられるが、
2328 その場合には、
2329 問題文の具体的事実
2330 関係から遮断するのが相当とされる根拠を丁寧に示していくことが期待される。
2331
2332
2333 なお、
2334 遮断効を否定する立場に立つ場合、
2335 既判力による遮断効の正当化根拠を手続保障と
2336 自己責任であるとしか指摘せず、
2337 本問の事実関係からは用法遵守義務違反の事実について手
2338 続保障がされたとはいえないから遮断されないと解すべき、
2339 といった程度の大雑把な検討に
2340 終始している答案は、
2341 既判力の遮断効に関する説明が不十分と評価されるだけでなく、
2342 遮断
2343 効に例外を認める理論構成や根拠を適切かつ十分に検討したものとは評価できない(「手続
2344
2345 - 16 -
2346
2347 保障及び自己責任の観点から本問では特段の事情がある」といった程度の記述にとどまって
2348 いる答案も同様である。
2349
2350 )。
2351
2352 また、
2353 前記したとおり、
2354 本問においては、
2355 いわゆる「基準時後
2356 の形成権行使の可否」という点からのアプローチは明示的に排除している。
2357
2358 したがって、
2359 こ
2360 のようなアプローチをとったと思われる答案、
2361 例えば、
2362 「解除権は前訴確定判決の判断に内
2363 在付着する瑕疵である(ない)から」といった点から遮断の可否を論じている答案や、
2364 反対
2365 説についてこのような趣旨で言及しているとみられる答案については、
2366 問題文の指示を無視
2367 したものとして評価されない。
2368
2369 また、
2370 期待可能性説以外のアプローチ、
2371 例えば、
2372 釈明義務違
2373 反や法的観点指摘義務違反に基づいて既判力が縮小するという構成も考えられなくはない
2374 が、
2375 前訴である本件訴えの手続経過からは、
2376 かかる釈明義務違反や法的観点指摘義務違反を
2377 基礎付けるような事実関係は見当たらないので、
2378 これを採用するのは難しいと思われる。
2379
2380 そ
2381 の他、
2382 判決理由中の判断の拘束力(信義則等)を検討している答案は、
2383 既判力が作用すると
2384 いう本問の前提に反するので、
2385 当然のことながら評価されない。
2386
2387
2388 【刑事系科目】
2389 〔第1問〕
2390 本問は、
2391 設問1において
2392
2393
2394 甲がAに暴行を加えて傷害を負わせた後、
2395 A所有の財布(以下「本件財布」という。
2396
2397 )に
2398 入っていた現金6万円が欲しくなり、
2399 Aが恐怖で抵抗できないことを知りながら、
2400 Aに「こ
2401 の財布はもらっておくよ。
2402
2403 」と言って本件財布を自己のポケットに入れた行為(以下「設問
2404 1の行為」という。
2405
2406 )
2407
2408
2409
2410 乙が本件財布内に入っていたA名義のキャッシュカード(以下「本件カード」という。
2411
2412 )
2413 を使用してAの預金を引き出して奪おうと考え、
2414 Aに脅迫を加えてAから本件カードの暗証
2415 番号を聞き出そうとした行為(以下「設問1の行為」という。
2416
2417 )
2418
2419
2420
2421 乙が現金自動預払機(以下「ATM」という。
2422
2423 )に本件カードを挿入し、
2424 Aから聞き出し
2425 た本件カードの暗証番号とは異なる4桁の数字を入力してAの預金を引き出そうとした行為
2426 (以下「設問1の行為」という。
2427
2428 )
2429
2430 について、
2431 甲及び乙の罪責の検討を求め、
2432 設問2において
2433
2434
2435 丙が甲からCを殴るように言われてCの顔面を拳で1回殴った行為(以下「1回目殴打」
2436 という。
2437
2438 )及び丁からの言葉を聞いて発奮してCの顔面を拳で1回殴った行為(以下「2回
2439 目殴打」という。
2440
2441 )について、
2442 丙に正当防衛が成立することを論じることを求め、
2443
2444
2445
2446
2447 丙に正当防衛が成立することを前提に
2448 @
2449
2450 丙による2回目殴打について丁に暴行罪の幇助犯が成立するか
2451
2452 A
2453
2454 甲に暴行罪の共同正犯が成立するか
2455
2456 について言及し、
2457 これらの論述に当たって
2458 ア
2459
2460 誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか
2461
2462 イ
2463
2464 違法性の判断が共犯者間で異なることがあるか
2465
2466 についても、
2467 その結論及び論拠に言及し、
2468 @及びAにおける説明相互の整合性についても触れ
2469 ることを求めている。
2470
2471
2472 これらにより、
2473 刑事実体法の知識と理解を問うとともに、
2474 具体的な事実関係を分析し、
2475 その
2476 事実に法規範を適用する能力及び論理的思考力を問うものである。
2477
2478
2479 設問1について
2480
2481
2482 設問1の行為について
2483 ア
2484
2485 甲は、
2486 Aの頭部を拳で殴り、
2487 その場に転倒したAの腹部を蹴る暴行を加え、
2488 Aに肋骨骨
2489 折等の傷害を負わせており、
2490 甲に傷害罪が成立する。
2491
2492 この点については、
2493 傷害罪の各構成
2494 要件要素を充足することを簡潔に示せば足りる。
2495
2496
2497
2498 - 17 -
2499
2500 イ
2501
2502 甲は、
2503 上記暴行に及んだ後、
2504 既に抵抗する気力を失っていたAに対し、
2505 所持品を提示す
2506 るよう求め、
2507 Aが手元に置いた本件財布の中身を見たところ、
2508 その中に入っていた現金6
2509 万円が欲しくなり、
2510 Aが恐怖で抵抗できないことを知りながら、
2511 Aに「この財布はもらっ
2512 ておくよ。
2513
2514 」と言って、
2515 本件財布を自己のズボンのポケットに入れている。
2516
2517 ここで甲は、
2518
2519 財物奪取の意思なく暴行を加えて相手方の反抗を抑圧した後、
2520 財物奪取の意思が生じ、
2521 財
2522 物を奪取している。
2523
2524 強盗罪が成立するためには、
2525 財物奪取に向けられた相手方の反抗を抑
2526 圧するに足りる程度の暴行・脅迫が必要であるところ、
2527 甲が上記暴行に及んだ時点では甲
2528 に財物奪取の意思はなく、
2529 他方で甲がAに上記文言を申し向ける行為は、
2530 それのみを単体
2531 で評価すると、
2532 相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫であるとは認められないが、
2533
2534 このような場合でも強盗罪が成立するかが問題となる。
2535
2536
2537 この点につき、
2538 自ら作出した反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合にも、
2539 強盗の
2540 手段としての新たな暴行・脅迫を必要とする考え方(東京高判昭和48年3月26日高刑
2541 集26巻1号85頁等、
2542 以下「新たな暴行・脅迫必要説」という。
2543
2544 )があり得る。
2545
2546 新たな
2547 暴行・脅迫必要説に立つ場合には、
2548 さらに、
2549 新たな暴行・脅迫の内容・程度につき、
2550 反抗
2551 抑圧状態を維持・継続させるものであれば足りるとする考え方(大阪高判平成元年3月3
2552 日判タ712号248頁等、
2553 以下「維持継続説」という。
2554
2555 )、
2556 行為者が現場に存在するこ
2557 と自体を脅迫とする考え方(以下「現場存在説」という。
2558
2559 )などがあり得る。
2560
2561 これに対し、
2562
2563 自ら作出した反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合には、
2564 強盗の手段としての新た
2565 な暴行・脅迫を必要としないとする考え方(以下「新たな暴行・脅迫不要説」という。
2566
2567 )
2568 もあり得る。
2569
2570
2571 維持継続説に立つ場合、
2572 甲は、
2573 Aの反抗を抑圧した後、
2574 Aが恐怖で抵抗できないことを
2575 知りながら、
2576 Aに「この財布はもらっておくよ。
2577
2578 」と言って本件財布の占有を取得してお
2579 り、
2580 かかる行為は既に存在する反抗抑圧状態を維持する程度の脅迫であると認めることも
2581 可能であろう。
2582
2583 現場存在説に立つ場合には、
2584 甲が現場に存在したこと自体を強盗の手段と
2585 しての新たな脅迫と捉えることになる。
2586
2587 このように新たな脅迫があったと認めた場合又は
2588 新たな暴行・脅迫不要説に立つ場合には、
2589 強盗罪のその他の各構成要件要素を充足するこ
2590 とを簡潔に示した上で、
2591 強盗罪の成立を肯定する結論に至ることになろう。
2592
2593 これに対し、
2594
2595 維持継続説に立つ場合であっても、
2596 甲がAに上記文言を申し向けた行為は、
2597 反抗抑圧状態
2598 を維持・継続するに足りる程度の脅迫であるとは認められないとして強盗罪の成立を否定
2599 し、
2600 窃盗罪又は恐喝罪が成立するにとどまるとの結論に至る余地もあろう。
2601
2602
2603 いずれの考え方に立って論じるとしても、
2604 事案を具体的に分析して問題の所在を的確に
2605 示した上で、
2606 自説とは反対の考え方を意識しつつ自説の論拠を明らかにして規範を定立し、
2607
2608 その規範を具体的な事実関係に当てはめて結論を導く必要がある。
2609
2610
2611
2612
2613
2614 設問1の行為について
2615 乙は、
2616 甲から手渡された本件財布内に入っていた本件カードを使用してAの預金を引き出
2617 して奪おうと考え、
2618 本件カードを本件財布から取り出して、
2619 倒れたままのAに見せつつ、
2620 持
2621 っていたバタフライナイフの刃先をAの眼前に示しながら「死にたくなければ、
2622 このカード
2623 の暗証番号を言え。
2624
2625 」と言って本件カードの暗証番号を聞き出そうとしているところ、
2626 かか
2627 る行為が「財産上不法の利益」を得たとして強盗罪に当たるのか問題となる。
2628
2629
2630 この点につき、
2631 キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことにより、
2632 事実上、
2633 ATM
2634 を通して預金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位という財物の取得と同視できる程度に
2635 具体的かつ現実的な財産的利益を得たとみて強盗罪の成立を肯定する考え方(東京高判平成
2636 21年11月16日判時2103号158頁)があり得る。
2637
2638 この考え方に立つ場合、
2639 乙は、
2640
2641 バタフライナイフの刃先をAの眼前に示しながら要求に応じなければAの生命に危害を加え
2642 る旨を告知しており、
2643 Aの反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫を加えたと認められるが、
2644 A
2645
2646 - 18 -
2647
2648 が誤って本件カードの暗証番号とは異なる4桁の数字を答えており、
2649 乙が財産上不法の利益
2650 を得たとはいえないことから、
2651 乙に強盗未遂罪が成立するにとどまることを指摘する必要が
2652 ある。
2653
2654
2655 これに対し、
2656 暗証番号を聞き出したとしても財物の取得と同視できる程度に具体的かつ現
2657 実的な財産的利益を得たとは認められない、
2658 暗証番号は移転性のある利益ではない等として
2659 強盗罪の成立を否定する考え方(前掲東京高判平成21年11月16日の原判決はこのよう
2660 な考え方を採った。
2661
2662 )もあり得る。
2663
2664 この考え方に立つ場合、
2665 この行為について、
2666 強盗罪は成
2667 立し得ないが、
2668 乙は、
2669 上記のとおりAを脅迫し、
2670 Aに暗証番号を答えさせて義務のないこと
2671 を行わせたといえることから、
2672 強要罪の各構成要件要素を充足することを簡潔に示して同罪
2673 が成立することを指摘する必要がある。
2674
2675 いずれの考え方に立って論じるとしても、
2676 事案を具
2677 体的に分析して問題の所在を的確に示した上で、
2678 自説とは反対の考え方を意識しつつ自説の
2679 論拠を明らかにして、
2680 結論を導く必要がある。
2681
2682
2683
2684
2685 設問1の行為について
2686 乙は、
2687 ATMに本件カードを挿入して預金を引き出そうとしたものの、
2688 乙がAから聞き出
2689 して入力した数字が本件カードの暗証番号とは異なるものであったため、
2690 不正な操作と認識
2691 されて取引が停止され、
2692 預金を引き出すことはできなかった。
2693
2694 このように事後的・客観的に
2695 は乙が預金を引き出すことができない状況にあった場合であっても、
2696 預金を引き出して窃取
2697 する危険性があったとして未遂犯が成立するか、
2698 それとも不能犯として不可罰となるかが問
2699 題となる。
2700
2701
2702 この点につき、
2703 行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を判
2704 断の基礎とし、
2705 一般人の立場から危険性があると判断する場合に未遂犯が成立するとする考
2706 え方があり得る。
2707
2708 この考え方に立った場合、
2709 乙がAから聞き出した4桁の数字が本件カード
2710 の暗証番号とは異なるものであったとの事情につき、
2711 一般人が認識し得たとは認められず、
2712
2713 乙も認識していなかったため、
2714 同事情は判断の基礎から除外されることになる。
2715
2716 そうすると、
2717
2718 乙が他人であるAのキャッシュカードを使用してATMから預金を引き出そうとしている以
2719 上、
2720 一般人の立場からは、
2721 ATMの現金の占有者の意思に反して同現金の占有が乙に移転す
2722 る危険性があると判断するとの結論に至ると考えられる。
2723
2724 その場合、
2725 窃盗罪の各構成要件要
2726 素を充足することを簡潔に示した上で、
2727 窃盗未遂罪の成立を肯定することになろう。
2728
2729
2730 これに対し、
2731 結果が発生しなかった原因を解明し、
2732 事実がいかなるものであったなら結果
2733 の発生があり得たかを科学的に明らかにした上で、
2734 こうした結果惹起をもたらす仮定的事実
2735 が存在し得たかを一般人の立場から事後的に判断し、
2736 仮定的事実が存在し得たと一般人が判
2737 断する場合には危険性が認められて未遂犯が成立するとする考え方もあり得る。
2738
2739 この考え方
2740 に立った場合、
2741 結果が発生しなかった原因は、
2742 乙がAから聞き出した数字が本件カードの暗
2743 証番号と異なるものであったからであり、
2744 これが本件カードの正しい暗証番号であったなら
2745 結果の発生があり得たところ、
2746 Aは暗がりで本件カードを別のキャッシュカードと見間違え
2747 て意図せず別の暗証番号を答えたにすぎず、
2748 一般人の立場からは、
2749 乙がAから本件カードの
2750 正しい暗証番号を聞き出すことは十分にあり得たといえ、
2751 窃盗の危険性が認められるとの結
2752 論に至ると考えられる。
2753
2754 その場合、
2755 上記と同様に窃盗未遂罪の成立を肯定することになろう。
2756
2757
2758 このほかにも様々な考え方があり得るが、
2759 いずれの考え方に立って論じるとしても、
2760 事案
2761 を具体的に分析して問題の所在を的確に示した上で、
2762 自説とは反対の考え方を意識しつつ自
2763 説の論拠を明らかにして規範を定立し、
2764 その規範を具体的な事実関係に当てはめて結論を導
2765 く必要がある。
2766
2767
2768
2769 設問2について
2770
2771
2772 丙に正当防衛が成立することについて
2773 丙による1回目殴打及び2回目殴打について、
2774 本問における具体的な事実関係を指摘して、
2775
2776
2777 - 19 -
2778
2779 暴行罪の各構成要件要素及び正当防衛の成立要件をそれぞれ充足することについて簡潔に示
2780 せば足りる。
2781
2782
2783
2784
2785 丙による2回目殴打について丁に暴行罪の幇助犯が成立するか
2786 丁は、
2787 丙がCの胸倉をつかんでいる様子を見て、
2788 Cが先に丙を殴った事実を知らないまま、
2789
2790 一方的に丙がCを殴ろうとしているものと誤信し、
2791 面白がって、
2792 丙がCを殴り倒した後、
2793 丙
2794 がその場から逃走するのを手助けしようと思い、
2795 丙に「頑張れ。
2796
2797 ここで待っているから終わ
2798 ったらこっちに来い。
2799
2800 」と声を掛け、
2801 反撃しようとしていた丙は、
2802 丁の言葉を聞いて発奮し、
2803
2804 2回目殴打に及んでいる。
2805
2806 丁の行為は、
2807 Cに反撃しようとしていた丙に対して心理的な働き
2808 掛けを行って丙を発奮させ、
2809 丙による2回目殴打を容易にしており、
2810 これが幇助行為に該当
2811 することを簡潔に指摘する必要がある。
2812
2813
2814 もっとも、
2815 丙による2回目殴打について正当防衛が成立するところ、
2816 このように正犯に正
2817 当防衛が成立して違法性が阻却される場合であっても幇助犯が成立するかが問題となる。
2818
2819
2820 この点につき、
2821 幇助犯による対抗行為を観念することは困難であるとして、
2822 正犯を基準と
2823 して正当防衛の成立要件を判断した上で、
2824 共犯が成立するためには正犯の行為が構成要件該
2825 当性及び違法性を備える必要があるとする考え方があり得る。
2826
2827 この考え方に立った場合、
2828 正
2829 犯の行為に正当防衛が成立して違法性が阻却されるのであれば、
2830 その違法評価は連帯的に作
2831 用し、
2832 あるいは、
2833 正犯の違法性に基づく共犯不法が欠け、
2834 幇助犯は成立しないことになる。
2835
2836
2837 これに対し、
2838 同じく正犯を基準として正当防衛の成立要件を判断し、
2839 正犯の行為に正当防
2840 衛が成立して違法性が阻却される場合であっても、
2841 背後者が不必要に緊急状況を作出したな
2842 ど一定の場合には、
2843 違法性阻却の効果を援用できないとして共犯の成立を認める考え方もあ
2844 り得る。
2845
2846 この考え方によれば、
2847 違法性の判断が正犯と共犯との間で異なることがあることに
2848 なるが、
2849 この考え方は、
2850 共犯が成立するためには正犯に構成要件該当性が認められれば足り
2851 るとする立場を前提としている。
2852
2853 本問では、
2854 正犯である丙に正当防衛が成立して違法性が阻
2855 却されるところ、
2856 丁が不必要に緊急状況を作出したとまでは認められず、
2857 違法性阻却の効果
2858 を援用できない事情は存しないとして丁の行為にも違法性阻却の効果が及び、
2859 丁に暴行罪の
2860 幇助犯は成立しないとの結論に至ると考えられる。
2861
2862
2863 このほかにも様々な考え方があり得るが、
2864 いずれの考え方に立って論じるとしても、
2865 事案
2866 を具体的に分析して問題の所在を的確に示した上で、
2867 自説とは反対の考え方を意識しつつ、
2868
2869 誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか及び違法性の判断が共犯者間で異なること
2870 があるかについて、
2871 それぞれの論拠に言及した上で結論を導く必要がある。
2872
2873
2874
2875
2876
2877 甲に暴行罪の共同正犯が成立するか
2878 甲は、
2879 丙にCを痛めつけさせようと考え、
2880 丙に「俺がCを押さえるから、
2881 Cを殴れ。
2882
2883 」と
2884 言い、
2885 それを聞いた丙がCに対する1回目殴打に及んでおり、
2886 甲が丙との間で暴行の共謀を
2887 遂げた上で、
2888 丙が暴行の実行行為に及んだことを簡潔に指摘する必要がある。
2889
2890
2891 もっとも、
2892 丙による1回目殴打について正当防衛が成立するところ、
2893 このように実行行為
2894 者に正当防衛が成立する場合、
2895 背後者である共謀共同正犯の正当防衛の成否について、
2896 どの
2897 ように判断すべきかが問題となる。
2898
2899
2900 この点につき、
2901 共謀共同正犯における実行行為者の暴行は、
2902 実行行為者及び背後者にとっ
2903 て共同した暴行と評価されるとみて、
2904 背後者である共謀共同正犯者についても正当防衛の成
2905 否を検討し得ると考えた上、
2906 行為の違法性は、
2907 法益侵害に加えて各行為者に固有の人的違法
2908 要素も加味して判断されるものであり、
2909 人的違法要素を有する者とこれを欠く者とで違法性
2910 の評価に違いが生じるとみれば、
2911 共同正犯者間で、
2912 正当防衛の成否につき結論が異なること
2913 が生じ得る。
2914
2915 また、
2916 共同正犯は、
2917 一方が他方に従属する関係にないとして、
2918 共同正犯者それ
2919 ぞれを基準として正当防衛の成立要件を個別に判断するとの考え方からも、
2920 個別に判断した
2921 結果、
2922 共同正犯者間で、
2923 正当防衛の成否につき結論が異なることが生じ得る。
2924
2925 これらの考え
2926
2927 - 20 -
2928
2929 方に立った場合、
2930 本問では、
2931 丙及び甲それぞれを基準として正当防衛の成立要件を判断する
2932 ことになる。
2933
2934 本問において、
2935 甲は、
2936 粗暴な性格のCからの侵害を予期した上で、
2937 その機会を
2938 利用してCを痛めつけようと考え、
2939 丙と共にC方に出向いており、
2940 単に予期された侵害を避
2941 けなかったというにとどまらず、
2942 その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意
2943 思で侵害に臨んだといえ、
2944 侵害の急迫性の要件を充たさず(最決昭和52年7月21日刑集
2945 31巻4号747頁、
2946 最決平成29年4月26日刑集71巻4号275頁参照)、
2947 甲に正当
2948 防衛は成立しないとの結論に至ると考えられる。
2949
2950 その場合、
2951 甲に暴行罪の共同正犯が成立す
2952 ることになる。
2953
2954
2955 これに対し、
2956 共謀者による対抗行為を観念することは困難であるとして、
2957 現実に対抗行為
2958 を行った実行行為者を基準として正当防衛の成立要件を判断するとの考え方に立った上で、
2959
2960 実行行為者に成立する正当防衛による違法性阻却の効果が背後者にも連帯的に及ぶことを原
2961 則としつつ、
2962 背後者が自ら不必要に緊急状況を作出した場合には、
2963 違法性阻却の効果を背後
2964 者が援用することはできないとする考え方があり得る。
2965
2966 この考え方に立った場合、
2967 本問では、
2968
2969 甲が喧嘩闘争目的で丙をCのもとに赴かせて、
2970 丙とCとの間の利益衝突状況を不必要に作出
2971 したと認められるため、
2972 甲が正当防衛による違法性阻却の効果を援用することはできないと
2973 の結論に至ると考えられる。
2974
2975 その場合、
2976 甲に暴行罪の共同正犯が成立することになる。
2977
2978
2979 このほかにも様々な考え方があり得るが、
2980 いずれの考え方に立って論じるとしても、
2981 事案
2982 を具体的に分析して問題の所在を的確に示した上で、
2983 自説とは反対の考え方を意識しつつ、
2984
2985 誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか及び違法性の判断が共犯者間で異なること
2986 があるかについて、
2987 それぞれの論拠に言及するとともに、
2988 丁についての説明と甲についての
2989 説明の整合性にも触れた上で、
2990 結論を導く必要がある。
2991
2992
2993 なお、
2994 判例(最決平成4年6月5日刑集46巻4号245頁)は、
2995 実行行為者に過剰防衛
2996 が成立するとした事案において、
2997 「共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、
2998 共
2999 同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであって、
3000
3001 共同正犯者の一人について過剰防衛が成立したとしても、
3002 その結果当然に他の共同正犯者に
3003 ついても過剰防衛が成立することになるものではない。
3004
3005 」と判示しているところ、
3006 同判例は
3007 過剰防衛の成否に限って判断を示したものではあるが、
3008 共同正犯者それぞれで違法性の評価
3009 が相対化し、
3010 適法行為と違法行為との間の共同正犯も認める余地を残していることも参考と
3011 なろう。
3012
3013
3014 〔第2問〕
3015 本問は、
3016 覚醒剤取締法違反を素材として、
3017 捜査及び公判に関する具体的事例を示し、
3018 各局面
3019 で生じる刑事手続上の問題点、
3020 その解決に必要な法解釈、
3021 法適用に当たって重要な具体的事実
3022 の分析及び評価並びに具体的結論に至る思考過程を論述させることにより、
3023 刑事訴訟法(以下
3024 「刑訴法」という。
3025
3026 )に関する基本的学識、
3027 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
3028
3029
3030 〔設問1〕は、
3031 甲から押収した覚醒剤の鑑定書の証拠能力を論じさせることにより、
3032 所持品
3033 検査の限界及び違法収集証拠排除法則に対する理解と具体的事案への適用能力を試すものであ
3034 る。
3035
3036
3037 本問では、
3038 鑑定の対象となった覚醒剤は、
3039 裁判官が発付した捜索差押許可状により差し押さ
3040 えられたものであり、
3041 差押手続それ自体には違法性が認められないものの、
3042 これに先行する手
3043 続において、
3044 Pは甲の承諾を得ることなく、
3045 甲所持のかばん(以下「本件かばん」という。
3046
3047 )
3048 のチャックを開けた上、
3049 いきなり本件かばんの中に手を差し入れて探り、
3050 注射器を取り上げて
3051 いることから、
3052 この点の違法性が覚醒剤の鑑定書の証拠能力に与える影響が問題となることを
3053 適切に把握した上で、
3054 その証拠能力の有無について論じる必要がある。
3055
3056
3057 まず、
3058 Pが注射器を発見した手続については、
3059 その法的性質は警察官職務執行法(以下「警
3060
3061 - 21 -
3062
3063 職法」という。
3064
3065 )上の職務質問及びそれに付随する所持品検査であると考えられることから、
3066
3067 所持品検査の限界が問題となるところ、
3068 所持品検査の適法性が争われた事案に関する最高裁判
3069 所の判例(最判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁)や関連する警職法の条文の解
3070 釈などを意識しつつ、
3071 具体的事情を挙げて、
3072 これに適切な法的評価を加えて論じる必要がある。
3073
3074
3075 次に、
3076 Pが注射器を発見した手続が違法であるとした場合には、
3077 かかる手続の違法性が覚醒
3078 剤の鑑定書の証拠能力にどのような影響を及ぼすのかという点が問題となることから、
3079 違法収
3080 集証拠排除法則についての基本的な理解及び鑑定書という派生証拠の証拠能力に関する自説を
3081 示した上、
3082 本件事例の具体的事実を適切に評価して結論を出すことが求められる。
3083
3084
3085 この点については、
3086 違法収集証拠排除法則に関する最高裁判所の判例(最判昭和53年9月
3087 7日刑集32巻6号1672頁)を踏まえて、
3088 違法収集証拠が排除される根拠(適正手続の保
3089 障、
3090 司法の廉潔性の保持、
3091 将来の違法捜査の抑止)、
3092 排除の判断基準、
3093 その際に考慮される要
3094 素等を論じる必要がある。
3095
3096 また、
3097 派生証拠の証拠能力については、
3098 違法性の承継論、
3099 毒樹の果
3100 実論、
3101 派生証拠にも端的に違法収集証拠排除法則を適用する考え方など、
3102 様々な立場があるが、
3103
3104 いずれの立場に立つにせよ、
3105 自説及びその論拠を説得的に論じる必要があろう。
3106
3107
3108 そして、
3109 こうした解釈の枠組みの下で、
3110 所持品検査の違法性の判断から覚醒剤の鑑定書の証
3111 拠能力の判断に至る過程を論じることになるが、
3112 その際には、
3113 事例中に現れた具体的事実を的
3114 確に抽出し、
3115 分析して結論を導く必要がある。
3116
3117 そして、
3118 証拠能力を認めるか、
3119 それとも認めな
3120 いかという結論はともかく、
3121 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列するのではなく、
3122 そ
3123 れぞれの事実が持つ意味を的確に評価して論じなければならない。
3124
3125 例えば、
3126 本問では、
3127 捜索差
3128 押許可状の請求に当たって、
3129 捜査報告書@及び同Aが疎明資料として提出されているところ、
3130
3131 同@には、
3132 覚醒剤の密売拠点であると疑われるアパートから出てきた人物から甲が封筒を受け
3133 取っているなど、
3134 覚醒剤を所持している可能性が高いことをうかがわせる事情が記載されてい
3135 る一方で、
3136 同Aには、
3137 Pが本件かばんの中に手を入れて探り、
3138 書類の下から注射器を発見した
3139 ことが記載されていない点につき、
3140 これらの事実がどのような意味を有するのかを丁寧に検討
3141 することが求められる。
3142
3143 また、
3144 派生証拠の証拠能力については、
3145 自説との論理的整合性が求め
3146 られており、
3147 例えば、
3148 毒樹の果実論に立つ場合には、
3149 どの証拠が一次証拠と考えられるのかに
3150 留意しながら論述する必要がある。
3151
3152
3153 〔設問2〕は、
3154 いずれもビデオ撮影の適法性を問うものである。
3155
3156 すなわち、
3157
3158 【捜査@】では、
3159
3160 覚醒剤の密売所の疑いのあるアパートの一室に出入りする人物と乙の同一性を確認するため
3161 に、
3162 同アパートから出てきた人物が入った喫茶店において、
3163 同人の容ぼうをビデオカメラで撮
3164 影しており、
3165 【捜査A】では、
3166 乙と同アパートに出入りする人物との共犯関係、
3167 覚醒剤の搬入
3168 状況などの組織的な覚醒剤密売の実態を明らかにするために、
3169 近隣のマンションの一室から同
3170 アパートの一室の玄関ドアやその周辺を継続撮影しているところ、
3171 こうした撮影行為の適法性
3172 を問うことにより、
3173 強制処分と任意処分を区別する基準、
3174 強制捜査又は任意捜査の適否の判断
3175 方法についての理解と、
3176 その具体的事実への適用能力を試すものである。
3177
3178
3179 この点に関し、
3180 写真撮影やビデオカメラによる撮影の適否が問題となった事案に関する最高
3181 裁判所の判例は、
3182 それらの撮影が強制処分に該当するか否かを明示的に判断することなく、
3183 当
3184 該事案においては令状によらずに適法にこれらを実施することが許されるとしている(最大判
3185 昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁、
3186 最決平成20年4月15日刑集62巻
3187 5号1398頁)。
3188
3189 他方、
3190 最高裁判所は、
3191 「強制手段とは、
3192 有形力の行使を伴う手段を意味す
3193 るものではなく、
3194 個人の意思を制圧し、
3195 身体、
3196 住居、
3197 財産等に制約を加えて強制的に捜査目的
3198 を実現する行為など、
3199 特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」
3200 と判示している(最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁、
3201 以下「昭和51年決定」
3202 という。
3203
3204 )。
3205
3206 本問においても、
3207 これらの判例や関連する刑訴法の条文の解釈などを意識しつつ、
3208
3209 強制処分に対する規律の趣旨・根拠を踏まえながら、
3210 強制処分と任意処分とを区別する基準を
3211
3212 - 22 -
3213
3214 論述することが求められる。
3215
3216
3217 その上で、
3218 まず、
3219 【捜査@】及び【捜査A】が強制処分か否かを検討することになるが、
3220 そ
3221 の際には、
3222 各ビデオ撮影により侵害される権利・利益の性質を踏まえた論述が求められる。
3223
3224 そ
3225 して、
3226 これらの捜査が強制処分に至っていると評価する場合には、
3227 法定された強制処分の類型
3228 に該当するか否か等を検討する必要があろう。
3229
3230
3231 他方、
3232 任意処分にとどまると評価する場合であっても、
3233 各捜査活動により何らかの権利・利
3234 益を侵害し又は侵害するおそれがあるため、
3235 無制約に許容されるものではなく、
3236 任意捜査にお
3237 いて許容される限界内のものか否かを検討することになる。
3238
3239 この許容性については、
3240 昭和51
3241 年決定を踏まえれば、
3242 具体的事案において、
3243 特定の捜査手段により対象者に生じ得る権利・利
3244 益の侵害の内容・程度と、
3245 同目的を達成するために当該手段を採る必要性とを比較衡量し、
3246 具
3247 体的状況の下で相当と認められるか否かを検討することになる。
3248
3249
3250 本問では、
3251 こうした解釈の枠組みを適切に示した上で、
3252 本件事例の具体的状況下におけるビ
3253 デオ撮影の適法性を論述することになるが、
3254 その際には、
3255 〔設問1〕と同様、
3256 事例中に現れた
3257 具体的事実を的確に抽出し、
3258 分析して結論を導く必要がある。
3259
3260 すなわち、
3261 各ビデオ撮影の適否
3262 の結論はともかく、
3263 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではな
3264 く、
3265 それぞれの事実が持つ意味を的確に評価して論じなければならない。
3266
3267
3268 【捜査@】については、
3269 喫茶店における当該ビデオ撮影により制約を受ける権利・利益の内
3270 容や性質、
3271 その制約の程度がいかなるものであるのかを明示し、
3272 アパートに出入りする人物と
3273 乙の同一性を明らかにするという捜査目的を達成するための手段として、
3274 目視や写真撮影では
3275 なくビデオ撮影という方法を用いることの意味を踏まえた論述が求められることになる。
3276
3277 また、
3278
3279 【捜査A】については、
3280 【捜査@】において制約を受ける権利・利益の内容や性質との相違、
3281
3282 捜査目的の相違、
3283 ビデオ撮影の期間や態様の相違を意識しつつ、
3284 【捜査@】の場合と同様、
3285 制
3286 約を受ける権利・利益の内容や性質、
3287 その制約の程度がいかなるものであるのかを明示し、
3288 ア
3289 パートに出入りする人物と乙との共犯関係、
3290 覚醒剤の搬入状況などの組織的な覚醒剤密売の実
3291 態を明らかにするという捜査目的を達成するための手段として、
3292 約2か月間にわたって24時
3293 間継続撮影するという方法を用いることの意味や、
3294 その際に玄関内部や奥の部屋に通じる廊下
3295 が映り込んでいたことの意味などを踏まえた論述が求められることになる。
3296
3297
3298 【選択科目】
3299 [倒産法]
3300 〔第1問〕
3301 本問は、
3302 株式会社とその役員がそれぞれ破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を基
3303 に、
3304 主に、
3305 法人の役員に対する責任の追及、
3306 破産者の財産の調査等、
3307 否認に関する破産法上の
3308 各規律についての基本的な理解と事例処理能力を問うものである。
3309
3310
3311 〔設問1〕は、
3312 取締役が忠実義務違反に当たる行為をした事例について、
3313 役員の財産に対す
3314 る保全処分(破産法第177条第1項)及び役員の責任の査定の申立て(同法第178条第1
3315 項)ができることを指摘し、
3316 それぞれの制度趣旨及び要件等の説明が求められる。
3317
3318
3319 〔設問2〕は、
3320 破産者による財産の隠匿が疑われる事例について、
3321 まず破産法上の破産者の
3322 義務として、
3323 説明義務(破産法第40条第1項)、
3324 重要財産開示義務(同法第41条)に言及
3325 することになる。
3326
3327 その上で、
3328 破産管財人は、
3329 上記の破産者の説明義務に基づき、
3330 破産者に対し
3331 て財産の内容等に関する説明を求めることができるほか、
3332 破産財団に関する帳簿、
3333 書類その他
3334 の物件を検査することができること(同法第83条)の指摘が求められる。
3335
3336 裁判所は、
3337 上記の
3338 重要財産開示義務に基づき破産者の財産の内容を記載した書面の提出を求めることができるほ
3339 か、
3340 破産者宛の郵便物等を破産管財人に配達すべき旨の嘱託をすることができること(同法第
3341 81条第1項)の指摘が求められる。
3342
3343
3344 - 23 -
3345
3346 〔設問3〕は、
3347 破産手続開始前にされた事業譲渡について、
3348 破産者が相当な対価を取得して
3349 いたという場合(@)と、
3350 破産者が取得した対価は相当額に満たないものであったものの、
3351 事
3352 業譲渡に当たり譲受人が破産者の債務を引き受けていたという場合(A)について、
3353 適切な事
3354 例分析とその分析に沿った否認類型の成否の具体的な検討を求めるものである。
3355
3356
3357 @の場合については、
3358 破産法第161条第1項各号の要件充足の有無を、
3359 具体的な事実関係
3360 に基づいて検討することになる。
3361
3362 同項第2号の検討については、
3363 債権者に弁済する意思は、
3364 議
3365 論のあるところではあるものの、
3366 通常、
3367 隠匿等の処分をする意思には含まれないと考えられる
3368 が、
3369 本問の事例においては弁済を受けた債権者が破産会社の取締役であるという事情にも配慮
3370 して検討することが求められる。
3371
3372
3373 Aの場合については、
3374 破産法第160条第1項第1号の要件充足の有無を、
3375 具体的な事実関
3376 係に基づいて検討することになる。
3377
3378 詐害行為性につき、
3379 財産の実質的減少を伴うかを検討する
3380 に当たっては、
3381 事業譲渡の対価として支払われた額に加えて債務引受けがされた額を考慮する
3382 と総体としては財産に減少はないようにも思われるものの、
3383 債務引受けの対象とならなかった
3384 債権者にとっては責任財産の引当てが減少することになることにも配慮して検討することが求
3385 められる。
3386
3387
3388 〔第2問〕
3389 本問は、
3390 株式会社の再生手続に関する具体的事例を通じて、
3391 主に、
3392 再生計画案の決議、
3393 再生
3394 債権の査定の裁判、
3395 双務契約に関する民事再生法上の各規律についての基本的な理解と事例処
3396 理能力を問うものである。
3397
3398
3399 〔設問1〕は、
3400 再生計画案の成立の見込み等を検討する場面を題材にして、
3401 可決要件や議決
3402 権等についての理解を確認するものである。
3403
3404
3405 小問は民事再生法第172条の3第1項に規定されている可決要件について、
3406 議決権額要
3407 件と頭数要件の双方が必要とされていること(同条項柱書)を明確に指摘するとともに、
3408 特に
3409 頭数要件についてはその趣旨を踏まえつつ、
3410 条文に則して正確に可決要件の内容を説明するこ
3411 とが求められる。
3412
3413
3414 小問及び小問においては、
3415 議決権を定めた条文(民事再生法第87条第1項第4号、
3416 第
3417 3号)を、
3418 それぞれの事例に正確に適用することが求められる。
3419
3420 併せて、
3421 小問については、
3422
3423 再生手続開始後の不履行による損害賠償請求権(同法第84条第2項第2号)については、
3424 議
3425 決権を有しない旨(同法第87条第2項)の指摘も求められる。
3426
3427
3428 小問は、
3429 認否書に記載された799人の顧客の自認債権(民事再生法第101条第3項参
3430 照)と、
3431 再生債務者であるA社に自認義務があったにもかかわらず認否書に記載されなかった
3432 顧客Dの債権に分けた上で、
3433 民事再生法上のそれぞれの取扱いを説明することが求められる。
3434
3435
3436 前者の自認債権については、
3437 議決権を有しないこと(同法第104条第1項括弧書き)を指摘
3438 した上で、
3439 再生計画による権利変更(同法第157条第1項)、
3440 権利変更がされた権利の行使
3441 (同法第179条第1項、
3442 第2項)について説明することが求められる。
3443
3444 後者の認否書に記載
3445 されなかったDの再生債権については、
3446 権利変更の一般基準による変更(同法第181条第1
3447 項第3号)、
3448 権利行使の時期的劣後(同条第2項)について説明することが求められる。
3449
3450
3451 〔設問2〕は、
3452 双方未履行の双務契約の解除について違約金条項が適用されるかが争われて
3453 いる事例を題材として、
3454 調査の段階において届出再生債権の内容について再生債務者が認めな
3455 かった(異議等があった)場合の手続等について説明することを求めるとともに(小問)、
3456
3457 違約金条項の適用の有無について、
3458 事例に即した具体的な検討を求めるものである(小問)。
3459
3460
3461 小問では、
3462 再生債権査定の申立て(民事再生法第105条第1項本文)、
3463 査定決定に不服
3464 がある場合の再生債権異議の訴え(同法第106条第1項)、
3465 さらに再生債権の確定に関する
3466 訴訟の判決等の効力(同法第111条第1項、
3467 第2項)について説明することが求められる。
3468
3469
3470
3471 - 24 -
3472
3473 小問では、
3474 双方未履行双務契約の処遇に関する民事再生法第49条第1項の規定の趣旨を
3475 踏まえつつ、
3476 本件事案と本件違約金条項の内容をそれぞれ具体的に検討した上で、
3477 同条項の適
3478 用の有無を検討することが求められる。
3479
3480
3481 例えば、
3482 民事再生法第49条第1項の趣旨につき、
3483 再生債務者をめぐる契約関係を円滑・迅
3484 速に整理して事業の維持再生を図るために再生債務者等に法律上特別に解除権を含む選択権を
3485 与えたものであると解した上で、
3486 再生手続において、
3487 本件違約金条項の内容が再生債務者A社
3488 の上記の解除選択の権限を事実上制限することになるため、
3489 同違約金条項は上記の解除選択の
3490 場合に適用されないといった方向性での解答が考えられる。
3491
3492 その上で、
3493 本問の事例では、
3494 本件
3495 売買契約が即時解除されてもEには損害が生じない見込みであるという事情があるため、
3496 そも
3497 そもEは同条第5項の準用する破産法第54条第1項に基づく損害賠償請求権を再生債権とし
3498 て行使することが認められないこととの均衡上、
3499 損害発生の有無にかかわらず一律に金300
3500 0万円の違約金債権を再生債権として行使することをEに対して認めてしまうと、
3501 他の再生債
3502 権者との間の衡平を害するという弊害も考慮して解答することが求められる。
3503
3504
3505 [租税法]
3506 〔第1問〕
3507 本問では、
3508 所得税法において、
3509 土地の売買契約とその後の買主の債務不履行に伴う法律関係
3510 の変動がどのように扱われるか、
3511 が主に問われている。
3512
3513 各設問とも、
3514 いずれも受験者であれば
3515 当然に学習していることが期待される基礎知識を具体的な法的事実関係に対して正確に適用で
3516 きる能力を確認することを狙いとしている。
3517
3518
3519 租税法全般について言えることであるが、
3520 とりわけ所得税法においては、
3521 条文の正確な理解
3522 ・解釈を前提に、
3523 課税対象の私法的要素を的確に把握・分析した上で、
3524 課税要件事実を抽出し、
3525
3526 適切に当てはめる能力が重要である。
3527
3528 本問で言えば、
3529 課税要件規定(ここでは所得税法第36
3530 条第1項の「収入すべき金額」)の解釈を基に、
3531 違約手付と解約手付の両方の性質を帯びた手
3532 付金の交付、
3533 債務不履行解除と違約金の交付、
3534 といった要素について、
3535 民法の基本的な知識を
3536 踏まえつつ、
3537 具体的に当てはめる能力が求められている。
3538
3539
3540 また、
3541 これも例年の採点実感で強調しているように、
3542 条文の要件を正確に読解し必要に応じ
3543 て解釈を施した上で事実関係に適用する能力は、
3544 租税法の学習においては無論のこと、
3545 多様な
3546 事案に対応する初見の条文に対応することが多い租税法の実務においても、
3547 必須である。
3548
3549 本問
3550 で言えば、
3551 譲渡所得算出の構造(設問1)、
3552 更正の請求の要件(設問2)、
3553 一時所得の要件(設
3554 問3)、
3555 事業所得の貸倒損失の要件(設問4)について、
3556 受験者の多くは「なんとなく」理解
3557 しているものと思われるが、
3558 そこで適用される条文の構造に照らして何が鍵となる要件かを正
3559 確に理解した上で、
3560 該当する要件事実を設問の事実関係から抽出して提示することが重要であ
3561 る。
3562
3563
3564 設問1では、
3565 @売主A・買主Bの間で令和4年12月に締結された土地売買契約に基づいて、
3566
3567 A契約締結と同時にAがBから手付金の交付を受け、
3568 B令和5年3月に売主Aが土地の引渡し
3569 ・移転登記を了するとともに、
3570 Bから売買代金の一部分(2700万円)の支払を受け、
3571 同時
3572 にAで受領済みの手付金を売買代金に充当した後、
3573 C令和6年4月にBの債務不履行を理由に
3574 契約が解除されて原状回復がされるとともに、
3575 BからAに違約金が支払われた、
3576 というやや錯
3577 綜した事実関係の下で、
3578 Aが「令和5年分の所得税について期限内申告をする場合において」
3579 Aの譲渡所得金額の算定上問題となる法的論点が問われている(設問文で譲渡所得と明示して
3580 いるのであるから、
3581 本件売買から譲渡所得が生じるか否かを論じる必要はない)。
3582
3583 上記@〜C
3584 の事実経過が示すように、
3585 一度は私法上有効に成立し、
3586 所得税額確定の基礎となった課税要件
3587 事実が遡及的に消滅するという場面であっても、
3588 所得税法上の納税義務は、
3589 暦年ごとに成立・
3590 確定するのが原則である(国税通則法第15条ないし第17条)。
3591
3592 このことは期限後申告の場
3593 - 25 -
3594
3595 合にも変わるところはない。
3596
3597 設問文で「期限内申告」に触れたのは、
3598 令和5年分所得税の法定
3599 申告期限である令和6年3月15日までに確定している法的事実関係@〜Bをもとに課税関係
3600 を考えればよい、
3601 と誘導する趣旨であった。
3602
3603
3604 令和5年分のAの譲渡所得に係る総収入金額に算入される金額を論じるには、
3605 通則規定であ
3606 る所得税法第36条第1項につき判例が権利確定主義を採用しているとの解釈を確認した上
3607 で、
3608 土地の譲渡の場合に何をもって権利確定と言い得るかの基準を立て、
3609 本問の事実関係に当
3610 てはめる必要がある。
3611
3612 本設問では特に手付金300万円の扱いについて検討することが求めら
3613 れている。
3614
3615 問題文が明記するように、
3616 解約手付と違約手付を兼ねるとされている手付金につい
3617 て、
3618 どの時点で権利確定があったと考えるのか、
3619 民法の基礎的な理解を踏まえた立論が求めら
3620 れている。
3621
3622 最後に、
3623 Aによる本件土地の保有期間も踏まえつつ、
3624 譲渡所得金額算定の条文(所
3625 得税法第33条第3項、
3626 第4項)を正確に適用することが求められる。
3627
3628
3629 設問2では、
3630 期限内に申告・納付を完了したAの令和5年分の所得税額について、
3631 上述の事
3632 実Cがどのような影響を及ぼすかが問われている。
3633
3634 これが更正の請求の問題であることは容易
3635 に見当がつくと思われるが、
3636 具体的にどの条文のどの要件を満たすから更正の請求を行えるの
3637 かを的確に解答するためには、
3638 課税要件法の正確な理解が不可欠となる。
3639
3640 本件においては、
3641 債
3642 務不履行に基づく解除(合意解除ではないことに注意)により、
3643 売買契約が遡及的に消滅する
3644 こと、
3645 及び、
3646 土地と代金の原状回復が行われたことの双方が満足されることをもって、
3647 令和5
3648 年分の所得税額確定の基礎となった「資産の譲渡…による所得」という課税要件事実が遡及的
3649 に消滅することになる(「契約解除が譲渡所得を遡及的に消滅させる」というのでは不正確で
3650 ある)。
3651
3652 これが「申告書に記載した課税標準…が国税に関する法律の規定に従つていなかつた
3653 こと」(国税通則法第23条第1項第1号)になること、
3654 及び同項柱書の他の要件も満たされ
3655 ていること、
3656 を丹念に押さえる必要がある。
3657
3658
3659 設問3では、
3660 違約金300万円の権利確定がどの年に生じているか、
3661 その所得分類は何か、
3662
3663 ということを論じればよい。
3664
3665 令和4年に交付され令和5年に代金に充当された手付金がそのま
3666 ま交付されたようにも見えるが、
3667 令和6年4月に契約が解除され原状回復された上での違約金
3668 の交付であることを法的にどう評価するか、
3669 説得力のある立論が求められている。
3670
3671 その上で、
3672
3673 一時所得(所得税法第34条)の条文の位置に鑑み、
3674 これが他の所得(とりわけ本問の経緯か
3675 らすれば、
3676 譲渡所得)に当たらないことを理由と共に述べた上で、
3677 雑所得との区別の基準とな
3678 る偶発性(非継続性)・非対価性について必要な事実を摘示しつつ、
3679 要件該当性を論じること
3680 が求められている。
3681
3682
3683 設問4は、
3684 事業所得者の貸倒損失(所得税法第51条第2項)についての素直な出題ではあ
3685 るが、
3686 上に述べた条文の正確な運用能力、
3687 具体的には、
3688 本件Bの債権が同項にいう「債権」に
3689 当たること、
3690 「債権の貸倒れ」の意義及び本問への当てはめ、
3691 等を正確に論じることが求めら
3692 れており、
3693 併せて、
3694 事業所得が反復継続的な所得であること(譲渡所得との違い)についての
3695 理解も問うものである。
3696
3697
3698 〔第2問〕
3699 本問は、
3700 学資金として非課税所得となる要件の充足の有無と給与等の支払に係る源泉徴収の
3701 要否(設問1)、
3702 源泉徴収に係る「過誤納金(より正確には誤納金)」の回復に際しての法律
3703 関係(設問2)、
3704 企業会計及び私法上の評価と関わる法人税法上の別段の定めの解釈適用(設
3705 問3)、
3706 相続により取得した財産に係る取得費の引継ぎと付随費用の処理(設問4)、
3707 そして、
3708
3709 生活に通常必要でない資産に係る損益通算制限(設問5)に関する設問から成る。
3710
3711 これらを通
3712 して、
3713 所得税法を中心に、
3714 租税法令の基本的な制度と理論が理解できているか、
3715 主要な判例の
3716 規範を踏まえつつ、
3717 各法令上の要件につき説得力のある解釈論を展開し、
3718 事案に適切に当ては
3719 める能力があるかを審査している。
3720
3721
3722
3723 - 26 -
3724
3725 設問1は、
3726 源泉徴収の要否を問うものであり、
3727 解答の過程では、
3728 使用者が供与する債務免除
3729 に係る経済的利益が給与等(所得税法第28条第1項)の支払に該当するか、
3730 また、
3731 経済的利
3732 益が学資金として非課税扱いを受けうるか(同法第9条第1項第15号)の検討を経なければ
3733 ならない。
3734
3735 その上で、
3736 本問で問題となる源泉徴収に関する規定(同法第183条第1項)を把
3737 握し、
3738 その要件を充足するかを考える必要がある。
3739
3740 初見の論点や条項であっても、
3741 奨学金の慈
3742 善性・公益性から非課税所得該当性を疑って所得税法第9条第1項に当たれるか、
3743 また、
3744 同項
3745 第15号の規定ぶりは、
3746 括弧書きが重なり読みづらいが、
3747 租税法令で典型的な定めであるとも
3748 言え、
3749 正確に読み解ける力を備えているかが問われている。
3750
3751
3752 設問2では、
3753 誤って過大に納付された源泉徴収税額(誤納金)相当額を、
3754 国と源泉徴収義務
3755 者(B法人)、
3756 申告納税義務を負う本来の納税義務者(A)という三者の間で、
3757 どのような法律関
3758 係に基づいて精算されるかを、
3759 その法的根拠と共に問うている。
3760
3761 最判平成4年2月18日民集
3762 46巻2号77頁に従い、
3763 国とB法人の法律関係(B法人の納税義務)と、
3764 B法人とAの法律
3765 関係(Aの納税義務)が別個に存在するというべきであるから、
3766 Aが確定申告で申告納税額か
3767 ら誤納金相当額を控除することにより直接国との間でその精算することはできない。
3768
3769 なお、
3770 確
3771 立した判例はあるものの、
3772 その規範を踏まえた上で説得的に展開されているものであれば、
3773 判
3774 例とは異なる見解であっても、
3775 評価の対象となり得る。
3776
3777
3778 設問3は、
3779 法人税法上の減価償却費に関する別段の定めを、
3780 与えられた事案において適切に
3781 運用する能力を確認するものである。
3782
3783 問題となる同法第31条第1項では、
3784 損金経理要件を通
3785 じて会社法会計との整合が図られる一方で、
3786 減価償却資産該当性やその「取得」、
3787 あるいは当
3788 該資産を事業年度末に「有する」という法人税法に固有の要件が含まれることが確認できる。
3789
3790
3791 これらの要件を巡っては、
3792 基礎となる取引に係る私法上の評価を踏まえてその充足の有無を検
3793 討することにより、
3794 主張の説得力が増す。
3795
3796 法人税法の定めの解釈適用に際し、
3797 このように企業
3798 会計及び私法上の評価が関わることは頻繁にあるものであり、
3799 両者に適切に目配りして論理を
3800 展開する力が試されている。
3801
3802
3803 設問4は、
3804 譲渡所得の計算に係る基礎と、
3805 相続税と所得税が交錯する基本的な問題状況を扱
3806 う。
3807
3808 すなわち、
3809 相続により取得した財産の譲渡益に対する課税の基本的な制度を、
3810 最判平成1
3811 7年2月1日訟務月報52巻3号1034頁の規範を踏まえつつ、
3812 所得税法第60条第1項第
3813 1号の文言と趣旨に照らして理解できているかを確認している。
3814
3815 具体的には、
3816 同号の趣旨が相
3817 続により取得した資産の増加益に係る課税の繰延べにあり、
3818 その譲渡に際し、
3819 所得税法に従っ
3820 て計算される相続前後の各増加益を合わせたものを超えて所得として把握することは予定され
3821 ていないことに加え、
3822 問題の名義書替料が取得費(所得税法第38条第1項)を構成すべき付
3823 随費用に当たるか否かを適切に考慮した上で、
3824 事案への当てはめができているかが問われてい
3825 る。
3826
3827
3828 設問5は、
3829 総合所得税の基礎の1つである損益通算の定めとその制限について、
3830 根拠条文に
3831 則して確実に理解できているかを問うものである。
3832
3833 所得税法第69条第1項から、
3834 問題文の譲
3835 渡所得上の損失は、
3836 第一次的には損益通算の対象となり得るものの、
3837 生活に通常必要でない資
3838 産(所得税法第62条第1項・同法施行令第178条第1項第2号)に係る損失に該当し、
3839 損
3840 益通算上は生じなかったものとみなされる(所得税法第69条第2項)。
3841
3842 他の条文の参照と政
3843 令委任が重なり読み取りづらいが、
3844 このような制限を、
3845 その趣旨を理解した上で導ける力が試
3846 される。
3847
3848 本問で特に問題となるのは、
3849 「主として趣味、
3850 娯楽・・の目的で所有する資産」の解
3851 釈と適用である。
3852
3853 主観的要件であるが、
3854 公平な税務執行の要請から、
3855 客観的要素を重視した当
3856 てはめが意識されているかが問われている。
3857
3858
3859 [経済法]
3860 〔第1問〕
3861 - 27 -
3862
3863 第1問では、
3864 入札談合におけるメーカー9社、
3865 Y社及び販売業者9社の各行為が、
3866 私的独占
3867 の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3868
3869 )第2条第6項に定義
3870 される不当な取引制限に該当し、
3871 同法第3条に違反するか等について同法上の問題点を検討す
3872 ることを求めるものである。
3873
3874 不当な取引制限の各要件の正確な理解を前提に、
3875 特にメーカー9
3876 社とY社の各行為が、
3877 どのような意味で不当な取引制限の行為要件及び市場効果要件等を満た
3878 すか、
3879 また、
3880 違反行為の終期及び主導的事業者としてのY社に対する課徴金がどのように考え
3881 られるかなど、
3882 共同行為としての入札談合に関して独占禁止法の解釈と適用の基本的な考え方
3883 について受験者の理解を問うものである。
3884
3885
3886 まず、
3887 行為要件の検討では、
3888 入札談合において「共同して」(多摩談合(新井組ほか)事件
3889 ・最判平成24年2月20日民集66巻2号796頁に即して「共同して・・・相互に」の要件
3890 と考えることもできる。
3891
3892 )が談合の基本合意(意思の連絡)を意味すること、
3893 また「相互にそ
3894 の事業活動を拘束する」については複数の解釈があり得るが、
3895 いずれの立場に立つとしてもそ
3896 の意義と解釈を明らかにした上で、
3897 特にメーカー9社とY社による本件取決めを中心に、
3898 本問
3899 の事実関係を当てはめて、
3900 その当否を説得的に論証していくことが必要になる。
3901
3902
3903 また、
3904 市場効果要件の「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」の検討では、
3905
3906 まず市場画定が求められる。
3907
3908 検討対象となる商品的・地理的な範囲を主として需要者から見た
3909 需要代替性の見地から画定するという規範に留意しつつ、
3910 専ら競争制限を目的又は効果とする
3911 入札談合については基本合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲をもって
3912 画定すれば足りるとの解釈を示すとともに、
3913 本問においては、
3914 本件取決めが対象とする「甲製
3915 品の入札」に係る甲製品の供給市場に着眼して検討することが重要になる。
3916
3917 次に、
3918 競争の実質
3919 的制限の検討が求められる。
3920
3921 市場支配力の形成、
3922 維持・強化という規範に留意しつつ、
3923 当該取
3924 引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、
3925 入札談合においては、
3926 当事者らがその意
3927 思で落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態ないし力を形成すること
3928 の解釈(前記多摩談合(新井組ほか)事件判決)を示すとともに、
3929 的確に本問の事実関係を当
3930 てはめて論述することが重要になる。
3931
3932 併せて「公共の利益に反して」の要件についても、
3933 入札
3934 談合が競争制限の目的又は効果しか持たないことを明らかにすることが求められる。
3935
3936
3937 さらに、
3938 違反行為の終期の検討では、
3939 入札談合における共同行為の終期とは、
3940 基本合意に基
3941 づく拘束力が解消されて合意参加者が競争制限的な事業活動を行わなくなった時点を指すとい
3942 う解釈を示すとともに、
3943 本問においては、
3944 X2による本件取決めからの離脱が本件取決めの拘
3945 束力にどのような影響を及ぼしたかを丁寧に見た上で、
3946 当該共同行為の終期を明らかにするこ
3947 とが求められる。
3948
3949 また、
3950 Y社に対する課徴金の有無及び金額については、
3951 本件取決めに基づい
3952 て、
3953 Y社が、
3954 メーカー9社からの談合情報を集約するとともに、
3955 落札者及び入札価格を指示す
3956 るなど「違反行為の実行としての事業活動について指定(独占禁止法第7条の3第2項第3号
3957 ロ)」していたという事案の特性に鑑みて、
3958 Y社の上記の行為は甲製品の供給調整を「容易に
3959 すべき重要なもの」に当たるとの評価を導いた上で、
3960 課徴金額を具体的に示すことが重要であ
3961 る。
3962
3963
3964 〔第2問〕
3965 これまで国内のαの販売を独占的に供給する地位にあったX社がY社の参入に対して行った
3966 (a)〜(c)の行為の独占禁止法上の評価を問うものであり、
3967 排除型行為を分析する基本的な力を
3968 見ることを主眼とする問題である。
3969
3970 その観点からは、
3971 (a)〜(c)による私的独占該当性が問題と
3972 なる。
3973
3974 ただし、
3975 (a)〜(c)の各行為を不公正な取引方法として論じることに注力し、
3976 その後、
3977 補
3978 足的に私的独占を論じるという理路も想定されており、
3979 そのように論じるものが実際に多いも
3980 のと予想されている。
3981
3982 どちらの構成であっても排除的行為の基本的分析能力と私的独占の基本
3983 的理解が問われるという点では同じである。
3984
3985
3986
3987 - 28 -
3988
3989 私的独占については、
3990 一定の取引分野を画定するための基本的な理解が問われる。
3991
3992 需要の代
3993 替性と供給の代替性から正確に理解できるかどうかが問われる。
3994
3995 (a)〜(c)が排除行為に該当す
3996 るかどうかについても、
3997 排除行為についての基本的な理解ができているかどうかを問うもので
3998 ある。
3999
4000 (a)〜(c)の各行為が排除効果を有するか否かが中心的な問題となる。
4001
4002 (a)と(b)について
4003 は、
4004 不公正な取引方法の構成をとった場合に問題となる市場閉鎖効果分析の基本的手法を修得
4005 できているかが問われる。
4006
4007 なお、
4008 (c)についてはγに対する妨害がαにおける排除になり得る
4009 か否かを論じることが必要になる。
4010
4011 少し複雑なように見えるが、
4012 関連市場に属さない製品・役
4013 務を直接の対象として、
4014 関連市場での事業活動を排除するといった私的独占事例は内外でよく
4015 見られるものである。
4016
4017 (a)〜(c)の排除効果が競争の実質的制限をもたらす程度のものであるこ
4018 との評価や、
4019 公共の利益要件の評価はごく基本的な理解があれば可能なものであり、
4020 その点に
4021 ついてはごく基本的な能力を問うものとなっている。
4022
4023
4024 (a)〜(c)を不公正な取引方法として議論する場合、
4025 (a)と(b)については拘束条件付取引若し
4026 くは間接の取引拒絶の構成が考えられ、
4027 どちらで構成しても良いが、
4028 公正競争阻害性、
4029 特に市
4030 場閉鎖効果についての基本的な分析能力を確認することが中心課題となる。
4031
4032 私的独占でも説明
4033 したように影響を受ける市場の画定方法についての基本的理解も問われる。
4034
4035 なお、
4036 (c)は取引
4037 妨害が成立するか否かが問題となり、
4038 取引妨害についての基本的な条文理解が問われる。
4039
4040 なお、
4041
4042 (c)については、
4043 γの取引の妨害が問題となるため、
4044 私的独占では補足できない法益侵害も含
4045 まれている。
4046
4047 私的独占を主として論じた場合であっても(c)については、
4048 取引妨害について別
4049 個に論じることが要請される。
4050
4051 不公正な取引方法を中心に論じた場合、
4052 (c)が排除行為に該当
4053 することについては不公正な取引方法の該当性だけではない側面も論じなければならない。
4054
4055
4056 [知的財産法]
4057 〔第1問〕
4058 1
4059
4060 設問1は、
4061 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の属否及び無効の抗弁の成否と
4062 ともに、
4063 新規性喪失の例外について問うものである。
4064
4065 設問2は、
4066 通常実施権許諾契約に違反
4067 して製造された製品の販売行為についての侵害の成否を問うものである。
4068
4069
4070
4071 2
4072
4073 設問1については、
4074 特許発明の技術的範囲は、
4075 特許請求の範囲の記載に基づいて確定す
4076 るとの原則(特許法(以下「法」という。
4077
4078 )第70条第1項)を踏まえた上で、
4079 出願経過に
4080 おいてXが提出した意見書の内容などの本問の事実関係に照らして、
4081 Y1製品が本件発明の
4082 技術的範囲に属するとのXの主張の当否を検討する必要がある。
4083
4084
4085
4086 3
4087
4088 設問1については、
4089 無効の抗弁(法第104条の3第1項)の成否を判断する前提とし
4090 て、
4091 発明の要旨を認定する必要があり、
4092 最判平成3年3月8日民集45巻3号123頁【リ
4093 パーゼ事件】を踏まえて、
4094 本件発明の要旨を認定した上で、
4095 その要旨との関係において無効
4096 の抗弁の成否を検討する必要がある。
4097
4098 無効理由としては、
4099 新規性喪失(法第29条第1項第
4100 3号)、
4101 サポート要件違反(法第36条第6項第1号)等が問題となるところ、
4102 本問の事実
4103 関係の下でそれらの無効理由の存否について論じることが求められる。
4104
4105
4106
4107 4
4108
4109 設問1については、
4110 考えられるXの主張及び手続として、
4111 新規性喪失の例外(法第30
4112 条第2項)及び書面の提出(同条第3項)を挙げた上で、
4113 新規性喪失の例外の効果を考慮し
4114 ながら、
4115 無効の抗弁の妥当性について差異が生じることがあるかを論じる必要がある。
4116
4117
4118
4119 5
4120
4121 設問2については、
4122 まず、
4123 Xとしては、
4124 Y3によるY2製品の販売が業としての実施(法
4125 第2条第3項第1号、
4126 第68条)に当たること、
4127 Y2が本件契約の最高数量制限に違反して
4128 製造する行為は本件特許権を侵害するため、
4129 Y3による販売行為も侵害に当たること、
4130 した
4131 がってY3によるY2製品の販売停止請求が可能であること(法第100条第1項)を述べ
4132 る必要がある。
4133
4134 これに対して、
4135 Y3の反論としては、
4136 最高数量制限違反は債務不履行にとど
4137 まり、
4138 Y2の製造行為は侵害に該当しないため、
4139 通常実施権者Y2による譲渡により特許権
4140 - 29 -
4141
4142 は消尽すること、
4143 したがってY3によるY2製品の販売停止請求は認められないことを挙げ
4144 る必要がある。
4145
4146 その上で、
4147 最高数量制限についてのY3の善意や最高数量制限内外のY2製
4148 品の区別困難性といった本問の事実関係を踏まえて、
4149 自説を、
4150 その論拠を示しつつ、
4151 説得的
4152 に論じる必要がある。
4153
4154
4155 〔第2問〕
4156 1
4157
4158 設問1は、
4159 建築の著作物の著作物性及び著作権侵害の成否を問うものである。
4160
4161 設問2は、
4162
4163 著作権(支分権)の効力、
4164 侵害が肯定された場合の救済及び侵害訴訟において被侵害者のな
4165 し得る主張を問うものである。
4166
4167 設問3は、
4168 建築の著作物についての著作者人格権侵害の成否
4169 及び侵害が肯定された場合の救済内容を問うものである。
4170
4171
4172
4173 2
4174
4175 設問1については、
4176 建築物としてのA図書館の著作物性(著作権法(以下「法」という。
4177
4178 )
4179 第2条第1項第1号)について、
4180 建築の著作物の著作物性の判断基準を示した上で、
4181 検討す
4182 ることが求められる。
4183
4184 また、
4185 問題となるDの行為を踏まえて、
4186 複製権(法第21条)侵害の
4187 成否について論じる必要がある。
4188
4189 その際、
4190 公開の美術の著作物等の利用にかかる権利制限(法
4191 第46条)についても述べる必要がある。
4192
4193
4194
4195 3
4196
4197 設問2については、
4198 Bが主張すべき著作権として、
4199 複製権(法第21条)及び譲渡権(法
4200 第26条の2第1項)を挙げた上で、
4201 救済として、
4202 停止請求(法第112条第1項)及び廃
4203 棄請求(同条第2項)の具体的な内容について論述する必要がある。
4204
4205 このほか、
4206 損害賠償請
4207 求(民法第709条)についても言及する必要がある。
4208
4209 また、
4210 これらの請求の妥当性の問題
4211 として、
4212 公開の美術の著作物等の利用にかかる権利制限(法第46条)について検討するこ
4213 とが求められる。
4214
4215
4216
4217 4
4218
4219 設問2については、
4220 Cの主張として、
4221 絵画αが著作物に該当し、
4222 Dの行為は複製権及び
4223 譲渡権の侵害に当たると述べる必要がある。
4224
4225 これに対抗するDの主張として考えられるもの
4226 として、
4227 著作物の類似性(表現上の本質的特徴の直接感得性)の否定や、
4228 付随対象著作物の
4229 利用にかかる権利制限(法第30条の2)を挙げる必要がある。
4230
4231 これらの主張の妥当性の問
4232 題として、
4233 本問の事実関係を踏まえて検討することが求められる。
4234
4235
4236
4237 5
4238
4239 設問3については、
4240 問題となるBの権利として同一性保持権(法第20条第1項)を、
4241 考
4242 えられるBの請求として撤去工事の予防請求(法第112条第1項)を、
4243 それぞれ挙げる必
4244 要がある。
4245
4246 その請求の妥当性の問題として、
4247 同一性保持権侵害の成否、
4248 とりわけ法第20条
4249 第2項第2号該当性について、
4250 本問の事実関係を踏まえて検討することが求められる。
4251
4252
4253
4254 [労働法]
4255 〔第1問〕
4256 本問は、
4257 管理監督者性、
4258 賞与の支給日在籍要件、
4259 懲戒解雇の場合の退職金不支給という個別
4260 的労働関係法における基本的な論点の検討を求めるものである。
4261
4262
4263 設問1について、
4264 Xは法定労働時間(労働基準法第32条)を超えて業務を行う日があった
4265 が、
4266 XはY社の上位スタッフ職であり管理監督者として扱われていることから、
4267 深夜の割増賃
4268 金を除き、
4269 時間外手当の支給を受けなかった。
4270
4271 仮にXが同法第41条第2号にいう管理監督者
4272 に当たらないとすれば、
4273 Y社は法定時間外労働についての割増賃金(同法第37条)をXに支
4274 払わなければならないことになる。
4275
4276 行政解釈は、
4277 同法第41条第2号の「監督若しくは管理の
4278 地位にある者」を労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者とし、
4279
4280 名称にとらわれず、
4281 実態に即して判断すべきとする(昭和22年9月13日発基17号、
4282 昭和
4283 63年3月14日基発150号)。
4284
4285 下級審裁判例は基本的に行政解釈と同様の考えに立ち、
4286 @
4287 職務内容、
4288 権限及び責任の重要性、
4289 企業全体の重要事項への関与、
4290 A勤務態様が労働時間規制
4291
4292 - 30 -
4293
4294 等に対する規制になじまないものか、
4295 B賃金等における管理監督者の地位にふさわしい処遇、
4296
4297 といった点を考慮して、
4298 管理監督者性を判断する。
4299
4300 この判断枠組みは指揮命令の系統(ライン)
4301 上の管理監督者について形成されたものであるが、
4302 スタッフ管理職であっても、
4303 職能資格など
4304 の待遇上、
4305 管理監督者に該当する管理職者と同格以上に位置付けられる者であって、
4306 経営上の
4307 重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者は同様に管理監督者といえるだろう(昭和6
4308 3年3月14日基発150号参照)。
4309
4310
4311 このように、
4312 設問1では、
4313 同法の条文解釈が問われており、
4314 これら行政解釈や下級審裁判例
4315 の考え方を念頭に、
4316 一定の規範を導き出し、
4317 本問の事実関係を的確に当てはめ、
4318 事例について
4319 の結論を導いていくことになろう。
4320
4321
4322 これに対し、
4323 設問2と設問3では、
4324 まず、
4325 当事者間の規範の内容を確定することが必要であ
4326 る。
4327
4328 Xが請求したいと考える賞与と退職金の法的根拠は何か。
4329
4330 Y社就業規則は賞与と退職金に
4331 ついて規定している。
4332
4333 これが合理的な労働条件であり労働者に周知させていた場合には、
4334 当事
4335 者間の規範となる(労働契約法第7条参照)。
4336
4337
4338 その上で、
4339 設問2について、
4340 Y社就業規則第50条は、
4341 賞与支給日に在籍し、
4342 かつ、
4343 評価対
4344 象期間に勤務していた者に賞与を支給する旨、
4345 規定する。
4346
4347 Xは評価対象期間中に勤務していた
4348 が賞与支給日に在籍していなかったため、
4349 令和6年7月分の賞与を受けなかった。
4350
4351 このような
4352 賞与の支給日在籍要件は適法か。
4353
4354 最高裁判所は事例判断であるが、
4355 支給日在籍要件の定めが合
4356 理性を有し、
4357 支給日前に退職した者に賞与請求権は発生しないとした(大和銀行事件・最判昭
4358 和57年10月7日集民137号297頁)。
4359
4360 また、
4361 最近の下級審裁判例では、
4362 私傷病により
4363 支給日前に死亡した者の賞与請求を、
4364 支給日在籍要件の規定にかかわらず認容したものがある
4365 (医療法人佐藤循環器科内科事件・松山地判令和4年11月2日労判1294号53頁)。
4366
4367 こ
4368 うした判例・裁判例等を踏まえ、
4369 支給日在籍要件の適法性と、
4370 懲戒解雇された者に対する適用
4371 の当否を検討することになろう。
4372
4373
4374 設問3について、
4375 Y社就業規則第54条は、
4376 懲戒解雇された者には、
4377 退職金の全部又は一部
4378 を支給しないことがある旨、
4379 規定する。
4380
4381 このような規定の合理性と適用の当否が問題となる。
4382
4383
4384 最高裁判所は事例判断であるが、
4385 同業他社に就職した者の退職金の支給額を自己都合による退
4386 職の場合の半額と定める退職金規則を合理性がないとはいえないとした(三晃社事件・最判昭
4387 和52年8月9日集民第121号225頁)。
4388
4389 懲戒解雇と退職金をめぐる下級審裁判例では、
4390
4391 職務外の非違行為が強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、
4392 常に退職金の全
4393 額を支給すべきであるとはいえないとして、
4394 退職金の一定割合を支給すべきであるとしたもの
4395 がある(小田急電鉄(退職金請求)事件・東京高判平成15年12月11日労判867号5頁)。
4396
4397
4398 なお、
4399 公務員の事案であるが、
4400 判例では、
4401 支給制限処分にかかる県教委の判断は、
4402 社会観念上
4403 著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、
4404 又はこれを濫用したものとはいえないとして、
4405
4406 退職手当の全部不支給を相当であると判断したものがある(宮城県・県教委(県立高校教諭)
4407 事件・最判令和5年6月27日民集77巻5号1049頁)。
4408
4409 小田急電鉄(退職金請求)事件
4410 をはじめとして、
4411 こうした判例・裁判例を念頭に、
4412 上記の規定の合理性を検討するとともに、
4413
4414 本問の事実関係を的確に当てはめた論述が求められる。
4415
4416
4417 〔第2問〕
4418 本問は、
4419 事業場の一部の労働者により労働組合(少数組合)が結成されたという状況で、
4420 第
4421 1に、
4422 同組合からの団体交渉要求に対する使用者の対応が労働組合法第7条第2号の団交拒否
4423 に該当するものであったか否か、
4424 第2に、
4425 使用者がその後に結成された別の労働組合(多数組
4426 合)との間でチェック・オフ協定とユニオン・ショップ協定を締結したことが同条第3号の支
4427
4428 - 31 -
4429
4430 配介入に当たるか否か、
4431 を問うものである。
4432
4433 第1については、
4434 業務手当とチェック・オフ協定
4435 という2つの交渉事項があり、
4436 それぞれの性格や法的枠組みを踏まえた分析が求められる。
4437
4438 ま
4439 た、
4440 第2については、
4441 多数組合と少数組合の併存という状況に照らしながら、
4442 チェック・オフ
4443 協定とユニオン・ショップ協定の双方について、
4444 支配介入への該当性を論じる必要がある。
4445
4446 い
4447 ずれも、
4448 集団的労働法における基本的かつ主要な論点に関し、
4449 関係する法令、
4450 判例・裁判例等
4451 から導き出される法理についての正確な理解と、
4452 当該規範への具体的事実の当てはめの的確さ
4453 を問うものである。
4454
4455 また、
4456 不当労働行為の規範の性質や救済申立てを受ける労働委員会の権能
4457 について、
4458 正しい理解を有しているかを問うものでもある。
4459
4460
4461 第1の団交拒否の成否(同条第2号)に関しては、
4462 本件でY社はX組合との間に計6回の団
4463 体交渉を行っているが、
4464 それが「誠実な」交渉といえるかどうかがポイントとなる。
4465
4466 使用者の
4467 誠実交渉義務については以前から広く承認されており、
4468 最近の判例(山形大学事件・最判令和
4469 4年3月18日民集76巻3号283頁)も、
4470 これを明確に確認したところである。
4471
4472 本件では、
4473
4474 2つの交渉事項がいずれも使用者が団体交渉を義務付けられる事項(義務的団交事項)に該当
4475 することを確認した上で、
4476 それぞれの事項について誠実な交渉が行われたかどうかを、
4477 具体的
4478 に検討すべきことになる。
4479
4480 すなわち、
4481 誠実な交渉によっても両者の意見が対立したままで、
4482 膠
4483 着状態に陥った場合には、
4484 それ以上の交渉を拒否することについて「正当な理由」(同号)が
4485 あると判断される可能性があるが、
4486 その前提が満たされているかどうかを検討する必要がある。
4487
4488
4489 まず、
4490 業務手当に関しては、
4491 手当廃止の必要性に関する説明の十分さ、
4492 特に資料の提出の点
4493 が主たる問題となろう。
4494
4495 上記判例でも、
4496 「使用者は、
4497 必要に応じてその主張の論拠を説明し、
4498
4499 その裏付けとなる資料を提示するなどして、
4500 誠実に団体交渉に応ずべき義務」を負うと述べて
4501 おり、
4502 本件でそれが尽くされたかどうかを論じる必要がある。
4503
4504 また、
4505 就業規則の変更によって
4506 手当が廃止されたことが、
4507 その後の団体交渉義務にどのような影響を与えるのかについても、
4508
4509 触れておくことが望ましい。
4510
4511 次に、
4512 チェック・オフ協定に関しては、
4513 Y社がいう「法律上も無
4514 理がある」点とは何かを確認しておく必要がある。
4515
4516 これについて判例(済生会中央病院事件・
4517 最判平成元年12月11日民集43巻12号1786頁)は、
4518 組合費のチェック・オフも賃金
4519 からの控除である以上、
4520 労働基準法第24条第1項ただし書による労使協定が必要と解してお
4521 り、
4522 同判例によれば、
4523 少数組合であるX組合は、
4524 その締結主体とはなり得ない。
4525
4526 ただ、
4527 過半数
4528 代表者を選出して労使協定を締結する可能性もないわけではないので、
4529 Y社の態度を、
4530 X組合
4531 の側の主張と照らし合わせながら、
4532 適切に評価することが求められる。
4533
4534
4535 いずれの事項についても、
4536 Y社が誠実な交渉を行っておらず、
4537 その団交拒否に正当な理由が
4538 ないと判断された場合、
4539 労働委員会としては誠実交渉命令を発し(上記山形大学事件を参照)、
4540
4541 更に必要に応じポスト・ノーティスあるいは文書交付を命じることになる。
4542
4543
4544 第2の支配介入の成否(労働組合法第7条第3号)に関しては、
4545 支配介入の意思の要否など
4546 その基本的な成立要件にかかる論点を押さえておく必要があるが、
4547 特に本件のような組合併存
4548 状況においては、
4549 判例(日産自動車事件・最判昭和60年4月23日民集39巻3号730頁)
4550 が定立した使用者の中立保持義務が、
4551 重要な判断枠組みとなる。
4552
4553 使用者は、
4554 団体交渉を含む全
4555 ての場面で各組合に対して中立的態度を保持すべきであり、
4556 組合の性格や運動方針等による差
4557 別は許されないが、
4558 他方で、
4559 各組合の組織力、
4560 交渉力に応じた「合理的、
4561 合目的的な対応」を
4562 することは可能であり、
4563 同義務違反とはならない。
4564
4565 本件でY社がA組合との間で2つの協定を
4566 締結したことがこのどちらに当たるのかを、
4567 それぞれの協定の性格や、
4568 様々な関連事実に照ら
4569 しながら、
4570 適切に評価することが求められる。
4571
4572
4573 まず、
4574 チェック・オフ協定については、
4575 A組合は事業場の労働者の過半数で組織する労働組
4576 合であるので、
4577 上記の判例(済生会中央病院事件)の下でも労働基準法第24条との抵触はな
4578
4579 - 32 -
4580
4581 く、
4582 Y社は適法に締結することができる。
4583
4584 しかし、
4585 それで終わりというわけではなく、
4586 X組合
4587 との交渉ではこれを拒否してきたという経緯や、
4588 もう1つのユニオン・ショップ協定の締結を
4589 含む、
4590 A組合に対する明らかに好意的な態度について、
4591 どのように考えるべきかを検討するこ
4592 とが求められる。
4593
4594 次に、
4595 ユニオン・ショップ協定に関しては、
4596 文言上はA組合に加入しない労
4597 働者は全て解雇されることになっていても、
4598 他の組合に入っている労働者との関係では無効で
4599 あって解雇は許されないという法理が、
4600 判例によって確立されている(三井倉庫港運事件・最
4601 判平成元年12月14日民集43巻12号2051頁など)。
4602
4603 Y社はこれを前提に、
4604 X組合の
4605 組合員を解雇するつもりはないと述べているが、
4606 解雇がなされなくても、
4607 このような協定があ
4608 ることによって、
4609 事実上、
4610 労働者のA組合への加入が促進されるという効果が生じることは避
4611 けられない。
4612
4613 それはユニオン・ショップ協定が禁止されていない以上、
4614 やむを得ないことで、
4615
4616 中立保持義務の違反には当たらないと考えるべきか、
4617 それとも、
4618 他の様々な事情や経緯に照ら
4619 して、
4620 X組合の弱体化をもたらす支配介入に当たると考えるべきかを、
4621 本件の事実関係に照ら
4622 しながら的確に検討することが求められる。
4623
4624
4625 このような検討の結果、
4626 いずれか、
4627 又は両方の協定の締結について、
4628 支配介入が成立すると
4629 いう結論になった場合には、
4630 ポスト・ノーティスあるいは文書交付の命令を出すことなどが考
4631 えられる。
4632
4633
4634 [環境法]
4635 〔第1問〕
4636 本問は、
4637 2021年改正によって地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温対法」とい
4638 う。
4639
4640 )に導入された地域脱炭素化促進事業制度、
4641 及び温対法の下での温室効果ガス削減のため
4642 の規制手法と近時地方公共団体で取り入れられている排出量取引制度についての基本的理解を
4643 問うとともに、
4644 あわせて温室効果ガスの排出という事象が環境基本法にいう「公害」に含まれ
4645 るかどうかの理解を、
4646 公害紛争処理法の適用の可否を通じて争われた事件を素材にして問うて
4647 いる。
4648
4649
4650 〔設問1〕では、
4651 甲社がB町で計画している風力発電事業が温対法第2条第6項にいう「地
4652 域脱炭素化促進事業」であることを踏まえ、
4653 設置が計画されている工作物が【資料】として添
4654 付された省令の第2条第1号にいう「再生可能エネルギー発電施設」であることを指摘する。
4655
4656
4657 そして、
4658 その設置のためには、
4659 甲社は、
4660 B町長に対して、
4661 温対法第22条の2に基づき地域脱
4662 炭素化促進計画の認定申請をしなければならないという手続を、
4663 関係条文を丁寧に指摘しつつ
4664 説明することが求められている。
4665
4666
4667 〔設問1〕では、
4668 温対法第22条の2第3項に基づくB町長の認定を受けた認定地域脱炭
4669 素化促進事業者が実施する認定地域脱炭素化促進事業は、
4670 みなし許可や関係規定の不適用など、
4671
4672 森林法、
4673 自然公園法、
4674 環境影響評価法に関する規制緩和的な特例措置を受けることができるこ
4675 とを、
4676 【資料】として添付された関係法の関係条文を丁寧に指摘しつつ説明することが求めら
4677 れている。
4678
4679
4680 〔設問2〕では、
4681 一定の基準の遵守義務付けという実体的アプローチに基づく伝統的規制
4682 手法ではなく、
4683 温対法第26条以下が採用する温室効果ガス算定排出量報告制度においては、
4684
4685 情報の報告徴収及び報告事項の公表を通じて排出抑制状況を市場に評価させることにより、
4686 特
4687 定排出者に対して一層の排出削減に向けての誘導をしようとする情報を用いた手続的アプロー
4688 チが採用されている点を指摘することが求められている。
4689
4690
4691 〔設問2〕は、
4692 東京都が制定している都民の健康と安全を確保する環境に関する条例に基
4693 づく地球温暖化対策推進制度の中核となる排出量取引を素材とした出題である。
4694
4695 同条例の下で
4696 は、
4697 大規模排出事業者に対して、
4698 二酸化炭素の排出量の削減を義務付けるとともに、
4699 自力での
4700
4701 - 33 -
4702
4703 削減が困難な場合には、
4704 クレジットの購入をもって義務が履行されたものとすることも認めら
4705 れている。
4706
4707 義務量以上の削減ができれば、
4708 それをクレジット化できるため、
4709 継続的な削減イン
4710 センティブが作用する。
4711
4712 そうした経済的な手段を用いた手法の特徴を、
4713 専ら自力での基準達成
4714 を強制する伝統的な規制手法と対比して説明することが期待されている。
4715
4716
4717 〔設問3〕は、
4718 いわゆる「シロクマ事件」を素材とした出題である。
4719
4720 「二酸化炭素排出は大気
4721 汚染」という認識のもとに、
4722 二酸化炭素を大量に排出する企業に対して排出抑制を求める調停
4723 が、
4724 公害紛争処理法に基づいて公害等調整委員会に申請された。
4725
4726 同委員会及びその却下決定の
4727 取消訴訟が係属した東京地方裁判所は、
4728 二酸化炭素の多量排出は地球温暖化の問題であると整
4729 理した上で、
4730 それは「大気の汚染」ではないがゆえに公害に該当しないと判断した。
4731
4732 こうした
4733 判断のアプローチを説明することが求められている。
4734
4735
4736 〔第2問〕
4737 本問は、
4738 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。
4739
4740 )に基づく一般廃棄物
4741 処理規制及び産業廃棄物処理規制に関する基本的理解を問う問題である。
4742
4743 同法の下での一般廃
4744 棄物と産業廃棄物の区別、
4745 両廃棄物の処理許可制度の法的性質、
4746 許可取消処分に当たっての要
4747 件規定の解釈、
4748 廃掃法第14条第13項の定める通知(以下「適正処理困難通知」という。
4749
4750 )
4751 の発出及びこれを受けた排出事業者の対応、
4752 その義務懈怠を理由とする措置命令といった論点
4753 に関して出題されている。
4754
4755
4756 〔設問1〕では、
4757 「本社工場における廃棄物」に2種類ある点を認識しなければならない。
4758
4759
4760 まず、
4761 カマボコ製造過程において発生する魚の残渣や野菜くずが産業廃棄物に該当することを
4762 【資料1】の関係条文を踏まえつつ指摘するとともに、
4763 社員食堂において発生する調理くずや
4764 残飯はこれに該当しないがゆえに、
4765 一般廃棄物となる点を指摘しなければならない。
4766
4767 その上で、
4768
4769 産業廃棄物の処理委託に際しては、
4770 委託に係る品目についての処理業許可を持つ者にしか委託
4771 できないことを指摘して、
4772 C社はそれには当たらないと説明する必要がある。
4773
4774
4775 〔設問2〕では、
4776 一般廃棄物処理業許可の法的性質が論点となる。
4777
4778 処理責任が基本的に排
4779 出事業者にある産業廃棄物については、
4780 その処理業許可は、
4781 いわゆる警察許可と解されている。
4782
4783
4784 これに対して、
4785 処理責任が市町村にある一般廃棄物については、
4786 その処理業許可は、
4787 @市町村
4788 による収集運搬が困難であること、
4789 A一般廃棄物処理計画に適合することという許可基準が設
4790 けられているように、
4791 認定に当たっての市町村長の裁量が広い計画許可と解されている。
4792
4793 この
4794 ため、
4795 申請をしても許可が得られるかの見通しを立てるのが難しい。
4796
4797 両者の特徴を対比させつ
4798 つ説明することが求められる。
4799
4800
4801 〔設問2〕は、
4802 一般廃棄物処理業許可の原告適格が争われた事件における最高裁判決(最
4803 三小判平成26年1月28日民集68巻1号49頁)を踏まえたものである。
4804
4805 一般廃棄物処理
4806 業許可は、
4807 市町村による収集運搬が困難な場合に出される補完的性質を持っている。
4808
4809 また、
4810 廃
4811 掃法第7条第12項が料金上限を設定しているというように、
4812 処理料金は契約自由であり自由
4813 競争が基本とされる産業廃棄物処理業許可営業とは異なっている。
4814
4815 また、
4816 一般廃棄物処理業者
4817 の経営が悪化すると住民の衛生や環境が害される事態が生じる。
4818
4819 これらのことから、
4820 一定の利
4821 潤が制度的に保障されるため、
4822 既存の許可業者の営業上の利益は、
4823 廃掃法上、
4824 個別的に保護さ
4825 れる利益としても認められる。
4826
4827 一般廃棄物処理の特徴を踏まえた論述が求められる。
4828
4829
4830 〔設問3〕については、
4831 【資料2】を参照し、
4832 C社の取締役会に出席して積極的に発言し、
4833
4834 同社の意思決定にも影響力を保持しているGが廃掃法第7条第4項第5号ホにいう「役員」に該
4835 当することを説明しつつ、
4836 勾留はされているものの廃棄物の処理に関係した罪に関する措置で
4837 はないために、
4838 産業廃棄物処理業許可取消事由には該当しないことを関係規定に言及しつつ説
4839 明することが求められている。
4840
4841
4842 〔設問4〕は、
4843 廃掃法第14条第13項が規定する適正処理困難通知に関する出題である。
4844
4845
4846
4847 - 34 -
4848
4849 【資料1】の関係条文を参照しつつ、
4850 甲社は、
4851 C社処理施設に堆積された同社の産業廃棄物を、
4852
4853 当該廃棄物の中間処理業許可を有する処理業者と委託契約をした上で、
4854 そのもとに運搬するこ
4855 とをC社に対して指示しなければならないことを説明することが求められている。
4856
4857
4858 〔設問4〕については、
4859 甲社が廃掃法第14条第13項に基づく対応を怠っていたという
4860 事実が同法第19条の5に基づく原状回復命令の要件(同条第1項第3号ヘ)を充たしている
4861 点を説明する必要がある。
4862
4863 廃プラスチック類の前面道路への崩落により、
4864 生活環境保全上の支
4865 障が発生している。
4866
4867 本来は、
4868 そうした状態を作出したC社が名宛人となるべきところ、
4869 対応が
4870 困難であるため、
4871 B市長としては甲社に対して原状回復命令を発出することになる(本問では、
4872
4873 B市長に廃掃法上の権限がある。
4874
4875 )。
4876
4877 同法第14条第13項の義務懈怠が命令要件となるのは、
4878
4879 同法第12条の3第8項を経由するからであるが、
4880 この点も指摘しなければならない。
4881
4882 またそ
4883 れは、
4884 同法第11条第1項、
4885 さらには、
4886 汚染者支払原則・原因者負担原則を踏まえた法制度で
4887 ある点の指摘も必要である。
4888
4889 産業廃棄物処理規制の仕組みの全体像が理解できているかが問わ
4890 れる。
4891
4892
4893 [国際関係法(公法系)
4894 ]
4895 〔第1問〕
4896 設問1は、
4897 国際法上の国家承認に関する基本的知識を問う問題である。
4898
4899 この設問に解答する
4900 ための前提として、
4901 国際法上の国家承認という制度に関して、
4902 国際社会においてこのような制
4903 度が必要とされる理由について理解するとともに、
4904 国家承認の要件や、
4905 国家承認の法的効果、
4906
4907 さらに国家承認が政策上の判断に基づく自由裁量的な行為であるのか、
4908 一定の要件を満たす場
4909 合には国家承認は法的義務であるのか、
4910 といった点を踏まえて、
4911 説得力ある論述を展開する必
4912 要がある。
4913
4914 A国の立場からは、
4915 A国領域の一部であるP州における一方的な独立宣言は、
4916 A国
4917 の領土保全を侵害し憲法秩序を破壊する刑法上の違法な犯罪行為であり、
4918 「P共和国」は国際
4919 法上の国家承認の要件を満たすものではないと捉えられる。
4920
4921 このような国家承認の要件を満た
4922 さない集団に対する他国による国家承認は、
4923 「尚早の承認」として本国(本設問ではA国)に
4924 対する国際法上の違法行為となることをA国としては主張すべきであろう。
4925
4926
4927 設問1に関するもう一つの論点は、
4928 国際法上の自決権に関するものである。
4929
4930 人民の同権及び
4931 自決の原則に基づき「P共和国」を国家承認したとのB国の主張に対して、
4932 A国側から国際法
4933 上どのような理由に基づく反論が可能かを論じる必要がある。
4934
4935 「人民の同権及び自決の原則」
4936 に関しては国際連合(以下「国連」という)憲章第1条第2項に規定されているが、
4937 国際法上
4938 の自決権の定義と、
4939 その法的性質の理解(慣習国際法上確立しているか、
4940 さらに国際法上の対
4941 世的権利/義務として確立しているか等)、
4942 また自決権を有する主体をどのように捉えるべきか
4943 といった論点に関して、
4944 国際組織の主要な実行(1960年に国連総会決議として採択された
4945 植民地独立付与宣言など)や代表的な国際判例(例えば、
4946 国際司法裁判所(以下「ICJ」と
4947 いう。
4948
4949 )による1971年ナミビア勧告的意見、
4950 1975年西サハラ勧告的意見、
4951 1995年
4952 東チモール判決、
4953 2019年チャゴス諸島勧告的意見など)を挙げつつ、
4954 A国としては「P共
4955 和国」の独立宣言は自決権の正当な行使とは認められないことを主張する必要がある。
4956
4957 その際、
4958
4959 自決権の行使に際して、
4960 植民地支配からの独立といったいわゆる外的自決の場合とそれ以外の
4961 いわゆる内的自決の場合とで、
4962 自決権行使に関する国際法上の評価が異なる点も、
4963 検討される
4964 べき重要な論点の一つとなる。
4965
4966 A国としては、
4967 本設問にある「独立宣言」は、
4968 植民地支配から
4969 の独立といった外的自決に該当するものではない、
4970 と主張することになろう。
4971
4972
4973 設問2は、
4974 国連の安全保障理事会(以下「安保理」という。
4975
4976 )の表決手続に関して、
4977 国連加
4978 盟国の主権平等原則との関係で検討するものである。
4979
4980 国連が、
4981 「すべての加盟国の主権平等の
4982 原則に基礎をおいている」ことは、
4983 国連憲章第2条第1項に明確されている。
4984
4985 しかし、
4986 同項で
4987 規定された国連における加盟国間の主権平等とは、
4988 国連機関の表決手続との関係でいえば、
4989 例
4990 - 35 -
4991
4992 えば総会の表決手続では一国一票制が採られているが、
4993 安保理では常任理事国制度が採られる
4994 など、
4995 形式的な意味での加盟国間の平等にとどまらず、
4996 加盟国の責任や義務の程度、
4997 またそれ
4998 ぞれの機関が負う任務の性格等に照らした実質的な意味での加盟国間の平等が保障されるべき
4999 ことを含意する概念であると考えられる。
5000
5001
5002 特に、
5003 本設問で具体的に取り上げられている安保理は、
5004 国連の主要機関(国連憲章第7条第
5005 1項)の中で「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任」を負う(同第24条第1項)
5006 機関とされる。
5007
5008 安保理における非手続事項の決定手続を定めた国連憲章第27条は、
5009 常任理事
5010 国の同意投票を含む9理事国の賛成投票が必要であることを規定し、
5011 常任理事国が1国でも反
5012 対票を投じた場合には非手続事項の決定が否決されることを定めており、
5013 これが常任理事国の
5014 いわゆる拒否権と呼ばれるものである。
5015
5016 この国連憲章第27条第3項にはただし書があり、
5017
5018 「但
5019 し、
5020 第6章及び第52条3に基づく決定については、
5021 紛争当事国は、
5022 投票を棄権しなければな
5023 らない。
5024
5025 」と定めている。
5026
5027 この第27条第3項ただし書の規定に従えば、
5028 国連憲章第6章が規
5029 定する紛争の平和的解決、
5030 あるいは第52条第3項が規定する地域的取極又は地域的機関によ
5031 る紛争の平和的解決においては、
5032 紛争当事国は安保理における投票を棄権する法的義務がある
5033 と考えられる。
5034
5035 他方で、
5036 同ただし書を反対解釈すれば、
5037 国連憲章第7章の下で紛争の強制的解
5038 決が問題とされる事例においては、
5039 紛争当事国は安保理における投票を棄権する義務はないと
5040 解される。
5041
5042 国連における現実の実行においても、
5043 国連憲章第7章の下で扱われる案件に関して
5044 は、
5045 紛争当事国は常任理事国を含めて投票を棄権せずに、
5046 実際に投票を行っている。
5047
5048 そのため、
5049
5050 安保理の常任理事国は、
5051 自国が当事者となる紛争に関して反対票を投じることによりいわゆる
5052 拒否権を行使することができ、
5053 結果として常任理事国に対しては憲章第7章に基づく強制措置
5054 を発動することができない、
5055 という問題が生じているのである。
5056
5057 以上のような国連憲章第27
5058 条第3項ただし書に関する解釈及び安保理における同項に関する実行等を踏まえて、
5059 設問2に
5060 おけるB国の主張を国際法上評価することがここでは求められる。
5061
5062
5063 設問3は、
5064 国連の安保理が常任理事国によるいわゆる拒否権行使の結果、
5065 国際の平和及び安
5066 全の維持に関する主要な責任を実質的に果たせなくなった場合に、
5067 国連の枠組みの中でA国が
5068 どのような法的な救済を求めることができるかを問うものである。
5069
5070
5071 第一の方法として、
5072 1950年の朝鮮戦争時に国連総会決議として採択された「平和のため
5073 の結集決議」に基づき、
5074 国連の緊急特別集会の招集を求めることが考えられる。
5075
5076 国連における
5077 実行として、
5078 1956年の第2次中東戦争(スエズ動乱)時に、
5079 常任理事国による拒否権行使
5080 により安保理が有効に機能できなくなった際、
5081 「平和のための結集決議」が実際に援用されて
5082 初めて国連の緊急特別総会が招集され、
5083 国連の平和維持活動(PKO)として第1次国連緊急
5084 軍(UNEFT)が現地に派遣された。
5085
5086 最近の例では、
5087 2022年のロシアによるウクライナ
5088 侵略に際して、
5089 安保理が常任理事国ロシアによる拒否権行使により有効に対応できなくなった
5090 際に、
5091 「平和のための結集決議」に基づき緊急特別総会が招集され、
5092 ロシアによるウクライナ
5093 に対する武力行使を非難する決議が採択された。
5094
5095 ただし、
5096 「平和のための結集決議」に基づき
5097 招集された緊急特別総会においては、
5098 国際の平和及び安全を維持し又は回復するための集団的
5099 措置を採るよう加盟国に勧告を行うことができ、
5100 平和の破壊又は侵略行為の場合には必要に応
5101 じ兵力を派遣することもできると明記されているものの、
5102 これまでに同決議に基づいて実際に
5103 集団的措置が決定された例はなく、
5104 また仮に決定された場合でも、
5105 それは国連加盟国に対して
5106 勧告的効力を持つものにすぎず、
5107 加盟国に参加を法的に義務付けるものではないことに留意す
5108 る必要がある。
5109
5110
5111 第二の方法として、
5112 「国際連合の主要な司法機関」(国連憲章第92条)であるICJへの
5113 提訴が考えられる。
5114
5115 A国が本件紛争に関してB国を被告としてICJに提訴するためには、
5116 I
5117 CJ規程第36条第1項又は第2項に規定する裁判管轄権の根拠のいずれかを主張する必要が
5118 ある。
5119
5120 第1項前段の規定する合意付託、
5121 同項後段の規定する裁判条項(又は裁判条約)、
5122 第2
5123
5124 - 36 -
5125
5126 項の規定する強制的管轄権受諾宣言のいずれかの存在を立証する必要があり、
5127 さらにB国に対
5128 して応訴管轄(forum prorogatum)の受諾を要求することも考えられる。
5129
5130 原告適格その他の受
5131 理可能性に関する要件も満たす必要があるが、
5132 本件紛争に関してはこの点に関する立証はA国
5133 にとって十分に可能であろう。
5134
5135
5136 第三の方法として、
5137 国連の事務総長への付託ないしは注意喚起が挙げられる。
5138
5139 事務総長は、
5140
5141 国連の行政職員の長である(国連憲章第97条)と同時に、
5142 例えば国際の平和及び安全の維持
5143 への脅威と認められる事項について安保理の注意を促すことができ(国連憲章第99条)、
5144 ま
5145 た事務総長個人としての立場で紛争解決に向けた調停や、
5146 場合によっては法的拘束力を持つ裁
5147 定を行う場合もある(例えば、
5148 1988年のレインボー・ウォーリア号事件国連事務総長裁定)。
5149
5150
5151 〔第2問〕
5152 本問は、
5153 海洋法、
5154 条約と慣習国際法の関係、
5155 不干渉原則、
5156 武力行使禁止原則、
5157 国家責任法と
5158 いう国際法の基本的分野・基本原則に関する知識と理解を確認することを目的とする。
5159
5160
5161 設問1は、
5162 常設国際司法裁判所(以下「PCIJ」という。
5163
5164 )の1927年ローチュス号事
5165 件判決で実際に争われたような公海上での船舶の衝突事故における刑事管轄権の行使に関する
5166 問題である。
5167
5168 A国が当事国となっている海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」
5169 という。
5170
5171 )第97条第1項は、
5172 「公海上の船舶につき衝突その他の航行上の事故が生じた場合
5173 において、
5174 船長その他当該船舶に勤務する者の刑事上又は懲戒上の責任が問われるときは、
5175 こ
5176 れらの者に対する刑事上又は懲戒上の手続は、
5177 当該船舶の旗国又はこれらの者が属する国の司
5178 法当局又は行政当局においてのみとることができる。
5179
5180 」と定めており、
5181 この規定に従えば、
5182 公
5183 海上でのα号とβ号の衝突事故に関してα号の船長Xの刑事上の責任を問う手続は、
5184 α号の旗
5185 国であるとともにXの国籍国であるA国の当局のみがとることができることになる。
5186
5187 しかしな
5188 がら、
5189 問題文に明示されているようにB国は国連海洋法条約の当事国ではないため、
5190 B国が国
5191 連海洋法条約に違反するとA国は主張することができない。
5192
5193 そこでA国として考えられるのは、
5194
5195 国連海洋法条約第97条第1項の規定内容が慣習国際法となっており、
5196 そのような慣習国際法
5197 にB国は違反したと主張することである。
5198
5199 ローチュス号事件においてPCIJは、
5200 公海衝突事
5201 故において加害船の旗国(本問で言えばA国)に排他的管轄権を認める国際法は存在しないと
5202 して、
5203 被害船の旗国(本問で言えばB国)にも刑事管轄権の行使が国際法上認められると判断
5204 している。
5205
5206 しかしながら、
5207 本判決に対しては批判もあり、
5208 1958年の公海に関する条約では
5209 国連海洋法条約第97条第1項と同様の規定が採り入れられており、
5210 A国は、
5211 現在においては
5212 この条約規則が慣習国際法化しているとして、
5213 α号の旗国でもXの国籍国でもないB国による
5214 刑事管轄権の行使は国際法違反であると主張することが考えられる。
5215
5216
5217 設問2は、
5218 不干渉原則や武力行使禁止原則についての理解度を問う問題である。
5219
5220 不干渉原則
5221 については、
5222 国連憲章には直接的には定められていないが(国連憲章第2条第7項本文は、
5223
5224 「こ
5225 の憲章のいかなる規定も、
5226 本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国
5227 際連合に与えるものではなく、
5228 また、
5229 その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国
5230 に要求するものでもない。
5231
5232 」と定めている。
5233
5234 )、
5235 1970年の友好関係原則宣言では、
5236 国の義務
5237 として「国連憲章に従って、
5238 いかなる国の国内管轄権内にある事項にも干渉しない義務に関す
5239 る原則」が宣言されており、
5240 国際法上、
5241 不干渉原則が妥当していることには争いがない。
5242
5243 IC
5244 Jも、
5245 1986年ニカラグア事件本案判決において不干渉義務が慣習国際法上存在することを
5246 前提としている。
5247
5248 自国領域内にいる私人の逮捕や起訴は、
5249 一般的には「国家主権の原則により
5250 それぞれの国が自由に決定することが認められている事項」(ニカラグア事件本案判決)と言
5251 えるとしても、
5252 A国の主張によれば国際法に違反するような管轄権行使をする自由を国は有し
5253 ておらず、
5254 したがって国内管轄事項には当たらないとA国は反論することが可能である。
5255
5256 また、
5257
5258 仮に国内管轄事項に当たるとしても、
5259 国が他国の国内法等を批判するにとどまるような場合に
5260
5261 - 37 -
5262
5263 は、
5264 国際法上、
5265 一般に干渉とはみなされず、
5266 干渉とされるのは、
5267 強制又はその威嚇を背景とし
5268 た命令的な介入(命令的干与)であると考えられており、
5269 例えばニカラグア事件においてIC
5270 Jは米国によるニカラグアへの経済援助の停止や禁輸措置については不干渉原則の違反を認定
5271 しなかったことなどを手がかりとして、
5272 A国は、
5273 B国によるXの逮捕や起訴をA国の外務大臣
5274 が批判することは、
5275 国際法違反となる「干渉」には当たらないとして反論することが可能であ
5276 る。
5277
5278
5279 A国の行為が国連憲章第2条第4項に違反するというB国の主張については、
5280 軍事大国であ
5281 るA国の外務大臣が「必要な全ての手段を用いる」という発言をしたことが、
5282 同項が禁止する
5283 「武力による威嚇」に該当するかが問われる。
5284
5285 国連の安保理が国連憲章第7章に基づいて国連
5286 加盟国に「必要な全ての手段」を授権することによって軍事的措置(武力の行使)を認める実
5287 行はあるとしても、
5288 いかに軍事大国ではあっても、
5289 個々の国連加盟国が、
5290 それまでは全般的に
5291 良好な国際関係を維持してきた国に対して「必要な全ての手段を用いる」と発言することが当
5292 該国に対する「武力による威嚇」とは考えられないという観点から、
5293 A国は自国の行為は国連
5294 憲章第2条第4項に違反しないとして反論することが可能である。
5295
5296 国連憲章第2条第4項にい
5297 う「武力」が英語の正文では「force」であり、
5298 第41条の「兵力(armed force)」とは異な
5299 ることから、
5300 第2条第4項の「武力(force)」が軍事力に限られるのかどうかという議論があ
5301 ることに鑑みて、
5302 B国が国連憲章第2条第4項の「武力(force)」に経済的圧力を含むという
5303 広い解釈に基づいてA国による同項の違反を主張している可能性を想定した上で、
5304 そのような
5305 広い解釈は認められないとしてA国が反論する可能性も考えられよう。
5306
5307
5308 設問3は、
5309 国際法違反の帰結として生ずる国家責任に関して、
5310 具体的な事案への当てはめを
5311 求める問題である。
5312
5313 1928年ホルジョウ工場事件本案判決でPCIJが判示し、
5314 国際違法行
5315 為に対する国家の責任に関する条文(以下「国家責任条文」という。
5316
5317 )に基本的には反映され
5318 ているような原則を踏まえて、
5319 原状回復や金銭賠償、
5320 満足(サティスファクション)等につい
5321 て論ずることが期待される。
5322
5323 B国によるXに対する刑事管轄権の行使が国際法違反であるとI
5324 CJが認定したという設定において、
5325 まずA国はB国による国際違法行為の帰結として拘禁刑
5326 に処されたXの釈放を求めることができる。
5327
5328 Xの釈放を原状回復と捉えるか違法行為の中止と
5329 捉えるか(又はその両者の性格をもつものと捉えるか)は「原状回復」の定義によるが、
5330 いず
5331 れにせよXが被った経済的損失はXの釈放によっては償われないため、
5332 A国はB国に金銭賠償
5333 を求めることも考えられる。
5334
5335 この場合、
5336 A国は自国民のために外交的保護を行使する形となる
5337 が、
5338 外交的保護を行使するための要件の一つである国内救済が尽くされているかどうかは問題
5339 文からは明らかではない点には注意が必要である。
5340
5341 その他、
5342 A国は満足の一形態としてB国に
5343 よる遺憾の意の表明や公式の陳謝を求めることもできる。
5344
5345 なお、
5346 国家責任条文は満足の一形態
5347 として違反の自認も例示しているが、
5348 ICJがB国の国際法違反を認定したという設定におい
5349 てA国がB国による違反の自認を求めることは、
5350 これまでICJが自らによる国際法違反の認
5351 定が損害を賠償する一種の満足を構成すると判示してきていることに鑑みれば、
5352 国際法の観点
5353 からは特段の事情がなければ適切とは言えないであろう。
5354
5355
5356 [国際関係法(私法系)
5357 ]
5358 〔第1問〕
5359 本問は、
5360 国際取引に関わる事例を題材として、
5361 財産関係事件における国際裁判管轄の判断、
5362
5363 契約の準拠法及びその周辺分野にかかる理解を問うものである。
5364
5365
5366 〔設問1〕は、
5367 国際取引に関して、
5368 国際裁判管轄の決定及び契約の準拠法の決定についての
5369 基礎的な理解を問うものである。
5370
5371
5372 〔設問1〕の〔小問1〕は、
5373 営業所所在地管轄の理解を問うものである。
5374
5375 本問の設定では、
5376
5377 被告住所地(民事訴訟法(以下「民訴法」という。
5378
5379 )第3条の2)、
5380 債務履行地(民訴法第3
5381 - 38 -
5382
5383 条の3第1号)及び財産所在地(民訴法第3条の3第3号)に基づく国際裁判管轄は日本に認
5384 められない。
5385
5386 次に、
5387 Yの営業所が日本にあることから民訴法第3条の3第4号に定める営業所
5388 所在地管轄が認められるかにつき、
5389 同号の要件に沿って検討することが求められる。
5390
5391 同号によ
5392 ると、
5393 (i)営業所等が日本に所在していること及び(ii)日本所在営業所等の業務と当該訴えと
5394 が関連していること、
5395 の2点が日本に営業所所在地に基づく国際裁判管轄が認められるための
5396 要件とされているところ、
5397 本問では特に後者(ii)の要件充足性が問題となる。
5398
5399 この点、
5400 業務関
5401 連性が抽象的で足りるか、
5402 具体的である必要があるかについて基準と理由を示した上で、
5403 本問
5404 におけるYの日本所在営業所と訴え1との間の業務関連性につき論じることが求められる。
5405
5406 以
5407 上の検討の結果、
5408 営業所所在地管轄が認められないとの結論になった場合には、
5409 他に管轄を認
5410 める原因もないため、
5411 日本の裁判所には訴え1について国際裁判管轄が認められないとの結論
5412 になるであろう。
5413
5414 これに対して、
5415 営業所所在地管轄が日本の裁判所に認められるとの結論にな
5416 ったとしても、
5417 本問の事実関係においては、
5418 日本の裁判所で審理をすることが、
5419 当事者間の衡
5420 平を害するかあるいは適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があるか否
5421 か、
5422 民訴法第3条の9に基づいた丁寧な検討が求められよう。
5423
5424
5425 〔設問1〕の〔小問1〕は、
5426 契約の準拠法の決定、
5427 特に当事者による選択がない場合に関
5428 する理解を問うものである。
5429
5430 契約の準拠法が当事者により選択されていない場合には、
5431 法の適
5432 用に関する通則法(以下「通則法」という。
5433
5434 )第8条第1項により最密接関係地法が準拠法と
5435 され、
5436 また、
5437 同条第2項により、
5438 当該契約に特徴的給付が存在する場合にはその給付を行う者
5439 の常居所地が契約の最密接関係地と推定される。
5440
5441 この点、
5442 本件契約は販売契約であり、
5443 この場
5444 合一般的には売主が特徴的給付者とされるが、
5445 発注者すなわち買主からの指示に基づき受注者
5446 すなわち売主が製品を製作し、
5447 発注者が自らのブランドで販売することが予定されている契約
5448 についても一般的な売買契約における場合と同じ処理で足りるかどうかが問題となり得ること
5449 にも注意が必要である。
5450
5451 また、
5452 日本を最密接関係地と推定した場合、
5453 契約締結過程での交渉が
5454 甲国で行われていたこと、
5455 契約の履行は全て甲国で行われることになっていたこと、
5456 契約締結
5457 地も甲国であったことなどを考慮して、
5458 最密接関係地が日本かどうかの丁寧な検討が求められ
5459 る。
5460
5461
5462 〔設問1〕の〔小問2〕は、
5463 債権の消滅時効の準拠法決定が問われている。
5464
5465 債権の消滅時効
5466 については、
5467 債権の運命の問題であるから債権の準拠法によるべきとの見解と、
5468 本問における
5469 甲国法の立場のように、
5470 出訴期限の問題と捉え訴訟法上の制度として法廷地法によるとの見解
5471 があり得るが、
5472 前者が通説であり、
5473 後者の見解に立つ場合には特に説得的な理由を示すことが
5474 必要とされよう。
5475
5476 なお、
5477 甲国法によるとした場合、
5478 日本法の定める債権の消滅時効と期間が異
5479 なることから、
5480 通則法第42条の公序を検討することも考えられようが、
5481 日本法との相違は大
5482 きくなく公序違反とはならないであろう。
5483
5484
5485 〔設問2〕は、
5486 国際取引における主要な紛争解決手段という意味で国際取引法の重要問題で
5487 ある仲裁を題材とするものであり、
5488 仲裁合意の主観的効力の範囲について、
5489 どのようなルール
5490 で決定される準拠法によって判断すべきかについての理解を問うものである。
5491
5492 仲裁合意の主観
5493 的効力の範囲については最判平成9年9月4日民集51巻8号3657頁が示したとおり、
5494 仲
5495 裁合意の準拠法によって判断されるべきであるが、
5496 仲裁合意の準拠法の決定をいかにすべきか
5497 については見解が分かれている。
5498
5499 すなわち、
5500 仲裁合意も紛争解決にかかる私法上の合意の一種
5501 であり、
5502 契約の準拠法の決定と同じように考えるべきであるとの見解と、
5503 仲裁判断の取消し・
5504 執行において仲裁合意の効力が問題とされる場合と同様に扱うとの見解である。
5505
5506 ここではいず
5507 れの立場に立つかを明確に示す必要があるが、
5508 いずれの立場に立ったとしても、
5509 当事者による
5510 準拠法の合意が認められるところ、
5511 本問のように仲裁合意の準拠法が明示で合意されていない
5512 場合でも、
5513 主契約の準拠法が明示で合意されているときは、
5514 仲裁合意についても主契約の準拠
5515 法と同じ法によるとの黙示の準拠法合意がされていたと判断されることとなろう(なお、
5516 根拠
5517
5518 - 39 -
5519
5520 条文は前者の見解であれば通則法第7条となり、
5521 後者の見解であれば仲裁法第44条第1項第
5522 2号及び同法第45条第2項第2号となる)。
5523
5524 このような論拠から、
5525 裁判所が仲裁合意の主観
5526 的効力の範囲につき甲国法によるとの結論を導いたこと及び甲国法によればAの主張が認めら
5527 れることを示す必要がある。
5528
5529
5530 〔第2問〕
5531 本問は、
5532 渉外性を有する養子縁組及び相続に関する事例を素材として、
5533 養子縁組の成立の準
5534 拠法並びに遺言及び相続の準拠法に関する基礎的理解と応用力を問うものである。
5535
5536
5537 〔設問1〕は、
5538 養子縁組の成立の準拠法についての理解を問うものである。
5539
5540
5541 〔設問1〕の〔小問1〕は、
5542 夫婦共同養子縁組の成立の準拠法の決定及び反致についての基
5543 本的理解を問うものである。
5544
5545 養子縁組の成立は通則法第31条第1項の規定により準拠法が決
5546 定され、
5547 原則として養親となるべき者の本国法によるが、
5548 本問では夫婦共同養子縁組をしよう
5549 としており、
5550 養親となるべき夫婦は国籍を異にする。
5551
5552 同項はこのような場合の特則を有しない
5553 ため、
5554 AC間、
5555 BC間それぞれの養子縁組に同項を当てはめて準拠法を定めるのが通説であり、
5556
5557 同項前段により、
5558 AC間については日本法、
5559 BC間については甲国法が、
5560 原則として準拠法と
5561 なることを、
5562 まず示さなければならない。
5563
5564
5565 もっとも、
5566 甲国法については、
5567 甲国からの反致(通則法第41条)の成否が問題となるので、
5568
5569 この点の検討が必要となる。
5570
5571 甲国法@の規定を分析して、
5572 それがいわゆる管轄権アプローチ(養
5573 子縁組の成立について、
5574 国際裁判管轄が自国に認められるかを判断し、
5575 認められる場合には直
5576 ちに法廷地法を適用する考え)を採用していると把握し、
5577 この規定により適用される甲国法は、
5578
5579 管轄原因である養子の常居所が甲国にあって甲国に国際裁判管轄が認められたときに法廷地法
5580 として適用されるものであることから、
5581 養子縁組の成立につき養子の常居所地法を準拠法とす
5582 る双方的抵触規則をこの規定から導き出すことができるか及びそれによって日本法への反致が
5583 認められるかという、
5584 隠れた反致が成立するか否かについて、
5585 説得的な根拠を示して論じるこ
5586 とが求められている。
5587
5588 最後に、
5589 反致の成否に関する自説に応じて、
5590 甲国法の要件を満たす必要
5591 がない又はあるとの結論を示さなければならない。
5592
5593
5594 次に、
5595 AC間、
5596 BC間いずれについても、
5597 通則法第31条第1項後段により、
5598 養子の保護要
5599 件については乙国法も累積的に適用される。
5600
5601 反致は成立しないことを指摘した上で、
5602 保護要件
5603 については乙国法の要件を満たす必要があるとの結論を示さなければならない。
5604
5605
5606 〔設問1〕の〔小問2〕は、
5607 養子縁組の成立の準拠法の適用についての基礎的理解と応用力
5608 を問うものである。
5609
5610
5611 では、
5612 BC間について甲国法が準拠法となるが、
5613 本件養子縁組を日本において成立させる
5614 に当たり、
5615 養子を試験養育した上で、
5616 甲国で公認されたソーシャルワーカーによる報告書の提
5617 出という、
5618 甲国法Aの要件をどのように日本での手続において満たすかを検討することが求め
5619 られている。
5620
5621 AC間については日本法が準拠法となっているところ、
5622 民法第817条の8の要
5623 件を満たす必要があり、
5624 甲国法Aの要件はこれと実質的に同等であることを具体的に示して、
5625
5626 同条の要件の履践により満たせばよいなどと論じることが求められている。
5627
5628
5629 では、
5630 養子の保護要件については乙国法の要件も満たさなければならないところ、
5631 乙国法
5632 Bの定める、
5633 養親の10歳以上の嫡出子も通則法第31条第1項後段の「第三者」に含まれる
5634 かを検討することが求められている。
5635
5636 「第三者」の解釈として、
5637 同項後段の文言は第三者を特
5638 に限定していないなどの理由からこのような者も「第三者」に含まれるとの見解と、
5639 養子との
5640 間に縁組時点までに身分関係になかった者は「第三者」に含まれないとの見解とに分かれてい
5641 るところ、
5642 説得的な論拠を示していずれの立場に立つかを示した上で、
5643 本件に当てはめて、
5644 本
5645 件養子縁組を成立させることができるか否かについての結論を示すことが求められている。
5646
5647 な
5648 お、
5649 「第三者」に含まれるとの見解に立つ場合には、
5650 本件の事情において養子縁組の成立が認
5651
5652 - 40 -
5653
5654 められないという、
5655 乙国法を適用した結果が公序違反にならないかも論じる必要があろう。
5656
5657
5658 〔設問2〕は、
5659 遺言及び相続に関する準拠法についての理解を問うものである。
5660
5661
5662 〔設問2〕の〔小問1〕は、
5663 遺言の方式の準拠法についての基礎的理解を問うものである。
5664
5665
5666 録画の方法によっていることで遺言が無効となるかという問題は、
5667 遺言の方式と性質決定さ
5668 れるので、
5669 遺言の方式の準拠法に関する法律により準拠法が決定されること、
5670 同法第2条は遺
5671 言の方式につき選択的連結を定めており、
5672 同条第1号から第5号までに掲げるいずれかの法の
5673 定める方式に適合するならば遺言は方式に関し有効とされること、
5674 本件遺言は同条第1号の行
5675 為地法である丙国法の方式に適合しているため、
5676 方式上有効であって無効とはならないことを
5677 示すことが求められている。
5678
5679
5680 〔設問2〕の〔小問2〕は、
5681 遺留分の準拠法についての基礎的理解と応用力を問うものであ
5682 る。
5683
5684
5685 遺留分は、
5686 被相続人による過度の財産処分に対して遺留分権利者に最低保障額を確保しよう
5687 とする制度であることからすれば、
5688 相続の問題と性質決定されようが、
5689 本件で遺留分が侵害さ
5690 れているとの主張は、
5691 本件預金契約及びその口座への被相続人による送金のためであり、
5692 本件
5693 預金契約の準拠法は丙国法であって、
5694 丙国法では、
5695 共同名義の預金口座の一方の名義人が死亡
5696 した場合には、
5697 当該預金口座の預金は、
5698 当然に他方の名義人の所有資産となり、
5699 死亡した名義
5700 人の遺産には含めないものとされているため、
5701 この点をどのように考えるかについて自己の見
5702 解を示すことが求められている。
5703
5704 例えば、
5705 ここでの問題の本質はそのような財産処分に対して
5706 遺留分権利者の遺留分が侵害されているか否かであることから、
5707 遺留分の問題自体はやはり相
5708 続の問題と性質決定されるとの立場が考えられる。
5709
5710 この立場によるならば、
5711 通則法第36条に
5712 より被相続人の本国法が準拠法となり、
5713 反致は成立しないので、
5714 甲国法が適用されるとの結論
5715 を示さなければならない。
5716
5717
5718
5719 - 41 -
5720
5721