1 令和6年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 次の文章を読んで、
7 後記の〔設問〕に答えなさい。
8
9
10
11 山懐に抱かれたA集落(人口約170人、
12 世帯数約50戸)は、
13 B市の字(あざ)の一つであ
14 り、
15 何百年にもわたって集落の氏神を祀(まつ)るC神社を中心に生活が営まれてきた。
16
17 A町内会
18 は、
19 A集落の住民が自治的に組織した任意団体であり、
20 地方自治法第260条の2の「認可地縁団
21 体」(資料参照)であって、
22 現在の加入率は100パーセントである。
23
24 A町内会規約はその目的に
25 「会員相互の親睦及び福祉の増進を図り、
26 地域課題の解決等に取り組むことにより、
27 地域的な共同
28 生活に資すること」を掲げ、
29 この目的を達成するための事業として、
30 @清掃、
31 美化等の環境整備に
32 関すること、
33 A防災、
34 防火に関すること、
35 B住民相互の連絡、
36 広報に関すること、
37 C集会所の管理
38 運営に関すること、
39 Dその他A町内会の目的を達成するために必要なこと、
40 を挙げている。
41
42
43 A集落では地域の共同事業を住民自ら担ってきた。
44
45 A町内会として、
46 例えば、
47 生活道路・下水道
48 の清掃、
49 ごみ収集所の管理、
50 B市の「市報」等の配布、
51 C神社の祭事挙行への協力などを行ってい
52 る。
53
54 町内会費は1世帯当たり年額8000円であり、
55 町内会費からは、
56 街路灯費やごみ収集所管理
57 費などに加え、
58 C神社祭事挙行費を支出している。
59
60 祭事挙行費は1世帯当たり年額約1000円で
61 ある。
62
63
64 C神社は宗教法人ではなく、
65 氏子名簿もない。
66
67 かつて火事で鳥居を除いて神社建物が失われたた
68 め、
69 同所にA町内会が、
70 御神体を安置した集会所を建設した。
71
72 集会所入り口には「A町内会集会
73 所」「C神社」と並列して表示されている。
74
75 集会所は大きな一部屋から成る建物であり、
76 平素から
77 人々の交流や憩いの場となっている。
78
79 C神社には神職が常駐しておらず、
80 日々のお祀(まつ)りは
81 集会所の管理と併せて、
82 A町内会の役員が持ち回りで行っている。
83
84 年2回行われるC神社の祭事で
85 は、
86 近隣から派遣された宮司が祝詞をあげるなど、
87 神道方式により神事が行われるほか、
88 集落に伝
89 えられてきた文化である伝統舞踊が、
90 神事の一環として披露される。
91
92 祭事の準備・執行・後始末な
93 どを担当しているのは、
94 A町内会の会員である住民である。
95
96 住民の中にはC神社の氏子としての意
97 識が強い者もいれば弱い者もいるが、
98 住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と
99 認識している。
100
101
102 D教の熱心な信者であるXは、
103 旅行中にA集落の風景が大変気に入り、
104 A集落内に定住すること
105 とした。
106
107 Xは、
108 生活道路・下水道の清掃、
109 ごみ収集所の管理、
110 B市の「市報」等の配布について
111 は、
112 日常生活に不可欠であり、
113 A集落に住む以上はA町内会に加入せざるを得ないと思っている。
114
115
116 しかしC神社の祭事挙行のために町内会費が使われることは、
117 金額の多寡にかかわらず、
118 D教徒で
119 あるXとしては、
120 到底認められない。
121
122 そこで、
123 町内会に加入するに当たり「祭事挙行費を町内会
124 の予算から支出する慣行をなくしてほしい、
125 もしそれが無理なら、
126 祭事挙行費1世帯割合相当の
127 1000円を差し引いた年額7000円のみを会費として納めたい。
128
129 」とA町内会会長に相談を持
130 ち掛けた。
131
132
133 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。
134
135 会員Eは「A町内会は任意の私
136 的団体なのだから、
137 私たちが決めたやり方でいいはずだ。
138
139 」と言い、
140 会員Fは「祭事はA集落の重
141
142 要な年中行事だ。
143
144 集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、
145 集落に伝えられてきた伝統
146 舞踊も続けられなくなる。
147
148 」と発言した。
149
150 また、
151 氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとっ
152 て、
153 祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。
154
155 祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるの
156 か。
157
158 」と述べた。
159
160 さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。
161
162 一人一人が都合を言い
163 始めたら話が収まらない。
164
165 」と意見を言うなど、
166 種々様々であった。
167
168 そこでA町内会会長は、
169 知り
170 合いの法律家に、
171 憲法上の問題について意見を求めることにした。
172
173
174
175 〔設問〕
176 あなたが意見を求められた法律家であるとして、
177 以下の及びについて、
178 必要に応じて判例に
179 触れつつ、
180 あなた自身の見解を述べなさい。
181
182
183
184
185 祭事挙行費を町内会の予算から支出することの可否
186
187
188
189 祭事挙行費を予算から支出し得るとして、
190 町内会費8000円を一律に徴収することの可否
191
192 【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録)
193 第260条の2
194
195 町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形
196
197 成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。
198
199 )は、
200 地域的な共同活動を円滑に行
201 うため市町村長の認可を受けたときは、
202 その規約に定める目的の範囲内において、
203 権利を有し、
204 義
205 務を負う。
206
207
208 ABCD
209 E
210
211 (略)
212
213 第一項の認可は、
214 当該認可を受けた地縁による団体を、
215 公共団体その他の行政組織の一部とする
216 ことを意味するものと解釈してはならない。
217
218
219
220 (以下略)
221
222 (出題の趣旨)
223 本問は、
224 団体と団体の構成員をめぐる憲法上の論点に関する問題である。
225
226
227 本問で、
228 C神社の祭事を、
229 宗教というよりA集落の伝統と位置付ける住民の存在
230 はあるが、
231 C神社は氏神を祀る神社であり、
232 神事を含めた祭事挙行に関わる宗教性
233 は否定しえない。
234
235 とはいえA町内会は私的団体であり、
236 政教分離原則(憲法第20
237 条、
238 第89条)は直接には関係せず、
239 私人と私人の間の問題である。
240
241 このことを踏
242 まえた上で、
243 議論枠組みを設定する必要がある。
244
245 その際、
246 判例としては三菱樹脂事
247 件(最高裁大法廷判決昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)を意
248 識することが求められる。
249
250
251 その上で、
252 A町内会やA町内会とほぼ同一の集団としての氏子集団の活動と、
253 構
254 成員である会員(会員となる者も含む。
255
256 )の信教の自由(憲法第20条)との問題
257 を調整することとなるが、
258 A町内会は実質的に公共的な事務を担っており、
259 また事
260 実上の強制加入団体であることにも注意を払う必要がある。
261
262
263 判断枠組みについて、
264 たとえば国労広島地本事件(最高裁第三小法廷判決昭和5
265 0年11月28日民集29巻10号1698頁)や、
266 南九州税理士会事件(最高裁
267 第三小法廷判決平成8年3月19日民集50巻3号615頁)等の判例を踏まえて
268 検討することが求められる。
269
270
271
272 具体的に、
273 設問で求められている@神社での祭事挙行費の町内会費からの支出、
274
275 A町内会会員の信教の自由と協力義務の限界、
276 を考えるに当たっては、
277 認可地縁団
278 体としての目的(地方自治法第260条の2第1項)の範囲内であるか否か、
279 範囲
280 内であるとして、
281 祭事挙行費相当も含む町内会費の一律徴収に応じる協力義務を課
282 しうるか否かを論ずることになる。
283
284
285
286 [行政法]
287 Xは、
288 Y県A市の郊外において多数の農地がまとまって存在する地域(以下「本件地域」とい
289 う。
290
291 )内にある土地を所有している(以下、
292 Xが所有する土地を「甲土地」という。
293
294 )。
295
296 本件地域
297 は、
298 北東から南西に向かって緩やかに下る地形をなしており、
299 多くは田として利用されている。
300
301 X
302 は、
303 甲土地の北東部分に木造平屋建ての住宅(以下「本件住宅」という。
304
305 )を建築してそこで居住
306 するとともに、
307 甲土地のその他の部分を畑(以下「本件畑」という。
308
309 )として耕作し、
310 根菜類を栽
311 培している。
312
313 本件畑は、
314 農業用の用排水路に接続していないものの、
315 本件地域には、
316 高い位置にあ
317 る田から低い位置にある田に向かって自然に水が浸透し流下するという性質があるため、
318 本件畑の
319 耕作条件は良好であった。
320
321 Xは、
322 本件畑で育てた野菜の販売により収入を得ることによって、
323 生活
324 を営んできた。
325
326
327 Bは、
328 本件地域内に複数の農地を所有しており、
329 それらの農地の中には、
330 甲土地の南側に接する
331 土地(以下「乙土地」という。
332
333 )及び西側に接する土地(以下「丙土地」という。
334
335 )がある。
336
337 B及
338 び土木建築会社Cは、
339 乙土地を宅地として売り出すことを計画し、
340 Cは、
341 令和5年10月下旬頃か
342 ら乙土地の造成工事(以下「本件造成工事」という。
343
344 )に着手した。
345
346 本件造成工事は、
347 乙土地のう
348 ち本件畑に接する部分の地下にコンクリートの基礎を築き、
349 その上にコンクリート製擁壁を設置し
350 て、
351 同擁壁の上端まで造成土を入れるというものであった。
352
353 同年11月半ば頃には本件造成工事が
354 完成し、
355 乙土地の地表面は本件畑の地表面より40センチメートルほど高くなった。
356
357
358 B及びCは、
359 令和5年11月15日、
360 乙土地をCの資材置場にするという名目で、
361 農地法第5条
362 第1項に基づき、
363 同法にいう「都道府県知事等」に該当するY県知事に対して、
364 乙土地にCの賃借
365 権を設定することの許可を求める旨の申請(以下「本件申請」という。
366
367 )をした。
368
369 提出された許可
370 申請書には、
371 土地造成及び工事の着手時期が令和6年1月10日であることが記載されており、
372 付
373 近の土地等の被害を防除する施設については記載がなかった。
374
375 本件造成工事によって造成された土
376 地の面積は、
377 同申請書に記載された土地造成の所要面積に合致するものであった。
378
379
380 Xは、
381 令和5年11月20日、
382 Y県の担当部局に赴き、
383 本件造成工事によって本件畑の排水に支
384 障が生じると主張して復旧を求めた。
385
386 Y県の担当者Dは、
387 B及びCに対し、
388 本件畑の排水に支障を
389 生じさせないための措置を採ることを指導し、
390 Bは、
391 丙土地上に、
392 本件畑の南西角から西に向かう
393 水路を設けた。
394
395 この水路は、
396 排水に十分な断面が取られておらず、
397 勾配も十分なものではなかった
398 が、
399 Dは、
400 目視による短時間の確認を行っただけで、
401 Bが指導に従って措置を採ったと判断した。
402
403
404 Dの報告を受けたY県知事は、
405 農地法第5条第2項第4号にいう「周辺の農地(中略)に係る営農
406 条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には当たらないと認定して、
407 令和6年1月9
408 日、
409 本件申請を許可する処分(以下「本件処分」という。
410
411 )をした。
412
413
414 令和6年5月頃、
415 本件畑は、
416 付近の田に入水がされた際に冠水するようになった。
417
418 特に本件畑の
419 南側部分の排水障害は著しく、
420 同部分では常に水がたまり、
421 根菜類の栽培ができない状態になって
422 いる。
423
424 本件畑の排水を改善するために、
425 本件畑に盛土をしてかさ上げをする工事を行う場合、
426 その
427 費用(以下「本件費用」という。
428
429 )は120万円余と見込まれている。
430
431 同年6月の時点において、
432
433 本件住宅に関する損害は発生していないが、
434 Xは、
435 本件住宅の床下が浸水による被害を受けるおそ
436 れもあると考えている。
437
438
439 Xは、
440 法的措置として、
441 令和6年6月中に本件処分の取消訴訟(以下「本件訴訟1」という。
442
443 )
444 を提起するとともに、
445 本件処分によって本件費用相当額の損害が発生したことを理由とする国家賠
446 償請求訴訟(以下「本件訴訟2」という。
447
448 )及びY県知事がCに対して農地法第51条第1項に基
449 づく原状回復の措置命令をすることを求める義務付け訴訟(以下「本件訴訟3」という。
450
451 )を提起
452 することを検討している。
453
454
455 以上を前提として、
456 以下の設問に答えなさい。
457
458 また、
459 農地法の抜粋を 【資料】 として掲げるの
460
461 で、
462 適宜参照しなさい。
463
464 なお、
465 【資料】に掲げられていない同法の規定については、
466 考慮しなくて
467 よい。
468
469
470 〔設問1〕
471 ]は、
472 本件訴訟1における原告適格についてどのような主張をすべきか、
473 検討しなさい。
474
475
476 〔設問2〕
477 Xが本件訴訟1における原告適格を有することを前提として、
478 以下の各小問に答えなさい。
479
480
481
482
483 Xは、
484 本件訴訟2において、
485 国家賠償法第1条第1項の「違法」及び「過失」についてど
486 のような主張をすべきか、
487 検討しなさい。
488
489
490
491
492
493 Xは、
494 本件訴訟3において、
495 行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51
496 条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか、
497 検討しなさ
498 い。
499
500
501
502 【資料】
503 〇
504
505 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋)
506
507 (農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
508 第3条
509
510 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、
511 又は(中略)賃借権若しくはその他の使用及
512
513 び収益を目的とする権利を設定し、
514 若しくは移転する場合には、
515 政令で定めるところにより、
516 当
517 事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
518
519 (以下略)
520 一〜十六
521 2〜6
522
523 (略)
524
525 (略)
526
527 (農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限)
528 第5条
529
530 農地を農地以外のものにするため(中略)、
531 これらの土地について第3条第1項本文に掲げ
532
533 る権利を設定し、
534 又は移転する場合には、
535 当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならな
536 い。
537
538 (以下略)
539 一〜七
540 2
541
542 (略)
543
544 前項の許可は、
545 次の各号のいずれかに該当する場合には、
546 することができない。
547
548 (以下略)
549 一〜三
550 四
551
552 (略)
553
554 申請に係る農地を農地以外のものにすること(中略)により、
555 土砂の流出又は崩壊その他の災
556 害を発生させるおそれがあると認められる場合、
557 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼ
558 すおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地(中略)に係る営農条件に支障を生ずる
559 おそれがあると認められる場合
560
561 五〜八
562 3〜5
563
564 (略)
565 (略)
566
567 (違反転用に対する処分)
568 第51条
569
570 都道府県知事等は、
571 (中略)次の各号のいずれかに該当する者(以下この条において「違
572
573 反転用者等」という。
574
575 )に対して、
576 土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益
577 を衡量して特に必要があると認めるときは、
578 その必要の限度において、
579 第4条若しくは第5条の
580 規定によつてした許可を取り消し、
581 その条件を変更し、
582 若しくは新たに条件を付し、
583 又は工事そ
584 の他の行為の停止を命じ、
585 若しくは相当の期限を定めて原状回復その他違反を是正するため必要
586 な措置(中略)を講ずべきことを命ずることができる。
587
588
589 一
590
591 第4条第1項若しくは第5条第1項の規定に違反した者又はその一般承継人
592
593 二、
594 三
595 四
596 2〜5
597
598 (略)
599
600 偽りその他不正の手段により、
601 第4条第1項又は第5条第1項の許可を受けた者
602 (略)
603
604 (出題の趣旨)
605 本問は、
606 農地法第5条第1項の許可がなされたことによって第三者である農家が
607 農業上の被害を受けたという事実に基づいて、
608 取消訴訟の原告適格及び義務付け訴
609 訟に特有の訴訟要件について基本的な理解を試すとともに、
610 国家賠償法第1条第1
611 項の違法及び過失並びに個別法の処分要件の充足性について事案に応じて論じるこ
612 とができるかどうかを試す趣旨の問題である。
613
614
615 設問1は、
616 農地法第5条第1項の許可の取消訴訟における第三者の原告適格を問
617 うものである。
618
619 判例の採用する法律上保護された利益説の立場から、
620 当該許可に関
621
622 する農地法の規定が第三者の利益を個別的利益としても保護する趣旨を有すること
623 を指摘した上で、
624 原告適格を肯定する論述が求められる。
625
626
627 設問2(1)は、
628 行政処分によって損害が発生した場合における、
629 国家賠償法第
630 1条第1項の違法及び過失に関する主張を問うものである。
631
632 本件処分が農地法の規
633 定に適合しないものであることを指摘し(なお、
634 職務行為基準説の立場に立って違
635 法性を認定する場合であっても、
636 「公権力の行使」である本件処分が法律要件に違
637 反して行われたということが前提となる。
638
639 )、
640 このことを踏まえた上で国家賠償法
641 第1条第1項の違法及び過失があるということについて、
642 自覚的に論じなければな
643 らない。
644
645 本問及び設問2(2)では、
646 設問1における原告適格が認められること、
647
648 すなわち本件処分によって農地法上保護された原告の利益が侵害されることを前提
649 として論述することが求められる。
650
651
652 設問2(2)は、
653 行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51条
654 第1項の処分要件の充足を問うものである。
655
656 前者に関しては「重大な損害」要件及
657 び補充性の要件の充足を、
658 後者に関しては「違反転用者等」該当性及び「土地の農
659 業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認
660 めるとき」という要件の充足をそれぞれ論じることが求められる。
661
662
663
664 [民
665
666 法]
667
668 次の文章を読んで、
669 後記の〔設問1・〕及び〔設問2・〕に答えなさい。
670
671
672 解答に当たっては、
673 文中において特定されている日時にかかわらず、
674 令和6年1月1日現在にお
675 いて施行されている法令に基づいて答えなさい。
676
677 なお、
678 民法以外の法令の適用について検討する必
679 要はない。
680
681
682 【事実T】
683 1.Aが機関長として搭乗するタンカー甲は、
684 令和3年4月1日、
685 太平洋上で消息を絶った。
686
687 令和
688 4年6月22日、
689 甲の船体の一部が洋上を漂流しているところを発見され、
690 調査の結果、
691 甲は、
692
693 令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したことが明らかになった。
694
695 同じ頃、
696 甲
697 の乗組員数名の遺体及び所持品の一部が発見されたが、
698 Aの遺体は含まれていなかった。
699
700
701 2.Aの推定相続人は、
702 子B及び子Cである。
703
704 Aは、
705 乙土地(時価2000万円相当)を所有して
706 いるが、
707 そのほかに見るべき財産はない。
708
709
710 3.令和4年6月23日、
711 Bは、
712 Aについて管轄の家庭裁判所に失踪の宣告を請求し、
713 同年8月1
714 日、
715 失踪の宣告がされた。
716
717
718 【事実U】
719 前記【事実T】の1から3までに加えて、
720 以下の事実があった。
721
722
723 4.Aは、
724 平成30年4月1日、
725 以下の内容の自筆証書遺言に係る同日付遺言書(以下「本件遺言
726 書」という。
727
728 )を適法に作成し、
729 封筒に入れて厳封した上で、
730 自室の机の引出しに入れておい
731 た。
732
733
734
735
736
737 乙土地をCに相続させる。
738
739
740
741 前項に記載以外の財産は、
742 各相続人の法定相続分に従って相続させる。
743
744
745 5.令和4年8月24日、
746 Bは、
747 遺産分割協議書等の必要な書類を偽造して、
748 乙土地について相続
749 を原因とする自己への所有権移転登記手続をした。
750
751 その上で、
752 Bは、
753 Dに対して、
754 同月25
755 日、
756 乙土地を代金2000万円で売り渡し、
757 その旨の登記がされた。
758
759 Dは、
760 現在も乙土地を占有
761 している。
762
763
764 6.令和4年8月30日、
765 CがAの部屋を片付けていたところ、
766 机の引出しから本件遺言書を発見
767 し、
768 これを管轄の家庭裁判所に提出して検認を請求し、
769 同年9月14日、
770 適法に検認が行われ
771 た。
772
773
774 〔設問1〕
775 【事実T】及び【事実U】(1から6まで)を前提として、
776 Cは、
777 Dに対して、
778 所有権に基づ
779 き、
780 乙土地の明渡しを請求した。
781
782 Dからの反論にも言及しつつ、
783 Cの請求が認められるかについて
784 論じなさい。
785
786
787 【事実V】
788 前記【事実T】の1から3までに加えて、
789 以下の事実があった(前記【事実U】の4から6まで
790 は存在しなかったものとする。
791
792 )。
793
794
795 7.Aは甲の沈没後に外国漁船によって救出されていたが、
796 諸般の事情から帰国できないでいた。
797
798
799 Aは、
800 令和4年8月5日頃、
801 Bに電話をして無事を伝えたが、
802 Bは、
803 Aの滞在する地域の情勢等
804 から帰国は困難であると判断し、
805 友人Fに、
806 Aは生存しているものの帰国は困難であることを伝
807 え、
808 その財産の処分について相談したほかは、
809 この事実を誰にも話さずに秘匿していた。
810
811 Aの滞
812
813 在する地域は外国との通信が厳しく制限されており、
814 前記の電話のほかにAの生存を伝えるもの
815 はなかった。
816
817
818 8.令和4年8月24日、
819 Cは、
820 適法に相続放棄の申述を行った。
821
822 同月25日、
823 乙土地について、
824
825 相続を原因とするAからBへの所有権移転登記がされた。
826
827 同年10月20日、
828 Bは、
829 Aの生存を
830 知らない不動産業者Eに対して、
831 代金2000万円で乙土地を売り渡し、
832 その旨の登記がされ
833 た。
834
835 その際、
836 Bは、
837 Eに対して、
838 「ひょっとしたら1年後くらいに1割増しで買い戻すかもしれ
839 ないので、
840 その間は他の人に処分しないでほしい。
841
842 」と申し向けていた。
843
844
845 9.令和5年6月19日、
846 Eは、
847 Fから「Bから乙土地の買戻しの話は聞いていると思うが、
848 今の
849 ところ、
850 Bには十分な資金がない。
851
852 そこで、
853 Bと話し合った上で、
854 私が乙土地を購入することに
855 なった。
856
857 」と聞き、
858 Bにも確認した上で、
859 Fに対して、
860 乙土地を代金2200万円で売り渡し、
861
862 その旨の登記がされた。
863
864 Fは、
865 現在も乙土地を占有している。
866
867
868 10.Aは、
869 令和5年6月24日、
870 住所地に帰来した。
871
872 その後、
873 Aの請求を受けた管轄の家庭裁判所
874 は、
875 Aの失踪の宣告を取り消した。
876
877
878 〔設問1〕
879 【事実T】及び【事実V】(1から3まで及び7から10まで)を前提として、
880 Aは、
881 Fに対し
882 て、
883 所有権に基づき、
884 乙土地の明渡しを請求した。
885
886 Fの反論にも言及しつつ、
887 Aの請求が認められ
888 るかについて論じなさい。
889
890
891 【事実W】
892 11.Gは、
893 令和6年3月1日、
894 取引関係にあるHに対する500万円の支払債務を弁済する目的
895 で、
896 取引銀行であるI銀行に、
897 500万円の振込依頼をしたが、
898 その際、
899 振込先として、
900 誤っ
901 て、
902 K銀行のH名義ではなくJ名義の普通預金口座(以下「J名義口座」という。
903
904 )を指定して
905 しまった。
906
907 K銀行は、
908 I銀行からの振込依頼を受け、
909 K銀行のJ名義口座に500万円の入金処
910 理を行った(以下「本件誤振込み」という。
911
912 )。
913
914 なお、
915 Jは、
916 G及びHとは何ら関係のない人物
917 である。
918
919
920 12.Gは、
921 令和6年3月7日、
922 Hから入金がない旨の連絡を受け、
923 本件誤振込みに気付いた。
924
925
926 Gは、
927 直ちにI銀行に連絡し、
928 J名義口座への振込依頼は誤りであり、
929 Jとの間に振込みの原
930 因となる関係はないので、
931 J名義口座に入金された500万円を戻してほしい旨申し出た。
932
933 I銀
934 行は、
935 直ちに、
936 K銀行に返還を求めた。
937
938
939 13.一般に、
940 銀行実務では、
941 振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれ
942 ば、
943 受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても、
944 受取人の承諾を得て振込依
945 頼前の状態に戻す、
946 組戻しという手続が執られている。
947
948
949 14.令和6年3月8日午前10時、
950 K銀行は、
951 Jに組戻しの承諾を得ることとし、
952 K銀行の担当者
953 がJに電話を架け、
954 応答したJに対し、
955 Gからの500万円の振込みについて、
956 Gは誤振込みで
957 あるとして、
958 組戻しを求めている旨説明し、
959 その承諾を求めた。
960
961 これに対し、
962 Jは、
963 Gから50
964 0万円を振り込まれる理由は確かにすぐには思い当たらないが、
965 よく考えたい、
966 組戻しの承諾を
967 するかどうかについては検討して後日連絡する旨述べた。
968
969 しかし、
970 その後、
971 Jは、
972 K銀行に連絡
973 をすることなく、
974 K銀行の担当者の問合せにも応じなくなった。
975
976
977 〔設問2〕
978 【事実W】(11から14まで)を前提として、
979 Gが、
980 Jに対して500万円の不当利得の返還を求
981 めた場合に、
982 その請求が認められるかについて論じなさい。
983
984 なお、
985 J名義口座からは、
986 本件誤振込
987 みの後、
988 出金は行われていないものとする。
989
990
991
992 【事実X】
993 前記【事実W】の11から14までに加えて、
994 次の事実があった。
995
996
997 15.令和6年3月8日夜、
998 Jは、
999 債権者の一人である知人Lに対して、
1000 現金で500万円の弁済を
1001 していた。
1002
1003 Lによると、
1004 Jは同日午後8時頃に、
1005 突然Lの自宅を訪れ、
1006 Lに対して負う債務の弁
1007 済が遅れたことをわび、
1008 弁済に充ててほしいと現金500万円を置いていった。
1009
1010 Lが弁済金の出
1011 所を尋ねたところ、
1012 Jは、
1013 自分の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨を説明した。
1014
1015 Lは
1016 迷ったが、
1017 結局これをJに対して有する債権の弁済として受け取った。
1018
1019
1020 16.K銀行は、
1021 【事実W】14のとおり、
1022 令和6年3月8日午前10時にJに組戻しの承諾を得るべ
1023 く連絡をしていたが、
1024 K銀行の担当者は、
1025 J名義口座について取引を一時的に停止するなどの措
1026 置を採ることをしていなかった。
1027
1028 同日午後1時、
1029 Jは、
1030 同口座から現金500万円の払戻しを受
1031 けており、
1032 それにより同口座の残高は0円となっていた。
1033
1034 同口座は、
1035 ここ数年間残高は0円であ
1036 って、
1037 本件振込み及びその払戻しを除き、
1038 入出金は行われていなかった。
1039
1040
1041 17.Gは、
1042 Lに対して、
1043 JがLに支払った現金500万円は本件誤振込みにより送金された500
1044 万円を払い戻したものであるとして、
1045 不当利得返還請求権に基づき、
1046 500万円の返還を求め
1047 た。
1048
1049 これに対してLは、
1050 @Lの利得はJの一般財産からの弁済であるから、
1051 Gの損失との間には
1052 因果関係がないこと、
1053 ALの利得はJに対する債権の弁済の受領であり、
1054 法律上の原因があるこ
1055 とを理由として、
1056 Gの請求を拒絶した。
1057
1058
1059 〔設問2〕
1060 【事実W】及び【事実X】(11から17)までを前提として、
1061 GのLに対する不当利得返還請求が
1062 認められるかについて、
1063 Lの反論@及びAに留意しつつ論じなさい。
1064
1065
1066
1067 (出題の趣旨)
1068 設問1は、
1069 船舶遭難者について失踪宣告がされた事案を題材として、
1070 遺言に反す
1071 る相続財産の処分が行われた場合の権利関係、
1072 失踪宣告後取消前に行われた取引行
1073 為の効力について問う問題である。
1074
1075 設問1(1)では、
1076 失踪宣告の法的効果、
1077 「相
1078 続させる」遺言の法的性格等についての理解を前提として、
1079 法定相続分を超える部
1080 分については登記がなければ第三者に対抗することができないとの規律(民法第8
1081 99条の2第1項)に即して論述するとともに、
1082 土地の共有者間における明渡請求
1083 の可否について検討することが求められる。
1084
1085 設問1(2)では、
1086 失踪宣告後取消前
1087 に「善意でした行為」(同法第32条第1項後段)の効力について、
1088 その解釈を示
1089 した上で、
1090 いわば「わら人形」として善意者が介在させられた可能性があることな
1091 どの事実に即して論述することが求められる。
1092
1093
1094 設問2は、
1095 銀行口座へ誤振込みがされた事案を題材として、
1096 三当事者間における
1097 不当利得の法律関係について問う問題である。
1098
1099 設問2(1)では、
1100 振込依頼人から
1101 の受取人に対する不当利得返還請求の可否について、
1102 誤振込みによっても預金債権
1103 が成立すること、
1104 受取人が預金債権を行使することができるか否かが問題となるこ
1105 となどを踏まえて論じることが求められる。
1106
1107 設問2(2)では、
1108 誤振込金が振り込
1109 まれた銀行口座から受取人が金銭を引き出し、
1110 これをその債権者に対する弁済に充
1111 てた場合において、
1112 振込依頼人からの当該債権者に対する不当利得返還請求が認め
1113 られるかについて、
1114 いわゆる騙取金による弁済に関する判例(最判昭和49年9月
1115 26日民集28巻6号1243頁)の考え方を参照するなどして論じることが求め
1116
1117 られる。
1118
1119
1120
1121 [商
1122
1123 法]
1124
1125 次の文章を読んで、
1126 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1127
1128
1129 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
1130
1131 )は、
1132 住宅用インテリアの企画、
1133 製造、
1134 販売等を業とする大
1135 会社でない取締役会設置会社であり、
1136 会計監査人設置会社でない監査役設置会社である。
1137
1138 甲社の定
1139 款には、
1140 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について取締役会の承認
1141 を要すること、
1142 定時株主総会の議決権の基準日は毎年12月31日とすること、
1143 事業年度は毎年1
1144 月1日から12月31日までの1年とすることが定められている。
1145
1146 甲社の発行済株式の総数は10
1147 00株であり、
1148 令和5年12月31日の株主名簿によれば、
1149 創業者であるAが500株を、
1150 BとC
1151 が150株ずつを、
1152 Aの親族であるDとEが100株ずつを、
1153 それぞれ保有していた。
1154
1155 甲社の創業
1156 以来、
1157 Aが代表取締役を、
1158 BとCが取締役を、
1159 Fが監査役を、
1160 それぞれ務め、
1161 DとEは甲社の日常
1162 の経営に関わっていない。
1163
1164
1165 2.Dは、
1166 令和6年2月頃、
1167 その保有する甲社の株式の全部(以下「本件株式」という。
1168
1169 )を売却し
1170 て家計の足しにしたいとAに相談した。
1171
1172 Aは、
1173 甲社が同年3月31日に本件株式を1株当たり1
1174 0万円(総額1000万円)で買い取ることとし、
1175 同月開催予定の甲社の定時株主総会におい
1176 て、
1177 そのことを取り上げるとDに約束した。
1178
1179
1180 3.甲社は、
1181 会社法上必要な手続を経て、
1182 令和6年3月31日に、
1183 Dから、
1184 本件株式を総額1000
1185 万円で買い取った。
1186
1187 その過程で、
1188 Aは、
1189 同月に開催された甲社の定時株主総会において、
1190 「本総
1191 会において適法に確定した計算書類に基づいて計算したところ、
1192 令和6年3月31日における分
1193 配可能額は1200万円以上あり、
1194 甲社が本件株式を買い取ることに問題はない。
1195
1196 」と説明し、
1197
1198 甲社による本件株式の取得の承認を受けた。
1199
1200
1201 4.ところが、
1202 令和6年7月になって、
1203 甲社の預金口座の記録を照会していたBが上記3の計算書類
1204 の基礎となった令和5年中の会計帳簿に過誤があったことを偶然発見した。
1205
1206 当該過誤は、
1207 甲社に
1208 おいて会計帳簿をほぼ単独で作成していた経理担当従業員Gが、
1209 一部の取引について会計帳簿へ
1210 の記載を失念したために発生したものであった。
1211
1212 Fによる会計監査は、
1213 例年、
1214 会計帳簿が適正に
1215 作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであったため、
1216 会計監
1217 査では当該過誤が発見されず、
1218 上記3の定時株主総会においても、
1219 Fは疑義を述べなかった。
1220
1221 A
1222 は、
1223 甲社の経理及び財務を担当しており、
1224 計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行ってい
1225 たが、
1226 その基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下であるGに任せきりにして関与して
1227 おらず、
1228 Gによる一部の取引についての会計帳簿への記載の失念に気付かなかった。
1229
1230 当該過誤を
1231 修正したところ、
1232 令和6年3月31日における分配可能額は800万円であった。
1233
1234
1235 〔設問1〕
1236 上記1から4までを前提として、
1237 次の及びに答えなさい。
1238
1239 なお、
1240 本件株式の取得価格は適正
1241 な金額であったものとする。
1242
1243
1244
1245
1246
1247 甲社による本件株式の買取りは有効かについて、
1248 論じなさい。
1249
1250
1251 甲社による本件株式の買取りに関して、
1252 A、
1253 D及びFは、
1254 甲社に対し、
1255 会社法上どのような責
1256 任を負うかについて、
1257 論じなさい。
1258
1259
1260 下記5以下においては、
1261 上記2から4までの事実は存在しないことを前提として、
1262 〔設問2〕に
1263
1264 答えなさい。
1265
1266
1267 5.Aは、
1268 令和6年5月頃、
1269 とある同族企業の社長から、
1270 親族である株主が死亡するたびに株式が多
1271
1272 数の相続人に分散したために会社の管理が厄介になったという話を聞いて心配になり、
1273 全ての甲社
1274 の株式を自分の手元で保有したいと考えるようになった。
1275
1276 AがB、
1277 C、
1278 D及びEに個別に相談した
1279 ところ、
1280 B、
1281 C及びDは対価次第で甲社の株式の売却に応じると回答したが、
1282 Eは「長年にわたり
1283 株主であった自分を、
1284 さしたる理由もなく甲社から排除しようというのか。
1285
1286 」と不満を強く述べ、
1287
1288 売却を固く拒否した。
1289
1290
1291 6.Aは、
1292 旧知の税理士Hに甲社の株式の評価額の算定を依頼し、
1293 「1株当たり6万円から10万円
1294 までの範囲が甲社の株式の適正な評価額である。
1295
1296 」との意見を得た。
1297
1298 そこで、
1299 Aは、
1300 令和6年7月
1301 31日までに、
1302 甲社の取締役会の承認を受け、
1303 B、
1304 C及びDから、
1305 その保有する甲社の株式を1株
1306 当たり10万円で適法に取得し、
1307 当該株式について、
1308 株主名簿の名義書換が行われた。
1309
1310 他方、
1311 A
1312 は、
1313 同年8月以降、
1314 Eに対し、
1315 特別支配株主の株式等売渡請求(以下「本件売渡請求」という。
1316
1317 )
1318 をすることとし、
1319 甲社に対し、
1320 その旨及び株式売渡対価を1株当たり6万円、
1321 取得日を同年9月2
1322 0日とすることなどの会社法所定の事項を通知し、
1323 同年8月20日開催の甲社の取締役会におい
1324 て、
1325 その承認を受けた。
1326
1327 甲社は、
1328 同月27日に、
1329 会社法所定の事項をEに通知し、
1330 また、
1331 本件売渡
1332 請求に関する事項を記載した会社法所定の書面を甲社本店に備え置いた。
1333
1334 その通知を受けたEは、
1335
1336 Aの都合で一方的に甲社から排除されることに不満を強く抱き、
1337 さらに、
1338 B、
1339 C及びDからの株式
1340 の取得の事実を知り、
1341 その取得価格が本件売渡請求における株式売渡対価の額と異なることに対し
1342 て不満を一層強めた。
1343
1344
1345 〔設問2〕
1346 令和6年9月2日時点において、
1347 Eの立場において会社法上どのような手段を採ることが考えら
1348 れるかについて、
1349 論じなさい。
1350
1351
1352
1353 (出題の趣旨)
1354 設問1(1)は財源規制違反の自己株式取得の効力を問うものである。
1355
1356 有効説、
1357
1358 無効説のいずれも有力に主張されており、
1359 いずれの考え方に立ってもよいが、
1360 それ
1361 ぞれの考え方について論拠を示していることが求められる。
1362
1363
1364 設問1(2)は財源規制違反が発生したことに対する責任を問うものである。
1365
1366 代
1367 表取締役Aと株主Dについては会社法第462条第1項の責任を、
1368 Aと監査役Fに
1369 ついては任務懈怠責任(同法第423条第1項)を検討することが望まれる。
1370
1371 同法
1372 第462条第1項の責任に関しては、
1373 Dについては「当該行為により金銭等の交付
1374 を受けた者」として無過失責任を負うが、
1375 Aについては「業務執行者」としてその
1376 職務を怠ったものといえるか、
1377 また、
1378 AとFの任務懈怠責任に関しても、
1379 財源規制
1380 違反が発生するに至った会計帳簿及び計算書類の過誤、
1381 その監査の不備等について
1382 論じる必要がある。
1383
1384 なお、
1385 大会社でない会社の会計限定監査役の任務懈怠に関する
1386 最判令和3年7月19日集民266号157頁も参照されたい。
1387
1388 あわせて、
1389 AとF
1390 の任務懈怠責任を検討する上では、
1391 賠償する責任を負う損害の額をどのように考え
1392 るかについても言及していることが望ましい。
1393
1394
1395 設問2は、
1396 特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条以下)の手続の過
1397 程において、
1398 効力発生前の段階で、
1399 売渡株主が採ることのできる救済手段を問うも
1400 のである。
1401
1402 売買価格決定の申立て(同法第179条の8)及び差止請求(同法第1
1403 79条の7)について説明する必要がある。
1404
1405
1406 差止めに関して、
1407 価格の不当性や締出し目的(正当な事業目的がないこと)が差
1408
1409 止事由に該当するかを論じることになる。
1410
1411 価格に関しては、
1412 Aが準備した第三者に
1413 よる適正な評価額の範囲内にある価格について「著しく不当」といえるかを認定す
1414 ることが求められる。
1415
1416 締出し目的での株式等売渡請求が差止事由に該当するかに関
1417 しては、
1418 その法律構成と実質的な評価を説得的に論じられるかが問われる。
1419
1420 なお、
1421
1422 東京地判平成22年9月6日判タ1334号117頁(全部取得条項付種類株
1423 式)、
1424 札幌地判令和3年6月11日金判1624号24頁(株式併合)を参照され
1425 たい。
1426
1427
1428
1429 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は、
1430 1:1)
1431 次の文章を読んで、
1432 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1433
1434
1435 【事例】
1436 Xは、
1437 伝統工芸品の製作を手掛けている芸術家である。
1438
1439 Yは、
1440 Xの製作活動を支援しており、
1441 Aを代
1442 理人として、
1443 Xの工芸品を頻繁に購入していた。
1444
1445
1446 Xは、
1447 新作の工芸品が完成した旨をAに伝えたところ、
1448 Yが300万円で購入を希望しているとAか
1449 ら聞いた。
1450
1451 そこで、
1452 Xは、
1453 いつものようにAを通じて、
1454 新作の工芸品を300万円でYに売り渡した
1455 (以下、
1456 この契約を「本件契約」といい、
1457 本件契約の売買代金を「本件代金」という。
1458
1459 )。
1460
1461 しかし、
1462 本
1463 件代金が支払われないので、
1464 XがYに事情を直接聞いたところ、
1465 Yは、
1466 Xに対し、
1467 Aから新作の工芸品
1468 の話など聞いたことはなく、
1469 Aにその購入を依頼した覚えもないことから、
1470 本件代金を支払うつもりは
1471 ないと答えた。
1472
1473 また、
1474 Yは、
1475 Xに対し、
1476 現在、
1477 Aとは連絡が取れなくなっていることも伝えた。
1478
1479 その
1480 後、
1481 Xは、
1482 弁護士L1を訴訟代理人として、
1483 Yに対し、
1484 本件代金300万円の支払を求める訴えを提起
1485 した(以下「本件訴訟」という。
1486
1487 )。
1488
1489 これに対して、
1490 Yは、
1491 弁護士L2を訴訟代理人として本件訴訟に
1492 応訴し、
1493 XY間の本件契約の成立を争った。
1494
1495 弁論準備手続における争点整理の結果、
1496 本件訴訟において
1497 は、
1498 本件契約における代理権の授与の有無及び表見代理の成否が主要な争点となった。
1499
1500
1501 〔設問1〕
1502 弁論準備手続終結後の人証調べは、
1503 前記の争点について行われた。
1504
1505 結審が予定されていたその後の口
1506 頭弁論期日において、
1507 L2は、
1508 YがXに対して有する貸金債権300万円(弁済期は本件訴訟の提起前
1509 に既に到来していた。
1510
1511 )を自働債権とし、
1512 本件代金に係る債権を受働債権として、
1513 対当額で相殺する旨
1514 の相殺の抗弁を新たに主張した。
1515
1516 L1がL2に対して、
1517 相殺の抗弁を弁論準備手続の終結前に主張する
1518 ことができなかった理由について説明を求めたところ、
1519 L2は、
1520 「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にす
1521 るものであるから、
1522 初めから主張する必要はないと考えていた。
1523
1524 」と述べるとともに、
1525 「相殺権の行使
1526 時期には法律上特段の制約がなく、
1527 判例によれば、
1528 基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴え
1529 の異議事由とすることも許容されている以上、
1530 弁論準備手続の終結後に相殺の抗弁を主張することも許
1531 容されるべきである。
1532
1533 」と述べた。
1534
1535 L1は、
1536 本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、
1537 仮定的抗弁
1538 として主張することができたにもかかわらず、
1539 それをしなかった理由について更に説明を求めたが、
1540 L
1541 2からは前記の説明以上の具体的な説明はされなかった。
1542
1543 そこで、
1544 L1は、
1545 相殺の抗弁は時機に後れた
1546 攻撃防御方法に当たるとして、
1547 その却下を求めた。
1548
1549
1550 この場合において、
1551 裁判所は相殺の抗弁を却下すべきかについて、
1552 検討しなさい。
1553
1554
1555 〔設問2〕(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。
1556
1557 )
1558 主要な争点が明らかになったため、
1559 Xは、
1560 Aに訴訟告知をした。
1561
1562 しかし、
1563 Aは、
1564 本件訴訟に参加しな
1565 かった。
1566
1567 その後、
1568 本件訴訟では、
1569 弁論準備手続が終結し、
1570 人証調べが行われた。
1571
1572 その結果、
1573 YはAに代
1574 理権を授与しておらず、
1575 また、
1576 表見代理の成立は認められないことを理由として、
1577 Xの請求を棄却する
1578 との判決がされた(以下「前訴判決」という。
1579
1580 )。
1581
1582
1583 前訴判決の確定後、
1584 Xは、
1585 Aは無権代理人としての責任を負うとして、
1586 Aに対して本件代金300万
1587 円の支払を求める訴えを提起した(以下「後訴」という。
1588
1589 )。
1590
1591 これに対して、
1592 Aは、
1593 応訴し、
1594 AはYか
1595 ら代理権を授与されていたと主張した。
1596
1597
1598 Xは、
1599 上記のようなAの主張は訴訟告知の効果によって排斥されるべきであると考えている。
1600
1601 Xの立
1602 場から、
1603 Aの主張を排斥する立論を、
1604 判例を踏まえて、
1605 展開しなさい。
1606
1607 なお、
1608 解答に当たっては、
1609 Aが
1610 補助参加の利益を有していたことを前提として論じなさい。
1611
1612
1613
1614 (出題の趣旨)
1615 〔設問1〕は、
1616 民事訴訟法(以下「法」という。
1617
1618 )第157条第1項の「時機に
1619 後れた攻撃防御方法の却下」についての問題である。
1620
1621 法第157条第1項の要件と
1622 その適用に関する理解を、
1623 具体的な事例を通して問うものである。
1624
1625
1626 〔設問1〕では、
1627 法第157条第1項が定める@時機に後れた、
1628 A故意又は重過
1629 失、
1630 B訴訟の完結の遅延の各要件についての基本的な理解と事例に即した分析及び
1631 検討が求められている。
1632
1633 つまり、
1634 条文の基本的な理解を基に、
1635 事例において問題と
1636 なっている攻撃防御方法が相殺の抗弁であること、
1637 また、
1638 この相殺の抗弁が争点整
1639 理手続(弁論準備手続)の終了後に提出されたものであり、
1640 争点整理手続の終了前
1641 に提出することができなかった理由の説明を求められている(法第174条、
1642 第1
1643 67条)ことなどを踏まえて、
1644 これらが法第157条第1項のどの要件と関連して
1645 くるのかを検討し、
1646 その適用の有無について論理的かつ説得的な結論を導くことが
1647 期待されている。
1648
1649
1650 〔設問2〕は、
1651 訴訟告知の効果に関する問題である。
1652
1653 訴訟告知を受けたものの補
1654 助参加をしなかった者に対するその効果についての理解を、
1655 具体的な事例を通して
1656 問うものである。
1657
1658
1659 つまり、
1660 〔設問2〕では、
1661 まず、
1662 法第53条第4項により法第46条の規定の適
1663 用があることから、
1664 法第46条に規定する補助参加人に対する裁判の効力が訴訟告
1665 知によって被告知者に及ぶ要件の検討が求められる。
1666
1667 その検討の際には、
1668 補助参加
1669 人に対する裁判の効力について、
1670 判例・通説は共同の訴訟追行を基礎とする参加的
1671 効力と解するが、
1672 これに基づく場合には、
1673 その参加的効力の内容及び補助参加をし
1674 ていない被告知者に参加的効力を及ぼすことを正当化する根拠についても検討する
1675 ことが必要になろう。
1676
1677
1678 その上で、
1679 告知者と被告知者との関係性を踏まえて、
1680 訴訟告知による参加的効力
1681 が生ずるとする場合には、
1682 参加的効力の及ぶ客観的範囲を具体的に明らかにした上
1683 で、
1684 後訴におけるAの主張が排斥されるかを論ずることが求められている。
1685
1686 その際
1687 には、
1688 判例(最判平成14年1月22日判時1776号67頁)の理解を踏まえ
1689 て、
1690 事例に即した丁寧な論述をすることが期待されている。
1691
1692
1693 なお、
1694 補助参加人に対する裁判の効力につき判例・通説の立場をとらない場合
1695 も、
1696 その理由及び事例に関する論述が論理的か否かが評価される。
1697
1698
1699
1700 [刑
1701
1702 法]
1703
1704 以下の事例に基づき、
1705 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
1706
1707 )。
1708
1709
1710 1
1711
1712 甲(20歳、
1713 男性)は、
1714 自宅から道のり約1キロメートルにあるX駅構内の居酒屋において、
1715
1716 某年7月1日午後7時から友人乙(20歳、
1717 男性)と飲食する約束をしていたため、
1718 同日午後6
1719 時40分頃、
1720 自宅を出発した。
1721
1722
1723
1724 2
1725
1726 甲は、
1727 X駅に向かって人通りの少ない路上を歩いていたところ、
1728 同日午後6時45分頃、
1729 甲の
1730 約10メートル前を歩いていたA(30歳、
1731 男性)がズボンの後ろポケットから携帯電話機を取
1732 り出した際、
1733 同ポケットに入れていたコインケース(縦横の長さがそれぞれ約10センチメート
1734 ルのもの。
1735
1736 以下「本件ケース」という。
1737
1738 )を路上(以下「第1現場」という。
1739
1740 )に落としたこと
1741 に気付いた。
1742
1743
1744 Aは、
1745 同日午後6時40分頃、
1746 仕事を終え、
1747 自己の携帯電話機及び本件ケースをズボンの後ろ
1748
1749 ポケットに入れて勤務先を出発し、
1750 X駅に向かっていたが、
1751 急いでいたため本件ケースを落とし
1752 たことに気付かなかった。
1753
1754
1755 甲は、
1756 本件ケースが自己の好みのものであったため、
1757 このままAが気付かなければ、
1758 本件ケー
1759 スを自己のものにしようと考え、
1760 第1現場にとどまってAの様子を注視していたところ、
1761 Aが第
1762 1現場の先にある交差点を右折し、
1763 同交差点付近の建物によりAの姿が隠れて見えなくなったこ
1764 とを確認した。
1765
1766
1767 そのため、
1768 甲は、
1769 本件ケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れ、
1770 再びX駅に向かっ
1771 た。
1772
1773
1774 甲が本件ケースを拾い上げたのは、
1775 Aが本件ケースを落としてから約1分後であった。
1776
1777
1778 Aは、
1779 甲が本件ケースを拾い上げた時点で、
1780 第1現場から道のり約100メートルの地点にお
1781 り、
1782 同地点と第1現場との間には建物があるため相互に見通すことができなかったが、
1783 同地点か
1784 ら上記交差点方向に約20メートル戻れば第1現場を見通すことができた。
1785
1786
1787 Aは、
1788 同日午後6時55分頃、
1789 第1現場から道のり約700メートルのX駅に到着し、
1790 間もな
1791 く本件ケースを落としたことに気付き、
1792 勤務先からX駅までの道中で落としたのではないかと考
1793 えて、
1794 本件ケースを探しながらX駅から第1現場を経由して勤務先まで戻ったが、
1795 本件ケースが
1796 見当たらなかったため、
1797 本件ケースを紛失した旨を警察官に届け出た。
1798
1799
1800 3
1801
1802 甲は、
1803 上記居酒屋に徒歩で向かったところ、
1804 X駅まで道のり約500メートルのコンビニエン
1805 スストア(以下「本件店舗」という。
1806
1807 )前の歩道(以下「第2現場」という。
1808
1809 )において、
1810 ガー
1811 ドレールに沿って駐輪された3台の自転車のうちの1台(以下「本件自転車」という。
1812
1813 )が新品
1814 に近い状態である上に無施錠であることに気付いた。
1815
1816
1817 本件店舗には専用の自転車置場がなかったが、
1818 第2現場は、
1819 自転車が駐輪できる相当程度のス
1820
1821 ペースがあり、
1822 事実上、
1823 本件店舗を含む付近店舗利用客の自転車置場として使用されていた。
1824
1825
1826 本件自転車の所有者B(25歳、
1827 男性)は、
1828 本件店舗を利用してからX駅構内にある書店に立
1829 ち寄って参考書を購入したいと考えていたものの、
1830 X駅付近にある有料自転車置場の料金を支払
1831 うことが惜しくなった。
1832
1833
1834 そのため、
1835 Bは、
1836 第2現場に本件自転車を駐輪したまま徒歩で上記書店に行き、
1837 同日午後8時
1838 頃には本件自転車を取りに戻ろうと考え、
1839 同日午後6時15分頃、
1840 本件自転車を第2現場に駐輪
1841 した。
1842
1843 その際、
1844 Bは、
1845 本件自転車の施錠を失念した。
1846
1847 Bは、
1848 本件店舗に立ち寄った後、
1849 同日午後
1850 6時20分頃、
1851 第2現場に本件自転車を駐輪したまま上記書店に向かった。
1852
1853
1854 甲は、
1855 本件自転車が本件店舗を含む付近店舗の利用客が駐輪したものであると考えたが、
1856 上記
1857 居酒屋まで歩くことが面倒になり、
1858 本件自転車を足代わりにして乗り捨てようと考え、
1859 同日午後
1860
1861 6時50分頃、
1862 本件自転車を持ち去った。
1863
1864
1865 Bは、
1866 甲が本件自転車を持ち去った時点で上記書店におり、
1867 同日午後8時頃、
1868 第2現場に戻っ
1869 たが、
1870 本件自転車が見当たらなかったため、
1871 本件自転車が盗まれたと考え、
1872 その旨を警察官に届
1873 け出た。
1874
1875
1876 4
1877
1878 甲は、
1879 上記居酒屋に向かっていた際、
1880 自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転して
1881 いたため、
1882 甲の前方を歩いていたC(30歳、
1883 男性)の存在に気付かず、
1884 Cに接触しそうになっ
1885 た。
1886
1887 甲は、
1888 Cから「気を付けろよ。
1889
1890 」と注意されたことで逆上し、
1891 本件自転車から降り、
1892 同日午
1893 後6時55分頃、
1894 Cの顔面を拳で数回殴った上、
1895 Cの腹部を足で数回蹴った。
1896
1897
1898 甲は、
1899 ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、
1900 乙に対し、
1901 「こいつが俺に説教してきた
1902 から痛め付けてやった。
1903
1904 お前も一緒に痛め付けてくれ。
1905
1906 」と言った。
1907
1908
1909 乙は、
1910 Cの顔面が腫れていた上、
1911 Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、
1912 甲
1913 の言うとおり、
1914 甲がCに暴行を加えたと認識した。
1915
1916
1917 乙は、
1918 勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、
1919 Cが逃げたり抵抗したりす
1920 る様子がなかったことから、
1921 この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、
1922 ストレスを解消した
1923 いと考え、
1924 甲に対し、
1925 「分かった。
1926
1927 やってやる。
1928
1929 」と言って、
1930 同日午後7時頃、
1931 Cの頭部を拳で
1932 数回殴った上、
1933 Cの腹部を足で数回蹴った。
1934
1935
1936 甲は、
1937 乙がCに暴行を加えている間、
1938 その様子を間近で見ていたが、
1939 乙と共にCに暴行を加え
1940 ることはなかった。
1941
1942
1943 甲及び乙は、
1944 気が済んだため、
1945 その場にCを残し、
1946 本件自転車を乗り捨てて上記居酒屋に徒
1947 歩で向かった。
1948
1949
1950 Cは、
1951 甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。
1952
1953
1954 Cは、
1955 乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。
1956
1957
1958 Cは、
1959 全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、
1960 同傷害は、
1961 甲がCの腹部を蹴った
1962 暴行から生じたのか、
1963 乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、
1964 甲の同
1965 暴行及び乙の同暴行は、
1966 いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。
1967
1968
1969
1970 (出題の趣旨)
1971 本事例前段は、
1972 甲が路上を歩いていた際、
1973 前方を歩いていたAが落としたコイン
1974 ケースを拾い上げて領得した上、
1975 コンビニエンスストア前の歩道にBが駐輪した自
1976 転車を乗り去って領得した事例について、
1977 甲の罪責に関する論述を求めるものであ
1978 る。
1979
1980 各領得行為の時点でA及びBそれぞれに各財物に対する占有が認められれば、
1981
1982 甲に窃盗罪が成立し得るため、
1983 占有の有無に関する判断基準を示した上で、
1984 事実関
1985 係を的確に分析してA及びBそれぞれの占有の有無を検討する必要がある。
1986
1987 その上
1988 で窃盗罪又は占有離脱物横領罪の成否を論じることになろう。
1989
1990
1991 本事例後段は、
1992 甲がCに暴行を加えたことによりCに顔面打撲の傷害を負わせ、
1993
1994 甲と暴行の共謀を遂げた乙がCに暴行を加えたことによりCに頭部打撲の傷害を負
1995 わせ、
1996 さらに、
1997 同共謀前に甲が加えた暴行又は同共謀を遂げた乙が加えた暴行によ
1998 りCに肋骨骨折の傷害を負わせた事例について、
1999 甲及び乙の罪責に関する論述を求
2000 めるものである。
2001
2002 その際、
2003 共謀の前後における甲及び乙それぞれの行為と各傷害結
2004 果との関係について的確に分析した上で、
2005 甲については各傷害結果が帰属されるこ
2006
2007 とについて検討する必要がある。
2008
2009 乙については承継的共同正犯の成否を検討する必
2010 要があり、
2011 承継的共同正犯を否定した場合には中途共謀事案における刑法第207
2012 条(同時傷害の特例)の適用の可否について検討する必要がある。
2013
2014
2015
2016 [刑事訴訟法]
2017 次の【事例】を読んで、
2018 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
2019
2020
2021 【事例】
2022 1
2023
2024 令和6年2月2日午後10時頃、
2025 A(30歳代、
2026 女性)は、
2027 H県I市J町内を歩いていたとこ
2028 ろ、
2029 背後から黒色の軽自動車に衝突された。
2030
2031 Aが路上に転倒すると、
2032 すぐに同車から男性が降りて
2033 きて、
2034 「大丈夫ですか。
2035
2036 」と声を掛けながらAに歩み寄り、
2037 立ち上がろうとしたAの顔面を拳で1
2038 回殴り、
2039 Aが手に持っていたハンドバッグを奪い取った上で、
2040 直ちに同車に乗り込んでその場から
2041 逃走した(以上の事件を、
2042 以下【事件@】という。
2043
2044 )。
2045
2046 このとき、
2047 Aは、
2048 同車のナンバーを目視し
2049 た。
2050
2051
2052
2053 2 同日午後11時頃、
2054 B(50歳代、
2055 男性)は、
2056 同市K町内を歩いていたところ、
2057 背後から黒色の
2058 軽自動車に衝突された。
2059
2060 Bが路上に転倒すると、
2061 すぐに同車から男性が降りてきて、
2062 「怪我はあり
2063 ませんか。
2064
2065 」と声を掛けながらBに歩み寄り、
2066 倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに
2067 手を掛けたが、
2068 付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、
2069 直ちに同車に乗り込んで
2070 その場から逃走した(以上の事件を、
2071 以下【事件A】という。
2072
2073 )。
2074
2075 このとき、
2076 B及びXは、
2077 同車の
2078 ナンバーを目視することができなかった。
2079
2080
2081 なお、
2082 【事件@】と【事件A】の現場は、
2083 約3キロメートル離れていたが、
2084 いずれも、
2085 一戸建て
2086 の民家が建ち並ぶ住宅街で、
2087 夜間は交通量及び人通りが少ない場所であった。
2088
2089
2090 3 同日以降、
2091 【事件@】の犯行に使用された車のナンバーに合致する軽自動車の名義人であった甲
2092 に対する捜査が開始され、
2093 所要の捜査の結果、
2094 甲は、
2095 【事件@】については強盗罪、
2096 【事件A】に
2097 ついては強盗未遂罪により起訴された。
2098
2099
2100 4 公判において、
2101 甲及び甲の弁護人は、
2102 【事件@】については争わず、
2103 金品を奪取する目的でAに
2104 軽自動車を衝突させたことなどを認め、
2105 裁判所は、
2106 証拠調べの結果、
2107 【事件@】について、
2108 甲に強
2109 盗罪が成立するとの心証を得た。
2110
2111
2112 〔設問1〕
2113 甲及び甲の弁護人は、
2114 【事件A】について、
2115 甲が犯人であることを否認したとする。
2116
2117 その場合、
2118 甲
2119 が【事件@】の犯人であることを、
2120 【事件A】の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用
2121 いることができるかについて論じなさい。
2122
2123
2124 〔設問2〕
2125 甲及び甲の弁護人は、
2126 【事件A】について、
2127 甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、
2128 金品奪
2129 取の目的を否認したとする。
2130
2131 その場合、
2132 【事件@】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、
2133 【事
2134 件A】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論
2135 じなさい。
2136
2137
2138
2139 (出題の趣旨)
2140 本問は、
2141 夜間の住宅街で発生した通行人を被害者とする強盗事件と、
2142 その約1時
2143 間後に同事件の現場から約3キロメートル離れた住宅街で発生した通行人を被害者
2144 とする強盗未遂事件を通じて、
2145 類似事実による犯人性立証の可否(設問1)や、
2146 類似
2147 事実による犯罪の主観的要素の立証の可否(設問2)といった刑事訴訟法の基本的
2148
2149 学識の有無や関連する裁判例の理解を問うとともに、
2150 具体的事案に対する応用力を
2151 問う問題である。
2152
2153
2154
2155 [民
2156
2157 事]
2158
2159 司法試験予備試験用法文を適宜参照して、
2160 以下の各設問に答えなさい。
2161
2162 ただし、
2163 XのYに対す
2164 る金銭債権に係る請求については検討する必要がない。
2165
2166
2167 以下の設問中に「別紙」において定義した略語を用いることがある。
2168
2169
2170 〔設問1〕
2171 別紙1【Xの相談内容】は、
2172 弁護士PがXから受けた相談内容を記載したものである。
2173
2174 弁護士
2175 Pは、
2176 令和6年7月5日、
2177 別紙1【Xの相談内容】を前提に、
2178 Xの訴訟代理人として、
2179 Yに対し、
2180
2181 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
2182
2183 )を提起すること
2184 とし、
2185 本件訴訟における訴状(以下「本件訴状」という。
2186
2187 )を作成し、
2188 裁判所に提出した。
2189
2190
2191 これに対し、
2192 弁護士Qは、
2193 本件訴状の送達を受けたY(代表取締役A)から別紙1【Y(代表
2194 取締役A)の相談内容】のとおり相談を受け、
2195 Yの訴訟代理人として本件訴訟を追行することにし
2196 た。
2197
2198
2199 以上を前提に、
2200 以下の各問いに答えなさい。
2201
2202
2203
2204
2205 弁護士Pが、
2206 本件訴訟において、
2207 選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
2208
2209
2210
2211
2212
2213 弁護士Pが、
2214 本件訴状において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第134条第2項第2号)
2215 を記載しなさい。
2216
2217 なお、
2218 付随的申立てについては、
2219 考慮する必要がない。
2220
2221
2222
2223
2224
2225 弁護士Pが、
2226 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1
2227 項。
2228
2229 以下同じ。
2230
2231 )を記載しなさい。
2232
2233 解答に当たっては、
2234 本件訴訟において、
2235 Yが、
2236 別紙1【Y
2237 (代表取締役A)の相談内容】に沿って認否することを前提とすること。
2238
2239 なお、
2240 いわゆるよっ
2241 て書き(請求原因の最後のまとめとして、
2242 訴訟物を明示するとともに、
2243 請求の趣旨と請求原因
2244 の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
2245
2246
2247
2248
2249
2250 弁護士Qは、
2251 別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(a)を前提に、
2252 本件訴訟の答弁書
2253 (以下「本件答弁書」という。
2254
2255 )を作成した。
2256
2257 弁護士Qが本件答弁書において抗弁として記載
2258 すべき具体的事実を記載しなさい。
2259
2260
2261
2262 〔設問2〕
2263 第1回口頭弁論期日において、
2264 本件訴状及び本件答弁書が陳述され、
2265 弁護士P及び弁護士Q
2266 は、
2267 それぞれ、
2268 次回期日である第1回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。
2269
2270
2271
2272
2273 弁護士Pは、
2274 別紙1【Xの相談内容】の下線部の(@)及び(A)の各言い分について、
2275 再抗
2276 弁として主張すべきか否かを検討している。
2277
2278 弁護士Pが、
2279 上記(@)及び(A)の各言い分に
2280 ついて、
2281 それぞれ、
2282 @再抗弁として主張すべきか否かの結論を記載するとともに、
2283 A(a)再
2284 抗弁として主張すべき場合には、
2285 再抗弁を構成する具体的事実を記載し、
2286 (b)再抗弁として
2287 主張しない場合には、
2288 その理由を説明しなさい。
2289
2290
2291
2292
2293
2294 弁護士Qは、
2295 弁護士Pから再抗弁を記載した準備書面(以下「原告準備書面」という。
2296
2297 )が提
2298 出されたことを受けて、
2299 別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(b)を前提に、
2300 以下のよ
2301 うな再々抗弁を記載した準備書面(以下「被告準備書面」という。
2302
2303 )を作成した。
2304
2305
2306 (ア)
2307
2308 Aは、
2309 Xに対し、
2310 令和4年11月9日、
2311 アンティーク腕時計(本件商品)を代金20
2312
2313 0万円で売った。
2314
2315
2316 (イ)
2317
2318 〔
2319
2320 〕
2321
2322 (ウ)
2323
2324 Aは、
2325 Xに対し、
2326 令和6年3月20日、
2327 (ア)の代金債権をもって、
2328 本件延滞賃料と
2329
2330 対当額で相殺する旨の意思表示をした。
2331
2332
2333 @上記〔
2334
2335 〕に入る具体的事実を記載するとともに、
2336 Aその事実を主張した理由を簡潔
2337
2338 に説明しなさい。
2339
2340
2341 〔設問3〕
2342 第1回弁論準備手続期日において、
2343 原告準備書面及び被告準備書面が陳述され、
2344 弁護士Pは、
2345
2346 次回期日である第2回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。
2347
2348
2349 その後、
2350 弁護士Pは、
2351 Xから更に別紙1【Xからの聴取内容】のとおりの事情を聴取した。
2352
2353
2354 これを前提に、
2355 以下の各問いに答えなさい。
2356
2357
2358
2359
2360 弁護士Pは、
2361 別紙1【Xからの聴取内容】を前提に、
2362 被告準備書面の再々抗弁に対し、
2363 再々々
2364 抗弁として、
2365 以下の各事実を主張することにした。
2366
2367
2368 (あ)
2369
2370 Xが、
2371 Aに対し、
2372 令和5年3月23日、
2373 代金200万円とした本件商品の代金額につ
2374
2375 き、
2376 50万円とするよう申し入れ、
2377 XとAとの間で上記代金額につき争いがあった。
2378
2379
2380 (い)
2381
2382 XとAは、
2383 上記(あ)につき互いに譲歩し、
2384 令和5年4月10日、
2385 本件商品の売買代
2386
2387 金債権総額を100万円に減額する旨の和解をした。
2388
2389
2390 (う)
2391
2392 〔
2393
2394 @上記〔
2395
2396 〕
2397 〕に入る具体的事実を記載するとともに、
2398 A上記(あ)及び(い)の事実に
2399
2400 加えて、
2401 上記(う)の事実を主張すべきと考えた理由につき、
2402 和解契約の法律効果について触
2403 れた上で、
2404 簡潔に説明しなさい。
2405
2406
2407
2408
2409 第2回弁論準備手続期日において、
2410 弁護士Pは、
2411 上記のとおり再々々抗弁を記載した準備書
2412 面を陳述し、
2413 弁護士Qは、
2414 再々々抗弁事実のうち上記(い)の事実(以下「本件事実」とい
2415 う。
2416
2417 )につき「否認する。
2418
2419 X主張の和解合意をした事実はない。
2420
2421 」と述べた。
2422
2423
2424 同期日において、
2425 弁護士Pは、
2426 本件事実を立証するため、
2427 別紙2の和解合意書(以下「本件
2428 合意書」という。
2429
2430 )を提出し、
2431 書証として取り調べられた。
2432
2433 これに対し、
2434 弁護士Qは、
2435 本件合
2436 意書のうちA作成部分の成立の真正について「否認する」との陳述をした。
2437
2438
2439 (@)
2440
2441 裁判所は、
2442 本件合意書のA作成部分の成立の真正について判断するに当たり、
2443 弁護士
2444
2445 Qにどのような事項を確認すべきか。
2446
2447 @結論を答えた上で、
2448 Aその理由を簡潔に説明し
2449 なさい。
2450
2451
2452 (A)
2453
2454 弁護士Pは、
2455 本件事実を立証するに当たり、
2456 今後どのような訴訟活動をすることが考
2457
2458 えられるか。
2459
2460 証拠構造や本証・反証の別を意識し、
2461 上記(@)で裁判所が確認した事項
2462 に対する弁護士Qの回答により場合分けした上で簡潔に説明しなさい。
2463
2464
2465 〔設問4〕
2466 仮に、
2467 本件訴訟の口頭弁論が令和6年11月5日に終結し、
2468 同年12月3日、
2469 Xの請求を全部
2470 認容する判決が言い渡され、
2471 その後、
2472 同判決が確定したとする(以下、
2473 この確定した判決を「本件
2474 確定判決」という。
2475
2476 )。
2477
2478 しかし、
2479 Yが本件建物の収去及び本件土地の明渡しをしないため、
2480 Xが、
2481
2482 本件確定判決に基づき、
2483 強制執行の申立てをしようとしたところ、
2484 本件建物の所有権が同年10月
2485 14日にYからZに移転していたことが判明したとする。
2486
2487
2488 この場合、
2489 @Xが強制執行を申し立てるに当たって、
2490 どのような不都合が生じるか、
2491 Aその不
2492 都合を防ぐために、
2493 Xがあらかじめ採るべきであった法的手段は何か、
2494 それぞれ簡潔に説明しなさ
2495 い。
2496
2497
2498
2499 (別紙1)
2500 【Xの相談内容】
2501 「私は、
2502 令和2年7月1日、
2503 Aに対し、
2504 店舗用建物を所有する目的で、
2505 私所有の土地(以下「本
2506 件土地」という。
2507
2508 )を、
2509 賃料月額10万円、
2510 毎月末日に翌月分払い、
2511 期間30年間の約束で賃貸し
2512 ました(以下「本件賃貸借契約」という。
2513
2514 )。
2515
2516
2517 Aは、
2518 令和2年8月中には、
2519 本件土地上に店舗用建物(以下「本件建物」という。
2520
2521 )を建て
2522 て、
2523 本件建物で高級腕時計の販売を始めました。
2524
2525 Aは、
2526 令和5年3月17日、
2527 本件建物の所有権を
2528 現物出資し、
2529 時計等の販売を目的とする株式会社Yを設立して自ら代表取締役に就任し、
2530 同日、
2531 Y
2532 に対し、
2533 本件建物の所有権移転登記をしました。
2534
2535 そして、
2536 Aは、
2537 私が承諾していないにもかかわら
2538 ず、
2539 同日、
2540 Yに対し、
2541 本件土地を賃貸しました(以下「本件転貸借契約」という。
2542
2543 )。
2544
2545 以後、
2546 Yが
2547 本件建物を店舗として利用しています。
2548
2549 私は、
2550 Aに対し、
2551 本件転貸借契約について抗議するつもり
2552 でしたが、
2553 同年5月10日、
2554 Aは脳梗塞で倒れて入院してしまい、
2555 それ以降、
2556 賃料が支払われなく
2557 なりました。
2558
2559
2560 私は、
2561 Aの体調が回復したことから、
2562 Aに対し、
2563 令和6年3月7日、
2564 令和5年6月分から令和
2565 6年3月分までの10か月分の延滞賃料100万円(以下「本件延滞賃料」という。
2566
2567 )の支払を2
2568 週間以内にするように求めましたが、
2569 Aは支払おうとしません。
2570
2571
2572 私は、
2573 本件延滞賃料に関するAとの話合いは諦め、
2574 Aに対し、
2575 令和6年3月31日到達の内容
2576 証明郵便をもって、
2577 (@)賃料不払を理由として本件賃貸借契約を解除するとともに、
2578 (A)本件
2579 土地の無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除しました。
2580
2581 Yは、
2582 何ら正当な権原がなく本件建
2583 物を所有して本件土地を占有していますので、
2584 Yに対し、
2585 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを
2586 求めたいと思います。
2587
2588 」
2589 【Y(代表取締役A)の相談内容】
2590 「(a)Xは、
2591 令和2年7月1日、
2592 私(A)に対し、
2593 店舗用建物を所有する目的で、
2594 本件土地を
2595 賃料月額10万円、
2596 毎月末日に翌月分払い、
2597 期間30年間の約束で賃貸して(本件賃貸借契約)、
2598
2599 これに基づいて本件土地を引き渡しました。
2600
2601 その後、
2602 私(A)は、
2603 令和2年8月に本件土地上に本
2604 件建物を建て、
2605 同所で腕時計販売店を経営していましたが、
2606 令和5年3月17日、
2607 本件建物の所有
2608 権を現物出資して、
2609 時計等の販売を目的とする当社(Y)を設立するとともに、
2610 同日、
2611 当社(Y)
2612 に対し、
2613 賃貸期間の定めなく、
2614 賃料月額10万円で本件土地を賃貸し(本件転貸借契約)、
2615 これに
2616 基づいて本件土地を引き渡しました。
2617
2618 しかし、
2619 Xは、
2620 令和6年3月31日到達の内容証明郵便で本
2621 件賃貸借契約を解除すると伝えてきました。
2622
2623 Xは、
2624 本件賃貸借契約の解除の理由として、
2625 私(A)
2626 から当社(Y)への本件土地の無断転貸を挙げていますが、
2627 個人で腕時計販売店をしていた私
2628 (A)が、
2629 全額を出資し、
2630 腕時計販売を目的とする当社(Y)を設立して、
2631 自ら代表取締役に就任
2632 したものであり、
2633 当社(Y)には他の役員や従業員はおらず、
2634 本件建物は引き続き腕時計販売店と
2635 して使用し、
2636 私(A)一人で営業に当たっていたのですから、
2637 Xには何も迷惑をかけていません。
2638
2639
2640 Xが本件土地を所有していることや、
2641 当社(Y)が本件建物を所有していることは事実ですが、
2642 上
2643 記の解除の主張は不当であり、
2644 当社(Y)はXに本件土地を明け渡す義務はないと思います。
2645
2646
2647 (b)また、
2648 私(A)は、
2649 Xに対し、
2650 令和4年11月9日、
2651 アンティーク腕時計(以下「本件商
2652 品」という。
2653
2654 )を代金200万円とし、
2655 うち100万円を契約日に支払い、
2656 残りの100万円は令
2657 和5年5月9日限り私(A)の口座に振り込んで支払う約束で売り、
2658 契約日に本件商品を引き渡し
2659 ました。
2660
2661 しかし、
2662 Xは契約日に100万円を支払ったものの、
2663 残りの代金100万円の支払がなか
2664 ったため、
2665 私(A)は、
2666 Xに対し、
2667 令和6年3月20日、
2668 この未払代金100万円と本件延滞賃料
2669 とを対当額で相殺する旨を電話で伝えました。
2670
2671 」
2672
2673 【Xからの聴取内容】
2674 「Yが主張するとおり、
2675 私は、
2676 Aから、
2677 令和4年11月9日、
2678 本件商品を代金200万円で購入
2679 し、
2680 代金のうち100万円をその日に支払いました。
2681
2682 しかし、
2683 私は、
2684 本件商品を製造から50年以
2685 上が経過したアンティーク商品だと思って200万円で購入したのですが、
2686 令和5年3月20日
2687 頃、
2688 製造年代がAの説明とは異なっており、
2689 実際には50万円程度の価値しかないことを知ったの
2690 です。
2691
2692 そのため、
2693 私は、
2694 Aにだまされたと思い、
2695 同月23日、
2696 Aに本件商品の代金額を50万円に
2697 するよう申し入れました。
2698
2699 これに対し、
2700 Aは当初、
2701 本件商品の代金額は200万円が相当だと言っ
2702 ていましたが、
2703 その後、
2704 話し合った結果、
2705 同年4月10日、
2706 Aとの間で、
2707 「本件商品の売買代金債
2708 権総額を100万円に減額する」との内容で和解しています(以下「本件和解」という。
2709
2710 )。
2711
2712 その
2713 後、
2714 Aは、
2715 令和6年3月20日になって、
2716 本件商品の未払代金が残っていることを前提に本件延滞
2717 賃料と相殺する旨を伝えてきたのですが、
2718 上記のとおり既に本件和解が成立している以上、
2719 相殺に
2720 は理由がありません。
2721
2722
2723 なお、
2724 本件和解については、
2725 私がAとの間で和解が成立した令和5年4月10日の当日に作成し
2726 た和解合意書(本件合意書)が存在します。
2727
2728 」
2729
2730 (別紙2)
2731 (注)
2732
2733 斜体部分は手書きである。
2734
2735
2736
2737 和解合意書
2738 1
2739
2740 甲(A)が、
2741 令和4年11月9日、
2742 乙(X)に対して、
2743 200万円で売却した
2744 アンティーク腕時計について、
2745 その売買代金額に争いが生じたが、
2746 甲と乙は、
2747 互
2748 いに譲歩した結果、
2749 本日、
2750 上記腕時計の売買代金債権総額を100万円とするこ
2751 とで合意した。
2752
2753
2754 2 なお、
2755 乙は、
2756 甲に対し、
2757 令和4年11月9日、
2758 上記腕時計の代金として、
2759 10
2760 0万円を支払済みである。
2761
2762
2763 (以下略)
2764 令和5年4月10日
2765 甲(売主)
2766 乙(買主)
2767
2768 A
2769 X
2770
2771 X印
2772
2773 (出題の趣旨)
2774 設問1は、
2775 契約関係にない第三者に対する建物収去土地明渡請求が問題となる訴
2776 訟において、
2777 原告の希望に応じた訴訟物、
2778 請求の趣旨、
2779 請求を理由づける事実及び
2780 抗弁事実の内容を問うものである。
2781
2782 前記訴訟物(物権的請求権)や、
2783 請求原因及び
2784 抗弁(転貸借契約に基づく占有権原)の要件事実につき、
2785 正確な理解が求められ
2786 る。
2787
2788
2789 設問2は、
2790 原告の二つの主張(賃料不払及び無断転貸を理由とする解除)に関
2791 し、
2792 再抗弁該当性及び再抗弁となる場合の再抗弁事実の内容を問うとともに、
2793 前記
2794 再抗弁に対し、
2795 相殺の再々抗弁として機能するために必要な要件事実及びその事実
2796 が必要となる理由を問うものである。
2797
2798 特に、
2799 無断転貸における賃貸人の承諾の意思
2800 表示に代わる「背信行為と認めるに足りない特段の事情」につき、
2801 その主張の位置
2802 付けについて事案に即した正確な分析が求められる。
2803
2804
2805 設問3(1)は、
2806 前記再々抗弁に対し、
2807 再々々抗弁として機能するために必要な
2808 要件事実及びその事実が必要となる理由の説明を問うものであり、
2809 和解契約の法律
2810 効果(債権の一部消滅)に触れつつ、
2811 合わせて弁済の主張が必要となる理由を説得
2812 的に論述することが求められる。
2813
2814
2815 設問3(2)は、
2816 作成者名義の署名がある私文書の成立の真正が否認された場合
2817 に関して、
2818 民事訴訟法第228条第4項についての理解を問うとともに、
2819 要証事実
2820 を立証するための当事者の訴訟活動について問うものである。
2821
2822
2823 設問4は、
2824 前記訴訟において、
2825 口頭弁論終結前に建物の所有権が第三者に移転し
2826 ていた場合につき、
2827 強制執行の申立てに当たって生じる不都合を問うとともに、
2828 こ
2829 れを防ぐために事前に採るべきであった法的手段(民事保全手続)を問うものであ
2830 る。
2831
2832
2833
2834 [刑
2835
2836 事]
2837
2838 次の【事例】を読んで、
2839 後記〔設問〕に答えなさい。
2840
2841
2842 【事例】
2843 1
2844
2845 A(25歳)は、
2846 甲県乙市内に住む友人X及び乙市の西約30キロメートルにある離島の丙島
2847 に住む友人Yを訪ねようと考え、
2848 令和6年2月1日、
2849 X及びYに電話をかけ、
2850 Yに対しては同
2851 月3日、
2852 Xに対しては同月5日に遊びに行く旨伝えた。
2853
2854 Aは、
2855 同月3日午前10時頃、
2856 丙島へ
2857 の唯一の交通手段である旅客車両用フェリー(以下「本件フェリー」という。
2858
2859 )で乙市を出発
2860 して丙島に渡り、
2861 同日午後1時頃、
2862 Tレンタカー丙営業所において、
2863 車種を指定して普通乗用
2864 自動車1台(登録番号:N300わ7777。
2865
2866 以下「本件車両」という。
2867
2868 )を「返却期限は同
2869 月4日午後5時、
2870 返却場所は同営業所」の契約で借り受けた。
2871
2872 その際、
2873 Aは、
2874 同営業所従業員
2875 Vから、
2876 レンタカー料金3万円は前払いである旨告げられたが、
2877 後払いにしてほしい旨懇願
2878 し、
2879 Vは渋々それを受け入れ、
2880 契約書にその旨記載した。
2881
2882
2883 Aは、
2884 同月3日午後2時頃、
2885 本件車両を運転してY方に赴き、
2886 Yと丙島内を観光するなどし
2887 た後、
2888 同月4日午後4時頃、
2889 Yを同人方に送り届け、
2890 Yと別れた。
2891
2892 Aは、
2893 その後も本件車両を
2894 使用し、
2895 返却期限である同日午後5時を過ぎても本件車両を返却しなかった。
2896
2897 Vは、
2898 返却期限
2899 になってもAが本件車両を返却しに来ないので、
2900 同日午後6時頃、
2901 Aの携帯電話に電話をかけ
2902 た。
2903
2904 Aは、
2905 その電話で「これから返しに行く。
2906
2907 」などと言ったが、
2908 Vから現在地等を尋ねられ
2909 ても何も答えず、
2910 一方的に電話を切った。
2911
2912 その後、
2913 VはAに何度も電話をかけたが、
2914 Aは電話
2915 に出なかった。
2916
2917 Aは、
2918 同日午後6時45分頃、
2919 本件車両とともに乙市行きの本件フェリーに乗
2920 り込み、
2921 同フェリーは同日午後7時に出港した。
2922
2923
2924
2925 2
2926
2927 Aは、
2928 同月5日午前10時頃、
2929 本件車両を運転して乙市内のX方を訪ね、
2930 一緒に観光しようと
2931 誘った。
2932
2933 XがAに「この車どうしたんだ。
2934
2935 」と聞くと、
2936 AはXに「丙島のレンタカー屋で借り
2937 た。
2938
2939 もう期限過ぎてるけどね。
2940
2941 」と言った。
2942
2943 XはAに「返さないとだめだよ。
2944
2945 そんな車で遊び
2946 になんか行けないよ。
2947
2948 」と言ってAの誘いを断ったため、
2949 Aは、
2950 一人で乙市内を観光するなど
2951 していた。
2952
2953 Vは、
2954 同日午後1時頃、
2955 Aに電話をかけ、
2956 応答したAに居場所を尋ねたところ、
2957 A
2958 は「今、
2959 丙島にいる。
2960
2961 もう少しで営業所に着く。
2962
2963 」などと言って一方的に電話を切り、
2964 乙市内
2965 の観光を続けた。
2966
2967 Vは、
2968 その後も繰り返しAに電話をかけたが、
2969 Aが一切電話に出なかったた
2970 め、
2971 同月7日、
2972 本件車両をだまし取られたとして丙警察署に被害届を提出した。
2973
2974 丙警察署の司
2975 法警察員は、
2976 詐欺の被疑事実(その要旨は別紙のとおり)で丙簡易裁判所裁判官にAに対する
2977 逮捕状を請求し、
2978 同月9日、
2979 同裁判官から同事実での逮捕状の発付を受けた。
2980
2981
2982 Aは、
2983 同月10日午後5時頃、
2984 本件車両を運転中、
2985 乙市内の公道上でガードレールに衝突す
2986 る事故を起こした。
2987
2988 その際、
2989 Aは、
2990 運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、
2991 本件車両を放置
2992 してその場から逃げ去った。
2993
2994 当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、
2995 司法警察員Kらが
2996 臨場した。
2997
2998 Kらは、
2999 当該事故車両のナンバーから、
3000 詐欺の被害届が出されている本件車両であ
3001 ると把握し、
3002 @令状の発付を受けずに、
3003 本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内
3004 の証拠品の押収等を行った。
3005
3006 その結果、
3007 本件車両内から、
3008 同月3日午前10時乙市発丙島行き
3009 及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの乗客用チケットの各半券並びに同月4
3010 日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの車両用チケットの半券を押収したほか、
3011 運転席側
3012 窓ガラスに付着した血痕を採取した。
3013
3014 同時に、
3015 Kらは、
3016 目撃者Wから聴取した運転者の逃走方
3017 向へ向かったところ、
3018 頭部から出血しているAを現場付近で発見した。
3019
3020 Kらは、
3021 人定事項を確
3022 認の上、
3023 同月10日、
3024 Aを詐欺罪により通常逮捕した。
3025
3026 Aの逮捕時の所持金は5万円であっ
3027 た。
3028
3029 Aは、
3030 逮捕後のKによる弁解録取手続において「レンタカーをだまし取っていない。
3031
3032 同月
3033
3034 4日にVから電話を受けた時、
3035 1週間延長してくれと言って承諾してもらった。
3036
3037 」などと供述
3038 した。
3039
3040 Kは、
3041 本件車両内から採取した血痕のDNA型がAのものであるか否かを判別するた
3042 め、
3043 Aに対し口腔内細胞の提出を求めたが、
3044 Aがそれを拒んだことから、
3045 A令状の発付を受け
3046 た上、
3047 医師がAの腕に注射針を挿入して血液を採取した。
3048
3049
3050 3
3051
3052 同月12日、
3053 Aは、
3054 詐欺の送致事実(その要旨は別紙に同じ)により甲地方検察庁検察官Pに
3055 送致された。
3056
3057 Aは、
3058 Pによる弁解録取手続においてもKによる弁解録取手続時と同様の供述を
3059 し、
3060 所要の手続を経て、
3061 同日中に勾留された。
3062
3063
3064 B検察官Pは、
3065 司法警察員Kに対し、
3066 本件車両内で発見された本件フェリーのチケットの各
3067 半券について、
3068 購入日時・場所を解明するよう補充捜査の指示をした。
3069
3070 捜査の結果、
3071 同月3日
3072 午前10時乙市発丙島行き及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの乗客用チケットは同月2日
3073 午後3時頃Aがインターネットで予約購入し、
3074 その後窓口で発券されていたのに対し、
3075 同月4
3076 日午後7時丙島発乙市行きの車両用チケットについては、
3077 同月4日午後6時30分頃、
3078 Aが丙
3079 島フェリー乗り場の窓口で直接購入し発券されていたことが判明した。
3080
3081
3082 また、
3083 検察官Pは、
3084 同月14日にXの事情聴取を行った。
3085
3086 Xは、
3087 同月1日にAから遊びに行
3088 くという電話があったことや同月5日にAがX方に来た際に前記2記載のやり取りがあったこ
3089 とを供述した。
3090
3091 Xは、
3092 そのほか、
3093 同月1日のAとの電話で、
3094 同月5日に乙駅構内で待ち合わせ
3095 て遊びに行くと約束したこと、
3096 同月5日にX方を訪れた際にAは「昔から欲しかった車種だっ
3097 た。
3098
3099 ナンバーも覚えやすいだろ。
3100
3101 」などと言っていたこと、
3102 その車のナンバーがN300わ7
3103 777という同じ数字が並んだものだったのでよく覚えていることなどを供述したため、
3104 P
3105 は、
3106 その旨の同月14日付け検察官面前調書を作成し、
3107 Xはこれに署名押印した。
3108
3109
3110 検察官Pは、
3111 その他所要の捜査を遂げ、
3112 詐欺の被疑事実で送致されたAについて、
3113 同月21
3114 日、
3115 C単純横領の罪で公判請求した。
3116
3117 Pは、
3118 単純横領罪の成立時期について、
3119 D同月4日午
3120 後5時頃、
3121 同月4日午後6時頃、
3122 同月4日午後6時45分頃をそれぞれ検討したが、
3123 検討
3124 の結果、
3125 同月4日午後6時45分頃とすることにした。
3126
3127
3128
3129 4
3130
3131 Aは、
3132 同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、
3133 同年2月4日にVから電話を受
3134 けた際、
3135 本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、
3136 横領していないと主張し、
3137 Aの
3138 弁護人Bも、
3139 Aの無罪を主張した。
3140
3141 また、
3142 検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等
3143 を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、
3144 Pは、
3145 Xの証人
3146 尋問を請求し、
3147 裁判官JはXを証人として採用した。
3148
3149 Xは、
3150 同年4月15日の第2回公判期日
3151 において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、
3152 同月5日にAが私の家に来たか
3153 どうか、
3154 いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。
3155
3156 Aは、
3157 地元の中学校の同級生
3158 で、
3159 いつも怖い先輩たちとつるんでいた。
3160
3161 今日傍聴席にいる人たちも、
3162 Aが昔からつるんでい
3163 た先輩たちだと思う。
3164
3165 」などと証言し、
3166 現に法廷の傍聴席には、
3167 Aと同年代の男性が約10名
3168 おり、
3169 Aと目配せをしたり、
3170 Xの証言中に咳払いをしたりしていた。
3171
3172 Pは、
3173 Xの記憶喚起を試
3174 みたが、
3175 Xの証言内容は変わらなかったため、
3176 Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠
3177 採用を求め、
3178 EJは同調書を証拠として採用した。
3179
3180
3181
3182 〔設問1〕
3183
3184
3185 下線部@につき、
3186 司法警察員Kらが、
3187 本件車両が放置された現場の写真撮影、
3188 本件車両内
3189 の本件フェリーのチケットの各半券の押収を、
3190 令状の発付を受けずに行うことができる理由
3191 を答えなさい。
3192
3193
3194
3195
3196
3197 下線部Aにつき、
3198 司法警察員Kが発付を受けた令状の種類及びその令状が必要であると考
3199 えた理由を答えなさい。
3200
3201
3202
3203 〔設問2〕
3204
3205 検察官Pが下線部Bの指示をした理由を答えなさい。
3206
3207
3208 下線部Cにつき、
3209 検察官Pが送致事実である詐欺ではなく単純横領の罪でAを公判請求した理由
3210 について、
3211 詐欺罪の成立に積極的に働く事実、
3212 消極的に働く事実の双方を挙げつつ答えなさい。
3213
3214
3215 下線部Dにつき、
3216 検察官Pが単純横領の成立時期について、
3217 及びを検討した理由並びに
3218 、
3219 ではなくと結論付けた理由を答えなさい。
3220
3221
3222 〔設問3〕
3223 下線部Eにつき、
3224 裁判官JがXの検察官面前調書の採否を決定するに当たって考慮した具体的事
3225 実を、
3226 条文上の根拠と併せて答えなさい。
3227
3228
3229 〔設問4〕
3230 弁護人Bが、
3231 公判請求後にAと接見した際
3232
3233
3234 「起訴された事実は間違いないが、
3235 無罪主張をしてほしい。
3236
3237 」とAから言われ、
3238 無罪を主
3239 張すること
3240
3241
3242
3243 「Yに『AがVとの電話で、
3244 返却期限の延長を了承してもらっているのをレンタカーの助
3245 手席で聞いていた。
3246
3247 』といううその証言をさせてほしい。
3248
3249 」とAから言われ、
3250 Yを証人請求
3251 すること
3252
3253 について、
3254 それぞれ弁護士倫理上問題はあるか、
3255 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規
3256 程を適宜参照し、
3257 根拠条文と併せて答えなさい。
3258
3259
3260
3261 【別紙】
3262
3263 ※具体的な犯行場所や被害品時価等は省略
3264 被疑事実の要旨
3265
3266 被疑者は、
3267 車両借受け名目で車両をだまし取ろうと考え、
3268 令和6年2月3日午後1時頃、
3269 Tレン
3270 タカー丙営業所において、
3271 同営業所従業員Vに対し、
3272 真実は、
3273 レンタカーとして借り受けた車両を返
3274 却する意思がないのに、
3275 これがあるように装って車両の借受けを申し込み、
3276 同人をして借受期間経過
3277 後直ちに同車両が返却されるものと誤信させ、
3278 よって、
3279 その頃、
3280 同所において、
3281 同人から同人管理に
3282 係る普通乗用自動車1台(N300わ7777)の交付を受け、
3283 もって人を欺いて財物を交付させた
3284 ものである。
3285
3286
3287
3288 (出題の趣旨)
3289 本問は、
3290 詐欺罪及び単純横領罪の成否が問題となる事件を題材に、
3291 証拠物の押収
3292 手続及び必要な令状等(設問1)、
3293 詐欺罪及び横領罪の成否を判断する際の考慮要
3294 素等(設問2)、
3295 刑事訴訟法第321条第1項第2号書面の採否を判断する際の考
3296 慮要素等(設問3)、
3297 弁護士倫理上の問題点 (設問4)について、
3298 【事例】に現
3299 れた証拠や事実、
3300 手続の経過を適切に把握した上で、
3301 法曹三者それぞれの立場か
3302 ら、
3303 その問題点及び結論に至る思考過程について解答することを求めており、
3304 刑事
3305 事実認定の基本構造、
3306 刑事実体法及び刑事手続法についての基本的理解並びに基礎
3307 的実務能力を確認するものである。
3308
3309
3310
3311 [倒
3312
3313 産
3314
3315 法]
3316
3317 次の【事例】について、
3318 以下の設問に答えなさい。
3319
3320
3321 なお、
3322 解答に当たっては、
3323 文中において特定されている日時にかかわらず、
3324 令和6年1月1日現
3325 在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
3326
3327
3328 【事例】
3329 Aは、
3330 個人事業として飲食店を経営し、
3331 従業員Bを雇用しており、
3332 Bの給料は月額30万円で、
3333
3334 毎月20日締め、
3335 同月25日払いとしていた。
3336
3337 しかし、
3338 Aは、
3339 飲食店の経営が悪化したため、
3340 令和
3341 5年1月25日支払分以降のBの給料を月額20万円に減らして支払うようになり、
3342 毎月の不足額
3343 10万円分については、
3344 おって支払う旨をBに伝えていた。
3345
3346
3347 Aは、
3348 飲食店の経営悪化による収入減を受けて、
3349 投機性の高い金融商品取引に関心を寄せるよう
3350 になり、
3351 自らが所有する高級自動車を売却して、
3352 その売却代金を元手にFX取引(外国為替証拠金
3353 取引)を始めようと考えた。
3354
3355 Aは、
3356 令和5年8月、
3357 当該自動車を500万円で売却し、
3358 その売却代
3359 金を元手にFX取引を始めたが、
3360 徐々に損失が大きくなり、
3361 その結果、
3362 資産が大幅に減少した。
3363
3364 そ
3365 こで、
3366 Aは、
3367 複数の消費者金融から借入れをし、
3368 その借入金をFX取引に投入したが、
3369 損失は膨ら
3370 む一方となり、
3371 借入金の返済が困難になった。
3372
3373
3374 Aは、
3375 令和5年9月20日、
3376 同月25日支払分の給料として20万円と予告手当を支払ってBを
3377 解雇し、
3378 飲食店事業を停止した上、
3379 破産手続開始の申立て及び免責許可の申立てを弁護士Cに依頼
3380 した。
3381
3382 そこで、
3383 Cは、
3384 同年11月14日、
3385 裁判所に対し、
3386 Aの代理人として、
3387 上記各申立てを行っ
3388 た。
3389
3390 これを受けて、
3391 裁判所は、
3392 同月21日、
3393 Aについて破産手続開始の決定をし、
3394 破産管財人とし
3395 てDを選任した。
3396
3397
3398 その後、
3399 Dによる調査の過程で、
3400 Aの破産手続開始の申立て時の負債として、
3401 裁判所に提出され
3402 た債権者一覧表(債権者名簿を兼ねている。
3403
3404 )に記載のもののほか、
3405 Eからの借入金200万円の
3406 存在が発覚した。
3407
3408 Eからの借入金が債権者一覧表に記載されていなかったのは、
3409 Aが、
3410 破産手続開
3411 始の申立てをCに委任する際、
3412 友人であるEとの関係が悪化することを恐れて、
3413 Cに対し、
3414 Eから
3415 の借入金があることを説明しなかったからである。
3416
3417
3418 〔設
3419
3420 問〕以下の1から3については、
3421 それぞれ独立したものとして解答しなさい。
3422
3423
3424
3425 1.Bは、
3426 Dに対し、
3427 令和5年1月25日支払分以降の給料の一部(毎月10万円)が支払われて
3428 おらず、
3429 同年9月20日には解雇されて職を失ったため、
3430 家族も含めて生活に困窮している旨を
3431 訴えた。
3432
3433
3434 Dは、
3435 一定程度の破産財団を形成することができ、
3436 Bへの未払給料を弁済しても他の優先的な
3437 債権者を害することはないと判断し、
3438 未払給料全額を配当手続によらずに弁済しようと考えてい
3439 る。
3440
3441
3442 未払給料債権が破産手続においてどのように取り扱われるかについて説明した上で、
3443 DがBに
3444 対し配当手続によらずに上記弁済をすることが破産法上のいかなる根拠に基づくものであるかに
3445 ついて、
3446 その趣旨にも言及しながら説明しなさい。
3447
3448 その際、
3449 労務提供期間によって弁済の根拠が
3450 異なる場合には、
3451 場合分けをして説明しなさい。
3452
3453 なお、
3454 未払賃金の立替払制度については言及し
3455 なくてよい。
3456
3457
3458 2.Aの免責不許可事由の有無及びその内容について説明した上で、
3459 裁判所はAにつき免責を許可
3460 することができるかについて説明しなさい。
3461
3462
3463 3.Aの破産手続は、
3464 最後配当が行われて終結したが、
3465 下記の@からBまでを含む届出破産債権に
3466 ついて、
3467 配当によっても全額の満足を受けられなかった。
3468
3469 Aの免責手続については、
3470 免責許可の
3471
3472 決定がされ、
3473 確定した。
3474
3475
3476 @
3477
3478 飲食店において使用していた食材の未払の仕入代金
3479
3480 A
3481
3482 離婚した元配偶者との間で合意した子の養育費についての破産手続開始前に生じた未払金
3483
3484 B
3485
3486 令和5年10月20日にAが利用したレストランでの高額の飲食費についてのクレジット
3487 カード会社の立替金
3488
3489
3490
3491 Aについての免責許可決定の確定により上記@の債権はどのように取り扱われることとなる
3492 か、
3493 免責許可決定の効力を踏まえつつ、
3494 説明しなさい。
3495
3496
3497
3498
3499
3500 上記A及びBの各債権が非免責債権に該当するかについて説明しなさい。
3501
3502
3503
3504 (出題の趣旨)
3505 設問1は、
3506 破産手続における給料請求権の取扱いについての基礎的理解を問うも
3507 のである。
3508
3509
3510 未払の給料債権が財団債権となるのは破産手続開始前3月間の部分であり(破産
3511 法(以下「法」という。
3512
3513 )第149条第1項)、
3514 本問では、
3515 破産手続開始決定が令
3516 和5年11月21日で、
3517 Bは同年9月20日に解雇されていることから、
3518 同年8月
3519 21日から同年9月20日までに生じた給料債権の未払分10万円のみが財団債権
3520 となる(解雇前3か月間の部分ではないことに注意を要する。
3521
3522 )。
3523
3524 このように、
3525 財
3526 団債権となる部分とそれ以外の部分とを適切に区別して論ずることがまずもって求
3527 められる。
3528
3529
3530 その上で、
3531 給料債権が、
3532 破産手続開始前3月間につき財団債権とされている趣旨
3533 (労働債権の政策的保護)を指摘した上で、
3534 財団債権は、
3535 破産手続によらずに随
3536 時、
3537 かつ、
3538 他の債権者に優先して弁済を受けられる旨を、
3539 それぞれ条文(法第2条
3540 第7号、
3541 第151条)を摘示して説明することが求められる。
3542
3543
3544 また、
3545 Bが有する未払給料債権のうち財団債権とならない部分(令和4年12月
3546 21日から令和5年8月20日までの期間の未払分合計80万円)については、
3547 民
3548 法上は一般の先取特権が認められており(民法第306条第2号、
3549 同法第308
3550 条)、
3551 破産手続においては優先的破産債権として扱われることから(法第98条第
3552 1項)、
3553 配当手続において優先的に配当を受けることができること(法第194条
3554 第1項)、
3555 ただし、
3556 その例外として、
3557 給料債権については、
3558 裁判所の許可により、
3559
3560 配当手続を待つことなく、
3561 早期に個別の弁済を受けることができる弁済許可制度
3562 (法第101条第1項)が存在する旨を指摘し、
3563 同項の要件を満たすかについて本
3564 問の事実関係を摘示して当てはめることが求められる。
3565
3566
3567 設問2は、
3568 免責不許可事由の基本的理解を問うものである。
3569
3570
3571 Aが行った行為のうち、
3572 法第252条第1項各号の中で問題となり得るのは、
3573 @
3574 FX取引とA虚偽の債権者一覧表(債権者名簿)の提出である。
3575
3576 @については同条
3577 第1項第4号に該当するか否か、
3578 Aについては同項第7号に該当するか否かに関
3579 し、
3580 それぞれ事実関係を摘示して当てはめる必要がある。
3581
3582 なお、
3583 Aの虚偽の債権者
3584 一覧表(債権者名簿)の提出については、
3585 単に債権者一覧表不記載の事実では足り
3586 ず、
3587 破産手続の遂行を妨害する、
3588 又は債権者を害する目的があったことが必要であ
3589 ると解されていることも踏まえて論ずることが求められる。
3590
3591 さらに、
3592 これらの免責
3593
3594 不許可事由に該当する場合においても、
3595 裁判所による裁量免責(法第252条第2
3596 項)が認められるかについても、
3597 本問の事実関係を踏まえて論ずることが求められ
3598 る。
3599
3600
3601 設問3は、
3602 非免責債権に関する基本的理解を問うものである。
3603
3604
3605 小問(1)は、
3606 まず、
3607 @の仕入代金債権は、
3608 法第253条第1項ただし書各号の
3609 債権には当たらず、
3610 免責許可決定の確定により、
3611 Aは「その責任を免れる」ことに
3612 なる(法第253条第1項本文)が、
3613 その効果については、
3614 債務が消滅するのか、
3615
3616 自然債務となるのかについて、
3617 根拠を示して自説を展開することが求められる。
3618
3619
3620 小問(2)は、
3621 Aの債権及びBの債権について、
3622 非免責債権の該当性が問題とな
3623 る条文を摘示し、
3624 それぞれ、
3625 その該当性について論ずることが求められる。
3626
3627 具体的
3628 には、
3629 Aの債権は、
3630 子の監護に係る請求権(民法第766条第1項)であり、
3631 法第
3632 253条第1項第4号ハに当たり、
3633 非免責債権に該当する旨の指摘が求められる。
3634
3635
3636 また、
3637 Bの債権に関しては、
3638 「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請
3639 求権」(同項第2号)が成立し得るかどうかについて、
3640 その際、
3641 「悪意」について
3642 は積極的害意を意味すると解釈されていることも踏まえた論述が求められる。
3643
3644
3645
3646 [租
3647
3648 税
3649
3650 法]
3651
3652 令和3年1月1日、
3653 製薬会社A社(以下「A社」という。
3654
3655 )は、
3656 著名な生化学者であるBを、
3657
3658 A社が社内に新たに立ち上げた新薬開発研究所(以下「C研究所」という。
3659
3660 )の所長に据えた。
3661
3662 A
3663 社は、
3664 同族会社ではなく、
3665 暦年を事業年度とする。
3666
3667
3668 A社とBの間で委任契約として締結された合意(以下「本契約」という。
3669
3670 )には、
3671 以下の条件
3672 が含まれていた。
3673
3674
3675 @ Bは、
3676 C研究所の所長として、
3677 C研究所の運営について広範な裁量を与えられる。
3678
3679 A社の職制
3680 上、
3681 C研究所の所長は執行役員(会社法上の執行役ではない。
3682
3683 )として位置付けられ、
3684 A社経営陣
3685 の経営戦略上の指示に従って、
3686 C研究所スタッフの研究活動を指揮する。
3687
3688
3689 A 契約期間は令和3年1月1日から令和5年12月31日までの3年間(以下「本契約期間」とい
3690 う。
3691
3692 )とするが、
3693 A社とBの合意により更に2年間の延長が可能である。
3694
3695 本契約期間におけるBの
3696 年俸は1億2000万円であり、
3697 A社はBに対して毎月末に1000万円を支払うものとする。
3698
3699 本
3700 契約期間の満了前に、
3701 Bの申出により、
3702 随時、
3703 本契約を解約することができるが、
3704 解約日を含む月
3705 の翌月以降、
3706 上記の1000万円は支払われない。
3707
3708
3709 B 本契約期間中、
3710 BはA社の許可なくして講演・執筆及び副業をしてはならず、
3711 本契約期間中のB
3712 の研究活動の成果物に係る権利は全てA社に帰属する。
3713
3714
3715 C A社は、
3716 本契約が解約されることなく本契約期間の満了までBが勤務を継続した場合、
3717 Bに対し
3718 て報奨金として2億円(以下「本報奨金」という。
3719
3720 )を、
3721 本契約期間の末日から1月以内に支払
3722 う。
3723
3724 なお、
3725 本契約が延長された場合にも、
3726 本報奨金は上記期限内に支払われる。
3727
3728
3729 Bは、
3730 令和3年1月1日、
3731 本契約に基づいてC研究所の所長としての勤務を開始し、
3732 本契約期
3733 間の末日である令和5年12月31日をもって勤務を終了した。
3734
3735 A社は、
3736 Bの仕事ぶりを高く評価
3737 していたため契約延長を申し入れたが、
3738 Bは、
3739 「しばらく仕事を離れて充電期間を持ちたい」とい
3740 う意向でこれを固辞した。
3741
3742 A社は、
3743 契約条件Cに基づき、
3744 令和6年1月25日、
3745 本報奨金をBに支
3746 払った。
3747
3748
3749 以上の事案について、
3750 以下の設問に答えなさい。
3751
3752 解答に当たっては、
3753 理由を付し、
3754 根拠条文が
3755 ある場合はそれを明記しなさい。
3756
3757 ただし、
3758 租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、
3759 事案中の
3760 年月日にかかわらず、
3761 令和6年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさ
3762 い。
3763
3764
3765 〔設問〕
3766 A社は、
3767 令和3年から令和5年の各事業年度において、
3768 Bに対し、
3769 本契約に従って、
3770 毎月末に10
3771 00万円(1事業年度につき1億2000万円)を支払った。
3772
3773 このA社のBに対する年俸の支払は、
3774
3775 A社の各事業年度における所得の金額の計算上どのように扱われるかについて、
3776 Bの「役員」該当性
3777 に言及しつつ、
3778 説明しなさい。
3779
3780 さらに、
3781 この年俸の支払に伴って、
3782 A社が負うことになる所得税法上
3783 の義務について、
3784 年俸の性質について検討を加えた上で、
3785 説明しなさい。
3786
3787
3788 Bが受け取った本報奨金につき、
3789 所得税法上、
3790 Bの退職所得として扱われるとする見解と、
3791 それ以
3792 外の所得として扱われるとする見解が考えられる。
3793
3794 そこで、
3795 @退職所得に該当するための要件を挙
3796 げ、
3797 A退職所得以外の所得に該当するとすればどの所得分類となるかについて、
3798 可能性のあるものを
3799 挙げた上で、
3800 B自説を論じなさい。
3801
3802
3803 設問において、
3804 仮に本報奨金が退職所得に該当すると判断された場合に、
3805 @本報奨金の収入は、
3806
3807 Bのいつの年分の所得税の課税標準にどのように反映されるかについて説明しなさい。
3808
3809 解答に当たっ
3810 ては、
3811 本契約期間は短期勤続年数(所得税法第30条第4項)に一致するものとし、
3812 退職所得の金額
3813
3814 の具体的な計算は不要とする。
3815
3816 また、
3817 A本報奨金の支払は、
3818 A社のいつの事業年度の所得の金額にど
3819 のように反映されるかについて説明しなさい。
3820
3821
3822 (参照条文)法人税法施行令
3823 (役員の範囲)
3824 第7条
3825 法第2条第15号(役員の意義)に規定する政令で定める者は、
3826 次に掲げる者とする。
3827
3828
3829 1
3830
3831 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る。
3832
3833 次号において同じ。
3834
3835 )
3836 以外の者でその法人の経営に従事しているもの
3837
3838 2
3839
3840 (略)
3841
3842 (出題の趣旨)
3843 本問では、
3844 法人と高度専門職の個人の間で比較的短期間の委任契約が締結され、
3845
3846 当該委任契約に基づいて当該高度専門職が法人に対する役務の提供をしたという事
3847 例を題材として、
3848 法人税法及び所得税法の基本的な事項についての理解が問われて
3849 いる。
3850
3851
3852 まず設問(1)は、
3853 法人(A社)から高度専門職Bに対する委任契約に基づく年俸
3854 の支払が法人税法上の所得の金額の計算上、
3855 どのように取り扱われるか、
3856 また、
3857 こ
3858 れに伴ってA社が負う所得税法上の義務が問われている。
3859
3860 問題文において、
3861 役員該
3862 当性に言及することを求めていることから、
3863 当然これに触れることが必要である
3864 が、
3865 本問でなぜ役員該当性を検討する必要があるかを踏まえて答案を作成すること
3866 が求められている。
3867
3868 役員該当性に関し、
3869 法人税法施行令第7条第1号を参照条文と
3870 して挙げたが、
3871 委任元の法人税法第2条第15号を踏まえて、
3872 本件の事実関係を当
3873 てはめて、
3874 Bの役員該当性を検討することを求めている。
3875
3876
3877 また、
3878 多くの受験者が法人税法第34条に気付くとは思われるが、
3879 同条は同法第
3880 22条第3項にいう「別段の定め」として設けられたものであり、
3881 まずは、
3882 本来的
3883 には同項第2号にいう「費用」に当たること(なお、
3884 同項第1号にいう「原価」に
3885 該当するという考えもあり得よう。
3886
3887 )を踏まえた検討が求められる。
3888
3889
3890 A社の所得税法上の義務を論じる上では、
3891 その前提として、
3892 本問の年俸の性質を
3893 論じる必要がある。
3894
3895 源泉徴収義務に係る条項の正確な理解と当てはめが問われてい
3896 る。
3897
3898
3899 設問(2)は、
3900 BがA社から受け取った報奨金の所得分類が問われているが、
3901 検討
3902 すべき項目を問題文に示しており、
3903 退職所得該当性を中心に論じてほしい。
3904
3905 もとよ
3906 り所得分類も租税法の解釈であるから、
3907 所得税法第30条第1項の解釈として要件
3908 を検討することが求められる。
3909
3910 また、
3911 退職所得となる要件については確立した判例
3912 があり(最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁、
3913 最判昭和58年12月
3914 6日集民140号589頁)、
3915 これを踏まえた検討がされているか否かが問われて
3916 いる。
3917
3918
3919 他の所得分類としては、
3920 本件の事実関係を踏まえると、
3921 少なくとも給与所得を挙
3922 げるべきであり、
3923 Bの退職の有無にかかわらず、
3924 本報奨金は支払われることをどの
3925 ように評価するかという検討が必要である。
3926
3927 本報奨金は、
3928 典型的な退職手当等とは
3929
3930 性質を異にする特殊な給付であるので、
3931 結論は分かれ得るが、
3932 他説を意識して、
3933 自
3934 説を説得的に論じることができるか否かが問われている。
3935
3936
3937 設問(3)では、
3938 本報奨金が退職所得に該当する前提で、
3939 B及びA社のそれぞれの
3940 立場で、
3941 所得税法上又は法人税法上、
3942 本報奨金の収入又は支出が、
3943 それぞれどのよ
3944 うに取り扱われるかを問う問題であり、
3945 所得税法上の収入金額の計上時期及び法人
3946 税法上の費用の損金算入時期という所得税法及び法人税法の基本的な概念に関する
3947 理解が問われている。
3948
3949 所得税法に関しては、
3950 退職所得の金額の具体的な計算は不要
3951 であるが、
3952 「いつの年分の所得税の課税標準にどのように反映されるか」が問われ
3953 ており、
3954 単にいつの年分に計上されるかだけではなく、
3955 課税標準にどのように反映
3956 されるかについて述べる必要がある。
3957
3958 具体的には、
3959 短期退職手当等(所得税法第3
3960 0条第4項)に該当することを前提に、
3961 2分の1課税の例外として、
3962 同法第30条
3963 第2項第2号に従って退職所得の金額が算出され、
3964 同法第22条第3項の退職所得
3965 金額として所得税の課税標準に反映されるという退職所得特有の制度についての理
3966 解も問われている。
3967
3968 法人税については、
3969 費用として損金に算入するためには「債務
3970 の確定」が要件となるところ、
3971 その「債務の確定」の意義を述べた上で、
3972 本件に当
3973 てはめるという法の解釈適用を適切に行うことができるか否かが問われている。
3974
3975
3976
3977 [経
3978
3979 済
3980
3981 法]
3982
3983 【前提】
3984 X社は、
3985 体勢を保持するための福祉用具である甲製品(以下「甲製品」という。
3986
3987 )のメーカーで
3988 あり、
3989 我が国の甲製品の販売分野において約35パーセントのシェア(甲製品の国内における総販
3990 売額に占める各社の販売額の割合)を有し、
3991 国内シェア第1位である。
3992
3993 X社製甲製品は消費者から
3994 高い評価を得ており、
3995 甲製品を販売する小売業者(以下「販売業者」という。
3996
3997 )にとってX社製甲
3998 製品を取り扱うことは営業上不可欠になっている。
3999
4000
4001 メーカーは、
4002 販売業者を通じて甲製品を消費者に販売している。
4003
4004 販売業者は、
4005 X社製甲製品だけ
4006 でなく他メーカー製甲製品も販売しており、
4007 販売方法に特段の法規制はない。
4008
4009 販売業者の販売形態
4010 には、
4011 店舗での販売とインターネットを利用した販売がある(以下、
4012 店舗での販売を行う販売業者
4013 を「店舗販売業者」、
4014 インターネットを利用した販売を行う販売業者を「ネット販売業者」とい
4015 う。
4016
4017 )。
4018
4019 その割合は、
4020 店舗での販売が約8割、
4021 インターネットを利用した販売が約2割となってお
4022 り、
4023 インターネットを利用した販売の割合は漸増しつつある。
4024
4025 X社製甲製品の小売価格は、
4026 それぞ
4027 れの販売業者が独自に決定しているが、
4028 ネット販売業者の小売価格の平均は店舗販売業者の小売価
4029 格の平均より約10パーセント低い。
4030
4031
4032 店舗販売業者の中には、
4033 その販売員がX社製甲製品の機能の特徴を説明して販売するもの(以
4034 下、
4035 このような販売方法を「説明販売」という。
4036
4037 )も少数存在するが、
4038 ネット販売業者の中には説
4039 明販売を行っているものは存在しない。
4040
4041 近年、
4042 X社製甲製品の販売額は伸び悩んでいる。
4043
4044 その理由
4045 を、
4046 X社は、
4047 店舗販売業者の販売員が適切な説明をできておらず、
4048 X社製甲製品の機能の特徴を消
4049 費者に十分訴求できていない点にあると見ている。
4050
4051
4052 〔設
4053
4054
4055 問〕
4056 上記の【前提】に加え、
4057 以下の事実がある場合に、
4058 X社の令和6年6月1日以降の行為につい
4059 て、
4060 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
4061
4062 )上の問
4063 題点を分析して検討しなさい。
4064
4065
4066 令和6年6月1日以降、
4067 X社は、
4068 店舗販売業者に対してのみ、
4069 X社が指示する方法・内容に
4070 基づく販売員教育を実施して、
4071 来店した消費者にX社製甲製品の適切な説明を行う場合に限
4072 り、
4073 説明販売を支援する協力金の提供を行うこととした。
4074
4075 ネット販売業者は説明販売を行って
4076 いないことから協力金の提供を受けていない。
4077
4078 この協力金の金額は、
4079 店舗販売業者に対するX
4080 社製甲製品の卸売価格の約5パーセントであり、
4081 店舗販売業者が説明販売に要する費用とおお
4082 むね同等である。
4083
4084
4085 なお、
4086 X社は、
4087 販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格について、
4088 店舗販売業者とネット
4089 販売業者との間で差を設けていない。
4090
4091
4092
4093
4094
4095 上記の【前提】に加え、
4096 以下の事実がある場合(上記記載の事実はない。
4097
4098 )に、
4099 X社の令和
4100 6年9月1日以降の行為について、
4101 独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。
4102
4103
4104 令和6年6月1日、
4105 X社は、
4106 店舗販売業者に対し、
4107 X社が指示する方法・内容に基づく販売
4108 員教育を実施して、
4109 来店した消費者にX社製甲製品の適切な説明を行うように要請した。
4110
4111 その
4112 後、
4113 この要請に従う費用(その金額は、
4114 店舗販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格の約5
4115 パーセントである。
4116
4117 )を甲製品の小売価格に上乗せして販売した結果、
4118 X社製甲製品の売上が
4119 大幅に減少したため、
4120 大半の店舗販売業者からX社に対し、
4121 このままでは説明販売を維持でき
4122
4123 ないとの苦情が強く寄せられた。
4124
4125 これに対応したX社による調査の結果、
4126 売上の大幅な減少の
4127 主な原因はネット販売業者への顧客流出であることが明らかとなった。
4128
4129
4130 そこで、
4131 X社は、
4132 店舗販売業者に説明販売を継続してもらうため、
4133 ネット販売業者への顧客
4134 流出を阻止する必要があると考えて、
4135 同年9月1日以降、
4136 @店舗販売されるX社製甲製品の同
4137 年6月1日以降の小売価格の平均を「小売定価」と定めて、
4138 全ての販売業者に対して、
4139 X社製
4140 甲製品を「小売定価」で販売するよう求めることとし、
4141 A販売業者が「小売定価」どおりに販
4142 売しない場合、
4143 当該販売業者に対するX社製甲製品の出荷を停止することとし、
4144 その旨を全て
4145 の販売業者に通知した。
4146
4147 その結果、
4148 全ての販売業者は、
4149 出荷停止を恐れて、
4150 X社製甲製品を
4151 「小売定価」で販売するようになった。
4152
4153
4154 なお、
4155 X社は、
4156 販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格について、
4157 店舗販売業者とネット
4158 販売業者との間で差を設けていない。
4159
4160
4161
4162 (出題の趣旨)
4163 本問では、
4164 我が国での甲製品の販売分野において約35パーセントのシェア(第1
4165 位)を持つX社が、
4166 自社製甲製品の販売額の伸び悩みに対応して採用した〔設問〕
4167 (1)と〔設問〕(2)の各行為(以下、
4168 各々「本件行為@」と「本件行為A」とい
4169 う。
4170
4171 )が、
4172 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」とい
4173 う。
4174
4175 )上の不公正な取引方法にそれぞれ該当し、
4176 同法第19条に違反するかを論じるこ
4177 とが求められる。
4178
4179
4180 〔設問〕(1)では、
4181 X社による店舗販売業者に対する協力金(以下「本件協力
4182 金」)の提供が取引条件等の差別取扱い(不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指
4183 定」という。
4184
4185 )第4項)に該当しないかが問われている。
4186
4187 差別対価(一般指定第3項)
4188 とする場合には、
4189 本件協力金をX社製甲製品の卸価格の一構成要素と見る点(卸価格の
4190 実質的値引き)への言及が求められる。
4191
4192 行為要件では、
4193 X社の「事業者(独占禁止法第
4194 2条第1項)」性を前提に、
4195 選択した条文の各要件に沿って問題文の事実をそれぞれ的
4196 確に当てはめることが重要になる。
4197
4198 行為要件該当性を否定する立場も想定されるが、
4199 そ
4200 の際も、
4201 本件行為@は取引先の各販売業者の活動を制限する性質を持たず行為要件を満
4202 たさないなど、
4203 その理由を説得的に述べることが求められる。
4204
4205 公正競争阻害性要件につ
4206 いては、
4207 本件での「不当」が自由競争減殺の観点からの、
4208 競争の実質的制限に至らない
4209 程度の市場閉鎖又は価格維持の効果である旨的確に述べた上で、
4210 本件行為@は、
4211 説明販
4212 売に要するのとおおむね同等の費用支援を行うに過ぎず、
4213 また、
4214 ネット販売業者への卸
4215 売価格を引き上げないことから、
4216 店舗販売業者とネット販売業者の間でX社製甲製品供
4217 給に係る費用条件を変えず、
4218 したがって我が国における甲製品の販売市場において取引
4219 先の各販売業者間で競争者排除や競争回避の効果を発生させない旨を論証することが重
4220 要になる。
4221
4222
4223 〔設問〕(2)では、
4224 X社が、
4225 自社製甲製品の「小売定価」販売を求め、
4226 遵守しなけ
4227 れば出荷停止する旨を各販売業者に通知したことが、
4228 直接購入者に対する再販売価格拘
4229 束(独占禁止法第2条第9項第4号イ)に該当し、
4230 同法第19条に違反するかが問われ
4231 ている。
4232
4233 行為要件では、
4234 「拘束の条件」(同法第2条第9項第4号柱書)が、
4235 経済上の
4236 利益・不利益措置など何らかの人為的手段により実効性が確保されていることを意味す
4237 る旨的確に述べた上で、
4238 問題文の事実を的確に当てはめて、
4239 本件行為Aが行為要件を満
4240
4241 たすと論じることが重要である。
4242
4243 公正競争阻害性要件については、
4244 自由競争減殺のおそ
4245 れが各取引先事業者間での価格競争の消滅・減少(価格維持効果)にある点を明確にし
4246 た上で、
4247 本件行為Aは各取引先販売業者間で価格競争を実際に消滅・減少させており競
4248 争阻害効果が大きく、
4249 「正当な理由」が認められない限りこの要件を当然に満たすと説
4250 得的に述べることが重要である。
4251
4252 この点、
4253 これに代えて、
4254 本件行為Aが、
4255 取引先の各販
4256 売業者間でブランド内価格競争を実際に消滅させており、
4257 かつ、
4258 ブランド間価格競争が
4259 それを牽制するに足りない点を論証するのでも良い。
4260
4261 併せて、
4262 本件行為Aによっても、
4263
4264 @ブランド間競争促進の効果は生じず、
4265 A需要が増大して消費者の利益の増進を図るこ
4266 ともなく、
4267 B〔設問〕(1)のような、
4268 より競争阻害的でない他の方法の採用可能性が
4269 あること等を挙げて、
4270 本件行為Aに「正当な理由」が認められないことに言及すること
4271 も求められる。
4272
4273
4274
4275 [知的財産法]
4276 小説家のAは、
4277 ファンタジー小説シリーズαの第1巻から第9巻までを創作し、
4278 これらはB社
4279 から出版され、
4280 好評を博していた。
4281
4282 αの各巻はそれぞれ独立した小説であるが、
4283 基本的な設定は共
4284 通しており、
4285 何名かのキャラクターはシリーズを通じて登場している。
4286
4287 Aは、
4288 αの第10巻の構想
4289 を練っている途中で意欲をすっかり失い、
4290 執筆をやめてしまった。
4291
4292
4293 B社は、
4294 Aが今後執筆を再開する見込みがないと判断し、
4295 別の小説家にαの第10巻の執筆を
4296 依頼することにした。
4297
4298 このため、
4299 B社は、
4300 Aから、
4301 Aが第10巻のために作成していたメモ書き等
4302 の資料(以下「本件資料」という。
4303
4304 )の提供を受け、
4305 その資料を用いて第三者に第10巻を創作さ
4306 せること及びそれをB社が出版することについての許諾を得た。
4307
4308 B社は、
4309 小説家のCに対して、
4310 第
4311 10巻となる小説を創作することを依頼し、
4312 Cはこれを受けて小説を完成させ、
4313 この小説はB社か
4314 ら出版された(以下、
4315 この小説を「本件小説」といい、
4316 αの第1巻から第9巻までを総じて「αの
4317 過去作品」という。
4318
4319 )。
4320
4321 なお、
4322 Cは本件小説の執筆に当たり、
4323 B社から提供されたαの過去作品と
4324 本件資料を参照したが、
4325 Aとは一切連絡を取っていない。
4326
4327
4328 本件小説の主人公やその他のキャラクター数名は、
4329 αの過去作品に登場していたキャラクター
4330 であり、
4331 本件小説の大まかなストーリーの構成は本件資料の記載にのっとったものである。
4332
4333 また、
4334
4335 本件小説にシリーズで初めて登場するキャラクターのうち、
4336 特に重要な1名(以下「本件キャラク
4337 ター」という。
4338
4339 )の生い立ちや性格等の基本的な設定及びセリフの一部は本件資料に示されていた
4340 ものと同一である。
4341
4342 他方、
4343 本件キャラクターの名称及び外観上の特徴はCが考え出したものであ
4344 る。
4345
4346
4347 以上の事実関係を前提として、
4348 以下の設問に答えなさい。
4349
4350 なお、
4351 各設問はそれぞれ独立したも
4352 のであり、
4353 相互に関係はないものとする。
4354
4355
4356 〔設問1〕
4357 Dは、
4358 αを題材にしたポスターを多種類作成し、
4359 これらを印刷して販売している。
4360
4361 これらのポス
4362 ターの1つ(以下「本件ポスター」という。
4363
4364 )には、
4365 本件キャラクターをDが視覚的に表現した絵
4366 画が用いられるとともに、
4367 本件キャラクターの名称とセリフが記載されている。
4368
4369 このセリフは、
4370 本
4371 件資料にみられるセリフと同一のものである。
4372
4373
4374 Cは、
4375 Dに対し、
4376 本件ポスターの印刷及び販売がCの有する著作権の侵害に当たると主張して
4377 いる。
4378
4379 Cの主張の妥当性について論じなさい。
4380
4381
4382 〔設問2〕
4383 本件小説が好評を博したため、
4384 B社は、
4385 本件小説の外伝として、
4386 本件キャラクターを主人公とす
4387 る新たな小説の執筆をCに依頼し、
4388 Cは、
4389 これを受けて、
4390 小説を完成させた(以下、
4391 この小説を
4392 「本件外伝」という。
4393
4394 )。
4395
4396 本件外伝においては、
4397 本件小説の基本的な設定はそのままになってお
4398 り、
4399 本件小説においてCが創作した表現が一部に用いられているが、
4400 αの過去作品や本件資料にみ
4401 られる表現は用いられていない。
4402
4403
4404 本件外伝はB社から出版された。
4405
4406 Aは、
4407 B社に対し、
4408 本件外伝の出版がAの有する著作権の侵害
4409 に当たると主張している。
4410
4411 B社の反論を想定しつつ、
4412 Aの主張の妥当性について論じなさい。
4413
4414
4415
4416 (出題の趣旨)
4417 1 本問は、
4418 著作権侵害の成否の検討において一般的に問題となる事項(著作物
4419 性、
4420 依拠性、
4421 類似性及び法定利用行為該当性)についての理解に加え、
4422 言語著作
4423 物を原著作物とする二次的著作物の成立要件、
4424 二次的著作物の著作権の及ぶ範
4425
4426 囲、
4427 及び二次的著作物の原著作者の権利の及ぶ範囲についての理解を問うもので
4428 ある。
4429
4430
4431 2 設問1について
4432 設問1においては、
4433 Cの主張として、
4434 本件小説がCの著作物であること、
4435 及び
4436 Dによるポスターの印刷や販売が著作権侵害の要件(依拠性、
4437 類似性及び法定利
4438 用行為該当性)を充足するものであることをまず指摘する必要がある。
4439
4440 その上
4441 で、
4442 当該主張の妥当性の問題として、
4443 本件小説が本件資料との関係で二次的著作
4444 物であり、
4445 原著作物である本件資料と同一の記載部分についてはCの著作権が生
4446 じない旨を、
4447 最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁【ポパイネクタ
4448 イ事件】を踏まえ論述する必要がある。
4449
4450 また、
4451 同じく妥当性の問題として、
4452 本件
4453 小説と本件ポスターの共通点である、
4454 Cが考え出した本件キャラクターの名称や
4455 外観上の特徴について、
4456 これらが創作的表現といえるか(類似性又は表現上の本
4457 質的特徴の直接感得性を肯定することができるか)について論述する必要があ
4458 る。
4459
4460
4461 3 設問2について
4462 設問2においては、
4463 Aの主張として、
4464 本件外伝が本件小説との関係で二次的著
4465 作物に当たることを論じた上で、
4466 Aが本件小説を二次的著作物とする原著作物
4467 (本件資料)の著作者として著作権を有していること、
4468 及びB社による本件外伝
4469 の出版に著作権法第28条に基づきその著作権が及ぶことについて論じる必要が
4470 ある。
4471
4472 これに対するB社の反論として、
4473 本件外伝において、
4474 本件資料の創作的表
4475 現が維持されていないため、
4476 著作権侵害に該当しない旨の主張を挙げた上で、
4477 A
4478 の主張の妥当性について検討する必要がある。
4479
4480 その検討に当たっては、
4481 最判平成
4482 13年10月25日判時1767号115頁【キャンディ・キャンディ事件】及
4483 びそれを巡る学説等を踏まえて、
4484 自説を説得的に展開する必要がある。
4485
4486
4487
4488 [労
4489
4490 働
4491
4492 法]
4493
4494 次の事例を読んで、
4495 後記の設問に答えなさい。
4496
4497
4498 【事例】
4499 1
4500
4501 Y高等学校を運営する学校法人であるY学園は、
4502 教職員がその職務外の活動により学校施設を
4503 使用する場合、
4504 「学校施設の目的外使用に関する規程」(以下「本件規程」という。
4505
4506 )に基づ
4507 き、
4508 使用を希望する日の2週間前までに、
4509 学校長宛てに書面による許可申請をし、
4510 学校長からの
4511 許可を得なければならないこととしていた。
4512
4513 しかし、
4514 Y学園は、
4515 教職員の約30%が加入する労
4516 働組合であるX組合が校舎内にある会議室を使用する場合、
4517 その直前に管理職である教頭に口頭
4518 でその旨を告知すれば、
4519 学校運営上の具体的な支障が生じない限り、
4520 その使用を認める取扱いを
4521 行ってきた。
4522
4523 なお、
4524 上記の取扱いは、
4525 労働協約に基づくものではなく、
4526 事実上のものであった。
4527
4528
4529 令和5年4月に新たに学校長に就任したAは、
4530 同年10月下旬頃、
4531 上記の取扱いによって、
4532 X
4533 組合だけが、
4534 事実上、
4535 自由に会議室を使用することができる状態となっていることは、
4536 不公平で
4537 あり、
4538 X組合に所属していない教職員の方が多いことを考慮すると、
4539 一層問題であるとの認識を
4540 持つに至った。
4541
4542 そこで、
4543 Aは、
4544 同月30日、
4545 教頭であるBに対し、
4546 X組合に所属していない教職
4547 員に対する取扱いとの公平を図る観点から、
4548 X組合についても、
4549 会議室の使用につき本件規程に
4550 従った取扱いをするように指示した。
4551
4552
4553 X組合の委員長であり、
4554 教諭であるZは、
4555 同月31日、
4556 Bに対し、
4557 同年11月1日午後6時3
4558 0分から1時間程度、
4559 会議室を組合活動に使用したいと申し出たところ、
4560 Bは、
4561 Zに対し、
4562 X組
4563 合に所属していない教職員との公平を図る観点から従前の取扱いを改めることになったとして、
4564
4565 本件規程に基づいて学校長宛ての書面による許可申請をするよう求めた。
4566
4567 Zは、
4568 X組合が、
4569 当
4570 時、
4571 Y学園との間で、
4572 部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善を議題とする団体交渉を行ってお
4573 り、
4574 Y学園と主張が激しく対立する状況にあったことや、
4575 他に上記日時に会議室の使用を予定し
4576 ている者がいないことを確認していたこと等から、
4577 「このタイミングでの取扱いの変更は、
4578 Y学
4579 園の方針に従わないX組合及びその組合員に対する嫌がらせとしか思えません。
4580
4581 我々が会議室を
4582 使用することによって、
4583 学校運営上の支障が生じない以上、
4584 従来どおり、
4585 会議室を使用させてい
4586 ただきます。
4587
4588 」と述べた。
4589
4590 しかし、
4591 Bが、
4592 Aに相談の上、
4593 会議室の出入口を施錠したため、
4594 X組
4595 合は、
4596 上記日時に会議室を使用することができなかった。
4597
4598 その後も、
4599 X組合は、
4600 Y学園に対し、
4601
4602 従来どおりの取扱いの継続を求め、
4603 書面による許可申請を提出しなかったため、
4604 Y学園は、
4605 X組
4606 合に対し、
4607 会議室の使用を拒否する状態が継続した。
4608
4609
4610
4611 2
4612
4613 X組合は、
4614 部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善を議題とする団体交渉がこう着状態にあっ
4615 たことから、
4616 X組合に所属していない教職員にも理解と協力を求めていく必要があるとして、
4617 職
4618 員室において、
4619 上記の待遇改善の必要性を訴えるビラを配布することとした。
4620
4621 当該ビラは、
4622 上記
4623 の内容を片面に印刷したA4サイズの紙1枚であった。
4624
4625 Zは、
4626 令和6年1月18日の昼休みの時
4627 間帯(教職員の休憩時間)に、
4628 職員室内において、
4629 職員室を訪れている生徒等がいないことを確
4630 認した上で、
4631 在席している教職員に対しては、
4632 「組合の活動報告のビラです。
4633
4634 よろしくお願いし
4635 ます。
4636
4637 」などと言いながら、
4638 上記ビラを手渡し、
4639 離席している教職員に対しては、
4640 机上に上記ビ
4641 ラを裏返して置くという方法により、
4642 上記ビラの配布を行った。
4643
4644 Zが上記ビラの配布に要した時
4645 間は約10分間であり、
4646 昼休みの終了までに配布が完了した。
4647
4648
4649 Aは、
4650 Zが職員室内でビラを配布したとの報告を受け、
4651 Zに事実確認をしたところ、
4652 Zは事実
4653 関係を認めた。
4654
4655 Aは、
4656 Zに対し、
4657 許可なく学校施設内においてビラを配布することは認められて
4658 いないため、
4659 Zの行為について、
4660 処分を検討せざるを得ないと述べた。
4661
4662
4663 Y学園は、
4664 Zからの弁明の聴取等の就業規則所定の手続を経た上で、
4665 令和6年3月15日、
4666 Z
4667
4668 に対し、
4669 上記ビラ配布の行為について、
4670 就業規則第39条第5号に規定された懲戒事由に該当す
4671 るとの理由から、
4672 戒告とする懲戒処分をした。
4673
4674
4675 【Y学園教職員就業規則(抜粋)】
4676 第39条
4677
4678 教職員が次のいずれかに該当するときは、
4679 情状に応じ、
4680 戒告、
4681 減給、
4682 出勤停止、
4683 降格、
4684 諭
4685
4686 旨退職、
4687 懲戒解雇に処する。
4688
4689
4690 1〜4
4691 5
4692
4693 (略)
4694
4695 許可なく学校の施設・設備を使用し、
4696 又は学校施設内において、
4697 集会を開き、
4698 若しくは放送、
4699 掲
4700 示、
4701 印刷物等の貼付、
4702 配布等をしたとき。
4703
4704
4705
4706 6・7
4707 8
4708
4709 (略)
4710
4711 その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。
4712
4713
4714
4715 第40条
4716
4717 前条の規定により懲戒を行うときは、
4718 当該教職員に対し、
4719 事前に弁明の機会を与える。
4720
4721
4722
4723 〔設問〕
4724 1
4725
4726 X組合がY学園による会議室の使用拒否について労働委員会で争う場合、
4727 どのような申立てを
4728 することができるか。
4729
4730 また、
4731 その申立ては認められるか。
4732
4733 検討すべき法律上の論点を挙げて論
4734 じなさい。
4735
4736 なお、
4737 X組合は、
4738 労働組合法第5条第1項が定める救済申立ての要件を満たしてい
4739 るものとする。
4740
4741
4742
4743 2
4744
4745 Zは、
4746 戒告処分が無効であるとして裁判所に訴えを提起した。
4747
4748 この戒告処分の有効性につい
4749 て、
4750 検討すべき法律上の論点を挙げて、
4751 あなたの見解を述べなさい。
4752
4753
4754
4755 (出題の趣旨)
4756 本問は、
4757 Y高等学校を運営する学校法人であるY学園が、
4758 X組合に対し、
4759 「学校
4760 施設の目的外使用に関する規程」(以下「本件規程」という。
4761
4762 )によらずに、
4763 口頭
4764 による告知があれば原則として校舎内の会議室の利用を認めていた従前の取扱いを
4765 改め、
4766 本件規程に基づいて書面による許可申請を求め、
4767 同申請がないことを理由と
4768 して会議室の使用を拒否したほか、
4769 X組合の委員長であり、
4770 教諭であるZに対し、
4771
4772 同人が、
4773 組合活動として、
4774 職員室において、
4775 就業規則により禁止されている無許可
4776 のビラ配布行為をしたことを理由に戒告の懲戒処分(以下「本件戒告処分」とい
4777 う。
4778
4779 )をしたという事案を基に、
4780 X組合が労働委員会に申し立てるべき具体的な内
4781 容を問うほか、
4782 使用者の施設管理権の行使と不当労働行為の成否をめぐる最高裁判
4783 例や校内における組合活動としてのビラ配布行為を理由とする懲戒処分の効力をめ
4784 ぐる最高裁判例の正確な理解と、
4785 これらを踏まえて導き出される規範に対する当て
4786 はめを問うものである。
4787
4788
4789 設問1は、
4790 Y学園がX組合による会議室の使用を拒否し続けていることについ
4791 て、
4792 X組合が労働委員会で争う場合の具体的な申立ての内容のほか、
4793 Y学園の行為
4794 が労働組合法(以下「労組法」という。
4795
4796 )第7条第3号の不当労働行為(支配介
4797 入)に該当するか否かについて検討することを求めるものである。
4798
4799
4800 まず、
4801 具体的な申立ての内容については、
4802 X組合が、
4803 Y学園による会議室の使用
4804 拒否が労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に当たることを理由とし
4805 て、
4806 労働委員会に救済命令の申立て(同法第27条第1項)をすることができる旨
4807 を指摘する必要があろう。
4808
4809 そして、
4810 具体的には、
4811 X組合が、
4812 労働委員会に対し、
4813 Y
4814
4815 学園のX組合に対する支配介入行為の禁止を内容とする命令や、
4816 Y学園がX組合に
4817 対して今後同様の行為を行わない旨の文書を事業場内で掲示すること等(ポストノ
4818 ーティス)を内容とする命令等を求めることが考えられる旨を指摘する必要があろ
4819 う。
4820
4821
4822 次に、
4823 その申立てが認められるか否かについては、
4824 Y学園による上記使用拒否が
4825 労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否かを最高裁判例
4826 (国鉄札幌運転区事件・最三小判昭和54年10月30日民集33巻6号647
4827 頁、
4828 オリエンタルモーター事件・最二小判平成7年9月8日集民176号699
4829 頁)を踏まえた上で検討する必要がある。
4830
4831 すなわち、
4832 我が国の労働組合について
4833 は、
4834 いわゆる企業内組合の割合が高いことから、
4835 組合活動のために企業施設を利用
4836 する必要性が大きいものの、
4837 上記最高裁判例は、
4838 労働組合による企業施設の利用に
4839 ついては、
4840 本来、
4841 使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものと
4842 した上で、
4843 上記必要性から当然に労働組合による企業施設の利用権が保障されてい
4844 るということはできず、
4845 利用を許諾するか否かは、
4846 原則として使用者の自由な判断
4847 に委ねられており、
4848 使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うもので
4849 はないとし、
4850 その利用を許諾しないことが当該企業施設につき使用者が有する権利
4851 の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、
4852 直ちに団結権
4853 を侵害し、
4854 不当労働行為を構成するということはできない旨判断している。
4855
4856 本設問
4857 においては、
4858 この判旨を踏まえ、
4859 的確に規範を定立する必要があろう。
4860
4861 その上で、
4862
4863 使用者であるY学園が施設管理権に基づきX組合に対して会議室の利用を許諾しな
4864 いことについて、
4865 X組合に対しても本件規程に基づく許可申請を求めることとした
4866 目的、
4867 当該許可申請において要求される手続の内容、
4868 Y学園が従前の取扱いを変更
4869 した時期、
4870 X組合が会議室を使用することによる施設管理上の支障の有無及び程
4871 度、
4872 Y学園によるX組合に対する会議室の使用拒否が続いている理由等、
4873 本設問の
4874 具体的事実関係に照らし、
4875 施設管理権の濫用となる特段の事情があるとして支配介
4876 入に当たるか否か等を論じ、
4877 X組合の申立てが認められるか否かについての結論を
4878 導く必要があると考えられる。
4879
4880
4881 設問2は、
4882 Y学園がZに対して学校施設内における無許可のビラ配布行為を理由
4883 として行った本件戒告処分の効力を問うものであり、
4884 上記ビラ配布行為の職場規律
4885 との実質的な抵触の有無という観点からの検討を行うことを求めるものである。
4886
4887
4888 まず、
4889 本設問においては、
4890 使用者の労働者に対する懲戒権の根拠のほか、
4891 懲戒処
4892 分をするためには、
4893 あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を規定する必要性が
4894 あること(フジ興産事件・最二小判平成15年10月10日集民211号1頁)
4895 や、
4896 懲戒処分が客観的に合理的理由を欠き、
4897 社会通念上相当であると認められない
4898 場合は、
4899 無効となること(労働契約法第15条)について指摘する必要があろう。
4900
4901
4902 また、
4903 懲戒処分が不当労働行為に該当する場合、
4904 当該懲戒処分が私法上も無効とな
4905 ると解されること(医療法人新光会事件・最三小判昭和43年4月9日民集22巻
4906 4号845頁)についても指摘する必要があろう。
4907
4908
4909 そして、
4910 就業規則により禁止された校内における無許可のビラ配布行為を理由と
4911
4912 する懲戒処分については、
4913 最高裁判例(倉田学園事件・最三小判平成6年12月2
4914 0日民集48巻8号1496頁)を踏まえた上で、
4915 その効力を検討する必要があ
4916 る。
4917
4918 すなわち、
4919 上記最高裁判例は、
4920 私立学校の校内において教職員が使用者の許可
4921 を得ないまま組合活動としてビラの配布を行った事案において、
4922 当該事案の具体的
4923 事実関係の下において、
4924 配布行為が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、
4925 生徒に
4926 対する教育的配慮に欠けるおそれのない特別の事情が認められるものとして、
4927 校内
4928 において無許可のビラ配布を禁止する就業規則に違反しないとしたものである。
4929
4930 本
4931 設問においては、
4932 これを踏まえて規範を定立するとともに、
4933 当てはめを行うことが
4934 求められる。
4935
4936 また、
4937 当てはめにおいては、
4938 ビラの内容、
4939 配布の態様等、
4940 本設問の具
4941 体的事実関係に照らし、
4942 本設問におけるZの行為がY学園教職員就業規則に違反す
4943 るか否か等を論ずることが必要となろう。
4944
4945
4946 さらに、
4947 前記のとおり、
4948 最高裁判例において、
4949 法律行為が不当労働行為に該当す
4950 る場合、
4951 当該法律行為が私法上無効となると解されていることを踏まえると、
4952 本件
4953 戒告処分が、
4954 Zが労働組合の組合員であること等を理由にされたものとして労組法
4955 第7条第1号の不当労働行為(不利益取扱い)に該当するか否かや、
4956 X組合の委員
4957 長であるZに対する懲戒処分をすることにより、
4958 X組合を弱体化する目的でされた
4959 ものとして同条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否か等を検討した
4960 上で、
4961 本件戒告処分の効力を論ずることも必要となろう。
4962
4963
4964
4965 [環
4966
4967 境
4968
4969 法]
4970
4971 次の設例を読んで、
4972 以下の小問に答えなさい。
4973
4974 なお、
4975 小問はいずれも独立したものである。
4976
4977
4978 【設例】
4979 A県内のB国立公園にある特別保護地区内には、
4980 国有林(ブナ林)があり、
4981 甲遊歩道が設置され
4982 ている。
4983
4984 Xが甲遊歩道を散策していたところ、
4985 甲遊歩道の入口から約500メートルの地点(以
4986 下、
4987 この地点を「本件現場」という。
4988
4989 )において、
4990 突然付近の国有林にあったブナの木が甲遊歩道
4991 上のXに向かって倒れてきたため(以下、
4992 倒木したブナの木を「本件ブナの木」という。
4993
4994 )、
4995 Xは
4996 これを避けようとしてその場で転倒し、
4997 足を骨折する等全治3か月の怪我をした(以下「本件事
4998 故」という。
4999
5000 )。
5001
5002
5003 本件現場の周辺地域は、
5004 国道に隣接して乙休憩所が設置され、
5005 同休憩所からブナ林内を2キロメ
5006 ートルほど進んだ特別保護地区内に、
5007 景観が良好なことで全国的にも知られている丙渓谷があっ
5008 た。
5009
5010 甲遊歩道は、
5011 乙休憩所から丙渓谷までをつなぐ通路として設置されたものであって、
5012 甲遊歩道
5013 には、
5014 約100メートルおきに休息のためのベンチが置かれていた。
5015
5016 また、
5017 本件ブナの木の近くに
5018 もベンチが置かれており、
5019 観光客が本件ブナの木周辺において散策ないし休息することが予定され
5020 ていた。
5021
5022 本件事故当時、
5023 甲遊歩道を通って丙渓谷を訪れる観光客は、
5024 年間約50万人程度であっ
5025 た。
5026
5027 甲遊歩道は、
5028 国有地を借り受けたA県が設置したものであり、
5029 A県が維持管理を行っていた。
5030
5031
5032 本件ブナの木は国有地上の天然木であり、
5033 本件事故前に、
5034 国とA県が毎年定期的に合同で実施して
5035 いる安全点検の際に、
5036 倒木のおそれがあるとは判定されていなかったが、
5037 本件事故後の調査により
5038 木の内部の腐食が進んでいたことが倒木の原因であると判明した。
5039
5040
5041 【小問】
5042
5043
5044 B国立公園内には「特別地域」のほかに「普通地域」がある。
5045
5046 自然公園法上、
5047 普通地域内にお
5048 いて、
5049 広告物を設置する行為につき、
5050 事前にどのような手続をとる必要があるか。
5051
5052 特別地域に
5053 おける上記行為に対する事前の手続的義務と対比しながら、
5054 根拠条文を挙げつつ、
5055 その手続の
5056 内容を説明しなさい。
5057
5058 併せて、
5059 その手続的義務に違反して当該行為に着手した者に対して、
5060 刑
5061 事的な制裁を科すために環境大臣が採れる措置について説明しなさい。
5062
5063
5064
5065
5066
5067 丙渓谷を訪れる観光客が年々増加傾向にあり、
5068 それに伴って良好な景観の維持が困難となり、
5069
5070 管理にも支障が生じてきている。
5071
5072 この場合に環境大臣が採り得る自然公園法上の措置を説明し
5073 なさい(ただし、
5074 当該措置を採るための手続については論じる必要はない。
5075
5076 )。
5077
5078
5079
5080
5081
5082 Xは、
5083 国及びA県に対し、
5084 損害賠償請求を検討している。
5085
5086 どのような法的構成が考えられる
5087 か、
5088 根拠条文や要件を挙げつつ説明しなさい(ただし、
5089 甲遊歩道の設置管理に係る費用を負担
5090 している観点からの責任については問わない。
5091
5092 )。
5093
5094
5095
5096
5097
5098 現時点において、
5099 環境大臣は、
5100 A県内に新たに国立公園を指定し、
5101 かつ、
5102 その区域内に特別地
5103 域を指定しようとしている。
5104
5105 当該特別地域予定区域内に民有地が存在する場合、
5106 その指定に当
5107 たって、
5108 所有者の同意が必要となるか。
5109
5110 なお、
5111 国立公園の指定の前段階となる候補地の選定に
5112 際しては、
5113 法規の性質を有しない要領が参考にされている。
5114
5115 【資料1】は以前に用いられてい
5116 たものであり、
5117 【資料2】 は現在用いられているものである。
5118
5119 これらを踏まえつつ、
5120 土地所有
5121 者の同意の要否について、
5122 そのように考える理由とともに説明しなさい。
5123
5124
5125
5126 【資料1】
5127 自然公園選定要領(昭和27年9月)(抜粋)
5128
5129 自然公園は傑出した自然の風景地中、
5130 下の要件を具備するものにつき選定するものとする。
5131
5132
5133 (略)
5134 第2要件
5135
5136 土地
5137
5138 (略)
5139 社寺有地、
5140 私有地を包含する場合にあっては、
5141 土地の所有その他の関係者が特別地域の設定
5142 に協力的であること。
5143
5144
5145 (以下略)
5146 【資料2】
5147 国立公園及び国定公園の候補地の選定及び指定要領(平成25年5月)(抜粋)
5148 1
5149
5150 国立公園及び国定公園の候補地の選定
5151 国立公園及び国定公園の候補地は、
5152 全国的な観点から検討を行い、
5153 以下の要件を満たす地域を選
5154 定する。
5155
5156
5157
5158 (略)
5159
5160
5161 第5要件
5162
5163 地域社会との共存
5164
5165 候補地について、
5166 国立公園又は国定公園として保護及び利用することについて地域社会の理解
5167 が得られること。
5168
5169
5170 (以下略)
5171
5172 (出題の趣旨)
5173 本問は、
5174 自然公園法上の国立公園における特別地域及び普通地域の規制や利用調
5175 整地区についての基本的理解を問うとともに、
5176 国立公園内において発生した事故に
5177 関する国や県の民事上の責任についての理解を問うものである。
5178
5179 あわせて、
5180 国立公
5181 園及び特別地域の指定に関して民有地の土地所有者の同意の要否という論点につい
5182 て、
5183 資料を基にした論理的な説明を問うものである。
5184
5185
5186 小問(1)の前段では、
5187 特別地域における広告物を設置する行為についての規制
5188 が自然公園法第20条第3項第7号に基づき許可制であることを指摘した上で、
5189 普
5190 通地域における広告物を設置する行為についての規制が自然公園法第33条第1項
5191 第3号により届出制であることを指摘しつつ、
5192 着手制限の規定(自然公園法第33
5193 条第5項)の説明をしながら両者の違いを論じることが求められている。
5194
5195 また、
5196 小
5197 問(1)の後段では、
5198 届出の手続的義務に違反した場合に、
5199 環境大臣が採り得る措
5200 置として、
5201 罰則規定(自然公園法第86条第4号)を前提とした告発(刑事訴訟法
5202 第239条第2項)が挙げられることを説明することが求められている。
5203
5204
5205 小問(2)では、
5206 観光客が年々増加傾向にあり、
5207 それに伴って良好な景観の維持
5208 が困難となり管理にも支障が生じている場合において、
5209 いわゆるオーバーユース対
5210 策として利用調整地区の指定ができること(自然公園法23条1項)を指摘しつ
5211 つ、
5212 その内容を説明することが求められている。
5213
5214
5215 小問(3)では、
5216 【設例】の事実関係を的確に把握して、
5217 国及びA県に対する損
5218 害賠償請求に関し、
5219 国家賠償法第2条第1項に基づく営造物責任や民法第717条
5220 第2項に基づく工作物責任といった考えられる法的構成を検討し、
5221 各要件を説明し
5222 た上で【設例】の事実関係に丁寧に当てはめることが求められている。
5223
5224 なお、
5225 国に
5226
5227 対する損害賠償請求については、
5228 いずれの法的構成が妥当であるかまでを問うもの
5229 ではない。
5230
5231
5232 小問(4)では、
5233 国立公園やその区域内にある特別地域の指定に関し、
5234 候補地と
5235 なる民有地の土地所有者の同意を要するかについて、
5236 資料を基に論理的な説明を問
5237 うものである。
5238
5239 単に自然公園法上の条文の有無に関する指摘を求めるものではな
5240 く、
5241 解答者が考える同意の要否の結論を明らかにしつつ、
5242 国立公園の指定の前段階
5243 となる候補地の選定に際して法規の性質を有しない過去及び現在の要領の記載内容
5244 を踏まえて、
5245 自説の理由について論理的一貫性をもった説明をすることが期待され
5246 ている。
5247
5248
5249
5250 [国際関係法(公法系)]
5251 A国とB国は、
5252 海を挟んで向かい合っている。
5253
5254 A国とB国との間の海には、
5255 無人島であるP島
5256 があり、
5257 同島はA国の領土であることが古くから国際的に広く認められていた。
5258
5259
5260 A国政府は、
5261 長年にわたる経済政策の失敗の結果、
5262 極端な財政難に陥り、
5263 国家財政の再建のため
5264 にP島をB国の利用に供して対価を得る方策を検討することになった。
5265
5266 A国政府とB国政府は、
5267 P
5268 島に関する条約を締結するための外交交渉を開始した。
5269
5270 その結果、
5271 A国とB国は、
5272 「P島の租借に
5273 関するA国とB国の間の条約」(以下「租借条約」という。
5274
5275 )に署名し、
5276 同条約はその後A国及び
5277 B国の議会の承認を得て発効した。
5278
5279 租借条約は、
5280 「B国は、
5281 P島をA国から本条約発効後50年間
5282 にわたり租借し、
5283 その間B国はP島を自由に利用することができる。
5284
5285 」(第1条)、
5286 「B国は、
5287 P
5288 島を利用する対価として、
5289 A国に対して毎年1億米ドルの支払を行う。
5290
5291 」(第2条)と規定してい
5292 た。
5293
5294 なお、
5295 A国とB国は、
5296 共に国際連合加盟国であり、
5297 条約法に関するウィーン条約及び海洋法に
5298 関する国際連合条約の当事国である。
5299
5300 以上の事実関係を前提として、
5301 以下の各設問に答えなさい。
5302
5303
5304 なお、
5305 各設問はそれぞれ独立したものであり、
5306 相互に関係はないものとする。
5307
5308
5309 〔設問1〕
5310 租借条約の規定に従って、
5311 B国がA国に対して最初の1億米ドルの支払を行うとともにP島の
5312 利用を開始してから1か月後に、
5313 突如として巨大地震が発生してP島全体が低潮時においても水中
5314 に没することとなった。
5315
5316 この場合、
5317 B国はA国に対してどのような主張を行うことができるか。
5318
5319 国
5320 際法上の根拠を挙げながら論じなさい。
5321
5322
5323 〔設問2〕
5324 租借条約の締結に関するAB両国政府間の外交交渉の過程で、
5325 A国政府はB国政府に対して、
5326
5327 P島には未開発の貴重な鉱物資源が埋蔵されている旨を公式に通告し、
5328 B国は、
5329 この情報に基づい
5330 て租借条約を締結した。
5331
5332 租借条約の発効後、
5333 B国はA国に対して毎年1億米ドルの支払を行い、
5334 別
5335 途P島において多額の費用を掛けて鉱物資源の探査を行ったが、
5336 貴重な鉱物資源は全く発見されな
5337 かった。
5338
5339 租借条約発効から3年が経過した時点で、
5340 A国政府がB国政府に通告したような鉱物資源
5341 はP島には埋蔵されていなかったことが明らかとなった。
5342
5343 この場合、
5344 B国はA国に対してどのよう
5345 な主張を行うことができるか。
5346
5347 国際法上の根拠を挙げながら論じなさい。
5348
5349
5350 〔設問3〕
5351 租借条約発効の5年後、
5352 A国政府の財政状況が更に悪化したため、
5353 A国はB国と再度外交交渉を
5354 行って租借条約を両国の合意に基づき終了させた上で、
5355 新たに「P島の主権移譲に関するA国とB
5356 国の間の条約」(以下「主権移譲条約」という。
5357
5358 )を締結し、
5359 同条約はその後A国及びB国の議会
5360 の承認を得て発効した。
5361
5362 主権移譲条約は、
5363 P島に関する主権をA国からB国に完全に移譲する対価
5364 として、
5365 B国がA国に100億米ドルを支払うことを規定していた。
5366
5367 B国がA国に100億米ドル
5368 の支払を行いP島に関する主権がA国からB国に完全に移譲された後、
5369 B国はP島を起点とする2
5370 00海里の排他的経済水域及び大陸棚を設定する国内法を制定した。
5371
5372 これに対して、
5373 B国と国境を
5374 接し海に面しているC国は、
5375 「P島は無人島であるため、
5376 P島を起点としてB国の排他的経済水域
5377 及び大陸棚を設定することは国際法に違反しており認められない。
5378
5379 」と主張して、
5380 B国に抗議し
5381 た。
5382
5383 C国のこのような主張に対して、
5384 B国はどのように反論できるか。
5385
5386 国際法上の根拠を挙げなが
5387 ら論じなさい。
5388
5389 なお、
5390 C国も国際連合加盟国であり、
5391 条約法に関するウィーン条約及び海洋法に関
5392 する国際連合条約の当事国である。
5393
5394
5395
5396 (出題の趣旨)
5397 【設問1】
5398 本問は、
5399 条約の終了に関する基本的論点についての理解を問うものである。
5400
5401 条約
5402 法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。
5403
5404 )は、
5405 条約の終了原因の1
5406 つとして後発的履行不能を規定している(第61条)。
5407
5408 条約法条約第61条第1項
5409 は、
5410 「条約の実施に不可欠である対象が永久的に消滅し又は破壊された結果条約が
5411 履行不能となつた場合」には、
5412 条約当事国は当該履行不能を条約の終了の根拠とし
5413 て援用することができると規定する。
5414
5415 本問の租借条約は、
5416 P島の利用を50年間に
5417 わたりB国に認める対価としてB国がA国に金銭を支払うことを義務付ける条約で
5418 あり、
5419 租借条約が規定する利用の対象であるP島が地震の結果として低潮時におい
5420 ても水中に没することとなったことは、
5421 「条約の実施に不可欠である対象」が「永
5422 久的に消滅し又は破壊された結果条約が履行不能となつた場合」に該当するものと
5423 解することができる。
5424
5425 したがって、
5426 B国は条約法条約第61条を根拠として、
5427 租借
5428 条約の終了を主張することができる。
5429
5430
5431 租借条約の終了が認められた場合、
5432 P島の利用をB国に対して認めるというA国
5433 が負っていた義務が終了すると同時に、
5434 P島の利用の対価としてA国に対して毎年
5435 1億米ドルの支払を行うというB国の義務も終了することになる(条約法条約第7
5436 0条第1項(a))。
5437
5438 ただし、
5439 条約法条約第70条第1項(b)は、
5440 条約の終了により
5441 「条約の終了前に条約の実施によつて生じていた当事国の権利、
5442 義務及び法的状態
5443 は、
5444 影響を受けない。
5445
5446 」と規定しており、
5447 P島の租借の対価としてB国がA国に対
5448 して既に支払った1億米ドルの返還をB国がA国に対して要求することは、
5449 法的に
5450 難しいとも考えられる。
5451
5452 その場合には、
5453 B国がA国に対して支払済みの1億米ドル
5454 のうち、
5455 履行不能となった後の11か月分の租借料について返還請求を正当化する
5456 ためには、
5457 例えば国際法上の「法の一般原則」の1つとして国際法上の不当利得返
5458 還義務が確立していると主張するなど、
5459 当該請求の国際法上の根拠を明確に示すこ
5460 とが必要とされよう。
5461
5462
5463 【設問2】
5464 本問は、
5465 条約の無効に関する基本的理解を問うものである。
5466
5467 条約法条約は、
5468 条約
5469 の無効原因として第46条から第53条まで8つの規定を設けているが、
5470 条約の有
5471 効性の否認は条約法条約の適用によってのみ可能であると条約法条約第42条は明
5472 記しているため、
5473 ある条約が無効であることを主張するためには、
5474 条約法条約が規
5475 定するこれら8つの無効原因のいずれかに該当することを主張する必要がある。
5476
5477
5478 租借条約の締結に向けたAB両国間の外交交渉の過程で、
5479 A国はP島には未開発
5480 の貴重な鉱物資源が埋蔵されている旨をB国に公式に通告しており、
5481 B国はこの情
5482 報が事実であるという前提で租借条約をA国との間で締結した。
5483
5484 租借条約の発効
5485 後、
5486 B国はA国に対して毎年1億米ドルの支払を行って租借条約の義務を誠実に履
5487 行したが、
5488 P島ではB国が租借条約締結の前提と考えていた貴重な鉱物資源は全く
5489 発見されなかった。
5490
5491 租借条約の締結に向けたAB両国政府間の交渉の過程で、
5492 A国
5493 政府がP島には実際には鉱物資源は埋蔵されていないと知りながら、
5494 埋蔵されてい
5495
5496 るとの虚偽の情報をB国政府に公式に通告した結果としてB国が租借条約を締結し
5497 た場合、
5498 B国はA国の詐欺行為により租借条約を締結したことになる。
5499
5500 条約法条約
5501 第49条は、
5502 「他の交渉国の詐欺行為によつて条約を締結することとなつた場合」
5503 には、
5504 条約当事国は「当該詐欺を条約に拘束されることについての自国の同意を無
5505 効にする根拠として援用することができる。
5506
5507 」と規定する。
5508
5509 したがってB国は、
5510 A
5511 国の詐欺行為を租借条約に対するB国の同意を無効にする根拠として主張すること
5512 ができる。
5513
5514
5515 また、
5516 条約法条約第48条第1項は、
5517 「条約についての錯誤が、
5518 条約の締結の時
5519 に存在すると自国が考えていた事実又は事態であつて条約に拘束されることについ
5520 ての自国の同意の不可欠の基礎を成していた事実又は事態に係る錯誤である場合」
5521 には、
5522 条約当事国は「当該錯誤を条約に拘束されることについての自国の同意を無
5523 効にする根拠として援用することができる。
5524
5525 」と規定する。
5526
5527 したがって、
5528 租借条約
5529 の締結に向けたAB両国間の外交交渉の過程でA国政府がB国政府に行った公式の
5530 通告に基づき、
5531 P島には実際に貴重な鉱物資源が存在しているとB国が租借条約の
5532 締結時に考えており、
5533 かつ、
5534 その事実を不可欠の基礎としてB国が租借条約を締結
5535 した場合には、
5536 B国はこのような錯誤を租借条約に対するB国の同意を無効にする
5537 根拠として援用することができる。
5538
5539 ただし、
5540 条約法条約第48条第2項に該当する
5541 場合には、
5542 B国は錯誤による同意の無効を主張できない。
5543
5544
5545 A国の詐欺行為又はB国の錯誤のいずれかによる自国の同意の無効というB国の
5546 主張が認められた場合、
5547 条約法条約第69条第1項は「無効な条約は、
5548 法的効力を
5549 有しない。
5550
5551 」と規定しており、
5552 租借条約は遡及的に無効になるものと解されるの
5553 で、
5554 B国はこれまでに租借条約に基づきP島の租借の対価としてA国に支払った金
5555 額3億米ドルの返還を請求することができる。
5556
5557 また、
5558 B国はこれに加えて、
5559 これま
5560 でにA国に対して支払った金額の利息分を請求することや、
5561 A国による虚偽の通告
5562 のためにB国がP島で行った鉱物資源の探査に要した費用の返還請求等を行うこと
5563 も考えられるであろう(条約法条約第69条第2項参照)。
5564
5565
5566 【設問3】
5567 本問は、
5568 領土移転条約の第三国に対する効力、
5569 そして海洋法に関する基本的理解
5570 を問うものである。
5571
5572 B国は、
5573 主権移譲条約に基づきP島に関する領域主権をA国か
5574 ら国際法上正当に取得しており、
5575 このような領域主権の移譲を定めた二国間条約は
5576 条約の第三国に対してもいわば物権的効果を有するため、
5577 P島がA国領からB国領
5578 になったことを主権移譲条約の第三国であるC国にも対抗できることを、
5579 C国に主
5580 張すべきである。
5581
5582
5583 海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。
5584
5585 )は、
5586 第8部
5587 「島の制度」の第121条に島に関する規定を設けており、
5588 B国とC国はいずれも
5589 国連海洋法条約の当事国であるため、
5590 両国は同条約の規定に従う法的義務を負う。
5591
5592
5593 同条第1項によれば、
5594 「島」とは、
5595 「自然に形成された陸地であって、
5596 水に囲ま
5597 れ、
5598 高潮時においても水面上にあるものをいう。
5599
5600 」と定義されている。
5601
5602 また、
5603 同条
5604 第2項は、
5605 「島の領海、
5606 接続水域、
5607 排他的経済水域及び大陸棚は、
5608 他の領土に適用
5609
5610 されるこの条約の規定に従って決定される。
5611
5612 」と規定している。
5613
5614 同条第1項の
5615 「島」の定義では、
5616 人が居住していること(「無人島」でないこと)は「島」の要
5617 件としては規定されておらず、
5618 B国は、
5619 同項の定義に従えばP島は国連海洋法条約
5620 が規定する「島」に該当すると主張することができる。
5621
5622 そして、
5623 このような「島」
5624 を起点とする排他的経済水域及び大陸棚の設定に関しては、
5625 同条第2項に従えば、
5626
5627 「他の領土に適用されるこの条約の規定」、
5628 すなわち排他的経済水域の設定に関し
5629 ては国連海洋法条約第5部(第55条〜第75条)の規定、
5630 大陸棚の設定に関して
5631 は国連海洋法条約第6部(第76条〜第85条)の規定が、
5632 それぞれ適用される。
5633
5634
5635 このうち、
5636 排他的経済水域の設定に関しては第57条、
5637 大陸棚の設定に関しては第
5638 76条第1項が、
5639 それぞれ「領海の幅を測定するための基線」から200海里まで
5640 排他的経済水域と大陸棚を設定できることを定めている。
5641
5642 B国としては、
5643 以上を根
5644 拠としてP島を起点として200海里の排他的経済水域及び大陸棚をB国が国内法
5645 によって設定することは国際法上違法ではない、
5646 と主張することができよう。
5647
5648
5649 他方で、
5650 国連海洋法条約第121条第3項は、
5651 「人間の居住又は独自の経済的生
5652 活を維持することのできない岩は、
5653 排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
5654
5655 」と規
5656 定している。
5657
5658 しかし、
5659 B国としては、
5660 P島が現在無人島であることはP島が「人間
5661 の居住」ができないことを意味するものではなく、
5662 またP島が「独自の経済的生活
5663 を維持することができない」ことを意味するものでもないため、
5664 P島は同項が規定
5665 する「岩」であるとは解釈できず、
5666 P島を起点とする200海里の排他的経済水域
5667 及び大陸棚の設定は国際法上違法ではないと主張することができよう。
5668
5669 争いはある
5670 ものの、
5671 現実の国際社会においても、
5672 無人島を起点として排他的経済水域と大陸棚
5673 を設定する国家実行は数多く存在しており(例えば、
5674 日本が沖ノ鳥島を起点として
5675 排他的経済水域及び大陸棚を設定している例など)、
5676 B国としてはこのような国家
5677 実行の例を具体的に挙げることにより、
5678 C国の主張に反論することが考えられる。
5679
5680
5681
5682 [国際関係法(私法系)]
5683 甲国人A男と日本人B女は、
5684 Bがワーキング・ホリデー制度を利用して甲国に滞在していたときに同
5685 じ職場で知り合い、
5686 その後、
5687 甲国で適法に婚姻した。
5688
5689 AとBは、
5690 婚姻後5年ほど甲国で共同生活を送
5691 り、
5692 その間、
5693 二人の間に子C(甲国及び日本の重国籍)が生まれた。
5694
5695 その後、
5696 Aが日本の会社に転職す
5697 ることになり、
5698 A、
5699 B及びCは一緒に日本に移り住み、
5700 それ以降、
5701 日本に居住している。
5702
5703
5704 AとBは、
5705 乙国のリゾート地を気に入って長期の休暇の度に利用していたところ、
5706 Aは、
5707 日本に移り
5708 住んでから1年後に、
5709 不動産業者Y(乙国法人。
5710
5711 乙国に本店を有し、
5712 乙国以外には営業所や財産を一切
5713 有しておらず、
5714 乙国以外で事業等を行っていない。
5715
5716 )との間で、
5717 乙国のリゾート地の不動産αを購入す
5718 る契約を締結した。
5719
5720
5721 以上の事実を前提として、
5722 以下の設問に答えなさい。
5723
5724 なお、
5725 各問は独立した問いである。
5726
5727
5728 〔設問1〕
5729 Aは、
5730 不動産αを購入したものの、
5731 その後AとBが共に仕事で忙しくなり、
5732 乙国で長期の休暇を過ご
5733 すことが難しくなった。
5734
5735 そのため、
5736 Aは、
5737 不動産αを購入してから5年後、
5738 Yに対して不動産αの転売
5739 を相談したところ、
5740 Yから、
5741 転売ではなく期限付きの会員制施設利用権購入契約(1年のうち決められ
5742 た期間だけ対象施設の独占的利用権が付与される契約)の対象とすることを勧められ、
5743 Yに不動産αの
5744 運用を委託した。
5745
5746 Yは、
5747 乙国への旅行客向けに、
5748 乙国内の滞在型宿泊施設の会員制施設利用権の購入を
5749 勧めるセミナーを乙国内で定期的に開催していた。
5750
5751 乙国を初めて旅行で訪れた日本人X(日本に常居所
5752 ・住所を有する。
5753
5754 )は、
5755 宿泊していたホテルのロビーに貼ってあったYの当該セミナーのポスターに目
5756 を留めた。
5757
5758 Xは、
5759 それまでYの名前を聞いたこともなくYという会社を知らなかったが、
5760 セミナー会場
5761 がホテルのすぐ近くであることや参加者には無料のアフタヌーンティーが提供されるとの宣伝文句に興
5762 味をひかれ、
5763 セミナーに行ってみることにした。
5764
5765 Xは、
5766 セミナーの内容を聞き終わり、
5767 アフタヌーンテ
5768 ィーも満喫したため、
5769 Yの社員に「もう帰りたい。
5770
5771 」と告げた。
5772
5773 しかし、
5774 Xは、
5775 それまで愛想の良かっ
5776 たYの社員複数名から取り囲まれ、
5777 「契約を締結しないと帰さない。
5778
5779 」と言われたため困惑し、
5780 その場
5781 で、
5782 不動産αを毎年10月の1か月間独占的に利用することのできる会員制施設利用権購入契約(以下
5783 「本件契約」という。
5784
5785 )をYとの間で締結し、
5786 インターネットバンキングを利用して頭金100万円を
5787 乙国所在のY名義の銀行口座に振り込んで支払った。
5788
5789 なお、
5790 本件契約の契約書においては、
5791 紛争解決条
5792 項として、
5793 「P条:本契約は、
5794 乙国法に準拠し、
5795 乙国法に従って解釈されるものとする。
5796
5797 Q条:本契約
5798 に関する一切の紛争は、
5799 乙国裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。
5800
5801 」と明記されていた。
5802
5803
5804 Xは、
5805 日本に帰ってから本件契約を締結したことを後悔し、
5806 契約締結後1か月が経った頃、
5807 本件契約
5808 に係る意思表示を取り消したいと思うようになった。
5809
5810 そこで、
5811 Xは、
5812 Yに対して、
5813 日本の消費者契約法
5814 第4条第3項第2号の適用及び同号に基づく本件契約に係る意思表示の取消しを主張した上で、
5815 支払済
5816 みの金銭の全額の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。
5817
5818 )を日本の裁判所に提起した。
5819
5820
5821 〔小問1〕
5822 本件訴えについて、
5823 Yは、
5824 「本件契約の契約書中のQ条に基づき乙国裁判所に専属的管轄合意
5825 がされているため、
5826 本件訴えは却下されるべきである。
5827
5828 」と主張している。
5829
5830 Yのこの主張は認めら
5831 れるかについて論じなさい。
5832
5833
5834 Yのの主張が認められないとした場合に、
5835 本件訴えについて、
5836 日本の裁判所の国際裁判管轄
5837 権が認められるかについて論じなさい。
5838
5839
5840 〔小問2〕
5841 Yは、
5842 本件訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄権を争うことなく応訴した。
5843
5844 この場合におい
5845 て、
5846 Xの日本法に基づく主張が認められるかについて、
5847 準拠法の決定過程を示しながら論じなさい。
5848
5849
5850
5851 〔設問2〕
5852 Aは、
5853 日本に移り住んでから15年後に死亡した。
5854
5855 Aは、
5856 遺言を作成しておらず、
5857 Aの遺産として残
5858 された財産は、
5859 乙国所在の不動産α、
5860 日本所在の動産及び日本の銀行に対する預金債権のみであったと
5861 ころ、
5862 BとCとの間でAの遺産をどのように分割するかについて争いが生じた。
5863
5864 Cは、
5865 日本の家庭裁判
5866 所に対し、
5867 Bを相手方として、
5868 遺産分割の調停を申し立てたが、
5869 調停事件は不成立により終了し、
5870 遺産
5871 分割の審判の申立てがあったものとみなされて、
5872 審判に移行した。
5873
5874 裁判所は、
5875 この遺産分割において、
5876
5877 動産及び銀行預金についてはB及びCの持分をそれぞれ2分の1ずつ、
5878 不動産αについてはBの持分を
5879 3分の1、
5880 Cの持分を3分の2とすることを前提として審判をした。
5881
5882 裁判所が前提とした持分の判断に
5883 ついて、
5884 準拠法の決定過程を示しながら説明しなさい。
5885
5886
5887 なお、
5888 甲国法には本問に関する範囲で、
5889 以下の規定があるものとする。
5890
5891
5892 【甲国法】
5893 @ 被相続人の直系卑属は以下の規定に従って相続人となる。
5894
5895
5896 第1号 親等が異なる者の間では、
5897 その近い者を先にする。
5898
5899
5900 第2号 親等が同じである者は、
5901 同順位で相続人となる。
5902
5903
5904 A 被相続人の配偶者は常に相続人となる。
5905
5906 この場合において、
5907 @の規定によって相続人となるべき者
5908 があるときは、
5909 その者と同順位とする。
5910
5911
5912 B 同順位の相続人が数人あるときは、
5913 その相続分は以下の規定に従う。
5914
5915
5916 第1号 直系卑属及び配偶者が相続人であるときは、
5917 直系卑属の相続分は3分の2とし、
5918 配偶者の相
5919 続分は3分の1とする。
5920
5921 (第2号以下略)
5922 C 相続については、
5923 被相続人の死亡時の常居所地法を適用する。
5924
5925 ただし、
5926 不動産の相続については、
5927
5928 不動産の所在地法を適用する。
5929
5930
5931
5932 (出題の趣旨)
5933 本問は、
5934 国際的な消費者契約から生じる紛争事例を素材として国際裁判管轄権及
5935 び準拠法に関する基本的な理解を問うとともに、
5936 国際的な相続事例を素材として準
5937 拠法に関する基礎的な理解を問うものである。
5938
5939
5940 〔設問1〕は、
5941 日本に常居所・住所を有する消費者が、
5942 外国において当該国の事
5943 業者との間で締結した契約(以下「本件契約」という。
5944
5945 )に関して、
5946 消費者である
5947 Xが事業者であるYに対して提起した、
5948 金銭の返還を求める訴え(以下「本件訴
5949 え」という。
5950
5951 )について、
5952 〔小問1〕(1)では、
5953 XY間の国際裁判管轄の合意は
5954 効力を有するか、
5955 〔小問1〕(2)では、
5956 国際裁判管轄合意の効力が認められない
5957 として、
5958 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかを問うものである。
5959
5960
5961 〔小問1〕(1)は、
5962 XY間に国際裁判管轄の合意が存在していることを前提
5963 に、
5964 本件契約が消費者契約であることを確認した上で、
5965 民事訴訟法(以下「民訴
5966 法」という。
5967
5968 )第3条の7第5項に定める諸要件に照らして、
5969 当該管轄合意が効力
5970 を有するとされるかについて論ずることが求められている。
5971
5972
5973 〔小問1〕(2)は、
5974 本件契約が消費者契約であることを踏まえ、
5975 民訴法第3条
5976 の4第1項の「訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が
5977 日本国内にあるとき」に該当するかの検討を行い、
5978 同項に基づいて本件訴えについ
5979 て日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められる場合には、
5980 民訴法第3条の9による
5981
5982 訴えの却下が認められるか否かを丁寧に検討することが求められる。
5983
5984
5985 〔設問1〕の〔小問2〕は、
5986 消費者契約の準拠法についての理解を問うものであ
5987 る。
5988
5989 まず、
5990 本件契約では、
5991 XY間で準拠法が乙国法と合意されていることから、
5992 消
5993 費者契約においても準拠法を乙国法とする合意は法の適用に関する通則法(以下
5994 「通則法」という。
5995
5996 )第7条に基づき有効とされる。
5997
5998 しかしながら、
5999 通則法第11
6000 条第1項によれば契約準拠法ではない消費者の常居所地法中の強行規定の適用の意
6001 思表示をすることが可能であること、
6002 ただし、
6003 同条第6項に該当する事由があれば
6004 同条第1項に基づく消費者の常居所地法中の強行規定の適用の意思表示に効果が認
6005 められないことなどに照らして、
6006 本件契約がどのように評価されるか検討する必要
6007 がある。
6008
6009 特に、
6010 本問では、
6011 消費者たるXが、
6012 自らの常居所地ではない国に赴いて、
6013
6014 同国に事業所のある事業者Yと、
6015 同国で契約を締結しており、
6016 この事実が通則法第
6017 11条第6項第1号に照らしてどのように評価されるか、
6018 また、
6019 同号ただし書の適
6020 用はあるかについて、
6021 丁寧な検討が必要である。
6022
6023
6024 〔設問2〕は、
6025 遺産分割について裁判所の判断の前提となった相続分に関する準
6026 拠法についての理解を問うものである。
6027
6028 相続分については相続の問題と法性決定さ
6029 れ、
6030 通則法第36条により被相続人Aの本国法である甲国法が準拠法となるとこ
6031 ろ、
6032 甲国法Cの準拠法規則が、
6033 被相続人の死亡時の常居所地法として、
6034 本問では日
6035 本法を指定していることから、
6036 通則法第41条の反致の成否が問題となる。
6037
6038 特に、
6039
6040 甲国法Cに従えば、
6041 一般財産については被相続人の死亡時の常居所地法を指定しな
6042 がら、
6043 不動産については不動産の所在地法を指定しているところ、
6044 本問では不動産
6045 が全て乙国に所在するため不動産については反致が成立し得ないことを、
6046 裁判所が
6047 どのように評価して判断したかを正しく理解し、
6048 説明することが求められている。
6049
6050
6051
6052